本発明は、ラックエンド近傍の物理モデルに基づいた制御系を構成し、粘弾性モデル(バネ定数、粘性摩擦係数)を規範モデルとし、その規範モデルに制御対象の出力(ラックエンドまでの距離)が追従するようなモデルフォローイング制御を構成し、運転者に操舵違和感を与えずに端当て時の異音の発生を防止し、衝撃力を減衰する電動パワーステアリング装置の制御装置である。
モデルフォローイング制御は粘弾性モデル追従制御部で構成し、粘弾性モデル追従制御部をフィードフォワード制御部若しくはフィードバック制御部或いはその両者で構成し、ラックエンド手前の所定角度外では通常のアシスト制御を行い、ラックエンド手前の所定角度内でモデルフォローイング制御を行い、ラックエンドに当たることを抑制する。
また、仮想ラックエンドがあるように、即ち、運転者がハンドルを切り込もうとしてもラックエンドであるかのようにハンドルが進まないようにするために、運転者の手入力とタイヤ側からの反力との和に釣り合うようにアシスト力を出力する(タイヤと路面の摩擦が極低い場合は、運転者の手入力分だけとなる)。しかし、この場合、運転者の操舵方向と逆方向にアシストすることになるために、安全性を考慮して、アシスト力の最大値を制限する。また、運転者の操舵方向と同じ方向へのアシストにおいても、同様に、アシスト力の最大値を制限する。
アシスト力の最大値の制限では、柔軟な対応が取れるように、操舵速度に応じた制限を行う。例えば、操舵速度が速いときは仮想ラックエンドになるように強く制御し、遅いときは制御量の制限を強くして安全性を高めるようにする。具体的には、操舵速度が速いときの制限設定(以下、「高操舵時制限設定」とする)と操舵速度が遅いときの制限設定(以下、「低操舵時制限設定」とする)を用意し、操舵速度に応じて両設定を徐々に切り替えて制限を行う。また、操舵速度が遅く制御量の制限が強いときに、運転者が意図を持って操舵するとラックエンド方向に移動可能となり、さらに高操舵時制限設定に切り替わってしまう等、操舵速度の変動に対して制御量の制限が不適切な影響を与える可能性があるので、モデルフォローイング制御で使用する変位情報にシフト補正をかける。
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
上述のように、本発明は、モデルフォローイング制御、アシスト力の最大値の操舵速度に応じた制限の制御(以下、「アシスト制限制御」とする)及び変位情報へのシフト補正の制御(以下、「シフト補正制御」とする)を行うが、説明をわかりやすくするために、先ずはモデルフォローイング制御のみを行う実施形態(以下、「モデルフォローイング制御の実施形態」とする)について、次にそれにアシスト制限制御を加えた実施形態(以下、「アシスト制限制御の実施形態」とする)について説明し、それらの説明を踏まえて、シフト補正制御も加えた本発明の実施形態について説明する。
先ずは、モデルフォローイング制御の実施形態について説明する
図3はモデルフォローイング制御の実施形態の構成例を図2に対応させて示しており、電流指令値Iref1は変換部101でラック軸力fに変換され、ラック軸力fは粘弾性モデル追従制御部120に入力される。ラック軸力fはコラム軸トルクと等価であるが、以下の説明では便宜的にラック軸力として説明する。なお、図2に示される構成と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
電流指令値Iref1からラック軸力fへの変換は、下記数1に従って行われる。
ここで、Ktをトルク定数[Nm/A]、Grを減速比、Cfを比ストローク[m/rev.]として、G1=Kt×Gr×(2π/Cf)である。
回転角センサ21からの回転角θはラック位置変換部100に入力され、判定用ラック位置Rxに変換される。判定用ラック位置Rxはラックエンド接近判定部110に入力され、ラックエンド接近判定部110は図4に示すように、判定用ラック位置Rxがラックエンド手前の所定位置x0以内にあると判定したときに端当て抑制制御機能を働かせ、変位情報であるラック変位xを出力すると共に切替信号SWSを出力する。切替信号SWS及びラック変位xは、ラック軸力fと共に粘弾性モデル追従制御部120へ入力され、粘弾性モデル追従制御部120で制御演算されたラック軸力ffは変換部102で電流指令値Iref2に変換され、電流指令値Iref2は加算部103で電流指令値Iref1と加算されて電流指令値Iref3となる。電流指令値Iref3に基づいて、上述したアシスト制御が行われる。
なお、図4に示すラックエンド近接領域を設定する所定位置x0は、適宜な位置に設定可能である。また、回転角θをモータに連結された回転角センサ21から得ているが、舵角センサから取得するようにしても良い。
変換部102でのラック軸力ffから電流指令値Iref2への変換は、下記数2に従って行われる。
粘弾性モデル追従制御部120の詳細を、図5又は図6に示す。
図5では、ラック軸力fはフィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140に入力され、ラック変位xはフィードバック制御部140に入力される。フィードフォワード制御部130からのラック軸力FFは切替部121に入力され、フィードバック制御部140からのラック軸力FBは切替部122に入力される。切替部121及び122は切替信号SWSによってON/OFFされ、切替信号SWSによってOFFされているときは、各出力u1及びu2はゼロである。切替信号SWSによって切替部121及び122がONされたとき、切替部121からのラック軸力FFがラック軸力u1として出力され、切替部122からのラック軸力FBがラック軸力u2として出力される。切替部121及び122からのラック軸力u1及びu2が加算部123で加算され、加算値のラック軸力ffが粘弾性モデル追従制御部120から出力される。ラック軸力ffは、変換部102で電流指令値Iref2に変換される。
また、図6では、ラック変位xはフィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140に入力され、ラック軸力fはフィードバック制御部140に入力される。以下は図5の場合と同様に、フィードフォワード制御部130からのラック軸力FFは切替部121に入力され、フィードバック制御部140からのラック軸力FBは切替部122入力される。切替部121及び122は切替信号SWSによってON/OFFされ、切替信号SWSによってOFFされているときは、各出力u1及びu2はゼロである。切替信号SWSによって切替部121及び122がONされたとき、切替部121からのラック軸力FFがラック軸力u1として出力され、切替部122からのラック軸力FBがラック軸力u2として出力される。切替部121及び122からのラック軸力u1及びu2が加算部123で加算され、加算値のラック軸力ffが粘弾性モデル追従制御部120から出力される。ラック軸力ffは変換部102で電流指令値Iref2に変換される。
このような構成において、先ずモデルフォローイング制御の実施形態の動作例全体を図7のフローチャートを参照して、次いで粘弾性モデル追従制御の動作例を図8のフローチャートを参照して説明する。
スタート段階においては、切替部121及び122は切替信号SWSによってOFFされている。そして、動作がスタートすると先ず、トルク制御部31は操舵トルクTh及び車速Velに基づいて電流指令値Iref1を演算し(ステップS10)、ラック位置変換部100は回転角センサ21からの回転角θを判定用ラック位置Rxに変換する(ステップS11)。ラックエンド接近判定部110は判定用ラック位置Rxに基づいてラックエンド接近か否かを判定し(ステップS12)、ラックエンド接近でない場合には、粘弾性モデル追従制御部120からラック軸力ffは出力されず、電流指令値Iref1に基づく通常の操舵制御が実行され(ステップS13)、終了となるまで継続される(ステップS14)。
一方、ラックエンド接近判定部110でラックエンド接近が判定された場合には、粘弾性モデル追従制御部120による粘弾性モデル追従制御が実行される(ステップS20)。即ち、図8に示すように、ラックエンド接近判定部110から切替信号SWSが出力されると共に(ステップS201)、ラック変位xが出力される(ステップS202)。また、変換部101は、前記数1に従って電流指令値Iref1をラック軸力fに変換する(ステップS203)。図5の実施形態では、フィードフォワード制御部130はラック軸力fに基づいてフィードフォワード制御を行い(ステップS204)、フィードバック制御部140はラック変位x及びラック軸力fに基づいてフィードバック制御を行う(ステップS205)。また、図6の実施形態では、フィードフォワード制御部130はラック変位xに基づいてフィードフォワード制御を行い(ステップS204)、フィードバック制御部140はラック変位x及びラック軸力fに基づいてフィードバック制御を行う(ステップS205)。なお、いずれの場合も、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の順番は、逆であっても良い。
ラックエンド接近判定部110からの切替信号SWSは切替部121及び122に入力され、切替部121及び122がONされる(ステップS206)。切替部121及び122がONされると、フィードフォワード制御部130からのラック軸力FFがラック軸力u1として出力され、フィードバック制御部140からのラック軸力FBがラック軸力u2として出力される。ラック軸力u1及びu2は加算部123で加算され(ステップS207)、加算結果としてのラック軸力ffが変換部102で、上記数2に従って電流指令値Iref2に変換される(ステップS208)。
ここで、粘弾性モデル追従制御部120は、ラックエンド近辺の物理モデルに基づいた制御系となっており、ラックエンド手前の所定角度以内で粘弾性モデル(バネ定数k0[N/m]、粘性摩擦係数μ[N/(m/s)])を規範モデル(入力:力、出力:変位で記述された物理モデル)としたモデルフォローイング制御を構成し、ラックエンドに当たることを防止している。
図9はラックエンド近傍の模式図を示しており、質量mと力F0,F1の関係は数3である。粘弾性モデルの方程式の算出は、例えば関西大学理工学会誌「理工学と技術」Vol.17(2010)の「弾性膜と粘弾性の力学の基礎」(大場謙吉)に示されている。
そして、ラック変位x
1、x
2に対して、k
0、k
1をバネ定数とすると、数4〜数6が成立する。
従って、上記数3に上記数4〜数6を代入して数7となる。
上記数7を微分すると、下記数8となり、μ
1/k
1を両辺に乗算すると数9となる。
数10に上記数4及び数6を代入すると、下記数11となる。
ここで、μ
1/k
1=τ
e,k
0=E
r,μ
1(1/k
0+1/k
1)=τ
δとすると、上記数11は数12となり、ラプラス変換すると数13が成立する。
上記数13をX(s)/F(s)で整理すると、下記数14となる。
数14は入力力fから出力変位xまでの特性を示す3次の物理モデル(伝達関数)となり、バネ定数k
1=∞のバネとするとτ
e→0であり、τ
δ=μ
1・1/k
0であるので、2次関数の下記数15が導かれる。
本発明では、数15で表される2次関数を規範モデルGmとして説明する。即ち、数16を規範モデルGmとしている。ここで、μ
1=μとしている。
次に、電動パワーステアリング装置の実プラント146を下記数17で表わされるPとし、本発明の規範モデル追従型制御を2自由度制御系で設計すると、Pn及びPdを実際のモデルとして図10の構成となる。ブロック143(Cd)は制御要素部を示している。(例えば朝倉書店発行の前田肇、杉江俊治著「アドバンスト制御のためのシステム制御理論」参照)
実プラントPを安定な有理関数の比で表わすために、N及びDを下記数18で表わす。Nの分子はPの分子、Dの分子はPの分母となる。ただし、αは(s+α)=0の極が任意に選択できる。
図10の構成を規範モデルGmに適用すると、x/f=Gmとなるためには、1/Fを下記数19のように設定する必要がある。なお、数19は、数16及び数18より導かれる。
フィードバック制御部のブロックN/Fは下記数20である。
フィードフォワード制御部のブロックD/Fは下記数21である。
2自由度制御系の一例を示す図10において、実プラントPへの入力(ラック軸力若しくはコラム軸トルクに対応する電流指令値)uは、下記数22で表される。
また、実プラントPの出力(ラック変位)xは下記数23である。
数23を整理し、出力xの項を左辺に、fの項を右辺に揃えると、数24が導かれる。
数24を入力fに対する出力xの伝達関数として表わすと、数25となる。ここで、3項目以降ではP=Pn/Pdとして表現している。
実プラントPを正確に表現できたとすれば、Pn=N、Pd=Dとすることができ、入力fに対する出力xの特性は、Pn/F(=N/F)として表わされるので、数26が成立する。
入力fに対して出力xの特性(規範モデル(伝達関数))を、下記数27のようにすると考えるとき、
図10において、フィードフォワード制御系をブロック144→実プラントPの経路で考えると、図11となる。ここで、P=N/Dとすると、図11(A)は図11(B)となり、数20より図11(C)が得られる。図11(C)より、f=(m・s
2+μ・s+k0)xとなるので、これを逆ラプラス変換すると、下記数29が得られる。
一方、図12に示すようなフィードフォワード制御系の伝達関数ブロックを考えると、下記数30が入力f及び出力xにおいて成立する。
数30を整理すると下記31となり、数31を入力fについて整理すると、数32が得られる。
数32を逆ラプラス変換すると上記数29となり、結果的に図13に示すように2つのフィードフォワード制御部A及びBは等価である。
上記前提を踏まえ、以下に粘弾性モデル追従制御部の具体的な構成例を図14及び図15に示して説明する。図14は図5の実施形態に対応し、ラック軸力fがフィードフォワード制御部130内のフィードフォワード要素144(数21で示されるD/F)及びフィードバック制御部140に入力され、ラック変位xがフィードバック制御部140に入力される。また、図15は図6の実施形態に対応し、ラック変位xがフィードフォワード制御部130内のバネ定数項131及び粘性摩擦係数項132に入力され、ラック軸力fがフィードバック制御部140に入力される。
図14ではフィードフォワード要素144からのラック軸力FFは切替部121のb1接点に入力される。また、図15では、フィードフォワード制御部130内のバネ定数項131及び粘性摩擦係数項132の出力を減算部133で減算し、減算部133の減算結果であるラック軸力FFが切替部121のb1接点に入力される。切替部121のa1接点には、固定部125から固定値「0」が入力されている。
図14の実施形態及び図15の実施形態のいずれにおいても、フィードバック制御部140はフィードバック要素(N/F)141、減算部142、制御要素部143で構成され、フィードバック制御部140からのラック軸力FB、つまり制御要素部143の出力は切替部122のb2接点に入力される。切替部122のa2接点には、固定部126から固定値「0」が入力されている。
図14の実施形態では、ラック軸力fはフィードフォワード制御部130内のフィードフォワード要素144に入力されると共に、フィードバック制御部140のフィードバック要素(N/F)141に入力される。ラック変位xはフィードバック制御部140の減算部142に減算入力されると共に、パラメータ設定部124に入力される。パラメータ設定部124はラック変位xに対して、例えば図16に示すような特性のバネ定数k0及び粘性摩擦係数μを出力し、バネ定数k0及び粘性摩擦係数μは、フィードフォワード制御部130内のフィードフォワード要素144及びフィードバック制御部140内のフィードバック要素(N/F)141に入力される。
図15の実施形態では、ラック変位xはフィードフォワード制御部130内のバネ定数項131及び粘性摩擦係数項132に入力されると共に、フィードバック制御部140の減算部142に入力され、更にパラメータ設定部124に入力される。ラック軸力fはフィードバック制御部140のフィードバック要素(N/F)141に入力される。パラメータ設定部124はラック変位xに対して、上述と同様なバネ定数k0及び粘性摩擦係数μを出力し、バネ定数k0はバネ定数項131及びフィードバック要素(N/F)141に入力され、粘性摩擦係数μは粘性摩擦係数項132及びフィードバック要素(N/F)141に入力される。
また、切替信号SWSは、いずれの実施形態においても切替部121及び122に入力され、切替部121及び122の接点は通常時はそれぞれ接点a1及びa2に接続されており、切替信号SWSによってそれぞれ接点b1及びb2に切替えられるようになっている。
このような構成において、図15の実施形態の動作例を図17のフローチャートを参照して説明する。
ラックエンド接近判定部110から切替信号SWSが出力されると共に(ステップS21)、ラック変位xが出力される(ステップS22)。ラック変位xはバネ定数項131、粘性摩擦係数項132、パラメータ設定部124及び減算部142に入力される。パラメータ設定部124は、ラック変位xに応じて図16の特性に従って求められたバネ定数k0及び粘性摩擦係数μを、バネ定数項131、粘性摩擦係数項132及びフィードバック要素(N/F)141に設定する(ステップS23)。また、変換部101は電流指令値Iref1をラック軸力fに変換し(ステップS23A)、ラック軸力fはフィードバック要素(N/F)141に入力され、N/F演算される(ステップS24)。N/F演算値は減算部142に加算入力され、ラック変位xが減算され(ステップS24A)、その減算値が制御要素部143でCd演算される(ステップS24B)。制御要素部143から、演算されたラック軸力FBが出力されて切替部122の接点b2に入力される。
フィードフォワード制御部130内の粘性摩擦係数項132は、粘性摩擦係数μに基づいて“(μ−η)・s”の演算を行い(ステップS25)、バネ定数項131にバネ定数k0を設定し(ステップS25A)、減算部でバネ定数k0及び“(μ−η)・s”の減算を行い(ステップS25B)、演算結果としてラック軸力FFを出力する。ラック軸力FFは切替部121の接点b1に入力される。なお、フィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140の演算の順番は、逆であっても良い。
ラックエンド接近判定部110からの切替信号SWSは切替部121及び122に入力され、切替部121及び122の各接点がa1からb1へ、a2からb2へ切替えられ、切替部121及び122からのラック軸力u1及びu2が加算部123で加算され(ステップS26)、加算結果としてのラック軸力ffが変換部102で電流指令値Iref2に変換される(ステップS26A)。電流指令値Iref2は加算部103に入力され、電流指令値Iref1に加算され(ステップS27)、操舵制御が実行され、ステップS14へとつながる。
なお、制御要素部143(Cd)は任意のPID(比例積分微分)制御、PI制御、PD制御の構成のいずれでも良い。また、図14の実施形態の動作も、ラック軸力f及びラック変位xが入力する部分(要素)が異なるだけで、同様である。さらに、図14の実施形態及び図15の実施形態では、フィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140の両方の制御演算を実行しているが、フィードフォワード制御部130のみの構成でも良く、フィードバック制御部140のみの構成でも良い。
次に、アシスト制限制御の実施形態について説明する。なお、以下では、ラック軸力(及びコラム軸トルク)は、ハンドルが右に切られている(以下、「右切操舵」とする)ときは正の値に、ハンドルが左に切られている(以下、「左切操舵」とする)ときは負の値になるように設定されているとする。
図18はアシスト制限制御の実施形態の構成例を図3に対応させて示しており、図3に示されるモデルフォローイング制御の実施形態に対して制御量制限部150及び操舵速度演算部160が追加されており、ラックエンド接近判定部110がラックエンド接近判定部210に代わっている。
ラックエンド接近判定部210は、ラック変位x及び切替信号SWの他に、ハンドルの操舵方向を示す方向信号Sdを出力する。ラックエンド接近判定部210に入力される判定用ラック位置Rxに基づいてハンドルの操舵方向を判定し、右切操舵の場合は方向信号Sdを「右切」にして出力し、左切操舵の場合は方向信号Sdを「左切」にして出力する。
操舵速度演算部160は、ラックエンド接近判定部210から出力されるラック変位xを微分することにより、操舵速度ωを算出する。
制御量制限部150は、粘弾性モデル追従制御部120から出力されるラック軸力ff(制御量)の最大値及び最小値を、方向信号Sd、電流指令値Iref1から変換されるラック軸力f及び操舵速度ωに基づいて制限する。制限するためにラック軸力ffに対する制限値である上限値及び下限値を設定するが、右切操舵の場合の制限値と左切操舵の場合の制限値をそれぞれ設定する。また、より適切な制限値を設定すべく、制限値はラック軸力に基づいて設定される。さらに、操舵速度が高いときの高操舵時制限設定及び操舵速度が低いときの低操舵時制限設定を用意し、操舵速度ωに応じて徐々に両設定を切り替える。具体的には、高操舵時制限設定では、仮想ラックエンドになるように強く制御するために、例えば、右切操舵の場合、上限値(以下、「右切上限値」とする)RU1は下記数33のようにラック軸力fに所定の値Fx1(例えば2Nm)を加算した値とし、下限値(以下、「右切下限値」とする)RL1は下記数34のようにラック軸力fの符号を反転した値から所定の値Fx2(例えば10Nm)を減算した値とする。
左切操舵の場合は、右切操舵の場合の上限値及び下限値を入れ替えた値を上限値(以下、「左切上限値」とする)LU1及び下限値(以下、「左切下限値」とする)LL1とする。即ち、下記数35及び数36のようになる。
例えば、ラック軸力fが操舵角に対して図19の破線で示されるように変化する場合、制限値は図19の実線で示されるように変化する。
低操舵時制限設定では、より制御量を制限して安全性を高めるべく、例えば、右切下限値及び左切上限値の算出において所定の値の加減算を高操舵時制限設定とは逆にする。しかし、逆方向のアシスト力を加えないようにするために、右切下限値はゼロを超えず、左切上限値はゼロ未満にならないようにする。即ち、右切上限値RU2は下記数37のようにラック軸力fに所定の値Fx3(例えば2Nm)を加算した値とし、右切下限値RL2は下記数38のようにラック軸力fの符号を反転した値に所定の値Fx4(例えば5Nm)を加算した値とするが、右切下限値RL2がゼロを超えた場合、右切下限値RL2はゼロにする。
左切上限値LU2及び左切下限値LL2は、右切上限値RU2及び右切下限値RL2を入れ替えた、下記数39及び数40のような値とするが、左切上限値LU2がゼロ未満の場合、左切上限値LU2はゼロにする。
例えば、ラック軸力fが操舵角に対して図20の破線で示されるように変化する場合、制限値は実線で示されるように変化する。
高操舵時制限設定及び低操舵時制限設定の切り替えを操舵速度ωに応じて徐々に行うために、高操舵時制限設定及び低操舵時制限設定で設定された各制限値にゲインを乗算し、それらを加算した値を制限値とする。
制御量制限部150の構成例を図21に示す。制御量制限部150は、高操舵時制限値演算部151、低操舵時制限値演算部152、高操舵時ゲイン部153、低操舵時ゲイン部154、制限部155及び加算部156、157で構成されている。
高操舵時制限値演算部151は、方向信号Sd及びラック軸力fを用いて、高操舵時制限設定により上限値UPH及び下限値LWHを算出する。即ち、方向信号Sdが「右切」の場合は、数33で算出される右切上限値RU1を上限値UPHとし、数34で算出される右切下限値RL1を下限値LWHとする。方向信号Sdが「左切」の場合は、数35で算出される左切上限値LU1を上限値UPHとし、数36で算出される左切下限値LL1を下限値LWHとする。
低操舵時制限値演算部152は、方向信号Sd及びラック軸力fを用いて、低操舵時制限設定により上限値UPH及び下限値LWHを算出する。即ち、方向信号Sdが「右切」の場合は、数37で算出される右切上限値RU2を上限値UPLとし、数38で算出される右切下限値RL2を下限値LWLとするが、下限値LWLがゼロを超えた場合、下限値LWLはゼロにする。方向信号Sdが「左切」の場合は、数39で算出される左切上限値LU2を上限値UPLとし、数40で算出される左切下限値LL2を下限値LWLとするが、上限値UPLがゼロ未満の場合、上限値UPLはゼロにする。
高操舵時ゲイン部153は、操舵速度ωに対して、例えば図22に示されるような特性を有する高操舵時ゲインGHを上限値UPH及び下限値LWHにそれぞれ乗算し、上限値UPHg及び下限値LWHgを算出する。図22に示される高操舵時ゲインGHの特性は、所定の操舵速度ω1までは0%で、所定の操舵速度ω1からω2(ω2>ω1)の間では操舵速度ωに比例して大きくなり、所定の操舵速度ω2を超えると100%となるような特性である。
低操舵時ゲイン部154は、操舵速度ωに対して、例えば図23に示されるような特性を有する低操舵時ゲインGLを上限値UPL及び下限値LWLにそれぞれ乗算し、上限値UPLg及び下限値LWLgを算出する。図23に示される低操舵時ゲインGLの特性は、図22に示される高操舵時ゲインGHの特性の逆の特性となっている。
加算部156は、上限値UPHgとUPLgを加算し、上限値UPを算出する。加算部157は、下限値LWHgとLWLgを加算し、下限値LWを算出する。
制限部155は、上限値UP及び下限値LWを用いて、ラック軸力ffに制限をかける。
このような構成において、アシスト制限制御の実施形態の動作例を、図24〜図26のフローチャートを参照して説明する。
図24に全体の動作例をフローチャートで示しており、図7のフローチャートと比べると、方向信号Sdの出力(ステップS11A)が追加され、通常操舵(ステップS13)及び粘弾性モデル追従制御(ステップS20)に制御量制限部150及び操舵速度演算部160での処理が加わるので、変更が生じている(ステップS13A、S20A)。
ステップS11Aでは、ラックエンド接近判定部210が、入力された判定用ラック位置Rxに基づいてハンドルの操舵方向を判定し、判定結果(右切、左切)を方向信号Sdとして制御量制限部150に出力する。
粘弾性モデル追従制御(ステップS20A)での動作例を図25のフローチャートで示す。図8のフローチャートと比べると、ステップS207A及びS207Bが追加されている。
ステップS207Aでは、ステップS202にてラックエンド接近判定部210から出力されたラック変位xが、粘弾性モデル追従制御部120の他に操舵速度演算部160にも入力される。操舵速度演算部160は、ラック変位xより操舵速度ωを算出し、制御量制限部150に出力する。
ステップS207Bでは、制御量制限部150が、方向信号Sd、ラック軸力f及び操舵速度ωに基づいて、粘弾性モデル追従制御部120から出力されたラック軸力ffに制限をかける。図26に制御量制限部150によるステップS207Bの詳細な動作例を示す。
ラックエンド接近判定部210から出力された方向信号Sd及び変換部101から出力されたラック軸力fは、高操舵時制限値演算部151及び低操舵時制限値演算部152に入力される(ステップS301)。
高操舵時制限値演算部151は、方向信号Sdが「右切」の場合(ステップS302)、右切上限値RU1を上限値UPHとし、右切下限値RL1を下限値LWHとして出力する(ステップS303)。方向信号Sdが「左切」の場合(ステップS302)、左切上限値LU1を上限値UPHとし、左切下限値LL1を下限値LWHとして出力する(ステップS304)。
低操舵時制限値演算部152は、方向信号Sdが「右切」の場合(ステップS305)、右切上限値RU2を上限値UPLとし、右切下限値RL2を下限値LWLとして出力する(ステップS306)。方向信号Sdが「左切」の場合(ステップS305)、左切上限値LU2を上限値UPLとし、左切下限値LL2を下限値LWLとして出力する(ステップS307)。なお、高操舵時制限値演算部151での動作と低操舵時制限値演算部152での動作の順番は逆でも並行して実行しても良い。
高操舵時ゲイン部153は、上限値UPH、下限値LWH及び操舵速度ωを入力し、図22に示される特性を用いて操舵速度ωに対する高操舵時ゲインGHを求め、上限値UPH及び下限値LWHにそれぞれ乗算し、上限値UPHg(=UPH×GH)及び下限値LWHg(=LWH×GH)を出力する(ステップS308)。
低操舵時ゲイン部154は、上限値UPL、下限値LWL及び操舵速度ωを入力し、図23に示される特性を用いて操舵速度ωに対する低操舵時ゲインGLを求め、上限値UPL及び下限値LWLにそれぞれ乗算し、上限値UPLg(=UPL×GL)及び下限値LWLg(=LWL×GL)を出力する(ステップS309)。なお、高操舵時ゲイン部153での動作と低操舵時ゲイン部154での動作の順番は逆でも並行して実行しても良い。
上限値UPHg及びUPLgは加算部156に入力され、加算結果が上限値UPとして出力される(ステップS310)。下限値LWHg及びLWLgは加算部157に入力され、加算結果が下限値LWとして出力される(ステップS311)。
上限値UP及び下限値LWは、粘弾性モデル追従制御部120から出力されたラック軸力ffと共に、制限部155に入力される。制限部155は、ラック軸力ffが上限値UP以上ならば(ステップS312)、ラック軸力ffの値を上限値UPとし(ステップS313)、ラック軸力ffが下限値LW以下ならば(ステップS314)、ラック軸力ffの値を下限値LWとし(ステップS315)、それ以外ならばラック軸力ffの値を変更しない。制限をかけられたラック軸力ffはラック軸力ffmとして出力される(ステップS316)。
ラック軸力ffmは変換部102で電流指令値Iref2に変換され(ステップS208A)、加算部103で電流指令値Iref1に加算される。
通常操舵(ステップS13A)でも、粘弾性モデル追従制御の場合と同様に、粘弾性モデル追従制御部120から出力されたラック軸力ffに制限がかけられる。しかし、この場合のラック軸力ffの値はゼロであるから、制限されることなく、ラック軸力ffがそのままラック軸力ffmとして出力される。
なお、低操舵時制限設定で使用する所定の値Fx3及びFx4として、高操舵時制限設定で使用する所定の値Fx1及びFx2を使用しても良い。また、左切上限値及び左切下限値は右切上限値及び右切下限値を入れ替えた値としているが、違う所定の値を使用する等して、入れ替えた値にしなくても良い。さらに、右切操舵の場合と左切操舵の場合で同じ制限値を使用しても良く、その場合は、方向信号Sdは不要となるので、ラックエンド接近判定部210でのハンドルの操舵方向の判定及び制御量制限部150での方向信号Sdによる動作の切替えも不要となる。また、ラック軸力fに基づいて制限値を設定しているが、ラック軸力fに対して変動しない制限値を用いても良い。この場合、操舵速度が速いときは仮想ラックエンドになるように強く制御し、遅いときは制御量の制限を強くして安全性を高めるように、上限値及び下限値を調整する。高操舵時ゲインGH及び低操舵時ゲインGLの操舵速度ω1とω2の間の特性は、図22及び図23に示されるような直線的な特性に限られず、高操舵時ゲインGHと低操舵時ゲインGLの和が100%となるならば、曲線的な特性でも良い。
上述のモデルフォローイング制御及びアシスト制限制御を行うアシスト制限制御の実施形態にシフト補正制御を加えた本発明の実施形態について説明する。
アシスト制限制御の実施形態では、操舵速度が遅くなると高操舵時制限設定から低操舵時制限設定に徐々に切り替わり、制限が強められる。よって、アシスト力がある程度発生するので、運転者が意思を持って操舵するとラックエンド方向に移動可能となる。このとき、操舵速度が速くなると、制限値は高操舵時制限設定の方に切り替わっていく。また、ラックエンド方向に移動したことにより、制限前の制御量(ラック軸力ff)は、端当て防止のためにラックエンド方向への移動量が大きいほど制御量が大きくなるようにパラメータが設定されているので、大きくなっている。このように、制限値変化及び制御量変化の複合作用で最終出力が大きく変化し、操舵方向へのアシスト力が小さくなり、操舵速度が遅くなる。これが繰り返し起こり、運転者は操舵しにくくなる。これを抑制するために、本実施形態ではラック変位にシフト補正をかける。
図27は本発明の実施形態の構成例(第1実施形態)を図18に対応させて示しており、同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
第1実施形態では、図18に示されるアシスト制限制御の実施形態と比べると、粘弾性モデル追従制御部120が粘弾性モデル追従制御部220に代わっている。
粘弾性モデル追従制御部220の構成例としては、例えば図6に示される構成を基とした場合、図28に示されるような構成となる。即ち、第1実施形態ではシフト補正部250が追加され、ラック変位xはシフト補正部250に入力され、シフト補正部250から出力される補正ラック変位xsがフィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140に入力される。粘弾性モデル追従制御部220のさらに詳細な構成例は図29に示されるような構成となり、シフト補正部250から出力される補正ラック変位xsはパラメータ設定部124にも入力される。
シフト補正部250は、ラック変位xに対してシフト補正をかける。具体的には、図30に示されるように、設定されたラックエンド(以下、「設定ラックエンド」とする)xendから所定の間隔(限界値)Δx1だけ手前の位置(以下、「仮想ラックエンド」とする)xendvを目標(第1目標値)として設定し、ラック変位xが仮想ラックエンドxendvを越えてラックエンドに接近した場合、仮想ラックエンドxendvからの変化量Δx2(=x−xendv)を算出し、ラック変位xから変化量Δx2を差し引いて、補正ラック変位xsとして出力する。ラック変位xが仮想ラックエンドxendvを越えていない場合は、ラック変位xを補正ラック変位xsとして出力する。つまり、ラック変位xが仮想ラックエンドxendvを越えた場合、補正ラック変位xsは仮想ラックエンドxendvで固定となる。なお、図30において、xendrは実際のラックエンドであり、製造バラツキや調整誤差を考慮して設計的に最小である設定ラックエンドxendより、通常長い値である。
このような構成において、第1実施形態の動作例を、図31及び図32のフローチャートを参照して説明する。
第1実施形態の動作では、アシスト制限制御の実施形態の動作と比べると、粘弾性モデル追従制御の動作にシフト補正部250の動作が加わることとなる。図31は、粘弾性モデル追従制御の動作例を図17に対応させて示したフローチャートである。第1実施形態の動作例では、図17に示される動作例と比べると、ステップS22A、S26a及びS26bが加わり、ステップS26AがステップS26Bに代わっている。ただ、図17に示される動作例はモデルフォローイング制御の実施形態に対する動作例であり、ステップS26a、S26b及びS26Bはアシスト制限制御の追加により追加及び変更となった動作であり、シフト補正制御の追加により追加された動作はステップS22Aだけである。なお、ステップS26a、S26b及びS26Bでは、図25に示されるアシスト制限制御の実施形態の動作例でのステップS207A、S207B及びS208Aと同様の動作がそれぞれ行われる。
ステップS22Aでのシフト補正の具体的な動作例を図32に示す。ラックエンド接近判定部210から出力されたラック変位xを入力したシフト補正部250は、ラック変位xが仮想ラックエンドxendvを越えているか(ラック変位xが第1目標値を超えているか)確認する(ステップS221)。ラック変位xが仮想ラックエンドxendvを越えている場合、仮想ラックエンドxendvからの変化量Δx2を算出し(ステップS222)、変化量Δx2を用いてラック変位xを補正し、補正ラック変位xs(=x−Δx2)を算出する(ステップS223)。ラック変位xが仮想ラックエンドxendvを越えていない場合、ラック変位xを補正ラック変位xsとする(ステップS224)。シフト補正部250は補正ラック変位xsを出力(ステップS225)し、補正ラック変位xsはフィードフォワード制御部130のバネ定数項131及び粘性摩擦係数項132、パラメータ設定部124、並びにフィードバック制御部140の減算部142に入力される。
ここで、第1実施形態の効果について、図33及び図34を用いて説明する。
図33は、横軸を判定用ラック位置Rx、縦軸をアシスト力として、右切操舵の場合のアシスト力(ラック軸力)及び制限値の変化の様子を示す図である。
電流指令値Iref1に基づいたアシスト力、即ちラック軸力fが、図33での(a)のように、仮想ラックエンドxendvまでは判定用ラック位置Rxに比例して大きくなり、仮想ラックエンドxendv以降は一定となるように変化する場合、操舵速度ω=dx/dtが0のときの下限値LWは(g)のように、操舵速度ωが大きいときの下限値LWは(i)のように変化する。つまり、操舵速度ωが0のときは低操舵時制限設定が100%適用され、下限値LWは数38で算出される右切下限値RL2となるので、ラック軸力fの反転特性である(h)よりFx4だけ大きい(g)のように変化する。操舵速度ωが大きいときは高操舵時制限設定が100%適用され、下限値LWは数34で算出される右切下限値RL1となるので、ラック軸力fの反転特性である(h)よりFx2だけ小さい(i)のように変化する。また、制限前のラック軸力であるラック軸力ffは、判定用ラック位置Rxがラックエンド手前の所定位置x0を越えてから働き始め、ラックエンドに近付く程、強力に働く(絶対値が大きくなる)。この際、操舵速度ω=dx/dtが0のときは弾性項だけの力が働き、操舵速度ωが大きくなるにつれ、粘性項の力も加わってくるので、それぞれ(e)及び(f)のように変化する。よって、操舵速度ωが非常に小さい場合(dx/dt≒0)、電流指令値Iref3に基づいたアシスト力(以下、「総合アシスト力」とする)は、判定用ラック位置Rxがx0を越えてから(e)で示されるラック軸力ffがラック軸力fに加わるので下がっていき、仮想ラックエンドxendvを越えてからはラック軸力fが一定となるので、(c)で示されるように、下がり方がやや急になるが、(g)の制限特性は制限が強いので、ラック軸力ffが下限値以下となるxs以降でラック軸力ffに制限がかけられても、一定の総合アシスト力が働き続けることになる。
このような状況において、運転者が意思を持って操舵すると、ラックエンド方向に移動が可能であり、操舵速度ωが大きくなることにより、制限値は高操舵時制限設定に切り替わっていく。図34は、反転したラック軸力fを基準としたときの下限値(右切操舵の場合)の値、即ち反転したラック軸力fと下限値LWの差の操舵速度ωに対する変化の様子を、図22及び図23でのω1を0とした場合の例として示したものである。図34からわかるように、操舵速度ωが0から大きくなるにつれ、下限値は正から負に減少していき、ω2以上で一定(−Fx2)となる。つまり、操舵速度ωが大きくなるにつれ、制限が弱くなる。一方、操舵速度ωが大きくなるにつれ、ラック軸力ffの変化は、図33での(e)から(f)の方になっていく。つまり、ラック軸力ffは、ラックエンドに近付くにつれ強くなり、操舵速度ωが大きくなるにつれ強くなる。よって、ラックエンド方向への移動において操舵速度ωを大きくすると、ラック軸力ffは強くなるが、制限は弱くなるので、操舵方向への総合アシスト力が小さくなってしまい、操舵しにくくなってしまう。
これに対して、本実施形態のようにラック変位xにシフト補正をかけると、ラック変位xが仮想ラックエンドxendvを越えた後、補正ラック変位xsは仮想ラックエンドxendvで固定となる。よって、操舵速度ω=dx/dtを大きくしても、補正ラック変位xsにおいて時間変化はなく、補正ラック変位xsに基づいて演算されたラック軸力ffも変化しないので、総合アシスト力は、図33の(d)で示すように一定となり、操舵しにくさを抑制することができる。
上述のように、ラック変位にシフト補正をかけることにより、ラックエンド方向への移動において運転者が意思を持って操舵した場合に発生する可能性がある操舵のしにくさを抑制することができる。さらに、運転者がラックエンド方向に操舵した後、力を緩めた場合、シフト補正をかけていないと、戻される力が強すぎて操舵しづらいことがあるが、シフト補正を行い、制御量が大きくなることを抑制することにより、操舵しづらさを軽減することができる。
なお、シフト補正部250はラック変位xから変化量Δx2を差し引いて補正ラック変位xsを算出しているが、変化量Δx2に任意の割合を乗算してラック変位xから差し引いて算出しても良い。また、粘弾性モデル追従制御部220の構成例として図6に示される構成を基としているが、図5に示される構成を基としても良い。この場合、シフト補正部から出力される補正ラック変位はフィードバック制御部のみに入力されることになる。
また、第1実施形態では、規範モデルのパラメータであるバネ定数k0及び粘性摩擦係数μのみをラック変位に対して可変としているが、フィードバック制御部140の制御パラメータもラック変位に対して可変としても良い。例えば、フィードバック制御部140内の制御要素部143をPD(比例微分)制御の構成とした場合、伝達関数は下記数41で表わされ、数41中の比例ゲインkp及び微分ゲインkdが制御パラメータとなる。
そして、比例ゲインkp及び微分ゲインkdが、ラック変位に対して、例えば図35に示すような特性をもつようにする。この場合の粘弾性モデル追従制御部の構成例を図36に示す。図36に示される粘弾性モデル追従制御部では、図29に示される構成例と比べると、制御パラメータ設定部260が追加されている。制御パラメータ設定部260は、シフト補正部250から出力される補正ラック変位x
sを入力し、図36に示される特性に基づいて比例ゲインkp及び微分ゲインkdを求め、比例ゲインkp及び微分ゲインkdはフィードバック制御部240内の制御要素部243に入力される。制御パラメータを可変とすることにより、運転者にアシスト力変化による反力違和感を与えず、ラックエンドへの到達を抑制することができる。また、補正ラック変位を入力とすることにより、シフト補正の効果も得ることができる。
本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態では、設定ラックエンドxendから所定の間隔(限界値)Δx1だけ手前の位置が仮想ラックエンドxendvになるようにパラメータを設定しているが、位置センサの零点ずれやラックエンドのばらつき等で仮想ラックエンドxendvと設定ラックエンドxendの差がΔx1以上となることがある。また、運転者が意思を持って操舵したときに、ラックエンド方向に移動が可能となっているので、設定ラックエンドxendを越える可能性がある。そこで、仮想ラックエンドxendvからの変化量Δx2がΔx1以上の場合、その差(修正量)を記憶し、次回のラックエンド接近判定によるラック変位算出前に、記憶した差で接近判定に用いる位置を修正する。これにより、最適な仮想ラックエンドを達成でき、アシスト制限制御での最終出力の変動により操舵しにくくなる可能性がある区間を小さくでき、さらに操舵しにくさを抑制することができる。
図37は第2実施形態の構成例を図27に対応させて示しており、同一構成には同一符号を付して説明は省略する。第2実施形態では、図27に示される第1実施形態と比べると、ラックエンド接近判定部210及び粘弾性モデル追従制御部220が、それぞれラックエンド接近判定部310及び粘弾性モデル追従制御部320に代わっている。
粘弾性モデル追従制御部320の構成例を図38に示しており、図29に示される粘弾性モデル追従制御部220の構成例と比べると、シフト補正部250がシフト補正部350に代わっている。シフト補正部350は、シフト補正部250と同様にラック変位xに対してシフト補正をかけるが、それと同時に、変化量Δx2が限界値Δx1以上の場合、その差を出力する。即ち、シフト補正の際に算出する仮想ラックエンドxendvからのラック変位xの変化量Δx2(=x−xendv)が限界値Δx1以上の場合、その差(Δx2−Δx1)を修正信号Mxとしてラックエンド接近判定部310に出力する。Δx2がΔx1未満の場合は修正信号Mxを0として出力する。
ラックエンド接近判定部310は、修正信号Mxを入力したら、それを記憶し、次回のラック変位xの算出で使用する。即ち、修正信号Mxを入力する前は、図4に示されるように、ラックエンド手前の所定位置x0を開始位置として、そこからの判定用ラック位置Rxの変位をラック変位xとしているが、修正信号Mxを入力したら、開始位置をx0よりMxだけラックエンドに近い位置に設定し直し、そこからの判定用ラック位置Rxの変位をラック変位xとする。例えば、図39は横軸を判定用ラック位置Rx及びラック変位x、縦軸をラック軸力ffとした図であり、ラック軸力ffは、通常、(x)で示されるように、所定位置x0を開始位置(ラック変位x=0)として発生し、ラック変位xがラックエンドに近づくにつれ、強く(絶対値が大きく)なる。しかし、ラックエンドのばらつき等でずれが生じ、仮想ラックエンドxendvにおける通常時のラック軸力ffで、設定ラックエンドxendを越えてΔx2までずれた位置に移動した場合、Δx2とΔx1の差(=Mx)だけラックエンドに近い位置x0’を新しい開始位置としてラック変位xを求めるようにし、ラック軸力ffは、(z)で示されるように、x0’から発生することになる。これにより、最適な範囲で仮想ラックエンドが達成でき、また通常操作範囲を大きくすることができる。
このような構成において、第2実施形態の動作例を、図40〜図42のフローチャートを参照して説明する。
図40は全体の動作例を示しており、図24に示される動作例と比べると、開始位置修正の動作(ステップS11a)が加わり、粘弾性モデル追従制御に変更が生じている(ステップS20B)。なお、ラックエンド接近判定部310が記憶する修正信号Mxには、動作開始の際に予め初期値としてゼロが設定されている。
ステップS11aでは、判定用ラック位置Rxを入力したラックエンド接近判定部310は、修正信号Mxで開始位置x0を修正し、新しい開始位置x0’(=x0+Mx)を基準としてラック変位xを求める。
粘弾性モデル追従制御(ステップS20B)での動作例を図41に示す。図31に示される第1実施形態での粘弾性モデル追従制御の動作例と比べると、シフト補正に変更が生じ(ステップS22B)、ステップS28及びS29が追加されている。
シフト補正(ステップS22B)での動作例を図42に示す。図32に示される第1実施形態でのシフト補正の動作例と比べると、ステップS222A、S222B及びS222Cが追加されている。即ち、シフト補正部350は、変化量Δx2を算出した(ステップS222)後、変化量Δx2が限界値Δx1以上か否かを調べる(ステップS222A)。変化量Δx2が限界値Δx1以上の場合、その差を修正信号Mxとしてラックエンド接近判定部310に出力し(ステップS222B)、そうではない場合、修正信号Mx=0を出力する(ステップS222C)。
ステップS28及びS29では、ラックエンド接近判定部310が修正信号Mxを入力したか確認し(ステップS28)、入力していた場合、記憶している修正信号を入力した修正信号に更新し(ステップS29)、入力していない場合、更新しない。
本発明の第3実施形態について説明する。
第1実施形態では、ラック変位に対してシフト補正をかけることにより、シフト補正がかかり始める仮想ラックエンドxendv以降は操舵速度に対するアシスト力の変動は生じない。しかし、シフト補正がかかり始めた時点は速度変動として検知されるので、アシスト力の変動が生じ得る。そこで、フィードフォワード制御部及びフィードバック制御部において操舵速度、即ちラック変位の微分に関係する要素に対して不感帯処理を施し、微小速度でのアシスト力変動を抑制する。
図43は第3実施形態の構成例を図27に対応させて示しており、同一構成には同一符号を付して説明は省略する。第3実施形態では、図27に示される第1実施形態と比べると、粘弾性モデル追従制御部220が粘弾性モデル追従制御部420に代わっている。
粘弾性モデル追従制御部420の構成例を図44に示しており、図29に示される粘弾性モデル追従制御部220の構成例と比べると、フィードフォワード制御部130内の粘性摩擦係数項132が粘性摩擦係数項432に、フィードバック制御部140内の制御要素部143が制御要素部443にそれぞれ代わっている。
図45に粘性摩擦係数項432の構成例を示す。粘性摩擦係数項432は、微分部434、不感帯処理部435及びゲイン部436で構成される。微分部434は補正ラック変位xsを微分し、微分データdxsを算出する。不感帯処理部435は微分データdxsに対して不感帯処理を施し、不感帯微分データddxsを出力する。具体的には、図46に示すように、入力と同じデータを出力とする破線で示す特性に対して、入力のゼロ前後に出力がゼロとなる不感帯を設けた実線で示す特性(以下、「不感帯特性」とする)を用意し、微分データdxsを入力、不感帯微分データddxsを出力とした不感帯特性を用いて不感帯微分データddxsを求める。ゲイン部436は、パラメータ設定部124から出力される粘性摩擦係数μを用いて、不感帯微分データddxsに(μ−η)を乗算し、粘性項データViを算出する。
図47に、制御要素部443を数41で表わされる伝達関数を有するPD制御の構成とした場合の構成例を示す。制御要素部443は比例制御部444、微分制御部445及び加算部446で構成され、さらに微分制御部445は微分部447、不感帯処理部448及びゲイン部449で構成される。比例制御部444は、フィードバック要素(N/F)141から出力される目標ラック変位であるN/F演算値から補正ラック変位xsを減算して算出される誤差データErに比例ゲインkpを乗算し、比例項データPiを算出する。微分部447は誤差データErを微分し、微分データdErを算出する。不感帯処理部448は、不感帯処理部435と同様の処理により、微分データdErに対して不感帯処理を施し、不感帯微分データddErを出力する。なお、不感帯処理部435と不感帯処理部438とでは、不感帯特性での不感帯の幅は同じでも異なっていても良い。ゲイン部449は不感帯微分データddErに微分ゲインkdを乗算し、微分項データDiを算出する。加算部446は比例項データPiと微分項データDiを加算し、ラック軸力FBを算出する。なお、制御要素部443はPID制御の構成でも良く、その場合も微分制御部に相当する構成要素に不感帯処理部を設ける。
このような構成において、第3実施形態の動作例を、図48及び図49のフローチャートを参照して説明する。
第3実施形態の動作例は、第1実施形態の動作例と比べると、粘弾性モデル追従制御に違いがあり、他の動作は同じである。図48は、第3実施形態での粘弾性モデル追従制御の動作例を示すフローチャートであり、図31に示される第1実施形態での粘弾性モデル追従制御の動作例と比べると、Cd演算及び(μ−η)・s演算が異なっている(ステップS24b、S25a)。
Cd演算及び(μ−η)・s演算の動作例を図49に示す。
フィードバック制御部440内の減算部142にてN/F演算値から補正ラック変位xsを減算して算出された誤差データErは制御要素部443内の比例制御部444及び微分部447に入力される。比例制御部444は誤差データErに比例ゲインkpを乗算し(ステップS241)、比例項データPiを算出し、比例項データPiは加算部446に入力される。微分部447は誤差データErを微分して微分データdErを算出し(ステップS242)、微分データdErは不感帯処理部448に入力される。不感帯処理部448は、図46に示されるような不感帯特性を用いて、微分データdErに対して不感帯処理を施し(ステップS243)、不感帯微分データddErとして出力する。不感帯微分データddErはゲイン部449に入力され、ゲイン部449は、不感帯微分データddErに微分ゲインkdを乗算し、微分項データDiを算出し(ステップS244)、微分項データDiは加算部446に入力される。加算部446は比例項データPiと微分項データDiを加算して(ステップS245)、ラック軸力FBを算出し、ラック軸力FBは切替部122の接点b2に入力される。
フィードフォワード制御部430内の粘性摩擦係数項432は補正ラック変位xs及び粘性摩擦係数μを入力する。補正ラック変位xsは微分部434に入力され、微分部434は補正ラック変位xsを微分して微分データdxsを算出し(ステップS246)、微分データdxsは不感帯処理部435に入力される。不感帯処理部435は、図46に示されるような不感帯特性を用いて、微分データdxsに対して不感帯処理を施し(ステップS247)、不感帯微分データddxsとして出力する。不感帯微分データddxsは、粘性摩擦係数μと共にゲイン部436に入力され、ゲイン部436は不感帯微分データddxsに(μ−η)を乗算し、粘性項データViを算出する(ステップS248)。粘性項データViは減算部133に入力される。
ここで、第3実施形態の効果について、図50を用いて説明する。
図50は図33の下部の丸で括られた箇所を拡大し、操舵速度ω=dx/dtが小さい場合のラック軸力等の変化の様子を追加したものである。dx/dtが小さい場合、下限値LWは、(k)のように、(g)で示されるdx/dt=0のときの下限値LWより少し小さい値で変化する。また、ラック軸力ffも、(j)のように、(e)で示されるdx/dt=0のときのラック軸力ffより小さい値で変化する。
シフト補正も不感帯処理も行っていない場合、非常にゆっくり操舵している状況で、仮想ラックエンドxendvにおいて操舵速度ωを多少速めると、ラック軸力ffが(e)から(j)の方へ移行し、ラック軸力ffmはまだ制限がかかっていないので、(l)に示されるようにラック軸力ffmの下降が急になる。その後、非常にゆっくりした操舵速度と多少速めた操舵速度の間で操舵を行うと、ラック軸力ffmは、(l)に示されるように、(e)と(j)の間を振動するように変化し、制限がかかり始めると、(g)と(k)の間を振動するように変化する。
このような状況において、シフト補正をかけると、ラック軸力ffmは仮想ラックエンドxendv以降ほぼ一定となるが、シフト補正がかかり始めた時点は速度変動として検知されるので、(l)で見られるような振動が残ることがある。そこで、微分データに不感帯処理を施し、dx/dtが小さい領域ではラック軸力ffが変化しないようにすると、振動を抑えることができ、ラック軸力ffmは(m)のように一定となる。
なお、第3実施形態では、不感帯処理部は微分部434及び447の後段に設けられ、微分データに対して不感帯処理を施しているが、不感帯処理部をゲイン部436及び449の後段に設け、粘性項データVi及び微分項データDiに対して不感帯処理を施すようにしても良い。また、粘弾性モデル追従制御部420の構成例として図6に示される構成を基としているが、図5に示される構成を基としても良い。この場合、不感帯処理部はフィードバック制御部のみに設けられることになる。
本発明の第4実施形態について説明する。
第1実施形態では、ラック変位に対してシフト補正をかけることにより、アシスト力の変動による操舵のしにくさを抑制しているが、シフト補正による機能の一部を、パラメータの特性の調整に置き換えることにより、同等の効果を得ることができる。
図51は第4実施形態の構成例を図27に対応させて示しており、同一構成には同一符号を付して説明は省略する。第4実施形態では、図27に示される第1実施形態と比べると、粘弾性モデル追従制御部220が粘弾性モデル追従制御部520に代わっている。
粘弾性モデル追従制御部520の構成例を図52に示しており、図29に示される粘弾性モデル追従制御部220の構成例と比べると、パラメータ設定部124がパラメータ設定部524に代わっており、さらに、シフト補正部250の位置が異なっており、シフト補正部250から出力される補正ラック変位xsはフィードバック制御部140内の減算部142のみに入力され、フィードフォワード制御部130及びパラメータ設定部524にはラック変位xが入力される。
パラメータ設定部524は、パラメータ設定部124と同様に、ラック変位xに対するバネ定数k0及び粘性摩擦係数μを出力するが、バネ定数k0及び粘性摩擦係数μが有する特性は、図16に示されるような特性ではなく、例えば図53に示されるような特性である。即ち、ラック変位xが所定の値(第2目標値)xaまでは図16に示される特性と同様の特性でラック変位xの増加に合わせてバネ定数k0及び粘性摩擦係数μも増加するが、ラック変位xがxaを超えると、バネ定数k0及び粘性摩擦係数μは一定の値となる。これにより、例えば第2目標値xaを仮想ラックエンドxendvと一致させれば、フィードフォワード制御部130での演算では、仮想ラックエンドxendv以降で一定となる補正ラック変位xsを使用するのと同じ効果が得られる。
第4実施形態の動作例は、第1実施形態の動作例と比べると、粘弾性モデル追従制御に違いがあり、他の動作は同じである。そして、第4実施形態での粘弾性モデル追従制御の動作例は、図31に示される第1実施形態での粘弾性モデル追従制御の動作例と比べて、パラメータ設定(ステップS23)では図53に示される特性を使用する点、(μ−η)・s演算(ステップS25)ではラック変位xを使用する点、k0設定(ステップS25A)後のバネ定数項131の演算ではラック変位xを使用する点が異なるのみである。
なお、第1実施形態の場合と同様に、第4実施形態に対しても、フィードバック制御部140の制御パラメータをラック変位に対して可変としても良い。この場合、フィードバック制御部140内の制御要素部143をPD(比例微分)制御の構成とすると、制御パラメータである比例ゲインkp及び微分ゲインkdは、ラック変位に対して、図35に示されるような特性ではなく、例えば図54に示されるような特性をもつようにする。即ち、ラック変位xが所定の値(第3目標値)xbまでは図35に示される特性と同様の特性でラック変位xの増加に合わせて比例ゲインkp及び微分ゲインkdも増加するが、ラック変位xがxbを超えると、比例ゲインkp及び微分ゲインkdは一定の値となる。また、制御パラメータを設定する制御パラメータ設定部に入力されるのは、補正ラック変位xsではなく、ラック変位xとなる。これにより、例えば第3目標値xbを仮想ラックエンドxendvと一致させれば、制御要素部143での演算では補正ラック変位xsを使用するのと同じ効果が得られる。
本発明は、少なくとも操舵トルクに基づいて電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいてモータを駆動することにより、操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置の制御装置に関し、本発明の上記目的は、ラックエンド手前の所定角度の範囲内で粘弾性モデルを規範モデルとしたモデルフォローイング制御の構成とし、前記モデルフォローイング制御で使用する変位情報にシフト補正を施し、前記シフト補正は、前記変位情報が所定の第1目標値を超えて前記ラックエンドに接近した場合、前記変位情報と前記第1目標値との差である変化量に所定の比率を乗算した値を前記変位情報から減ずることにより行われ、前記変化量が所定の限界値以上の場合、前記変位情報の計測の開始位置を、前記変化量と前記限界値との差である修正量だけ前記ラックエンドに近い位置に設定し直して、前記変位情報を修正し、少なくとも前記修正された変位情報に前記シフト補正を施して求められた値に基づいて前記モデルフォローイング制御でのアシスト力を低減する制御量を求め、少なくとも操舵速度に基づいて、前記制御量に対して設定される制限値を用いて前記制御量の範囲を制限し、前記制御量で前記電流指令値を補正し、ラックエンド端当てを抑制することにより達成される。
また、少なくとも操舵トルクに基づいて第1の電流指令値を演算し、前記第1の電流指令値に基づいてモータを駆動することにより、操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置の制御装置に関し、本発明の上記目的は、前記第1の電流指令値を第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに変換する第1の変換部と、前記モータの回転角から判定用ラック位置に変換するラック位置変換部と、前記判定用ラック位置に基づいてラックエンドに接近したことを判定し、ラック変位及び切替信号を出力するラックエンド接近判定部と、前記ラック変位が所定の第1目標値を超えて前記ラックエンドに接近した場合、前記ラック変位と前記第1目標値との差である変化量に所定の比率を乗算した値を前記ラック変位から減ずることにより前記ラック変位を補正し、補正ラック変位を出力するシフト補正部とを具備し、前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルク、前記補正ラック変位及び前記切替信号に基づいて、粘弾性モデルを規範モデルとした第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを生成する粘弾性モデル追従制御部と、少なくとも操舵速度に基づいて前記第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクに対して設定される上限値及び下限値を用いて、前記第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを制限する制御量制限部と、前記制限された第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを第2の電流指令値に変換する第2の変換部とを備え、前記シフト補正部は、前記変化量が所定の限界値以上の場合、前記変化量と前記限界値との差である修正量を算出し、前記ラックエンド接近判定部は、前記ラック変位の計測の開始位置を、前記修正量だけ前記ラックエンドに近い位置に設定し直して、前記ラック変位を修正し、前記第2の電流指令値を前記第1の電流指令値に加算して前記アシスト制御を行い、ラックエンド端当てを抑制することにより達成される。
本発明の上記目的は、前記補正ラック変位によって、前記規範モデルのパラメータを変更することにより、或いは、前記粘弾性モデル追従制御部が、前記補正ラック変位に基づいてフィードフォワード制御して第3のラック軸力若しくは第3のコラム軸トルクを出力するフィードフォワード制御部と、前記補正ラック変位及び前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに基づいてフィードバック制御して第4のラック軸力若しくは第4のコラム軸トルクを出力するフィードバック制御部と、前記切替信号により前記第3のラック軸力若しくは第3のコラム軸トルクの出力をON/OFFする第1の切替部と、前記切替信号により前記第4のラック軸力若しくは第4のコラム軸トルクの出力をON/OFFする第2の切替部と、前記第1及び第2の切替部の出力を加算して前記第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを出力する加算部とを具備していることにより、或いは、前記フィードフォワード制御部が、前記補正ラック変位を微分し、第1微分データを出力する第1の微分部と、前記第1微分データ又は前記第1微分データから演算される粘性項データに対してゼロ前後に不感帯を設ける第1の不感帯処理部とを具備し、前記フィードバック制御部が、目標ラック変位と前記補正ラック変位との差である誤差データを微分し、第2微分データを出力する第2の微分部と、前記第2微分データ又は前記第2微分データから演算される微分項データに対してゼロ前後に不感帯を設ける第2の不感帯処理部とを具備していることにより、或いは、前記粘弾性モデル追従制御部が、前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに基づいてフィードフォワード制御して第3のラック軸力若しくは第3のコラム軸トルクを出力するフィードフォワード制御部と、前記補正ラック変位及び前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに基づいてフィードバック制御して第4のラック軸力若しくは第4のコラム軸トルクを出力するフィードバック制御部と、前記切替信号により前記第3のラック軸力若しくは第3のコラム軸トルクの出力をON/OFFする第1の切替部と、前記切替信号により前記第4のラック軸力若しくは第4のコラム軸トルクの出力をON/OFFする第2の切替部と、前記第1及び第2の切替部の出力を加算して前記第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを出力する加算部とを具備していることにより、或いは、前記フィードバック制御部が、前記目標ラック変位と前記補正ラック変位との差である誤差データを微分し、微分データを出力する微分部と、前記微分データ又は前記微分データから演算される微分項データに対してゼロ前後に不感帯を設ける不感帯処理部とを具備していることにより、或いは、前記補正ラック変位によって、前記フィードバック制御部の制御パラメータを変更することにより、より効果的に達成される。
さらに、本発明の上記目的は、前記第1の電流指令値を第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに変換する第1の変換部と、前記モータの回転角から判定用ラック位置に変換するラック位置変換部と、前記判定用ラック位置に基づいてラックエンドに接近したことを判定し、ラック変位及び切替信号を出力するラックエンド接近判定部と、前記ラック変位が所定の第1目標値を超えて前記ラックエンドに接近した場合、前記ラック変位と前記第1目標値との差である変化量に所定の比率を乗算した値を前記ラック変位から減ずることにより前記ラック変位を補正し、補正ラック変位を出力するシフト補正部とを具備し、前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルク、前記ラック変位、前記補正ラック変位及び前記切替信号に基づいて、粘弾性モデルを規範モデルとした第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを生成する粘弾性モデル追従制御部と、少なくとも操舵速度に基づいて前記第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクに対して設定される上限値及び下限値を用いて、前記第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを制限する制御量制限部と、前記制限された第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを第2の電流指令値に変換する第2の変換部とを備え、前記規範モデルのパラメータを、前記ラック変位が所定の第2目標値以下の場合は前記ラック変位によって変更し、前記ラック変位が前記第2目標値を超えた場合は一定とし、前記シフト補正部は、前記変化量が所定の限界値以上の場合、前記変化量と前記限界値との差である修正量を算出し、前記ラックエンド接近判定部は、前記ラック変位の計測の開始位置を、前記修正量だけ前記ラックエンドに近い位置に設定し直して、前記ラック変位を修正し、前記第2の電流指令値を前記第1の電流指令値に加算して前記アシスト制御を行い、ラックエンド端当てを抑制することにより達成される。
本発明の上記目的は、前記粘弾性モデル追従制御部が、前記ラック変位に基づいてフィードフォワード制御して第3のラック軸力若しくは第3のコラム軸トルクを出力するフィードフォワード制御部と、前記補正ラック変位及び前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに基づいてフィードバック制御して第4のラック軸力若しくは第4のコラム軸トルクを出力するフィードバック制御部と、前記切替信号により前記第3のラック軸力若しくは第3のコラム軸トルクの出力をON/OFFする第1の切替部と、前記切替信号により前記第4のラック軸力若しくは第4のコラム軸トルクの出力をON/OFFする第2の切替部と、前記第1及び第2の切替部の出力を加算して前記第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを出力する加算部とを具備していることにより、或いは、前記粘弾性モデル追従制御部が、前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに基づいてフィードフォワード制御して第3のラック軸力若しくは第3のコラム軸トルクを出力するフィードフォワード制御部と、前記補正ラック変位及び前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに基づいてフィードバック制御して第4のラック軸力若しくは第4のコラム軸トルクを出力するフィードバック制御部と、前記切替信号により前記第3のラック軸力若しくは第3のコラム軸トルクの出力をON/OFFする第1の切替部と、前記切替信号により前記第4のラック軸力若しくは第4のコラム軸トルクの出力をON/OFFする第2の切替部と、前記第1及び第2の切替部の出力を加算して前記第2のラック軸力若しくは第2のコラム軸トルクを出力する加算部とを具備していることにより、或いは、前記フィードバック制御部の制御パラメータを、前記ラック変位が所定の第3目標値以下の場合は前記ラック変位によって変更し、前記ラック変位が前記第3目標値を超えた場合は一定とすることにより、或いは、前記制御量制限部が、前記上限値及び下限値を前記操舵速度の変化に合わせて徐々に変更することにより、或いは、前記上限値及び下限値を操舵方向に応じて設定することにより、或いは、前記上限値及び下限値を前記第1のラック軸力若しくは第1のコラム軸トルクに基づいて設定することにより、より効果的に達成される。