JPWO2020195009A1 - ホットスタンプ成形体 - Google Patents
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Abstract
Description
本願は、2019年3月25日に、日本に出願された特願2019−057145号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
このような課題を解決するため、鋼板をオーステナイト域の高温まで加熱した後にプレス成形を実施するホットスタンプの適用が進められている。ホットスタンプは、プレス加工と同時に、金型内において焼入れ処理を実施するので、鋼板のC量に応じた強度を得ることができ、自動車部材への成形と強度確保とを両立する技術として注目されている。
特許文献2では、合金元素の選択により、旧オーステナイト粒の平均結晶粒径を細粒化させて、耐衝突特性を高める技術が開示されている。
マルテンサイトを主体とするホットスタンプ成形体において曲げ性を向上させるためには、マルテンサイト中の転位の移動を促進させて、変形能を高めればよい。マルテンサイトは結晶粒が微細化されているため、粒界面積が大きく、粒内を移動した転位は粒界でせき止められるため、変形能が低くなることが特徴である。そこで、本発明者らは、粒界面積が大きくても、転位の移動を促進させるための方法について検討した。その結果、本発明者らは、マルテンサイトに含まれる4種類の粒界のうち、最も低角度である粒界の割合を増加させることにより、結晶粒間の転位の移動を容易にすることができ、ホットスタンプ成形体の曲げ性が向上することを見出した。具体的には、本発明者らは、マルテンサイト等の体心構造を持つ結晶粒における平均結晶方位差が5°以上である粒界のうち<011>方向を回転軸として回転角が57°〜63°となる粒界の長さと、回転角が49°〜56°となる粒界の長さと、回転角が4°〜12°となる粒界の長さと、回転角が64°〜72°となる粒界の長さとの合計の長さに対して、回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合を15%以上に制御することで、ホットスタンプ成形体の曲げ性が向上することを見出した。
[1]本発明の一態様に係るホットスタンプ成形体は、化学組成が、質量%で、
C:0.15%以上、0.70%未満、
Si:0.010%以上、0.50%未満、
Mn:0.010%以上、3.00%未満、
sol.Al:0.0002%以上、3.000%以下、
Ni:3.0%以上、15.0%未満、
P:0.100%以下、
S:0.1000%以下、
N:0.0100%以下、
Nb:0%以上、0.150%以下、
Ti:0%以上、0.150%以下、
Mo:0%以上、1.000%以下、
Cr:0%以上、1.000%以下、
B:0%以上、0.0100%以下、
V:0%以上、1.0000%以下、
Cu:0%以上、1.0000%以下、
Sn:0%以上、1.000%以下、
W:0%以上、1.000%以下、
Ca:0%以上、0.010%以下、および
REM:0%以上、0.300%以下を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
旧オーステナイト粒の平均結晶粒径が10μm以下であり、
体心構造を持つ結晶粒における平均結晶方位差が5°以上である粒界のうち、<011>方向を回転軸として回転角が57°〜63°となる粒界の長さと、回転角が49°〜56°となる粒界の長さと、回転角が4°〜12°となる粒界の長さと、回転角が64°〜72°となる粒界の長さとの合計の長さに対して、前記回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合が15%以上であることを特徴とする。
[2]上記[1]に記載のホットスタンプ成形体は、前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.010%以上、0.150%以下、
Ti:0.010%以上、0.150%以下、
Mo:0.005%以上、1.000%以下、
Cr:0.005%以上、1.000%以下、
B:0.0005%以上、0.0100%以下、
V:0.0005%以上、1.0000%以下、
Cu:0.0010%以上、1.0000%以下、
Sn:0.001%以上、1.000%以下、
W:0.001%以上、1.000%以下、
Ca:0.001%以上、0.010%以下、および
REM:0.001%以上、0.300%以下
からなる群のうち1種又は2種以上を含有してもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載のホットスタンプ成形体は、表面にめっき層を備えてもよい。
[4]上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のホットスタンプ成形体は、一部に軟化領域を有してもよい。
Cは、ホットスタンプ成形体において、自動車部材等に所望される硬度を得るために重要な元素である。C含有量が0.15%未満では、マルテンサイトが軟らかく、所望の硬度を得ることが困難である。そのため、C含有量は0.15%以上とする。C含有量は、好ましくは0.30%以上である。一方、C含有量が0.70%以上では、鋼中に粗大な炭化物が生成し、ホットスタンプ成形体の靭性が低下するので、C含有量は0.70%未満とする。C含有量は、好ましくは0.50%以下である。
Siは、ホットスタンプ成形体の変形能を高めて靭性の向上に寄与する元素である。Si含有量が0.010%未満では変形能が乏しく、ホットスタンプ成形体の靭性が劣化する。そのため、Si含有量は0.010%以上とする。Si含有量を0.50%以上としても上記効果が飽和するため、Si含有量は0.50%未満とする。
Mnは、固溶強化によってホットスタンプ成形体の硬度の向上に寄与する元素である。Mn含有量が0.010%未満では固溶強化能が乏しく、マルテンサイトが軟らかくなり、自動車部材等に所望される硬度を得ることが困難となる。そのため、Mn含有量は0.010%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.70%以上である。一方、Mn含有量を3.00%以上とすると、マルテンサイトが脆くなりホットスタンプ成形体の靭性が損なわれるため、Mn含有量は3.00%未満とする。
Alは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する(鋼にブローホールなどの欠陥が生じることを抑制する)作用を有する元素である。sol.Al含有量が0.0002%未満では、脱酸が十分でないので、sol.Al含有量は0.0002%以上とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.001%以上である。一方、sol.Al含有量を3.000%超とすると、粗大な酸化物が生成してホットスタンプ成形体の靭性が損なわれるため、sol.Al含有量は3.000%以下とする。
なお、本実施形態においてsol.Alとは、酸可溶性Alを意味し、固溶状態で鋼中に存在する固溶Alのことを示す。
Niは、旧オーステナイト粒を細粒化する効果を持つ元素であるとともに、熱間圧延工程において所望量のグラニュラーベイナイトを得るために必要な元素でもある。Ni含有量が3.0%未満では上記効果が得られないので、Ni含有量は3.0%以上とする。低温での衝撃エネルギーの吸収能を更に高めるために、Ni含有量は、5.0%以上が好ましい。一方、Ni含有量が15.0%以上であると、マルテンサイトが脆くなりホットスタンプ成形体の靭性が損なわれるため、Ni含有量は15.0%未満とする。Ni含有量は、好ましくは12.0%未満である。
Pは、粒界に偏析し、粒界の強度を低減する元素である。P含有量が0.100%を超えると、粒界の強度が著しく低下し、ホットスタンプ成形体の曲げ性が低下するので、P含有量は0.100%以下とする。P含有量は、好ましくは0.050%以下である。P含有量の下限は特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Pコストが大幅に上昇し、経済的に好ましくないため、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
Sは、鋼中に介在物を形成する元素である。S含有量が0.1000%を超えると、鋼中に介在物が生成してホットスタンプ成形体の曲げ性が低下するので、S含有量は0.1000%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0050%以下である。S含有量の下限は特に限定しないが、0.0015%未満に低減すると、脱Sコストが大幅に上昇し、経済的に好ましくないため、実用鋼板上、0.0015%が実質的な下限である。
Nは、不純物元素であり、窒化物を形成してホットスタンプ成形体の曲げ性を低下させる元素である。N含有量が0.0100%を超えると、鋼中に粗大な窒化物が生成し、ホットスタンプ成形体の曲げ性が著しく低下するので、N含有量は0.0100%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0075%以下である。N含有量の下限は特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Nコストが大幅に上昇し、経済的に好ましくないため、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、任意元素として、以下の元素を含有してもよい。以下の任意元素を含有しない場合の含有量は0%である。
Nbは、固溶強化によってホットスタンプ成形体の硬度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Nbを含有させる場合、0.010%未満ではNb含有による十分な効果が得られないので、0.010%以上含有させることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.035%以上である。一方、Nb含有量を0.150%超としても上記効果は飽和するので、Nb含有量は0.150%以下とする。Nb含有量は、好ましくは0.120%以下である。
Tiは、固溶強化によりホットスタンプ成形体の硬度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Tiを含有させる場合、0.010%未満ではTi含有による十分な効果が得られないので、Ti含有量は0.010%以上とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.020%以上である。一方、Ti含有量を0.150%超としても上記効果は飽和するので、Ti含有量は0.150%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.120%以下である。
Moは、固溶強化によりホットスタンプ成形体の硬度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Moを含有させる場合、0.005%未満ではMo含有による十分な効果が得られないので、Mo含有量は0.005%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.010%以上である。一方、Mo含有量を1.000%超としても上記効果は飽和するため、Mo含有量は1.000%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.800%以下である。
Crは、固溶強化によりホットスタンプ成形体の硬度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Crを含有させる場合、Cr含有量が0.005%未満ではCr含有による十分な効果が得られないので、Cr含有量は0.005%以上とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.010%以上である。一方、Cr含有量を1.000%超としても上記効果は飽和するため、Cr含有量は1.000%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.800%以下である。
Bは、粒界に偏析して粒界の強度を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Bを含有させる場合、B含有量が0.0005%未満ではB含有による十分な効果が得られないので、B含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0010%以上である。一方、B含有量を0.0100%超としても上記効果は飽和するため、B含有量は0.0100%以下とする。B含有量は、好ましくは0.0075%以下である。
Vは、固溶強化によりホットスタンプ成形体の硬度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Vを含有させる場合、V含有量が0.0005%未満では、V含有による十分な効果が得られないので、V含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.0100%以上である。一方、V含有量を1.0000%超としても上記効果は飽和するため、V含有量は1.0000%以下とする。V含有量は、好ましくは0.8000%以下である。
Cuは、固溶強化によりホットスタンプ成形体の硬度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させても良い。Cuを含有させる場合、Cu含有量が0.0010%未満ではCu含有による十分な効果が得られないので、Cu含有量は0.0010%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.0100%以上である。一方、Cu含有量を1.0000%超としても上記効果は飽和するため、Cu含有量は1.0000%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.8000%以下である。
Snは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用を持つ元素であるため、1.000%を上限として含有させてもよい。上記効果を確実に発揮させるためには、Sn含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
Wは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用を持つ元素であるため、1.000%を上限として含有させてもよい。上記効果を確実に発揮させるためには、W含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
Caは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用を持つ元素であるため、0.010%を上限として含有させてもよい。上記効果を確実に発揮させるためには、Ca含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
REMは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用を持つ元素であるため、0.300%を上限として含有させてもよい。上記効果を確実に発揮させるためには、REM含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
なお、本実施形態においてREMは、Sc、Yおよびランタノイドからなる合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計量を意味する。REMは、ミッシュメタルにより含有させる場合が多いが、LaおよびCeの他にランタノイド系列の元素を複合で含有させる場合がある。LaおよびCeの他にランタノイド系列の元素を複合で含有させる場合であっても、本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、その効果を発揮することができる。また、金属LaやCeなどの金属REMを含有させても、本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、その効果を発揮することができる。
「平均結晶方位差が5°以上の結晶粒界で囲まれた結晶粒の内部に、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下である亜結晶粒(グラニュラーベイナイト)を面積率で10%以上含む」
ホットスタンプ用鋼板は、グラニュラーベイナイト(平均結晶方位差が5°以上の結晶粒界で囲まれた結晶粒の内部に存在する、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下である亜結晶粒)を面積率で10%以上含む必要がある。熱間圧延工程で生成したグラニュラーベイナイトは、(必要に応じて冷間圧延および)所定の熱処理工程を経てオーステナイトへと変態し、最終的に、ホットスタンプ成形体において所望の金属組織を得ることができる。本発明者らが鋭意研究した結果、グラニュラーベイナイトが面積率で10%未満であると、ホットスタンプ成形体において所望の金属組織が得られないことを知見した。そのため、本実施形態に係るホットスタンプ成形体に適用されるホットスタンプ用鋼板では、グラニュラーベイナイトの面積率を10%以上とする。好ましくは、面積率で15%以上、20%以上、25%以上、30%以上である。上限は特に限定されないが、グラニュラーベイナイトの面積率は95%未満としてもよい。
ホットスタンプ用鋼板の端面から50mm以上離れた位置から、表面に垂直な断面(板厚断面)が観察できるようにサンプルを切り出す。サンプルは、測定装置にもよるが、圧延方向に10mm程度観察できる大きさとする。切り出したサンプルについて、板厚1/2位置を、0.2μmの測定間隔でEBSD解析して結晶方位情報を得る。ここで、EBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(TSL製DVC5型検出器)とで構成された装置を用いて、200〜300点/秒の解析速度で実施する。
Misorientation」機能を用いれば、簡便に算出することが可能である。この機能では、体心構造を持つ結晶粒について、隣接する測定点間の方位差を算出した後、結晶粒内の全ての測定点について平均値を求めることが可能である。得られた結晶方位情報に対して、平均結晶方位差が5°以上の粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義し、「Grain Average Misorientation」機能により、結晶粒内の平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下である領域(亜粒界)の面積率を算出することで、グラニュラーベイナイトの面積率を得ることができる。
本実施形態に係るホットスタンプ成形体に適用されるホットスタンプ用鋼板では、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下である粒界の長さおよび平均結晶方位差が3.0°超の粒界の長さの合計の長さに対して、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下の粒界の長さの割合が60%以上である。平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下である粒界の長さおよび平均結晶方位差が3.0°超の粒界の長さの合計の長さに対して、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下の粒界の長さの割合が60%未満であると、ホットスタンプ成形体において所望の金属組織が得られない。上記粒界の長さの割合は、好ましくは、70%以上、または80%以上である。上限は特に限定されないが、95%未満としてもよい。
まず、ホットスタンプ用鋼板の端面から50mm以上離れた位置から、表面に垂直な断面(板厚断面)が観察できるようにサンプルを切り出す。サンプルは、測定装置にもよるが、圧延方向に10mm程度観察できる大きさとする。切り出したサンプルの断面を#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して研磨した後、粒度1〜6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液および純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げる。次に、室温においてアルカリ性溶液を含まないコロイダルシリカを用いて8分間研磨し、サンプルの表層に導入されたひずみを除去する。サンプル断面の長手方向の任意の位置において、長さ50μm、鋼板の表面から深さ50μmまでの領域を、0.1μmの測定間隔で電子後方散乱回折法により測定して結晶方位情報を得る。測定には、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(TSL製DVC5型検出器)とで構成された装置を用いる。この際、装置内の真空度は9.6×10−5Pa以下、加速電圧は15kV、照射電流レベルは13、電子線の照射時間は0.01秒/点とする。得られた結晶方位情報をEBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)」に搭載された「Image Quality」機能を用いて、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下の粒界の長さと、平均結晶方位差が3.0°超の粒界の長さの合計の長さに対する、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下の粒界の長さの割合を算出する。この機能では、体心構造を持つ結晶粒の粒界について、任意の回転角を持つ粒界の合計の長さを算出することができる。測定領域に含まれる全ての結晶粒について、これらの粒界の合計の長さを算出し、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下の粒界の長さおよび平均結晶方位差が3.0°超の粒界の長さの合計の長さに対する、平均結晶方位差が0.4°以上、3.0°以下の粒界の長さの割合を算出する。
マルテンサイト変態前のオーステナイトの平均結晶粒径を10μm以下とすると、マルテンサイト変態後において、マルテンサイト等の体心構造を持つ結晶粒における平均結晶方位差が5°以上である粒界のうち、<011>方向を回転軸として回転角が57°〜63°となる粒界の長さと、回転角が49°〜56°となる粒界の長さと、回転角が4°〜12°となる粒界の長さと、回転角が64°〜72°となる粒界の長さとの合計の長さに対して、回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合を15%以上に制御することができる。その結果、ホットスタンプ成形体の曲げ性を向上することができる。そのため、本実施形態に係るホットスタンプ成形体では、旧オーステナイト粒の平均結晶粒径を10μm以下とする。旧オーステナイト粒の平均結晶粒径は、好ましくは8μm以下である。下限は特に限定しないが、通常の実操業上で実現できる旧オーステナイト粒の平均結晶粒径は2μm以上であるため、旧オーステナイト粒の平均結晶粒径の下限は2μmとしてもよい。
体心構造を持つ結晶粒における平均結晶方位差が5°以上である粒界のうち、<011>方向を回転軸として回転角が57°〜63°となる粒界の長さと、回転角が49°〜56°となる粒界の長さと、回転角が4°〜12°となる粒界の長さと、回転角が64°〜72°となる粒界の長さとの合計の長さに対して、回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合が15%未満であると、ホットスタンプ成形体の曲げ性を向上することができない。そのため、本実施形態に係るホットスタンプ成形体では、体心構造を持つ結晶粒における平均結晶方位差が5°以上である粒界のうち、<011>方向を回転軸として回転角が57°〜63°となる粒界の長さと、回転角が49°〜56°となる粒界の長さと、回転角が4°〜12°となる粒界の長さと、回転角が64°〜72°となる粒界の長さとの合計の長さに対して、回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合を15%以上とする。回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合は、20%以上とすることが好ましい。回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合の上限は、粒界強化による強度確保の観点から50%としてもよい。
ホットスタンプ成形体の端面から50mm以上離れた位置(この位置から採取できない場合は、端部を除いた任意の位置)から、表面に垂直な断面(板厚断面)が観察できるようにサンプルを切り出す。サンプルは、測定装置にもよるが、圧延方向に10mm程度観察できる長さとする。切り出したサンプルについて、板厚1/2位置を、0.1μmの測定間隔でEBSD解析して結晶方位情報を得る。ここでEBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(TSL製DVC5型検出器)とで構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施する。
次に、得られた結晶方位情報に対して、体心構造を持つ結晶粒における平均結晶方位差が5°以上である粒界のうち、<011>方向を回転軸として回転角が57°〜63°となる粒界の長さと、回転角が49°〜56°となる粒界の長さと、回転角が4°〜12°となる粒界の長さと、回転角が64°〜72°となる粒界の長さを算出し、それぞれの粒界の長さを合計した値に対して、回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合を算出する。これにより、体心構造を持つ結晶粒における平均結晶方位差が5°以上である粒界のうち、<011>方向を回転軸として回転角が57°〜63°となる粒界の長さと、回転角が49°〜56°となる粒界の長さと、回転角が4°〜12°となる粒界の長さと、回転角が64°〜72°となる粒界の長さの合計に対して、回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合を得る。
本実施形態では、ホットスタンプ成形体の表面に、耐食性の向上等を目的として、めっき層が形成されていてもよい。めっき層は、電気めっき層及び溶融めっき層のいずれでもよい。電気めっき層は、例えば、電気亜鉛めっき層、電気Zn−Ni合金めっき層等を含む。溶融めっき層は、例えば、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層、溶融アルミニウムめっき層、溶融Zn−Al合金めっき層、溶融Zn−Al−Mg合金めっき層、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき層等を含む。めっき層の付着量は、特に制限されず一般的な付着量でよい。
本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、一部に軟化領域が形成されていてもよい。軟化領域では溶接性が向上する。例えば、ホットスタンプ成形体の端部を軟化した後にスポット溶接を行えば、軟化した端部とその端部のうちのスポット溶接部との強度差を小さくすることができるため、両者の界面からの破壊を抑制することができる。また、例えば、自動車の高強度部材にホットスタンプ成形体を適用する場合、高強度部材の一部に軟化領域を設けることで、衝突時における当該高強度部材の破壊、変形モードを制御することができる。軟化領域を形成させるためには、例えば、ホットスタンプ用鋼板をホットスタンプ成形体に成形した後に、レーザー照射により、ホットスタンプ成形体の一部の強度を低下させればよい。なお、レーザー照射は軟化手段である熱処理の一例であり、軟化手段は特に限定されない。他の手段として、例えば、ホットスタンプ成形体の一部を焼き戻すことにより、軟化領域を形成してもよい。
本実施形態に係るホットスタンプ成形体に適用するホットスタンプ用鋼板の製造方法では、上述の化学組成を有する鋼片を熱間圧延に供し、800℃以上の温度で熱間圧延を終了し、500℃以上、770℃以下の温度で巻取り、巻取り中の熱延鋼板の650℃から400℃までの温度域における平均冷却速度を50℃/s以下とすることが好ましい。
所望の量のグラニュラーベイナイトを得るためには、変態前のオーステナイトの再結晶率、すなわち転位密度を制御することが効果的である。オーステナイトの再結晶が促進され過ぎると、オーステナイト中の転位密度が減少してしまい、所望量のグラニュラーベイナイトを得ることができない。一方、再結晶が不十分であっても、オーステナイト中の転位密度が増加し過ぎて、グラニュラーベイナイトへの変態が起こらなくなる。本発明者らが鋭意検討した結果、本発明者らは、熱間圧延終了温度が800℃以上であれば、オーステナイトの再結晶が適度に進み、結果として、グラニュラーベイナイトへの変態が起こりやすい転位密度に制御できることを見出した。熱間圧延終了温度が800℃未満では、オーステナイトの再結晶が起こらず、所望量のグラニュラーベイナイトを得ることができない場合がある。そのため、熱間圧延終了温度は800℃以上とすることが好ましい。好ましくは820℃以上である。また、本実施形態で規定する化学組成を有する鋼では、再結晶が過促進されることは考え難いため、熱間圧延終了温度の上限は特に規定しないが、通常は1050℃である。
巻取りは500℃以上、770℃以下で開始し、巻取り中の熱延鋼板の650℃から400℃までの温度域における平均冷却速度を50℃/s以下に制御することが好ましい。770℃超の温度で巻取りを開始すると、オーステナイトからベイニティックフェライトへの変態が起こらない場合があるため、巻取り温度は770℃以下とすることが好ましい。巻取り温度が500℃ではグラニュラーベイナイトの生成が起こらない場合がある。そのため、巻取り温度は500℃以上とすることが好ましい。
本実施形態に係るホットスタンプ成形体の製造方法では、上述したホットスタンプ用鋼板を、平均加熱速度100℃/s以上、200℃/s未満で800℃以上の温度まで加熱した後、保持し、加熱開始から成形までの経過時間が240秒以下になるようにホットスタンプを施した後、400℃以下の温度域まで冷却することが好ましい。保持温度を800℃以上とすることで、熱間圧延工程で生成したグラニュラーベイナイトからオーステナイトへの変態を十分に促進でき、マルテンサイトの結晶粒界を好ましい形態に制御することができる。そのため、保持温度は800℃以上にすることが好ましい。
強度の調整並びに延性脆性遷移温度および低温靭性の向上を目的として、室温まで冷却したホットスタンプ成形体に150℃〜650℃の範囲で焼戻し処理を施してもよい。この場合、例えば、ホットスタンプ成形体の一部のみを焼き戻してもよい。これにより、ホットスタンプ成形体の一部に軟化領域を形成することができ、ホットスタンプ成形体の部位に応じた強度や靭性等の特性を制御することができる。例えば、ホットスタンプ成形体を自動車の高強度部材に適用する場合、高強度部材の一部のみを焼き戻して軟化することにより、衝突時における当該高強度部材の破壊、変形モードを制御することができる。
ホットスタンプ成形体のビッカース硬さは、以下の方法により得た。まず、ホットスタンプ成形体の端面から50mm以上離れた任意の位置から表面に垂直な断面(板厚断面)が観察できるようにサンプルを切り出した。サンプルは、測定装置にもよるが、圧延方向に10mm観察できる大きさとした。サンプルの断面を#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して研磨した後、粒度1〜6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液および純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げた。鏡面に仕上げた断面に対し、板厚1/4位置においてマイクロビッカース硬さ試験機を用いて、板面と平行な方向(圧延方向)に、荷重1kgfで、圧痕の3倍以上の間隔で硬さを測定した。合計で20点測定し、その平均値を当該ホットスタンプ成形体のビッカース硬さとした。ビッカース硬さが450Hv以上である場合を硬度に優れるとして合格と判定し、450Hv未満である場合を硬度に劣るとして不合格と判定した。
ホットスタンプ成形体の曲げ性は、ドイツ自動車工業会で規定されたVDA基準(VDA238−100)に基づいて、以下の方法により評価した。本実施例では、曲げ試験で得られる最大荷重時の変位をVDA基準で角度に変換し、最大曲げ角度(°)を求めた。
試験片寸法:60mm(圧延方向)×60mm(板幅方向に平行な方向)、又は、30mm(圧延方向)×60mm(板幅方向に平行な方向)
試験片板厚:1.0mm(表裏面を同量ずつ研削)
曲げ稜線:板幅方向に平行な方向
試験方法:ロール支持、ポンチ押し込み
ロール径:φ30mm
ポンチ形状:先端R=0.4mm
ロール間距離:2.0×板厚(mm)+0.5mm
押し込み速度:20mm/min
試験機:SHIMADZU AUTOGRAPH 20kN
一方、化学組成および金属組織のうちいずれか1つ以上が本発明を外れるホットスタンプ成形体は、ビッカース硬さおよび曲げ性の1つ以上が劣ることが分かる。
Claims (4)
- 化学組成が、質量%で、
C:0.15%以上、0.70%未満、
Si:0.010%以上、0.50%未満、
Mn:0.010%以上、3.00%未満、
sol.Al:0.0002%以上、3.000%以下、
Ni:3.0%以上、15.0%未満、
P:0.100%以下、
S:0.1000%以下、
N:0.0100%以下、
Nb:0%以上、0.150%以下、
Ti:0%以上、0.150%以下、
Mo:0%以上、1.000%以下、
Cr:0%以上、1.000%以下、
B:0%以上、0.0100%以下、
V:0%以上、1.0000%以下、
Cu:0%以上、1.0000%以下、
Sn:0%以上、1.000%以下、
W:0%以上、1.000%以下、
Ca:0%以上、0.010%以下、および
REM:0%以上、0.300%以下を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
旧オーステナイト粒の平均結晶粒径が10μm以下であり、
体心構造を持つ結晶粒における平均結晶方位差が5°以上である粒界のうち、<011>方向を回転軸として回転角が57°〜63°となる粒界の長さと、回転角が49°〜56°となる粒界の長さと、回転角が4°〜12°となる粒界の長さと、回転角が64°〜72°となる粒界の長さとの合計の長さに対して、前記回転角が4°〜12°となる粒界の長さの割合が15%以上であることを特徴とするホットスタンプ成形体。 - 前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.010%以上、0.150%以下、
Ti:0.010%以上、0.150%以下、
Mo:0.005%以上、1.000%以下、
Cr:0.005%以上、1.000%以下、
B:0.0005%以上、0.0100%以下、
V:0.0005%以上、1.0000%以下、
Cu:0.0010%以上、1.0000%以下、
Sn:0.001%以上、1.000%以下、
W:0.001%以上、1.000%以下、
Ca:0.001%以上、0.010%以下、および
REM:0.001%以上、0.300%以下
からなる群のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。 - 表面にめっき層を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のホットスタンプ成形体。
- 一部に軟化領域を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のホットスタンプ成形体。
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