以下、本発明のフランジ部材の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
図1に示すように、本発明のフランジ部材1は、気管切開チューブ(気管チューブ)101が装着されてこの気管切開チューブ101とともに使用される。
気管切開チューブ101は、チューブ本体102と、このチューブ本体102の外周面上に取り付けられた収縮及び拡張可能なカフ103とを備え、チューブ本体102の基端部においてフランジ部材1に装着される。気管切開チューブ101は、チューブ本体102を喉元の切開部分を通して体外から気管内に差し込んで使用される。フランジ部材1は、チューブ本体102が気管内に留置された状態において、皮膚に体外側から当接して気管切開チューブ101を所定の位置に固定ないし保持する。
図2に示すように、フランジ部材1は装着部2とフランジ本体3とを備えている。
ここで、このフランジ部材1では、このフランジ部材1を所定の姿勢で人体に固定した状態において、当該人体の正面側から見て、頭側(図2中上側)を「上側」、足側(図2中下側)を「下側」、左手側(図2中右側)を「右側」、右手側(図2中左側)を「左側」とする。
装着部2は円筒状に形成されており、その内側にチューブ本体102の基端部が内挿される。チューブ本体102は、例えば圧入(嵌合)や接着等により装着部2に固定された状態でフランジ部材1に装着される。したがって、フランジ部材1が人体に固定されると、気管切開チューブ101はフランジ部材1により所定の位置に固定ないし保持されることになる。
図1に示すように、装着部2は吸引用チューブ119、120が接続される連通孔を備えた構成とすることができるが、図2、図8においては便宜上、これらの連通孔を省略して示す。なお、装着部2の連通孔や吸引用チューブ119、120の構成については後述する。
図2に示すように、フランジ本体3は、装着部2に対して径方向外側に向けて延びる板状に形成されている。フランジ部材1は、これらに装着されたチューブ本体102が気管内に留置された状態において、このフランジ本体3の裏面において皮膚に当接する。
本実施形態では、フランジ本体3は僅かに図2中上側に向けて湾曲する矩形形状に形成されている。装着部2はフランジ本体3の中心に設けられ、フランジ本体3の装着部2に対して左側に向けて延びる部分は左側部分3a、右側に向けて延びる部分は右側部分3bとなっている。このように、フランジ部材1は、装着部2を中心として左右対称形状となっている。
なお、フランジ本体3は、装着部2に対して径方向外側に向けて延びる板状に形成されていれば、上記形状に限らず任意の形状とすることができる。
装着部2の左右両側にはそれぞれフランジ本体3と同等もしくは大きな厚みの連結体4が一体に設けられている。連結体4の厚みがフランジ本体3の厚みよりも大きい場合は、連結強度をより高めることができる。また、フランジ本体3の装着部2に対して上下両側部分にはそれぞれ目視用開孔5が設けられており、この目視用開孔5を通してチューブ本体102が挿通された切開部分を目視で確認できるようになっている。目視用開孔5が設けられている場合は、装着部2に対して連結体4およびフランジ本体3が、フランジ本体3の長軸を軸として角度可変に動くように構成することもできる。なお、フランジ本体3は連結体4や目視用開孔5が設けられない構成とすることもできる。
フランジ本体3の左側部分3aと右側部分3bには、それぞれ紐通し孔10が設けられている。この紐通し孔10は、フランジ部材1を人体に固定するための固定用紐状部材が通される孔である。フランジ本体3の左側部分3aに設けられる紐通し孔10と右側部分3bに設けられる紐通し孔10は左右対称である以外は同一の形状を有しているので、以下では、紐通し孔10の詳細な形状について右側部分3bに設けられた紐通し孔10に基づいて説明する。
図3(a)に示すように、紐通し孔10は主開口部11、狭幅開口部12および連接開口部13を有する形状に形成されている。
紐通し孔10は、主開口部11に対して少なくとも1つの狭幅開口部12および連接開口部13が設けられた構成であればよいが、1つの主開口部11に対して複数の狭幅開口部12および連接開口部13を上下方向に並べて設けた構成とすることもできる。本実施形態では、紐通し孔10は、1つの主開口部11に対して3つの狭幅開口部12および連接開口部13が上下方向に並べて設けられている。
主開口部11は、フランジ本体3の半分程度の上下幅で上下方向に延びる長孔形状に形成されており、紐通し孔10の最も装着部2の側に位置する部分を構成している。
狭幅開口部12は、それぞれ主開口部11よりも上下幅が狭い円形形状つまり主開口部11の上下幅よりも小さな直径の円形形状に形成されており、主開口部11よりも外側つまり主開口部11に対して装着部2とは反対側に間隔を空けて配置されている。
なお、狭幅開口部12は円形形状に限らず、主開口部11よりも上下幅が狭い形状であれば、例えば楕円形状や矩形形状など種々の形状とすることもできる。
本実施形態では、3つの狭幅開口部12のうち最上側に配置される狭幅開口部12は主開口部11の上側端よりも上方に配置され、3つの狭幅開口部12のうち最下側に配置される狭幅開口部12は主開口部11の下側端よりも下方に配置され、3つの狭幅開口部12のうち真ん中に配置される狭幅開口部12は最上側の狭幅開口部12と最下側の狭幅開口部12との中間に配置されている。つまり、複数の狭幅開口部12は、主開口部11よりも上下方向に広い範囲に配置されている。
3つの連接開口部13は、それぞれ主開口部11から対応する狭幅開口部12に向けて延び、主開口部11と対応する狭幅開口部12とを連ねている。本実施形態では、最上側の狭幅開口部12は主開口部11の上側端よりも上方に配置され、最下側に配置される狭幅開口部12は主開口部11の下側端よりも下方に配置され、真ん中に配置される狭幅開口部12は最上側の狭幅開口部12と最下側の狭幅開口部12との中間に配置されているので、最上側の狭幅開口部12に対応する連接開口部13は主開口部11の上側端から斜め上方に向けて延び、最下側の狭幅開口部12に対応する連接開口部13は主開口部11の下側端から斜め下方に向けて延び、真ん中の狭幅開口部12に対応する連接開口部13は主開口部11の中間位置から外側に向けて真っ直ぐに延びている。
3つの連接開口部13は、それぞれ主開口部11の側から狭幅開口部12の側に向けて徐々に上下幅(互いに対向する内面13aの間隔)が狭くなるテーパー形状に形成されており、その狭幅開口部12との連接部分における上下幅つまり当該連接部分における上下方向の開口幅は狭幅開口部12の上下幅よりも狭く(小さく)なっている。なお、図示する場合では、連接開口部13は一定の割合で縮径する線形テーパー形状に形成されているが、徐々に縮径割合が変化する湾曲したテーパー形状に形成することもできる。
なお、連接開口部13はテーパー形状に限らず、狭幅開口部12との連接部分における上下幅が狭幅開口部12の上下幅よりも狭ければ、例えば一定の上下幅を有する矩形形状などの他の形状に形成することもできる。
また、隣り合う連接開口部13の内面13aは、互いに鋭角に連接されている。つまりフランジ本体3の隣り合う連接開口部13の間には主開口部11の側に向けて突出する鋭角な三角形状部分が形成されている。
このように、1つの主開口部11と3つの円形の狭幅開口部12とをテーパー形状の連接開口部13で連接した構成により、紐通し孔10は全体として略王冠型の形状となっている。
紐通し孔10は、狭幅開口部12と連接開口部13との連接部分に、それぞれ一対の返し片14を一体に設けた構成とすることもできる。図3(b)に示すように、返し片14は、それぞれ連接開口部13の内面13aに沿って延びて、狭幅開口部12の内部に突出する薄くて鋭角な突起状に形成されている。つまり、返し片14の一方の外面14aは連接開口部13の内面13aに同一面状に連なっており、他方の外面14bは外面14aに対して鋭角に傾斜して狭幅開口部12の内面に連ねられている。狭幅開口部12の内部に突出する一対の返し片14は、その外面14aがテーパー形状の連接開口部13の内面13aと同一面状に形成されているので、返し片14の先端における上下方向の開口幅は、連接開口部13の狭幅開口部12との連接部分における上下方向の開口幅よりもさらに狭くなっている。
図2に示すように、フランジ本体3には縫合用孔20が設けられている。これらの縫合用孔20は、フランジ部材1を人体に縫合により固定するための縫合用糸が通される孔である。
本実施形態では、フランジ本体3の左側部分3aと右側部分3bに、それぞれ4つの縫合用孔20が設けられている。つまり、本実施形態では、フランジ本体3には8つの縫合用孔20が設けられている。これらの縫合用孔20は何れも同一形状であり、それぞれフランジ本体3の紐通し孔10と装着部2との間の部分に設けられている。
フランジ本体3の左側部分3aに設けられる4つの縫合用孔20は、そのうちの2つの縫合用孔20が対となって上下に間隔を空けて並べて配置され、他の2つの縫合用孔20が同様に対となって上下に間隔を空けて並べて配置されるとともに、これらの二対の縫合用孔20が左右方向に間隔を空けて並べて配置されている。同様に、フランジ本体3の右側部分3bに設けられる4つの縫合用孔20も、そのうちの2つの縫合用孔20が対となって上下に間隔を空けて並べて配置され、他の2つの縫合用孔20が同様に対となって上下に間隔を空けて並べて配置されるとともに、これらの二対の縫合用孔20が左右方向に間隔を空けて並べて配置されている。左側部分3aおよび右側部分3bの何れにおいても、上側に配置される2つの縫合用孔20のフランジ本体3の上側の外周縁30からの距離および下側に配置される2つの縫合用孔20のフランジ本体3の下側の外周縁30からの距離は同一の距離とされている。
フランジ本体3の表面には、縫合用孔20の開口部分を補強するための補強部21が一体に設けられている。図4からも解るように、補強部21はフランジ本体3の表面から突出する円筒状に形成されており、その内側部分は縫合用孔20の開口に連なる孔となっている。このような補強部21を設けることにより、フランジ本体3の縫合用孔20の開口部分における板厚を増加させて、縫合用孔20の縫合糸に対する強度を高めることができる。
図4に示すように、縫合用孔20は、フランジ本体3の表面から裏面に向けて徐々に拡径するテーパー形状に形成することができる。なお、図示する場合では、縫合用孔20は一定の割合で拡径する線形テーパー形状(切頭円錐面形状)に形成されているが、徐々に拡径割合が変化する湾曲したテーパー形状に形成することもできる。
縫合用孔20をフランジ本体3の表面から裏面に向けて徐々に拡径するテーパー形状に形成することにより、曲がった針先を有する縫合針(不図示)を用いて縫合用糸を縫合用孔20に通して縫合作業を行う際に、表面側から縫合用孔20に挿通された縫合針の針先を縫合用孔20の内面に刺さりづらくして、縫合作業を容易にすることができる。
なお、図4に示す場合では、縫合用孔20のみをテーパー形状とし、補強部21の内面を一定の内径に形成するようにしているが、補強部21の内面も縫合用孔20のテーパー形状の内面に一体的に連なるテーパー形状に形成した構成とすることもできる。また、縫合用孔20はテーパー形状に限らず、一定の内径を有する形状としてもよい。
図2に示すように、フランジ本体3の外周縁30には縫合糸係止用凹部31が設けられている。縫合糸係止用凹部31はフランジ本体3の外周縁30を内側に向けて切り欠いた切り欠き形状に形成されており、フランジ本体3を縫合糸により人体に直接縫合して固定する際に、縫合用孔20に通された縫合糸をこの縫合糸係止用凹部31に掛け渡すことができるようになっている。そして、縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31との間で縫合糸による縫合を行うことで、縫合後に外周縁30に沿って縫合糸が移動することを防止して、フランジ部材1を縫合糸によって確実に人体に縫合固定することができる。
本実施形態では、フランジ本体3の左側部分3aと右側部分3bに、それぞれ4つの縫合糸係止用凹部31が設けられている。つまり、本実施形態では、フランジ本体3には、縫合用孔20と同数の8つの縫合糸係止用凹部31が設けられている。この場合、フランジ本体3の左側部分3aと右側部分3bの上側を向く外周縁30にそれぞれ2つの縫合糸係止用凹部31が設けられ、フランジ本体3の左側部分3aと右側部分3bの下側を向く外周縁30にそれぞれ2つの縫合糸係止用凹部31が設けられる。なお、これらの縫合糸係止用凹部31は何れも同一形状となっている。
上記のように、縫合糸係止用凹部31は縫合用孔20と同数設けられており、各縫合糸係止用凹部31は対応する縫合用孔20と対となって用いられる。縫合糸係止用凹部31は、フランジ本体3の外周縁30の対となる縫合用孔20に最も接近する部位に設けられるのが好ましい。例えば、図2中で一番左側かつ上側にある縫合用孔20に対応する縫合糸係止用凹部31は、フランジ本体3の上側を向く外周縁30と、縫合用孔20の軸心を通る仮想直線とが直交する部位に設けられる。このように、縫合糸係止用凹部31と縫合用孔20とを同数設け、これらを対として用いるようにすることにより、縫合糸係止用凹部31と縫合用孔20との距離を狭めて、縫合糸係止用凹部31と縫合用孔20との間に掛け渡される縫合糸の緩みを低減することができる。
図5に示すように、縫合糸係止用凹部31はフランジ本体3の外周縁30から縫合用孔20に向けて徐々に幅が狭まる一対の内壁部31aを有する略V字形状に形成されるのが好ましい。このような形状とすることにより、この縫合糸係止用凹部31の開口を大きくして縫合用孔20に通された縫合糸の縫合糸係止用凹部31への掛け渡し作業を容易にしつつ縫合糸の外周縁30に沿った方向への移動を確実に防止することができる。
また、縫合糸係止用凹部31の底壁部31bは、例えば半円形等の湾曲形状に形成するのが好ましい。縫合糸係止用凹部31の底壁部31bを湾曲形状とすることにより、縫合糸係止用凹部31を鋭角なV字形状とした場合に比べて底壁部31bのせん断力に対する強度を高めて、縫合糸係止用凹部31に掛けられた縫合糸によって当該縫合糸係止用凹部31の底壁部31bからフランジ本体3が切断されることを防止することができる。
なお、縫合糸係止用凹部31は上記形状に限らず、縫合糸が引っ掛けられて当該縫合糸の外周縁30に沿った移動を係止することができる形状であれば、例えば矩形形状やU字形状などの他の形状に形成することもできる。
また、本実施形態では、フランジ本体3の左側部分3aと右側部分3bに、それぞれ4つの縫合用孔20と4つの縫合糸係止用凹部31とを設けるようにしているが、少なくとも1つの縫合用孔20と少なくとも1つの縫合糸係止用凹部31とが設けられていればよい。フランジ本体3に縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31とをそれぞれ複数設ける場合であっても、これらを同数設けるに限らず、例えばフランジ本体3の左側部分3aと右側部分3bとの上下方向中心位置に1つの縫合用孔20を設けるとともに、この縫合用孔20に対応する一対の縫合糸係止用凹部31をフランジ本体3の上側の外周縁30と下側の外周縁30とにそれぞれ設けた構成とするなど、その配置数や設置位置は種々変更可能である。
フランジ部材1の構成材料としては、例えば、シリコーン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂を用いることができる。その中でも、成形が容易であるという点で、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのような樹脂を用いることが好ましい。
図6に示すように、フランジ部材1は固定用紐状部材40とともに固定用フランジセット41を構成することができる。フランジ部材1は、フランジ本体3の両端部分に設けた一対の紐通し孔10に固定用紐状部材40を通し、この固定用紐状部材40を頸部に巻くことで人体に固定することができる。この場合、固定用紐状部材として平たい帯状に形成された紐を用いるのが好ましい。
なお、固定用紐状部材40としては、フランジ本体3の紐通し孔10に通されて頸部に巻くことが可能なものであれば、糸等の繊維を編んで形成された組紐、不織布や樹脂材料等で形成された紐やベルト、長さ調整が可能な機構が設けられたバンド部材など、種々の構成のものを用いることができる。また、固定用紐状部材40としては、平たい帯状のものに限らず、例えば断面円形のものなど種々の形状のものを用いることもできる。
固定用紐状部材40を用いてフランジ部材1を人体に固定する場合には、図7(a)に二点鎖線で示すように、まず、フランジ本体3の紐通し孔10の上下幅が広い主開口部11に帯状の固定用紐状部材40が通される。このとき、主開口部11は他の部位よりも上下の幅が広く形成されているので、固定用紐状部材40の挿通作業は容易である。
次に、主開口部11に通された固定用紐状部材40を患者の頸部に巻き付け、フランジ部材1が動かない程度の長さとなるように縛られると、その張力により固定用紐状部材40は主開口部11から連接開口部13を通って狭幅開口部12にまで移動し、図7(a)に実線で示すように狭幅開口部12に通された状態とされる。このとき、連接開口部13はテーパー形状に形成されているので、主開口部11に通された帯状の固定用紐状部材40を容易に主開口部11から連接開口部13に移動させることができるとともに、当該連接開口部13により徐々に幅を狭めて容易に狭幅開口部12の内部に移動させることができる。
狭幅開口部12はその上下幅が主開口部11よりも狭く形成されているので、狭幅開口部12に通された固定用紐状部材40は、丸められた状態で狭幅開口部12に配置されて上下方向への移動が抑制される。このように紐通し孔10に通された固定用紐状部材40が紐通し孔10に沿って上下方向に移動することを抑制することにより、フランジ部材1を固定用紐状部材40によって人体に確実に固定して、このフランジ部材1に装着された気管切開チューブ101を所定位置に確実に保持することができる。
本実施形態では、紐通し孔10を上下方向に並ぶ複数の狭幅開口部12を備えた構成としたので、患者の頸部の太さや気管に留置された状態におけるチューブ本体102の基端部の位置等に応じて、フランジ部材1に対する固定用紐状部材40を通す位置つまりフランジ部材1に対する固定用紐状部材40の連結位置を上下に変更ないし調整することができる。これにより、固定用紐状部材40をより適切な位置においてフランジ本体3に連結させて、フランジ部材1ないし気管切開チューブ101をより確実に所定位置に固定することができる。
特に、本実施形態のように、狭幅開口部12を主開口部11の上側端よりも上側および下側端よりも下側に配置するようにした場合には、フランジ部材1に対する固定用紐状部材40の連結位置の上下方向への調整幅をより大きくすることができる。したがって、フランジ部材1ないし気管切開チューブ101をより確実に所定位置に固定することができる。
連接開口部13の狭幅開口部12との連接部分における上下幅は狭幅開口部12の上下幅よりも狭くされているので、狭幅開口部12に通された固定用紐状部材40が狭幅開口部12から主開口部11の側に向けて離脱することが抑制される。特に、本実施形態では、当該連接部分に返し片14を設けているので、この返し片14により狭幅開口部12から主開口部11の側へ向けた固定用紐状部材40の移動を確実に規制して、固定用紐状部材40の狭幅開口部12からの離脱を確実に抑制することができる。これにより、長期間に亘って固定用紐状部材40を確実に狭幅開口部12内に保持して、フランジ部材1ないし気管切開チューブ101を長期間安定して所定位置に固定することができる。
このフランジ部材1では、例えば固定用紐状部材40が狭幅開口部12の内部に入りきらない厚みないし幅を有する場合などには、図7(b)に示すように、主開口部11に通した固定用紐状部材40を、隣り合う一対の狭幅開口部12および連接開口部13に引っ掛けることにより、当該紐通し孔10内における上下方向への移動を抑制することもできる。この場合、帯状の固定用紐状部材40は、その一方の側部において一方の狭幅開口部12および連接開口部13に係合し、他方の側部において他方の狭幅開口部12および連接開口部13に係合することで上下方向への移動が規制される。また、隣り合う連接開口部13の内面13aは鋭角に連なっているので、隣り合う連接開口部13の間の鋭角な三角形部分が固定用紐状部材40に係合することによっても固定用紐状部材40の上下方向への移動が規制される。このような係止方法によっても、図7(a)に示す場合と同様に、紐通し孔10に通された固定用紐状部材40の上下方向への移動を抑制して、フランジ部材1ないし気管切開チューブ101を確実に所定位置に固定することができる。
図8に示すように、フランジ部材1は縫合糸50を用いた縫合によって患者の人体に固定することができる。例えば、頸部が細い患者や気管切開チューブ101が抜け易い患者に対しては、縫合糸50を用いてフランジ部材1を皮膚に直接縫合して人体に固定する手法を用いるのが好ましい。
縫合糸50を用いた縫合は、例えば先端が曲がった縫合針(不図示)を用いて行われる。この場合、縫合糸50が接続された縫合針がフランジ本体3の表面側から縫合用孔20を通して皮膚に刺されて縫合糸50が皮膚に縫い付けられる。そして皮膚に通された縫合糸は縫合糸係止用凹部31に引っ掛けられ、再度、同一の縫合用孔20を通して縫合針により皮膚に縫い付けられる。
このとき、さらに、縫合糸係止用凹部31は、フランジ本体3の外周縁30から縫合用孔20に向けて徐々に幅が狭まる略V字形状に形成されているので、その開口が大きく、縫合用孔20に通された縫合糸50の掛け渡し作業を容易にしつつ縫合糸50の外周縁30に沿った方向への移動を確実に防止することができる。
このような縫合作業が複数回繰り返し行われることにより、縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31との間で縫合糸50が巻かれた状態となってフランジ部材1が縫合糸50によって皮膚に縫合される。なお、縫合糸50は、縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31との間で2重ないし3重に巻かれるのが好ましいが、その巻き付け回数は任意である。
このように、フランジ本体3に設けられた縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31との間で縫合糸50を用いた縫合を行うことによってフランジ部材1を患者の人体に固定することができる。
また、縫合用孔20に通された縫合糸50は、フランジ本体3の外周縁30に設けられる縫合糸係止用凹部31に引っ掛けられて縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31との間に巻き付けられるので、縫合後における縫合糸50のフランジ本体3の外周縁30に沿った移動が規制される。したがって、縫合後にフランジ部材1に力が加えられても、縫合糸50がフランジ本体3の外周縁30に沿って移動することを防止して、フランジ部材1ないし気管切開チューブ101を所定位置に確実に固定することができる。
さらに、縫合糸係止用凹部31の底壁部31bは半円形等の湾曲形状に形成されているので、縫合糸係止用凹部31に掛けられた縫合糸50によって当該底壁部31bからフランジ本体3が切断されることを防止することができる。
さらに、縫合用孔20の開口には補強部21が設けられているので、縫合後にフランジ部材1に力が加わるなどして縫合用孔20に通された縫合糸50から縫合用孔20の内面にせん断荷重が加えられても、フランジ本体3が切断されることが効果的に防止される。
本実施形態では、縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31とを同数設けるとともに、それぞれ縫合用孔20に対応する縫合糸係止用凹部31を、フランジ本体3の外周縁30の対となる縫合用孔20に最も接近する部位に設けるようにしているので、縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31との間に掛け渡される縫合糸50の長さをより短くすることができる。これにより、縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31との間に掛け渡される縫合糸50に生じる緩みを減少させて、フランジ部材1ないし気管切開チューブ101を所定位置により確実に固定することができる。
本実施形態では、装着部2に対する左右方向への距離が相違する二対の縫合用孔20を設けるようにしたので、患者の頸部の太さや縫合による皮膚の負担状態等に応じて、縫合糸50を用いた縫合場所を左右方向の2箇所から選択することができる。これにより、患者の頸部の太さに拘わらずフランジ部材1を縫合糸50により確実に人体に固定することができるとともに、縫合による皮膚の負担(肌荒れ、潰瘍)状況に応じて縫合箇所を変更して皮膚の負担を低減させることができる。
縫合によるフランジ部材1の固定は、縫合用孔20と縫合糸係止用凹部31との間に縫合糸50を掛け渡して行うに限らず、紐通し孔10の狭幅開口部12に縫合糸50を通して行うこともできる。この場合、フランジ本体3の外周縁30の狭幅開口部12に最も接近する部位に縫合糸係止用凹部31と同様の形状の縫合糸係止用凹部を設けた構成として、狭幅開口部12と縫合糸係止用凹部との間に縫合糸50を掛け渡して縫合を行うようにすることもできる。
フランジ部材1に装着される気管切開チューブ101は、チューブ本体102やカフ103等が以下に説明する構成を有するものとすることができる。
図9〜図12等に示すように、チューブ本体102は、チューブ本体102の内周面の中心軸線O1の延在方向(以下、単に「中心軸線方向A」と記載する。)において先端105から基端106まで貫通する中空部107を区画しており、気管切開チューブ101が外方から気管内に挿入されて留置されている状態では、この中空部107により気道が確保される。なお、チューブ本体102の先端105とは、チューブ本体102の遠位端であり、気管切開チューブ101が気管内に留置されている状態において、気管分岐部側に位置する一端である。また、基端106とは、チューブ本体102の近位端であり、気管切開チューブ101が気管内に留置されている状態において顎側に位置する他端である。
より具体的に、チューブ本体102は、先端105を含む先端部108と、中心軸線方向Aにおいて先端部108の基端106側で連続し、外周面上にカフ103が取り付けられるカフ装着部109と、このカフ装着部109の基端106側で連続する湾曲部110と、この湾曲部110の基端106側で連続し、基端106を含む基端部111と、を備える。換言すれば、チューブ本体102の先端部108は、カフ装着部109及び湾曲部110を介して、基端部111と繋がっている。なお、フランジ部材1は、基端部111に装着される。
ここで、この気管切開チューブ101では、チューブ本体102を先端部108の先端105側から見た場合(図10(b)参照)において、先端105に対して基端106がある方向、すなわち、先端105に対して湾曲部110が湾曲している方向を「上側」とし、その反対側を「下側」とする。
また、図9〜図15等に示すように、チューブ本体102の外周面とチューブ本体102の中空部107を区画する内周面との間であるチューブ本体102の壁内には、中心軸線O1に沿って延在する3つの中空部が区画されている。具体的に、チューブ本体102は、壁内に形成され、基端面に区画された第1〜第3基端開口112a〜114aから中心軸線O1に沿って延在する第1〜第3ルーメン112〜114を備える。なお、壁内に区画された小径の第1〜第3ルーメン112〜114についても中空部であるが、説明の便宜上、気道を確保するための大径の中空部107と区別するため、ここでは「ルーメン」と記載する。
第1ルーメン112は、基端面の第1基端開口112aから、カフ103及びカフ装着部109よりも基端部111側の所定の位置まで延在しており、その所定の位置に形成されたチューブ本体102の外周面まで貫通する第1吸引口部112bを通じてチューブ本体102の外方と連通している。なお、この気管切開チューブ101の第1吸引口部112bは吸引口であり、カフ103及びカフ装着部109よりも基端部111側の位置として、湾曲部110に形成されている。より具体的には、この気管切開チューブ101の第1吸引口部112bは、湾曲部110の先端部108側の端部、すなわち、カフ装着部109の基端部111側の近傍に形成されている。この第1ルーメン112は、気管内に留置されている状態のカフ103よりも気管上流側(顎側)に貯留する痰や唾液、血液などの異物Xを吸引して除去するためのルーメンであり、以下、「第1吸引用ルーメン」と記載する。
第2ルーメン113は、基端面の第2基端開口113aから、カフ103及びカフ装着部109よりも先端部108側の所定の位置まで延在しており、その所定の位置に形成されたチューブ本体102の内周面まで貫通する第2吸引口部113bを通じてチューブ本体102の中空部107と連通している。なお、この気管切開チューブ101の第2吸引口部113bは、カフ103及びカフ装着部109よりも先端部108側の位置として、先端部108に形成されている。より具体的に、この気管切開チューブ101の第2吸引口部113bは、図14に示すように、先端部108の内周面において先端105の位置まで続く切り欠き状の吸引口である。この第2ルーメン113は、気管内に留置されているカフ103よりも気管下流側(気管分岐部側)で、先端部108近傍に貯留する痰等の異物Xを吸引して除去するためのルーメンであり、以下、「第2吸引用ルーメン」と記載する。
第3ルーメン114は、基端面の第3基端開口114aから、カフ103及びカフ装着部109の位置まで延在しており、その位置に形成されたチューブ本体102の外周面まで貫通する流路114bを通じて外方と連通している。従って、例えばシリンジ等を用いて、第3ルーメン114の第3基端開口114aから流路114bを通じて、カフ装着部109の外周面とカフ103の内面とで区画される環状空間Y内へ空気等の流体を供給することにより、カフ103を、この供給された流体により径方向B(図15参照)に拡張させることができる。また、拡張した状態のカフ103に対しては、上述の環状空間Yから、第3ルーメン114の流路114b及び第3基端開口114aを通じて流体を吸引すれば、カフ103を径方向Bに収縮させることができる。このように、第3ルーメン114は、カフ103を収縮及び拡張させるために用いられるルーメンであり、以下、「カフ用ルーメン」と記載する。
チューブ本体102の構成材料としては、例えば、シリコーン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂を用いることができる。その中でも、成形が容易であるという点で、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)のような樹脂を用いることが好ましい。
カフ103は、図8及び図15に示すようにチューブ本体102のカフ装着部109の外周面上に取り付けられており、上述したチューブ本体102のカフ用ルーメン114を通じて、カフ装着部109の外周面とカフ103の内面とで区画される環状空間Yに供給される流体の圧力により、拡張させることができる。従って、気管切開チューブ101を外方から気管内へと挿入し、所定の位置で気管切開チューブ101を留置しようとする際に、チューブ本体102のカフ用ルーメン114を通じて環状空間Yへと流体を供給し、カフ103をチューブ本体102の径方向B(図15参照)に拡張させる。これにより、拡張したカフ103の外面が気管内壁と密着し、カフ103の外面と気管内壁との摩擦力等によって、カフ103が気管内周面に挟持されると共に、カフ103によりチューブ本体102周囲で気管内が閉塞される。そのため、気管内でのカフ103の位置が固定され、気管切開チューブ101を上述した所定の位置で留置させることができる。
また、気管切開チューブ101を気管内から外方へ抜去する際や、気管切開チューブ101の留置する位置を再調整する際などは、カフ用ルーメン114を用いて環状空間Yの流体を吸引し、カフ103を収縮させる。これにより、気管切開チューブ101のチューブ本体102を気管内で気管に沿って移動させることができる。
このようなカフ103は、中心軸線方向Aにおける基端106側の端縁部115及び先端105側の端縁部116それぞれが、チューブ本体102の周方向C(図9、図13等参照)の全域において、カフ装着部109の外周面上に溶着や超音波接着等により接着されている。これにより、カフ103の内面とカフ装着部109の外周面とにより上述した環状空間Yが区画されている。より具体的に、図15に示すように、基端106側の端縁部115は、環状空間Yの内側に折り曲げられており、端縁部115のうちカフ103の外面から延在する面が、環状空間Y内で、カフ装着部109の外周面に接着されている。また、先端105側の端縁部116は、環状空間Yの外側に折り曲げられており、端縁部116のうちカフ103の内面から延在する面が、環状空間Y外で、カフ装着部109の外周面に接着されている。
なお、カフ103の構成材料としては、例えば、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、シリコーン、またはこれらのうち任意の材料を混合した、可撓性を有する材料を用いることができる。
図16に示すように、フランジ部材1の装着部2は、フランジ本体3よりも基端側の位置に、上述した第1吸引用ルーメン112、第2吸引用ルーメン113及びカフ用ルーメン114それぞれと連通する連通孔117a、117b及び117cが区画形成された構成とすることもできる。なお、図16では、説明の便宜上、フランジ本体3を紐通し孔10や縫合用孔20等の記載を省略するなど簡略化した形状で示すとともに、チューブ本体102の第1吸引用ルーメン112、第2吸引用ルーメン113及びカフ用ルーメン114の位置を二点鎖線により示している。この例においては、フランジ部材1の装着部2の内部にチューブ本体102の基端部111が嵌合することにより装着されている状態において、第1吸引用ルーメン112、第2吸引用ルーメン113及びカフ用ルーメン114は、対応する連通孔117a、117b、117cを介して、気管切開チューブ101の外方と連通し、この連通孔117a〜117cそれぞれに医療用チューブが接続される構成とすることができる。
図16に示す例は、より具体的には、第1吸引用ルーメン112は、装着部2に形成された対応する連通孔117aを通じて、気管切開チューブ101の基端側で気管切開チューブ101の外方と連通している。従って、体外に露出している装着部2の連通孔117aに一端が嵌合した吸引用チューブ119の他端にシリンジまたは吸引ポンプ等を接続して吸引を行えば、体外から第1吸引用ルーメン112を通じて痰等の異物Xを吸引することができる。また、第2吸引用ルーメン113についても、第1吸引用ルーメン112と同様であり、吸引用チューブ120、装着部2に形成された対応する連通孔117b及び第2吸引用ルーメン113を通じて異物Xを吸引することができる。
更に、カフ用ルーメン114は、装着部2に形成された対応する連通孔117cを通じて、気管切開チューブ101の基端側で気管切開チューブ101の外方と連通している。従って、体外に露出している装着部2の連通孔117cに一端が嵌合したカフ用チューブ121の他端にシリンジ等を接続すれば、体外にあるシリンジ等の操作により、カフ103の環状空間Yへの流体の供給や吸引を行うことができ、それによりカフ103の拡張及び収縮を操作することができる。
なお、フランジ部材1の装着部2は、チューブ本体102の基端部111と同心円状に装着され、チューブ本体102の周方向Cにおける第1吸引用ルーメン112の位置、第2吸引用ルーメン113の位置、及びカフ用ルーメン114の位置は、装着部2の対応する連通孔117a、117b、及び117cの周方向Cの位置の近傍とされる。そのため、各連通孔117a、117b、117cを短くすることができ、装着部2の連通孔117a、117b、及び117cの構成が複雑化することが抑制される。また、図16に示すように、吸引用チューブ119及び120、並びにカフ用チューブ121は、図16の平面視において、各連通孔117a、117b、117cからフランジ本体3の突設されている方向に延在するように接続され、先端部108側には延在していない。このように接続することにより、気管切開チューブ101が気管内に留置された状態において、吸引用チューブ119及び120、並びにカフ用チューブ121が、患者の顎にぶつかることが抑制され、気管切開チューブ101が留置される患者の不快感を軽減することができる。
以下、この気管切開チューブ101におけるチューブ本体102の詳細を更に説明する。
[チューブ本体102の先端部108]
図13に示すように、チューブ本体102は、外周面の中心軸線O2と、中空部107を区画する内周面の中心軸線O1とが異なっている。具体的に、図13に示すような、内周面の中心軸線O1と直交する断面(チューブ本体102の先端面を含む一断面を除く)において、内周面の中心軸線O1は、外周面の中心軸線O2よりも上側に位置しており、図13に示すように、同断面では外周面と内周面とは同心円ではない。より具体的に、図13に示すように、チューブ本体102の外周面は、内周面の中心軸線O1と直交する断面において、湾曲部110の外側湾曲面側(図13における下側)に位置する下面部122と、湾曲部110の内側湾曲面側(図13における上側)に位置する上面部123と、チューブ本体102の周方向Cにおいて下面部122と上面部123とを繋ぐ側面部124と、で構成されており、チューブ本体102の厚みTは、同断面(後述するテーパー形状部125のうち上面部123側の部分を含まない同断面)において、上面部123側よりも下面部122側が厚い。更に、同断面において、チューブ本体102の厚みTが、上面部123から下面部122に向かって周方向Cに進むにつれて漸増するように構成されている(図13参照)。なお、「チューブ本体102の厚みT」とは、中心軸線O1と外周面上の一点とを結ぶ線分上でのチューブ本体102の肉厚を意味する。
チューブ本体102の下面部122側の厚みTを、上面部123側の厚みTよりも厚くすることにより、下面部122側の壁内に形成される第1及び第2吸引用ルーメン112及び113の断面積を比較的大きくすることが可能となり、第1及び第2吸引用ルーメン112及び113での異物Xの詰まりを抑制することができると共に、吸引に必要な吸引圧力を低減でき、吸引効率を向上させることができる。
ここで、図9〜15等に示すように、チューブ本体102の先端部108の外周面には、外径が先端105に向かって漸減し、先端105まで延在するテーパー形状部125が形成されている。このテーパー形状部125により、チューブ本体102を体外から気管内に挿入する際の、挿入抵抗を軽減することができる。特に、上述したように周方向Cの位置により厚みT(図13参照)が異なるチューブ本体102の先端部108の外周面にテーパー形状部125を設けることにより、チューブ本体102を体外から気管内に挿入する際に厚みTが厚い部分で生じ得る挿入抵抗の増大を、抑制することができる。なお、チューブ本体102を体外から気管内に挿入する際は、例えば、喉元の皮膚及び気管を切開して挿入口を形成し、後述するオブチュレータ150等を用いて挿入口を拡大させながら、チューブ本体102を挿入していく。オブチュレータ150は、カフ103を拡張させてチューブ本体102を気管内の所定位置に留置した後にチューブ本体102の基端106側から抜去される。また、オブチュレータ150は、チューブ本体102を気管内の所定位置に留置し、カフ103を拡張させる前にチューブ本体102の基端106側から抜去してもよい。
更に、図15に示すように、チューブ本体102の内周面の中心軸線O1に対するテーパー形状部125の角度θ1は、周方向Cの位置によらず略同一である。これにより、チューブ本体102を体外から気管内に挿入する際の、周方向Cの位置によって中心軸線O1に対する角度が異なることにより生じ得る周方向Cにおける挿入抵抗差を、低減することができる。
また更に、テーパー形状部125は、下面部122での中心軸線方向Aにおける長さが上面部123での中心軸線方向Aにおける長さよりも長い斜円錐台形状を有する。具体的には、上述したようにチューブ本体102の内周面の中心軸線O1に対するテーパー形状部125の角度θ1は、周方向Cの位置によらず略同一である(図15参照)と共に、図10(a)に示すように、中心軸線方向Aにおけるテーパー形状部125の外周面の基端を周方向Cに結ぶことで形成される楕円(図10(a)において「M」で示す実線により形成される楕円)を含む断面と、テーパー形状部125の外周面の先端(チューブ本体102の外周面の先端と同じ)を周方向Cに結ぶことで形成される円(図10(a)において「N」で示す実線により形成される円)を含む断面とは平行していない。つまり、図15に示すように、下面部122及び上面部123での中心軸線O1に対するテーパー形状部125の角度θ1は同一であるが、下面部122及び上面部123での中心軸線方向Aにおけるテーパー形状部125の長さは異なっている。
そして、下面部122での中心軸線方向Aの長さを、上面部123での中心軸線方向Aの長さよりも長い構成とすることにより、テーパー形状部125以外の部分では下面部122側のチューブ本体102の厚みT(図13参照)が上面部123側のチューブ本体102の厚みTよりも厚いにもかかわらず、チューブ本体102の先端面では、下面部122側の厚みTと上面部123側の厚みTとの間の肉厚差(厚みTの差)が小さい構成又は両者の厚みTが略等しい構成とすることが可能となる。すなわち、チューブ本体102の先端面において、周方向Cの位置による肉厚差を低減することができるため、周方向Cでの剛性差に起因するチューブ本体102の不均一な変形や、この不均一な変形に基づく挿入抵抗の増大を抑制することができる。
特に、先端面でのチューブ本体102の厚みTを周方向Cの位置によらず均一にし、チューブ本体102の先端面において、内周面の中心軸線O1と外周面の中心軸線O2とが略一致する同心円状の構成とすることが好ましい(図15参照)。このような構成とする場合には、先端面での挿入抵抗を小さくするために、先端面での厚みTが薄くなるように均一化することが特に好ましい。なお、図示する場合では、チューブ本体102の先端面の厚みTは、周方向Cの位置によらず0.6mmとしている。
[チューブ本体102の第1及び第2吸引用ルーメン112及び113] 次に、第1吸引用ルーメン112(第1ルーメン112)と、第2吸引用ルーメン113(第2ルーメン113)との位置関係について詳細に説明する。
図9〜図15に示すように、第1吸引用ルーメン112は、チューブ本体102の壁内に、チューブ本体102の内周面の中心軸線O1に沿って延在しており、この第1吸引用ルーメン112は、カフ103及びカフ装着部109よりも基端部111側の位置で、第1吸引用ルーメン112の内壁に形成された内壁開口126からチューブ本体102の外周面に形成された外壁開口127まで貫通する第1吸引口部112bとしての吸引口を通じて外方と連通している。
また、第2吸引用ルーメン113は、チューブ本体102の壁内に、チューブ本体102の内周面の中心軸線O1に沿って、カフ103よりも基端部111側の基端部111からカフ103よりも先端部108側の先端部108まで延在している。なお、第2吸引用ルーメン113は、上述したように、チューブ本体102の内周面まで貫通する第2吸引口部113bとしての吸引口を通じてチューブ本体102の内方の中空部107と連通している。
ここで、図13に示す断面は、第1吸引用ルーメン112、第2吸引用ルーメン113及びカフ用ルーメン114を含み中心軸線O1と直交する断面である。そして、図13に破線で示す「P1」は、チューブ本体102の先端部108及び基端部111の位置での中心軸線O1を含む第1仮想平面P1を示しており、第1仮想平面P1は、チューブ本体102の中心軸線O1を全て含む平面である。また、図13に破線で示す「P2」は、図13の断面上での中心軸線O1を通り、第1仮想平面P1と直交する第2仮想平面P2を示している。そして、第1仮想平面P1と、チューブ本体102の外周面のうち湾曲部110(図9等参照)の外側湾曲面側に位置する下面部122とが交わる交線を第1交線L1(図15参照)とした場合に、図13に示す点K1は、第1交線L1上の点を示している。また、第1仮想平面P1と、チューブ本体102の外周面のうち湾曲部110の内側湾曲面側に位置する上面部123とが交わる交線を第2交線L2(図15参照)とした場合に、図13に示す点K2は、第2交線L2上の点を示している。更に、図13に二点鎖線で示す直線L3は、この断面視において、第1吸引用ルーメン112を区画する内壁のうち、第1吸引用ルーメン112の最大径を構成する2点を通る仮想線を示し、図13に二点鎖線で示す直線L4は、この断面視において、第2吸引用ルーメン113を区画する内壁のうち、第2吸引用ルーメン113の最大径を構成する2点を通る仮想線を示している。なお、説明の便宜上、以下、直線L3を「第1直線L3」と記載し、直線L4を「第2直線L4」と記載する。
図13に示すように、第2吸引用ルーメン113は、第1直線L3が交わらない位置に形成されていると共に、第1吸引用ルーメン112は、第2直線L4が交わらない位置に形成されている。このような構成とすることにより、第1吸引用ルーメン112と第2吸引用ルーメン113との周方向Cにおける距離を所定距離以上とすることができ、気管切開チューブ101のチューブ本体102を製造する際に、第1吸引用ルーメン112及び第2吸引用ルーメン113とを分離した別々のルーメンとして形作ることが容易となる。また、図17に示すように、チューブ本体102の外周面に外壁開口127を形成する際に、形成する開口部が第2吸引用ルーメン113まで連通するのを防ぐことができる。
また、図13に示すように、第2吸引用ルーメン113は、チューブ本体102の下面部122側であって、第1仮想平面P1と交わる位置に設けられている。チューブ本体102の下面部122は、気管切開チューブ101が気管内に留置された状態において背中側となる面であり、横になって寝ている患者にとっては鉛直方向下側の面となる。つまり、第2吸引用ルーメン113を、下面部122側に配置することにより、寝ている患者の気管内で鉛直方向下方の内面(背中側の面)上に貯留し易い痰等の異物X(図1参照)を、第2吸引用ルーメン113を通じて容易に吸引することが可能となる。
更に、図13に示すように、第1直線L3と第2直線L4とがなす角度θ2は90度より大きい。このような構成とすることにより、第1吸引用ルーメン112と第2吸引用ルーメン113との周方向Cにおける距離を所定距離未満とすることができる。上述したように、寝ている患者の気管内では、気管内の背中側の面上に痰等の異物Xが貯留し易い。従って、第1吸引用ルーメン112についても、第2吸引用ルーメン113と同様、チューブ本体102の下面部122側にあることが好ましい。そのため、第1吸引用ルーメン112及び第2吸引用ルーメン113を、図13の断面視において第1直線L3と第2直線L4とのなす角度θ2が90度より大きくなるように配置することにより、第1吸引用ルーメン112の周方向Cの位置を、第1仮想平面P1と下面部22側で交わる位置に配置された第2吸引用ルーメン113と近い位置にすることができる。
換言すれば、第1吸引用ルーメン112は、図13の断面視において、中心軸線O1を中心として第1交線L1上の点K1から中心角が90度未満の位置に形成されていると共に、第1仮想平面P1及び第2仮想平面P2と交わらない位置に形成されている。つまり、図13の断面において、第1吸引用ルーメン112は、第2仮想平面P2よりも下面部122側であって、第1仮想平面P1及び第2仮想平面P2と交わらない位置に形成されている。
なお、図13の断面視において、中心軸線O1を中心として、第1直線L3上の第1吸引用ルーメン112の中点Rは、前記第1交線L1上の点K1から中心角が30〜80度の範囲とすることが好ましく、40〜70度の範囲とすることがより好ましく、55〜65度の範囲とすることが特に好ましい。また、図13の断面視において、第2直線L4上の第2吸引用ルーメン113の中点Sは、第1仮想平面P1と交わる位置にあることが好ましいことから、図13の断面視において、中心軸線O1を中心として、第1直線L3上の第1吸引用ルーメン112の中点Rは、第2直線L4上の第2吸引用ルーメン113の中点Sからも中心角が30〜80度の範囲にあることが好ましく、40〜70度の範囲とすることがより好ましく、55〜65度の範囲とすることが特に好ましい。但し、第2吸引用ルーメン113は、下面部122側に位置していればよく、図13に示すように、第2吸引用ルーメン113の中点Sが、第1仮想平面P1上に位置しない構成であってもよい。
また、図13に示すような、第1吸引用ルーメン112及び第2吸引用ルーメン113を含み中心軸線O1に直交する断面において、第1吸引用ルーメン112及び第2吸引用ルーメン113は略楕円形状を有している。従って、第1直線L3は、第1吸引用ルーメン112の長軸及びその延長線であり、第2直線L4は、第2吸引用ルーメン113の長軸及びその延長線である。
なお、図13に示すような、第1吸引用ルーメン112、第2吸引用ルーメン113及びカフ用ルーメン114を含み中心軸線O1と直交する断面において、カフ用ルーメン114についても、チューブ本体102の外周面の上面部123側で、第1仮想平面P1と交わる位置に形成されている。すなわち、図13に示す断面視で、第2吸引用ルーメン113とカフ用ルーメン114とは、中心軸線O1を挟んで略対向する位置に形成されている。
[第1吸引用ルーメン112の第1吸引口部112b]
次に、第1吸引用ルーメン112の第1吸引口部112bとしての吸引口の詳細について説明する。図9、図11(a)、12(b)に示すように、第1吸引口部112bは、カフ103よりも基端部111側の位置で、第1吸引用ルーメン112の内壁に形成された内壁開口126からチューブ本体102の外周面に形成された外壁開口127まで貫通する吸引口である。
図17は、中心軸線O1と直交し内壁開口126を含む断面を示す。図17に示すように、内壁開口126は、上述した図13での第1吸引用ルーメン112と同様、図17に示す断面上の中心軸線O1を通り、第1仮想平面P1と直交する第2仮想平面P2よりも、チューブ本体102の外周面のうち湾曲部110(図9等参照)の外側湾曲面側に位置する下面部122側であって、第1仮想平面P1及び第2仮想平面P2と交わらない位置に形成されている。従って、気管内の背中側の内面に貯留し易い痰等の異物Xを、内壁開口126及び第1吸引用ルーメン112を通じて容易に吸引することができる。
更に、図17に示す断面において、内壁開口126の周方向における中点Wの位置は、上述した図13における第1直線L3上の第1吸引用ルーメン112の中点Rと同じであり、図17に示す断面上での中心軸線O1を中心として、第1交線L1上の点K1から中心角が30〜80度の範囲とすることが好ましく、40〜70度の範囲とすることがより好ましく、55〜65度の範囲とすることが特に好ましい。
また、第1吸引口部112bとしての吸引口を、チューブ本体102の外周面の外方から正面に見た場合には、図11(a)に示すように、内壁開口126は略四角形状であり、外壁開口127は略楕円形状である。より具体的に、内壁開口126は、略長方形状であり、外壁開口127は、長軸方向が中心軸線方向Aと平行せずに、略直交する略楕円形状である。このような内壁開口126及び外壁開口127の形状は、第1吸引口部112bとしての吸引口をチューブ本体102の外壁に形成された溝とすることにより形成している。具体的に、吸引口を形成する溝は、中心軸線O1と平行しない方向にチューブ本体102の周方向Cに沿わず直線状に延在している。そして、図9に示すように、吸引口を形成する溝は、溝内面の横断面が一様な円弧形状である。そして、溝の縁が略楕円形状の外壁開口127を区画し、溝の内側の横断面が一様な円弧形状の曲面の一部が略四角形状の内壁開口126を区画している。なお、吸引口を形成する溝は、別の言い方をすれば、チューブ本体102の外周面に、円筒部材の外周面を押しつけて模ったような円筒外周面の受け形状をしている。
このように、第1吸引口部112bとしての吸引口を、中心軸線O1と平行しない方向にチューブ本体102の周方向Cに沿わず直線状に延在する溝で構成することにより、吸引中に気管内面が内壁開口126を塞ぐように密着することを抑制することができる。
また、図18は、第1吸引口部112bとしての吸引口の変形例を示すものである。図11(a)に示す第1吸引口部112bとしての吸引口は、中心軸線O1と略直交する方向に延在する溝により構成されたものであるが、図18に示す第1吸引口部112bとしての吸引口は、中心軸線O1と平行せず、更に直交しない方向に延在する溝により構成されたものである。このような溝により第1吸引口部112bとしての吸引口を構成することにより、内壁開口126を、チューブ本体102の外周面の外方から正面に見た場合に、略平行四辺形状とすることができ、表面張力等の影響により、痰や唾液等を吸引し易い形状とすることができる。
更に、図18では、第1吸引口部112bとしての吸引口を構成する溝の内面には、複数の凸部140が設けられ、凹凸形状が形成されている。溝の内面にこのような凹凸形状を形成することにより、吸引中に気管内面が内壁開口126を塞ぐように密着することを一層抑制することができる。
また更に、図18において、第1吸引口部112bとしての吸引口は、中心軸線方向Aにおいて湾曲部110の位置に形成されている。そして、第1吸引口部112bとしての吸引口を湾曲部110に形成する際には、中心軸線O1と平行せず、更に直交しない方向に延在する溝により構成することが有益である。つまり、第1吸引口部112bとしての吸引口を、中心軸線O1と平行せず、更に直交しない方向に延在する溝により構成し、その溝を湾曲部110の位置に形成すれば、内壁開口126が上下方向に長い対角線を有する略平行四辺形状とすることができる。そのため、湾曲部110の位置に、中心軸線O1と直交する方向に延在する溝を形成する場合と比較して、内壁開口126の下端位置を下面部122側にすることができるため、チューブ本体102を気管内に留置した際に、気管内の背中側の内面上に貯留する痰や唾液等を吸引し易くすることができる。
なお、上述したように、第1吸引口部112bとしての吸引口は、気管切開チューブ101のカフ103の基端106側近傍に貯留する痰や唾液等の異物X(図1参照)を吸引することができるように、中心軸線方向Aにおいて、カフ103及びカフ装着部109の基端106側近傍の位置にあることが特に好ましい。
[気管切開チューブ101の製造方法]
次に、気管切開チューブ101の製造方法について説明する。図19は、気管切開チューブ101の製造方法のうちチューブ本体102の製造方法の手順を示すフローチャート図である。図19に示すように、気管切開チューブ101のチューブ本体102の製造方法は、先端105から基端106まで貫通する中空部107を区画すると共に壁内に2つのルーメンとしての第1吸引用ルーメン112及び第2吸引用ルーメン113を有するチューブ材を押し出し成型するステップS1と、この押し出し成型されたチューブ材の外周面にカフ103を接着するステップS2と、チューブ材の先端部に、テーパー形状に形成された内面を有する金型を押しあて、チューブ材の先端部における外周面に、外径が先端に向かって漸減し、先端まで延在するテーパー形状部125を形成するステップS3と、チューブ材の先端開口から例えばフェザー刃等の刃物を挿入し、外周面のテーパー形状部125が形成された位置での内周面のうち、第2吸引用ルーメン113の先端部がある位置に溝を形成するステップS4と、チューブ材のカフ装着部から基端側近傍の位置に、先端が円形の刃物等により第1吸引口部112bを形成するステップS5と、を含むものである。
上述したテーパー形状部125を形成するステップS3では、金型の内面と、チューブ材の外周面との間に、カフ103のチューブ材の先端105側の端縁部116を挟み込み、カフ103の一部を溶融させる。これにより、カフ103の端縁部116が溶融して、カフ103の端縁部116とカフ装着部109の外周面との接着力を更に強くすることができる。
また、第2吸引用ルーメン113の先端部を区画する内周面に溝を形成するステップS4で形成された溝により、上述した第2吸引用ルーメン113の第2吸引口部113b(図14参照)が形成される。上述した製造方法では、刃物を用いて内壁の一部を切り取ることにより溝を形成しているが、内壁の一部を切り欠いて溝を形成可能な切り欠き部材であればよく、上述の刃物に限られるものではない。更に、上述した製造方法では、第1吸引口部112bを形成するステップS5についても、先端が円形の刃物や、例えば彫刻刀の丸刀のような先端がU字形状の刃物を用いて図9や図17等に示すような溝状の第1吸引口部112bを形成しているが、チューブ材の外壁の一部を切り欠いて溝状の第1吸引口部112bを形成可能な切り欠き部材であればよく、上述した刃物に限られるものではない。
なお、チューブ本体102の製造方法以外の気管切開チューブ101の製造方法の各ステップについては、公知の種々の方法を用いて実現することができ、ここでは記載を省略する。
[気管切開チューブセット200]
最後に、上述した気管切開チューブ101と、チューブ本体102と共に体外から気管内に挿入されるオブチュレータ150と、を備える気管切開チューブセット200について説明する。
図20は、気管切開チューブセット200の断面図である。図20に示すように、気管切開チューブセット200は、チューブ本体102を備える気管切開チューブ101と、先端がチューブ本体102の先端開口128から突出した状態で、気管切開チューブ101と共に体外から気管内へと挿入されるオブチュレータ150と、を備えている。
オブチュレータ150の先端は、気管切開チューブ101のチューブ本体102の先端105よりも先に皮膚及び気管に形成された挿入口に挿入される。そして、オブチュレータ150により挿入口を拡げ、チューブ本体102を気管内に挿入し易くするものである。
気管切開チューブ101には、オブチュレータ150をチューブ本体102内に挿入する際に、オブチュレータ150と係合して、チューブ本体102の内周面の中心軸線方向Aにおける、気管切開チューブ101に対するオブチュレータ150の挿入量を規制する係合部129が設けられている。
具体的に、図20に示す気管切開チューブ101の係合部129は、フランジ部材1の装着部2の基端面であり、オブチュレータ150をチューブ本体102の基端106(図9等参照)側からチューブ本体102内に挿入していくと、オブチュレータ150の基端部151に設けられたフランジ部152が、気管切開チューブ101が装着されたフランジ部材1における装着部2の基端面と当接し、オブチュレータ150をそれ以上挿入することができなくなる。つまり、気管切開チューブ101に対するオブチュレータ150の挿入量は、気管切開チューブ101が装着されたフランジ部材1における装着部2の基端面により規制される。なお、係合部は、図20に示すものに限られるものではなく、例えば、フランジ部材1の装着部2の内面に雌ねじ部を設け、オブチュレータ150の基端部151の外面に雄ねじ部を設け、雌ねじ部と雄ねじ部とを螺合することにより、気管切開チューブ101とオブチュレータ150とを係合させる構成としてもよい。
上述したように、チューブ本体102の先端部108の外周面には、先端105(図9等参照)に向かって外径が漸減する、先端105まで延在するテーパー形状部125が形成されている。また、オブチュレータ150の先端部153の外周面には、先端に向かって外径が漸減するテーパー形状部154が形成されている。以下、チューブ本体102のテーパー形状部125と、オブチュレータ150のテーパー形状部154とを区別するために、チューブ本体102のテーパー形状部125を「第1テーパー形状部125」と記載し、オブチュレータ150のテーパー形状部154を「第2テーパー形状部154」と記載する。
オブチュレータ150が係合部129と係合した状態において、第2テーパー形状部154の少なくとも一部はチューブ本体102の先端開口128から外方に露出しており、中心軸線方向Aでは、チューブ本体102の第1テーパー形状部125と、オブチュレータ150の第2テーパー形状部154とが、連続して位置している。このような構成とすることにより、体外から気管内に挿入する際の、チューブ本体102の先端105での挿入抵抗を低減することができる。
また、図20では、中心軸線方向Aに対する第1テーパー形状部125の角度θ1は、第2テーパー形状部154の角度θ3よりも大きい。なお、中心軸線方向Aに対する第1テーパー形状部125の角度θ1は、第2テーパー形状部154の角度θ3より小さくすることも、略等しい角度にすることも可能であるが、図20に示すように、第1テーパー形状部125の角度θ1を、第2テーパー形状部154の角度θ3よりも大きくすることで、チューブ本体102の先端105における挿入抵抗を軽減することができより好ましい。また、第1テーパー形状部125の角度θ1を、第2テーパー形状部154の角度θ3と略等しい角度にすることで、チューブ本体102の先端105とオブチュレータ150とを略一体構造とし、先端105における挿入抵抗を軽減することもできる。また、第1テーパー形状部125の角度θ1を、第2テーパー形状部154の角度θ3よりも小さくすることで、チューブ本体102の先端105とオブチュレータ150とが過度に挿入されることによる気管内壁への損傷を軽減することができる。
更に、チューブ本体102は、先端開口128を区画する縁部130を含む先端面を備えており、オブチュレータ150が係合部129と係合した状態において、第2テーパー形状部154の外周面はチューブ本体102の縁部130と嵌合して当接している。つまり、第2テーパー形状部154の外周面は、周方向Cの全域に亘って縁部130と当接した状態となっている。このような構成とすることにより、第1テーパー形状部125と第2テーパー形状部154との間の径方向Bの段差を、チューブ本体102の先端面における厚みT(図13参照)だけとすることができ、第2テーパー形状部154の外周面が周方向Cの全域でチューブ本体102の縁部130と当接していない構成と比較して、チューブ本体102の先端105における挿入抵抗を軽減することができる。
なお、上述した気管切開チューブ101においては、チューブ本体102は、先端部108、カフ装着部109及び基端部111を湾曲しない直線状の筒部とされているが、先端部から基端部までを湾曲したチューブ本体とすることもできる。
また、図13に示すように、上述したチューブ本体102における、第2直線L4上の第2吸引用ルーメン113の中点Sは、第1仮想平面P1上に位置しておらず、側面部124側にずれた位置にあるが、図13の断面視において中点Sが第1仮想平面P1上に位置する構成とすれば、気管内の背中側の内面に貯留し易い痰等の異物Xが、第2吸引用ルーメン113を通じて吸引され易くなるため、このような配置とすることがより好ましい。また、図13に示すように、上述したチューブ本体102における、第2直線L4上の第2吸引用ルーメン113の中点Sが、第1仮想平面P1上に位置していない構成とする場合であっても、図21に示すように、第2吸引口部113bとしての吸引口については、第1交線L1上の点K1に近い位置に形成するようにすれば、異物Xを吸引し易い構成とすることができる。なお、図21は、図14と同位置での断面を示しており、この断面視において、第2吸引口部113bとしての吸引口のうち吸引口の最大径を構成する2点を通る第3直線L5(仮想線)上での吸引口の中点Uが第1仮想平面P1上に位置するように、第2吸引口部113bとしての吸引口は配置されている。
本発明は、上述した実施形態で特定される構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、フランジ本体3に一対の紐通し孔10が設けられるが、この紐通し孔10は設けられなくてもよい。