本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
<高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本実施形態の高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、下記一般式(1)で表されるジアルコール化合物と触媒とを混合して、触媒組成物を得る工程(以下、「第一の工程」ともいう)と、得られた触媒組成物を、移送管を介してプレポリマー混合槽に10時間以下の移送時間で移送する工程(以下、「第二の工程」ともいう)と、プレポリマー混合槽中で、移送された触媒組成物と芳香族ポリカーボネートプレポリマー(以下、単に「プレポリマー」ともいう)と混合してプレポリマー混合物を得る工程(以下、「第三の工程」ともいう)と、得られたプレポリマー混合物を減圧条件下に加熱処理して高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を得る高分子量化工程(以下、「第四の工程」ともいう)と、を含む。
一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す。Qは、脂肪族基、芳香族基、酸素原子、硫黄原子、スルホン基、スルホキシド基、カルボニル基、ジアルキルシリル基及びジアリールシリル基からなる群から選択される少なくとも1種から構成され、置換基を有していてもよい2価の基又は単結合を表す。
本実施形態の製造方法においては、触媒とジアルコール化合物との混合物である触媒組成物を調製し、これを移送管を介して所定の移送時間内でプレポリマー混合槽に移送して、プレポリマー混合物を調製することで、製造される高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂における異種構造の発生を効果的に抑制しつつ、所望の分子量に高分子量化された高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を効率的に製造することができる。また、触媒組成物を用いてプレポリマーの高分子量化を行うことで、樹脂の着色が抑制され、N値(構造粘性指数)が低く、流動性に優れた品質の高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を経済的に有利に製造することができる。
これは例えば以下のように考えることができる。触媒組成物を所定の時間を超えて移送管内に保持すると、触媒組成物に含まれるジオール化合物の劣化が進行することにより、得られる高分子量芳香族ポリカーボネートに着色が発生したり、例えば、プレポリマー主鎖の開裂(分断)反応の発生により高分子量化反応が充分に進行せず、所望の分子量を達成することが困難になったりすると考えられる。
さらに、高分子量化反応を促進する触媒(以下、単に「触媒」ともいう)をジアルコール化合物と混合して得られる触媒組成物として、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに供給することで、触媒とジアルコール化合物とを安定的に供給することが容易になり、また、優れた分散性で触媒を供給することができる。これにより異種構造の発生が効果的に抑制され、更にプレポリマー主鎖の開裂(分断)反応の発生が効果的に抑制されて、連結高分子量化反応に要する時間を短縮することができる。また、プレポリマー混合物における触媒の局所的な濃度上昇を抑制することができ、プレポリマー自体に異種構造が発生することが効果的に抑制される。また、触媒の添加に際して、水、有機溶剤等で希釈する必要がないため、反応に寄与しない成分による、反応条件の変動(例えば、反応器の減圧度の低下)、副反応の発生等を抑制することができ、異種構造の発生を抑制しつつ、より効率的に連結高分子量化反応が進行する。
従来の溶融法においては、触媒を有機溶剤等の溶媒又はプレポリマーの原料となる芳香族モノヒドロキシ化合物(フェノール化合物)と混合して添加する場合があった。しかし、この方法では、高分子量化に長時間を要する場合があり、高分子量化が充分に進行しない場合があった。また、プレポリマーに触媒を混合してマスターバッチとして用いる場合には、マスターバッチの調製時に触媒が高濃度で存在することになり、そのために分子量の低下を招く場合があった。これに対して本実施形態では、触媒をジアルコール化合物に混合して用いることにより、従来技術における分子量低下の課題を解決することもできる。
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、第一の工程、第二の工程、第三の工程及び第四の工程を連続して行う連続式であってもよく、それぞれの工程を独立して行うバッチ式であってもよく、それぞれの工程の少なくとも2つを連続して行う連続式とバッチ式の併用であってもよい。
第一の工程
第一の工程では、一般式(1)で表されるジアルコール化合物と触媒とを混合して、触媒組成物を得る。得られる触媒組成物は液状であることが好ましい。第一の触媒を触媒組成物として芳香族ポリカーボネートプレポリマーに混合することで、得られるプレポリマー混合物中に第一の触媒を均一に分布させることができる。ここで液状であるとは触媒組成物が流動性を有している状態を意味し、例えば、粘度が1,000Pa・s以下であることである。
触媒組成物に含まれるジアルコール化合物及び触媒の詳細については後述する。
触媒組成物を得る工程においてジアルコール化合物と触媒とを混合する方法は特に制限されない。混合方法としては例えば、ジアルコール化合物と触媒とを直接混合する方法、触媒を溶媒に溶解又は分散して触媒溶液又は分散液を調製し、これとジアルコール化合物とを混合する方法等を挙げることができる。これらの中でも、触媒溶液又は分散液とジアルコール化合物とを混合する方法が好ましい。
触媒溶液又は分散液の調製に用いる溶媒としては、触媒の少なくとも一部を溶解可能な溶媒であれば特に制限されない。中でも、溶媒は、常温でハンドリング可能であり、反応性が低く、脱揮により除去することに適当な沸点の溶媒であることが好ましい。
溶媒としては例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶剤;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶剤などの有機溶剤、フェノール化合物、水、これらの混合物などを用いることができる。
溶媒は、金属成分の含有率が低いことが好ましい。溶媒中の金属成分の含有率は、例えば、アルカリ金属としては10ppm以下であり、重金属の鉄としては3ppm以下、ニッケルとしては2ppm以下、クロムとしては1ppm以下であることがより好ましい。例えば、溶媒として水を用いる場合は、イオン交換水又は蒸留水を用いることが好ましい。
触媒溶液又は分散液における触媒の濃度は、適宜選択することができ、例えば、0.0005mol/L〜0.05mol/Lとすることができ、好ましくは0.001mol/L〜0.01mol/Lである。
触媒組成物を得る工程は、室温で行ってもよく、加温して行ってもよい。加温する場合、得られる触媒組成物の温度が、例えばジアルコール化合物の融点以上となるようにすることができ、融点以上且つ融点より80℃高い温度以下とすることが好ましく、融点以上且つ融点より50℃高い温度以下とすることがより好ましい。
触媒組成物を得る工程は、常圧下で行っても、常圧より高い圧力下でおこなっても、常圧より低い圧力下で行ってもよい。
触媒組成物を得る工程における雰囲気は特に制限されず、通常用いられる雰囲気から目的等に応じて適宜選択することができる。第一の工程の雰囲気は、大気雰囲気から不活性ガス雰囲気までのいずれであってもよい。色相及び所望の分子量を達成する観点から、酸素濃度が10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン等の希ガス、窒素などが挙げられる。
触媒組成物を得る工程は、脱水処理又は脱揮処理して触媒組成物を得る工程を更に含むことが好ましい。触媒組成物を脱水処理又は脱揮処理されていることで、触媒組成物における水、有機溶剤等の含有率が低減された乾燥状態となり、高分子量化反応をより効率的に行うことができる。また、より均一な触媒組成物が形成され、より安定に供給することができ、より安定的な製造運転が可能になる。これらにより、より高品質の高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂をより高い生産性で製造することができる。
脱水処理又は脱揮処理は、ジアルコール化合物と触媒とを混合する際に行ってもよく、混合後に行ってもよい。
脱水処理又は脱揮処理は、触媒組成物に含まれるジアルコール化合物及び触媒以外の水及びその他の揮発性成分の少なくとも一部を除去可能であれば、特に制限されず、通常用いられる脱水又は脱揮方法から適宜選択して行うことができる。
脱水処理又は脱揮処理として具体的には、触媒組成物を脱水剤と接触させる方法、触媒組成物を減圧下に置く方法、触媒組成物を加熱する方法、触媒組成物を減圧下に加熱する方法等を挙げることができる。これらは1種を単独で行ってもよく、2種以上を組合せて行ってもよい。中でも脱水処理又は脱揮処理としては、触媒組成物を減圧下に加熱する方法が好ましい。
脱水剤としては、一般的な脱水剤を用いることができる。脱水剤として具体的には、シリカゲル、塩化カルシウム、五酸化ニリン、モレキュラーシーブ、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等を挙げることができる。触媒組成物を減圧下に置く場合の減圧度としては、例えば、300torr(40kPa)以下であり、好ましくは100torr(13.3kPa)以下であり、より好ましくは0.01torr(1.3Pa)〜100torr(13.3kPa)である。触媒組成物を加熱する場合の触媒組成物の温度は、例えば、ジアルコール化合物の融点以上であり、好ましくはジアルコール化合物の融点以上且つ融点より80℃高い温度以下であり、より好ましくはジアルコール化合物の融点以上且つ融点より50℃高い温度以下であり、例えば、50℃〜120℃とすることができ、好ましくは60℃〜90℃である。触媒組成物を減圧下に加熱する場合の減圧度及び温度は、例えば、300torr(40kPa)以下でジアルコール化合物の融点以上であり、好ましくは0.01torr(1.3Pa)〜100torr(13.3kPa)でジアルコール化合物の融点以上且つ融点より50℃高い温度以下である。
脱水処理又は脱揮処理の処理時間は、処理方法等に応じて適宜選択することができる。処理時間は、例えば、10分〜70分間であり、好ましくは30分〜60分間である。
触媒組成物の水分含有量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。触媒組成物の水分含有量は、例えば、3質量%以下であり、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。触媒組成物の水分含有量が所定量以下であると、触媒組成物の安定性がより向上する。また目的の高分子量化をより高速に達成しやすいという利点がある。
触媒組成物を得る工程を行う装置(以下、「触媒組成物調製槽」ともいう)としては、例えば、攪拌手段と加熱手段とを備える攪拌槽である触媒組成物調製槽を用いることができる。攪拌手段は特に制限されず、一般的な攪拌装置から適宜選択することができる。攪拌手段としては例えば、アンカー翼、パドル翼等の一般的な攪拌翼を用いることができる。また触媒組成物調製槽は更に減圧手段を備えることが好ましい。
触媒組成物調製槽の材質は特に制限されず、金属材料、ガラス材料等の通常用いられる材質から目的等に応じて適宜選択すればよい。触媒組成物調製槽の触媒組成物が接する面の材質は、得られる樹脂の色相等の品質の観点から、鉄含有率が80質量%以下である材料であることが好ましく、(a)鉄の含有率が80質量%以下で、Crの含有量が18質量%以上である金属材料、又はSUS304、SUS316、SUS316L、SUS310S等のステンレス鋼若しくはクラッド材である金属材料、及び(b)ガラス材料からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
触媒組成物調製槽の材質が金属材料の場合、鉄含有率が80質量%以下であることが好ましく、鉄含有率が80質量%以下で、Crの含有率が18質量%以上であるステンレス鋼がより好ましい。ステンレス鋼として、具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼等が挙げられ、より具体的には、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS309S、SUS310S、SUS317及びSUS317L等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
さらに触媒組成物調製槽の材質がガラスである場合、好ましくは50℃の純水へ120時間浸漬した際のアルカリ金属の溶出量が15ppb/cm2以下のガラスである
触媒組成物調製槽の数は特に制限されず、必要に応じて複数の触媒組成物調製槽を用いてもよい。複数の触媒組成物調製槽を用いる場合、触媒組成物を得る工程はそれぞれの触媒組成物調製槽で独立して行われ、それぞれの触媒組成物調製槽で調製された触媒組成物を順次、プレポリマー混合槽に移送することが好ましい。すなわち、1つの触媒組成物調製槽で調製された触媒組成物をプレポリマー混合槽に移送することと、別の触媒組成物調製槽で調製された触媒組成物をプレポリマー混合槽に移送することを順次行う態様が好ましい。この場合、それぞれの触媒組成物調製槽に接続された移送管は、それぞれが独立してプレポリマー混合槽に接続されていてもよく、それぞれがプレポリマー混合槽に接続する1つの移送管に切替バルブを介して接続されていてもよい。
触媒組成物調製槽には、調製した触媒組成物が取り出されるバルブを具備した触媒組成物抜出口が少なくとも1つ配置されていてもよい。触媒組成物抜出口が配置される位置は特に制限されず、製造装置の構成等に応じて適宜選択することができる。触媒組成物抜出口は、例えば、定常運転時における液面よりも低い位置に配置されることが好ましい。触媒組成物調製槽が触媒組成物抜出口を備える場合、触媒組成物抜出口は移送管に接続される。触媒組成物抜出口と移送管とは、例えばフランジを介して接続される。
第一の工程で得られた触媒組成物を直ちにプレポリマー混合槽に移送しない場合、触媒組成物を液体状態で保持することが好ましい。触媒組成物の保持は、例えば、触媒組成物調製槽で行ってもよく、触媒組成物調製槽とは別の貯蔵槽で行ってもよい。
複数の触媒組成物調製槽を用いて、それぞれの触媒組成物調製槽で触媒組成物を調製する場合、例えば、1つの触媒組成物調製槽で調製された触媒組成物を用いてプレポリマー混合物を調製している間に、別の触媒組成物調製槽で調製された触媒組成物を液体状態で保持しておくことで、プレポリマー混合物の調製を連続的に行うことが容易になり、製造効率をより向上させることができる。
触媒組成物の液体状態は、例えば、触媒組成物を加熱することで維持することができる。加熱温度は液体状態が維持できる限り特に制限されず、例えば、ジアルコール化合物の融点よりも5℃高い温度以上、融点よりも250℃高い温度以下の温度範囲であることが好ましく、ジアルコール化合物の融点よりも5℃高い温度以上、融点よりも80℃高い温度以下の温度範囲であることがより好ましく、融点よりも5℃高い温度以上、融点よりも50℃高い温度以下の温度範囲であることが更に好ましい。
液状で保持される触媒組成物の粘度は、特に制限されない。液状で保持される触媒組成物の粘度は、例えば、0.1P〜10,000P(poise;0.01Pa・s〜1,000Pa・s)であることが好ましく、1P〜100P(0.1Pa・s〜10Pa・s)であることがより好ましい。
触媒組成物が保持される圧力は特に制限されず、常圧であっても、常圧よりも高い圧力であっても、常圧より低い圧力であってもよい。触媒組成物は、実質的に一定の圧力下で保持されることが好ましく、変動幅が±10%以内の圧力下で保持されることがより好ましい。触媒組成物が実質的に一定の圧力下で保持されることで、例えば、プレポリマーと混合する際の触媒組成物の供給量を安定に維持することが容易になる。これにより、得られるプレポリマー混合物の品質の変動を効果的に抑制することができる。
液状の触媒組成物は、調製されてから好ましくは10時間以内に、より好ましくは9時間以内にプレポリマー混合槽に移送されてプレポリマーと混合される。ここで、触媒組成物とプレポリマーとの混合までの時間の起算点は、所望量の触媒組成物が得られた時点であり、触媒組成物を得る工程が脱水処理又は脱揮処理を含む場合には、その処理が完了した時点とする。また、終点は、調製された触媒組成物がプレポリマー混合槽に移送されてプレポリマーと最初に接触した時点とする。なお、触媒組成物が移送管を介してプレポリマー混合槽に移送されるのに要する時間は、触媒組成物とプレポリマーとが混合されるまでの時間に含まれる。
第一の工程においてジアルコール化合物と触媒との混合方法は特に制限されない。例えば、所定量のジアルコール化合物を触媒組成物調製槽に供給した後、所定量の触媒を触媒組成物調製槽に供給して混合してもよく、その逆に所定量の触媒を触媒組成物調製槽に供給した後、所定量のジアルコール化合物を触媒組成物調製槽に供給して混合してもよく、ジアルコール化合物と触媒とを交互に触媒組成物調製槽に供給して混合してもよく、ジアルコール化合物と触媒とを同時に触媒組成物調製槽に供給して混合してもよい。
ジアルコール化合物又は触媒組成物を触媒組成物調製槽に供給する際には、濾過装置を用いてもよい。
複数の触媒組成物調製槽を用いる場合、例えば、1つの触媒組成物調製槽において触媒組成物の調製を開始した後、当該触媒組成物調製槽で調製される触媒組成物の量が、調製終了時の触媒組成物量を基準にして、2/3の量に達する以前に、別の触媒組成物調製槽で触媒組成物調製槽の調製を開始することができる。複数の触媒組成物調製槽を用いて、時間的に重複させて触媒組成物を調製することで、より効率的に高分子量芳香族ポリカーボネートを製造することができる。
ジアルコール化合物及び触媒を触媒組成物調製槽に供給する方法は特に制限されない。例えば、ジアルコール化合物及び触媒(好ましくは、触媒溶液又は分散液)はそれぞれ、放圧管を具備したホッパーから、定量供給装置を介して触媒組成物調製槽に定量供給される。定量供給装置と触媒組成物調製槽の間には供給配管が配置されていてもよい。さらにホッパーと触媒組成物調製槽は均圧管で結ばれていてもよく、その場合、放圧管の内径が供給配管の内径に対して1/6〜1/2であり、均圧管の内径が供給配管の内径に対して1/5〜1/2であってもよい。ホッパーに保持されるジアルコール化合物及び触媒の量は特に制限されず、例えば、それぞれホッパーの有効容積の30体積%〜90体積%とすることができる。
触媒組成物におけるジアルコール化合物及び触媒の含有比率は特に制限されず、触媒の種類等に応じて適宜選択することができる。ジアルコール化合物に対する触媒の含有比率(触媒/ジアルコール化合物、質量%)は、例えば0.0001質量%〜0.1質量%であり、好ましくは0.0005質量%〜0.01質量%であり、より好ましくは0.0005質量%〜0.007質量%であり、特に好ましくは0.001質量%〜0.005質量%である。
触媒組成物は、ジアルコール化合物及び触媒以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、水、有機溶剤、フェノール化合物等を挙げることができる。
触媒組成物に含まれるジアルコール化合物及び触媒以外のその他の成分の含有量は、触媒組成物中に3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることが更に好ましく、0.03質量%以下であることが特に好ましい。
触媒組成物中の水の含有量は、例えば、カールフィッシャー法で測定することができる。また、触媒組成物中の有機溶剤、フェノール化合物等の含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィーで測定することができる。
触媒組成物に含まれるジアルコール化合物とは、非芳香族性の炭素原子にそれぞれ結合するアルコール性ヒドロキシ基を2つ有する化合物を意味する。ジアルコール化合物は、分子構造中に芳香族環を含む部分構造を有していてもよいが、芳香族環に結合するヒドロキシ基を有するフェノール化合物は、ジアルコール化合物には含まれない。
本実施形態の製造方法で用いられるジアルコール化合物は、下記一般式(1)で表される。
一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す。R1〜R4はそれぞれ独立して、高分子量化反応の反応効率の観点から、水素原子、フッ素原子、塩素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、水素原子、フッ素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることがより好ましい。
また、R1〜R4においては、R1及びR2の少なくとも一方並びにR3及びR4の少なくとも一方が水素原子であることもまた好ましく、R1〜R4のすべてが水素原子であることがより好ましい。すなわち、一般式(1)で表されるジアルコール化合物は2級ジアルコール化合物又は1級ジアルコール化合物であることが好ましく、1級ジアルコール化合物であることがより好ましい。
Qは、脂肪族基、芳香族基、酸素原子、硫黄原子、スルホン基、スルホキシド基、カルボニル基、ジアルキルシリル基及びジアリールシリル基からなる群から選択される少なくとも1種から構成され、置換基を有していてもよい2価の基又は単結合を表す。
Qで表される脂肪族基としては、炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐鎖のアルカンに由来する2価の基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐鎖のアルケンに由来する2価の基、炭素数3〜30のシクロアルカン若しくはシクロアルケンに由来する基等を挙げることができる。ここでアルカン等に由来する2価の基とは、アルカン等から2つの水素原子を取り除いて形成される基を意味し、水素原子が取り除かれる位置は特に制限されない。シクロアルカン及びシクロアルケンは、ビシクロアルカン、トリシクロアルカン等の架橋環であっても、他の脂肪族環、芳香族環等との縮合環であっても、多環系環集合であってもよい。また、脂肪族基が環構造を含む場合、環を構成する少なくとも1つの炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子で置換されている脂肪族ヘテロ環基であってもよい。
環構造を含む脂肪族基の具体例としては、シクロヘキサンジイル、デカリンジイル、オクタヒドロインデンジイル、アダマンタンジイル、オキサシクロヘキサンジイル、ジオキサシクロヘキサンジイル等を挙げることができる。
Qで表される芳香族基としては、炭素数6〜40の2価の芳香族基を挙げることができる。芳香族基は、少なくとも1つの炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子で置換されていているヘテロ芳香族基であってもよい。
芳香族基の具体例としては、フェニレン、ナフタレンジイル、ベンゾフランジイル等を挙げることができる。
Qは、脂肪族基、芳香族基、酸素原子、硫黄原子、スルホン基、スルホキシド基、カルボニル基、ジアルキルシリル基及びジアリールシリル基からなる群から選択される少なくとも2種を組合せて形成される2価の基であってもよい。組合せて形成される基には、アルキレンオキシアルキル基、アルキレンスルホニルアルキル基、ビフェニレン基、ポリアリーレン基、ポリカーボネート基(例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルキレンシクロアルキレンアルキレン基、アルキレンアリーレンアルキレン基等を部分構造として含む)、アルキレンオキシアリーレンオキシアルキレン基等の鎖状の2価の基、オキサシクロアルキレン基、ジオキサシクロアルキレン基、ジオキサシクロアルキリデン基、フルオレニリデン基等の環状構造を含む2価の基が含まれる。
Qは置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子などを挙げることができる。Qが置換基を有する場合、置換基の数は置換可能である限り、特に制限されない。
一般式(1)で表されるジアルコール化合物には、2−ヒドロキシエトキシ基含有化合物、ヒドロキシアルキル基含有化合物、カーボネートジオール化合物等が含まれる。
一般式(1)で表されるジアルコール化合物は、下記一般式(1a)で表されることが好ましい。
一般式(1a)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは相互に結合して環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R1〜R4は各々独立して水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
nは0〜30、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは1である。
一般式(1a)中、Ra及びRbは、好ましくは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは相互に結合して炭素数3〜8の脂環式環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R1〜R4は、好ましくは、各々独立して水素原子、フッ素原子又はメチル基を表す。
nは、好ましくは1〜6の整数を表す。
一般式(1a)中、Ra及びRbは、より好ましくは、各々独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基等が挙げられ、より好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。R1〜R4は、より好ましくは、各々水素原子である。nは、より好ましくは1〜3の整数を表す。
一般式(1)で表されるジアルコール化合物としてより好ましいものは、下記一般式(1b)で表される化合物である。一般式(1b)中、Ra及びRbは一般式(1a)におけるRa及びRbとそれぞれ同じである。
一般式(1b)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、さらに好ましくは炭素数2〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基等が挙げられ、より好ましくはエチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。
ジアルコール化合物のより具体的な例としては、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、イソソルビド、イソマンニド、1,3−アダマンタンジメタノールなどの環状構造を含むジアルコール類;p-キシリレングリコール、m−キシリレングリコール、ナフタレンジメタノール、ビフェニルジメタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)、9,9−ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシエチル)フルオレン、フルオレングリコール、フルオレンジエタノールなどの芳香環を含有するジアルコール類;ポリカプロラクトンジオール、ポリ(1,4−ブタンジオールアジペート)ジオール、ポリ(1,4−ブタンジオールサクシネート)ジオールなどの脂肪族ポリエステルジオール;2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール(2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパングリコール;BEPG)、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソアミルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、プロパン−1,2−ジオール等の分岐鎖状脂肪族ジアルコール;ビス(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)カーボネート等のカーボネートジオール系化合物、などを挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2-ジイソアミルプロパン−1,3−ジオール及び2−メチルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択されることがより好ましく、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2-ジイソアミルプロパン−1,3−ジオール及び2−メチルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
ジアルコール化合物は、単独又は2種以上の組み合わせにて用いてもよい。なお、実際に用いるジアルコール化合物は、反応条件等により、好適な化合物種が異なる場合があり、採用する反応条件等によって適宜選択することができる。
ジアルコール化合物の沸点の上限については特に制限されない。例えば沸点の上限は、500℃以下である。なお、本実施形態の方法によれば、比較的低沸点のジアルコール化合物であっても、効率よく連結高分子量化反応に寄与できるようにすることができる。よって、ジアルコール化合物として更に好ましくは、沸点が350℃以下という比較的低沸点のものである。
ジアルコール化合物の沸点の下限については特に制限されない。芳香族ポリカーボネートプレポリマーとジアルコール化合物との反応に伴って副生される芳香族モノヒドロキシ化合物を留去することを考慮すると、ジアルコール化合物は、該芳香族モノヒドロキシ化合物よりも高い沸点を有するものであることが好ましい。また一定の温度及び圧力の下で揮発させずに確実に反応を進行させる必要があることを考慮してジアルコール化合物の沸点の下限を選択することが好ましい。
ジアルコール化合物は、高い純度を有することが好ましく、99質量%以上の純度を有することが好ましい。ジアルコール化合物に含まれる不純物としては、例えば、ジアルコール化合物が2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオールである場合、2−エチル−1−ヘキサノール等が挙げられる。
また、ジアルコール化合物が不純物として含む金属量は少ないことが好ましい。不純物として含まれる金属としては、鉄等を挙げることができる。ジアルコール化合物に含まれる金属量は、例えば、5ppm以下であり、1ppm以下であることが好ましい。
ジアルコール化合物の使用量としては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して0.01モル〜1.0モルであるのが好ましく、より好ましくは0.1モル〜1.0モルであり、さらに好ましくは0.1モル〜0.5モル、特に好ましくは0.2モル〜0.4モルである。
ジアルコール化合物の使用量が上記の上限値以下であると、ジアルコール化合物が共重合成分として芳香族ポリカーボネート樹脂の主鎖中へ挿入される挿入反応が発生することが抑制され、共重合の割合が上昇することによる物性への影響を抑制することができる傾向がある。一方、上限値を超えて共重合の割合を上昇させると、ジアルコール化合物を用いる物性改良が容易に可能になるが、芳香族ポリカーボネート樹脂の高分子量化としての効果としては好ましくない。また、ジアルコール化合物の使用量が上記の下限値以上であると高分子量化の効果がより大きくなり、好ましい。
触媒組成物に含まれる触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとジアルコール化合物との連結高分子量化反応を促進可能であれば特に制限されない。例えば、触媒には、通常のポリカーボネート製造用触媒として用いられる塩基性化合物触媒などのエステル交換触媒を用いることができる。
塩基性化合物触媒としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等が挙げられる。
アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物、アルコキシド及びフェノキシドを挙げることができる。含窒素化合物としては、四級アンモニウムヒドロキシド及びそれらの塩、アミン類等を挙げることができる。これらの化合物は単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、フェニルリン酸二ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩及び2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩及びリチウム塩等が挙げられる。
アルカリ土類金属化合物の具体例としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が挙げられる。
含窒素化合物の具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基及び/又はアリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
上記以外のその他の触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛等の金属塩が好ましく用いられ、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
その他の触媒として具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が挙げられる。
本実施形態の製造方法においては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物として炭酸セシウム(Cs2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、テトラフェニルホウ素ナトリウム、フェニルリン酸二ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましい。中でも、炭酸セシウム及び炭酸カリウムの少なくとも一方がより好ましい。これらの触媒は、単独もしくは組み合わせて用いることができる。
これらの触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーを構成する芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、例えば1×10−6モル以下で用いられ、好ましくは1×10−8モル〜1×10−6モル、さらに好ましく1×10−7モル〜1×10−6モルの比率で用いられる。
また、含窒素化合物触媒としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが好ましい。含窒素化合物触媒は、単独又は上記のアルカリ金属及び/若しくはアルカリ土類金属等と組み合わせて用いることができる。これらの含窒素化合物触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーを構成する芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、1×10−3モル以下、好ましくは1×10−7モル〜1×10−3モル、さらに好ましく1×10−6モル〜1×10−4モルの比率で用いられる。
第一の工程で得られる触媒組成物は、少なくとも1種のジアルコール化合物と、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の触媒とを含むことが好ましく、一般式(1b)で表されるジアルコール化合物と、アルカリ金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の触媒とを含むことがより好ましい。
触媒組成物がジアルコール化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の触媒とを含む場合、触媒の含有率は0.0001質量%〜0.01質量%であることが好ましく、0.0005質量%〜0.007質量%であることがより好ましく、0.001質量%〜0.005質量%であることが更に好ましい。
第二の工程
第二の工程では、第一の工程で得られた触媒組成物が、移送管を介してプレポリマー混合槽に10時間以下の移送時間で移送される。移送時間は、より良好な色相と所望の分子量をより短時間で達成する観点から、3時間以下が好ましく、1時間以下がより好ましい。ここで移送時間は、触媒組成物が移送管に導入された時点を起算点とし、移送管からプレポリマー混合槽に導入された時点を終点として算出する。
第二の工程では、触媒組成物はプレポリマー混合槽に投入されるまでの間、移送管内に滞留する。移送管内に滞留する触媒組成物は液体状態が維持されることが好ましい。
触媒組成物の液体状態は、例えば、触媒組成物を加熱することで維持することができる。加熱温度は液体状態が維持できる限り特に制限されず、例えば、ジアルコール化合物の融点よりも5℃高い温度以上、融点よりも250℃高い温度以下の温度範囲であることが好ましく、ジアルコール化合物の融点よりもジアルコール化合物の融点よりも5℃高い温度以上、融点よりも80℃高い温度以下の温度範囲であることがより好ましく、融点よりも5℃高い温度以上、融点よりも50℃高い温度以下の温度範囲であることがさらに好ましい。
液状の触媒組成物の粘度は、特に制限されない。液状の触媒組成物の粘度は、例えば、0.1P〜10,000P(poise;0.01Pa・s〜1,000Pa・s)であることが好ましく、1P〜100P(0.1Pa・s〜10Pa・s)であることがより好ましい。
移送管内の圧力は特に制限されず、常圧であっても、常圧よりも高い圧力であっても、常圧より低い圧力であってもよい。触媒組成物は、実質的に一定の圧力下で保持されることが好ましく、変動幅が±10%以内の圧力下で保持されることがより好ましい。触媒組成物が実質的に一定の圧力下で保持されることで、例えば、プレポリマーと混合する際の触媒組成物の供給量を安定に維持することが容易になる。これにより、得られるプレポリマー混合物の品質の変動を効果的に抑制することができる。
移送管内の雰囲気は特に制限されず、通常用いられる雰囲気から目的等に応じて適宜選択することができる。移送管内の雰囲気は、大気雰囲気から不活性ガス雰囲気までのいずれであってもよい。色相及び所望の分子量を達成する観点から、移送管内の雰囲気は酸素濃度が10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましい。
移送管の材質は特に制限されず、通常用いられる材質から目的等に応じて適宜選択すればよい。移送管の触媒組成物が接する面の材質は、得られる樹脂の色相の観点から、鉄含有率が80質量%以下の材料であることが好ましく、鉄の含有率が80質量%以下で、Crの含有量が18質量%以上であるステンレス鋼がより好ましい。ステンレス鋼として具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼等が挙げられ、より具体的には、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS309S、SUS310S、SUS317、SUS317L等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
移送管の断面形状は特に制限されず、例えば略円形とすることができる。
触媒組成物調製槽とプレポリマー混合槽とを接続する移送管の長さ及び内径は、特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。移送管の長さは例えば、50m以下とすることができ、好ましくは30m以下、より好ましくは20m以下である。長さの下限は特に制限されず、例えば、長さは5m以上である。また移送管の内径は、例えば0.5mm以上であり、好ましくは1mm以上である。内径の上限は特に制限されず、例えば、内径は100mm以下であり、好ましくは10mm以下である。なお、移送管の断面が円形以外の場合、移送管の内径は等価直径を意味し、移送管の断面を同面積の円形に換算した場合の直径である
移送管は、内部の触媒組成物を加熱することができる加熱手段を備えることができる。加熱手段は特に制限されず、通常用いられる加熱手段から適宜選択して適用することができる。移送管は例えば、二重管とすることができ、内側の管と外側の管の間に熱媒体を流通させて、加熱手段とすることができる。
移送管は濾過手段を備えていてもよい。濾過手段は特に制限されず、目的等に応じて通常用いられる濾過手段から適宜選択することができる。触媒組成物は、濾過手段を通過した後にプレポリマーと混合されることが好ましい。触媒組成物の移送に送液ポンプを用いる場合、送液ポンプの前段及び後段の少なくとも一方にストレーナーを配置してもよく、送液ポンプの後段であって、例えば、プレポリマー混合槽に導入される前にストレーナーを配置することが好ましい。
移送管はプレポリマー混合槽に接続されている。移送管とプレポリマー混合槽の接続部の構造は特に限定されず、例えば、フランジを介して接続される。移送管とプレポリマー混合槽の接続部は、逆止弁を備えることが好ましく、移送管からプレポリマー混合槽に逆止弁を介して背圧により触媒組成物が導入されることがより好ましい。
第三の工程
第三の工程では、移送管を介して移送された触媒組成物と芳香族ポリカーボネートプレポリマー(以下、単に「プレポリマー」又は「PP」ともいう)とを混合してプレポリマー混合物を得る。
ジアルコール化合物と触媒とを含む触媒組成物をプレポリマーに混合してプレポリマー混合物を得ることで、色相に優れ、充分に高分子量化された高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を効率的に製造することができる。さらに、高分子量化反応における異種構造の発生を効果的に抑制することができる。特に触媒としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物の少なくとも一方を用いる場合でも、これらの優れた触媒能を充分に活用しつつ、異種構造の発生を効果的に抑制することができる。
第三の工程において触媒組成物と芳香族ポリカーボネートプレポリマーとを混合してプレポリマー混合物を調製する方法は特に制限されず、従来公知の樹脂混合物を調製する方法から適宜選択することができる。プレポリマー混合物を調製する方法としては、例えば、インラインミキサーを用いる方法を挙げることができる。
インラインミキサーとは、配管ライン中で2種以上の流体(気体及び/又は液体)を直接混合し、均質化することを可能にする混合機である。かかるインラインミキサーとしては、例えばスタティックミキサー(静止型混合器)、ダイナミックミキサー、プラネタリーミキサー、鋤刃混合器、ニーダ、押出機、2軸高速混練機、連続式ブレンダー等が挙げられる。
スタティックミキサーとしては、スルーザー社製スルーザーミキサー(SMX型、SMB−H型等)、東京日進ジャバラ株式会社製スタティックミキサー(WB−32A等)、株式会社ノリタケカンパニーリミテッド製スタティックミキサー等が挙げられる。
ニーダとしては、株式会社栗本鐵工所製KRCニーダ及びKRCリアクター、及びケミカルエンヂニヤリング株式会社製NES・KOニーダ等が挙げられる。
2軸高速混練機としては、米国ファレル社製FCM型混練機、神戸製鋼株式会社製LCM型混練機、株式会社日本製鋼所製CIM及びCPM型混練機が挙げられる。
押出機としては、独国ワーナー・アンド・フライダー社製ZSK型2軸押出機等が挙げられる。
連続式ブレンダーとしては、ケミカルエンヂニヤリング株式会社製NES・KOブレンダー等が挙げられる。
触媒組成物とプレポリマーの混合比は、触媒組成物及びプレポリマーの構成等に応じて適宜選択することができる。例えば、プレポリマーの全末端基量1モルに対して、ジアルコール化合物が0.01モル〜1.0モルとなるように混合することができ、より好ましくは0.1モル〜1.0モルであり、さらに好ましくは0.1モル〜0.5モル、特に好ましくは0.2モル〜0.4モルである。
第三の工程において、触媒組成物とプレポリマーの混合比は、設定した混合比からの変動が所定の範囲内であることが好ましい。例えば、設定した混合比からの変動幅は、±10質量%以下とすることができ、±5質量%以下であることが好ましい。設定した混合比からの変動幅が所定の範囲内であると、より品質の高い高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することができる。
第三の工程におけるプレポリマーと触媒組成物との混合時の圧力は特に制限されず、減圧状態から加圧状態のいずれであってもよい。例えば、200torr(26.7kPa)を超える圧力下、好ましくは500torr(66.7kPa)以上の圧力下、より好ましくは700torr(93.3kPa)以上の圧力下、さらに好ましくは常圧(760torr、0.10MPa)下で行われる。200torr(26.7kPa)以上の圧力下で混合すると、比較的低沸点のジアルコール化合物であっても、その揮発が抑制され、高分子量化反応の反応性がより向上する傾向がある。
プレポリマーと触媒組成物との混合時の圧力は、プレポリマー混合槽の温度におけるジアルコール化合物の蒸気圧以上であることもまた好ましく、プレポリマー混合槽の温度におけるジアルコール化合物の蒸気圧よりも1Pa高い圧力以上であることがより好ましく、3Pa高い圧力以上であることが更に好ましい。
本実施形態の製造方法に用いるプレポリマーは、封止末端基の割合が高く末端水酸基濃度が比較的低いもの(好ましくはその末端水酸基濃度が1,500ppm以下)であることが好ましい。このような芳香族ポリカーボネートプレポリマーへジアルコール化合物が添加されると、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端とジアルコール化合物との反応が極めて迅速に進行する。
プレポリマーにおける封止末端基、末端水酸基濃度の詳細については後述する。
開裂(分断)反応により末端水酸基濃度が上昇しすぎると、第四の工程(高分子量化工程)へ供給するプレポリマー混合物中のプレポリマーの分子量が低下しすぎるため、分子量が充分に向上しない(高分子量体が得られない)場合がある。又は充分に高分子量化された高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を得るために第四の工程での反応時間(滞留時間)を長くする必要が生じる。第四の工程での反応時間(滞留時間)が長くなると、流動性が低下する、N値(構造粘性指数)が高くなる、着色する、異種構造量が増加するなど、得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の品質が低下する場合がある。
よって高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法では、プレポリマーと触媒組成物とを200torr(26.7kPa)を超える圧力下で混合してプレポリマー混合物としたのち、該プレポリマー混合物中のプレポリマーの末端水酸基濃度が2,000ppmに達する前に、該プレポリマー混合物を第四の工程における減圧条件下の連結高分子量化反応に供することが好ましい。
連結高分子量化反応器へ供給する際のプレポリマー混合物中のプレポリマーの末端水酸基濃度は、好ましくは1,800ppm未満、より好ましくは1,600ppm未満である。
より理想的には、ジアルコール化合物の片末端のみがプレポリマーと反応するように、第三の工程における混合時間、混合温度及びその他の混合条件を設定することが望ましい。すなわち、第三の工程で得られるプレポリマー混合物には、プレポリマーと、ジアルコール化合物と、該ジアルコール化合物がプレポリマーと反応して得られる反応物(より好ましくはジアルコール化合物の片末端のみがプレポリマーと反応して得られる反応物)と、添加した触媒とが含まれている。
なお、前記プレポリマー混合物には、上記成分のほかに、反応副生物としてジアルコール化合物由来の環状カーボネート、フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれる場合がある。また、未反応の原料モノマーも含まれる場合がある。
第三の工程における混合時間は、上述したプレポリマーの末端水酸基濃度が2,000ppmに達しない程度の時間であれば特に制限されず、他の混合条件(混合温度、混合機の種類など)に応じて適宜設定できる。混合時間は、好ましくは7分以下、より好ましくは5分以下、特に好ましくは3分以下である。すなわち第三の工程において、プレポリマーにジアルコール化合物を含む触媒組成物を添加してから7分以内、好ましくは5分以内、特に好ましくは3分以内に、得られるプレポリマー混合物を第四の工程における重合器(「連結高分子量化反応器」ともいう)へ供給して減圧条件下の連結高分子量化反応に供することが好ましい。
第三の工程における混合時間を短くすることで、プレポリマーの開裂(分断)反応の進行が抑制され、第四の工程において、連結高分子量化反応がより効率的に進行し、得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の品質がより向上する傾向がある。
第三の工程における混合温度は、プレポリマーと触媒組成物とを混合可能であれば特に制限されない。第三の工程における混合温度は、好ましくは220℃〜300℃、より好ましくは260℃〜300℃である。
また、第三の工程における混合温度は、第二の工程における移送管の温度よりも高いことが好ましく、移送管の温度よりも50℃〜130℃高い温度であることがより好ましい。
第三の工程で得られるプレポリマー混合物中のプレポリマーの重量平均分子量は特に制限されないが、好ましくは10,000〜40,000、より好ましくは12,000〜35,000(GPCによるポリスチレン換算値)である。
第三の工程で使用するプレポリマーは、芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程で得られるものであっても、市販品等であってもよい。高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、第一から第四の工程に加えて、芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程(以下、第五の工程ともいう)を更に含むことが好ましい。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、触媒の存在下に重縮合反応させて芳香族ポリカーボネートプレポリマーを得る工程を含むことが好ましい。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程における主原料である芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
一般式(3)中、2つのフェニレン基は、それぞれ独立に、p-フェニレン基、m-フェニレン基及びo-フェニレン基のいずれであってもよいが、両方ともp-フェニレン基であることが好ましい。
一般式(3)中のR31及びR32は、それぞれ独立にハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基又は炭素数7〜20のアラルキル基を表す。
R31及びR32の好ましい具体例は、フッ素、アミノ基、メトキシ基、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等である。
p及びqは、0〜4の整数、好ましくは0〜2の整数を表す。Xは単結合又は下記連結基群(3a)から選択される2価の基を表す。連結基群(3a)においてR33及びR34は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは1〜6)若しくは炭素数6〜10のアリール基を表すか、又はR33とR34とが結合して形成される脂肪族環を表す。
このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホニル、1,3−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’−(1,3−アダマンタンジイル)ジフェノール、及び1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールA又はBPAともいう)が安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点等の理由により好ましいものとして挙げられる。上記芳香族ジヒドロキシ化合物は、複数種が必要に応じて組み合わされていてもよい。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程においては、必要に応じて、上記芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸化合物を併用し、ポリエステルカーボネートを含む芳香族ポリカーボネートプレポリマーを調製してもよい。
また、芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程においては、1分子中に3個以上、好ましくは3〜6の官能基を有する多官能化合物を併用することもできる。このような多官能化合物としては、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基等を有する化合物などが好ましく用いられ、特に好ましくは1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが用いられる。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程における炭酸ジエステルとしては、下記一般式(4)で示される化合物が挙げられる。
ここで、一般式(4)中におけるAは、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのAは、同一でも相互に異なるものでもよい。中でもAは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましい。
炭酸ジエステルの具体例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(2−クロロフェニル)カーボネート、m−クレシルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(4−フェニルフェニル)カーボネート等の芳香族炭酸ジエステルが挙げられる。その他、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等も所望により使用することができる。これらのうち、ジフェニルカーボネートが、反応性、得られる樹脂の着色に対する安定性、更にはコストの点より、好ましい。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに封止末端基を導入するため、炭酸ジエステルを芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に使用することが好ましい。より好ましくは、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの仕込み比を、炭酸ジエステル/芳香族ジヒドロキシ化合物=1.01〜1.30(モル比)の割合とする。すなわち、炭酸ジエステルは、芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して1.01モル〜1.30モルの比率で用いることが好ましく、更に好ましくは1.02モル〜1.20モルの比率、特に好ましくは1.03モル〜1.15モルの比率で用いる。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程における芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合反応は、触媒の存在下に行う。触媒としては、通常のポリカーボネート製造用触媒として用いられる塩基性化合物触媒などのエステル交換触媒を用いることができ、第一の工程における触媒と同様である。以下、第一の工程における触媒を第一の触媒ともいい、芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程における触媒を第二の触媒ともいう。
第二の触媒は、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、テトラフェニルホウ素ナトリウム、フェニルリン酸二ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましく、炭酸セシウム及び炭酸カリウムの少なくとも一方が更に好ましい。これらの第二の触媒は、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程における第二の触媒は、芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、例えば1×10−6モル以下であり、好ましくは1×10−8モル〜1×10−6モル、さらに好ましく1×10−7モル〜1×10−6モルの比率で用いられる。
第一の触媒と第二の触媒との使用量のモル比は、1:9〜9:1であることが好ましく、3:7〜8:2であることがより好ましく、4:6〜7:3であることが更に好ましく、5:5〜7:3であることが特に好ましい。当該モル比は第一の触媒と第二の触媒がともにアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種である場合に好ましく適用される。
更に、第一の触媒及び第二の触媒の使用量の合計は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程に用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、例えば1×10−6モル以下であり、好ましくは1×10−8モル〜1×10−6モル、更に好ましく1×10−7モル〜1×10−6モルである。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程は、第二の触媒(好ましくは、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種)に加えて、助触媒の共存下に行われることが好ましい。助触媒を用いることで芳香族ポリカーボネートプレポリマーをより効率的に調製することができる。
助触媒としては、エステル交換触媒における含窒素化合物を用いることが好ましい。含窒素化合物の詳細は既述のとおりである。助触媒として具体的には、4級アンモニウムヒドロシキド類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましく、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが更に好ましい。
助触媒の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、例えば1×10−3モル以下であり、好ましくは1×10−7モル〜1×10−3モル、さらに好ましく1×10−6モル〜1×10−4モルである。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程では、主原料の芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、第二の触媒の存在下、重縮合反応器内で重縮合反応させることによって芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造することが好ましい。この重縮合反応は、エステル交換反応に基づく溶融重縮合反応である。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程を実施する重縮合反応器としては、1器又は2器以上の反応器が用いられる。2器以上の反応器を用いる場合は直列に接続すればよい。反応器は、好ましくは2器以上、より好ましくは2〜6器、特に好ましくは3〜5器の反応器を直列に連結して用いる。重縮合反応器は縦型及び横型のいずれであってもよく、好ましくは縦型である。
それぞれの重縮合反応器には、従来公知の攪拌翼などの攪拌装置を設けることができる。攪拌翼の具体例としては、錨型攪拌翼、マックスブレンド翼、ダブルヘリカルリボン翼等が挙げられる。
重縮合反応器が略平行に配置された複数の内部コイルを有する場合、隣接する内部コイル間の中心間距離Aの内部コイルの外径Bに対する比(A/B)が1.6〜4.0であることもまた好ましい。
重縮合反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度となるようにそれぞれ設定されることが好ましい。重縮合反応の間、各反応器における平均滞留時間は、例えば連結剤添加前の反応器では30分〜120分程度になるように液面レベルを制御することが好ましい。また各反応器において、溶融重縮合反応と同時に副生するフェノールは、各反応器に取り付けられた留出管により系外に留出させればよい。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程における減圧度は、好ましくは0.0075torr〜100torr(1Pa〜13.3kPa)であり、反応器の内温は好ましくは140℃〜300℃である。
反応器の攪拌翼の回転数は特に制限されないが、好ましくは10rpm〜200rpmに保持される。反応の進行に伴い副生したフェノール等を、留出管から留出させながら、所定の平均滞留時間になるように、液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われることが好ましい。各反応器における平均滞留時間は特に限定されないが、通常30分〜120分である。
芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程で得られる芳香族ポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量は特に制限されないが、好ましくは10,000〜50,000、より好ましくは15,000〜35,000(GPCによるポリスチレン換算値)である。
芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、少なくとも一部の末端基が封止末端基で封止されていることが好ましい。封止末端基を構成する化合物としては特に制限されず、例えば芳香族モノヒドロキシ化合物を好ましく用いることができる。芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端量中に占める芳香族モノヒドロキシ化合物で構成される封止末端量の割合は特に制限されない。例えば60モル%以上であり、80モル%以上であることが好ましい。
芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端水酸基濃度としては、1,500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1,000ppm以下であり、さらに好ましくは750ppm以下であり、特に好ましくは500ppm以下である。この範囲内の末端水酸基濃度或いはこの範囲内の封止末端量であると、十分に高分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂が良好な生産性で得られる傾向がある。
本明細書中において、ポリマー(芳香族ポリカーボネートプレポリマー及び高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を含む)の全末端量に対する封止末端量の割合及び水酸基濃度は、ポリマーの1H−NMR解析により分析することができる。具体的な1H−NMR解析法は、後述する実施例に記載される。またポリマー中の末端水酸基濃度は、Ti複合体による分光測定によっても測定することが可能である。具体的には、Makromolekulare Chemie 88(1965)215-231に記載の方法に準じて、塩化メチレン溶液中でポリマーと四塩化チタンとから形成される複合体の紫外可視分光分析(波長:546nm)によってポリマー中の末端水酸基濃度(OH濃度)を測定する方法である。装置としては、例えば、日立U−3500紫外可視分光光度計を用いることができる。濃度既知のBPAと四塩化チタンとから形成される複合体の紫外可視分光分析(波長:546nm)を基準として、ポリマー中の末端水酸基濃度(OH濃度)を求めることができる。
ここでいう「芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量」とは、例えば分岐の無いポリカーボネート(又は直鎖状ポリカーボネート)が0.5モルあれば、全末端基量は1モルであるとして計算される。
封止末端基の具体例としては、フェニル基、クレジル基、o−トリル基、p−トリル基、p−tert−ブチルフェニル基、ビフェニル基、o−メトキシカルボニルフェニル基、p−クミルフェニル基などの芳香族モノヒドロキシ化合物由来の末端基を挙げることができる。これらの中でも、ジアルコール化合物との連結高分子量化反応で反応系より除去されやすい低沸点の芳香族モノヒドロキシ化合物から末端基が好ましく、フェニル基、p−tert−ブチルフェニル基などが特に好ましい。
溶融法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時に炭酸ジエステルを芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に使用することにより、封止末端基を導入することができる。反応に用いる装置及び反応条件にもよるが、具体的には芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを1.01モル〜1.30モル、より好ましくは1.02モル〜1.20モル、特に好ましくは1.03モル〜1.15モル使用する。これにより、上記封止末端量を満たす芳香族ポリカーボネートプレポリマーが得られる。
第四の工程(高分子量化工程)
高分子量化工程では、プレポリマー混合物を減圧条件下に加熱処理して高分子量化することにより、高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する。
高分子量化工程は、第三の工程におけるプレポリマー混合槽に直列に接続して設けられた連結高分子量化反応器(エステル交換重合器)において行われることが好ましい。高分子量化工程で用いられる連結高分子量化反応器としては、1器又は2器以上の反応器を用いることができるが、好ましくは1器(単一の反応器)である。
プレポリマー混合物は、移送管を介して連結高分子量化反応器に移送されてもよい。プレポリマー混合物を移送する移送管は加熱手段を備えていてもよい。プレポリマー混合物を移送する移送管は、触媒組成物の移送管と同じ態様であってもよい。
またプレポリマー混合槽と連結高分子量化反応器との間には圧力調整弁が配置されていてもよく、圧力調整弁によりプレポリマー混合物に背圧をかけてプレポリマー混合槽から連結高分子量化反応器へ移送してもよい。
高分子量化工程における減圧条件は、例えば10torr(1.33kPa)以下であり、好ましくは2.0torr以下(267Pa以下)、より好ましくは0.01torr〜1.5torr(1.3Pa〜200Pa)、さらに好ましくは0.01torr〜1.0torr(1.3Pa〜133Pa)ある。高分子量化工程における圧力は、連結高分子量化反応器が備える減圧ラインに配置された枝管に配置される圧力検出手段によって検出してもよい。
高分子量化工程における加熱処理の温度条件は、例えば240℃〜320℃であり、好ましくは260℃〜310℃であり、より好ましくは280℃〜310℃である。
また高分子量化工程における加熱処理の温度条件は、プレポリマー混合槽又はプレポリマー混合物の移送管の温度Tcよりも80℃高い温度以下であることもまた好ましく、より好ましくは、温度Tcよりも50℃高い温度以下である。
高分子量化工程において、連結高分子量化反応器内の酸素濃度は0.0001体積%〜10体積%とするのが好ましく、より好ましくは0.0001体積%〜5体積%である。これにより、ジアルコール化合物の酸化劣化を効果的に抑制することができる。この酸素濃度条件を得るため、酸素濃度10体積%以下のガス(好ましくは、窒素、アルゴン等の不活性ガス)で反応器内のガスを置換し、更に脱揮することが好ましい。
高分子量化工程に用いられる連結高分子量化反応器としては、横型撹拌反応器が用いられる。好ましくは、撹拌軸を一つ有する単軸の又は撹拌軸を複数有する多軸の横型攪拌反応器であって、前記撹拌軸の少なくとも一つが水平回転軸と該水平回転軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有し、かつ水平回転軸の長さをLとし攪拌翼の回転直径をDとしたときのL/Dが1〜15、好ましくは2〜10であるものが用いられる。より好ましくは、上記のうち撹拌軸を複数有する多軸の横型攪拌反応器である。
また、押出機に代表される連続スクリュ型の撹拌軸を一つ有する単軸の又は複数有する多軸の横型攪拌反応器であって、かつ攪拌軸の長さをLとしスクリュ直径をDとしたときのL/Dが20〜100、より好ましくは40〜80であるものを用いることもできる。より好ましくは、上記のうち撹拌軸を複数有する多軸の横型攪拌反応器である。
これらの横型攪拌反応器は、いずれもプレポリマー混合物の供給口と、その反対側に生成する高分子量ポリカーボネート樹脂の抜き出し口とを有することが好ましい。
連結高分子量化反応器には、従来公知の攪拌翼などの攪拌装置を設けることができる。攪拌翼の具体例としては、2軸タイプの攪拌翼、パドル翼、格子翼、メガネ翼、スクリュを装備した押出機型等が挙げられる。
また、前記連結高分子量化反応器には、抜き出し機を設けることができる。前記連結高分子量化反応器で得られる高分子量ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネート共重合体)は流動性が280℃において2,500Pa・s程度(あるいはISO 1133に基づくメルトマスフローレイトで5.3g/10分程度)の高粘度樹脂であり、連結高分子量化反応器から抜き出すことが困難な場合があるため抜き出し装置を使用することが好ましい。抜き出し機の具体例としてはギヤポンプ、スクリュ引き抜き機などが挙げられ、好ましくはスクリュ引き抜き機が用いられる。
連結高分子量化反応器が抜き出し機を備える場合、抜き出し機の出口圧力変動は、20%以下であることが好ましく、0.1%以上20%以下であることがより好ましい。
またそれぞれの反応器には反応により生成する副生物等を排出するための留出管、コンデンサー、ドライアイストラップ等の凝縮器及びリカバリータンク等の受器、所定の減圧状態に保つための減圧装置等を設けることができる。
また、前記横型攪拌反応器においては、プレポリマー混合物の供給口と反対側に、得られるポリカーボネート樹脂の抜き出し機を有することが好ましい。抜き出し機としては、ギヤポンプ又はスクリュ引き抜き機が好ましく、特に好ましくはスクリュ引き抜き機が用いられる。
さらに、前記回転軸の軸シールとしては、メカニカルシールを含むシール機構を採用することが好ましい。
副生する芳香族モノヒドロキシ化合物を効率良く除去する為に、高分子量化工程に用いられる連結高分子量化反応器の表面更新性は特に制限されないが、下記数式(II)で表される表面更新効果が好ましくは0.01〜500、さらに好ましくは0.01〜100、特に好ましくは0.01〜50の範囲であることが望ましい。
表面更新効果=A×Re0.5×n÷V ・・・(II)
A:表面積(m2)
n:回転数/s
V:液容量(m3)
Re(レイノルズ数):Re=ρ×n×r2÷μ
ρ:液密度(kg/m3)
r:撹拌機の径(m)
μ:液粘度(kg/m・s)
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で用いられる反応器の材質は、その原料モノマー又は反応混合物に接する部分(以下、「接液部」と称する)の全表面積の少なくとも90%を占める領域において、(a)鉄の含有率が80質量%以下で、Crの含有率が18質量%以上である金属材料、又はSUS304、SUS316、SUS316L、SUS310S等のステンレス鋼若しくはクラッド材である金属材料、及び(b)ガラス材料からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記材質がガラスである場合、更に好ましくは50℃の純水へ120時間浸漬した際のアルカリ金属の溶出量が15ppb/cm2以下のガラスである。
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で用いられる全反応器の接液部が、上記材質からなることが最も好ましいが、必ずしも全反応器の接液部が上記材質からなる必要はなく、少なくとも高分子量化工程で用いられる連結高分子量化反応器の接液部が上記材質からなることが好ましい。
また、高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で用いられる反応器は、その接液部の全表面積の少なくとも90%を占める領域において、電解研磨されていることが好ましい。
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で用いられる全反応器の接液部が電解研磨されていることが最も好ましいが、必ずしも全反応器の接液部が電解研磨されている必要はなく、少なくとも高分子量化工程に用いられる連結高分子量化反応器の接液部が電解研磨されていることが好ましい。
上述した好ましい反応器の具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1)撹拌軸を複数有する多軸の横型攪拌反応器であって、前記撹拌軸の少なくとも一つが水平回転軸と該水平回転軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有し、かつ水平回転軸の長さをLとし攪拌翼の回転直径をDとしたときのL/Dが1〜15であるものの具体例としては、メガネ翼重合機(株式会社日立製作所製)、Continuous LIST Kneader Reactor(LIST社製)、AP-Reactor(LIST社製)、SCR(三菱重工業株式会社製)、KRCリアクタ(株式会社栗本鐵工所製)が挙げられる。
2)撹拌軸を一つ有する単軸の横型攪拌反応器であって、前記撹拌軸が水平回転軸と該水平回転軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有し、かつ水平回転軸の長さをLとし攪拌翼の回転直径をDとしたときのL/Dが1〜15であるものの具体例としては、Continuous LIST Kneader Reactor(LIST社製)が挙げられる。
3)連続スクリュ型の撹拌軸を複数有する多軸の横型攪拌反応器であって、かつ攪拌軸の長さをLとしスクリュ直径をDとしたときのL/Dが20〜100であるものの具体例としては、2軸押出機TEXシリーズ(日本製鋼所株式会社製)、2軸押出機TEMシリーズ(東芝機械株式会社製)、ZSK型2軸押出機(ワーナー・アンド・フライダー社製)が挙げられる。
4)連続スクリュ型の撹拌軸を一つ有する単軸の横型攪拌反応器であって、かつ攪拌軸の長さをLとしスクリュ直径をDとしたときのL/Dが20〜100であるものの具体例としては、ブスコニーダ(Buss社製)が挙げられる。
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、高分子量化工程で生成する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程を更に含むことが好ましく、環状カーボネート除去工程が高分子量化工程で生成する環状カーボネートの少なくとも一部を含む留出液を反応系外へ除去する工程を含むことがより好ましい。
すなわち、高分子量化工程において、芳香族ポリカーボネートプレポリマーが、ジアルコール化合物を連結剤として、互いに反応して高分子量化するとともに、該反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去することによって芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化反応がさらに効率的に進行する。
高分子量化工程と環状カーボネート除去工程とは、物理的及び時間的に別々の工程とすることもできるが、同時に行うこともでき、好ましくは同時に行われる。
副生する環状カーボネートは、下記一般式(2a)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
一般式(2a)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R1〜R4は各々独立して水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
nは1〜30、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1である。
一般式(2a)中、Ra及びRbは、好ましくは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜8シクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して炭素数3〜8の脂環式環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R1〜R4は、好ましくは、各々独立して水素原子、フッ素原子又はメチル基を表す。
nは好ましくは1〜6の整数を表す。
一般式(2a)中、Ra及びRbは、より好ましくは、各々独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。R1〜R4は、より好ましくは、各々水素原子である。nは、より好ましくは、1〜3の整数を表す。
前記一般式(2a)で表される環状カーボネートとしてより好ましくは、下記一般式(2b)で表される化合物である。一般式(2b)中、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(2a)におけるのと同様である。
上記環状カーボネートの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
一般式(1)で表される構造を有するジアルコール化合物を用いた本実施形態の製造方法は、従来の溶融法によるポリカーボネートの製造方法と比べ、高速で高分子量化することができるという利点を有する。
一方、本実施形態の製造方法では、高分子量化反応の進行とともに、特定構造の環状カーボネートが副生する場合がある。そして、副生する環状カーボネートを反応系外へ除去した後には、ほぼホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有する高分子量ポリカーボネート樹脂が得られる。副生する環状カーボネートは、高分子量化工程に使用するジアルコール化合物に対応する構造を有しており、ジアルコール化合物由来の環状体であると考えられるが、このような高分子量化反応とともに環状カーボネートが副生される反応機構は、必ずしも明らかではない。
一般式(1)で表される構造を有するジアルコール化合物を用いた製造方法によって得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、ジアルコール化合物由来の構造単位をほとんど含まず、樹脂の骨格はホモポリカーボネート樹脂とほぼ同じである。
すなわち、連結剤であるジアルコール化合物由来の構造単位が骨格に含まれないか、含まれるとしても極めて少量であることから、熱安定性が極めて高く耐熱性に優れている。一方で、従来のホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有しながら、N値(構造粘性指数)が低く、流動性に優れる、異種構造を有するユニットの割合が少ない、色相優れている、などの優れた品質を備えることができる。
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法によって得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の骨格にジアルコール化合物由来の構造単位が含まれる場合、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の全構造単位量に対するジアルコール化合物由来の構造単位量の割合は1モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下である。
副生する環状カーボネートを反応系外へ除去する方法としては、具体的には、前記高分子量化工程で生成する留出液を反応系外へ留去する方法が挙げられる。すなわち、副生環状カーボネートは、同工程で同じく副生するフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物及び未反応の原料化合物(ジアルコール化合物、炭酸ジエステルなど)とともに、これらの化合物を含む留出液として反応系より留去する。留去条件は特に制限されないが、該留出液を反応系より留去するときの反応器内の温度は、好ましくは240℃〜320℃、より好ましくは260℃〜310℃、更に好ましくは280℃〜310℃である。
除去は、副生環状カーボネートの少なくとも一部について行う。副生環状カーボネートの全てを除去するのが最も好ましいが、完全に除去するのは一般に難しい。完全に除去できない場合に製品化した芳香族ポリカーボネート樹脂中に環状カーボネートが残存していることは許容される。製品中の残存量の好ましい上限は3,000ppm、より好ましい上限は1,000ppm、さらに好ましい上限は500ppm、特に好ましい上限は300ppmである。
本実施形態の製造方法の特徴の一つとして、高分子量化工程の開始から短時間で高分子量化を達成することができる点が挙げられる。
より具体的には、本実施形態の製造方法によれば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(MwPP)と、高分子量化工程で得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)との関係を、下記数式(IV)で表すことができる。ここで下記数式(IV)中、k’(単位;Mw上昇量/分))は400以上の数である。
( Mw − MwPP )/ 加熱時間(分)= k’ ・・・(IV)
本実施形態の製造方法によれば、上記数式(IV)における数k’を400以上、好ましくは500以上とすることができる。すなわち、高分子量化工程における反応開始から短時間で分子量を増加させて所定の高分子量を効率的に達成することができる。
本実施形態の製造方法で得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは35,000〜100,000、より好ましくは35,000〜80,000、特に好ましくは40,000〜75,000である。
高い分子量を持つポリカーボネート樹脂は、溶融張力が高くドローダウンを生じにくいのでブロー成形、押出成形等の用途に好適である。また、射出成形に用いた場合でも、糸引き等がなく成形性が良好である。さらに得られる成形品は機械的物性、耐熱性、耐有機溶剤性等の物性に優れている。
本実施形態の製造方法で得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂においては、下記数式(I)で表されるN値(構造粘性指数)が、好ましくは1.30以下、より好ましくは1.28以下、更に好ましくは1.25以下であり、特に好ましくは1.22以下である。
N値=(log(Q160値)−log(Q10値))/(log160−log10) ・・・(I)
上記数式(I)中、Q160値は280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)((株)島津製作所製:CFT-500D型を用いて測定(以下同様)し、ストローク=7.0mm〜10.0mmより算出)を表し、Q10値は280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)(ストローク=7.0mm〜10.0mmより算出)を表す。なお、ノズル径1mm×ノズル長10mm
構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされる。本実施形態の製造方法で得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂におけるN値は低く、分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高い。芳香族ポリカーボネート樹脂は一般に、同じMwに於いては分岐構造の割合を多くしても流動性が高くなる(Q値が高くなる)傾向にあるが、本実施形態の連続製造方法で得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂は、N値を低く保ったまま高い流動性(高いQ値)を達成している。
本実施形態の製造方法で得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂は、良好な色相を有する。
芳香族ポリカーボネート樹脂の色相評価は一般にYI値にて表わされる。通常、界面重合法から得られる芳香族ポリカーボネート樹脂のYI値としては0.8〜1.0を示す。一方、溶融重合法により得られる芳香族ポリカーボネートの高分子量体は製造工程に伴う品質の低下により、YI値は1.7〜2.0を示す。しかしながら本実施形態の製造方法により得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂のYI値は、界面重合法により得られる芳香族ポリカーボネートと同等のYI値を示し、色相の悪化は見られない。
本実施形態の製造方法で得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂は、異種構造を有する構造単位の含有量が少ない優れた品質を有する。異種構造を有する構造単位とは、好ましくない作用効果をもたらす可能性のある構造を有する構造単位をいい、従来の溶融法で得られるポリカーボネートに多く含まれる分岐点構造単位などが挙げられる。異種構造を有する構造単位は、ポリカーボネート樹脂の骨格中に、繰り返し構造として存在する場合、ランダムに存在する場合のいずれもがあり得る。
芳香族ポリカーボネート樹脂中の異種構造量は、例えば、サリチル酸に由来する部分構造を含む異種構造(PSA)の含有率として、全構造単位中に1,000ppm以下であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましい。
本実施形態の製造方法で得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂に含まれる末端水酸基濃度は、特に制限されず、目的等に応じて適宜選択される。末端水酸基濃度は、例えば1,000ppm以下であり、好ましくは600ppm以下である。
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法においては、分子量が高められた芳香族ポリカーボネート樹脂に触媒の失活剤を添加する工程を含むことができる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質(触媒失活剤)としては、具体的にはp-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル等の芳香族スルホン酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等の芳香族スルホン酸塩、ステアリン酸クロリド、酪酸クロリド、塩化ベンゾイル、トルエンスルホン酸クロリド、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸塩、リン酸類、亜リン酸類等が挙げられる。
これらのうちで、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、及びパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩からなる群から選択される触媒失活剤が好適に用いられる。
触媒失活剤の添加は、上記高分子量化反応終了後に従来公知の方法でポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、ターンブルミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー等で代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。
触媒失活後、高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂中の低沸点化合物を0.013kPa〜0.13kPa(0.1torr〜1torr)の圧力、200℃〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けてもよく、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
好ましくは、ポリマーシールを有し、ベント構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機である。
さらに高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法においては、耐熱安定剤、加水分解安定化剤、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤、充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良材、帯電防止剤等を添加する工程を含むことができる。
耐熱安定剤としては、トリフェニルホスフィン(P-Ph3)等の公知のものを用いることができる。
酸化防止剤としては、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス−(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスフォナイト、トリクレジルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等を用いることができる。これらのうちで好ましいものは、トリス−(2,4−ジ−tertert−ブチルフェニル)ホスファイト及びn−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネートである。
これらの添加剤は、触媒失活剤と同様に、従来公知の方法でポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、各成分をターンブルミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー等で代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。添加剤の添加工程は、触媒失活剤と同時でも異なっていてもよい。
本実施形態の製造方法によれば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと、ジアルコール化合物及び第一の触媒を含む触媒組成物とを予め混合機内で混合したのち連結高分子量化反応器へ供給して連結高分子量化反応させることにより高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法において、ジアルコール化合物へ予め第一の触媒を添加することにより、第一の触媒が精度良く安定供給でき、かつ自然発生する溶融法特有の異種構造量をより抑制することが可能となる。これにより、N値(構造粘性指数)が低く色相が良好で、異種構造の増加が極めて抑えられた高品質の高分子量ポリカーボネート樹脂を溶融法により効率良く製造することができる。
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、バッチ式で実施してもよく、連続式で実施してもよい。以下に、連続式で行う製造方法の一例を、図面を参照しながら、より具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、図1では第一の工程(触媒組成物を得る工程)を連結剤調製工程とし、第三の工程を混合器6Mixで実施される工程とし、第四の工程を連結重合工程としている。また芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程(第五の工程)を重縮合工程としている。
図1に示す連続製造方法の一例においては、まず主原料である芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを調製する主原料調製工程、及び、これらの原料を溶融状態で重縮合反応させ芳香族ポリカーボネートプレポリマーを生成する重縮合工程(芳香族ポリカーボネートプレポリマー調製工程(第五の工程)、以下、工程(A)ともいう)の後、工程(A)で得られる芳香族ポリカーボネートプレポリマーに、連結剤調製工程(第一の工程)でジアルコール化合物(連結剤)及び触媒を混合して得られる触媒組成物を添加してプレポリマー混合物とする工程(第三の工程、以下、工程(B)ともいう)と、工程(B)で得られるプレポリマー混合物を減圧条件下に連結高分子量化反応させる工程(第四の工程、以下、工程(C)ともいう)とを経ることによって、高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂が製造される。図1では、連結剤調製工程で得られる触媒組成物は、移送管2Laを介してプレポリマー混合槽である混合機6Mixに移送される(第二の工程)。
その後、反応を停止させ、重合反応液中の未反応原料、反応副生物等を脱揮除去する工程(図示せず)、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程(図示せず)、高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂を所定の粒径のペレットに形成する工程(図示せず)を経て、高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂のペレットが成形される。
図1に示す製造方法は多段反応工程を採用しており、工程(A)と工程(C)とをそれぞれ別々の反応器を用いて実施する。工程(A)を実施する重縮合反応器と、工程(C)を実施する連結高分子量化反応器(エステル交換反応器)とは、工程(B)を実施する混合機を介して直列に連結される。工程(B)に供する触媒組成物は、別の反応器にて、ジアルコール化合物を溶融させ、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物等のエステル交換触媒の水溶液及び/又は有機溶液として添加、混合又は分散させた後、脱水処理及び/又は脱揮処理されていることが好ましい。
工程(A)の重縮合反応器は、単一の反応器から構成されていても、直列に連結された複数の反応器から構成されていても良い。好ましくは2器以上、好ましくは2〜6器の反応器が直列に連結される。
一方、工程(C)の連結高分子量化反応器は、単一の反応器から構成されていても、直列に連結された複数の反応器から構成されていても良いが、1器(単一の反応器)から構成されるのが好ましい。
工程(B)へ供する触媒組成物を調製する器は、連続的に反応を行なう為には、好ましくは2器以上を装備するのが好ましい。
主原料調製工程では、主原料である芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを調製する。
主原料調製工程において使用する装置としては、原料混合槽(図1中、1Ra及び1Rb)と、調製した原料を重縮合工程に供給するための原料供給ポンプ(図1中、1P)とが設けられている。原料混合槽1Ra及び1Rbには、供給口1Ma及び1Mbから、窒素ガス雰囲気下、主原料である芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルが溶融状態で連続的に供給される。原料混合槽1Ra及び1Rbでは、窒素ガス雰囲気下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとが、所定のモル比(好ましくは炭酸ジエステル/芳香族ジヒドロキシ化合物=1.01〜1.30(モル比))で混合及び溶融され、原料混合溶融液が調製される。原料混合槽1Ra及び1Rbの仕様は特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。例えば、マックスブレンド攪拌翼(図1中、1Ya及び1Yb)を設けたものを使用することができる。
なお、連続製造するためには、図1に示すように、主原料調製工程に混合槽を2つ設けることが好ましい。混合槽を2つ設けることによって、混合及び溶融を交互に行い、バルブ1Bpを切り替えて反応器3Rへ連続供給することができる。
工程(A)を実施する重縮合反応器としては、1又は2以上の反応器が用いられる。2以上の反応器を用いる場合は直列に接続する。好ましくは2器以上、より好ましくは2〜6器、特に好ましくは3〜5器の反応器を直列に連結して用いる。重縮合反応器は縦型及び横型のいずれであってもよいが、好ましくは縦型である。
例えば、図1においては、工程(A)の重縮合反応器として第1縦型攪拌反応器3R、第2縦型攪拌反応器4R、第3縦型攪拌反応器5R、及び第4縦型攪拌反応器6Rが設けられている。
それぞれの重縮合反応器には、従来公知の攪拌翼などの攪拌装置を設けることができる。攪拌翼の具体例としては、錨型攪拌翼、マックスブレンド翼、ダブルヘリカルリボン翼等が挙げられる。
例えば、図1の第1縦型攪拌反応器3R、第2縦型攪拌反応器4R、第3縦型攪拌反応器5Rには、マックスブレンド翼3Y、4Y、5Y及び第4縦型攪拌反応器6Rにはダブルヘリカルリボン翼6Yがそれぞれ設けられている。
またそれぞれの反応器には予熱器、ギヤポンプ、重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管、コンデンサー、ドライアイストラップ等の凝縮器及びリカバリータンク等の受器、所定の減圧状態に保つための減圧装置等を設けることができる。
なお、一連の連続製造方法で用いられる反応器はすべて、予め設定された範囲の内温と圧力に達するよう調整が開始される。
図1に示す製造装置を用いた連続製造方法の例では、先ず直列に接続された5器の反応器(工程(A);第1縦型攪拌反応器3R、第2縦型攪拌反応器4R、第3縦型攪拌反応器5R、第4縦型攪拌反応器6R、工程(B);混合機(6Mix)、工程(C);第5横型攪拌反応器7R)を、予めそれぞれの反応(溶融重縮合反応及び連結高分子量化反応)に応じた内温と圧力に設定する。
例えば、図1の装置では、3H、4H、5H、6Hの予熱器と3P、4P、5P、6Pのギヤポンプが設けられている。また4器の反応器には、留出管3F、4F、5F、6Fが取り付けられている。留出管3F、4F、5F、6Fは、それぞれ凝縮器3C、4C、5C、6Cに接続し、また各反応器は、減圧装置3V、4V、5V、6Vにより、所定の減圧状態に保たれる。
重縮合反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度となるようにそれぞれ設定される。重縮合反応の間、各反応器における平均滞留時間は、例えば連結剤添加前の反応器では30分〜120分程度になるように液面レベルを制御する。また各反応器において、溶融重縮合反応と同時に副生するフェノールは、各反応器に取り付けられた留出管3F、4F、5F、6Fにより系外に留出される。工程(A)における減圧度は、好ましくは0.0075torr〜100torr(1Pa〜13.3kPa)であり、反応器の内温は好ましくは140℃〜300℃である。
より具体的には、図1に示す方法では工程(A)を4器の反応器(第1〜第4縦型攪拌反応器)で行い、通常は以下のような温度及び圧力に設定する。なお、以下には工程(A)の4器の反応器に直列に連結された工程(B)の混合機及び工程(C)の連結高分子量化反応器(第5横型攪拌反応器)についても併記する。
(予熱器1H)180℃〜230℃
(第1縦型攪拌反応器3R)
内温:150℃〜250℃、圧力:200torr(26.6kPa)〜常圧、加熱媒体の温度220℃〜280℃
(予熱器3H)200℃〜250℃
(第2縦型攪拌反応器4R)
内温:180℃〜250℃、圧力:100torr(13.3kPa)〜200torr(26.6kPa)、加熱媒体の温度220℃〜280℃
(予熱器4H)230℃〜270℃
(第3縦型攪拌反応器5R)
内温:220℃〜270℃、圧力:1torr(133Pa)〜100torr(13.3kPa)、加熱媒体の温度220℃〜280℃
(予熱器5H)230℃〜270℃
(第4縦型攪拌反応器6R)
内温:220℃〜280℃、圧力:0.0075torr(1Pa)〜1torr(133Pa)、加熱媒体の温度220℃〜300℃
(予熱器6H)270℃〜340℃
(混合機6Mix)
内温:220℃〜300℃、圧力:200torr(26.6kPa)〜3,700torr(0.5MPa)、加熱媒体の温度220℃〜320℃
(第5横型攪拌反応器7R)
内温:260℃〜340℃、圧力:10torr以下(1,333Pa以下)、加熱媒体の温度260℃〜340℃
次いで、本実施形態の連続製造方法で使用されるすべての反応器の内温と圧力がそれぞれの設定値の−5%〜+5%の範囲内に達した後に、別途、原料混合槽1R(1Ra及び1Rb)で調製した原料混合溶融液が、原料供給ポンプ1P、予熱器1Hを経由して第1縦型攪拌反応器3R内に連続供給される。また、原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1縦型攪拌反応器3R内に触媒が原料混合溶融液の移送配管途中の触媒供給口1Catから連続的に供給され、エステル交換反応に基づく溶融重縮合が開始される。
反応器の攪拌翼の回転数は特に制限されないが、好ましくは200rpm〜10rpmに保持される。反応の進行に伴い副生したフェノールを、留出管から留出させながら、所定の平均滞留時間になるように、液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われる。各反応器における平均滞留時間は特に限定されないが、通常30分〜120分である。
例えば図1の製造装置では、第1縦型攪拌反応器3R内で、窒素雰囲気下、例えば温度200℃、圧力200torr(27kPa)とし、マックスブレンド翼3Yの回転数を160rpmに保持し、溶融重縮合が行われる。そして、副生したフェノールを留出管3Fから留出させながら平均滞留時間60分になるように液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われる。
続いて、重合反応液は、第1縦型攪拌反応器3Rの槽底からギヤポンプ3Pにより排出され、予熱器3Hを通り第2縦型攪拌反応器4Rへ、次いでギヤポンプ4Pにより予熱器4Hを通り第3縦型攪拌反応器5Rへ、さらにギヤポンプ5Pにより予熱器5Hを通り、第4縦型攪拌反応器6Rへと順次連続供給され、重縮合反応が進行し芳香族ポリカーボネートプレポリマーが生成する。
重縮合反応器(工程(A)で複数の反応器を用いる場合は、そのうちの最後の反応器)で得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、工程(B)の混合機へ供給される。一方、連結剤調製装置で溶融され、触媒溶液を混合後、減圧下で脱水又は脱揮処理された触媒組成物は、連結剤供給装置から混合機へ直接供給(送液)される。混合機へ供給された芳香族ポリカーボネートプレポリマーと触媒組成物は、混合機内で混合され、プレポリマー混合物として工程(C)の連結高分子量化反応器へ連続供給される。
例えば、図1に示す製造装置において、第4縦型攪拌反応器6Rより排出されたプレポリマーがギヤポンプ6Pにより、予熱器6Hを通り、混合機6Mixへ順次連続供給される。
触媒及びジアルコール化合物(連結剤)を含む触媒組成物を工程(B)の混合機に供給する際には、予め連結剤調製槽などにおいて調製してから供給する。例えば、連結剤調製装置(2Ra、2Rb)においてジアルコール化合物を溶融し液状とする。このとき、ジアルコール化合物の粘度を好ましくは0.1P〜10,000P(poise;0.01Pa・s〜1,000Pa・s)、より好ましくは1P〜100P(poise;0.1Pa・s〜10Pa・s)とする。ジアルコール化合物の粘度をこの範囲内とすることにより、連結高分子量化反応器への供給を安定的かつ定量的に行うことができ、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとの反応を均一且つ迅速に行わせることができる。さらに、触媒溶液導入ライン(2Cata、2Catb)より触媒溶液(水溶液及び/又は有機溶液)を導入する。攪拌翼(2Ya、2Yb)により攪拌され、触媒が混合又は分散され、脱水又は脱揮ライン(2Fa、2Fb)より、水及び/又は有機溶剤が触媒組成物から除去される。触媒組成物は、溶融状態で脱水処理又は脱揮処理を行うことが好ましい。脱水処理又は脱揮処理は、連結高分子量化反応に影響がない程度に脱水するため、例えば、300torr(40kPa)以下、好ましくは100torr(13.3kPa)以下、より好ましくは0.01torr(1.3Pa)以上100torr(13.3kPa)以下の減圧下で行われる。脱水処理の温度は、ジアルコール化合物種により溶融粘度が異なるため、好ましい温度設定はジアルコール化合物により異なるが、ジアルコール化合物の融点以上、好ましくは融点以上且つ融点より80℃高い温度以下、より好ましくは融点以上且つ融点より50℃高い温度以下の温度範囲で行われる。脱水処理の目安に特に制限はないが、好ましくは脱水処理後の触媒組成物中の水分含有量が3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下、特に好ましくは0.03質量%以下である。この操作により、触媒組成物をより定量的に安定供給することが可能になる。
例えば、連結剤のジアルコール化合物として2−ブチル-2-エチル−1,3−プロパングリコール(BEPG)を用いた場合、BEPGの融点は43℃前後であるから、例えば75℃〜80℃で溶融し、所定量の触媒水溶液を添加した後、攪拌しつつ1torrで30分程度を目安に脱水する。
連結剤調製装置(2Ra、2Rb)は、50℃〜200℃に加熱可能な器であり、連結剤調製装置(2Ra、2Rb)に具備される攪拌翼(2Ya、2Yb)は、アンカー翼、パドル翼、タービン翼、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼、格子翼等、一般的な攪拌翼の他、攪拌可能であれば形状は問わない。
なお、連続製造方法においては、図1に示すように連結剤調製工程に連結剤調製装置を2つ設けることが好ましい。連結剤調製装置を2つ設けることにより混合及び溶融を交互に行い、バルブ2Bpを切り替えて、触媒組成物を連結剤定量供給ポンプ2P及び移送管2Laを経由して混合機6Mixへ連続的に供給することができる。
混合機6Mixより排出されたプレポリマー混合物は、第5横型攪拌反応器7Rへ順次連続供給され、第5横型攪拌反応器7R内で連結高分子量化反応を行なうに適した温度・圧力条件下で連結高分子量化反応が進行する。副生するフェノール及び一部未反応モノマーは、ベント用導管7Fを介して系外に除去される。
触媒組成物のフィードライン(移送管)、バルブ及びポンプなどの機器は、触媒組成物の固化を防止するため、内側が触媒組成物、外側が熱媒の流れる二重管及びジャケット式、更に好ましくはフルジャケット式のバルブ及びポンプなどの機器を用いることができる。
工程(C)において、連結高分子量化反応器中での反応混合物の滞留時間(プレポリマー混合物を供給してから、得られる高分子量ポリカーボネート樹脂が抜き出されるまでの時間)は、使用する反応装置(反応器)に依存する傾向があるため一概には規定できないが、好ましくは60分以下であり、より好ましくは1分〜60分、さらに好ましくは5分〜60分、さらに好ましくは20分〜60分、さらに好ましくは25分〜60分、特に好ましくは30分〜60分である。
本実施形態の製造方法によれば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと触媒組成物とを予め混合機内で混合したのち連結高分子量化反応器へ連続供給して連結高分子量化反応させることにより、触媒組成物が精度良く安定供給でき、かつ自然発生する溶融法特有の異種構造量をより抑制することが可能となる。これにより、N値(構造粘性指数)が低く色相が良好で、異種構造の増加が極めて抑えられた高品質の高分子量ポリカーボネート樹脂を溶融法により製造することができる。
工程(C)における反応条件は、高温、高真空で、適当な重合装置及び撹拌翼の選定により高い界面更新性が確保できるように設定される。
工程(C)における連結高分子量化反応器内の反応温度は、例えば、240℃〜320℃、好ましくは260℃〜310℃、より好ましくは280℃〜310℃の範囲であり、反応圧力は10torr以下(1,333Pa以下)、好ましくは2.0torr以下(267Pa以下)、より好ましくは0.01torr〜1.5torr(1.3Pa〜200Pa)、さらに好ましくは0.01torr〜1.0torr(1.3Pa〜133Pa)である。このため、撹拌軸のシールにはメカニカルシールを含むシール機構を用いるのが好ましい。
工程(C)においては、連結高分子量化反応の反応混合物の平均滞留時間が、好ましくは60分以下、より好ましくは1分〜60分、さらに好ましくは5分〜60分、さらに好ましくは20分〜60分、さらに好ましくは25分〜60分、特に好ましくは30分〜60分となるように、液面レベルを制御するのが望ましい。また反応器においては、副生するフェノールを留出管から留出させる。
なお、図1に示す製造装置においては、第1縦型攪拌反応器3Rと第2縦型攪拌反応器4Rとにそれぞれ取り付けられた凝縮器3C、4Cから、フェノール等の副生物が連続的に液化回収される。凝縮器3C、4Cは、それぞれ2つ以上の凝縮器に分け、反応器に一番近い凝縮器で凝縮した留出物の一部又は全部を、第1縦型攪拌反応器3R、第2縦型攪拌反応器4Rに還流させると、原料モル比の制御が容易になるため好ましい。また、第3縦型攪拌反応器5R、第4縦型攪拌反応器6Rと第5横型攪拌反応器7Rとに、それぞれ取り付けられた凝縮器5C、6C、7Cの下流側にはコールドトラップ(図示せず)が設けられ、副生物が連続的に固化回収される。
なお、回収された副生物は、その後加水分解、精製等の工程を経て再利用(リサイクル)することができる。主な副生物としては、フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物、未反応のジアルコール化合物及びジアルコール化合物に由来する環状カーボネート等が挙げられる。特にフェノールは回収後、ジフェニルカーボネート製造工程へ供給して再利用することができる。また、ジアルコール化合物由来の環状カーボネートが副生する場合、該環状カーボネートも同様にして回収・再利用することができる。
このように、図1に示す連続製造装置においては、5器の反応器の内温と圧力が所定の数値に達した後に、原料混合溶融液と触媒とが予熱器を介して連続供給され、エステル交換反応に基づく溶融重縮合が開始される。このため、各反応器における重合反応液の平均滞留時間は、溶融重縮合の開始直後から定常運転時と同等となる。さらに、エステル交換反応速度の速いジアルコール化合物で、低分子量のプレポリマー同士を結合し、短時間で高分子量化するため、必要以上の熱履歴を受けることがなく、分岐化が起きにくい。また色相も良好となる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例中における物性値の測定は、以下の通り行った。
(1)重量平均分子量:
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めたポリスチレン換算重量平均分子量である。
まず分子量既知(分子量分布=1)の標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、“PStQuick MP-M”)を用いて検量線を作成した。測定した標準ポリスチレンから各ピークの溶出時間と分子量値をプロットし、3次式による近似を行い、較正曲線とした。重量平均分子量(Mw)は、以下の計算式より求めた。
Mw=Σ(Wi×Mi)÷Σ(Wi)
ここで、iは分子量Mを分割した際のi番目の分割点、Wiはi番目の重量、Miはi番目の分子量を表す。また分子量Mとは、較正曲線の同溶出時間でのポリスチレン分子量値を表す。
[測定条件]
装置;東ソー株式会社製、HLC−8320GPC
カラム;ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMPHZ-M×1本
分析カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-M×3本
溶媒;HPLCグレードクロロホルム
注入量;10μL
試料濃度;0.2w/v% HPLCグレードクロロホルム溶液
溶媒流速;0.35ml/min
測定温度;40℃
検出器;RI
(2)末端フェニル基量及び末端フェニル基濃度:
樹脂サンプル0.05gを、1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃で核磁気共鳴分析装置を用いて以下の条件で1H−NMRスペクトルを測定して、プレポリマー(PP)の末端フェニル基量を算出した。
[測定条件]
装置:日本電子JEOL LA-500 (500MHz)
測定核:1H
relaxation delay : 1s
x_angle : 45deg
x_90_width : 20μs
x_plus : 10μs
scan : 500times
[算出方法]
7.4ppm前後の末端フェニル基と7.0ppm〜7.3ppm付近のフェニレン基(BPA骨格由来)の積分比より、PPの末端フェニル基量及び末端フェニル基濃度を求めた。
(3)末端水酸基濃度:
樹脂サンプル0.05gを1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃で核磁気共鳴分析装置を用いて上記と同様の条件で1H−NMRを測定しプレポリマー(PP)及び高分子量化されたポリカーボネート(PC)中の末端水酸基濃度(OH濃度)を測定した。
[算出]
4.7ppmの水酸基ピークと7.0ppm〜7.5ppm付近のフェニル及びフェニレン基(末端フェニル基及びBPA骨格由来のフェニレン基)の積分比より、PP及び高分子量化されたPC中の末端水酸基濃度(OH濃度)を算出した。
(4)N値(構造粘性指数):
下記数式により算出した。
N値=(log(Q160値)−log(Q10値))/(log160−log10)・・・(I)
Q160値は、280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)であり、(株)島津製作所製:CFT-500D型を用いて測定し、ストローク=7.0mm〜10.0mmより算出した。なお、ノズル径1mm×ノズル長10mmを使用した。
Q10値は、280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)であり、(株)島津製作所製:CFT-500D型を用いて測定し、ストローク=7.0mm〜10.0mmより算出した。ノズル径1mm×ノズル長10mmを使用した。
(5)YI値(黄色度):
無色又は白色から色相が黄方向に離れる度合いをいう。樹脂サンプル6gを60mlの塩化メチレンに溶解し、液状にて、分光色差計(日本電飾工業株式会社製:SE2000)を用いてJIS K7105の規格に準拠して測定した。
(6)異種構造量:
樹脂サンプル0.05gを1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃で核磁気共鳴分析装置を用いて上記と同様の条件で1H−NMRを用いて高分子量化されたポリカーボネート(PC)中の異種構造量を測定した。具体的には、文献Polymer 42 (2001)7653-7661中のP.7659に記載された1H−NMRの帰属により、Ha及びHbの存在比から、以下の異種構造(PSA)量を測定した。
[算出]
上記異種構造ユニット中のHa(8.01ppm付近)及びHb(8.15ppm付近)のシグナルと7.0ppm〜7.5ppm付近のフェニル及びフェニレン基(末端フェニル基及びBPA骨格由来のフェニレン基)のシグナルの積分比より、異種構造量を算出した。
[実施例1]
図1に示す主原料調製槽2器(1Ra、1Rb)、連結剤調製槽2器(2Ra、2Rb)、縦型攪拌反応器4器(3R〜6R)及び横型攪拌反応器1器(7R)を有する連続製造装置により、以下の条件でポリカーボネート樹脂を製造した。
先ず、各反応器及び各予熱器を、予め以下示す反応条件に応じた内温・圧力に設定した。
(予熱器1H)225℃
(第1縦型攪拌反応器3R)
内温:215℃、圧力:200torr(26.6kPa)、加熱媒体の温度245℃
(予熱器3H)235℃
(第2縦型攪拌反応器4R)
内温:225℃、圧力:150torr(20kPa)、加熱媒体の温度255℃
(予熱器4H)245℃
(第3縦型攪拌反応器5R)
内温:235℃、圧力:100torr(13.3kPa)、加熱媒体の温度265℃
(予熱器5H)270℃
(第4縦型攪拌反応器6R)
内温:260℃、圧力:0.1torr(13.3Pa)、加熱媒体の温度280℃
窒素ガス雰囲気下、主原料調製槽1Ra及び1Rbにおいて原料モル比(ジフェニルカーボネート/ビスフェノールA(BPA))が1.125となるように、ジフェニルカーボネート及びBPAを随時混合調製した溶融混合物を24kg/hrの流量で、第1縦型攪拌重合槽3Rに連続的に供給し、第1縦型攪拌重合槽3Rでの平均滞留時間が60分となるように槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ液面レベルを一定に保った。この時、触媒として0.005mol/Lの炭酸セシウム(Cs2CO3)水溶液をBPAの1モルに対し0.25×10−6molの割合(2.6ml/hr)で、1Catより添加した。
第1縦型攪拌反応器3Rの槽底から排出された重合反応液は、引き続き、第2縦型攪拌反応器4R、第3縦型攪拌反応器5R、第4縦型攪拌反応器6R、混合機6Mixへ連続供給された。
同時に、アンカー翼を具備した触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)においてジアルコール化合物(2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパングリコール;BEPG;融点43℃)1,000gを投入した後、窒素置換を適宜実施し、75℃〜80℃で加熱溶融し、触媒として0.005mol/Lの炭酸セシウム(Cs2CO3)水溶液20mlを添加し、さらに、0.1torr(13.3Pa)で脱水処理(最終水分含有量0.03質量%)を行って触媒組成物を調製した。
混合機6Mixには、プレポリマー(PP)を流速13,200g/hrで供給すると同時に、上記の通りに調製した溶融粘度40P(poise)の触媒組成物を触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)から定量ポンプにて移送管を介して120g/hr(PPの全末端量(封止末端フェニル基量)1モルに対し0.25モル)の流量で連続供給した。このとき、触媒の添加量はプレポリマーを構成するBPAの1モルに対し0.25×10−6molの割合であった。なお、予熱器6Hの温度は290℃、混合機6Mixの温度は280℃、圧力は760torr(0.10MPa)、加熱媒体の温度は290℃であった。
なお、移送管は二重管構造となっており、外側を温度制御用の熱媒体が循環している。熱媒体の温度を100℃〜200℃に制御することで、移送管の温度を100℃〜200℃で制御した。移送管の内径は1.18mm(1/8インチ)、長さは10mであり、触媒組成物の移送管内滞留時間(移送時間)は0.61時間(hr)であった。
また触媒組成物調製槽は触媒組成物抜出口を備え、触媒組成物抜出口が、移送管を介して接続されるプレポリマー混合槽よりも上方に配置した。移送管とプレポリマー混合槽(混合機6Mix)とは、フランジを介して接続されている。
混合機6Mixへ連続供給されたPPのポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は30,000、末端フェニル基濃度は6.0mol%、末端水酸基濃度は200ppmであった。
第5横型攪拌反応器7Rには、混合機6MixからPP混合物が流速13,200g/hrで供給された。このときの第5横型攪拌反応器7Rの器内圧力は0.5torr(66.7Pa)の減圧条件に設定したが、減圧度は設定通りの圧力であり、変動なく安定運転できた。また加熱熱媒体の温度は320℃に設定し、内温度(反応温度)は300℃
〜320℃にて運転を行なった。
重合反応(高分子量化反応)の間、各縦型反応器の平均滞留時間が60分、第5横型攪拌反応器7Rの平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また、重合反応と同時に副生するフェノールの留去を行った。第5横型攪拌反応器7Rの撹拌翼7Yは20rpmで撹拌した。
混合機6Mixで混合を行った後に得られたプレポリマー混合物の末端水酸基濃度は2,000ppm、ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は26,500であった。
第5横型攪拌反応器7Rで、反応温度310℃、圧力0.5torrで連結高分子量化反応を行った後に得られたポリカーボネート樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は61,000であった。また、末端水酸基濃度は510ppm、N値は1.20、YI値は1.5、異種構造(PSA)量は700ppmであった。
実施例1で使用した反応器は、以下の通りである。
第1〜第4縦型攪拌反応器
製造元;住友重機械工業株式会社
材質;SUS316L電解研磨
攪拌翼;第1〜第3縦型攪拌反応器はマックスブレンド翼
第4縦型攪拌反応器はダブルヘリカルリボン翼
触媒組成物調製槽
材質;SUS316
混合機(インラインミキサー)
株式会社栗本鐵工所製 S1KRCリアクター
サイズ;L/D=10.2 胴体有効容積=0.12L
触媒組成物の送液ポンプ
富士テクノ工業株式会社製連続無脈動定量ポンプ
移送管
材質:SUS316
構造:二重管
第5横型攪拌反応器
製造元 ;株式会社日立製作所
機器種類;メガネ翼重合機 有効容積=13L
材質;SUS316L電解研磨
抜き出し機;スクリュ型引き抜き機
器内の酸素濃度の調整方法;窒素による加圧脱揮置換
なお、反応混合物の滞留時間は、横型攪拌反応器の芳香族ポリカーボネートプレポリマーの供給口から、製造される高分子量ポリカーボネート樹脂の出口までの反応混合物の平均滞留時間である。
[実施例2]
触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)から混合機6Mixへの移送管の長さを50mとし、移送時間を3.06hrとしたこと以外の条件は実施例1と同様とし、高分子量芳香族ポリカーボネートを製造した。
[実施例3]
触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)から混合機6Mixへの移送管の太さを3/16インチとし、移送時間を1.38hrとしたこと以外の条件は実施例1と同様とし、高分子量芳香族ポリカーボネートを製造した。
[実施例4]
触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)から混合機6Mixへの移送管の温度を70℃〜80℃で制御した。制御温度以外の条件は実施例1と同等とし、高分子量芳香族ポリカーボネートを製造した。
[実施例5]
触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)から混合機6Mixへの移送管の温度を240℃〜250℃で制御した。制御温度以外の条件は実施例1と同等とし、高分子量芳香族ポリカーボネートを製造した。
[比較例1]
触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)から混合機6Mixへの移送管の長さを200mとし、移送時間を12.23hrとした。また移送配管の温度を140℃〜150℃で制御した。これらの条件以外は実施例4と同様とし、高分子量芳香族ポリカーボネートを製造した。
[比較例2]
触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)から混合機6Mixへの移送管の太さを1/2インチとし、移送時間を10.08hrとしたこと以外の条件は比較例1と同様とし、高分子量芳香族ポリカーボネートを製造した。
[比較例3]
触媒組成物調製槽(2Ra、2Rb)から混合機6Mixへの移送管の温度を290℃〜300℃で制御し、配管径を1/2インチとし、移送時間を10.08hrとした。これ以外の条件は、比較例1と同様として、高分子量芳香族ポリカーボネートを試みた。
しかしながら、移送管の内圧が著しく上昇した上、圧力変動が激しく、送液不可であった。
以上の結果を下表にまとめる。
比較例1〜2においては、高荷重時のQ160値が測定不能であり、N値を算出できなかった。これは取得樹脂が低分子量であるためと考えられる。
比較例3においては、移送管の内圧が著しく上昇した上、圧力変動が激しく、触媒組成物の移送が不可能であり、安定運転ができずに樹脂を取得することができなかった。