明 細 書 脂肪組織由来多能性幹細胞 技術分野
本発明は、 新規な脂肪組織に由来する多能性幹細胞、 特に脂肪組織に由来 する多能性 (多分化能) を有する脂肪組織由来成体幹細胞に関する。
さらに、 本発明は、 該多能性幹細胞の生体組織の再生のための材料として の使用にも関する。 背景技術
近年、 再生医学の観点から、 胚性幹細胞 (E S細胞) が注目を集めている c しかし、 E S細胞は受精卵のクロ一ニングによって得られるため、 これを使 用するにあたっては材料である受精卵の入手の困難性が問題となる。 さらに、 E S細胞の使用は、 生命の芽生えである胎盤胞を壊すことになるので、 特に ヒトでは、 倫理上の問題も引き起こす。 また、 たとえ E S細胞から組織が得 られたとしても、 その組織は他人由来であることから、 免疫拒絶反応は必発 である。 これは、 これまでの臓器移植と何ら変わるところはない。 これを解 決するためには、 患者本人から、 特に、 胚性ではなく成体から幹細胞を採取 する必要がある。
E S細胞に代わる成体幹細胞としては、 骨髄にある未分化間葉系幹細胞 (M S C) がある。 M S Cは、 骨、 軟骨、 筋肉、 脂肪、 血管、 更に最近では 神経などにも分化することがわかっており、 また患者 (成人) からの採取が 可能であることから、 M S Cの臨床的、 実用的な価値は、 E S細胞よりも高 いといわれている。 しかし、 M S Cには、 成体内に微量しか存在しないこと, 特に、 加齢に伴いこの傾向が激しくなることなどの問題点がある。
脂肪前駆細胞は、 脂肪組織から得られるため、 骨髄穿刺に比べて細胞採取 の点で容易であり、 また、 M S Cに比べて、 増殖速度が速い点が優れている t
もちろん、 患者本人の脂肪組織から得られるため、 免疫拒絶の問題もない。 脂肪前駆細胞の分化能については、 読んで字のごとく脂肪の前駆細胞である ことから脂肪細胞への分化が調べられ、 これがインビト口及びインビボにお いて確認されているのみであった。
したがって、 再生医学を現実のものとするためには、 生体組織及び臓器の 再生を誘導するような増殖、 分化ポテンシャルの高い細胞、 幹細胞が必要で ある。 ところが、 現在知られている E S細胞や M S Cには、 上記の問題点が あった。 そこで、 上記の問題点を解消した、 多能性を有する幹細胞が求めら れている。
本発明者は、 脂肪組織からの脂肪前駆細胞を研究中に、 驚くべきことに、 脂肪組織への分化能はもちろんのこと、 骨、 軟骨、 筋肉、 神経、 血液系、 肝、 膝などの内胚葉系等の各種組織に分化し得る多能性をも有する多能性幹細胞 を発見し、 本発明を完成した。 発明の開示
本発明は、 白血球を含まないことを特徴とする、 脂肪組織に由来する多能 性幹細胞である。
また、 本発明は、 インビト口において神経細胞に分化することができる、 脂肪組織に由来する多能性幹細胞である。
すなわち、 本発明は、 骨、 軟骨、 筋肉、 神経等の各種組織に分化し得る多 能性を有する多能性幹細胞に関する。 特に好ましい組織は、 骨組織及び神経 組織である。 本発明の脂肪組織由来多能性幹細胞は、 インビトロでもインビ ポでも多能性を発揮することができ、 各種組織に分化することができる。 図面の簡単な説明
図 1は、 骨分化培地 (A) 又は普通培地 (B ) 中で培養された脂肪組織由 来多能性幹細胞を含む不織布である。
. 図 2は、 骨分化培地 (A) 又は普通培地 (B ) 中で培養された脂肪組織由
来多能性幹細胞を含む不織布の E D X分析である。
図 3は、 埋入 3週間後の不織布である。 (A) :骨分化培地で培養した脂 肪組織由来多能性幹細胞、 (B ) :普通培地で培養した脂肪組織由来多能性 幹細胞、 (C ) :骨分化培地で培養し、 b F G F含浸粒子と混合して埋入し た脂肪組織由来多能性幹細胞、 (D) :普通培地で培養し、 b F G F含浸粒 子と混合して埋入した脂肪組織由来多能性幹細胞。
図 4は、 埋入 3週間後の不織布の von Kossa染色組織切片である。 (A) 〜 (D) は図 3と同義である。
図 5は、 神経分化培地中で培養する前 (A) 又は後 (B) の脂肪組織由来 多能性幹細胞である。 発明を実施するための最良の形態
本発明の脂肪組織由来多能性幹細胞は、 ヒトを含む動物の脂肪組織を、 酵 素、 例えば、 コラゲナーゼで処理することによって得ることができる。 脂肪 組織を採取する動物は、 その種類や性別 ·年齢を問わない。 また、 脂肪組織 を採取する動物の部位は、 脂肪組織が存在する部位であれば特に問わないが、 特に臨床上の容易さ、 患者の負担などの観点から、 皮下脂肪組織から採取す るのが望ましい。 免疫拒絶を回避する観点からは、 自己の脂肪組織を使用し て脂肪組織由来多能性幹細胞を得るのが、 特に好ましい。
本発明の脂肪組織由来多能性幹細胞は、 脂肪組織を、 例えばコラゲナ一ゼ 処理して得た細胞を、 例えば 1 9 9培地で培養することによって単離するこ とができる。
本発明の脂肪組織由来多能性幹細胞は、 各種培地中においてインビトロで、 または、 生体内でのインビポで増殖 ·分化させることができるが、 三次元的、 立体的に増殖 '分化させるためには、 足場材料を使用することが望ましい。 したがって、 本発明は、 上記した脂肪組織由来多能性幹細胞と足場材料か らなる組織再生用の材料にも関する。
本発明における足場材料は人工の細胞外マ卜リックスを意味し、 足場材料
を足場として脂肪組織由来多能性幹細胞が増殖 ·分化する。 インビト口にお ける増殖 ·分化、 あるいは、 欠損及び荒廃した組織臓器などの細胞外マトリ ックスが不足した部位でのィンピポにおける再生医学では、 足場材料の使用 が必須となる場合が多い。
足場材料としては、 生体内で分解吸収されていく性質を持つものが好まし レ^ このような材料として、 例えば、 コラーゲン、 アルブミン、 フイブリン などのタンパク質、 ポリ乳酸、 ポリグリコール酸、 乳酸とグリコール酸との 共重合体、 ポリ— ε—力プロラクトン、 ε—力プロラクトンと乳酸又はダリ コール酸との共重合体、 ポリクェン酸、 ポリリンゴ酸、 ポリ— ーシァノア クリレート、 ポリ一 ]3—ヒドロキシ酪酸、 ポリトリメチレンォキサレート、 ポリテ卜ラメチレンォキサレ一卜、 ポリオルソエステル、 ポリオルソカーボ ネー卜、 ポリエチレンカーボネート、 ポリプロピレン力一ポネート、 ポリ一 ァーベンジル一 L—グルタメ一ト、 ポリ一ァーメチルー L—グルタメ一ト、 ポリ一 L—ァラニンなどの合成項分子、 デンプン、 アルギン酸、 ヒアルロン 酸、 キチン、 ぺクチン酸及びそれらの誘導体などの多糖が挙げられる。 また、 これらの材料の混合物及び共重合体なども挙げられる。
足場材料の形態は特に限定されないが、 例えば、 スポンジ状、 メッシュ状、 不織布状であってもよいし、 ディスク状、 フィルム状、 棒状、 粒子状、 ぺ一 スト状であってもよい。
本発明の脂肪組織由来多能性幹細胞は、 再生の速度を増加するために、 好 ましくは、 細胞増殖因子の存在下で増殖 '分化させる。
したがって、 本発明は、 多能性幹細胞、 足場材料及び細胞増殖因子からな る組織再生用材料にも関する。
細胞増殖因子は、 脂肪組織由来多能性幹細胞の数を増加させるか又はその 分化を促進させる作用を有するものが好ましく、 例えば、 塩基性線維芽細胞 増殖因子 (b F G F ) 、 血小板分化増殖因子 (P D G F ) , インスリン、 ィ ンスリン様増殖因子 (I G F— I ) , 肝細胞増殖因子 (H G F) , グリア誘 導神経栄養因子 (GD N F ) , 神経栄養因子 (N F) 、 ホルモン、 サイト力
イン、 骨形成因子 (BMP> , トランスフォーミング増殖因子 (TGF) , 上皮細胞増殖因子 (EGF) , 血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) などが挙 げられる。 その濃度は、 細胞 105個〜 108個当たり 0. 0001〜10 g、 好ましくは 0. 001〜1 でぁる。
本発明の脂肪組織由来多能性幹細胞の増殖 ·分化に用いる細胞増殖因子は、 分化させるべき組織によって変化し得る。 例えば、 脂肪組織由来多能性幹細 胞を用いてインビポにおいて骨組織を形成させる場合には b FGF、 BMP 一 2が好ましい。 また、 脂肪組織由来多能性幹細胞をインビトロにおいて神 経細胞に分化させる場合には NGF、 GDNFが好ましく、 筋肉細胞へ分化 させる場合には HGFが好ましい。 また、 脂肪組織由来多能性幹細胞の数を 増やす作用をもった bFGFと組み合わせることで、 それらを埋入した周辺 環境に応じた組織に分化させることも可能である。 例えば、 幹細胞と bGF Gとの組合わせを骨組織欠損にいれると骨を、 軟骨組織欠損に入れると軟骨 を、 そして筋組織欠損に入れると筋を、 神経欠損に入れると神経を再生する ことができる。
本発明において、 細胞増殖因子は、 例えば、 徐放性担体により徐放性化さ れていることが望ましい。 徐放期間は好ましくは約 1〜 3週間である。
徐放性担体は、 生体内で分解吸収される性質を持つものが好ましく、 例え ば、 足場材料として例示した上記材料が好ましく用いられる。 これらの材料 力 細胞増殖因子の徐放性担体を作製することができる力 細胞膜成分との 均一な混合ができることからミク口粒子の形態の担体が好ましい。 ミク口粒 子の直径は 10〜500 ΠΙ、 好ましくは 20〜100 mである。
徐放性の調節は、 徐放性担体の分解性を選択又は調節することによって行 い得る。 分解性の調節は、 例えば、 担体調製時における架橋度を変えること によって行い得る。 徐放期間を 1〜3週間とするには、 例えば、 担体作製時 における架橋剤濃度あるいは反応時間を調節し、 含水率を 94〜98%とす る。
本発明の脂肪組織由来多能性幹細胞をインビト口で増殖 ·分化するための
培地としては、 従来の多能性幹細胞の培養に用いられる培地であれば特に限 定されないが、 増殖 ·分化の効率や速度の点からは、 ひ— MEM培地 (ひ— MEM、 炭酸水素ナトリウム、 ペニシリン、 及び FCSを含む培地) が挙げ られる。 骨分化誘導の場合には、 骨分化培地 (/3—グリセ口ホスフェート、 L -ァスコルビン酸及びデキサメタゾンを含有する α— MEM培地) 等が特 に好ましい。 実施例
以下、 実施例をあげて本発明について説明するが、 本発明は以下の実施例 に限定されるものではない。
実施例 1 脂肪組織由来多能性幹細胞の単離
乳癌切除時に患者 (60歳) の同意を得た上で、 周囲正常部位の脂肪組織 (約 5g) を摘出し、 カルシウム ·マグネシウム不含リン酸緩衝生理食塩水 (CMF-PBS) で洗浄し、 余分な血球成分を洗い流した。 次に、 脂肪組 織のみを目視で選別し、 黄色部分を中心に米粒大の大きさに、 はさみを用い て細断した。 この脂肪組織に、 コラゲナーゼ溶液 〔コラゲナ一ゼ S_l (新 田ゼラチン製、 最終濃度 2mg/ml) 及びゥシ血清アルブミン (Nacalai社製、 最終濃度 2 Omg/ral) を DMEM: F—12の 1 : 1混合物 (Sigma社製) に 溶かじ、 0. 22 mフィルターでろ過したもの〕 5 mlを加えて、 ウォーター バス付きシェーカーを用いて 1時間振盪しながらインキュベートし (37°C- 100回 Z分) 、 脂肪組織を分散させた。 この処理溶液を孔径が 200 mの ナイロンメッシュによってろ過し、 コラゲナーゼ消化されていない組織片な どを取り除いた。 ろ液に、 増殖用培地 〔10%のゥシ胎児血清 (FCS、 I CN社製) 、 100単位 Zmlのペニシリン (Sigma社製) 、 0. lmg/mlのス トレプトマイシン (Sigma社製) 及び 0. 1 g/mlの b FGFを含有する 19 9培地 ( (Sigma社製) ) 〕 10ml及び 0. 2Mの EDTA 〔ニナトリウム二 水素エチレンジァミン四酢酸二水和物 (Nacalai社製) 〕 /CMF— PBS1 mlを加え、 混合し、 次いで遠心分離 (1200 g、 5分間) した。 成熟脂肪
細胞を含有する上清を除去し、 増殖用培地 10mlを用いて、 もう一度同様の 操作を行った。 デカンテ一シヨンにより上清を捨て、 199培地溶液 15ml を加え、 ピペッティングによって細胞を良く分散させた後、 この細胞懸濁液 (血球成分及び脂肪前駆細胞などを含む) を 75cm2の培養フラスコ (コ一二 ング社製、 T—75) に播種した(約 1. 5X 104個)。
不要な血球、 特に、 白血球を除去し、 かつ、 より高い生存度及び生理活性 を有する細胞を取得するために、 以下の操作を行った。 37°C、 5%二酸化 炭素の条件下で 24時間培養した。 その後、 フラスコを静かに揺らすことに よって脂肪前駆細胞を剥離することなく血球細胞のみを剥離して培地中に浮 遊させ、 浮遊した細胞を培地とともにデカンテーシヨンにより捨てた。 新し い増殖用培地 15mlをフラスコに加え、 コンフルェント状態になるまで更に 10日間培養を続けた。 ただし、 培地は 2〜3日毎に一度新しいものと交換 した。 白血球等を培養操作により除去することによって得られた脂肪組織由 来多能性幹細胞の生存度は、 従来の単離方法によって得られた細胞に比べて 高まった。 また、 白血球等を除去することによって、 白血球等に由来する負 の免疫生体反応の寄与を除くことができた。
実施例 2 ポリグリコール酸 (PGA) 不織布上での培養
2-1 脂肪組織由来多能性幹細胞の初代培養
実施例 1で得たコンフルェント状態の脂肪組織由来多能性幹細胞を、 4枚 の直径 1 5 Ommの培養ディッシュ (コ一ニング社製) に再播種した。 培地は、 上記増殖用培地を用いた。 2日間の培養で 50〜80%の集密度になり、 培 養ディッシュ 4枚の全細胞数は 3. 9X 106個であった。
2-2 PG A不織布の調製
PGA不織布 (ダンゼ社製、 8プライ) を 96ゥエルサイズにくりぬき、 70 %エタノール (Nacalai社製) に 4日間浸漬した。 播種する直前に aME M培地で 2回洗浄し、 ァスピレーターで余分な培地を吸い取った。
2-3 骨分化培地成分の調製
(1) /3—グリセ口 (100X) : j3—グリセ口ホスフエ一ト (Sigma社
製) 5. 4gを αΜΕΜ溶液 25mlに溶かし、 0. 22 mフィルタ一でろ過 . し、 1mlずつ分注し、 _20°Cで保存した。
(2) Vc (10 O X) : L—ァスコルビン酸 2—ホスフェート (Sigma社 製) 32 mgを α; MEM溶液 25 mlに溶かし、 0. 22 mフィルターでろ過し、 1mlずつ分注し、 一 20°Cで保存した。
(3) D e (100 X) :デキサメタゾン (Nacalai社製) 1 mgを 70 % エタノール 25. 5mlに溶かした溶液 0. 25mlを αΜΕΜ溶液 24. 75m 1に溶かし、 0. 22 mフィル夕一でろ過し、 1mlずつ分注し、 _20°Cで 保存した。
2-4 不織布上への脂肪組織由来多能性幹細胞の播種と培養
実施例 2— 1で得られた脂肪組織由来多能性幹細胞の懸濁液を 2. 5X 1 06細胞 /mlの細胞密度に調整し、 96ゥエルプレート 〔 (コ一ニング社製) 各ゥエル内に上記不織布を 1枚置いたもの〕 の各ゥエル当たり 100 wlずつ 細胞懸濁液を分注した (実質的に不織布 1枚当たり 2. 5X 105細胞) 。 こ れを、 37°C、 5%二酸化炭素の条件下で 2時間培養した。 培養後、 プレー トを 1000 r pm、 5分間の条件で遠心分離した。 上清を捨て、 不織布を 6ゥエルプレート (コ一二ング社製) に移し (1ゥエル当たり不織布 2枚) 、 培地を 1ゥエル当たり 6ml加えた。 このとき用いた培地は、 αΜΕΜ溶液
(普通培地) 、 又は α MEM溶液に骨分化培地成分 (1) 〜 (3) を各 0. 5mlずつを加えた培地 (骨分化培地) であった。 培地を 2〜3日毎に新しい 培地と交換しながら、 2週間インピトロで培養した。 多能性幹細胞を普通培 地又は骨分化培地で培養した群につき 6枚ずつの不織布を上記の通りに培養 し、 ヌードマウスの背部皮下への埋め込み実験に供した。
実施例 3. 電子顕微鏡による観察
2 %ダルタルアルデヒド 〔ダルタルアルデヒド (Nacalai社製、 電子顕微鏡 用) に CMF— PBSを加えたもの〕 に実施例 2— 4に記載の通りに培養し た不織布を浸漬し、 4°Cで 1時間固定した。 CMF— PBSで 3回洗った後、 1 %オスミウムに不織布を浸漬し、 4°Cで 1時間固定した。 CMF— PBS
で 3回洗った後、 50%、 60%、 70%、 80%、 90%、 99%及び1 00%エタノール (Nacalai社製) で逐次的にそれぞれ 10分間ずっ浸漬し、 脱水を行った。 トリブチルアルコール (和光純薬社製) 10分間浸漬による 脱水を 2回行った。 凍結乾燥機 (日立社製、 ES— 2030) で凍結乾燥し た後、 走査型電子顕微鏡 (日立社製、 S— 238 ON) で不織布への付着細 胞を観察するとともに不織布の EDX (Energy Dispersive X-ray) 分析を行 レ、 リン酸カルシウムの検出を行った。 図 1に、 脂肪組織由来多能性幹細胞 を骨分化培地 (A) 及び普通培地 (B) で培養した後の不織布の走査型電子 顕微鏡写真を示す。 また、 図 2には、 その不織布の EDX分析結果を示す。
(A) 及び (B) は図 1と同義である。
電子顕微鏡観察によって、 脂肪組織由来多能性幹細胞が不織布の P G A繊 維表面に付着していることがわかる。 また、 骨分化培地を用いて培養した場 合には、 細胞そのものは認められず、 組織が何かの物質で覆われているよう に見える。 この物質を EDXで測定したところ、 リン酸カルシウム又はハイ ドロキシアパタイトであることが確認された。 このことは、 脂肪組織由来多 能性幹細胞を不織布に播種した後、 骨分化培地で培養することによって、 ィ ンビトロにおいて細胞が骨芽細胞へと分化し、 骨形成を起こしたと考えられ る。
実施例 4. ヌードマウスへの埋め込み
4 - 1. 徐放性ゼラチン粒子の作製
1000ml容の丸底フラスコにォリーブ油 375 mlを加え、 固定した撹拌 用モータ一 (新東科学社製、 スリーワンモ一夕一) にテフロン製撹拌用プロ ペラを取り付け、 フラスコに固定した。 オリ一ブ油を 30°C、 420rpmにて 撹拌しながら等電点 4. 9のアルカリ処理ゼラチン (新田ゼラチン社製) の 水溶液 (10wt%、 10ml) を滴下し、 WZO型エマルシヨンを調製した。 10分間の撹拌後、 フラスコを 10〜20°Cに冷却し、 さらに、 30分間撹 拌した。 このエマルシヨンにアセトン 100mlを加え、 さらに 1時間撹拌し た後、 遠心分離 (5000rpm, 4°C、 5分間) によりゼラチン粒子を回収し
た。 アセトンさらに 2—プロパノールを用いて粒子を遠心洗浄することによ つて、 未架橋のゼラチン粒子を得た。 得られた未架橋ゼラチン粒子 (500m g) を 0. 0 lwt%濃度のダルタルアルデヒドを含む、 0. lwt%Tween 80の 水溶液 (1 00ml) に懸濁させ、 4 で 15時間緩やかに撹拌することによ つてゼラチンの架橋反応を行った。 その後、 粒子を 0. lwt%Tween 80の水 溶液、 2—プロパノール、 蒸留水で 2回ずつ洗浄した後、 凍結乾燥した。 2 —プロパノールからの風乾時あるいは PBS中、 37°Cでの平衡膨潤時にお ける粒子の直径を、 それぞれ 100個粒子について顕微鏡にて測定した。 膨 潤状態の粒子の体積に対する粒子に含まれる水の体積の比として含水率を算 出したところ、 その含水率は約 95vol%であった。 また、 膨潤時における粒 子の平均粒径は 40 mであった。
なお、 この含水率 95%の粒子を1251により標識した後、 マウス皮下に投与 したところ、 投与部位での放射活性は時間とともに減少した。 その放射活性 は 14日後にゼロとなった。 次に、 bFGFを1251により標識し、 ゼラチン粒 子に含浸した後、 上記と同様にマウス背部皮下に投与して、 放射活性の時間 的変化を調べたところ、 その放射活性の残存の時間依存性は粒子の場合とほ ぼ同じであった。 このように、 この粒子の分解とともに b FGFはインビポ で徐放化された。 このゼラチン粒子からの bFGFの徐放化期間は 14日で あることが判った。
実施例 4— 2. ゼラチン粒子への bFGFの含浸
実施例 4 _1で得た凍結乾燥ゼラチン粒子 (不織布 1枚当たり 2mg) を EOG滅菌にかけた。 bFGFが不織布 1枚当たり 100 gとなるように、 bFGF水溶液を凍結乾燥ゼラチン粒子 (2mg) に 20 添加し、 室温で 1 2時間放置することによって、 bFG F含浸ゼラチン粒子を得た。
実施例 4— 3. ヌードマウスへの埋め込み
実施例 4— 2で得られた bFGF含浸ゼラチン粒子に CM F— PBS 50 lを加え、 ゼラチン粒子を分散させた。 この分散液を、 実施例 2— 4の培養 後に培地から取り出した不織布の上に滴下した。 この不織布をすぐにヌード
マウス (系統名: BALBZc、 週齢: 6週齢、 性別:雌、 供給元:清水実 験動物) の背部皮下の脂肪組織のない部位に埋め込んだ (n=3) 。 3週間 後皮膚を剥離し、 埋入した不織布の写真を撮るとともに、 不織布内に新生し た組織を von Kossa染色し、 観察した。 20 %中性緩衝化ホルマリンにて不織 布に付着している細胞及びその産生物を固定し、 切片を作製し、 von Kossa染 色した。 von Kossa染色で黒く染まるのはリン酸カルシウムであり、 これが認 められることは骨が形成されたことを意味する。 その光学写真を図 3に、 ま たその組織切片を図 4に示す。
bFGF含浸粒子との混合によらず、 骨分化培地で培養した場合には、 不 織布の色は白味を帯び、 硬くなつていた。 これらの観察結果は、 骨分化培地 で培養した場合には、 bFGF含浸ゼラチン粒子の有無に関係なく、 埋入す ることによってインビポで骨形成が誘導されたことを示している。 図 4から わかるように、 骨分化培地で培養した群においては、 bFGF含浸ゼラチン 粒子の混合の有無によらず、 組織切片中に黒く染色された部分が点在してい る。 これは、 リン酸カルシウムの沈着を示している。 一方、 普通培地培養群 では、 このような染色像は認められなかった。 つまり、 脂肪組織由来多能性 幹細胞を骨分化培地で培養後、 マウス背部皮下に埋入することによって、 骨 組織が再生されたことがわかった。 増殖用培地での培養、 埋入群では、 その ような変化は、 この 3週間埋入時では見られなかつた。
実施例 5. 脂肪組織由来多能性幹細胞の神経細胞への分化誘導
脂肪組織由来多能性幹細胞の神経細胞への分化誘導は、 Woodbury et alの 方法に準じて行った (Woodbury, D. et al, J. Neurosci. Res. 61, 364-379 (2000) Adult rat and human bone marrow stromal cells differentiate in to neurons. ) 0
実施例 2— 1で増殖させた脂肪組織由来多能性幹細胞を、 1 X 105細胞/ m 1の細胞密度に希釈し、 チャンバースライド付シランコ一ティングスライドグ ラス (Dako社製) に播種した。 24時間静置培養し (37 、 5%C02) 、 細胞をスライドグラス上に接着させた後、 細胞表面を CMF— PBSで洗浄
し、 次いで血清含有神経分化培地 〔DMEM (Gibco社製) Z20%FSC (I CN社製) /1πιΜ/3_メルカプトエタノール (Sigma社製) 〕 を加え、 更 に 24時間培養した。 そして、 細胞表面を CMF— PBSで洗浄し、 次いで 血清不含神経分化培地 〔DMEM (Gibco社製) / lmMi3—メルカプトェ夕ノ —ル (Sigma社製) 〕 を加え、 更に 24時間静置培養した。 この細胞を 4%パ ラホルムアルデヒド溶液で固定 (室温、 1時間) し、 位相差顕微鏡を用いて 細胞形態を撮影した (図 5) 。
図 5には、 神経分化培地で培養した前後の脂肪組織由来多能性幹細胞の位 相差顕微鏡写真を示している。 明らかに両者の間に細胞形態に違いが認めら れている。 つまり、 分化培地で培養することによって、 細胞からの突起が出 現している。 この突起は、 神経突起であり、 このことは、 上記培地で培養す ることによって、 脂肪組織由来多能性幹細胞が神経細胞に分化したことを示 している。 産業上の利用可能性
本発明によれば、 脂肪組織から採取された脂肪組織由来多能性幹細胞を用 いることによってインビトロ及びインビポにおいて、 例えば、 骨組織を形成 させることができる。 この効果は、 従来の MS Cと同様の増殖分化のポテン シャルを脂肪組織由来多能性幹細胞が有していることを示している。
また、 本発明では、 この脂肪組織由来多能性幹細胞と足場材料とを組み合 わせることによって、 組織再生用の材料を供給することもできる。 細胞増殖 因子との組合わせは、 再生する組織により、 場合により必要となる。