以下に、本発明の実施の形態に係る空気調和機について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1に係る空気調和機1は、室内空間の3次元の温度分布、速度分布及び体感温度を推定し、これに基づいて気流制御を行うことにより、ユーザにとって快適な室内気流環境を実現するものである。
以下では、壁掛方式のヒートポンプ式ルームエアコンを例に、本実施の形態に係る空気調和機について説明する。
図1に、実施の形態1に係る空気調和機1の構成を示す。空気調和機1は、吹出風の温度を調整するための熱交換器2と、吹出風を送風するためのファン3と、吹出風の向きを調整するための風向制御板4と、室内の温度を測る温度センサ5と、室内の湿度を測る湿度センサ6と、物体の表面温度を検知する熱画像センサ7と、各構成要素を制御する制御装置8と、を備える。
熱交換器2は、ファン3により取り込まれた空気と、熱交換器2を流れる冷媒との熱交換を行う。図2Aは、空気調和機1の室内機の断面構成を示す図であり、図2Bは、空気調和機1が備える熱交換器2の一部の拡大図である。熱交換器2は、図2Bに示すように、配管2aとフィン2bとを備え、配管2a内に冷媒が流れる。
図3に示すように、ファン3によって取り込まれた空気101は熱交換器2のフィン2bを通過する。そして、フィン2bを通過した空気101と配管2a内を流れる冷媒との間で熱交換が生じ、空気101の温度が変化する。
熱交換器2は、制御装置8からの制御信号により制御される。制御装置8より暖房運転を示す制御信号が送られると、冷媒を凝縮させる凝縮器として機能して空気を加温し、制御装置8より冷房運転を示す制御信号が送られると、冷媒を蒸発させる蒸発器として機能して空気を冷却する。
図4に、空気調和機1における冷凍サイクル102を示す。冷凍サイクル102は、冷媒を蒸発させる熱交換器(蒸発器)102a、冷媒を凝縮する熱交換器(凝縮器)102b、冷媒を圧縮する圧縮機102c及び冷媒を膨張する膨張弁102dにより実現される。圧縮機102c及び膨張弁102dを用いて冷媒の温度を制御することにより、熱交換器2の温度を調整する。また、冷凍サイクルの熱交換器(蒸発器)102aの運転と、熱交換器(凝縮器)102bの運転とを切り換える切換弁により、暖房運転と冷房運転とを切り換えることができる。
暖房運転の場合は、熱交換器2に取り込まれた空気の温度より冷媒の温度が高く、取り込まれた空気が温められ、温風が送風される。一方、冷房運転の場合は、熱交換器2に取り込まれた空気の温度より冷媒の温度が低く、取り込まれた空気は冷却され、冷風が送風される。また、空気の温度が露点より低くなると、空気中の水分が熱交換器2で結露水となって凝縮し、結露水は排水用の配管を使い室外に排出され、除湿された空気が送風される。
図1に示すファン3は、空気調和機1の周囲の空気を吸入口から取り込み、熱交換器2によって熱交換された空気を吹出口から吹き出す。ファン3として、例えば、シロッコファン、ターボファン等が採用される。空気調和機1は、ファン3の回転数を増加させることにより、熱交換された空気の風量を増加させ、ファン3の回転数を減少させることにより、熱交換された空気の風量を減少させる。ファン3の回転は、制御装置8からの制御信号により制御される。本実施の形態の空気調和機1において、風量は“多い”、“普通”、“少ない”の3段階に設定できるものとする。
風向制御板4は、温度調整された空気の向き、すなわち、風向を調整するためのものである。風向制御板4は、空気調和機1の吹出口付近に1枚以上設けられる。風向制御板4は、制御装置8からの制御信号により、風向制御板4の角度が制御される。ここで、角度とは、風向制御板4と室内に設置された空気調和機1の垂直方向とがなす角度をいう。本実施の形態の空気調和機1において、風向制御板4の角度は“水平吹き方向”、“ななめ方向”、“下吹き方向”の3段階に設定できるものとする。
図5Aに、風向制御板4の角度を下吹き方向に制御した図を示し、図5Bに、風向制御板4の角度を水平吹き方向に制御した図を示す。図5Aのように、風向制御板4の角度を下吹き方向に制御すると、図5Aの斜線部が示す吹出口1aから、空気調和機1の斜め下方に向かって吹出風103が吹き出される。また、図5Bのように、風向制御板4の角度を水平吹き方向に制御すると、吹出口1aから水平方向に吹出風103が吹き出される。このように、空気調和機1は、風向制御板4の角度の調整によって吹出口1aから吹き出される吹出風103の風向を制御する。
上記のように、ヒートポンプ式のルームエアコンに代表される空気調和機は、吹出風の温度、風量及び風向を調整することができ、様々な温熱環境を実現できる。吹出風の温度、風量及び風向の制御を気流制御と呼ぶ。以下、空気調和機により気流制御が行われる空間を空調対象空間という。
なお、床置き方式、天井埋め込み方式等の空気調和機であっても、熱交換器2及びファン3によって温度及び湿度を調整した空気を吹出口から送風するという構成は、上記の壁掛方式の空気調和機と変わらないため、壁掛方式の空気調和機と同様の気流制御が行われる。
図1に示す温度センサ5は、室内の温度を検知するセンサである。具体的には、温度センサ5は、空気調和機1の吸込口から取り入れられた空気の温度を検知する。
湿度センサ6は、室内の湿度を検知するセンサである。具体的には、湿度センサ6は、空気調和機1の吸込口から取り入れられた空気の湿度を検知する。
なお、温度センサ5及び湿度センサ6は、温度及び湿度を検知する機能を一体として備えた温湿度センサに置き換えてもよい。
熱画像センサ7は、空調対象空間においての床面、壁面、天井面、人体、家具、窓、扉等の、センサで撮像できる範囲に存在する物体表面の温度を検知し、2次元の温度分布を取得する。熱画像センサ7として、赤外線センサが用いられる。また、熱画像センサ7は、吹出口1aの温度を検知する。熱画像センサ7は、図2Aに示すように、空気調和機1の下部の、吹出口1aが撮影可能な位置に設置される。熱画像センサ7は、制御装置8からの制御信号により、2次元温度分布の取得、吹出口1aの温度の検知等を行う。
図6に、暖房運転時に熱画像センサ7が撮影した床面の温度分布の画像の一例を示す。高温度領域104aは、温風が床面に到達して床面の温度が高くなった領域を示し、低温度領域104bは、吹出口1aから送風された温風が床面に到達していない領域を示している。熱画像センサ7が取得できる情報は、2次元的な物体表面の温度であるので、温風が当たり、暖められた床面の領域を知ることはできるが、空気の温度を測ることができないので、暖められた空間の領域を知ることはできない。
図1に示す制御装置8は、熱交換器2、ファン3、風向制御板4、温度センサ5、湿度センサ6及び熱画像センサ7と通信可能に接続され、各構成要素を制御する。したがって、制御装置8は、空気調和機1の空調条件を制御する。ここで、空調条件とは、吹出風の温度、風量、風向き、風速、湿度等、空気調和機1に設定可能な全ての条件のことをいう。
制御装置8は、図7に示すように、制御装置8を統括するプロセッサ81と、プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)82と、作業領域であるRAM(Random Access Memory)83と、外部装置と通信を行うための通信インタフェース84と、読み書き可能な不揮発性のメモリ85と、を含んで構成される。
プロセッサ81は、制御装置8を統括的に制御する。プロセッサ81によって実現される制御装置8の機能の詳細については後述する。
ROM82は、プロセッサ81が実行するプログラムを記憶している。RAM83は、プロセッサ81の作業領域として使用される。
通信インタフェース84は、外部装置と、有線又は無線にて通信を行うためのものである。外部装置とは、例えば、空気調和機1を操作するための空調リモコン、空気調和機1を操作するためのアプリケーションがインストールされたスマートフォン等である。制御装置8は、通信インタフェース84を介して、外部装置から信号を受信すると、受信した信号が示す内容に基づいて、各構成要素を制御する。ユーザは、外部装置を用いて、目標温度、目標風量又は目標風向を設定し、設定された値を示す情報はメモリ85に格納される。
メモリ85には、熱画像センサ7により取得された温度分布情報が格納される。また、メモリ85には、空気調和機1の制御に必要な様々なデータベースが格納される。メモリ85には、温度分布DB85a及び速度分布DB85bが格納される。温度分布DB85aは、空気調和機1が3次元温度分布を推定するために、参照するデータベースである。速度分布DB85bは、空気調和機1が3次元速度分布を推定するために、参照するデータベースである。温度分布DB85a及び速度分布DB85bについて、詳細は後述する。また、メモリ85には、後述する3次元温度分布を求めるための熱回路網モデルの演算式のデータが格納される。その他、例えば、ファン3の回転数と風量との対応関係を記したデータベース、風向制御板4の角度と風向きとの対応関係を記したデータベース、数値流体計算又は空気調和機の実機を用いた実験によって作成した3次元の温度分布のデータベース等が格納される。
図8に、制御装置8において実現される機能の構成を示す。制御装置8は、機能的には、吹出風に関する情報を取得する吹出風情報取得部801と、吹出口の位置情報を取得する吹出口位置情報取得部802と、3次元温度分布を推定する空間温度推定部803と、3次元速度分布を推定する空間速度推定部804と、3次元体感温度分布を推定する空間体感温度推定部805と、空気調和機の気流制御を行う気流制御部806と、を備える。上記各部は、プロセッサ81がROM82に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
以下では、暖房運転の場合を例に、室内における3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布を推定するために、上記各部が実現する機能を説明する。
まず、推定の対象となる空間の温熱環境を説明する。室内の温熱環境は、空気調和機1の気流制御により作られる。
図9は、暖房運転の場合における、吹出口1a近傍から床面までの温風の温度分布の一例を示す図である。図9では、温度分布は、高温度領域105a、中間温度領域105b、低温度領域105cの3つの温度帯に分けて示される。吹出口1aから送風される温風は、吹出口1a近傍で最も温度が高く、吹出口1aから離れるに従って、熱拡散によって温度が下がる。
なお、冷房運転の場合では、吹出口1aから送風される冷風は、吹出口1a近傍で最も温度が低く、吹出口1aから離れるに従って、熱拡散によって温度が上がる。
空気調和機1の気流制御によれば、温度調整した吹出風が室内を循環しているため、室内は非均一な温度分布を有する空間となる。
図10は、暖房運転の場合における、吹出口1aから吹き出される温風の速度分布の一例を示す図である。図10は、速度分布を、高速度領域106a、中間速度領域106b、低速度領域106cの3つの速度帯に分けて示す。吹出口1aから送風される温風は、吹出口1a近傍で最も速く、吹出口1aから離れるに従って、遅くなる。また、温風の端の領域では、空気の巻き込み107が生じる。温風は、空気の粘性によって周囲の空気を巻き込み、エネルギーが散逸していくため、吹出口1aから離れるに従って速度が低減する。
よって、温度分布と同じく、気流制御によって、室内は非均一な速度分布を有する空間となる。
このように、非均一な温度分布及び速度分布を有する空間について、本実施の形態に係る空気調和機1は、3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布を推定する。
図8に示す吹出風情報取得部801は、吹出口1aから送風される吹出風の吹出温度情報と、吹出風量情報と、吹出風向情報と、を取得する。なお、吹出風情報取得部801は、本発明に係る吹出風情報取得手段の一例である。
吹出温度情報とは、吹出口1aにおける吹出風の温度を示す情報である。熱画像センサ7によって検知された吹出口1aの温度を、吹出口1aにおける吹出風の温度と見なす。吹出風情報取得部801は、吹出口1aの温度を示す情報を、吹出温度情報として取得する。
吹出風量情報とは、吹出口1aにおける吹出風の風量を示す情報である。吹出風情報取得部801は、メモリ85に格納された、ファン3の回転数と風量との対応関係が記されたデータベース(図示せず)を参照し、設定したファン3の回転数から風量を求め、求めた風量を示す情報を吹出風量情報として取得する。
吹出風向情報とは、吹出口1aにおける吹出風の風向きを示す情報である。吹出風情報取得部801は、メモリ85に格納された、風向制御板4の角度と吹出口1aにおける吹出風の風向きとの対応関係が記されたデータベース(図示せず)を参照し、設定した風向制御板4の角度から吹出風の風向きを求め、求めた風向きを吹出風向情報として取得する。
吹出温度情報、吹出風量情報及び吹出風向情報をまとめて吹出風情報と言う。
吹出口位置情報取得部802は、空気調和機1を設置した室内における吹出口1aの位置を示す吹出口位置情報を取得する。なお、吹出口位置情報取得部802は、本発明に係る吹出口位置取得手段の一例である。
図11に、空気調和機1の室内における設置位置の例を示す。図11の場合において、吹出口位置情報は、空気調和機1を設置した室内の天井高さ108a、床面から吹出口1aまでの高さ108b、側面の壁から吹出口1aまでの距離108c、108d及び正面の壁から吹出口1aまでの距離108eを示す情報である。ユーザが外部装置を用いてこれらの情報を入力し、吹出口位置情報取得部802は、これらの情報を外部装置から受信することにより、吹出口位置情報を取得する。
空間温度推定部803は、2次元温度分布と、吹出温度情報と、吹出風量情報と、吹出風向情報と、吹出口位置情報と、に基づいて、室内の3次元温度分布を推定する。なお、空間温度推定部803は、本発明に係る空間温度推定手段の一例である。
室内に固定された空気調和機1が作る空間の温度分布及び速度分布は、吹出口1aにおける吹出風の温度、風量及び風向と、室内の寸法と、室内から室外への熱リーク量を決める壁及び床の断熱性能とが定まれば、一意に決定することができる。
まず、空間温度推定部803が3次元温度分布を推定するにあたり、参照する温度分布DB85aについて説明する。温度分布DB85aは、メモリ85に格納される。
温度分布DB85aは、様々な寸法の室内において、吹出風の温度、風量及び風向の設定値毎に測定された3次元の温度値のデータベースである。図12Aは、温度分布DB85aに記憶される温度の、測定点を説明するための図である。吹出口1aを基準とし、吹出口1aから空気調和機1の正面方向をx軸方向、空気調和機1の高さ方向をy軸方向、空気調和機1の幅方向をz軸方向とする。図12Aは、z=0(cm)、すなわち吹出口1aの正面の中央の位置における温度分布の例を濃淡で示した図であり、濃淡が濃いほど温度が高いことを示す。測定点の座標は、x=150(cm)、y=100(cm)、z=0(cm)である。
図12Bに、温度分布DB85aに含まれるデータの一例を示す。図12Bに示すテーブルは、吹出風の温度が“24度”、風量が“普通”、風向が“下吹き方向”という状況下において、z=-w2〜+w1(cm)地点における温度分布を示すものとする。ここで、w1、w2の値は、温度分布DB85aに格納されたデータが測定された室内において、空気調和機1の幅方向の吹出口中央を0cmとした、側面の壁から吹出口までの距離を示す値である。各測定点での温度は、空気調和機1の実機を用いて全て測定することにより取得してもよいし、数値流体計算により取得してもよい。
空間温度推定部803は、温度分布DB85aに格納されたデータのうち、吹出風情報取得部801により取得された吹出風情報に含まれる吹出風の温度、風量及び風向の値と最も近い設定値を有するデータを選択する。
また、温度分布DB85aは吹出口を基準として求められた温度分布である。したがって、空間温度推定部803は、温度分布DB85aに格納されたデータのうち、吹出口位置情報取得部802によって取得された吹出口位置情報に最も近い室内寸法及び吹出口位置を有するデータを選択する。
次に、選択された温度分布DB85aに記録された温度値を補正する手法について説明する。
温度値は、壁及び床の断熱性能の影響を受ける。したがって、温度分布DB85aを作成する際に用いた部屋の断熱性能条件と、空気調和機1が実際に設置された部屋の断熱性能条件とが相違すれば、空気調和機1が実際に設置された空間の温度分布は温度分布DB85aの温度分布と相違する。この相違を、壁及び床の断熱性能を考慮した熱回路網モデルを用いて、推定する。
図12Cに、壁及び床の断熱性能を考慮した熱回路網モデルを示す。この熱回路網モデルは、室内の温度の代表値109a(T[℃])を持つノードと、室外の温度の代表値109b(TOUT[℃])を持つノードと、部屋の断熱性能を示す熱抵抗値109c(R[K/W])と、部屋の熱容量109d(C[J/℃])と、空気調和機1の能力109e(Q[W])と、を用いて作られる。この熱回路網モデルでは、時刻t[s]での室内の温度の代表値(T(t)[℃])を、下記の式(1)のように表すことができる。
式(1)に記した室内の温度の代表値T[℃]を計算することができれば、図12Bに示したある条件下で作成した温度分布DB85aの3次元温度分布の平均温度値と、実際に空気調和機1を設置した室内の代表温度T[℃]との差分を、温度分布DB85aの各温度値に加えることにより、実際に空気調和機1が設置された室内の空間の温度分布を推定することができる。例えば、図12Bの空間温度の平均値T_mean[℃]と式(1)の代表値T[℃]との差分ΔT_diff=T−T_meanを算出し、図12Bの空間の温度分布にΔT_diffを足すことで、温度分布DB85aを作成する際に用いた室内の壁の断熱性能と実際の空気調和機1の設置された室内の壁の断熱性能との相違を補正することができる。例えば、ΔT_diff=0.5とすると、図12Bのテーブルの全ての温度値に0.5を加算する。
しかしながら、式(1)において、部屋の断熱性能である熱抵抗値R[K/W]及び熱容量C[J/℃]は、容易に知ることができない。また、室外の温度の代表値TOUT[℃]ついても、室外に設けられた温度センサのような何らかの装置を用いなければ知ることはできない。なお、空気調和機1の能力Q[W]は吹出風の風量及び温度から知ることができる。また、空気調和機1のCOP(Coefficient Of Performance:成績係数)をデータベースとして持っていれば、空気調和機1の消費電力にCOPをかけることによってQ[W]を推定することもできる。つまり、式(1)については、Q[W]以外の変数を知ることができないため、式(1)を直接計算することは難しい。
そこで、熱画像センサ7によって取得される情報を利用して、熱回路網モデルと同等の熱回路網モデルを作成する。
図12Dは、図12Cの熱回路網モデルと同等の熱回路網モデルである。図12Cの熱抵抗値109c(R[K/W])及び熱容量109d(C[J/℃])を、熱画像センサ7で測定できる壁床の温度109f(Twall[℃])を用いて、室内の空気の熱抵抗値109g(Rair[K/W])及び室内の空気の熱容量109h(Cair[J/℃])と、壁床の熱抵抗値109i(Rwall[K/W])及び壁床の熱容量109j(Cwall[J/℃])とに分割したモデルである。T[℃]、Twall[℃]、Rair[K/W]、Cair[J/℃]及びQ[W]の関係は、下記の式(2)のように書くことができる。
式(2)においてTwallは、熱画像センサ7が取得した壁及び床の温度分布における、最高温度、最低温度、平均温度等、あらゆる温度が採用できる。Rair[K/W]の物理的な意味は、室内の空気から壁への熱伝達である。したがって、数値流体計算又は伝熱工学などで用いられる無次元の整理式を用いて、Rair[K/W]を数値化することができる。
式(1)の熱回路網モデルにおいて、R[K/W]、C[J/℃]、TOUT[℃]は容易に知ることができない。しかし、壁床の温度Twall[℃]を用いれば、式(1)と同等な熱回路網モデルである式(2)が解けるので、室内の代表温度T[℃]を計算することができる。ここで、代表温度は、室内全体の温度の平均値とする。よって、式(2)を解くことにより、温度分布DB85aの温度値の平均値T_mean[℃]と代表値T[℃]との差分ΔT_diff=T−T_meanが求まり、ΔT_diffを図12Bが示す温度値の値に加算することにより、温度分布DB85aの温度値を実際に空気調和機1が設置された室内の空間温度に補正する。
このように、空間温度推定部803は、温度分布DB85aの温度値を補正することにより、空気調和機1が作り出す温熱環境の3次元温度分布を推定する。図12Eに、空間温度推定部803により推定されたz=0における温度分布の例を示す。吹出口1aから温風が床面に到達した位置(x座標:xwall,y座標:ywall)に向かい、徐々に温度が下がっていくことがわかる。
なお、上記、補正前の温度分布の選択において、空間温度推定部803は、温度分布DB85aに格納されたデータのうち、吹出口位置情報取得部802によって取得された吹出口位置情報に最も近い室内寸法及び吹出口位置を有するデータを選択することに限らない。例えば、温度分布DB85aが、ある寸法の室内における吹出風の温度、風量及び風向の設定値毎に、測定又は数値流体計算により算出された3次元の温度値のデータベースである場合、空間温度推定部803は、温度分布DB85aのデータを測定した室内寸法を吹出口位置情報から求められる室内寸法に変換し、この変換に基づいて温度分布DB85aのデータを変換することにより温度分布を求め、求めた温度分布のデータを補正前の温度分布のデータとして取得するようにしてもよい。この場合、空間温度推定部803は、室内寸法に基づく変換を行った後の温度値に対し、さらに熱回路網モデルを用いた温度値の補正を行う。
以上では、空間温度推定部803は、式(2)で記した熱回路網の物理モデルを用いて3次元温度分布を推定したがこれ以外の手法も可能である。空間温度推定部803は統計的機械学習手法を用いて、3次元温度分布を推定することができる。
以下に、統計的機械学習手法の例として、ガウス過程(Gaussian Process)により、3次元温度分布を推定する手法について説明する。
図13に示すように室内空間を3次元の体積区間に分割する。そして、各体積区間の温度を、確率分布を用いて表す。ここで、分割した体積区間の奥行き方向を添字i、高さ方向を添字j、幅方向を添字kとすると、体積区間の座標は、(xi,yj,zk)と表すことができる。以下、体積空間を代表する位置を示す座標を、xijkと表す。図14に、任意のkの位置において代表座標xijで表した体積区間を示す。また、位置xijkの体積区間の温度がTである確率を、関数pを用いて、p(T)と表す。
ガウス過程を用いたアルゴリズムを記す。アルゴリズムの目的は、観測した体積区間xijkの温度TijkのデータセットD={(xijk,Tijk)|(i,j,k):熱画像センサで取得できた体積区間}を用いて、観測していない体積区間x未観測ijkの温度T未観測ijkを予測することである。参考文献1「Gaussian Processes for Machine Learning (Carl Edward Rasmussen), The MIT Press, 2006」によると、位置xの代表温度Tを表す確率p(T|x)を学習する事ができ、p(T│x)=N(T|0,K)と書ける。ここでN(・)は、平均0、分散Kの多次元のガウス分布であって、Kは、データセットDのデータセット数と予測したいx未観測ijk及びT未観測ijkのデータセット数との和と、同じ次元数を持つグラム行列と呼ばれる行列である。この確率モデルによって、未観測の体積区間x未観測ijkにおける予測温度T予測ijk及び予測温度T予測ijkの信頼性(分散)が計算できる。
図15Aは、図14の体積区間の温度を示す例であり、温度の高い体積区間を濃い色で表し、温度の低い体積区間を薄い色で表したものである。ガウス過程を用いると、熱画像センサ7により取得した温度分布及び吹出口1aにおける吹出風温度と言った既知のデータセットから空間の温度分布が学習できる。既知のデータセットには、温度分布DB85aを加えてもよい。
図15Bは、図15Aの体積区間の温度の信頼確率を示した例であり、熱画像センサ7により取得した温度及び吹出風温度から学習できる。このようにガウス過程を用いると、予測した温度値に対して、予測の信頼度を計算する事ができる。
空間速度推定部804は、3次元温度分布に基づいて、室内の3次元速度分布を推定する。なお、空間速度推定部804は、本発明に係る空間速度推定手段の一例である。
室内の気流環境は、吹出口1aからの温風によって作られ、温度及び速度は、吹出口1aの位置から離れるに従って低減する。温度と速度との関係を数値流体計算、実験の結果等を用いてデータベース化する。以下、このデータベースを速度分布DB85bという。速度分布DB85bはメモリ85に格納される。空間速度推定部804は、速度分布DB85bを参照して、空間温度推定部803により推定された3次元温度分布から3次元速度分布を推定する。
なお、空間速度推定部804は、吹出風の風量及び風向と、室内寸法とから、数値流体計算により、3次元速度分布をもとめてもよい。
空間体感温度推定部805は、3次元温度分布と、3次元速度分布と、に基づいて3次元体感温度分布を推定する。なお、空間体感温度推定部805は、本発明に係る空間体感温度推定手段の一例である。
人間の体感温度は、人体の熱収支によることが大きい(参考文献2:「建築熱環境(坂本雄三)、東京大学出版会、2011年」)。人体の熱収支は、人体周囲の空気の温度と、人体と空気流れとによる熱伝達率と、によって算出できる。ここで空気の温度は3次元温度分布から求めることができ、人体と空気流れとによる熱伝達率は、3次元速度分布から速度の大きさを参照し、強制熱伝達のモデル式を用いて算出することができる。そして、人体の熱収支の量と補正すべき温度の量との関係を示すモデルを、実験により作成する。空間体感温度推定部805は、このモデルと求めた人体の熱収支とにより、温度の補正量を求め、空間温度推定部803により推定された3次元温度分布を補正することにより、3次元体感温度分布を推定する。
また、空間体感温度推定部805は、温度t[℃]と速度v[m/s]とから体感温度を推定するリンケの計算式を用いて、3次元体感温度分布を推定してもよい。リンケの計算式では体感温度は以下の式(3)で求められる。
体感温度=t-4×√v 式(3)
空間体感温度推定部805は、式(3)の温度t[℃]に空間温度推定部803により推定された3次元温度分布の値を入れ、速度v[m/s]に空間速度推定部804により推定された3次元速度分布の値を入れることにより、体感温度を求める。そして、空間体感温度推定部805は、求めた体感温度を3次元体感温度分布の値とする。
気流制御部806は、3次元温度分布と、3次元速度分布と、3次元体感温度分布と、に基づいて、熱交換器2に設定される温度と、ファン3の回転数と、風向制御板4の風向と、を制御する。なお、気流制御部806は、本発明に係る気流制御手段の一例である。
気流制御部806による具体的な気流制御の一例を以下に示す。
例えば、設定温度と3次元体感温度分布の代表値とを比較し、設定温度が3次元体感温度分布の代表値の温度よりも高い場合、気流制御部806は、設定温度と代表値の温度との差分(例えば、2度)だけ高い温風を得るために熱交換器2を制御するための制御信号を生成し、ファン3の回転数を上げる制御信号を生成し、温風を室内に行き渡らせるために風向制御板4の角度を下吹き方向に変える制御信号を生成する。また、例えば、設定温度が3次元体感温度分布により示される温度よりも低い場合、気流制御部806は、設定温度と代表値の温度との差分(例えば、2度)だけ低い温風を得るために熱交換器2を制御する制御信号を生成し、ファン3の回転数を上げる制御信号を生成し、低い温度の温風を室内に行き渡らせるために風向制御板4の角度を水平吹き方向の変える制御信号を生成する。なお、代表値は、3次元体感温度分布の全体の平均でもよいし、室内において人が存在する可能性のある領域を予め定めておき、その領域における体感温度の平均値、最高値、最低値等であってもよい。また、この例において、代表値は、3次元温度分布から求めてもよい。なお、気流制御部806は、空気調和機の設定温度と、3次元体感温度分布又は3次元温度分布から求められる温度との偏差に基づくPID制御により気流制御を行ってもよい。
また、気流制御部806は、設定温度と、3次元温度分布とを比較して、設定温度と温度が異なる領域が存在する場合、その領域の温度を設定温度に近づけるために、その領域の方向に吹出風を吹き出すように風向制御板4を制御する。あるいは、気流制御部806は、設定温度と、3次元体感温度分布とを比較して、設定温度と体感温度が異なる領域が存在する場合、その領域の体感温度を設定温度に近づけるために、その領域の方向に吹出風を吹き出すように風向制御板4を制御する。
風量は、風速と通過面積とで定義することができる。したがって、気流制御部806は、設定風量と3次元速度分布とを比較し、設定風量に対し、風速が遅いと判断される領域が存在する場合、風量を上げるようファン3を制御し、風速が早いと判断される領域が存在する場合、風量を下げるようファン3を制御する。設定風量に対して速い又は遅いと判断する閾値は、実験、数値計算等に基づいて定める。
次に、本実施の形態に係る空気調和機1が実行する制御処理を、図16のフローチャートを用いて説明する。空気調和機1の電源が投入されると、図16に示す制御処理が開始される。なお、この制御処理は、電源が切られるまで、周期的に、あるいは、温度、風量又は風向の設定が変更される度に実行される。
制御装置8は、熱画像センサ7を用いて、空気調和機が設置された室内の壁面及び床面について2次元温度分布を取得する(ステップS101)。吹出風情報取得部801は、メモリに記憶された設定値を参照して、吹出口から送風される吹出風の吹出温度情報と、吹出風量情報と、吹出風向情報と、を取得する(ステップS102)。吹出口位置情報取得部802は、外部装置から受信した空気調和機1を設置した室内における吹出口1aの位置を示す吹出口位置情報を取得する(ステップS103)。空間温度推定部803は、2次元温度分布と、吹出温度情報と、吹出風量情報と、吹出風向情報と、吹出口位置情報と、に基づいて、室内の3次元温度分布を推定する(ステップS104)。空間速度推定部804は、3次元温度分布に基づいて、室内の3次元速度分布を推定する(ステップS105)。空間体感温度推定部805は、3次元温度分布と、3次元速度分布と、に基づいて3次元体感温度分布を推定する(ステップS106)。気流制御部806は、3次元温度分布と、3次元速度分布と、3次元体感温度分布と、に基づいて、熱交換器の温度と、ファンの回転数と、風向制御板の風向と、を制御する(ステップS107)。
本実施の形態によれば、室内空間における3次元の温度分布、速度分布及び体感温度を推定し、これに基づいて気流制御を行うことにより、ユーザにとって快適な室内気流環境を実現することができる。
(実施の形態2)
実施の形態2に係る空気調和機1は、将来の3次元温度分布、将来の3次元速度分布及び将来の3次元体感温度分布に基づいて、現在の気流制御を行う。なお、以下の説明において、実施の形態1と共通する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
実施の形態2に係る空気調和機1は、実施の形態1に係る空気調和機1の構成要素を備える。実施の形態2に係る空気調和機1は、図17に示すように、機能的には、実施の形態1に係る空気調和機1の機能に加え、履歴を記憶する記憶部807と、将来の分布を推定する時系列空間情報推定部808と、を備える。記憶部807及び時系列空間情報推定部808は、制御装置8において、プロセッサ81がROM82に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
記憶部807は、3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布の履歴を記憶する。なお、記憶部807は、本発明に係る記憶手段の一例である。
ここで、履歴とは、一定時刻毎に推定された過去の3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布である。履歴は、メモリ85に格納される。
時系列空間情報推定部808は、3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布の履歴に基づいて、将来の3次元温度分布と、将来の3次元速度分布と、将来の3次元体感温度分布とを推定する。なお、時系列空間情報推定部808は、本発明に係る時系列空間情報推定手段の一例である。
例えば、時系列空間情報推定部808は、カルマンフィルタ(Kalman Filter)、パーティクルフィルタ(Particle Filter)等の時系列予測手法を用いて、記憶部807により記憶された3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布の履歴、すなわち、時系列データから、将来の3次元温度分布、将来の3次元速度分布及び将来の3次元体感温度分布を推定する。
気流制御部806は、将来の3次元温度分布と、将来の3次元速度分布と、将来の3次元体感温度分布とに基づいて、熱交換器2に設定される温度と、ファン3の回転数と、風向制御板4の風向と、を制御する。
具体的には、気流制御部806は、ユーザが設定した温度、風量及び風向と、時系列空間情報推定部808が推定した将来の3次元温度分布、将来の3次元速度分布及び将来の3次元体感温度分布を比較し、差分がある場合は、差分をなくすように熱交換器2、ファン3及び風向制御板4を制御する。
次に、本実施の形態に係る空気調和機1が実行する制御処理を、図18のフローチャートを用いて説明する。空気調和機1の電源が投入されると、図18に示す制御処理が開始される。なお、この制御処理は、電源が切られるまで、周期的に、あるいは、温度、風量又は風向の設定が変更される度に実行される。
ここで、図18のフローチャートのステップS201〜ステップS206は、図16のフローチャートのステップS101〜ステップS106と同様であるので、説明を省略する。
ステップS206の処理が終わると、記憶部807は、3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布の履歴を記憶する(ステップS207)。時系列空間情報推定部808は、3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布の履歴に基づいて、将来の3次元温度分布、将来の3次元速度分布及び将来の3次元体感温度分布を推定する(ステップS208)。そして、気流制御部806は、将来の3次元温度分布、将来の3次元速度分布及び将来の3次元体感温度分布に基づいて、熱交換器2に設定される温度と、ファン3の回転数と、風向制御板4の風向と、を制御する(ステップS209)。
本実施の形態によれば、現在の室内気流環境を、ユーザが求める室内気流環境に、迅速に近づけることができる。
(実施の形態3)
実施の形態3に係る空気調和機1は、ユーザの将来の移動領域を推定し、推定した領域について予め気流制御をする。なお、以下の説明において、実施の形態1及び2と共通する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略し、共通する構成要素の共通する機能についても説明を省略する。
実施の形態3に係る空気調和機1は、実施の形態2に係る空気調和機1の構成要素を備える。実施の形態3に係る空気調和機1は、図19に示すように、機能的には、実施の形態2に係る空気調和機1の機能に加え、人が存在する3次元領域を推定する人体空間領域推定部809を備える。人体空間領域推定部809は、制御装置8において、プロセッサ81がROM82に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
記憶部807は、3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布に加え、熱画像センサ7により取得された2次元温度分布の履歴を記憶する。
人体空間領域推定部809は、2次元温度分布の履歴に基づいて人が存在する3次元の人体空間領域を推定し、推定した人体空間領域に基づいて、将来の人体空間領域を推定する。なお、人体空間領域推定部809は、本発明に係る人体空間領域推定手段の一例である。
具体的には、人体空間領域推定部809は、記憶部807を参照し、熱画像センサ7により取得された温度分布情報において人が存在する領域である人体2次元領域を求める。人体空間領域推定部809は、人間の体温程度(例えば、35〜37度)の温度が検知される領域を人体2次元領域とする。そして、人体空間領域推定部809は、2次元画像から立体を予測する畳み込みニューラルネットワークのような機械学習を用いて、人体空間領域を推定する。なお、人体2次元領域から人体空間領域を推定する手法はこれに限らず、2次元画像から3次元空間における対象物の領域を推定する既知の技術を用いることができる。
人体空間領域推定部809は、一定時刻毎に記憶された2次元温度分布のそれぞれについて人体2次元領域を求め、求めたそれぞれの人体2次元領域について人体空間領域を求める。このようにして、人体空間領域推定部809は、人体空間領域の時系列データを得る。
次に、人体空間領域推定部809は、人体空間領域の時系列データから、将来の人体空間領域を推定する。将来の人体空間領域とは、ユーザが移動した後に存在すると考えられる領域である。例えば、人体空間領域推定部809は、カルマンフィルタ、パーティクルフィルタ等の時系列予測手法を用いて、人体空間領域の時系列データから将来の人体空間領域を推定する。
気流制御部806は、時系列空間情報推定部808が推定した将来の3次元温度分布、3次元速度分布及び3次元体感温度分布を参照して、将来の人体空間領域における温度、速度、体感温度を取得する。また、ユーザは外部装置を用いて、好みの温度、風量及び風向を空気調和機1に予め登録しておく。以下、これらを、嗜好温度、嗜好風量及び嗜好風向きという。嗜好温度、嗜好風量及び嗜好風向きの情報は、メモリ85に格納される。そして、気流制御部806は、将来の人体空間領域のおける温度、速度、体感温度を、予め登録された嗜好温度、嗜好風量及び嗜好風向に近づけるように熱交換器2、ファン3及び風向制御板4を制御する。
図20は、推定した将来の人体空間領域と予め吹き出しておいた温風の領域とを示す。
人体空間領域推定部809は、過去のユーザの領域110aと、現在のユーザの領域110bとから将来のユーザの領域110cを推定する。
気流制御部806は、推定した将来の領域110cを含む領域を、ユーザが到着する以前から暖かい空間とするために、この領域が登録された嗜好温度、嗜好風量及び嗜好風向になるように気流制御を行う。ここで、空間領域110dは、空気調和機1が予め吹き出しておいた温風の領域であり、将来のユーザの領域を見越して予め暖めておいた空間領域を示す。
従来の空気調和機は、熱画像センサで撮影できるユーザの人体部位を目標に、温度、風量等の空調の制御を行っていた。このような制御は、行動後に得られる熱画像データに合わせて気流制御を行うフィードバック制御となり、マイコン又は冷凍サイクルの応答時間分だけ、ユーザが行動した時点から遅れてしまう。これに対し、本実施の形態の空気調和機は、ユーザが室内を歩いたり、姿勢を変更したりすることによりユーザが存在する領域が変更することを想定して、ユーザが移動すると予測される領域に、予め温風又は冷風を当てておく、あるいは、避けておくといったフィードフォワード制御をすることができる。
次に、本実施の形態に係る空気調和機1が実行する制御処理を、図21のフローチャートを用いて説明する。空気調和機1の電源が投入されると、図21に示す制御処理が開始される。なお、この制御処理は、電源が切られるまで、周期的に、あるいは、温度、風量又は風向の設定が変更される度に実行される。
ここで、図21のフローチャートのステップS301〜ステップS306、ステップS308は、図18のフローチャートのステップS201〜ステップS206、ステップS208と同様であるので、説明を省略する。
ステップS306の処理が終わると、記憶部807は、3次元温度分布、3次元速度分布、3次元体感温度分布及び熱画像センサ7により取得された2次元温度分布の履歴を記憶する(ステップS307)。次に、ステップS308の処理が終わると、人体空間領域推定部809は、2次元温度分布の履歴に基づいて人が存在する3次元の人体空間領域を推定し、推定した人体空間領域に基づいて、将来の人体空間領域を推定する(ステップS309)。そして、気流制御部806は、将来の3次元温度分布、将来の3次元速度分布及び将来の3次元体感温度分布を参照して、将来の人体空間領域における温度、速度、体感温度を取得し、予め登録された嗜好温度、嗜好風量及び嗜好風向に近づけるように熱交換器2、ファン3及び風向制御板4を制御する(ステップS310)。
本実施の形態によれば、ユーザの行動を予測して事前にユーザが求める室内気流環境を用意することができる。
(実施の形態4)
実施の形態4に係る空気調和機1は、放射熱伝達を考慮して、3次元体感温度分布を補正する。なお、以下の説明において、実施の形態1と共通する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
実施の形態4に係る空気調和機1は、実施の形態1に係る空気調和機1の構成要素を備える。実施の形態4に係る空気調和機1は、図22に示すように、機能的には、実施の形態1に係る空気調和機1の機能に加え、放射による熱伝達量を推定する放射熱伝達推定部810を備える。放射熱伝達推定部810は、制御装置8において、プロセッサ81がROM82に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
放射熱伝達推定部810は、室内に存在する人体、壁面及び床面の放射率情報を取得し、放射率情報と、熱画像センサ7により取得された2次元温度分布と、に基づいて壁面及び床面からの放射による熱伝達量を推定する。なお、放射熱伝達推定部810は、本発明に係る放射熱伝達推定手段の一例である。
具体的には、放射熱伝達推定部810は、壁面及び床面の放射率及び温度と、人体の放射率及び温度とに基づき、熱伝達量を推定する。ここで、壁面及び床面の放射率を示す放射率情報は、一般的な壁面及び床面の放射率に関するデータベース(図示せず)を参照することにより求める。また、人体の放射率を示す放射率情報は、人体を覆う衣服の放射率に関するデータベース(図示せず)を参照することにより求める。これらのデータベースは、メモリ85に格納されてもよいし、外部装置、外部記憶装置等に格納されてもよい。また、これらの放射率情報は、ユーザが外部装置を用いて入力してもよい。壁面の温度、床面の温度及び人体の温度は、熱画像センサ7により取得された2元温度分布から求める。
空間体感温度推定部805は、放射熱伝達推定部810より推定された熱伝達量に基づいて、3次元体感温度分布を補正する。
具体的には、空間体感温度推定部805は、人体から壁面及び床面への放射による熱伝達量が増加するに従い、3次元体感温度分布の体感温度値を下げる補正を行う。なお、熱伝達量の増加量と体感温度値の補正量との関係は、実験、数値計算等に基づいて予め定めておく。
暖房運転時において、壁面及び床面の温度が冷たい場合には、人体から壁面及び床面への放射による熱伝達量が大きくなる。このような場合、体感温度は下がり、空気の温度が十分に暖まっていてもユーザは冷気を感じることがある。しかし、本実施の形態に係る空気調和機1は、熱伝達量を考慮することにより、より正確な体感温度を求めることができ、ユーザにとって快適な温熱環境を提供することができる。
次に、本実施の形態に係る空気調和機1が実行する制御処理を、図23のフローチャートを用いて説明する。空気調和機1の電源が投入されると、図23に示す制御処理が開始される。なお、この制御処理は、電源が切られるまで、周期的に、あるいは、温度、風量又は風向の設定が変更される度に実行される。
ここで、図23のフローチャートのステップS401〜ステップS406は、図16のフローチャートのステップS101〜ステップS106と同様であるので、説明を省略する。
ステップS406の処理が終わると、放射熱伝達推定部810は、壁面及び床面の放射率に関するデータベース及び人体を覆う衣服の放射率に関するデータベースを参照して、室内に存在する人体、壁面及び床面の放射率情報を取得し、放射率情報と、熱画像センサ7により取得された2次元温度分布とに基づいて壁面及び床面からの放射による熱伝達量を推定する(ステップS407)。次に、空間体感温度推定部805は、放射熱伝達推定部810より推定された熱伝達量に基づいて、3次元体感温度分布を補正する(ステップS408)。そして、気流制御部806は、3次元温度分布と、3次元速度分布と、補正された3次元体感温度分布と、に基づいて、熱交換器2に設定される温度と、ファン3の回転数と、風向制御板4の風向と、を制御する(ステップS409)。
本実施の形態によれば、空気調和機が設置される室内の放射伝達を考慮した空間の体感温度分布を得ることができる。
(実施の形態5)
実施の形態5に係る空気調和機1は、室内への冷気流入を考慮して、気流制御を行う。なお、以下の説明において、実施の形態1と共通する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
実施の形態5に係る空気調和機1は、実施の形態1に係る空気調和機1の構成要素を備える。実施の形態5に係る空気調和機1は、図24に示すように、機能的には、実施の形態1に係る空気調和機1の機能に加え、室内に流入した冷気の領域を推定する冷気領域推定部811と、冷気の領域の熱リーク量を推定する熱リーク量推定部812と、を備える。冷気領域推定部811及び熱リーク量推定部812は、制御装置8において、プロセッサ81がROM82に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
冷気領域推定部811は、3次元温度分布及び3次元速度分布に基づいて、扉又は隙間から室内に流入した冷気の領域(以下、冷気領域という)を推定する。なお、冷気領域推定部811は、本発明に係る冷気領域推定手段の一例である。
具体的には、冷気領域推定部811は、熱画像センサ7によって取得された壁面及び床面の温度分布をデータセットとして、実施の形態1に記したようにガウス過程のような統計的機械学習によって推定する。
熱リーク量推定部812は、冷気領域の体積から熱リーク量を推定する。なお、熱リーク量推定部812は、本発明に係る熱リーク量推定手段の一例である。
具体的には、熱リーク量推定部812は、冷気領域の体積Vcold[m3]を用いた以下の式(4)に基づいて、熱リーク量Qleak[J]を推定する。
Qleak=cair×ρair×Vcold×ΔT 式(4)
cair[J/kg・℃]は空気の比熱、ρair[kg/m3]は空気の密度、ΔTは室内の温度と冷気領域の温度との差であり、3次元温度分布を参照することにより求められる。
気流制御部806は、冷気領域推定部811により冷気領域が推定され、熱リーク量推定部812により熱リーク量が推定されると、熱リーク量に基づいて、熱交換器2に設定される温度を上げ、ファン3の回転数を増加し、風向制御板4の風向を冷気領域の方向に変更する。なお、冷気領域推定部811により冷気領域が推定されない場合、気流制御部806は、このような制御を行わない。また、熱リーク量と、熱交換器2に設定される温度の増加量及びファン3の回転数の増加量との関係は、実験、数値計算等に基づいて予め定めておく。
すなわち、気流制御部806は、熱リーク量による熱負荷の補正をする。気流制御部806は、3次元温度分布を参照して、冷気領域の温度が設定温度と等しくなるまで、上記の制御を継続する。あるいは、気流制御部806は、3次元体感温度分布を参照して、冷気領域の体感温度が設定温度と等しくなるまで、上記の制御を継続するようにしてもよい。なお、気流制御部806は、熱リーク量と予め定められた値との偏差に基づくPID制御により、気流制御を行ってもよい。
次に、本実施の形態に係る空気調和機1が実行する制御処理を、図25のフローチャートを用いて説明する。空気調和機1の電源が投入されると、図25に示す制御処理が開始される。なお、この制御処理は、電源が切られるまで、周期的に、あるいは、温度、風量又は風向の設定が変更される度に実行される。
ここで、図25のフローチャートのステップS501〜ステップS506は、図16のフローチャートのステップS101〜ステップS106と同様であるので、説明を省略する。
ステップS506の処理が終わると、冷気領域推定部811は、3次元温度分布及び3次元速度分布から、冷気領域を推定する(ステップS507)。冷気領域推定部811が、室内において冷気領域があると判断すると(ステップS508:Yes)、熱リーク量推定部812は、冷気領域の体積から熱リーク量を推定する(ステップS509)。そして、気流制御部806は、冷気領域推定部811により室内において冷気領域があると判断されると、熱リーク量推定部812により推定された熱リーク量に基づいて、熱交換器2に設定される温度を上げ、ファン3の回転数を増加し、風向制御板4の風向を冷気領域の方向に変更する(ステップS510)。一方、冷気領域推定部811が、室内において冷気領域がないと判断すると(ステップS508:No)、気流制御部806は、熱リーク量を考慮しない通常の気流制御を行う(ステップS511)。
従来、室内の扉又は窓の開閉を検知し、室内に流入した冷気に向けて温風を送風し、コールドドラフトと言われる冷気流入による局所的な不快感を防ぐ技術があった。しかしながら、従来技術では、冷気の温度、冷気の領域を3次元的に判別することができないため、冷気流入による熱リーク量の見積もりができなかった。そのため、冷気流入を防ぐために必要な風量、温度等の見積もりができなかった。
本実施の形態によれば、冷気領域の熱リーク量に基づいて気流制御を行うことにより、コールドドラフトを防ぐことができる。
(実施の形態6)
実施の形態6に係る空気調和機1は、室内への日射を考慮して、気流制御を行う。なお、以下の説明において、実施の形態1と共通する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
実施の形態6に係る空気調和機1は、実施の形態1に係る空気調和機1の構成要素を備える。実施の形態6に係る空気調和機1は、図26に示すように、機能的には、実施の形態1に係る空気調和機1の機能に加え、建材の熱容量を取得する建材情報取得部813と、日射領域を推定する日射領域推定部814と、日射領域の日射量を推定する日射量推定部815と、を備える。建材情報取得部813、日射領域推定部814及び日射量推定部815は、制御装置8において、プロセッサ81がROM82に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
建材情報取得部813は、空気調和機1が設置された室内の壁及び床の熱容量の情報を取得する。なお、建材情報取得部813は、本発明に係る建材情報取得手段の一例である。
具体的には、外部装置から室内の壁及び床の建材を示す情報を受信すると、建材情報取得部813は、種々の建材について熱容量が記憶されたデータベースを参照して、受信した情報が示す建材の熱容量を示す情報を取得する。なお、このデータベースは、メモリ85に格納されてもよいし、外部装置、外部記憶装置等に格納されてもよい。また、建材の熱容量の値は、ユーザが外部装置を用いて入力してもよい。
日射領域推定部814は、3次元温度分布及び3次元速度分布に基づいて、日射が当たっている壁面及び床面の日射領域を推定する。なお、日射領域推定部814は、本発明に係る日射領域推定手段の一例である。
図27に日射領域の一例を示す。日射領域とは、日射が当たっている壁面及び床面の領域である。図27の日射領域(S[m2])は、窓から入ってきた日射が当たっている床面の領域である。具体的には、日射領域推定部814は、3次元温度分布に基づいて、温度が高い領域を特定し、特定された領域のうち、3次元速度分布に基づいて吹出風が届いていない領域を、日射領域とする。吹出風が届いていない領域と判断するための風速の閾値は予め定められているものとする。なお、日射領域推定部814は、吹出風が届いていない領域を、3次元速度分布及び吹出風量に基づいて求めてもよい。例えば、日射領域推定部814は、吹出風量が少ない場合、風速が小さい領域でも吹出風は届いているとみなし、吹出風量が多い場合は、風速が多い領域でも吹出風が届いていない領域とする。日射領域推定部814は、予め定めた条件に一致する領域が無い場合は、日射領域は推定されなかったと見なす。また、日射領域推定部814は、熱画像センサ7により取得される2次元の温度分布から、日射領域を推定してもよい。
日射量推定部815は、壁及び床の熱容量と、日射領域における温度上昇量と、に基づいて日射量を推定する。なお、日射量推定部815は、本発明に係る日射量推定手段の一例である。
日射量推定部815は、日射領域の建材における熱回路網モデルに基づいて、日射量を求める。図28に、日射領域に該当する部分の建材を抜き出し、熱回路網法を用いて、壁及び床の建材の熱回路網をモデル化した図を示す。この熱回路網モデルは、壁及び床の熱抵抗値(Rwall[K/W])と、壁及び床の熱容量(Cwall[J/K])と、室外の温度の代表値(TOUT[℃])を持つノードと、日射領域の壁及び床の温度(Twall[℃])と、を用いて作られる。熱容量Cwallは、建材情報取得部813により取得される値である。なお、熱抵抗値Rwallは、日射領域の面積S[m2]と、建材の厚みl[m]と、建材の熱伝導率k[W/(m・K)]と、を用いて、以下の式(5)と表すことができる。
図29に日射領域の建材の温度Twallの時間変化を示す。時刻tにおける建材の温度Twall(t)は、図28の熱回路網モデルから導出すると、以下の式(6)となる。
式(6)のTsat[℃]は時刻t=∞における建材の飽和温度である。日射量Q[W]を使うと、Tsat[℃]は以下の式(7)のように表すことができる。
式(6)において、exp(−RwallCwallt)の項をテイラー展開し、tの2次以下の項を削除すると、以下の式(8)が得られ、Twall(t)は線形一次式で近似できる。
ここで、Twall(t)は熱画像センサ7により計測することができる値である。日射量推定部815は、熱画像センサ7に、時刻t1における建材の温度Twall(t1)と、時刻t2における建材の温度Twall(t2)とを検知させ、メモリ85に、時刻t1、t2と、検知された温度Twall(t1)、Twall(t2)のデータを格納する。検知された時刻の差分を以下の式(9)のように表し、温度の差分を以下の式(10)のように表し、式(8)を式(9)及び式(10)を用いて書くと、式(11)を得ることができる。
そして、式(7)と式(11)とから、日射量Qは、式(12)のように求めることができる。日射量推定部815は、式(12)に基づき日射量を求める。
気流制御部806は、日射領域推定部814により日射領域が推定され、日射量推定部815により日射量が推定されると、日射量に基づいて、熱交換器2に設定される温度を下げ、ファン3の回転数を増加し、風向制御板4の風向を日射領域の方向に変える。日射領域推定部814により日射領域が推定されない場合は、気流制御部806は、このような制御を行わない。なお、日射量と、熱交換器2に設定される温度の減少量及びファン3の回転数の増加量との関係は、実験、数値計算等に基づいて予め定めておく。
気流制御部806は、3次元温度分布を参照して、日射領域の温度が設定温度と等しくなるまで、上記の制御を継続する。あるいは、気流制御部806は、3次元体感温度分布を参照して、日射領域の体感温度が設定温度と等しくなるまで、上記の制御を継続するようにしてもよい。なお、気流制御部806は、日射量と予め定められた値との偏差に基づくPID制御により、気流制御を行ってもよい。
次に、本実施の形態に係る空気調和機1が実行する制御処理を、図30のフローチャートを用いて説明する。空気調和機1の電源が投入されると、図30に示す制御処理が開始される。なお、この制御処理は、電源が切られるまで、周期的に、あるいは、温度、風量又は風向の設定が変更される度に実行される。
ここで、図30のフローチャートのステップS601〜ステップS606は、図16のフローチャートのステップS101〜ステップS106と同様であるので、説明を省略する。
ステップS606の処理が終わると、建材情報取得部813は、外部装置より受信した情報に基づいて空気調和機1が設置された室内の壁及び床の熱容量を示す情報を取得する(ステップS607)。次に、日射領域推定部814は、3次元温度分布及び3次元速度分布から日射が当たっている壁面及び床面の日射領域を推定する(ステップS608)。日射領域推定部814が、室内において日射領域があると判断すると(ステップS609:Yes)、日射量推定部815は、壁及び床の熱容量と、日射領域における温度上昇量と、に基づいて日射量を推定する(ステップS610)。そして、気流制御部806は、日射領域推定部814により室内において日射領域があると判断されると、日射量推定部815により推定された日射量に基づいて、熱交換器2に設定される温度を下げ、ファン3の回転数を増加し、風向制御板4の風向を日射領域の方向に変える(ステップS611)。一方、日射領域推定部814が、室内において日射領域がないと判断すると(ステップS609:No)、気流制御部806は、日射量を考慮しない通常の気流制御を行う(ステップS612)。
なお、ステップS607の処理は、上記のタイミングによらず、ステップS610の日射量を求める処理よりも前であればいつでもよい。
本実施の形態によれば、日射により暑くなった領域を自動的に設定温度に近づけることができる。
(実施の形態7)
実施の形態7に係る空気調和機1は、結露の発生を考慮して、気流制御を行う。なお、以下の説明において、実施の形態1と共通する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
実施の形態7に係る空気調和機1は、実施の形態1に係る空気調和機1の構成要素を備える。実施の形態7に係る空気調和機1は、図31に示すように機能的には、実施の形態1に係る空気調和機1の機能に加え、建材の熱伝導率、熱容量及び透湿計数を取得する建材情報取得部813と、室内の湿度を取得する空間内湿度取得部816と、室外の温度及び湿度を取得する空間外情報取得部817と、壁における結露の発生を推定する結露発生推定部818とを備える。建材情報取得部813、空間内湿度取得部816、空間外情報取得部817及び結露発生推定部818は、制御装置8において、プロセッサ81がROM82に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
建材情報取得部813は、空気調和機1が設置された室内の壁について、熱伝導率と熱容量と透湿係数とを取得する。
具体的には、外部装置から室内の壁の建材を示す情報を受信すると、建材情報取得部813は、種々の建材について熱伝導率、熱容量及び透湿係数が記憶されたデータベースを参照して、受信した情報が示す建材の熱伝導率、熱容量及び透湿係数を示す情報を取得する。なお、このデータベースは、メモリ85に格納されてもよいし、外部装置、外部記憶装置等に格納されてもよい。また、建材の熱伝導率、熱容量及び透湿係数の値は、ユーザが外部装置を用いて入力してもよい。
空間内湿度取得部816は、室内の湿度情報を取得する。なお、空間内湿度取得部816は、本発明に係る空間内湿度取得手段の一例である。
室内の湿度情報は、湿度センサ6により測定された湿度を示す情報である。空間内湿度取得部816は、湿度センサ6から、室内の湿度情報を取得する。
空間外情報取得部817は、室外の温度情報と、室外の湿度情報とを取得する。なお、空間外情報取得部817は、本発明に係る空間外情報取得手段の一例である。
本実施の形態に係る空気調和機1は、室外に温度センサ及び湿度センサ(いずれも図示せず)を備える。室外の温度情報は、室外の温度センサにより測定された温度を示す情報であり、室外の湿度情報は、室外の湿度センサにより測定された湿度を示す情報である。空間外情報取得部817は、室外の温度センサから室外の温度情報を取得し、室外の湿度センサから室外の湿度情報を取得する。
結露発生推定部818は、熱伝導率、熱容量及び透湿係数と、3次元温度分布から求めた室内の温度情報と、室内の湿度情報と、室外の温度情報と、室外の湿度情報と、に基づいて結露の発生を推定する。なお、結露発生推定部818は、本発明に係る結露発生推定手段の一例である。
具体的には、参考文献2「建築熱環境(坂本雄三)、東京大学出版 2011年」を参照し、以下のように求める。
結露発生推定部818は、壁の熱伝導率及び熱容量から建材の熱抵抗値を求め、建材の透湿係数から透湿抵抗値を求める。次に、結露発生推定部818は、建材の熱抵抗値から壁の熱回路網モデルを作成し、3次元温度分布から求める室内の温度情報と、空間外情報取得部817より取得され室外の温度情報と、壁の熱回路網モデルとから建材の温度を求める。そして、結露発生推定部818は、建材の温度値を用いて、その温度での飽和水蒸気圧を求める。同様に、結露発生推定部818は、建材の透湿抵抗値から壁の湿度回路網モデルを作成し、空間内湿度取得部816により取得された室内の湿度情報と、空間外情報取得部817より取得され室外の湿度情報と、壁の湿度回路網モデルとから建材での水蒸気圧を求める。結露発生推定部818は、水蒸気圧が飽和水蒸気圧を上回った位置が、建材における結露の発生位置である。
図32Aに、壁の構造の例を示し、図32Bに、図32Aの壁の結露発生位置を示す。計算値111aは壁体内の飽和水蒸気圧の計算値を示し、計算値111bは壁体内の水蒸気圧の計算値である。水蒸気圧が飽和水蒸気圧を上回った位置111cが、壁における結露の発生位置である。
気流制御部806は、結露発生推定部818により結露の発生が推定されると、熱交換器2に設定される温度を下げ、ファン3の回転数を増加し、風向制御板4の風向を壁の方向に変える。
ここで、図33のフローチャートのステップS701〜ステップS706は、図16のフローチャートのステップS101〜ステップS106と同様であるので、説明を省略する。
ステップS706の処理が終わると、建材情報取得部813は、外部装置より受信した情報に基づいて、壁について、熱伝導率と熱容量と透湿係数とを取得する(ステップS707)。空間内湿度取得部816は、湿度センサ6が検知した湿度に基づいて室内の湿度情報を取得する(ステップS708)。次に、空間外情報取得部817は、室外の温度センサが検知した温度に基づいて室外の温度情報を取得し、室外の湿度センサが検知した湿度に基づいて室外の湿度情報を取得する(ステップS709)。結露発生推定部818は、熱伝導率、熱容量及び透湿係数と、3次元温度分布から求めた室内の温度情報と、室内の湿度情報と、室外の温度情報と、室外の湿度情報と、に基づいて結露の発生を推定する(ステップS710)。結露発生推定部818が、室内において結露が発生したと判断すると(ステップS711:Yes)、気流制御部806は、熱交換器2に設定される温度を下げ、ファン3の回転数を増加し、風向制御板4の風向を壁の方向に変える(ステップS712)。一方、結露発生推定部818が、室内において結露が発生していないと判断すると(ステップS711:No)、気流制御部806は、結露を考慮しない通常の気流制御を行う(ステップS713)。
なお、ステップS707、ステップS708、ステップS709の処理は、上記のタイミングによらず、ステップS710の結露の発生を推定する処理よりも前であればいつでもよい。
本実施の形態によれば、結露が発生すると、自動的に気流制御を行って、結露を抑制することができる。
本発明は、広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能である。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施の形態ではく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。