WO2004039148A1 - 非細菌性前立腺炎モデル動物 - Google Patents

Abstract

本発明は、ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防または治療薬の開発に有用なモデル動物、具体的には、ヒト慢性非細菌性前立腺炎の病態を模倣した非細菌性前立腺炎モデル非ヒト動物を提供する。当該非細菌性前立腺炎モデル動物は、前立腺被膜下に塩酸を注入することにより作製され、前立腺組織にヒト慢性非細菌性前立腺炎に特徴的に認められる組織障害とヒト慢性非細菌性前立腺炎に特徴的に認められる下部尿路障害を同様に有することを特徴とする。

Description

明 細 書 非細菌性前立腺炎モデル動物 技術分野

本発明は、 慢性非細菌性前立腺炎モデル動物及びその作製方法に関する。 より 詳細には、 本発明は、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎を模倣した非ヒト動物及びその 作製方法に関する。 さらに本発明は、 当該モデル動物を用いてヒト慢性非細菌性 前立腺炎の予防または治療に有効な物質を選別する方法、 並びに当該方法によつ て選別された物質を有効成分とするヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防用または治 療用の医薬組成物に関する。 また、 本発明は、 上記のモデル動物を用いて、 ヒ卜 慢性非細菌性前立腺炎の予防または治療用の医薬組成物の薬効を評価する方法に 関する。 背景技術

前立腺炎は、 成人男性に発症する比較的頻度の高い泌尿器科疾患である。 米国 では、 18〜50歳の男性間で、 泌尿器科疾患中、 前立腺炎が占める割合は最多であ り〔外来受診者総数の 0.77% (泌尿器科疾患の患者は外来受診者総数の約 5 %)〕、 50歳を超える男性では前立腺肥大症、及び前立腺癌に次いで 3番目に多い （外来 受診者総数の 0.83 %) 疾患と報告されている （Collins, MM.： How common is prostatitis? A national survey of physician visits. J Urol 159: 1224-1228, 1998)。 そして米国では、 年間約 200万人が前立腺炎と診断されている。

また、 日本では、 前立腺炎症候群の新患（新しく受診する患者） は年間約 60〜 100万人程度と推測されている 〔北川敏博， 速見浩士,川原元司他： 前立腺炎症 候群の患者数一前立腺炎症候群は増えているのか？一 Prog. Med. 18: 2149-2152, 1998〕。その病型は、大きく（1)急性細菌性前立腺炎 (ABP), (2)慢性細菌性前立腺 炎（CBP)、 （3)慢性非細菌性前立腺炎 (C P)、 及び (4)前立腺関連疼痛症候群 (Prostatodynia)の 4つに分類される。その病型別頻度は、 （1)及び (2)の細菌性の 前立腺炎は僅かであり、 （3)及び (4)の非細菌性の前立腺炎が、 前立腺炎全体の大 多数を占めるとの報告がある （荒川創一:前立腺炎症候群の原因と治療.日本醫事 新報， 017:25-30, 蘭）。 臨床病態からは、 大きく（1)の急性症と（2)、 (3)及び (4)の慢性症とに分かれる。 急性症に分類される（1)急性細菌性前立腺炎では、 症 状として発熱の他に、 膀 角部から後部尿道にかけて炎症が波及することによ るいわゆる膀胱症状として、 排尿痛、 頻尿、 残尿感などが認められる。 一方、 慢 性症に分類される（2)、 （3)及び (4)の慢性前立腺炎の自覚症状としては、頻尿、排 尿痛などの膀胱症状と、 会陰部や下腹部の不定愁訴などがあり、 特に頻尿は比較 的高頻度に自覚される代表的な症状の一つである (荒川創一:前立腺炎と頻尿.今 月の治療 6: 863-865， 1998)。なお、慢性前立腺炎は、上記の通り 3つの病型（(2)、 (3)、 (4)) に分類されるが、 臨床病態は互いに非常に類似しており、 臨床病態か らの病型を^^することは困難である （横山雅好： [前立腺診療のすべて] 前立腺 炎とプロスタトディニァ. 臨床科学 33:1561- 1567, 1997)。

前立腺炎の診断法として、 four- glass test の結果から病型鑑別を行う方法が ある。 （1)急性細菌性前立腺炎 (ABP) は four-glass testを実施することで敗血 症を生じる危険性があるため禁忌であるが、 慢性前立腺炎 （(2)、 （3)、 (4)) は、 four-glass testによる EPS (expressed prostatic secretion^ 腺マッサ一 ジ時に採取した前立腺圧出液） 及び VB3 (Voided bladder 3、 前立腺マッサ一ジ 後の初尿) 中の細菌の有無を調べることにより、 細菌性と非細菌性に鑑別するこ とができる。 更に、 EPS 中の白血球の有無により非細菌性前立腺炎と前立腺痛に 鑑別することができる （横山雅好： [前立腺診療のすべて] 前立腺炎とプロスタト ディニァ. 臨床科学 33:1561— 1567， 1997)。 また、 近年、 慢性前立腺炎の診断法 として、 NIHより the National Institutes of Health chronic prostatitis symptom index (NIH-CPSI)が公表されている。 この NIH- CPSIは、 多彩な臨床症状 により特徵づけられる慢性前立腺炎の症状を症状スコアとしたものである。 これ は、 本症候群の特徴を疼痛として捉えており、 Q〇L (Quality of life) の評価 としては、 刺激症状 （頻尿、 尿失禁、 夜間頻尿または尿意切迫など） が、 閉塞症 状 （排尿困難、 尿閉、 排尿時間の延長または間欠排尿など） よりも重視されてい る （荒川創一:前立腺炎症候群の原因と治療.日本醫事新報， 4017:25-30, 2001)。 この NIH-CPSIは、 米国及び日本において慢性前立腺炎の重症度と薬剤治療効 果の判定の為に重要と判断されて、利用されている。それを用いた研究によれば、 慢性前立腺炎は、 同様に前立腺疾患である前立腺肥大症と比較して、 排尿刺激症 状 （頻尿、 尿失禁、 夜間頻尿または尿意切迫など） は同等であるものの、 痛みや 不快感、 及び QOL (Quality of life) は高値を示すことが報告されている 〔門田 晃ー， 津川昌也， ニノ宮祐子，他： The National Institutes of Health chronic prostatitis symptom index (NIH-CPSL 日本語版'岡山大学案)の有用性と慢性 非細菌性前立腺炎に対するセル二チンポーレンエキスの臨床評価.日泌尿会誌. 93: 539-547, 2002； Mark, SL.， Mary, M - ， Floyd, JF. et al.： The national institutes of health chronic prostatitis symptom index: development and validation of new outcome measure. J.Urol. 162: 369-375, 1999〕。 このこと から、慢性前立腺炎は自覚症状として非常に苦渋を伴う疾患であることが伺える。 この NIH- CPSI による症状スコアから、 慢性の前立腺炎症候群に対する治療が目 指すべきエンドポイントはあくまで症状の軽快 （排尿障害、 疼痛、 Q0L の改善） にあることが再認識されている。

慢性非細菌性前立腺炎の発症病因は、 前立腺液のうっ滞、 自己免疫やアレルギ 一の関与、 Mycoplasmaや Chlamydia trachomatis等の微生物の関与、 性ホルモン バランス失調、及び心理的要因など、多岐にわたる [Pewit t, EB.， Schaeffer, AJ.： Urinary tract infection in urology： including acute and chronic prostatitis. Infect Dis Clin North Am. 11: 623-646, 1997 ； Donovan, DA. , Nicholas, PK.： Diagnosis and treatment in primary care. Nurse Practitioner. 22: 144-156, 1997〕。 そのため、 抗菌薬投与；前立腺マッサージ；排尿障害改善のための 1 遮断薬 (prazocin, bunazocin, terazocinなど）や催眠鎮静剤または抗不安剤（ジ ァゼバムなど） の投与；前立腺部尿道の浮腫を除くことを目的とした植物エキス や花粉エキス（セルニルトン)、漢方薬、及び非ステロイド系消炎鎮痛剤などの投 与；温座浴；並びに温熱療法 (hyperthermia) などの種々の治療法が試みられて いる〔小野寺昭一:前立腺炎症候群の病態別治療 4.非細菌性前立腺炎. Prog. Med. 18:2191-2194, 1998.〕。 しかしながら、 慢性非細菌性前立腺炎は各種治療に抵抗 性を示し、 長期持続性のある難治性疾患である。 この理由として、 その病因が多 岐であるため、 抗菌薬ゃ抗炎症剤投与などで主な要因である前立腺の炎症を沈静 化しても、 前立腺炎により前立腺繊に隣接する膀胱や尿道 （以下、 膀胱及び尿 道を総称して 「下部尿路」 ともいう） などへの波及的影響あるいは排尿に関わる 神経系への影響が残存し、 これによつて疼痛や排尿刺激症状を呈している可能性 が考えられる〔塚本泰司，舛森直哉:排尿の症状と前立腺.日医雑誌. 119 : 609-612, 1998〕。

臨床病態として下部尿路障害をもたらす疾患は数多い。 例えば、 下部尿路障害 のうち頻尿や尿失禁等の排尿刺激症状 （蓄尿障害） を来す疾患として、 膀胱炎、 尿道炎、 前立腺炎、 神経性頻尿、膀胱神経症、 及び 縮膀胱（間質性膀胱炎など） などが、また、排尿困難ゃ尿閉等の排尿閉塞症状（排尿障害）を来す疾患として、 膀胱排尿筋収縮障害、 膀胱頸部硬化症、 膀胱腫瘍、 前立腺癌、 前立腺炎、 尿道狭 窄、 及び尿道腫瘍などが報告されている 〔宮武竜一郎， 栗田孝:前立腺肥大症他 の原因による排尿障害との鑑別診断. 排尿障害プラクティス. 10.· 78-81, 2002. 〕。 このように前立腺炎は、下部尿路障害の排尿刺激症状（蓄尿障害） と排尿閉塞 症状 （排尿障害） の双方を併発し得る疾患である。 このため、 かかる下部尿路障 害の改善を含めた新たな前立腺炎の治療法及び治療薬の開発が望まれている。 慢性前立腺炎の病態解明及び治療薬開発の手段として、 基礎研究において様々 な前立腺炎モデル動物の作製が試みら 討が繰り返されてきた。 細菌性前立腺 炎のモデル動物に関しては起炎菌の直接接種によるモデル動物の作製が挙げられ る。 また、 非細菌性前立腺炎のモデル動物に関しては、 主として、 自己免疫反応 によるモデル動物作製、 及びアンドロゲン及びエストロゲンの過剰投与によって ホルモンバランスを不均衡にさせてモデル動物を作製する方法を挙げること力 Sで きる。 その他の方法として、 外科的手法による尿道の部分閉塞によるモデル動物 の作製、 加齢による自然発症的なモデル動物作製、 ストレス刺激によるモデル動 物作製、 リポ多糖 (LPS)直接前立腺接種によるモデル動物作製、妊娠時及び授乳期 に雌ラットに薬物投与し出生雄ラットに前立腺炎の自然発症を誘発することによ るモデル動物作製、 成分を変化させた食餌の継続的な摂取による発症モデル動物 作製、 起炎微生物 （クラミジァ） 接種によるモデル動物作製等を挙げることがで きる。 これらのモデル動物を対象とした研究は、 いずれも炎症を起こした前立腺 組織の病理組織学的検討、 それに伴う炎症性サイト力インの変動、 炎症性細胞浸 潤 （肥満細胞、 リンパ球） に関わるパラメータ、 炎症関連遺伝子の変ィ匕などを主 眼としたものであって、臨床現場で問題となっている自覚症状（排尿障害、疼痛、 Q0L) に主眼をおいた研究報告は未だない。

また、 前立腺炎に付随する病態を探索する上で、 前立腺組織障害に加えて下部 尿路障害を併せ持つ、 臨床病態を反映した前立腺炎モデル動物が作製できれば、 前立腺組織障害に対する改善作用と下部尿路障害に対する改善作用の両方を、 同 一モデルにおいて同時に評価することが可能となり、 前立腺炎予防 ·治療薬を開 発するうえで行われる、 有効成分や薬効のスクリーニングに用いられるモデル動 物 （スクリーニング用モデル動物） として非常に有用であろうと期待される。 慢性前立腺炎に伴う下部尿路障害として、 非細菌性前立腺炎は炎症による浮腫 や腫脹により頻尿 （蓄尿障害） を呈し、 前立腺関連疼痛症候群は、 骨盤底筋の過 緊張、 下部尿路の機能障害などにより排尿困難 （排尿障害） を呈する。 こうした 下部尿路障害は、 前立腺が解剖学的に膀胱の出口部で尿道を取り囲むように存在 することによるものであることが知られている。 ゆえに、 前立腺炎等の前立腺疾 患は、程度は種々あるものの、下部尿路障害を併発しやすい疾患である。さらに、 前立腺疾患は下部尿路障害に引き続いて膀胱の形態や機能変化を生じることがあ ることも指摘されている （排尿障害プラクティス， 8:4卜 48, 2000)

しかしながら、 現在、 ヒトの慢性前立腺炎で見られるような前立腺炎に起因す る下部尿路障害 （頻尿等の蓄尿障害、 排尿困難等の排尿障害） を呈する病態モデ ル非ヒト動物は存在せず、 その開発が待望されているのが実情である。

現在までに、 非細菌性前立腺炎モデル動物としては、 （1)リポ多糖 (LPS) を用 いて作製されたモデル動物 (Fulmer, BR. , Turner, TT. ： Ef fect of inf lammat ion on prostat ic protein synthesis and Luminal secret ion in vi tro. : J. Urol. , 162 : 248, 1999)、 (2)Dihydrotestosterone+Estradiol を用いて作製されたモデ ル動物 （Harris, MT. , Feldberg, RS. , Lau, KM. et al.， ： Express ion of proinf lammatory gene during estrogen-induced inf lammat ion of the rat prostate. ： The Prostate, 44: 19-25, 2000)、 (3)去勢ラッ卜に Estradiolを注入 して作製されたモデル動物（Robinet te, CL. ： Sex-hormone- induced inf lammat ion and f ibrorauscular prol i ferat ion in the rat laternal pros tate. ： The Prostate, 12 : 271-286, 1988)、 （4)雄ラットの前立腺腹葉にエタノールを注入し粘 «能を 低下させ、 dini trobenzenesul fonic acid (DNBS)を処置して炎症を誘発させて作 製したモデル動物 (Micheal, DL. , J. Curt is, N. , Merle, EO. et al. ： Rat model of experimenttal ly induced abacterial prostat i t is. The Prostate. 45 : 201-206, 2000. )、 （5)塩酸をラット輸精管内に注入して作製したモデル動物（後藤俊弘：前 立腺炎の基礎的， 臨床的検討. 西日泌尿. 50: 446-455、 1988) 等が公知である。 しかしながら、 上記 (1)〜(4)のモデル動物には少なからず下記の欠点があること が指摘されている。具体的には、 （1)については前立腺組織障害が L P S注入局所 周囲に限定されること、 （2)及び (3)はいずれもホルモンを投与することによって ホルモンバランスを崩して作製されるためモデル成立までに比較的長い期間を要 すること（最低 3〜4週間)、また作製途中で確実にホルモンが投与されているか どうかを確認することができないため、 ホルモン投与用のカプセル不具合によつ てモデル不成立の可能性もあること、 （3)についてはモデル動物の作製に際して、 去勢手術とホルモン投与用のカプセル移植の 2回の手術を要する等、 煩雑な処理 が必要であること、及び (4)についてはモデル動物作製の 7日目には前立腺炎症が 重篤になり、 モデル動物の半数以上が尿道閉塞によつて死亡することを挙げるこ とができる。 また、 （5)については、本発明者らによる実験結果により、病理E戠 学的見地から前立腺炎症が非常に軽度しか発症しないことが判明している （後述 する実施例参照)。 発明の開示

本発明の目的は、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防又は治療薬の開発に有効に 使用することのできるモデル動物 （非ヒト動物） を提供することである。 具体的 には、 本発明の目的は、 前立腺の病理組織学的変化および下部尿路障害の有無、 また好ましくは更に膀胱重量の増加の点から、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の病態 を模倣した非細菌性前立腺炎モデル動物 （非ヒト動物） を提供することである。 また、 本発明の目的は、 上記モデル動物の作製方法を提供することである。

更に、 本発明の目的は、 上記モデル動物を用いることによるヒト慢性非細菌性 前立腺炎の予防または治療に有効な物質のスクリーエング方法、 ならびに当該方 法によって取得される物質を有効成分とするヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防若 しくは治療用の医薬組成物を提供することである。

また、 本発明の目的は、 上記モデル動物を用いることによって、 被験薬物につ いて、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価をする方法、 またはヒ ト慢性非細菌性前立腺炎の治療に対する薬効評価をする方法を提供することであ る。 本発明者らは、上記課題を解決するために、日夜鋭意検討を重ねていたところ、 塩酸を非ヒト動物の前立腺被膜下に注入することにより、 前立腺の病理組織学的 変化および下部尿路障害の有無、 さらに好適には膀 S量の増加の点から、 ヒト 慢性非細菌性前立腺炎の病態を模倣する症状を備えた非ヒト動物が作製できるこ とを見いだした。 そして、 当該非ヒト動物をヒト慢性非細菌性前立腺炎の病態モ デル動物として用いることによって、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防または治 療に有効な薬物 （候補物質） の取得が可能であり、 さらにヒト非細菌性前立腺炎 の予防または治療に有効な薬物の薬効評価が可能であることを確信した。 本発明 は、 かかる知見に基づいて完成したものである。

すなわち、 本発明は下記 ( 1 ) 〜 （6 ) に掲げる非細菌性前立腺炎モデル動物で ある：

( 1 ) 前立腺被膜下に塩酸を注入することにより作製される非ヒト動物であつ て、 前立腺組織または前立腺とその周辺組織にヒト慢性非細菌性前立腺炎に特徴 的に認められる組織障害と、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎に特徴的に認められる下 部尿路障害を同様に有することを特徴とする非細菌性前立腺炎モデル動物。

( 2 ) さらに、 正常な非ヒト動物と比べて、 体重に対する膀胱の重量比 （膀胱 重量/体重）が増加していることを特徴とする、 （ 1 )に記載する非細菌性前立腺 炎モデル動物。

( 3 ) 下部尿路障害が、 頻尿、 尿失禁、 及び有効膀胱容量の減少 （1回排尿量 の低下） よりなる群から選択される少なくとも 1つの症状を有する蓄尿障害であ る （1 ) または （2 ) に記載する非細菌性前立腺炎モデル動物。 (4) 塩酸を前立腺の側葉被膜下に注入することにより作製される非ヒト動物 である、上記（1)乃至（3)のいずれかに記載の非細菌性前立腺炎モデル動物。

( 5 ) 前立腺被膜下に塩酸を注入し、 4日〜 1週間程度飼育した非ヒト動物で ある、 上記 （1) 乃至 （4) のいずれかに記載の非細菌性前立腺炎モデル動物。 (6) 非ヒト動物が、 ラットである （1) 乃至 （5) のいずれかに記載の非細 菌性前立腺炎モデル動物。 更に本発明は、 下記 (7) 〜 （10) に掲げる、 上記非細菌性前立腺炎モデル動 物を作製する方法である：

(7) 非ヒト動物の前立腺被膜下に塩酸を注入し、 該非ヒト動物を飼育して、 前立腺炎を生じさせることを含む、 上記 (1) 乃至 （3) のいずれかに記載する 非細菌性前立腺炎モデル動物を作製する方法。

(8) 塩酸を前立腺の側葉被膜下に注入することによって行われる、上記（7) に記載の非細菌性前立腺炎モデル動物の作製方法。

( 9 ) 前立腺被膜下に塩酸を注入し、飼育を 4日〜 1週間程度行う、 上記（ 7 ) または （8) に記載の非細菌性前立腺炎モデル動物の作製方法。

(10) 非ヒト動物が、 ラットである （7) 乃至 （9) のいずれかに記載の非細 菌性前立腺炎モデル動物の作製方法。 また本発明は、 下記に掲げるヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療用物質のスクリ —ニング方法である： '

(11) 上記 (1) 乃至 （6) のいずれかに記載の非細菌性前立腺炎モデル動物 に被験物質を投与し、 該被験物質について、 非細菌性前立腺炎モデル動物の前立 腺組織における組織障害または下部尿路障害の少なくとも 1方の障害に対する改 善効果を検定する工程を含む、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療用物質のスクリ 一二ング方法。

(12) 下部尿路障害が、 頻尿、 尿失禁、 及び有効膀胱容量の減少 （1回排尿量 の低下） よりなる群から選択される少なくとも 1つの症状を有する蓄尿障害であ る （11) に記載するヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療用物質のスクリーニング方 法。

(13) 非細菌性前立腺炎モデル動物が、 ラットである α ΐ) または （12) に記 載するヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療用物質のスクリ一二ング方法。 また本発明は、 下記に掲げるヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防用物質のスクリ —ニング方法である：

(14) 前立腺被膜下に塩酸を注入することにより作製される前立腺炎未発生の 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物に被験物質を投与し、 該被験物質について、 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺組織における組織障害に対する発生 抑制効果、 または下部尿路障害に対する発生抑制効果のいずれか少なくとも 1方 を検定することを含む、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防用物質のスクリ一ニン グ方法。

なお、上記 (14)で用いられる予備'非細菌性前立腺炎モデル動物は、上記（7 ) 〜 （10) に記載する非細菌性前立腺炎モデル動物の作製方法において、 非ヒト動 物の前立腺被膜下に塩酸を注入し、 飼育を 4日未満内で行うことにより得ること ができる前立腺炎未発生の非ヒト動物である。

更に、 上記 （11) 〜(13)、 及び (14) の方法は、 それぞれ投与する被験物質（被 験薬物） のヒト非細菌性前立腺炎に対する治療効果及び予防効果の評価方法とし て応用することができる。 これらの方法は、それぞれ下記 (15)〜（16)及び（17) 〜（18)として規定することができる：

(15) 上記（ 1 )〜（ 6 )のいずれかに記載の非細菌性前立腺炎モデル動物に、 薬効を評価する対象の被験薬物を投与し、 該被験薬物について、 当該非細菌性前 立腺炎モデル動物の前立腺組織における組織障害または下部尿路障害の少なくと も一方に対する改善効果を検定する工程を含む、 薬物のヒト非細菌性前立腺炎の 改善に対する薬効評価方法。

(16) 下部尿路障害が、頻尿、尿失禁、及び有効膀胱容量の減少（1回排尿量の 低下） よりなる群から選択される少なくとも 1つの症状を有する蓄尿障害である

(15) に記載する、 薬物のヒト非細菌性前立腺炎の改善に対する薬効評価方法。

(17) 前立腺被膜下に塩酸を注入することにより作製される前立腺炎未発生の予 備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物に、 薬効評価する対象の被験薬物を投与し、 該 被験薬物について、 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺繊における組 織障害または下部尿路障害の少なくとも一方に対する発生抑制効果を検定するこ とを含む、 薬物のヒト非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価方法。

(18) 下部尿路障害が、 頻尿、 尿失禁、 及び有効膀胱容量の減少 （1回排尿量の 低下)よりなる群から選択される少なくとも 1つの症状を有する蓄尿障害である、 (17)に記載する、 薬物のヒ卜非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価方法。 なお、 上記 (17)で用いられる予備 '非細菌性前立腺炎モデル動物は、上記（1 ) 〜 （6 ) に記載する非細菌性前立腺炎モデル動物の作製方法において、 非ヒト動 物の前立腺被膜下に塩酸を注入し、 飼育を 4日未満内で行うことにより得ること ができる前立腺炎未発生の非ヒト動物である。

さらに本発明は、 上記 (11) または（14)に記載するスクリーニング方法を用い ることによって得られた物質を含む医薬組成物に関する：

(19) 上記 （11) または （14) に記載のスクリーニング方法により非細菌性前 立腺炎に対して改善効果又は予防効果を有すると判定された物質を含有するヒト 非細菌性前立腺炎の治療用又は予防用の医薬組成物。

更にまた、 本発明には、 下記の態様も含まれる：

(20) ヒト非細菌性前立腺炎の治療用医薬組成物の有効成分を探索するか、 また はヒト非細菌性前立腺炎に対する治療薬の薬効を評価するための、 （1 )乃至（6 ) のいずれかに記載する非細菌性前立腺炎モデル動物の使用。

(21) ヒト非細菌性前立腺炎の予防用医薬組成物の有効成分を探索するか、また はヒト非細菌性前立腺炎に対する予防薬の薬効を評価するための、 前立腺被膜下 に塩酸を注入することにより作製される前立腺炎未発生の予備 ·非細菌性前立腺 炎モデル動物の使用。 ·

(22) 予備 .非細菌性前立腺炎モデル動物が、 前立腺被膜下に塩酸が注入され、 4日未満の飼育によって得られる前立腺炎未発生状態の非ヒト動物である、 （21) に記載する使用。 図面の簡単な説明 図 1は、実施例 1の 2 )において、前立腺被膜下塩酸注入ラット（被験群： P )、 輸精管内塩酸注入ラット （比較群： Y)及び塩酸非注入処理ラット （対照群： N) について、 塩酸注入部位における組織を長軸面 〔尿道を中心として （ラットの正 中線、頭から尾までを縦とする）、組織を縦切りにして観察した面〕から観察した、 所見（前立腺病理組織学的評価） を示す図である。 （a) は塩酸注入 6時間後のラ ットにおける前立腺組織の所見、 （b)は塩酸注入 4日後のラットにおける前立腺 組織の所見、及び（c )は塩酸注入 8日後のラットにおける前立腺 «の所見を、 それぞれ示す。

図 2は、実施例 1の 2 )において、前立腺被膜下塩酸注入ラット（被験群： P )、 輸精管内塩酸注入ラット （比較群： Y)及び塩酸非注入処理ラット （対照群： N) について、 塩酸注入部位における組織を横軸面 〔尿道を中心として （ラットの正 中線、頭から尾までを縦とする）、繊を横切りにして観察した面〕から観察した 所見（前立腺病理組織学的評価） を示す図である。 （a) は塩酸注入 6時間後のラ ットにおける前立腺組織の所見、 （b)は塩酸注入 4日後のラッ卜における前立腺 組織の所見、及び（c )は塩酸注入 8日後のラットにおける前立腺組織の所見を、 それぞれ示す。

図 3は、 前立腺被膜下塩酸注入ラットについて、 塩酸注入から 8日後に採取し た前立腺組織のうち、 前立腺側葉及び尿道周辺組織の長軸切片の像を示す図であ る 〔実施例 1の 2-1)参照〕。

図 4は、 前立腺被膜下塩酸注入ラットについて、 塩酸注入から 8日後に採取し た前立腺組織のうち、 前立腺側葉腺腔及び神経細胞群の像を示す図である 〔実施 例 1の 2-1)参照〕。

図 5は、 実施例 1の 3 ) における実験結果、 すなわち、 前立腺被膜下塩酸注入 ラット（0. 1N塩酸注入ラット、 0. 2 塩酸注入ラット、及び 0.4N塩酸注入ラット： 塩酸注入から飼育 8日目、）及び対照群ラットについて、排尿間隔、及び一回排尿 量を示す図である。

図 6は、 実施例 1の 3 ) における実験結果、 すなわち、 前立腺被膜下塩酸注入 ラット（0. 1N塩酸注入ラット、 0. 2 塩酸注入ラット、及び 0.4N塩酸注入ラット： 塩酸注入から飼育 8日目） 及び対照群ラットについて、 残尿量、 及び前立腺腹葉 /体重比を示す図である。

図 7は、 実施例 1の 3 ) における実験結果、 すなわち、 前立腺被膜下塩酸注入 ラット（0. 1N塩酸注入ラット、 0. 2N塩酸注入ラット、及び 0. 4N塩酸注入ラット： 塩酸注入から飼育 8日目） 及び対照群ラットについて、 前立腺背側葉 Z体重比、 及び膀胱 Z体重比を示す図である。 発明を実施するための最良の形態

I . 非細菌性前立腺炎モデル動物及びその作製方法

本発明が対象とする非細菌性前立腺炎モデル動物は、 ヒ卜の慢性非細菌性前立 腺炎を反映したヒト以外の病態モデル動物 （非ヒト動物） である。 具体的には、 本発明の非細菌性前立腺炎モデル動物は、 少なくとも、 前立腺組織、 好適には前 立腺及びその周辺組織が、 慢性非細菌性前立腺炎に罹患したヒトの前立腺組織ま たはその周辺組織に認められる病理組織学的特徴、 並びにヒト慢性非細菌性前立 腺炎に特有に認められる下部尿路障害を同様に有するヒト以外の動物である。 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の病理組織学的特徴については、 組織像は慢性炎症 性反応と間質線維の増生とからなり、 小葉周囲にリンパ球、 形質細胞及び大食細 胞の浸潤が認められ、 導管部基底細胞の過形成を伴うことが多いと報告されてい る （外科病理学， 文光堂 （株） ， . 793-794, 1999)。 本発明が対象とする非細菌 性前立腺炎モデル動物は、 具体的には、 少なくとも前立腺の間質部に炎症性細胞 浸潤及び結合組織の増加 （増生） といった特徴を備えているものである。

詳細は後述する実施例に記載するが、 本発明の好適なモデル動物は、 モデル作 製処理 （塩酸注入） 4日目以降に前立腺の間質内に重度の線維芽細胞の増生と線 維ィ匕が観察され、 炎症性細胞浸潤 （マクロファージゃ好酸球等の浸潤） が認めら れている。 当該モデル動物の病理組織像はヒトの慢性非細菌性前立腺炎の組織像 と一致している。 また、 当該モデル動物は、 尿道周辺の前立腺組織まで、 上記障 害が認められ、 そうした繊障害がモデル作製処理 （塩酸注入） の 8日目以後ま で持続する。 しかし、 当該モデル動物は、 前立腺組織及びその周辺組織のみに障 害を有しており、 尿道や膀胱組織に障害は認められない。 ゆえに、 本発明の好適 な非細菌性前立腺炎モデル動物は、 前立腺または前立腺とその周辺組織にヒトの 慢性非細菌性前立腺炎に特徴的に認められる障害を同様に有するものの、 尿道や 膀胱組織といった下部尿路組織には組織障害を有さない非ヒト動物であることが できる。

またヒトにおける慢性非細菌性前立腺炎の病態としては、 下腹部や会陰部の疼 痛、 射精時の不快感、 及び下部尿路障害 （排尿時に関する症状：頻尿などの蓄尿 障害、 及び排尿困難などの排尿障害） などが報告されている。 また、 慢性非細菌 性前立腺炎の診断には、 泌尿 ·生殖器 ·骨盤領域の痛みと排尿症状をスコア化し たものを問診票として用いられている。 中でも慢性非細菌性前立腺炎患者が最も 症状を訴えるのは排尿症状、 特に頻尿症状 （蓄尿障害：排尿間隔の短縮症状） で ある。 これは前立腺に炎症が生じることによって膀胱が過活動性になる （無抑制 膀胱収縮、 不安定膀胱） ことによるものである。 通常は膀胱の知覚は A δ繊維を 介して背髄に伝達されるが、炎症時には C繊維が傷害信号伝達神経として機能し、 Κ δ繊維に C繊維による知覚伝達が加算され知覚過敏となって無抑制膀胱収縮が 発生するとの可能性が報告されている（排尿障害プラクティス， 8: 97-102, 2000) また、 こうした不安定膀胱が神経系の変化を伴っているとの報告もある （排尿障 害プラクティス， 8: 97-102, 2000)

本発明が対象とする非細菌性前立腺炎モデル動物は、 上記ヒト慢性非細菌性前 立腺炎に特徴的に認められる病態 （症状） のうち、 少なくとも下部尿路障害を同 様に有する非ヒト動物である。下部尿路障害のうち、好ましくは、頻尿、尿失禁、 または有効膀胱容量の減少 （1回排尿量の低下） などの症状を有する蓄尿障害で ある。

詳細は後述する実施例に記載するが、 本発明の好適なモデル動物は、 対応する 正常な非ヒト動物に比して、 排尿間隔が短く、 また一回排尿量が少なくかつ残尿 量が多いことが認められている。 当該モデル動物の病態 （症状） は慢性非細菌性 前立腺炎に罹患したヒト患者の下部尿路障害に関わる病態 （症状） と一致してい る。 ゆえに、 本発明の好適な非細菌性前立腺炎モデル動物は、 ヒトの慢性非細菌 性前立腺炎に特徴的に認められる下部尿路障害、 少なくとも頻尿、 有効膀胱容量 の減少（1回排尿量の低下)、または残尿といった蓄尿障害を同様に有する非ヒト 動物であることができる。 なお、 非ヒト動物について上記蓄尿障害、 特に頻尿、 有効膀胱容量 （1回排尿 量)、及び残尿を評価する方法としては、排尿間隔、 一回排尿量、 及び ¾尿量を測 定する方法を例示することができる。 当該方法は、 当業界において 「覚醒下ラッ 卜膀胱内圧'排泄量同時測定法」 や 「シストメトリ一法」 等として既に確立して おり （Am. J. Phys iol. , 251 :R1177, 1986； 神経泌尿器科学研究法， （株） 日本医 学館， P158-165, 2000)、 当該方法に準じて行うことができる。

詳細は実施例において記載するが、 簡単に説明すれば以下の通りである。

①測定対象の非ヒト動物について、 体重測定し、 麻酔薬ウレタンを 1. 0g/kgの用 量で腹腔内投与し麻酔する。 腹部を切開し膀胱を露出する。

②当該非ヒト動物の膀胱内にポリエチレンカテーテルを約 6醒挿入して固定する。

③膀胱内に挿入固定したカテーテルの他端は三方活栓で二分し、 一方はトランス デューサ一を介して圧力アンプで膀胱内圧を測定する。

④カテーテルの他方は、 生理食塩水を注入するため、 生理食塩水保温装置を経由 して生理食塩水を充填した持続注入器に接続する。

⑤当該測定対象の非ヒト動物を伏臥位に固定し、膀胱内に 5. OmL/hrの速度で生理 食塩水 (37°C) を注入し、 経時的に膀胱内圧を測定し記録する。

⑥膀胱から尿管を通じて排泄される尿量 （排尿量） は、 非ヒト動物を収容したケ —ジ直下にデジタル天秤を設置し、 排泄される尿をシャーレ内に累積的にトラッ プしながら、 その重量変化を測定し記録する。

⑦排尿終了時点で膀胱内に貯留している液を吸引し、 これを残尿量とする。

⑧なお、 排尿間隔、 及び一回排尿量の値は、 測定開始 30〜60分の 30分間の膀胱 内圧波形、 排尿量のモニター結果を解析することにより算出する。

ところで、 最近、 膀胱重量の測定は、 臨床において尿閉を予測したり、 下部尿 路閉塞の程度や膀胱の組織学的変化を推測するのに有用であるとの報告がされて いる （排尿障害プラクティス， 8： 41-48, 2000) このことから、 今後、 S旁胱重量 は、 非細菌性前立腺炎を含む前立腺疾患に共通した下部尿路症状の病態の予測因 子としても有用であろうと考えられる。 ゆえに、 本発明の非細菌性前立腺炎モデ ル動物は、より好適には、ヒト慢性非細菌性前立腺炎と同様に、上記繊学的（前 立腺組織障害） かつ病態的特徴 （下部尿路障害） を備えるとともに、 付加的要素 として膀胱重量が対応する正常 （健常） な非ヒト動物に比して増加していること を一つの特徴とすることもできる。 なお、 膀胱重量の増加は、 実施例で具体的に 示すように、 通常、 体重に対する膀胱の重量比 （膀胱 /体重） でもって評価する ことができる。

こうした、 糸 学的及び病態的にヒト慢性非細菌性前立腺炎と同様の特徴を備 え、 また好適には更に膀胱の重量増加が認められる本発明の非細菌性前立腺炎モ デル動物は、 非ヒト動物の前立腺被膜下に塩酸を注入し、 一定期間飼育すること により作製することができる。

ここで当該病態モデル動物の作製のために使用できる非ヒト動物としては、 ヒ ト以外の例えばラット、 ヌードラット、 マウス、 ヌードマウス、 モルモット、 ハ ムス夕一、 ゥサギ、 ィヌ、 ネコ、 サル等の通常実験に汎用される哺乳動物を挙げ ることができる。 好ましくは、 ラット、 ヌ一ドラット、 マウス、 ヌードマウス、 モルモット、 ハムスター、 ゥサギ等のげつ歯動物であり、 より好ましくは操作や 飼育の簡便性からラット、 ヌードラット、 マウス又はヌードマウスを挙げること ができる。 また、 当該動物は、 例えばラット、 マウス、 またはヌードマウス等の 場合、 1 0〜1 2週齢のものを用いることが好ましい。

本発明にて使用される塩酸の濃度としては、 0 . 1〜0. 6 Νを挙げることがで きる。 好ましくは 0 . 2〜0 . 5 Νである。 注入量は、 対象とする非ヒト動物の種 類によっても異なるが、通常 0 . 2 - 0. 3 5 ml/kg体重、好ましくは 0 . 2 5〜0. 3 ml/kg体重を例示することができる。

なお、 前立腺被膜下への塩酸の注入方法は特に制限されない。 簡便には、 例え ば 2 7 G静脈用針装填のデイスポーザカレ注射筒を用いて前立腺皮膜下に注入投 与する方法を挙げることができる。

塩酸は、 前述する非ヒト動物の前立腺被膜下に注入される。 注入部位として具 体的には、 ヒ卜の前立腺炎の好発部位である辺縁部に解剖学的に近似した前立腺 側葉を好適に挙げることができる。

斯くして前立腺被膜下に塩酸が注入された非ヒト動物は、 飼育に供される。 飼 育条件は特に制限されず、 通常の飼育条件を採用してもよいし、 また抗菌条件下 で飼育することもできる。 具体的には、 飼育条件として、 温度 20〜26°C、 相対湿 度 30〜70%、 照明 12時間の明暗サイクル、換気回数 10回以上/時間の飼育室環 境で、 収容動物数 3匹 Zケージで飼育し、 固形飼料の自由摂食、 自動飲水装置か らの自由摂水を例示することができる。

非ヒト動物の飼育期間は、 塩酸注入後、 通常 3日〜 2週間程度であり、 好まし くは塩酸注入から 4日〜 1週間程度である。 その結果、 前立腺被膜下に塩酸が注 入された非ヒト動物の前立腺組織は慢性非細菌性前立腺炎に罹患したヒ卜の前立 腺組織と同様な病理組織学的特徴を備えるようになり、 また当該非ヒト動物は、 慢性非細菌性前立腺炎ヒト患者に特徴的に認められる病態 （症状） である下部尿 路障害 （特に頻尿、 一回排尿量の低下、 残尿などの蓄尿障害） を備えている。 斯くして作製された非ヒト動物を、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎を模倣した非細 菌性前立腺炎モデル動物として提供することができる。 当該ヒト慢性非細菌性前 立腺炎を模倣したより好適な非細菌性前立腺炎モデル動物は、 塩酸注入し飼育 8 曰経過後の非ヒト動物である。

当該非細菌性前立腺炎モデル動物はヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療の為の有 効物質の探索、 並びに個々の被験物質または被験薬物についてヒト慢性非細菌性 前立腺炎に対する治療効果を評価するのに有効に用いることができる。

Π . ヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療有効成分のスクリ一ニング方法

本発明は、 上記のヒト慢性非細菌性前立腺炎を模倣した非細菌性前立腺炎モデ ル動物を用いて、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療に有効な物質をスクリーニン グする方法に関する。

具体的には、 当該方法は、 前述する非細菌性前立腺炎モデル動物に被験物質を 投与し、 該被験物質について、 非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺組織におけ る &ϋ障害又は下部尿路障害の 1方または両方に対する改善効果を検定すること によって実施することができる。

対象とする非細菌性前立腺炎モデル動物は、 前述するものである限りにおいて 特に制限されない。 好適にはラット、 ヌ一ドラット、 マウス又はヌードマウス、 より好ましくはラットである。 これらは、 塩酸注入後 4日以上、 好ましくは 4日 〜1週間程度飼育したもの、 より好ましくは飼育 8日経過後のものを好適に用い ることができる。

なお、 ここで用いられる被験物質は、 特に制限されず、 低分子有機又は無機化 合物、 高分子有機又は無機化合物、 核酸、 アミノ酸、 ペプチドまたは蛋白質のい ずれをも対象とすることができる。また、これらは精製物であっても、また植物、 動物または微生物等の抽出物等のように粗精製物であってもよい。 また被験物質 の製造方法も特に制限されず、 天然物から単離されたものであっても、 化学的ま たは生化学的に合成されたものであつても、 また遺伝子工学的に調製されたもの であってもよい。

また非細菌性前立腺炎モデル動物に対する被験物質の投与方法も特に制限され ない。 投与する被験物質の種類に応じて、 経口投与、 または皮下、 皮内、 静脈、 経皮若しくは経腸 （直腸） などの非経口投与を適宜選択することができる。 好ま しくは経口投与である。

被験物質のヒト辑性非細菌性前立腺炎に対する治療効果は、 当該被験物質につ いて、 非細菌性前立腺炎モデル動物に対する前立腺組織 （または前立腺及びその 周辺組織） における組織障害または下部尿路障害のいずれか少なくとも 1方に対 する改善効果を検定することによって評価することができる。 具体的には、 被験 物質をモデル動物に投与後、 一定期間飼育した後に、 当該モデル動物について、 前立腺組織 （または前立腺及びその周辺組織） を観察して病理組織学的特徴を評 価したり、 また膀胱機能 （排尿量、 排尿頻度、 残尿量など） を測定することによ つて、モデル動物が当初有していた前立腺組織ほたは前立腺及びその周辺組織） における組織障害または下部尿路障害が改善されているかどうかを評価すること によって実施することができる。 なお、 本発明のスクリーニング方法は、 上記組 織障害または下部尿路障害のいずれか一方の改善の有無を評価することによって も行うことができるが、 両方の改善の有無を評価することが望ましい。

さらに上記の検定に加えて、 モデル動物の膀薩量を測定し、 膀胱の重量増加 の抑制効果を改善の指標の一つとすることもできる。

なお、 病理組織の評価は、 対象とする組織をへマトキシリン ·ェォジン （H. E. )で染色して β標本スライドを作成し、 これを光学顕微鏡を用いて観察倍率 20〜100倍で観察することによって行うことができる。 具体的には、 被験モデル 動物の前立腺組織 ほたは前立腺及びその周辺繊） を光学顕微鏡で観察し、 そ の病理組織学的な変化を正常な非ヒト動物の対応する臓器 〔前立腺組織 （または 前立腺及びその周辺組織)〕 と比較する。 この際、病理グレードの評価基準〔ダレ —ド （障害度）： 1：変化なし [正常非ヒト動物の組織 (正常組織)と比べて変化が ない]、 2 ：軽微 [正常組織と比較して初めて変化が分かる程度]、 3 ：軽度 [組 織障害が 1/4程度]、 4：中等度 章害が 1/2程度]、 5 ：重度 [明らかに組 織障害が 1/2以上])を指標として、被験モデル動物の病理組織の評価を行うこと ができる。 組織障害の改善効果の有無は、 被験モデル動物について上記グレード (障害度）の変動により判定することができる（グレードの低下：改善効果あり、 グレードの上昇：改善効果なし)。

こうして、 被験物質投与前の非細菌性前立腺炎モデル動物が備える前立腺 障害及び/又は下部尿路障害を改善して、 対応する正常な非ヒト動物が備える前 立腺組織 （組織像） 及び膀胱機能に近づける効果を有する被験物質を、 また好適 にはさらに膀胱重量の増大ィ匕を抑制する効果を有する被験物質を、 ヒト慢性非細 菌性前立腺炎の治療に有効な物質として選択することができる。

具体的には、 かかる治療有効物質の選択は、 被験物質を投与しない対照の非細 菌性前立腺炎モデル動物 （比較動物） について、 同様に、 一定期間飼育後、 前立 腺組織 （または前立腺及びその周辺組織） の組織障害及び Z又は膀胱機能、 さら に必要に応じて膀胱重量を測定し、 それらの結果と被験物質を投与して一定期間 飼育した被験動物について得られる上記結果とを対比することによつても行うこ とができる。 その結果、 当該被験動物の前立腺組織等の組織 P章害及び Z又は膀胱 機能に改善効果が認められるか、 または被験動物の前立腺組織及び Z又は膀胱機 能、 さらに膀胱重量 （膀胱 Z体重の重量比） を正常な非ヒト動物のそれらに、 よ り近づける効果を奏する被験物質を治療有効物質として選択することができる。 斯くして選別される物質は、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療薬の有効成分と して有用に用いることが可能である。

なお、 前述する本発明のスクリーニング方法により、 選抜されるヒト慢性非細 菌性前立腺炎の治療有効物質は、 必要に応じて、 さらに他の薬効試験や安全性試 験などを行うことにより、 またさらにヒト慢性非細菌性前立腺炎患者への臨床試 験を行うことにより、 より効果の高い、 また実用性の高い治療有効物質を選別す ることができる。

このようにして選別される治療有効物質は、 さらにその構造解析結果に基づい て、 化学的合成、 生化学的合成 （発酵） または遺伝子学的操作によって、 工業的 に製造することもできる。

ΙΠ. ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防有効成分のスクリ一ニング方法

本発明は、 さらにヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防に有効な物質をスクリ一二 ングする方法に関する。

当該方法は、 前述する本発明の非細菌性前立腺炎モデル動物の作製過程におい て得られる、 前立腺炎未発生のいわゆる予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物を被 験動物として用いることによって実施することができる。

具体的には、 予備 .非細菌性前立腺炎モデル動物は、 上記非細菌性前立腺炎モ デル動物の作製と同様に、 非ヒト動物の前立腺被膜下、 好ましくは前立腺側葉被 膜下に、 前述する方法で塩酸を注入することによって作製することができる。 塩 酸注入直後もしくは初期の、 前立腺炎未発生の状態の非ヒト動物を、 ここでいう 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物として規定することができる。

前立腺炎未発生とは、 具体的には、 前述する非細菌性前立腺炎モデル動物に認 められる特有の前立腺組織または前立腺及びその周辺組織における組織障害が実 質的に生じていない状態、 さらに下部尿路障害が実質的に生じていない状態を意 味する。

通常、 塩酸注入直後もしくは注入から飼育 4日未満の非ヒト動物を利用するこ とができる。

本発明の方法は、当該予備'非細菌性前立腺炎モデル動物に被験物質を投与し、 該被験物質について、 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺組織 （または 前立腺及びその周辺組織） における組織障害の発生、 または下部尿路障害の発生 の少なくとも 1方に対する抑制効果を検定することによって実施することができ る。

ここで用いられる被験物質、及びその投与方法としては、 ( 2 )において前述す るもの、 及び方法を同様に挙げることができる。

被験物質のヒト慢性非細菌性前立腺炎に対する予防効果は、 当該被験物質の予 備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物に対する前立腺組織 （または前立腺及びその周 辺組織） における組織障害の発生抑制効果、 及び/又は下部尿路障害の発生抑制 効果から評価することができる。 具体的には、 予備'非細菌性前立腺炎モデル動 物に被験物質を投与後、 一定期間 （ラットの場合 1週間程度） 飼育した後に、 当 該モデル動物について、 前立腺組織 （または前立腺及びその周辺繊） を観察し て病理組織学的特徴を評価したり、 また膀胱機能 （一回排尿量、 排尿頻度、 残尿 量など） を測定することによって、 非細菌性前立腺炎モデル動物で認められる組 織障害や下部尿路障害を生じていないかどうかを評価することによつて実施する ことができる。 なお、 本発明のスクリーニング方法は、 上記組織障害または下部 尿路障害のいずれか一方の発生の有無 （発生抑制効果） を評価することによって も行うことができるが、 両方とも評価することが望ましい。

さらに上記に加えて、 S旁胱の重量を測定し、 膀胱の重量が増加していないこと を予防の指標の一つとすることもできる。

なお、病理組織の評価は、 （2 )において前述する方法を同様に使用することが できる。組織障害の予防効果の有無は、被験モデル動物について上記グレード（P章 害度）の変動により判定することができる（グレードの上昇なし：予防効果あり、 グレードの上昇あり ：予防効果なし)。

被験モデル動物 （予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物） に対して、 非細菌性前 立腺炎モデル動物が備える前立腺組織 （または前立腺及びその周辺組織） の組織 障害及び Z又は下部尿路障害の発生を抑制して、 モデル動物に対応する正常な非 ヒト動物が備える前立腺組織 （組織像） 及び膀胱機能を維持する効果を有する被 験物質を、 また好適にはさらに膀胱重量の増大化を抑制する効果を有する被験物 質を、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防に有効な物質として選択することができ る。

具体的には、かかる予防有効物質の選択は、被験物質を投与しない対照の予備 · 非細菌性前立腺炎モデル動物 （比較動物） について、 同様に、 一定期間飼育後、 前立腺組織 （または前立腺及びその周辺組織） の組織障害及び Z又は膀胱機能、 さらに必要に応じて膀胱重量を測定し、 それらの結果と被験物質を投与して一定 期間飼育した被験動物について得られる上記結果とを対比することによつても行 うことができる。 その結果、 当該被験動物の前立腺組織及び Z又は膀胱機能、 及 ぴ必要に応じて膀胱重量 （S旁胱 /体重の重量比） を、 正常な非ヒト動物の前立腺 組織及び/又は膀胱機能の状態、 さらに必要に応じて膀胱重量 （膀胱/体重の重 量比） の状態またはそれに近い状態に、 維持させる効果を奏する被験物質を選択 することによって実施することができる。

斯くして選別される物質は、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防薬の有効成分と して有用に用いることが可能である。

なお、 前述する本発明のスクリーニング方法により、 選抜されるヒト慢性非細 菌性前立腺炎の予防有効物質は、 必要に応じて、 さらに他の薬効試験や安全性試 験などを行うことにより、またさらにヒトに対するの臨床試験を行うことにより、 より効果の高い、 また実用性の高い予防有効物質として選別することができる。 このようにして選別される予防有効物質は、 さらにその構造解析結果に基づい て、 化学的合成、 生化学的合成 （発酵） または遺伝子学的 作によって、 工業的 に製造することもできる。

IV. ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防または治療のための医薬組成物

上記のスクリーニングによって得られるヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療また は予防に有効な物質は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体 (賦 形剤、 増量剤、 結合剤、 滑沢剤などが含まれる） や慣用の添加剤などと混合して 医薬組成物として調製することができる。

本発明はかかるヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療または予防のための医薬組成 物を提供する。 なお、 これらの有効成分は、 上記方法により選別され直接取得さ れたものに限定されず、 上記で選別された物質に関する情報に基づいて常法に従 つて化学的、 生化学的あるいは遺伝子工学的手法により製造されるものであって もよい。

当該医薬組成物は、 調製する形態 （錠剤、 丸剤、 カプセル剤、 散剤、 顆粒剤、 シロップ剤；注射剤、 点滴剤、 外用剤、 坐剤） 等に応じて経口投与または非経口 投与することができる。 また投与量は、 有効成分の種類、 投与経路、 投与対象ま たは症状などによって異なり一概に規定できないが、 1日 0 . 0 0 0 1〜5 g程度 を、 1日 1〜数回にわけて投与することができる。 V. 被験薬物のヒト慢性非細菌性前立腺炎の改善に対する薬効評価方法

本発明は、 上記のヒト慢性非細菌性前立腺炎を模倣した非細菌性前立腺炎モデ ル動物を用いて、 被験薬物についてヒト慢性非細菌性前立腺炎の改善 ·治療に対 する薬効を評価する方法に関する。

具体的には、 当該方法は、 前述する非細菌性前立腺炎モデル動物に被験薬物を 投与し、 該被験薬物について、 非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺繊 （また は前立腺及びその周辺組織） における組織障害に対する改善効果 （治療効果） ま たは下部尿路障害に対する改善効果 （治療効果） の少なくとも 1方を評価するこ とによつて実施することができる。

対象とする非細菌性前立腺炎モデル動物は、 上記 ( 3 ) において前述する非ヒ ト動物を同様に用いることができる。

ここで被験薬物として用いられる薬物は、 効果の程度を問わず、 ヒト慢性非細 菌性前立腺炎に対する改善効果 （治療効果） が認められるものであればよく、 医 薬品の形態を採るものに限定されない。 ゆえに低分子の有機又は無機化合物、 高 分子の有機又は無機化合物、 核酸、 アミノ酸、 ペプチドまたは蛋白質のいずれを も対象とすることができる。 また、 これらは精製物であっても、 また植物、 動物 または微生物等の抽出物等のように粗精製物であってもよい。 また取得の別を問 わず、 天然物から単離されたものであっても、 化学的または生ィ匕学的に合成され たものであっても、 また遺伝子工学的に調製されたものであってもよい。

また非細菌性前立腺炎モデル動物に対する被験薬物の投与方法も特に制限され ない。 投与する被験物質の種類に応じて、 経口投与または皮下、 皮内、 静脈、 経 皮若しくは経腸 （直腸） などの非経口投与を適宜選択することができる。 好まし くは経口投与である。

被験薬物のヒト慢性非細菌性前立腺炎の改善に対する薬効評価は、 当該被験薬 物について、 非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺組織 （または前立腺及びその 周辺組織） における 障害に対する改善効果、 または下部尿路障害に対する改 善効果のいずれか少なくとも 1方を検定することによって評価することができる。 具体的には、 被験薬物を非細菌性前立腺炎モデル動物に投与後、 一定期間飼育し た後に、 当該モデル動物について、前立腺組織ほたは前立腺及びその周辺組織） を観察して病理組織学的特徴を評価したり、 また膀胱機能 （排尿量、 排尿頻度、 残尿量など） を測定することによって、 当該モデル動物の組織障害や下部尿路障 害に対する改善の度合いを評価することによって実施することができる。 なお、 組織障害や下部尿路障 の改善の度合いは、両方とも評価することが望ましいが、 いずれか一方を評価してもよい。

さらに上記の検定に加えて、 モデル動物の膀胱重量を測定し、 膀胱の重量増加 の抑制の度合いを薬効評価の 1つの指標とすることもできる。

なお、 組織障害の改善の度合いは、 例えば、 上記 ( 3 ) において前述する病理 グレードの評価基準〔グレード （障害度）： 1 ：変化なし [正常非ヒト動物の組織 (正常組織)と比べて変化がない]、 2：軽微 [正常組織と比較して初めて変化が分 かる程度]、 3：軽度 [組織障害が 1/4程度]、 4：中等度 [組織障害が 1/2程度]、 5 ：重度 [明らかに繊障害が 1/2以上]〕 に従って評価することもできる。 被験薬物のヒト慢性非細菌性前立腺炎の改善に対する薬効評価は、 ヒト慢性非 細菌性前立腺炎に対する治療効果及びその程度が公知である 1または 2以上の薬 物を比較薬物として用いて、 当該比較薬物の非細菌性前立腺炎モデル動物に対す る改善効果 （組織障害及び下部尿路障害に対する改善効果、 必要に応じて膀胱重 量の増加抑制効果） と対比することによって、 より簡便に実施をすることができ る。 なお、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎に対する治療効果が公知の薬物としては、 ニューキノロン薬（例えば、 sparf loxacin (スパラ）、 levof laxacin (クラビット） 等)、テトラサイクリン系抗菌薬 (例えば、ミノサイクリン、ドキシサイクリン等)、 非ステロイド系抗炎症薬（例えば、イブプロフェン、インドメタシン等)、植物製 剤（例えばセルニルトン、 ェビプロスタツト、 パラプロスト等)、 漢方薬（例えば 桂枝茯苓丸、 四物湯等） を例示することができる。

VI. '被験薬物のヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価方法 本発明は、 薬物についてヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効を評価 する方法に関する。

当該方法は、 上記 （1 ) 及び （4) において前述する本発明の非細菌性前立腺 炎モデル動物の作製過程において得られる、 前立腺炎未発生のいわゆる予備 ·非 細菌性前立腺炎モデル動物を被験動物として用いることによって実施することが できる。

本発明の方法は、当該予備'非細菌性前立腺炎モデル動物に被験薬物を投与し、 該被験薬物について、 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺組織 （または 前立腺及びその周辺組織） における組織障害の発生抑制効果（予防効果)、又は下 部尿路障害の発生抑制効果 （予防効果） の少なくとも 1方を評価することによつ て実施することができる。

ここで用いられる被験薬物は、 効果の程度を問わず、 ヒト慢性非細菌性前立腺 炎に対する予防効果 （発生抑制効果） が認められるものであればよく、 医薬品の 形態を採るものに限定されない。 ゆえに低分子の有機または無機化合物、 高分子 の有機または無機化合物、 核酸、 アミノ酸、 ペプチドまたは蛋白質のいずれをも 対象とすることができる。 また、 これらは精製物であっても、 また植物、 動物ま たは微生物等の抽出物等のように粗精製物であつてもよい。 また取得の別を問わ ず、 天然物から単離されたものであっても、 化学的または生化学的に合成された ものであっても、 また遺伝子工学的に調製されたものであってもよい。 その投与 方法としては、 （5 ) において前述する方法を同様に挙げることができる。

被験薬物のヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価は、 前述するよ うに、 当該被験薬物について、 予備'非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺組織 (または前立腺及びその周辺組織） における組織障害発生抑制効果、 及び Z又は 下部尿路障害の発生抑制効果を検定することによって評価することができる。 具 体的には、 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物に被験薬物を投与後、 一定期間飼 育した後に、 当該モデル動物について、 前立腺組織 （または前立腺及びその周辺 組織） を観察して病理組織学的特徴を評価したり、 また膀耽機能 （一回排尿量、 排尿頻度、 残尿量など） を測定することによって、 当該モデル動物の MI戠障害や 下部尿路障害の発生抑制度合いを評価することによって実施することができる。 なお、 組織障害や下部尿路障害の発生抑制度合いの I 面は、 両方とも評価するこ とが望ましいが、 いずれか一方を評価することによつて行つても良い。

さらに上記に加えて、 モデル動物の膀胱重量を測定し、 膀胱の重量増加の抑制 度合いを薬効評価の指標の一つとすることもできる。

なお、 組織障害の発生抑制の度合いは、 例えば、 上記 ( 3 ) において前述する 病理グレードの評価基準〔グレード （障害度）： 1 ：変化なし [正常非ヒト動物の 組織 (正常組織）と比べて変ィヒがない]、 2：軽微 [正常組織と比較して初めて変化 が分かる程度]、 3 ：軽度 [組織障害が 1/4程度]、 4：中等度 [組織障害が 1/2 程度]、 5 ：重度 [明らかに組織障害が 1/2以上]〕 に従って評価することもでき る。

被験薬物のヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価は、 ヒト慢性非 細菌性前立腺炎に対する予防効果及びその程度が公知である 1または 2以上の薬 物を比較薬物として用いて、 当該比較薬物の予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物 に対する予防効果 （繊障害及び/又は下部尿路障害に対する予防効果、 必要に '応じて膀胱重量の増加抑制効果） と対比することによって、 より簡便に実施をす ることができる。 なお、 ここでヒト慢性非細菌性前立腺炎に対する予防効果のあ る薬物としては、 植物製剤 （例えば、 セルエルトン、 ェビプロス夕ット、 パラブ ロスト等)、 漢方薬 （例えば桂枝茯苓丸、 四物湯等） を例示することができる。 実施 例

以下、 本発明をより詳細に説明する為に実施例を記載する。 但し、 当該実施例 は、 本発明の実施態様の一つであり、 本発明はかかる実施例によって何ら制限さ れるものではない。

実施例 1

1 ) モデル動物の作製

1-1) 病理組織学的評価のためのモデル動物

12週齢の Wis tar系雄性ラット 18匹を 3群（被験群、比較群、及び陰性対照群： 各群 6匹ずつ） にわけた。 被験群はエーテル麻酔下で右鼠径部を切開し、 露出し た前立腺の右側葉被膜下に、滅菌処理した 0. 4Nの塩酸生理食塩水（0. 4N濃度に なるように塩酸を生理食塩水で調製したもの。 以下同じ。） を 100 l注入した。 また、 比較群は同様にエーテル麻酔下で右鼠径部を切開し、 露出した右輸精管内 に精嚢方向に 0. 4Nの塩酸生理食塩水を 100 l注入した。 それらは、 その後、 縫合糸で腹膜及び皮膚を縫合した。 尚、 手術による感染防止のために、 切開部に カナマイシン含有水溶液を噴霧し、 またセファゾリンナトリウム含有生理食塩水 を 7 mg/kg体重の割合で大腿部筋肉内に注射した。 さらに、 対照群として、 切開 術も塩酸注入も行わない未処置のラット （正常ラット） を設定した。

1-2) 膀胱機能 （下部尿路障害の有無） 測定のためのモデル動物

12週齢の Wis tar系雄性ラット 9匹 （被験群） を 3群 〔0. 1N塩酸注入群 (n=3)、 0. 2N塩酸注入群 (n=4)、 0. 4N塩酸注入群 (n=2)〕 に分けた。 上記卜 1)と同様に、 これをエーテル麻酔下で右鼠径部を切開し、 露出した前立腺の右側葉被膜下に、 各群に対して滅菌処理した 0. 1、 0. 2または 0. 4Nの塩酸生理食塩水をそれぞれ 100 lずつ注入した。 また、 比較のため、上記卜 1)と同様にして、 12週齢の Wis tar 系雄性ラット 4匹 （比較群） の右輸精管内に 0. 4Nの塩酸生理食塩水を 100 n \ 注入した。 さらに対照群として、 12週齢の Wis tar系雄性ラット 4匹に、 上記被 験群に対する塩酸注入に代えて、 前立腺の右側葉被膜下に塩酸と同容量の生理食 塩水を注入して塩酸非注入処理ラット （偽手術ラット（sham) ) を作製した。 その 後、 縫合糸で腹膜及び皮膚を縫合した。 尚、 手術による感染防止のために、 切開 部にカナマイシン含有水溶液を噴霧し、 またセファゾリンナトリウム含有水溶液 を 7mg/kg体重の割合で大腿部筋肉内に注射した。

次いで、 1-1)及び 1-2)において、各々作製した各群のラットを下記の条件で飼 育した。

く飼育条件〉

· ステンレス製ラッ トブラケッ トケージの R- IS タイプ （サイズ： 260 X 380 X 180mm：日本クレア株式会社製） に、 1ケージ 3匹ずつ収容。

•飼育室環境： S P F (Speci f ic pathogen-free)飼育施設内で、温度 20〜26°C、 相対湿度 30〜70%、照明は午前 6時点灯 ·午後 6時消灯の 12時間明暗サイクル、 換気回数は 10回以上/時間 '飼料及び水投与：滅菌した固型飼料（CE_2、 日本ク レア株式会社） 及び紫外線殺菌装置にて殺菌した水道水を自動吸水装置により自 由摂取。

2 ) 病理組織学的評価

上記卜 1)で作製した各群のラット （被験群、 比較群、 及び対照群） について、 前立腺、 膀胱及び尿道を採取し、 各組織標本を作製して組織の変化を評価した。 具体的には、 上記被験群及び比較群の各ラットについて塩酸注入から 6時間後 (各群 2匹)、 4日後 （各群 2匹)、 および 8日後 （各群 2匹） の各時点で、 ェ一 テル麻酔下で放血させることによって安楽死させ、 前立腺、 膀胱、 及び尿道組織 を一つの塊として採取し、 各組織を 4 %パラホルムアルデヒドにて固定した。 ま た、 対照群のラットについても同様に処理した。

次いで固定化した糸1¾を OCT compound (Tissue-Tek 0. C. T. compound [Sakura Finetechnical Co. , Ltd. , ] ; 10. 24w/w%ポリビニルアルコ一ル、 4. 26w/w% ポ リエチレングリコ^ "ル、 85. 50 w/w%非活性成分） で処理して凍結ブロックを作製 した。次いで、 それをクリオス夕ットで厚さ 5〜6 rnとなるように切断して組織 切片のスライド標本を作製した。 そして、 該スライド標本をへマトキシリン-ェ ォジン (H. E)で染色し、 顕微鏡で組織の様子を観察した。

2-1) 前立腺被膜下塩酸注入ラット

0. 4 Nの塩酸生理食塩水を 100 1、右側葉被膜下に注入したラット （被験群： 前立腺被膜下塩酸注入ラット） について、 塩酸注入から 6時間後、 4日後、 およ び 8日後に観察評価した前立腺組織の所見を、 対応する対照群 （塩酸非注入処理 ラット） の組織所見と併せて図 1 (前立腺長軸面の所見） 及び図 2 (前立腺横軸 面の所見）に示す。なお、各図中、標本番号 Nは対照群（塩酸非注入処理ラット）、 Pは被験群 （前立腺被膜下塩酸注入ラット） の組織標本をそれぞれ示す。

この結果からわかるように、 前立腺側葉に 0. 4 Nの塩酸を注入したラットの前 立腺組織 （標本番号： P) は、 注入 6時間目で前立腺背側葉の腺腔において、 軽 度（+)〜中等度（++)〜重度 (HI) の程度で、腺上皮細胞の脱落、上皮の剥離、 変性壊死、 及び赤血球の存在が認められた [図 l ( a)、 図 2 ( a) ]。 また、 前立腺 背側葉の間質内に軽度（+)〜中等度（++) の限局性の出血及び神経細胞虎斑融解 が認められた [図 2 ( a) ]。また塩酸注入から 4日目になると該腺腔及びその周辺 からの出血並びに腺腔萎縮も認められ、 さらに前立腺背側葉の間質内に中等度

(H) 〜重度 の線維芽細胞の増生及び線維化、 並びに炎症性細胞浸潤 （マ クロファ一ジ、 好酸球等の浸潤）が認められた [図 l (b)、 図 2 (b) ]。 このよう に上記卜 1)で作製した被験群のラットは重篤な前立腺組織障害を発症しており、 その障害は塩酸注入から 8日経過した時点でも保持されていた [図 1 ( c；)、 図 2 ( c ) ]。また、塩酸注入から 8日後に採取した組織の、前立腺側葉及び尿道周辺組 織の長軸切片の繊画像を図 3 (原本：カラー図） に、 前立腺側葉腺腔及び神経 細胞群の組織画像を図 4 (原本：カラー図）に示す。この結果からわかるように、 前立腺被膜下に塩酸を注入した被験群については、 前立腺の腺腔壁 固壊死が観 察されるほど、 重篤な組織障害が生じており、 尿道周辺の前立腺組織まで影響を 及ぼすことがわかった（図 3 )。さらに前立腺に付随あるいは内在する神経細胞群 にも一部組織障害 （虎斑融解） が生じていることが確認された （図 4)。

一方、 尿道及び膀胱組織については、 前立腺から尿道を経由して組織障害を与 えた形跡は認められなかった。 このことから、 本発明のモデル動物 （被験群） は ほぼ前立腺組織のみに障害を有しており、 純粋な化学物質誘発前立腺炎モデルで あると考えられた。

2-2) 輸精管内塩酸注入ラット （比較群）

0.4 1^の塩酸生理食塩水を100 / 1、 輸精管内に注入したラット （比較群） につ いて、 注入から 6時間後、 4日後、 および 8日後に観察評価した前立腺組織、 精 管膨大部腺組織及び輸精管組織などの所見を図 1 (長軸面の所見） 及び図 2 (横 軸面の所見） に併せて示す。 各図中、 標本番号 Yが当該比較群 （輸精管内塩酸注 入ラット） の組織標本を示す。 この結果からわかるように、 輸精管内に 0. 4 Nの 塩酸生理食塩水を注入したラットは、 注入 6時間目で前立腺背側葉の腺腔におい て重度 (+H) の上皮脱落 [図 1 ( a)参照]、 及び間質に重度（+++) の限局性出血 が認められた [図 2 ( a)参照]。 しかし、注入から 4日経過したラットには前立腺 組織障害は認められなかった [図 1 (b)及び図 2 (b)参照]。

一方、 精管膨大部腺組織に関しては、 塩酸注入 6時間目で腺腔における重度 ( +) の上皮脱落、 変性壊死及び出血 [図 1 ( a) ]、 及び間質に重度（+++) の出 血が認められた [図 l ( a)、 図 2 ( a) ]。 しかし、塩酸注入から 4日以上経過した ラットには当該精管膨大部腺組 ϋの障害は認められず、 腺腔内に出血を思わせる 軽度の赤血球の存在及び軽微な上皮細胞の脱落、 及び間質に軽度な炎症性細胞湿 潤及び軽微な線維化のみが観察された [図 1 (b)、 （c )、 図 2 (b)、 （c ) ]。 3 ) 膀胱機能 （下部尿路障害の有無） の測定

1-2) の方法に従って、 12週齢の Wis tar系雄性ラット （3群） の前立腺の右側 葉被膜下に、各群それぞれに対して滅菌処理した 0. 1、 0. 2または 0.4Nの塩酸生 理食塩水を 100 lずつ注入し、 上記と同じ条件で 8日間飼育した。 斯くして作 製したラットについて、 排尿間隔、 一回排尿量、 残尿量、 並びに体重に対する前 立腺腹葉、 前立腺背側葉及び膀胱の重量比 （前立腺腹葉 Z体重、 前立腺背側葉 Z 体重、 及び膀胱 Z体重） を調べ、 膀胱機能 （下部尿路障害の有無） 等を評価した (被験群 )。

具体的には、 塩酸注入後、 飼育 8日目に、 体重を測定した後、 ウレタン麻酔下 (lg/kg i. p. ) でラットを仰臥位に固定し下腹部を剃毛し、 開腹後、 腹腔内より 膀胱を露出した。 膀胱頂部を小切開し、 ポリエチレンカテ一テル (PE- 50 :日本べ クトン 'ディッキンソン（株））を約 6腿挿入して切開部を縫合し固定した。 fl旁胱 内に挿入固定した力テ一テルの他端は三方活栓を介して二分し、 一方を膀胱内圧 を測るために、 トランスデューサー （ディスポ一ザブル血圧モニタリング用ライ フキット DX- 360、 日本光電 （株)） を介して圧力アンプ （日本電気三栄, 2238) に 接続し、他方を膀胱内に生理食塩水を注入するために、生理食塩水保温装置 (BLOOD WATER T -90, T0RAY (株)） を経由して持続注入器 （テルフージョンシリンジポン プ STC_521、テルモ（株)）に接続した。ラットをポーリ.レマンケージ（山下技研 (有)） 内に伏臥位に固定し、膀胱内に約 37°Cに保温した生理食塩水を一定速度 (5 mL/hr) で持続注入した。

膀胱内への生理食塩水の注入開始 30〜60分の 30分間にわたって膀胱内圧波形 及び排尿量を測定し、 その内圧波形及び排尿量の重量変化より、 排尿間隔、 及び 一回排尿量を解析評価した。 なお、 膀胱内圧は、 MacLabシステム （専用解析ソフ ト PowerLab/MacLac Chart v3. 6s (AS Instruments Pty Ltd)) を用いて記録した。 また排尿量は、 ケージ直下にデジタル天秤 （HF- 200、 エー ·アンド 'ディ （株)） を設置し、 尿をシャーレ内に累積的にトラップし、 その重量変化を上記と同様に MacLabASシステムを用いて記録した。

排尿間隔は、 具体的には下記のようにして測定することができる。 すなわち、 膀胱内に生理食塩水を一定速度で注入すると、 内圧が徐々に高まり、 ある閾値を 超えると内圧が急角度で立ち上がり、 ピークを迎えて排尿を行い、 排尿後その内 圧は急下降する (排尿反射)。注入を持続的に行うとこうした排尿反射を繰り返す。 その膀胱内圧のピーク （最大膀胱収縮圧） からピーク （最大膀胱収縮圧） の間の 時間を排尿間隔として評価する。 また一回排尿量は、 ラット直下に設置した電子 天秤の排尿時に変化する尿重量の値から読みとり評価する （神経泌尿器科学研究 法， （株） 日本医学館， p. 158-165, 2000)。 さらに残尿量は、 排尿終了時点に注射 筒を用いて、 膀胱内に貯留している尿を吸引してその重量から評価する。

また、 測定後、 前立腺腹葉、 前立腺背側葉、 及び膀胱を取り出して、 それらの 重量を測定した。 ，

なお、 対照実験として、 12週齢の Wis tar系雄性ラットの前立腺の右側葉被膜 下に、 塩酸生理食塩水に代えて生理食塩水 100 1を注入して同様に 8日間飼育 した対照群 （偽手術ラット（sham)) を用いて、 上記と同様にして膀胱機能 （下部 尿路障害の有無） を評価した。

結果を図 5 (排尿間隔、 一回排尿量)、 図 6 (残尿量、 前立腺腹葉 Z体重)、 及 び図 7 (前立腺背側葉 Z体重、 膀胱 Z体重） に示す。 その結果、 被験群 （0. 1N塩 酸注入ラット、 0. 2 N塩酸注入ラット、 0.4 N塩酸注入ラット） はいずれも、 排尿 間隔及び一回排尿量が対照群に比して顕著に低値を示した（図 5 )。また残尿量に 関しては、 被験群は、 （UN塩酸注入ラットを除いて、 対照群に比して顕著に高値 を示した （図 6 )。 さらに、 体重当たりの前立腺腹葉及び膀胱の重量に関しては、 被験群は対照群に比して同等若しくは有意に高値を示した （図 6、 図 7 )。 上記被験群の膀胱機能障害に関する結果から、 次のことが考えられる。

第一に、 0. 1Nの低濃度の塩酸を用いた場合でも比較的長期間にわたり膀胱機能障 害が持続したことから、 前立腺側葉に塩酸を注入する本発明の方法は、 膀胱機能 に与える影響が非常に大きいと考えられる。 第二に、 注入する塩酸濃度の違いに より、 被験群で膀胱機能のパラメータ値に違いが生じることから、 塩酸濃度を調 節することにより、 目的別の非細菌性前立腺炎モデル動物を作製することが可能 であると示唆される。 例えば 0. 1 N塩酸注入ラットは、 対照群ラットと同等の結 果であることから判断して残尿がなく、 また排尿間隔及び一回排尿量が最も低値 を示したことから、 膀胱刺激症状を主とした非細菌性前立腺炎モデルである可能 性がある。 また、 0. 2N塩酸注入ラットは、 残尿量が少し多く認められ、 0. 1 N塩 酸注入ラットほどではないものの、 排尿間隔及び一回排尿量は対照群ラットに比 して低値を示していることから、 下部尿路通過障害を伴った非細菌性前立腺炎モ デルであると考えられる。更に、 0. 4N塩酸注入ラットは、残尿量が最も多く認め られ、 0. 2N塩酸注入ラットよりも一回排尿量が低下していることから、下部尿路 通過障害が、 より高度になつた非細菌性前立腺炎モデルである可能性が考えられ る。

また、 体重に対する前立腺重量 （腹葉 ·側葉） 及び膀胱重量の比率に関する結 果から、 被験群 （本発明のモデル動物） の膀胱は注入する塩酸の濃度依存的に重 量増加を示した。 一方、 前立腺については塩酸濃度と重量変化 〔前立腺重量の増 加（前立腺肥大）あるいは前立腺萎縮〕との間に一定の関係は認められなかった。 これらのことから、 注入する塩酸濃度の違いにより、 前立腺組織の器質変化、 あ るいは前立腺に内在する神経系に対する影響の度合いが変化し、 下部尿路通過障 害の程度の変化 (残尿量の変化)が膀胱重量に反映している可能性が考えられる。 産業上の利用可能性

本発明が提供する非細菌性前立腺炎モデル動物 （非ヒト動物） は、 前立腺の病 理組織学的変化およぴ 部尿路障害の有無、 また好ましくは更に膀胱重量の増加 の点から、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の病態を模倣した病態モデル動物である。 従って、 当該モデル動物によれば、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防または治療 に有効な物質を探索及び選別に有効に禾 IJ用することができる。 また、 当該モデル 動物によれば、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防または治療薬の薬効評価に有効 に利用することができる。 すなわち、 本発明が提供する非細菌性前立腺炎モデル 動物 （非ヒト動物） は、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防又は治療薬の開発に有 効に使用することができる。

Claims

請求の範囲

1 . 前立腺被膜下に塩酸を注入することにより作製される非ヒト動物であって、 前立腺組織にヒト慢性非細菌性前立腺炎に特徴的に認められる組織障害とヒト慢 性非細菌性前立腺炎に特徴的に認められる下部尿路障害を同様に有することを特 徵とする非細菌性前立腺炎モデル動物。

2 . さらに、 正常な非ヒト動物と比べて、 体重に対する膀胱の重量比が増加し ていることを特徴とする、 請求項 1に記載の非細菌性前立腺炎モデル動物。

3. 下部尿路障害が、 頻尿、 尿失禁、 及び有効膀胱容量の減少よりなる群から 選択される少なくとも 1つの症状を有する蓄尿障害である、 請求項 1に記載する 非細菌性前立腺炎モデル動物。

4. 塩酸を前立腺の側葉被膜下に注入することにより作製される非ヒト動物で ある、 請求項 1に記載の非細菌性前立腺炎モデル動物。

5 . 前立腺被膜下に塩酸を注入し、 4日〜 1週間程度飼育した非ヒト動物であ る、 請求項 1に記載の非細菌性前立腺炎モデル動物。

6 . 非ヒト動物が、 ラットである請求項 1に記載の非細菌性前立腺炎モデル動 物。

7 . 非ヒト動物の前立腺被膜下に塩酸を注入し、 該非ヒト動物を飼育して、 前 立腺炎を生じさせることを含む、 請求項 1の非細菌性前立腺炎モデル動物を作製 する方法。

8 . 塩酸を前立腺の側葉被膜下に注入することによって行われる、 請求項 7に 記載する非細菌性前立腺炎モデル動物の作製方法。

9 . 前立腺被膜下に塩酸を注入し、 飼育を 4日〜 1週間程度行う、 請求項 7に 記載する非細菌性前立腺炎モデル動物の作製方法。

1 0. 非ヒト動物が、 ラットである請求項 7に記載する非細菌性前立腺炎モデ ル動物の作製方法。

1 1 . 請求項 1乃至 6のいずれかに記載する非細菌性前立腺炎モデル動物に被 験物質を投与し、 当該被験物質について、 非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺 組織における組織障害または下部尿路障害の少なくとも 1方に対する改善効果を 検定する工程を含む、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療用物質のスクリーニング 方法。

1 2. 下部尿路障害が、 頻尿、 尿失禁、 及び有効膀胱容量の減少よりなる群か ら選択される少なくとも 1つの症状を有する蓄尿障害である、 請求項 1 1に記載 するヒト慢性非細菌性前立腺炎の治療用物質のスクリーニング方法。

1 3. 前立腺被膜下に塩酸を注入することにより作製される前立腺炎未発生の 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物に被験物質を投与し、 該被験物質について、 予備 .非細菌性前立腺炎モデル動物の前立 S泉組織における組織障害に対する発生 抑制効果、 または下部尿路障害に対する発生抑制効果のいずれか少なくとも 1方 を検定することを含む、 ヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防用物質のスクリーニン グ方法。

1 4. 予備'非細菌性前立腺炎モデル動物が、前立腺被膜下に塩酸が注入され、 4日未満の飼育によって得られる前立腺炎未発生状態の非ヒト動物である、 請求 項 1 3に記載するヒト慢性非細菌性前立腺炎の予防用物質のスクリ一ニング方法。

1 5. 非ヒト動物が、 ラットである請求項 1 4に記載するヒト慢性非細菌性前 立腺炎の予防用物質のスクリ一ニング方法。

1 6. 請求項 1乃至 6のいずれかに記載する非細菌性前立腺炎モデル動物に、 薬効を評価する対象の被験薬物を投与し、 該被験薬物について、 当該非細菌性前 立腺炎モデル動物の前立腺組織における組織障害または下部尿路障害の少なくと も一方に対する改善効果を検定する工程を含む、 薬物のヒト非細菌性前立腺炎の 改善に対する薬効評価方法。

1 7 . 下部尿路障害が、 頻尿、 尿失禁、 及び有効膀胱容量の減少よりなる群か ら選択される少なくとも 1つの症状を有する蓄尿障害である、 請求項 1 6に記載 する薬物のヒト非細菌性前立腺炎の改善に対する薬効評価方法。

1 8 . 前立腺被膜下に塩酸を注入することにより作製される前立腺炎未発生の 予備 ·非細菌性前立腺炎モデル動物に、 薬効評価する対象の被験薬物を投与し、 該被験薬物について、 予備 .非細菌性前立腺炎モデル動物の前立腺組織における 組織障害または下部尿路障害の少なくとも一方に対する発生抑制効果を検定する ことを含む、 薬物のヒト非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価方法。

1 9. 予備'非細菌性前立腺炎モデル動物が、前立腺被膜下に塩酸が注入され、 4日未満の飼育によって得られる前立腺炎未発生状態の非ヒト動物である、 請求 項 1 8に記載する薬物のヒト非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価方法。

2 0. 下部尿路障害が、 頻尿、 尿失禁、 及び有効膀胱容量の減少よりなる群か ら選択される少なくとも 1つの症状を有する蓄尿障害である、 請求項 1 9に記載 する薬物のヒト非細菌性前立腺炎の予防に対する薬効評価方法。

2 1 . ヒト非細菌性前立腺炎の治療用医薬組成物の有効成分を探索するか、 ま たはヒト非細菌性前立腺炎に対する治療薬の薬効を評価するための、 請求項 1乃 至 6のいずれかに記載する非細菌性前立腺炎モデル動物の使用。

2 2. ヒト非細菌性前立腺炎の予防用医薬組成物の有効成分を探索するか、 ま たはヒト非細菌性前立腺炎に対する予防薬の薬効を評価するための、 前立腺被膜 下に塩酸を注入することにより作製される前立腺炎未発生の予備 ·非細菌性前立 腺炎モデル動物の使用。

2 3. 予備'非細菌性前立腺炎モデル動物が、前立腺被膜下に塩酸が注入され、 4日未満の飼育によって得られる前立腺炎未発生状態の非ヒト動物である、 請求 項 2 2に記載する使用。

2 4. 請求項 1 1または請求項 1 4に記載のスクリーニング方法により非細菌 性前立腺炎に対して改善効果又は予防効果を有すると判定された物質をそれぞれ 含有する、 ヒト非細菌性前立腺炎の治療用又は予防用の医薬組成物。