JPWO2018221445A1 - ゲル化剤 - Google Patents

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Abstract

本発明は、優れたゲル化能を有する上に安全にも優れたゲル化剤と、当該ゲル化剤を含むハイドロゲルを提供することを目的とする。本発明に係るゲル化剤は、下記式(I)で表されるペプチドまたはその塩を含むことを特徴とする。[式中、R1はC1-4アルキル基を示し、R2はベンジル基などを示し、R3とR4は、独立して、C1-4アルキル基などを示し、R5は4−アミノブチル基などを示し、R6は−OHなどを示し、pは2以上4以下の整数を示し、qとrは、独立して、0または1を示す]

Description

本発明は、優れたゲル化能を有し且つ安全なものであるゲル化剤と、当該ゲル化剤を含むハイドロゲルに関するものである。
例えば、ローションや乳液などの液状化粧料は、勿論それ自体が有用なものであるが、液だれを抑制する等のためにゲル化が求められることがある。液体をゲル化するためにはゲル化剤が用いられ、ゲル化剤には高分子ゲル化剤と低分子ゲル化剤がある。高分子ゲル化剤は比較的優れたゲル化能を示すといえる。しかし、例えばゲル状化粧品ではチキソトロピー性が求められるが、チキソトロピー性を示すゲルを高分子ゲル化剤から得ることは難しい。そこで近年では、チキソトロピー性を示すゲルが得られる低分子ゲル化剤が種々検討されている。低分子ゲル化剤は、自己組織化してファイバー状の構造体を形成し、かかるファイバー状構造体が互いに絡まり合って三次元網目構造体を形成し、その空隙に溶媒を取り込んでゲル化すると考えられる。この自己組織化が熱可逆性を示すため、得られるゲルも熱可逆性を示す。
例えば本発明者らの研究グループは、イオン液体の低分子ゲル化剤を開発している(特許文献1)。イオン液体ゲルは導電性を有するため、例えば燃料電池や二次電池などで液漏れし難い電解質として利用できる可能性がある。一方、水を主要な溶媒とするハイドロゲルであれば、生体に直接接触する化粧料、薬剤、培地などに適用できる可能性がある。特にかかるゲル状の化粧料などでは、毒性が低く安全性が高く、且つ使用後には速やかに分解されることが好ましいといえる。
例えば特許文献2,3には、ヒドロゲルを形成するためのゲル化剤として使用できる短鎖の脂質ペプチドが開示されている。ペプチドであれば安全性が高く、且つ分解性も高いと考えられる。
国際公開第2014/051057号パンフレット 国際公開第2009/005151号パンフレット 国際公開第2009/005152号パンフレット
上述したように、短鎖ペプチドからなるヒドロゲル化剤は開発されている。しかし特許文献2,3に記載の短鎖ペプチドは、炭素数9以上21以下または9以上23以下の脂肪族基を含むアシル基により末端アミノ基がアシル化されており、かかる長鎖アシル基により優れたゲル化能が発揮されると考えられるが、安全性が低下する可能性もあり得る。一方、N末端アシル基の炭素数を減ずれば安全性がより一層高まる可能性があるが、それではゲル化能が低下する可能性もある。
そこで本発明は、優れたゲル化能を有する上に安全にも優れたゲル化剤と、当該ゲル化剤を含むハイドロゲルを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ゲル化能を有する短鎖ペプチドの末端アミノ基をアセチル基などより安全なアシル基でアシル化しても、N末端側にポリ芳香族アミノ酸残基鎖を設け、且つC末端側に塩基性アミノ酸残基を位置させることにより、高いゲル化能と安全性を両立できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
[1] 下記式(I)で表されるペプチドまたはその塩を含むことを特徴とするゲル化剤。
[式中、
1はC1-4アルキル基を示し、
2は、ベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基または1H−インドール−3−イル基を示し、
3とR4は、独立して、HまたはC1-4アルキル基を示し、
5は−(CH2n−X基[式中、Xは、アミノ基、グアニジノ基またはイミダゾイル基を示し、nは1以上4以下の整数を示す]を示し、
6は、−OH、C1-4アルコキシ基または−NH2を示し、
pは2以上4以下の整数を示し、
qとrは、独立して、0または1を示す]
[2] Xがアミノ基を示す上記[1]に記載のゲル化剤。
[3] R6が−OHまたは−NH2を示す上記[1]または[2]に記載のゲル化剤。
[4] rが0である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のゲル化剤。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれかに記載のゲル化剤と水を含むことを特徴とするハイドロゲル。
[6] さらに界面活性剤を含む上記[5]に記載のハイドロゲル。
[7] チキソトロピー性を示す上記[5]または[6]に記載のハイドロゲル。
[8] 上記式(I)で表されるペプチドまたはその塩のゲル化剤としての使用。
[9] 水、水溶液または水分散液をゲル化する上記[8]に記載の使用。
[10] Xがアミノ基を示す上記[8]または[9]に記載の使用。
[11] R6が−OHまたは−NH2を示す上記[8]〜[10]のいずれかに記載の使用。
[12] rが0である上記[8]〜[11]のいずれかに記載の使用。
[13] ゲルがチキソトロピー性を示す上記[8]〜[12]のいずれかに記載の使用。
[14] 水、水溶液または水分散液に上記式(I)で表されるペプチドまたはその塩を添加する工程を含むことを特徴とするハイドロゲルの製造方法。
[15] 水、水溶液または水分散液に対する上記(I)で表されるペプチドまたはその塩の割合を0.05質量%以上、2.0質量%とする上記[14]に記載の方法。
[16] Xがアミノ基を示す上記[14]または[15]に記載の方法。
[17] R6が−OHまたは−NH2を示す上記[14]〜[16]のいずれかに記載の方法。
[18] rが0である上記[14]〜[17]のいずれかに記載の方法。
[19] ハイドロゲルがチキソトロピー性を示す上記[14]〜[18]のいずれかに記載の方法。
本発明に係るゲル化剤は、優れたゲル化能を有するため、低濃度でも水を主要な溶媒とする液体をゲル化することができる。また、安全性に優れるため、化粧料や薬剤など、生体に直接適用する組成物の成分とすることも可能である。さらに、短鎖ペプチドであることから使用後にはペプチダーゼ活性を示す酵素により容易に分解されるため、この点でも安全であるといえる。よって本発明に係るゲル化剤は、化粧料、薬剤、コンタクトレンズ、オムツ、培地、芳香剤、植物育成用の土代替材、乾燥抑制材、クロマトグラフィなどの担体、タンパク質などの化合物の合成用担体などのためのハイドロゲル成分として、非常に有用である。
図1は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルの拡大写真である。 図2は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルの拡大写真である。 図3は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルの拡大写真である。 図4は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルの拡大写真である。 図5は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルの貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の測定結果を示すグラフである。 図6は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルの貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の測定結果を示すグラフである。 図7は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルの安全性を試験した結果を示すグラフである。 図8は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルの分解性を試験した結果を示す写真である。
式(I)で表されるペプチドまたはその塩(以下、「ペプチド(I)」と略記する場合がある)における各基の定義において、「C1-4アルキル基」とは、炭素数1以上4以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチルである。R1としては、炭素数が少ないほどペプチド(I)の分解性が高まるため、C1-2アルキル基が好ましく、メチルがより好ましい。R2またはR3がメチルの場合にはアミノ酸残基がアラニンになり、イソプロピルの場合にはバリンとなり、イソブチルの場合にはロイシンとなり、s−ブチルの場合にはイソロイシンとなる。なお、R3またはR4がHの場合にはアミノ酸残基はグリシンとなる。
「C1-4アルコキシ基」とは、炭素数1以上4以下の直鎖状または分枝鎖状の一価脂肪族炭化水素オキシ基をいう。例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ等である。R6としても、ペプチド(I)の分解性の観点から、C1-2アルコキシ基が好ましく、メトキシがより好ましい。
ペプチド(I)において、アミノ基(−NH2)は−NH3 +の状態になっていてもよいものとし、グアニジノ基およびイミダゾイル基中のイミノ基(それぞれ=NHと=N−)は、それぞれ=NH2 +および=NH+−の状態になっていてもよいものとする。R5において、n=4で且つXがアミノ基の場合はC末端アミノ酸残基はリジンとなり、n=3で且つXがグアニジノ基の場合はアルギニンとなり、n=2で且つXがイミダゾイル基の場合はヒスチジンとなる。また、R6が−OHである場合、末端−C(=O)−R6は−CO2 -の状態になっていてもよいものとする。
qとrは、主にpの数に応じて決定すればよい。例えばp=2の場合、q=r=1が好ましく、p=3または4の場合、q=1で且つr=0が好ましい。
2がベンジル基である場合はN末端側アミノ酸残基はフェニルアラニンとなり、4−ヒドロキシベンジル基である場合はチロシンとなり、1H−インドール−3−イル基である場合はトリプトファンとなる。ペプチド(I)のN末端部における2以上4以下の芳香族アミノ酸残基は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R2を含むN末端部芳香族アミノ酸残基としては、フェニルアラニンが好ましい。
特にR6がC1-4アルキル基または−NH2である場合、ペプチド(I)は塩であってもよい。かかる塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩などの有機酸塩;グルタミン酸塩やアスパラギン酸塩などの酸性アミノ酸塩が挙げられる。
ペプチド(I)のペプチド部分およびN末端アミノ基は、従来公知の方法により容易に保護することができる。また、C末端カルボキシ基の保護は、例えばペプチド部分を担体から分離した後に行うことができる。勿論、側鎖反応性官能基の保護と脱保護は、常法に従って適時行うことができる。さらに、最終的に塩にする場合には、最後に酸を添加すればよい。
本発明に係るゲル化剤は、上記ペプチド(I)の他に、ゲル化剤として好ましい成分を含んでいてもよい。その他の成分は特に制限されないが、例えば、界面活性剤、膨潤剤、不凍剤、粘度調節剤、pH調整剤、イオン強度調整剤などが挙げられる。特に、従来のゲル化剤は界面活性剤の存在によりゲル化能が極端に低下するのに対して、本発明に係るペプチド(I)は、界面活性剤の存在下においてもゲル化能の低下が抑制されていることが、本発明者らの実験により確認されている。
本発明に係るゲル化剤において、ペプチド(I)以外の成分を含む場合、その割合は適宜調整すればよく特に制限されないが、例えば、ペプチド(I)とその他の成分との合計に対して0.1質量%以上50質量%以下とすることができる。当該割合は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、また、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。勿論、上記のその他の成分は配合しなくてもよい。
また、本発明に係るゲル化剤は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、水、水と水混和性有機溶媒との混合溶媒、および水中油滴型エマルションを挙げることができる。ここで「水混和性有機溶媒」とは、水と無制限に混和可能な有機溶媒をいうものとする。水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール溶媒;エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール系溶媒;グリセリンなどの多価アルコール溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒を挙げることができる。水と水混和性有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、当該混合溶媒における水混和性溶媒の割合は、ゲル化能の観点から小さいほど好ましく、例えば、30質量%以下または20質量%以下が好ましく、10質量%以下または5質量%以下がより好ましく、2質量%以下または1質量%以下がよりさらに好ましい。水中油滴型エマルションにおける油相としては、食用油、鉱物油、ガソリン、灯油、エーテル系溶媒、トルエンなどの芳香族炭化水素溶媒、イオン液体、フッ素系溶媒などを挙げることができる。
一般的なハイドロゲル化剤は、水溶液全体に対して約3質量%以上混合することによりゲル化が可能になる。それに対して、本発明に係るゲル化剤は、ゲル化すべき液体に対するペプチド(I)の割合が2質量%程度になるよう調整すれば、十分にゲル化が可能である。
本発明に係るゲル化剤によりゲル化すべき液体は、水のみであってもよいし、水を主な溶媒とする水溶液であってもよいし、水を主な溶媒とする水分散液であってもよい。かかる水溶液は、緩衝液であってもよいし、また、界面活性剤、膨潤剤、不凍剤、粘度調節剤、pH調整剤、イオン強度調整剤、香料などを含んでいてもよい。但し、かかる水溶液のpHとしては、3.0以上、9.0以下が好ましく、6.0以上、8.0以下がより好ましい。
ゲル化すべき液体は、水以外の水混和性有機溶媒や、水中油滴型エマルションの油滴を形成する油相を含んでいてもよい。但し、かかる水混和性有機溶媒や油相はゲル化を阻害する可能性があるので、ゲル化すべき液体に対する水混和性有機溶媒および油相の割合としては、30質量%以下が好ましく、15質量%以下または10質量%以下がより好ましく、1質量%以下がよりさらに好ましい。
本発明に係るゲル化剤の使用量は、適宜調整すればよい。例えば、ゲル化すべき液体に対するペプチド(I)の割合が0.05質量%程度になるよう添加混合し、ゲル化の状況を観察しつつ適宜量を増やしていけばよい。当該量としては、ゲル化が可能な範囲で、2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がよりさらに好ましい。
本発明に係るゲル化剤は、特に、従来のハイドロゲル化剤では界面活性剤の存在によりゲル化能が極端に低下してしまっていたのに対して、界面活性剤によるゲル化能の低下が抑制されているため、液体化粧料など界面活性剤を含む水溶液や水懸濁液のゲル化が可能である。また、本発明に係るゲル化剤により形成されるゲルはチキソトロピー性を有することが確認されている。具体的には、ゲルの損失弾性率(G”)に対する貯蔵弾性率(G’)が3倍以上である。即ち、本発明に係るハイドロゲルは、静止時には粘度が高く液だれなどが抑制されているのに対して、延展し易く、特にゲル状化粧料として好ましい特性を有するといえる。上記倍率としては、4倍以上がより好ましく、5倍以上がよりさらに好ましい。
その他、本発明に係るゲル化剤で経口液剤をゲル化することにより、誤嚥を防ぐことも可能になる。また、有効成分であるペプチド(I)はペプチドであることから、使用後に容易に分解されるため、オムツ、培地、芳香剤、植物育成用の土代替材、乾燥抑制材、クロマトグラフィなどの担体、タンパク質などの化合物の合成用担体、農薬担体などのためのハイドロゲル成分など、様々な用途が考えられる。
本願は、2017年6月1日に出願された日本国特許出願第2017−109107号に基づく優先権の利益を主張するものである。2017年6月1日に出願された日本国特許出願第2017−109107号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下における「%」は、特に断らない限り「質量%」を示す。
実施例1: 本発明に係るゲル化剤の合成とゲル化試験
(1) 本発明に係るゲル化剤の合成
以下、Ac−FFFGKの固相合成条件を代表的に示す。H−Lys(Trt)−Trt(2−Cl)−Resin(0.3mmol)を固相合成用カラム(「PD−10 Empty Column」GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に添加した。ジクロロメタン(DCM)(5mL)を加えて樹脂を3回洗浄した。さらに、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(5mL)を加えて樹脂を3回洗浄した。次いで、Fmoc−Gly−OH(268mg,0.9mmol)、0.45M HBTU・HOBt/DMF溶液(2.1mL)および0.9M N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)/DMF溶液(2.1mL)を加え、振とう器を用いて1時間撹拌を行った。その後、DMF(5mL)で3回、DCM(5mL)で3回、再びDMF(5mL)で3回樹脂を洗浄した。20%ピペリジン/DMF溶液(5mL)を加えて1分間撹拌した後、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(5mL)を加えて45分間撹拌することにより、末端アミノ基を脱保護した。樹脂をDMF(5mL)で3回洗浄した。次に、Fmoc−Gly−OHの代わりにFmoc−Phe−OHを用いて以上の操作を繰り返し、フェニルアラニン3分子を結合させた。
次に、無水酢酸/DMF溶液(0.9mmol,2.1mL)と0.9M DIEA/DMF溶液(2.1mL)を加え、振とう器を用いて90分間撹拌することにより、N末端アミノ基をアセチル化した。樹脂を、DMF(5mL)で8回、DCM(5mL)で5回、メタノール(5mL)で5回洗浄した後、デシケーターで一晩真空乾燥した。
樹脂、トリフルオロ酢酸(TFA)(3.8mL)、トリイソプロピルシラン(TIPS)(100μL)および超純水(100μL)を混合し、振とう器を用いて90分間撹拌することにより、C末端Lysの側鎖アミノ基を脱保護し且つ樹脂からペプチドを切断した。反応液をろ過し、遠沈管にろ液を回収した。残った樹脂をTFA(1mL)で3回洗浄し、この洗浄液も回収した。回収したろ液と洗浄液を混合し、得られた混合液に沈殿が生じるまでジエチルエーテルを加え、生じた沈殿を遠心分離によって回収した。回収した沈殿物を凍結乾燥した。凍結乾燥後、得られた生成物は質量分析によって分析し、目的のペプチドが得られていることを確認した。なお、各アミノ酸の縮合反応の終了とFmocの脱保護は、Kaiser Testによって確認した。
表1に示すその他のペプチドも、上記と同様にして合成した。
(2) ゲル化試験
4mLガラス容器に、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)、50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)または50mM HEPES緩衝液(pH7.4)を常温で1mL入れ、さらに各本発明ペプチドを表1に示す濃度で添加し、蓋をしてから90℃程度に加温し、振り混ぜて溶解させた。その後、ガラス容器を常温で静置して放冷した。次いで、性状を目視で観察し、且つガラス容器を逆さにしてゲル化を確認した。結果を表1に示す。表1中、アミノ酸配列の左端の「Ac−」はN−末端αアミノ基がアセチル化されていることを示し、「G」はゲル化したことを示し、各濃度の値は式:(ゲル化剤量/緩衝液量)×100で算出された値である。なお、特に断らない限り、アミノ酸配列中のリジンのε−アミノ基は修飾されていないものとする。
表1に示す結果の通り、本発明に係るゲル化剤は、0.5〜1.5%という低濃度でも緩衝液をゲル化することができた。
(3) ゲルの拡大観察
上記(2)で形成された各ゲルを透過型電子顕微鏡で拡大観察した。Nos.1〜4のゲル化剤により形成されたゲルの拡大写真を、それぞれ図1〜4に示す。
図1〜4の通り、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルは、約20nmの径の繊維様構造物が網目状に絡み合って形成されていることが明らかになった。
実施例2: 界面活性剤存在下でのゲル化試験
一般的なゲル化剤のゲル化能は、界面活性剤の存在により著しく阻害される。そこで、本発明に係るゲル化剤のゲル化能が、界面活性剤により阻害されるか否か、確認する実験を行った。具体的には、表2に示す一般的な界面活性剤を50mMリン酸緩衝液または超純水に対して濃度0.5%で溶解し、さらに上記実施例1で合成したNo.1のゲル化剤(Ac−FFFGK)を表2に示す濃度で溶解し、上記実施例1と同様にゲル化するか否か観察した。結果を表2に示す。表2中、「PBS」はリン酸緩衝液を示し、「MQ」は超純水(MilliQ)を示し、「G」はゲル化したことを示し、「PG」は一部ゲル化したことを示し、「S」は溶液状態のままゲル化しなかったことを示す。なお、塩化ベンザルコニウムの臨界ミセル濃度は、長鎖アルキル基の組成により異なるため、特定できなかった。
表2に示す結果の通り、本発明に係るゲル化剤は、臨界ミセル濃度を超える界面活性剤の存在下でも、1.0%の濃度以上で押し並べてゲルを形成できることが証明された。
実施例3: 市販ローション化粧品に対するゲル化試験
上記実施例2により、本発明に係るゲル化剤は界面活性剤の存在下でもゲル可能を発揮できることが実証されたが、界面活性剤以外にも様々な成分を含有する市販のローション化粧品もゲル化可能であるか否か試験した。市販のローション化粧品(「オバジ アクティブサージ プラチナイズドシリーズ ローション」Obagi社製)に、上記実施例1で合成したNo.1のゲル化剤(Ac−FFFGK)を表3に示す濃度で溶解し、上記実施例1と同様にゲル化するか否か観察した。結果を表3に示す。
表3に示す結果の通り、本発明に係るゲル化剤は、市販のローション化粧品もゲル化することができた。本発明に係るゲル化剤はペプチドであることから安全性が高く、人体に直接接触する化粧品の成分として安全であり、また、液状の化粧品を液だれしないゲル状の化粧品にできる点で非常に有用である。
実施例4: ゲル化剤の合成とゲル化試験
上記実施例1と同様にして、表4に示すペプチドを合成してゲル化能を試験した。結果を表4に示す。表4中、アミノ酸配列の左端の「Ac」はN−末端αアミノ基がアセチル化されていることを示し、アミノ酸配列の右端の「−CONH2」はC−末端αカルボキシ基がアミド化されていることを示し、「G」はゲル化したことを示し、「S」は溶液状態のままゲル化しなかったことを示し、「A」はペプチドが凝集沈殿したことを示す。なお、特に断らない限り、アミノ酸配列中のリジンのε−アミノ基は修飾されていないものとする。
表4に示す結果の通り、末端アミノ基をアシル化しなかった場合と(Nos.5,6,8,10)、C末端アミノ酸残基が塩基性アミノ酸でない場合(No.11)には、ゲル化能は失われてしまった。一方、末端カルボキシ基をアミド化してもゲル化能は維持され(Nos.7,9)、N末端側フェニルアラニン残基とC末端側塩基性アミノ酸残基の間にアミノ酸残基を挿入しない場合でも(No.4)、ゲル化能は示された。
実施例5: ゲルのレオロジー特性試験
50mMリン酸緩衝液に0.5%の割合でゲル化剤No.1を添加して得られたゲルの貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)を、レオメーター(「Physica MCR301」アントンパール社製)を用い、25℃、0.1〜100rad/sの全角周波数範囲で測定した。結果を図5に示す。また、ゲル化剤Nos.3,4についても同様に試験した。結果を図6に示す。
図5,6に示す結果の通り、ゲル化剤No.1により形成されたゲルのG’はG”の約7倍、ゲル化剤No.3により形成されたゲルのG’はG”の約5倍、ゲル化剤No.4により形成されたゲルのG’はG”の約6倍であった。これらの結果は、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルは、静置時においては粘性が高く安定であるのに対して、力が加わった場合には容易に変形するというチキソトロピー性を有することを示している。かかる性質は、静置時に液だれなどを起こさない一方で、容易に延展できることを示すものであることから、例えばゲル状化粧品にとり好ましい性質であるといえる。
実施例6: 安全性試験
ウシ胎児血清(HyClone社製)を10v/v%含むダルベッコ改変イーグル培地(ナカライテスク社製)に、ゲル化剤No.1を図7に示す濃度で添加し、加温して溶解させた。各溶液(100μL)を96穴マイクロプレートのウェル内に注入し、冷却してゲル化させた。各ゲル状培地上に約5000cells/wellの割合でヒト癌細胞であるHela細胞を播種した。さらに、上記ダルベッコ改変イーグル培地(100μL)を各ウェルに添加し、24時間培養した後、生細胞測定キット(「Cell Counting Kit−8」同仁化学研究所社製)を使って細胞生存率を算出した。なお、比較対照例として、ゲル化剤無しのウェルで同様の実験を行い、細胞生存率を算出した。比較対照例の細胞生存率を100%とした相対的な細胞生存率を図7に示す。
図7に示す結果の通り、本発明に係るゲル化剤の安全性は、細胞に対して押し並べて十分といえるものであった。No.1のゲル化剤は、表1と表4に示す通り0.5%でも十分にゲル化可能であり、かかるゲル化濃度下での安全性は高いといえる。従来、細胞培養培地のゲル化剤には寒天やゼラチンが汎用されているが、寒天には使用後の分解が難しく、天然物であるゼラチンにはウィルスの混入という問題がある。よって、ペプチドであることから分解が容易であり且つ人工的に製造可能であることからウィルスの混入の懸念が少ない本発明に係るゲル化剤は、従来の培地用ゲル化剤にとって代わり得る可能性がある。
実施例7: 分解試験
1.5mLミクロチューブ(マルエム社製)に50mMリン酸緩衝液(0.2mL)を入れ、さらに0.5%の割合でゲル化剤No.1を添加して形成したゲルに、0.02%α−キモトリプシン水溶液をゲルに対して約1/10量で添加し、40℃で静かに振盪した。インキュベーション開始から0時間後、1時間後、3時間後および9時間後に、ミクロチューブを逆さにしてゲルの分解状態を観察した。結果を図8に示す。
図8に示す結果の通り、ゲルの量は経時的に減少する一方で液体部分は徐々に増えており、9時間後ではゲルはほとんど無くなっており、ゲルが分解されていることが明らかになった。ほとんどの生物はペプチド分解酵素を有するため、本発明に係るゲル化剤により形成されたゲルは、自然界において容易に分解されると考えられる。

Claims (7)

  1. 下記式(I)で表されるペプチドまたはその塩を含むことを特徴とするゲル化剤。
    [式中、
    1はC1-4アルキル基を示し、
    2は、ベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基または1H−インドール−3−イル基を示し、
    3とR4は、独立して、HまたはC1-4アルキル基を示し、
    5は−(CH2n−X基[式中、Xは、アミノ基、グアニジノ基またはイミダゾイル基を示し、nは1以上4以下の整数を示す]を示し、
    6は、−OH、C1-4アルコキシ基または−NH2を示し、
    pは2以上4以下の整数を示し、
    qとrは、独立して、0または1を示す]
  2. Xがアミノ基を示す請求項1に記載のゲル化剤。
  3. 6が−OHまたは−NH2を示す請求項1または2に記載のゲル化剤。
  4. rが0である請求項1〜3のいずれかに記載のゲル化剤。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のゲル化剤と水を含むことを特徴とするハイドロゲル。
  6. さらに界面活性剤を含む請求項5に記載のハイドロゲル。
  7. チキソトロピー性を示す請求項5または6に記載のハイドロゲル。
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