JPWO2019069825A1 - β−TCP基材とOCP結晶層を含む複合体及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)基材とリン酸八カルシウム(OCP)結晶層を含む複合体やその製造方法を提供することを課題とするもので、該複合体は、β−TCP結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材と、該β−TCP基材の表面上のOCP結晶層を含む。該複合体の製造方法は、β−TCP結晶粒子の充填体からなる基材の表面の少なくとも一部を、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含有し、マグネシウムイオン含有量が0.5mM以下である母液に浸漬する工程を具備する。
Description
本発明は、β−リン酸三カルシウム(以下、「β−TCP」ということがある。)基材とリン酸八カルシウム(以下、「OCP」ということがある。)結晶層を含む複合体や、該複合体の製造方法に関するものである。
リン酸八カルシウム(Ca8(HPO4)2(PO4)4・5H2O;OCP)は、その優れた骨誘導性能が非特許文献1により示されて以来、体中におけるOCPの反応性に関する研究が盛んに行われ、骨誘導材料としての優れたポテンシャルが明らかになった。OCPは体中において複数の骨形成サイトの中核として働き、それ故、水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2;以下、「HAP」ということがある。)あるいはβ−リン酸三カルシウム(β−Ca3(PO4)2;β−TCP)に比べて新生骨への置換をより加速しやすい。実際の治療現場でも、OCPは移植用骨代替材料、(新生骨誘導用)微小足場、コーティング用材料として利用されている。OCPをチタン基板上にコーティングする研究は特に精力的に行われているが、これはチタンの持つ骨誘導性能を向上させるためである。体中でOCPを用いる際の問題点の一つは、OCPを形成する系中に添加物を加える、あるいは他のリン酸カルシウム(例えばDCPD)からの加水分解反応なしに、大きな成形体を構築できない点であろう。
一方でβ−TCPは、古くから骨移植(代替)材料として用いられてきた。これは、整形外科臨床現場においてしばしば見られる、自発的骨再生能力の減少問題などに対処するためである。β−TCPの単独使用だけではなく、HAPや有機物と併用して(骨誘導用)3次元足場材料として用いるケースに関しても、研究が行われている。このような研究は、新生骨誘導用材料に要求される優れた生体適合性と体中における分解性の高さを、β−TCPが本来有しているためである。また、確立されたβ−TCP合成手法も有利な点と言える。β−TCP粒子のサイズをマイクロメートルサイズからナノメートルサイズに減少させると、生体適合性と分解性が向上するとの報告もある。
OCPとβ−TCPに関する上記の研究状況は、優れた性質を持ち容易に作成可能な骨移植(代替)材料開発の観点から考えた場合、必然的に一つの考えを導く。すなわち、β−TCP基板上にOCP層をコーティングした材料である。しかし、OCPとβ−TCPの併用に関しては、ほとんど研究が行われていない。30年以上前に、Ca/P比を1.33(OCPの化学量論比)に保持したpH6.0のリン酸カルシウム溶液中にβ−TCP粉末を投入すると、OCPが形成するという予備的研究成果が報告された(非特許文献2参照;注:OCP形成の直接的証拠(X線回折パターンなど)は示されていない)。今世紀に入ると、合成HAPとβ−TCPを混合した基板がin vitro人工体液(以下、「SBF」)中で表面にOCP形成を誘導する結果が報告された(非特許文献3参照)。しかし引き続いて行われた研究では、β−TCPを単独で基板化した場合、in vitro SBF中でもウサギの筋肉中でも基板上にOCPは形成されず、α−TCPが示したOCPあるいはHAPの誘導能と明確な差が見られるとの報告がなされた。この研究では、SBF中にβ−TCPを5日間浸漬してもOCPは形成されなかった(非特許文献4参照)。
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上述のように、過去の研究では、β−TCP基板上へのOCP形成が可能か否かに関する結論が得られていなかった。加えて、β−TCP基板を構成する粒子のサイズがOCP形成にどのような影響を及ぼすかの研究は全く行われていなかった。
本発明は、上述のような過去の研究を背景としてなされたものであり、β−TCP基材とOCP結晶層を含む複合体やその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、前記課題のもとで、β−TCP基材の表面上にOCP結晶層を、擬似生理環境場で構築する研究を進め、後記<実施例等についての考察>などにおいて述べたような様々な知見を得た。
本発明は、そのような知見に基づいて完成したものであり、本件では、以下に記載のような発明が提供される。
<1>β−TCP結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材の表面の少なくとも一部を、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含有し、マグネシウムイオン含有量が0.5mM以下である母液に浸漬する工程を備える、β−TCP基材とOCP結晶層を含む複合体の製造方法。
<2>β−TCP結晶粒子をマイクロメートルサイズのものとし、β−TCP基材の表面に直接OCP結晶を形成する<1>に記載の複合体の製造方法。
<3>前記β−TCP結晶粒子をナノメートルサイズのものとし、β−TCP基材表面にHAP結晶層と、該HAP結晶層上にOCP結晶層を形成する<1>に記載の複合体の製造方法。
<4>前記母液は、カルシウムイオン濃度が0.2〜5mM、リン酸イオン濃度が0.2〜5mMの水溶液である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
<5>前記母液は、マグネシウムイオン含有量が0.1mM以下である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
<6>前記母液はpHが5.5を超え8.0以下である<4>に記載の複合体の製造方法。
<7>前記母液の温度が0〜60℃である<4>に記載の複合体の製造方法。
<8>β−TCP結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材と、該β−TCP基材の表面上のOCP結晶層を含む複合体。
<9>前記β−TCP結晶粒子がナノメートルサイズであり、β−TCP基材とOCP結晶層との間にHAP結晶層を含む<8>に記載の複合体。
<10>前記β−TCP結晶粒子がマイクロメートルサイズであり、OCP結晶層がβ−TCP基板の表面上に直接存在するものである<8>に記載の複合体。
<11>前記OCP層は、その結晶構造及び/又は化学組成が変調した部分を含むものである<8>〜<10>のいずれか1項に記載の複合体。
<1>β−TCP結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材の表面の少なくとも一部を、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含有し、マグネシウムイオン含有量が0.5mM以下である母液に浸漬する工程を備える、β−TCP基材とOCP結晶層を含む複合体の製造方法。
<2>β−TCP結晶粒子をマイクロメートルサイズのものとし、β−TCP基材の表面に直接OCP結晶を形成する<1>に記載の複合体の製造方法。
<3>前記β−TCP結晶粒子をナノメートルサイズのものとし、β−TCP基材表面にHAP結晶層と、該HAP結晶層上にOCP結晶層を形成する<1>に記載の複合体の製造方法。
<4>前記母液は、カルシウムイオン濃度が0.2〜5mM、リン酸イオン濃度が0.2〜5mMの水溶液である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
<5>前記母液は、マグネシウムイオン含有量が0.1mM以下である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
<6>前記母液はpHが5.5を超え8.0以下である<4>に記載の複合体の製造方法。
<7>前記母液の温度が0〜60℃である<4>に記載の複合体の製造方法。
<8>β−TCP結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材と、該β−TCP基材の表面上のOCP結晶層を含む複合体。
<9>前記β−TCP結晶粒子がナノメートルサイズであり、β−TCP基材とOCP結晶層との間にHAP結晶層を含む<8>に記載の複合体。
<10>前記β−TCP結晶粒子がマイクロメートルサイズであり、OCP結晶層がβ−TCP基板の表面上に直接存在するものである<8>に記載の複合体。
<11>前記OCP層は、その結晶構造及び/又は化学組成が変調した部分を含むものである<8>〜<10>のいずれか1項に記載の複合体。
本発明は、次のような態様を含むことができる。
<12>前記母液は、カルシウムイオン濃度が1〜4mM、リン酸イオン濃度が1〜4mMである<4>に記載の複合体の製造方法。
<13>前記母液は、マグネシウムイオン含有量が0.01mM以下である<5>に記載の複合体の製造方法。
<14>前記母液はpHが6.0以上7.8以下である<6>に記載の複合体の製造方法。
<15>母液の温度が20〜40℃である<7>に記載の複合体の製造方法。
<16><1>〜<3>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法において、β−TCP結晶粒子を圧縮成形することにより前記β−TCP基材を調製することを含む複合体の製造方法。
<17>前記圧縮成形時の圧縮圧力が1MPa以上である<16>に記載の複合体の製造方法。
<18>前記β−TCP基材が基板である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
<12>前記母液は、カルシウムイオン濃度が1〜4mM、リン酸イオン濃度が1〜4mMである<4>に記載の複合体の製造方法。
<13>前記母液は、マグネシウムイオン含有量が0.01mM以下である<5>に記載の複合体の製造方法。
<14>前記母液はpHが6.0以上7.8以下である<6>に記載の複合体の製造方法。
<15>母液の温度が20〜40℃である<7>に記載の複合体の製造方法。
<16><1>〜<3>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法において、β−TCP結晶粒子を圧縮成形することにより前記β−TCP基材を調製することを含む複合体の製造方法。
<17>前記圧縮成形時の圧縮圧力が1MPa以上である<16>に記載の複合体の製造方法。
<18>前記β−TCP基材が基板である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
本発明によれば、β−TCP基材層とOCP結晶層を含む複合体を製造することができる。
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
なお、本明細書において数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
なお、本明細書において数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
本明細書で使用する主な略号とその意味は、次のとおりである。
ACP(amorphous calcium phosphate):アモルファスリン酸カルシウム
CR(crystal):結晶
DCPD(dicalcium phosphate dihydrate):第二リン酸カルシウム二水塩(CaHPO4・2H2O)
FFT(Fast Fourier Transform):高速フーリエ変換
FIB(focused-ion-beam):収束イオンビーム
HAP(hydroxyapatite):水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)
HR−TEM(High-resolution TEM):高分解能透過型電子顕微鏡
OCP(octacalcium phosphate):リン酸八カルシウム(Ca8(HPO4)2(PO4)4・5H2O)
RE(resin):樹脂
SAED(selected area electron diffraction):選択領域電子線回折
SBF(simulated body fluid):人工体液
SEM(scanning electron microscope):走査電子顕微鏡
STEM−EDS(Scanning-TEM energy dispersion spectroscopy):走査透過電子顕微鏡エネルギー分散分光分析
STEM−HAADF(Scanning-TEM high-angle annular dark field):走査透過電子顕微鏡高角度環状暗視野場観察
TCP(Tricalcium phosphate):リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)
TEM(transmission electron microscope):透過電子顕微鏡
X−EDS(X-ray energy-dispersive spectrometry):X線分光分析法
XRD(X-ray diffraction):X線回折
β−TCP:β−リン酸三カルシウム(β−Ca3(PO4)2)
ACP(amorphous calcium phosphate):アモルファスリン酸カルシウム
CR(crystal):結晶
DCPD(dicalcium phosphate dihydrate):第二リン酸カルシウム二水塩(CaHPO4・2H2O)
FFT(Fast Fourier Transform):高速フーリエ変換
FIB(focused-ion-beam):収束イオンビーム
HAP(hydroxyapatite):水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)
HR−TEM(High-resolution TEM):高分解能透過型電子顕微鏡
OCP(octacalcium phosphate):リン酸八カルシウム(Ca8(HPO4)2(PO4)4・5H2O)
RE(resin):樹脂
SAED(selected area electron diffraction):選択領域電子線回折
SBF(simulated body fluid):人工体液
SEM(scanning electron microscope):走査電子顕微鏡
STEM−EDS(Scanning-TEM energy dispersion spectroscopy):走査透過電子顕微鏡エネルギー分散分光分析
STEM−HAADF(Scanning-TEM high-angle annular dark field):走査透過電子顕微鏡高角度環状暗視野場観察
TCP(Tricalcium phosphate):リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)
TEM(transmission electron microscope):透過電子顕微鏡
X−EDS(X-ray energy-dispersive spectrometry):X線分光分析法
XRD(X-ray diffraction):X線回折
β−TCP:β−リン酸三カルシウム(β−Ca3(PO4)2)
本発明の複合体は、β−TCP結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材と、該基材表面上に形成されたOCP結晶層を含む。本発明の複合体は、β−TCPの結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材の表面の少なくとも一部をカルシウムイオン及びリン酸イオンを含有し、マグネシウムイオンを実質的に含有しない母液に浸漬することにより製造することができる。
基材に用いるβ−TCP結晶粒子は、後記実施例等において詳述するように、その粒径サイズにより前記複合体の構造や前記OCP結晶層の構造が変化することも明らかとなった。
すなわち、前記β−TCP結晶粒子がマイクロメートルサイズである場合、β−TCP基材の表面に直接OCP結晶が形成される。一方、前記β−TCP結晶粒子がナノメートルサイズである場合、β−TCP基材の表面にまずHAP結晶層が形成され、HAP結晶層上にOCP結晶が形成される。そのため、前記β−TCP結晶粒子がナノメートルサイズである場合、複合体は、β−TCP基材とOCP結晶層の間にHAP層を含む。
また、β−TCP基材の表面上に形成される前記OCP結晶層は初期段階で結晶構造や化学組成が変調し、その成長に伴って正常なOCPへと変化することが明らかとなった。
さらに、その変調部分は、ナノメートルサイズのβ−TCP結晶粒子を用いた場合には、マイクロメートルサイズのものを用いた場合よりも広い領域となること、したがって、β−TCP結晶粒子の粒子サイズを調整することにより、前記変調部分の領域の広狭を調整できることも明らかとなった。
なお、OCP結晶は、[100]及び[0−11]方位の交差角の理論値が81.0°、Ca/P元素%比の理論値が1.33であるが、前記変調部分は、それらの一方又は両方が外れた領域であり、結晶構造の変調部分は、前記交差角の理論値が81.0°超(明確な結晶構造の変調部分としては、83〜92°、より明確には85〜92°)の部分として、また、化学組成の変調部分は、前記Ca/P元素%比の理論値1.33超(明確な化学組成の変調部分としては、1.35〜1.66、より明確には1.40〜1.66)の部分として、それぞれ確認することができる。
本発明において、「マイクロメートルサイズ」とは、SEM等で観察した粒径〔=(長径+短径)/2〕の平均値が0.5μm以上のものを意味する。上限は限定する必要はないが、通常は20〜30μmである。
本発明において、「ナノメートルサイズ」とはSEM等で観察した粒径〔=(長径+短径)/2〕の平均値が0.5μm未満のものを意味する。好ましくは100nm以下である。下限は限定する必要はないが、通常は1〜5nmである。
すなわち、前記β−TCP結晶粒子がマイクロメートルサイズである場合、β−TCP基材の表面に直接OCP結晶が形成される。一方、前記β−TCP結晶粒子がナノメートルサイズである場合、β−TCP基材の表面にまずHAP結晶層が形成され、HAP結晶層上にOCP結晶が形成される。そのため、前記β−TCP結晶粒子がナノメートルサイズである場合、複合体は、β−TCP基材とOCP結晶層の間にHAP層を含む。
また、β−TCP基材の表面上に形成される前記OCP結晶層は初期段階で結晶構造や化学組成が変調し、その成長に伴って正常なOCPへと変化することが明らかとなった。
さらに、その変調部分は、ナノメートルサイズのβ−TCP結晶粒子を用いた場合には、マイクロメートルサイズのものを用いた場合よりも広い領域となること、したがって、β−TCP結晶粒子の粒子サイズを調整することにより、前記変調部分の領域の広狭を調整できることも明らかとなった。
なお、OCP結晶は、[100]及び[0−11]方位の交差角の理論値が81.0°、Ca/P元素%比の理論値が1.33であるが、前記変調部分は、それらの一方又は両方が外れた領域であり、結晶構造の変調部分は、前記交差角の理論値が81.0°超(明確な結晶構造の変調部分としては、83〜92°、より明確には85〜92°)の部分として、また、化学組成の変調部分は、前記Ca/P元素%比の理論値1.33超(明確な化学組成の変調部分としては、1.35〜1.66、より明確には1.40〜1.66)の部分として、それぞれ確認することができる。
本発明において、「マイクロメートルサイズ」とは、SEM等で観察した粒径〔=(長径+短径)/2〕の平均値が0.5μm以上のものを意味する。上限は限定する必要はないが、通常は20〜30μmである。
本発明において、「ナノメートルサイズ」とはSEM等で観察した粒径〔=(長径+短径)/2〕の平均値が0.5μm未満のものを意味する。好ましくは100nm以下である。下限は限定する必要はないが、通常は1〜5nmである。
β−TCP結晶粒子の充填体からなる基材は、β−TCPの結晶粒子を圧縮成形することにより調製することができる。基材は、どのような形状でも良く、例えば、球状粒子、一部に曲面を有する基体などでも良いが、少なくとも一部の表面を平坦に形成し、平坦な表面の少なくとも一部を母液に浸漬するようにすることもできる。母液に浸漬する平坦な表面は、例えば、JISB0621で規定される平面度(幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさ)が200nm以下、100nm以下、50nm以下などや、JISB0601で規定される二乗平均平方根粗さRqが200nm以下、100nm以下、50nm以下などのように設定することもできる。その場合、平面度は、フラットネステスタ等の公知の手段により測定することができる。
基材として基板を用いる場合、基板の両面を平坦に形成しても良いし、一方の面の全面や一部を平坦に形成しても良い。
圧縮成形時の温度は、結晶が溶解あるいは分解しない範囲内であれば許容される。好ましくは常温である。
圧縮成形時の圧縮の圧力は、β−TCP結晶粒子の充填体からなる基材が成形できる範囲内であれば許容される。通常、1MPa以上である。圧縮圧力の上限は限定する必要はないが、一般的には、使用する成形機械や型などにより、100MPa、150MPa、200MPa等のように許容上限を設定することもできる。
基材は、母液に浸漬する表面以外をリン酸カルシウム溶液と反応せず且つその表面にリン酸カルシウム塩の析出を起こさない物質で被覆することもできる。そのような被覆の材料としては、限定するものではないが、樹脂や金属などが挙げられる。
基材として基板を用いる場合、基板の両面を平坦に形成しても良いし、一方の面の全面や一部を平坦に形成しても良い。
圧縮成形時の温度は、結晶が溶解あるいは分解しない範囲内であれば許容される。好ましくは常温である。
圧縮成形時の圧縮の圧力は、β−TCP結晶粒子の充填体からなる基材が成形できる範囲内であれば許容される。通常、1MPa以上である。圧縮圧力の上限は限定する必要はないが、一般的には、使用する成形機械や型などにより、100MPa、150MPa、200MPa等のように許容上限を設定することもできる。
基材は、母液に浸漬する表面以外をリン酸カルシウム溶液と反応せず且つその表面にリン酸カルシウム塩の析出を起こさない物質で被覆することもできる。そのような被覆の材料としては、限定するものではないが、樹脂や金属などが挙げられる。
基材浸漬用の母液は、カルシウムイオンとリン酸イオンを含むものである。
カルシウムイオンとリン酸イオンの濃度は、0.2mM以上、好ましくは、1mM以上である。濃度が0.2mM未満であると、OCP結晶が形成しない、あるいは形成速度が遅くなる。一方、濃度が高いと、OCP結晶の形成速度が速くなるが、濃度が高すぎると、基材浸漬中に均質核形成(析出)が生起しやすくなり、一定方向に配向したOCP結晶が得られにくくなる。基材浸漬中に均質核形成(析出)が生起しないカルシウムイオンとリン酸イオンの濃度の上限は、母液のpHや母液撹拌の有無などにも依存する。母液のpHが6.2程度の比較的低い場合には、濃度の上限は5mM程度(pHが5.6程度に低い場合、濃度の上限は8mM程度)であるが、pHが7.4程度と比較的に高い場合には、2mM以下程度まで下げる必要がある。また、母液を攪拌すると、均質核形成(析出)を生起しやすくなるが、pH6.2程度の場合には濃度が2mM以下であれば、OCP結晶の形成速度を速めるために母液を攪拌することも許容される。OCP結晶の形成中、カルシウムイオンとリン酸イオンの濃度が低下し、OCP結晶の形成速度が低下する場合には、カルシウムイオンとリン酸イオンを母液に補充することもできる。
母液中にマグネシウムイオンが存在する場合、マグネシウムイオンは、OCPの核形成や成長を阻害する。そのため、母液はマグネシウムイオンを全く含有しないことが最も望ましいが、0.5mM以下(好ましくは0.1mM以下、より好ましくは0.01mM以下)であれば許容し得る。特にOCPの核形成に及ぼす影響が大きいので、少なくともOCP結晶層が所定量以上(例えば厚さ1μm以上)形成されるまでは母液のマグネシウムイオン含有量を上記のような数値以下に制限することが好ましい。
カルシウムイオンとリン酸イオンの濃度は、0.2mM以上、好ましくは、1mM以上である。濃度が0.2mM未満であると、OCP結晶が形成しない、あるいは形成速度が遅くなる。一方、濃度が高いと、OCP結晶の形成速度が速くなるが、濃度が高すぎると、基材浸漬中に均質核形成(析出)が生起しやすくなり、一定方向に配向したOCP結晶が得られにくくなる。基材浸漬中に均質核形成(析出)が生起しないカルシウムイオンとリン酸イオンの濃度の上限は、母液のpHや母液撹拌の有無などにも依存する。母液のpHが6.2程度の比較的低い場合には、濃度の上限は5mM程度(pHが5.6程度に低い場合、濃度の上限は8mM程度)であるが、pHが7.4程度と比較的に高い場合には、2mM以下程度まで下げる必要がある。また、母液を攪拌すると、均質核形成(析出)を生起しやすくなるが、pH6.2程度の場合には濃度が2mM以下であれば、OCP結晶の形成速度を速めるために母液を攪拌することも許容される。OCP結晶の形成中、カルシウムイオンとリン酸イオンの濃度が低下し、OCP結晶の形成速度が低下する場合には、カルシウムイオンとリン酸イオンを母液に補充することもできる。
母液中にマグネシウムイオンが存在する場合、マグネシウムイオンは、OCPの核形成や成長を阻害する。そのため、母液はマグネシウムイオンを全く含有しないことが最も望ましいが、0.5mM以下(好ましくは0.1mM以下、より好ましくは0.01mM以下)であれば許容し得る。特にOCPの核形成に及ぼす影響が大きいので、少なくともOCP結晶層が所定量以上(例えば厚さ1μm以上)形成されるまでは母液のマグネシウムイオン含有量を上記のような数値以下に制限することが好ましい。
母液中に浸漬される基材は、好ましくは、母液を収容した容器の底に載置するのが好ましい。浸漬時間は限定するものではないが、必要なOCP結晶層の厚みに応じて、1分、10分、30分、1時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、5日、10日等、0.5時間〜30日程度の範囲のように適宜に設定することができる。
β−TCP基材の表面上にOCP結晶層を形成する際の母液は、pHが5.5超8.0以下、好ましくはpH6.0〜7.6、より好ましくはpH6.2〜7.4程度であるし、また、母液温度は0〜60℃(好ましくは10〜50℃、より好ましくは20〜40℃)において可能である。それ故、母液温度を20〜40℃の範囲内に設定すれば、上記pHの数値と併せて、人体等の生命体に許容可能な条件下(すなわち、擬似生理環境場)において、β−TCP基材と該基材の表面上に形成されたOCP結晶層を含む複合体を簡易にかつ効率的に製造できると言える。
本発明の複合体は、骨移植(代替)材料としてのβ−TCPからなる基材と、骨誘導材料として優れたポテンシャルを有するOCP結晶層とを含むので、損傷骨などの治療や、移植用骨代替材料、新生骨誘導用足場材料等への応用が考えられる。
特に、OCP結晶層のCa/Pモル比が1.37程度(Ca/Pモル比理論値1.33より高い変調部分)である場合、新骨形成を促進することが知られているので(先行非特許文献7参照)、そのようなOCP結晶層における変調部分を有し、また、その変調部分の広狭を調整することが可能な本発明の複合体やその製造方法によれば、前述などの用途へのより有効な活用が期待される。
特に、OCP結晶層のCa/Pモル比が1.37程度(Ca/Pモル比理論値1.33より高い変調部分)である場合、新骨形成を促進することが知られているので(先行非特許文献7参照)、そのようなOCP結晶層における変調部分を有し、また、その変調部分の広狭を調整することが可能な本発明の複合体やその製造方法によれば、前述などの用途へのより有効な活用が期待される。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の内容はこの実施例に限定されるものではない。
<<1. β−TCP基板を用いたリン酸八カルシウム結晶層の形成>>
<1.1 マイクロ基板とナノ基板の準備>
基板作成には一般購入できる試薬グレードのβ−TCP結晶粉末(和光、粒径分布約0.5−3 μmの結晶粒子からなるもの)を利用し、そのまま使用した「マイクロ基板」と、このβ−TCP結晶粉末を粉砕して得たナノ粒子のβ−TCP結晶粉末を使用した「ナノ基板」の2種類のβ−TCP基板を準備した。
マイクロ基板は、購入したままのβ−TCP結晶粉末約10mgを型に入れ、40MPaの圧力下30分間室温で圧縮成形し、平面が2×10mm、厚みが約0.3mmの基板とした。
ナノ粒子のβ−TCP結晶粉末については、購入したβ−TCP結晶粉末を99.5%エタノール溶液(和光、分析グレード)中に分散させ、直径30μmのジルコニア製ビーズを有するビーズミル(AIMEX社)により平均粒子径が数百nmになるまで粉砕し、99.5%エタノール中で、室温下3,000rpmで15分間遠心し、遠心後の溶液上部の上澄みを採取し、更に上澄液を4℃、15,000rpmで15分間遠心し、遠心後の最上部上澄みを回収し、室温で自然乾燥することにより得た。ナノ結晶粒子のサイズは、走査電子顕微鏡(SEM)やTEMによる観察の結果、80nm以下であることを確認した。
ナノ基板については、上記で得たナノ結晶粒子を用い、圧力を20MPa、加圧時間を10分間とした以外は上記マイクロ基板と同様にして基板とした。
<1.1 マイクロ基板とナノ基板の準備>
基板作成には一般購入できる試薬グレードのβ−TCP結晶粉末(和光、粒径分布約0.5−3 μmの結晶粒子からなるもの)を利用し、そのまま使用した「マイクロ基板」と、このβ−TCP結晶粉末を粉砕して得たナノ粒子のβ−TCP結晶粉末を使用した「ナノ基板」の2種類のβ−TCP基板を準備した。
マイクロ基板は、購入したままのβ−TCP結晶粉末約10mgを型に入れ、40MPaの圧力下30分間室温で圧縮成形し、平面が2×10mm、厚みが約0.3mmの基板とした。
ナノ粒子のβ−TCP結晶粉末については、購入したβ−TCP結晶粉末を99.5%エタノール溶液(和光、分析グレード)中に分散させ、直径30μmのジルコニア製ビーズを有するビーズミル(AIMEX社)により平均粒子径が数百nmになるまで粉砕し、99.5%エタノール中で、室温下3,000rpmで15分間遠心し、遠心後の溶液上部の上澄みを採取し、更に上澄液を4℃、15,000rpmで15分間遠心し、遠心後の最上部上澄みを回収し、室温で自然乾燥することにより得た。ナノ結晶粒子のサイズは、走査電子顕微鏡(SEM)やTEMによる観察の結果、80nm以下であることを確認した。
ナノ基板については、上記で得たナノ結晶粒子を用い、圧力を20MPa、加圧時間を10分間とした以外は上記マイクロ基板と同様にして基板とした。
<1.2 標準リン酸カルシウム溶液(pH6.2)、組成変更リン酸カルシウム溶液(pH5.5、7.4)の調製>
基板浸漬に用いる溶液は、全て分析グレードの試薬(ナカライ)から作成した。試薬をミリQ水(超純水、比抵抗:18.2MΩ、TOC:3ppb、ミリポア社)に溶解し、1.0M CaCl2・2H2O、0.50M K2HPO4+KH2PO4(モル比1:1で混合)、1.0M CH3COOH、0.10M CH3COONa・2H2Oのストック溶液群を作成した。各溶液は、0.22μmポアの酢酸セルロースフィルターによりフィルタリングした。
ストックK2HPO4+KH2PO4溶液をミリQ水で希釈し、5.0mMリン酸イオンを含んだリン酸溶液を作成した。このリン酸溶液を、ストックCH3COOH及びCH3COONa・2H2O溶液を用いて、25±0.1℃でpH6.3に調整した。この時の酢酸イオン濃度は50mMである。1.0M CaCl2・2H2O溶液をpH調整されたリン酸溶液に体積比1:199で加えて最終的に標準リン酸カルシウム溶液とした。このリン酸カルシウム溶液中の最終的なカルシウムイオン及びリン酸イオン濃度はそれぞれ5.0mM、4.9mMである(Ca/Pモル比で1.02)。標準リン酸カルシウム溶液のpHは6.20±0.01である。
また、標準リン酸カルシウム溶液を、50mM 酢酸ナトリウム−酢酸を用いてpH5.5に、50mMトリスアミノメタンを用いてpH7.4に、それぞれ調整し、カルシウムイオン濃度及びリン酸イオン濃度の変更と共に組成変更リン酸カルシウム溶液とした。
基板浸漬に用いる溶液は、全て分析グレードの試薬(ナカライ)から作成した。試薬をミリQ水(超純水、比抵抗:18.2MΩ、TOC:3ppb、ミリポア社)に溶解し、1.0M CaCl2・2H2O、0.50M K2HPO4+KH2PO4(モル比1:1で混合)、1.0M CH3COOH、0.10M CH3COONa・2H2Oのストック溶液群を作成した。各溶液は、0.22μmポアの酢酸セルロースフィルターによりフィルタリングした。
ストックK2HPO4+KH2PO4溶液をミリQ水で希釈し、5.0mMリン酸イオンを含んだリン酸溶液を作成した。このリン酸溶液を、ストックCH3COOH及びCH3COONa・2H2O溶液を用いて、25±0.1℃でpH6.3に調整した。この時の酢酸イオン濃度は50mMである。1.0M CaCl2・2H2O溶液をpH調整されたリン酸溶液に体積比1:199で加えて最終的に標準リン酸カルシウム溶液とした。このリン酸カルシウム溶液中の最終的なカルシウムイオン及びリン酸イオン濃度はそれぞれ5.0mM、4.9mMである(Ca/Pモル比で1.02)。標準リン酸カルシウム溶液のpHは6.20±0.01である。
また、標準リン酸カルシウム溶液を、50mM 酢酸ナトリウム−酢酸を用いてpH5.5に、50mMトリスアミノメタンを用いてpH7.4に、それぞれ調整し、カルシウムイオン濃度及びリン酸イオン濃度の変更と共に組成変更リン酸カルシウム溶液とした。
<1.3 基板浸漬過程>
50mLの標準又は組成変更リン酸カルシウム溶液をパイレックス(登録商標)ビーカーに入れ、37±0.5℃で予備加熱しておいた。2×2×0.3mmに切断したβ−TCP基板をビーカーの底に設置し、溶液の蒸発を防ぐためパラフィルム〔PARAFILM(登録商標)〕で二重に蓋をした後、37±0.5℃のインキュベータ中で攪拌なしに保持した。浸漬時間は1分から20時間である。
設定時間浸漬後、成長サンプルを溶液から取り出して直ちにミリQ水で洗浄した。その後、99.5%エタノール(和光、分析グレード)で洗浄し、自然乾燥した。
50mLの標準又は組成変更リン酸カルシウム溶液をパイレックス(登録商標)ビーカーに入れ、37±0.5℃で予備加熱しておいた。2×2×0.3mmに切断したβ−TCP基板をビーカーの底に設置し、溶液の蒸発を防ぐためパラフィルム〔PARAFILM(登録商標)〕で二重に蓋をした後、37±0.5℃のインキュベータ中で攪拌なしに保持した。浸漬時間は1分から20時間である。
設定時間浸漬後、成長サンプルを溶液から取り出して直ちにミリQ水で洗浄した。その後、99.5%エタノール(和光、分析グレード)で洗浄し、自然乾燥した。
<<2. 成長サンプルの観察手段、計測手段>>
<2.1 X線回折(XRD)>
β−TCP基板上に析出した物質の評価を粉末XRD(RINT2000、リガク)及び薄膜XRD(SmartLab、リガク)で行なった。粉末XRD測定においては(単色CuKα線、40kV、100mA)、サンプルは走査速度毎分2°で2θ=3−60°の範囲で測定を行なった。薄膜XRD測定においては(単色CuKα線、45kV、200mA)、サンプルは走査速度毎分0.1°で2θχ=3−50°の範囲で測定を行なった。ビーム入射角度はサンプル表面に対して0.2°である。
<2.1 X線回折(XRD)>
β−TCP基板上に析出した物質の評価を粉末XRD(RINT2000、リガク)及び薄膜XRD(SmartLab、リガク)で行なった。粉末XRD測定においては(単色CuKα線、40kV、100mA)、サンプルは走査速度毎分2°で2θ=3−60°の範囲で測定を行なった。薄膜XRD測定においては(単色CuKα線、45kV、200mA)、サンプルは走査速度毎分0.1°で2θχ=3−50°の範囲で測定を行なった。ビーム入射角度はサンプル表面に対して0.2°である。
<2.2 走査電子顕微鏡(SEM)>
サンプルの成長層表面、及び医療用メスでカットした成長層断面の形態を電界放射型SEM(FE-SEM,JSM-7000F,JEOL)により観察した。観察時の加速電圧は5kVである。サンプルは観察前に白金コーティングを行なった。コーティング層の厚みは約15nmである。
サンプルの成長層表面、及び医療用メスでカットした成長層断面の形態を電界放射型SEM(FE-SEM,JSM-7000F,JEOL)により観察した。観察時の加速電圧は5kVである。サンプルは観察前に白金コーティングを行なった。コーティング層の厚みは約15nmである。
<2.3 透過電子顕微鏡(TEM)>
成長サンプルの観察には、分析TEM(Tecnai Osiris, FEI)を加速電圧200kVで用いた。観察用薄片の作成は、ガリウムイオン源を用いて通常のFIB法により行なった(FB-2100,日立)。成長後のサンプルを光硬化型樹脂に埋没させ、固化後にサンプル表面に垂直に切断する。切断された約0.5mm厚のブロックを、加速電圧40kVでFIBにより約150nmまで薄膜化し、最終的に加速電圧10kVで約100nmにする。この薄膜を、モリブデンメッシュ製TEMグリッドに設置する。選択領域電子線回折(SAED)測定をTEM観察と同時に行い、観察物の同定を行った。SAED測定における典型的な測定範囲は、200あるいは800nmφである。
成長サンプルの観察には、分析TEM(Tecnai Osiris, FEI)を加速電圧200kVで用いた。観察用薄片の作成は、ガリウムイオン源を用いて通常のFIB法により行なった(FB-2100,日立)。成長後のサンプルを光硬化型樹脂に埋没させ、固化後にサンプル表面に垂直に切断する。切断された約0.5mm厚のブロックを、加速電圧40kVでFIBにより約150nmまで薄膜化し、最終的に加速電圧10kVで約100nmにする。この薄膜を、モリブデンメッシュ製TEMグリッドに設置する。選択領域電子線回折(SAED)測定をTEM観察と同時に行い、観察物の同定を行った。SAED測定における典型的な測定範囲は、200あるいは800nmφである。
<2.4 走査TEMエネルギー分散分光分析(STEM−EDS)>
高速二次元元素マッピング及び各元素の含有量に関する定量的分析を、TEMに装備されているSuper−X EDSシステムにより行った。分析に用いたビーム径は約0.5nm、電流値は約0.55nAである。各分析位置にビームが滞留する時間は10μsである。分析は5分以内に完了する。各元素の含有率はスペクトルのエネルギー依存性から計算され、ピーク分離手法を用いて定量値に変換する。最終的な含有率に含まれるエラーは、ピーク分離時の計算誤差である。
高速二次元元素マッピング及び各元素の含有量に関する定量的分析を、TEMに装備されているSuper−X EDSシステムにより行った。分析に用いたビーム径は約0.5nm、電流値は約0.55nAである。各分析位置にビームが滞留する時間は10μsである。分析は5分以内に完了する。各元素の含有率はスペクトルのエネルギー依存性から計算され、ピーク分離手法を用いて定量値に変換する。最終的な含有率に含まれるエラーは、ピーク分離時の計算誤差である。
<<3. 観察・計測結果>>
<3.1 基板を標準リン酸カルシウム溶液及び組成変更リン酸カルシウム溶液に浸漬した場合の成長相の種類−溶液のpH効果>
図1a−jは、基板を20時間浸漬した後に基板表面に形成された物質の溶液pH依存性を、表面SEM観察及びXRD測定により評価したものである。使用した全ての溶液において、Ca/Pモル比は1.02で一定である。溶液中のカルシウムイオン濃度は溶液のpHに依存する。それらは、pH5.5で7.5mM、6.2で5.0mM、7.4で1.2mMである。これらの濃度は、基板を溶液中に浸漬した場合、基板上に物質の成長は起こるが溶液中には少なくとも20時間析出が生じない閾値濃度として設定された。
<3.1 基板を標準リン酸カルシウム溶液及び組成変更リン酸カルシウム溶液に浸漬した場合の成長相の種類−溶液のpH効果>
図1a−jは、基板を20時間浸漬した後に基板表面に形成された物質の溶液pH依存性を、表面SEM観察及びXRD測定により評価したものである。使用した全ての溶液において、Ca/Pモル比は1.02で一定である。溶液中のカルシウムイオン濃度は溶液のpHに依存する。それらは、pH5.5で7.5mM、6.2で5.0mM、7.4で1.2mMである。これらの濃度は、基板を溶液中に浸漬した場合、基板上に物質の成長は起こるが溶液中には少なくとも20時間析出が生じない閾値濃度として設定された。
pH5.5の組成変更されたリン酸カルシウム溶液(50mM酢酸ナトリウム−酢酸バッファー系)中に基板を浸漬した場合、β−TCPマイクロ基板上には少数の大きな板状結晶(幅100μm以上、厚さ10μm以上)が成長した(図1a、白矢印)。これに対して、β−TCPナノ基板は浸漬後、小さな板状結晶(幅100μm以下)で覆われた(図1b)。β−TCPマイクロ基板上の結晶をピンセットで剥離したのちXRD測定を行なった結果、2θ=11.7°に鋭く強度の高いピークが観察された。このピークは第二リン酸カルシウム二水塩(CaHPO4・2H2O,DCPD)の(020)回折に相当する特徴的なピークである。11.7°以外の全てのピークもDCPDに帰属された(図1c、上側カーブ)。浸漬後のナノ基板上の物質に関してもDCPDの(020)に相当するピークが観察された(図1c、下側カーブ)。基板に由来するピークも観察されたが、これは基板上の析出物の密度が低いためである。これらの結果から、pH5.5で基板上に形成される物質はマイクロ、ナノ両基板ともDCPDであると結論される。
標準リン酸カルシウム溶液(pH6.2)に浸漬した基板は、基板粒子のサイズによらず10−20μm幅の多角形の板状物質に覆われている。ただし、板のサイズはナノ基板の方が若干小さい(図1d,e)。マイクロ基板上に析出した成長層の厚みは約80μm、ナノ基板上の成長層の厚みは65μm程度であった。浸漬後の両基板のXRD測定の結果、2θ=26.1及び55.0°に鋭い高強度のピークが観察され、それら以外のピークの強度は非常に小さかった(図1f)。これらの成長層に対する薄膜XRD測定の結果、OCP結晶の(100)回折を示す2θ=4.7°にピークが観察された(図2a)。従って、図1fにおける26.1及び55.0°のピークはOCP結晶の(002)及び(004)回折に相当する。薄膜XRD測定における(100)以外の全てのピークもOCPに帰属されたため、標準リン酸カルシウム溶液中に浸漬した両基板上に形成した物質はc軸配向OCPである。
図1gは、pH7.4の溶液に浸漬した後のマイクロ基板表面のSEM像である。このpH用に組成変更されたリン酸カルシウム溶液は、50mMトリスアミノメタンによりバッファリングされている。基板表面は、数−10μm幅の密集した板状物質に覆われている。XRD測定の結果、pH6.2の場合と同様に2θ=26.1及び55.0°にピークが観察され(図1i、上側カーブ)、薄膜XRD測定の結果からはOCP(100)回折に相当する2θ=4.7°にピークが観察された(図2b、上側カーブ)。これらの結果は、成長物質がOCPであることを示している。c軸配向度は、(002)及び(004)以外のピークが出現していることからpH6.2の場合より劣っている。
ナノ基板上に形成した物質の形態も、マイクロ基板の場合と同様に板状であった。各板のサイズはマイクロ基板上のそれに比べて不均一である(図1h)。XRD(図1i、下側カーブ)及び薄膜XRD(図2b、下側カーブ)測定の結果、板はOCP結晶であり、c軸配向度は(002)ピークの強度からわかるように、マイクロ基板の場合より優れていた。
本発明者が行った実験から、幅広い溶液pH領域でβ−TCP基板上にOCP結晶層が形成され得ることが明らかになった。過去の研究でOCP層が形成しなかった理由の一つは、溶液組成、特にマグネシウムの含有にあると思われる。50mMトリスアミノメタンでpH7.4に調整した簡易SBF(NaCl 142mM, Ca2+ 2.5mM, PO4 3− 1mM)を準備し、β−TCPマイクロ基板を20時間浸漬した場合、図1gに見られると同様の板状OCP結晶が形成された(図3a)。しかし、この簡易SBFに1.5mMのMgCl2を加えると、基板表面には微小な板の集合からなる、少量の塊が形成されるのみであった(図3b)。これらの塊は、pH6.2の標準リン酸カルシウム溶液に基板を浸漬した際、成長初期ステージに見られる塊状物質と酷似している(図4参照)。これらの実験結果から、マグネシウムは明らかにOCPの核形成を阻害しているといえる。
以下のセクションでは、pH6.2の標準リン酸カルシウム溶液に基板を浸漬した場合に特化して解析を行う。この溶液条件がOCPの成長に好適なためである。
以下のセクションでは、pH6.2の標準リン酸カルシウム溶液に基板を浸漬した場合に特化して解析を行う。この溶液条件がOCPの成長に好適なためである。
<3.2 標準リン酸カルシウム溶液にβ−TCPマイクロ基板を浸漬した場合の成長層の形成過程>
マイクロ基板上に成長したOCP層の厚みは80μmに達するため、XRD測定の結果は、主に成長後期の情報を反映している。成長プロセスの検証を行うため、時間分割SEM観察を行った(図4a−f)。基板浸漬後1分で、表面には微小な板の集合からなる塊が形成する(図4a,白矢印)。核形成した塊の量は少なく、それらは時間経過と共にサイズと数を増加させる(図4b)。浸漬後10分では、塊中の各板はお互い融合して成長している(図4c)。20分後には、基板表面の大部分が不規則なエッジを持つ数μmスケール幅の板に覆われる(図4d)。浸漬後40分から1時間が経過すると、これらの板はエッジが多角形の形状に変化する(図4e,f)。板の平均サイズは1時間経過後も増加し、20時間後には約10−20μm幅に達する。溶液がβ−TCPに対して過飽和であるにもかかわらず、OCP層形成初期に(<10分以内)元々の基板表面の成長が見られない。初期に析出した微小板からなる塊は、β−TCPマイクロ基板上に直接形成している。成長初期の板とβ−TCPマイクロ結晶の界面を高分解能TEM(HR−TEM)で観察した結果、板の伸長方向に平行な格子縞が観察され、それらの格子縞は基板のマイクロ結晶に直接接続していた(図5)。後に示すように、この格子縞パターンはOCP結晶に特有のものである。
マイクロ基板上に成長したOCP層の厚みは80μmに達するため、XRD測定の結果は、主に成長後期の情報を反映している。成長プロセスの検証を行うため、時間分割SEM観察を行った(図4a−f)。基板浸漬後1分で、表面には微小な板の集合からなる塊が形成する(図4a,白矢印)。核形成した塊の量は少なく、それらは時間経過と共にサイズと数を増加させる(図4b)。浸漬後10分では、塊中の各板はお互い融合して成長している(図4c)。20分後には、基板表面の大部分が不規則なエッジを持つ数μmスケール幅の板に覆われる(図4d)。浸漬後40分から1時間が経過すると、これらの板はエッジが多角形の形状に変化する(図4e,f)。板の平均サイズは1時間経過後も増加し、20時間後には約10−20μm幅に達する。溶液がβ−TCPに対して過飽和であるにもかかわらず、OCP層形成初期に(<10分以内)元々の基板表面の成長が見られない。初期に析出した微小板からなる塊は、β−TCPマイクロ基板上に直接形成している。成長初期の板とβ−TCPマイクロ結晶の界面を高分解能TEM(HR−TEM)で観察した結果、板の伸長方向に平行な格子縞が観察され、それらの格子縞は基板のマイクロ結晶に直接接続していた(図5)。後に示すように、この格子縞パターンはOCP結晶に特有のものである。
図6a,bは、基板界面から約4.5μm離れた成長層位置での低倍率TEM像(図6a)とSAEDパターンである(図6b, 図6aの上方左向き矢印付近で測定)。図6aにおいて、CRは結晶、REは充填樹脂を示す(図8の元素マッピングイメージを参照)。SAEDパターンから2つの面間隔d、が計算された。それらは1.870nmと0.550nmであり、両方向の交差角は81.0°であった。これらのd値は、OCP結晶の(100)及び(0−11)面の面間隔に誤差範囲(<1%)で一致する。また、OCP結晶の[100]及び[0−11]方位の交差角の理論値は81.0°であり、測定値に一致する。従って、図6bのSAEDパターンは晶体軸[011]方向から見た像である。結晶のHR−TEM観察からは伸長方向に平行な格子縞が観察された。そのFFT変換像から計算された格子縞間隔は1.86nmであり、d(100)とほぼ一致する(図6c)。
基板界面から約1.3μm離れた成長初期領域でのSAEDパターン(図6d, 図6aの下方右向き矢印付近)は2種類のd値を示した。それらは1.655nm(左下から右上に伸びる破線)と0.560nm(左上から右下に伸びる破線)であり、両方向の交差角は90.3°であった。β−TCP、OCP、HAPのd値の中で、1.655nmは唯一OCPのd(100)に相当する値である。HAP結晶が単斜晶系であった場合、そのd(010)は1.655nmに近い値を取るが、(010)回折は消滅則のため出現しない。測定されたd(100)は理論値より11.2%小さい。すなわち[100]方向が収縮しており、OCPの構造は変調している。この収縮は、当然他のd(hkl)に影響を及ぼすはずである。観察された交差角から、0.560nmはd(−11−1)に相当すると思われる。しかし、その値は理論値より2%大きい。d(100)に見られた変調が結晶構造にどのような影響を及ぼすかを詳細に検討するため、サンプルを[100]に垂直な軸の周囲に回転させ、回転に伴って出現するSAEDパターンを解析した。その結果、図7aに見られるように4種類のSAED像が得られた。これらのSAED像は、見やすさの観点から全て[100]が水平になるよう傾斜させてある。次にOCPのa軸が11.2%収縮しているとの仮定の下、[100]に垂直方向から見たSAEDパターンのシミュレーションを行った。サンプルを[010]から[0−10]方向へ仮想的に回転させた場合、9つの低指数晶体軸に対応するSAEDパターンが得られた。これらのSAEDのうち、4つのパターン(図7bの破線四角枠)と各々の為す角度が実験結果と最も近いことが判明した(図7c)。しかしながら、これらのSAEDパターンから計算されたd値と、各方位間の為す角度は実験結果とは完全に一致していない。表1は、d値及び各晶体軸方向と[100]との為す角度に関して、シミュレーション及び実測値の比較である。両者間に見られる相違に関して本発明者は、OCP結晶のa軸だけではなく、各軸間の為す角度(恐らくγ角)が変調を受けていると推測する。
図8a,bは、STEM−EDSによる成長層の元素マッピングであり、それらが成長ステージにどのように依存するかを示している。スペクトル解析から、成長後期ステージ(5μm以上界面から離れた領域、図8e上側カーブ)では、平均のCa/P元素%比は1.42±0.02であり、OCPの化学量論比1.33より大きい。成長初期ステージ(界面から2μm以内の領域、図8e下側カーブ)ではCa/P比は1.49±0.03であり、更に増大している。
Ca/P比が成長最終ステージにおいて1.33に一致するか否かを確認するため、界面から約70μm離れた成長層部分から結晶を剥離し、STEM−EDS分析を行った(図9)。その結果、5つの結晶に対する平均Ca/P比は1.35±0.02であった。成長最終ステージでは、化学組成がほぼ理論値に回復している。
Ca/P比が成長最終ステージにおいて1.33に一致するか否かを確認するため、界面から約70μm離れた成長層部分から結晶を剥離し、STEM−EDS分析を行った(図9)。その結果、5つの結晶に対する平均Ca/P比は1.35±0.02であった。成長最終ステージでは、化学組成がほぼ理論値に回復している。
TEM観察、SAED測定、そしてSTEM−EDS分析の結果は、OCP結晶の構造と化学組成が変調を受けていることを示している。SAEDパターンから明らかなように、結晶構造は、成長に伴って直ぐに正常な状態へと回復する。この変調の正体に関しては、後に議論する。
20時間浸漬後の基板に関するXRD測定の結果は、β−TCPに相当する高強度のピークと、OCPに相当する低強度ピークが観察された(データは示さず)。OCP結晶は、基板のマイクロスケール結晶間に溶液が浸透して形成されたと推定される。
<3.3 標準リン酸カルシウム溶液にβ−TCPナノ基板を浸漬した場合の成長層の形成過程>
20時間浸漬後の基板上に成長するOCP自体はマイクロ基板でもナノ基板でも大差ないが、成長層の形成過程には大きな差異が認められた。
図10a−fは、ナノ基板上での成長層形成過程の時間分割SEM観察の結果である。基板浸漬後1分で、表面には100nm以下のサイズのナノ粒子が析出する(図10a)。これらの粒子は急速に融合して3−5分後には木の根構造を形成する(図10b,c)。木の根構造は10分後には不規則形状の板へと変貌し(図10d)、それらは成長し、40分から1時間後にはミクロンスケール幅の多角形板へと変化する(図10e,f)。この形状はOCPに特有のものである。成長に伴うナノ粒子の出現と木の根構造への変化は、マイクロ基板では観察されなかった事象である。
20時間浸漬後の基板上に成長するOCP自体はマイクロ基板でもナノ基板でも大差ないが、成長層の形成過程には大きな差異が認められた。
図10a−fは、ナノ基板上での成長層形成過程の時間分割SEM観察の結果である。基板浸漬後1分で、表面には100nm以下のサイズのナノ粒子が析出する(図10a)。これらの粒子は急速に融合して3−5分後には木の根構造を形成する(図10b,c)。木の根構造は10分後には不規則形状の板へと変貌し(図10d)、それらは成長し、40分から1時間後にはミクロンスケール幅の多角形板へと変化する(図10e,f)。この形状はOCPに特有のものである。成長に伴うナノ粒子の出現と木の根構造への変化は、マイクロ基板では観察されなかった事象である。
図11aは、20時間浸漬後のサンプル(FIB法により作成)の低倍率TEM画像である。SEM観察から予測されるように、成長層は3つの領域に分類される。それらは、基板界面直上のブッシュ様針状物質からなる領域、不規則形状の板からなる領域、多角形板からなる領域である。各領域の境界は不明瞭であり、特に不規則形状板から多角形板への変化は連続的である。ブッシュ様針状物質の高倍率TEM画像(図11b)、及び800nmφ領域でのSAED測定から明確な2つのDebyeリングが観察された(図11c、上部画像)。SAED測定領域にはブッシュ様針状物質以外にも基板に由来するナノ粒子を含んでいるため、ブッシュ様針状物質のみを含む200nmφ領域での測定も行った(図11c、下部画像)。両者は一致している。2つのDebyeリングの中心からの距離を測定すると、0.345nm及び0.281nmであることがわかった。全ての回折とそれらの相対的強度を考慮した結果、HAPのd(002)(強度99.36%)とd(211)(強度52.34%)が誤差範囲(<1%)で0.345nm及び0.281nmに一致することがわかった。特に(211)回折は、HAPのXRDパターンにおいて最高強度のピークとして出現する。一方で、得られたDebyeリングがOCPのものであった場合、0.345nmはOCPのd(121)と誤差範囲で一致する。0.281nmは多くの回折に対応し、それらは(130),(6−2−1),(5−30)等である。これらのうち、(5−30)回折は相対強度100%であるが、(121)回折は20%以下の強度しか示さない。このことは得られたSAEDパターンがOCPでなくHAPに対応することを示唆する。実際にパターンがHAPのものであることを確認するため、ブッシュ様針状物質のHR−TEM観察を行なった(図11d、左側)。この像のFFT変換像(図11d、右側)から、2つの特徴的な距離、1.23nm−1及び2.93nm−1が得られた。これらの方位の交差角は90°である。FFTの逆格子空間で得られた距離は、実空間では0.813nm及び0.341nmに相当し、これらは誤差範囲で(<1%)HAPのd(100)とd(002)に一致する。このことは、図11dのイメージがHAPのac面に相当することを意味する。図にはHAPのunit cellに相当するサイズを書き込んである。
基板界面から約1.5μmの位置での不規則形状板に対するSAED測定の結果、0.862nm及び0.341nmの面間隔が算出され、それらの方位は88.0°で交差していた(図11e)。このSAEDパターンは、理想的なHAPあるいはOCPのどちらにも対応しない。SAEDパターンがHAPのものであった場合、ac面を[010]方位から観察していることになるが、0.862nmはHAPのd(100)である0.816nmより誤差範囲を超えて大きい。更に計算された[100]と[001]の交差角は90.0°であり、測定値と一致しない。一方で、SAEDパターンがOCPのものであった場合、そのパターンはやはりac面を[010]方向から見たものに相当する。この場合、計算される[100]と[001]の交差角度は87.3°であり、実測値に近い。0.341nmの値はOCPのd(002)に誤差範囲(<1%)で一致する。しかし、0.862nmはOCPのd(200)である0.932nmより7.5%小さい。不規則形状板に対するHR−TEM観察から、約1.7nm、すなわち0.862nmのほぼ倍に当たる間隔の格子縞が観察された。この格子縞は、図6cに示す様に相対的に低倍率で観察されるOCP結晶に特有のパターンである。本発明者は、不規則形状板が本質的にOCPの骨格を有しており、マイクロ基板上に成長したOCPのように、d(100)が収縮していると結論する。
基板界面から約7μm離れた位置での多角形板に対するSAED測定の結果を図11gに示す。このパターンから0.952nmと0.686nmの面間隔が算出された。また、両方向の為す角度は92.0°、すなわち−88.0°であるため、0.952nmはOCPのd(200)に対応する。しかし、その値は理論値より約2.1%大きい。一方、0.686nmはOCPのd(001)に誤差範囲(<1%)で一致する。これらのことから、ナノ基板の場合にはマイクロ基板に比べて、d(100)に見られる変調がより後期の成長ステージまで波及していることがわかる。また、d(001)の値が理論値と一致することは、構造的変調がab面内で生じていることを支持する。
成長層の二次元元素マッピングの結果を図12aに示す。カルシウム元素マッピング像にスーパーインポーズされた破線の四角と番号は、それぞれブッシュ様針状領域(1)、不規則形状板領域(2)、多角形板領域(3)に対する測定範囲を示す。ブッシュ様針状領域のSTEM−EDSスペクトル(図12b、下から1番目のカーブ)から求められたCa/P元素%比は1.66±0.02であり、HAPの化学量論比に近い。この結果は、ブッシュ様針状物質がHAPであることを支持する。この領域の形成は、時間分割SEM観察における木の根構造の出現時期に対応している(図10参照)。不規則形状板(図12b、下から2番目のカーブ)及び多角形板(図12b、下から3番目のカーブ)領域に対するSTEM−EDS測定の結果、平均Ca/P比はそれぞれ1.59±0.07、1.50±0.03であった。これらの値は、マイクロ基板上のOCPのそれよりかなり大きい。
基板界面から約40μm離れた位置でのCa/P比の測定を行なったところ(このサンプルは別途準備)、1.44±0.02であり(図12b、下から4番目のカーブ)、マイクロ基板を用いた際に界面から約5μm離れた成長層位置で測定された値と近い(図8を参照)。界面から40μm離れた位置での多角形板のTEM像(図13a)及びSAEDパターン(図13b)から1.860nmと0.684nmの面間隔が観察され、それらの方位の交差角は92.0°であった。これらのd値はOCP結晶のd(100)及びd(001)に誤差範囲(<1%)で一致する。すなわち、この領域では構造変調が解消している。基板界面から約70μm離れた領域でのCa/P比は、OCPの化学量論比に近い値となっていた(データは示さず)。
成長層の二次元元素マッピングの結果を図12aに示す。カルシウム元素マッピング像にスーパーインポーズされた破線の四角と番号は、それぞれブッシュ様針状領域(1)、不規則形状板領域(2)、多角形板領域(3)に対する測定範囲を示す。ブッシュ様針状領域のSTEM−EDSスペクトル(図12b、下から1番目のカーブ)から求められたCa/P元素%比は1.66±0.02であり、HAPの化学量論比に近い。この結果は、ブッシュ様針状物質がHAPであることを支持する。この領域の形成は、時間分割SEM観察における木の根構造の出現時期に対応している(図10参照)。不規則形状板(図12b、下から2番目のカーブ)及び多角形板(図12b、下から3番目のカーブ)領域に対するSTEM−EDS測定の結果、平均Ca/P比はそれぞれ1.59±0.07、1.50±0.03であった。これらの値は、マイクロ基板上のOCPのそれよりかなり大きい。
基板界面から約40μm離れた位置でのCa/P比の測定を行なったところ(このサンプルは別途準備)、1.44±0.02であり(図12b、下から4番目のカーブ)、マイクロ基板を用いた際に界面から約5μm離れた成長層位置で測定された値と近い(図8を参照)。界面から40μm離れた位置での多角形板のTEM像(図13a)及びSAEDパターン(図13b)から1.860nmと0.684nmの面間隔が観察され、それらの方位の交差角は92.0°であった。これらのd値はOCP結晶のd(100)及びd(001)に誤差範囲(<1%)で一致する。すなわち、この領域では構造変調が解消している。基板界面から約70μm離れた領域でのCa/P比は、OCPの化学量論比に近い値となっていた(データは示さず)。
20時間浸漬後の基板に対するXRD測定の結果、HAP及びβ−TCPに相当する明確なピークが観察されたが、OCPに相当するピークは検出されなかった(データは示さず)。この結果は、ナノ基板を用いた場合に成長初期に基板上にHAPが形成されるデータを支持する。
基板の粒子サイズに応じたOCP形成過程の相違は、初期リン酸カルシウム溶液のCa/Pモル比が1.02以外の場合でも見られた。[Ca2+]×[PO4 3−]を15−16mM2に保ち、Ca/P比を1.33及び1.67に調整した場合のOCP形成過程を調べた結果、マイクロ基板上にはOCPが直接形成され、ナノ基板上にはブッシュ様針状物質から不規則形状板を経て多角形板形状のOCPが形成された(図14)。
基板の粒子サイズに応じたOCP形成過程の相違は、初期リン酸カルシウム溶液のCa/Pモル比が1.02以外の場合でも見られた。[Ca2+]×[PO4 3−]を15−16mM2に保ち、Ca/P比を1.33及び1.67に調整した場合のOCP形成過程を調べた結果、マイクロ基板上にはOCPが直接形成され、ナノ基板上にはブッシュ様針状物質から不規則形状板を経て多角形板形状のOCPが形成された(図14)。
<<4. 実施例等についての考察>>
β−TCP基板を構成する粒子のナノスケール化は、成長初期において基板上に形成する物質をOCPからHAPに変化させる。これは、粒子のナノスケール化により粒子体積に対する自由表面の増加が起こって、ナノ粒子の表面自由エネルギーがマイクロ粒子のそれに比べて増大したためである。HAPの表面エネルギーはOCPあるいはβ−TCPのそれより大きく、OCPとβ−TCPの差は相対的に小さい。従って、β−TCP基板上にOCPが形成することは自然である。しかし、β−TCP基板を構成する粒子のナノスケール化によってβ−TCPとHAP間の表面エネルギー差が減少すると、熱力学的効果(HAPに対する過飽和度)が核形成に要する表面エネルギーバリアに打ち勝ち、OCPの代わりにHAPを基板上に核形成させる。ここで疑問点は、なぜナノ基板表面に形成したHAPがそのまま成長せず、OCPが遅れて成長するか、である。これは、通常OCPがHAPより初期に出現し、やがてHAPに相転移する現象と矛盾する様に見える。この現象に関する解釈として、本発明者はOCP及びHAPの成長に関して、熱力学的効果よりキネティック効果の寄与が大きかったためと推測する。本発明者の過去の研究結果から、本研究条件におけるHAPのc軸方向への成長速度は数10nm/h以下と推測される(非特許文献4参照)。一方でOCPのc軸方向への成長速度は、今回の観察から500nm/h−1μm/h以上である。OCPの成長速度はHAPの成長速度より少なくとも1桁以上大きく、それ故、OCPがHAPに遅れて出現しても主要相として発達することは可能である。この成長様式は今回のβ−TCP基板に特有なものではない。ACPナノ粒子基板上にHAPのナノロッド構造を構築した本発明者の過去の研究(非特許文献5参照)において、溶液中にフッ素が存在するとHAPが成長し、フッ素が欠如するとOCPが成長した。このプロセスにおいて、初めにHAPナノロッドをフッ素含有溶液中で約30分間成長させた後に、サンプルをフッ素非含有溶液に移行すると、20時間後にはHAPナノロッド上にOCP層が形成した(図15)。特定の条件では、OCPはHAPが核形成した後に出現し、主要相として発達することがあり得る。
β−TCP基板を構成する粒子のナノスケール化は、成長初期において基板上に形成する物質をOCPからHAPに変化させる。これは、粒子のナノスケール化により粒子体積に対する自由表面の増加が起こって、ナノ粒子の表面自由エネルギーがマイクロ粒子のそれに比べて増大したためである。HAPの表面エネルギーはOCPあるいはβ−TCPのそれより大きく、OCPとβ−TCPの差は相対的に小さい。従って、β−TCP基板上にOCPが形成することは自然である。しかし、β−TCP基板を構成する粒子のナノスケール化によってβ−TCPとHAP間の表面エネルギー差が減少すると、熱力学的効果(HAPに対する過飽和度)が核形成に要する表面エネルギーバリアに打ち勝ち、OCPの代わりにHAPを基板上に核形成させる。ここで疑問点は、なぜナノ基板表面に形成したHAPがそのまま成長せず、OCPが遅れて成長するか、である。これは、通常OCPがHAPより初期に出現し、やがてHAPに相転移する現象と矛盾する様に見える。この現象に関する解釈として、本発明者はOCP及びHAPの成長に関して、熱力学的効果よりキネティック効果の寄与が大きかったためと推測する。本発明者の過去の研究結果から、本研究条件におけるHAPのc軸方向への成長速度は数10nm/h以下と推測される(非特許文献4参照)。一方でOCPのc軸方向への成長速度は、今回の観察から500nm/h−1μm/h以上である。OCPの成長速度はHAPの成長速度より少なくとも1桁以上大きく、それ故、OCPがHAPに遅れて出現しても主要相として発達することは可能である。この成長様式は今回のβ−TCP基板に特有なものではない。ACPナノ粒子基板上にHAPのナノロッド構造を構築した本発明者の過去の研究(非特許文献5参照)において、溶液中にフッ素が存在するとHAPが成長し、フッ素が欠如するとOCPが成長した。このプロセスにおいて、初めにHAPナノロッドをフッ素含有溶液中で約30分間成長させた後に、サンプルをフッ素非含有溶液に移行すると、20時間後にはHAPナノロッド上にOCP層が形成した(図15)。特定の条件では、OCPはHAPが核形成した後に出現し、主要相として発達することがあり得る。
a軸方向へのOCPの構造は、HAP類似層−遷移層−HPO4−H2O層−遷移層−HAP類似層の繰り返しからなる。酢酸やコハク酸等のカルボキシル基を有する分子は、HPO4−H2O層に取り込まれ、d(100)を伸長することが知られている。一方で、HPO4−H2O層中の水分子の欠損によるd(100)の収縮は、OCPを150℃以上に加熱した時に起こる。ACPからOCPへの相転移(室温)を調べた本発明者の過去の研究では、金ナノ粒子表面にカルボキシル基を結合させた添加物を溶液中に加えると、d(100)の収縮が起こり得ることが示唆された。今回の研究ではd(100)の収縮に関する直接証拠を得られた。また、結晶の加熱や溶液中への添加物なしにこの収縮が起こること、基板の粒子サイズを変化させることで、収縮が解消するまでの時間をコントロールできることが明らかとなった。OCP構造中におけるd(100)の収縮は、HPO4−H2O層そのものの欠損の結果として起こる。何故ならば、この層の欠損は必然的にリン酸欠損OCPを生み出し、それは今回の研究におけるSTEM−EDS分析の結果と調和するからである。この構造変調は、過去の研究とは異なり高結晶性OCPで起こり得ることが示された。すなわち、OCPの結晶構造は本質的に不安定であり、成長と共に理想的な構造へと熟成する。ナノ粒子基板に見られた化学組成の長時間における変調は、OCPがHAP上に成長するためと推測する。これは、HPO4−H2O層欠損OCPの構造がHAP構造に似ているため、下地HAPの影響を長時間引き継ぐためである。
以上のような考察から、次のような知見が得られた。
(1)配向OCP結晶層を、幅広い溶液pH・体温条件下でβ−TCP基板上に形成することができる。
(2)HPO4−H2O層欠損によるOCP結晶構造と化学組成の変調が、結晶加熱あるいは溶液中への添加物なしに起こり得る。この変調は基板粒子のナノ化により助長される。
(3)OCP結晶の構造と化学組成における変調は、OCPを骨移植(代替)材料として使用する場合に大きな影響を持つ。それ故、これらの変調の簡単なコントロールは有用である。
(1)配向OCP結晶層を、幅広い溶液pH・体温条件下でβ−TCP基板上に形成することができる。
(2)HPO4−H2O層欠損によるOCP結晶構造と化学組成の変調が、結晶加熱あるいは溶液中への添加物なしに起こり得る。この変調は基板粒子のナノ化により助長される。
(3)OCP結晶の構造と化学組成における変調は、OCPを骨移植(代替)材料として使用する場合に大きな影響を持つ。それ故、これらの変調の簡単なコントロールは有用である。
本発明によれば、骨移植(代替)材料としてのβ−TCPからなる基材と、骨誘導材料として優れたポテンシャルを有するOCP結晶層とを含む複合体を、人体等の生命体に対し許容可能な条件下乃至擬似生理環境場において、簡易に形成乃至製造できるので、損傷骨などの治療や、移植用骨代替材料、新生骨誘導用足場材料等への応用、それらの材料の製造等への利用が期待される。特に、本発明の前記OCP結晶層は、新骨形成を促進することが知られている変調部分を有し、また、その変調部分の広狭もβ−TCP結晶粒子の粒子サイズにより調整可能であるので、前記用途などへのより有効な活用が期待される。
Claims (11)
- β−リン酸三カルシウム(以下、「β−TCP」ということがある。)結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材の表面の少なくとも一部を、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含有し、マグネシウムイオン含有量が0.5mM以下である母液に浸漬する工程を備える、β−TCP基材とリン酸八カルシウム(以下、「OCP」ということがある。)結晶層を含む複合体の製造方法。
- β−TCP結晶粒子をマイクロメートルサイズのものとし、β−TCP基材の表面に直接OCP結晶を形成する請求項1に記載の複合体の製造方法。
- 前記β−TCP結晶粒子をナノメートルサイズのものとし、β−TCP基材表面に水酸アパタイト(以下「HAP」ということがある。)結晶層と、該HAP結晶層上にOCP結晶層を形成する請求項1に記載の複合体の製造方法。
- 前記母液は、カルシウムイオン濃度が0.2〜5mM、リン酸イオン濃度が0.2〜5mMの水溶液である請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
- 前記母液は、マグネシウムイオン含有量が0.1mM以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
- 前記母液はpHが5.5を超え8.0以下である請求項4に記載の複合体の製造方法。
- 前記母液の温度が0〜60℃である請求項4に記載の複合体の製造方法。
- β−TCP結晶粒子の充填体からなるβ−TCP基材と、該β−TCP基材の表面上のOCP結晶層を含む複合体。
- 前記β−TCP結晶粒子がナノメートルサイズであり、β−TCP基材とOCP結晶層との間にHAP結晶層を含む請求項8記載の複合体。
- 前記β−TCP結晶粒子がマイクロメートルサイズであり、OCP結晶層がβ−TCP基板の表面上に直接存在するものである請求項8に記載の複合体。
- 前記OCP結晶層は、その結晶構造及び/又は化学組成が変調した部分を含むものである請求項8〜10のいずれか1項に記載の複合体。
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