明 細 書 ァルツハイマ一病の診断方法 技術分野
本発明はアルツハイマー病の検出方法及び診断方法に関する。 背景技術
アルツハイマー病 (AD)及びアルツハイマー型老年痴呆症 (SDAT)は 50歳台から 発症し、加齢に従ってその発症頻度が増加する疾患である。特に本邦においては、 2010年には全国民の 1/4が 70歳以上の高齢化社会を迎えるため、 AD/SDATの 増加が予測され、 病態の進行によって国民生産性の低下及び医療費負担の著しい 増加を招来する。 従って、 早期診断によって病態の進行を阻止することが急務で ある。そのためには、血中又は脳脊髄液中にその病態特異的なマーカ一を発見し、 正確にそれを測定することが重要である。
病態特異的なマーカ一の発見のために、 すでに多くの試みが為されている。 そ れらの物質としては、 ニューロフィラメント重鎖、 チューブリン、 グリアルフィ プリラリー酸性タンパク質、 S100 タンパク質、 夕ウタンパク質、 ベー夕一アミ ロイドブレカーサ一ペプチド、 ミエリン塩基性タンパク質、 へパラン硫酸プロテ ォグリカンなどが挙げられ、 さらにこれらの物質に対する自己抗体などの検索が なさ れてきた [Terryberry JW, Thor G, Peter JB. Autoantibodies in neurodegenerative diseases: antigen-specific frequencies and intrathecal analysis. Neurobiol Aging 1998; 19: 205-216·】。 これらの検索は無効ではない が、特異性に欠けるため、高感度に検出することが困難である。以上のことから、 AD及び SDATに対し、特異性に富んだ簡易診断法が切に望まれるところである。 発明の開示
本発明は、 アルツハイマー病、 アルツハイマー型老年痴呆症などの脳神経系疾 患を特異的に検出する方法、 及びこれらの疾患の診断法を提供することを目的と する。
本発明者は、 上記課題を解決するために鋭意研究を行った。 そして、 アルッハ イマ一病患者等の血中の抗ヒストン HI抗体及び抗ポリ ADP-リポース抗体を測 定することにより、 上記疾患を検出し得ることを見出し、 本発明を完成するに至 つた。
すなわち、 本発明は以下の通りである。
(1) ポリ ADP-リポース及び/又はヒストン HI と生体試料とを反応させて、 ポ リ ADP-リポースに対する抗体及び/又はヒストン HIに対する抗体を検出するこ とを特徴とする、 神経系疾患の検出方法。
本発明においては、 生体試料として血液、 唾液、 漿液、 リンパ液、 血清等の体 液を使用することができる。また、神経系疾患としては、 アルツハイマー病(AD) 又はアルツハイマー型老年痴呆症 (SDAT) が挙げられるが、 これらの疾患に限 定されるものではない。 AD又は SDAT患者の生体試料 (例えば体液) 中には、 抗ポリ ADP-リポース抗体 ( 「抗 pADPR抗体」 ともいう) 、 抗ヒストン HI抗 体 ( 「抗 HI抗体」 ともいう) 又はこれらの両者が含まれており、 その自己抗体 のサブクラスは IgGl及び IgG2のいずれも存在する。 これに対し、 代表的な自 己免疫疾患である全身性エリテマトーデス (SLE) 患者の自己抗体のサブクラス は、 IgG2が主である。 従って、 IgGlと IgG2との比 (G1/G2比) を測定するこ とにより、その値を指標として被験患者が AD又は SDATであるのかを判断する ことができる。 また、 それらの再分類 (亜型) をも可能にする。 また、 抗 pADPR IgG、 抗ヒストン HI IgGのほか、 抗 pADPR IgA、 抗 HI IgAを測定することに より、その値を指標として被験患者が AD又は SDATであるのかを判断すること ができる。
(2) ポリ ADP-リポース及び/又はヒストン HI と生体試料とを反応させて、 ポ リ ADP-リポースに対する抗体及び/又はヒストン HIに対する抗体を検出するこ
とを特徴とする、 神経系疾患の診断方法。
生体試料、 神経系疾患の具体的内容は上記 (1)記載の発明と同様である。 また、 本発明の診断方法においても、 IgGlと IgG2との比を指標として診断することが 可能である。 また、抗 pADPR IgG、抗ヒストン HI IgGのほか、抗 pADPR IgA、 抗 HI IgAを測定することにより、その値を指標として被験患者が AD又は SDAT であるのかを判断することもできる。
(3) ポリ ADP-リポース及び/又はヒストン HI を含む、 神経系疾患の診断又は 検出用キット。
(4) ポリ ADP-リポース及び/又はヒストン HIが固相に固定された、 神経系疾 患の診断又は検出用プレート。
上記キット及びプレートにおいて、 神経系疾患は例えばアルツハイマー病又は アルツハイマー型老年痴呆症である。
(5) ヒストン HIを、 0.25 M NaCl及び 25 mMトリス緩衝液 (pH7.4)からなる 溶液で希釈した後、 固相に固定することを特徴とする、 ヒストン HIの固相への 固相化方法。 図面の簡単な説明
図 1は、ポリ ADP-リボースの単位である ADP-リポースの構造を示す図である。 図 2は、 AD患者及び SDAT患者における抗 pADPR抗体及び抗 HI抗体の検 出結果を示す図である。
図 3は、 SLE患者における抗 pADPR抗体及び抗 HI抗体の検出結果を示す図 である。
図 4は、 AD患者及び SDAT患者における抗 HI抗体と抗 pADPR抗体との相 関関係を示す図である。
図 5は、 SLE患者における抗 HI抗体と抗 pADPR抗体との相関関係を示す図 である。
図 6は、 AD患者及び健常人における抗 pADPR IgG及び抗 pADPR IgAの検
出結果を示す図である。 発明を実施するための最良の形態
1 . 概要
最近 AD患者の脳神経細胞、 とりわけ星膠細胞 (ァス卜口サイト) の細胞核に おける ADP-リポシル化活性の上昇 [Increased poly (ADP-ribosyl) action of nuclear proteins in Alzheimer's disease. Brain 1999; 122: 247-253]、 及び星膠 細胞膜におけるヒストン HI の高発現 [Bolton SJ, Russelakis-Carneiro M, Betmouni S, Perry, VH. Non-nuclear histone rfl is upregulated in neurons and astrocytes in prion and Alzheimer's diseases but not in acute neurodegeneration. Neuropathol Applied Neurobiol 1999; 25: 425-432.]に関 して報告がされている。 この二つの現象には密接な関係のあることが知られてい る。 ADP-リポシル化反応は、 主にタンパク質に生じる現象であり [Hayaishi 0, Ueda K. Poly (ADP-rioose) and ADP-ribosylation of proteins. Ann Rev Biochem 1977; 46: 95-116]、 タンパク質の修飾反応として知られている。 修飾、 つまり ADPリポシル化される代表的なタンパク質がヒストン HIである。 HIは、 核クロマチン、 及びその構成単位であるヌクレオソーム (NS)の凝縮のために重要 な働きを演じている。 その HIが ADP-リポシル化されると、 その度合いによつ てクロマチンがタイトになったり、 ルーズになったりする [Kanai Y, Kawamitsu H, Tanaka M et al. A novel method ior purification of poly (,ΑΰΡ-ribose). J. Biochem 1980; 88: 917-920]。 このことは、 クロマチンの ADPリポシル化反応が 遺伝子発現の調節に深く関わり、 また発ガン物質などで DNAが切断された場合 にそれを修復する作用を有することを意味する [Virag L, Suzabo C. The tnerapeutic potential of poly(ADP-ribose) polymerase inhibitors. Pharmaceut Rev 2002; 54: 375-429]。 さらに、 近い将来において、 ADP-リポシ ル化反応は、 加齢と細胞核クロマチンの機能的、 形態的変化とも深く関わってく るものと考えられる。
本発明者は、 ADP-リポシル化の延長反応で合成されるポリ ADP-リポース ( 「pADPR」 という) が、 塩基性タンパク質と荷電結合すると、 マウスやゥサギ に抗 pADPR 抗体を産生させることを初めて報告した [Kanai Y, Miwa M, Matsushima T. Sugimura T. Studies on poly (adenosine diphosphate noose) antibody. Biochem Biophys Res Commun 1974; 59: 300.306]。 さらに、 ADP- リポシル化反応を受けたヒストンでゥサギを免疫すると、 抗ヒストン抗体と抗 pADPR 抗体が同時に産生され、 未修飾ヒストンで免疫した場合と比べてはるか に強力な抗体が産生されることを見出した [Kanai Y, Sugimura T. Comparative studies on antibodies to
in rabbits and patients with systemic lupus erythematosus. Immunology 1981; 43: 101- 110.、 Kanai , Sugimura T. Systemic lupus erythematosus. In: ADP-Rioosylation Reactions. Hayaishi O, Ueda K eds. Academic Press, New York 1982: pp.533-546]。
以上のような本発明者の研究実績から、 本発明者は AD患者ァストロサイト膜 表面に発現されているヒストン HI は ADP-リポシル化されている可能性が高い と想定し、 AD患者血中の抗ヒストン HI抗体と抗 pADPR抗体を測定するに至 つた。
一方、 免疫学的な見地とは別に、 脳の虚血などの血流障害後に生じる神経細胞 の修復には、 ポリ ADP-リポシル化が深く関与することが知られている [Szabo C, Dawson VD. Role of poly (ADP-ribose) synthetase in inflammation and ischemia-reperfusion. Trends Pharmacol Sci 1998; 19: 287-298]。 この場合は、 DNA障害の修復のために ADP-リポシル化反応が過度に促進する結果、 NADが 枯渴して細胞死を誘導し、脳の変性に加担することになる。このような脳の虚血- 血流障害時に PARP (pADPR合成酵素) の阻害剤を投与すると神経細胞死や変 性を抑制できることから、 PARPの阻害剤の開発が積極的に行われている [Virag L, Suzabo C. The therapeutic potential of poiy iDP.ribose) polymerase inhibitors. Pharmaceut Rev 2002; 54: 375-429]。これを裏付けるように、 PARP のノックァゥトマウスでは脳の血流障害に伴う神経細胞死が抑制されることが報
告されている [Ellasson MJL, Sampei K, Mandir AS et al. Poly (ADP-ribose) polymerase gene disruption renders mice resistant to cerebral ischemia. Nature Med 1997; 3: 1089-1095]。
以上を総括すると、 ADでは脳での ADP-リポシル化が促進し、 pADPRが脳に 沈着することが予測される。 なお、 最近では ADP-リポシル化のターゲット分子 は HIよりも PARPのほうが頻度が高いといわれている [Lindhal T, Satoh M, Poirier GG, Klungland A. Posttranlational modification oi poly(ADP-ribose) polymerase induced by DNA strand break. Trends Biochem Sci 1995; 20: 404-411]。 加齢にともなって予想される脳関門の緩和は、 pADPR の血中への漏 洩をもたらし、 ひいては免疫系に接触する機会を増加させることになり、 AD に おいて pADPRに対する免疫応答を調べる理論的根拠は極めて高い。
2 . 神経系疾患の検出方法
本発明は、 ポリ ADP-リポース及び Z又はヒストン HI と生体試料とを反応さ せて、 ポリ ADP-リポースに対する抗体及び Z又はヒストン HI に対する抗体を 検出することを特徴とする神経系疾患の検出方法を提供する。つまり、本方法は、 生体試料中の抗ポリ ADP-リポース抗体及び Z又は抗ヒストン HI抗体の量を、 ポリ ADP-リポース及び/又はヒストン HIを用いて検出することにより、 神経 系疾患を検出する方法である。
( 1 ) 神経系疾患
本発明において神経系疾患とは、 ADPリポシル化が関与する神経系の疾患を広 く含むものであり、 例えばアルツハイマー病(AD) 及びアルツハイマー型老年痴 呆症 (SDAT)が含まれる。 特に、 本方法は疾患時に抗ポリ ADP-リポース抗体及び /又は抗ヒストン HI抗体の発現が確認される疾患において有用である。
( 2 )ポリ ADP-リポース及び 又はヒストン HIと生体試料との反応と抗体の検 出
本発明の方法は、 ポリ ADP-リポース及び/又はヒス.トン HIが固相化された
プレートに、 生体試料を添加して反応させ、 試料中の抗ポリ ADP-リポース抗体 及び/又は抗ヒストン HI抗体を検出するものである。
( a ) ポリ ADP-リポース (pADPR)
本発明において用いるポリ ADP-リポースは、 ADP-リポース(図 1 )が複数(図 1 「n」 ) 結合したものである。 図 1中、 「R」 はリポース、 「P」 はリン酸基 及ひ I A d」 はァァニン す。 pADPRは、 nicotinamide adenine dinucleotide (NAD)や NAD+から合成することができる。 例えば、 NADを基質として、 仔牛胸 腺核を酵素源として合成し、精製して得ることができる [Kanai Y, Kawamitsu H, Tanaka M et al. A novel method for purification of poly(ADP-ribose). J. Biochem 1980; 88: 917-920]。 本発明で用いられるポリ ADP-リポースは抗ポリ ADP-リポース抗体に認識される限りその長さは限定されないが、 平均鎖長は 10 〜50、 好ましくは 20〜40、 より好ましくは 30 である。 なお、 本発明に用いる pADPRは高純度であることが好ましく、 pADPRに含まれる DNAやヒストンの 割合は 1 %以下であることが好ましい。
( b ) ヒス卜ン HI
本発明において用いるヒストン HIは、 ヒト由来の細胞などの試料から全ヒス トンを精製した後、 イオン濃度勾配により全ヒストンから分離精製することがで きる。例えば、ヒト前骨髄性白血病細胞株 HL60細胞核より全ヒストンを単離し、 0.25 M NaCl + 25 mMトリス緩衝液 (pH7.4) (溶液 A)に対して透析し、 可溶化す る。 さらに陽イオンカラム HiTrap SP (Amersham Biosciences)を用い、 酸性 (pH3.5)条件下で塩化ナトリゥム (NaCl)の濃度勾配によって全ヒストンから HI のみをガ離すること力 s、できる [Kanai Y, S gimura T. Comparative studies on antibodies to poly(ADP-ribose) in rabbits and patients with systemic lupus erythematosus. Immunology 1981; 43: 101-110.]。
全ヒストンは、 上記の溶液 Aに対して透析することで、 可溶化に成功した。 従 来、 ヒストンは通常希塩酸又は塩を含まない水溶液中でのみ溶解することが知ら れていたが、 この状態では以下に述べる ELISAの系でヒストンを固相化する場
合、 付着率の低下をきたしていた。 しかしながら、 本発明において上記の溶液 A を使用することにより、 ヒストン HIの固相への付着効率を高めることに成功し た。 なお、 本発明に用いるヒストン HIは高純度であることが好ましく、 ヒスト ン HIに含まれる DNAの含有量は 1%以下であることが好ましい。
( c ) プレー卜
上記 (a ) で得られた pADPR及び/又は上記 (b ) で得られたヒストン HI は、 例えば上記の溶液 A又は PBS等の適当なバッファーで希釈し、 マイクロタ イタ一プレート等に適量加えて 4でで一晩〜一昼夜静置して、 固相 (プレート) に固定して固相化する。 マイクロタイタープレートは、 市販のものを用いること ができ、当業者であれば適宜選択することができる。例えば 96 well型の Immulon 2Hbを用いる塲合、 50〜: L00 21の pADPR及びノ又はヒストン HI溶液を添加す ることができる。
また、上述のようにヒストン HIの希釈には、溶液 Aを用いることが好ましい。 本発明は、ヒストン HIを、溶液 A (0.25 M NaCl + 25 mMトリス緩衝液 (pH7.4)) で希釈した後、 固相に固定することを特徴とする、 ヒストン HIの固相化方法を 含む。 例えば、 上記 (b ) に記載するように、 全ヒストンを溶液 Aに対して透析 して可溶化したものから精製したヒストン HI 又は異なる方法で得たヒストン HIを、 溶液 Aで希釈して、 得られる希釈溶液をプレート等の固相に添加するこ とでヒストン HIを固相化する方法を含む。
次に、 pADPR及び/又はヒストン HIが固相化されたプレートを TBS (25 mM トリス, 140 mM NaCl, 0.04%窒化ソーダ (NaN3), pH7.4)、 PBS等のバッファー で洗浄する。 次に、 プレート上の抗原未吸着部位を 1〜5%スキムミルク又は 0.5 〜3%ゥシ血清アルブミン ^8 )含有 88などを96 611 プレートの場合 100〜 200 1添加して、室温で 1時間反応させることにより遮蔽(ブロッキング)する。 その後 TBS等で 1〜3回洗浄して、 ELISA用抗原プレートを作製する。
本発明は、 当該ポリ ADP-リポース及び 又はヒストン HIが固相に固定され た (固相化された) 神経系疾患の診断又は検出用のプレート (以下、 「本発明の
プレート」 とも言う) も含む。 また、 本発明のプレートの固相化、 洗浄、 ブロッ キングの条件は、 当業者であれば適宜変更することができ、 上記記載した条件に 限らない。 また、 本発明のプレートは、 pADPR及び/又はヒストン HIが固相 化されていれば良く、 上記の洗浄及びブロッキング処理の有無によって限定され るものではない。
( d ) 生体試料 (検体)
本発明で用いる生体試料は、 神経系疾患を検出する被験者から採取されるもの である。 生体試料としては、 体液を用いることができ、 具体的には血液、 唾液、 漿液、 リンパ液等を用いることができ、 血清であってもよい。
( e ) ELISA
本発明において、 抗体量の測定には例えば ELISA ( enzyme-linked immunosorbent assay) 法 用レ、ること力でさる。
本発明において、 ELISA法はまず、 上記 (c ) で得られた本発明のプレートに 上記 (d ) で得られた生体試料を添加する。 添加する生体試料は、 TBS や PBS や生理食塩水等で希釈して添加することもできる。 本発明のプレートに添加する 生体試料の量は、 96 wellプレートの場合、 50〜: IOO Iであることが好ましい。 添加後、 プレートを室温で 1時間静置する。 次にプレートを TBSや PBS等のバ ッファーで 1〜 5回洗浄する。
続いて二次抗体を加え、 室温で 1時間反応させた後、 前述のようにプレートを 洗浄する。 本発明において、 抗体希釈は 200倍で、 希釈反応液は 1% BSA、 0.4% スキムミルク及び 0.02 %NaN3を含有する TBSにて行うことができるが、これに 限定されない。 二次抗体としては、 抗 pADPR IgG又は抗ヒストン HI IgGを検 出するためには抗ヒト IgG抗体を、 抗 pADPR IgA又は抗ヒストン HI IgAを検 出するためには抗ヒト IgA抗体を用いることができる。特に、 抗ヒト IgG抗体と しては、 ヒト IgGサブクラス Gl、 G2、 G3、 G4に特異的な抗体を用いることも できる。二次抗体はピオチン、 アビジン又は HRP (horse radish peroxidase)など で標識化されたものであってもよい。
次に、 二次抗体を三次抗体又は三次試薬を用いて発色等により検出する。 二次 抗体に、 前記のピオチン又はアビジン標識抗ヒト抗体を用いる場合、 三次試薬と してアルカリフォスファターゼ標識アビジン又はピオチンを用い、 発色基質には パラ二卜口フエニールホスフェイトを用いて発色させることができる。 前記の HRP標識二次抗体を用いる場合、 三次試薬として TMB (tetramethyl benzidine) を用いて発光させることができる。 あるいは三次抗体として HRPなどで標識し た抗体、 例えば二次抗体がマウス由来 IgGのときは HRP標識抗マウス IgG抗体 を、 二次抗体がラット由来 IgGのときは HRP抗ラット IgG抗体を用いて発光さ せることができる。 検出は当業者であれば適宜方法を選択して実行することがで きる。
シグナルの検出は、 プレートリーダ一を用いて、 発色、 発光系に即した波長で 吸光度を測定することで行うことができる。 例えば、 アルカリフォスファタ一ゼ 標識系の場合は 405 nmにおける吸光度を、 又は HHP標識系であって停止液に 硫酸を用いる場合は 450 nmにおける吸光度を測定して、 抗体価とすることがで きる。
( 6 ) 神経系疾患の検出
神経系疾患の検出には、二次抗体に抗ヒト IgG抗体又は抗ヒト IgA抗体を用い たときには、 抗 pADPR抗体 (抗 pADPR IgG、 抗 pADPR IgAを含む) 及び/又 は抗ヒストン HI抗体 (抗ヒストン Hl IgG、 抗ヒストン HI IgAを含む) の抗体 価を指標とすることができる。 この場合、 抗 pADPR抗体及び/又は抗ヒストン HI抗体の抗体価が平均値よりも高いときには、神経系疾患である可能性が高い。 神経系疾患、例えば AD及び SDATの患者では、 自己抗体(ここでは抗 pADPR 抗体及び/又は抗ヒストン HI抗体)のサブクラスが主に IgGl及び IgG2である。 これに対し、 代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス患者の自己抗 体のサブクラスは IgG2が主である。 したがって、 IgGlと IgG2との比 (G1/G2) を測定することにより、 その値を指標として自己免疫疾患と区別して神経系疾患 の検出を行うことができる。 例えば、 G1/G2値が高いときは、 神経系疾患である
可能性が高いと判断でき、 G1/G2値が小さいときは、 神経系疾患である可能性が 小さいと判断することができる。
( 7 ) キット
本発明のキットは、 神経系疾患の検出方法の実施に用いる本発明のプレートを 含むものである。 本発明のキットは、 本発明の方法の実施に必要な要素をさらに 含んでいても良い。 そのような要素としては、 例えば、 生体試料を遠心処理する ためのチューブ、 プレート洗浄用のバッファ一 (例えば TBS、 PBS、 溶液 A) 、 ブロッキング用の溶液、 二次抗体、 二次抗体希釈用溶液、 標準用抗 pADPR抗体 及び/又は抗ヒストン HI抗体、 発色又は発光反応液、 発色停止液、 チップ、 チ ユーブなどが挙げられる。
3 . 神経系疾患の診断方法
本発明は、 ポリ ADP-リポース及び Z又はヒストン HI と生体試料とを反応さ せて、 ポリ ADP-リポースに対する抗体及び 又はヒストン HI に対する抗体を 検出することを特徴とする神経系疾患の診断方法を提供する。 本発明の診断方法 は、 上記 2 . の神経系疾患の検出結果を利用して診断することができる。
神経系疾患の診断は、二次抗体に抗ヒト IgG抗体又は抗ヒト IgA抗体を用いた ときには、 抗 pADPR抗体 (抗 pADPR IgG、 抗 pADPR IgAを含む) 及び/又は 抗ヒストン HI抗体 (抗ヒストン Hl IgG、 抗ヒストン HI IgAを含む) の抗体価 を指標とすることができる。 この場合、抗 pADPR抗体及び Z又は抗ヒストン HI 抗体の抗体価が健常人の値よりも高いときには、 生体試料を提供した患者は神経 系疾患を罹患している可能性が高いと判断することができる。
あるいは、 神経系疾患の診断は、 二次抗体に抗ヒト IgGサブクラス特異的な抗 体を用いて G1/G2を測定したときに、その値を指標とすることができる。例えば G1/G2値が SLE患者よりも大きいときには、 当該試料の由来の患者は、 SLEで はなく神経系疾患を罹患している可能性が高いと判断することができる。
また、 神経系疾患の患者では、 抗 HI抗体の産生量と抗 pADPR抗体の産生量
とが相関関係を示す。 この関係は、 抗 HI抗体陽性の患者では、 抗 pADPR抗体 産生が認められ、 逆もまた成り立つことを意味する。 このことを利用して、 抗 pADPR抗体価が高いことで知られる SLE患者との差別化を図ることができる。 例えば、 抗 pADPR抗体が陽性であって、 抗 HI抗体も陽性の場合は、 神経系疾 患を SLEから区別することができる。 したがって、抗 pADPR抗体だけでなく抗 HI抗体を検出することで、 あるいは抗 HI抗体のみを検出す.ることで、 SLEと 区別して神経系疾患を検出し診断することができる。 実施例
以下、 実施例により本発明を具体的に説明する。 但し、 本発明はこれら実施例 に限定されるものではない。
実施例 1
抗 pADPR抗体及び抗 HI抗体を用いた AD又は SDATの診断方法
1 - 1 . 方法
( 1 ) pADPRの合成と精製
本発明者が開発した方法 [Kanai Y, Kawamitsu H, Tanaka M et al. A novel method for purification of poly(ADP-ribose). J. Biochem 1980; 88: 917-920] により、 仔牛胸腺核を酵素源とし、 nicotinamide adenine dinucleotide (NAD)を 基質として pADPRを合成、 精製した。 pADPRの平均鎖長は 30とした。 この手 法で精製されたポリマ一に含まれる DNAやヒストンの割合は 1 %以下である。
( 2 ) ヒストン HIの精製
全ヒス トンの精製は本発明者が開発した方法 [Kanai Y, Sugimura T. Comparauve studies on antibodies to poly(ADP-ribose) m rabbits and patients with systemic lupus erythematosus. Immunology 1981; 43: 101-llO.j 用レ た。
すなわち、 ヒト前骨髄性白血病細胞株 HL60細胞核より全ヒストンを単離し、
条件下で NaClの濃度勾配によって全ヒストンから HIのみを分離した。
全ヒストンは、 0.25M NaCl+ 25mMトリス緩衝液 (pH7.4) (溶液 A)に対して 透析し、 可溶化に成功した。 なお、 得られた HI標品に含まれる DNAの含有量 は 1%以下であった。
( 3 ) 抗 pADPR抗体測定法
in pADPR 体は、 固相酵 抗体法 (enzyme -linked immunosorbent assay, ELISA)にて測定した。
Immulon 2HBマイクロタイ夕一プレートを固相とし、 pADPRは溶液 Aで 1 g/ml に希釈し、 各ゥエルに 50 /i l 加え 4°Cで一昼夜静置した。 その後、 TBS (25mM トリス, 140mM NaCl, 0.04%窒化ソ一ダ (NaN3), pH7.4)で洗浄し、次い で 2%スキムミルク含有 TBSにて室温で 1時間反応させ、 抗原未吸着部位を遮蔽 した。 最後に TBSで 3回洗浄し、 ELISA用抗原プレートを作製した。
血清希釈は 200倍とし、 希釈反応液は、 1%牛血清アルブミン (BSA)、 0.4%ス キムミルク、 及び 0.02% NaN3を含有する TBSにて行った。
二次抗体には、 ピオチン標識抗ヒトサブクラス (G1,G2,G3,G4) 特異的抗体 (Zymed社) を使用した。 また、 第三次試薬としてアルカリフォスファタ一ゼ標 識ァビジン (Zymed社) を用い、 発色用基質にはパラニトロフエニールホスフエ イトを用いた。 抗体価は A405で表した。
( 4 ) 抗 HI抗体測定法
抗 HI抗体の測定は、 使用する抗原を HIとしたこと以外は、 抗 pADPR抗体 測定法に準じて行った。
( 5 ) 検体
6例の AD及び 20例の SDATを試験群とした。対照群として、 AD及び SDAT のいずれでもない高齢者 59例 (平均年齢 77±7歳) 、 40例の全身性エリテマト —デス (SLE)患者、 及び 60歳以下の健常人 27例を使用した。 試験群及び対照群 の血清を検体として ELISA に使用した。 AD 及び SDAT の診断は、 DMS-IV (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th ed., American
Psychiatric Association, Washington, D.C., 1994)に従い、 また SLEの診断はァ メリカリゥマチ学会診断基準 (Updating the American College of Rheumatology Revised Criteria for the Classification of SLE (1997))に従って行った。
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ADと抗 pADPR抗体及び抗 HI抗体との関係:
AD患者及び SDAT患者をあわせた 26例の結果を図 2に示す。 SLE患者 40 例の結果を図 3に示す。
抗 pADPR抗体については、 6例の AD中 6例 (100%)が陽性を示し、また SDAT では 20例中 15例 (75%)が陽性を示した (図 2 「Anti-pADPR」 ) 。 また抗 Hi 抗体については、 ADで 50%(3/6)、 SDATで 65%(13/20)が陽性であった (図 2 「Anti-Hl」 ) 。 図 2及び図 3中のカラムは健常人の平均値 (縦軸) 及び 2 S D (横軸) を示す。
なお、 AD患者及び SDAT患者において抗 HI陽性者は抗 pADPR抗体も全て 陽性であり、 相関係数 (r)は 0.768となった (図 4 ) 。 一方、 抗 pADPR抗体価が 髙いことで知られる SLE患者 [Kanai Y, Kawamitsu Y, Miwa Μ, Matsushima Τ, Sugimura Τ. Naturally-occurring antibodies to poly(ADP-ribose) in patients with systemic lupus erythematosus. Nature 1977; 265: 175- 177] 40症例で同 様の検査を行ったところ、 その相関係数は 0.184となり、 有意の差 (p<0.01)をも つて低値を示した (図 3及び図 5 ) 。
以上の結果は、 AD あるいは SDAT患者の生体内、 特に脳でヒストン HI が pADPRで修飾されていることを示唆するとともに、抗 HI及び抗 pADPR抗体の 産生機構が膠原病 SLE患者と異なることを示している。さらに特記すべきことは、 2〜3 の症例で調べた結果、 自己抗体のサブクラスが SLE では IgG2、 一方 AD/SDATでは IgGlと IgG2の両者であつた。このことは、 AD/SDAT患者と SLE 患者との間で自己抗体産生機構に差があることをさらに支持するものである。 従 つて、 G1/G2比は ADや SDATといった神経系疾患の診断上、有力な指標になる と言える。
実施例 2
抗 pADPR IgAの測定による AD診断方法
2- 1. 方法
(1) 抗 pADPR抗体測定法
fi pADPR ¾i体は、 固相酵素执体法 (enzyme-linked immunosorbent assay, ELISA)にて測定した。
ELISA用抗原プレートは実施例 1 (3) で作製したものを使用した。
ELISA用抗原プレートを洗浄液(0.025M Tris、 0.25M NaCL 0.1%Tween-20; pH7.4) で 3回洗浄した。 プレートに反応用溶液 (0.025MTris、 0.14M NaCL 10% NCS; pH7.4) を 50 l/well、 検体を 5 / well分注した。 検体は、 検体 10 \を反応用溶液 200 1で 21倍に希釈したものを使用した。 プレートを振とう 後、 プレート表面をシールし、 4°Cで一晩湿潤環境下にて反応させた。 反応後プ レートを洗浄液で 3回洗浄し、 二次抗体を 50 Ml/well分注し、 プレート表面をシ ールして室温で、 60 分湿潤環境で反応させた。 反応後、 プレートを洗浄液で 3 回洗浄した後、 基質の TMB ( 3 , 3 5 , 5 ' - Tetr amethylbenzidine ) (Sigma T0440) を 50 l/well分注し、 プレート表面をシールし、 室温で 10〜15分暗所にて反応 させた。 続いて、 反応停止液 [1NH2S04 (Abbott 7212) ] を 50 xl/well分注 し、 反応を停め、 450nmの吸光度を測定した。
(2) 二次抗体
二次抗体には、 HRP標識した抗ヒト IgG抗体 (Monosan #PS104P) 、 HRP 標識した抗ヒト IgA抗体 (Monosan #PS106P) を反応用溶液で各々 1000倍希釈 したものを使用した。
(3) 検体
健常人 (Healthy individuals) 血清 (10検体) として、 市販血清から 50歳以 上を選択して使用した。 AD患者血清 (47検体) として、 市販血清を使用した。 2-2. 結果
結果を表 1及び図 6に示す c
表 1
AD患者における抗 pADPR IgG、 抗 pADPR IgAを用いた診断における正診率
( 1 ) IgG測定系
ROC曲線 (receive operating characteristic curve;受診者動作特性曲線) か ら cut-off値を 0.7に設定すると、 AD患者血清で 34/46 (74%) の検出率となつ たが、 12/46 (26%)が偽陰性(false negative) (表 1及び図 6「AD patients (IgG)j ) また、 健常人血清の内、 4/10 (40%) が偽陽性 (false positive) となった (表 1及 び図 6 Γ Healthy individuals (IgG) J )。正診率 (accuracy) は、 71%であった (表 1、 図 6 )
( 2 ) IgA測定系
IgA測定系は、 ROC曲線から cut-off値を 0.1に設定すると、 AD患者血清の内、 22/47 (46.8%) が偽陰性となり (表 1及び図 6 「AD patients (IgA)」 ) 、 健常人 血清の内、 4/10 (40%) が偽陽性となった (表 1及び図 6 「Healthy individuals (IgA)」 ;)。 正診率は、 54.5%となる (表 1、 図 6 )
一般的に、 IgAは血清中で IgGに次いで多量に存在し、 血中以外に唾液、 漿液 中に存在することが知られている。 血清中の抗 pADPR IgA抗体が測定できたこ とで、この測定系が唾液にも応用できる可能性が示唆された。また、抗 pADPR IgA 抗 HI IgAを測定することにより、その値を指標として被験患者が AD又は SDAT であるのかを判断することができる。 産業上の利用の可能性
本発明の方法は、 抗ポリ ADP-リポース抗体及び Z又は抗ヒストン HI抗体の 産生を指標に用いており、 ポリ ADP-リボース及び/又はヒストン HI を固相化 した ELISA系によって、 簡便に当該抗体の産生を検出できる。 このため、 神経 系疾患を検出し、 診断することが容易になった。
また、 IgGサブクラスである G1/G2比を算出することで、 又は抗ポリ ADP-リ ポース抗体及び抗ヒストン HI抗体若しくは抗ヒストン HI抗体を検出すること で、自己免疫疾患である SLEと区別して神経系疾患を検出し診断することが可能 となった。
また、抗 pADPR IgA、 抗 HI IgAを用いて神経系疾患を検出し診断することが 可能となった。 明細書中の参考文献は、 全体を通して本明細書に組み込まれるものとする。