明 細 書
レーザ分析装置及び方法
技術分野
[0001] 本発明は、例えばレーザを利用した固体表面における非破壊的な超微量分析など の、非破壊的な分析に好適に利用される、デソープシヨンイオン化方式のレーザ分 析装置及び方法の技術分野に関する。
背景技術
[0002] この種のレーザを用いたデソープシヨンイオン化方式(脱離イオン化方式)のレーザ 分析方法としては、 MALDI (Matrix Assisted Laser Deso卬 tion/Ionization :マトリック ス支援レーザ脱離イオン化法)が広く知られている (特許文献 1、 2、非特許文献 1、 2 参照)。
[0003] 係る MALDI法によれば、試料表面にマトリックス剤が添加されることで、マトリックス 剤が混合された試料表面から、ナノ秒レーザの照射に応じて分子イオンが試料表面 から脱離イオン化される。そして、このように脱離された分子イオンを分析することで、 試料表面の質量分析等の超微量分析が可能となるとされている。例えば、分子ィォ ンのスぺクトノレ分析を行うことで、相対ピーク強度スペクトル上で、マトリックス剤のピ ーク以外に現れるピークから、試料表面を有する試料の質量分析が行なわれる。
[0004] 特許文献 1 :特開平 09— 320515号公報
特許文献 2:特開平 09 - 326243号公報
非特許文献 1 :「無機物マトリックスを用いた MALDI分析(島津製作所)」田中耕一- 川畑慎一郎 1995年度質量分析連合討論会 1_P - 32
非特許文献 2 :「マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法」田中耕一(島津 製作所)ぶんせき, NO. 4 p253-261 (1996)
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] しかしながら、上述した MALDI法によれば、試料表面へのマトリックス剤の添加や 、特殊加工したシリコン基板など特殊な基板等を用いることが必要であり、分析は必
ずしも容易ではない或いは効率的ではないという技術的な問題点がある。更に、試 料分析の際に相対ピーク強度スペクトル上に現れるマトリックス剤に起因した各種の ピークやノイズ的成分は、試料の分析精度を低下させる要因に、大なり小なり成らざ るを得ない。カロえて、試料表面の非破壊的な超微量分析を行うこと、或いは試料を何 ら損なわないように分析を行うこと、特に生体試料に対して外的傷害を及ぼさないよう に分析を行うことなどは、従来のマトリックス剤等を用いた MALDI法によれば、実践 上大変困難であるという問題点もある。
[0006] 本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、例えば生体試料、半導体 材料、金属材料、化学物試料、化合物試料などの固体試料をそのまま或いは非破 壊的に超微量分析することを可能ならしめる、デソープシヨンイオン化方式のレーザ 分析装置及び方法を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明のレーザ分析装置は上記課題を解決するために、試料表面に照射されるこ とで前記試料表面に非熱的な脱離イオン化を引き起こす、該試料表面の材質に応じ た低フルーエンス領域内のフェムト秒レーザを、前記試料表面に対して照射する照 射手段と、前記照射されたフェムト秒レーザに応じて前記試料表面から脱離される分 子イオンを、分析する分析手段とを備える。
[0008] 本発明のレーザ分析装置によれば、照射手段によって、例えば生体試料、半導体 材料、金属材料、化学物試料、化合物試料等の固体試料に係る試料表面の材質に 応じた低フルーエンス領域内のフェムト秒レーザ力 s、試料表面に対して照射される。 ここに「フェムト秒レーザ」とは、パルス幅が 1ピコ秒(ps)以下であるフェムト秒オーダ のレーザ或いはレーザパルスをレ、い、より詳細には、固体表面をなす固体試料の材 質に対して、その衝突緩和時間よりも短い時間のパルス幅を有する、フェムト秒ォー ダのパルスレーザを意味する。即ち、フェムト秒レーザに係るパルス幅そのものにつ いては、試料表面をなす生体試料、半導体材料、金属材料、化学物試料、化合物試 料等の材質に応じて可変である。例えば、 A1 (アルミニウム)であれば、 1. 12ps (ピコ 秒)、 Cu (銅)であれば 17· 49ps、 Ti (チタン)であれば、 0· 83psといった具合である 。 「フルーエンス」とは、レーザの 1パルス当りの出力エネルギを照射断面積で割って
求めたエネルギ密度 j/cm である。また、「低フルーエンス」とは、一般には、相対 的にフルーエンスの値が小さいことをいうが、本発明に係る「低フルーエンス」或いは 「低フルーエンス領域」とは、レーザを材料表面に照射することで材料表面が蒸発す る現象が生じるエネルギ密度の最小値(アブレーシヨン閾値)近傍のフルーエンスを 意味する。言い換えれば、本発明に係る「低フルーエンス領域」とは、非熱的なィォ ン化が固体表面で生じるアブレーシヨン閾値付近の領域を意味する。より具体的には 、典型的には 1番目に小さいアブレーシヨン閾値フルーエンスと 2番目に小さいアブ レーシヨン閾値フルーエンスとの間の領域内を意味する。低フルーエンス領域は、固 体表面の材質によって変化する力 S、例えば、 15mj/cm2 150mj/cm2といったォ ーダのフルーエンス領域力 ここでは挙げられる。
[0009] 本発明では特に、このように照射手段により照射されるフェムト秒レーザは、試料表 面に非熱的な脱離イオンィ匕を引き起こすレーザとされている。本発明で照射されるフ ヱムト秒レーザは、低フルーエンスであって且つ高光強度である"低フルーエンス高 強度レーザパルス"となる。ここに本発明に係るレーザの「高強度」或いは「高光強度 」とは、フェムト秒レーザを固体表面に照射することで、固体表面における材料を解離 することなぐ該固体表面から分子イオン又は多価分子イオンとして放出させることが 可能なレーザに係る強度或いは光強度を意味し、この値は、固体表面の材質に固有 の値となる。尚、分子は、複数の原子が結合してできており、外部から分子にェネル ギー (熱、電場等)を与え、結合を切ることを「解離」と言う。但し、本発明で、「光強度 」というパラメータに対する条件付けは、独立に要求される必要はなぐ上述したアブ レーシヨン閾値フルーエンスに係る条件が決まれば、レーザ強度(光強度) =フルー エンス/パルス幅なる関係式より、フルーエンスに従属して決められる。そして、この ようなフェムト秒レーザの照射に応じて試料表面から脱離される分子イオン (即ち、分 子構造を保ったままのイオン或いは多価イオン)が、分析手段によって分析される。 分析手段は、例えばイオン検出型分析装置である。
[0010] 従って、(i)高フルーエンスのレーザ照射によって又は (ii)フェムト秒レーザではなく 衝突緩和時間よりも長いパルスのレーザ照射によって、固体表面における熱的なィ オン化を招くことなく或いは加熱による溶融や破壊を招くことなぐ原子 ·分子レベル
で剥離或いは脱離イオン化を行うことができる。即ち、超微量の分子イオンを試料表 面から脱離させることが可能となる。この際、低フルーエンスであって且つフェムト秒 レーザという極短いパルスを用いることで、非熱的なイオン放出現象(或いは、イオン 生成に係る脱離イオン化現象)が試料表面で起き、該試料表面が加熱されることなく 、原子 ·分子レベルでの剥離が可能となるのである。尚、本発明において「原子 '分子 レベル」とは、例えば原子 1個や原子数個、或いは原子十数個から数十個といった、 試料表面付近におけるナノオーダやサブナノオーダの範囲或いは単位を示す。
[0011] 本願発明の研究によれば、このような非熱的なデソープシヨンイオン化という現象は
、低フルーエンス領域においてフェムト秒レーザが照射されると、試料表面で材料の 解離現象が殆ど発生することなくイオン化現象が発生することによると考察され、この 際、例えば多価イオン化現象としての 3光子吸収過程が、試料表面におけるデソー プシヨンイオン化の要因として顕著に又は完全に支配的となっていると考察される。 本来、フェムト秒レーザよりもパルス幅(照射時間)が長いレーザで物質を励起 (ィォ ン化 ·デソープシヨン)する場合には、試料の熱的な緩和が不可欠となるので、 MAL DI法の如きマトリックス剤が存在しない場合、熱的な反応が誘起され試料分子が壊 れてしまう。即ち、非破壊的な質量分析等が困難或いは殆ど不可能となる。これに対 して、フェムト秒レーザを集光照射して入る場合には、試料に吸収がない波長領域の 光を照射しても、ある一定以上の光強度であるなら、試料を解離することなぐ試料を 脱離イオン化することが可能となる。
[0012] より詳細には、(1)試料が金属試料である場合、上述の如き本発明に係る"低フノレ 一エンス高強度フェムト秒レーザ"における光強度を制御して照射することにより、デ ソープシヨンイオン化を引き起こし、多価イオンがかなり選択的に生成する。アブレ一 シヨン閾値との対応付けも可能となる。即ち、金属試料の場合には、多価イオン放出 現象が観測される。但し、金属試料の他にも、例えば化合物試料の場合にも、多価ィ オン放出現象が観測される。 (2)試料が化学試料である場合、上述の如き本発明に 係る"低フルーエンス高強度フェムト秒レーザ"における光強度を制御して照射するこ とにより、分子イオン(1価イオン)が効率良く生成される。分子多価イオンも観測され る。分子の解離は、非常に少ない。 (3)試料が生体試料である場合、上述の如き本
発明に係る"低フルーエンス高強度フェムト秒レーザ"における光強度を制御して照 射することにより、分子イオンが観測され、顕著な解離イオンは見られない。
[0013] そこで、本発明のレーザ分析装置では、試料表面の材質 (即ち、金属試料、化学試 料、生体試料等の別)に応じて、低フルーエンス高強度フェムト秒レーザに係るレー ザ強度、波長及びパルス幅を制御することにより、デソープシヨンイオン化を達成する こととしてレ、る。これにより、フルーエンスを低フルーエンス領域内に収め、レーザ強 度をアブレーシヨン閾値近傍に制御することで、イオン化に伴う解離反応の抑制が可 能となる。
[0014] カロえて、レーザイオン化法だけでなく多くの質量分析計におけるイオン化法に於い て、積極的に分子の解離 (フラグメンテーション)を利用することがある。本発明にお いて、例えば、レーザ強度を故意にアブレーシヨン閾値近傍より強くすることにより、 分子イオンのみならずフラグメントイオンを観測することも可能となる。フラグメントィォ ンの質量を観測することにより、分子量の比較的大きな分子 (この場合、分子量 1000 以上)の構造についての情報を得ることが可能となる。
[0015] 以上のように本発明のレーザ分析装置によれば、非熱的なデソープシヨンイオンィ匕 を起こさせるためのレーザ照射によって、比較的容易にして、原子'分子レベルでの 剥離によって、試料表面から非破壊的に微量の分子イオンを脱離させられるので、 質量分析等の超微量分析が可能となる。特に、先述した MALDI法の如ぐマトリック ス剤の添加や混合を必要とせず或いは特殊な基板等を用いることなぐ生体試料、 半導体材料、金属材料、化学物試料、化合物試料等の試料を殆ど又は実践的な意 味では全く傷めることなぐそのまま微量分析できるので、実践上大変有利である。即 ち、極めて迅速且つ効率的な超微量分析が可能である。カロえて、復元力に優れた生 体試料については、生物的に瞬時に復元する程度の超微量な分子イオンの脱離に よって、当該分析が可能となるので、一段と有利である。
[0016] カロえて、非破壊的に超微量の分子イオンの脱離による分析であり、特に MALDI法 と比べてマトリックス剤を使用しないために、試料組成の分布を静的 Z動的に観測で きる点で格段に有利である。即ち、試料の局所的組成分布をレーザ照射領域程度の 分解能によって観測できる点においても、本発明は大変優れている。生体試料にお
ける動的分布過程を分析する際にも、極めて有利となる。更にまた、当該分析に係る 位置分解能についても、レーザの波長程度の分解能が容易に得られる。
[0017] 本発明のレーザ分析装置によれば、このように非破壊的に試料をそのまま分析でき るので、医療、創薬、遺伝子治療関連分野、半導体産業等の各種技術分野におい て、幅広い応用が可能となる。
[0018] 本発明のレーザ分析装置の一態様では、前記分析手段は、前記脱離された分子 イオンの質量を分析する質量分析手段を含む。
[0019] この態様によれば、フェムト秒レーザの照射に応じて試料表面から脱離される分子 イオンが、質量分析手段によって分析される。即ち、各種形状や各種形態の試料に ついて、非破壊的な質量分析をそのまま行うことができ、実践上大変有利である。
[0020] この態様では、前記質量分析手段は、前記脱離された分子イオンの濃度を検出す る濃度検出手段を含むように構成してもよい。
[0021] このように構成すれば、既存のイオン濃度検出装置等の濃度検出手段を採用する ことで、本発明のレーザ分析装置を比較的安価に構築することも可能となる。
[0022] 本発明のレーザ分析装置の他の態様では、前記照射手段は、マトリックス剤が混合 されていない状態にある前記試料表面に対して、前記フェムト秒レーザを照射する。
[0023] この態様によれば、マトリックス剤を全く不要としつつ試料表面から脱離される分子 イオンを分析できるので、従来の MALDI法と比較して、分析の手間等の上で著しく 有利である。
[0024] 本発明のレーザ分析装置の他の態様では、前記フェムト秒レーザの光強度は、前 記フェムト秒レーザに起因したレーザ電場によるトンネルイオンィ匕過程と非共鳴多光 子吸収過程とによって前記試料表面から前記分子イオンが脱離される値に設定され る。
[0025] この態様によれば、フェムト秒レーザの光強度力 トンネルイオンィ匕過程と非共鳴多 光子吸収過程とを引き起こす値に設定されているので、極めて効率良く非熱的且つ 非破壊的に試料表面から分子イオンを脱離させることが可能となる。よって極めて効 率良く試料分析を実施可能となる。尚、既に述べたように「光強度」というパラメータに 対する条件付けは、独立に要求される必要はなぐ上述したアブレーシヨン閾値フル
一エンスに係る条件が決まれば、これに従属して決められる。
[0026] 本発明のレーザ分析装置の他の態様では、前記試料表面は、生体試料又は固体 試料の表面からなり、前記照射手段は、前記試料表面から前記分子イオンを非破壊 的に脱離させる。
[0027] この態様によれば、生体試料又は固体試料を、非破壊的に試料分析できるので、 各種の応用技術分野において、実践上大変有益なレーザ分析装置を実現できる。
[0028] 本発明のレーザ分析装置の他の態様では、前記試料表面は、生体試料の表面か らなり、前記分析手段は、前記試料表面における前記分子イオンの動的分布過程を 検出する検出手段を含む。
[0029] この態様によれば、生体試料における動的分布過程についての分析が可能となる ので、各種の応用技術分野において、実践上大変有益なレーザ分析装置を実現で きる。例えば、細胞における一端と他端とに係る、或いは表側と裏側とに係る動的分 布過程にっレ、ての分析が可能となる。
[0030] 本発明のレーザ分析装置の他の態様では、前記試料表面を有する試料を、前記 照射手段が前記フェムト秒レーザを照射可能なように収容すると共に、前記脱離され た分子イオンを加速するイオン加速器と、前記加速された分子イオンを前記分析手 段に導く真空容器とを更に備える。
[0031] この態様によれば、イオン加速器に収容された試料の試料表面に対して、フェムト 秒レーザを照射すれば、その照射によって脱離した分子イオンを、イオン加速器によ り、すぐさま加速できる。更に、このように加速された分子イオンを、真空容器により質 量分析装置等の分析手段に導くことによって、超微量の分子イオンに基づいて比較 的高精度の分析が可能となる。特に、イオン加速器を用いれば、電界によって軽い 分子イオンは加速され易いのに対して重い分子イオンは加速され難ぐまた分子ィォ ンの価数が多いと加速され易いのに対して価数が少ないと加速され難い等の性質に 基づいて、質量分析等を行なうことが可能となる。
[0032] 本発明のレーザ分析方法は上記課題を解決するために、試料表面に照射されるこ とで前記試料表面に非熱的な脱離イオン化を引き起こす、該試料表面の材質に応じ た低フルーエンス領域内のフェムト秒レーザを、前記試料表面に対して照射する照
射工程と、前記照射されたフェムト秒レーザに応じて前記試料表面から脱離される分 子イオンを、分析する分析工程とを備える。
[0033] 本発明のレーザ分析方法によれば、照射工程により照射されるフェムト秒レーザは 、試料表面に非熱的な脱離イオンィ匕を引き起こすレーザとされており、該フェムト秒レ 一ザの照射に応じて試料表面から脱離される分子イオンが、分析工程によって分析 される。従って、上述した本発明のレーザ分析装置の場合と同様に、非熱的なデソー プシヨンイオン化を起こさせるためのレーザ照射によって、比較的容易にして、原子' 分子レベルでの剥離によって、試料表面から非破壊的に微量の分子イオンを脱離さ せられるので、質量分析等の超微量分析が可能となる。特に、先述した MALDI法の 如ぐマトリックス剤の添加や混合を必要とせず或いは特殊な基板等を用いることなく 、生体試料、半導体材料、金属材料、化学物試料、化合物試料等の試料を殆ど又は 実践的な意味では全く傷めることなぐそのまま微量分析できるので、実践上大変有 利である。
[0034] 尚、本発明のレーザ分析方法においても、上述した本発明のレーザ分析装置にお ける各種態様と同様の態様を適宜採用可能である。
[0035] 本発明のレーザ分析装置の一の態様では、前記試料表面の材質に応じて、前記フ ェムト秒レーザに係る照射フルーエンスの値を、前記低フルーエンス領域内で設定 する設定工程を更に備え、前記照射工程は、前記試料表面に対して前記設定され た照射フルーエンスの値で前記フェムト秒レーザを照射する。
[0036] この態様によれば、設定工程では、試料表面の材質に応じて、当該試料表面に対 して照射するフェムト秒レーザに係る照射フルーエンスの値が設定される。例えば、 アブレーシヨン率に換算して 0. OlnmZshot (ナノメートル/ショット、但し「ショット」と は、レーザパルスの一回の照射を意味する)程度といった、原子'分子レベルでの、 即ち、非常に浅い剥離深さが、試料の性質上好ましい場合であれば、照射フルーェ ンスの値は、例えば 0. lj/cm2に設定される。そして、照射工程では、このように設 定工程で設定された照射フルーエンスの値で、フェムト秒レーザが固体表面に対し て照射される。従って、試料表面における熱的なイオンィ匕を招くことなく或いは加熱 による溶融や破壊を招くことなぐ原子'分子レベルで剥離或いはアブレーシヨンを行
うことができる。
[0037] 尚、試料表面の材質に応じて、フェムト秒レーザの光強度、波長等の他のパラメ一 タを調整 ·制御することも可能である。例えば、試料表面の局所における光強度を相 対的に強くしつつ、試料表面の全域については焼けない程度に低いフルーエンスで 照射してもよい。
[0038] 本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施の形態から明らかにさ れる。
図面の簡単な説明
[0039] [図 1]本発明の実施形態に係るレーザ分析装置のうち試料及び検出部付近における 構成を具体的に示す外観斜視図である。
[図 2]本発明の実施形態に係るレーザ分析装置の全体構成を図式的に示すブロック 図である。
[図 3]本発明の実施形態に係る極短パルスレーザ (即ち、フェムト秒レーザ)の波形特 性を示す特性図である。
[図 4]実施形態に係るレーザ分析装置における各種パラメータや各種機材等に係る 条件の一例を示す表である。
[図 5]実施形態に係るレーザ分析装置内における、レーザ光源装置及び検証用の C CDカメラ等の光学配置を示すブロック図である
[図 6]実施形態に係るレーザ分析装置によって得られる照射フルーエンスとアブレ一 シヨン率との関係を示す特性図である。
[図 7]実施形態に係るレーザ分析装置によって得られるレーザパルス幅とアブレーシ ヨン閾値との関係を示す特性図である。
[図 8]実施形態に係るレーザ分析装置によって検出されるイオン信号強度を時間軸( 横軸)に対して示す特性図(その 1)である。
[図 9]実施形態に係るレーザ分析装置によって検出されるイオン信号強度を時間軸( 横軸)に対して示す特性図(その 2)である。
[図 10]実施形態に係るレーザ分析装置によって検出されるイオン信号強度を時間軸 (横軸)に対して示す特性図(その 3)である。
[図 ll]Cu (銅)についての温度と分布密度との関係を示す特性図である。
[図 12]実施形態に係るレーザ分析装置によって得られる Cuについての入射レーザ エネルギとイオン信号強度との関係を示す特性図である。
[図 13]実施形態に係るレーザ分析装置による試料表面のデソープシヨンイオンィ匕の 概念図である。
[図 14]比較例に係るレーザ分析装置による試料表面のデソープシヨンイオンィ匕の概 念図である。
[図 15]実施形態に係るレーザ分析装置によって、ホスファチジルコリン分子を試料と した場合に検出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図である。
[図 16]実施形態に係るレーザ分析装置によって、コロネン分子を試料とした場合に検 出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図(その 1)である。
[図 17]実施形態に係るレーザ分析装置によって、コロネン分子を試料とした場合に検 出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図(その 2)である。
[図 18]実施形態に係るレーザ分析装置によって、コロネン分子を試料とした場合に検 出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図(その 3)である。
[図 19]実施形態に係るレーザ分析装置によって、コロネン分子を試料とした場合に検 出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図(その 4)である。
[図 20]実施形態に係るレーザ分析装置によって、フラーレン分子を試料とした場合に 検出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図(その 1)である。
[図 21]実施形態に係るレーザ分析装置によって、フラーレン分子を試料とした場合に 検出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図(その 2)である。
[図 22]実施形態に係るレーザ分析装置によって、フラーレン分子を試料とした場合に 検出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図(その 3)である。
[図 23]実施形態に係るレーザ分析装置によって、フラーレン分子を試料とした場合に 検出されるイオン信号強度の時間変化を示す特性図(その 4)である。
符号の説明
2…レーザ分析装置
10…制御装置
11…レーザ光源装置
12…集光レンズ
13…ターゲット (試料)
16· · ·検出装置
101…イオン加速器
102…真空容器
発明を実施するための最良の形態
[0041] 以下では、本発明の実施の形態について図を参照しつつ説明する。
[0042] 先ず図 1及び図 2を参照して、レーザ分析装置の構成について説明する。ここに図
1は、本実施形態に係るレーザ分析装置のうち試料及び検出部付近における構成を 具体的に示しており、図 2は、本実施形態に係るレーザ分析装置の全体構成を図式 的に示す。
[0043] 図 1において、レーザ分析装置 2は、集光レンズ 12、イオン加速器 101、真空容器 102及び検出装置 16を備える。
[0044] 図 2において、レーザ分析装置 12は、図 1に示した構成要素の他に、制御装置 10 及びレーザ光源装置 11を備える。
[0045] 図 1及び図 2に示すように、集光レンズ 12には、レーザ光源装置 11から出射される 低フルーエンスのフェムト秒レーザ LB力 S、他の光学部品やレンズ等を介して入射さ れる。集光レンズ 12は、これを集光して、本発明に係る「試料表面」を有する試料の 一例としてのターゲット 13に向けて集光するように構成されている。
[0046] レーザ光源装置 11は、制御装置 10による駆動制御を受けて、フェムト秒レーザ LB を、集光レンズ 12を介してターゲット 13に向けて照射する。レーザ光源装置 11は、 制御装置 10により、ターゲット 13の材質に応じて、ターゲット 13の表面を原子'分子 レベルで或いは超微量だけ、非熱的に脱離イオン化(即ち、非熱的なデソープシヨン イオン化)するように設定された照射フルーエンスの値で、フェムト秒レーザ LBを発 生するように構成されている。尚、制御装置 10によって、ターゲット 13の材質に応じ て、フェムト秒レーザ LBに係る照射フルーエンスの値に加えて又は代えてフェムト秒 レーザ LBに係る光強度の値力 ターゲット 13の表面を原子 ·分子レベルで非熱的に
脱離イオン化するように設定されてもょレ、。
[0047] 制御装置 10によるフェムト秒レーザ LBに係るパラメータ設定については後に詳述 する。
[0048] ターゲット 13は、フェムト秒レーザ LBを入射するための窓を有するイオン加速器 10 1内に配置されている。但し、必ずしもこのようにイオン力卩速器 101内に配置しなくて もよレ、。ターゲット 13は、フェムト秒レーザ LBの入射軸に対して、例えば 45度といつ た、所定角度 Θだけ傾けられて配置されており(図 2参照)、これによりターゲット 13の 表面から、脱離イオンィ匕した分子イオンのイオン加速器 101内への放出が良好に行 なわれる。
[0049] イオン力卩速器 101は、複数の電極を有しており、これらにより電界を発生させること で、ターゲット 13の試料表面からフェムト秒レーザ LBの照射に応じて脱離イオン化さ れた分子イオン M+を真空容器 102の方に向けて(即ち図 1中、左側に向けて)加速 するように構成されてレ、る。
[0050] 真空容器 102は、分子イオンの飛行時間を長めるように、即ち図 1中、イオン飛跡 L Pが十分に長く取れるように、分子イオン M+の飛行方向に延在する真空空間を内部 に規定している。そして、真空容器 102における、イオン加速器 101に面する側には 、検出装置 16が、配置されている。図 1中、イオン飛跡 LPとして示したように、分子ィ オン M+は、イオン加速器 101による加速によって先ずは左側へ向けて飛行した後、 真空容器 102内で、飛行方向を逆向きに変え、検出装置 16へ向けて飛行することに なる。
[0051] 検出装置 16は、例えば、真空容器 102内を飛行した分子イオン M+の濃度を時間 に対して検出することで、該分子イオン M+の質量を分析する飛行時間型質量分析 装置力、らなる。 CPU (Central Processing Unit)或いはシステムコントローラ等を備え てなる制御装置 10には、検出装置 16から分子イオンの質量の分析結果に係る検出 情報が入力され、ここで検出情報が記録される。
[0052] 以上のように本実施形態では、レーザ光源装置 11及び集光レンズ 12は、本発明 に係る「照射手段」の一例を構成しており、イオン加速器 101、真空容器 102及び検 出装置 16は、本発明に係る「分析手段」の一例を構成してレ、る。
[0053] 尚、図 1及び図 2では説明の簡略化のため、光学系として、集光レンズ 12が、フエム ト秒レーザ LBの光路に配置されている力 その他のレンズ、プリズム、ミラー、シャツ ター等が該光路に適宜配置されてもよぐ更に、レーザ光源装置 11内に、半導体レ 一ザ装置等の各種レーザ装置と、各種レンズ、シャッター、偏光板、位相差板等の光 学部品とが適宜組み込まれてもよい。
[0054] 次に図 3から図 12を参照して、上述の如き構成を有するレーザ分析装置 2における 、フェムト秒レーザ LBに係る照射フルーエンスの値の設定等について説明する。ここ では、照射フルーエンスの値と、ターゲット 13の表面におけるアブレーシヨン率(剥離 深さに対応する)との関係を検証し、更に、ターゲット 13の表面におけるアブレーショ ン率が、低フルーエンス領域におけるフェムト秒レーザ LBの照射フルーエンスの値 によって、或いは光強度の値によって、調整 *制御可能であることを検証する。尚、こ れらの検証に基づき、図 1及び図 2に示したレーザ分析装置 2では、非熱的な脱離ィ オン化が超微量だけ行われるように照射フルーエンスの値等が設定されることになる
[0055] 先ず図 3を参照して、本実施形態で用いられる、極低フルーエンスであり且つ高強 度であるフェムト秒レーザにおける特性について説明する。ここに、図 3は、本実施形 態に係る極短パルスレーザ (即ち、フェムト秒レーザ)の波形特性を示す。
[0056] 図 3に示すように、レーザ光源装置 11によって照射される、極短パルスレーザ(即ち 、フェムト秒レーザ)は、例えば、ターゲット 13の材質に応じて、該材料を解離すること なく非熱的なイオン化放出を引き起こす、低フルーエンスであって且つ高光強度であ る"低フルーエンス高強度レーザノ^レス"である。ここに本実施形態に係る「低フルー エンス」とは、後に詳述するように、 1番目に小さいアブレーシヨン閾値フルーエンス F 3,thと 2番目に小さいアブレーシヨン閾値フルーエンス F2,thとの間にあるフルーェン スのことを意味する。また、本実施形態に係るレーザの「高強度」或いは「高光強度」 とは、図 3に例示した如き「アブレーシヨン閾値レーザ強度」を超えるレーザ強度(光 強度)のことを意味する。言い換えれば、「高強度」或いは「高光強度」とは、フェムト 秒レーザを固体表面(ここでは、ターゲット 13の表面)に照射することで、該固体表面 の材料を解離することなぐ分子イオン若しくは多価分子イオンとして放出させること
が可能なレーザに係る強度或いは光強度を意味しており、この値は、固体表面(ここ では、ターゲット 13の表面)の材質に固有の値となる。
[0057] 尚、一般に、「フルーエンス」の単位は、 j/cm2であり、「レーザ強度」或いは「光強 度」の単位は、 W/cm2 (即ち、 j/s ' cm2)である。従って、レーザのフルーエンスと は、レーザのエネルギを照射面積で割ったものであり、レーザ強度(光強度)は、フル 一エンスを、レーザのパルス幅(時間)で割ったものとなる。言い換えれば、レーザ強 度(光強度)は、レーザのエネルギを、(照射面積 Xレーザのパルス幅)で割ったもの となる。よって、本実施形態において、レーザ強度或いは光強度の調整は、レーザの エネルギ、レーザの照射面積及びレーザのパルス幅を調整することにより行なわれる 。但し、本実施形態では、「光強度」というパラメータに対する条件付けは、独立に要 求されるものではなぐ後述の如きアブレーシヨン閾値フルーエンス F3,th F2,thに 係る条件が満たされれば、これに従属して (即ち、レーザ強度(光強度) =フルーェン ス/パルス幅なる関係式より)決定される性質のものである。
[0058] 図 3では、エネルギが 300 μ Jであり且つパルス幅が lOOfsのレーザであって、集光 レンズ 12等によってターゲット 13の表面で照射径が 20 μ mに絞られている"低フル 一エンス高強度レーザパルス"を示している。尚、本実施形態に係る「パルス幅(レー ザパルス幅)」の定義としては、レーザ強度の時間波形を実験的に調べ、最大レーザ 強度の半分になる時間を測定したものである。図 3に例示したレーザパルスの場合、 フルーエンスは、 95j/cm2と低いが(即ち、低フルーエンスであるが)、レーザ強度 は、 1015W/cm2と極めて高レ、(即ち、高強度である)。因みにこのレーザは、東京電 力の平成 13年度における電力消費のピーク時における 6430万 kW ( = 6 X 101QW) を優に超えるパワーである。これは、フェムト秒レーザという極短パルスレーザの特徴 の一つと言える。
[0059] 次に、図 2に加えて図 4及び図 5を参照して、照射フルーエンスの値とアブレーショ ン率との関係等を検証するため実験について更に説明する。ここに、図 4は、図 2に 示したレーザ照射 ·分析装置に係る各種パラメータや各種機材等に係る条件の一例 を示し、図 5は、図 2に示したレーザ照射 ·分析装置内における、レーザ光源装置及 び検証用の CCD (Charged Coupled Device)カメラ等の光学配置を示す。尚、図 5に
おいて、図 1と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、それらの説明は適宜省 略する。
[0060] 次に、図 2に加えて図 4及び図 5を参照して、照射フルーエンスの値とアブレーショ ン率との関係を検証するため実験について説明する。ここに、図 4は、レーザ照射'分 析装置に係る各種パラメータや各種機材等に係る条件の一例を示し、図 5は、レー ザ照射 ·分析装置内における、レーザ光源装置及び検証用の CCD (Charged Coupled Device)カメラ等の光学配置を示す。尚、図 5において、図 1と同様の構成要 素には同様の参照符号を付し、それらの説明は適宜省略する。
[0061] 図 4の一覧表に例示した如くに、レーザ分析装置 2では、各種パラメータや各種機 材、ターゲット 13に係る諸条件が設定される。即ち、ターゲット 13としては、金属サン プノレ Cu、 Al、 Fe、…等が選択され、そのサイズ等力 5 X 5cm等とされる。また、フエ ムト秒レーザ LBとしては、波長等が 800nm (ナノメートル)等とされる。特に光強度( エネルギ)は、 0. 21— 600 /i Jの間で可変とされ、これに伴い、照射フルーエンスは 、 10mj/cm2— 28j/cm2の間で可変とされる。
[0062] 図 5に示すように、レーザ分析装置 2内には、レーザ光源装置 11に加えて、図 2に は不図示である、ターゲット 13の表面を撮像するため CCDカメラ 31等が光学系に組 み込まれている。尚、図 5では、図 2に示した検出装置 16、制御装置 10等の他の構 成要素は、省略してある。
[0063] 図 5において、レーザ光源装置 11は、非熱的なアブレーシヨンを引き起こさせるた めのフェムト秒レーザ Lfsを発生させるフェムト秒レーザ光源装置(fs laser) 11 aと、 光学的なアラインメント用のレーザ Laを発生させるヘリウム一ネオンガスレーザ光源( He-Ne laser) 1 lbとを含む。フェムト秒レーザ Lfsは、ミラー 21を経た後に、レーザ Laは、偏光状態制御用の光学板 25及びミラー 26を経た後に、ハーフミラー(ダイク口 イツクミラー) 22のところで合成され、同一光路上のレーザ LBとされる。更に、レーザ LBは、ハーフミラー(ダイクロイツクミラー) 34へ到達する。レーザ LBのうちフェムト秒 レーザ Lfsは、ハーフミラー 34で反射され、集光レンズ 12を介して、ターゲット 13たる 金属サンプルの表面に照射される。他方で、レーザ LBのうちアラインメント用のレー ザ Laは、ハーフミラー 34を透過して、アラインメント用に用いられる。そして、フェムト
秒レーザ Lfsによりアブレーシヨンされる金属サンプルの表面の様子は、集光レンズ 1 2、ハーフミラー 34、レンズ 33、ミラー 32を経て CCDカメラ 31に至る反射光 Lrを受光 することで、 CCDカメラ 31によって、撮像される。
[0064] 次に図 6から図 12を参照して、上述の如きレーザ分析装置 2によって得られる、照 射フルーエンスとアブレーシヨン率との関係、特にこの関係を示す特性曲線上で識別 される、三つのアブレーシヨン閾値フルーエンス、及びこれらの閾値によって規定さ れる新規なアブレーシヨン物理を示す低フルーエンス領域について説明する。ここに 、図 6は、レーザ分析装置 2によって得られる照射フルーエンスとアブレーシヨン率と の関係を示し、図 7は、レーザ分析装置 2によって得られるレーザパルス幅とアブレ一 シヨン閾値(アブレーシヨン閾値フルーエンス)との関係を示す。図 8から図 10は夫々 、レーザ分析装置 2によって検出されるイオン信号強度を時間軸 (横軸)に対して示 す。図 11は、 Cu (銅)についての温度と分布密度との関係を示し、図 12は、レーザ 分析装置 2によって得られる Cuについての入射レーザエネルギとイオン信号強度と の関係を示す。
[0065] 図 2から図 5を参照して説明したレーザ分析装置 2を用いると、図 6に例示した如き 照射フルーエンス(レーザ照射フルーエンス (j/cm2) )とアブレーシヨン率(nm/sh ot)との関係が得られる。但し、ここでは、ターゲット 13を Cu (銅)とし、フェムト秒レー ザ Ffsの波長を 800nmとし、パルス幅を 70fs (フェムト秒)としており、その他の諸条 件については、図 4に例示した通りとしてある。
[0066] 図 6に示すように、黒丸で示した離散的な実験データ(experimental data)によれば 、照射フルーエンスとアブレーシヨン率との関係を示す特性曲線には、三つのアブレ ーシヨン閾値フルーエンスとして、小さレ、順に、アブレーシヨン閾値フルーエンス F 3,th ( = 0. 018j/cm2)、 F2,th ( = 0. 18j/cm2)及び Fl,th ( = 0. 25jZcm2)が存 在しているのが確認される。
[0067] ここで「アブレーシヨン率」は、 1レーザパルス当りのターゲット 13の表面に形成され るクレータの深さ(剥離深さ)を意味し、次式(1)で表記される。
[0068] L= a _1ln (F/Fth)
但し、
α— 光侵入長 (cm)、
F:照射フルーエンス Q/cm2)
従って、この式(1)から、上述した三つのアブレーシヨン閾値フルーエンス Fth (F 3,th、 F2,th、 Fl,th)は夫々、 L = 0なる照射フルーエンス F力、ら評価されることになる。
[0069] より一般には、レーザの空間プロファイルがガウス関数で表される場合、クレータの 口径 Γは、次式(2)で表記される。
[0070] r =a{ln (F/Fth) }°- 5 - - - (2)
但し、 a :入射されるレーザビームの径
従って、この場合には、この式(2)から、上述した三つのアブレーシヨン閾値フルー エンス Fth (F3,th、 F2,th、 Fl,th)は夫々、 Γ =0なる照射フルーエンス Fから評価さ れることになる。
[0071] 以上、式(1)及び(2)に示したように、アブレーシヨン閾値フルーエンスは、二つの 手法により評価可能である。
[0072] 尚、図 6では、両対数グラフ上での特性曲線であるため、これら三つのアブレーショ ン閾値フルーエンス F3,th、 F2,th及び Fl,thの存在は多少目視し難くなつているが、 この特性曲線を、横軸(レーザ照射フルーエンス軸)のみを対数としたグラフ上で描 けば、上記式(1)及び式(2)からも明らかなように、これら三つのアブレーシヨン閾値 フルーエンス F3,th、 F2,th及び Fl,thの存在は、 目視により容易且つ明確に確認可 能となる。
[0073] 図 7に示すように、レーザパルス幅(s)とアブレーシヨン閾値フルーエンス ϋ/cm2) との関係を示す特性曲線上で、これら三つのアブレーシヨン閾値フルーエンス F3,th 、 F2,th及び Fl,thは夫々、フェムト秒レーザ Lfsに係るパルス幅に依存して変化する 性質を有する。ここで、フェムト秒レーザ Lfsは、ターゲット 13における衝突緩和時間 よりも短い時間のパルス幅を有するので、フェムト秒レーザ Lfsに係るパルス幅は、タ 一ゲット 13の表面の材質に応じて可変である。例えば、例えば Cuであれば 17. 49p sといった具合である。 (尚、この例では、図 6の場合と同じぐターゲット 13を Cu (銅) とし、フェムト秒レーザ Ffsの波長を 800nmとしてある。)このように、三つのアブレ一 シヨン閾値フルーエンス F3,th、 F2,th及び Fl,thは夫々、パルス幅と共に変化するの
で、レーザ強度もパルス幅に依存する重要パラメータであると言える(図 3参照)。集 光光学系を変えることで、ターゲット 13の表面のレーザ照射面積が変わるため、レー ザの強度を変えることができる。つまり、アブレーシヨンに寄与する時間間隔を長くし たり短くしたりの調節が可能である。但し、本実施形態では、「光強度」というパラメ一 タに対する条件付けは、独立に要求されるものではなぐ上述の如きアブレーシヨン 閾値フルーエンス F3,th F2,thに係る条件が満たされれば、これに従属して決定さ れる。
[0074] 図 6及び図 7から分かるように、本実施形態に係る「低フルーエンス領域」とは、 1番 目に小さいアブレーシヨン閾値フルーエンス F3,thと 2番目に小さいアブレーシヨン閾 値フルーエンス F2,thとの間の領域を意味する。従って、低フルーエンス領域は、タ 一ゲット 13の材質によって変化することとなる力 図 6に示した例(即ち、ターゲットが Cuである例)では、 0. 018j/cm2-0. 18j/cm2のフルーエンス領域力 低フルー エンス領域に該当する。言い換えれば、この 0. 018j/cm2— 0· 18j/cm2のフルー エンス領域が、非熱的なイオン化が Cuからなるターゲット 13の表面で生じるアブレ一 シヨン閾値付近の領域を意味することになる。
[0075] 図 6において、 3光子吸収過程に基づいてシミュレーション又はモデル化された特 性曲線 L ( ξ )が、実線で示されている。この特性曲線 L ( ξ )は、アブレーシヨン閾
3 3 3 3
値フルーエンス F3,thとアブレーシヨン閾値フルーエンス F2,thとの間の領域、即ち低 フルーエンス領域では、黒丸で示した実験データと整合がとれてレ、るのが確認される
[0076] ここで、 m次の多光子吸収が起こった場合、その吸収係数 ζ (cmm/Wm→)が分 m
かれば、アブレーシヨン率 L (cmZshot)は解析的に説くことができ、次式(3)で表さ m
れる。
[0077] L = l/ { (m-l ) ζ }
m m
X { (E / τ ζ m) /m)_ (F/ T - - - (3)
th p m p广 m}
但し、
m≥2
τ (s):レーザーパノレスの幅、
E Q/cm3):融解熱で単位体積の固体を融解させるのに必要なエネルギ
TH
そして、 L =0となる条件力 アブレーシヨン閾値フルーエンス F で、次式 (4)で表
m th される。
[0078] F = (Ε / ζ ) 1 ιη τ m)/m) = /3 て ( d—m) Zm) . . . (4)
th th m p m p
以上式(3)及び(4)から分かるように、アブレーシヨン閾値フルーエンス F3,thは、パ ノレス幅に依存しており、図 6の特性曲線 L ( ξ )で示された 3光子吸収過程によるも
3 3
のとして説明される。
[0079] また図 6において、 2光子吸収過程に基づいてシミュレーション又はモデル化された 特性曲線!/が、破線で示されている。この特性曲線!/は、アブレーシヨン閾値フノレ 一エンス F2,thとアブレーシヨン閾値フルーエンス Fl,thとの間の領域、即ち、低フル 一エンス領域に隣接する高フルーエンス領域では、黒丸で示した実験データと整合 力 Sとれているのが確認される。この高フルーエンス領域では、 2光子吸収過程がアブ レーシヨン現象において支配的となり、熱的なイオン化放出現象が発生する。
[0080] 更に図 6において、 1次元 2温度熱拡散過程に基づいてシミュレーション又はモデ ル化された特性曲線 L1が、一点鎖線で示されている。この特性曲線 L1は、アブレ一 シヨン閾値フルーエンス Fl,thよりも高い高フルーエンスの領域では、黒丸で示した実 験データと整合がとれているのが確認できる。
[0081] このように、フェムト秒レーザ Ffsを用いる場合、低フルーエンス領域内では、 "3光 子吸収過程"がアブレーシヨン現象の要因として顕著に又は完全に支配的となる。尚 、フェムト秒レーザ Lfsの場合、例えば、 800nmの波長であれば、光子としては 1. 5e Vの粒の性質を有する。よって、ターゲット 13の表面において、 3光子吸収過程に従 つて非熱的なイオン化放出(非熱的な脱離イオン化)が行なわれる。逆に、本実施形 態に係る低フルーエンス領域から外れた高フルーエンス領域では、本実施形態の如 き非熱的なイオンィ匕放出現象は殆ど又は全く確認されておらず、熱的なイオン化放 出現象が顕著に確認される。
[0082] 次に図 8から図 10を参照して、このように新規なアブレーシヨン物理を示す低フル 一エンス領域における、 2光子吸収過程に基づく特性曲線 L ( ξ )について、更に
3 3
検証する。より具体的には、レーザ分析装置 2において検出装置 16によって測定さ
れる、ターゲット 13表面から放出される分子イオンに基づいて、イオン化放出過程と レーザ多光子吸収過程(或いは、 3光子吸収過程)との関連性について検討する。こ こでは、波長 800nmであるフェムト秒レーザ Lfsのパルス幅は、 130fsに固定され、 集光レンズ 12として、 f (焦点距離) = 250mmのレンズが用いられる。そして、ターグ ット 13たる Cuの金属サンプルの表面に、照射フルーエンスを 15 700mj/cm2の 範囲で変化させつつ、フェムト秒レーザ Lfsが照射されるものとする。そして、ターゲッ ト 13の表面から放出される分子イオンが、検出装置 16の一例として、飛行時間型質 量分析器 (TOF)によって、測定される。このようにして得られる測定結果が、図 8から 図 10に示されている。図 8から図 10はこの順番に、フェムト秒レーザ Lfsの照射エネ ノレギを、 27 μ J (相対的に高工ネルギ)、 17 μ J (相対的に中エネルギ)、 8. (相 対的に低エネルギ)として測定したものである。
[0083] 図 8から図 10に示すように、本測定条件では、いずれの場合にも、 Cu3+及び Cu2+ に対応するピークが測定され、即ち、多価の銅イオンが顕著に放出されていることが 確認される。尚、図 8から図 10において、 3 /i s付近のピークは、測定環境に起因する 水素イオンによるもので、当該新規なアブレーシヨン物理に係る検証とは、特に関係 がない。
[0084] 図 11は、上述の如き測定に係るアブレーシヨン力 仮に熱過程によるものとして計 算した場合における、温度 (k)に対する、銅イオン (Cu+、 Cu2+、 Cu3+)及び銅 (Cu) の価数分布を示している。これに対して、図 12は、上述の如き本実施形態の測定で 得られる、入射レーザエネルギ J)に対する、銅イオン (Cu+、 Cu2+、 Cu3+)及び 銅(Cu)の価数分布を示している。尚、図 12における、入射レーザエネルギが 9 μ J付 近のところに見られるピークは、信号が得られない際のイオン信号強度を示しており、 当該新規なアブレーション物理に係る検証とは、特に関係がなレ、。
[0085] 図 11及び図 12からも、図 6に示した低フルーエンス領域におけるアブレーシヨン或 いはイオン化放出現象力 熱過程ではなぐ非熱過程で起こっていることが推察され る。これは、前述したように、低フルーエンス領域では、多光子吸収過程或いは 3光 子吸収過程がアブレーシヨン現象の要因として顕著に又は完全に支配的となり、分 子イオンとして、多価のイオンが生成されるとレ、う考察を裏付ける結果となってレ、る。
[0086] 以上図 2から図 12を参照して説明したように、 1つのフェムト秒レーザに係るパルス で、ターゲット 13の表面を、原子'分子レベルで、言い換えれば、非常にソフトにアブ レーシヨンさせ、或いはイオンィ匕できる。この際、 1価以外の多価イオンのみが顕著に 放出される非熱的アブレーシヨン現象、或いは非熱的イオン化現象は、本発明の以 前には報告されていない。
[0087] また、本実施形態では、金属として適宜 Cuの場合について例示している力 図 4の 表に例示した全ての金属についても同様の非熱的アブレーシヨン現象、或いは非熱 的イオン化現象が確認される。総括すれば、図 6等を参照して説明したアブレーショ ン率のフルーエンス依存性は、概ね全ての金属をターゲット 13とした場合にも、傾き の異なる三つの対数成分からなっており、アブレーシヨン閾値フルーエンスは夫々、 三つ(F3,th、 F2,th及び Fl,th)存在する。そして、概ねいずれの金属についても、ァ ブレーシヨン閾値フルーエンスのパルス依存性は、多光子吸収過程或いは 3光子吸 収過程に従っていると考察される。
[0088] 以上図 4から図 12を参照しての考察に鑑み、図 1及び図 2に示した本実施形態に 係るレーザ分析装置 2では、制御装置 10等による設定工程において、照射フルーェ ンスの値は、ターゲット 13の表面に非熱的な脱離イオン化(即ち、非熱的なデソープ シヨンイオンィ匕)を引き起こす低フルーエンス領域内(図 6の例では、 0· 018j/cm2 一 0. 18j/cm2の領域内)で設定される。そして、レーザ光源装置 11等による照射 工程では、フェムト秒レーザ LBがこの設定値で照射される。従って、レーザ分析装置 2によれば、高フルーエンスのレーザ照射によって又は長いパルスのレーザ照射によ つてターゲット 13の表面における熱的なイオン化を招くことなく或いは加熱による溶 融ゃ破壊を招くことなぐ原子 ·分子レベルで即ち超微量だけ、非熱的な脱離イオン 化を行うことができる。この様子について、図 13及び図 14を参照して説明を加える。 ここに、図 13は、本実施形態により、ターゲット 13の表面に引き起こされる非熱的な 脱離イオン化を概念的に示しており、図 14は、本実施形態の比較例として、 MALDI 法により、特殊基板 201上でマトリックス剤に混在された試料に引き起こされる熱的な 脱離イオン化を概念的に示す。
[0089] 図 13に例示するように、本実施形態によれば、ターゲット 13の表面で、原子 '分子
レベルの脱離イオン化を起こすことができ、例えば手で触るなど、物理的接触する場 合よりも微量だけ表面を脱離させることも可能となる。これにより、図 13中、左側に示 したレーザパルス照射前におけるターゲット 13の表面の状態と、図 13中、右側に示 したレーザパルス照射後におけるターゲット 13の表面の状態とでは、殆ど差はなぐ 電子顕微鏡で拡大したレベルで僅かに、脱離の痕跡が確認できる程度である(図 13 中、右下部分参照)。
[0090] これに対して図 14に示すように、 MALDI法によれば、シリコン製などの特殊基板 2 01上に、試料分子 202、不純物 203及びマトリックス剤(試薬分子) 213を混在させ た状態で質量分析が行なわれる。これにより、図 14中、左側に示したレーザパルス 照射前における試料分子 202を混合したターゲットの表面の状態と、図 14中、右側 に示したレーザパルス照射後における該ターゲットの表面の状態とでは、表面の破 壊が生じた分だけ、顕著な差が生じている。そして、原子'分子レベルと比べて遥か に巨大なる脱離の痕跡が明確に確認できる。即ち、 MALDI法では、非破壊的な質 量分析は困難である。力 0えて、マトリックス剤 213や不純物 203の存在により、飛行時 間型の質量分析にノイズ成分が生じることになるので、 MALDI法では、イオン信号 強度中におけるピークの同定が大なり小なり困難になる。ここで分析精度を高めるた めには、試料分子 202の種類に応じて、マトリックス剤 213の種類を適宜変える必要 十生も生じる。
[0091] 続いて図 15から図 23を参照して、以上のように照射フルーエンスが設定されたフエ ムト秒レーザ LBを用いて分析を行う本実施形態に係るレーザ分析装置 2によって、 各種試料に対する質量分析を行う場合について説明する。
[0092] 先ず図 15を参照して、 "生物試料"に対する質量分析を行う場合について説明する
[0093] 図 15に示すイオン信号強度は、生物試料の典型例として、細胞膜として周知性の 高いホスファチジルコリン分子(PCM = 745 1 μ mmol)に対する質量分析を行うこ とで得られる。ここでは先ず、該生物試料を、ジクロロメタン溶液にし、ガラス基板上に lOnmol乾燥塗布する。これにより、 1 μ molという極薄い試料がガラス基板上に生成 される。そして、該ガラス基板に対して、レーザ分析装置 2によって、前述の如く波長
力 ¾00nmであり、パルス幅が 130fsのフェムト秒レーザ LBを低フルーエンスで照射 することで、飛行時間型の質量分析を行う。その結果が、図 15に示したイオン信号強 度となる。
[0094] 図 15において、 84. 65 μ s付近に観測されているブロードなピークは、ホスファチ ジノレコリン分子と同定される。他方、 25 z s以下に観測される強度の強いピークは、ガ ラス基板からのアブレーシヨンにより生成された原子イオンである。 25 80 μ sの間 に顕著なフラグメントイオンが観測されてレ、なレ、ことから、低フルーエンス領域でのデ ソープシヨンイオン化は、分子イオンを選択的に生成するソフトなイオンィ匕であると考 察される。また、図 15から明らかなように、分析精度は、一般的な MALDI法と比較し ても、遜色はないか又は試料の種類によっては遥かに優れる。
[0095] 次に図 16から図 23を参照して、以上のように照射フルーエンスが設定されたフエム ト秒レーザ LBを用いて分析を行う本実施形態に係るレーザ分析装置 2によって、 "固 体化合物試料"の二例に対する質量分析を行う場合について説明する。
[0096] 図 16から図 19に示すイオン信号強度は、固体化合物試料の一例として、コロネン 分子(C Η :分子量 300. 4)に対する質量分析を行うことで得られる。特に図 16、
24 12
図 17、図 18及び図 19に示すイオン信号強度は、レーザ光強度を、この順に、 5. 5 /ij、 5. 9 μ】、 6. 5 /1】及び8. 7 /i Jに設定して得られるものである。また、図中、「M+」 とは、コロネン分子の 1価イオンであり、「M +」とは、 2量体(2つの分子が会合している
2
)のイオンである。このようなコロネン分子に対して、レーザ分析装置 2によって、例え ば前述の如く波長が 800nmであり、パルス幅が 130fsのフェムト秒レーザ LBを低フ ルーエンスで照射することで、飛行時間型の質量分析を行う。その結果が、図 16から 図 19に示したイオン信号強度となる。
[0097] 図 16から図 19から分かるように、図 15に示した"生体試料"の場合より顕著に分子 イオンが観測される。また、レーザ強度を少し上げるだけで、飛躍的に検出されるィ オン量が増加する。 5. 9 μ J以上のレーザー強度では、分子 2量体のイオンも観測さ れている。更に、レーザー強度の増加に伴い、フラグメントイオン (フラグメンテーショ ン)も観測されている。
[0098] 図 20から図 23に示すイオン信号強度は、固体化合物試料の他の例として、フラー
レン C 分子(C :分子量 720)に対する質量分析を行うことで得られる。特に図 20、
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図 21、図 22及び図 23に示すイオン信号強度は、レーザ光強度を、この順に、 9. 4 /ij、 l l /ij、 13 μ J及び 17 μ Jに設定して得られるものである。このようなフラーレン C 分子に対して、レーザ分析装置 2によって、例えば前述の如く波長が 800nmであり
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、パルス幅が 130fsのフェムト秒レーザ LBを低フルーエンスで照射することで、飛行 時間型の質量分析を行う。その結果が、図 20から図 23に示したイオン信号強度とな る。
[0099] 図 20から図 23から分かるように、図 15に示した"生体試料"の場合より顕著に分子 イオンが観測される。また、レーザ強度を少し上げるだけで、飛躍的に検出されるィ オン量が増加する。更に、分子 2量体イオンが観測されており、特に強度の強い領域 では、フラグメントイオン (フラグメンテーション)も観測されてレ、る。
[0100] 以上図 16から図 23を参照して説明したように、コロネン分子及びフラーレン分子の 両者について、生体試料の場合(図 15参照)よりも、よりフラグメントが少なく分子ィォ ンが顕著に観測されている。これは、(1)試料分子濃度が非常に高いことと(2)分子 サイズが比較的小さいこととに起因すると考察される。
[0101] 以上詳細に説明したように本実施形態のレーザ分析装置 2によれば、金属試料、 生物試料、化学物試料、化合物試料等の各種のターゲット 13に対して、低フルーェ ンスであって且つフェムト秒レーザ LBという極短いパルスを用いることで、非熱的な 分子イオン放出現象がターゲット 13の表面で起き、該表面が加熱されることなぐ原 子.分子レベルでの剥離が可能となるのである。特に、フェムト秒レーザ LBの光強度 を、フェムト秒レーザ LBに起因したレーザ電場によるトンネルイオン化過程と非共鳴 多光子吸収過程とによって、ターゲット 13の表面から分子イオン M+が脱離される値 に設定しておけば、極めて効率良く非熱的且つ非破壊的にターゲット 13の表面から 分子イオン M+を脱離させることが可能となる。従って、レーザ分析装置 2によれば、 非破壊的な質量分析が可能となり、特に前述した MALDI法の如くマトリックス剤の 添加等を必要とせず、生体試料、半導体材料、金属材料、化学物試料、化合物試料 等の各種試料を、殆ど又は実践的な意味では全く傷めることなぐそのまま微量分析 できるので、実践上大変有利である。
[0102] また、金属試料や生物試料以外の、例えば半導体材料、絶縁体等をターゲット 13 としても、ターゲット 13の材質に個別具体的に応じた低フルーエンス領域内のフエム ト秒レーザ LBを、ターゲット 13の材質に応じた光強度で照射することによって、いず れのターゲット 13に対しても、非破壊的な分析が可能となる。例えば、レーザ強度を 高めることで、絶縁体等を、比較的問題なくターゲット 13として質量分析等できる。或 いは、レーザを低フルーエンスで照射するので、破壊されやすい化合物や生物試料 も比較的問題なくターゲット 13として質量分析等できる。本実施形態は、例えば、生 きた細胞内で影響を及ぼす物質の高時間分解検出が可能なため、細胞や生体器官 における分子の動的分布過程を検出するなど、生体機能解明のために有力なツー ルとも成り得る。また、本実施形態は、ポストゲノム薬剤の遺伝子発現誘導'抑制のプ ロセス解明のためにも有力なツールと成り得、更に、ゲノム創薬における画期的な制 御技術とも成り得る。
[0103] このように、微細化が進行してゆぐナノテクノロジー、情報技術、環境技術、バイオ テクノロジー、製造技術など広い分野にわたって、本発明は、極めて重要な分析技 術を提供することになる。
[0104] 尚、図 6に例示した如き三つのアブレーシヨン閾値フルーエンス F3,th、 F2,th及び F l,thは、ターゲット 13の表面の材質等に依存して予め数値化、或いはテーブル化可 能である。よって、一旦、これらの値を求めておけば、制御装置 10 (図 2参照)による 設定工程における照射フルーエンスの値を、実際にレーザ照射の対象となるターゲ ット 13の材質に応じて、一意的に決めることが可能となる。即ち、様々な種類の試料 に対して実際に分析を実施する際には、制御装置 10による照射フルーエンスの値の 設定を、迅速且つ容易に行える。
[0105] カロえて、上述の実施形態においては、制御装置 10による駆動制御下で、レーザ分 析装置 2は、フェムト秒レーザ LBとして、一つのレーザパルスを他のレーザパルスか ら時間的に独立した形で照射可能に構成されてもよい。これにより、一つのレーザパ ルスを他のレーザパルスから時間的に独立した形で照射することで、ターゲット 13の 表面から分子イオンを、一つのレーザパルスに対応する極めて微細な剥離量で脱離 イオン化させることが可能となる。或いは、制御装置 10による駆動制御下で、レーザ
分析装置 2は、複数のレーザパルスをまとめて或いは連続して照射するように構成し てもよレ、。これにより、ターゲット 13から大量の剥離量で分子イオンを放出させ、分析 装置 2における分析速度や分析精度を上げることが可能となる。
[0106] 本発明は、上述した実施形態に限られるものではなぐ請求の範囲及び明細書全 体から読み取れる発明の要旨、あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり 、そのような変更を伴うレーザ分析装置及び方法もまた、本発明の技術的範囲に含 まれるものである。
産業上の利用可能性
[0107] 本発明に係るレーザ分析装置及び方法は、例えば、レーザを利用した固体表面に おける非破壊的な超微量分析などの、非破壊的な分析に利用可能である。