本発明は、アレーアンテナ装置に関する。
デジタルビームフォーマ構成のアレーアンテナ(以下、DBFアレーアンテナと記載する)は、例えば、無線通信またはレーダに用いられるアレーアンテナ装置であり、様々なビームを形成でき、複数のビームの同時形成も可能である。従来のDBFアレーアンテナは、一般に、アレーアンテナを構成する複数の素子アンテナのそれぞれに対し、増幅器、ダウンコンバータおよびアナログ/デジタル変換器(以下、A/D変換器と記載する)を備えている。このため、従来のDBFアレーアンテナは、一般に、電力消費が多く、アンテナ体積が大きく、重量も重かった。
一方、例えば、特許文献1に記載されたアレーアンテナは、アレーアンテナを構成する複数の素子アンテナのそれぞれに対して増幅器および二位相変調回路を備えており、さらに、合成回路、ダウンコンバータおよびA/D変換器を備えている。複数の素子アンテナのそれぞれによって受信され、増幅器によって増幅され、二位相変調回路によって位相変調された複数の受信信号は、合成回路によって合成される。合成後の信号は、ダウンコンバータによって周波数変換され、周波数変換後の信号は、A/D変換器によってアナログ信号からデジタル信号に変換される。このように、特許文献1に記載されたアレーアンテナでは、合成回路によって多重化された信号の数だけA/D変換器の数を削減できる。
二位相変調回路は、一般に、半導体素子を用いた回路であり、半導体素子を用いた回路は、通常、大きな通過損失(例えば、3dB以上の損失)を有する。特許文献1に記載されたアレーアンテナにおいて、二位相変調回路での通過損失に伴う受信信号電力の低下に起因した信号対雑音比の劣化を補償するため、素子アンテナごとに増幅器を設けている。このように、特許文献1に記載されたアレーアンテナは、増幅器の数を削減すると信号対雑音比が劣化するので、低消費電力化が困難であるという課題があった。
本発明は上記課題を解決するものであり、低消費電力化を実現することができるアレーアンテナ装置を得ることを目的とする。
本発明に係るアレーアンテナ装置は、放射電界位相が互いに異なる複数の放射構造と、放射構造を切り替えるスイッチとを有し、スイッチによって切り替えられた放射構造で受信された受信信号を出力する複数の素子アンテナが配列されたアレーアンテナと、放射構造の切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を、素子アンテナごとに生成するシーケンス生成部と、シーケンス生成部によって生成されたシーケンス情報に基づいて、スイッチによる放射構造の切り替えを制御するスイッチ制御回路と、複数の素子アンテナから出力された信号を合成する合成回路と、合成回路によって合成された信号を増幅する増幅器と、増幅器によって増幅された信号を周波数変換する周波数変換器と、周波数変換器によって周波数変換された信号をデジタル信号に変換する変換器とを備える。
本発明によれば、複数の素子アンテナのそれぞれが、放射電界位相が互いに異なる複数の放射構造と、放射構造を切り替えるスイッチとを有し、スイッチが切り替えた放射構造で受信された受信信号を出力する。放射構造の切り替えによって、素子アンテナから出力される受信信号は、放射電界位相が互いに異なる信号となり、例えば、二位相変調された信号となる。低損失なスイッチを用いて受信信号に二位相変調を施すことができるので、素子アンテナごとに増幅器を設けなくても、受信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比の劣化を抑制しながら増幅器の数を削減でき、低消費電力化を実現することができる。
実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の動作を示すフローチャートである。
実施の形態2に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図4Aは、実施の形態2における放射構造を示す斜視図である。図4Bは、実施の形態2における放射構造を図4AのA−A線で切った断面を示す断面矢示図である。
図5Aは、実施の形態2における放射構造の変形例を示す斜視図である。図5Bは、実施の形態2における放射構造の変形例を図5Aの矢印方向からみた様子を示す図である。
図6Aは、実施の形態2における放射構造の別の変形例を示す斜視図である。図6Bは、実施の形態2における放射構造の別の変形例を図6Aの矢印方向からみた様子を示す図である。
実施の形態3に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
実施の形態3における導波管を図7のB−B線で切った断面を示す断面矢示図である。
導波管の広壁面における電流分布を示す図である。
図10Aは、実施の形態3における導波管の変形例を示す斜視図である。図10Bは、実施の形態3における導波管の変形例を図10AのC−C線で切った断面を示す断面矢示図である。図10Cは、実施の形態3における導波管の変形例を図10AのD−D線で切った断面を示す断面矢示図である。
実施の形態4に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
実施の形態4に係るアレーアンテナ装置の動作を示すフローチャートである。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図1に示すアレーアンテナ装置は、空間を伝搬してきた電磁波をアレーアンテナ1によって受信する。アレーアンテナ1には、複数の素子アンテナ2が一定の間隔で配列されている。複数の素子アンテナ2のそれぞれは、第1の放射構造3a、第2の放射構造3b、第1の給電構造部4a、第2の給電構造部4bおよびスイッチ5を備える。
第1の放射構造3aは、第1の給電構造部4aを有したアンテナであり、第2の放射構造3bは、第2の給電構造部4bを有したアンテナである。第1の給電構造部4aは、第1の放射構造3aで受信された信号を伝送する給電構造部であり、第2の給電構造部4bは、第2の放射構造3bで受信された信号を伝送する給電構造部である。
第1の給電構造部4aと第2の給電構造部4bは、放射電界位相が互いに異なる2つの給電構造部であり、例えば、放射電界位相値が互いに180度異なっている。すなわち、素子アンテナ2が有する2つの放射構造は、放射電界位相が互いに異なる2つのアンテナであり、給電構造部は、これらのアンテナのそれぞれに1つずつ設けられている。
スイッチ5は、第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとを切り替えるものであり、いわゆる、シングルポールダブルスロー(以下、SPDTと記載する)構造のスイッチである。SPDT構造のスイッチ5は、第1の給電構造部4aが接続された第1の入力端子、第2の給電構造部4bが接続された第2の入力端子および両者に共通の出力端子を有する。
例えば、スイッチ5によって第1の放射構造3aに切り替えられると、第1の放射構造3aで受信された高周波信号は、第1の給電構造部4aを介して第1の入力端子からスイッチ5に入力され、出力端子から出力される。一方、スイッチ5によって第2の放射構造3bに切り替えられると、第2の放射構造3bで受信された高周波信号は、第2の給電構造部4bを介して第2の入力端子からスイッチ5に入力され、出力端子から出力される。
図1に示すアレーアンテナ装置は、合成回路6、増幅器7、周波数変換器8、局部発振器9、A/D変換器10、シーケンス生成部11、スイッチ制御回路12、デコーダ部13およびビーム形成部14をさらに備える。複数の素子アンテナ2の各スイッチ5で切り替えられた高周波信号は、合成回路6に出力される。合成回路6は、アレーアンテナ1を構成する複数の素子アンテナ2のそれぞれから出力された高周波信号を合成し、合成した信号を増幅器7に出力する。増幅器7は、合成回路6によって合成された高周波信号の電力を予め設定された利得で増幅する。
周波数変換器8は、局部発振器9から入力した局部発振信号を用いて、増幅器7によって電力が増幅された高周波信号の周波数を中間周波数帯に周波数変換する。局部発振器9は、高周波信号の周波数変換に用いられる、予め設定された周波数の局部発振信号を発生する。A/D変換器10は、周波数変換器8によって周波数が中間周波数帯に変換された信号をデジタル信号に変換する変換器である。
シーケンス生成部11は、第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとの切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を、素子アンテナ2ごとに生成する。放射構造の切り替えシーケンスには、放射構造の切り替えの時系列な順序と切り替え間隔が含まれる。素子アンテナ2ごとに生成されたシーケンス情報は、シーケンス生成部11からスイッチ制御回路12に出力される。
なお、シーケンス生成部11は、記憶装置に記憶されたシーケンス情報を読み出し、読み出したシーケンス情報をスイッチ制御回路12に出力してもよい。記憶装置は、アレーアンテナ装置が備えるRAM(Random Access Memory)またはハードディスクといった記憶装置であってもよいが、アレーアンテナ装置からアクセス可能な外部記憶装置であってもよい。
スイッチ制御回路12は、シーケンス生成部11によって生成されたシーケンス情報に基づいて、スイッチ5による第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとの切り替えを制御する。例えば、スイッチ制御回路12は、シーケンス情報が示す切り替えシーケンスに基づいて、スイッチ5の動作を制御する制御信号を素子アンテナ2ごとに生成する。スイッチ5は、スイッチ制御回路12から入力した制御信号に基づいて、第1の放射構造3aおよび第2の放射構造3bのいずれかに切り替える。
デコーダ部13は、シーケンス生成部11によって生成されたシーケンス情報に基づいて、A/D変換器10から入力したデジタル信号から、複数の素子アンテナ2のそれぞれで受信された信号を分離する。ビーム形成部14は、デコーダ部13によって素子アンテナ2ごとに分離された信号を用いて、ビーム信号を形成する。ビーム形成部14によって素子アンテナ2の個数分のビーム信号が形成される。
シーケンス生成部11、デコーダ部13およびビーム形成部14の機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。例えば、処理回路とスイッチ制御回路12とが、ネットワークを介して接続された別々の回路である場合、スイッチ制御回路12は、ネットワークインタフェースを通じて処理回路からシーケンス情報を入力する。
また、デコーダ部13およびビーム形成部14は、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置とは別の外部装置が備えてもよい。すなわち、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置は、デコーダ部13およびビーム形成部14を備えていなくても、信号対雑音比を維持しながら低消費電力化を実現できる。なお、この場合、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置は、例えば、上記外部装置に通信接続してデコーダ部13およびビーム形成部14との間で信号をやり取りする。
次に動作について説明する。
図2は、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の動作を示すフローチャートである。
まず、複数の素子アンテナ2のそれぞれが有する第1の放射構造3aおよび第2の放射構造3bが、空間から到来した高周波信号を受信する(ステップST1)。
一方、シーケンス生成部11は、第1の放射構造3aと第2の放射構造3bの切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を素子アンテナ2ごとに生成する(ステップST2)。例えば、シーケンス生成部11は、スイッチ5によって第1の放射構造3aに切り替えられた状態に1を割り当て、スイッチ5によって第2の放射構造3bに切り替えられた状態に−1を割り当てて、[1 −1 1 ・・・1]のように1と−1を要素とした符号列で切り替えシーケンスが表現されたシーケンス情報を生成する。
実施の形態1では、複数の素子アンテナ2のそれぞれに対する切り替えシーケンスを、互いに直交した符号列である直交符号、すなわち、Walsh−Hadamard符号で表す。例えば、アレーアンテナ1を構成する素子アンテナ2の数が4つである場合、4つの素子アンテナ2のそれぞれに対する切り替えシーケンスは、[1 1 1 1]、[1 −1 1 −1]、[1 1 −1 −1]および[1 −1 −1 1]で表される。以下の説明では、切り替えシーケンスを表す直交符号が、素子アンテナ2の数と符号長が同じであるものとする。
スイッチ制御回路12は、シーケンス生成部11によって生成されたシーケンス情報に基づいて、素子アンテナ2ごとのスイッチ5を制御することで、複数の素子アンテナ2のそれぞれが有する第1の放射構造3aと第2の放射構造3bを順次切り替える(ステップST3)。例えば、スイッチ5は、切り替えシーケンスを符号列[1 −1 −1 1]で表したシーケンス情報に基づくと、第1の放射構造3a、第2の放射構造3b、第2の放射構造3b、第1の放射構造3aの順に、時間Tcごとに切り替えを行う。
第1の放射構造3aによって受信されて第1の給電構造部4aからスイッチ5に入力された高周波信号と第2の放射構造3bによって受信されて第2の給電構造部4bを介してスイッチ5に入力された高周波信号は、互いに180度位相が異なっている。このため、スイッチ5からの出力信号は、放射構造の切り替えによって二位相変調が施された高周波信号となる。
第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとの切り替え間隔である時間Tcが、高周波信号(受信信号)が有する情報パルスの継続時間(信号周期に相当する)Tsよりも短い場合、シーケンス情報に基づいて、スイッチ5が、時間Ts内で、時間Tcごとに第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとを切り替え、この切り替えは、時間Tsごとに繰り返し実行される。第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとの切り替えによって二位相変調された高周波信号の周波数スペクトルは、第1の放射構造3aまたは第2の放射構造3bによって受信された高周波信号の周波数スペクトラムに比べて広範な周波数帯域幅を有した、いわゆるスペクトル拡散された信号となる。
続いて、合成回路6は、複数の素子アンテナ2のそれぞれから出力された高周波信号を合成する(ステップST4)。例えば、合成回路6は、複数の素子アンテナ2のそれぞれから出力された高周波信号を合成し、直交符号によってスペクトル拡散された高周波信号の合成信号、すなわち符号分割多重された信号を生成する。
増幅器7が、合成回路6によって合成された高周波信号の電力を増幅し、周波数変換器8が、増幅器7によって増幅された高周波信号の周波数を中間周波数帯に周波数変換し、A/D変換器10が、周波数変換器8によって周波数変換された信号を、デジタル信号に変換する(ステップST5)。A/D変換器10によってデジタル信号に変換された合成信号は、デコーダ部13に出力される。
次に、デコーダ部13は、A/D変換器10から入力した合成信号に逆拡散処理を施して、複数の素子アンテナ2のそれぞれに受信された信号に分離する(ステップST6)。例えば、デコーダ部13は、A/D変換器10から入力した合成信号に対し、シーケンス情報である、1と−1を要素とした符号列を乗算し、乗算した値を積分することで、素子アンテナ2の数だけデジタル信号を算出する。切り替えシーケンスは互いに直交する直交符号で表されるため、スイッチ5に設定された切り替えシーケンスを表す直交符号を合成信号に乗算して積分することで、そのスイッチ5を含んだ素子アンテナ2で受信された信号成分のみが得られ、そのスイッチ5での切り替えシーケンスとは異なる直交符号を合成信号に乗算して積分しても信号成分は0となる。これは、符号分割多重された信号に対して逆拡散処理を施して復調することに相当する。これにより、合成信号から、複数の素子アンテナ2のそれぞれに受信された信号が分離される。
この後、ビーム形成部14は、デコーダ部13によって合成信号から複数の素子アンテナ2のそれぞれに分離された信号を用いて、ビーム信号を形成する(ステップST7)。
以上のように、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナ2のそれぞれが、第1の放射構造3a、第2の放射構造3b、および第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとを切り替えるスイッチ5を有し、スイッチ5が切り替えた放射構造によって受信された受信信号を出力する。放射電界位相が互いに異なる第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとの切り替えによって、素子アンテナ2から出力される受信信号は、二位相変調された信号となる。低損失なスイッチ5を用いて受信信号に二位相変調を施すことができるので、素子アンテナ2ごとに増幅器7を設けなくても、受信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比の劣化を抑制しながら増幅器の数を削減できるので、低消費電力化を実現できる。すなわち、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置は、従来のDBFアレーアンテナと同等のビーム形成機能を有し、さらに、従来のDBFアレーアンテナに比べて、信号の多重数分だけ増幅器の数を削減できる。このため、低コスト、低消費電力、小型かつ軽量なアレーアンテナ装置を実現できる。
なお、これまでの説明では、切り替えシーケンスを素子アンテナ2の数と符号長が同じ直交符号で表したが、切り替えシーケンスは、符号長が素子アンテナ2の数よりも大きい直交符号で表してもよく、上記と同様の効果が得られる。さらに、直交符号の代わりに、切り替えシーケンスを、M系列あるいはGold系列といった擬似ランダム符号で表しても、符号分割多重された信号を逆拡散処理によって復調することができる。
また、これまでの説明では、放射電界位相が互いに異なる第1の放射構造3aと第2の放射構造3bを、スイッチ5を用いて切り替えることで、受信信号に二位相変調を施す場合を示したが、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置は、受信信号に4相以上の多相変調を施すように構成されてもよい。例えば、複数の素子アンテナ2のそれぞれに、放射電界位相が互いに異なる4つの放射構造を設け、スイッチ5によって放射構造を切り替えることで、受信信号に四位相変調を施すことが可能である。
実施の形態2.
図3は、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図3に示すアレーアンテナ装置は、空間を伝搬してきた電磁波をアレーアンテナ1Aによって受信する。アレーアンテナ1Aには、複数の素子アンテナ2Aが一定の間隔で配列されている。複数の素子アンテナ2Aのそれぞれは、放射構造15、第1の給電構造部16a、第2の給電構造部16bおよびスイッチ17を備えている。なお、図3において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
放射構造15は、その中心に点対称な構造を有したアンテナであり、第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bとを有する。第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、放射構造15で受信された高周波信号を伝送する給電構造である。放射構造15は、単一のアンテナであり、このアンテナは、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bを異なる位置にそれぞれ有する。例えば、第1の給電構造部16aと放射構造15との接続点と、第2の給電構造部16bと放射構造15との接続点とは、放射構造15の中心に対して点対称な位置に設けられる。
放射構造15は、単一のアンテナとして実現されるが、第1の給電構造部16aを有した放射構造と、第2の給電構造部16bを有した放射構造との両方の機能を有する。
スイッチ17は、第1の給電構造部16aに切り替えることにより、放射構造15を、第1の給電構造部16aを有した放射構造として機能させ、第2の給電構造部16bに切り替えることにより、放射構造15を、第2の給電構造部16bを有した放射構造として機能させる。すなわち、スイッチ17は、第1の給電構造部16aを有した放射構造と、第2の給電構造部16bを有した放射構造とを切り替えるスイッチである。
また、スイッチ17はSPDT構造のスイッチであり、第1の給電構造部16aが接続された第1の入力端子と、第2の給電構造部16bが接続された第2の入力端子と、両者に共通の出力端子とを有する。例えば、スイッチ17によって第1の給電構造部16aに切り替えられると、放射構造15で受信された高周波信号は、第1の給電構造部16aを介して、第1の入力端子からスイッチ17に入力され、出力端子から出力される。一方、スイッチ17によって第2の給電構造部16bに切り替えられると、放射構造15で受信された高周波信号は、第2の給電構造部16bを介して第2の入力端子からスイッチ17に入力され、出力端子から出力される。
図3に示すアレーアンテナ装置は、合成回路6、増幅器7、周波数変換器8、局部発振器9、A/D変換器10、シーケンス生成部18、スイッチ制御回路19、デコーダ部20およびビーム形成部21をさらに備える。シーケンス生成部18は、放射構造の切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を素子アンテナ2Aごとに生成する。放射構造の切り替えシーケンスには、放射構造の切り替えの時系列な順序と切り替え間隔が含まれる。素子アンテナ2Aごとに生成されたシーケンス情報は、シーケンス生成部18からスイッチ制御回路19に出力される。
なお、シーケンス生成部18は、記憶装置に記憶されたシーケンス情報を読み出し、読み出したシーケンス情報をスイッチ制御回路19に出力してもよい。記憶装置は、アレーアンテナ装置が備えるRAMまたはハードディスクといった記憶装置であってもよいが、アレーアンテナ装置からアクセス可能な外部記憶装置であってもよい。
例えば、シーケンス生成部18は、実施の形態1と同様に、スイッチ17によって第1の給電構造部16aを有する放射構造に切り替えられた状態に1を割り当て、スイッチ17によって第2の給電構造部16bを有する放射構造に切り替えられた状態に−1を割り当てて、1と−1を要素とした符号列で切り替えシーケンスが表現されたシーケンス情報を生成する。
スイッチ制御回路19は、シーケンス生成部18によって生成されたシーケンス情報に基づいて、スイッチ17による切り替えを制御する。例えば、スイッチ制御回路19は、シーケンス生成部18から入力したシーケンス情報が示す切り替えシーケンスに基づいて、スイッチ17の動作を制御する制御信号を素子アンテナ2Aごとに生成する。
スイッチ17は、スイッチ制御回路19から設定された制御信号に基づいて、第1の給電構造部16aを有する放射構造と第2の給電構造部16bを有する放射構造とのいずれかに切り替える。例えば、切り替えシーケンスを符号列[1 −1 −1 1]で表したシーケンス情報に基づいて、スイッチ17は、第1の給電構造部16a、第2の給電構造部16b、第2の給電構造部16b、第1の給電構造部16aの順に、時間Tcごとに切り替えを行う。
放射構造15によって受信されて第1の給電構造部16aからスイッチ17に入力された高周波信号と、放射構造15によって受信されて第2の給電構造部16bを介してスイッチ17に入力された高周波信号は、互いに180度位相が異なる。スイッチ17からの出力信号は、放射構造の切り替えによって二位相変調が施された高周波信号となる。切り替え間隔である時間Tcが、高周波信号(受信信号)が有する情報パルスの継続時間(信号周期)Tsよりも短い場合、二位相変調された高周波信号の周波数スペクトラムは、スペクトル拡散された信号となる。
デコーダ部20は、シーケンス生成部18によって生成されたシーケンス情報に基づいて、A/D変換器10から入力されたデジタル信号のうちから、複数の素子アンテナ2Aのそれぞれで受信された信号を分離する。例えば、デコーダ部20は、A/D変換器10から入力した合成信号に対して、シーケンス情報である、1と−1を要素とした符号列を乗算して積分することで、素子アンテナ2Aの数だけデジタル信号を算出する。切り替えシーケンスは互いに直交する直交符号で表されるため、スイッチ17に設定された切り替えシーケンスを表す直交符号を合成信号に乗算して積分することで、そのスイッチ17を含む素子アンテナ2Aで受信された信号成分のみが得られ、そのスイッチ17での切り替えシーケンスとは異なる直交符号を合成信号に乗算して積分しても信号成分は0となる。これは、符号分割多重された信号に対して逆拡散処理を施して復調することに相当する。これにより、合成信号から、複数の素子アンテナ2Aのそれぞれに受信された信号が分離される。
ビーム形成部21は、デコーダ部20によって素子アンテナ2Aごとに分離された信号を用いて、ビーム信号を形成する。ビーム形成部21によって素子アンテナ2Aの個数分のビーム信号が形成される。
また、デコーダ部20およびビーム形成部21は、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置とは別の外部装置が備えてもよい。すなわち、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、デコーダ部20およびビーム形成部21を備えていなくても、信号対雑音比を維持しながら低消費電力化を実現できる。なお、この場合、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、例えば、上記外部装置に通信接続してデコーダ部20およびビーム形成部21との間で信号をやり取りする。
シーケンス生成部18、デコーダ部20およびビーム形成部21の機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUであってもよい。例えば、処理回路とスイッチ制御回路19とが、ネットワークを介して接続された別々の回路である場合、スイッチ制御回路19は、ネットワークインタフェースを通じて処理回路からシーケンス情報を入力する。
図4Aは、放射構造15を示す斜視図である。図4Bは、放射構造15を図4AのA−A線で切った断面を示す断面矢示図である。放射構造15は、図4Aおよび図4Bに示すような、方形のパッチアンテナで実現することができる。このパッチアンテナは、図4Bに示すように、ピン給電のパッチアンテナであり、2つのピンが第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bである。図4Aに示すように、第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bとは、パッチアンテナの中心に対して互いに点対称な位置に配置されている。
図4Aおよび図4Bにおいて、方形のパッチアンテナを示したが、放射構造15は、円形のパッチアンテナであってもよい。また、放射構造15は、電磁結合給電のパッチアンテナであってもよい。この場合、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、電磁結合で給電する構造部で実現される。
図5Aは、放射構造15の変形例を示す斜視図である。図5Bは、放射構造15の変形例を図5Aの矢印方向からみた様子を示す図である。放射構造15は、図5Aおよび図5Bに示すような、導波管開口アンテナで実現することができる。この導波管開口アンテナは、図5Bに示すように、プローブ給電の導波管開口アンテナであり、2つのプローブが第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bである。図5Bに示すように、第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bは導波管開口アンテナの中心軸に対して点対称な位置に配置されている。
開口形状が方形の導波管開口アンテナを示したが、放射構造15は、開口形状が円形の導波管開口アンテナであってもよい。また、放射構造15は、スロットまたは導波管で給電する導波管開口アンテナであってもよい。この場合、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、スロットまたは導波管で実現される。
図6Aは、放射構造15の別の変形例を示す斜視図である。図6Bは、放射構造15の別の変形例を図6Aの矢印方向からみた様子を示す図である。放射構造15は、図6Aおよび図6Bに示すような、ホーンアンテナで実現することができる。このホーンアンテナは、図6Bに示すように、プローブ給電のホーンアンテナであり、2つのプローブが第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bである。図6Bに示すように、第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bはホーンアンテナの中心軸に対して点対称な位置に配置されている。
開口形状が方形のホーンアンテナを示したが、放射構造15は、開口形状が円形のホーンアンテナであってもよい。また、放射構造15は、スロットまたは導波管で給電するホーンアンテナであってもよい。この場合、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、スロットまたは導波管で実現される。
実施の形態1に係るアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナ2のそれぞれが有する放射構造は、電界放射パターンの位相値が互いに180度異なる一対のアンテナであった。すなわち、素子アンテナ2には、2つのアンテナが互いに独立して配置されているので、素子アンテナ2が占有する面積は、素子アンテナが単一のアンテナで構成される場合よりも大きくなる。このため、複数の素子アンテナ2を配列した1次元アレーまたは2次元アレーでは、隣接する素子アンテナ2同士の間隔が広くなってしまう。
一般に、DBFアレーアンテナでは、一定のビーム走査範囲内でグレーティングローブが発生しない間隔で素子アンテナを配列する必要があり、通常、動作周波数における波長の0.5〜0.8倍程度の間隔で素子アンテナが配列されている。例えば、放射構造が、動作周波数における波長の0.3〜0.5倍程度の大きさである場合、2つの放射構造が互いに独立して配置された素子アンテナ2は、上記間隔で配列させることが困難である。
これに対して、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、複数の素子アンテナ2Aのそれぞれが有する放射構造15が単一のアンテナであり、その中心に対して点対称な位置に第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bとの接続点を有している。放射構造15が単一のアンテナであるので、素子アンテナ2Aが占有する面積は、素子アンテナ2よりも小さい。
また、放射構造15上の電流分布または内部の電界分布は、放射構造15が基本モードで動作する場合、一般に、構造の対称性から振幅分布は対称となり、位相分布は左右反転したような分布となる。このため、放射構造15の中心に対して点対称な位置に接続点を有する第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bのそれぞれには、放射構造15で受信された信号が、等振幅で逆位相、すなわち、互いに180度位相が異なる信号として伝送される。
以上のように、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置において、放射構造15は、単一のアンテナであり、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、単一のアンテナの異なる位置にそれぞれ配置されている。例えば、単一のアンテナが、円形または方形のパッチアンテナである場合に、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、パッチアンテナの中心に対して互いに点対称な位置に配置されている。また、単一のアンテナが、導波管開口アンテナまたはホーンアンテナである場合、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、導波管開口アンテナまたはホーンアンテナの中心軸に対して点対称な位置に配置されている。
放射構造15の中心に対して点対称な位置に接続点を有する第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bのそれぞれには、放射構造15で受信された信号が、等振幅で逆位相、すなわち互いに180度位相が異なる信号として伝送される。
このように、スイッチ17によって第1の給電構造部16aを有する放射構造と第2の給電構造部16bを有する放射構造が切り替えられると、素子アンテナ2Aから出力される受信信号は、二位相変調された信号となる。すなわち、低損失なスイッチ17を用いて受信信号に対して二位相変調を施すことができるので、素子アンテナ2Aごとに増幅器7を設けなくても、受信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比の劣化を抑制しながら増幅器の数を削減でき、低消費電力化を実現することができる。
実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置と同様の効果が得られるとともに、実施の形態1に示した装置構成に比べて素子アンテナの占有面積を小さくできるため、より小さなアレーアンテナ装置を実現できる。また、素子アンテナをより密に配置することが可能であるため、より広角方向にビーム走査が可能なアレーアンテナ装置を実現することができる。
なお、これまでの説明では、切り替えシーケンスを素子アンテナ2の数と符号長が同じ直交符号で表したが、切り替えシーケンスは、符号長が素子アンテナ2の数よりも大きい直交符号で表してもよく、上記と同様の効果が得られる。さらに、直交符号の代わりに、切り替えシーケンスを、M系列あるいはGold系列といった擬似ランダム符号で表しても、符号分割多重された信号を逆拡散処理によって復調することができる。
また、これまでの説明では、受信信号に二位相変調を施す場合を示したが、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、受信信号に4相以上の多相変調を施すように構成されてもよい。例えば、複数の素子アンテナ2Aのそれぞれに、放射電界位相が互いに異なる4つの給電構造部を放射構造15に設けて、スイッチ17で切り替えることで、受信信号に四位相変調を施すことが可能である。このとき、4つの給電構造部と放射構造15との接続点は、放射構造15の中心に対して互いに点対称な位置に配置される。
実施の形態3.
図7は、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図7において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。図8は、図7の導波管30を図7のB−B線で切った断面を示す断面矢示図である。図7に示したアレーアンテナ装置は、アレーアンテナ1B、増幅器7、周波数変換器8、局部発振器9、A/D変換器10、シーケンス生成部22、スイッチ制御回路23、デコーダ部24およびビーム形成部25を備える。また、図7に示したアレーアンテナ装置は、図1および図3に示した合成回路として機能する導波管30を備える。
アレーアンテナ1Bは、導波管30の第1の広壁面31aに複数の素子アンテナ38が一定の間隔で配列されて構成されている。複数の素子アンテナ38のそれぞれは、第1のスロット34、第2のスロット35、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37を備える。なお、図7では、導波管30に4つの素子アンテナ38を設けた場合を示したが、導波管30に5以上の素子アンテナ38を設けてもよい。
導波管30は、互いに対向した一対の第1の広壁面31aおよび第2の広壁面31b、これら広壁面の長手方向の両側に隣接した一対の第1の狭壁面32aおよび第2の狭壁面32b、および、広壁面と狭壁面の両方に隣接した一対の第1の端面33aおよび第2の端面33bを有し、金属で形成された矩形導波管である。導波管30における第1の端面33aおよび第2の端面33bのそれぞれは、導体壁によって短絡された短絡面となっている。
第1のスロット34および第2のスロット35は、空間を伝搬してきた電磁波を受信する放射構造である。また、第1のスロット34および第2のスロット35は、導波管30が有する第1の広壁面31aおよび第2の広壁面31bのうちの一方である第1の広壁面31aに設けられ、互いに同一の寸法で、導波管30の管軸方向に長くかつ互いに平行な2つの細長い穴である。第1のスロット34および第2のスロット35の長手方向の寸法のそれぞれは、自由空間波長の半波長程度の長さである。
隣り合った素子アンテナ38と素子アンテナ38において、一方の素子アンテナ38が有する第1のスロット34と、他方の素子アンテナ38が有する第1のスロット34との間隔は、導波管30の動作周波数における管内波長λの2分の1である。同様に、隣り合った一方の素子アンテナ38が有する第2のスロット35と、他方の素子アンテナ38が有する第2のスロット35との間隔は、導波管30の動作周波数における管内波長λの2分の1である。
また、第1の端面33aに最も近い第1のスロット34および第2のスロット35は、当該スロットの中心から第1の端面33aまでの距離が管内波長λの4分の1である位置に配置されている。同様に、第2の端面33bに最も近い第1のスロット34および第2のスロット35は、当該スロットの中心から第2の端面33bまでの距離が管内波長λの4分の1である位置に配置されている。
また、第1のスロット34および第2のスロット35は、第1の広壁面31aにおける、導波管30の管軸方向に平行な中心線(例えば、図7のB−B線)を境とした一方の側の位置と他方の側の位置とに設けられる。例えば、第1のスロット34および第2のスロット35は、第1の広壁面31aにおける、導波管30の管軸方向に平行な中心線に関して、互いに対称な位置に配置される。これにより、素子アンテナ38は、いわゆる、定在波励振型の導波管スロットアレーを構成する。
なお、隣り合った素子アンテナ38同士のスロットの間隔、および、短絡面に最も近いスロットと短絡面との距離を、任意に設定することで、素子アンテナ38は、いわゆる、進行波励振型の導波管スロットとして機能する。
第1のスイッチ36および第2のスイッチ37は、オン状態とオフ状態が切り替えられるスイッチであり、例えば、PINダイオード、電界効果トランジスタおよびMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いて構成された高周波スイッチである。当該高周波スイッチは、一般に1dB以下程度の通過損失であり、二位相変調回路の通過損失よりも2dB程度低い。図7に示すように、第1のスイッチ36は、第1のスロット34の中央部に設けられ、第2のスイッチ37は、第2のスロット35の中央部に設けられている。
複数の素子アンテナ38のそれぞれにおいて、第1のスイッチ36がオン状態であるとき、第2のスイッチ37はオフ状態となるように同期している。例えば、第1のスイッチ36がオン状態であるとき、第1のスロット34はスロットアンテナとして動作状態となり、このとき、第2のスイッチ37はオフ状態となり、第2のスロット35は非動作状態になる。反対に、第2のスイッチ37がオン状態であるとき、第2のスロット35はスロットアンテナとして動作状態となり、このとき、第1のスイッチ36はオフ状態となり、第1のスロット34は非動作状態になる。
図8に示すように、給電構造部39は、導波管30の第2の広壁面31bに設けられた導波管給電構造である。給電構造部39は、第2の広壁面31bの中心に設けられた出力端子と、導波管30の内部に挿入された給電プローブ39aとを有し、出力端子は、増幅器7に接続されている。これにより、導波管30は、図1および図3に示した合成回路として機能する。
なお、給電構造部39は、導波管30の第2の広壁面31bにおける任意の位置に設けてもよい。さらに、給電構造部39は、第2の広壁面31bに設けた導波管T分岐を含む構成であってもよいし、導波管30の短絡面(第1の端面33aと第2の端面33b)側に出力端子を有する構造であってもよい。
シーケンス生成部22は、放射構造の切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を素子アンテナ38ごとに生成する。放射構造の切り替えシーケンスには、例えば、第1のスイッチ36と第2のスイッチ37との切り替えの時系列な順序と切り替え間隔が含まれる。素子アンテナ38ごとに生成されたシーケンス情報は、シーケンス生成部22からスイッチ制御回路23に出力される。
なお、シーケンス生成部22は、記憶装置に記憶されたシーケンス情報を読み出し、読み出したシーケンス情報をスイッチ制御回路23に出力してもよい。記憶装置は、アレーアンテナ装置が備えるRAMまたはハードディスクといった記憶装置であってもよいが、アレーアンテナ装置からアクセス可能な外部記憶装置であってもよい。
例えば、シーケンス生成部22は、第1のスイッチ36がオンになって第1のスロット34が高周波信号を受信しかつ第2のスイッチ37がオフになって第2のスロット35が高周波信号を受信できない状態に1を割り当て、第2のスイッチ37がオンになって第2のスロット35が高周波信号を受信しかつ第1のスイッチ36がオフになって第1のスロット34が高周波信号を受信できない状態に−1を割り当てて、[1 −1 1 ・・・1]のような1と−1を要素とした符号列で切り替えシーケンスが表現されたシーケンス情報を生成する。
スイッチ制御回路23は、シーケンス生成部22によって生成されたシーケンス情報に基づいて、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37のオンとオフの切り替えを制御する。例えば、スイッチ制御回路23は、シーケンス生成部22から入力したシーケンス情報が示す切り替えシーケンスに基づいて、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37の動作を制御する制御信号を素子アンテナ38ごとに生成する。
第1のスイッチ36は、スイッチ制御回路23から設定された制御信号に基づいて、オンとオフのいずれかの状態に切り替わる。同様に、第2のスイッチ37は、スイッチ制御回路23から設定された制御信号に基づいて、オンとオフのいずれかの状態に切り替わる。例えば、切り替えシーケンスを符号列[1 −1 −1 1]で表したシーケンス情報に基づいて、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37がオンオフすることにより、第1のスロット34、第2のスロット35、第2のスロット35、第1のスロット34の順に、時間Tcごとにスロットアンテナの動作状態が切り替わる。
第1のスロット34によって受信された高周波信号と第2のスロット35によって受信された高周波信号とは、互いに180度位相が異なる。このため、素子アンテナ38からの出力信号は、第1のスロット34と第2のスロット35の動作状態の切り替えによって二位相変調が施された高周波信号となる。第1のスロット34と第2のスロット35との動作状態の切り替え間隔である時間Tcが、高周波信号(受信信号)が有する情報パルスの継続時間(信号周期に相当する)Tsよりも短い場合、シーケンス情報に基づいて、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37が、時間Ts内で、時間Tcごとに第1のスロット34と第2のスロット35との動作状態を切り替え、この切り替えは、時間Tsごとに繰り返し実行される。第1のスロット34と第2のスロット35との動作状態の切り替えによって二位相変調された高周波信号の周波数スペクトルは、第1のスロット34あるいは第2のスロット35によって受信された高周波信号の周波数スペクトラムに比べて広範な周波数帯域幅を有した、いわゆるスペクトル拡散された信号となる。
デコーダ部24は、シーケンス生成部22によって生成されたシーケンス情報に基づいて、A/D変換器10から入力されたデジタル信号のうちから、複数の素子アンテナ38のそれぞれで受信された信号を分離する。例えば、デコーダ部24は、A/D変換器10から入力した合成信号に対して、シーケンス情報である、1と−1を要素とした符号列を乗算して積分することで、素子アンテナ38の数だけデジタル信号を算出する。切り替えシーケンスは互いに直交する直交符号で表されるため、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37に設定された切り替えシーケンスを表す直交符号を合成信号に乗算して積分することで、その第1のスイッチ36および第2のスイッチ37を含む素子アンテナ38で受信された信号成分のみが得られ、その第1のスイッチ36および第2のスイッチ37での切り替えシーケンスとは異なる直交符号を合成信号に乗算して積分しても信号成分は0となる。これは、符号分割多重された信号に対して逆拡散処理を施して復調することに相当する。これにより、合成信号から、複数の素子アンテナ38のそれぞれに受信された信号が分離される。
ビーム形成部25は、デコーダ部24によって素子アンテナ38ごとに分離された信号を用いて、ビーム信号を形成する。ビーム形成部25によって素子アンテナ38の個数分のビーム信号が形成される。
また、デコーダ部24およびビーム形成部25は、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置とは別の外部装置が備えてもよい。すなわち、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、デコーダ部24およびビーム形成部25を備えていなくても、信号対雑音比を維持しながら低消費電力化を実現できる。なお、この場合、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、例えば、上記外部装置に通信接続してデコーダ部24およびビーム形成部25との間で信号をやり取りする。
シーケンス生成部22、デコーダ部24およびビーム形成部25の機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUであってもよい。例えば、処理回路とスイッチ制御回路23とが、ネットワークを介して接続された別々の回路である場合、スイッチ制御回路23は、ネットワークインタフェースを通じて処理回路からシーケンス情報を入力する。
一般に、誘電体基板を用いて形成されたアンテナおよび信号線路は、通過損失が大きいため、アンテナおよび信号線路において信号強度が低下し、信号対雑音比が劣化する傾向がある。これに対し、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、アレーアンテナおよび合成回路の信号線路として低損失な導波管30を備えるので、複数の素子アンテナ38の受信信号強度の低下が抑制され、信号対雑音比の劣化を抑制することができる。信号線路における通過損失が低減されるため、高効率なアレーアンテナ装置を実現できる。
図9は、導波管30の第1の広壁面31aにおける電流分布を示す図である。例えば、導波管30が基本モードで動作している場合、図9に示すように、第1の広壁面31aでは、第1の広壁面31aにおける、導波管30の管軸方向に平行な中心線100から外側に向かって電流が流れる、あるいは、電流が外側から中心線100に向かって流れる電流分布となっている。第1のスロット34および第2のスロット35は、第1の広壁面31aにおける電流の流れを遮る位置に設けられる。これにより、第1のスロット34および第2のスロット35は、空間から到来する高周波信号を導波管30の内部に伝送することができる。
第1の広壁面31aにおける電流分布は、第1の広壁面31aにおける中心線100に関して対称な分布となっている。このため、第1のスロット34で受信された高周波信号と第2のスロット35で受信された高周波信号は、互いに逆位相、すなわち互いに180度位相の異なる信号として導波管30へ伝送される。
また、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、金属のみで構成された導波管の代わりに、下記に示す導波管を備えてもよい。
図10Aは、実施の形態3における導波管30の変形例を示す斜視図である。図10Bは、実施の形態3における導波管30の変形例を図10AのC−C線で切った断面を示す断面矢示図である。図10Cは、実施の形態3における導波管30の変形例を図10AのD−D線で切った断面を示す断面矢示図である。図10A、図10Bおよび図10Cに示すように、導波管30は、第1の広壁面31aの代わりに誘電体基板40を有している。
誘電体基板40は、図10Bに示すように、表面に導体面41aを有し、裏面に導体面41bを有する。誘電体基板40には、4つの素子アンテナを有するアレーアンテナ1Cが形成されている。第1のスロット42および第2のスロット43は、1つの素子アンテナを構成するスロット対である。第1のスロット42および第2のスロット43は、誘電体基板面40を貫通して、導体面41aと導体面41bとを電気的に接続するビアである。スロットを設ける面を誘電体基板40で構成したので、金属の第1の広壁面31aよりもスイッチの実装が容易である。
これまでの説明では、導波管30が矩形導波管である場合を示したが、導波管30は、一対の広壁面の両方またはいずれか一方における管軸方向に平行な中心線を通る金属壁を有したリッジ導波管であってもよい。例えば、当該リッジ導波管は、導波管30の第1の広壁面31aにおいて管軸方向に平行な中心線を通る金属壁を有している。また、当該リッジ導波管は、以下の(1)〜(4)に示す特徴のいずれかまたは全てを有していてもよい。特徴(1)として、複数のスロットが、第1の広壁面31aにおける管軸方向に平行な中心線に関して互いに対称な位置に配置されている。特徴(2)として、当該リッジ導波管の端面が短絡されており、上記スロットは、動作周波数における管内波長の2分の1の間隔で第1の広壁面31aに配列されている。特徴(3)として、当該リッジ導波管において、第1の広壁面31aにおいて端面に最も近いスロットは、当該スロットの中心から当該端面までの距離が管内波長の4分の1である位置に配置されている。特徴(4)として、当該リッジ導波管の第1の広壁面31aは、表と裏に導体面41a,41bを有した誘電体基板40で構成されており、スロットは、誘電体基板40を貫通して、導体面41aと導体面41bとを電気的に接続するビアである。導波管30が、前述のように構成されたリッジ導波管であっても、上記と同様の効果が得られる。
以上のように、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、合成回路として機能する導波管30を備え、導波管30の第1の広壁面31aには、導波管30の管軸方向に長くかつ平行な第1のスロット34および第2のスロット35が形成されている。第1のスロット34および第2のスロット35は、第1の広壁面31aにおける、管軸方向に平行な中心線100を境とした一方の側の位置と他方の側の位置とに設けられる。第1のスイッチ36は、第1のスロット34の長手方向の中央部に配置され、第2のスイッチ37は、第2のスロット35の長手方向の中央部に配置されている。
このように、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37によって第1のスロット34の動作状態と第2のスロット35の動作状態とを切り替えることで、素子アンテナ38から出力される受信信号は、二位相変調された信号となる。信号位相が互いに180度異なる2つのスイッチとスロットを用いて受信信号に対して二位相変調を施すことができるので、素子アンテナ38ごとに増幅器7を設けなくても、受信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比の劣化を抑制しながら増幅器の数を削減でき、低消費電力化を実現することができる。また、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、低損失な導波管30を用いることにより、高効率なアレーアンテナ装置を実現することができる。
実施の形態4.
実施の形態1から3では、空間から到来した高周波信号を受信するアレーアンテナ装置を示したが、実施の形態4は、空間へ高周波信号を送信するアレーアンテナ装置について説明する。
図11は、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図11に示すアレーアンテナ装置は、アレーアンテナ1Dによって電磁波を空間へ送信する。アレーアンテナ1Dには、複数の素子アンテナ2Bが一定の間隔で配列されている。複数の素子アンテナ2Bのそれぞれは、第1の放射構造3a、第2の放射構造3b、第1の給電構造部4a、第2の給電構造部4bおよびスイッチ5Aを備える。
第1の放射構造3aは、第1の給電構造部4aを有したアンテナであり、第2の放射構造3bは、第2の給電構造部4bを有したアンテナである。第1の給電構造部4aは、第1の放射構造3aから送信する送信信号を伝送する給電構造部であり、第2の給電構造部4bは、第2の放射構造3bから送信する送信信号を伝送する給電構造部である。
第1の給電構造部4aと第2の給電構造部4bは、放射電界位相が互いに異なる2つの給電構造部であり、例えば、電界放射パターンの位相値が互いに180度異なっている。すなわち、素子アンテナ2Bが有する複数の放射構造は、放射電界位相が互いに異なる複数のアンテナであり、給電構造部は、これらのアンテナのそれぞれに1つずつ設けられている。
スイッチ5Aは、第1の放射構造3aと第2の放射構造3bを切り替えるものであり、SPDT構造のスイッチである。SPDT構造のスイッチ5Aは、第1の給電構造部4aが接続された第1の出力端子、第2の給電構造部4bが接続された第2の出力端子および両者に共通の入力端子を有する。
例えば、スイッチ5Aによって第1の放射構造3aに切り替えられると、入力端子からスイッチ5Aに入力された送信信号は、第1の出力端子から第1の給電構造部4aに出力され、第1の給電構造部4aから第1の放射構造3aへ伝送されて、第1の放射構造3aから空間へ送信される。一方、スイッチ5Aによって第2の放射構造3bに切り替えられると、入力端子からスイッチ5Aに入力された送信信号は、第2の出力端子から第2の給電構造部4bに出力され、第2の給電構造部4bから第2の放射構造3bへ伝送されて、第2の放射構造3bから空間へ送信される。
図11に示すアレーアンテナ装置は、分配回路50、増幅器51、周波数変換器52、局部発振器53、D/A変換器54、シーケンス生成部55、スイッチ制御回路56、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58を、さらに備える。分配回路50は、増幅器51から入力した送信信号を複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに分配する。増幅器51は、周波数変換器52によって周波数を高周波数帯に変換された送信信号の電力を、予め設定された利得で増幅する。
周波数変換器52は、局部発振器53から入力した局部発振信号を用いて、D/A変換器54によってアナログ信号に増幅された送信信号の周波数を高周波数帯に周波数変換する。局部発振器53は、周波数変換器52による周波数変換に用いられる、予め設定された周波数の局部発振信号を発生する。D/A変換器54は、エンコーダ部57から入力した信号をアナログ信号に変換する変換器である。
シーケンス生成部55は、第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとの切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を、素子アンテナ2Bごとに生成する。放射構造の切り替えシーケンスには、放射構造の切り替えの時系列な順序と切り替え間隔が含まれる。素子アンテナ2Bごとに生成されたシーケンス情報は、シーケンス生成部55からスイッチ制御回路56に出力される。
なお、シーケンス生成部55は、記憶装置に記憶されたシーケンス情報を読み出し、読み出したシーケンス情報をスイッチ制御回路56に出力してもよい。記憶装置は、アレーアンテナ装置が備えるRAMまたはハードディスクといった記憶装置であってもよいが、アレーアンテナ装置からアクセス可能な外部記憶装置であってもよい。
スイッチ制御回路56は、シーケンス生成部55によって生成されたシーケンス情報に基づいて、スイッチ5Aによる第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとの切り替えを制御する。例えば、スイッチ制御回路56は、シーケンス生成部55から入力したシーケンス情報が示す切り替えシーケンスに基づいて、スイッチ5Aの動作を制御する制御信号を、素子アンテナ2Bごとに生成する。スイッチ5Aは、スイッチ制御回路56から入力した制御信号に基づいて、第1の放射構造3aおよび第2の放射構造3bのいずれかに切り替える。
エンコーダ部57は、シーケンス生成部55によって生成されたシーケンス情報および送信ビーム形成部58によって形成された複数の素子信号を用いて送信信号を生成して、生成した送信信号をD/A変換器54に出力する。送信ビーム形成部58は、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに対応した複数の素子信号を形成する。例えば、送信ビーム形成部58は、送信すべき信号を素子アンテナ2Bごとに振幅および位相を調整することで、素子アンテナ2Bの個数分の素子信号を形成する。
シーケンス生成部55、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58の機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUであってもよい。例えば、処理回路とスイッチ制御回路56とが、ネットワークを介して接続された別々の回路である場合、スイッチ制御回路56は、ネットワークインタフェースを通じて処理回路からシーケンス情報を入力する。
また、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58は、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置とは別の外部装置が備えてもよい。すなわち、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58を備えていなくても、信号対雑音比を維持しながら低消費電力化を実現できる。この場合、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、例えば、外部装置に通信接続して、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58との間で信号をやり取りする。
次に動作について説明する。
図12は、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置の動作を示すフローチャートである。まず、送信ビーム形成部58が、各素子アンテナ2Bに対応した素子信号を形成する(ステップST1a)。送信ビーム形成部58によって素子アンテナ2Bごとに形成された素子信号は、エンコーダ部57に出力される。
一方、シーケンス生成部55は、第1の放射構造3aと第2の放射構造3bの切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を素子アンテナ2Bごとに生成する(ステップST2a)。例えば、シーケンス生成部55は、スイッチ5Aによって第1の放射構造3aに切り替えられた状態に1を割り当て、スイッチ5Aによって第2の放射構造3bに切り替えられた状態に−1を割り当てて、[1 −1 1 ・・・1]のように1と−1を要素とした符号列で切り替えシーケンスが表現されたシーケンス情報を生成する。実施の形態4では、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに対する切り替えシーケンスを、互いに直交した符号列である直交符号で表す。
続いて、エンコーダ部57が、シーケンス情報と素子信号を用いて送信信号を生成する(ステップST3a)。例えば、エンコーダ部57は、送信ビーム形成部58から入力した素子アンテナ2Bごとの素子信号に対して、シーケンス情報である、1と−1を要素とした符号列を乗算し、これらの乗算値をさらに合成演算する。切り替えシーケンスを示す符号列は±1の値をとるため、素子信号は二位相変調された信号になる。放射構造の切り替え間隔である時間Tcが、高周波信号(送信信号)が有する情報パルスの継続時間(信号周期)Tsよりも短い場合、素子信号に符号列を乗算した信号は、元の素子信号をスペクトル拡散した信号となる。これらの乗算結果をさらに合成演算することで、合成演算結果の信号は、いわゆる符号分割多重された送信信号となる。
次に、D/A変換器54は、エンコーダ部57によって生成された送信信号をアナログ信号に変換し、周波数変換器52が、D/A変換器54によってアナログ信号に変換された送信信号を高周波数帯に周波数変換し、増幅器51が、周波数変換器52によって周波数変換された信号の電力を増幅する(ステップST4a)。増幅器51によって増幅された送信信号は、分配回路50に出力される。
分配回路50は、増幅器51から入力した送信信号を、アレーアンテナ1Dを構成する複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに分配する(ステップST5a)。
次に、スイッチ制御回路56は、シーケンス生成部55によって生成されたシーケンス情報に基づいて、素子アンテナ2Bごとのスイッチ5Aを制御して、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれが有する第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとを順次切り替える(ステップST6a)。
この後、各素子アンテナ2Bから空間に送信信号が送信される(ステップST7a)。スイッチ5Aによって第1の放射構造3aに切り替えられた場合、分配回路50によってスイッチ5Aに分配された送信信号は、第1の給電構造部4aを介して第1の放射構造3aに伝送され、第1の放射構造3aから空間へ放射される。スイッチ5Aによって第2の放射構造3bに切り替えられた場合は、分配回路50によってスイッチ5Aに分配された送信信号は、第2の給電構造部4bを介して第2の放射構造3bに伝送され、第2の放射構造3bから空間へ放射される。
例えば、切り替えシーケンスを符号列[1 −1 −1 1]で表したシーケンス情報に基づいて、スイッチ5Aは、第1の放射構造3a、第2の放射構造3b、第2の放射構造3b、第1の放射構造3aの順に、時間Tcごとに切り替えを行う。スイッチ5Aから第1の給電構造部4aに伝送されて第1の放射構造3aから放射された高周波信号と、スイッチ5Aから第2の給電構造部4bに伝送されて第2の放射構造3bから放射された高周波信号とは、互いに180度位相が異なる。このため、エンコーダ部57によって二位相変調されてスイッチ5Aに入力された信号は、第1の放射構造3aまたは第2の放射構造3bから空間に放射されて復調される。
シーケンス情報は直交符号であるので、エンコーダ部57が、素子アンテナ2Bに対応した送信信号の生成に用いた切り替えシーケンスと同じ順序で放射構造の切り替えが行われた信号成分のみが送信され、エンコーダ部57が、その素子アンテナ2Bに対応した送信信号の生成に用いた切り替えシーケンスとは異なる順序で放射構造の切り替えが行われた信号成分は0となる。これは、符号分割多重された信号に逆拡散処理を施して復調することに相当する。これにより、複数の素子アンテナ2Bからの各信号を分離して送信することができる。
これまでの説明では、第1の給電構造部4aを有した第1の放射構造3aと第2の給電構造部4bを有した第2の放射構造3bとを備えた素子アンテナ2Bを示したが、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、これに限定されるものではない。
例えば、素子アンテナ2Bが、第1の給電構造部4aを有した第1の放射構造3aと、第2の給電構造部4bを有した第2の放射構造3bとの代わりに、実施の形態2で示した放射構造15、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bを備えてもよい。放射構造15は、図4Aおよび図4Bに示したパッチアンテナおよびその変形例であってもよいし、図5Aおよび図5Bに示した導波管開口アンテナおよびその変形例であってもよいし、図6Aおよび図6Bに示したホーンアンテナおよびその変形例であってもよい。
また、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、実施の形態3で示した導波管30を分配回路50として備えてもよい。例えば、図7に示した導波管30の第1のスロット34および第2のスロット35を素子アンテナ2Bとし、図8に示した給電構造部39を増幅器51に接続することにより、導波管30は、分配回路50として機能する。さらに、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、図7に示した導波管30の代わりに、図10A、図10Bおよび図10Cに示した導波管の変形例を分配回路として備えてもよいし、リッジ導波管を備えてもよい。例えば、当該リッジ導波管は、導波管30の第1の広壁面31aにおいて管軸方向に平行な中心線を通る金属壁を有している。また、当該リッジ導波管は、以下の(1)〜(4)に示す特徴のいずれかまたは全てを有していてもよい。特徴(1)として、複数のスロットが、第1の広壁面31aにおける管軸方向に平行な中心線に関して互いに対称な位置に配置されている。特徴(2)として、当該リッジ導波管の端面が短絡されており、上記スロットは、動作周波数における管内波長の2分の1の間隔で第1の広壁面31aに配列されている。特徴(3)として、当該リッジ導波管において、第1の広壁面31aにおいて端面に最も近いスロットは、当該スロットの中心から当該端面までの距離が管内波長の4分の1である位置に配置されている。特徴(4)として、当該リッジ導波管の第1の広壁面31aは、表と裏に導体面41a,41bを有した誘電体基板40で構成されており、スロットは、誘電体基板40を貫通して、導体面41aと導体面41bとを電気的に接続するビアである。
以上のように、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれが、第1の放射構造3a、第2の放射構造3b、および第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとを切り替えるスイッチ5Aを有し、スイッチ5Aが切り替えた放射構造から送信信号を放射する。放射電界位相が互いに異なる第1の放射構造3aと第2の放射構造3bとの切り替えによって、素子アンテナ2Bから送信される送信信号は、二位相変調された信号となる。低損失なスイッチ5Aを用いて送信信号に二位相変調を施すことができるので、素子アンテナ2Bごとに増幅器7を設けなくても、送信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比を維持しながら増幅器の数を削減することができ、低消費電力化を実現できる。すなわち、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、従来のDBFアレーアンテナと同等のビーム形成機能を有し、さらに従来のDBFアレーアンテナに比べて信号の多重数分だけD/A変換器および増幅器の数を削減できる。このため、低コスト、低消費電力、小型かつ軽量なアレーアンテナ装置を実現することが可能である。
なお、切り替えシーケンスは、素子アンテナ2Bの数と符号長が同じ直交符号で表してもよいし、符号長が素子アンテナ2Bの数よりも大きい直交符号で表してもよい。いずれであっても、上記と同様の効果が得られる。さらに、直交符号の代わりに、切り替えシーケンスを、M系列あるいはGold系列といった擬似ランダム符号で表しても、符号分割多重された信号を逆拡散処理によって復調することができる。
また、これまでの説明では、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに対応する送信信号に対して二位相変調を施す場合を示したが、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、送信信号に4相以上の多相変調を施してもよい。例えば、エンコーダ部57が、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに対応する送信信号に対して四位相変調を施し、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに、放射電界位相が互いに異なる4つの放射構造を設けて、スイッチ5Aによって放射構造を切り替えて送信信号を送信してもよい。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、実施の形態のそれぞれの自由な組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。
本発明に係るアレーアンテナ装置は、低消費電力化を実現できるので、無線通信またはレーダに利用可能である。
1,1A,1B,1C,1D アレーアンテナ、2,2A,2B,38 素子アンテナ、3a 第1の放射構造、3b 第2の放射構造、4a,16a 第1の給電構造部、4b,16b 第2の給電構造部、5,5A,17 スイッチ、6 合成回路、7,51 増幅器、8,52 周波数変換器、9,53 局部発振器、10 A/D変換器、11,18,22,55 シーケンス生成部、12,19,23,56 スイッチ制御回路、13,20,24 デコーダ部、14,21,25 ビーム形成部、15 放射構造、30 導波管、31a 第1の広壁面、31b 第2の広壁面、32a 第1の狭壁面、32b 第2の狭壁面、33a 第1の端面、33b 第2の端面、34 第1のスロット、35 第2のスロット、36 第1のスイッチ、37 第2のスイッチ、39 給電構造部、39a 給電プローブ、40 誘電体基板、41a,41b 導体面、42 第1のスロット、43 第2のスロット、50 分配回路、54 D/A変換器、57 エンコーダ部、58 送信ビーム形成部、100 中心線。
本発明は、アレーアンテナ装置に関する。
デジタルビームフォーマ構成のアレーアンテナ(以下、DBFアレーアンテナと記載する)は、例えば、無線通信またはレーダに用いられるアレーアンテナ装置であり、様々なビームを形成でき、複数のビームの同時形成も可能である。従来のDBFアレーアンテナは、一般に、アレーアンテナを構成する複数の素子アンテナのそれぞれに対し、増幅器、ダウンコンバータおよびアナログ/デジタル変換器(以下、A/D変換器と記載する)を備えている。このため、従来のDBFアレーアンテナは、一般に、電力消費が多く、アンテナ体積が大きく、重量も重かった。
一方、例えば、特許文献1に記載されたアレーアンテナは、アレーアンテナを構成する複数の素子アンテナのそれぞれに対して増幅器および二位相変調回路を備えており、さらに、合成回路、ダウンコンバータおよびA/D変換器を備えている。複数の素子アンテナのそれぞれによって受信され、増幅器によって増幅され、二位相変調回路によって位相変調された複数の受信信号は、合成回路によって合成される。合成後の信号は、ダウンコンバータによって周波数変換され、周波数変換後の信号は、A/D変換器によってアナログ信号からデジタル信号に変換される。このように、特許文献1に記載されたアレーアンテナでは、合成回路によって多重化された信号の数だけA/D変換器の数を削減できる。
二位相変調回路は、一般に、半導体素子を用いた回路であり、半導体素子を用いた回路は、通常、大きな通過損失(例えば、3dB以上の損失)を有する。特許文献1に記載されたアレーアンテナにおいて、二位相変調回路での通過損失に伴う受信信号電力の低下に起因した信号対雑音比の劣化を補償するため、素子アンテナごとに増幅器を設けている。このように、特許文献1に記載されたアレーアンテナは、増幅器の数を削減すると信号対雑音比が劣化するので、低消費電力化が困難であるという課題があった。
本発明は上記課題を解決するものであり、低消費電力化を実現することができるアレーアンテナ装置を得ることを目的とする。
本発明に係るアレーアンテナ装置は、放射電界位相が互いに異なる複数の放射構造体、放射構造体を切り替えるスイッチを有する素子アンテナが配列されたアレーアンテナと、放射構造体の切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を、素子アンテナごとに生成するシーケンス生成部と、シーケンス生成部によって生成されたシーケンス情報に基づいて、スイッチによる放射構造体の切り替えを制御するスイッチ制御回路と、複数の素子アンテナからのそれぞれの信号を合成する合成回路と、合成回路によって合成された信号を増幅する増幅器と、増幅器によって増幅された信号を周波数変換する周波数変換器と、周波数変換器によって周波数変換された信号をデジタル信号に変換する変換器とを備える。
本発明によれば、複数の素子アンテナのそれぞれが、放射電界位相が互いに異なる複数の放射構造体と、放射構造体を切り替えるスイッチとを有し、スイッチが切り替えた放射構造体で受信された受信信号を出力する。放射構造体の切り替えによって、素子アンテナから出力される受信信号は、放射電界位相が互いに異なる信号となり、例えば、二位相変調された信号となる。低損失なスイッチを用いて受信信号に二位相変調を施すことができるので、素子アンテナごとに増幅器を設けなくても、受信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比の劣化を抑制しながら増幅器の数を削減でき、低消費電力化を実現することができる。
実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の動作を示すフローチャートである。
実施の形態2に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図4Aは、実施の形態2における放射構造体を示す斜視図である。図4Bは、実施の形態2における放射構造体を図4AのA−A線で切った断面を示す断面矢示図である。
図5Aは、実施の形態2における放射構造体の変形例を示す斜視図である。図5Bは、実施の形態2における放射構造体の変形例を図5Aの矢印方向からみた様子を示す図である。
図6Aは、実施の形態2における放射構造体の別の変形例を示す斜視図である。図6Bは、実施の形態2における放射構造体の別の変形例を図6Aの矢印方向からみた様子を示す図である。
実施の形態3に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
実施の形態3における導波管を図7のB−B線で切った断面を示す断面矢示図である。
導波管の広壁面における電流分布を示す図である。
図10Aは、実施の形態3における導波管の変形例を示す斜視図である。図10Bは、実施の形態3における導波管の変形例を図10AのC−C線で切った断面を示す断面矢示図である。図10Cは、実施の形態3における導波管の変形例を図10AのD−D線で切った断面を示す断面矢示図である。
実施の形態4に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
実施の形態4に係るアレーアンテナ装置の動作を示すフローチャートである。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図1に示すアレーアンテナ装置は、空間を伝搬してきた電磁波をアレーアンテナ1によって受信する。アレーアンテナ1には、複数の素子アンテナ2が一定の間隔で配列されている。複数の素子アンテナ2のそれぞれは、第1の放射構造体3a、第2の放射構造体3b、第1の給電構造部4a、第2の給電構造部4bおよびスイッチ5を備える。
第1の放射構造体3aは、第1の給電構造部4aを有したアンテナであり、第2の放射構造体3bは、第2の給電構造部4bを有したアンテナである。第1の給電構造部4aは、第1の放射構造体3aで受信された信号を伝送する給電構造部であり、第2の給電構造部4bは、第2の放射構造体3bで受信された信号を伝送する給電構造部である。
第1の給電構造部4aと第2の給電構造部4bは、放射電界位相が互いに異なる2つの給電構造部であり、例えば、放射電界位相値が互いに180度異なっている。すなわち、素子アンテナ2が有する2つの放射構造体は、放射電界位相が互いに異なる2つのアンテナであり、給電構造部は、これらのアンテナのそれぞれに1つずつ設けられている。
スイッチ5は、第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとを切り替えるものであり、いわゆる、シングルポールダブルスロー(以下、SPDTと記載する)構造のスイッチである。SPDT構造のスイッチ5は、第1の給電構造部4aが接続された第1の入力端子、第2の給電構造部4bが接続された第2の入力端子および両者に共通の出力端子を有する。
例えば、スイッチ5によって第1の放射構造体3aに切り替えられると、第1の放射構造体3aで受信された高周波信号は、第1の給電構造部4aを介して第1の入力端子からスイッチ5に入力され、出力端子から出力される。一方、スイッチ5によって第2の放射構造体3bに切り替えられると、第2の放射構造体3bで受信された高周波信号は、第2の給電構造部4bを介して第2の入力端子からスイッチ5に入力され、出力端子から出力される。
図1に示すアレーアンテナ装置は、合成回路6、増幅器7、周波数変換器8、局部発振器9、A/D変換器10、シーケンス生成部11、スイッチ制御回路12、デコーダ部13およびビーム形成部14をさらに備える。複数の素子アンテナ2の各スイッチ5で切り替えられた高周波信号は、合成回路6に出力される。合成回路6は、アレーアンテナ1を構成する複数の素子アンテナ2のそれぞれから出力された高周波信号を合成し、合成した信号を増幅器7に出力する。増幅器7は、合成回路6によって合成された高周波信号の電力を予め設定された利得で増幅する。
周波数変換器8は、局部発振器9から入力した局部発振信号を用いて、増幅器7によって電力が増幅された高周波信号の周波数を中間周波数帯に周波数変換する。局部発振器9は、高周波信号の周波数変換に用いられる、予め設定された周波数の局部発振信号を発生する。A/D変換器10は、周波数変換器8によって周波数が中間周波数帯に変換された信号をデジタル信号に変換する変換器である。
シーケンス生成部11は、第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとの切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を、素子アンテナ2ごとに生成する。放射構造体の切り替えシーケンスには、放射構造体の切り替えの時系列な順序と切り替え間隔が含まれる。素子アンテナ2ごとに生成されたシーケンス情報は、シーケンス生成部11からスイッチ制御回路12に出力される。
なお、シーケンス生成部11は、記憶装置に記憶されたシーケンス情報を読み出し、読み出したシーケンス情報をスイッチ制御回路12に出力してもよい。記憶装置は、アレーアンテナ装置が備えるRAM(Random Access Memory)またはハードディスクといった記憶装置であってもよいが、アレーアンテナ装置からアクセス可能な外部記憶装置であってもよい。
スイッチ制御回路12は、シーケンス生成部11によって生成されたシーケンス情報に基づいて、スイッチ5による第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとの切り替えを制御する。例えば、スイッチ制御回路12は、シーケンス情報が示す切り替えシーケンスに基づいて、スイッチ5の動作を制御する制御信号を素子アンテナ2ごとに生成する。スイッチ5は、スイッチ制御回路12から入力した制御信号に基づいて、第1の放射構造体3aおよび第2の放射構造体3bのいずれかに切り替える。
デコーダ部13は、シーケンス生成部11によって生成されたシーケンス情報に基づいて、A/D変換器10から入力したデジタル信号から、複数の素子アンテナ2のそれぞれで受信された信号を分離する。ビーム形成部14は、デコーダ部13によって素子アンテナ2ごとに分離された信号を用いて、ビーム信号を形成する。ビーム形成部14によって素子アンテナ2の個数分のビーム信号が形成される。
シーケンス生成部11、デコーダ部13およびビーム形成部14の機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。例えば、処理回路とスイッチ制御回路12とが、ネットワークを介して接続された別々の回路である場合、スイッチ制御回路12は、ネットワークインタフェースを通じて処理回路からシーケンス情報を入力する。
また、デコーダ部13およびビーム形成部14は、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置とは別の外部装置が備えてもよい。すなわち、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置は、デコーダ部13およびビーム形成部14を備えていなくても、信号対雑音比を維持しながら低消費電力化を実現できる。なお、この場合、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置は、例えば、上記外部装置に通信接続してデコーダ部13およびビーム形成部14との間で信号をやり取りする。
次に動作について説明する。
図2は、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の動作を示すフローチャートである。
まず、複数の素子アンテナ2のそれぞれが有する第1の放射構造体3aおよび第2の放射構造体3bが、空間から到来した高周波信号を受信する(ステップST1)。
一方、シーケンス生成部11は、第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bの切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を素子アンテナ2ごとに生成する(ステップST2)。例えば、シーケンス生成部11は、スイッチ5によって第1の放射構造体3aに切り替えられた状態に1を割り当て、スイッチ5によって第2の放射構造体3bに切り替えられた状態に−1を割り当てて、[1 −1 1 ・・・1]のように1と−1を要素とした符号列で切り替えシーケンスが表現されたシーケンス情報を生成する。
実施の形態1では、複数の素子アンテナ2のそれぞれに対する切り替えシーケンスを、互いに直交した符号列である直交符号、すなわち、Walsh−Hadamard符号で表す。例えば、アレーアンテナ1を構成する素子アンテナ2の数が4つである場合、4つの素子アンテナ2のそれぞれに対する切り替えシーケンスは、[1 1 1 1]、[1 −1 1 −1]、[1 1 −1 −1]および[1 −1 −1 1]で表される。以下の説明では、切り替えシーケンスを表す直交符号が、素子アンテナ2の数と符号長が同じであるものとする。
スイッチ制御回路12は、シーケンス生成部11によって生成されたシーケンス情報に基づいて、素子アンテナ2ごとのスイッチ5を制御することで、複数の素子アンテナ2のそれぞれが有する第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bを順次切り替える(ステップST3)。例えば、スイッチ5は、切り替えシーケンスを符号列[1 −1 −1 1]で表したシーケンス情報に基づくと、第1の放射構造体3a、第2の放射構造体3b、第2の放射構造体3b、第1の放射構造体3aの順に、時間Tcごとに切り替えを行う。
第1の放射構造体3aによって受信されて第1の給電構造部4aからスイッチ5に入力された高周波信号と第2の放射構造体3bによって受信されて第2の給電構造部4bを介してスイッチ5に入力された高周波信号は、互いに180度位相が異なっている。このため、スイッチ5からの出力信号は、放射構造体の切り替えによって二位相変調が施された高周波信号となる。
第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとの切り替え間隔である時間Tcが、高周波信号(受信信号)が有する情報パルスの継続時間(信号周期に相当する)Tsよりも短い場合、シーケンス情報に基づいて、スイッチ5が、時間Ts内で、時間Tcごとに第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとを切り替え、この切り替えは、時間Tsごとに繰り返し実行される。第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとの切り替えによって二位相変調された高周波信号の周波数スペクトルは、第1の放射構造体3aまたは第2の放射構造体3bによって受信された高周波信号の周波数スペクトラムに比べて広範な周波数帯域幅を有した、いわゆるスペクトル拡散された信号となる。
続いて、合成回路6は、複数の素子アンテナ2のそれぞれから出力された高周波信号を合成する(ステップST4)。例えば、合成回路6は、複数の素子アンテナ2のそれぞれから出力された高周波信号を合成し、直交符号によってスペクトル拡散された高周波信号の合成信号、すなわち符号分割多重された信号を生成する。
増幅器7が、合成回路6によって合成された高周波信号の電力を増幅し、周波数変換器8が、増幅器7によって増幅された高周波信号の周波数を中間周波数帯に周波数変換し、A/D変換器10が、周波数変換器8によって周波数変換された信号を、デジタル信号に変換する(ステップST5)。A/D変換器10によってデジタル信号に変換された合成信号は、デコーダ部13に出力される。
次に、デコーダ部13は、A/D変換器10から入力した合成信号に逆拡散処理を施して、複数の素子アンテナ2のそれぞれに受信された信号に分離する(ステップST6)。例えば、デコーダ部13は、A/D変換器10から入力した合成信号に対し、シーケンス情報である、1と−1を要素とした符号列を乗算し、乗算した値を積分することで、素子アンテナ2の数だけデジタル信号を算出する。切り替えシーケンスは互いに直交する直交符号で表されるため、スイッチ5に設定された切り替えシーケンスを表す直交符号を合成信号に乗算して積分することで、そのスイッチ5を含んだ素子アンテナ2で受信された信号成分のみが得られ、そのスイッチ5での切り替えシーケンスとは異なる直交符号を合成信号に乗算して積分しても信号成分は0となる。これは、符号分割多重された信号に対して逆拡散処理を施して復調することに相当する。これにより、合成信号から、複数の素子アンテナ2のそれぞれに受信された信号が分離される。
この後、ビーム形成部14は、デコーダ部13によって合成信号から複数の素子アンテナ2のそれぞれに分離された信号を用いて、ビーム信号を形成する(ステップST7)。
以上のように、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナ2のそれぞれが、第1の放射構造体3a、第2の放射構造体3b、および第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとを切り替えるスイッチ5を有し、スイッチ5が切り替えた放射構造体によって受信された受信信号を出力する。放射電界位相が互いに異なる第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとの切り替えによって、素子アンテナ2から出力される受信信号は、二位相変調された信号となる。低損失なスイッチ5を用いて受信信号に二位相変調を施すことができるので、素子アンテナ2ごとに増幅器7を設けなくても、受信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比の劣化を抑制しながら増幅器の数を削減できるので、低消費電力化を実現できる。すなわち、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置は、従来のDBFアレーアンテナと同等のビーム形成機能を有し、さらに、従来のDBFアレーアンテナに比べて、信号の多重数分だけ増幅器の数を削減できる。このため、低コスト、低消費電力、小型かつ軽量なアレーアンテナ装置を実現できる。
なお、これまでの説明では、切り替えシーケンスを素子アンテナ2の数と符号長が同じ直交符号で表したが、切り替えシーケンスは、符号長が素子アンテナ2の数よりも大きい直交符号で表してもよく、上記と同様の効果が得られる。さらに、直交符号の代わりに、切り替えシーケンスを、M系列あるいはGold系列といった擬似ランダム符号で表しても、符号分割多重された信号を逆拡散処理によって復調することができる。
また、これまでの説明では、放射電界位相が互いに異なる第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bを、スイッチ5を用いて切り替えることで、受信信号に二位相変調を施す場合を示したが、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置は、受信信号に4相以上の多相変調を施すように構成されてもよい。例えば、複数の素子アンテナ2のそれぞれに、放射電界位相が互いに異なる4つの放射構造体を設け、スイッチ5によって放射構造体を切り替えることで、受信信号に四位相変調を施すことが可能である。
実施の形態2.
図3は、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図3に示すアレーアンテナ装置は、空間を伝搬してきた電磁波をアレーアンテナ1Aによって受信する。アレーアンテナ1Aには、複数の素子アンテナ2Aが一定の間隔で配列されている。複数の素子アンテナ2Aのそれぞれは、放射構造体15、第1の給電構造部16a、第2の給電構造部16bおよびスイッチ17を備えている。なお、図3において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
放射構造体15は、その中心に点対称な構造を有したアンテナであり、第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bとを有する。第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、放射構造体15で受信された高周波信号を伝送する給電構造である。放射構造体15は、単一のアンテナであり、このアンテナは、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bを異なる位置にそれぞれ有する。例えば、第1の給電構造部16aと放射構造体15との接続点と、第2の給電構造部16bと放射構造体15との接続点とは、放射構造体15の中心に対して点対称な位置に設けられる。
放射構造体15は、単一のアンテナとして実現されるが、第1の給電構造部16aを有した放射構造体と、第2の給電構造部16bを有した放射構造体との両方の機能を有する。
スイッチ17は、第1の給電構造部16aに切り替えることにより、放射構造体15を、第1の給電構造部16aを有した放射構造体として機能させ、第2の給電構造部16bに切り替えることにより、放射構造体15を、第2の給電構造部16bを有した放射構造体として機能させる。すなわち、スイッチ17は、第1の給電構造部16aを有した放射構造体と、第2の給電構造部16bを有した放射構造体とを切り替えるスイッチである。
また、スイッチ17はSPDT構造のスイッチであり、第1の給電構造部16aが接続された第1の入力端子と、第2の給電構造部16bが接続された第2の入力端子と、両者に共通の出力端子とを有する。例えば、スイッチ17によって第1の給電構造部16aに切り替えられると、放射構造体15で受信された高周波信号は、第1の給電構造部16aを介して、第1の入力端子からスイッチ17に入力され、出力端子から出力される。一方、スイッチ17によって第2の給電構造部16bに切り替えられると、放射構造体15で受信された高周波信号は、第2の給電構造部16bを介して第2の入力端子からスイッチ17に入力され、出力端子から出力される。
図3に示すアレーアンテナ装置は、合成回路6、増幅器7、周波数変換器8、局部発振器9、A/D変換器10、シーケンス生成部18、スイッチ制御回路19、デコーダ部20およびビーム形成部21をさらに備える。シーケンス生成部18は、放射構造体の切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を素子アンテナ2Aごとに生成する。放射構造体の切り替えシーケンスには、放射構造体の切り替えの時系列な順序と切り替え間隔が含まれる。素子アンテナ2Aごとに生成されたシーケンス情報は、シーケンス生成部18からスイッチ制御回路19に出力される。
なお、シーケンス生成部18は、記憶装置に記憶されたシーケンス情報を読み出し、読み出したシーケンス情報をスイッチ制御回路19に出力してもよい。記憶装置は、アレーアンテナ装置が備えるRAMまたはハードディスクといった記憶装置であってもよいが、アレーアンテナ装置からアクセス可能な外部記憶装置であってもよい。
例えば、シーケンス生成部18は、実施の形態1と同様に、スイッチ17によって第1の給電構造部16aを有する放射構造体に切り替えられた状態に1を割り当て、スイッチ17によって第2の給電構造部16bを有する放射構造体に切り替えられた状態に−1を割り当てて、1と−1を要素とした符号列で切り替えシーケンスが表現されたシーケンス情報を生成する。
スイッチ制御回路19は、シーケンス生成部18によって生成されたシーケンス情報に基づいて、スイッチ17による切り替えを制御する。例えば、スイッチ制御回路19は、シーケンス生成部18から入力したシーケンス情報が示す切り替えシーケンスに基づいて、スイッチ17の動作を制御する制御信号を素子アンテナ2Aごとに生成する。
スイッチ17は、スイッチ制御回路19から設定された制御信号に基づいて、第1の給電構造部16aを有する放射構造体と第2の給電構造部16bを有する放射構造体とのいずれかに切り替える。例えば、切り替えシーケンスを符号列[1 −1 −1 1]で表したシーケンス情報に基づいて、スイッチ17は、第1の給電構造部16a、第2の給電構造部16b、第2の給電構造部16b、第1の給電構造部16aの順に、時間Tcごとに切り替えを行う。
放射構造体15によって受信されて第1の給電構造部16aからスイッチ17に入力された高周波信号と、放射構造体15によって受信されて第2の給電構造部16bを介してスイッチ17に入力された高周波信号は、互いに180度位相が異なる。スイッチ17からの出力信号は、放射構造体の切り替えによって二位相変調が施された高周波信号となる。切り替え間隔である時間Tcが、高周波信号(受信信号)が有する情報パルスの継続時間(信号周期)Tsよりも短い場合、二位相変調された高周波信号の周波数スペクトラムは、スペクトル拡散された信号となる。
デコーダ部20は、シーケンス生成部18によって生成されたシーケンス情報に基づいて、A/D変換器10から入力されたデジタル信号のうちから、複数の素子アンテナ2Aのそれぞれで受信された信号を分離する。例えば、デコーダ部20は、A/D変換器10から入力した合成信号に対して、シーケンス情報である、1と−1を要素とした符号列を乗算して積分することで、素子アンテナ2Aの数だけデジタル信号を算出する。切り替えシーケンスは互いに直交する直交符号で表されるため、スイッチ17に設定された切り替えシーケンスを表す直交符号を合成信号に乗算して積分することで、そのスイッチ17を含む素子アンテナ2Aで受信された信号成分のみが得られ、そのスイッチ17での切り替えシーケンスとは異なる直交符号を合成信号に乗算して積分しても信号成分は0となる。これは、符号分割多重された信号に対して逆拡散処理を施して復調することに相当する。これにより、合成信号から、複数の素子アンテナ2Aのそれぞれに受信された信号が分離される。
ビーム形成部21は、デコーダ部20によって素子アンテナ2Aごとに分離された信号を用いて、ビーム信号を形成する。ビーム形成部21によって素子アンテナ2Aの個数分のビーム信号が形成される。
また、デコーダ部20およびビーム形成部21は、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置とは別の外部装置が備えてもよい。すなわち、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、デコーダ部20およびビーム形成部21を備えていなくても、信号対雑音比を維持しながら低消費電力化を実現できる。なお、この場合、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、例えば、上記外部装置に通信接続してデコーダ部20およびビーム形成部21との間で信号をやり取りする。
シーケンス生成部18、デコーダ部20およびビーム形成部21の機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUであってもよい。例えば、処理回路とスイッチ制御回路19とが、ネットワークを介して接続された別々の回路である場合、スイッチ制御回路19は、ネットワークインタフェースを通じて処理回路からシーケンス情報を入力する。
図4Aは、放射構造体15を示す斜視図である。図4Bは、放射構造体15を図4AのA−A線で切った断面を示す断面矢示図である。放射構造体15は、図4Aおよび図4Bに示すような、方形のパッチアンテナで実現することができる。このパッチアンテナは、図4Bに示すように、ピン給電のパッチアンテナであり、2つのピンが第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bである。図4Aに示すように、第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bとは、パッチアンテナの中心に対して互いに点対称な位置に配置されている。
図4Aおよび図4Bにおいて、方形のパッチアンテナを示したが、放射構造体15は、円形のパッチアンテナであってもよい。また、放射構造体15は、電磁結合給電のパッチアンテナであってもよい。この場合、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、電磁結合で給電する構造部で実現される。
図5Aは、放射構造体15の変形例を示す斜視図である。図5Bは、放射構造体15の変形例を図5Aの矢印方向からみた様子を示す図である。放射構造体15は、図5Aおよび図5Bに示すような、導波管開口アンテナで実現することができる。この導波管開口アンテナは、図5Bに示すように、プローブ給電の導波管開口アンテナであり、2つのプローブが第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bである。図5Bに示すように、第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bは導波管開口アンテナの中心軸に対して点対称な位置に配置されている。
開口形状が方形の導波管開口アンテナを示したが、放射構造体15は、開口形状が円形の導波管開口アンテナであってもよい。また、放射構造体15は、スロットまたは導波管で給電する導波管開口アンテナであってもよい。この場合、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、スロットまたは導波管で実現される。
図6Aは、放射構造体15の別の変形例を示す斜視図である。図6Bは、放射構造体15の別の変形例を図6Aの矢印方向からみた様子を示す図である。放射構造体15は、図6Aおよび図6Bに示すような、ホーンアンテナで実現することができる。このホーンアンテナは、図6Bに示すように、プローブ給電のホーンアンテナであり、2つのプローブが第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bである。図6Bに示すように、第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bはホーンアンテナの中心軸に対して点対称な位置に配置されている。
開口形状が方形のホーンアンテナを示したが、放射構造体15は、開口形状が円形のホーンアンテナであってもよい。また、放射構造体15は、スロットまたは導波管で給電するホーンアンテナであってもよい。この場合、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、スロットまたは導波管で実現される。
実施の形態1に係るアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナ2のそれぞれが有する放射構造体は、電界放射パターンの位相値が互いに180度異なる一対のアンテナであった。すなわち、素子アンテナ2には、2つのアンテナが互いに独立して配置されているので、素子アンテナ2が占有する面積は、素子アンテナが単一のアンテナで構成される場合よりも大きくなる。このため、複数の素子アンテナ2を配列した1次元アレーまたは2次元アレーでは、隣接する素子アンテナ2同士の間隔が広くなってしまう。
一般に、DBFアレーアンテナでは、一定のビーム走査範囲内でグレーティングローブが発生しない間隔で素子アンテナを配列する必要があり、通常、動作周波数における波長の0.5〜0.8倍程度の間隔で素子アンテナが配列されている。例えば、放射構造体が、動作周波数における波長の0.3〜0.5倍程度の大きさである場合、2つの放射構造体が互いに独立して配置された素子アンテナ2は、上記間隔で配列させることが困難である。
これに対して、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、複数の素子アンテナ2Aのそれぞれが有する放射構造体15が単一のアンテナであり、その中心に対して点対称な位置に第1の給電構造部16aと第2の給電構造部16bとの接続点を有している。放射構造体15が単一のアンテナであるので、素子アンテナ2Aが占有する面積は、素子アンテナ2よりも小さい。
また、放射構造体15上の電流分布または内部の電界分布は、放射構造体15が基本モードで動作する場合、一般に、構造の対称性から振幅分布は対称となり、位相分布は左右反転したような分布となる。このため、放射構造体15の中心に対して点対称な位置に接続点を有する第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bのそれぞれには、放射構造体15で受信された信号が、等振幅で逆位相、すなわち、互いに180度位相が異なる信号として伝送される。
以上のように、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置において、放射構造体15は、単一のアンテナであり、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、単一のアンテナの異なる位置にそれぞれ配置されている。例えば、単一のアンテナが、円形または方形のパッチアンテナである場合に、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、パッチアンテナの中心に対して互いに点対称な位置に配置されている。また、単一のアンテナが、導波管開口アンテナまたはホーンアンテナである場合、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bは、導波管開口アンテナまたはホーンアンテナの中心軸に対して点対称な位置に配置されている。
放射構造体15の中心に対して点対称な位置に接続点を有する第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bのそれぞれには、放射構造体15で受信された信号が、等振幅で逆位相、すなわち互いに180度位相が異なる信号として伝送される。
このように、スイッチ17によって第1の給電構造部16aを有する放射構造体と第2の給電構造部16bを有する放射構造体が切り替えられると、素子アンテナ2Aから出力される受信信号は、二位相変調された信号となる。すなわち、低損失なスイッチ17を用いて受信信号に対して二位相変調を施すことができるので、素子アンテナ2Aごとに増幅器7を設けなくても、受信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比の劣化を抑制しながら増幅器の数を削減でき、低消費電力化を実現することができる。
実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、実施の形態1に係るアレーアンテナ装置と同様の効果が得られるとともに、実施の形態1に示した装置構成に比べて素子アンテナの占有面積を小さくできるため、より小さなアレーアンテナ装置を実現できる。また、素子アンテナをより密に配置することが可能であるため、より広角方向にビーム走査が可能なアレーアンテナ装置を実現することができる。
なお、これまでの説明では、切り替えシーケンスを素子アンテナ2の数と符号長が同じ直交符号で表したが、切り替えシーケンスは、符号長が素子アンテナ2の数よりも大きい直交符号で表してもよく、上記と同様の効果が得られる。さらに、直交符号の代わりに、切り替えシーケンスを、M系列あるいはGold系列といった擬似ランダム符号で表しても、符号分割多重された信号を逆拡散処理によって復調することができる。
また、これまでの説明では、受信信号に二位相変調を施す場合を示したが、実施の形態2に係るアレーアンテナ装置は、受信信号に4相以上の多相変調を施すように構成されてもよい。例えば、複数の素子アンテナ2Aのそれぞれに、放射電界位相が互いに異なる4つの給電構造部を放射構造体15に設けて、スイッチ17で切り替えることで、受信信号に四位相変調を施すことが可能である。このとき、4つの給電構造部と放射構造体15との接続点は、放射構造体15の中心に対して互いに点対称な位置に配置される。
実施の形態3.
図7は、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図7において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。図8は、図7の導波管30を図7のB−B線で切った断面を示す断面矢示図である。図7に示したアレーアンテナ装置は、アレーアンテナ1B、増幅器7、周波数変換器8、局部発振器9、A/D変換器10、シーケンス生成部22、スイッチ制御回路23、デコーダ部24およびビーム形成部25を備える。また、図7に示したアレーアンテナ装置は、図1および図3に示した合成回路として機能する導波管30を備える。
アレーアンテナ1Bは、導波管30の第1の広壁面31aに複数の素子アンテナ38が一定の間隔で配列されて構成されている。複数の素子アンテナ38のそれぞれは、第1のスロット34、第2のスロット35、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37を備える。なお、図7では、導波管30に4つの素子アンテナ38を設けた場合を示したが、導波管30に5以上の素子アンテナ38を設けてもよい。
導波管30は、互いに対向した一対の第1の広壁面31aおよび第2の広壁面31b、これら広壁面の長手方向の両側に隣接した一対の第1の狭壁面32aおよび第2の狭壁面32b、および、広壁面と狭壁面の両方に隣接した一対の第1の端面33aおよび第2の端面33bを有し、金属で形成された矩形導波管である。導波管30における第1の端面33aおよび第2の端面33bのそれぞれは、導体壁によって短絡された短絡面となっている。
第1のスロット34および第2のスロット35は、空間を伝搬してきた電磁波を受信する放射構造体である。また、第1のスロット34および第2のスロット35は、導波管30が有する第1の広壁面31aおよび第2の広壁面31bのうちの一方である第1の広壁面31aに設けられ、互いに同一の寸法で、導波管30の管軸方向に長くかつ互いに平行な2つの細長い穴である。第1のスロット34および第2のスロット35の長手方向の寸法のそれぞれは、自由空間波長の半波長程度の長さである。
隣り合った素子アンテナ38と素子アンテナ38において、一方の素子アンテナ38が有する第1のスロット34と、他方の素子アンテナ38が有する第1のスロット34との間隔は、導波管30の動作周波数における管内波長λの2分の1である。同様に、隣り合った一方の素子アンテナ38が有する第2のスロット35と、他方の素子アンテナ38が有する第2のスロット35との間隔は、導波管30の動作周波数における管内波長λの2分の1である。
また、第1の端面33aに最も近い第1のスロット34および第2のスロット35は、当該スロットの中心から第1の端面33aまでの距離が管内波長λの4分の1である位置に配置されている。同様に、第2の端面33bに最も近い第1のスロット34および第2のスロット35は、当該スロットの中心から第2の端面33bまでの距離が管内波長λの4分の1である位置に配置されている。
また、第1のスロット34および第2のスロット35は、第1の広壁面31aにおける、導波管30の管軸方向に平行な中心線(例えば、図7のB−B線)を境とした一方の側の位置と他方の側の位置とに設けられる。例えば、第1のスロット34および第2のスロット35は、第1の広壁面31aにおける、導波管30の管軸方向に平行な中心線に関して、互いに対称な位置に配置される。これにより、素子アンテナ38は、いわゆる、定在波励振型の導波管スロットアレーを構成する。
なお、隣り合った素子アンテナ38同士のスロットの間隔、および、短絡面に最も近いスロットと短絡面との距離を、任意に設定することで、素子アンテナ38は、いわゆる、進行波励振型の導波管スロットとして機能する。
第1のスイッチ36および第2のスイッチ37は、オン状態とオフ状態が切り替えられるスイッチであり、例えば、PINダイオード、電界効果トランジスタおよびMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いて構成された高周波スイッチである。当該高周波スイッチは、一般に1dB以下程度の通過損失であり、二位相変調回路の通過損失よりも2dB程度低い。図7に示すように、第1のスイッチ36は、第1のスロット34の中央部に設けられ、第2のスイッチ37は、第2のスロット35の中央部に設けられている。
複数の素子アンテナ38のそれぞれにおいて、第1のスイッチ36がオン状態であるとき、第2のスイッチ37はオフ状態となるように同期している。例えば、第1のスイッチ36がオン状態であるとき、第1のスロット34はスロットアンテナとして動作状態となり、このとき、第2のスイッチ37はオフ状態となり、第2のスロット35は非動作状態になる。反対に、第2のスイッチ37がオン状態であるとき、第2のスロット35はスロットアンテナとして動作状態となり、このとき、第1のスイッチ36はオフ状態となり、第1のスロット34は非動作状態になる。
図8に示すように、給電構造部39は、導波管30の第2の広壁面31bに設けられた導波管給電構造である。給電構造部39は、第2の広壁面31bの中心に設けられた出力端子と、導波管30の内部に挿入された給電プローブ39aとを有し、出力端子は、増幅器7に接続されている。これにより、導波管30は、図1および図3に示した合成回路として機能する。
なお、給電構造部39は、導波管30の第2の広壁面31bにおける任意の位置に設けてもよい。さらに、給電構造部39は、第2の広壁面31bに設けた導波管T分岐を含む構成であってもよいし、導波管30の短絡面(第1の端面33aと第2の端面33b)側に出力端子を有する構造であってもよい。
シーケンス生成部22は、放射構造体の切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を素子アンテナ38ごとに生成する。放射構造体の切り替えシーケンスには、例えば、第1のスイッチ36と第2のスイッチ37との切り替えの時系列な順序と切り替え間隔が含まれる。素子アンテナ38ごとに生成されたシーケンス情報は、シーケンス生成部22からスイッチ制御回路23に出力される。
なお、シーケンス生成部22は、記憶装置に記憶されたシーケンス情報を読み出し、読み出したシーケンス情報をスイッチ制御回路23に出力してもよい。記憶装置は、アレーアンテナ装置が備えるRAMまたはハードディスクといった記憶装置であってもよいが、アレーアンテナ装置からアクセス可能な外部記憶装置であってもよい。
例えば、シーケンス生成部22は、第1のスイッチ36がオンになって第1のスロット34が高周波信号を受信しかつ第2のスイッチ37がオフになって第2のスロット35が高周波信号を受信できない状態に1を割り当て、第2のスイッチ37がオンになって第2のスロット35が高周波信号を受信しかつ第1のスイッチ36がオフになって第1のスロット34が高周波信号を受信できない状態に−1を割り当てて、[1 −1 1 ・・・1]のような1と−1を要素とした符号列で切り替えシーケンスが表現されたシーケンス情報を生成する。
スイッチ制御回路23は、シーケンス生成部22によって生成されたシーケンス情報に基づいて、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37のオンとオフの切り替えを制御する。例えば、スイッチ制御回路23は、シーケンス生成部22から入力したシーケンス情報が示す切り替えシーケンスに基づいて、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37の動作を制御する制御信号を素子アンテナ38ごとに生成する。
第1のスイッチ36は、スイッチ制御回路23から設定された制御信号に基づいて、オンとオフのいずれかの状態に切り替わる。同様に、第2のスイッチ37は、スイッチ制御回路23から設定された制御信号に基づいて、オンとオフのいずれかの状態に切り替わる。例えば、切り替えシーケンスを符号列[1 −1 −1 1]で表したシーケンス情報に基づいて、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37がオンオフすることにより、第1のスロット34、第2のスロット35、第2のスロット35、第1のスロット34の順に、時間Tcごとにスロットアンテナの動作状態が切り替わる。
第1のスロット34によって受信された高周波信号と第2のスロット35によって受信された高周波信号とは、互いに180度位相が異なる。このため、素子アンテナ38からの出力信号は、第1のスロット34と第2のスロット35の動作状態の切り替えによって二位相変調が施された高周波信号となる。第1のスロット34と第2のスロット35との動作状態の切り替え間隔である時間Tcが、高周波信号(受信信号)が有する情報パルスの継続時間(信号周期に相当する)Tsよりも短い場合、シーケンス情報に基づいて、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37が、時間Ts内で、時間Tcごとに第1のスロット34と第2のスロット35との動作状態を切り替え、この切り替えは、時間Tsごとに繰り返し実行される。第1のスロット34と第2のスロット35との動作状態の切り替えによって二位相変調された高周波信号の周波数スペクトルは、第1のスロット34あるいは第2のスロット35によって受信された高周波信号の周波数スペクトラムに比べて広範な周波数帯域幅を有した、いわゆるスペクトル拡散された信号となる。
デコーダ部24は、シーケンス生成部22によって生成されたシーケンス情報に基づいて、A/D変換器10から入力されたデジタル信号のうちから、複数の素子アンテナ38のそれぞれで受信された信号を分離する。例えば、デコーダ部24は、A/D変換器10から入力した合成信号に対して、シーケンス情報である、1と−1を要素とした符号列を乗算して積分することで、素子アンテナ38の数だけデジタル信号を算出する。切り替えシーケンスは互いに直交する直交符号で表されるため、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37に設定された切り替えシーケンスを表す直交符号を合成信号に乗算して積分することで、その第1のスイッチ36および第2のスイッチ37を含む素子アンテナ38で受信された信号成分のみが得られ、その第1のスイッチ36および第2のスイッチ37での切り替えシーケンスとは異なる直交符号を合成信号に乗算して積分しても信号成分は0となる。これは、符号分割多重された信号に対して逆拡散処理を施して復調することに相当する。これにより、合成信号から、複数の素子アンテナ38のそれぞれに受信された信号が分離される。
ビーム形成部25は、デコーダ部24によって素子アンテナ38ごとに分離された信号を用いて、ビーム信号を形成する。ビーム形成部25によって素子アンテナ38の個数分のビーム信号が形成される。
また、デコーダ部24およびビーム形成部25は、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置とは別の外部装置が備えてもよい。すなわち、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、デコーダ部24およびビーム形成部25を備えていなくても、信号対雑音比を維持しながら低消費電力化を実現できる。なお、この場合、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、例えば、上記外部装置に通信接続してデコーダ部24およびビーム形成部25との間で信号をやり取りする。
シーケンス生成部22、デコーダ部24およびビーム形成部25の機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUであってもよい。例えば、処理回路とスイッチ制御回路23とが、ネットワークを介して接続された別々の回路である場合、スイッチ制御回路23は、ネットワークインタフェースを通じて処理回路からシーケンス情報を入力する。
一般に、誘電体基板を用いて形成されたアンテナおよび信号線路は、通過損失が大きいため、アンテナおよび信号線路において信号強度が低下し、信号対雑音比が劣化する傾向がある。これに対し、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、アレーアンテナおよび合成回路の信号線路として低損失な導波管30を備えるので、複数の素子アンテナ38の受信信号強度の低下が抑制され、信号対雑音比の劣化を抑制することができる。信号線路における通過損失が低減されるため、高効率なアレーアンテナ装置を実現できる。
図9は、導波管30の第1の広壁面31aにおける電流分布を示す図である。例えば、導波管30が基本モードで動作している場合、図9に示すように、第1の広壁面31aでは、第1の広壁面31aにおける、導波管30の管軸方向に平行な中心線100から外側に向かって電流が流れる、あるいは、電流が外側から中心線100に向かって流れる電流分布となっている。第1のスロット34および第2のスロット35は、第1の広壁面31aにおける電流の流れを遮る位置に設けられる。これにより、第1のスロット34および第2のスロット35は、空間から到来する高周波信号を導波管30の内部に伝送することができる。
第1の広壁面31aにおける電流分布は、第1の広壁面31aにおける中心線100に関して対称な分布となっている。このため、第1のスロット34で受信された高周波信号と第2のスロット35で受信された高周波信号は、互いに逆位相、すなわち互いに180度位相の異なる信号として導波管30へ伝送される。
また、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、金属のみで構成された導波管の代わりに、下記に示す導波管を備えてもよい。
図10Aは、実施の形態3における導波管30の変形例を示す斜視図である。図10Bは、実施の形態3における導波管30の変形例を図10AのC−C線で切った断面を示す断面矢示図である。図10Cは、実施の形態3における導波管30の変形例を図10AのD−D線で切った断面を示す断面矢示図である。図10A、図10Bおよび図10Cに示すように、導波管30は、第1の広壁面31aの代わりに誘電体基板40を有している。
誘電体基板40は、図10Bに示すように、表面に導体面41aを有し、裏面に導体面41bを有する。誘電体基板40には、4つの素子アンテナを有するアレーアンテナ1Cが形成されている。第1のスロット42および第2のスロット43は、1つの素子アンテナを構成するスロット対である。第1のスロット42および第2のスロット43は、誘電体基板面40を貫通して、導体面41aと導体面41bとを電気的に接続するビアである。スロットを設ける面を誘電体基板40で構成したので、金属の第1の広壁面31aよりもスイッチの実装が容易である。
これまでの説明では、導波管30が矩形導波管である場合を示したが、導波管30は、一対の広壁面の両方またはいずれか一方における管軸方向に平行な中心線を通る金属壁を有したリッジ導波管であってもよい。例えば、当該リッジ導波管は、導波管30の第1の広壁面31aにおいて管軸方向に平行な中心線を通る金属壁を有している。また、当該リッジ導波管は、以下の(1)〜(4)に示す特徴のいずれかまたは全てを有していてもよい。特徴(1)として、複数のスロットが、第1の広壁面31aにおける管軸方向に平行な中心線に関して互いに対称な位置に配置されている。特徴(2)として、当該リッジ導波管の端面が短絡されており、上記スロットは、動作周波数における管内波長の2分の1の間隔で第1の広壁面31aに配列されている。特徴(3)として、当該リッジ導波管において、第1の広壁面31aにおいて端面に最も近いスロットは、当該スロットの中心から当該端面までの距離が管内波長の4分の1である位置に配置されている。特徴(4)として、当該リッジ導波管の第1の広壁面31aは、表と裏に導体面41a,41bを有した誘電体基板40で構成されており、スロットは、誘電体基板40を貫通して、導体面41aと導体面41bとを電気的に接続するビアである。導波管30が、前述のように構成されたリッジ導波管であっても、上記と同様の効果が得られる。
以上のように、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、合成回路として機能する導波管30を備え、導波管30の第1の広壁面31aには、導波管30の管軸方向に長くかつ平行な第1のスロット34および第2のスロット35が形成されている。第1のスロット34および第2のスロット35は、第1の広壁面31aにおける、管軸方向に平行な中心線100を境とした一方の側の位置と他方の側の位置とに設けられる。第1のスイッチ36は、第1のスロット34の長手方向の中央部に配置され、第2のスイッチ37は、第2のスロット35の長手方向の中央部に配置されている。
このように、第1のスイッチ36および第2のスイッチ37によって第1のスロット34の動作状態と第2のスロット35の動作状態とを切り替えることで、素子アンテナ38から出力される受信信号は、二位相変調された信号となる。信号位相が互いに180度異なる2つのスイッチとスロットを用いて受信信号に対して二位相変調を施すことができるので、素子アンテナ38ごとに増幅器7を設けなくても、受信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比の劣化を抑制しながら増幅器の数を削減でき、低消費電力化を実現することができる。また、実施の形態3に係るアレーアンテナ装置は、低損失な導波管30を用いることにより、高効率なアレーアンテナ装置を実現することができる。
実施の形態4.
実施の形態1から3では、空間から到来した高周波信号を受信するアレーアンテナ装置を示したが、実施の形態4は、空間へ高周波信号を送信するアレーアンテナ装置について説明する。
図11は、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。図11に示すアレーアンテナ装置は、アレーアンテナ1Dによって電磁波を空間へ送信する。アレーアンテナ1Dには、複数の素子アンテナ2Bが一定の間隔で配列されている。複数の素子アンテナ2Bのそれぞれは、第1の放射構造体3a、第2の放射構造体3b、第1の給電構造部4a、第2の給電構造部4bおよびスイッチ5Aを備える。
第1の放射構造体3aは、第1の給電構造部4aを有したアンテナであり、第2の放射構造体3bは、第2の給電構造部4bを有したアンテナである。第1の給電構造部4aは、第1の放射構造体3aから送信する送信信号を伝送する給電構造部であり、第2の給電構造部4bは、第2の放射構造体3bから送信する送信信号を伝送する給電構造部である。
第1の給電構造部4aと第2の給電構造部4bは、放射電界位相が互いに異なる2つの給電構造部であり、例えば、電界放射パターンの位相値が互いに180度異なっている。すなわち、素子アンテナ2Bが有する複数の放射構造体は、放射電界位相が互いに異なる複数のアンテナであり、給電構造部は、これらのアンテナのそれぞれに1つずつ設けられている。
スイッチ5Aは、第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bを切り替えるものであり、SPDT構造のスイッチである。SPDT構造のスイッチ5Aは、第1の給電構造部4aが接続された第1の出力端子、第2の給電構造部4bが接続された第2の出力端子および両者に共通の入力端子を有する。
例えば、スイッチ5Aによって第1の放射構造体3aに切り替えられると、入力端子からスイッチ5Aに入力された送信信号は、第1の出力端子から第1の給電構造部4aに出力され、第1の給電構造部4aから第1の放射構造体3aへ伝送されて、第1の放射構造体3aから空間へ送信される。一方、スイッチ5Aによって第2の放射構造体3bに切り替えられると、入力端子からスイッチ5Aに入力された送信信号は、第2の出力端子から第2の給電構造部4bに出力され、第2の給電構造部4bから第2の放射構造体3bへ伝送されて、第2の放射構造体3bから空間へ送信される。
図11に示すアレーアンテナ装置は、分配回路50、増幅器51、周波数変換器52、局部発振器53、D/A変換器54、シーケンス生成部55、スイッチ制御回路56、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58を、さらに備える。分配回路50は、増幅器51から入力した送信信号を複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに分配する。増幅器51は、周波数変換器52によって周波数を高周波数帯に変換された送信信号の電力を、予め設定された利得で増幅する。
周波数変換器52は、局部発振器53から入力した局部発振信号を用いて、D/A変換器54によってアナログ信号に増幅された送信信号の周波数を高周波数帯に周波数変換する。局部発振器53は、周波数変換器52による周波数変換に用いられる、予め設定された周波数の局部発振信号を発生する。D/A変換器54は、エンコーダ部57から入力した信号をアナログ信号に変換する変換器である。
シーケンス生成部55は、第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとの切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を、素子アンテナ2Bごとに生成する。放射構造体の切り替えシーケンスには、放射構造体の切り替えの時系列な順序と切り替え間隔が含まれる。素子アンテナ2Bごとに生成されたシーケンス情報は、シーケンス生成部55からスイッチ制御回路56に出力される。
なお、シーケンス生成部55は、記憶装置に記憶されたシーケンス情報を読み出し、読み出したシーケンス情報をスイッチ制御回路56に出力してもよい。記憶装置は、アレーアンテナ装置が備えるRAMまたはハードディスクといった記憶装置であってもよいが、アレーアンテナ装置からアクセス可能な外部記憶装置であってもよい。
スイッチ制御回路56は、シーケンス生成部55によって生成されたシーケンス情報に基づいて、スイッチ5Aによる第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとの切り替えを制御する。例えば、スイッチ制御回路56は、シーケンス生成部55から入力したシーケンス情報が示す切り替えシーケンスに基づいて、スイッチ5Aの動作を制御する制御信号を、素子アンテナ2Bごとに生成する。スイッチ5Aは、スイッチ制御回路56から入力した制御信号に基づいて、第1の放射構造体3aおよび第2の放射構造体3bのいずれかに切り替える。
エンコーダ部57は、シーケンス生成部55によって生成されたシーケンス情報および送信ビーム形成部58によって形成された複数の素子信号を用いて送信信号を生成して、生成した送信信号をD/A変換器54に出力する。送信ビーム形成部58は、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに対応した複数の素子信号を形成する。例えば、送信ビーム形成部58は、送信すべき信号を素子アンテナ2Bごとに振幅および位相を調整することで、素子アンテナ2Bの個数分の素子信号を形成する。
シーケンス生成部55、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58の機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUであってもよい。例えば、処理回路とスイッチ制御回路56とが、ネットワークを介して接続された別々の回路である場合、スイッチ制御回路56は、ネットワークインタフェースを通じて処理回路からシーケンス情報を入力する。
また、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58は、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置とは別の外部装置が備えてもよい。すなわち、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58を備えていなくても、信号対雑音比を維持しながら低消費電力化を実現できる。この場合、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、例えば、外部装置に通信接続して、エンコーダ部57および送信ビーム形成部58との間で信号をやり取りする。
次に動作について説明する。
図12は、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置の動作を示すフローチャートである。まず、送信ビーム形成部58が、各素子アンテナ2Bに対応した素子信号を形成する(ステップST1a)。送信ビーム形成部58によって素子アンテナ2Bごとに形成された素子信号は、エンコーダ部57に出力される。
一方、シーケンス生成部55は、第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bの切り替えシーケンスを示すシーケンス情報を素子アンテナ2Bごとに生成する(ステップST2a)。例えば、シーケンス生成部55は、スイッチ5Aによって第1の放射構造体3aに切り替えられた状態に1を割り当て、スイッチ5Aによって第2の放射構造体3bに切り替えられた状態に−1を割り当てて、[1 −1 1 ・・・1]のように1と−1を要素とした符号列で切り替えシーケンスが表現されたシーケンス情報を生成する。実施の形態4では、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに対する切り替えシーケンスを、互いに直交した符号列である直交符号で表す。
続いて、エンコーダ部57が、シーケンス情報と素子信号を用いて送信信号を生成する(ステップST3a)。例えば、エンコーダ部57は、送信ビーム形成部58から入力した素子アンテナ2Bごとの素子信号に対して、シーケンス情報である、1と−1を要素とした符号列を乗算し、これらの乗算値をさらに合成演算する。切り替えシーケンスを示す符号列は±1の値をとるため、素子信号は二位相変調された信号になる。放射構造体の切り替え間隔である時間Tcが、高周波信号(送信信号)が有する情報パルスの継続時間(信号周期)Tsよりも短い場合、素子信号に符号列を乗算した信号は、元の素子信号をスペクトル拡散した信号となる。これらの乗算結果をさらに合成演算することで、合成演算結果の信号は、いわゆる符号分割多重された送信信号となる。
次に、D/A変換器54は、エンコーダ部57によって生成された送信信号をアナログ信号に変換し、周波数変換器52が、D/A変換器54によってアナログ信号に変換された送信信号を高周波数帯に周波数変換し、増幅器51が、周波数変換器52によって周波数変換された信号の電力を増幅する(ステップST4a)。増幅器51によって増幅された送信信号は、分配回路50に出力される。
分配回路50は、増幅器51から入力した送信信号を、アレーアンテナ1Dを構成する複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに分配する(ステップST5a)。
次に、スイッチ制御回路56は、シーケンス生成部55によって生成されたシーケンス情報に基づいて、素子アンテナ2Bごとのスイッチ5Aを制御して、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれが有する第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとを順次切り替える(ステップST6a)。
この後、各素子アンテナ2Bから空間に送信信号が送信される(ステップST7a)。スイッチ5Aによって第1の放射構造体3aに切り替えられた場合、分配回路50によってスイッチ5Aに分配された送信信号は、第1の給電構造部4aを介して第1の放射構造体3aに伝送され、第1の放射構造体3aから空間へ放射される。スイッチ5Aによって第2の放射構造体3bに切り替えられた場合は、分配回路50によってスイッチ5Aに分配された送信信号は、第2の給電構造部4bを介して第2の放射構造体3bに伝送され、第2の放射構造体3bから空間へ放射される。
例えば、切り替えシーケンスを符号列[1 −1 −1 1]で表したシーケンス情報に基づいて、スイッチ5Aは、第1の放射構造体3a、第2の放射構造体3b、第2の放射構造体3b、第1の放射構造体3aの順に、時間Tcごとに切り替えを行う。スイッチ5Aから第1の給電構造部4aに伝送されて第1の放射構造体3aから放射された高周波信号と、スイッチ5Aから第2の給電構造部4bに伝送されて第2の放射構造体3bから放射された高周波信号とは、互いに180度位相が異なる。このため、エンコーダ部57によって二位相変調されてスイッチ5Aに入力された信号は、第1の放射構造体3aまたは第2の放射構造体3bから空間に放射されて復調される。
シーケンス情報は直交符号であるので、エンコーダ部57が、素子アンテナ2Bに対応した送信信号の生成に用いた切り替えシーケンスと同じ順序で放射構造体の切り替えが行われた信号成分のみが送信され、エンコーダ部57が、その素子アンテナ2Bに対応した送信信号の生成に用いた切り替えシーケンスとは異なる順序で放射構造体の切り替えが行われた信号成分は0となる。これは、符号分割多重された信号に逆拡散処理を施して復調することに相当する。これにより、複数の素子アンテナ2Bからの各信号を分離して送信することができる。
これまでの説明では、第1の給電構造部4aを有した第1の放射構造体3aと第2の給電構造部4bを有した第2の放射構造体3bとを備えた素子アンテナ2Bを示したが、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、これに限定されるものではない。
例えば、素子アンテナ2Bが、第1の給電構造部4aを有した第1の放射構造体3aと、第2の給電構造部4bを有した第2の放射構造体3bとの代わりに、実施の形態2で示した放射構造体15、第1の給電構造部16aおよび第2の給電構造部16bを備えてもよい。放射構造体15は、図4Aおよび図4Bに示したパッチアンテナおよびその変形例であってもよいし、図5Aおよび図5Bに示した導波管開口アンテナおよびその変形例であってもよいし、図6Aおよび図6Bに示したホーンアンテナおよびその変形例であってもよい。
また、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、実施の形態3で示した導波管30を分配回路50として備えてもよい。例えば、図7に示した導波管30の第1のスロット34および第2のスロット35を素子アンテナ2Bとし、図8に示した給電構造部39を増幅器51に接続することにより、導波管30は、分配回路50として機能する。さらに、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、図7に示した導波管30の代わりに、図10A、図10Bおよび図10Cに示した導波管の変形例を分配回路として備えてもよいし、リッジ導波管を備えてもよい。例えば、当該リッジ導波管は、導波管30の第1の広壁面31aにおいて管軸方向に平行な中心線を通る金属壁を有している。また、当該リッジ導波管は、以下の(1)〜(4)に示す特徴のいずれかまたは全てを有していてもよい。特徴(1)として、複数のスロットが、第1の広壁面31aにおける管軸方向に平行な中心線に関して互いに対称な位置に配置されている。特徴(2)として、当該リッジ導波管の端面が短絡されており、上記スロットは、動作周波数における管内波長の2分の1の間隔で第1の広壁面31aに配列されている。特徴(3)として、当該リッジ導波管において、第1の広壁面31aにおいて端面に最も近いスロットは、当該スロットの中心から当該端面までの距離が管内波長の4分の1である位置に配置されている。特徴(4)として、当該リッジ導波管の第1の広壁面31aは、表と裏に導体面41a,41bを有した誘電体基板40で構成されており、スロットは、誘電体基板40を貫通して、導体面41aと導体面41bとを電気的に接続するビアである。
以上のように、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれが、第1の放射構造体3a、第2の放射構造体3b、および第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとを切り替えるスイッチ5Aを有し、スイッチ5Aが切り替えた放射構造体から送信信号を放射する。放射電界位相が互いに異なる第1の放射構造体3aと第2の放射構造体3bとの切り替えによって、素子アンテナ2Bから送信される送信信号は、二位相変調された信号となる。低損失なスイッチ5Aを用いて送信信号に二位相変調を施すことができるので、素子アンテナ2Bごとに増幅器7を設けなくても、送信信号電力の低下が抑えられる。これにより、信号対雑音比を維持しながら増幅器の数を削減することができ、低消費電力化を実現できる。すなわち、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、従来のDBFアレーアンテナと同等のビーム形成機能を有し、さらに従来のDBFアレーアンテナに比べて信号の多重数分だけD/A変換器および増幅器の数を削減できる。このため、低コスト、低消費電力、小型かつ軽量なアレーアンテナ装置を実現することが可能である。
なお、切り替えシーケンスは、素子アンテナ2Bの数と符号長が同じ直交符号で表してもよいし、符号長が素子アンテナ2Bの数よりも大きい直交符号で表してもよい。いずれであっても、上記と同様の効果が得られる。さらに、直交符号の代わりに、切り替えシーケンスを、M系列あるいはGold系列といった擬似ランダム符号で表しても、符号分割多重された信号を逆拡散処理によって復調することができる。
また、これまでの説明では、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに対応する送信信号に対して二位相変調を施す場合を示したが、実施の形態4に係るアレーアンテナ装置は、送信信号に4相以上の多相変調を施してもよい。例えば、エンコーダ部57が、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに対応する送信信号に対して四位相変調を施し、複数の素子アンテナ2Bのそれぞれに、放射電界位相が互いに異なる4つの放射構造体を設けて、スイッチ5Aによって放射構造体を切り替えて送信信号を送信してもよい。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、実施の形態のそれぞれの自由な組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。
本発明に係るアレーアンテナ装置は、低消費電力化を実現できるので、無線通信またはレーダに利用可能である。
1,1A,1B,1C,1D アレーアンテナ、2,2A,2B,38 素子アンテナ、3a 第1の放射構造体、3b 第2の放射構造体、4a,16a 第1の給電構造部、4b,16b 第2の給電構造部、5,5A,17 スイッチ、6 合成回路、7,51 増幅器、8,52 周波数変換器、9,53 局部発振器、10 A/D変換器、11,18,22,55 シーケンス生成部、12,19,23,56 スイッチ制御回路、13,20,24 デコーダ部、14,21,25 ビーム形成部、15 放射構造体、30 導波管、31a 第1の広壁面、31b 第2の広壁面、32a 第1の狭壁面、32b 第2の狭壁面、33a 第1の端面、33b 第2の端面、34 第1のスロット、35 第2のスロット、36 第1のスイッチ、37 第2のスイッチ、39 給電構造部、39a 給電プローブ、40 誘電体基板、41a,41b 導体面、42 第1のスロット、43 第2のスロット、50 分配回路、54 D/A変換器、57 エンコーダ部、58 送信ビーム形成部、100 中心線。