JPWO2017170494A1 - 抗肥満ワクチン - Google Patents

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Abstract

本発明は、担体タンパク質と、1または複数個のグレリンポリペプチドの全長を融合させた融合タンパク質を含むワクチン製剤であって、全身免疫および粘膜免疫を誘導するワクチン製剤を提供する。ここでグレリンポリペプチドとは、例えば、配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドおよびこれらのポリペプチドと実質的に同一のポリペプチドを挙げることができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、肥満治療のためのワクチン製剤に関する。
肥満の罹患率は、先進国および新興国において増加しており、2013年には、世界中で21億人にも上っている。肥満がこのまま増加すると、米国において2030年には、年間480億〜660億ドルもの健康管理費用がかさむと予想されている。このような肥満に関する医療および経済上の負担にも関わらず、肥満の治療は、満足のいくものでは到底ない状況にある。2015年において、米国のFDAは、5つのタイプの抗肥満薬、Orlistat、 lorcaserin、 phentermine/topiramate、 bupropion/naltrexoneおよびliraglutideを長期投与可能な肥満薬として認可した。
臨床試験から、これらの薬剤はヒトの体重を減少させるが、偽薬投与群と比較して体重の減少は10%以下であることが明らかとなった。これらの薬剤の体重減少効果が満足のいくものではないことに加え、抗肥満薬は依然として、orlistatによる脂肪/油脂便、脂溶性ビタミンの吸収不良および肝臓障害(非特許文献1〜3)、lorcaserinによる発がん性、精神医学的症状、弁膜症などの潜在的で議論の余地のある危険性を有していることが報告されている(非特許文献3)。従って、効果的で安全な肥満の予防または治療方法の開発が必要である。
このように肥満に対する効果的な治療法の開発が思うように進まないのは、肥満の病因に関する分子メカニズムの知見が不充分であることが、原因の1つとして考えられる。体重の増加は、正のエネルギーバランス、すなわち、エネルギー摂取が増加し、エネルギー消費が減少することによると考えられるため、この崩れたエネルギーバランスの改善が抗肥満治療の適切なアプローチであろう。
多くの内在性ホルモンの中で、グレリンは、食物の摂取を促進し、エネルギー消費を減少させて正のエネルギーバランスを助長することが知られている唯一の末梢ホルモンである(非特許文献4)。グレリンは28アミノ酸残基からなり、3番目のセリンがオクタノイル化されており、成長ホルモン分泌促進因子レセプター(GHSR)のリガンドとして同定された(非特許文献5)。グレリンは、主に胃のA/X-like 細胞で産生および分泌されるが(非特許文献6)、腸、膵臓および下垂体など多くの組織においても発現している(非特許文献7)。3番目のセリン残基のオクタノイル化は、グレリンO−アシルトランスフェラーゼ(GOAT)によって促進され、そのレセプターであるGHSRの活性化に不可欠である(非特許文献8および9)。アシル化されたグレリン(AG、アシル−グレリン)は、胃の迷走神経の求心性ニューロンにあるGHSRを介して空腹感を促し、食物摂取を増大させる。これに対し、アシル化されていないグレリン(UAG,脱アシル−グレリン)は、食物摂取とGHSR-迷走神経の活性には影響を及ぼさない(非特許文献10)。また、GHSRノックアウトマウスは、標準食の条件では正常な表現型を示すが、食餌誘発性肥満(DIO;diet-induced obesity)には耐性を示した(非特許文献11)。従って、体重増加における生理学的機能に照らし、血流中にグレリンが存在すること、AG-GHSR情報伝達系を阻害しても重篤な症状は生じないことなどから、グレリンは肥満治療に関する合理的で安全なターゲットであると思われる。
ワクチンによる肥満の治療は、長い期間の治療効果が期待できる点、低頻度の薬剤投与および経済的な優位性の観点から、肥満の有効な治療法になり得る。グレリンを標的としたワクチン接種は、ラット(非特許文献12、特許文献1)、ブタ(非特許文献13)およびマウス(非特許文献14および15)で試みられている。これらは、注射可能なペプチドワクチンで、3番目のセリン残基のアシル化を必要としていた(非特許文献12〜15)。これらのワクチンの全身性の免疫化により、ラットおよびブタにおいて体重増加が抑制されたが(非特許文献12および13)、DIOマウスにおいては体重への影響は認められなかった(非特許文献14および15)。グレリンの3番目のセリンをアシル化すると、アシル化によりグレリンが親油性となり、ミセルの形成や溶解性が低下するなどの問題が生じ、また、アシル化したグレリンは生体内で不安定であるためワクチン抗原としてはあまり適していない。そのため、将来的な臨床応用に向けて、グレリンワクチンを改良するためには、3番目のセリンのアシル化の無いワクチン抗原の開発が望ましい。
また、3番目のセリンをアシル化せずに、グレリンペプチド等をVLP(Virus-like particles)と化学的に結合させてワクチン抗原として使用した場合には、DIOマウスの体重増加は若干低下させるものの(特許文献2)、ob/obマウスのように、遺伝子異常に起因し、標準食摂餌下においても進行性かつ難治性の肥満を呈するマウスにおいては、体重増加を軽減させるかどうかについては不明であった(特許文献2の実施例5など)。以上のように、様々な原因により発症する肥満に対し、体重の増加を効果的に減少させるワクチンを開発することは、依然として、当該技術分野における重要な解決課題とされていた。
US2010/0021487公報 W2005/000497
Filippatosら, Drug Saf 31, 53-65 (2008). Meliaら, J Clin Pharmacol 36, 647-653 (1996). HalpernおよびHalpern A, Expert Opin Drug Saf 14, 305-315 (2015). Tschopら, Nature 407, 908-913 (2000). Kojimaら, Nature 402, 656-660 (1999). Dateら, Endocrinology 141, 4255-4261 (2000). Gnanapavanら, J Clin Endocrinol Metab 87, 2988 (2002). Yangら, Cell 132, 387-396 (2008). Gutierrezら, Proc Natl Acad Sci U S A 105, 6320-6325 (2008). Dateら, Gastroenterology 123, 1120-1128 (2002). Zigmanら, J Clin Invest 115, 3564-3572 (2005). Zorrillaら, Proc Natl Acad Sci U S A 103, 13226-13231 (2006). Vizcarraら, Domest Anim Endocrinol 33, 176-189 (2007). Kellokoskiら, Peptides 30, 2292-2300 (2009). Andradeら, Curr Pharm Des 19, 6551-6558 (2013).
上記事情に鑑み、本発明は、様々な原因によって発症する肥満に対し、効果的に体重増加を抑制するワクチンの提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、担体タンパク質(例えば、PspA)と複数個のグレリンポリペプチドの全長との融合タンパク質を含むワクチン製剤を作製し、その効果につき、鋭意検討をおこなった結果、当該ワクチンが、DIO(食餌誘発性肥満)マウスのみならず、非肥満マウス(高脂肪食非投与マウス)および遺伝子変異に起因して肥満を発症するob/obマウスの体重増加を抑制することを見出した。ob/obマウスは、遺伝子異常により、DIOマウスと比較してより高度の肥満を呈する点で、重篤な肥満症に対するワクチンの効果を調べるのに適している。また、DIOマウスでのワクチン接種は予防的な意味合いが強いことに対し、ob/obマウスではすでに肥満が完成された状態であるため、治療的な意味合いでのワクチン接種の効果を確認することができる。従って、ob/obマウスに対し体重減少効果を示すワクチンは、予防的および治療的な点において、利用価値を期待することができる。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(15)である。
(1)担体タンパク質と、1または複数個のグレリンポリペプチドの全長を融合させた融合タンパク質を含むワクチン製剤。
(2)2〜4個のグレリンポリペプチドが融合されていることを特徴とする上記(1)に記載のワクチン製剤。
(3)3個のグレリンポリペプチドが融合されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のワクチン製剤。
(4)担体タンパク質がN末端側に存在していることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のワクチン製剤。
(5)グレリンポリペプチド同士、およびグレリンポリペプチドと担体タンパク質がリンカーペプチドで連結されていることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のワクチン製剤。
(6)担体タンパク質がPspAであることを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のワクチン製剤。
(7)前記グレリンポリペプチドが以下の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とする上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のワクチン製剤。
(a)配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加され、および/または、3番目のセリン以外のアミノ酸残基の1または数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、3番目のセリンがオクタノイル化された場合にGHSRとの結合活性を有するポリペプチド
(8)前記融合タンパク質が配列番号6で表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のワクチン製剤。
(9)前記融合タンパク質がcCHPナノゲルと複合体を形成していることを特徴とする上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の抗肥満ワクチン製剤。
(10)担体タンパク質と、1または複数個のグレリンポリペプチドの全長を融合させた、融合タンパク質。
(11)前記担体タンパク質がPspAであることを特徴とする上記(10)に記載の融合タンパク質。
(12)前記グレリンポリペプチドが以下の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とする上記(10)または(11)に記載の融合タンパク質。
(a)配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加され、および/または、3番目のセリン以外のアミノ酸残基の1または数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、3番目のセリンがオクタノイル化された場合にGHSRとの結合活性を有するポリペプチド
(13)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる上記(10)ないし(12)のいずれかに記載の融合タンパク質。
(14)上記(10)ないし(13)のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする核酸。
(15)配列番号5で表される核酸配列からなる上記(14)に記載の核酸。
本発明により、食餌によって誘発される肥満のみならず、遺伝的疾患性の肥満や、2型糖尿病に伴う肥満症における体重増加を抑制し得るワクチン製剤の提供が可能となる。また、本発明にかかるワクチンは、遺伝子異常により肥満を呈するob/obマウスの体重増加を有意に減少させるため、予防のみならず、治療的な目的においても、効果を示すものである。一方、非肥満マウスに対しても体重増加を有意に減少させるため、肥満に至る前の過体重の状態においても治療効果が期待される(肥満の前段階である過体重が、心血管イベントのリスク因子となることが知られている)。また、耐糖能、インスリン耐性の改善にも効果を示す。
本発明の融合タンパク質の構成を模式的に示した図。 グレリン-PspAの免疫によって誘導された抗体価の測定結果。血清および鼻洗浄液はグレリン-PspAで5回経鼻免疫した後、免疫したマウスから採取し、ELISAで抗体価を測定した。(A)AGおよびUAGに対する血清IgG抗体は最終免疫から1週間後に誘導された。(B)IgG抗体価の誘導が確認された。他方、他の免疫グロブリンアイソタイプのIgM、IgAおよびIgEの誘導は僅かであった。(C)4、5、6、7および8週齢時にグレリン-PspAで免疫したマウスにおける抗AG血清IgG抗体価の経時変化を60週齢になるまで調べた結果である。値は、平均値±SEMで示した。なお、「コントロール」は未処置のマウス、「ワクチン」はグレリン-PspAを投与したマウスに関する結果である。以下の図において同じ。 種々のアジュバントを用いて皮下注射によりグレリン-PspAを免疫した結果誘導された抗体価。Alum、AddaVaxTM、poly ICおよび、サイクリック di-GMPをアジュバントとして用い、グレリン-PspAをC57BL/6Jマウスの背部に皮下注射した。ワクチン最終接種から2週後に、血清を採取し、抗体価(血清抗AG-IgG抗体)を測定した(n = 6/グループ)。 グレリン-PspAのワクチン接種後の体重増加への影響。コントロールおよび免疫したマウスの体重を毎週測定した結果である。(A)DIOマウスに対し、4〜8週齢の間、毎週、グレリン-PspAで経鼻免疫し、最終免疫の直後から45%kcal高脂肪食を与え始めた。高脂肪食を与え始めるとコントロールおよび免疫マウスのいずれにおいても体重増加が加速された。グレリン-PspAで免疫することで、体重の増加が減少した。(B)遺伝的にレプチンを欠損した肥満(ob/ob)マウスを標準食で飼育し、26〜30週齢の間、毎週、グレリン-PspAで経鼻免疫した。コントロールob/obマウスの体重は増加し続けたが、免疫したob/obマウスの体重増加は有意に抑制された。 値は、平均値±SEMで示した。* p < 0.05; ** p < 0.01。 グレリン-PspAの皮下注射免疫による体重増加への影響。皮下注射終了後(8週齢)(アジュバントとしてサイクリックdi-GMPを使用し、4、6、8週齢時に接種)、標準固形飼料から高脂肪飼料に変更した。体重の推移を計測し、コントロールマウス(無処置、8週齢から高脂肪飼料)と比較した。グレリン-PspA皮下注射により、非肥満時(肥満誘導前)での体重増加抑制が確認された(8週齢、コントロール 24.4±0.3 g、ワクチン 22.6±0.3 g、n = 11-12/グループ、p<0.01)。同様に高脂肪飼料開始後の体重増加も有意に抑制された(12週齢、コントロール 30.6±0.8 g、ワクチン 27.3±0.4 g、n = 11-12/グループ、p<0.01)。 グレリン-PspAワクチンの摂食、エネルギー恒常性および体温への影響。グレリン-PspAで4〜8週齢の間、毎週経鼻免疫したDIOマウスと、コントロールDIOマウスについて、最終免疫から2〜3週間後に摂食量を、4週間後に酸素消費量を、4〜5週間後に直腸温度を測定した。(A)各マウスの1日あたりの摂食量を連続する2日測定し、その平均値を摂食量とした。コントロールと免疫したマウスとの間で、摂食量に有意差は認められなかった。(BおよびC)エネルギー消費量の代表値として酸素消費量(VO2)を間接的熱量測定法で測定した。グレリン-PspAの経鼻免疫により、活動期(暗期)および休止期(明期)のいずれにおいてもVO2が有意に増加した。(D)体の熱発生は直腸温度を代表値として測定した。グレリン-PspAのワクチン接種は体温を変化させなかった。値は、平均値±SEMで示した。* p < 0.05; ** p < 0.01。 グレリン-PspAワクチンの脂肪蓄積および脂肪細胞のサイズに対する影響。グレリン-PspAで経鼻免疫したマウスに高脂肪食を5週間与え、脂肪の蓄積量をCTスキャンで分析し、腎臓周囲脂肪を採取し、脂肪細胞のサイズを測定した。(A)CTスキャンは、第4腰椎レベルのCTスキャンを行い、取得したCT画像に基づいて、総脂肪、皮下脂肪および内臓脂肪の割合を解析した。免疫したDIOマウスの総脂肪、皮下脂肪および内臓脂肪はコントロールDIOマウスに比べて、有意に少なかった。(B)HEで染色した内臓脂肪サンプルにおいて、5つの連続する視野を無作為に選択し脂肪細胞のサイズを測定した(×100の対物レンズを使用)。免疫したDIOマウスの脂肪細胞のサイズは、コントロールDIOマウスに比較して有意に小さかった。値は、平均値±SEMで示した。* p < 0.05; ** p < 0.01 グレリン-PspAの経鼻免疫の分子的、代謝的変動への影響。5回目のワクチン接種から5週間後のDIOマウスの肩甲骨周囲脂肪(褐色脂肪組織;BAT)、腎臓周囲脂肪(白色脂肪組織;WAT)および大腿四頭筋(骨格筋)からRNAを調製した。単離したRNAを逆転写し、得られたcDNAを定量的にPCR増幅を行った。リアルタイム定量PCR法による相対的な遺伝子発現データはβアクチン遺伝子に対して正規化した。(A〜D)グレリン-PspAを経鼻投与すると、褐色脂肪組織におけるUCP1およびPPARγの発現を有意に増大させたが、UCP3およびPPARαの発現に有意な変化を及ぼさなかった。(E、F)グレリン-PspAのワクチン接種により、白色脂肪組織のUCP2とPPARγの発現は上昇した。(G〜I)骨格筋においては、UCP3、PPARαおよびPPARγの発現はコントロールと比較しても有意差は認められなかった。値は、平均値±SEMで示した。* p < 0.05; ** p < 0.01 グルコースおよび脂質の恒常性に対するワクチン接種の効果。グレリン-PspAで経鼻免疫したDIOマウスに対し、OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)およびIPITT(腹腔内インスリン負荷試験)を行った。また、LDL、FFAおよびTGの空腹時血清濃度を測定した。(A)OGTTに関し、DIOマウスを6時間絶食させ、グルコース(2g/1kg体重)を投与し、血中グルコースレベルを測定した。ワクチン接種したDIOマウスの血中グルコースレベルは、コントロールDIOマウスの血中グルコースレベルよりも低かった。(B)IPITTに関し、マウスを6時間絶食させ、インスリン(0.75 IU/1kg体重)を腹腔内注射し、血中グルコースレベルを測定した。ワクチン接種したDIOマウスの血中グルコースレベルは、コントロールDIOマウスの血中グルコースレベルよりも低かった。(C〜E)ワクチン接種したDIOマウスのLDL, FFAおよびTGの空腹時血清濃度は、コントロールDIOマウスのLDL, FFAおよびTGの空腹時血清濃度よりも低い傾向にあった。値は、平均値±SEMで示した。* p < 0.05; ** p < 0.01 グレリン-PspAワクチンによって誘導された血清IgGのAGとそのレセプターとの結合に対する影響。グレリン-PspAワクチンを接種したマウスとコントロールマウスから血清ポリクローナルIgG抗体を調製した。GHSR発現CHO細胞の細胞内Ca2+濃度の変化(グレリンレセプターの下流のシグナル)は、血清IgGとAG、あるいは、AGのみを細胞に添加した前後に、蛍光指示試薬を使用して測定した。(A)AGのみをGHSR発現CHO細胞に添加すると、蛍光強度が上昇した(すなわち、細胞内Ca2+濃度が上昇した)。細胞に添加する前に免疫したマウスから調製したIgGとAGを混合した場合には、細胞内Ca2+濃度の上昇は抑制された。他方、コントロールマウスから調製したIgGを添加しても細胞内Ca2+濃度の変化に影響を与えなかった。(B)AG添加前後の細胞内Ca2+濃度の変化は、免疫したマウスのIgGを添加した場合には小さくなったが、コントロールマウスから調製したIgGを添加してもほとんど変わらなかった。値は、平均値±SEMで示した。* p < 0.05; ** p < 0.01 グレリン-PspAの免疫によって誘導された鼻腔洗浄液中の総IgA量の測定結果。鼻腔洗浄液はグレリン-PspAで5回経鼻免疫した後、最終免疫5週後に免疫したマウスから採取し、ELISAで総IgA量を測定した。鼻腔洗浄液中の総IgA量は、免疫したマウスで有意に増加した。値は、平均値±SEMで示した。** p < 0.01。 グレリン-PspAの免疫前後のAG特異的血清IgG抗体の測定結果。血清はグレリン-PspAで5回経鼻免疫したマウスの免疫前、中、後に採取し、ELISAでAGに対する特異的IgG抗体価を測定した。3回免疫後より抗体価は上昇し、5回投与後にピークに達し、その後緩やかに低下傾向を示した。値は、平均値±SEMで示した。 非肥満マウスにおける、グレリン-PspAのワクチン接種後の体重増加への影響。コントロールおよび免疫したマウスの体重を毎週測定した結果である。非肥満マウスに対し、4〜8週齢の間、毎週、グレリン-PspAで経鼻免疫し、体重の推移を観察した。グレリン-PspAで免疫することで、非肥満状態において体重の増加が減少した。値は、平均値±SEMで示した。* p < 0.05; ** p < 0.01。 グレリン-PspAの経鼻免疫の内因性グレリンへの影響。5回目のワクチン接種から4週間後のマウスの胃からRNAを調製した。単離したRNAを逆転写し、得られたcDNAを、定量的にPCR増幅を行った。リアルタイム定量PCR法による相対的な遺伝子発現データはβアクチン遺伝子に対して正規化した。グレリン-PspAを経鼻投与しても、胃でのグレリンおよびGHSRの発現に有意な変化を及ぼさなかった。値は、平均値±SEMで示した。
本発明の実施形態は、1または複数個のグレリンポリペプチドの全長と、グレリンポリペプチドの免疫原性を高める役割を果たす担体タンパク質との融合タンパク質を含む、全身性および粘膜誘導型のワクチン製剤(以下、「本発明のワクチン製剤」と記載する)である。
グレリンは28アミノ酸残基からなり、3番目のセリンがオクタノイル化された活性型のグレリンは、成長ホルモン分泌促進因子レセプター(GHSR)と結合し、食物の摂取を促進させ、エネルギー消費を減少させる。これまでに、グレリンをワクチンとして用いる場合、3番目のセリンがオクタノイル化など、アシル化されたグレリンを用いるものが報告されているが、アシル化を行うことで、グレリンが生体内で不安定になること、親油性になりミセルなどを形成するおそれがあることなどから、本発明の実施形態においては、3番目のセリンがアシル化されていないグレリンポリペプチドの全長(28残基からなるポリペプチド)を、1個または複数個連結したものを免疫原として用いることとした。
なお、本明細書中では、28残基からなるグレリンポリペプチドのことを、単に「グレリン」と記載することもあるが、特に注記しない限り「グレリンポリペプチド」と同義である。
担体タンパク質と結合させるグレリンポリペプチドの数は、特に限定はしないが、例えば、1〜5個が好ましく、2〜4がより好ましい。
本発明の実施形態で使用されるグレリンポリペプチドは、種々の動物種由来のものを使用することができ、限定はしないが、例えば、ヒト由来(配列番号1)、マウス由来(配列番号2)、イヌ由来(配列番号3)の他、ラット、ブタ、ウシおよびヒツジなどの動物由来のものを使用することができる。
より具体的には、例えば、配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの他、これらのポリペプチドと実質的に同一のポリペプチドであってもグレリンポリペプチドとして使用することができる。
「配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと実質的に同一のポリペプチド」とは、例えば、配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加され、および/または、3番目のセリン以外のアミノ酸残基の1または数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、3番目のセリンがオクタノイル化など、アシル化された場合にGHSRとの結合活性を有するポリペプチドのことである。
また、「担体タンパク質」とは、グレリンポリペプチドの免疫原性を高める機能を果たすタンパク質のことで、例えば、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、卵白アルブミン(OVA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、牛血清アルブミン(BSA)、サイログロブリン(TG)、免疫グロブリン、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、ジフテリア毒素変異体CRM197、肺炎球菌表面抗原A(PspA)、肺炎球菌表面抗原C(PspC)、肺炎球菌ヒスチジン蛋白A(PhpA)、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs)、B型肝炎ウイルスコア抗原(HBc)、E型肝炎ウイルスカプシド蛋白(例えば例えばORF (open reading frame)2など)、HIV-1エンベロープ糖蛋白(例えばgp41、gp120およびgp160など)、C型肝炎ウイルスエンベロープ糖蛋白(例えばE1E2、NS3、NS4およびNS5Bなど)、インフルエンザM2蛋白、インフルエンザヘマグルチニン蛋白(HA)、マラリア原虫スポロゾイト表面蛋白質、結核菌Ag85複合蛋白、結核菌熱ショック蛋白(例えばHsp65、Hsp70)、結核菌低分子量分泌蛋白(例えば、初期分泌抗原標的(ESAT)-6、培養濾過蛋白質(CFP)-10)、ヒトパピローマウイルスL1カプシド蛋白、ヒトパピローマウイルス16腫瘍性抗原(例えばE6、E7)、ナイセリア属ヘパリン結合性抗原(NHBA)、髄膜炎菌H因子結合蛋白(fHbp)、髄膜炎菌表面アドヘシンA(NadA)、コレラトキシンBサブユニット(CTB)、無毒変異型易熱性大腸菌毒素(LTB)、ボツリヌス毒素重鎖C末ドメイン(BoHc)、ノロウイルスカプシド蛋白(例えばVP1)、ロタウイルス抗原(例えばVP2、VP4、VP6、VP7)、好ましくは、ジフテリア毒素変異体CRM197、破傷風トキソイド、CTB、LTB、HA、HBs、PspAである。
ここで、PspAとは、肺炎球菌表面タンパク質A(pneumococcal surface protein A)のことで、family 1-3、clade1-6に分類されているが、本発明の実施形態においては、どのグループに分類されるPspAであっても使用することができる。
本発明の実施形態で使用される融合タンパク質(以下、「本発明の融合タンパク質」とする)は、担体タンパク質と複数個の全長グレリンポリペプチドが連結したものである(担体タンパク質および1または複数個の全長グレリンポリペプチドと、場合によってはリンカーペプチドがペプチド結合で連結されているタンパク質。例えば、担体タンパク質および1または複数個の全長グレリンポリペプチドと、場合によってはリンカーペプチドを各々コードする遺伝子を融合した、融合遺伝子から発現されるタンパク質)。各タンパク質またはポリペプチド同士は直接的に連結されていても、またはリンカーペプチドなどを介して間接的に連結されていてもよい。また、担体タンパク質とグレリンポリペプチドの配置は、いかなる配置であっても良いが、例えば、N末端またはC末端に担体タンパク質が配置され、複数個のグレリンポリペプチドが連続的に連結されて、担体タンパク質と融合された構成を例示することができる(例えば、図1を参照のこと。アミノ酸配列は、配列番号4に示す)
ポリペプチド同士を連結するためにリンカーを使用する場合には、リンカーペプチドとして当該技術分野で公知のものであれば如何なるものも使用することができる。本発明の実施形態において使用可能なリンカーペプチドとして、例えば、フレキシブルなリンカーとして、GGGGS(配列番号5)配列を数回繰り返したペプチド(本発明の実施例では4回繰り返したペプチドを使用)やGPGPなどを挙げることができ、より詳細には、Chenら, Fusion protein linkers: property, design and functionality. Adv Drug Deliv Rev. 2013; 65(10): 1357-69のtable 3に列挙されているようなものを使用することができる。
本発明の融合タンパク質は、当該技術分野における公知技術により容易に作製することができる。
まず、担体タンパク質(例えば、ジフテリアCRM 197蛋白質、組換えB型肝炎ワクチン蛋白(酵母で調製)、PspAなど)およびグレリンの遺伝子情報は、GenBankなどのデータベースから容易に取得することができる。次に、取得した遺伝子情報に基づいて、これらの遺伝子配列と、リンカーペプチドをコードする核酸配列を、各タンパク質およびペプチドが連結して発現可能となるように核酸配列の読み枠を調整し、得られた核酸配列情報に基づいて、融合タンパク質をコードするDNAを合成する。合成されたDNAは適当な発現ベクターに挿入し、常法に基づいて、タンパク質を発現し、単離精製を行うことで、本発明の融合タンパク質を作製することができる。例えば、図1に示す配置の融合タンパク質の遺伝子配列として配列番号5の核酸配列を示すことができ、この配列を持つDNAを発現させると配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる本発明の融合タンパク質を取得することができる。
本発明の融合タンパク質を発現させるための発現用ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pETなど(大腸菌宿主)、pEGF-C、pEGF-Nなど(動物細胞宿主)、pVL1392、pVL1393など(昆虫細胞宿主)、pG-1、Yep13、pPICZなど(酵母細胞宿主)を使用することができる。これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカーおよびプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位およびポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。
発現させたポリペプチドを培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的のポリペプチドを取得することができる。公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法(例えば、GSTタグと共に蛋白質を発現させた場合にはグルタチオンを担体に結合させた樹脂を、Hisタグと共に蛋白質を発現させた場合にはNi-NTA樹脂やCoベースの樹脂を、HAタグと共に蛋白質を発現させた場合には、抗HA抗体結合カラムなどを使用することができる)、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
本発明のワクチン製剤は、1または複数種類のアジュバント、フロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント、アルミニウム塩(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム)、水中油型エマルジョン(例えば、AS03、MF59(登録商標)、RibiTM、ProvaxTM)、モノホスホリルリピッドA(MPL)、カリウムミョウバン、サポニン(例えば、QS2、QS21、ISCOM (immunostimulatory complex))を含むアジュバント(例えば、AS01(QS2、MPLおよびリポソームを含む)、AS02(スクアレン、MPLおよびQS21を含む)、AS04(MPLおよび水酸化アルミニウムを含む)、AS15(MPL、QS21、CpG、リポソームを含む)、RC-529(MPLアナログ)、E6020(lipid Aアナログ))、毒素(例えば、mutant CT(無毒変異型コレラトキシン)、mutant LT(無毒変異型易熱性大腸菌毒素)、百日咳毒素)、フラジェリン、核酸成分から成るアジュバント(CpG oligodeoxynucleotide、サイクリックdi-GMP、サイクリック di-AMP、poly(I:C), Ampligen)、イミダゾキノリン(例えば、イミキモドやR-848)、ムラミルジペプチド、トレハロースジベヘン酸(例えば、CAF01)、SAF、Ribi、Liposome、Biodegradable microsphere、サイトカイン(例えば、インターフェロンガンマ, インターロイキン1, インターロイキン2, インターロイキン12)、シクロデキストリン、バイオポリマー(Advax, Inulin polymer, Hemozoin, heme polymer)、キトサン、ノバソームまたは非イオン性ブロックコポリマーまたはDEAEデキストラン、鉱油または植物油等を含むことができる。また、医薬上許容される担体を含んでいてもよい。医薬上許容される担体は、ワクチン接種される動物の健康に悪影響を及ぼさない化合物であることが必要である。医薬上許容される担体は、例えば、無菌水またはバッファーである。
本発明のワクチン製剤は、通常の能動免疫法で投与することができ、注射により投与する全身性ワクチンでも、注射によらず経口または経鼻投与等により投与する粘膜誘導型ワクチンでもあってもよい。また、本発明の抗肥満ワクチン製剤は、体重増加を抑制させるための有効な量にて、剤形に適合した方法による単回または複数回、投与することができる。本発明の抗肥満ワクチン製剤は、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口的に、あるいは、鼻腔内に投与する経鼻ワクチンとしてとしても使用することができ、他の抗原成分と混合して用いることもできる。
本発明のワクチン製剤を経鼻投与する経鼻ワクチンとして使用する場合には、本発明の融合タンパク質をcCHPナノゲルに取り込ませて、融合タンパク質-cCHPナノゲル複合体として、ワクチンとして製剤化してもよい。
cCHPナノゲル(cCHP;cationic type of cholesteryl group-bearing pullulan、自己凝集性ナノサイズヒドロゲル)(WO00/12564、Berryら, Infect Immun 57, 2037-2042 1989)は、そのナノマトリックス内部にタンパク質抗原を内包すると、人工的なシャペロンとして機能し、抗原の凝集および変性を防ぎ、抗原放出後のリフォールディングを助ける。このナノゲルは、効率的に細胞まで送達され、アジュバントフリーワクチンとして免疫応答を誘導する(Nochiら, Nat Mater 9, 572-578 2010:Yukiら, Biotechnol Genet Eng Rev 29, 61-72 2013)。さらに、マウスにおいて、経鼻的に投与した[111In]-標識 BoHc/A(ボツリヌスA型毒素の重鎖C末端領域無毒領域) を担持するcCHPナノゲルを経鼻的に投与しても、嗅球や脳などの中枢神経系に蓄積することはなかった(Nochiら, Nat Mater 9, 572-578 2010)。さらに、マウスにおいて、ナノゲル経鼻ワクチンが安全であり、かつ、強力な抗原特異的な全身性および粘膜性の抗体免疫応答を誘導することも報告されている(Kongら, Infect Immun 81, 1625-1634 2013)。
ここで、ナノゲルとは、親水性の多糖(例えば、プルラン)に、側鎖として疎水性のコレステロールが付加された、高分子ゲルナノ粒子のことである。ナノゲルは公知の方法、例えば、国際公開第WO00/12564号公報に記載された方法などに基づいて製造することができる。
具体的には、まず、炭素数12〜50の水酸基含有炭化水素またはステロールと、OCN-R1-NCO(式中、R1は炭素数1〜50の炭化水素基である)で表されるジイソシアネート化合物を反応させて、炭素数12〜50の水酸基含有炭化水素又はステロールが1分子反応したイソシアネート基含有疎水性化合物を製造する。得られたイソシアネート基含有疎水性化合物と多糖類とを反応させ、炭素数12〜50の炭化水素基又はステリル基を含有する疎水性基含有多糖類を製造する。次に、得られた生成物をケトン系の溶媒で精製することにより、純度の高い疎水性基含有多糖類を製造することができる。
ここで、多糖類としては、プルラン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカンおよび水溶性セルロース等が利用可能であり、特に、プルランが好ましい。
本発明のワクチン製剤の製剤化に使用されるナノゲルとしては、コレステロール置換型プルラン(以下、CHPと称する)およびCHP誘導体を挙げることができる。本発明の実施形態で使用されるCHPは、抗原のサイズや疎水性の度合いにより、コレステロール置換量を適宜変更してもよい。また、CHPの疎水性の度合いを変更するために、アルキル基(炭素数10〜30、好ましくは、炭素数12〜20程度)を付加させてもよい。本発明で使用されるナノゲルは、粒径10〜40nm、好ましくは20〜30nmである。ナノゲルは既に広く市販されており、本発明においては、これら市販品を利用してもよい。ここで使用されるナノゲルは、ワクチン製剤が負に帯電する鼻粘膜表面へ侵入できるように、正電荷を有する官能基、例えばアミノ基を導入したナノゲルである。アミノ基のナノゲルへの導入の方法としては、アミノ基を付加したコレステロールプルラン(CHPNH2)を用いる方法を挙げることができる。
具体的には、減圧乾燥したCHP(例えば、0.15 g)をジメチルスルホキシド(DMSO)15mlに溶解し、これに1-1’カルボニルジイミダゾール(例えば、75mg)を窒素気流下に加え数時間(例えば、1時間程度)室温で反応させる。その反応溶液にエチレンジアミン(例えば、300mg)を徐々に添加し、数時間から数十時間程度(例えば、24時間程度)攪拌する。得られた反応溶液を蒸留水に対して、数日間透析する。透析後の反応溶液を凍結乾燥し、乳白色の固体を得る。エチレンジアミンの置換度は元素分析やH-NMRなどを用いて評価することができる。
ワクチン抗原である本発明の融合タンパク質と上記カチオン性ナノゲルとの複合体は、カチオン性ナノゲルと本発明の融合タンパク質を共存させ、相互作用させ、該融合タンパク質をカチオン性ナノゲル内に取り込ませることにより作製することができる。複合体を作製することを複合化という。PspAとカチオン性ナノゲルの混合比は、例えば、ナノゲル:融合タンパク質が、モル比で、1:1〜4:1、好ましくは3:1となるように混合すればよい。
本発明の融合タンパク質とナノゲルの複合体の形成は、融合タンパク質とナノゲルをバッファー中において混合し、4〜50℃、例えば、46℃で、30分〜48時間、例えば、1時間程度静置して、混合する。場合によっては、適当なアジュバントと共に本発明の融合タンパク質とナノゲルを混合してもよい。融合タンパク質とナノゲルの複合化に使用するバッファーは、特に、限定されず、融合タンパク質とナノゲルの種類により適宜調製することができ、あえて例示するならば、Tris-HCl緩衝液(50mM、pH7.6)などを挙げることができる。調製した融合タンパク質-ナノゲル複合体は、公知の方法によりその物理化学的性状を解析することが可能である。例えば、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET; fluorescence response energy transfer)、動的光散乱法(DLS; dynamic light scattering)、および、ゼータ電位の測定などにより、解析が可能である。
本発明のワクチン製剤は、薬学的に許容できる公知の安定剤、防腐剤、酸化防止剤等を含ませても良い。安定剤としてはゼラチン、デキストラン、ソルビトール等が挙げられる。防腐剤としてはチメロサール、βプロピオラクトン等が挙げられる。酸化防止剤としてはαトコフェロール等を挙げることができる。
ワクチン製剤の投与量は、投与対象の年齢や体重等により適宜決定することができるが、薬学的に有効な量のワクチン抗原の量である。薬学的に有効な量とは、そのワクチン抗原に対する免疫反応を誘導するのに必要な抗原量をいう。例えば、1回のワクチン抗原投与量数μg〜数10mgで1日1回〜数回投与し、1〜数週間間隔でトータル数回、例えば1〜5回投与してもよい。
本発明の他の実施形態は、本発明の融合タンパク質および該融合タンパク質をコードする核酸および該核酸を含むベクターである。
以下に、図1に模式的に示す融合タンパク質を作製し、この融合タンパク質を含んでなるワクチン製剤を調製し、体重増加に対するその効果を検討した。この実施例は、あくまでも本発明の実施形態の1例に過ぎず、本発明の範囲は当該実施例により何ら限定されるものではない。
1.材料と実験方法
1−1.動物
1−1−1.DIOマウスおよびob/obマウス
オスのC57BL/6JJclマウスは日本クレア株式会社から入手し、オスのC57BL/6JHamSlc-ob/obマウスは、日本エスエルシー株式会社から入手した。全てのマウスは、東京大学医科学研究所動物実験委員会が規定するガイドラインに従い、12時間-12時間の明暗周期で、不断給餌および不断給水の条件で飼育した。標準固形飼料(CA-1; 日本クレア)と高脂肪飼料(D12451; Research Diets Inc)は、各々、3.47 kcal/g(13.0% kcal(脂質由来)、31.2% kcal(タンパク質由来)および55.8% kcal(窒素不含エクストラクト由来))および4.73 kcal/g(45% kcal(脂質由来)、20% kcal(タンパク質由来)および35% kcal(炭水化物由来))であった。DIOマウスは8週齢になるまで標準食を与え、最終免疫後から高脂肪食を与えた。他方、ob/obマウスには、実験期間中ずっと標準固形飼料を与えた。
1−1−2.非肥満マウス(高脂肪食非投与)
オスのC57BL/6JJclマウスは日本クレア株式会社から入手した。全てのマウスは、東京大学医科学研究所動物実験委員会が規定するガイドラインに従い、12時間-12時間の明暗周期で、不断給餌および不断給水の条件で飼育した。マウスには標準固形飼料(CA-1; 日本クレア)を与えた。
1−2.組換体グレリン-PspAタンパク質の合成
グレリン-PspA(本発明の融合タンパク質)(図1)は、C末端側にマウスの全長UAG(マウスプレプログレリン;アミノ酸24〜51)(GenBank アクセッション番号;AB035701)(配列番号2)の3個の繰り返し、N末端側のPspA/Rx1(pUAB055;アミノ酸1〜302)(PspA family 1, clade2)(GenBank アクセッション番号;M74122)が配置されている。個々のUAG配列は、フレキシブルな(GGGGS)4リンカーによって連結されている。グレリン-PspAをコードする遺伝子はタカラバイオ株式会社に合成を委託した。合成された遺伝子をNco IおよびXho I(タカラバイオ)で切断したのち、C末端にHis-tagを有するpET-20b(+)ベクター(Novagen)に挿入した。添付の説明書に従って、Rosetta2(DE)pLysSコンピテント細胞(Novagen)をグレリン-PspA遺伝子を挿入したベクターで形質転換した。得られた形質転換体を100μg/ml アンピシリンおよび34μg/ml クロラムフェニコールを含むLB培地に植菌し、37℃で、OD600が0.5-0.8に達するまでインキュベートした。0.4 mM イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(和光純薬工業)で誘導をかけたのち、3.5時間インキュベートし、細胞を5,000rpm、4℃、15分間遠心して回収し、40 mM イミダゾールとプロテアーゼインヒビター(cOmplete; Roshe Diagnostics)を含む培養容量の0.025容量のリン酸バッファーに懸濁した。目的のタンパク質は、硫安で塩析後、透析したのち、ニッケルアフィニティーカラム(GEヘルスケアジャパン)にチャージし、その後、Sephadex G-100(GEヘルスケアジャパン)に通して精製を行った。
得られたタンパク質はSDS-PAGE(12%ゲル)で分離し、ウエスタンブロッティング法により確認した。グレリン-PspAタンパク質は、1次抗体である抗グレリン抗体(1:2000, Abcam)と抗PspA抗体((1:2000、Kongら, Infect Immun 81, 1625-1634 (2013))、および抗His-tag抗体(1:5000、GEヘルスケアジャパン)で反応させ、ペルオキシダーゼ結合抗ウサギまたはマウスIgGの2次抗体(1:5000, Jackson ImmunoResearch Laboratories)で検出した。タンパク質のバンドは、SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate (Thermo Fisher Scientific)で可視化し、ImageQuant LAS 4000mini(GEヘルスケアジャパン)で検出した。
1−3.ナノゲルベースのグレリン-PspAワクチンの調製およびその免疫方法
1−3−1.DIOマウスおよびob/obマウス
抗原特異的な免疫応答反応を増強するために、10μgのサイクリックdi-GMP(ヤマサ醤油)を5μgのグレリン-PspAに加えた。次に、すでに報告された方法に従って、cCHPナノゲルを調製し(Nochiら, Nat Mater 9, 572-578 (2010):Ayameら, Bioconjug Chem 19, 882-890 (2008))、グレリン-PspAとサイクリックdi-GMPを、カチオン性ナノ粒子であるcCHPナノゲル中に封入するために、3:1(ナノゲル:グレリン-PspA)の分子比となるように混合し、1時間、46℃でインキュベートした。
(1)経鼻免疫
マウスに対し、cCHPに封入した5μgのグレリン-PspAと10μgのサイクリックdi-GMPから構成されるグレリン-PspAワクチンを、隔週で5回(4、5、6、7および8週齢のDIOマウス、および26、27、28、29および30週齢のob/obマウスに対して投与)、マイクロピペットで鼻孔に液滴(マウス1個体あたり7.99μl投与)を垂らして経鼻免疫した。
(2)皮下注射による免疫
抗原特異的な免疫応答を増強するために、グレリン-PspA 10μgをPBSにて100μlにメスアップし、さらにAlum(ImjectTM Alum Adjuvant, Thermo Scientific)100μl、AddaVaxTM(vac-adx-2、Invivogen)100 μl、poly IC(協和発酵バイオ株式会社から分与)50μg、サイクリック di-GMP 200μgのいずれかを加え、total 200μlとした。
C57BL/6Jの雄マウスに、グレリン-PspA 10μgと各アジュバントから構成されるワクチン溶液を、2週間毎に3回(4, 6, 8週齢)、23ゲージ注射針を用いて背部に皮下注射した。
1−3−2.非肥満マウス
抗原特異的な免疫応答反応を増強するために、10μgのサイクリックdi-GMP(ヤマサ醤油)を5μgのグレリン-PspAに加えた。次に、すでに報告された方法に従って、cCHPナノゲルを調製し(Nochiら, Nat Mater 9, 572-578 (2010):Ayameら, Bioconjug Chem 19, 882-890 (2008))、グレリン-PspAとサイクリックdi-GMPを、カチオン性ナノ粒子であるcCHPナノゲル中に封入するために、3:1(ナノゲル:グレリン-PspA)の分子比となるように混合し、1時間、46℃でインキュベートした。
マウスに対し、cCHPに封入した5μgのグレリン-PspAと10μgのサイクリックdi-GMPから構成されるグレリン-PspAワクチンを、隔週で5回(4、5、6、7および8週齢)、マイクロピペットで鼻孔に液滴(マウス1個体あたり7.99μl投与)を垂らして経鼻免疫した。
1−4.抗体価
1−4−1.DIOマウスおよびob/obマウス
血清および鼻洗浄液中の抗体価は、ELISA法により測定した。
96マイクロウェルプレート(Immulon 1 B; Thermo Fisher Scientific)の各ウェルをBSAを結合させたAGまたはUAG、あるいは、PspA、0.1μgで、4℃、一晩コートした。抗原をコートしたプレートは、1% BSAを含むブロッキングバッファー(PBST;Tween20を含むPBS)で、1時間インキュベートした。血液サンプルは、キャピラリーチューブを眼窩後洞に挿入して回収し、血液を遠心(3,000rpm 20min)して血清を調製した。鼻洗浄液は200μlのPBSで鼻腔を洗い流すことで回収した。血清と鼻洗浄液は、ブロッキングバッファーで希釈(2倍段階希釈)し、AG-BSA、UAS-BSAまたはPspAでコートしたウェルに添加し、25℃、2時間インキュベートした。プレートをPBSTで洗浄した後、希釈したHRP結合ヤギ抗マウスIgG, IgA, IgEおよびIgM(SouthernBiotech)(1:2000 [IgE], 1:4000 [IgA, IgM], 1:5000 [IgG])を各ウェルに添加して25℃、1.5時間インキュベートした。
インキュベート後、反応産物をTMB Microwell peroxidase substrate system(Kirkegaard & Perry Laboratories)用いて発色させ、450nm波長の吸光度を測定した。エンドポイントタイターは、ネガティブコントロールよりも0.1 units高いOD450を示す最終希釈率のReciprocal log2として表した。
1−4−2.非肥満マウス
血清および鼻腔洗浄液中の抗体価は、ELISA法により測定した。
血清抗体価の測定において、96マイクロウェルプレート(Immulon 1 B; Thermo Fisher Scientific)の各ウェルをBSAを結合させたアシル化グレリン(AG)0.1μgで、4℃、一晩コートした。抗原をコートしたプレートは、1% BSAを含むブロッキングバッファー(PBST;Tween20を含むPBS)で、1時間インキュベートした。血液サンプルは、4〜11週齢時に1週ごとにキャピラリーチューブを眼窩後洞に挿入して回収し、血液を遠心(3,000rpm 20min)して血清を調製した。血清は、ブロッキングバッファーで希釈(2倍段階希釈)し、AG-BSAでコートしたウェルに添加し、25℃、2時間インキュベートした。プレートをPBSTで洗浄した後、希釈したHRP結合ヤギ抗マウスIgG(SouthernBiotech)(1:5000)を各ウェルに添加して25℃、1.5時間インキュベートした。インキュベート後、反応産物をTMB Microwell peroxidase substrate system(Kirkegaard & Perry Laboratories)用いて発色させ、450nm波長の吸光度を測定した。エンドポイントタイターは、ネガティブコントロールよりも0.1 units高いOD450を示す最終希釈率のReciprocal log2として表した。
鼻腔洗浄液の抗体価の測定においては、96マイクロウェルプレート(F96 MaxiSorp; Thermo Fisher Scientific)の各ウェルをgoat anti-mouse IgA(SouthernBiotech)0.5 μgで、4℃、一晩コートした。IgAをコートしたプレートは、1% BSAを含むブロッキングバッファー(PBST;Tween20を含むPBS)で、1時間インキュベートした。鼻腔洗浄液は13週齢(最終免疫5週後)に、200μlのPBSで鼻腔を洗い流すことで回収した。鼻腔洗浄液は、ブロッキングバッファーで希釈(2倍段階希釈)し、IgAでコートしたウェルに添加し、25℃、2時間インキュベートした。プレートをPBSTで洗浄した後、希釈したHRP結合ヤギ抗マウスIgA(SouthernBiotech)(1:4000)を各ウェルに添加して25℃、1.5時間インキュベートした。インキュベート後、反応産物をTMB Microwell peroxidase substrate system(Kirkegaard & Perry Laboratories)用いて発色させ、450nm波長の吸光度を測定した。鼻腔洗浄液サンプルのIgA濃度は、IgA標準品(purified mouse IgAk isotype standard、PharmMingen社)から得られたスタンダード曲線をもとに決定した。
1−5.体重、摂食量および体温の測定
1−5−1.DIOマウス
マウスの体重は、精密はかり(GX-6000;株式会社エー・アンド・デイ)を用いて、0.1gの精度で毎週測定した。各マウスの1日あたりの摂食量は、最終のワクチン接種から2〜3週間後に、連続2日間測定し、それら測定値の平均値を摂食量とした。また、最終免疫から4〜5週間に、各マウスの直腸の温度をデジタル体温計(BDT-100、バイオリサーチセンター)で測定した。
1−5−2.非肥満マウスおよびob/obマウス
マウスの体重は、精密はかり(GX-6000;株式会社エー・アンド・デイ)を用いて、0.1gの精度で毎週測定した。
1−6.呼吸ガスの分析
エネルギー消費量は、VO2を測定する間接的な熱量測定により算定した。各マウス(最終のワクチン接種から4週間後)(n = 9/グループ)は、個別にメタボリックチャンバーに入れ、マススペクトロメトリ(ARCO-2000;アルコシステム)でO2濃度を測定した。空気サンプルは、各チャンバーからポンプで引き出し、コットンカラムで乾燥させた。呼気はガス分析器に入れ、72時間、90秒毎分析した。VO2は、以下の式により算出した(Ishiharaら, J Nutr 130, 2990-2995 (2000):Nicholsonら, Physiol Meas 17, 43-55 (1996))。
VO2 = [(FEN2/FIN2)・FIO2−FEO2]・VT・10
(式中、FEN2およびFEO2は、各々、呼気中のN2およびO2濃度である。FIN2およびFIO2は、各々、吸気中のN2およびO2濃度である。VTは標準状態(STPD; standard temperature pressure dry)に対して補正した、チャンバーを通過したエアフローである)。
1−7.内臓脂肪
内臓脂肪を定量するためのCTイメージを取得するために、DIOマウス(最終のワクチン接種から5週間後)(n = 9/グループ)は、1% イソフルレンの入ったチャンバー内で麻酔をし、イソフルレンを吸入しながら試験台上に仰向けに固定した。CTスキャンは、実験動物用3DマイクロX線CT(R_mCT2; Rigaku)(電圧、100 kV;電流、160μA)を使用し、第4腰椎レベルで行った。CTAtlas Metabolic Analysis Ver. 2.03ソフトウェアを用いてCTイメージを解析し、内臓脂肪の定量を行った。また、腸間膜脂肪、精巣上体脂肪および腎臓周囲脂肪の総量を、内臓脂肪として解剖時に採取して測定した(最終のワクチン接種から5週間後)。摘出した腎臓周囲脂肪は、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE)により染色し、その脂肪細胞のサイズを、各マウス(n = 9/グループ)、100倍の対物レンズを使用して連続する5視野をランダムに選択し、Adove Photoshop CS4 (Adobe Systems)を用いて測定した。
1−8.組織学的検討
WAT(腎臓周囲脂肪)、胃および脳の組織サンプルは、4% パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンブロックに包埋した。脳組織に関しては、冠状面で視床下部の連続切片を作製した。胃は垂直断面にスライスした。全ての切片は、HEで染色した。脳と胃の切片は各組織内に炎症性細胞が浸潤していないかどうかを評価するための観察を行った。
1−9.定量RT-PCR
1−9−1.DIOマウスの各組織におけるUCPおよびPPARのmRNAレベルの測定
総RNAは最終のワクチン接種(n = 9/グループ)から5週間後に、マウスのBAT(肩甲骨周囲脂肪)、WAT(腎臓周囲脂肪)および骨格筋(大腿四頭筋)の凍結組織から、TRIzol試薬(Life technologies)を用いて単離した。定量RT-PCRを行う前に、1μgの単離RNAをPrimeScript RT Master Mix(タカラバイオ)で逆転写した。合成したcDNAの定量的PCRは、SYBR Green Master Mix(Life technologies)を使用して、StepOnePlus System (Life technologies)を用いて行った。
PCRの増幅条件は、95℃、20秒反応後、95℃、3秒;60℃、30秒を40サイクルとした。PCR反応後、PCR産物の定量を行うために融解曲線分析を行った。プライマー配列については、表1を参照のこと。
1−9−2.非肥満マウスにおけるグレリンおよびGHSRmRNAレベルの測定
総RNAは最終のワクチン接種(n = 6/グループ)から4週間後に、マウスの胃の凍結組織から、TRIzol試薬(Life technologies)を用いて単離した。定量RT-PCRを行う前に、1μgの単離RNAをPrimeScript RT Master Mix(タカラバイオ)で逆転写した。合成したcDNAの定量的PCRは、SYBR Green Master Mix(Life technologies)を使用して、StepOnePlus System (Life technologies)を用いて行った。
PCRの増幅条件は、95℃、20秒反応後、95℃、3秒;60℃、30秒を40サイクルとした。PCR反応後、PCR産物の定量を行うために融解曲線分析を行った。プライマー配列については、表2を参照のこと。
1−10.グルコースおよび脂質の恒常性
OGTT(Oral glucose tolerance test、経口グルコース負荷試験)(Andrikopoulosら, Am J Physiol Endocrinol Metab 295, E1323-1332 (2008))とIPITT(Intraperitoneal insulin tolerance test、腹腔内インスリン負荷試験)(Boweら, J Endocrinol 222, G13-25 (2014))を最終のワクチン接種から4週間後に行った(n = 9/グループ)。OGTTについては、マウスを6時間絶食させ、1kgの体重あたり2gのグルコースを投与した。血液サンプルは、グルコース投与後、0, 15, 30, 60, 90および120分後に尾の血管から採血した。グルコースレベルは、自動グルコースメーター(Glutest-Ace R ;三和化学研究所)を使用してグルコースオキシダーゼ法により決定した。IPITTについては、自由に飲水できる状況で、マウスを6時間絶食させ、1kgの体重あたり0.75 IUのインスリンを腹腔内注射した。血中グルコース濃度は、インスリン投与後、0, 15, 30, 45, 60および90分後に測定した。空腹時血清のLDL, FFAおよびTGは最終のワクチン接種から5週間後に比色分析法(和光純薬工業)により測定した(n = 9/グループ)。
1−11.グレリン、レプチン、アディポネクチンおよび成長ホルモンの測定
血漿中のAG、UAG、レプチン、アディポネクチンおよび成長ホルモンについては、血漿サンプルを、最終のワクチン接種から5週間後に、16時間絶食させたコントロールDIOマウスおよびグレリン-PspAにて免疫したDIOマウスから採取した。AG測定用の血液サンプルには、プロテアーゼによるAGの消化を防ぐために、採取後すぐにp-ヒドロキシメルクリ安息香酸(最終サンプル中1mM)を加えた。グレリンの血漿濃度は、二重抗体サンドイッチ技術(SPI-BIO)に基づく酵素免疫測定法により測定した。他のホルモンはELISAキット(EMD Millipore)により評価した。
AGの半減期を測定するために、AGペプチドを合成し(Eurofins Genomics, Tokyo, Japan)、キレート剤のジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)(同仁化学研究所)を用いてインジウム-111(111In)(日本メジフィジックス)で標識した。111In標識については、1 mgのAGを7.4Mbqの111Inで標識し、標識産物をPD-10カラム(GEヘルスケアジャパン)に通して標識されなかったフリーの111Inを除去した。次に、111In-グレリンをPBSで希釈した(100μl中、50μgの AGを含み、放射活性は5,000,000 cpm)。免疫したオスのC57BL/6JJclマウス、あるいは、免疫していないC57BL/6JJclマウスに100μlの111In-グレリンを投与した(n = 3/グループ)。111In-グレリン投与から1分、5分、10分、15分、30分、1時間、2時間および4時間後に、各マウスから採取した血清10μlあたりの放射活性をWIZARD Automatic Gamma Counters(PerkinElmer)で測定した。111In-グレリンのt1/2の算出については、ガンマーカウント数を片対数グラフ上にプロットし、直線の傾きを求めた。分布相(t1/2α)と排出相(t1/2β)の両方の半減期を算出した。
IgGに結合したAGをサンドイッチEIAで測定可能であることを確認するために、絶食させた免疫マウスの血漿を、Sephacryl S100(GEヘルスケアジャパン)(1.0 cm × 50 cm)ゲル濾過カラムにより分子サイズに従って分離した。AGを含むピーク画分は抗マウスIgG抗体(1:5000, Jackson ImmunoResearch Laboratories)を用い、ウエスタンブロッティングにより評価した。
1−12.ワクチン接種で誘導された抗体の機能
マウスGHSR(GenBank登録番号 AAI37883)のDNA配列はタカラバイオ株式会社.に合成を委託した。合成したDNAは、ネオマイシン耐性遺伝子を保持するpcDNA3.1(+)ベクター(Thermo Fisher Scientific)をBamHIとXhoIで切断後、切断位置に挿入した。作製した発現ベクターは、Lipofectamine 3000 Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific)を使用してチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に形質導入した。安定形質導入株を選択するために、形質導入株を250μg/mlネオマイシン(Geneticin)(ナカライテスク)存在下でインキュベートした。安定形質導入株は遺伝子特異的なプライマーによるPCR(GHSR forward / BGH reverse)によって確認した。プライマー配列については表1を参照のこと。
Calcium Kit Fluo-4(同仁化学研究所)を用いて、血清IgGとAG、または、AGのみをGHSR発現CHO細胞添加した後の細胞内Ca2+濃度の変化を測定した。GHSR-CHO細胞は、4.0×104cells/ウェルの密度で、滅菌した平底96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific)中で15時間培養した後、1.25 mmol/l probenecidと0.04% pluronic F-127を含むloading medium 中、Fluo-4-AM 蛍光指示試薬を添加し37℃、1時間インキュベートした。細胞内Ca2+濃度の測定は、蛍光マイクロプレートリーダーFLUOstar OPTIMA (BMG LABTECH JAPAN )を用いて行った。GHSR発現CHO細胞に対して、コントロールマウスまたは免疫したマウスから精製したマウスIgG(最終濃度10-3 nM)と共にAG(最終濃度 10-3 nM)を投与した後、あるいは、AGのみを投与した後の蛍光変化は、ベースラインからの最大変化値とした。コントロールマウスおよび免疫マウスに由来する血清ポリクローナルIgGは、Protein G sepharose(GEヘルスケアジャパン)に結合させた後、グリシン-HCl(pH 2.5)で溶出し、1M Tris-HCl(pH 9.0)で中和した。
1−13.統計的処理
値は、平均値±SEMで示した。統計的比較は、分散分析(ANOVA)で行い、2グループ間の対応のない両側スチューデントtテストを行った。P <0.01 およびP <0.05の場合に統計的に有意とした。
2.結果
2−1.グレリン-PspAワクチンの開発およびその免疫応答
マウスの全長AG(配列番号2)の3回繰り返し配列とPspA/Rx1からなる新規のワクチン抗原、グレリン-PspAを設計した(図1)。グレリン-PspAを挿入した発現ベクターを大腸菌コンピテント細胞に導入し、細胞から精製したタンパク質は、ウエスタンブロッティングによりグレリン-PspAと同定した。
2−1−1.DIOマウス
グレリン-PspAワクチンの免疫原性を確認するために、cCHPナノゲルに封入した5μgのグレリン-PspAと10μgのサイクリックdi-GMPアジュバントでC57BL/6Jマウスを経鼻免疫した。5回のワクチン接種によって、AGおよびUAGの両方に対する血清IgGが誘導された(図2A)。血清IgGの他、IgM、IgAおよびIgEなどの他の免疫グロブリンアイソタイプはほとんど誘導されなかった(図2B)。抗AG血清IgG抗体の抗体価は、急速に上昇し、最終の免疫から1週間後にピークに達した(9週齢)。その後、数ヶ月にわたり、抗体価は徐々に低下したが、1年以上は維持された(図2C)。
また、アジュバントとして、Alum 100μl、AddaVaxTM 100 μl、poly IC 50 μg、サイクリック di-GMP 200 μgを用いて皮下注射による免疫を行った。2週間毎に3回(4, 6, 8週齢)、背部に皮下注射し、10週齢(ワクチン最終接種から2週後)時に、血清を採取し、抗体価(血清抗AG-IgG抗体)を測定した(n = 6/グループ)。その結果、各アジュバントを用いてグレリン-PspAを皮下注射したところ、いずれのアジュバントにおいても抗体価が確認された(図3)。
2−1−2.非肥満マウス
cCHPナノゲルに封入した5μgのグレリン-PspAと10μgのサイクリックdi-GMPアジュバントでC57BL/6Jマウスを、隔週で5回(4、5、6、7および8週齢)経鼻免疫した。13週齢時に鼻腔洗浄液の抗体価を測定したところ、総IgAが増加しており、その中には、グレリン特異的な抗体も含まれていた(図11)。
血清IgGについては、4〜11週齢時に1週ごとに抗体価を測定したところ、3回目の免疫後に抗AG抗体価が上昇し、5回目投与直後にピークを迎えた。その後、抗AG血清IgG抗体価は緩やかに低下し始めた(図12)。
2−2.ワクチン接種後の体重、食餌摂取およびエネルギー消費の変動
2−2−1.DIOマウスおよびob/obマウス
体重減の増加に対するグレリン-PspAの効果を評価するために、2タイプの肥満モデル:DIOマウスおよび/またはレプチン欠損マウス(ob/ob)を使用した。
(1)経鼻免疫の場合
DIOマウスについては、肥満を誘導する前に、グレリン-PspAを5回経鼻免疫した。最終免疫を行った後、45 kcal %高脂肪食を与え始めた結果、急速に体重が増加した(図4A)。
グレリン-PspAを経鼻投与すると、DIOマウスの急速な体重増加が抑制された(図4A)。また、グレリン-PspA投与による体重増加の有意な低下は、ワクチン接種後8週間維持された(コントロール(未処置)、34.8±0.7 g:ワクチン(グレリン-PspA投与)、32.6±0.7 g;最終免疫から8週間後の測定結果、n = 12/グループ、p < 0.05)。なお、サイクリックdi-GMPアジュバントのみを封入したcCHPナノゲルの経鼻投与では体重増加を低下させることはなかった(コントロール、28.6±0.5 g:ビークル(アジュバント)、28.0±0.6 g;5回の免疫から4週間後の測定結果、n = 12/グループ、p = 0.43)。
ob/obマウスにおいてもグレリン-PspAのワクチン接種により、体重増加が低下した(図4B)。ワクチン接種前と最終のワクチン接種から1週間後のob/obマウスの体重変化は、コントロールのob/obマウスと比較して、有意に小さかった(コントロール、4.7±0.3 g:ワクチン、-0.9±0.6 g、n = 10/グループ、p < 0.01)(図4B)。
(2)皮下注射による免疫の場合
皮下注射終了後(8週齢)、標準固形飼料から高脂肪飼料に変更した。体重の推移を計測して、コントロールマウス(無処置、8週齢から高脂肪飼料)と比較した。また、12週齢(ワクチン最終接種から4週後)時に、血清を採取し、抗体価(血清抗AG-IgG抗体)を測定し、抗体価を確認した(reciprocal log2 titer 12.45±0.34, n = 11)。
また、体重に対する影響については、グレリン-PspA皮下注射により、非肥満時(肥満誘導前)での体重増加抑制が確認された(8週齢、コントロール 24.4±0.3 g、ワクチン 22.6±0.3 g、n = 11-12/グループ、p<0.01)(図5)。同様に高脂肪飼料開始後の体重増加も有意に抑制された(12週齢、コントロール 30.6±0.8 g、ワクチン 27.3±0.4 g、n = 11-12/グループ、p<0.01)(図5)。
免疫したDIOマウスにおける体重増加の低下が、摂食の減少のせいなのか、あるいは、エネルギー消費の増加のせいなのかを明らかにするために、摂食量を測定し、エネルギー消費の1つの代表値として酸素消費(VO2)をモニターした。体重の増加が抑制されたにも関わらず、毎日の摂食量は免疫したDIOマウスとコントロールとの間で有意差はなかった(コントロール、10.7±0.8 kcal/日:ワクチン、11.9±0.7 kcal/日、n = 12/グループ、p = 0.27)(図6A)。他方、呼気分析の結果から、活動期(暗)および休止期(明)のいずれにおいても、免疫したDIOマウスはコントロールのDIOマウスよりもより多くの酸素を消費していることが分かった(図6BおよびC)。直腸の温度は、コントロールとワクチン接種群との間で有意差はなかった(コントロール、37.0±0.4℃:ワクチン、37.9±0.2℃、n = 9/グループ、p = 0.686)。
2−2−2.非肥満マウス
グレリン-PspAでC57BL/6Jマウスを、隔週で5回(4、5、6、7および8週齢)経鼻免疫した。非肥満マウスにおいても、グレリン-PspAワクチン投与により体重増加が有意に抑制された(図13)。
2−3.免疫後の内臓脂肪の減少
体重の他、脂肪の量についてもコンピュータ断層撮影(CT)画像による評価と解剖による直接的な測定を行った。CTイメージによる脂肪の定量により、ワクチン接種したDIOマウスの総脂肪量は、コントロールのDIOマウスよりも有意に少ないことがわかった(図7A)。内臓脂肪と皮下脂肪は同様に減少していた(図7A)。解剖によって直接回収して測定した内臓脂肪の量はCTによる解析結果と一致していた(コントロール、2.44±0.10 g:ワクチン、1.53±0.08 g、n = 18/グループ、p < 0.01)。内臓の総脂肪量のみならず各内臓脂肪細胞のサイズも免疫したマウスにおいては減少していた(コントロール、8.74±0.40 μm:ワクチン、6.11±0.17 μm、n = 9/グループ、p < 0.01)(図7B)。
2−4.グレリン-PspA免疫マウスにおける分子的変動と代謝の変動
これまでのデータから、グレリン-PspAで免疫することで、エネルギー消費の上昇による体重、特に、脂肪量の減少が誘導されることが示唆された。免疫したDIOマウスにおけるエネルギー消費の分子的な制御について調べるため、ミトコンドリアのUCP(uncoupling protein)とその上流のシグナルであるペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPARs)の発現をRT-PCRにより定量した(図6A〜I)。
非ふるえ熱産生(nonshivering thermogenesis)を担う褐色脂肪組織(BAT)におけるUCP1 mRNAは、免疫マウスにおいて、コントロールマウスよりも有意に上方制御されていた(図8A)。BATにおけるUCP1の上方制御因子の1つであるPPARγも免疫マウスにおいて増加していた(図8D)。白色脂肪組織(WAT)においては、UCP2とPPARγの発現が上方制御されていたが、筋肉におけるUCP3、PPARαおよびPPARδは免疫マウスとコントロールマウスとの間で差異はなかった(図8G〜I)。
グレリン-PspAの抗肥満効果に加え、糖および脂質代謝への影響についても調べた。空腹時血糖値は、免疫DIOマウスとコントロールマウスとの間で有意差を示さなかった(図9A)。他方、グルコース投与120分後の免疫マウスにおける血糖値は、コントロールマウスの血糖値よりも有意に低かった(コントロール、282.3±24.6 mg/dl:ワクチン、202.3±9.4 mg/dl、n = 9/グループ、p < 0.05)(図9A)。この結果から、グレリン-PspAのワクチン接種は耐糖能を改善することが示唆された。インスリンの腹腔内投与後の血中グルコース値も免疫DIOマウスにおいては有意に低かった(図9B)。このことから、グレリン-PspAの免疫によってインスリン耐性が減じられることが分かった。空腹時の血清遊離脂肪酸(FFA)、低密度リポタンパク質(LDL)およびトリグリセリド(TG)は、コントロールDIOマウスと比べて、免疫DIOマウスにおいて低い傾向にあったが、これらの差は統計学的に有意なものではなかった(図9C〜E)。
2−5.免疫後におけるレプチン、アディポネクチンおよび成長ホルモンの変動
グレリン以外に、レプチンやアディポネクチンもエネルギー恒常性を調節する重要なホルモンである。免疫DIOマウスの血漿中のレプチンとアディポネクチンのレベルは、コントロールDIOマウスと同程度であった(レプチン;コントロール、2.71±0.79 ng/ml:ワクチン、1.86±0.53 ng/ml、p = 0.283)(アディポネクチン;コントロール、1779±221 ng/ml:ワクチン、2944±902 ng/ml、p = 0.227)(n = 9/グループ)。他方、グレリンは、成長ホルモン分泌促進因子レセプターの内在性リガンドであるため、成長ホルモンは、グレリン-GHSRシグナルの修飾によって直接変動されるように思われたが、成長ホルモンもコントロールと免疫DIOマウスで有意な差は認められなかった(コントロール、5.40±1.47 ng/ml:ワクチン、9.51±4.16 ng/ml、n = 9/group, p = 0.499)。
2−6.内因性グレリンに対するワクチン接種により誘導される抗体の役割
グレリン-PspAの免疫によって誘導されるIgG抗体がAG-GHSR結合を直接阻害するかどうかを確認するために、レセプター結合アッセイを行った。GHSRを発現するチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)を調製するため、GHSRのDNA配列を合成し、PcDNA3.1(+)ベクターにサブクローニングし、得られたベクターをCHO細胞にトランスフェクトした。コントロールまたは免疫マウスから得た血清IgGと共にAGを投与し、あるいは、単独でAGを投与した前後において、蛍光指示薬を用いて細胞内カルシウム濃度([iCa2+])の変化を測定した。GHSR発現CHO細胞中において、IgG無しでAGを単独投与すると、[iCa2+]を増加させた(図10AおよびB)。コントロールマウスから得た血清IgGは、この[iCa2+]の増加を抑制しなかったが、免疫したマウス由来のIgGは[iCa2+]の増加を阻害した(図10AおよびB)。これらの結果から、AG特異的なIgG抗体がAG-GHSRシグナルを直接阻害していることが示唆された。
2−7.ワクチン接種により誘導される内因性グレリン濃度上昇に関する検討
ワクチンを投与すると、血中グレリン濃度の上昇が見られるが、このグレリン濃度の上昇と内因性グレリンとの関連性について検討を行った。非肥満マウスに対し、グレリン-PspAを、隔週で5回(4、5、6、7および8週齢)経鼻免疫した。その後、10週齢時に胃を採取し、内因性グレリンが増加・活性化されているか否かをグレリンおよびGHSRのmRNAレベルで評価した。mRNAレベルはRT-PCR法で測定した。
胃はグレリンまたはその受容体であるGHSRの高発現臓器である。ワクチン投与後、胃において、グレリンおよびGHSRいずれのmRNAレベルも変化が見られなかった(図14)。この結果から、ワクチン投与後の血中グレリン濃度の上昇が、内因性グレリンの活性化によるものではないことが示唆された。
本発明のワクチン製剤は、全身免疫および粘膜免疫を誘導することができ、肥満を効果的に治療することができる。従って、本発明は、肥満の予防および治療の分野における利用が期待される。

Claims (15)

  1. 担体タンパク質と、1または複数個のグレリンポリペプチドの全長を融合させた融合タンパク質を含むワクチン製剤。
  2. 2〜4個のグレリンポリペプチドが融合されていることを特徴とする請求項1に記載のワクチン製剤。
  3. 3個のグレリンポリペプチドが融合されていることを特徴とする請求項1または2に記載のワクチン製剤。
  4. 担体タンパク質がN末端側に存在していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のワクチン製剤。
  5. グレリンポリペプチド同士、およびグレリンポリペプチドと担体タンパク質がリンカーペプチドで連結されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のワクチン製剤。
  6. 担体タンパク質がPspAであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のワクチン製剤。
  7. 前記グレリンポリペプチドが以下の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のワクチン製剤。
    (a)配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
    (b)配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加され、および/または、3番目のセリン以外のアミノ酸残基の1または数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、3番目のセリンがオクタノイル化された場合にGHSRとの結合活性を有するポリペプチド
  8. 前記融合タンパク質が配列番号6で表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のワクチン製剤。
  9. 前記融合タンパク質がcCHPナノゲルと複合体を形成していることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の抗肥満ワクチン製剤。
  10. 担体タンパク質と、1または複数個のグレリンポリペプチドの全長を融合させた、融合タンパク質。
  11. 前記担体タンパク質がPspAであることを特徴とする請求項10に記載の融合タンパク質。
  12. 前記グレリンポリペプチドが以下の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とする請求項10または11に記載の融合タンパク質。
    (a)配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
    (b)配列番号1、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、挿入、付加され、および/または、3番目のセリン以外のアミノ酸残基の1または数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、3番目のセリンがオクタノイル化された場合にGHSRとの結合活性を有するポリペプチド
  13. 配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる請求項10ないし12のいずれかに記載の融合タンパク質。
  14. 請求項10ないし13のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする核酸。
  15. 配列番号5で表される核酸配列からなる請求項14に記載の核酸。
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Title
NOCHI ET AL.: "Nanogel antigenic protein-delivery system for adjuvant-free intranasal vaccines", NATURE MATERIALS, vol. 9, JPN6017016829, June 2010 (2010-06-01), pages 572 - 578, XP037134781, ISSN: 0004222419, DOI: 10.1038/nmat2784 *

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