明 細 書 非接触型荷物検知装置 技術分野
この出願の発明は荷物を検知する検知装置に関するものであり、 さら に詳しくは、 麻薬や爆発物等の化学物質が入っている荷物や容器を開封 することなく内容物を検知することができる非接触型荷物検知装置に 関するものである。 背景技術
一般に出入国に際しては、 金属検知器によるチェックだけでなく麻薬 等の薬物所持チェックが行なわれているが、 このような薬物の持込を防 止するための荷物検知装置がこれまでも数多く開発されている (たとえ ば、 引用文献 1一 4)。
ところが、 現在でも麻薬等の化学物質の検知に対しては、 大部分が犬 の嗅覚に依存している。 しかしながら、 このような特殊な才能を持つ犬 は数が少なく、 また、 このような犬を育成するには時間がかかるため、 どこの国も激増する薬物の密輸に十分対応できていないのが現状であ る
文献 1 特開 2 0 0 1— 0 9 1 6 6 1号公報
文献 2 特開 2 0 0 2— 0 9 8 7 7 1号公報
文献 3 特開 20 00— 0 2 8 5 7 9号公報
文献 4 特開平 0 7— 3 3 3 3 5 1号公報
このような化学物質からなる薬物の検知方法としては、 核磁気共鳴法 (磁気特性)、 中性子法 (放射化特性)、 化学法 (原子の結合状態)、 生 物法 (抗体生体膜) 等があるが処理能力は核磁気共鳴法が最も優れてい るとされている。
この核磁気共鳴法は一般に NMR法 (Nuclear Magnetic Resonance Spectrometer)と呼ばれ、現在では MR I (Magnetic Resonanne Imaging) のような医療機器に主として利用されている。
この NMR法と呼ばれる核磁気共鳴を利用する化学物質の検知方法 は、 化学物質中の核磁気モーメントが磁場中で高周波に対して共鳴する 現象を利用したものであり、 化学物質の種類を直接検知することができ るため、 化学物質の検知方法としては優れたものとされている。 ところ が、 核磁気共鳴を利用する N MR法は強い磁場を発生させるための大型 装置が不可欠であり、 装置の小型化という意味では致命的な欠陥を持つ ている。
そこで、 この出願の発明はこのような従来の化学物質検知装置の問題 点を解決することを課題としている。 発明の開示
この出願の発明は、 上記の課題を解決するためのものとして、 第 1に は、 電波発信器および電波発信アンテナからなる電波発信装置と発信電 波に共鳴する窒素原子の NQRを受信する高温超伝導 S QU I Dを備 えていることを特徴とする非接触型荷物検知装置を提供するものであ り、 第 2には、 電波発信アンテナと高温超伝導 S QU I Dが具備されて いる化学物質検知器と電波発信器、 高温超伝導 S QU I D制御器および データ処理器が備えられていることを特徴とする非接触型荷物検知装 置を、 また、 第 3には、 電波発信アンテナおよび高温超伝導 S QU I D が磁気シールド内に設けられ、 その磁気シールド内部を無端ベルトが通 過可能に設けられていることを特徴とする非接触型荷物検知装置を、 第 4には、 磁気シールドが高透磁率金属ボックスである非接触型荷物検知 装置を、 第 5には、 高温超伝導 S QU I Dの冷却媒体が液体窒素である 非接触型荷物検知装置を提供する。
また、 この出願の発明は、 第 6には、 発信電波の周波数が 0. 1— 1
0MHz帯域のラジオ波を用いることを特徴とする前記の非接触型荷物 検知装置を提供し、 さらに、 第 7には、 電波発信アンテナが指向性であ ることを特徴とする非接触型荷物検知装置を、 第 8には、 矩形波を電波 発信アンテナから発信し、 得られる高温超伝導 S QU I Dの検出信号を 高速フーリェ解析した周波数スぺクトルとデータベースの化学物質の スぺクトル分布を比較することを特徴とする非接触型荷物検知装置を 提供するものである。 図面の簡単な説明
図 1は、 非接触型荷物検知装置の全体図である。
図 2は、 NQRを利用する化学物質検知の原理を示したものである。 図 3は、 周波数と感度の関係を示した図面である。
なお、 図中の符号は次のものを示す。
1 ラジオ波発信アンテナ
2 増幅アンプ
3 ラジオ波発信機
4 S QU I D電子回路
5 ロックインアンプ
6 データ処理装置 (パソコン)
7 S QU I D
8 液体窒素容器
9 二重磁気シールド (円筒上部蓋あり)
1 0 二重磁気シ一ルド (上部に取り付け部穴あり)
1 1 ベル卜コンベア
1 2 荷物 (検査物)
1 3 荷物入口
1 4 荷物出口
発明を実施するための最良の形態
この出願の発明は化学物質中に存在する窒素 14原子に注目し、 その 原子周辺の電場勾配が低周波のラジオ波に共鳴することを利用するも のである。 すなわち、 この化学物質検知装置の原理はラジオ波を発信し て、 化学物質中の窒素 14原子 (14N) が発生する固有の電磁波である 核四極共鳴 (Nuclear Quadrupole Resonance: NQ Rと省略する) をラ ジォ波と共鳴させて検知する。
この出願の発明は、 さらに従来使用されている電磁波検出コイルでは 検知が困難とされる低周波数帯域の検知に超伝導量子干渉素子 (Superconducting Quantum Interference Device: SQU I Dと省略 する) からなる超高感度磁気センサを利用する点に特徴を有している。
この NQRと高温超伝導 S QU I Dを組み合わせた化学物質検知装 置の概要を説明すると、 まず、 ラジオ波発信機からラジオ波発信アンテ ナを経由してラジオ波を発信する。 ラジオ波を照射された荷物 ·検査物 は、 たとえば火薬として使用されている TNT (Trinitrotoluene) 中 に存在する窒素 14原子がラジオ波によって NQR信号を発信し、 それ を液体窒素で冷却されている高温超伝導 S QU I Dで受信する。 そして、 データ処理装置で既知の共鳴周波数と比較して化学物質に含まれる化 学物質を検知する。 この出願の発明で利用する NQR信号は、 一般に使 用されてレ る NMR (Nuclear Magnetic Resonance Spectrometer) と 同様な原理により化学物質を検知する方法であるが、 NQRと NMRと の本質的な違いは NMRが磁気を利用するのに対して、 NQRは原子核 周辺の電界勾配を利用する点であり、 ゼロ磁界でも化学物質を検知でき るという優れた特徴を有している。
この装置で利用する NQRの原理を示すと図 2のようになる。
この図 2の模式図に示されているように、 分子自体が持つ特異な電場 勾配による窒素 14原子核スピンの共鳴により、 分子固有の共鳴振動に より化学物質を同定するものである。 今日では既に数十万の化学物質の
共鳴周波数が調べられており、 目的の化学物質を容易に同定できる。 N QRの検知に使用する電波の範囲は通常 1 OMHz以下のラジオ波と呼 ばれる帯域の電波を使用する。
目的の化学物質が近くに存在する場合は、 電波発信アンテナを化学物 質に近づけながら検知する。 そして化学物質が遠隔の場合である場合は、 電波発信用アンテナを指向性のあるアンテナにすることにより検知が 可能となる。
このようにして、 化学物質を検知するのであるが、 この共鳴周波数は 一般に数 MHz (メガヘルツ) 以下と通常の NMRに比べて低周波であ るため通常使用するような電磁波検出コイルでは目的とする化学物質 を十分に検知できないという欠点を有している。 この周波数 ( f ) と受 信感度の関係を示したものが図 3である。 この図 3から明らかなように 低周波帯域での電磁波検出コイルの NQR受信感度は著しく低下する が、 S QU I Dは周波数 ( f ) の変化に関係なく一定である。
この出願の発明は、 電磁波検出コイルでは NQR検知が十分にできな い帯域の検出器として高温超伝導 S QU I Dを用いることにより NQ Rを確実に受信して、 この欠点を克服しょうとするものである。
この S QU I Dとは超伝導の量子化現象を応用した超高感度磁気セ ンサであり、 従来の磁気センサに比べて 1 00倍以上の感度を有してお り地磁気の 5, 0 0 0万分の 1以下という微弱電場も検出することが可 能である。
なお、 この出願の発明ではヘリゥムを冷却媒体とする一般的な S QU I Dではなく、 高温超伝導 S QU I Dを使用することが好ましい。 と言 うのも冷却媒体として液体ヘリゥムが使用されているような従来の S QU I Dは取り扱いが難しいだけでなく、 液体ヘリウムのコスト高、 断 熱方法の大型化などの課題があり、 携帯可能な化学物質検知装置に利用 することは困難であると考えられる。
これに対して、 高温超伝導 S QU I Dは取り扱いが簡便で、 しかも低
コストの液体窒素(7 7 . 3 K: - 1 9 6 )の使用が可能であるため、 S Q U I Dの小型軽量化が可能になり非接触型荷物検知装置の携帯化 を可能にする。
,したがって、 この出願の発明における S Q U I Dとは液体窒素で冷却 が可能な高温超伝導 S Q U I Dを意味している。 ところが、 この S Q U I Dを利用する超高感度磁気センサは感度が非常に優れているため実 際の化学物質検知装置では環境ノイズも取り込んでしまうと言う問題 がある。
この環境ノイズを除去するためには、 環境ノイズを遮蔽する磁気シー ルドを設けることによってより効率的に環境ノイズを削除することが 可能になる。この磁気シールドとは、二重の磁気遮蔽板からなっており、 対象とする荷物 (検知物) 以外から発信される N Q R信号を排除する構 造になっている。 この出願の発明は、 このようにして包装内や容器内の 化学物質を非接触で検知するものであるが、 この出願の発明の化学物質 検知装置は周波数を変化させることによって複数の物質の同定を同時 に検知することができるという特徴を有している。 この時の周波数の帯 域は特に限定されるものではないが 0 . 1— 1 0 M H z の範囲が好まし い。
以上、 詳しく述べたように、 この出願の発明の化学物質検知装置は他 の化学物質検知装置に比較して数々の特徴を有するが、 この出願の発明 を優れた部分を列挙すると下記のようになる。
(ィ) 化学物質そのものが直接検知できる。
(口) 周波数を変化させることにより複数の化学物質を同時に検知す ることが可能になる。
(八) 装置の小型化が可能になる。
(二) 検知に磁場が不要となる。
(ホ) S Q U I Dをセンサとして用いるため高感度の検知が可能にな る。
(へ) 高温超伝導 S QU I Dの利用により少量の液体窒素により作動 が可能になる。
この出願の発明は上記のとおりの特徵をもつものであるが、 以下にそ の状態についてさらに詳しく説明する。 実 施 例
図 1に示すように、 この磁気シールドは、 ベルトコンベア ( 1 1 ) の 移動方法の前後に荷物 (検査物) の入口 ( 1 3) と出口 ( 1 4) が設け られた二重構造の長方形の磁気シールド ( 1 0) と上部の貫通穴には二 重の円筒磁気シールド (9) から構成されている。 そして、 その中を非 磁性のベルトコンベア( 1 1 )のベルトが移動できるようにされている。 もちろん、 ベルトコンベア ( 1 1) の駆動ローラやモータは磁気シール ド ( 1 0) 外に設けられている。
円筒磁気シ一ルド (9) 内には液体窒素容器 (8) が設けられ、 その 中に S QU I D (7) が浸漬されている。
ベルトコンベア ( 1 1 ) に載せられた荷物 (検査物) ( 1 2) は荷物 入口 ( 1 3) から磁気シールド ( 1 0) 内に導入する。 そして、 ラジオ 波発信機 (3) より発信したラジオ波を増幅器 (2) で増幅し、 それを 磁気シールド (1 0) 内に設けられたラジオ波発信アンテナ ( 1.) より 荷物 (検査物) へ向けて放射しながら、 荷物 (検査物) を荷物出口 ( 1 4) 方向へ移動させる。
荷物 (検査物) からの NQR信号は S QU I D (7) より検出し、 S QU I D電子回路 (4) からロックインアンプ (5) へ出力されラジオ 波発信機 (3) からの参照信号 (表 1 ) と同一の周波数の信号のみを口 ックインアンプ ( 5) で捕まえて処理装置 (6) へ出力する。 1 0 0 0 回程度の積算処理後、 処理装置 (6) にデータとして保存する。 発信 機の信号は 0. 1〜 1 0MHzまで掃引することにより、 処理装置 (6) のデータは 0. 1〜 1 0 MHzのスペクトルとして表示され、 爆発物や
劇薬物など既知のスペクトルと照合して、 物質を同定し、 異常な物につ いて警報を発する。
典型的な爆発物の NQRスペクトル
単位 (MHz)
(出 )
LANDOLT-BORNSTEIN
Vol. 20
Neclear Quadrupole Resonance Spectroscopy Data
Editors: K. H. Heiiwege and A, M. Hellwege
Springer-Verlag" Berlin Heidelberg 1988 この装置を使用して、 T N T爆発物 1 0 0 gを S Q U I Dの下 5 c m で通過させたところ、 Ι ρ Τ (ピコテスラ) の信号を捕らえることがで き爆発物であることが検知できた。 この装置は同様にして、 爆発物、 毒 劇物、 薬品、 麻薬、 ヘロインなど種々の化学物質の同定が可能であり、 空港の手荷物検査、 税関検査などにおいて便利に利用することができる, 産業上の利用可能性
従来の化学物質検知機と言われているものは、 ほとんどが金属検知機 であった。 しかしながら、 最近ではプラスチック爆弾に見られるように 非金属系の化学物質の比重が高くなつてきている。 この出願の発明の化 学物質検知機はこのようなプラスチック系の化学物質にも適用でき、 し かも小型化が可能であり、 化学物質検知機としての将来性は大きな伸び が期待できる。