以下、実施形態による電動ブレーキ装置を、四輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照して説明する。
図1は、実施形態による電動ブレーキ装置としての電動ブレーキ20を適用した車両1のシステム構成を示す図である。車両1に搭載されたブレーキ装置2は、左側の前輪3Lおよび右側の前輪3Rに対応して設けられた液圧式ブレーキ4(フロント制動機構)と、左側の後輪5Lおよび右側の後輪5Rに対応して設けられた電動ブレーキ20(リヤ制動機構)とを備えている。また、ドライバのブレーキペダル6の操作量を計測する液圧センサ7およびペダルストロークセンサ8には、メインECU9が接続されている。メインECU9は、液圧センサ7およびペダルストロークセンサ8からの信号の入力を受けて、予め定められた制御プログラムにより各輪(4輪)に対しての目標制動力の演算を行う。メインECU9は、算出した制動力に基づいて、フロント2輪それぞれに対しての制動指令をフロント液圧装置用ECU10(即ちESCブーストECU)へCAN12(Controller area network)を介して送信する。メインECU9は、算出した制動力に基づいて、リヤ2輪それぞれに対しての制動指令をリヤ電動ブレーキ用ECU11へCAN12を介して送信する。また、メインECU9は、前輪3L,3Rおよび後輪5L,5Rのそれぞれの近傍に設けられている、車輪速度センサ13と接続され各輪の車輪速度を検出することができる。
次に、電動ブレーキ20の具体的に構成について、図1および図2を参照して説明する。
電動ブレーキ20は、ディスクロータD(ディスク)に押圧されるブレーキパッド22,23を移動させるピストン32に電動モータ39の駆動により発生する推力を伝達するブレーキ機構21と、ピストン32への推力を検出する推力センサ44と、電動モータ39の回転位置を検出する回転角センサ46と、電動モータ39の駆動を制動指令に基づいて制御する制御装置としてのリヤ電動ブレーキ用ECU11と、を備えている。このとき、ディスクロータDは被制動部材であり、ブレーキパッド22,23は制動部材である。
図2に示すように、ブレーキ機構21は、一対のインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23と、キャリパ24とを備えている。インナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23は、車両1の回転部に取り付けられるディスクロータDを挟んで軸方向両側に配置されている。電動ブレーキ20は、キャリパ浮動型として構成されている。なお、一対のインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23と、キャリパ24とは、車両1のナックル等の非回転部に固定されたブラケット25に、支持されている。ブラケット25は、インナブレーキパッド22とアウタブレーキパッド23とをそれぞれ独立して支持するインナ側支持部26とアウタ側支持部27とを備えている。
キャリパ24は、キャリパ24の主体であるキャリパ本体28と、キャリパ本体28と並ぶように配置された電動モータ39とを備えている。キャリパ本体28には、車両内側のインナブレーキパッド22に対向する基端部に配置され、インナブレーキパッド22に対向して開口する円筒状のシリンダ部29と、シリンダ部29からディスクロータDを跨いでアウタ側に延び、車両外側のアウタブレーキパッド23に対向する先端側に配置される爪部30とが一体的に形成されている。
シリンダ部29には、有底のシリンダ31が形成されている。ピストン32は、インナブレーキパッド22を押圧するものであって、有底のカップ状に形成されている。ピストン32は、その底部33がインナブレーキパッド22に対向するようにシリンダ31内に収容されている。
キャリパ本体28のシリンダ部29の底壁側には、ギヤハウジング34が配置されている。ギヤハウジング34の内部には、平歯多段減速機構35、遊星歯車減速機構36および制御基板38が収容されている。制御基板38には、例えばマイクロコンピュータからなる制御装置としてのリヤ電動ブレーキ用ECU11が設けられている。リヤ電動ブレーキ用ECU11は、電動モータ39の駆動を、制動指令に基づいて制御する。
キャリパ本体28には、電動モータ39と、電動モータ39からの回転トルクを増力する伝達機構である、平歯多段減速機構35および遊星歯車減速機構36と、平歯多段減速機構35および遊星歯車減速機構36からの回転が伝達されてピストン32に推力を付与するボールねじ機構41と、ピストン32からインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23への推力(押圧力)に対する反力を検出する推力センサ44と、ボールねじ機構41のプッシュロッド42がピストン32を推進するとき、プッシュロッド42に対する後退方向への回転力を蓄える戻し機構45と、電動モータ39の回転軸40の回転角を検出する回転角センサ46と、制動時にピストン32からインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23への推力を保持する推力保持機構47と、が備えられている。推力センサ44は、ピストン32への推力を検出する推力検出部を構成している。推力センサ44は、ボールねじ機構41を構成するベースナット43とシリンダ31の底部に挟み込まれるように設置されている。
平歯多段減速機構35および遊星歯車減速機構36は、電動モータ39の回転を、所定の減速比で減速、増強して、遊星歯車減速機構36のキャリア37に伝達する。キャリア37からの回転は、ボールねじ機構41のプッシュロッド42に伝達される。
ボールねじ機構41は、平歯多段減速機構35および遊星歯車減速機構36からの回転運動、すなわち電動モータ39の回転運動を直線運動(以下、便宜上直動という)に変換し、ピストン32に推力を付与するものである。ボールねじ機構41は、平歯多段減速機構35および遊星歯車減速機構36からの回転運動が伝達される、軸部材としてのプッシュロッド42と、プッシュロッド42の外周面にねじ係合される、ナット部材としてのベースナット43と、から構成されている。ベースナット43は、シリンダ31に対して相対回転しないように、図示しない嵌合部によって嵌合されている。プッシュロッド42は、ベースナット43を推力センサ44に押し付けながら、ベースナット43に対して相対回転しながら前進することができる。さらに、プッシュロッド42は、先端に取り付けられたスラスト軸受を介してピストン32と相対回転可能なように接続されている。このため、ピストン32を前進させることができ、ピストン32によってインナブレーキパッド22をディスクロータDに押し付けることができる。
戻し機構45は、フェールオープン機構と称することもある。戻し機構45は、制動中、電動モータ39や制御基板38等が失陥した場合に、ピストン32によるインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23からディスクロータDへの制動力を開放するものである。
回転角センサ46は、電動モータ39の回転軸40の回転角度を検出するものである。回転角センサ46は、電動モータ39の回転軸40に取り付けられた磁石部材と、磁気検出ICチップ(いずれも図示せず)と、を備えている。回転する磁石部材からの磁束の変化を磁気検出ICチップにより検出することで、制御基板38により、電動モータ39の回転軸40の回転角度を演算して検出することができる。回転角センサ46は、電動モータ39の回転位置を検出する回転角検出部を構成している。
リターンスプリング48は、コイルスプリングによって構成されている。リターンスプリング48は、プッシュロッド42に対して後退方向の回転力を蓄えることができる。電流センサ49は、制御基板38上のモータ駆動回路内に、電動モータ39に供給されるモータ電流を検出可能なように取り付けられている。電流センサ49は、モータ電流に応じた信号を出力する。
次に、電動ブレーキ20において、通常走行における制動および制動解除の作用について説明する。
通常走行における制動時には、リヤ電動ブレーキ用ECU11からの指令により、電動モータ39が駆動されて、その正方向、即ち制動方向(増力方向)の回転が、平歯多段減速機構35および遊星歯車減速機構36を経由することで所定の減速比で減速、増強されて遊星歯車減速機構36のキャリア37に伝達される。そして、キャリア37からの回転が、ボールねじ機構41のプッシュロッド42に伝達される。
続いて、キャリア37の回転に伴ってプッシュロッド42が回転し始めると、プッシュロッド42がベースナット43を推力センサ44に押し付けると共に、ベースナット43に対して相対回転しながら前進するようになる。プッシュロッド42がベースナット43に対して相対回転しながら前進すると、ピストン32が前進して、ピストン32によりインナブレーキパッド22をディスクロータDに押し付ける。そして、ピストン32によるインナブレーキパッド22への押圧力に対する反力により、キャリパ本体28がブラケット25に対して図2における右方向に移動して、爪部30に取り付けられたアウタブレーキパッド23をディスクロータDに押し付ける。この結果、ディスクロータDがインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23により挟みつけられて摩擦力が発生し、ひいては、車両1の制動力が発生することになる。
引き続き、ディスクロータDがインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23により挟みつけられて制動力が発生し始めると、その反力が、インナブレーキパッド22側からはプッシュロッド42およびベースナット43を経由して、アウタブレーキパッド23側からは爪部30およびシリンダ31の底部を経由して、推力センサ44に付与される。そして、推力センサ44により、ピストン32の前進によるインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23からディスクロータDへの推力が検出される。
そして、これ以降リターンスプリング48にプッシュロッド42に対する後退方向への回転力が蓄えられる。その後、回転角センサ46および推力センサ44等からの検出信号により電動モータ39の駆動が制御されて、制動状態が確立される。
一方、制動解除時には、リヤ電動ブレーキ用ECU11からの指令により、電動モータ39の回転軸40が逆方向、即ち制動解除方向(減力方向)に回転すると共に、その逆方向の回転が平歯多段減速機構35および遊星歯車減速機構36を介してプッシュロッド42に伝達される。その結果、プッシュロッド42が逆方向に相対回転しながら後退し始めることで、ディスクロータDへの推力が減少し、推力により圧縮されていたインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23の復元力によりキャリパ本体28がブラケット25に対して図2における左方向に移動すると共に、ピストン32が後退する。これにより、リターンスプリング48が初期状態に戻り、ディスクロータDへのインナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23による制動力が解除される。
ピストン32のパッドの復元力による後退は、インナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23の復元力が、それぞれのパッドとブラケット間に存在する摺動抵抗と、ピストン32とシリンダ31間に存在する摺動抵抗の和と釣り合うまでなされる。それ以降、さらにピストン32を後退させるためには、電動モータ39を減力方向にさらに駆動してプッシュロッド42をさらに後退させ、ピストン内壁面に存在する溝に嵌合し、ピストン32とプッシュロッド42の直動方向の相対変位量を規制するための止め輪を介してピストン32が後退するように力を伝達させる必要がある。
インナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23がパッドとブラケット間や、ピストン32とシリンダ31間の摺動抵抗によって後退しなくなることによって発生するディスクロータDとの間の残存推力は、車両走行時、即ちディスクロータDが回転する際の抵抗トルク(引き摺りトルク)となり、車両の燃費に影響を及ぼす。そのため、電動ブレーキ20においては、メインECU9からの制動指令が無くなった、または無い場合は、電動モータ39を減力方向に駆動し、ピストン32とインナブレーキパッド22との間に間隔(クリアランス)を設けることにより、残存推力を低減させ、引き摺りトルクを低減させることが可能である。図示していないが、ピストン32とインナブレーキパッド22を一体となって直動するように嵌合させることで、ディスクロータDとインナブレーキパッド22の間にクリアランスを設けることも可能である。インナブレーキパッド22とアウタブレーキパッド23の間にディスクロータDから離間する方向に力が付勢されたばねを設ける等の方法によってディスクロータDとアウタブレーキパッド23との間にクリアランスを設けることも可能である。これらの方法によってさらに引き摺りトルクを低減させることが可能である。
制動中、電動モータ39や制御基板38が失陥した場合には、制動途中にリターンスプリング48に蓄えられた付勢力によって、プッシュロッド42が逆方向に相対回転しながら後退して、インナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23からディスクロータDへの制動力が開放される。
このように、電動ブレーキ20は、ピストン32の位置制御および推力制御を実施するために、電動モータ39の回転角を検出できる回転角センサ46、ピストン32の推力を検出できる推力センサ44、およびモータ電流を検出する電流センサ49を備えている。また、推力発生中の故障に対応するために、推力を解除できる戻し機構45(フェールオープン機構)を備えている。
次に、推力センサ44にかかる荷重と出力信号(センサ出力信号)の関係について、図3を用いて説明する。推力センサ44は、電動ブレーキ20が発生する推力を検出する。このとき、推力発生によって発生する反力が、推力センサ44にかかる荷重となる。推力センサ44は、この荷重に応じた値を検出信号としてリヤ電動ブレーキ用ECU11に出力する。本発明においては、反力を信号に変換する方法は何でもよい。例えば、センサ内部の反力による変形を、歪の変化や部品間隔の変化として検出してもよい。また、反力の検出結果の出力形式は、アナログ電圧として出力してもよいし、センサ内部にICをもち、リヤ電動ブレーキ用ECU11とのデジタル通信としてもよい。
推力センサ44が検出信号を出力するために必要な電力が、リヤ電動ブレーキ用ECU11から供給される場合、推力センサ44の出力信号(センサ出力信号)は、供給電圧の範囲内で、入力に応じて単調に増加または減少するように出力されることが一般的である。故障等により信号自体が出力されないことや、供給電圧そのものが出力される場合等との区別をつけるために、センサ入力(推力センサ44であれば荷重)が0であっても、出力信号は0ではなく、オフセットされた出力として、例えば出力信号の範囲の10%程度を出力するものがある。最大出力側においても、出力信号を、例えば出力信号範囲の90%程度まで制限するようなものがある。
このような場合において、荷重が0の場合のオフセット出力は、センサ内部回路定数の個体差、温度変化、経時変化等により変動する。そのため、非制動時に、インナブレーキパッド22とピストン32との間にクリアランスを確保し、推力が発生していない状態のオフセット出力の値(オフセット値)を推力ゼロの値として学習する。そして、推力ゼロの値からの変化分を発生推力として認識し、推力を制御する。これにより、推力制御精度を向上することが可能となる。
ところで、推力センサ44は、電気配線の取り回しなどの制約により、ピストン32が格納されたシリンダ31の底部に設置されている。このため、推力センサ44に作用するセンサ荷重と、ピストン32がブレーキパッド22,23(制動部材)に対して発生するピストン推力との間には、誤差が生じる。この推力誤差は、ピストン32が制動部材への推力を発生した際の、電動ブレーキ20の内機およびシリンダ31に応力がかかることによる弾性変形、および内機部品間の力の伝達経路の変化によって発生する。そのため、この推力誤差は、発生推力と、例えばボールねじ機構41の長さのようなブレーキ機構21の内機の状態とによって変化する。従って、推力誤差は、推力センサ44の設置位置に応じて異なる。
例えば、センサ荷重が小さい場合には、センサ荷重の変化に対するピストン推力の変化は小さくなる傾向がある。これに対し、センサ荷重が大きい場合には、センサ荷重の変化に対するピストン推力の変化は大きくなる傾向がある。このため、センサ荷重とピストン推力とは、比例関係になく、例えば1次以上の多項式関数で表される関係になる。
本発明は、上述の問題に鑑みて考案されたものであり、本発明の第1の実施形態について図4ないし図6を用いて説明する。
図4は、第1の実施形態によるピストン推力算出部51を示すブロック図である。ピストン推力算出部51は、リヤ電動ブレーキ用ECU11に搭載されている。ピストン推力算出部51は、推力センサ44のセンサ出力信号を入力とし、ピストン推力を算出する。ここで、算出されたピストン推力は、メインECU9から送信される制動力指令としての推力指令を実現するためのフィードバック信号として、当該技術者であれば既知の技術によって電動モータ39への駆動信号を算出するために使用される。
ピストン推力算出部51は、推力センサ44にかかる荷重の特性変化に応じて、推力センサ44の検出値を補正する。具体的には、ピストン推力算出部51は、推力センサ44にかかる荷重の特性変化に応じて、推力センサ44のセンサ出力信号からピストン推力を算出する。このような演算を行うために、ピストン推力算出部51は、減算器52、センサ荷重変換器53およびピストン推力変換器54を備えている。減算器52は、リヤ電動ブレーキ用ECU11が認識した推力センサ44のセンサ出力信号からオフセット値を減算し、オフセット除去後センサ信号を算出する。オフセット値は、前述の通り、ピストン推力を発生していない状態でのセンサ出力信号である。オフセット値は、学習して決定してもよいし、センサ仕様としての設計値でもよい。
センサ荷重変換器53は、オフセット除去後センサ信号を用いてセンサ荷重を算出する。図5に示すように、センサ荷重変換器53は、推力センサ44を組み立てて出荷する際の個体特性を、特性マップもしくは1次以上の多項式関数特性として表したグラフによって構成されている。この特性マップまたはグラフは、リヤ電動ブレーキ用ECU11内の図示しない記憶領域に予め保持されている。センサ荷重変換器53は、オフセット除去後センサ信号を入力とし、この特性マップ、もしくは特性で得られる関数演算を実施することで、センサ荷重を算出する。
ピストン推力変換器54は、センサ荷重を用いてピストン推力を算出する。図6に示すように、ピストン推力変換器54は、電動ブレーキ20を組み立てて出荷する際の個体特性を、特性マップもしくは1次以上の多項式関数特性として表したグラフによって構成されている。この特性マップまたはグラフは、リヤ電動ブレーキ用ECU11内の図示しない記憶領域に予め保持されている。ピストン推力変換器54は、センサ荷重を入力とし、この特性マップ、もしくは特性で得られる関数演算を実施することでピストン推力を算出する。
なお、第1の実施形態では、センサ荷重変換器53とピストン推力変換器54に処理を分離した場合を説明した。本発明はこれに限らず、センサ荷重変換器53とピストン推力変換器54を統合して、1つの特性マップもしくは1次以上の多項式関数特性を用いることで実現してもよい。また、温度などによって特性が変化する場合を考慮し、温度センサに対する特性マップを複数持つ、あるいは関数の入力に温度を使用するなどし、温度に対して特性を可変にしてもよい。
また、第1の実施形態では、センサ荷重から直接ピストン推力を算出するものとした。本発明はこれに限らず、センサ荷重から推力の補正量を算出し、センサ荷重に補正量を加算することで、ピストン推力を算出する構成としてもよい。さらに、ピストン推力を算出する代わりに、推力指令を補正量によって補正し、センサ荷重をフィードバック信号として用いる構成としてもよい。
かくして、第1の実施形態では、リヤ電動ブレーキ用ECU11(制御装置)は、推力センサ44(推力検出部)にかかる荷重の特性変化に応じて、推力センサ44の検出値を補正する。具体的には、リヤ電動ブレーキ用ECU11は、推力センサ44のセンサ出力信号に基づく、次数が1次以上の関数で近似される特性によって、ピストン推力を算出する。
これにより、推力センサ44に作用するセンサ荷重が小さい場合には、センサ荷重の変化に対するピストン推力の変化を小さくすることができる。また、推力センサ44に作用するセンサ荷重が大きい場合には、センサ荷重の変化に対するピストン推力の変化を大きくすることができる。この結果、リヤ電動ブレーキ用ECU11が算出するピストン推力は、実際にピストン32がブレーキパッド22,23に対して発生するピストン推力に近い値になる。従って、ピストン推力の制御精度を向上させることができる。また、電動ブレーキ20における推力センサ44の設置位置によらずピストン推力の制御精度を向上させることができるため、推力センサ44の設置性を向上させることができる。
次に、図7および図8は第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、推力センサにかかる荷重の特性変化として、電動モータから推力を付与したときのピストンの移動量の変化に応じて推力センサの検出値を補正することにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図7は、第2の実施形態によるピストン推力算出部61を示すブロック図である。ピストン推力算出部61は、リヤ電動ブレーキ用ECU11に搭載されている。ピストン推力算出部61は、推力センサ44のセンサ出力信号とピストン位置を入力とし、ピストン推力を算出する。ここで、算出されたピストン推力は、メインECU9から送信される制動力指令としての推力指令を実現するためのフィードバック信号として、電動モータ39への駆動信号を算出するために使用される。
ピストン推力算出部61は、推力センサ44にかかる荷重の特性変化に応じて、推力センサ44の検出値を補正する。このため、ピストン推力算出部61は、第1の実施形態によるピストン推力算出部51と同様に構成されている。ピストン推力算出部61は、減算器52、センサ荷重変換器53およびピストン推力変換器62を備えている。
但し、ピストン推力算出部61は、推力センサ44にかかる荷重の特性変化として、電動モータ39から推力を付与したときのピストン32の移動量の変化に応じて、推力センサ44の検出値を補正する。具体的には、ピストン推力算出部61は、推力センサ44のセンサ出力信号と、回転角センサ46の検出回転角から推定されるピストン位置とを組み合わせて、センサ荷重とピストン推力との間の誤差を補正する。これにより、ピストン推力算出部61は、ブレーキパッド22,23の磨耗量に応じて推力センサ44の検出値を変更する。この点で、第2の実施形態によるピストン推力算出部61は、第1の実施形態によるピストン推力算出部51とは異なる。
このとき、ピストン推力算出部61のピストン推力変換器62には、ピストン32をブレーキパッド22,23から離間する方向に最大まで戻した位置を原点とするピストン位置が、センサ荷重に追加して入力される。ここで、ピストン位置は、電動モータ39の回転軸40の回転角度を検出する回転角センサ46の信号を用いる。回転角センサ46は、1回転分の値しか認識できないため、認識した回転角センサ46の変化量を積算して算出する。
この場合、ピストン位置の原点が不定となる。このため、システム起動後、例えば非制動時などにピストン32をブレーキパッド22,23から離間する方向に最大まで戻す動作を実施して、ピストン位置の原点を見つける。また、パッド交換時などに、最大まで戻した位置からの移動量を、リヤ電動ブレーキ用ECU11内の図示しない不揮発性記憶領域に保存しておき、システム起動時に読み出し、終了時に記憶することを繰り返す。これにより、システム起動時のピストン位置を、原点からの位置として認識してもよい。
ピストン位置を用いた場合のピストン推力変換器62について、図8を用いて説明する。ピストン推力変換器62は、センサ荷重およびピストン位置を用いてピストン推力を算出する。図8に示すように、ピストン推力変換器62は、電動ブレーキ20を組み立てて出荷する際の個体特性を、特性マップもしくは1次以上の多項式関数特性として表したグラフによって構成されている。この特性マップまたはグラフは、センサ荷重が発生する際のピストン位置に応じて可変となるように設定されている。ピストン推力変換器62の特性マップまたはグラフは、リヤ電動ブレーキ用ECU11内の図示しない記憶領域に予め保持されている。ピストン推力変換器62は、センサ荷重とピストン位置を入力とし、図10に示す特性マップ、もしくは特性で得られる関数演算を実施することでピストン推力を算出する。このため、パッド摩耗量が小さい場合には、パッド摩耗量が大きい場合に比べて、センサ荷重が同じ値であっても、ピストン推力変換器62が算出するピストン推力は、大きくなる。
また、第2の実施形態では、ブレーキパッド22,23から離間する方向に最大まで戻した位置を原点とし、この原点からのピストン位置に基づいて、ピストン推力を算出するための特性を変更した。本発明はこれに限らず、センサ荷重が増加を開始する位置を原点とし、例えばパッド摩耗量や温度によって変化する、ピストン位置とセンサ荷重との関係特性(剛性)に基づいて、ピストン推力を算出するための特性を変更してもよい。この場合、ピストン位置とセンサ荷重との関係特性は、例えばピストン位置の増加量に対するセンサ荷重の増加量の比率が該当する。このため、ピストン推力変換器62には、ピストン位置に代えて、ピストン位置の増加量に対するセンサ荷重の増加量の比率を入力してもよい。
かくして、第2の実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、推力を発生した際の推力センサ44にかかるセンサ荷重は、パッド摩耗量(ブレーキパッド22,23の厚さ)に応じて変化する。これに対し、第2の実施形態では、リヤ電動ブレーキ用ECU11のピストン推力算出部61は、推力センサ44にかかるセンサ荷重の特性変化として、電動モータ39から推力を付与したときのピストン32の移動量の変化に応じて推力センサ44の検出値を補正する。これにより、リヤ電動ブレーキ用ECU11のピストン推力算出部61は、ブレーキパッド22,23(制動部材)の磨耗量に応じて推力センサ44の検出値を変更する。このため、推力センサ44のパッド摩耗量によらず、センサ荷重からピストン推力を精度よく算出することができる。
上述した効果について、図9および図10を参照して詳細に説明する。インナブレーキパッド22およびアウタブレーキパッド23は、制動によって徐々に摩耗する。図9は、パッド新品時において、ブレーキ機構21の推力発生時に推力センサ44にかかる荷重を模式的に表している。推力発生時、シリンダ部29は、ディスクロータDを跨いでいる部分(図9中の上側部分)に応力が発生する。このとき、インナブレーキパッド22を押圧するピストン32が格納された円筒部と、アウタブレーキパッド23を押圧する爪部30とが、図9中の下側部分が広がるように変形する。この変形に沿うように、ピストン32、ボールねじ機構41のプッシュロッド42およびベースナット43のそれぞれの接触部に荷重がかかり、推力センサ44にセンサ荷重として伝達される。この場合、推力センサ44にかかるセンサ荷重は、シリンダ部29の底部のうち図9中の上側部分で大きくなり、図9中の下側部分で小さくなる。このように、推力センサ44にかかるセンサ荷重は、図9中の上側部分と下側部分との間で大きな差(荷重差)が生じる。
一方、図10は、パッド摩耗時において、ブレーキ機構21の推力発生時に推力センサ44にかかる荷重を模式的に表している。パッド摩耗により、図9と同一の推力を発生するためには、パッド新品時に比べて、プッシュロッド42をさらに前進させ、ベースナット43の相対位置を変化させる必要がある。このとき、推力センサ44にかかるセンサ荷重は、プッシュロッド42とベースナット43の相対位置が変化することにより、荷重の伝達経路が変化する。推力センサ44にかかるセンサ荷重は、図10中の上側部分と下側部分との間で差(荷重差)が生じる。しかしながら、この荷重差は、パッド新品時から変化する。具体的には、パッド新品時に比べて、回転直動変換機構としてのボールねじ機構41の長さが長くなることによって、荷重差が小さくなる傾向がある。これに伴い、パッド摩耗が大きくなるに従って、センサ荷重に対するピストン推力が低下する。このため、パッド新品時とパッド摩耗時とを比較すると、センサ荷重が同じ値であっても、パッド新品時のピストン推力に比べて、パッド摩耗時のピストン推力は低下する。
推力センサ44は、推力センサ44にかかる荷重によって生じる微小な歪や変位等を検出信号に変換する。このため、推力センサ44の内部における、歪や変位等を検出する位置によって、ピストン32に発生する推力とは異なる推力を検出する。これが推力誤差となるため、推力制御精度を悪化させる原因になる。
これに対し、第2の実施形態では、リヤ電動ブレーキ用ECU11のピストン推力変換器62は、センサ荷重とピストン位置を入力とし、図8に示す特性マップ、もしくは特性で得られる関数演算を実施することでピストン推力を算出する。このとき、ピストン推力変換器62は、パッド新品時に比べてパッド摩耗時の方がセンサ荷重に対するピストン推力が低下するように、ピストン推力を算出する。このため、リヤ電動ブレーキ用ECU11は、推力センサ44の搭載位置およびパッド摩耗量(パッド厚さ)に応じたピストン推力を算出することができる。この結果、リヤ電動ブレーキ用ECU11は、パッド摩耗量によらず、センサ荷重からピストン推力を精度よく算出することができる。
また、第2の実施形態では、ピストン推力算出部61は、推力センサ44のセンサ出力信号と、回転角センサ46の検出回転角から推定されるピストン位置とを組み合わせて、センサ荷重とピストン推力との間の誤差を補正する。このため、誤差の補正精度が高くなる。これに加え、ピストン推力算出部61は、推力センサ44にかかる荷重の特性変化として、ピストン32をブレーキパッド22,23から離間する方向に最大まで後退させた位置からピストン32がブレーキパッド22,23をディスクロータDに押圧する位置までの距離の変化に応じて推力センサ44の検出値を補正する。このため、ピストン位置を正確に検出することができ、誤差の補正精度が最も高くなる。
なお、前記各実施形態では、後輪5L,5Rに電動ブレーキ20を適用するものとしたが、前輪3L,3Rに電動ブレーキ20を適用してもよく、4輪全てに電動ブレーキ20を適用してもよい。
以上説明した実施態様に基づく電動ブレーキ装置として、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、電動ブレーキ装置は、電動モータの駆動によりピストンを推進し、制動部材を被制動部材に押圧することで制動力を付与するブレーキ機構と、前記ピストンの推力を検出する推力検出部と、制動指令に応じて、前記推力検出部の検出値に基づき前記電動モータの駆動を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記ピストンを前記制動部材から離間する方向に最大まで後退させた位置から前記ピストンが前記制動部材を被制動部材に押圧する位置までの距離に応じて前記推力検出部の検出値を変更することを特徴としている。
第2の態様としては、電動ブレーキ装置は、電動モータの駆動によりピストンを推進し、制動部材を被制動部材に押圧することで制動力を付与するブレーキ機構と、前記ピストンの推力を検出する推力検出部と、制動指令に応じて、前記推力検出部の検出値に基づき前記電動モータの駆動を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記推力検出部にかかる荷重の特性変化に応じて、前記推力検出部の検出値を補正することを特徴としている。
第3の態様としては、第2の態様において、前記制御装置は、前記推力検出部にかかる荷重の特性変化として、電動モータから推力を付与したときの前記ピストンの移動量の変化に応じて前記推力検出部の検出値を補正することを特徴としている。
第4の態様としては、第2の態様において、前記制御装置は、前記推力検出部にかかる荷重の特性変化として、前記ピストンを前記制動部材から離間する方向に最大まで後退させた位置から前記ピストンが前記制動部材を被制動部材に押圧する位置までの距離の変化に応じて前記推力検出部の検出値を補正することを特徴としている。
第5の態様としては、電動ブレーキ装置は、電動モータの駆動によりピストンを推進し、制動部材を被制動部材に押圧することで制動力を付与するブレーキ機構と、前記ピストンの推力を検出する推力検出部と、制動指令に応じて、前記推力検出部の検出値に基づき前記電動モータの駆動を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記制動部材の磨耗量に応じて前記推力検出部の検出値を変更することを特徴としている。
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
本願は、2019年3月27日付出願の日本国特許出願第2019−060491号に基づく優先権を主張する。2019年3月27日付出願の日本国特許出願第2019−060491号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書を含む全開示内容は、参照により本願に全体として組み込まれる。