明 細 書
油脂類の分別方法、それに用いるシード及び分別油脂
技術分野
[0001] 本発明は、油脂類のシード分別方法、特に高圧処理したシードによる油脂類の分 別方法およびそれにより得られる耐寒性の優れた油脂に関するものである。
背景技術
[0002] 牛脂、魚油等の動物油やパーム油、菜種油、大豆油等の植物油などの天然の原 料に基づく油脂は組成の異なる複数の油脂成分を含んでおり、生産地等によって脂 肪酸組成等の油脂組成が異なることから、組成の均一化等の目的で、油脂成分を分 別することが行われている。分別法には、溶剤分別法や界面活性剤による方法等が ある力 その一つに油脂成分の融点の違いを利用して一定の油脂成分を分別する 晶析法がある。
晶析による従来の油脂の分別は、油脂の晶析に非常に時間が力かり効率が悪かつ た。また、晶析したのちの固体部分の分離もグリース状となるものが多ぐ液状部の分 離のため大きなろ過圧力を要したり、ろ過のため多大な時間を要した。
[0003] これらの課題を解決するために従来から種々の改良方法が提案されて 、る。例え ば、油脂類の再融点成分結晶合有スラリーを種晶 (シード)として用いる方法 (特許文 献 1)が提案されている力 種晶作成時間に 8〜9時間と、すでに分別前にかなりの時 間を要する欠点がある。また、晶析時間を短縮するために、分別するための油脂に 高圧をかけて連続的に処理する方法 (特許文献 2、非特許文献 1)では、工程上、系 全体に高圧をかける必要があり、力かる装置では安全設計上いたずらに巨大なもの となり維持管理にも多大なコストを要する欠点がある上に、油種によっては圧力に比 例して晶析時間が短くなるものでもないという問題もある。さらには、超音波処理を行 Vヽ結晶化を促進する方法 (特許文献 3)も提案されて!ヽるが、この方法も系全体に 6 〜12時間、超音波をかけることとなり装置面、あるいは結晶化の促進と結晶の微細 化を防ぐためのコントロールが難しい。
[0004] 特許文献 1 :特開昭 54— 77605号公報
特許文献 2:特開 2002— 30295号公報
特許文献 3:特開 2002— 226886号公報
非特許文献 1 : Kiel Milchwirtsch. Forschungsber. Vol.47. No.3 P209- 220 (1995) 発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明は、油脂類の分別における上記の従来技術の欠点を克服し、簡便かつ短 時間で油脂の分別を行い得る方法を提供せんとするものである。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者らは、これら従来の技術課題を克服するため鋭意研究した結果、油脂類 の分別に用いるシードの作成にあたり油脂類を融解あるいは溶解、分散した液状物 に高圧をかけることによりシードの作成時間を大幅に短縮することができるとともに、 作用機構の詳細は不明であるが、このようにして得られたシード (高圧シード)を分別 すべき油脂類の晶析に少量用いることにより、系全体に高圧をかけるのと同様な比較 的高温での結晶化促進効果が得られること、さらに晶析後のろ過性も大幅に改善さ れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、組成の異なる複数の油脂成分を含む油脂類を分別するにあた り、それに用いるシードとなる油脂類を高圧処理により短時間でシードを作成し、該シ ードを用いて分別する方法であり、この方法によりシード作成時間の短縮、晶析時間 の短縮および、ろ過性を改善することが可能となり分別の効率を大幅に改善すること が可能となる。
また、本発明のシードを用いて分別した油脂は、耐寒性が特段に優れており、幅広 い用途展開が可能となる。
[0007] 油脂類の分別において本発明によるシードは少量の添加で良いため、本発明のシ ードの作成は、大量に作成する必要はなく少量でよい。シードとなる油脂類は、固体 、液体いずれでも良ぐ固体脂は融点以上に加熱して融解した状態で或いは、液状 脂に溶解ないしは分散させた状態で使用しても良い。また、シードとなる油脂類は、 分別すべき油脂類の一部をシード用に分取して用いても良ぐ分別すべき油脂類と は別の油脂類を用いても良い。後者の場合、分別すべき油脂成分を多く含む油脂を
選択するなどとしても良い。
[0008] 油脂類の分別に用いる少量のシード作成時に該油脂類を融解あるいは溶解、分散 した液状物に高圧をかける際の圧力としては 10〜400MPaの範囲が適当であるが、 好ましくは 30〜300MPa、特に 50〜200MPaがもっとも効率良く当該シードを作成す ることができる。 lOMPa以下では同一温度で比較した場合、いたずらに高圧による晶 祈に時間が力かるばかりか、場合によっては晶析しないこともあり、結果としてシード ができない場合がある。 30MPa以上であれば、これらの不都合を生じることなくシード を得ることができる。また 400MPa以上になると高圧処理装置自体がいたずらに巨大 な装置となり、温度コントロール等も難しくなるばかりか、油種によっては必ずしも 400 MPaまで圧力を大きくしても晶析時間が短くなるものでもないことが知られている(非 特許文献 1)。それゆえ加圧圧力としては最大 200〜300MPaに留めておくのが良い
発明を実施するための最良の形態
[0009] 以下に、本発明の詳細な実施形態を記述する。
本発明で用いられる原料油脂は、通常の油脂加工食品に用いられる食用油脂であ れば特に限定されず、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、肝油などの動物油、菜種油、とうもろ こし油、大豆油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油などの植物油、およびそれ らの硬化油、エステル交換油等などの一般に使用されている食用油脂の単独および 混合油、あるいはそれらの分別油が使用できる。これらの原料油脂は、原油のまま分 別しても良いが、脱酸、脱色、脱臭等の通常の処理を必要に応じて施して、精製した 上で分別処理を行うことが好まし 、。
また、高圧シードの接種量は分別対象の原料油脂に対して 0.01〜5%、好ましくは 0.01〜2%の範囲で接種するのが良い。
高圧処理装置としては、上記のように高圧シードの接種量が少ないため、市販の食 品超高圧処理装置 ((株)神戸製鋼所製 Dr.CHEF)、超高圧処理装置 (三菱重工業( 株)製 MFP-7000)等を使用しても良!、し、 200MPa程度までの比較的低 、圧力であ れば、適当な仕様の高圧ポンプ、高圧バルブ、高圧チューブを組み合わせ、温度コ ントロール可能な装置を作成して使用することもできる。
実施例
[0010] 以下に実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら により何ら制限を受けるものではない。
実施例 1
'高圧シードの作成
70°Cにて完全溶解したパーム油 4gをポリ袋に分取し袋をヒートシールした後、三菱 重工業 (株)社製、超高圧処理装置 (MFP-7000)にて、 37°Cで lOOMPaの圧力にて 3 0分加圧処理した。全体に晶析した状態になっているパーム油を 4g取り出して高圧 シードとした。
-分別
70°Cにてあら力じめ溶解してぉ 、た 400gのパーム油に上記高圧シードを接種し、 ジャケット付き容器にて 37°Cに保ちながら、ゆるやかに攪拌、 90分間晶析した。その 後ジャケット付きロートにて 37°Cに保ちながら No.5Bの濾紙で吸引ろ過した。
[0011] 実施例 2
37°Cで 50MPaの圧力にて 60分加圧処理した高圧シードを作成した他は、実施例 1と同様に全体に晶析した状態になっているパーム油を 0.4g取り出して高圧シードと した。 分別操作は実施例 1と同様。
[0012] 実施例 3
'高圧シード作成
70°Cにて完全溶解したパームォレインを用 、たほかは実施例 1と同様にして 25°C で 200MPaの圧力にて 60分加圧処理した。全体に晶析した状態になって 、るパーム ォレインを 4g取り出して高圧シードとした。
-分別
70°Cにてあら力じめ溶解しておいた 400gのパームォレインに上記高圧シードを接 種し、ジャケット付き容器にて 20°Cに保ちながら、ゆるやかに攪拌、 4時間晶析した。 その後ジャケット付きロートにて 30°Cに保ちながら No.5Bの濾紙で吸引ろ過した。
[0013] 実施例 4
実施例 1と同様に高圧シードを作成し、全体に晶析した状態になっているパーム油
を 0.4g取り出して高圧シードとした。分別操作は実施例 1と同様。
[0014] 実施例 5
'高圧シード作成
大豆油'パーム混合油 4gをポリ袋に分取しヒートシールした後、三菱重工業 (株)製 、超高圧処理装置(MFP-7000)にて、 37°Cで 200MPaの圧力にて 30分加圧処理し たものを高圧シードとした。
-分別
70°Cにてあら力じめ溶解してぉ 、た 400gの大豆 ·パーム混合油に上記高圧シード を接種し、ジャケット付き容器にて 37°Cに保ちながら、ゆるやかに攪拌、 4時間晶析し た。その後ジャケット付きロートにて 37°Cに保ちながら No.5Bの濾紙で吸引ろ過した
[0015] 実施例 6
'高圧シード作成
菜種.パーム混合油 4gをポリ袋に分取しヒートシールした後、三菱重工業 (株)社製 、超高圧処理装置(MFP-7000)にて、 37°Cで 200MPaの圧力にて 30分加圧処理し たものを高圧シードとした。
-分別
70°Cにてあら力じめ溶解してぉ 、た 400gの菜種 ·パーム混合油に上記高圧シード を接種し、ジャケット付き容器にて 37°Cに保ちながら、ゆるやかに攪拌、 4時間晶析し た。その後ジャケット付きロートにて 37°Cに保ちながら No.5Bの濾紙で吸引ろ過した
[0016] 実施例 7
(耐寒性の比較)比較例 3のろ液 (ォレイン部) 30gと実施例 3のろ液 (ォレイン部) 3 Ogをー且、 70°Cに昇温後、 5°Cにて保存した。比較例 3のろ液は 30分後に濁りが生 じたが、実施例 3はクリアであった。 1時間後では比較例 3のろ液はどろどろした流動 性の悪い状態になったが、実施例 3は少し濁りが見えるが流動性は良好であった。
[0017] 比較例 1
シードを用いな 、で、 70°Cにてあら力じめ溶解してぉ 、た 400gのパーム油をジャ
ケット付き容器に投入し、段階的に 20°Cまで冷却。その後 20°Cに保ちながら、ゆる やかに攪拌、 17時間晶析した。その後ジャケット付きロートにて 20°Cに保ちながら N0.5Bの濾紙で吸引ろ過した。し力しながら、晶析した固形部分はグリース状となり、 5時間以上吸引ろ過してもろ過を終えることができず、途中で中止した。
[0018] 比較例 2
パーム油を 70°Cに 1時間加熱後 50°Cまで冷却し、 50°Cより 5°C/時の冷却速度に て冷却し 45°Cの時点で、同一脱色油を 15°C/時の冷却速度にて徐冷し 30°Cに保持 して得たスラリーを 0. 1重量%にて力卩えた。次いて攪拌下に 5°C/時の冷却速度にて 冷却し 30°C達温後 12時間保冷し、十分に固液平衡を達成させた後、吸引ろ過し た。
[0019] 比較例 3
シードを用いな 、で、 70°Cにてあら力じめ溶解してぉ 、た 400gのパームォレイン をジャケット付き容器に投入し、段階的に 20°Cまで冷却。その後 20°Cに保ちながら、 ゆるやかに攪拌、 18時間晶析した。その後ジャケット付きロートにて 20°Cに保ちなが ら No.5Bの濾紙で吸引ろ過した。晶析した固形部分はグリース状となったが、固形部 分が少なくろ過は可能であった。
[0020] 比較例 4
シードを用 、な 、で、 70°Cにてあら力じめ溶解してぉ 、た 400gの大豆 ·パーム混 合油をジャケット付き容器に投入し、 37°Cまで冷却。その後 37°Cに保ちながら、ゆる やかに攪拌、 20時間晶析した。その後ジャケット付きロートにて 30°Cに保ちながら No.5Bの濾紙で吸引ろ過した力 固形部分はわずかしか得られなかった。
[0021] 比較例 5
シードを用 、な 、で、 70°Cにてあら力じめ溶解してぉ 、た 400gの菜種 ·パーム混 合油をジャケット付き容器に投入し、 37°Cまで冷却。その後 37°Cに保ちながら、ゆる やかに攪拌、 15時間晶析した。その後ジャケット付きロートにて 37°Cに保ちながら No.5Bの濾紙で吸引ろ過した力 固形部分はほとんど得られな力つた。
[0022] 参考例
溶媒 (ソルベント)分別法は、晶析やろ過の効率を上げるためにヨーロッパ各地で一
般的に行われている方法である力 溶媒にアセトンやへキサンを使用すること、設備 面、環境面、単位処理量当たりの収量等、問題点を含んでいるが、比較的晶析時間 、ろ過効率が良いため、現在でも使用されている方法であるので参考例として示した この方法と比較しても本発明の方法は遜色ないばかりか、過度の防爆設備を要しな い、溶媒の留去の必要が無い、有害な溶媒による環境汚染が無い、労働環境、安全 面から見ても有用であることは、明らかである。
以下、表 1に実施例、表 2に比較例および参考例として溶媒分別の結果とともにまと めて示した。
[表 1]
表 1
実施例 1 実施例 2 実施例 3 実施例 4 実施例 5 実施例 6
菜種 'パームォレイン 油種 パーム パーム パームォレイン パーム 大豆'パーム混合油 H口油 分別方法 ドライ ドライ ドライ ドライ ドライ ドライ シード 高圧シード 高圧シード 高圧シード 高圧シード 高圧シード 高圧シード シード作成時間 30分 60分 60分 30分 30分 30分 シード加圧圧力 100MPa 50MPa 200MPa l OOMPa 200 Pa 200MPa シード添加量 (g) 4 0.4 4 0.4 4 4 油脂量 (g) 400 400 400 400 400 400 溶媒 なし なし なし なし なし なし 溶媒量 (ml) なし なし なし なし なし なし 晶析温度 37°C 37°C 20°C 37°C 37。C 37°C 晶析時間 90分 90分 4時間 90分 4時間 4時間 ろ過方;去 吸引ろ過 同左 同左 同左 同左 同左 ろ過時間 90分 50分 90分 50分 20分 20分 固体収量 (g) 120 120 48 120 40 18 溶媒留去の有無 なし なし なし ' なし なし なし 蒸留 ·乾燥時間 なし なし なし なし なし なし 全処理時間 3.5時間 2.8時間 5.5時間 3.3時間 4.8時間 4.8時間
表 2
シード※比較例 2のシード