JPWO2020066270A1 - κ鎖可変領域を含む抗体および/または抗体断片の製造方法 - Google Patents

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Abstract

κ鎖可変領域を含む抗体および/または抗体断片と抗体由来の副産物とを効率的に分離することにより、κ鎖可変領域を含む抗体および/または抗体断片を高純度で製造する方法を提供することを目的とする。本発明に係る抗体および/または抗体断片の製造方法は、上記抗体および/または抗体断片がκ鎖可変領域を含むものであり、上記抗体および/または抗体断片に加えて軽鎖誘導体および重鎖誘導体の少なくとも一方を含む液体試料を、プロテインLなどがリガンドとして不溶性担体に固定化されているアフィニティ分離マトリックスに接触させ、上記抗体および/または抗体断片を上記リガンドに吸着させる工程、上記抗体および/または抗体断片が吸着された上記アフィニティ分離マトリックスを洗浄する工程、および、溶出液により上記抗体および/または抗体断片を上記アフィニティ分離マトリックスから分離して溶出させる工程を含み、上記溶出工程において、上記溶出液のpHを連続的または段階的に低下させることを特徴とする。

Description

本発明は、κ鎖可変領域を含む抗体および/または抗体断片を副産物から効率的に分離することにより高純度で製造することができる方法に関するものである。
タンパク質の重要な機能の一つとして、特定の分子に特異的に結合する機能が挙げられる。この機能は、生体内における免疫反応やシグナル伝達に重要な役割を果たす。この機能を有用物質の分離精製に利用する技術開発も盛んになされている。実際に産業的に利用されている一例として、抗体医薬を動物細胞培養物から一度に高い純度でキャプチャリングして精製するために利用されるプロテインAアフィニティ分離マトリックス(以下、プロテインAを「SpA」と略記する場合がある)が挙げられる(非特許文献1および非特許文献2)。
一般的に、アフィニティ分離マトリックスを用いて抗体を精製する場合には、アフィニティ分離マトリックスのリガンドに抗体を選択的に結合させ、洗浄して不純物を除去した後、アフィニティ分離マトリックスから分離することが行われている。例えば特許文献1には、SpAアフィニティクロマトグラフィカラムから単量体モノクローナル抗体の画分を集めてSpA産物プールを形成させ、当該産物プールのpHを約3.5〜約4.5とし、抗体の凝集を抑制する方法が記載されている。
抗体医薬として開発されているのは基本的にモノクローナル抗体であり、組換え培養細胞技術などを用いて大量に生産されている。「モノクローナル抗体」とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体を指す。現在上市されている抗体医薬のほとんどは、分子構造的には免疫グロブリンG(IgG)サブクラスである。また、免疫グロブリンを断片化した分子構造を有する抗体誘導体である断片抗体からなる抗体医薬も盛んに臨床開発されており、様々な断片抗体医薬の臨床開発が進んでいる(非特許文献3)。
抗体医薬製造における初期精製工程には、先述のSpAアフィニティ分離マトリックスが利用されている。しかし、SpAは基本的にIgGのFc領域に特異的に結合するタンパク質である。よって、Fabなど、Fc領域を含まない断片抗体は、SpAアフィニティ分離マトリックスを利用したキャプチャリングができない。従って、抗体医薬精製プロセスのプラットフォーム開発の観点から、IgGのFc領域を含まない断片抗体をキャプチャリング可能なアフィニティ分離マトリックスに対する産業的なニーズは高い。
IgGのFc領域以外に結合するペプチドはすでに複数知られている(非特許文献4)。それらの中でも、結合できる断片抗体フォーマットの種類の多さ、および、IgMやIgAなどにも結合可能という観点からは、抗原結合ドメインである可変領域に結合できるペプチドが最も好ましく、例えば、プロテインL(以下、プロテインLを「PpL」と略記する場合がある)がよく知られている。PpLは、複数のκ鎖可変領域結合性ドメイン(以下、κ鎖可変領域を「VL−κ」と略記する場合がある)を含むタンパク質であり、個々のVL−κ結合性ドメインのアミノ酸配列は異なる。また、菌株の種類によっても、VL−κ結合性ドメインの数、および個々のアミノ酸配列は異なる。例えば、ペプトストレプトコッカス・マグヌス(Peptostreptococcus magnus)312株のPpLに含まれるVL−κ結合性ドメインの数は5個であり、ペプトストレプトコッカス・マグヌス株3316のPpLに含まれるVL−κ結合性ドメインの数は4個である(非特許文献5〜7,特許文献2および特許文献3)。そして、それら計9個のVL−κ結合性ドメインの中に、互いに同じアミノ酸配列であるドメインは無い。非特許文献8には、動物細胞、大腸菌、酵母で発現・培養した断片抗体であるFabを、PpLを含むアフィニティ分離マトリックスを用いて精製した例が記載されている。
特表2011−530606号公報 特表平7−506573号公報 特表平7−507682号公報
Hober S.ら,J.Chromatogr.B,2007,848巻,40−47頁 Shukla A.A.ら,Trends Biotechnol.,2010,28巻,253−261頁 Nelson A.N.ら,Nat.Biotechnol.,2009,27巻,331−337頁 Bouvet P.J.,Int.J.Immunopharmac.,1994,16巻,419−424頁 Kastern W.ら,J.Biol.Chem.,1992,267巻,12820−12825頁 Murphy J.P.ら,Mol.Microbiol.,1994,12巻,911−920頁 Housden N.G.ら,Biochemical Society Transactions,2003,31巻,716−718頁 K.Lebozecら,New BIOTECHNOLOGY,2018,44巻,31−40頁 Andre F.ら,frontiers in IMMUNOLOGY,2013,217巻,1−20頁 小林和男ら,生物工学,2008,86巻,390−392頁
上述したように、PpLを含むアフィニティ分離マトリックスを用いてFabを精製した例はある。しかし本発明者らは、PpLを含むアフィニティ分離マトリックスを用いても高純度のFabが得られない場合があることを見出した。
詳しくは、例えば、遺伝子工学的に微生物にFabを生成させ、培養液からFabを効率的に精製する方法では、標的とするFab以外に、ミスフォールド体や過剰に発現した不要な抗体断片由来の成分などが同時に生成する場合がある(非特許文献9および非特許文献10)。例えばFabと軽鎖モノマーや軽鎖ダイマーなどの副生物が両方ともκ鎖可変領域を含む場合には、いずれもPpLに結合するために、PpLを含むアフィニティ分離マトリックスでFabと副生物を分離することは難しいといえる。
そこで本発明は、κ鎖可変領域を含む抗体および/または抗体断片と抗体由来の副産物とを効率的に分離することにより、κ鎖可変領域を含む抗体および/または抗体断片を高純度で製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、PpLを含むアフィニティ分離マトリックスを使用して、VL−κを含む抗体および/または抗体断片を精製する際、溶出液のpHを適切に設定することで標的の抗体および/または抗体断片を高純度で精製できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
[1] 抗体および/または抗体断片を製造するための方法であって、
上記抗体および/または抗体断片がκ鎖可変領域を含むものであり、
上記抗体および/または抗体断片に加えて軽鎖誘導体および重鎖誘導体の少なくとも一方を含む液体試料を、プロテインL、プロテインLのドメイン、プロテインL変異体、またはプロテインLドメイン変異体がリガンドとして不溶性担体に固定化されているアフィニティ分離マトリックスに接触させ、上記抗体および/または抗体断片を上記リガンドに吸着させる工程、
上記抗体および/または抗体断片が吸着された上記アフィニティ分離マトリックスを洗浄する工程、および、
溶出液により上記抗体および/または抗体断片を上記アフィニティ分離マトリックスから分離して溶出させる工程を含み、
上記溶出工程において、上記溶出液のpHを連続的または段階的に低下させることを特徴とする方法。
[2] 上記溶出液に、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、およびチオシアン酸ナトリウムから選択される1以上の塩を配合する上記[1]に記載の方法。
[3] 上記液体試料のpHが5.0以上、9.0以下である上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 上記溶出液のpHが2.0以上、5.0以下である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 上記抗体断片がFabである上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 上記溶出液のpHを2段階または3段階の段階的に低下させる上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
本発明方法によれば、VL−κを含む標的の抗体および/または抗体断片を高い純度で得ることができる。また、本発明方法によって目的物が高純度で得られるので、後段の精製プロセスの簡略化が可能となる。その結果、VL−κを含む抗体および/または抗体断片の製造コストを抑制することができる。
図1は、市販のPpL担体(TOYOPEARL(R) AF−rProtein L−650F)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、50mMクエン酸緩衝液にてpH5.0からpH2.0の勾配をかけた場合の溶出プロファイルである。 図2は、図1の実験で得られた各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図3は、市販のPpL担体(KANEKA KanCapTM L)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、50mMクエン酸緩衝液にてpH5.0からpH2.0の勾配をかけた場合の溶出プロファイルである。 図4は、図3の実験で得られた各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図5は、市販のPpL担体(KANEKA KanCapTM L)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、50mM酢酸緩衝液にてpH5.0からpH3.0の勾配をかけた場合の溶出プロファイルである。 図6は、図5の実験で得られた各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図7は、市販のPpL担体(KANEKA KanCapTM L)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、100mM NaClを含む50mMクエン酸緩衝液にてpH5.0からpH2.2の勾配をかけた場合の溶出プロファイルである。 図8は、図7の実験で得られた各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図9は、市販のPpL担体(CaptoTM L)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、100mM NaClを含む50mMクエン酸緩衝液にてpH5.0からpH2.2の勾配をかけた場合の溶出プロファイルである。 図10は、図9の実験で得られた各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図11は、市販のPpL担体(KANEKA KanCapTM L)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、100mM MgCl2を含む50mMクエン酸緩衝液にてpH5.0からpH2.2の勾配をかけた場合の溶出プロファイルである。 図12は、図11の実験で得られた各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図13は、市販のPpL担体(KANEKA KanCapTM L)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、50mM緩衝液にてpH3.1とpH2.5で二段階溶出を行った場合の溶出プロファイルである。 図14は、図13における各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図15は、市販のPpL担体(KANEKA KanCapTM L)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、溶出液として50mMクエン酸緩衝液(pH2.5)のみを用いた場合の溶出プロファイルである。 図16は、図15における各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図17は、本発明方法で精製したFabの溶液を、CH1領域に対する親和性を有する市販のプロテインG担体(KANEKA KanCapTM G)に負荷した後、pH2.5の50mMクエン酸緩衝液を用いて溶出した際のクロマトグラムである。 図18は、図17における各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図19は、従来方法で精製したFabの溶液を、CH1領域に対する親和性を有する市販のプロテインG担体(KANEKA KanCapTM G)に負荷した後、pH2.5の50mMクエン酸緩衝液を用いた溶出した際のクロマトグラムである。 図20は、図19における各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図21は、市販のPpL担体(KANEKA KanCapTM L)を用いてFab含有培養上清からFabを精製するに際し、100mM NaClを含む50mMクエン酸緩衝液(pH2.7)とNaClを含まない50mMクエン酸緩衝液(pH2.5)を用いた二段階溶出を行った場合の溶出プロファイルである。 図22は、図21における各画分の非還元条件でのSDS−PAGEの結果である。 図23は、本発明方法で精製したFabの溶液を、CH1領域に対する親和性を有する市販のプロテインG担体(KANEKA KanCapTM G)に負荷した後、50mMクエン酸緩衝液(pH2.5)を用いた溶出した際のクロマトグラムである。
本発明方法は、プロテインL、そのドメイン、またはそれらの変異体を固定化したアフィニティ分離マトリックスを用い、VL−κを含む抗体および/または抗体断片を、純度高く精製する方法である。以下、本発明方法を工程毎に説明する。なお、「抗体および/または抗体断片」とは、抗体および抗体断片の少なくとも一方や、抗体および抗体断片から選択される1以上を意味し、「抗体または抗体断片」が好ましい。また、以下、「抗体および/または抗体断片」を「抗体/抗体断片」と略記する場合がある。
工程1: 抗体/抗体断片の製造工程
「免疫グロブリン(Ig)」は、リンパ球のB細胞が産生する糖タンパク質であり、特定のタンパク質などの分子を認識して結合する働きを持つ。免疫グロブリンは、抗原と呼ばれるかかる特定分子に特異的に結合する機能と、他の生体分子や細胞と協同して抗原を有する因子を無毒化したり除去する機能を有する。免疫グロブリンは、一般的に「抗体」と呼ばれるが、それはこのような機能に着目した名称である。
全ての免疫グロブリンは、基本的には同じ分子構造からなり、“Y”字型の4本鎖構造を基本構造としている。当該4本鎖構造は、軽鎖および重鎖と呼ばれるポリペプチド鎖それぞれ2本ずつから構成される。軽鎖(L鎖)にはλ鎖とκ鎖の2種類があり、すべての免疫グロブリンはこのどちらかを持つ。重鎖(H鎖)には、γ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖、ε鎖という構造の異なる5種類があり、この重鎖の違いによって免疫グロブリンの種類(アイソタイプ)が変わる。免疫グロブリンG(IgG)は、単量体型の免疫グロブリンで、2本のγ鎖と2本の軽鎖から構成され、2箇所の抗原結合部位を持っている。
免疫グロブリンの“Y”字の下半分の縦棒部分にあたる場所をFc領域と呼び、上半分の“V”字の部分をFab領域と呼ぶ。Fc領域は抗体が抗原に結合した後の反応を惹起するエフェクター機能を有し、Fab領域は抗原と結合する機能を有する。重鎖のFab領域とFc領域はヒンジ部でつながっており、パパイヤに含まれるタンパク分解酵素パパインは、このヒンジ部を分解して2つのFab領域と1つのFc領域に切断する。Fab領域のうち“Y”字の先端に近い部分は、多様な抗原に結合できるように、アミノ酸配列に多彩な変化が見られるため、可変領域(V領域)と呼ばれている。軽鎖の可変領域をVL領域、重鎖の可変領域をVH領域と呼ぶ。V領域以外のFab領域とFc領域は、比較的変化の少ない領域であり、定常領域(C領域)と呼ばれる。軽鎖の定常領域をCL領域と呼び、重鎖の定常領域をCH領域と呼ぶが、CH領域はさらにCH1〜CH3の3つに分けられる。重鎖のFab領域はVH領域とCH1からなり、重鎖のFc領域はCH2とCH3からなる。ヒンジ部はCH1とCH2の間に位置する。PpLは、軽鎖がκ鎖である可変領域(VL−κ)に結合する(非特許文献5〜7)。
本発明方法の精製対象である抗体/抗体断片はVL−κを含み、更に重鎖可変領域を含んでいてもよい。重鎖可変領域(VH)は、重鎖において重鎖定常領域のCH1とCH2を結合しているヒンジ部を含んでいても含んでいなくてもよいが、少なくともFc領域を含まない。抗体は軽鎖と重鎖を含み、重鎖は重鎖可変領域と重鎖定常領域を含む。
本発明方法の精製対象である抗体/抗体断片としては、例えば、VL−κを含む軽鎖または軽鎖断片とVHを含む重鎖または重鎖断片が、ジスルフィド結合やペプチドリンカーなど、共有結合により結合しているものを挙げることができる。かかる抗体断片としては、例えば、Fab;Fab二量体であるF(ab’)2;Fab三量体であるF(ab’)3;VH鎖とVL鎖がジスルフィド結合により結合しているdsFv;VH鎖とVL鎖がペプチドリンカーにより結合しているscFv;scFvの二量体であるDiabody;scFvの三量体であるTriabody;Fscvの四量体であるTetrabodyを挙げることができる。また、VL−κを含む軽鎖または軽鎖断片とVHを含む重鎖または重鎖断片が共有結合によらず会合している抗体断片も、条件によっては本発明方法で精製できる可能性がある。かかる抗体断片としては、例えば、VH鎖とVL鎖とが会合しているFvなどを挙げることができる。
VL−κを含む軽鎖または軽鎖断片とVHを含む重鎖または重鎖断片を結合するためのペプチドリンカーは特に制限されないが、例えば、5以上、25以下のアミノ酸残基を含むペプチドリンカーを挙げることができる。かかるペプチドリンカーとしては、例えば、グリシンとセリンの繰り返し配列を有するGSリンカーが挙げられる。
本発明において、上記抗体/抗体断片は遺伝子工学的に直接製造することが好ましい。具体的には、例えば、VHとVL−κを含む抗体または抗体断片を構成する各鎖のアミノ酸配列をそれぞれ設計した後、逆翻訳により当該アミノ酸配列をコードする塩基配列を設計する。当該塩基配列をコードするDNAを化学合成し、プラスミドなどのベクターへ挿入する。当該ベクターを細胞に導入して形質転換体を得て、当該形質転換体を培養することにより、上記抗体または抗体断片を生産させる。上記抗体または抗体断片を含む培養液や細胞破砕液を粗精製することにより、上記抗体または抗体断片を含む溶液を得る。粗精製には、菌体などの不溶成分を濾過や遠心分離で除去する処置が含まれる。
上記抗体/抗体断片の製造に用いられる細胞としては、例えば、大腸菌やバチルス属細菌;S.cerevisiaeやP.pastorisなどの真菌;植物細胞;昆虫細胞;非ヒト動物細胞;ヒト細胞;ハイブリドーマなどの融合細胞を挙げることができる。非ヒト動物細胞としては、例えばハムスター細胞、マウス細胞、ラット細胞などが挙げられる。
上記粗精製の後、VL−κを含む軽鎖または軽鎖断片とVHを含む重鎖または重鎖断片を含む溶液中、化学反応によりVL−κを含む軽鎖または軽鎖断片とVHを含む重鎖または重鎖断片を結合してもよい。
細胞に抗体を生産させる場合であっても、条件によっては重鎖または軽鎖の一方が過剰に生産され、軽鎖モノマーや軽鎖ダイマーなどの軽鎖誘導体が副生することがある。また、細胞に抗体断片を生産させる場合には、軽鎖や軽鎖断片、重鎖や重鎖断片のいずれかが過剰に生産され、軽鎖誘導体や重鎖誘導体が副生することがある。但し、細胞に抗体を生産させる場合には、軽鎖誘導体が副生する可能性はより低いといえる。また、細胞に抗体を生産させてから、抗体を分解して抗体断片を得る場合には、パパインやペプシンなどのプロテアーゼによる酵素反応工程が必要となる。よって本発明方法は、細胞に抗体断片を生産させる場合により有効に適用することができる。
工程2: 吸着工程
本工程では、標的のVL−κ含有抗体/抗体断片と、例えば、標的VL−κ含有抗体/抗体断片を構成するVL−κ含有軽鎖やVH断片に由来する副生物を含む液体試料を、プロテインL、プロテインLのドメイン、プロテインLの変異体、またはプロテインLのドメインの変異体がリガンドとして不溶性担体に固定化されているアフィニティ分離マトリックスに接触させることにより、上記抗体/抗体断片をアフィニティ分離マトリックスに吸着させる。
上記液体試料は、精製すべきVL−κ含有抗体/抗体断片を含むものであれば特に制限されないが、VL−κ含有抗体/抗体断片が水系溶媒に溶解されているものであることが好ましい。また、抗体由来の副産物としては、VL−κ含有軽鎖またはVH断片のモノマーや、VL−κ含有軽鎖やVH断片のホモダイマー、またVL−κ含有軽鎖やVH断片が断片化されたものが挙げられる。液体試料としては、例えば、VL−κ含有抗体/抗体断片を含む血清試料、VL−κ含有抗体/抗体断片を含む菌体の培養液または破砕液の上清、それらの反応液などを挙げることができる。
上記液体試料のpHは5.0以上、9.0以下程度の中性付近であることが好ましい。当該pHが5.0以上であれば、液体試料に含まれるVL−κ含有抗体/抗体断片を、より確実に本発明に係るアフィニティ分離マトリックスに吸着させることが可能になる。当該pHが9.0以下であれば、液体試料に含まれるVL−κ含有抗体/抗体断片のアルカリ条件による変性が抑制された状態で、本発明に係るアフィニティ分離マトリックスに吸着させることが可能になる。当該液体試料の溶媒は水のみでもよいし、また、水を主成分とするものであればC1-4アルコールなどの水混和性有機溶媒を含むものであってもよいし、pHが5.0以上、9.0以下程度の緩衝液であってもよい。
本発明で用いるアフィニティ分離マトリックスは、プロテインL、プロテインLのドメイン、プロテインL変異体、またはプロテインLドメイン変異体がリガンドとして不溶性担体に固定化されているものである。本発明に係るアフィニティ分離マトリックスのリガンドは、プロテインL(PpL)の配列をベースとしており、免疫グロブリンのκ鎖可変領域(VL−κ)に結合する。以下、プロテインL、そのドメイン、またはそれらの変異体を、まとめて「VL−κ結合性ペプチド」という場合がある。
本発明において「ペプチド」とは、ポリペプチド構造を有するあらゆる分子を含むものであって、いわゆるタンパク質のみならず、断片化されたものや、ペプチド結合によって他のペプチドが連結されたものも包含されるものとする。「ドメイン」とは、タンパク質の高次構造上の単位であり、数十から数百のアミノ酸残基配列から構成され、なんらかの物理化学的または生物化学的な機能を発現するに十分なタンパク質の単位をいう。本発明における「プロテインLのドメイン」は、VL−κに対する親和性を示すものをいう。また、本発明においてプロテインLやドメインの「変異体」は、野生型のプロテインLやドメインの配列に対し、アミノ酸レベルで、少なくとも1つ以上の置換、付加または欠失が導入されたタンパク質またはペプチドであって、VL−κに対する親和性が少なくとも維持されており、好ましくは向上しているものをいう。アミノ酸配列の変異数としては、20以下または15以下が好ましく、10以下または5以下がより好ましく、2または1がより更に好ましい。
「プロテインL」(PpL)は、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)に属する嫌気性グラム陽性球菌の細胞壁に由来するタンパク質である。好ましくは、ペプトストレプトコッカス・マグヌス(Peptostreptococcus magnus)に由来するPpLであり、ペプトストレプトコッカス・マグヌス312株、および、ペプトストレプトコッカス・マグヌス3316株に由来する2種類のPpLが好ましいが、これらに限定されない(非特許文献4〜6)。
PpLは、タンパク質中に70〜80残基からなる複数のVL−κ結合性ドメインを含有する。PpL312に含まれるVL−κ結合性ドメインの数は5個であり、PpL3316に含まれるVL−κ結合性ドメインの数は4個である。PpL312のVL−κ結合性ドメインは、N末端から順にB1〜5ドメインと呼び、PpL3316のVL−κ結合性ドメインは、N末端から順にC1〜4ドメインと呼ぶ(非特許文献5および非特許文献6)。
また、PpLのVL−κ結合性ドメインのN末端の約20残基は特定の二次構造を取らないことが研究によって分かっており、N末端を欠失させた場合にも、VL−κ結合性ドメインとして三次元構造を保持し、VL−κ結合性を示す(非特許文献7)。
PpLは、上述した通り、VL−κ結合性ドメインが4個または5個タンデムに並んだ形で含まれるタンパク質である。従って、本発明に係るVL−κ結合性ペプチドも、実施形態の1つとして、単量体または単ドメインであるVL−κ結合性ペプチドが2個以上、好ましくは3個以上、より好ましくは4個以上、より更に好ましくは5個以上連結された複数ドメインの多量体であってもよい。連結されるドメイン数の上限としては、10個以下が挙げられ、好ましくは8個以下、より好ましくは6個以下である。これらの多量体は、単一のVL−κ結合性ペプチドの連結体であるホモダイマー、ホモトリマー等のホモ多量体であってもよいし、複数種類のVL−κ結合性ペプチドの連結体であるヘテロダイマー、ヘテロトリマー等のヘテロ多量体であってもよい。
上記多量体において、単量体VL−κ結合性ペプチドの連結のされ方としては、1または複数のアミノ酸残基で連結する方法が挙げられるが、この方法に限定されるものではない。また、別の観点からは、単量体VL−κ結合性ペプチドの3次元立体構造を不安定化しないものが好ましい。
また、実施形態の1つとして、本発明のアフィニティ分離マトリックスのリガンドとしては、VL−κ結合性ペプチド、または、VL−κ結合性ドメインが2個以上連結された多量体が、1つの構成成分として、機能の異なる他のペプチドと融合されていることを特徴とする融合ペプチドも挙げられる。融合ペプチドの例としては、アルブミンやGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)が融合したペプチドを例として挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、DNAアプタマーなどの核酸、抗生物質などの薬物、PEG(ポリエチレングリコール)などの高分子が融合されている場合も、本発明で得られたアフィニティ分離マトリックスに対して有用性があれば、本発明に包含される。
本発明で用いるVL−κ結合性ペプチドは、常法により調製することが可能である。すなわち、所望のVL−κ結合性ペプチドのアミノ酸配列またはその断片をコードするDNAを化学的に合成し、VL−κ結合性ペプチドをコードするDNAをPCRにより増幅し、プラスミドなどのベクターに組み込む。得られたベクターを大腸菌などに感染させた上で培養し、培養された菌体または培養液から所望のVL−κ結合性ペプチドをクロマトグラフィなどで精製すればよい。
本発明で用いるアフィニティ分離マトリックスは、上記VL−κ結合性ペプチドが不溶性担体に固定化されたものである。本発明で用いる「不溶性担体」とは、VL−κ結合性ペプチドを含む液体試料の溶媒である水系溶媒に対して不溶性を示し、且つリガンドを担持することにより、リガンドへ特異的に結合する上記抗体/抗体断片の精製に用いることができるものをいう。本発明で用いる不溶性担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体;架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や;結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体;さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機−有機、有機−無機などの複合担体などが挙げられる。市販品としては、多孔質セルロースゲルであるGCL2000、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S−1000、アクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharose CL4B、および、セルロース系の架橋担体であるCellufineなどを例示することができる。但し、本発明における水不溶性担体は、例示したこれらの担体のみに限定されるものではない。
本発明に用いる不溶性担体は、アフィニティ分離マトリックスの使用目的および方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する多孔質であることが好ましい。担体の形態としては、ビーズ状、モノリス状、繊維状、膜状(中空糸を含む)などいずれも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。
本発明においてリガンドであるVL−κ結合性ペプチドを不溶性担体に固定化する方法としては、常法を用いればよい。例えば、不溶性担体の表面に存在する反応性基を利用して固定化する。具体的には、一般的な不溶性担体の表面には、アミノ基、水酸基、カルボキシ基などの反応性基が存在し、これらを活性化したり、別の反応性基に置換したり、これらに反応性基を有するリンカー基を導入してもよい。例えば、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタンなどを用いて水不溶性担体の表面にエポキシ基を導入したり、ヨードアセチル基、ブロモアセチル基、マレイミド基、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基などを導入すれば、VL−κ結合性ペプチドの反応性基との間でカップリング反応が容易に進行する。
水不溶性担体へのリガンドの固定化にリンカー基を用いる場合、当該リンカー基は特に制限されるものではないが、例えば、C1-6アルキレン基、アミノ基(−NH−)、イミノ基(>C=N−または−N=C<)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、カルボニル基(−C(=O)−)、チオニル基(−C(=S)−)、エステル基(−C(=O)−O−または−O−C(=O)−)、アミド基(−C(=O)−NH−または−NH−C(=O)−)、スルホキシド基(−S(=O)−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、スルホニルアミド基(−NH−S(=O)2−および−S(=O)2−NH−)、並びにこれら2以上が結合した基を挙げることができる。2以上のこれら基が結合して上記リンカー基が構成されている場合、当該結合数としては、10以下または5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
また、リガンドと担体の間に複数の原子からなるスペーサー分子を導入してもよいし、担体にリガンドを直接固定化してもよい。また、固定化のために、本発明に係るVL−κ結合性ペプチドを化学修飾してもよい。
本工程では、上記液体試料と上記アフィニティ分離マトリックスとを接触させることにより、VL−κ含有抗体/抗体断片を、リガンドである上記VL−κ結合性ペプチドに選択的に結合させる。その具体的な態様は特に制限されず、上記液体試料と上記アフィニティ分離マトリックスとを混合するのみでもよいが、例えば、利便性の観点から、本発明に係るアフィニティ分離マトリックスをカラムに充填してアフィニティカラムとし、当該アフィニティカラムに液体試料を通過させ、VL−κ結合性ペプチドに上記VL−κ含有抗体/抗体断片を選択的に吸着させることが好ましい。
本工程の条件は、上記液体試料に含まれる上記VL−κ含有抗体/抗体断片が上記アフィニティ分離マトリックスに十分に吸着される範囲で適宜調整すればよく、液体試料中に含まれる標的抗体断片以外の副産物については、マトリックスに吸着してもよいし、吸着していなくてもよい。VL−κを含む副産物であれば、この段階では上記アフィニティ分離マトリックスに吸着されている可能性がある。
工程3: アフィニティ分離マトリックスの洗浄工程
本工程では、上記工程1により上記VL−κ含有抗体/抗体断片が吸着保持されたアフィニティ分離マトリックスを洗浄し、上記VL−κ含有抗体/抗体断片、並びにVL−κを含む副産物以外の不純物を除去する。但し、VL−κを含む副産物も、VL−κ結合性ペプチドとの親和性によっては洗浄により除去される可能性がある。なお、この時点では、少なくとも標的VL−κ含有抗体/抗体断片はアフィニティ分離マトリックスに吸着されている。
本工程においてアフィニティ分離マトリックスの洗浄に用いられる洗浄液としては、上記VL−κ含有抗体断片とVL−κ結合性ペプチドとの相互作用を妨げないものを使用する。例えば、pHが5.0以上、9.0以下の水や緩衝液を洗浄液として用いることができる。洗浄液の使用量は、アフィニティ分離マトリックスから不純物を十分に除去できる範囲で適宜調整すればよい。不純物が十分に除去できたか否かは、例えば、クロマトグラフィーシステムを用いる場合、溶出プロファイルのモニターにより容易に判断することが可能である。
工程4: VL−κ含有抗体/抗体断片の分離工程
本工程では、上記工程3により洗浄されたアフィニティ分離マトリックスから、工程2の洗浄液よりも低いpHの溶出液を使用して、VL−κ含有抗体/抗体断片、VL−κ含有副産物を主として溶出する。
本工程では、溶出液のpHを連続的または段階的に低下させる。本発明者らによる実験的知見によれば、VL−κを含む点で共通する抗体/抗体断片であっても、VL−κ結合性ペプチドに対する親和性は異なり、溶出液のpHを変えることで互いに分離可能である。
本開示において「段階的」とは、溶出液のpHを低下させるに当たり、同一pHの溶出液を所定量で且つ所定時間用いることをいう。当該所定量と所定時間は、pHの異なる溶出液間で同じであってもよいし、異なっていてもよい。本工程の開始から完了までの間、pHの段階数は2以上、5以下が好ましく、4以下または3以下がより好ましく、2がより更に好ましい。特に、液体試料に含まれるVL−κ含有副産物が特定されており、標的VL−κ含有抗体/抗体断片の溶出pHと当該副産物の溶出pHが予備実験などにより明らかである場合には、両者を分離できる2種の溶出液を用いて溶出液のpHを段階的に低下させることにより、溶出液の使用量や溶出に要する時間を抑制することが可能になる。段階的な溶出液pHの低下は、溶出液の使用量や廃液量の低減の観点から、標的VL−κ含有抗体断片の工業的な大量生産において特に有用である。
pHを段階的に低下させる場合には、pHの異なる溶出液間に、上記工程2で用いたような洗浄液を用い、アフィニティ分離マトリックスを洗浄してもよい。例えば、標的VL−κ含有抗体/抗体断片を溶出させた後、洗浄液を用いてアフィニティ分離マトリックスを洗浄し、更により低pHの溶出液を用いて副産物を溶出してもよい。
本開示において「連続的」とは、経過時間に対して溶出液のpHが直線的に低下することをいう。溶出液を連続的に低下させることにより、液体試料に含まれるVL−κ含有副産物が特定されていない場合であっても、標的VL−κ含有抗体/抗体断片や副産物の溶出pHを特定でき、両者を分離でき得るという利点がある。溶出液のpHを連続的に低下させるには、pHが比較的高い溶出液とpHが比較的低い溶出液を準備し、前者に対する後者の割合を連続的に増加させることが考えられる。
溶出液のpHを低下させる際のpH勾配は、緩やかであるほど分離が容易となる。本工程で用いる溶出液の量としては、アフィニティ分離マトリックスの体積の5倍体積以上、100倍体積以内が好ましい。ここでの「アフィニティ分離マトリックスの体積」は、アフィニティ分離マトリックスの分散液をアフィニティ分離マトリックスが含まれるゲル状部分の体積がそれ以上減らないまで十分な時間静置するか或いはタッピングした場合のゲル状部分の体積をいう。なお当該体積は、「カラムボリューム」(CV)と言い換えることもでき、「mL−gel」で表す場合がある。
pH勾配の始点と終点のpH範囲には、6.0と2.0が含まれていることが好ましく、5.0と2.0が含まれていることがより好ましく、4.0と2.0が含まれていることがより更に好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
溶出液としては特に限定されないが、例えばクエン酸、酢酸、グリシン、塩酸、リン酸、ギ酸などを用いた一般的な緩衝液を使用すればよい。
溶出液には、標的VL−κ含有抗体/抗体断片の分離がより良好になり得ることから、更に塩を添加してもよい。かかる塩としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、およびチオシアン酸ナトリウムから必須的になる群より選択される1以上を挙げることができる。溶出液における当該塩の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、5mM以上、200mM以下とすることができる。
本工程では、設定した溶出液を流した後に、担体内に残存した副産物などを溶出させるため、最初の溶出液とは異なる溶液を更に流してもよい。最初の溶出液とは異なる溶液の種類は、1種類でもよいし、2種類でもよい。最初の溶出液とは異なる条件の例として、pH以外に、緩衝液の種類と濃度、塩添加の有無などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、基準となるアフィニティ分離マトリックスの体積は、懸濁状態であり、その体積が減少しなくなるまでタッピングまたは静置したゲル状態のアフィニティ分離マトリックスの体積とする。
本工程においては、分画量を少なくすることにより、標的VL−κ含有抗体/抗体断片の分離効率がより一層高くなる。例えば、1分画の量を、0.1CV(カラムボリューム)以上、2.0CV以下とすることができる。当該量としては、1.5CV以下または1.0CV以下が好ましく、0.5CV以下がより好ましく、0.2CV以下がより更に好ましい。
工程5: アフィニティ分離マトリックスの再生工程
本工程では、上記工程3において上記VL−κ含有抗体/抗体断片を分離したアフィニティ分離マトリックスを、アルカリ性水溶液で洗浄することによって再生する。但し、本工程は、上記工程3の後に必須的に実施する必要はなく、上記工程1〜3の繰り返しの3回に1回、5回に1回、または10回に1回の実施でも構わない。すなわち、結合容量などアフィニティ分離マトリックスの性能が維持されている状態では本工程は必ずしも実施する必要はなく、精製対象である上記VL−κ含有抗体/抗体断片を含む液体試料によってもその実施頻度や条件が異なる。
アフィニティ分離マトリックスの再生に用いる「アルカリ性水溶液」は、洗浄や殺菌などの目的を達成し得る程度のアルカリ性を示す水溶液である。より具体的には、0.01M以上1.0M以下、または、0.01N以上1.0N以下の水酸化ナトリウム水溶液などが該当するが、これに限定されるものではない。水酸化ナトリウムを例とした場合、その濃度の下限は、0.01Mが好ましく、0.02Mがより好ましく、0.05Mがさらにより好ましい。一方、水酸化ナトリウムの濃度の上限は、1.0Mが好ましく、0.5Mがより好ましく、0.3Mがさらにより好ましく、0.2Mがさらにより好ましく、0.1Mがさらにより好ましい。アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液である必要はないが、そのpHは12以上14以下が好ましい。pHの下限に関し、12.0以上が好ましく、12.5以上がより好ましい。pHの上限に関し、14以下が好ましく、13.5以下がさらにより好ましく、13.0以下がさらにより好ましい。
上記工程3を経たアフィニティ分離マトリックスをアルカリ性水溶液により処理する時間は、アルカリ性水溶液の濃度や処理時の温度によってペプチドの受けるダメージは異なるので、特に限定はされず、適宜調整すればよい。例えば、水酸化ナトリウムの濃度が0.05Mで、浸漬時の温度が室温の場合、アルカリ性水溶液に浸漬する時間の下限は、10分間または30分間が好ましく、1時間、2時間または4時間がより好ましく、10時間がより更に好ましいが、アフィニティ分離マトリックスの再生が可能な条件であれば特に限定はされない。上記時間の上限としては、例えば、20時間とすることができる。
本工程を経て再生されたアフィニティ分離マトリックスは、再び上記工程1〜3で使用し得る。
本願は、2018年9月28日に出願された日本国特許出願第2018−184385号に基づく優先権の利益を主張するものである。2018年9月28日に出願された日本国特許出願第2018−184385号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1: Fabの精製実験 − pHの連続的グラジェント
(1)Fab含有上清の調製
VL−κ含有抗体断片として、完全ヒト型化抗TNF−α抗体(adalimumab)の配列の公開配列情報に基づいて設計したFabを選択した。Fab遺伝子は、前記抗TNF−α抗体のFd鎖アミノ酸配列、および軽鎖アミノ酸配列をコードする遺伝子を設計し、化学合成したものをテンプレートにしてPCRで調製した。なお、Fd鎖とは、抗体の重鎖からヒンジ部位とFc領域を除いたCH1領域とVH領域をいう。得られたFab遺伝子を用い、前記Fabをメタノール資化酵母に生産させた。本Fab断片産生酵母の取得と培養は、WO2012/102171号公報の実施例1,8,9に記載された方法に準じて行った。この方法により、Fd鎖と軽鎖がジスルフィド結合で結合されたFab断片が生成される。得られたFab断片を含む培養液を遠心分離し、培養上清を回収した。回収した培養上清を、孔径0.22μmの滅菌濾過フィルター(「ミニザルト」ザルトリウス社)を用いて濾過した。
(2)市販のPpLを含むアフィニティ分離マトリックスの準備
κ鎖可変領域(VL−κ)を含む抗体断片を吸着可能なアフィニティ分離マトリックスとして、東ソー社の「TOYOPEARL(R) AF−rProtein L−650F」と、カネカ社の「KANEKA KanCapTM L」を入手し、それぞれ1mL−gel分を市販のカラム(「Tricorn 5/50」GEヘルスケア社)に充填した。なお、「1mL−gel」とは、懸濁状態のアフィニティ分離マトリックスを体積が減少しなくなるまでタッピングまたは静置したゲル状態のアフィニティ分離マトリックスの体積が1mLであることをいう。
(3)PpLを含むアフィニティ分離マトリックスを用いたFab含有上清からのFab精製
実施例1(1)で調製したFab含有培養上清から、実施例1(2)で準備した市販のプロテインL担体を使用して、Fabを精製した。具体的には、それぞれの担体が充填されたカラムをクロマトグラフィーシステム(「AKTAavant25」GEヘルスケア社)に接続した。まず、5CV(カラムボリューム)分の平衡化緩衝液(20mM Na2HPO4−NaH2PO4,150mM NaCl,pH7.4)をカラムに流通させて、担体を平衡化した。次に、実施例1(1)で調製したFab含有上清5mLをカラムに負荷した。次いで、3CV分の前記平衡化緩衝液を流通させて洗浄した。その後、50mMクエン酸緩衝液でpH5.0からpH2.0へのpH直線勾配にてFabを溶出させた。より具体的には、カラムを5CVの溶出液A(50mMシトレート,pH5.0)で平衡化させた後、20CV分の溶出液を通液する際に、溶出液B(50mMシトレート,pH2.0)の濃度を0%から100%に直線的に上げていく工程にて、2mLの画分を採取した。また各画分(2mL)のpHをpHメーターで測定し、Fab溶出ピークの画分のpHからピークトップ位置の溶出pHを求めた。以上の操作において、流速は0.33mL/minとした。またいずれの担体を用いた精製においても、試料負荷、洗浄、溶出の画分を回収した。回収した溶出画分は、2M Tris溶液にて中和した。
(4)結果の考察
TOYOPEARL(R) AF−rProtein L−650Fを用いた場合の溶出プロファイルを図1に、KANEKA KanCapTM Lを用いた場合の溶出プロファイルを図3に示す。
回収した試料負荷画分、洗浄画分、溶出画分をSDS−PAGEにて分析した。具体的には、電源搭載型ミニスラブ電気泳動槽(「パジェラン」アトー社製)と15%ポリアクリルアミド・プレキャストゲル(「e・PAGEL」アトー社製)を用いて、付属のマニュアルに従い、非還元処理条件でSDS−PAGEを行った。タンパク質検出用CBB染色溶液(「EzStain AQua」アトー社)を用いて、付属のマニュアルに従いゲルの染色と脱色を行った。TOYOPEARL(R) AF−rProtein L−650Fを用いた場合のSDS−PAGE結果を図2に、KANEKA KanCapTM Lを用いた場合のSDS−PAGE結果を図4に示す。
図1に示す結果の通り、Fab培養上清をTOYOPEARL(R) AF−rProtein L−650Fに負荷し、50mMクエン酸緩衝液でpH勾配をかけた場合、溶出ピークは2つとなった。ピークトップ位置から決定した1つ目のピークの溶出pHは2.88、2つ目のピークの溶出pHは2.72であった。図2は各画分をSDS−PAGEで確認した結果である。溶出ピークは前半から順に3分割したそれぞれの画分を確認した。溶出画分1から3まで順に画分のpHが低くなる。図2の溶出画分のバンドを確認すると、レーン4(溶出画分1)は分子量50kDa程度のバンドのみが存在し、レーン5では50kDa程度と25kDa程度のバンドが存在し、レーン6は25kDa程度のバンドの割合が小さいことが分かった。約25kDaのバンドは、分子量から軽鎖モノマーのものであると考えられる。またレーン6の50kDa程度のバンドは2つ存在していた。この二つのバンドについては、分子量が近いFabと軽鎖ダイマーであると考えられる。溶出ピークが2つに分かれていることから、採取する画分量を少なくしたり、目的物であるFabを溶出する際の溶出液のpH勾配をおだやかにすることにより、Fabと軽鎖ダイマーを分離できる可能性がある。なお、Fd鎖はPpLが結合可能なVL−κを含んでいないことから、溶出画分にはFd鎖やFd鎖ダイマーは含まれていないと考えられる。
図3に示す結果の通り、Fab培養上清をKANEKA KanCapTM Lに負荷し、50mMクエン酸緩衝液でpH勾配をかけた場合、溶出ピークは2つとなった。ピークトップから算出すると1つ目のピークの溶出pHは3.1、2つ目のピークの溶出pHは2.86であった。図4は各画分をSDS−PAGEで確認した結果である。溶出ピークは前半から順に2分割したそれぞれの画分を確認した。図4の溶出画分のバンドを確認すると、レーン4では分子量50kDa程度のバンドのみが存在し、レーン5では50kDa程度と25kDa程度のバンドが存在した。
これら2種類のPpLを含むアフィニティ分離マトリックスを用いたFab含有培養上清からのFabの精製では、いずれも軽鎖モノマーもしくは軽鎖ダイマーよりも高いpHでFabが溶出するという共通の傾向があることを見出した。かつ溶出画分によってはFabのみを含んでおり、この画分を選択すれば高い純度のFabを取得することが可能である。
実施例2: Fabの精製実験 − 酢酸緩衝液
市販のProtein L担体としてKANEKA KanCapTM Lのみと50mM酢酸緩衝液を用い、pH5.0からpH3.0へのpH直線勾配にてFabを溶出させた以外は上記実施例1(3)と同様にして、Fabの精製実験を行った。溶出プロファイルを図5に、SDS−PAGEの結果を図6に示す。
図5に示す結果のように、Fab培養上清をKANEKA KanCapTM Lに負荷し、50mM酢酸緩衝液でpH勾配をかけた場合、溶出ピークは2つとなった。ピークトップから算出すると1つ目のピークの溶出pHは3.65、2つ目のピークの溶出pHは3.53であった。図6は各画分をSDS−PAGEで確認した結果である。溶出ピークは前半から順に3分割したそれぞれの画分を確認した。図6の溶出画分のバンドを確認すると、レーン4では分子量50kDa程度のバンドのみが存在し、レーン5では50kDa程度と25kDa程度のバンドが存在した。
以上の結果から、溶出液の種類によらず、軽鎖モノマーおよび軽鎖ダイマーよりも高いpHでFabが溶出するという共通の傾向があることを見出した。
実施例3: Fabの精製実験 − pHの連続的勾配と塩化ナトリウムの併用
上記実施例1(1)で調製したFab含有培養上清を孔径0.22μmのフィルター(「ミニザルト」ザルトリウス社)で濾過した後、上記実施例1(2)で準備した市販のプロテインL担体(「KANEKA KanCapTM L」カネカ社製,および「Capto L」GEヘルスケア社製)を使用してFabを精製した。
担体が充填されたカラムをクロマトグラフィーシステムAKTAavant25(GEヘルスケア社)に接続して使用した。具体的には以下の操作を行った。まず、5CV(カラムボリューム)分の平衡化緩衝液(20mM Na2HPO4−NaH2PO4,150mM NaCl,pH7.4)をカラムに流通させて、担体を平衡化した。次に、上記実施例1(1)で調製したFab含有上清5mLをカラムに負荷した。次いで、3CV分の前記平衡化緩衝液を流通させて洗浄した。その後、100mM NaClを含む50mMクエン酸緩衝液を用い、pH5.0からpH2.2へのpH直線勾配にてFabを溶出させた。より具体的には、カラムを5CVの溶出液A(50mMシトレート,100mM NaCl,pH5.0)で平衡化させた後、20CV分の溶出液を通液する際に、溶出液B(50mMシトレート,100mM NaCl,pH2.2)の濃度を0%から100%に直線的に上げていく工程にて、Fabを溶出させた。また各画分のpHをpHメーターで測定し、Fab溶出ピークの画分のpHからピークトップの溶出pHを求めた。以上の操作において、流速は0.33mL/minとした。またいずれの担体を用いた精製においても、試料負荷、洗浄、溶出の画分を回収した。回収した溶出画分は、2M Tris溶液にて中和した。KANEKA KanCapTM Lの溶出プロファイルを図7に、Capto Lの溶出プロファイルを図9に示す。上記実施例1(3)と同様に、回収した試料負荷画分、洗浄画分、溶出画分をSDS−PAGEにて確認した。KANEKA KanCapTM Lのその結果を図8に、Capto Lの結果を図10に示す。
図7に示す結果のように、Fab培養上清をKANEKA KanCapTM Lに負荷し、100mM NaClを含む50mMクエン酸緩衝液でpH勾配をかけた場合、溶出ピークは2つとなった。ピークトップから算出すると1つ目のピークの溶出pHは2.7、2つ目のピークの溶出pHは2.18となり、実施例1(3)の場合と比較して溶出pHが低い傾向があるものの、2つのピークのpHの差異は大きくなった。図8は各画分をSDS−PAGEで確認した結果である。レーン4からレーン10は溶出ピークの画分を前半から順に並べており、レーン4からレーン10に向かって順に画分のpHが低い。この結果から分かるように、pHが低くなるにつれて、まず50kDa程度のバンド、25kDa程度のバンド、50kDa程度のバンドがそれぞれ主として画分に含まれている。レーン6とレーン7の約50kDaのバンドを見ると、分子量が僅かに異なることが分かる。ヒンジ部分を含むFabの分子量の方が軽鎖ダイマーよりも大きいので、約50kDaのバンドの内、分子量が大きいバンドの方がFab、小さい方が軽鎖ダイマーであり、比較的高いpHでFabが溶出し、その後に軽鎖ダイマーが溶出していると考えられる。実施例1(3)の結果と比較すると、より顕著にFabと軽鎖モノマー、軽鎖ダイマーの分離が容易になるということが分かった。
また、図9に示す結果のように、Fab培養上清をCapto Lに負荷し、100mM NaClを含む50mMクエン酸緩衝液でpH勾配をかけた場合、ショルダーを含む溶出ピークとなった。ピークの前半のショルダーのpHは2.94、溶出ピークのpHは2.58、ピーク後半のショルダーのpHは2.31であった。図10は各画分をSDS−PAGEで確認した結果である。レーン4からレーン7に向かって順に画分のpHが低い。この結果から分かるように、Capto LについてもpHが低くなるにつれて、まず50kDa程度のバンド、25kDa程度のバンド、50kDa程度のバンドがそれぞれ主として画分に含まれていた。溶出液にNaClが添加されてもFabと軽鎖モノマー、軽鎖ダイマーの分離が可能であることが示された。
実施例4: Fabの精製実験 − pHの連続的勾配と塩化マグネシウムの併用
市販のProtein L担体としてKANEKA KanCapTM Lのみと、100mMのMgCl2を含む50mMクエン酸緩衝液を用い、pH5.0からpH2.2へのpH直線勾配にてFabを溶出させた以外は上記実施例1(3)と同様にして、Fabの精製実験を行った。溶出プロファイルを図11に、SDS−PAGEの結果を図12に示す。
図11に示す結果のように、Fab培養上清をKANEKA KanCapTM Lに負荷し、100mMのMgCl2を含む50mMクエン酸緩衝液を用いてpH勾配をかけた場合、pH勾配中に溶出されるピークは1つとなった。ピークトップから算出するとピークの溶出pHは2.39であった。
図12は各画分をSDS−PAGEで確認した結果である。溶出ピークは前半から順に3分割したそれぞれの画分を確認した。図12の溶出画分のバンドを確認すると、レーン4から6では分子量50kDa程度のバンドのみが存在した。また、強溶出画分のレーンに含まれる約50kDaのバンドを見ると、分子量が僅かに異なる2つのバンドが含まれていることが分かる。ヒンジ部分を含むFabの分子量の方が軽鎖ダイマーよりも大きいので、この約50kDaのバンドの内、分子量が大きいバンドの方がFab、小さい方が軽鎖ダイマーであり、強溶出画分の約50kDaのバンドには主に軽鎖ダイマーが含まれると考えられる。この結果より、溶出液にMgCl2が添加されてもFabを純度高く分離可能であることが示された。
実施例5: Fabの精製実験 − pHの段階的勾配
(1)Fabの精製実験
上記実施例1(1)で調製したFab含有培養上清を孔径0.22μmのフィルター(「ミニザルト」ザルトリウス社)で濾過した後、実施例1(2)で準備した市販のプロテインL担体(「KANEKA KanCapTM L」カネカ社製)を使用し、pHを段階的に低下させてFabを精製した。最初に用いる溶出液1のpHは、実施例1(3)のKANEKA KanCapTM Lを用いた検討における1つ目の溶出ピークのpHである「3.1」とした。次に用いる溶出液2のpHは「2.5」とした。実施例1(3)と同様に、担体が充填されたカラムをクロマトグラフィーシステムAKTAavant25(GEヘルスケア社)に接続して使用した。具体的には以下の操作を行った。
まず、5CV(カラムボリューム)分の平衡化緩衝液(20mM Na2HPO4−NaH2PO4,150mM NaCl,pH7.4)をカラムに流通させて、担体を平衡化した。次に、上記実施例1(1)で調製したFab断片含有上清5mLをカラムに負荷した。次いで、5CV分の前記平衡化緩衝液を流通させて洗浄した後、10CV分の溶出液1(50mMシトレート,pH3.1)を流通させた。その後、3CV分の平衡化緩衝液を流通させ、さらに10CV分の溶出液2(50mMシトレート,pH2.5)を流通させた。以上の操作において、流速は0.33mL/minとした。試料負荷、洗浄、溶出の画分を回収した。回収した溶出画分は、2M Tris溶液にて中和した。溶出プロファイルを図13に示す。上記実施例1(3)と同様に、回収した試料負荷画分、洗浄画分、溶出画分をSDS−PAGEにて確認した。結果を図14に示す。
図14に示す結果のように、Fab培養上清をKANEKA KanCapTM Lに負荷し、溶出液1(50mMシトレート,pH3.1)で溶出した画分には、50kDa程度のバンドのみが存在し(レーン4,5)、溶出液2(50mMシトレート,pH2.5)で溶出した画分(レーン6)には、50kDa程度と25kDa程度のバンドが存在した。レーン6の50kDa付近には2つのバンドが含まれており、より低分子の軽鎖ダイマーが主に含まれていると考えられる。本結果より、適切にpHを設定した溶出液により、純度高くFabを精製取得することが可能であることが分かる。
(2)比較実験
比較実験として、溶出液として50mMクエン酸緩衝液(pH2.5)のみを用いた以外は上記実施例5と同様にして、Fabの溶出実験を行った。溶出プロファイルを図15に、回収した試料負荷画分、洗浄画分、溶出画分をSDS−PAGEにて確認した結果を図16に示す。
図16のレーン4から分かるように、溶出画分には50kDa程度と25kDa程度のバンドが存在しており、Fabと軽鎖モノマーを分離できていなかった。また、約50kDaのバンドはブロードになっており、Fabと軽鎖ダイマーがまったく分離されず含まれていると考えられる。
(3)精製Fabの純度確認
上記実施例5(1)で得られた溶出液中の全タンパク質量中のFabの割合を確認した。分析用にCH1領域への特異的吸着能を有する市販のプロテインG担体(「KANEKA KanCapTM G」カネカ社製)を使用した。
上記実施例5(1)で得られたFab含有溶出液を、市販のプロテインG担体(「KANEKA KanCapTM G」カネカ社製)に負荷した後、洗浄と酸性溶出により得られたクロマトグラムの全タンパク質のエリア面積に対する吸着画分のピークエリア面積の割合を算出した。担体が充填されたカラムをクロマトグラフィーシステムAKTAavant25(GEヘルスケア社)に接続して使用した。具体的には以下の操作を行った。
まず、3CV(カラムボリューム)分の平衡化緩衝液(20mM Na2HPO4−NaH2PO4,150mM NaCl,pH7.4)をカラムに流通させて、担体を平衡化した。次に、実施例5(1)で得られたFab断片含有溶出液1mLをカラムに負荷した。次いで、5CV分の前記平衡化緩衝液を流通させて洗浄した後、5CV分の溶出液(50mMシトレート,pH2.5)を流通させた。その後、3CV分の平衡化緩衝液を流通させ、さらに5CV分の1M 酢酸水溶液を流通させた。以上の操作において、流速は0.33mL/minとした。試料負荷、洗浄、溶出の画分を回収した。回収した溶出画分は、2M Tris溶液にて中和した。試料負荷から溶出までのクロマトグラムを図17に、回収した試料負荷画分、洗浄画分、溶出画分をSDS−PAGEにて確認した結果をそれぞれ図18に示す。
また、上記実施例5(2)の比較実験で得られたFab含有溶出液を同様に分析したクロマトグラムを図19に、SDS−PAGEにて確認した結果をそれぞれ図20に示す。
更に、図17と図19のクロマトグラムの全ピークエリア面積中の負荷画分と溶出画分の割合を表1に示す。なお、FabはプロテインGに吸着されるために溶出画分に含まれる一方で、CH1領域を有さない軽鎖モノマーや軽鎖ダイマーはプロテインGに吸着されないため、負荷画分に含まれると考えられる。
Figure 2020066270
図17と図19を比較すると、負荷画分と溶出画分のピークエリアの割合が大きく異なり、表1のそれぞれの全エリアに対する割合を比較すると明確な違いがあった。FabはCH1領域を有するので、リガンドとしてプロテインGを含むKANEKA KanCapTM Gに吸着されるために溶出画分に含まれる一方で、CH1領域を有さない軽鎖モノマーと軽鎖ダイマーはKANEKA KanCapTM Gには吸着されないため、負荷画分に含まれると考えられる。そこで、溶出画分の割合が高いほど、精製で得られたFab含有溶出液中のFab純度が高いことを示す。実際に、図18と図20のSDS−PAGEの結果から、負荷画分には軽鎖モノマーと軽鎖ダイマーの約50kDaと約25kDaのバンドが存在するのに対して、溶出画分にはFabの50kDaのバンドのみが存在することを確認した。これらの結果より、溶出液のpHを適切に設定することにより、より純度高くFabを精製取得することが可能であることが分かった。
実施例6: Fabの精製実験 − 塩を用いたpHの段階的勾配
上記実施例1(1)で調製したFab含有培養上清を孔径0.22μmのフィルター(「ミニザルト」ザルトリウス社)で濾過した後、実施例1(2)で準備した市販のプロテインL担体(「KANEKA KanCapTM L」カネカ社製)を使用して、pHを段階的に低下させつつFabを溶出して精製した。最初に用いる溶出液1のpHは、上記実施例3のKANEKA KanCapTM Lを用いた検討における、1つ目の溶出ピークのpHである「2.7」とした。次に用いる溶出液2のpHは「2.5」とした。実施例1(3)と同様に、担体が充填されたカラムをクロマトグラフィーシステムAKTAavant25(GEヘルスケア社)に接続して使用した。具体的には以下の操作を行った。
まず、5CV(カラムボリューム)分の平衡化緩衝液(20mM Na2HPO4−NaH2PO4,150mM NaCl,pH7.4)をカラムに流通させて、担体を平衡化した。次に、上記実施例1(1)で調製したFab断片含有上清5mLをカラムに負荷した。次いで、5CV分の前記平衡化緩衝液を流通させて洗浄した後、10CV分の溶出液1(50mMシトレート,100mM NaCl,pH2.7)を流通させた。その後、3CV分の平衡化緩衝液を流通させ、さらに10CV分の溶出液2(50mMシトレート,pH2.5)を流通させた。以上の操作において、流速は0.33mL/minとした。試料負荷、洗浄、溶出の画分を回収した。回収した溶出画分は、2M Tris溶液にて中和した。溶出プロファイルを図21に示す。またに、回収した試料負荷画分、洗浄画分、溶出画分をSDS−PAGEにて確認した。結果を図22に示す。
図21に示す結果のように、Fab培養上清をKANEKA KanCapTM Lに負荷し、溶出液1(50mMシトレート,100mM NaCl,pH2.7)で溶出した画分は、50kDa程度のバンドのみが存在し(レーン5,6)、溶出液2(50mMシトレート,pH2.5)で溶出した画分(レーン7)は50kDa程度と25kDa程度のバンドが存在した。レーン7の50kDa付近には2つのバンドが含まれており、より低分子量の軽鎖ダイマーが主に含まれていると考えられる。
また、精製して得られた溶出液中のFabの割合を、1段階目の溶出液として100mM NaClを含む50mMクエン酸緩衝液(pH2.7)を用いた以外は上記実施例5と同様の方法で評価した。結果を図23と表2に示す。
Figure 2020066270
図23と表2に示す結果の通り、溶出液に塩が含まれていても適切にpHを設定した溶出液により、高純度でFabを精製取得することが可能であることが分かった。

Claims (6)

  1. 抗体および/または抗体断片を製造するための方法であって、
    上記抗体および/または抗体断片がκ鎖可変領域を含むものであり、
    上記抗体および/または抗体断片に加えて軽鎖誘導体および重鎖誘導体の少なくとも一方を含む液体試料を、プロテインL、プロテインLのドメイン、プロテインL変異体、またはプロテインLドメイン変異体がリガンドとして不溶性担体に固定化されているアフィニティ分離マトリックスに接触させ、上記抗体および/または抗体断片を上記リガンドに吸着させる工程、
    上記抗体および/または抗体断片が吸着された上記アフィニティ分離マトリックスを洗浄する工程、および、
    溶出液により上記抗体および/または抗体断片を上記アフィニティ分離マトリックスから分離して溶出させる工程を含み、
    上記溶出工程において、上記溶出液のpHを連続的または段階的に低下させることを特徴とする方法。
  2. 上記溶出液に、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、およびチオシアン酸ナトリウムから選択される1以上の塩を配合する請求項1に記載の方法。
  3. 上記液体試料のpHが5.0以上、9.0以下である請求項1または2に記載の方法。
  4. 上記溶出液のpHが2.0以上、5.0以下である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 上記抗体断片がFabである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 上記溶出液のpHを2段階または3段階の段階的に低下させる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
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