以下、本発明の第1及び第2の態様に係る構造体について説明する。
〔第1の態様〕
まず、本発明の第1の態様に係る構造体について説明する。
図1は、本発明の第1及び第2の態様に係る構造体の断面構造を示す模式図である。図1に示すように、本発明の第1の態様に係る構造体1は、樹脂2と強化繊維3と空隙4から構成されている。
ここで、樹脂2としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を例示できる。また、本発明においては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とがブレンドされていてもよく、その場合は、樹脂を構成する成分のうち、50質量%を超える量を占める成分を樹脂の名称とする。
本発明における1つの形態において、樹脂2は、少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂を含むことが望ましい。熱可塑性樹脂としては、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」等の結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」等の非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、及びアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体及び変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂を例示できる。中でも、得られる構造体の軽量性の観点からはポリオレフィンが望ましく、強度の観点からはポリアミドが望ましく、表面外観の観点からポリカーボネートやスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が望ましく、耐熱性の観点からポリアリーレンスルフィドが望ましく、連続使用温度の観点からポリエーテルエーテルケトンが望ましく、さらに耐薬品性の観点からフッ素系樹脂が望ましく用いられる。
本発明における1つの形態において、樹脂2は、少なくとも1種類以上の熱硬化性樹脂を含むことが望ましい。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド、これらの共重合体、変性体、及びこれらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂を例示できる。また、本発明の目的を損なわない範囲で、本発明に係る構造体は、エラストマー又はゴム成分等の耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有してもよい。充填材や添加剤の例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、又は、カップリング剤を例示できる。
樹脂2の体積含有率は、2.5体積%以上、85体積%以下の範囲内にある。樹脂2の体積含有率が2.5体積%未満である場合、構造体1中の強化繊維3同士を結着し、強化繊維3の補強効果を十分なものとすることができず、構造体1の力学特性、とりわけ曲げ特性を満足できなくなるので望ましくない。一方、樹脂2の体積含有率が85体積%より大きい場合には、樹脂量が多すぎることから、空隙構造をとることが困難となるので望ましくない。
強化繊維3としては、アルミニウム、黄銅、ステンレス等の金属繊維、PAN系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス等の絶縁性繊維、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリエチレン等の有機繊維、シリコンカーバイト、シリコンナイトライド等の無機繊維を例示できる。また、これらの繊維に表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、導電体として金属の被着処理の他に、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理等がある。また、これらの繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、軽量化効果の観点から、比強度、比剛性に優れるPAN系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が望ましく用いられる。また、得られる構造体の経済性を高める観点からは、ガラス繊維が望ましく用いられ、とりわけ力学特性と経済性とのバランスから炭素繊維とガラス繊維とを併用することが望ましい。さらに、得られる構造体の衝撃吸収性や賦形性を高める観点からは、アラミド繊維が望ましく用いられ、とりわけ力学特性と衝撃吸収性とのバランスから炭素繊維とアラミド繊維とを併用することが望ましい。また、得られる構造体の導電性を高める観点からは、ニッケルや銅やイッテルビウム等の金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。これらの中で、強度と弾性率等の力学的特性に優れるPAN系の炭素繊維をより望ましく用いることができる。
強化繊維3が、不連続であり、略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散していることが望ましい。強化繊維3をかかる態様とすることで、シート状の構造体の前駆体ないし構造体を、外力を加えて成形する場合に、複雑形状への賦型が容易となる。また、強化繊維3をかかる態様とすることで、強化繊維3によって形成された空隙4が緻密化し、構造体1中における強化繊維3の繊維束端における弱部が極小化できるため、優れた補強効率及び信頼性に加えて、等方性も付与される。ここで、略モノフィラメントとは、強化繊維単糸が500本未満の細繊度ストランドにて存在することを指す。さらに望ましくは、モノフィラメント状に分散していることである。
ここで、略モノフィラメント状、又は、モノフィラメント状に分散しているとは、構造体1中にて任意に選択した強化繊維3について、その二次元接触角が1°以上である単繊維の割合(以下、繊維分散率とも称す)が80%以上であることを指し、言い換えれば、構造体1中において単繊維の2本以上が接触して平行した束が20%未満であることをいう。従って、ここでは、少なくとも強化繊維3におけるフィラメント数100本以下の繊維束の質量分率が100%に該当するものが特に好ましい。
二次元接触角とは、不連続な強化繊維の場合、単繊維とこの単繊維が接触する単繊維とで形成される角度のことであり、接触する単繊維同士が形成する角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。この二次元接触角について、図面を用いてさらに説明する。図2は、面方向(図2(a))及び厚み方向(図2(b))から観察した時の強化繊維マットにおける強化繊維の分散状態の一例を示す模式図である。単繊維11aを基準とすると、単繊維11aは図2(a)では単繊維11b〜11fと交わって観察されるが、図2(b)では単繊維11aは単繊維11e,11fとは接触していない。この場合、基準となる単繊維11aについて、二次元接触角の評価対象となるのは単繊維11b〜11dであり、接触する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0°以上90°以下の範囲内にある鋭角側の角度Aである。
二次元接触角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば構造体1の表面から強化繊維3の配向を観察する方法を例示できる。この場合、構造体1の表面を研磨して強化繊維3を露出させることで、強化繊維3をより観察しやすくなる。また、X線CT透過観察を行って強化繊維3の配向画像を撮影する方法も例示できる。X線透過性の高い強化繊維3の場合には、強化繊維3にトレーサ用の繊維を混合しておく、又は、強化繊維3にトレーサ用の薬剤を塗布しておくと、強化繊維3を観察しやすくなるため望ましい。また、上記方法で測定が困難な場合には、加熱炉等により構造体1を高温下において樹脂成分を焼失させた後、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて取り出した強化繊維3から強化繊維3の配向を観察する方法を例示できる。
上述した観察方法に基づいて繊維分散率は次の手順で測定する。すなわち、無作為に選択した単繊維(図2における単繊維11a)に対して接触している全ての単繊維(図2における単繊維11b〜11d)との二次元接触角を測定する。これを100本の単繊維について行い、二次元接触角を測定した全ての単繊維の総本数と二次元接触角が1°以上である単繊維の本数との比率から割合を算出する。
さらに、強化繊維3はランダムに分散していることが、とりわけ望ましい。ここで、強化繊維3がランダムに分散しているとは、構造体1における任意に選択した強化繊維3の二次元配向角の算術平均値が30°以上、60°以下の範囲内にあることをいう。かかる二次元配向角とは、強化繊維3の単繊維とこの単繊維と交差する単繊維とで形成される角度のことであり、交差する単繊維同士が形成する角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。
この二次元配向角について、図面を用いてさらに説明する。図2(a),(b)において、単繊維11aを基準とすると、単繊維11aは他の単繊維11b〜11fと交差している。ここで、交差とは、観察する二次元平面において、基準とする単繊維が他の単繊維と交わって観察される状態のことを意味し、単繊維11aと単繊維11b〜11fとが必ずしも接触している必要はなく、投影して見た場合に交わって観察される状態についても例外ではない。つまり、基準となる単繊維11aについて見た場合、単繊維11b〜11fの全てが二次元配向角の評価対象であり、図2(a)中において二次元配向角は交差する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度Aである。
二次元配向角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば、構成要素の表面から強化繊維3の配向を観察する方法を例示でき、上述した二次元接触角の測定方法と同様の手段を取ることができる。二次元配向角の平均値は、次の手順で測定する。すなわち、無作為に選択した単繊維(図2における単繊維11a)に対して交差している全ての単繊維(図2における単繊維11b〜11f)との二次元配向角の平均値を測定する。例えば、ある単繊維に交差する別の単繊維が多数の場合には、交差する別の単繊維を無作為に20本選び測定した算術平均値を代用してもよい。この測定を別の単繊維を基準として合計5回繰り返し、その算術平均値を二次元配向角の算術平均値として算出する。
強化繊維3が略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散していることで、上述した略モノフィラメント状に分散した強化繊維3により与えられる性能を最大限まで高めることができる。また、構造体1において力学特性に等方性を付与できる。かかる観点から、強化繊維3の繊維分散率は90%以上であることが望ましく、100%に近づくほどより望ましい。また、強化繊維3の二次元配向角の算術平均値は、40°以上、50°以下の範囲内にあることが望ましく、理想的な角度である45°に近づくほど望ましい。
一方、強化繊維3が不織布の形態をとらない例としては、強化繊維3が一方向に配列されてなるシート基材、織物基材、及びノンクリンプ基材等がある。これらの形態は、強化繊維3が規則的に密に配置されるため、構造体1中の空隙4が少なくなってしまい、樹脂2の含浸が極めて困難となり、未含浸部を形成したり、含浸手段や樹脂種の選択肢を大きく制限したりする場合がある。
強化繊維3の形態としては、構造体1と同程度の長さの連続性強化繊維、又は、所定長に切断された有限長の不連続性強化繊維のいずれであってもよいが、樹脂2を容易に含浸させたり、その量を容易に調整できたりする観点からは、不連続性強化繊維であることが望ましい。
強化繊維3の体積含有率は、0.5体積%以上、55体積%以下の範囲内にある。強化繊維3の体積含有率が0.5体積%未満である場合、強化繊維3に由来する補強効果を十分なものとすることができないので望ましくない。一方、強化繊維3の体積含有率が55体積%より大きい場合には、強化繊維3に対する樹脂2の体積含有率が相対的に少なくなるため、構造体1中の強化繊維3同士を結着し、強化繊維3の補強効果を十分なものとすることができず、構造体1の力学特性、とりわけ曲げ特性を満足できなくなるので望ましくない。
強化繊維3は樹脂2に被覆されており、樹脂2の厚みが1μm以上、15μm以下の範囲内にあることが望ましい。樹脂2に被覆された強化繊維3の被覆状態は、少なくとも構造体1を構成する強化繊維3の単繊維同士の交差する点が被覆されていれば、構造体1の形状安定性や、厚み制御の容易さ及び自由度の観点から十分であるが、さらに望ましい態様とすれば、樹脂2は、強化繊維3の周囲に、上述の厚みで被覆された状態であることが望ましい。この状態は、強化繊維3の表面が樹脂2によって露出していない、言い換えれば、強化繊維3が樹脂2により電線状の皮膜を形成していることを意味する。このことにより、構造体1は、さらに、形状の安定性を有すると共に、力学特性の発現を十分なものとする。また、樹脂2に被覆された強化繊維3の被覆状態は、その強化繊維3の全てにおいて被覆されている必要は無く、本発明に係る構造体1の形状安定性や、曲げ弾性率、曲げ強度を損なわない範囲内であればよい。
強化繊維3の質量平均繊維長が1mm以上、15mm以下の範囲内にあることが望ましい。これにより、強化繊維3の補強効率を高めることができ、構造体1に優れた力学特性を与えられる。強化繊維3の質量平均繊維長が1mm未満である場合、構造体1中の空隙4を効率よく形成できないため、比重が高くなる場合があり、言い換えれば、同一質量でありながら所望する厚さの構造体1を得ることが困難となるので望ましくない。一方、強化繊維3の質量平均繊維長が15mmより長い場合には、構造体1中で強化繊維3が、自重により屈曲しやすくなり、力学特性の発現を阻害する要因となるので望ましくない。質量平均繊維長は、構造体1の樹脂成分を焼失や溶出等の方法により取り除き、残った強化繊維3から無作為に400本を選択し、その長さを10μm単位まで測定し、それらの平均長さとして算出できる。
本発明における空隙4とは、樹脂2により被覆された強化繊維3が柱状の支持体となり、それが重なり合い、又は、交差することにより形成された空間のことを指す。例えば強化繊維3に樹脂2が予め含浸された構造体前駆体を加熱して構造体を得る場合、加熱に伴う樹脂2の溶融ないしは軟化により、強化繊維3が起毛することで空隙4が形成される。これは、構造体前駆体において、加圧により圧縮状態とされていた内部の強化繊維3が、その弾性率に由来する起毛力によって起毛する性質に基づく。また、構造体1中における空隙4の含有率は、10体積%以上、99体積%以下の範囲内にある。空隙4の含有率が10体積%未満である場合、構造体1の比重が高くなるため軽量性を満足できないため望ましくない。一方、空隙4の含有率が99体積%より大きい場合には、言い換えれば、強化繊維3の周囲に被覆された樹脂2の厚みが薄くなるため、構造体1中における強化繊維3同士の補強が十分に行われないために、力学特性が低くなるので望ましくない。空隙4の含有率の上限値は97体積%であることが望ましい。本発明において、体積含有率は構造体1を構成する樹脂2と強化繊維3と空隙4のそれぞれの体積含有率の合計を100体積%とする。
強化繊維3の長さをLf、構造体1の断面方向における強化繊維3の配向角度をθfとしたとき、構造体1の厚みStは条件式:St≧Lf2・(1−cos(θf))を満足する。構造体1の厚みStが上記条件式を満足しない場合、構造体1中における強化繊維3が屈曲している、ないし、得たい厚みの構造体1と繊維長さとのバランスが劣るということを示す。これにより、構造体1は、投入した強化繊維3の特徴を十分に発揮できないために厚み設計の自由度が劣ることを示し、さらには、構造体1の力学特性のうち、強化繊維3の引張強度や引張弾性率を利用する特性については、強化繊維3の直進性が失われていることにより、効率的な補強効果を得ることができないため望ましくない。上記条件式において、強化繊維3の長さとその配向角度が形成する構造体1の特性である曲げ弾性率と比曲げ弾性率とのバランスが得られることや、また、構造体1中の繊維長さとその配向角度により、成形工程中の固化ないしは硬化以前の状態での変形がしやすく、所望する構造体1の成形が行いやすいことから、構造体1の厚みStの2%以上、20%以下の値の範囲内が好ましく、とりわけ5%以上、18%以下の値の範囲内が好ましい。なお、条件式に使用する単位は、St[mm]、Lf[mm]、θf[°]である。
ここで、強化繊維3の長さLfは、構造体1の樹脂成分を焼失や溶出等の方法により取り除き、残った強化繊維3から無作為に400本を選択し、その長さを10μm単位まで測定し、それらの長さから算出した質量平均繊維長として算出できる。また、構造体1の断面方向における強化繊維3の配向角度θfとは、構造体1の断面方向に対する傾き度合いであって、言い換えれば、厚さ方向に対する強化繊維3の傾き度合いである。値が大きいほど厚み方向に立って傾いていることを示し、0°以上、90°以下の範囲で与えられる。すなわち、強化繊維3の配向角度θfをかかる範囲内とすることで、構造体1における補強機能をより効果的に発現できる。強化繊維3の配向角度θfの上限値には特に制限はないが、構造体1とした際の曲げ弾性率の発現に鑑みて、60°以下であることが望ましく、さらには45°以下であることがより望ましい。また、強化繊維3の配向角度θfが3°未満である場合、構造体1中の強化繊維3が平面状、言い換えれば2次元に配向した状態となるので、構造体1の厚みの自由度が減少し、軽量性を満足できないため望ましくない。そのため強化繊維3の配向角度θfは3°以上であることが好ましい。
強化繊維3の配向角度θfは、構造体1の面方向に対する垂直断面の観察に基づいて測定できる。図3は、本発明の第1及び第2の態様に係る構造体の面方向(図3(a))及び厚み方向(図3(b))の断面構造の一例を示す模式図である。図3(a)において、強化繊維3a,3bの断面は、測定を簡便にするため楕円形状に近似されている。ここで、強化繊維3aの断面は、楕円アスペクト比(=楕円長軸/楕円短軸)が小さく見られ、対して強化繊維3bの断面は、楕円アスペクト比が大きく見られる。一方、図3(b)によると、強化繊維3aは、厚み方向Yに対してほぼ平行な傾きを持ち、強化繊維3bは、厚み方向Yに対して一定量の傾きを持っている。この場合、強化繊維3bについては、構造体1の面方向Xと繊維主軸(楕円における長軸方向)αとがなす角度θxが、強化繊維3bの配向角度θfとほぼ等しくなる。一方、強化繊維3aについては、角度θxと配向角度θfの示す角度に大きな乖離があり、角度θxが配向角度θfを反映しているとはいえない。従って、構造体1の面方向に対する垂直断面から配向角度θfを読み取る場合、繊維断面の楕円アスペクト比が一定値以上のものを抽出することで配向角度θfの検出精度を高めることができる。
抽出対象となる楕円アスペクト比の指標としては、単繊維の断面形状が真円に近い、すなわち強化繊維の長尺方向に垂直な断面における繊維アスペクト比が1.1以下である場合、楕円アスペクト比が20以上の強化繊維3について面方向Xと繊維主軸αとのなす角度を測定し、これを配向角度θfとして採用する方法を利用できる。一方、単繊維の断面形状が楕円形や繭形等であり、繊維アスペクト比が1.1より大きい場合には、より大きな楕円アスペクト比を持つ強化繊維3に注目し、配向角度θfを測定した方がよく、繊維アスペクト比が1.1以上、1.8未満の場合には楕円アスペクト比が30以上、繊維アスペクト比が1.8以上、2.5未満の場合には楕円アスペクト比が40以上、繊維アスペクト比が2.5以上の場合には楕円アスペクト比が50以上の強化繊維3を選び、配向角度θfを測定するとよい。
JIS K7220で測定される構造体1の50%圧縮時の面内方向の圧縮強度は3MPa以上である。面内方向とは、構造体において、平面方向に対する垂直断面の観察に基づき測定される強化繊維3の配向方向と直交する方向とする。ここで、配向方向とは強化繊維3の長さ方向を意味する。面内方向の圧縮強度が3MPa以上であることにより、構造体1は形状保持性に優れるため、例えば製品として他部材に取り付ける際のハンドリング性に優れる。さらに、実用上、構造体1の面内方向を負荷がかかる方向として用いた場合、軽微な荷重には耐えることができ、さらに、一定以上の荷重が加わった場合には変形するため、構造体1を製品として用いた場合に、取り付け時における作業者への保護の観点から好ましい。面内方向の圧縮強度は、3MPa以上あれば実用上問題ないが、好ましくは5MPa以上である。
構造体1の面外方向の圧縮強度は10MPa以上であるとよい。面外方向とは、上述の面内方向と直交する方向である。圧縮強度が10MPa以上であることにより、構造体1の形状保持性に優れるため、これも、製品として他の部材に取り付ける際のハンドリング性に優れることとなる。また、本発明のような空隙4を含有する構造体1の場合、面外方向の圧縮強度が高いことは、結果として構造体1の曲げ剛性を高めることができるため望ましい。さらには、面外方向を構造体1において負荷がかかる方向として用いた場合、とりわけ高い荷重が負荷された場合においても、形状を維持できることから製品の形状安定性や衝撃吸収等の観点から望ましい。特に望ましい圧縮強度は50MPa以上である。
構造体1の曲げ弾性率をEc、構造体1の比重をρとしたとき、Ec1/3・ρ−1として表される構造体1の比曲げ弾性率は3以上、20以下の範囲内にある。構造体1の比曲げ弾性率が3未満である場合、曲げ弾性率が高くとも、比重も高い状態であり、所望する軽量化効果が得られないので望ましくない。一方、構造体1の比曲げ弾性率が20より大きい場合には、軽量化効果は十分であるものの、曲げ弾性率が低いことを指し示しており、構造体1として所望される形状を保持することが困難であることや、構造体1自身の曲げ弾性率が劣ることから望ましくない。一般的に鋼材やアルミニウムの比曲げ弾性率は1.5以下であり、これらの金属材料よりも極めて優れた比曲げ弾性率の領域となる。さらには、軽量化効果に着目される炭素繊維強化樹脂複合材料の一般的な比曲げ弾性率である2.3を超える3以上であること、さらに望ましくは5以上である。
構造体1の曲げ弾性率Ecは、3GPa以上、望ましくは6GPa以上であるとよい。構造体1の曲げ弾性率Ecが3GPa未満である場合、構造体1として使用する範囲に制限が生じるため望ましくない。また、構造体1の設計を容易にするために、曲げ弾性率Ecは等方性を有していることが望ましい。曲げ弾性率Ecの上限については制限を設けないが、一般的に強化繊維と樹脂とからなる構造体では、その構成成分である強化繊維及び樹脂それぞれの弾性率から算出される値が上限となり得る。本発明に係る構造体においては、構造体を単独で使用する場合においても、他の部材とあわせて使用する場合においても、構造体自身の曲げ弾性率Ecを用いて部材の設計を行い、実用に供するためには5GPaもあれば十分である。
構造体1の比重ρは0.9g/cm3以下であることが望ましい。構造体1の比重ρが0.9g/cm3より大きい場合、構造体1とした場合の質量が増すことを意味し、結果、製品とした場合の質量の増加を招くこととなるので望ましくない。比重ρの下限については制限を設けないが、一般的に強化繊維と樹脂とからなる構造体では、その構成成分である強化繊維、樹脂、及び空隙それぞれの体積割合から算出される値が下限となり得る。本発明に係る構造体においては、構造体を単独で使用する場合においても、他の部材とあわせて使用する場合においても、構造体自身の比重ρは、使用する強化繊維や樹脂により異なるが、構造体の力学特性を保持するという観点から、0.03g/cm3以上であることが望ましい。
構造体1の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分における空隙率が0体積%以上、10体積%未満の範囲内にあり、残りの部分の空隙率が10体積%以上、99体積%以下の範囲内にあることが望ましい。かかる空隙率は小さいほど力学特性に優れ、また、大きいほど軽量性に優れる。構造体1に言い換えれば、構造体1が同一構成の材料からなる場合、構造体1の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分における空隙率が0体積%以上、10体積%未満であることにより、構造体1の力学特性を担保し、残りの部分の空隙率が10体積%以上、99体積%以下の範囲内にあることにより軽量特性を満足させることができるため望ましい。
本発明において構造体1の厚みは、厚みを求めたい表面上の1点とその裏側の表面とを結ぶ最短の距離から求めることができる。厚み方向の中点とは構造体1の厚みの中間点を意味する。構造体の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分とは、構造体1の表面とその厚み方向の中点までの距離を100%とした際に、構造体1の表面から30%の距離までを含めた部分のことを意味する。ここでの残りの部分とは、構造体1から構造体1の一方の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分及び構造体1の他方の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分を除いた残りの部分を意味する。図4に示すように、構造体1の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分R1及び残りの部分R2は、構造体1の厚み方向の異なる位置に存在してもよいし、図5に示すように、面方向の異なる位置に存在してもよい。
本発明における強化繊維3は不織布状の形態をとることが、強化繊維3への樹脂2の含浸の容易さの観点から望ましい。さらに、強化繊維3が、不織布状の形態を有していることにより、不織布自体のハンドリング性の容易さに加え、一般的に高粘度とされる熱可塑性樹脂の場合においても含浸を容易なものとできるため望ましい。ここで、不織布状の形態とは、強化繊維3のストランド及び/又はモノフィラメントが規則性なく面状に分散した形態を指し、チョップドストランドマット、コンティニュアンスストランドマット、抄紙マット、カーディングマット、エアレイドマット等を例示できる(以下、これらをまとめて強化繊維マットと称す)。
構造体1を構成する強化繊維マットの製造方法としては、例えば強化繊維3を予めストランド及び/又は略モノフィラメント状に分散して強化繊維マットを製造する方法がある。強化繊維マットの製造方法としては、強化繊維3を空気流にて分散シート化するエアレイド法や、強化繊維3を機械的に櫛削りながら形状を整えシート化するカーディング法等の乾式プロセス、強化繊維3を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスを公知技術として挙げることができる。強化繊維3をよりモノフィラメント状に近づける手段としては、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目をファインにする方法や、カードの回転速度を調整する方法等を例示できる。湿式プロセスにおいては、強化繊維3の攪拌条件を調整する方法、分散液の強化繊維濃度を希薄化する方法、分散液の粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法等を例示できる。特に、強化繊維マットは湿式プロセスで製造することが望ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したりすることで強化繊維マットの強化繊維3の割合を容易に調整できる。例えば、分散液の流速に対してメッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる強化繊維マット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い強化繊維マットを製造可能である。強化繊維マットは、強化繊維3単体から構成されていてもよく、強化繊維3が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていたり、強化繊維3が有機化合物や無機化合物と混合されていたり、強化繊維3同士が樹脂成分で目留めされていてもよい。
さらに、強化繊維マットには予め樹脂2を含浸させておき、構造体前駆体としておくこともできる。本発明に係る構造体前駆体を製造する方法としては、強化繊維マットに樹脂2を溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、強化繊維マットに含浸させる方法を用いることが、製造の容易さの観点から望ましい。具体的には、強化繊維マットの厚み方向の両側から樹脂2を配置した積層物を溶融含浸させる方法が望ましく例示できる。
上記各方法を実現するための設備としては、圧縮成形機やダブルベルトプレスを好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるので連続生産性に優れる。
本発明に係る構造体1を製造する際には、少なくとも以下の工程[1]及び[2]により製造される方法を採用することが、製造の容易さの観点から好ましい。
工程[1]:樹脂2が溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、樹脂2を強化繊維マットに含浸せしめて構造体前駆体を作製する工程。
工程[2]:構造体前駆体を加熱された状態で厚み調整をすることにより膨張させる工程。
工程[2]は工程[1]にて得られた構造体前駆体を加熱された状態で厚み調整をすることにより膨張させる工程である。このとき加熱される温度は構造体1を構成する樹脂2が熱可塑性樹脂である場合、溶融ないし軟化せしめるに十分な熱量を与えることが、製造される構造体1の厚み制御及び製造速度の観点から好ましく、具体的には、溶融温度に対し10℃以上高く、且つ、熱可塑性樹脂が熱分解温度以下の温度を付与することが好ましい。また、樹脂2として熱硬化性樹脂を用いる場合、架橋構造を形成して硬化する前の熱硬化性樹脂原料を溶融ないし軟化せしめるに十分な熱量を与えることが、製造される構造体1の厚み制御及び製造速度の観点から好ましい。
厚み制御を行う方法としては、加熱される構造体前駆体を目的の厚みに制御できれば方法によらないが、金属板等を用いて厚みを拘束する方法、構造体前駆体に付与する圧力により厚みを制御する方法等が製造の簡便さの観点から好ましい方法として例示される。上記方法を実現するための設備としては、圧縮成形機やダブルベルトプレスを好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用の2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるため連続生産性に優れる。
強化繊維マットが不織布の形態をとらない例としては、強化繊維3が一方向に配列されてなるシート基材、織物基材、及びノンクリンプ基材等がある。これらの形態は、強化繊維3が規則的に密に配置されるため、強化繊維マット中の空隙部が少なく、熱可塑性樹脂が十分なアンカリング構造を形成しないため、それをコア形成層にすると接合能力が低下する。また、樹脂2が熱可塑性樹脂の場合、含浸が極めて困難となり、未含浸部を形成したり、含浸手段や樹脂種の選択肢を大きく制限したりする。
本発明においては、本発明の特徴を損なわない範囲において、構造体1又は構造体前駆体をコア層に用い、且つ、連続した強化繊維3に樹脂を含浸せしめたシート状中間基材をスキン層に用いたサンドイッチ構造体とすることもできる。ここで、連続した強化繊維3とは、少なくとも一方向に100mm以上の長さで連続したものであり、その多数本が一方向に配列した集合体、いわゆる強化繊維束は、サンドイッチ構造体の全長にわたり連続している。連続した強化繊維3からなるシート状中間基材の形態としては、多数本の連続した強化繊維3からなる強化繊維束から構成されたクロス、多数本の連続した強化繊維3が一方向に配列された強化繊維束(一方向性繊維束)、この一方向性繊維束から構成された一方向性クロス等である。強化繊維3は、同一の形態の複数本の繊維束から構成されていても、又は、異なる形態の複数本の繊維束から構成されていてもよい。一つの強化繊維束を構成する強化繊維数は、通常、300〜48,000本であるが、プリプレグの製造やクロスの製造を考慮すると、望ましくは300〜24,000本であり、より望ましくは1,000〜12,000本である。
曲げ弾性率をコントロールするために、強化繊維3の方向を変えて積層する形態が望ましく用いられる。特に、サンドイッチ構造体の弾性率や強度を効率的に高める上で、繊維束を一方向に引きそろえた連続した強化繊維(UDと称する)を使用することが望ましい。
構造体1は、例えば、「パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、PDA(電子手帳等の携帯情報端末)、ビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品等の筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、又はそのケース」等の電気、電子機器部品、「各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム」、「フード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジ等の、外板、又は、ボディー部品」、「バンパー、バンパービーム、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツ等の外装部品」、「インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュール等の内装部品」、又は、「モーター部品、CNGタンク、ガソリンタンク」等の自動車、二輪車用構造部品、「バッテリートレイ、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、プロテクター、ランプリフレクター、ランプハウジング、ノイズシールド、スペアタイヤカバー」等の自動車、二輪車用部品、「遮音壁、防音壁等の壁内部材」等の建材、「ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ、シート」等の航空機用部品が挙げられる。力学特性の観点からは、自動車内外装、電気・電子機器筐体、自転車、スポーツ用品用構造材、航空機内装材、輸送用箱体、建材に望ましく用いられる。なかでも、とりわけ複数の部品から構成されるモジュール部材に好適である。
[実施例]
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(1)構造体における強化繊維の体積含有率Vf
構造体の質量Wsを測定した後、構造体を空気中500℃で30分間加熱して樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量Wfを測定し、次式により算出した。
Vf(体積%)=(Wf/ρf)/{Wf/ρf+(Ws−Wf)/ρr}×100
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:樹脂の密度(g/cm3)
(2)構造体の曲げ試験
構造体から試験片を切り出し、ISO178法(1993)に従い曲げ弾性率を測定した。試験片は、任意の方向を0°方向とした場合に+45°、−45°、90°方向の4方向について切り出した試験片を作製し、それぞれの方向について測定数n=5とし、算術平均値を曲げ弾性率Ecとした。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。得られた結果より次式により、構造体の比曲げ弾性率を算出した。
比曲げ弾性率=Ec1/3/ρ
(3)構造体における強化繊維の配向角度θf
構造体から幅25mmの小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋した上で、シート厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨して試料を作製した。試料をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK−9510)で400倍に拡大し、繊維断面形状の観察を行った。観察画像を汎用画像解析ソフトウェア上に展開し、ソフトウェアに組み込まれたプログラムを利用して観察画像中に見える個々の繊維断面を抽出し、繊維断面に内接する楕円を設け、繊維断面の形状を近似した(以降、繊維楕円と呼ぶ)。さらに、繊維楕円の長軸長さα/短軸長さβで表されるアスペクト比が20以上の繊維楕円に対し、面方向Xと繊維楕円の長軸方向とのなす角を求めた。構造体の異なる部位から抽出した観察試料について上記操作を繰り返すことにより、計600本の強化繊維について配向角度を測定し、その算術平均値を強化繊維の配向角度θfとして求めた。
(4)構造体の比重ρ
構造体から試験片を切り出し、JIS K7222(2005)を参考にして構造体の見かけ比重を測定した。試験片の寸法は縦100mm、横100mmとした。試験片の縦、横、厚みをマイクロメーターで測定し、得られた値より試験片の体積Vを算出した。また、切り出した試験片の質量Mを電子天秤で測定した。得られた質量M及び体積Vを次式に代入することにより構造体の比重ρを算出した。
ρ[g/cm3]=103×M[g]/V[mm3]
(5)構造体の空隙の体積含有率
構造体から縦10mm、横10mmに試験片を切り出し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製 S−4800型)により観察し、構造体の表面から、等間隔に10箇所を1000倍の倍率で撮影した。それぞれの画像について、画像内の空隙の面積Aaを求めた。さらに、空隙の面積Aaを画像全体の面積で除算することにより空隙率を算出した。構造体の空隙の体積含有率は、5枚の試験片でそれぞれ10箇所ずつ撮影した合計50箇所の空隙率から算術平均により求めた。なお、構造体において、表面から厚み方向の中点位置までの空隙率と残りの部分の空隙率とが異なる場合を判断するために、前記等間隔に撮影した10箇所において、各々の空隙の体積含有率を算出し、空隙の体積含有率が0体積%以上、10体積%未満の範囲内にあるものと、空隙の体積含有率が10体積%以上、99体積%以下のものとに分別して求めた。
(6)強化繊維を被覆した樹脂の厚み
構造体を縦10mm、横10mmに試験片を切り出し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製 S−4800型)により観察し、任意の10箇所を3000倍の倍率で撮影した。得られた画像の強化繊維の断面がカットされた任意の50ヶ所から、強化繊維に被覆している樹脂の被覆厚さを測定した。強化繊維を被覆した樹脂の厚みとしては、かかる50ヶ所の測定結果の算術平均値を用いた。
(7)構造体の面内方向の圧縮試験
構造体から試験片を切り出し、JIS K7220(2006)を参考にして構造体の圧縮特性を測定した。試験片は、縦25±1mm、横25±1mmに切り出した。得られた試験片の圧縮特性を万能試験機を用いて測定した。この時、変形率50%時に到達した最大の力Fmと試験片の試験前の底面断面積A0とを用いて、次式より圧縮強さσmを算出した。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。
σm[kPa]=103×Fm[N]/A0[mm2]
(8)構造体の面外方向の圧縮試験
構造体から試験片を切り出し、JIS K7220(2006)を参考にして構造体の圧縮特性を測定した。試験片は、縦25±1mm、横25±1mmに切り出した。得られた試験片の圧縮特性を万能試験機を用いて測定した。この時、変形率50%時に到達した最大の力Fmと試験片の試験前の底面断面積A0とを用いて、次式より圧縮強さσmを算出した。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。
σm[kPa]=103×Fm[N]/A0[mm2]
[炭素繊維1]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
単繊維径:7μm
比重:1.8
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa
[炭素繊維2]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
単繊維径:7μm
比重:1.8
引張強度:4100MPa
引張弾性率:420GPa
[PP樹脂]
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J105G)80質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”QB510)20質量%とからなる目付100g/m2のシートを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[PA樹脂]
ナイロン6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM1021T)からなる目付124g/m2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[PC樹脂]
ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”(登録商標)H−4000)からなる目付132g/m2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[PPS樹脂]
ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)M2888)からなる目付147g/m2の樹脂不織布を作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂として、エポトートYD128(東都化成(株)製)を40質量部、エポトートYD128G(東都化成(株)製)を20質量部、エピコート1001(ジャパンエポキシレジン(株)製)を20質量部、エピコート1009(ジャパンエポキシレジン(株)製)を20質量部、硬化剤としてDICY7(ジャパンエポキシレジン(株)製、ジシアンジアミド)4質量部、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア)3質量部、その他添加剤としてビニレックK(チッソ(株)製、ポリビニルホルマール)5質量部を配合した。これからナイフコーターを用いて目付132g/m2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[強化繊維マット1]
炭素繊維1を長さ5mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。チョップド炭素繊維を開綿機に投入して当初の太さの強化繊維束がほとんど存在しない、綿状の強化繊維集合体を得た。この強化繊維集合体を直径600mmのシリンダーロールを有するカーディング装置に投入し、強化繊維からなるシート状のウエブを形成した。このときのシリンダーロールの回転数は320rpm、ドッファーの速度は13m/分であった。このウエブを重ねて強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット2]
炭素繊維1をカートリッジカッターで3mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))とからなる濃度0.1質量%の分散液を作製し、この分散液とチョップド炭素繊維とを用いて図6に示す強化繊維マットの製造装置を用いて、強化繊維マットを製造した。図6に示す製造装置は、分散槽としての容器下部に開口コックを有する直径1000mmの円筒形状の容器、分散槽と抄紙槽とを接続する直線状の輸送部(傾斜角30°)を備えている。分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属し、開口部からチョップド炭素繊維及び分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽が、底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備える槽である点、及び炭素繊維基材(抄紙基材)を運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は分散液中の炭素繊維濃度を0.05質量%として行った。抄紙した炭素繊維基材は200℃の乾燥炉で30分間乾燥し、強化繊維マットを得た。得られた目付は50g/m2であった。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット3]
炭素繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た以外は、強化繊維マット2と同様にして強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット4]
炭素繊維1をカートリッジカッターで12mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た以外は、強化繊維マット2と同様にして強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット5]
炭素繊維1をカートリッジカッターで25mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。得られたチョップド炭素繊維を80cm高さから自由落下させて、チョップド炭素繊維がランダムに分布した強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット6]
炭素繊維2をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た以外は、強化繊維マット2と同様にして強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
(実施例1)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した。次いで、以下の工程(I)〜(V)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表3に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に金属スペーサーを挿入し、構造体を得る際の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(IV)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(V)金型を開いて構造体を取り出す。
(実施例2)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例3)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製し、工程(III)における金属スペーサーの厚みを3.4mmから5.6mmに代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例4)
樹脂シートをPP樹脂からPA樹脂に代えて、工程(I)における予熱温度を230℃から260℃に代えた。他、工程(IV)におけるキャビティ温度を50℃から60℃に代え、工程(III)における金属スペーサーの厚みを3.4mmから3.3mmに代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例5)
樹脂シートをPP樹脂からPPS樹脂に代えて、工程(I)における予熱温度を230℃から300℃に代えた。工程(IV)におけるキャビティ温度を50℃から150℃に代え、工程(III)における金属スペーサーの厚みを3.4mmから2.9mmに代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例6)
樹脂シートをPP樹脂からPC樹脂に代えて、工程(I)における予熱温度を230℃から300℃に代えて、工程(IV)におけるキャビティ温度を50℃から80℃に代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例7)
強化繊維マットを強化繊維マット3から強化繊維マット6に代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例8)
樹脂シートをPP樹脂からエポキシ樹脂に代えて、実施例1と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(V)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表3に示す。
(I)積層物を150℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、3MPaの圧力を付与してさらに20秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に金属スペーサーを挿入し、構造体を得る際の厚みが3.3mmとなるように調整する。
(IV)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を30℃まで冷却する。
(V)金型を開いて構造体を取り出す。
(実施例9)
強化繊維マットを強化繊維マット3から強化繊維マット2に代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例10)
強化繊維マットを強化繊維マット3から強化繊維マット4に代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例11)
強化繊維マットを強化繊維マット3から強化繊維マット1に代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例12)
工程(III)における金属スペーサーの厚みを3.4mmから20.2mmに代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表3に示す。
(実施例13)
実施例1と同様の強化繊維マット及び樹脂シートを用いて、実施例1と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(VI)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表3に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に厚みが1.2mmのスペーサーを挿入し、5秒間保持した。
(IV)その後、構造体を得る際の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(V)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(VI)金型を開いて構造体を取り出す。
(実施例14)
実施例1と同様の強化繊維マット及び樹脂シートを用いて、実施例1と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(VI)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表3に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に厚みが2.0mmの金属スペーサーを挿入し、20秒間保持した。
(IV)その後、構造体を得る際の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(V)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(VI)金型を開いて構造体を取り出す。
(実施例15)
実施例1と同様の強化繊維マット及び樹脂シートを用いて、実施例1と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(VI)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表3に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端から中心にかけて等間隔に厚みが2.3mmの金属スペーサーを挿入し、20秒間保持した。
(IV)その後、金型キャビティを解放して、工程(III)において、金属スペーサーの接触していない部分の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(V)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(VI)金型を開いて構造体を取り出す。
(比較例1)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した。次いで、実施例1における工程(III)において金属スペーサーを用いなかった以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表4に示す。
(比較例2)
炭素繊維マット3を70枚積層積み重ね、それをPP樹脂にて挟み込んで積層物を作製した。次いで、実施例1における工程(III)において、金属スペーサーを厚み3.4mmから厚み3.2mmに代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表4に示す。
(比較例3)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した。次いで、実施例1における工程(III)において金属スペーサーを厚み3.4mmから厚み1.4mmに代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表4に示す。
(比較例4)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した。次いで、実施例1における工程(I)〜(V)を経ることにより構造体を得た以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表4に示す。
(比較例5)
強化繊維マットとして強化繊維マット5を用いた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表4に示す。
(比較例6)
実施例1における工程(I)、(III)のみを経た成形体を金型から取り出して空冷することに代えた以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表4に示す。
(比較例7)
実施例1と同様の強化繊維マット及び樹脂シートを用いて、実施例1と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(VI)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体の特性を表4に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に厚みが1.8mmのスペーサーを挿入し、20秒間保持した。
(IV)その後、構造体を得る際の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(V)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(VI)金型を開いて構造体を取り出す。
〔検討〕
本実施例が、構造体の厚みStが条件式:St≧Lf2・(1−cos(θf))を満足することにより、圧縮強度に優れ、且つ、比曲げ弾性率と曲げ弾性率の絶対値とのバランスに優れることが明確である。さらに、樹脂種を変更した実施例4、5、6、8についても同様のことが言える。一方、比較例1においては、強化繊維マットと樹脂を実施例1と同様にしたが、空隙が無いことにより、面内の圧縮特性は測定できず、面外の圧縮特性は非常に高いものであったが、比曲げ弾性率を満足できなかった。比較例2においては、樹脂及び空隙の体積割合を調整したが、強化繊維マットの体積割合とのバランスが悪く、曲げ弾性率が低いものとなった。また、面内及び面外の圧縮特性は測定精度が低く物性を得るに至らなかった。これらは、強化繊維の周囲への樹脂による被覆が形成されなかったためと推察する。比較例3においては、曲げ弾性率が低いものとなった。これは、略モノフィラメント状ではない強化繊維を使用したためであり、比較例4において構造体の厚みを変更したが改善されることはなく、両比較例とも面内、面外の圧縮特性は低かった。比較例5においては、強化繊維の繊維長さを短くしたため、条件式:St≧Lf2・(1−cos(θf))を満足できなかった。これにより、面内、面外の圧縮特性と曲げ弾性率の絶対値を満足することができなかった。比較例6においては、強化繊維の周囲を樹脂が被覆せず、強化繊維の交差する点に樹脂が局在化したため、強化繊維、樹脂、及び空隙の含有量は満足したが、曲げ弾性率の絶対値が低く、結果として、比曲げ弾性率の値を満足できなかったばかりか、圧縮特性は面内、面外共に物性を得るに至らなかった。比較例7においては、表面に高い比重、中心部分に低い比重の領域を設け、その厚み割合は、両表面と中心とが1:1の関係となった。比較例7の曲げ特性を評価したが、構造体の表面の空隙を有する領域と中心の空隙を有する領域との厚み割合のバランスが悪いため、中心部分の高い空隙率を有する層の特性が支配的となり、圧縮及び曲げ特性のバランスがとれた構造体を得ることができなかった。
〔第2の態様〕
次に、本発明の第2の態様に係る構造体について説明する。
図1は、本発明の第1及び第2の態様に係る構造体の断面構造を示す模式図である。図1に示すように、本発明の第2の態様に係る構造体1は、樹脂2と強化繊維3と空隙4から構成されている。
ここで、樹脂2としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を例示できる。また、本発明においては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とがブレンドされていてもよく、その場合は、樹脂を構成する成分のうち、50質量%を超える量を占める成分を樹脂の名称とする。
本発明における1つの形態において、樹脂2は、少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂を含むことが望ましい。熱可塑性樹脂としては、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」等の結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」等の非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、及びアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体及び変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂を例示できる。中でも、得られる構造体の軽量性の観点からはポリオレフィンが望ましく、強度の観点からはポリアミドが望ましく、表面外観の観点からポリカーボネートやスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が望ましく、耐熱性の観点からポリアリーレンスルフィドが望ましく、連続使用温度の観点からポリエーテルエーテルケトンが望ましく、さらに耐薬品性の観点からフッ素系樹脂が望ましく用いられる。
本発明における1つの形態において、樹脂2は、少なくとも1種類以上の熱硬化性樹脂を含むことが望ましい。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド、これらの共重合体、変性体、及びこれらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂を例示できる。また、本発明の目的を損なわない範囲で、本発明に係る構造体は、エラストマー又はゴム成分等の耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有してもよい。充填材や添加剤の例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、又は、カップリング剤を例示できる。
樹脂2の体積含有率は、2.5体積%以上、85体積%以下の範囲内にある。樹脂2の体積含有率が2.5体積%未満である場合、構造体1中の強化繊維3同士を結着し、強化繊維3の補強効果を十分なものとすることができず、構造体1の力学特性、とりわけ曲げ特性を満足できなくなるので望ましくない。一方、樹脂2の体積含有率が85体積%より大きい場合には、樹脂量が多すぎることから、空隙構造をとることが困難となるので望ましくない。
強化繊維3としては、アルミニウム、黄銅、ステンレス等の金属繊維、PAN系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス等の絶縁性繊維、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリエチレン等の有機繊維、シリコンカーバイト、シリコンナイトライド等の無機繊維を例示できる。また、これらの繊維に表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、導電体として金属の被着処理の他に、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理等がある。また、これらの繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、軽量化効果の観点から、比強度、比剛性に優れるPAN系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が望ましく用いられる。また、得られる構造体の経済性を高める観点からは、ガラス繊維が望ましく用いられ、とりわけ力学特性と経済性とのバランスから炭素繊維とガラス繊維とを併用することが望ましい。さらに、得られる構造体の衝撃吸収性や賦形性を高める観点からは、アラミド繊維が望ましく用いられ、とりわけ力学特性と衝撃吸収性とのバランスから炭素繊維とアラミド繊維とを併用することが望ましい。また、得られる構造体の導電性を高める観点からは、ニッケルや銅やイッテルビウム等の金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。これらの中で、強度と弾性率等の力学的特性に優れるPAN系の炭素繊維をより望ましく用いることができる。
強化繊維3が、不連続であり、略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散していることが望ましい。強化繊維3をかかる態様とすることで、シート状の構造体の前駆体ないし構造体を、外力を加えて成形する場合に、複雑形状への賦型が容易となる。また、強化繊維3をかかる態様とすることで、強化繊維3によって形成された空隙4が緻密化し、構造体1中における強化繊維3の繊維束端における弱部が極小化できるため、優れた補強効率及び信頼性に加えて、等方性も付与される。ここで、略モノフィラメントとは、強化繊維単糸が500本未満の細繊度ストランドにて存在することを指す。さらに望ましくは、モノフィラメント状に分散していることである。
ここで、略モノフィラメント状、又は、モノフィラメント状に分散しているとは、構造体1中にて任意に選択した強化繊維3について、その二次元接触角が1°以上である単繊維の割合(以下、繊維分散率とも称す)が80%以上であることを指し、言い換えれば、構造体1中において単繊維の2本以上が接触して平行した束が20%未満であることをいう。従って、ここでは、少なくとも強化繊維3におけるフィラメント数100本以下の繊維束の質量分率が100%に該当するものが特に好ましい。
二次元接触角とは、不連続な強化繊維の場合、単繊維とこの単繊維が接触する単繊維とで形成される角度のことであり、接触する単繊維同士が形成する角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。この二次元接触角について、図面を用いてさらに説明する。図2は、面方向(図2(a))及び厚み方向(図2(b))から観察した時の強化繊維マットにおける強化繊維の分散状態の一例を示す模式図である。単繊維11aを基準とすると、単繊維11aは図2(a)では単繊維11b〜11fと交わって観察されるが、図2(b)では単繊維11aは単繊維11e,11fとは接触していない。この場合、基準となる単繊維11aについて、二次元接触角の評価対象となるのは単繊維11b〜11dであり、接触する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0°以上90°以下の範囲内にある鋭角側の角度Aである。
二次元接触角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば構造体1の表面から強化繊維3の配向を観察する方法を例示できる。この場合、構造体1の表面を研磨して強化繊維3を露出させることで、強化繊維3をより観察しやすくなる。また、X線CT透過観察を行って強化繊維3の配向画像を撮影する方法も例示できる。X線透過性の高い強化繊維3の場合には、強化繊維3にトレーサ用の繊維を混合しておく、又は、強化繊維3にトレーサ用の薬剤を塗布しておくと、強化繊維3を観察しやすくなるため望ましい。また、上記方法で測定が困難な場合には、加熱炉等により構造体1を高温下において樹脂成分を焼失させた後、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて取り出した強化繊維3から強化繊維3の配向を観察する方法を例示できる。
上述した観察方法に基づいて繊維分散率は次の手順で測定する。すなわち、無作為に選択した単繊維(図2における単繊維11a)に対して接触している全ての単繊維(図2における単繊維11b〜11d)との二次元接触角を測定する。これを100本の単繊維について行い、二次元接触角を測定した全ての単繊維の総本数と二次元接触角が1°以上である単繊維の本数との比率から割合を算出する。
さらに、強化繊維3はランダムに分散していることが、とりわけ望ましい。ここで、強化繊維3がランダムに分散しているとは、構造体1における任意に選択した強化繊維3の二次元配向角の算術平均値が30°以上、60°以下の範囲内にあることをいう。かかる二次元配向角とは、強化繊維3の単繊維とこの単繊維と交差する単繊維とで形成される角度のことであり、交差する単繊維同士が形成する角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。
この二次元配向角について、図面を用いてさらに説明する。図2(a),(b)において、単繊維11aを基準とすると、単繊維11aは他の単繊維11b〜11fと交差している。ここで、交差とは、観察する二次元平面において、基準とする単繊維が他の単繊維と交わって観察される状態のことを意味し、単繊維11aと単繊維11b〜11fとが必ずしも接触している必要はなく、投影して見た場合に交わって観察される状態についても例外ではない。つまり、基準となる単繊維11aについて見た場合、単繊維11b〜11fの全てが二次元配向角の評価対象であり、図2(a)中において二次元配向角は交差する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度Aである。
二次元配向角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば、構成要素の表面から強化繊維3の配向を観察する方法を例示でき、上述した二次元接触角の測定方法と同様の手段を取ることができる。二次元配向角の平均値は、次の手順で測定する。すなわち、無作為に選択した単繊維(図2における単繊維11a)に対して交差している全ての単繊維(図2における単繊維11b〜11f)との二次元配向角の平均値を測定する。例えば、ある単繊維に交差する別の単繊維が多数の場合には、交差する別の単繊維を無作為に20本選び測定した算術平均値を代用してもよい。この測定を別の単繊維を基準として合計5回繰り返し、その算術平均値を二次元配向角の算術平均値として算出する。
強化繊維3が略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散していることで、上述した略モノフィラメント状に分散した強化繊維3により与えられる性能を最大限まで高めることができる。また、構造体1において力学特性に等方性を付与できる。かかる観点から、強化繊維3の繊維分散率は90%以上であることが望ましく、100%に近づくほどより望ましい。また、強化繊維3の二次元配向角の算術平均値は、40°以上、50°以下の範囲内にあることが望ましく、理想的な角度である45°に近づくほど望ましい。
一方、強化繊維3が不織布の形態をとらない例としては、強化繊維3が一方向に配列されてなるシート基材、織物基材、及びノンクリンプ基材等がある。これらの形態は、強化繊維3が規則的に密に配置されるため、構造体1中の空隙4が少なくなってしまい、樹脂2の含浸が極めて困難となり、未含浸部を形成したり、含浸手段や樹脂種の選択肢を大きく制限したりする場合がある。
強化繊維3の形態としては、構造体1と同程度の長さの連続性強化繊維、又は、所定長に切断された有限長の不連続性強化繊維のいずれであってもよいが、樹脂2を容易に含浸させたり、その量を容易に調整できたりする観点からは、不連続性強化繊維であることが望ましい。
強化繊維3の体積含有率は、0.5体積%以上、55体積%以下の範囲内にある。強化繊維3の体積含有率が0.5体積%未満である場合、強化繊維3に由来する補強効果を十分なものとすることができないので望ましくない。一方、強化繊維3の体積含有率が55体積%より大きい場合には、強化繊維3に対する樹脂2の体積含有率が相対的に少なくなるため、構造体1中の強化繊維3同士を結着し、強化繊維3の補強効果を十分なものとすることができず、構造体1の力学特性、とりわけ曲げ特性を満足できなくなるので望ましくない。
強化繊維3は樹脂2に被覆されており、樹脂2の厚みが1μm以上、15μm以下の範囲内にあることが望ましい。樹脂2に被覆された強化繊維3の被覆状態は、少なくとも構造体1を構成する強化繊維3の単繊維同士の交差する点が被覆されていれば、構造体1の形状安定性や、厚み制御の容易さ及び自由度の観点から十分であるが、さらに望ましい態様とすれば、樹脂2は、強化繊維3の周囲に、上述の厚みで被覆された状態であることが望ましい。この状態は、強化繊維3の表面が樹脂2によって露出していない、言い換えれば、強化繊維3が樹脂2により電線状の皮膜を形成していることを意味する。このことにより、構造体1は、さらに、形状の安定性を有すると共に、力学特性の発現を十分なものとする。また、樹脂2に被覆された強化繊維3の被覆状態は、その強化繊維3の全てにおいて被覆されている必要は無く、本発明に係る構造体1の形状安定性や、曲げ弾性率、曲げ強度を損なわない範囲内であればよい。
強化繊維3の質量平均繊維長が1mm以上、15mm以下の範囲内にあることが望ましい。これにより、強化繊維3の補強効率を高めることができ、構造体1に優れた力学特性を与えられる。強化繊維3の質量平均繊維長が1mm未満である場合、構造体1中の空隙4を効率よく形成できないため、比重が高くなる場合があり、言い換えれば、同一質量でありながら所望する厚さの構造体1を得ることが困難となるので望ましくない。一方、強化繊維3の質量平均繊維長が15mmより長い場合には、構造体1中で強化繊維3が、自重により屈曲しやすくなり、力学特性の発現を阻害する要因となるので望ましくない。質量平均繊維長は、構造体1の樹脂成分を焼失や溶出等の方法により取り除き、残った強化繊維3から無作為に400本を選択し、その長さを10μm単位まで測定し、それらの平均長さとして算出できる。
本発明における空隙4とは、樹脂2により被覆された強化繊維3が柱状の支持体となり、それが重なり合い、又は、交差することにより形成された空間のことを指す。例えば強化繊維3に樹脂2が予め含浸された構造体前駆体を加熱して構造体を得る場合、加熱に伴う樹脂2の溶融ないしは軟化により、強化繊維3が起毛することで空隙4が形成される。これは、構造体前駆体において、加圧により圧縮状態とされていた内部の強化繊維3が、その弾性率に由来する起毛力によって起毛する性質に基づく。また、構造体1中における空隙4の含有率は、10体積%以上、99体積%以下の範囲内にある。空隙4の含有率が10体積%未満である場合、構造体1の比重が高くなるため軽量性を満足できないため望ましくない。一方、空隙4の含有率が99体積%より大きい場合には、言い換えれば、強化繊維3の周囲に被覆された樹脂2の厚みが薄くなるため、構造体1中における強化繊維3同士の補強が十分に行われないために、力学特性が低くなるので望ましくない。空隙4の含有率の上限値は97体積%であることが望ましい。本発明において、体積含有率は構造体1を構成する樹脂2と強化繊維3と空隙4のそれぞれの体積含有率の合計を100体積%とする。
強化繊維3の長さをLf、構造体1の断面方向における強化繊維3の配向角度をθfとしたとき、構造体1の厚みStは条件式:St≧Lf2・(1−cos(θf))を満足する。構造体1の厚みStが上記条件式を満足しない場合、構造体1中における強化繊維3が屈曲している、ないし、得たい厚みの構造体1と繊維長さとのバランスが劣るということを示す。これにより、構造体1は、投入した強化繊維3の特徴を十分に発揮できないために厚み設計の自由度が劣ることを示し、さらには、構造体1の力学特性のうち、強化繊維3の引張強度や引張弾性率を利用する衝撃特性については、強化繊維3の直進性が失われていることにより、効率的な補強効果を得ることができないため望ましくない。上記条件式において、強化繊維3の長さとその配向角度が形成する構造体1の特性である曲げ弾性率と比曲げ弾性率とのバランスが得られることや、また、構造体1中の繊維長さとその配向角度により、成形工程中の固化ないしは硬化以前の状態での変形がしやすく、所望する構造体1の成形が行いやすいことから、構造体1の厚みStの2%以上、20%以下の値の範囲内が好ましく、とりわけ5%以上、18%以下の値の範囲内が好ましい。なお、条件式に使用する単位は、St[mm]、Lf[mm]、θf[°]である。
ここで、強化繊維3の長さLfは、構造体1の樹脂成分を焼失や溶出等の方法により取り除き、残った強化繊維3から無作為に400本を選択し、その長さを10μm単位まで測定し、それらの長さから算出した質量平均繊維長として算出できる。また、構造体1の断面方向における強化繊維3の配向角度θfとは、構造体1の断面方向に対する傾き度合いであって、言い換えれば、厚さ方向に対する強化繊維3の傾き度合いである。値が大きいほど厚み方向に立って傾いていることを示し、0°以上、90°以下の範囲で与えられる。すなわち、強化繊維3の配向角度θfをかかる範囲内とすることで、構造体1における補強機能をより効果的に発現できる。強化繊維3の配向角度θfの上限値には特に制限はないが、構造体1とした際の曲げ弾性率の発現に鑑みて、60°以下であることが望ましく、さらには45°以下であることがより望ましい。また、強化繊維3の配向角度θfが3°未満である場合、構造体1中の強化繊維3が平面状、言い換えれば2次元に配向した状態となるので、構造体1の厚みの自由度が減少し、軽量性を満足できないため望ましくない。そのため強化繊維3の配向角度θfは3°以上であることが好ましい。
強化繊維3の配向角度θfは、構造体1の面方向に対する垂直断面の観察に基づいて測定できる。図3は、本発明の第1及び第2の態様に係る構造体の面方向(図3(a))及び厚み方向(図3(b))の断面構造の一例を示す模式図である。図3(a)において、強化繊維3a,3bの断面は、測定を簡便にするため楕円形状に近似されている。ここで、強化繊維3aの断面は、楕円アスペクト比(=楕円長軸/楕円短軸)が小さく見られ、対して強化繊維3bの断面は、楕円アスペクト比が大きく見られる。一方、図3(b)によると、強化繊維3aは、厚み方向Yに対してほぼ平行な傾きを持ち、強化繊維3bは、厚み方向Yに対して一定量の傾きを持っている。この場合、強化繊維3bについては、構造体1の面方向Xと繊維主軸(楕円における長軸方向)αとがなす角度θxが、強化繊維3bの配向角度θfとほぼ等しくなる。一方、強化繊維3aについては、角度θxと配向角度θfの示す角度に大きな乖離があり、角度θxが配向角度θfを反映しているとはいえない。従って、構造体1の面方向に対する垂直断面から配向角度θfを読み取る場合、繊維断面の楕円アスペクト比が一定値以上のものを抽出することで配向角度θfの検出精度を高めることができる。
抽出対象となる楕円アスペクト比の指標としては、単繊維の断面形状が真円に近い、すなわち強化繊維の長尺方向に垂直な断面における繊維アスペクト比が1.1以下である場合、楕円アスペクト比が20以上の強化繊維3について面方向Xと繊維主軸αとのなす角度を測定し、これを配向角度θfとして採用する方法を利用できる。一方、単繊維の断面形状が楕円形や繭形等であり、繊維アスペクト比が1.1より大きい場合には、より大きな楕円アスペクト比を持つ強化繊維3に注目し、配向角度θfを測定した方がよく、繊維アスペクト比が1.1以上、1.8未満の場合には楕円アスペクト比が30以上、繊維アスペクト比が1.8以上、2.5未満の場合には楕円アスペクト比が40以上、繊維アスペクト比が2.5以上の場合には楕円アスペクト比が50以上の強化繊維3を選び、配向角度θfを測定するとよい。
構造体1の比重をρとしたとき、Ac・ρ−1により表される構造体1の比衝撃強度は、4以上、30以下の範囲内にあり、好ましくは7以上、20以下の範囲内にある。構造体1の比衝撃強度が4未満である場合、衝撃吸収能力が高く、比重も高い状態であり、所望する軽量化効果を得られないので望ましくない。一方、構造体1の比衝撃強度が30より大きい場合には、軽量化効果は十分であるものの、衝撃強度が低いことを指し示しており、構造体1として所望される耐衝撃性を満足することが困難であることから望ましくない。
構造体1の衝撃強度は2kJ/m2以上、好ましくは3kJ/m2以上である。構造体1の衝撃吸収エネルギーが2kJ/m2未満である場合、衝撃を吸収することができておらず実用性に乏しいこととなるので望ましくない。衝撃強度の上限については制限を設けないが、一般的に強化繊維と樹脂とからなる構造体では、その構成成分である空隙の体積含有量及び、強化繊維及び樹脂それぞれの接着特性を由来とする値が上限となり得る。一方、本発明に係る構造体においては、構造体を単独で使用する場合においても、他の部材とあわせて使用する場合においても、構造体自身の衝撃強度を用いて部材の設計を行い、実用に供するためには150kJ/m2もあれば十分である。
構造体1の比重ρは0.9g/cm3以下であることが望ましい。構造体1の比重ρが0.9g/cm3より大きい場合、構造体1とした場合の質量が増すことを意味し、結果、製品とした場合の質量の増加を招くこととなるので望ましくない。比重ρの下限については制限を設けないが、一般的に強化繊維と樹脂とからなる構造体では、その構成成分である強化繊維、樹脂、及び空隙それぞれの体積割合から算出される値が下限となり得る。本発明に係る構造体においては、構造体を単独で使用する場合においても、他の部材とあわせて使用する場合においても、構造体自身の比重ρは、使用する強化繊維や樹脂により異なるが、構造体の力学特性を保持するという観点から、0.03g/cm3以上であることが望ましい。
構造体1の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分における空隙率が0体積%以上、10体積%未満の範囲内にあり、残りの部分の空隙率が10体積%以上、99体積%以下の範囲内にあることが望ましい。かかる空隙率は小さいほど力学特性に優れ、また、大きいほど軽量性に優れる。構造体1に言い換えれば、構造体1が同一構成の材料からなる場合、構造体1の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分における空隙率が0体積%以上、10体積%未満であることにより、構造体1の力学特性を担保し、残りの部分の空隙率が10体積%以上、99体積%以下の範囲内にあることにより軽量特性を満足させることができるため望ましい。
本発明において構造体1の厚みは、厚みを求めたい表面上の1点とその裏側の表面とを結ぶ最短の距離から求めることができる。厚み方向の中点とは構造体1の厚みの中間点を意味する。構造体の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分とは、構造体1の表面とその厚み方向の中点までの距離を100%とした際に、構造体1の表面から30%の距離までを含めた部分のことを意味する。ここでの残りの部分とは、構造体1から構造体1の一方の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分及び構造体1の他方の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分を除いた残りの部分を意味する。図4に示すように、構造体1の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分R1及び残りの部分R2は、構造体1の厚み方向の異なる位置に存在してもよいし、図5に示すように、面方向の異なる位置に存在してもよい。
本発明における強化繊維3は不織布状の形態をとることが、強化繊維3への樹脂2の含浸の容易さの観点から望ましい。さらに、強化繊維3が、不織布状の形態を有していることにより、不織布自体のハンドリング性の容易さに加え、一般的に高粘度とされる熱可塑性樹脂の場合においても含浸を容易なものとできるため望ましい。ここで、不織布状の形態とは、強化繊維3のストランド及び/又はモノフィラメントが規則性なく面状に分散した形態を指し、チョップドストランドマット、コンティニュアンスストランドマット、抄紙マット、カーディングマット、エアレイドマット等を例示できる(以下、これらをまとめて強化繊維マットと称す)。
構造体1を構成する強化繊維マットの製造方法としては、例えば強化繊維3を予めストランド及び/又は略モノフィラメント状に分散して強化繊維マットを製造する方法がある。強化繊維マットの製造方法としては、強化繊維3を空気流にて分散シート化するエアレイド法や、強化繊維3を機械的に櫛削りながら形状を整えシート化するカーディング法等の乾式プロセス、強化繊維3を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスを公知技術として挙げることができる。強化繊維3をよりモノフィラメント状に近づける手段としては、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目をファインにする方法や、カードの回転速度を調整する方法等を例示できる。湿式プロセスにおいては、強化繊維3の攪拌条件を調整する方法、分散液の強化繊維濃度を希薄化する方法、分散液の粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法等を例示できる。特に、強化繊維マットは湿式プロセスで製造することが望ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したりすることで強化繊維マットの強化繊維3の割合を容易に調整できる。例えば、分散液の流速に対してメッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる強化繊維マット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い強化繊維マットを製造可能である。強化繊維マットは、強化繊維3単体から構成されていてもよく、強化繊維3が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていたり、強化繊維3が有機化合物や無機化合物と混合されていたり、強化繊維3同士が樹脂成分で目留めされていてもよい。
さらに、強化繊維マットには予め樹脂2を含浸させておき、構造体前駆体としておくこともできる。本発明に係る構造体前駆体を製造する方法としては、強化繊維マットに樹脂2を溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、強化繊維マットに含浸させる方法を用いることが、製造の容易さの観点から望ましい。具体的には、強化繊維マットの厚み方向の両側から樹脂2を配置した積層物を溶融含浸させる方法が望ましく例示できる。
上記各方法を実現するための設備としては、圧縮成形機やダブルベルトプレスを好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるので連続生産性に優れる。
本発明に係る構造体1を製造する際には、少なくとも以下の工程[1]及び[2]により製造される方法を採用することが、製造の容易さの観点から好ましい。
工程[1]:樹脂2が溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、樹脂2を強化繊維マットに含浸せしめて構造体前駆体を作製する工程。
工程[2]:構造体前駆体を加熱された状態で厚み調整をすることにより膨張させる工程。
工程[2]は工程[1]にて得られた構造体前駆体を加熱された状態で厚み調整をすることにより膨張させる工程である。このとき加熱される温度は構造体1を構成する樹脂2が熱可塑性樹脂である場合、溶融ないし軟化せしめるに十分な熱量を与えることが、製造される構造体1の厚み制御及び製造速度の観点から好ましく、具体的には、溶融温度に対し10℃以上高く、且つ、熱可塑性樹脂が熱分解温度以下の温度を付与することが好ましい。また、樹脂2として熱硬化性樹脂を用いる場合、架橋構造を形成して硬化する前の熱硬化性樹脂原料を溶融ないし軟化せしめるに十分な熱量を与えることが、製造される構造体1の厚み制御及び製造速度の観点から好ましい。
厚み制御を行う方法としては、加熱される構造体前駆体を目的の厚みに制御できれば方法によらないが、金属板等を用いて厚みを拘束する方法、構造体前駆体に付与する圧力により厚みを制御する方法等が製造の簡便さの観点から好ましい方法として例示される。上記方法を実現するための設備としては、圧縮成形機やダブルベルトプレスを好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用の2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるため連続生産性に優れる。
強化繊維マットが不織布の形態をとらない例としては、強化繊維3が一方向に配列されてなるシート基材、織物基材、及びノンクリンプ基材等がある。これらの形態は、強化繊維3が規則的に密に配置されるため、強化繊維マット中の空隙部が少なく、熱可塑性樹脂が十分なアンカリング構造を形成しないため、それをコア形成層にすると接合能力が低下する。また、樹脂2が熱可塑性樹脂の場合、含浸が極めて困難となり、未含浸部を形成したり、含浸手段や樹脂種の選択肢を大きく制限したりする。
本発明においては、本発明の特徴を損なわない範囲において、構造体1又は構造体前駆体をコア層に用い、且つ、連続した強化繊維3に樹脂を含浸せしめたシート状中間基材をスキン層に用いたサンドイッチ構造体とすることもできる。ここで、連続した強化繊維3とは、少なくとも一方向に100mm以上の長さで連続したものであり、その多数本が一方向に配列した集合体、いわゆる強化繊維束は、サンドイッチ構造体の全長にわたり連続している。連続した強化繊維3からなるシート状中間基材の形態としては、多数本の連続した強化繊維3からなる強化繊維束から構成されたクロス、多数本の連続した強化繊維3が一方向に配列された強化繊維束(一方向性繊維束)、この一方向性繊維束から構成された一方向性クロス等である。強化繊維3は、同一の形態の複数本の繊維束から構成されていても、又は、異なる形態の複数本の繊維束から構成されていてもよい。一つの強化繊維束を構成する強化繊維数は、通常、300〜48,000本であるが、プリプレグの製造やクロスの製造を考慮すると、望ましくは300〜24,000本であり、より望ましくは1,000〜12,000本である。
曲げ弾性率をコントロールするために、強化繊維3の方向を変えて積層する形態が望ましく用いられる。特に、サンドイッチ構造体の弾性率や強度を効率的に高める上で、繊維束を一方向に引きそろえた連続した強化繊維(UDと称する)を使用することが望ましい。
構造体1は、例えば、「パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、PDA(電子手帳等の携帯情報端末)、ビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品等の筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、又はそのケース」等の電気、電子機器部品、「各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム」、「フード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジ等の、外板、又は、ボディー部品」、「バンパー、バンパービーム、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツ等の外装部品」、「インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュール等の内装部品」、又は、「モーター部品、CNGタンク、ガソリンタンク」等の自動車、二輪車用構造部品、「バッテリートレイ、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、プロテクター、ランプリフレクター、ランプハウジング、ノイズシールド、スペアタイヤカバー」等の自動車、二輪車用部品、「遮音壁、防音壁等の壁内部材」等の建材、「ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ、シート」等の航空機用部品が挙げられる。力学特性の観点からは、自動車内外装、電気・電子機器筐体、自転車、スポーツ用品用構造材、航空機内装材、輸送用箱体、建材に望ましく用いられる。なかでも、とりわけ複数の部品から構成されるモジュール部材に好適である。
[実施例]
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(1)構造体における強化繊維の体積含有率Vf
構造体の質量Wsを測定した後、構造体を空気中500℃で30分間加熱して樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量Wfを測定し、次式により算出した。
Vf(体積%)=(Wf/ρf)/{Wf/ρf+(Ws−Wf)/ρr}×100
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:樹脂の密度(g/cm3)
(2)構造体のアイゾット衝撃試験
構造体から試験片を切り出し、JIS K7110(1999)を参考にして構造体のアイゾット衝撃値を測定した。試験片は、厚み4±0.2mm、幅10±0.2mm、長さ80±2mmに切り出した。秤量11J、振上げ角度50°でエッジワイズ衝撃を与えてアイゾット衝撃試験を行った。なお、試験片にはノッチ(切り欠け)は導入していない。測定数はn=10とし、算術平均値を衝撃強度Acとした。測定装置としては“インストロン(登録商標)”POE2000型衝撃試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。得られた結果より次式により、構造体の比衝撃強度を算出した。
比衝撃強度=Ac/ρ
(3)構造体における強化繊維の配向角度θf
構造体から幅25mmの小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋した上で、シート厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨して試料を作製した。試料をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK−9510)で400倍に拡大し、繊維断面形状の観察を行った。観察画像を汎用画像解析ソフトウェア上に展開し、ソフトウェアに組み込まれたプログラムを利用して観察画像中に見える個々の繊維断面を抽出し、繊維断面に内接する楕円を設け、繊維断面の形状を近似した(以降、繊維楕円と呼ぶ)。さらに、繊維楕円の長軸長さα/短軸長さβで表されるアスペクト比が20以上の繊維楕円に対し、面方向Xと繊維楕円の長軸方向とのなす角を求めた。構造体の異なる部位から抽出した観察試料について上記操作を繰り返すことにより、計600本の強化繊維について配向角度を測定し、その算術平均値を強化繊維の配向角度θfとして求めた。
(4)構造体の比重ρ
構造体から試験片を切り出し、JIS K7222(2005)を参考にして構造体の見かけ比重を測定した。試験片の寸法は縦100mm、横100mmとした。試験片の縦、横、厚みをマイクロメーターで測定し、得られた値より試験片の体積Vを算出した。また、切り出した試験片の質量Mを電子天秤で測定した。得られた質量M及び体積Vを次式に代入することにより構造体の比重ρを算出した。
ρ[g/cm3]=103×M[g]/V[mm3]
(5)構造体の空隙の体積含有率
構造体から縦10mm、横10mmに試験片を切り出し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製 S−4800型)により観察し、構造体の表面から、等間隔に10箇所を1000倍の倍率で撮影した。それぞれの画像について、画像内の空隙の面積Aaを求めた。さらに、空隙の面積Aaを画像全体の面積で除算することにより空隙率を算出した。構造体の空隙の体積含有率は、5枚の試験片でそれぞれ10箇所ずつ撮影した合計50箇所の空隙率から算術平均により求めた。なお、構造体において、表面から厚み方向の中点位置までの空隙率と残りの部分の空隙率とが異なる場合を判断するために、前記等間隔に撮影した10箇所において、各々の空隙の体積含有率を算出し、空隙の体積含有率が0体積%以上、10体積%未満の範囲内にあるものと、空隙の体積含有率が10体積%以上、99体積%以下のものとに分別して求めた。
(6)強化繊維を被覆した樹脂の厚み
構造体を縦10mm、横10mmに試験片を切り出し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製 S−4800型)により観察し、任意の10箇所を3000倍の倍率で撮影した。得られた画像の強化繊維の断面がカットされた任意の50ヶ所から、強化繊維に被覆している樹脂の被覆厚さを測定した。強化繊維を被覆した樹脂の厚みとしては、かかる50ヶ所の測定結果の算術平均値を用いた。
[炭素繊維1]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
単繊維径:7μm
比重:1.8
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa
[炭素繊維2]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
単繊維径:7μm
比重:1.8
引張強度:4100MPa
引張弾性率:420GPa
[PP樹脂]
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J105G)80質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”QB510)20質量%とからなる目付100g/m2のシートを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[PA樹脂]
ナイロン6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM1021T)からなる目付124g/m2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[PC樹脂]
ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”(登録商標)H−4000)からなる目付132g/m2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[PPS樹脂]
ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)M2888)からなる目付147g/m2の樹脂不織布を作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂として、エポトートYD128(東都化成(株)製)を40質量部、エポトートYD128G(東都化成(株)製)を20質量部、エピコート1001(ジャパンエポキシレジン(株)製)を20質量部、エピコート1009(ジャパンエポキシレジン(株)製)を20質量部、硬化剤としてDICY7(ジャパンエポキシレジン(株)製、ジシアンジアミド)4質量部、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア)3質量部、その他添加剤としてビニレックK(チッソ(株)製、ポリビニルホルマール)5質量部を配合した。これからナイフコーターを用いて目付132g/m2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
[強化繊維マット1]
炭素繊維1を長さ5mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。チョップド炭素繊維を開綿機に投入して当初の太さの強化繊維束がほとんど存在しない、綿状の強化繊維集合体を得た。この強化繊維集合体を直径600mmのシリンダーロールを有するカーディング装置に投入し、強化繊維からなるシート状のウエブを形成した。このときのシリンダーロールの回転数は320rpm、ドッファーの速度は13m/分であった。このウエブを重ねて強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット2]
炭素繊維1をカートリッジカッターで3mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))とからなる濃度0.1質量%の分散液を作製し、この分散液とチョップド炭素繊維とを用いて図6に示す強化繊維マットの製造装置を用いて、強化繊維マットを製造した。図6に示す製造装置は、分散槽としての容器下部に開口コックを有する直径1000mmの円筒形状の容器、分散槽と抄紙槽とを接続する直線状の輸送部(傾斜角30°)を備えている。分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属し、開口部からチョップド炭素繊維及び分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽が、底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備える槽である点、及び炭素繊維基材(抄紙基材)を運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は分散液中の炭素繊維濃度を0.05質量%として行った。抄紙した炭素繊維基材は200℃の乾燥炉で30分間乾燥し、強化繊維マットを得た。得られた目付は50g/m2であった。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット3]
炭素繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た以外は、強化繊維マット2と同様にして強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット4]
炭素繊維1をカートリッジカッターで12mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た以外は、強化繊維マット2と同様にして強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット5]
炭素繊維1をカートリッジカッターで25mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。得られたチョップド炭素繊維を80cm高さから自由落下させて、チョップド炭素繊維がランダムに分布した強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
[強化繊維マット6]
炭素繊維2をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た以外は、強化繊維マット2と同様にして強化繊維マットを得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
(実施例21)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した。次いで、以下の工程(I)〜(V)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表5に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に金属スペーサーを挿入し、構造体を得る際の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(IV)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(V)金型を開いて構造体を取り出す。
(実施例22)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例23)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製し、工程(III)における金属スペーサーの厚みを3.4mmから5.6mmに代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例24)
樹脂シートをPP樹脂からPA樹脂に代えて、工程(I)における予熱温度を230℃から260℃に代えた。他、工程(IV)におけるキャビティ温度を50℃から60℃に代え、工程(III)における金属スペーサーの厚みを3.4mmから3.3mmに代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例25)
樹脂シートをPP樹脂からPPS樹脂に代えて、工程(I)における予熱温度を230℃から300℃に代えた。工程(IV)におけるキャビティ温度を50℃から150℃に代え、工程(III)における金属スペーサーの厚みを3.4mmから2.9mmに代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例26)
樹脂シートをPP樹脂からPC樹脂に代えて、工程(I)における予熱温度を230℃から300℃に代えて、工程(IV)におけるキャビティ温度を50℃から80℃に代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例27)
強化繊維マットを強化繊維マット3から強化繊維マット6に代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例28)
樹脂シートをPP樹脂からエポキシ樹脂に代えて、実施例21と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(V)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表5に示す。
(I)積層物を150℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、3MPaの圧力を付与してさらに20秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に金属スペーサーを挿入し、構造体を得る際の厚みが3.3mmとなるように調整する。
(IV)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を30℃まで冷却する。
(V)金型を開いて構造体を取り出す。
(実施例29)
強化繊維マットを強化繊維マット3から強化繊維マット2に代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例30)
強化繊維マットを強化繊維マット3から強化繊維マット4に代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例31)
強化繊維マットを強化繊維マット3から強化繊維マット1に代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例32)
工程(III)における金属スペーサーの厚みを3.4mmから20.2mmに代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表5に示す。
(実施例33)
実施例21と同様の強化繊維マット及び樹脂シートを用いて、実施例21と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(VI)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表5に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に厚みが1.2mmのスペーサーを挿入し、5秒間保持した。
(IV)その後、構造体を得る際の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(V)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(VI)金型を開いて構造体を取り出す。
(実施例34)
実施例21と同様の強化繊維マット及び樹脂シートを用いて、実施例21と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(VI)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表5に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に厚みが2.0mmの金属スペーサーを挿入し、20秒間保持した。
(IV)その後、構造体を得る際の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(V)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(VI)金型を開いて構造体を取り出す。
(実施例35)
実施例21と同様の強化繊維マット及び樹脂シートを用いて、実施例21と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(VI)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体では、断面観察から強化繊維を柱状の支持体とした空隙が確認された。得られた構造体の特性を表5に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端から中心にかけて等間隔に厚みが2.3mmの金属スペーサーを挿入し、20秒間保持した。
(IV)その後、金型キャビティを解放して、工程(III)において、金属スペーサーの接触していない部分の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(V)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(VI)金型を開いて構造体を取り出す。
(比較例11)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した。次いで、実施例1における工程(III)において金属スペーサーを用いなかった以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表6に示す。
(比較例12)
炭素繊維マット3を70枚積層積み重ね、それをPP樹脂にて挟み込んで積層物を作製した。次いで、実施例21における工程(III)において、金属スペーサーを厚み3.4mmから厚み3.2mmに代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表6に示す。
(比較例13)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した。次いで、実施例21における工程(III)において金属スペーサーを厚み3.4mmから厚み1.4mmに代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表6に示す。
(比較例14)
強化繊維マットとして強化繊維マット3、樹脂シートとしてPP樹脂を、[樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート/樹脂シート/強化繊維マット/強化繊維マット/樹脂シート]の順番に配置した積層物を作製した。次いで、実施例21における工程(I)〜(V)を経ることにより構造体を得た以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表6に示す。
(比較例15)
強化繊維マットとして強化繊維マット5を用いた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表6に示す。
(比較例16)
実施例21における工程(I)、(III)のみを経た成形体を金型から取り出して空冷することに代えた以外は、実施例21と同様にして構造体を得た。得られた構造体の特性を表6に示す。
(比較例17)
実施例21と同様の強化繊維マット及び樹脂シートを用いて、実施例21と同様に積層物を得た。次いで、以下の工程(I)〜(VI)を経ることにより構造体を得た。得られた構造体の特性を表6に示す。
(I)積層物を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じる。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持する。
(III)工程(II)の後、金型キャビティを開放し、その末端に厚みが1.8mmのスペーサーを挿入し、20秒間保持した。
(IV)その後、構造体を得る際の厚みが3.4mmとなるように調整する。
(V)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却する。
(VI)金型を開いて構造体を取り出す。
〔検討〕
本実施例が、構造体の厚みStが条件式:St≧Lf2・(1−cos(θf))を満足することにより、比衝撃強度と衝撃強度の絶対値とのバランスに優れることが明確である。さらに、樹脂種を変更した実施例24、25、26、28についても同様のことが言える。一方、比較例11においては、強化繊維マットと樹脂を実施例21と同様にしたが、空隙が無いことにより、比衝撃強度を満足できなかった。比較例12においては、樹脂及び空隙の体積割合を調整したが、強化繊維マットの体積割合とのバランスが悪く、衝撃強度が低いものとなった。強化繊維の周囲への樹脂による被覆が形成されなかったためと推察する。比較例13においては、衝撃強度が低いものとなった。これは、略モノフィラメント状ではない強化繊維を使用したためであり、比較例14において構造体の厚みを変更したが改善されることはなかった。比較例15においては、強化繊維の繊維長さを短くしたため、条件式:St≧Lf2・(1−cos(θf))を満足できなかった。これにより、衝撃強度の絶対値を満足することができなかった。比較例16においては、強化繊維の周囲を樹脂が被覆せず、強化繊維の交差する点に樹脂が局在化したため、強化繊維、樹脂、及び空隙の含有量は満足したが、衝撃強度の絶対値が低く、結果として、比衝撃強度の値を満足できなかった。比較例17においては、表面に高い比重の領域、中心部分に低い比重の領域を設けた。その厚み割合は、両表面と中心とが1:1の関係となった。比較例17の曲げ特性を評価したが、構造体の表面の空隙を有する領域と中心の空隙を有する領域との厚み割合のバランスが悪いため、中心部分の高い空隙率を有する層の特性が支配的となり、表面の高物性領域の特性を反映させることができなかった。