明 細 書 発芽バキュロウィルスを用いた活性型膜型プロテアーゼ蛋白質複合体の発現方法 技術分野
本発明は、 発芽パキュロウィルスを用いた膜型プロテアーゼ蛋白質複合体の 発現方法に関する。 より詳細には、 本発明は、 宿主から放出される発芽バキュ口 ウィルス中に膜型蛋白質複合体を発現させることを特徴とする、 プロテアーゼ活 性を有する膜型プロテアーゼ蛋白質複合体の発現方法に関する。 : 背景技術
バキュロウィルス発現系は、 バキュロウィルスの高発現蛋白質、 特に多角体蛋 白質 (polyhedrin) 遺伝子のプロモーターなどを利用して、 目的遺伝子を昆虫細 胞 (Sf9 細胞など) で組換えを起こさせて大量に発現させる系である。 多角体遺 伝子に組換えタンパク質をコードする遺伝子を導入し、 発現したタンパク質を精 製するバキュロウィルス発現系は、 大腸菌やィースト菌を用いる発現系に比べ、 膜蛋白質などの疎水性領域を多く持つ蛋白質でも発現タンパク質が凝集を作りに くく、 また糖鎖の付加や金属イオンの配位等のタンパク質の機能に必要な翻訳後 修飾が生じるなど利点が多いため、 膜受容体蛋白質の発現系として多用されてい る (Tate CG, Griss ammer R., Trends in Biotechnology 1996, 14, pp426-430, Heterologous expression of G-protein-coupled receptors ;及び、 Grisshammer R, Tate CG, Quarterly Reviews of Biophysics 1995, 28, pp315'422, Overexpression oi integral membrane proteins for structural studies)。
バキュロウィルスには、 多角体蛋白質を被った多角体ウィルスとなって核内に 存在する他に、 もう一つの生活環がある。 すなわち、 ウィルスが増殖して他の細 胞ゃ個体に感染するために発芽型のウィルス (Budded virus) となり、 この発芽 型ウィルスが Sf9細胞の細胞膜を被って細胞外に出るというものである。 この際 に、 上記の多角体蛋白質に組換えた 7回膜貫通型受容体が Sf9の細胞膜に発現さ
れ、発芽したバキュロウィルスのエンベロープ上に回収されることが Loiselらに よって報告された (Loisel TP! Ansanay H, St-Onge S, Gay B, Boulanger P, Strosberg AD, Marullo S, Bouvier Μ·, Nat Biotechnol. 1997, Nov. 15(12), ppl300-1304, Recovery of homogeneous and functional beta 2-adrenergic receptors from extracellular baculo virus particles)。宿主糸 E に発現された 7 IHj 膜貫通型受容体は、 糖鎖構造など機能的でないものが多いのに対し、 ウィルスェ ンべロープ上に回収される受容体は機能的な蛋白質のみであることが報告されて いる。
また、 SREBP(sterol regulatory element binding protein) 2、 HMG'CoA (ヒ ドロキシメチルクル夕リルコェンザィム A) 還元酵素、 SCAP (SREBP cleavage activating protein)、 SIP ( site 1 protease) などの小胞体 (ER) 膜又はゴルジ体 膜に分布する膜蛋白質群 (例えば細胞内コレステロールフィードパック調節に関 与するもの) も、 機能を保ったままウィルスエンベロープ上に発現されることが 報告された (Ishihara, G„ Shirai, H" Yamaguchi, Μ·, Fukuda, ., Hamakubo, T., and Kodama, T., Atherosclerosis, 151, p290, 2000, Expression of cholesterol regulatory proteins on extracellular baculoviruses)。 さらに、 G蛋白質共役型 受容体 (GPCR; G-protein coupled receptor) は、 膜貫通ドメインを 7つ持ち、 3量体 G蛋白質と共役 (カップリング) しているが、 受容体蛋白質と G蛋白質の サブュニッ卜とを発現するウィルスを作成し、 発芽ウィルス上で再構成すること により、 親和性の高い受容体を得る事が可能であることが報告されている (Masuda K, Itoh H, Sakihama T, Akiyama C, Takahas i K, Fukuda R, Yokomizo T, Shimiz T, Kodama T, Hamakubo T" J Biol Chem. 2003 278(27)^24552-24562, A combinatorial G protein-coupled receptor reconstitution system on budded baculovirus. Evidence for Galpha and Galp ao coupling to a human leukotriene B4 receptor.)。
ところで、 アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD)は、 大脳皮質の神経細 胞の変性 ·脱落により、 記憶を中心に広汎な知的機能の障害を呈する神経変性疾 患であり、 老年者に生じる痴呆の原因としては最も頻度が高い。 AD 脳において
は、 神経細胞脱落と表裏一体の関係をもって /3アミロイドと呼ばれる異常タンパ ク質が蓄積する.ことが特徵 _で¾る (Selkoe DJ, Physiol Rev 2001, 81(2):741-766. Alzheimer's disease: genes, proteins, and therapy.)。 )3 ^■ロイドは、 AD ¾に 老人斑、 血管アミロイドの病理学的形態をとつて蓄積し、 生化学的には 40〜42 アミノ酸からなる Α )3ペプチドから構成される。 Α βは前駆体 ΑΡΡから 2段階の 切断を受けて生成され、 細胞外に分泌される。 この第 2段階目において、 ァ -セク レターゼと呼ばれる酵素の蛋白質分解活性により ΑΡΡの C末端断片は膜内部分 で切断を受け、 Α /3が形成されて細胞外に放出される。 その切断部位には多様性 があり、 Α /3の C末端の 90%は 40位、 10%は 42位で生じるが (Suzuki N et alScience 264:1336, 1994)、 j8アミロイドとしての凝集性は A /3 42がより高く、 AD脳においても初期から優先的に蓄積する (Iwatsubo T, Odaka A, Suzuki N, Mizusawa H, Nukina N, Ihara Y. Neuron. 1994, 13(l):45-53, Visualization of A beta 42(43) and. A beta 40 in senile plaques with end-specific A beta monoclonals: evidence that an initially deposited species is A beta 42(43).)。 家族性 AD の主要な病因遺伝子の産物であるプレセ二リン蛋白質 (presenilin; PS)は、 膜結合型ァスパラギン酸性プロテアーゼであるァ -セクレターゼの触媒サ プュニットに一致することが示されている(Wolfe MS, Xia W, Ostaszewski BL, Diehl TS, Kimberly WT, Selkoe DJ (1999) Two transmembrane aspartates in presenilin-1 required for presenilin endoproteolysis and garnma'secretase activity. Nature 398(6727):513-517 Li YM, Xu M, Lai MT, Huang Q, Castro JL, DiMuzio Mower J, Harrison T, Lellis C, Nadin A, Neduvelil JG, Register KB, Sardana MK, Shearman MS, Smith AL, Shi XP, Yin C, Shafer JA, Gardell SJ (2000) Photoactivated gamma- secretase inhibitors directed to the active site covalently label presenilin 1. Nature 2000 Jun 8,405(6787):689'94.)。
また、 ァ -セクレターゼは、 フラグメント型プレセ二リンを含む、 分子量 250〜 500キロダルトン以上の巨大膜内複合体を形成し、 膜蛋白質である複合体構成因 子 (cofactor)と結合してプロテァ一ゼ活性を発揮することが明らかとなっている。 そして、 本発明者らは、 プレセ二リンに加えて、 二カストリン (NCT)、 APH-1及
び PEN-2と呼ばれる 3種類の膜蛋白質が共同して T -セクレターゼ複合体の基本 骨格を形成す _¾ことを明ら にした (Takasugi Ν,. Tomita T, Hayashi I, Tsuruoka M, Niimura M, Takahashi Y, Thinakaran G, Iwatsubo T Nature 2003, 422:438-441 The role of presenilin cofactors in the r -secretase complex.) さらに最近、 プレセ二リン様の膜蛋白質ファミリー分子が多数報告 され、 それらのうちひとつが新規プロテアーゼ SPPであることが明らかにされ、 γ -セクレターゼ同様の膜結合型プロテアーゼが多数存在することが示唆されて レ る (Weihofen A, Martoglio B. Intramembrane-cleaving proteases: controlled liberation of proteins and bioactive peptides. (2003) Trends Cell Biol. 13(2):71-78)。
このような状況のもと、 ァ -セクレターゼは ADの治療標的として重視され、 そ の阻害剤開発及び活性測定法の確立が重要と考えられてきた。 しかし、 膜内で蛋 白質分解酵素活性を示し、 複数の膜蛋白質からなるプロテア一ゼ複合体として形 成されるァ-セクレ夕一ゼを、活性を保った状態で再構成することは従来困難とさ れてきた。 発明の開示
本発明は、 バキュロウィルスと昆虫細胞発現システムを用いて、 活性型の膜型 プロテア一ゼ蛋白質複合体を発現させるための方法を提供することを目的とする。 本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、 ァ -セクレターゼ複 合体の構成分子であるプレセ二リン、 二カストリン、 APH-1及び PEN-2を発現 するウィルスを作成し、 発芽ウィルス (Budded vi s) 上で再構成することによ り、活性型ァ-セクレ夕一ゼ複合体を得ることに成功した。 このとき共 染により ァ -セクレターゼ複合体構成因子を発現させた Sf9 細胞の膜画分では不活性型の 蛋白質が大量に発現されているため、 再構成された活性を測定しにくいという可 能性があった。 ところが、 発芽型ウィルスには、 活性型ァ -セクレターゼ複合体が 選択的に集積していた。 本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。 すなわち、 本発明は以下の通りである。
( 1 ) 膜型プロテアーゼ蛋白質をコ一ドする遺伝子及び複合体構成因子をコード する遺伝子を食.むバキュ口.ウイ.ルス ¾感染させた宿主を培養又は飼育し、 該宿主 から放出される発芽バキュロウィルス中に膜型プロテアーゼ蛋白質と複合体構成 因子との複合体を発現させることを特徴とする、 膜型プロテア一ゼ蛋白質複合体 の発現方法。
( 2 ) 膜型プロテアーゼ蛋白質をコードする遺伝子及び複合体構成因子をコード する遺伝子を含むバキュロウィルスを感染させた宿主を培養又は飼育し、 培養物 又は宿主個体から発芽バキュロウィルスを回収し、 得られる回収物から活性型の 膜型プロテアーゼ蛋白質複合体を採取することを特徴とする、 活性型の膜型プロ テア一ゼ蛋白質複合体の製造方法。
( 3 )上記 (1)又は (2)記載の発明において、膜型プロテアーゼ蛋白質としてはプレ セニリンが拳げられ、複合体構成因子としては二カストリン、 APH-1及び PEN-2 が挙げられる。 これらのプロテア一ゼ及び複合体構成因子により形成される膜型 プロテア一ゼ蛋白質複合体は、 ァ -セクレターゼである。
また、上記 (1)又は (2)記載の方法において、宿主として昆虫細胞又は昆虫幼虫が 使用される。
( 4 ) 膜型プロテアーゼ蛋白質をコードする遺伝子及び複合体構成因子をコード する遺伝子を含むバキュロウィルスを感染させた宿主が放出する、 発芽バキュ口 ウィルス。
. ここで、 膜型プロテアーゼ蛋白質としては、 プレセ二リンが挙げられ、 複合体 構成因子としては二カストリン、 APH-1及び PEN-2が挙げられる。
上記発芽バキュロウィルスは、 膜型プロテアーゼ蛋白質及び複合体構^ g因子に より形成される膜型プロテア一ゼ蛋白質複合体(例えば T -セクレ夕一ゼ) を含有 する。
また、 宿主として昆虫細胞又は昆虫幼虫が使用される。
( 5 ) 上記発芽バキュロウィルスから採取される、 活性型の膜型プロテアーゼ蛋 白質複合体。膜型プロテア一ゼ蛋白質複合体としては、 例えばァ -セクレターゼが 挙げられる。
( 6 ) 活性型の膜型プロテア一ゼ蛋白質複合体 (例えばァ -セクレターゼ) と相互 作用する物質を.分析する方去 あつて、 標識された被験物笋と上記複合体とを接 触させた後、 当該被験物質のシグナルを検出することを含む前記方法。
さらに、 本発明は、 活性型の膜型プロテアーゼ蛋白質複合体 (例えばァ-セクレ 夕ーゼ)の酵素活性を促進又は阻害する物質をスクリーニングする方法であって、 被験物質と上記複合体とを接触させた後、 当該複合体のプロテアーゼ活性を測定 することを含む方法を提供する。
( 7 ) 上記活性型の膜型プロテアーゼ蛋白質複合体 (例えば T -セクレ夕一ゼ) が 配列されたプロテインチップ。 図面の簡単な説明
図 1は、 発芽型バキュロウィルスを用いて活性型膜型プロテアーゼ蛋白質を回 収する概要を示す。
図 2は、 ヒトプレセニリン 1発現のタイムコース (抗ヒトプレセニリン 1抗血 清ウェスタンプロット) を示す。
図 3は、 BV画分における各抗体によるウエスタンブロッ卜の結果を示す。 図 4は、 BV画分に再構成されたァ-セクレ夕一ゼ複合体の免疫共沈法による解 祈の結果を示す。
図 5は、 Sf9膜画分及び BV画分におけるフラグメント型プレセ二リン発現量 の比較 (各抗体によるウエスタンプロット) を示す。 .
図 6は、可溶化された BV画分におけるインビトロア-セクレ夕ーゼ活性の比較 を示す。
図 7は、 BV画分に再構成された r -セクレ夕一ゼ活性の酵素学的解析結果を示 す。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明を詳細に説明する。
本発明は、 膜型プロテアーゼ蛋白質をコ一ドする遺伝子及び複合体構成因子を コードする遺伝子を含むノ 5キ ロウィルスを感染させた宿主を培養又は飼育し、 該宿主から放出される発芽バキュロウィルス中に膜型プロテアーゼ蛋白質複合体 を発現させることを特徴とするものである。
図 1に示すように、 膜型プロテアーゼをコードする遺伝子 (cDNA) をバキュ ロウィルスに卜ランスフエクトし、 これを昆虫細胞 (例えば Sf9)又は昆虫に感染 させると、 感染細胞内又は感染昆虫の体内にプロテアーゼが蓄積される。 感染細 胞等に蓄積されるプロテア一ゼには活性型と不活性型が含まれているのに対し、 感染細胞等から発芽するウィルス中に含まれるプロテアーゼを採取すると、 採取 されたプロテア一ゼは活性型のもののみとなる (不活性型のプロテアーゼが含ま れていたとしてもごくわずかである)。本発明は、発芽型のバキュロウィルス中に 活性型となるプ口テア一ゼが含まれている点に着目して完成されたものであり、 発芽型バキュロウィルスにプロテアーゼ蛋白質複合体を発現させることを特徴と し、 また、 発芽型バキュロウィルスから活性型プロテアーゼ蛋白質複合体を採取 することを特徴とする。
膜型プロテア一ゼ蛋白質の中には、 特定の蛋白質と複合体を形成して活性化す るものが存在する。 このように、 プロテアーゼ蛋白質と複合体を形成する蛋白質 を、 本発明において 「複合体構成因子」 という。 複合体構成因子及び膜型プロテ ァーゼ蛋白質は、 複合体構成因子同士で、 あるいは複合体構成因子と膜型プロテ ァーゼ蛋白質との間で、 それぞれ相互作用して膜型プロテアーゼ蛋白質の機能を 発揮 (つまり活性化) させる。
本発明では、 複合体構成因子等の複数種類の蛋白質を共発現させて得られる蛋 白質複合体 (例えばァ -セクレターゼ) を含む。 複数種類の蛋白質を共発現させる 場合は、 これらの蛋白質をコードする遺伝子を同一のパキュロウィルス中に含め てもよいし、 異なるバキュロウィルス中に含めてもよい。
本発明においては、 上記膜型プロテアーゼ蛋白質をコードする遺伝子、 及び複 合体構成因子をコードする遺伝子 (1種又は複数種) をバキュロウィルスに導入 して組換えバキュロウィルスを作製し、 これを昆虫細胞又は昆虫に感染させて培
養又は飼育する。 これらの宿主から放出される発芽バキュロウィルス中に膜型プ 口テア—ゼ蛋 g質複合体を発舆させる。 そして、 培養物又は宿主個体から発芽バ キュロウィルスを回収する。 さらに、 バキュロウィルスから当該複合体を採取す ることで、 活性化された膜型プロテアーゼ蛋白質複合体を得ることができる。 ここで、 本発明において 「膜型」 とは、 対象の蛋白質が膜、 例えば細胞膜、 ゥ ィルス膜及び細胞内小器官 (例えば、 小胞体やゴルジ体等) の形質膜に存在する ことを広く意味する。 また、 「プロテアーゼ」 とは蛋白質を加水分解する能力を有 する酵素を広く意味する。 そして、 「活性型」 とは、 プロテアーゼとしての機能を 有することを意味する。 「発芽バキュロウィルス中」 とは、 発芽バキュロウィルス の内部だけでなく、 ウィルス膜上も意味する。
2 . 膜型プロテアーゼ蛋白質複合体
膜型プロテアーゼ蛋白質と複合体構成因子との組み合わせは特に限定されず、 例えば、 膜型プロテアーゼ蛋白質であるプレセ二リンと、 複合体構成因子である 二カストリン、 APH-1及び PEN-2と呼ばれる 3種の蛋白質とにより構成される 複合体が挙げられる。 この複合体はァ-セクレタ一ゼと呼ばれている。 すなわち、 二カストリン、 APH-1及び PEN-2がプレセ二リンと複合体を形成することによ つて r -セクレターゼとなり、プレセニリンのプロテアーゼとしての機能が発揮さ れる。
プレセ二リンは、 家族性アルツハイマー病の原因遺伝子として同定された膜蛋 白質であり、 T -セクレターゼの活性中心サブュニッ卜であると考えられている。 (Sherrington R, Rogaev EI, Liang Ύ, Rogaeva EA, Levesque G, Ikeda M, Chi H, Lin C, Li vi, Holm an K, et al. Cloning of a gene bearing missense mutations in early-onset familial Alzheimer's disease. Nature. 1995, 375(6534):754-760)。 ヒトプレセニリン 1をコードする遺伝子の塩基配列を配列 番号 1に、 ヒトプレセニリン 1のアミノ酸配列を配列番号 2に示す。 ヒトプレセ 二リン 2をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号 3に、 ヒトプレセ二リン 2の ァミノ酸配列を配列番号 4に示す。
プレセニリンは、 細胞内で二カストリン、 APH-1、 PEN-2と共役して活性化さ れ、プロセシングを受けて 7ラグメントとなる。(Takasugi N, Tomita T, Hayashi I, Tsuruoka M, Niimura M, Takahashi Y, Thinakaran G, Iwatsubo T Nature 2003, 422:438-441 The role of presenilin cofactors in the r -secretase complex.) このフラグメント型プレセ二リンが活性型ァ -セクレターゼの活性中 心サブュニットを構成しているものと考えられている (Li YM, Xu M, Lai MT, Huang Q, Castro JL, DiMuzio Mower J, Harrison T, Lellis C, Nadin A, Neduvelil JG, Register RB, Sardana MK, Shearman MS, Smith AL, Shi XP, Yin KC, Shafer JA, Gardell SJ. Nature 2000, 405:689-694 Photo activated gamma-secretase inhibitors directed to the active site covalently label presenilin 1.)。
二カストリンは、 プレセニリン結合分子の一つとして同定された蛋白質である (Yu G, Nishimura , Arawaka S, Levitan D, Zhang L, Tan don A, Song YQ, Rogaeva E, Chen F, Kawarai T, Supala A, Levesque L, Yu H, Yang DS, Holmes E, Milman P, Liang Y, Zhang DM, Xu DH, Sato C, Rogaev E, Smith M, Janus C, Zhang Y, Aebersold R, Farrer LS, Sorbi S, Bruni A, Fraser P, St George Hyslop P Nicastrin modulates presenilin-mediated notch/glp-1 signal transduction and betaAPP processing. Nature 2000, 407(6800):48·54·)。 ヒ卜ニカス卜リンを コードする遺伝子の塩基配列を配列番号 5に、 ヒトニカストリンのアミノ酸配列 を配列番号 6に示す。
APH-1及び ΡΕΝ-2は、 線虫を用いた遺伝学的スクリーニングにより、 ァ -セク レターゼ活性に必須の蛋白質をコードする遺伝子として同定されたものである (Goutte C, Tsunozaki M, Hale VA, Priess JR (2002) APH-1 is a multipass membrane protein essential for the Notch signaling pathway in Caenorhabditis elegans embryos. Proc Natl Acad Sci U S A 2002 Jan 22,99(2):775-779; Francis R, McGrath G, Zhang J, Ruddy DA, Sym M, Apfeld J, Nicoll M, Maxwell M, Hai B, Ellis MC, Parks AL, Xu W, Li J, Gurney M, Myers RL, Himes CS, Hiebsch R, Ruble C, Nye JS, Curtis D (2002) aph'l and pen-2
are required for Notch pathway signaling, gamma-secretase cleavage of betaAPP, and presenilin protein accumulation. Dev Cell 3:85-97 )。 ヒ 卜 APH-laをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号 7に、 ヒト APH-laのァミノ 酸配列 (251個のアミノ酸配列を有するもの:「251型」 という) を配列番号 8に 示す。
ここで、 APH-laには、 その C末端部分が選択的スプライシングにより生じた 変異体 (Alternative splicing variant)が存在する。 この変異体は 247個のアミノ 酸配列 (「247型」 という) 及び 265個のアミノ酸配列 (「265型」 という) を有 している。 247型をコードする遺伝子を配列番号 9に、 247型のアミノ酸配列を 配列番号 10に示す。 また、 265型をコードする遺伝子を配列番号 11に、 265型 のアミノ酸配列を配列番号 12に示す。
ヒト APH-lbをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号 13に、 ヒト APH-lb のアミノ酸配列を配列番号 14に示す。 また、 ヒト PEN-2をコードする遺伝子の 塩基配列を配列番号 15に、 ヒト PEN-2のアミノ酸配列を配列番号 16に示す。 プレセ二リン、 二カストリン、 APH-1及び PEN-2をコードする遺伝子の塩基 配列、 並びにこれらの蛋白質のアミノ酸配列の配列番号を表 1にまとめた。
表 1
塩基配列 ァミノ酸配列
プレセニリン 1 配列番号 1 配列番号 2
プレセ二リン 2 配列番号 3 配列番号 4
二カス卜リン 配列番号 5 配列番号 6
APH-la (251型) 配列番号 7 配列番号 8
APH-la (247型) 配列番号 9 配列番号 10
APH-la (265型) 配列番号 11 配列番号 12
APH-lb 配列番号 13 配列番号 14
PEN-2 配列番号 15 配列番号 16
ここで、 本発明においては、 表 1の配列番号に示すアミノ酸配列のみならず、 プレセニリン、 ..二カストリ 、. APH-1及び PEN-2が複台.体を形成したときに活 性型膜型プロテアーゼ蛋白質複合体としての機能を有する限り、 これらのァミノ 酸配列 (配列番号 2、 4、 6、 8、 10、 12、 14又は 16) において 1個又は数個 (例 えば 1個〜 10個、 好ましくは 1個〜 5個) のアミノ酸が欠失、 置換又は付加され たアミノ酸配列(変異型アミノ酸配列) を含むものであってもよい。 「活性型膜型 プロテアーゼ蛋白質としての機能」 とは、 疎水性環境にある膜内配列を切断する プロテアーゼ機能 (特にァ-セクレ夕一ゼ機能) を意味する。
さらに、 プレセ二リン、 二カストリン、 APH-1及び PEN-2のアミノ酸配列を それぞれコードする遺伝子に限らず、上記表 1の配列番号に示す塩基配列 (配列番 号 1、 3、 5、 7、 9、 11、 13又は 15) に相補的な配列とストリンジェン卜な 条件下でハイブリダィズし、 かつ、 プレセ二リン、 二カストリン、 APH-1 及び PEN-2 が複合体を形成したときに膜型プロテアーゼ蛋白質としての活性を有す るときのそれぞれの蛋白質をコードする遺伝子も含まれる。「ストリンジェントな 条件」 とは、 例えば、 塩 (ナトリウム) 濃度が 150〜900mMであり、 温度が 55 〜75°C、 好ましくは塩 (ナトリウム) 濃度が 250〜450mMであり、 温度が 68°C での条件 (ハイブリダィズ後の洗浄時の条件) をいう。
上記変異型アミノ酸配列は、 通常の部位特異的突然変異誘発法によって変異を 導入することができる。 遺伝子に変異を導入するには、 Kunkel 法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用 キット、例えば QuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit (ストラタジ一ン 社製)、 GeneTailorTM Site -Directed Mutagenesis System (インビトロジェン社 製)、 aKaRa Site -Directed Mutagenesis System (MutairK、 Mutan- Super Express Km等:夕カラバイオ社製) を用いて行うことができる。
本発明において、 活性型の膜型プロテアーゼ蛋白質複合体とその触媒の対象と なる物質との間の相互作用として、 プレセ二リン複合体と基質 (APP、 Notch, ErbB4、 カドヘリンなど) との相互作用、 プレセ二リン複合体と結合蛋白質 (力 テニン、 KCMPなど) との相互作用、 SpoIVFBと結合蛋白質 (BofA、 SpoIVFA
など) との相互作用などが挙げられる。 (Urban S, Freeman M. Intramembrane proteolysis controls diverse signalling pathways throughout evolution. (2002) Curr Opin Genet Dev. 12(5):512-518. ) ( Weihofen A, Martoglio B. Intramembrane -cleaving proteases: controlled liberation of proteins and bioactive peptides. (2003) Trends Cell Biol. 13(2):71'78)
上記相互作用は、例えば Sf9細胞に未知の分子をコードする cDNAを感染させ、 細胞内でプレセニリン複合体と相互作用ないし何らかの活性化を促進または阻害 して、 得られたパキュロウィルス中の活性を変化させる物質について検討すれば よい。
3 . 組換えウィルスの作製及びプロテアーゼの発現
本発明において、 活性型の膜型プロテアーゼ蛋白質複合体を取得するために、 プロテアーゼ蛋白質をコードする遺伝子及び複合体構成因子をコードする遺伝子 を含む少なくとも 1種の組換えバキュロウィルスを使用することができる。 バキ ュロウィルスは、 環状の二本鎖 DNAを遺伝子としてもつエンベロープウィルス であり、 昆虫に感染して病気を起こすウィルスである。 そして、 鱗翅目、 膜翅目 および双翅目などの昆虫に感受性を示す。 バキュロウィルスの中で、 感染細胞の 核内に多角体 (ポリヒドラ) と呼ばれる封入体を大量に作る一群のウィルスが核 多角体病ウィルス (NPV)である。多角体は、 分子量 31kDaのポリヘドリンタンパ クより構成されており、 感染後期に大量に作られ、 その中に多数のウィルス粒子 を埋め込んでいる。多角体はウィルスが自然界で生存するためには必須であるが、 ウィルスの増殖そのものには必要ないため、 多角体遺伝子の代わりに発現させた い外来遺伝子を揷入してもウィルスは全く支障なく感染し増殖する。
本発明で用いられるバキュロウィルスとしては、 NPVのキンゥヮバ亜科のォー トグラファ 'カリフォルニ力 (Autographa californica) NPV(AcNPV) カイコ のボンビックス ·モリ (Bombyx mori) NPV(BmNPV)などが挙げられ、 これら のウィルスをベクターとして用いることができる。
AcNPV の宿主 (感染、 継代細胞) としてはスポドプテラ · フルギベルダ
(Spodoptera frugiperda) 細胞 (Sf細胞) などが挙げられ、 BmNPVの宿主 (感 染、 継代細胞) としては B^nl^細胞などが挙げられる。 .Sf細胞は、 BmN4細胞 などに比べ増殖速度が速いこと、 また、 AcNPV はヒト肝細胞およびヒト胎児腎 細胞などにも感染する能力を有することから、 Sf- AcNPV系の宿主-ベクターが好 ましい。
Spodoptera Frugiperda細胞系統の Sf9および Sf21は、 S. frugiperda幼虫の 卵巣組織から確立しており、 Invitrogen社若しくは Pharaiingen社(San Diego, CA)、 又は ATCCなどから入手可能である。 さらに、 生きている昆虫幼虫 (例え ばカイコ) を宿主細胞系として使用することもできる。
本発明で用いる組換えウィルスを構築する方法は、 常法に従って行えばよく、 例えば次の手順で行うことができる。 先ず、 発現させたい蛋白質の遺伝子をトラ ンスファーベクターに挿入して組換えトランスファ一ベクターを構築する。 トラ ンスファーベクターの全体の大きさは一般的には数 kb〜: LOkb程度であり、 その うちの約 3kbはプラスミド由来の骨格であり、 アンピシリン等の抗生物質耐性遺 伝子と細菌の DNA複製開始のシグナルを含んでいる。 通常のトランスファ一ベ ク夕一ではこの骨格以外に、 多角体遺伝子の 5 '領域と 3 '領域をそれぞれ数 kbず つ含み、 トランスフエクシヨンを行った際に、 この配列間で目的遺伝子と多角体 遺伝子との間で相同組換えが引き起こされる。
また、 トランスファ一ベクターには蛋白質遺伝子を発現させるためのプロモー ターを含むことが好ましい。 プロモーターとしては、 多角体遺伝子のプロモ一タ 一、 plO遺伝子のプロモーター、 キヤプシド遺伝子のプロモ一夕一などが挙げら れる。
トランスファーベクターの種類は特に限定されるものではなく、例えば AcNPV 系又は BmNPV系トランスファーベクターを使用することができる。
AcNPV系卜ランスファーべクタ一としては、 例えば pEVmXIV2、 pAcSGl、 pVL1392/1393 , pAcMP2/3、 pAcJPl、 pAcUW2l、 pAcDZl、 pBlueBacIII , pBlueBac4.5、 pBlueBac4.5/V5_His、 pAcUW51、 pAcAB3、 pAc360, pBlueBacHis, PBl eBacHis2A) B, C、 PVT-Bac33, pAcUWl、 pAcUW42/43などが挙げられ、
BmNPV系トランスファ一ベクターとしては、例えば pBK283、 pBK5、 pBB30、 pBEl、 pBE2、— pBK3、 pB—K52、 pBKblue, pBKblue2、 . pBF シリーズなどが挙 げられる。 これらのトランスファーベクターは、 Invitrogen、 フナコシ株式会社、 藤沢薬品工業株式会社等から容易に入手可能である。
次に、 組換えウィルスを作製するために、 上記の組換えトランスファーベクタ —をウィルスと混合した後 (卜ランスフエクシヨン)、宿主として用いる培養細胞 に移入するか、 あるいは予めウィルスで感染させた宿主として用いる培養細胞に 上記のトランスファーベクターを移入し、 組換えトランスファーベクターとウイ ルスゲノム DNAとの間に相同組み換えを起こさせ、 組み換えウィルスを構築す る。
ここで宿主として培養細胞を用いる場合は、 通常、 昆虫培養細胞 (Sf9細胞や BmN細胞など) が採用される。 培養条件は、 当業者により適宜決定されるが、 具体的には Sf9細胞を用いるときは、 10%ゥシ胎児血清を含む培地で、 28°C前後 で培養することが好ましい。 このようにして構築された組み換えウィルスは、 常 法、 例えばプラークアツセィなどによって精製することができる。 なお、 このよ うにして作製された組換えウィルスは、 核多角体病ウィルスの多角体蛋白質の遺 伝子領域に外来の DNAが置換または揷入されており、 多角体を形成することが できないため、 非組換えウィルスと容易に区別することが可能である。
本発明の方法では、 前記の組換えバキュロウィルスを、 上記の適当な宿主(Sf9 および Sf21などの培養細胞) に感染させ、 一定時間後 (例えば、 72時間後等) に培養物から細胞外発芽ウィルス (budded virus, BV) を遠心などの分離操作に よって回収することにより、 その発芽バキュロウィルス画分中に含有される目的 蛋白質複合体を得ることができる。 「培養物」 とは、 培養上清及び細胞のいずれを も意味する。 なお、 組換えバキュロウィルスは 1種類のみ感染させてもよいし、 2種類以上の組換えバキュロウィルスを組み合わせて共感染させてもよい。
細胞外発芽バキュロウィルスの回収は、 例えば、 以下のように行うことができ る。 先ず感染細胞の培養液を 500〜: l,000gで遠心分離して、 細胞外発芽バキュ口 ゥィルスを含む上清を回収する。 この上清を約 30,000〜50,000gで遠心分離して
細胞外発芽バキュロウィルスを含む沈殿物を得ることができる。 上記のようにし て回収される 芽バキュ口クイルスは、 生理活性を有する膜型プロテアーゼ蛋白 質複合体を含むものである。 なお、 当該発芽バキュロウィルス自体も本発明の範 囲内である。
この細胞外発芽バキュロウィルスを含む沈殿物を適当な緩衝液に懸濁し、再度、 適当な濃度勾配 (例えば、 スクロースの連続勾配等) の上にウィルスの懸濁物を 重ね、 100,000gで遠心分離して分画する。得られた画分の中から所望の蛋白質複 合体を含む画分を採取することができる。
さらに、 発現させた蛋白質複合体を可溶化した形態で得る場合には、 感染細胞 の培養液から例えば 40,000gで遠心分離することにより細胞外発芽ウィルスを回 収する。 この回収されたペレットを適当な緩衝液に懸濁し、 CHAPSO 等の溶解 剤で処理し、さらに 30,000rpmで遠心分離を行うことにより上清と沈澱に分離す る。 可溶化された目的蛋白質複合体は上清中から得ることができる。
宿主として昆虫 (例えばカイコ幼虫) を用いる場合は、 組換えウィルスを例え ば 5齢カイコ幼虫に接種して感染させ、 4〜6日後にカイコの個体の体液中に分 泌したプロテアーゼ蛋白質複合体を採取 '分離し、 精製すればよい。 プロテア一 ゼ蛋白質複合体は、 絹糸腺と呼ばれる器官から大量に得ることができる。
上記発現蛋白質複合体 (特に CHAPSO等の溶解剤で処理した後の蛋白質複合 体) は、 その活性化形態として採取される。 本発明の蛋白質複合体は、 好ましく は少なくとも 50%以上、より好ましくは 60%以上、さらに好ましくは 70%以上、 さらに好ましくは 80%以上、 さらに好ましくは 90%以上、 特に好ましくは 95% 以上が活性化形態である。
本発明の蛋白質複合体は、 適当な精製手段、 例えばゲルろ過、 イオン交換クロ マトグラフィー、 ァフィ二ティークロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィ 一を単独で又は適宜組み合わせてさらに精製することも可能である。 このように して採取又は精製した活性型の膜型プロテアーゼ蛋白質複合体も、 本発明に含ま れる。 採取又は精製された蛋白質複合体が目的のものであることの確認は、 SDS-PAGE, ウエスタンブロッテイング、 ELISA等により行うことができる。
なお、 このような活性化形態の膜プロテアーゼ蛋白質複合体を高い割合で得る ことは従来法では極めて ¾難 あった。
4 . 相互作用の分析
本発明はさらに、 標識された被験物質 (例えばリガンド又は基質) と活性型の 膜型プロテアーゼ蛋白質複合体とを接触させた後、 当該被験物質のシグナルを検 出することによって、 前記蛋白質複合体と相互作用する物質を分析する方法を提 供する。
蛋白質複合体は、 バキュロウィルス中に存在する膜型プロテアーゼ蛋白質複合 体を使用することも可能であるが、 バキュロウィルスから採取した活性型の膜型 プロテアーゼ蛋白質複合体を使用することが好ましい。
膜型プロテアーゼ蛋白質複合体と被験物質との相互作用の測定方法は特に限定 されず、 当業者であれば適宜選択することができる。 一例として、 標識したリガ ンドを用いてリガンド結合能を測定する。 標識は、 蛍光標識、 放射標識のいずれ を採用してもよい。 蛍光物質としては、 例えば Alexa系、 Pacific Blue、 Cy2、 FITC、 Cy3、 ローダミン、 テキサスレッド、 Cy5などが挙げられる。 放射標識物 質としては、 3H、 i3C, i5N, 32P等が挙げられる。
具体的には、 上記標識物質で標識したリガンドを含む緩衝液 (結合に適した緩 衝液を使用) に、 膜型プロテア一ゼ蛋白質複合体を含む発芽パキュロウィルス、 又は前記の通り回収若しくは精製した活性型膜型プロテアーゼ蛋白質複合体を接 触 (反応) させる。 なお、 反応条件はプロテアーゼとリガンドとの組み合わせの 種類により適宜選択する。 反応後の反応液を適当なフィルタ一等の固相担体に吸 着ろ過させて反応を停止し、 当該固相担体を洗浄および乾燥させ、 複合体のみを 固相担体上に固定する。 シンチレーシヨンカウンターを用いて固相担体の放射活 性を測定し、 又は蛍光光度計を用いて蛍光強度を測定することにより、 膜型プロ テアーゼ蛋白質複合体とリガンドとの相互作用 (即ち、 リガンド結合能) を測定 することができる。
また、 本発明は、 被験物質と本発明の複合体とを接触させた後、 複合体のプロ
テア一ゼ活性を測定することにより、 活性型の膜型プロテア一ゼ蛋白質複合体の 酵素活性を促進又は阻害す-る物質をスクリーニングする方法を提供する。
スクリーニングに供される被験物質としては、例えばぺプチド、ポリべプチド、 合成化合物、 微生物発酵物、 生物体 (植物又は動物の組織、 微生物、 又は細胞な どを含む) からの抽出物、 あるいはそれらのライブラリーが挙げられる。 ライブ ラリーとしては、合成化合物ライブラリー(コンビナトリアルライブラリ一など)、 ペプチドライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)などが挙げられる。 スクリーニングに供される化学物質は、 天然物でも合成物でもよく、 また候補と なる単一の化学物質を独立に試験しても、 いくつかの候補となる化学物質の混合 物 (ライブラリーなどを含む) について試験をしてもよい。 また、 細胞抽出物の ような混合物を分画したものについてスクリーニングを行い、 分画を重ねて、 所 望の活性を有する物質を単離することも可能である。
さらに、 本発明においては、 活性型の膜型プロテアーゼ蛋白質複合体に作用す る分子ないしリガンド様の物質が、 その複合体のうちどの分子に作用しているか について、 パキュロウィルス上の膜型プロテアーゼ蛋白質複合体を用いてアツセ ィすることも可能である。
これらの被験物質は、膜型プロテアーゼ蛋白質(複合体)と基質との相互作用、 あるいは膜型プロテアーゼ蛋白質と複合体構成因子との相互作用を促進又は阻害 することが予想される物質であることが好ましい。 本発明のスクリーニング方法 により、 膜型プロテアーゼ蛋白質または膜型プロテアーゼ蛋白質複合体に対する 阻害薬または活性化薬物をスクリーニングすることが可能である。 本発明のスク リーニング方法により得られる、 膜型プロテアーゼ蛋白質 (複合体) と基質との 相互作用、 あるいは膜型プロテアーゼ蛋白質と複合体構成因子との相互作用を促 進又は阻害する物質も本発明の範囲内である。
5 . プロテインチップ
本発明のパキュロウィルスから採取される膜型プロテアーゼ蛋白質複合体の中 には、 活性型のものが含まれている。 この活性型蛋白質複合体を基板上に固定す
ると、 プロテインチップを得ることができる。 このようにして作製されたプロテ インチップは、...活性型の膜型.プロテアーゼ蛋白質複合体と相互作用する物質をス クリーニングするために使用することができる。 活性型の膜型プロテアーゼ蛋白 質複合体を、 イオン交換樹脂や金属イオンなどをコーティングしたチップに結合 させ、 スクリーニングの対象となる試料をチップに添加し、 質量分析器 (例えば MALDI-TOF型、 ESI/Q-TOF型のもの等) を使用して質量を測定する。 質量の 変化により、 相互作用した物質を同定することが可能である。 以下、 実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、 本発明は実施例によ つて限定されるものではない。
実施例 1
7一セクレ夕—ゼ構成因子 (ヒトプレセ二リン 1、 ヒトニカストリン、 ヒト APH-la、 ヒト PEN-2) を発現する組換えバキュロウィルスの調製
( 1 ) 細胞の培養と感染、 および発芽型バキュロウィルスの収集
ヒトプレセニリン 1 全長 cDNA を pBlueBac4.5TM ベクタ一 (Invitrogen, Carlsbad, CA) に、 C末端側にタグを人工的に付加したヒトニカストリン又はヒ ト APH-la 全長 cDNA を pBlueBac4.5 に、 ヒ ト PEN-2 全長 cDNA を pBlueBacHis2Aへ組み込み、それぞれ pBlueBac_PSl、 pBlueBac'NCT-V5/His、 pBlueBac-APH- la-myc/Hisおよび pBlueBac-His-PEN-2を作製した。 Sf9細胞 (Invitrogen) は完全培地 (10%ゥシ胎児血清 (Sigma)、 100 units/mlぺニシリ ンおよび 100 g/ml ス卜レフ卜マ シンを含む Grace's supplemented media (GIBCOBRD )で 27°Cで 10cm径ディッシュに継代培養した。大量培養は、 500 mL容量のスピナ一フラスコ (Wheaton) にて完全培地に 0.001% pluronic F-68 (GIBCO BRL) を添加して行なった。 組み換えバキュロウィルスの作製は説明 書(Bac-N-Blue™ Transfection Kit, Invitrogen)に従い、 Sf9細胞に Bac-N_Blue DNA ( ApMNPV 由来) と 、 pBlueBac.PSl 、 BlueBac-NCT-V5/His、 pBlueBac-APH-l-myc/His又は pBlueBac-ffis-PEN-2とを共感染させ、組み換え ウィルスを作製した。
本実施例では、 タグの付加に関し、 以下の通り行った。
(i) ヒトプレセニリン 1は、.タグ付加はせず、 そのまま pBlueBac4.5に組み込 んだ。 -
(ii) ヒトニカストリンは、 pEF6-TOPO/V5/Hisベクタ一 (Invitrogen) にクロ —ニングし、 C末側にベクタ一由来の V5/Hisタグを含んだ cDNAを pBlueBac4.5 に組み込んだ。 ヒ トニカス ト リ ンの遺伝子には、 V5 タ グ部分 (GKPIPNPLLGLDST (配列番号 17) ) 及び Hisタグ部分 (HHHHHH (配列番 号 19) ) を付加した。
V5タグ部分の塩基配列: '
GGTAAGCCTATCCCTAACCCTCTCCTCGGTCTCGATTCTACG (配列番号 18)
Hisタグ部分の塩基配列: CATCATCACCATCACCAT (配列番号 20)
(iii) ヒト APH-laは、 pEF4/myc/HisAベクター (Invitrogen) にクローニング し、 C末側にベクター由来の myc/Hisタグを含んだ cDNAを pBlueBac4.5に組 み込んだ。 なお、 ヒト APH-laは、 251型を使用した。
APH-laの mycタグ部分 (EQKLISEEDL (配列番号 21) ) の配列: GAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCTG (配列番号 22)
His夕グ部分 (HHHHHH:配列番号 19) の配列: CATCATCACCATCACCAT (配列番号 20)
ヒトニカストリン及びヒト APH-laは、 終始コドン.(TAG) を省き、 タグを付 加したものを pBlueBac4.5に組み込んだ。
(iv)ヒト PEN-2は、 N末側付加した His夕グは pBlueBacHis2のベクター由来 のものを使用した。 ヒト PEN-2 については、 開始コドン (ATG) を省き、 pBlueBacHis2Aに組み込んだ。
( 2 ) 発芽型バキュロウィルスにおけるプロテア一ゼ発現のウエスタンプロット による解析
Sf9細胞を 500 mL容量のスピナ一フラスコ (Wheaton) に 2xl06個/ ml濃度 で 250ml培養し、 上記 (1)で作製した組み換えウィルスを感染多重度 (MOI) =5
で感染させ、 72時間後の培養液を実験に用いた。 培養液を l,000xgで 10分間遠 心し、 沈澱及び.上清に分離し.た。 沈澱は細胞破砕緩衝液. (10% glycerol を含む HEPES緩衝液 (10 mM HEPES H 7.4、 150 mM NaCl、 Complete inhibitor cocktail (Roche Applied Science) ) ) に懸濁しホモジェナイザーにて破砕後、 l,500xg、 10 分遠心した。 さらに上清を 100,000xg、 1 時間超遠心し、 沈澱を HEPES 緩衝液に懸濁し Sf9 細胞膜画分とした。 l,000xg の遠心後の上清を 40,000xg で 30 分遠心し、 沈澱をリン酸緩衝液 (PBS) に懸濁した後、 さらに 40,000xg、 30分遠心した。沈澱を l,000x で 10分遠心し、上清をさらに 40,000xg、 30分遠心し、 沈澱を PBSに懸濁して発芽型ウィルス画分 (BV画分) とした。 組み換えウィルス感染後の Sf9細胞培養液について、 0から 96時間まで 24時 間毎に培養液を採取し、 細胞膜画分および l,000xgで遠心した BV画分の上清画 分を調製し、 時間経過におけるプロテア一ゼ発現量の変化を確認した (図 2 )。 各 時間における細胞膜画分 (図 2 「cell」) l g及び上清画分 (図 2 「; BV」) 200 1を用いて、 ヒトプレセニリン 1を認識する抗 PS1抗血清 (図 2 「GlNr2」) に よるウエスタンプロットを行った。 結果を図 2に示す。 図 2の左端の数字は分子 量 (kD) を表す。 その結果、 細胞膜および上清画分いずれにおいても 48時間後 からヒトプレセニリン 1 (PSlwt) の発現を確認した (図 2の矢頭印)。 この結果 は、 48時間後の培養液中にプロテアーゼを含むウィルスが発現することを示す。 実施例 2
発芽型バキュロウィルスにおけるァ-セクレ夕一ゼ複合体構成蛋白質の共発現 ( 1 ) ァ -セクレターゼ複合体構成蛋白質の共感染.
ヒトプレセニリン 1、 ヒトニカストリン、 ヒト APH-la、 ヒト PEN-2の各発現 組み換えウィルスを、 2xl06細胞/ ml濃度の Sf9細胞 200mlに、 さまざまな組み 合わせにより各ウィルスあたり MOI=2で感染させ、 72時間後に BV画分を調製 した。 BV画分におけるァ -セクレターゼ構成因子の発現量は、 ヒトプレセニリン 1を認識する抗 PS1抗血清、 ヒトニカストリンに付加した V5タグを認識する抗 V5抗体(Invitrogen)、 APH- laに付加した mycタグを認識する抗 myc抗体(Roche
または Cell Signaling Technology)、 ヒト PEN-2を認識する抗 ΡΕΝ-2抗体を用 いたウェスタンプロットにより.確認した (図 3 )。 図 3において、 各蛋白質の組合 せを 「 +」 印で示す。 図 3において、 「GlNr2」 および 「G1L3」 はヒトプレセニ リンに対する抗体、 「V5」 はヒトニカストリンに付加した V5 タグを認識する抗 体、 「myc」 は APH-laに付加した mycタグを認識する抗体、 「PNT_3」 はヒト PEN-2に対する抗体を示す。
4種類の各発現組み換えウィルスをすベて Sf9細胞に感染させると、 活性型プ レセニリンとして考えられているフラグメント型プレセニリンを生じることが観 察されたが (図 3 「PS1 NTF」 および 「PS1 CTF」)、 他のいずれの組み合わせに よってもフラグメント型プレセ二リンを生じることはなかった。 またこの BV画 分を 1% CHAPSOにより可溶化し、 それぞれの特異抗体によって免疫沈降 (IP) した後、 各抗体でウエスタンプロット解析した。 その結果、 いずれの分子も相互 作用していることが明らかとなった (図 4 )。 図 4において、 「anti-GlL3J はヒ トプレセニリン 1 (ヒトプレセ二リン 1のフラグメント型である PS1 CTF) に対 する抗体、 「anti-V5」 は二カストリン (NCT) に付加した V5タグを認識する抗 体、 「anti-myc」 は APH-laに付加した mycタグを認識する抗体、 「anti-PNT3」 はヒト PEN-2に対する抗体を示す。
4分子を共発現させた Sf9細胞の膜画分とそれ由来の BV画分を同時にウェス タンプロット解析したところ、 Sf9細胞においては発現させたヒトプレセニリン 1のほとんどが不活性型である全長型 (図 5 「PS1 FL」) にとどまっていたのに 対し (図 5 「Sf9 cells」)、 BV画分においては全長型プレセ二リンはほとんど見 られず (図 5 「Budded Virus」)、 選択的に活性型であるフラグメント型プレセ二 リンが集積しているのが観察された (図 5 「; PS1 NTF」)。
共感染により生じた各 BV画分を 1 % CHAPSOにより可溶化し、 人工基質を 用いた in vitro ァ-セクレタ一ゼアツセィ系により、 ァ -セクレターゼ活性を de novo 合成された A i3の集積を指標に用いて測定した (Takasugi N, Tomita T, Hayashi I, Tsuruoka M, ISiiimura M, Takanashi , Thinakaran G, iwatsubo T Nature 2003, 422:438-441 The role of presenilin cofactors in the γ -secretase
complex; Takahashi Y, Hayashi I, Tominari Y et al.: Sulindac sulfide is a non'competitiye gamma:. secr.etase inhibitor that preferentially reduces Abeta 42 generation. J Biol Chem 2003 Mar 2003, :10,)。
その結果、 4分子を共感染させた BV画分においてのみ人工基質の切断活性が 観察された (図 6 )。 この活性は既知のァ-セクレ夕一ゼ阻害剤 (L-685,458 およ び DAPT) によって阻害されたこと、 またプレセ二リンの活性に必須であると考 えられている 385 番目のァスパラギン酸をァラニンに置換した変異体 (図 7 「PS1D385A」) においては活性が失われていたことなどから、 活性を持つァ-セ クレターゼ複合体が Sf9細胞中で再構成され、 選択的に BV画分中に集積したこ とを表すものと考えられた (図 7 )。 産業上の利用の可能性
本発明により、 活性型の膜型プロテアーゼ蛋白質又は活性型の膜型プロテア一 ゼ蛋白質複合体をバキュロウィルスに発現させることができる。本発明によれば、 複合体を形成して機能する膜型プロテアーゼ (例えばプレセ二リン等) の活性型 蛋白質複合体を選択的に発現することが可能となり、 基質との結合を阻害又は促 進する物質のスクリーニングに使用することができる。 配列表フリーテキスト
配列番号 17: V5夕グぺプチド配列
配列番号 18: V5タグヌクレオチド配列
配列番号 19: His夕グぺプチド配列 . 配列番号 20: Hisタグヌクレオチド配列
配列番号 21: mycタグべプチド配列
配列番号 22: mvc夕グヌクレオチド配列