JPWO2018056278A1 - 圧縮自着火エンジン - Google Patents

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淳 西山
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Abstract

混合気を圧縮着火させる自着火運転と、放電手段を用いて混合気を強制的に着火させる火花点火運転とを切り替えて行う圧縮自着火エンジン1であって、自着火運転時に、燃焼室内にラジカルを生成するラジカル生成手段2と、火花点火運転時に、燃焼室内で絶縁破壊を生じせしめる放電手段3とを備え、制御装置4は、放電ギャップ6に混合気が着火することのない最小着火エネルギ以下のプラズマを生成する出力の電磁波を発振することで放電手段3をラジカル生成手段2として使用するようにしている。

Description

本発明は、均一予混合圧縮自着火エンジンに関し、特に自着火と放電手段を用いた着火とを切り替えて行う均一予混合圧縮自着火エンジンに関する。
予混合圧縮着火(Homogeneous−Charge Compression Ignition combustion、以下HCCIという)を利用した予混合圧縮自着火エンジンは、ガソリンエンジンのように混合気を吸入し、ディーゼルエンジンのように高圧縮化することで自己着火するエンジンで、燃料の濃度が極めて薄い領域でも燃焼させることができることから、低燃費、低エミッションを実現するとともに、シリンダ内に局所的な高温燃焼領域が形成されないことからNOxの発生量が極めて少ないという利点がある。一方、自己着火の制御、特に燃焼室内の温度コントロールを行うことが困難であった。そのため、本発明者等は、混合気が着火することのない最小着火エネルギ以下のプラズマの生成及び生成したシリンダ内のプラズマに電磁波を照射することによって、シリンダ内にラジカルを生成し、酸化反応を促進させるとともに、プラズマ生成時間を制御することでシリンダ内のガス温度を調整し、自着火時期の制御する均一予混合圧縮自着火エンジンを提案している(特許文献1参照)。
また、均一予混合圧縮自着火エンジンでは、全回転負荷領域でHCCI運転を行うフルタイムHCCIと、中低回転・中負荷の領域ではHCCI運転、高負荷・高回転領域では火花点火運転を行うパートタイムHCCIが提案されている。フルタイムHCCIでは、ガソリンよりも着火性に優れる燃料(例えば、ナフサ等)が前提となり専用燃料のインフラ設備の拡充が必要となる。また、パートタイムHCCIでは、HCCI燃焼と火花点火燃焼の燃焼室内での温度圧力条件が大幅に異なるため、HCCI運転から火花点火運転への切り替えをスムーズに行うことが課題となる。
このため、本発明者等は、パートタイムHCCIでのHCCI運転から火花点火運転への切り替えスムーズに行うために、HCCI運転から火花点火運転への切り替え途中に所定の経過運転を挟む制御装置を提案している(特許文献2参照)。
特許第5467285号 特許第5681902号
ところで、特許文献2に記載の内燃期間の制御装置では、火花点火運転のときに使用する点火プラグ等からなる放電手段の他に、燃焼室内に電磁波を供給する電磁波放射手段を備えるようにしている。そのため、内燃機関のシリンダヘッドに放電手段以外に電磁波放射手段を取り付ける貫通口の形成が必要となる。また放電手段のための電源と電磁波発信手段のための電源が必要となり、装置全体の費用が嵩むこととなる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、パートタイムHCCIにおいて、HCCI運転の際に、HCCI燃焼時にラジカル生成によっての温度コントロールを行い、火花点火運転の際に使用する放電手段がHCCI運転の際のラジカル生成手段を兼用することができる圧縮自着火エンジンを提供することである。
上記課題を解決するためになされた本発明の圧縮時着火エンジンは、
混合気を圧縮着火させる自着火運転と、放電手段を用いて混合気を強制的に着火させる火花点火運転とを切り替えて行う圧縮自着火エンジンであって、
自着火運転時に、燃焼室内にラジカルを生成するラジカル生成手段と、
火花点火運転時に、燃焼室内で絶縁破壊を生じせしめる放電手段とを備え、
該放電手段は、制御装置によって発振する電磁波の出力が調整される電磁波発振器、該電磁波発振器から発振される電磁波を昇圧する昇圧回路、放電ギャップを形成する放電電極及び接地電極とからなり、
前記制御装置は、放電ギャップに混合気が着火することのない最小着火エネルギ以下のプラズマを生成する出力の電磁波を発振することで放電手段をラジカル生成手段として使用するようにしている。
本発明の圧縮時着火エンジンは、火花点火運転時に、燃焼室内で混合気に点火する放電手段をHCCI運転の際に燃焼室にラジカルを生成するラジカル生成手段として使用することでHCCI運転領域を拡大する。
この場合において、前記制御装置は、電磁波の発振を初回の発振時間を5マイクロ秒乃至25マイクロ秒、2回目以降の発振時間を1ナノ秒乃至2マイクロ秒かつデューティ比5%乃至50%となるように制御するようにすることができる。
2回目以降の発振時間を、初回の発振時間より大幅に短くすることで一定の電子密度を有する電離体を維持するために印加する電磁波を微小に断続させることとなり、より電子の再結合速度と平衡させる
本発明の圧縮時着火エンジンは、HCCI運転の温度制御を可能とするラジカル生成のためのラジカル生成手段と、HCCI運転の運転領域を超えたときに行う火花点火運転の際の放電手段を、一つの機器でまかなうことができる。
本発明の圧縮時着火エンジンの正面から見た断面図を示す。 同圧縮時着火エンジンに使用する点火手段の全体断面図を示す。 同圧縮時着火エンジンに使用する点火手段の放電電極及び接地電極を示し、(a)は平面図、(b)は一部切り欠きの正面図である。 同圧縮時着火エンジンに使用する点火手段の昇圧手段の等価回路である。 同圧縮時着火エンジンに使用する点火手段と一般的な点火プラグとのOHラジカル量を比べるグラフで、(a)は同点火手段の電磁波発振パターンと計測タイミングを示し、(b)は同点火手段と点火プラグのOHラジカル強度を示す。 HCCI運転の運転領域を説明する概略図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
<実施形態1>
本実施形態1は、本発明に係る圧縮時着火エンジン1である。当該圧縮時着火エンジン1は、図1に示すように、混合気を圧縮着火させる自着火運転と、放電手段を用いて混合気を強制的に着火させる火花点火運転とを切り替えて行う圧縮自着火エンジンであって、自着火運転時に、燃焼室内にラジカルを生成するラジカル生成手段2と、火花点火運転時に、燃焼室内で絶縁破壊を生じせしめる放電手段3とを備え、放電手段3は、制御装置4によって発振する電磁波の出力が調整される電磁波発振器31、この電磁波発振器31から発振される電磁波を昇圧する昇圧回路5、放電ギャップ6を形成する放電電極55a及び接地電極51aとからなり、制御装置4は、放電ギャップ6に混合気が着火することのない最小着火エネルギ以下のプラズマを生成する出力の電磁波を発振することで放電手段3をラジカル生成手段2として使用するようにしている。
<内燃機関本体>
本発明に係る圧縮時着火エンジン1を構成する内燃機関本体10は、図1に示すように、シリンダヘッド11とシリンダ12とピストン13を備える。シリンダ12は、シリンダブロックに形成されている。シリンダ12内には、ピストン13が往復自在に設けられており、シリンダヘッド11、シリンダ12及びピストン13は、燃焼室14を区画している。シリンダ12内において、シリンダ12の軸方向にピストン13が往復運動すると、ピストン13の往復運動がコネクティングロッド(図示省略)により回転運動に変換される。
シリンダヘッド11には、ラジカル生成手段2を兼用する放電手段3を取り付けるためのプラグホール11aが形成されている。プラグホール11aの内端は燃焼室14に開口している。また、シリンダヘッド11には、燃焼室14に開口する吸気ポート15及び排気ポート16が形成されている。吸気ポート15には、吸気バルブ17とインジェクター19とが設けられている。一方、排気ポート16には、排気バルブ18が設けられている。
<放電手段>
ラジカル生成手段2を兼用する放電手段3は、図2に示すように、電磁波用電源30と、電磁波を発振する電磁波発振器31と、電磁波用電源30及び電磁波発振器31を制御する制御装置4と、電磁波発振器31から発振される電磁波の供給を受ける入力部52と、入力された電磁波を昇圧する昇圧手段5と、放電ギャップ6を形成する放電電極55a及び接地電極51aとを備え、昇圧手段5により放電ギャップ6の電位差を高め放電を生じさせるように構成されている。
放電電極55aは、入力部52から伸びる入力軸部53が挿通される有底の筒状部54から反入力部側に伸びる電極軸部55bの先端に形成されている。入力部52から伸びる入力軸部53は、筒状部54とは絶縁されている。具体的には、筒状部54内周面との間に筒状の絶縁体59が介在している。絶縁体59を介在させるか筒状部54の内周面と接触しないように構成することで筒状部54と入力軸部53は容量結合となり、後述する等価回路のC1を形成する。また、筒状部54及び電極軸部55bとケーシング51の先端側ケーシング51Aの内周面との間も電気的に絶縁されている。本実施形態においては、筒状部54及び電極軸部55bは筒状の絶縁体59に内包されている。筒状部54の外周面と筒状部54を覆うケーシング51Aの内周面との間によって、後述する等価回路のC2を形成し、電極軸部55bとケーシング51Aの内周面との間で等価回路のコンデンサC3を形成している。絶縁体59の種類によって異なる誘電率によって、共振周波数が調整される。なお、上述したC1は、入力軸部53を筒状部材54と電気的に接続することで省略することもできる。
ケーシング51の後端側ケーシング51Bは貫通孔を備え、この貫通孔に、一端に電磁波発振器3からの電磁波の供給を受ける入力部52を形成し他端に入力部52から伸びる入力軸部53が突出する筒状の絶縁体59を配設するとともに、放電電極55a、筒状部54及び電極軸部55bとこれらを覆う絶縁体59を内包したケーシング51Aが組み込まれている。入力部52、入力軸部53及びこれらを覆う絶縁体59のケーシング51Aが組み込み方法は特に限定するものではないが、本実施形態においては、絶縁体59の外周面及びケーシング51Bの貫通孔に対応する段差を設け、図例左側から挿通し、絶縁体を段差に係合させ、右側への抜け落ちを防止するとともに、左側からケーシング51Aを挿通して入力部52、入力軸部53及びこれらを覆う絶縁体59の左側への抜け落ちも防止する。ケーシング51Bに対するケーシング51Aの固定方法も特に限定するものではないが、本実施形態においては、貫通孔に刻設した雌ねじ部にケーシング51Aの外周面に刻設した雄ねじ部を螺合することによって固定する。螺合による固定後に溶接等の固定手段を用いてケーシング51Aをケーシング51Bに対して確実に固定することもでき、また、ねじ部を形成することなく溶接等の固定手段を用いて固定することもできる。
接地電極51aは、放電電極55aを覆う筒状のケーシング51Aの先端で形成され、この接地電極51aの内面と放電電極55aの外面との間で放電ギャップ6を形成する。この放電ギャップ6を形成する接地電極51a(ケーシング51Aの先端)は図3に示すようにスリットsを形成するようにしている。このスリットsによって、放電ギャップ6内に混合気を導き燃焼効率を向上させる。なお、放電ギャップ6の距離は0.2〜1.2mmの範囲で設定することが好ましい。
昇圧手段5は、図4に示す等価回路で構成されている。昇圧手段5は、電極軸部55bをコイルLとして、上述したコンデンサC1、C2及びC3との間の3箇所で共振構造形成し、供給される電磁波を昇圧するようにしている。特に、筒状部54の外周面と筒状部54を覆うケーシング51の内周面との間に形成されるコンデンサC2による第1共振領域及び電極軸部55bと電極軸部55bを覆うケーシング51との間に形成されるコンデンサC3による第2共振領域によって、供給される電磁波を昇圧して、放電電極55aと接地電極51aとの間の電位差を数十kVまで高め放電を生じさせるようにしている。なお、入力軸部53と筒状部54を電気的に接続して容量結合としないことで等価回路のC1を形成しない構成とすることもできる。
一般に、共振領域、特に第2共振領域での共振周波数から外れた周波数の電磁波を供給しても、電磁波を昇圧して放電電極55aと接地電極51aとの間の電位差高めることができない。共振領域で定まる共振周波数からどの程度外れた周波数を供給しても昇圧することができるかは、所謂Q値によって決定される。Q値とは、
Q=ω0/(ω1−ω2)で表される。
ここで、ω0:共振周波数、ω1及びω2(ω1>ω2):それぞれ周波数ω0のときのエネルギが1/2となる周波数である。従って、ω1及びω2の値がω0に近いほど、共振のピークが鋭く、Q値が大きくなり、大きなエネルギを得ることができ一般的にはQ値が大きくなる設計をすることが望ましい。しかし、Q値が大きい場合、共振させるためには共振領域で定まる共振周波数からのズレを大きくとることはできない。本発明者等の実験によるときは、Q値が50程度のときに±30ヘルツ、より好ましくは±20Hzの範囲の周波数の電磁波であれば共振させて放電させることが可能である。
電磁波発振器31は、常時所定電圧、例えば12Vを電磁波用電源2から供給される。そして、制御装置4から電磁波発振信号(例えばTTL信号)を所定のデューティ比、パルス時間等を設定した発振パターンのパルス波として電磁波(例えば、2.45GHzのマイクロ波)を出力する。具体的な発振パターンについては後述する。
そして、本実施形態の放電装置3は、制御装置4によって、電磁波発振器31から発振する電磁波の出力を、自着火運転と火花点火運転とで異なる出力とするようにすることで、ラジカル生成手段2として使用することができるようにしている。つまり、自着火運転時に最小着火エネルギ以下のプラズマを生成することで、混合気に点火することなくラジカル(主としてOHラジカル)を燃焼室内に発生させる。このときの出力は、放電装置3のQ値によって異なるとともに、空燃比等によっても異なる。
当該放電装置3は、上述したとおり、内部の昇圧手段5によって電磁波発振器31から供給される電磁波を共振させて昇圧し、放電電極55aと接地電極51aとの間の電位差高め、放電ギャップ6において絶縁破壊を生じさせプラズマを生成する。この電磁波によって生じるプラズマには、一般的な点火プラグによって生じるプラズマと比べて数十倍のラジカル強度を有する(ラジカルを生成する)ことが、本発明者等の実験によって判明した。以下、本実施形態の放電装置3をラジカル生成手段2として使用する際のラジカル生成強度について説明する。
一般的な点火プラグでは、チャージ時間を2ミリ秒〜3ミリ秒とした放電後から25マイクロ秒と50マイクロ秒経過したときの発光強度をレーザ誘起蛍光法(以下、LIF法という)によって計測した。また、放電装置3では、初回の電磁波発振を発振時間5〜25マイクロ秒、好ましくは10〜15マイクロ秒とし、本実施形態においては15マイクロ秒とした。そして、2回目以降の電磁波発振を発振周期0.01〜20マイクロ秒、発振時間0.001〜2マイクロ秒(デューティ比約10%)、発振回数を500〜3000回、本実施形態においては電磁波発振を発振周期1マイクロ秒、発振時間0.1マイクロ秒(デューティ比10%)発振回数を1500回行ってから25マイクロ秒と50マイクロ秒経過したとき(図5(a)CAの範囲)の発光強度LIF法によって計測した。
LIF法は、YAGレーザ光(波長355nm)を共振器と倍波素子を使って282nmに変換し、空間中に存在する基底状態OHラジカルが光吸収、励起した際に上準位から直接基底状態に電子遷移したときの波長315nmの蛍光強度及び振動準位v’=1からv‘=0へ振動緩和した後に基底状態遷移で放射される波長309nmの蛍光強度をそれぞれ光電増倍管、デジタルオシロスコープを用いてLIF信号として検出し、得られたLIF信号からOHラジカル密度を得るようにしている。
本実施形態の放電装置3に対するレーザ照射位置は、図3(a)に示すように、放電ギャップ6の一部である領域LAに照射するようにした。一般的な点火プラグに対するレーザ照射位置は、放電電極と接地電極との間の領域に照射するようにした。また、実験条件として、空気雰囲気下、0.1MPa、温度は常温(室温約25℃)で行った。
その結果、図5(b)に示すとおり、点火プラグにおいては図中Bで示すように、OHのラジカル強度は僅かな値(0.1以下)しか観測できなかった。しかし、本実施形態の放電装置3では図中Aで示すように、25マイクロ秒と50マイクロ秒のそれぞれで2.25×10(a.u.)、1.15×10(a.u.)のラジカル強度を計測することができ、点火プラグと比べて30倍以上のOHラジカルの生成が認められた。
次に、制御装置4による電磁波の発振パターンについて説明する。制御装置4は、放電手段3として機能する際とラジカル生成手段2として機能させる場合も同様の発振パターンとすることができる。電磁波のみを使用し、昇圧回路5によって昇圧し放電ギャップでプラズマを生成する放電装置3では、初回の電磁波の発振時間を5マイクロ秒乃至25マイクロ秒、好ましくは10マイクロ秒乃至20マイクロ秒、本実施形態においては15マイクロ秒とした。そして、2回目以降の発振時間を1ナノ秒乃至2マイクロ秒かつデューティ比5%乃至30%となるように制御することが好ましく、本実施形態では発振時間0.1マイクロ秒(100ナノ秒)デューティ比10%となるように制御した。デューティ比はこの範囲を超えて長くすることもできるが、50%以上とすると、発生したプラズマが熱プラズマとなり、放電手段3の場合、プラズマの維持に不具合を生じる場合があった。
このように、初回の電磁波の発振時間のみ2回目移行の発振と比べて100倍以上の時間とし、2回目以降の発振時間を極端に短い時間でかつ低いデューティ比とすることで、初回の発振で生成されたプラズマが2回目以降に発振される電磁波で維持拡大され、放電手段3としてもラジカル生成手段2としても精度良く機能する。
また、2回目以降の発振回数は、300回乃至7500回となるように制御する。本発明者等の実験によれば、1500回程度のパルス発振を行うことで、ラジカルの生成量は7500回のときと大差がないことが判明した。
そして、本実施形態の制御装置4は、HCCI運転の運転領域では放電手段3をラジカル生成手段2として使用するために、吸気行程から膨張行程までの間、混合気が着火することのない最小着火エネルギ以下のプラズマを生成する出力の電磁波を上述した発振パターで発振する。最小着火エネルギ以下のプラズマを生成する出力は、混合気の空燃比等によって、限定されるものではなく、例えば、500W乃至1000Wである。
次に、火花点火運転の運転領域では、放電手段3によって混合気に点火するエネルギのプラズマが生成されるように出力を上昇させる。点火に必要なエネルギも混合気の空燃比等によって、限定されるものではなく、例えば、1200W乃至2000Wである。
このように、本実施形態においては、HCCI運転の温度制御を可能とするラジカル生成のためのラジカル生成手段2と、HCCI運転の運転領域を超えたときに行う火花点火運転の際の放電手段3を、一つの機器でまかなうことができる。
一般に、HCCI運転では、図6に示す横軸回転数、縦軸BMEP(正味平均有効圧)としたとき、概ねエリアAの範囲がHCCI可能領域と考えられている。エリアBは、低温により、HCCI運転では失火が生じる。エリアCは爆発的燃焼が生じるためHCCI運転には適さない。また、エリアDでは高回転のため時間不足によりHCCI運転では失火が生じる。本実施形態のラジカル生成手段2をこれらの領域を二点鎖線の領域に拡大することができる。特に、低温により失火が生じるエリアBの領域で確実にHCCI運転を可能にするとともに、HCCI運転から火花点火運転への切り替えをスムーズに行うようにすることができる。
また、火花点火運転の際の制御装置4による電磁波の発振パターンもHCCI運転の際の発振パターンと同様に、初回の電磁波発振を発振時間5〜25マイクロ秒、好ましくは10〜15マイクロ秒とし、2回目以降の電磁波発振を発振周期0.01〜20マイクロ秒、発振時間0.001〜2マイクロ秒(デューティ比約10%)発振回数を500〜3000回、本実施形態においては電磁波発振を発振周期1マイクロ秒、発振時間0.1マイクロ秒(デューティ比10%)発振回数を1500回となるように制御している。このように発振パターンを制御することで火花点火運転の際に、一定の電子密度を有する電離体を維持するために印加する電磁波を微小に断続させることとなり、より電子の再結合速度と平衡させることが可能になる。これによって、投入した電磁波の反射も大幅に低減される。これは従来の発振パターンで放電後の反射割合が70%であったのに対し、40%まで低減させることができ、投入エネルギの60%、つまり、従来の発振パターンに比べて倍の電磁波エネルギを投入することができ、内燃機関でのA/F試験(リーン限界試験)でも一般的な点火プラグではA/F19であったのに対して、本実施形態の発振パターンを採用することでA/F20となった。
<実施形態2>
実施形態2の圧縮時着火エンジンは、構造は実施形態1の圧縮時着火エンジンと同様で、自着火運転時のラジカル生成手段2を兼ねる放電装置3が、HCCI運転の運転領域と火花点火運転の運転領域の境界近傍に来たとき、HCCIサポート運転として、放電装置3に供給する電磁波の出力を、火花点火運転と同様の出力に切り替えて混合気に対する着火をサポートするようにしている。HCCI運転と火花点火運転とでは、使用する燃料の空燃比が異なる(HCCI運転ではスーパーリーン運転で燃費向上を図るため、30を越える空燃比は採用することもある)ため、HCCI運転時に放電装置3によって燃焼室内に放電を生じさせても通常の火花点火運転と同様に火炎が拡がることがない。しかし、小さな火種ができることで燃焼室14の温度が上昇し、HCCI燃焼を補助することができる。
具体的には、−45degATDC(上死点より45deg前)で補助の放電を行ったとき、同条件のHCCI運転と比べ3deg以上早く0degATDCで十分なHCCI燃焼が確認できた。
以上説明したように、本発明の圧縮自着火エンジンは、自動車エンジン等の内燃機関として、HCCI運転の際、燃焼室内にラジカルを生成することで広い範囲をHCCI運転でサポートする。また、HCCI運転から火花点火運転への切り替えをスムーズに行うとともに、火花点火運転の際の放電手段をラジカル生成手段が兼用するため、装置全体のコンパクトを実現し、均一予混合圧縮自着火エンジンの用途に好適に用いられる。
1 圧縮自着火エンジン
2 ラジカル生成手段
3 放電手段
30 電磁波用電源
31 電磁波発振器
4 制御装置
5 昇圧回路
51a 接地電極
55a 放電電極
6 放電ギャップ

Claims (2)

  1. 混合気を圧縮着火させる自着火運転と、放電手段を用いて混合気を強制的に着火させる火花点火運転とを切り替えて行う圧縮自着火エンジンであって、
    自着火運転時に、燃焼室内にラジカルを生成するラジカル生成手段と、
    火花点火運転時に、燃焼室内で絶縁破壊を生じせしめる放電手段とを備え、
    該放電手段は、制御装置によって発振する電磁波の出力が調整される電磁波発振器、該電磁波発振器から発振される電磁波を昇圧する昇圧回路、放電ギャップを形成する放電電極及び接地電極とからなり、
    前記制御装置は、放電ギャップに混合気が着火することのない最小着火エネルギ以下のプラズマを生成する出力の電磁波を発振することで放電手段をラジカル生成手段として使用するようにした圧縮自着火エンジン。
  2. 前記制御装置は、電磁波の発振を初回の発振時間を5マイクロ秒乃至25マイクロ秒、2回目以降の発振時間を1ナノ秒乃至2マイクロ秒かつデューティ比5%乃至50%となるように制御する請求項1に記載の圧縮自着火エンジン。
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