JPWO2020111169A1 - 多因子遺伝疾患の遺伝子検査法、及び検査キット - Google Patents
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Abstract
疾患において責任がある、又は異常があると想定されている機能に関係するタンパク質の遺伝子の機能多型(機能的SNP)を罹患リスク、あるいは疾患の検査方法として用いることできる。機能的SNPを解析することによって、多因子遺伝疾患の罹患リスクを検査することが可能となり、診断補助、疾患予防に用いることができる。機能的SNPsを検査する方法、検査チップ、検査キットを提供する。
Description
機能が知られている複数のSingle Nucleotide Polymorphism(一塩基多型、以下SNPと記載する。)を用いて多因子遺伝疾患の罹患リスクを検査する方法、補助診断方法、検査チップ及び検査キットに関する。
ある生物集団のゲノムの塩基配列中の一塩基が変異した多様性をSNPと呼ぶ。SNPは多くの場合、ゲノムDNAにおいて、遺伝子領域やその制御調節領域外に存在し、遺伝的な特徴の変化をもたらさない。しかし、遺伝子上のマーカーとなり得るものがあるため、SNPを解析しその頻度を比較する研究が多数行われている。
例えば、病気のかかりやすさや薬の副作用の有無などと関連するSNPをマーカーとして使い、その頻度を比較する研究が行われている。日本では、肺がん、乳がんなどの悪性腫瘍や、心不全、心筋梗塞などの心血管系疾患をはじめとする35疾患の日本人患者集団における疾患毎のSNP頻度と日本人の標準的なSNP頻度情報が比較研究され公開されている(JSNPデータベース、URL:http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html)。
これら疾患に関連することが明らかであるSNPは、連鎖解析や関連解析によって、疾患関連遺伝子を特定するマーカーとしての応用が提案されている。これら疾患と関連のあるSNPは、遺伝子発現などの変化をもたらさない中立なものも多いが、遺伝子発現量、タンパク質の質的な変化、non−coding RNAの変化など、疾患関連遺伝子の発現や性質に影響を及ぼす機能的SNP(functional SNP)と呼ばれるSNPがあることが知られている(非特許文献1)。
現在のところ、SNPと疾患との関連が明らかになってきてはいるものの、疾患の診断、罹患リスクを解析するマーカーとして実用化されている機能的SNPはない。さらに、多因子遺伝疾患では、関与すると考えられている遺伝子自体が複数存在することから、単一の機能的SNPによって罹患リスクを判断することが非常に難しい。
多因子遺伝疾患は複数の遺伝的な素因に加えて、環境要因などいくつもの要因が重なって発症する疾患である。複数の遺伝的な素因に加えて環境要因が発症に関与することから、罹患リスクを予測することは難しいと考えられている。しかしながら、予め罹患リスクを予測することができれば、疾患の環境要因を取り除くなど、種々の方法により発症を抑えることが可能である。その結果として、罹患者数を減少させることも可能となる。
多因子遺伝疾患としては、糖尿病、高血圧、虚血性心疾患、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、関節リウマチ、痛風、悪性腫瘍など種々の疾患が挙げられる。また、精神神経科領域の疾患では、統合失調症、気分障害(双極性障害、大うつ病性障害など)、依存性疾患、自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動性障害、アルツハイマー病、ナルコレプシー、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、全般性不安障害、摂食障害、人格傾向及び障害などが多因子遺伝疾患であると考えられている。これら疾患の遺伝的背景については分からない点も多いが、複数の遺伝的素因が存在すると考えられている。これら多因子遺伝疾患の罹患リスクを予め知ることができれば、環境要因を減じることにより、罹患リスクを低減することができる。
さらに、精神神経科領域の疾患は、SNPを用いた検査によって、補助診断を行うことができれば、非常に有用であると考えられている。精神神経科領域の疾患では、問診によって診断を行うのが基本となっている。精神神経科領域の疾患は、消化器などの内臓疾患の場合とは異なり、患者の脳組織を検査のために採取することはできず、組織生検によって診断を行うことができない。うつ症状一つをとっても異なる疾患である可能性があるが、多くは医師の問診などによって疾患の診断がなされており、客観的な検査方法の確立が望まれている。
例えば、統合失調症は、100人に1人が罹患すると言われており、不安障害、うつ病に続いて患者数が多く、日本では79.5万人の患者がいると推定されている(厚生労働省、2008年患者調査)。統合失調症は、多くは思春期後半から青年期に発症し、慢性的な経過をたどる精神病性障害である。統合失調症の病像は多様であり、気分障害など似た症状を呈する疾患も多く、特に初期症状においては鑑別診断が難しい。統合失調症は発症からなるべく早い段階で正確な診断を行い治療すれば、良好な予後が期待できる病気であり、早期の診断が望まれている。問診に加えて客観的に補助診断を行う手段があれば、早期に確実な診断を行うことが可能となる。
また、統合失調症に移行しやすいハイリスク群では抗精神病薬やオメガ3脂肪酸投与、認知行動療法、家族療法によって、統合失調症への移行が大きく抑制されることも報告されており(非特許文献2)、ハイリスク群を早期に特定することは統合失調症の予防のうえでも大きなメリットがある。他の多因子遺伝疾患も早期にハイリスク群を特定することができれば、予防対策を行うことのできる疾患が多いことから、疾患発症の抑制につながるものと考えられる。
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以下に実施例として解析例を挙げる統合失調症に関しては、検査キットや補助診断方法がすでに開示されている(特許文献1、非特許文献3)。特許文献1は、DNAマイクロアレイで遺伝子発現レベルを網羅的に調べて健常者と比較して変化のあったものを選択して検査キットとしたものである。急性患者5名、慢性患者12名、健常者9名のサンプルを用いて解析しているものの、解析に用いている各群のサンプル数が少なく、遺伝子発現レベルは対象者の健康状態や環境要因などにも影響を受ける可能性が高いことから、診断精度は低いものと考えられる。非特許文献3は、網羅的遺伝子解析(Genome-Wide Association Study、GWAS)によって得られた複数の遺伝子多型を多型リスクとして統合失調症や双極性障害の補助診断に用いる試みである。しかしながら、候補となっている遺伝子はいずれも効果量が非常に低いものであり、妥当性に大きな問題がある。いずれの結果も実用化されておらず、新たな検査方法、検査キットが求められている。上記で挙げた多因子遺伝疾患に関しても、罹患リスクを検査するための種々のマーカーが提案されているがいずれも実用化にはいたっていない。
上述のように、多因子遺伝疾患は、遺伝的素因だけではなく、環境因子も発症に重要な影響を与えることから、罹患リスクが高い場合には、発症リスクと関連の高い環境要因を避ける、予防薬の服用など発症の抑止に務めることができる。また、予め疾患の罹患リスクが高いことが分かっていれば、定期的な検査を行い、早期に適切な治療を受けることが可能となる。しかしながら、罹患リスクを予測する有効なマーカーは開発されていない。
今までSNPを検査マーカーとして使用する場合には、単一遺伝子に存在するマーカーについて検討がなされていた。また、機能的SNPのみを対象として疾患との関連を検討し、罹患リスクを解析した例はない。本発明は、疾患のマーカーとして、遺伝子発現に量的、あるいは質的な変化をもたらす複数のSNPを組み合わせて用いる新しい検査方法を提供する。本発明は、これまで罹患リスクを予測することが難しかった多因子遺伝疾患の罹患リスクを検査する方法、検査チップ、検査キットを提供することを課題とする。また、客観的な診断基準のなかった精神神経科領域の疾患において、診断を補助する検査方法、検査キットを提供することを課題とする。
本発明は、以下の疾患の検査方法、検査キットに関する。
(1)多因子遺伝疾患に関与することが知られている少なくとも2つ以上の遺伝子の機能的SNPを用いて多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査方法。
(2)前記多因子遺伝疾患が、精神神経科領域の疾患としては、統合失調症、双極性障害、気分障害、依存性疾患、自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動性障害、アルツハイマー病、ナルコレプシー、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、全般性不安障害、摂食障害、人格傾向及び障害、他領域の疾患としては、糖尿病、高血圧、虚血性心疾患、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、関節リウマチ、痛風、悪性腫瘍であることを特徴とする(1)記載の検査方法。
(3)前記多因子遺伝疾患が、統合失調症、又は双極性障害であることを特徴とする(1)、又は(2)記載の検査方法。
(4)前記SNPがドパミンの変動に関与する機能多型であることを特徴とする(3)記載の検査方法。
(5)前記ドパミンの変動に関与する機能多型が、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子、カテコール−O−メチル転移酵素(COMT)遺伝子、及びドパミンD2受容体(DRD2)遺伝子の遺伝子多型であることを特徴とする(4)記載の検査方法。
(6)前記機能的SNPが、rs10770141、rs4680、rs1799732、及びrs1800497であることを特徴とする(4)、又は(5)記載の検査方法。
(7)(6)に記載の機能的SNPに加えて、rs2070762、rs6356、rs921451、rs3837091、rs1079597、rs1076560、rs6277、rs1799836、rs1040399、DAT1 Promoter −67A/T、DAT1 40-bp variable number of tandem repeatsの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする検査方法。
(8)(1)〜(7)いずれか1つに記載の多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査に用いる検査チップであって、多因子遺伝疾患に関与することが知られている複数の遺伝子の機能的SNPが検出可能に保持されている検査チップ。
(9)多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査に用いる検査キットであって、(1)〜(7)いずれか1つに記載の検査に用いるプライマー及び検査に必要な試薬、又は(8)の検査チップ及び検査に必要な試薬を含む検査キット。
(10)機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497について対象のDNAを解析し、rs10770141がT(+)、rs4680がMet(−)、rs1800497がA1(+)の少なくともいずれか2つを組合せて有している場合には統合失調症である、あるいは罹患リスクの可能性が高く、3つすべてを有している場合には双極性障害である、あるいは罹患リスクの可能性が高いと判定する統合失調症と双極性障害の検査方法。
(11)統合失調症が疑われる患者の検査方法であって、機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497について対象のDNAを解析し、対象の年齢が30歳以下である場合には、rs10770141がT(+)であるか、rs4680がMet(−)、rs1800497がA1(+)の組合せを有している場合には統合失調症の可能性が高いと判定する検査方法。
(12)機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497を解析することにより、統合失調症患者の抗精神病薬の投与量決定を補助する方法。
(13)rs10770141がT(+)かつrs4680がMet(−)の患者には高用量のドパミン受容体遮断薬の投与の検討を推奨する(12)記載の抗精神病薬の投与量決定を補助する方法。
(14)精神神経科領域の疾患を診断する方法であって、多因子遺伝子疾患に関与することが知られている少なくとも2つ以上の遺伝子の機能的SNPを検査し、機能的SNPによる疾患罹患リスクを参照して診断する診断方法。
(15)前記精神神経科領域の疾患が、統合失調症、又は双極性障害であり、前記機能的SNPがドパミンの変動に関与する機能多型である(14)記載の診断方法。
(16)(1)〜(7)のいずれか1つに記載の検査方法によって、多因子遺伝疾患を発症するリスクが高いと判断された場合には、予防薬の投与、又は非薬物療法により発症を抑制する予防方法。
(17)(1)〜(7)のいずれか1つに記載の検査方法によって、多因子遺伝疾患を鑑別診断し、治療薬を投与又は非薬物療法を行う治療方法。
(1)多因子遺伝疾患に関与することが知られている少なくとも2つ以上の遺伝子の機能的SNPを用いて多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査方法。
(2)前記多因子遺伝疾患が、精神神経科領域の疾患としては、統合失調症、双極性障害、気分障害、依存性疾患、自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動性障害、アルツハイマー病、ナルコレプシー、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、全般性不安障害、摂食障害、人格傾向及び障害、他領域の疾患としては、糖尿病、高血圧、虚血性心疾患、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、関節リウマチ、痛風、悪性腫瘍であることを特徴とする(1)記載の検査方法。
(3)前記多因子遺伝疾患が、統合失調症、又は双極性障害であることを特徴とする(1)、又は(2)記載の検査方法。
(4)前記SNPがドパミンの変動に関与する機能多型であることを特徴とする(3)記載の検査方法。
(5)前記ドパミンの変動に関与する機能多型が、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子、カテコール−O−メチル転移酵素(COMT)遺伝子、及びドパミンD2受容体(DRD2)遺伝子の遺伝子多型であることを特徴とする(4)記載の検査方法。
(6)前記機能的SNPが、rs10770141、rs4680、rs1799732、及びrs1800497であることを特徴とする(4)、又は(5)記載の検査方法。
(7)(6)に記載の機能的SNPに加えて、rs2070762、rs6356、rs921451、rs3837091、rs1079597、rs1076560、rs6277、rs1799836、rs1040399、DAT1 Promoter −67A/T、DAT1 40-bp variable number of tandem repeatsの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする検査方法。
(8)(1)〜(7)いずれか1つに記載の多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査に用いる検査チップであって、多因子遺伝疾患に関与することが知られている複数の遺伝子の機能的SNPが検出可能に保持されている検査チップ。
(9)多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査に用いる検査キットであって、(1)〜(7)いずれか1つに記載の検査に用いるプライマー及び検査に必要な試薬、又は(8)の検査チップ及び検査に必要な試薬を含む検査キット。
(10)機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497について対象のDNAを解析し、rs10770141がT(+)、rs4680がMet(−)、rs1800497がA1(+)の少なくともいずれか2つを組合せて有している場合には統合失調症である、あるいは罹患リスクの可能性が高く、3つすべてを有している場合には双極性障害である、あるいは罹患リスクの可能性が高いと判定する統合失調症と双極性障害の検査方法。
(11)統合失調症が疑われる患者の検査方法であって、機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497について対象のDNAを解析し、対象の年齢が30歳以下である場合には、rs10770141がT(+)であるか、rs4680がMet(−)、rs1800497がA1(+)の組合せを有している場合には統合失調症の可能性が高いと判定する検査方法。
(12)機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497を解析することにより、統合失調症患者の抗精神病薬の投与量決定を補助する方法。
(13)rs10770141がT(+)かつrs4680がMet(−)の患者には高用量のドパミン受容体遮断薬の投与の検討を推奨する(12)記載の抗精神病薬の投与量決定を補助する方法。
(14)精神神経科領域の疾患を診断する方法であって、多因子遺伝子疾患に関与することが知られている少なくとも2つ以上の遺伝子の機能的SNPを検査し、機能的SNPによる疾患罹患リスクを参照して診断する診断方法。
(15)前記精神神経科領域の疾患が、統合失調症、又は双極性障害であり、前記機能的SNPがドパミンの変動に関与する機能多型である(14)記載の診断方法。
(16)(1)〜(7)のいずれか1つに記載の検査方法によって、多因子遺伝疾患を発症するリスクが高いと判断された場合には、予防薬の投与、又は非薬物療法により発症を抑制する予防方法。
(17)(1)〜(7)のいずれか1つに記載の検査方法によって、多因子遺伝疾患を鑑別診断し、治療薬を投与又は非薬物療法を行う治療方法。
従来は、網羅的に遺伝子解析を行い、疾患と関連するSNPを探すという方法が取られていた。これに対し、本発明者らは、疾患において「責任がある(又は異常がある)と想定されている機能」は、その機能発現に必要な構成タンパク質の遺伝子の機能多型の組み合わせによって影響を受けると仮定し、機能多型の解析を行った。この方法は、疾患に関連する遺伝子の機能多型により罹患リスクを解析する方法であることから、疾患に関与すると想定される機能の生来の特徴、又は異常と関連付けることになる。したがって、その疾患の病理や病態を説明することが可能となり、患者個々に適切な予防法や治療法を選択できる可能性が高い。
本明細書において、「機能的SNP」とは、遺伝子領域やその制御調節領域に存在するSNPであって、遺伝子発現の増減や翻訳されるタンパク質の質的変化など、何らかの変化を及ぼすものを指す。ある疾患における機能的SNPとは、その疾患に直接関与する機能的SNPだけではなく、関与することが明らかなシグナル伝達系、酵素カスケードなど、疾患に関与する遺伝子群の機能的SNPを含む。以下に例として示す統合失調症の場合には、ドパミン合成能、分解能、またその受容体であるドパミンD2受容体(Dopamine D2 Receptor、DRD2)の密度に関与する遺伝子領域、その制御調節領域に存在し、遺伝子発現量、あるいはタンパク質に変化を生じさせるSNPを指す。さらに、ドパミン神経系だけではなく、セロトニン神経系、ノルアドレナリン神経系など、統合失調症に関与することが報告されている他の神経伝達系に関わるタンパク質や、今後関与が見出されるタンパク質の機能的SNPを含めることができる。
また、本発明の検査チップは、検出したい複数のSNPに相補的なオリゴヌクレオチドを基板に直接固定してもよいし、ビーズなどの担体に固定したうえで基板に保持させてもよい。患者の血液などから核酸を抽出して、常法によりハイブリダイゼーションを行い、2本鎖を形成した核酸を検出すればよい。あるいは、インベーダー法、リアルタイムPCR法など、PCRを用いた公知の検査方法によって検出対象とする複数のSNPを同時に検出できるように構成してもよい。また、一つの検査チップに他の疾患を検査することができる機能的SNPを併せて固定し、複数の疾患を同時に検査することができるように構成してもよい。機能的SNPsの配列を特定することができる公知の方法であればどのような方法を用いても構わない。また、検査キットとしては機能的SNPsを検出するためのプライマー、及びPCRに用いるための試薬、あるいは、上記の検査チップと必要な試薬などを含めることができる。
今まで本発明者らは、罹患と作用機序の明確なドパミン過感受性精神病(Dopamine supersensitivity psychosis、DSP)について、罹患リスクを報告している(非特許文献4)。しかし、統合失調症自体の罹患リスクについては、ドパミン神経伝達系以外にも多くの機序が関与すると考えられており、これら遺伝子のSNP解析だけでは行うことができないと考えられていた。しかし、本発明者らの解析の結果、発症機序が多岐にわたっている多因子遺伝疾患に関しても、関与すると考えられる遺伝子のSNPを組み合わせて解析することによって、罹患リスクを診断することが可能であることが明らかとなった。発症に関わる機序がドパミン神経系以外にも存在することが示唆されている系で、半数近い集団の罹患リスクを判断することが可能な系の構築は非常に意味があるものと考えられる。
以下、本発明について、統合失調症を中心として説明するが、「機能的SNP」を組み合わせて用いる解析手法は、他の疾患、特に多因子遺伝疾患において有効である。特に、統合失調症、気分障害、依存性疾患、糖尿病、高血圧、高脂血症は、世界中で多くの患者がいる疾患であり、早期診断や予防が望まれている。遺伝子の機能多型の組み合わせは生来的なものであり、発症前に予測できることはもちろん、病状・病期に影響を受けず、疾患の予後、進展を予測することができる。特に、発症前に罹患リスクを予測できることは予防の観点から非常に重要な検査となる。また、問診が診断の重要な要素となる精神神経疾患では診断に客観的な判断材料を提供する補助診断方法として有用なツールとなる。特に、発症初期において鑑別診断が困難な疾患、例えば、統合失調症と双極性障害などでは、機能的SNPという客観的な判断材料は診断にとって非常に有益である。
統合失調症は異種性が高いと言われているが、約75%はドパミンD2受容体遮断薬である抗精神病薬が有効である。DRD2遮断薬が有効な患者ではドパミン合成能が亢進していることが報告されている(非特許文献5)。さらに、統合失調症患者では、DRD2密度が低い可能性が報告されている(非特許文献6)。ドパミン神経伝達系を構成するタンパク質とその機能的SNPを図1に模式的に示す。
ドパミンはチロシン水酸化酵素(Tyrosine Hydroxylase、TH)によって、合成されシナプス間隙に放出される。シナプス間隙に遊離されたドパミンはカテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(Catecol−O−methyltransferase、COMT)によって分解されるか、ドパミントランスポーター(Dopamine transported、DAT)によって細胞内に再び取り込まれる。また、ドパミンはドパミンD2受容体(DRD2)によって遊離抑制される。
統合失調症では、中脳辺縁系ドパミン作動性神経における神経終末でのドパミン放出の亢進とシナプス間隙のドパミン濃度の上昇が示唆されている(非特許文献7、8)。一方で、抗精神病薬によって陽性症状が改善する群ではドパミン合成能が高まっており、改善しない群ではその合成能が健常者と同等であるという報告がなされており(非特許文献9)、ドパミン合成能やシナプス間隙のドパミン濃度が症状や抗精神病薬への治療反応性に関わっていることが示唆されている。
細胞内でチロシンから合成されたドパミンはこれらの酵素、受容体によって、その作用が調節されており、統合失調症の発症と関連することが知られている。図1に模式的に示したタンパク質のうち、TH、COMT、DRD2は機能多型が存在することが知られているタンパク質である。
ドパミン神経伝達系だけではなく、より多くの遺伝子が関与していると考えられる統合失調症においても、ドパミン神経伝達機能が発症リスクに関与するのであれば、DSPの発症リスクに関与する機能的SNPのセットは、統合失調症発症リスクを高める可能性がある。統合失調症は、ドパミン神経機能の反復的な過剰な亢進と消退により形成される。これは、ドパミンアンタゴニストの反復投与で生じる精神病と同様の機序と考えられる。そこで、DSP発症リスクと相関の高い遺伝子セットを用いて統合失調症発症リスクについて検討を行った。
用いたSNPは、TH遺伝子プロモーター領域、COMT遺伝子、DRD2遺伝子の多型である(表1)。具体的には、TH遺伝子プロモーター領域のC−824T遺伝子多型、COMT遺伝子の158位のValがMetに置換する多型、DRD2遺伝子の−141C Ins/Del多型、ANKK1遺伝子のTaq1A多型である。ANKK1(the ankyrin repeat and kinase domain containing 1)遺伝子は、DRD2遺伝子に近接する遺伝子であり、ANKK1のTaq1A多型は、DRD2密度との関連が示唆されている多型である。これらの多型は、米国国立バイオテクノロジー情報センターのSNPデータベースにそれぞれrs10770141、rs4680、rs1799732、及びrs1800497として登録された1塩基多型である(非特許文献10〜13)。これら3つの遺伝子の多型が統合失調症発症リスクに関与するかの解析を行った。
本実施例は、千葉大学医学部の倫理審査委員会で承認を受け、また、世界医師会によるヘルシンキ宣言及び日本精神神経学会の倫理規約に則し、十分なインフォームド・コンセントを得て、プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持に十分な配慮をした上で実施した。
統合失調症患者は、アメリカ精神医学会出版の精神障害の診断と統計マニュアル第4版テキスト改訂版(DSM−4−TR;diagnostic and statistical manual of mental disorders−IV−text revision)で診断基準を満たすものを選択した。統合失調症患者349人と健常者273人を対象に、上述の機能多型の組み合わせを解析した。
統合失調症患者、健常者から採取した血液由来のDNAをQIAamp DNA Blood Minikit(Qinagen)用いて抽出し解析を行った。解析はリアルタイムPCRの手法(TaqMan SNP Genotyping Assay(サーモフィッシャー・サイエンティフィック))により上記4つのSNPについて、各患者、及び健常者の遺伝子型を同定した。すなわちTH遺伝子C−824T遺伝子多型(rs10770141、Tアレル)と、COMT遺伝子Val158Met多型(rs4680、Metアレル)、DRD2遺伝子Taq1A多型(rs1800497、A1アレル)、及びその上流近傍に位置するANKK1の−141CIns/Del多型(rs1799732、Delアレル)を解析した(表2)。
TH遺伝子のC−824T遺伝子多型(rs10770141)において、CがTに置換しているものをT(+)、COMT遺伝子Val158Met多型(rs4680)において、Metに置換しているものをMet(+)、DRD2遺伝子Taq1A多型(rs1800497)におけるA1アレル保有者をA1(+)、−141CIns/Del多型(rs1799732)におい欠失が認められるものをDel(+)と表示している。各多型において(−)の表示は上記多型を保有していないことを示す。
TH遺伝子において、遺伝子多型T(+)を保有している者は、チロシン水酸化酵素の活性が高く、すなわちドパミン産生能が高い。COMT遺伝子において、Valに置換しているMet(−)を保有している者はドパミン分解酵素であるCOMTの活性が高くドパミン分解が速い。A1(+)、又はDel(+)の遺伝子多型を保有している者は、ドパミンD2受容体の低発現をきたす。
各多型の組み合わせから、ドパミンの合成、分解、受容体発現についてまとめた(表3)。活動性はドパミン神経伝達性の活動性を示し、左からドパミン合成の高低、ドパミン分解の高低、受容体発現の高低を示し、具体的な多型の組み合わせ、統合失調症、健常者における人数、出現頻度、出現頻度比をまとめている。
その結果、THが高発現(T(+))、COMTが高発現(Met(−))、DRD2が低発現(A1(+)、又はDel(+))の組み合わせの場合には、他の組み合わせと比較して統合失調症の出現頻度が非常に高いことが明らかとなった。表4に、T(+)、Met(−)、でありA1(+)、又はDel(+)の場合と、他の組み合わせとを比較してオッズ比を算出した結果を示す。T(+)、Met(−)であり、A1(+)、又はDel(+)の遺伝子多型の組み合わせの場合には、オッズ比が6.5(p<0.029)で高率に統合失調症になりやすいという結果が得られた。フィッシャーの正確確率検定を行った結果、上記の遺伝子多型を有する場合には、片側検定ではP値が0.00357、両側検定では0.00296、ボンフェローニの方法で補正後でもP値がそれぞれ0.02856、0.02368と有意に統合失調症になりやすいという結果が得られた。上記SNPの組み合わせの場合は、DSP発症リスクも高くなる(非特許文献4)。しかしながら、DSP発症リスクは、上記SNPの組み合わせだけではなく、他の組み合わせでも発症リスクは高くなることから、統合失調症発症リスクとは完全に一致しない。
機能多型の性質から、この組み合わせの人は、次のようなドパミン神経伝達機能を有していると考えられる。この組み合わせの機能的SNPの人は、TH遺伝子によるドパミン合成能が高いことからストレスなどによりドパミンが大量に合成される。しかもDRD2は低発現であることから遊離抑制がかかりにくく、シナプス間隙に大量のドパミンが遊離される。しかし、COMTによるドパミン分解能が高いことから、ドパミンが即座に分解されるというドパミン伝達機能を有している可能性がある。この組み合わせの人は、生来ドパミン神経活動が急激に増強し、消退するドパミン神経伝達機能を有しており、ストレスの繰り返しによりsensitizationが生じて、統合失調症状が発現すると考えられる。これは、従来からの統合失調症の病態仮説とも合致し、適切な治療法を選択することができるとともに、予防法の開発に繋げられる可能性が高い。
この組み合わせは、解析した統合失調症患者の4.6%であったが、表5に示すように他にもシナプス間隙のドパミン変動に関係する機能多型があり、これらも同様のドパミン変動を示す機能的SNPの組み合わせがあると考えられる。さらに、セロトニン神経伝達系、ノルアドレナリン神経伝達系など、統合失調症と関連すると言われている神経伝達系に関わる機能多型を組み合わせることによって、より広範囲で正確に統合失調症の罹患リスクを予測することができる。
統合失調症患者の多くはDRD2遮断薬である抗精神病薬によって改善する。抗精神病薬治療おいては、抗精神病薬による至適DRD2占拠率が存在すると考えられているとともに、個々の抗精神病薬には至適用量が存在すると考えられている。しかし、実臨床では治療用量は個人差が大きい。機能的SNPによって遺伝子の機能が変化するのであれば、抗精神病薬の効果にも影響を及ぼすものと考えられる。そこで、機能的SNPと抗精神病薬用量との相関を解析した。統合失調症の場合、処方された内服薬の処方量をクロルプロマジンに換算した値であるクロルプロマジン換算量が目安として用いられているので、クロルプロマジン換算量とSNPとの相関を解析することとした。
上記で示してきた千葉大学で収集した統合失調症患者のサンプルについて単一のSNP(Single SNP)、あるいは2つのSNPの組合せ(Double SNP)とクロルプロマジン換算量(CP等価換算量)との関係を解析した。詳細な解析の結果、DRD2の遺伝子多型のうちTaqIAが疾患発症に相関が高いことが明らかとなったことから、ドパミン神経伝達系の遺伝子の機能多型のうち、TaqIA、TH、COMTの3つの遺伝子の機能的SNPについて解析を行った(図2)。
個々の遺伝子では、THのT(+)とCOMTのMet(−)においてCP等価換算量が高い傾向がみられた。遺伝子の組合せではTHのT(+)とCOMTのMet(−)の組合せにおいて有意にCP等価換算量が高いという結果が得られた(p<0.05)。また、THのT(+)とTaqIAのA1(−)の組合せにおいてもCP等価換算量が高い傾向があった。
これらの結果を踏まえ、TH、COMT、TaqIAの3つの機能的多型について、個々の多型の統合失調症患者、及び健常者における出現頻度の解析を行った(表6)。有意にCP等価換算量が高値であったTHのT(+)とCOMTのMet(−)の組合せはオッズ比2.59(p<0.05)と明らかに高い割合を示していた。
抗精神病薬は投与量が少ないと抗精神病効果を発揮しない。一方で、抗精神病薬の過剰投与では錐体外路症状や抑うつ、不快感などの副作用が生じ、服薬アドヒアランスが低下して再発し、不良な長期予後を招く。また過剰投与ではDRD2の代償的増加が引き起こされてドパミン過感受性精神病が誘発されて治療抵抗性に発展する。各個人に至適用量を提供するための生物学的指標が必要であるが、至適用量を定めるための目安として機能的SNPの組合せを使用することも可能となる。
次に、理化学研究所の多数サンプルを用いて解析を行った。日本人集団における2012名の統合失調症患者(男性1111名、平均年齢47.2±14.1歳、女性901名、平均年齢49.2±14.7歳)、及び2170名の健常者(男性889名、平均年齢39.2±13.8歳、女性1281名、平均年齢44.6±14.1歳)から、年齢、性別に関して「Greedy 5−To-1 Digit−Matching」アルゴリズムを用いた傾向スコアマッチング(propensity score matching)により統合失調症患者、健常者各1272名について解析を行った。統合失調症患者は、男性574名、女性698名、平均年齢47.4±13.9歳、平均発症年齢24.9±13.4歳であり、健常者は男性603名、女性669名、平均年齢46.5±13.9歳であった。なお、上述のパイロット・スタディによる予備的な結果を検証するために、解析に用いた対象は千葉大学及び関連病院で採用された患者を除外している。
rs10770141(TH)、rs4680(COMT)、rs1800497(TaqA1)が、ドパミンの変動との相関が高いと考えられたことから、これら3つの機能的SNPsについて解析を行った。統計解析の方法については、上述の方法に準じている。
また、All Double Combinationは、2つのSNPの組合せを有するものを意味し、3つのSNPすべての変異(Met(−)*A1(+)*T(+))を有するものも含んでいる。
まず、全年齢での統合失調症患者内での遺伝的リスクは、rs4680(Met(−))は48.1%、rs1800497(A1(+))は61.1%、rs10770141(T(+))が11.5%、これらすべてのリスク因子を有しているものが2.9%、有していないものが18.1%であった。これに対し、健常者では、rs4680(Met(−))は42.7%、rs1800497(A1(+))は47.6%、rs10770141(T(+))は6.8%であり、これらすべてのリスク因子を有しているものが2.4%、有していないものが25.3%であった。統合失調症との相関を年齢、性別を合わせて算出した各SNPsのオッズ比は、表7に示すように、rs4680(Met(−))は1.24、rs1800497(A1(+))は1.73、rs10770141(T(+))は1.79であり、いずれも有意であった。
また、rs4680(Met(−))とrs1800497(A1(+))、rs1800497(A1(+))とrs10770141(T(+))の2つの遺伝的リスクの保有者のオッズ比はそれぞれ2.01、1.87と有意に差が認められた。また、rs4680(Met(−))とrs10770141(T(+))は、統合失調症と相関する傾向(p=0.068)が認められた。上記2つのリスク因子のいずれかを保有しているのは統合失調症患者群の35.8%、オッズ比2.22と非常に高い値となっている。
さらに、統合失調症発症の好発年齢(30歳以下)に区切って解析すると、より顕著な傾向が認められた(表7、20−30歳)。rs4680(Met(−))は53.0%、rs1800497(A1(+))は62.1%、rs10770141(T(+))が13.7%、これらすべてのリスク因子を有しているものが3.3%であった。これに対し、健常者では、rs4680(Met(−))は38.8%、rs1800497(A1(+))は48.8%、rs10770141(T(+))は1.2%であり、これらすべてのリスク因子を有しているものが1.2%であった。統合失調症との相関を算出した各SNPsのオッズ比は、表7に示すように、rs4680(Met(−))は1.78、rs1800497(A1(+))は1.72、rs10770141(T(+))は13.38であり、全年齢での解析に比べ、より高い相関を示していた。
また、2つのリスク因子の解析においても、全ての組み合わせで有意差が認められ、rs4680(Met(−))とrs1800497(A1(+))、rs4680(Met(−))とrs10770141(T(+))、rs1800497(A1(+))とrs10770141(T(+))、のオッズ比は、それぞれ8.97、5.96、6.46であった。さらに、上記2つのリスク因子のいずれかを保有しているのは統合失調症患者群の42.9%(健常者群5.9%)、オッズ比12.00と非常に高い値となっている。
好発年齢でオッズ比がより高いのは、遺伝的要因が好発年齢において統合失調症発症により関与していることを示唆している。遺伝的なリスク要因が高い群において、統合失調症の好発年齢で予防的介入を行うことができれば、統合失調症の発症を抑制することが可能となる。例えば、検査チップなどによって、遺伝的要因の有無を予め把握しておき、発症リスクが高い群には、投薬、認知行動療法、家族療法などの予防的介入を行うことが可能となる。
統合失調症は、発症の前段階に精神病発症リスク状態(at risk mental state、ARMS)、あるいは米国精神医学会診断基準DSM−5における減弱精神病症候群といわれる発症前の段階があることが知られている。ARMSは統合失調症だけではなく、双極性障害に発展する場合もあり、発症後も両疾患の診断を間違うことが多いと言われている。ARMSは抗精神病薬の一部や家族への介入、オメガ3脂肪酸が有効であるとの報告もあり、ARMSの段階で、SNPsを検査することによって統合失調症に発展するリスクが高いか、あるいは双極性障害に発展するリスクが高いかを判断することができれば、より適切な対応を行うことができる。
統合失調症以外にも遺伝的要因があることが知られている双極性障害、自閉症やADHD、社交不安障害、認知症なども機能的SNPにより検査が可能になれば、投薬、家族への介入など、早期、あるいは発症前に適切な対応を行うことが可能となる。
また、精神科領域の疾患は、症状が発現してから治療開始までの時期が長くなると抗精神病薬に対する反応性が乏しくなることが知られている。しかし、発症初期においては診断が難しく、例えば、双極性障害と統合失調症の鑑別は難しいことが指摘されている。機能的SNPを用いた検査により、診断を補助する情報を得ることができるため、より早く適切な治療法を選択することが可能となる。
次に、双極性障害について千葉大のサンプルを用いて解析を行った結果、双極性障害に関してもドパミン神経系遺伝子多型が関連することが明らかとなった。今後予定している多数例での検証を待つ必要があるが、rs4680(Met(−))とrs10770141(T(+))の2つのリスク因子を有する場合にはオッズ比5.86、3つのリスク因子を有している場合には、オッズ比12.0と有意に健常者との間に差が認められた(表8)。
統合失調症では3つのリスク因子の保有は、健常者と有意差が認められなかったのに対し、双極性障害では3つのリスク因子の保有が疾患と相関することが明らかとなった。これら結果を踏まえると、疾患毎にドパミン神経系の特徴が異なっていることは明らかである。また、統合失調症ではCOMTの高活性アレルと前シナプスのDDR2密度の低発現アレルの組合せ(Met(−)*A1(+))が特徴的であり、双極性障害ではCOMTの高活性アレルとTHの高発現アレルの組合せ(Met(−)*T(+))が特徴的である。COMTのMetの有無によって遂行機能や作業記憶、注意機能に違いがあることが示唆されていることから、Met(−)は両疾患の発症に関わる環境因子への応答性に関与していることが推察される。さらに、TaqIAのA1(+)、THのT(+)によって、統合失調症、あるいは双極性障害を呈する可能性も推測される。
また、上述のように、他にもドパミンの変動に関わる機能的SNPが存在する。さらにセロトニン神経系、ノルアドレナリン神経系など、統合失調症等の精神疾患には他にも関与が推測される機能的SNPsが存在する。これらの解析を進めることによって、異種性の高い精神科領域の疾患の鑑別を行うことができるようになれば、より早く鑑別診断を行い、適切な治療法を選択することが可能となる。
ここでは、統合失調症、双極性障害を例に示したが、例えば糖尿病の罹患リスクを検定するための機能的SNPとしては、インスリン抵抗性関連遺伝子アディポネクチンの機能的SNP(G−276T、T94G)、CD14の機能的SNP(T−159C)、アミリン遺伝子SNP(Ser20Gly)、肝細胞核因子の遺伝子HNF4α(P1−HNF4α、P2−HNF4α)、PPARγ(Pro12Ala)、インスリン受容体遺伝子IRS−1(Gly972Arg)、IRS−2(Gly1057Asp)、肥満に関連する遺伝子多型の機能的SNPであるβ3アドレナリン受容体の遺伝子多型(Trp64Arg)、β2アドレナリン受容体の遺伝子多型(Arg16Gly)、UCP1(Uncoupling Protein 1)の遺伝子多型(A−3826G)、FTO(A/T)などが挙げられる(非特許文献14〜17)。また、気分障害ではセロトニントランスポーター遺伝子5HTTLTPR(l/s)、セロトニン5HT1A受容体遺伝子5HTR1(C−1019G,Gly272Asp)、セロトニン5HT2A受容体遺伝子5HTR2A(T102C,A−1438G)、トリプトファン合成酵素TPH1、またドパミンン神経伝達系の遺伝子多型など、依存性疾患ではドパミン神経伝達系の遺伝子多型に加えてオピオイド受容体遺伝子OPRM1(A11G)などの機能的SNPが知られており(非特許文献18〜19)、これらSNPを組み合わせることによって、同様に罹患リスクを検査することが可能となる。
以上示したように、ここで示した解析方法は、多因子遺伝疾患について、今まで報告されている機能的SNPを組み合わせて解析することにより、疾患の罹患リスクを解析することができる方法であり、非常に応用範囲が広い解析方法である。
Claims (13)
- 多因子遺伝疾患に関与することが知られている少なくとも2つ以上の遺伝子の機能的SNPを用いて多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査方法。
- 前記多因子遺伝疾患が、
精神神経科領域の疾患としては、
統合失調症、双極性障害、気分障害、依存性疾患、自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動性障害、アルツハイマー病、ナルコレプシー、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、全般性不安障害、摂食障害、人格傾向及び障害、
他領域の疾患としては、
糖尿病、高血圧、虚血性心疾患、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、関節リウマチ、痛風、悪性腫瘍であることを特徴とする請求項1記載の検査方法。 - 前記多因子遺伝疾患が、
統合失調症、又は双極性障害であることを特徴とする請求項1、又は2記載の検査方法。 - 前記SNPがドパミンの変動に関与する機能多型であることを特徴とする請求項3記載の検査方法。
- 前記ドパミンの変動に関与する機能多型が、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子、カテコール−O−メチル転移酵素(COMT)遺伝子、及びドパミンD2受容体(DRD2)遺伝子の遺伝子多型であることを特徴とする請求項4記載の検査方法。
- 前記機能的SNPが、rs10770141、rs4680、rs1799732、及びrs1800497であることを特徴とする請求項4、又は5記載の検査方法。
- 請求項6に記載の機能的SNPに加えて、rs2070762、rs6356、rs921451、rs3837091、rs1079597、rs1076560、rs6277、rs1799836、rs1040399、DAT1 Promoter −67A/T、DAT1 40-bp variable number of tandem repeatsの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする検査方法。
- 請求項1〜7いずれか1項に記載の多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査に用いる検査チップであって、
多因子遺伝疾患に関与することが知られている複数の遺伝子の機能的SNPが検出可能に保持されている検査チップ。 - 多因子遺伝疾患の罹患リスク、又は診断を補助する検査に用いる検査キットであって、
請求項1〜7いずれか1項に記載の検査に用いるプライマー及び検査に必要な試薬、
又は請求項8の検査チップ及び検査に必要な試薬を含む検査キット。 - 機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497について対象のDNAを解析し、rs10770141がT(+)、rs4680がMet(−)、rs1800497がA1(+)の少なくともいずれか2つを組合せて有している場合には統合失調症である、あるいは罹患リスクの可能性が高く、
3つすべてを有している場合には双極性障害である、あるいは罹患リスクの可能性が高いと判定する統合失調症と双極性障害の検査方法。 - 統合失調症が疑われる患者の検査方法であって、
機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497について対象のDNAを解析し、
対象の年齢が30歳以下である場合には、rs10770141がT(+)であるか、
rs4680がMet(−)、rs1800497がA1(+)の組合せを有している場合には統合失調症の可能性が高いと判定する検査方法。 - 機能的SNPであるrs10770141、rs4680、及びrs1800497を解析することにより、統合失調症患者の抗精神病薬の投与量決定を補助する方法。
- rs10770141がT(+)かつrs4680がMet(−)の患者には高用量のドパミン受容体遮断薬の投与の検討を推奨する請求項12記載の抗精神病薬の投与量決定を補助する方法。
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