本発明は、研磨加工装置、研磨加工方法および溶融金属めっき浴中ロールの製造方法に関する。
連続溶融金属めっき装置は、金属帯(例えば鋼帯)を亜鉛などの溶融金属でめっきするための装置である。この連続溶融金属めっき装置は、溶融金属を満たしためっき浴中に配置される溶融金属めっき浴中ロールとして、例えば、鋼帯の進行方向を転換するためのシンクロール(ポットロールとも称する。)と、鋼帯の形状を矯正する一対のサポートロールを備える。めっき浴内に斜め下方に向けて導入された鋼帯は、シンクロールによりその進行方向を鉛直方向上方に転換された後に、一対のサポートロールの間を通過してめっき浴外に引き上げられる。その後、ワイピングノズルから吹き付けられる気体により、鋼帯表面に付着した余剰の溶融金属が払拭され、所定の目付量に制御される。
上記連続溶融金属めっき装置では、鋼帯から溶出したFeがめっき浴中のAl、Znと反応して、めっき浴中にドロスと称する粒状物が発生する。ドロスは、Fe−Al系化合物(例えばFe2Al5)、Fe−Zn系化合物(例えばFeZn7)及びこれらの混合物などからなり、その成分の混合率等の違いにより比重差が生じ、めっき浴中で異なる挙動を示す。このためドロスは、比重がZnより大きくめっき浴の底部に堆積するボトムドロス(100μm〜数mm程度)と、めっき浴中に浮遊する比較的小さい浮遊ドロス(数十μm程度)に分類される。めっき浴中のドロスの存在比率は、浴中のAl濃度等によりある程度制御可能であるが、本質的にはめっき浴中のドロスの発生は不可避である。
上記ドロスがめっき浴を通板中の鋼帯の表面に付着すると、めっき鋼板の表面性状の低下(ドロス欠陥)を引き起こす。また、ドロスがシンクロールやサポートロール等の浴中ロールの表面に付着すると、当該ロールと鋼帯の間のスリップの原因となる。このため、従来では、ドロス等の異物が浴中ロールに付着することを防止するために、浴中ロールの周面に異物排出用の溝を設け、浴中ロールと鋼帯との間に進入したドロス等の異物を含む溶融金属を、当該溝を通じて排出することが一般的である。
例えば、日本国特許出願公開2005−206878号公報には、ロール周面のドロス排出用溝として、溝断面形状が溝幅方向に左右非対称のV字状又はU字状の溝を設けることが記載されている。日本国特許出願公開平4−301057号公報には、ロール周面におけるドロス排出用溝の間で鋼帯に接触する部分に凹凸面を刻設し、当該凹凸面の高低差を0.5m〜5mmの範囲内にすることが記載されている。日本国特許出願公開2009−270157号公報には、ドロス排出用溝として、ロール胴長方向に対して±20°以内の傾き角を有し、深さ0.05〜1mmの延伸溝を連続形成することが記載されている。
日本国特許出願公開2013−213271号公報には、ロール周面のドロス排出用溝として湾曲状の溝を形成し、該溝により形成される山頂部と谷底部を研磨加工して、適切な粗度に調整することが記載されている。詳細には、山頂部の表面粗度を、算術平均粗さRaで4μm以上6.5μm以下、かつ、十点平均粗さRzで20μm以下とすることにより、ロール表面に押し付けられるワイパー及びスクレイパーの早期損耗を抑制できるので、ワイパー等により溝内のドロス屑を効果的に除去できるとともに、ワイパー等からのドロス屑の脱落を抑制できることが開示されている。また、谷底部の表面粗度を、算術平均粗さRaで3.5μm以下、かつ、十点平均粗さRzで12μm以下とすることにより、谷底部に堆積した余剰の封孔材を除去することができるので、該封孔材の一部がドロス屑とともに脱落して鋼板に押し込まれることにより生じる鋼板の表面欠陥(黒点欠陥)を抑制できることが開示されている。
開示の概要
日本国特許出願公開2005−206878号公報、日本国特許出願公開平4−301057号公報および日本国特許出願公開2009−270157号公報に記載のように、ロール周面への異物付着を抑制する方法として、異物排出用溝の形状に関する技術が数多く提案されている。
しかしながら、上記異物排出用溝を用いた場合であっても依然として、その溝底部に対してドロス等の異物が付着するという問題が存在する。つまり、異物排出用溝の溝底部にドロスが付着及び成長すると、当該溝を通じた溶融金属の排出が阻害されるため、鋼帯のスリップが発生しやすくなり、ロール寿命が短縮してしまう。従って、溝底部を平滑化して、表面粗度を低下させ、異物付着を抑制することが求められる。一方、ロール周面全体を平滑化すると、溝頂部における鋼帯のグリップ力が低下して、鋼帯がスリップしやすくなるという問題が生じてしまう。
従って、溝頂部(鋼帯に対するロール周面の接触領域)による鋼帯のスリップ防止と、溝底部(鋼帯に対するロール周面の非接触領域)への異物付着防止を両立させるためには、ロール周面のうち溝頂部の表面粗度が比較的高く、かつ、溝底部の表面粗度が比較的低くなるように、溝頂部及び溝底部の表面粗度をそれぞれ適切な粗さに調整することが求められる。この点、日本国特許出願公開2013−213271号公報では、溝頂部(上記の山頂部)及び溝底部(上記の谷底部)を研磨加工することで、溝頂部と溝底部の表面粗度を相異なる粗さに調整している。
日本国特許出願公開2013−213271号公報記載の研磨加工方法では、溝底部及び溝頂部を含むロール周面全体をバフ研磨している。このバフ研磨の結果、溝頂部の封孔皮膜を除去して、該封孔皮膜の下側の溶射皮膜を露出させることにより、溝頂部の表面粗度を調整するとともに、溝底部に過剰に堆積している封孔皮膜を除去することにより、溝底部の表面粗度を調整している。一般に、上層の封孔皮膜は下層の溶射皮膜よりも低硬度であるので、軟質の封孔皮膜をバフ研磨により研磨することは可能であるが、硬質の溶射皮膜をバフ研磨により研磨して平滑化することは難しい。そこで、日本国特許出願公開2013−213271号公報では、溝頂部と溝底部の表面粗度を調整するために、軟質の封孔皮膜をバフ研磨する方法を採用している。
しかしながら、日本国特許出願公開2013−213271号公報記載のようにロール周面全体の封孔皮膜をバフ研磨することで溝の表面粗度を調整する従来方法では、溝頂部(接触領域)を研磨加工することなく、溝底部を中心とする非接触領域のみを局部的に研磨加工して粗度調整することができないという問題があった。そのため、日本国特許出願公開2013−213271号公報記載の従来方法では、以下の問題が生じていた。第1に、溝の表面粗度を調整するためにはロール周面に封孔皮膜が必須となるため、封孔皮膜が存在しないロールについては、溝の表面粗度を調整できないという問題があった。第2に、該封孔皮膜の材質はバフ研磨で除去することが可能な材質に限定されるという問題があった。第3に、溝底部の溶射皮膜自体は研磨加工及び平滑化されていないため、溝内のドロスを削ぎ落とす作業により封孔皮膜が除去されたときに、その下層の高粗度の溶射皮膜が現れるので、溝底部の表面粗度が増加してしまうという問題もあった。
本明細書の実施の形態の目的は、溶融金属めっき浴中ロール周面全体を研磨加工するのではなく、溝底部を中心とする金属帯に対する非接触領域のみを局部的に適切に研磨加工して表面粗度を調整することが可能な研磨加工装置、研磨加工方法および溶融金属めっき浴中ロールの製造方法を提供することにある。
本明細書の一態様によれば、
(1)複数の溝がロール周面に形成された溶融金属めっき浴中ロールであり、めっき浴内の溶融金属中で前記ロール周面に金属帯を接触させながら前記めっき浴内の前記溶融金属中に前記金属体を連続して供給して前記金属帯にめっきする際に使用される溶融金属めっき浴中ロールの研磨加工装置であって、
前記めっき浴内の前記溶融金属中で前記金属帯と接触する前記ロール周面の接触領域よりも前記溝の底部側の前記金属帯と接触しない非接触領域の少なくとも一部を選択的に機械的に研磨する研磨手段を搭載する搭載手段を備えた研磨加工装置が提供される。
(2)(1)の研磨加工装置において、好ましくは、
前記研磨手段は、
前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けられる研磨部材と、前記研磨部材を前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付ける押付手段と、
前記研磨部材を前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けた状態で前記研磨部材と前記ロール周面とを相対的に移動させる移動手段とを備え、
前記搭載手段は、前記押付手段と前記移動手段とを搭載する。
(3)(1)または(2)の研磨加工装置において、好ましくは、
前記研磨部材は、少なくとも1本の研磨ワイヤーを含み、
前記研磨手段は、前記少なくとも1本の研磨ワイヤーを、前記ロールの前記溝に対して平行な方向に張力をかけて支持する支持部材をさらに備え、
前記搭載手段は、前記支持部材をさらに搭載し、
前記押付手段は、前記支持部材を前記ロール側に押し付けることにより前記少なくとも1本の研磨ワイヤーを前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付ける押付手段である。
(4)(1)または(2)の研磨加工装置において、好ましくは、
前記研磨部材は、複数の研磨ワイヤーを含み、
前記研磨手段は、前記複数の研磨ワイヤーを、前記ロールの前記複数の溝に対して平行な方向に張力をかけて支持すると共に、前記複数の研磨ワイヤーを前記複数の溝のピッチの自然数倍のピッチで等間隔に支持する支持部材をさらに備え、
前記押付手段は、前記支持部材を前記ロール側に押し付けることにより前記複数の研磨ワイヤーを前記複数の溝の前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付ける押付手段である。
(5)(4)の研磨加工装置において、好ましくは、
前記研磨手段は、前記支持部材と前記ロールとをロール軸方向に相対移動させる移動機構をさらに備え、
前記搭載手段は、前記移動機構をさらに搭載する。
(6)(4)の研磨加工装置において、好ましくは、
前記支持部材は、前記複数の研磨ワイヤーが張架される複数のフックと、前記複数の研磨ワイヤーを張る方向に前記複数のフックを引っ張ることで、前記複数の研磨ワイヤーに一定の張力を発生させる張力発生機構と、を備える。
(7)(6)の研磨加工装置において、好ましくは、
前記支持部材は、ロール軸方向に隣接する前記フックの間に配置され、前記フック周辺で生じる前記研磨ワイヤーの膨らみを矯正するスペーサをさらに備える。
本明細書の他の態様によれば、
(8)複数の溝がロール周面に形成された溶融金属めっき浴中ロールであり、めっき浴内の溶融金属中で前記ロール周面に金属帯を接触させながら前記めっき浴内の前記溶融金属中に前記金属体を連続して供給して前記金属帯にめっきする際に使用される溶融金属めっき浴中ロールの研磨加工方法であって、
前記めっき浴内の前記溶融金属中で前記金属帯と接触する前記ロール周面の接触領域よりも前記溝の底部側の前記金属帯と接触しない非接触領域の少なくとも一部を選択的に機械的に研磨する研磨手段で研磨する研磨工程を備える研磨加工方法が提供される。
(9)(8)の研磨加工方法において、好ましくは、
前記研磨手段は、
前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けられる研磨部材と、前記研磨部材を前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付ける押付手段と、
前記研磨部材を前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けた状態で前記研磨部材と前記ロール周面とを相対的に移動させる移動手段とを備え、
前記研磨工程は、前記押付手段で前記研磨部材を前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けた状態で、前記移動手段で前記研磨部材と前記ロール周面とを相対的に移動させて、前記非接触領域の少なくとも一部を選択的に機械的に研磨する工程を含む。
(10)(8)または(9)の研磨加工方法において、好ましくは、
前記研磨部材は、少なくとも1本の研磨ワイヤーを含み、
前記研磨手段は、前記少なくとも1本の研磨ワイヤーを、前記ロールの前記溝に対して平行な方向に張力をかけて支持する支持部材をさらに備え、
前記研磨工程は、前記押付手段で、前記支持部材を前記ロール側に押し付けることにより前記少なくとも1本の研磨ワイヤーを前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けた状態で、前記非接触領域の少なくとも一部を選択的に機械的に研磨する工程を含む。
(11)(8)または(9)の研磨加工方法において、好ましくは、
前記研磨部材は、複数の研磨ワイヤーを含み、
前記研磨手段は、前記複数の研磨ワイヤーを、前記ロールの前記複数の溝に対して平行な方向に張力をかけて支持すると共に、前記複数の研磨ワイヤーを前記複数の溝のピッチの自然数倍のピッチで等間隔に支持する支持部材をさらに備え、
前記研磨工程は、前記押付手段で、前記支持部材を前記ロール側に押し付けることにより前記複数の研磨ワイヤーを前記複数の溝の前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けた状態で、前記複数の研磨ワイヤーが押し付けられた前記複数の溝の前記非接触領域の前記少なくとも一部を選択的に機械的に研磨する工程を含む。
(12)(11)の研磨加工方法において、好ましくは、
前記研磨手段は、前記支持部材と前記ロールとをロール軸方向に相対移動させる移動機構をさらに備え、
前記研磨工程は、前記押付手段で、前記支持部材を前記ロール側に押し付けることにより前記複数の研磨ワイヤーを前記複数の溝の前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けた状態で、前記複数の研磨ワイヤーが押し付けられた前記複数の溝の前記非接触領域の前記少なくとも一部を選択的に機械的に研磨し、
その後、前記移動機構により前記ロール軸方向に前記溝のピッチの1倍又は複数倍だけ前記支持部材と前記ロールとをロール軸方向に相対移動させることにより、前記複数の研磨ワイヤーを前記ロール軸方向に前記溝のピッチの1倍又は複数倍だけ移動させ、
その後、前記押付手段で、前記支持部材を前記ロール側に押し付けることにより前記複数の研磨ワイヤーを次の複数の溝の前記非接触領域の前記少なくとも一部に押し付けた状態で、前記複数の研磨ワイヤーが押し付けられた前記次の複数の溝の前記非接触領域の前記少なくとも一部を選択的に機械的に研磨する工程を含む。
本明細書のさらに他の態様によれば、
(13)複数の溝をロール周面に形成する工程と、
その後、(8)から(12)のいずれかの研磨加工方法で、前記複数の溝を研磨する工程と、を備える溶融金属めっき浴中ロールの製造方法が提供される。
本明細書のさらに他の態様によれば、
(14)複数の溝がロール周面に形成された溶融金属めっき浴中ロールを研磨する研磨加工装置において、
少なくとも1本の研磨ワイヤーと、
前記研磨ワイヤーを、前記ロールの前記溝に対して平行な方向に張力をかけて支持する支持部材と、
を備え、
前記溝が形成された前記ロール周面は、めっき浴中に前記ロールが設置された連続溶融金属めっき装置を用いて金属帯をめっきするときに前記金属帯と接触する接触領域と、前記金属帯と接触しない非接触領域とに区分され、
前記研磨加工装置は、
前記支持部材により支持された前記研磨ワイヤーを前記ロール周面の前記溝に巻き付け、前記ロールを回転させながら、前記研磨ワイヤーを前記溝内の前記非接触領域に接触させることにより、前記溝の底部を中心として前記溝内の前記非接触領域の一部又は全部を研磨する、研磨加工装置が提供される。
(15)(14)の研磨加工装置において、
前記非接触領域は、前記溝が形成された前記ロール周面のうち、前記溝の底部からの高さが前記溝の深さの0.9倍未満の領域であり、
前記接触領域は、前記溝が形成された前記ロール周面のうち、前記溝の底部からの高さが前記溝の深さの0.9倍以上の領域であるようにしてもよい。
(16)(14)または(15)の研磨加工装置において、
前記溝内の前記非接触領域のうち前記研磨ワイヤーにより研磨される研磨領域の割合は、30%以上であるようにしてもよい。
(17)(14)から(16)までのいずれかの研磨加工装置において、
前記研磨加工装置は、前記非接触領域の表面粗度がRaで2μm未満となるように、前記研磨ワイヤーにより前記溝の底部を中心として前記溝内の前記非接触領域の一部又は全部を研磨するようにしてもよい。
(18)(14)から(17)までのいずれかの研磨加工装置において、
前記研磨ワイヤーは、複数本のワイヤー素線の撚り線からなるようにしてもよい。
(19)(14)から(18)までのいずれかの研磨加工装置において、
前記支持部材により支持された前記研磨ワイヤーの張力は、5〜30Nであるようにしてもよい。
(20)(14)から(19)までのいずれかの研磨加工装置において、
前記研磨ワイヤーを支持する前記支持部材と前記ロールとをロール軸方向に相対移動させる移動機構を更に備え、
前記支持部材は、複数本の前記研磨ワイヤーを前記溝のピッチの自然数倍のピッチPで等間隔に支持しており、
前記支持部材により支持された前記複数本の研磨ワイヤーを前記ロールの複数条の前記溝に巻き付け、前記ロールを回転させながら、前記複数本の研磨ワイヤーを前記複数条の溝内の前記非接触領域に接触させることにより、前記複数条の溝の底部を中心として前記溝内の前記非接触領域の一部又は全部を同時に研磨し、
前記複数条の溝内の前記非接触領域の研磨後に、前記移動機構により前記ロール軸方向に前記溝のピッチの1倍又は複数倍だけ前記複数の研磨ワイヤーを送り出して、前記複数本の研磨ワイヤーにより次の複数条の溝内の前記非接触領域の一部又は全部を研磨するようにしてもよい。
(21)(14)から(20)までのいずれかの研磨加工装置において、
前記支持部材は、複数本の前記研磨ワイヤーを前記溝のピッチの自然数倍のピッチPで等間隔に支持しており、
前記支持部材は、
前記複数本の研磨ワイヤーが張架される複数のフックと、
前記複数本の研磨ワイヤーを張る方向に前記フックを引っ張ることで、前記複数本の研磨ワイヤーに一定の張力を発生させる張力発生機構と、
を備えるようにしてもよい。
(22)(21)の研磨加工装置において、
前記支持部材は、
ロール軸方向に隣接する前記フックの間に配置され、前記フック周辺で生じる前記研磨ワイヤーの膨らみを矯正するスペーサを更に備えるようにしてもよい。
(23)(21)または(22)の研磨加工装置において、
千鳥状に配置された前記複数のフックに1本の研磨ワイヤーを蛇行させるように張架することにより、前記複数本の研磨ワイヤーが前記ピッチPで等間隔に配置されるようにしてもよい。
(24)(21)から(23)までのいずれかの研磨加工装置において、
前記ピッチPと前記研磨ワイヤーの素線径dとの比(P/d)は、5〜10000であるようにしてもよい。
(25)(14)から(24)までのいずれかの研磨加工装置において、 ロール軸を中心に前記ロールを回転させる回転機構と、
前記研磨ワイヤーと前記ロールとを相対移動させる移動機構と、
を更に備え、
前記移動機構により前記溝内に挿入された前記研磨ワイヤーを前記溝内の前記非接触領域に接触させながら、前記回転機構により前記ロールを回転させることにより、前記溝の底部を中心として前記溝内の前記非接触領域の一部又は全部を研磨するようにしてもよい。
(26)(25)の研磨加工装置において、
前記移動機構により前記研磨ワイヤーを前記溝の幅方向に往復移動させながら研磨することにより、前記溝の底部を中心として前記溝内の前記非接触領域の一部又は全部を研磨するようにしてもよい。
(27)(14)から(26)までのいずれかの研磨加工装置において、 前記ロールの回転数は、1〜400rpmであり、
1つの前記溝の研磨加工時間は、1〜1200sであり、
前記ロール周面の前記に対する前記研磨ワイヤーの巻付角度は、1〜180°であるようにしてもよい。
(28)(14)から(27)までのいずれかの研磨加工装置において、
前記研磨ワイヤーに固定される若しくは供給される研磨材の粒径は、0.1〜200μmであり、
前記研磨ワイヤーの直径Dは、0.01〜2・RBmmである(RB:前記溝の底部の曲率半径)ようにしてもよい。
本明細書のさらに他の態様によれば、
複数の溝がロール周面に形成された溶融金属めっき浴中ロールを研磨する研磨加工方法において、
前記溝が形成された前記ロール周面は、めっき浴中に前記ロールが設置された連続溶融金属めっき装置を用いて金属帯をめっきするときに前記金属帯と接触する接触領域と、前記金属帯と接触しない非接触領域とに区分され、
前記ロールの前記溝に対して平行な方向に張力をかけて支持された研磨ワイヤーを前記ロール周面の前記溝に巻き付け、前記ロールを回転させながら、前記研磨ワイヤーを前記溝内の前記非接触領域に接触させることにより、前記溝の底部を中心として前記溝内の前記非接触領域の一部又は全部を研磨する、研磨加工方法が提供される。
上記構成によれば、ロール周面全体を研磨加工するのではなく、溝内の非接触領域に巻き付けられた研磨ワイヤーを用いて、ロール周面のうち金属帯と接触しない非接触領域のみを、溝底部を中心として局部的に研磨加工できる。従って、金属帯と接触する接触領域を研磨することなく、溝内の非接触領域の表面粗度のみを適切に調整できる。よって、封孔皮膜の有無や材質に関わらず、非接触領域の表面粗度を所望の粗度に調整可能となる。
第1の実施形態に係る連続溶融金属めっき装置を示す模式図である。
同実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの一例であるシンクロールを示す斜視図である。
同実施形態に係るシンクロールの周面を示す拡大断面図である。
同実施形態に係る溝の研磨領域を示す断面図である。
非接触領域に占める研磨領域の割合と、ロールの寿命との関係を示すグラフである。
同実施形態に係る溝の形状の各種の変更例を示す断面図である。
同実施形態に係る溝の形状の各種の変更例を示す断面図である。
同実施形態に係る溝の形状の各種の変更例を示す断面図である。
同実施形態に係る溝の形状の各種の変更例を示す断面図である。
同実施形態に係る溝の形状の各種の変更例を示す断面図である。
同実施形態に係る溝の形状の各種の変更例を示す断面図である。
同実施形態に係る溝の形状の各種の変更例を示す断面図である。
同実施形態に係る溝の形状の各種の変更例を示す断面図である。
同実施形態に係る研磨加工装置を示す正面図である。
同実施形態に係る研磨加工装置を示す側面図である。
同実施形態に係る撚り線の研磨ワイヤー40を示す正面図である。
同実施形態に係る撚り線の研磨ワイヤー40を示す断面図である。
同実施形態の変更例に係る撚り線の研磨ワイヤー40と溝10を示す断面図である。
同実施形態の変更例に係る撚り線の研磨ワイヤー40と溝10を示す断面図である。
同実施形態の変更例に係る撚り線の研磨ワイヤー40と溝10を示す断面図である。
同実施形態の変更例に係る撚り線の研磨ワイヤー40と溝10を示す断面図である。
同実施形態に係る研磨ワイヤー40の支持部材50を示す背面図である。
同実施形態に係る研磨ワイヤー40の支持部材50とロール6を示す正面図である。
同実施形態に係るフック52の変更例を示す正面図である。
同実施形態に係るフック52の変更例を示す正面図である。
同実施形態に係るフック52の変更例を示す正面図である。
同実施形態に係るスペーサ55を備えた支持部材50を示す正面図である。
研磨ワイヤーの張力と研磨加工むらとの関係を示すグラフである。
同実施形態に係る研磨ワイヤーの揺動動作を示す平面図及び断面図である。
同実施形態に係る研磨ワイヤーの揺動動作を示す平面図及び断面図である。
同実施形態に係る研磨加工方法を示すフローチャートである。
同実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの製造方法を示すフローチャートである。
実施の形態
本発明者達は鋭意努力して、ワイヤー状の研磨工具を用いてロール周面の溝を研磨加工すれば、溝底部を中心とする金属帯に対する非接触領域を局部的に研磨加工でき、該非接触領域の表面粗度を適切に調整できることを見出し、以下の実施の形態に想到した。
以下に添付図面を参照しながら、好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.連続溶融金属めっき装置の構成]
まず、図1を参照して、第1の実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールを備えた連続溶融金属めっき装置の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る連続溶融金属めっき装置1を示す模式図である。
図1に示すように、連続溶融金属めっき装置1は、鋼帯2を、溶融金属を満たしためっき浴3に浸漬することにより、鋼帯2の表面に溶融金属を連続的に付着させるための装置である。連続溶融金属めっき装置1は、浴槽4と、スナウト5と、シンクロール6と、一対のサポートロール7、8と、ワイピングノズル9と、を備える。
鋼帯2は、溶融金属によるめっき対象となる金属帯の一例である。本実施形態では鋼帯2の例を上げて説明するが、めっき対象となる帯状の金属材料であれば、その材質は問わない。また、めっき浴を構成する溶融金属は、亜鉛、鉛−錫、アルミニウムなどの耐食性金属が一般的であるが、めっき金属として使用されるその他の金属であってもよい。溶融金属で鋼帯2をめっきして得られる溶融めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板等が代表的であるが、その他の種類のめっき鋼板であってもよい。以下では、めっき浴3をなす溶融金属として溶融亜鉛を用い、鋼帯2表面に溶融亜鉛を付着させて、亜鉛めっき鋼板を製造する例について説明する。
浴槽4は、上記溶融金属からなるめっき浴3を貯留する。スナウト5は、その一端をめっき浴3内に浸漬されるように傾斜配設される。
シンクロール6は、めっき浴3中の最下方に配設され、サポートロール7、8よりもロール径が大きい。シンクロール6は、鋼帯2の走行に伴って図示の時計回りに回転する。このシンクロール6は、スナウト5を通ってめっき浴3内に斜め下方に向けて導入された鋼帯2を、鉛直方向上方に方向転換する。
サポートロール7、8は、めっき浴3中のシンクロール6の上方に配置され、シンクロール6から鉛直方向に引き上げられた鋼帯2を左右両側から挟み込むようにして配設される。サポートロール7、8は、不図示の軸受け(例えば、滑り軸受け、転がり軸受け等)により回転自在に支持される。
ワイピングノズル9は、鋼帯2の両面に気体(例えば空気)を吹き付ける一対のガスワイピングノズルで構成される。ワイピングノズル9は、サポートロール7、8の直上のめっき浴3外であって、めっき浴3の浴面から所定の高さだけ上方に配設される。かかるワイピングノズル9は、めっき浴3から鉛直方向に引き上げられた鋼帯2の両面に気体を吹き付けて、余剰な溶融金属を払拭する。これにより、鋼帯2表面に対する溶融金属の目付量が適正量に制御される。
ここで、上記構成の連続溶融金属めっき装置1の動作について説明する。連続溶融金属めっき装置1は、不図示の駆動源により鋼帯2を長手方向に移動させて、装置内の各部を通板させる。この鋼帯2は、スナウト5を通じてめっき浴3中に斜め下方に導入され、シンクロール6を周回して、その進行方向が鉛直方向上方に変換される。次いで、鋼帯2は、サポートロール7、8の間を通過して上昇し、めっき浴3外に引き上げられる。その後、めっき浴3外に引き上げられた鋼帯2は、ワイピングノズル9から吹き付けられる気体の圧力により余剰な溶融金属が払拭されて所定の目付量に制御される。以上のようにして、連続溶融金属めっき装置1は、鋼帯2をめっき浴3中に連続的に浸漬して、溶融金属、例えば溶融亜鉛でめっきすることで、所定の目付量の溶融金属めっき鋼板を製造する。
[2.溶融金属めっき浴中ロールの構成]
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る研磨加工装置による研磨加工対象である溶融金属めっき浴中ロールについて説明する。図2は、本実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの一例であるシンクロール6を示す斜視図である。図3は、本実施形態に係るシンクロール6の周面を示す拡大断面図である。
図2に示すように、シンクロール6は、鋼帯2の幅よりも広いロール幅を有しており、例えば、ロール幅Wは1000〜2500mm、ロール径φは600〜1000mmである。かかるシンクロール6は、ロール軸6aを中心として回転し、めっき浴3中の鋼帯2の走行を補助する。
図3に示すように、シンクロール6は、ロール基材20と、ロール基材20の表面に形成された溶射皮膜21と、溶射皮膜21の上面に形成された封孔皮膜22(最上層皮膜)とからなる。
ロール基材20は、例えば鋼等の金属で形成され、シンクロール6の基本形状を形成する。このロール基材20の周面には、切削加工等によって、後述する溝10が複数形成されている。
溶射皮膜21は、セラミックスと金属を含む溶射材を、ロール基材20の表面に溶射することにより形成される。溶射皮膜21を成す溶射材は、セラミックスと金属を複合させた材質(サーメット)からなる。例えば、溶射材は、炭化物(タングステンカーバイド、クロムカーバイド等)、硼化物(タングステン硼化物、モリブデン硼化物等)、及び酸化物(アルミナ、イットリア、クロミア等)と、これらのうち2種以上を複合したセラミックスを、少なくとも40質量%以上含み、残りがニッケル、鉄、コバルト、クロム、アルミのうち1種類以上を含む合金を含む。溶射皮膜21の厚さは、例えば20〜200μmであり、溶射皮膜21の硬さは、例えばHV800以上である。なお、ビッカース硬さは、ISO 6507−1で規定されたものである。かかる溶射皮膜21でロール基材20を被覆することにより、溶融金属に対する耐食性が向上する効果がある。
封孔皮膜22は、上記溶射皮膜21の表面に封孔材を塗布及び焼成することにより形成される。例えば、封孔皮膜22は、Cr2O3、SiO2等を含むゾルゲル溶液又はスラリーを、溶射皮膜21の表面に塗布した後に焼成して成るセラミック薄膜からなる。上記溶射皮膜21の表面及び内部には多数の空隙が生じており、当該溶射皮膜21の空隙を封止するために、封孔皮膜22が形成される。封孔皮膜22の厚さは例えば1〜50μmである。かかる封孔皮膜22を設けることにより、溶射皮膜21の空隙がなくなり耐食性が向上する効果がある。なお、封孔皮膜22は必須ではなく、実施の形態の研磨加工対象の浴中ロールは、ロール周面に溶射皮膜21のみが形成されたものであってもよい。
[3.ロール周面の溝]
[3.1.溝の構成]
次に、図2〜図4を参照して、本実施形態に係るシンクロール6の表面に設けられる溝10について説明する。
図2に示すように、シンクロール6の周面には、ロール幅方向に等ピッチで複数の溝10が形成されている。本実施形態に係る溝10は、例えば、ロール周面に周方向に直線状に形成された環状溝からなり、各溝10の伸張方向はロール軸方向に対して垂直である。
図3に示すように、本実施形態に係る溝10は、ドロス等の異物をロール周面から排出するため溝であり、溝10の形状は、例えば、湾曲状溝であってよい。湾曲状溝は、溝10の底部12及び頂部14が滑らかな曲線状に湾曲した溝である。即ち、湾曲状溝である溝10の底部12及び頂部14の断面形状は、滑らかに湾曲した曲線状である。また、例えば、溝10のピッチpは0.5〜10mm、溝10の深さH(以下、溝深さHという。)は0.1〜5mm、溝10の底部12及び頂部14の曲率半径RB、RTは共に0.1〜5mmである。なお、溝深さHは、溝10の溝底12a(溝底部12の最深部)から溝頂14a(溝頂部14の最高部)までの高さである。
また、溝10の底部12(以下、溝底部12という。)は、ロール周面のうち溝底12aを含む溝10の底側の所定範囲を意味する。一方、溝10の頂部14(以下、溝頂部14という。)は、ロール周面のうち溝頂14aを含む溝10の頂側の所定範囲を意味する。図示の例の溝底部12及び溝頂部14は、湾曲面となっている。また、溝10の中間部13(以下、溝中間部13という。)は、溝底部12と溝頂部14の間の中間領域であり、溝10の両側面を構成する。図示の例の溝中間部13は、ほぼ平坦な傾斜面となっている。
[3.2.溝の研磨領域]
次に、図4を参照して、上記溝10が形成されたロール周面を研磨加工装置により研磨加工する際に、ロール周面のうち研磨対象となる領域について説明する。図4は、本実施形態に係る溝10の研磨領域を示す断面図である。
図4に示すように、本実施形態に係る溝10が形成されたロール周面は、鋼帯2が接触するか否かという観点から、非接触領域A1と接触領域A2とに区分される。非接触領域A1は、上記めっき浴3中にロール6が設置された連続溶融金属めっき装置1(図1参照。)を用いて鋼帯2をめっきするとき(即ち、連続溶融金属めっき装置1の操業時)に、ロール6のロール周面のうち鋼帯2と接触しない領域である。この非接触領域A1は、上記溝底部12及び溝中間部13に相当する。一方、接触領域A2は、連続溶融金属めっき装置1の操業時に、ロール6のロール周面のうち鋼帯2と接触する領域である。この接触領域A2は、上記溝頂部14に相当する。
つまり、連続溶融金属めっき装置1の操業時には、めっき浴3中を走行する鋼帯2がロール6のロール周面に巻き付けられるが、この際、鋼帯2はロール周面の溝頂部14と接触するものの、溝底部12及び溝中間部13とは接触しない。このように鋼帯2と接触しない部分のロール周面(溝底部12及び溝中間部13)が非接触領域A1であり、鋼帯2と接触する部分のロール周面(溝頂部14)が接触領域A2である。
また、図4に示すように、本実施形態に係る溝10が形成されたロール周面は、研磨加工対象であるか否かという観点から、研磨領域B1と、非研磨領域B2とに区分される。研磨領域B1は、ロール周面のうち、後述する研磨加工装置の研磨ワイヤーにより研磨される領域である。一方、非研磨領域B2は、ロール周面のうち、該研磨ワイヤーにより研磨されない領域である。研磨領域B1は、少なくとも溝底部12を含み、非研磨領域B2は、少なくとも溝頂部14を含む。溝中間部13は、研磨領域B1又は非研磨領域B2のいずれに含まれてもよい。
上記のような非接触領域A1、接触領域A2、研磨領域B1、非研磨領域B2の範囲は、例えば、溝深さHを基準として定義される。
例えば、図4に示すように、非接触領域A1は、ロール周面のうち溝底12aからの高さが0以上、0.9H未満の領域である。なお、溝底12aからの非接触領域A1の両端の高さは、同一の高さ(0.9H)である。一方、接触領域A2は、ロール周面のうち溝底12aからの高さが0.9H以上、1H以下の領域である。本発明者達は連続溶融金属めっき装置1の実機を用いて、鋼帯2に対するロール周面の非接触領域A1と接触領域A2の範囲を感圧紙で測定するオフラインでの試験を行った結果、0.9H以上の範囲で鋼帯2とロール周面が接触することが確認された。そこで、非接触領域A1の範囲を、溝底12aからの高さが0.9H未満の範囲に定めた。
また、図4に示すように、研磨領域B1と非研磨領域B2とを区分する基準となる高さHcは、0から溝深さHの0.9倍までの範囲内で可変である(0≦Hc≦0.9H)。HcがHの0.9倍であれば(Hc=0.9H)、研磨領域B1と非接触領域A1が等しくなり、非接触領域A1の全域を研磨することになる。一方、Hcが0であれば(Hc=0)、非接触領域A1のうち、溝底12aのみをピンポイントで研磨することになる。
[3.3.研磨領域の割合]
ここで、図5を参照して、非接触領域A1に占める研磨領域B1の割合kの適正値について説明する。なお、該割合kは、図4に示す断面図において、研磨領域B1の断面の長さLBを非接触領域A1の断面の長さLAで除算した値の百分率である(k[%]=LB/LA/100)。
本発明者達は、非接触領域A1のうちのどの程度の範囲を研磨領域B1とすることが適切であるかを検討するため、後述する研磨加工装置の研磨ワイヤーを用いてロール6の溝10内の研磨領域B1を研磨し、該研磨後のロール6を連続溶融金属めっき装置1の実機に適用して、ロール6の寿命を測定する試験を行った。この試験では、ロール6の溝10を研磨するときの非接触領域A1に占める研磨領域B1の割合kを0〜100%の範囲で変更し、それぞれの研磨領域B1の研磨後のロール6の寿命を測定した。なお、本試験では、研磨領域B1の表面粗度が算術平均粗さRaで1.9μmとなるまで、研磨領域B1を研磨して平滑化した。また、ロール周面の溝10に異物が付着して鋼帯2のスリップが生じた時点で、ロール6の寿命であると判断した。その他の試験条件は次の通りである。
ロール径 :1000mm
ロール回転数 :平均32rpm(100m/min)
鋼帯の幅 :平均1500mm×厚み1mm
溝数 :500
溝ピッチp :4mm
溝深さH :0.9mm
溝頂曲率半径RT :1mm
溝底曲率半径RB :1.2mm
かかる試験の結果を図5に示す。図5は、非接触領域A1に占める研磨領域B1の割合kと、ロール6の寿命との関係を示すグラフである。
図5に示すように、非接触領域A1に占める研磨領域B1が広いほど(即ち、研磨領域B1の割合kが大きいほど)、ロール寿命を延長できることが分かる。特に、割合kが25%であるときに、ロール寿命は13日であるのに対し、割合kが30%であるときには、ロール寿命は37日であり、ロール寿命が急激に増加している。従って、研磨領域B1の割合kを30%以上、100%以下とすることで、ロール周面の溝10に対する異物の付着を適切に抑制して、ロール寿命を約3倍以上に顕著に延長できることが確認された。
[3.4.溝の表面粗度]
次に、本実施形態に係るロール6の溝10の表面粗度について詳述する。なお、以下の説明で使用する「算術平均粗さRa」等の表面粗さの指標は、JIS規格「JIS B 0601:2013」(ISO4287:1997、Amendment 1:2009に相当)及び「JIS B 0633:2001」(ISO4288:1996)で規定されたものである。
本明細書では、表面粗さは、Taylor Hobson社製の装置(Form Talysurf Intra)を使用し、ISO4287:1997, ISO4288:1996に準拠して測定した。ロールの溝頂部および溝底部を円周方向に測定した。ロールを直接測定することが困難な場合には、レプリカ(樹脂による型どり)の採取を行い、採取したレプリカを測定した。
上記のようなロール周面の溝10は、ロール6と鋼帯2との接触部から、ドロス等の異物を含む溶融金属(例えば溶融亜鉛)を排出する機能を有し、異物排出用溝として機能する。ロール6の回転に伴い、鋼帯2とロール周面との間に溶融金属が巻き込まれたとしても、ロール周面に形成された溝10を通じて溶融金属が排出される。さらに、例えば、溝10を湾曲状溝とすれば、V字状溝と比べて広い溝断面積を確保でき、上記排出機能がより高まる。このようにして、鋼帯2の通板中に、ロール周面と鋼帯2の間の溶融金属が溝10を通じて好適に排出されれば、鋼帯2がロール周面から浮くことを防止して両者間の面圧を確保し、シンクロール6に対する鋼帯2のスリップを防止可能である。
しかしながら、上述したように、連続溶融金属めっき装置1による操業を継続すると、めっき浴3中に浮遊するドロス等の異物が、ロール周面の溝10に付着・成長する。特に、溝底部12には、多くの異物が付着・成長しやすい。このような異物付着により溝10が閉塞されると、溝10を通じた溶融金属の排出機能が阻害される。この結果、鋼帯2がロール周面から浮いた状態となり、両者間の面圧が低下して、ロール6に対してスリップすることになる。従って、溝底部12への異物付着を防止する観点からは、溝底部12の表面粗度をできるだけ小さくすることが好ましい。
また、溝中間部13も、溝底部12ほどではないにしろ、ドロス等の異物付着が生じうる領域である。従って、溝中間部13への異物付着も防止する観点からは、溝中間部13の表面粗度も小さくすることが好ましい。
一方、連続溶融金属めっき装置1の操業中に、鋼帯2はロール周面の溝10の溝頂部14(接触領域A2)と接触するが、溝頂部14による鋼帯2のグリップ力が弱いと、鋼帯2のスリップの原因となる。従って、鋼帯2のスリップを防止する観点からは、溝頂部14の表面粗度を適度に大きくして、鋼帯2のグリップ力を確保することが好ましい。
そこで、本実施形態では、図4で説明したように、ロール周面の非接触領域A1のうち少なくとも溝底部12を研磨領域B1とし、必要に応じて、溝中間部13の全部又は溝底12a側の一部も研磨領域B1とする。一方、少なくとも接触領域A2(溝頂部14)を非研磨領域B1とし、必要に応じて、溝中間部13の全部又は溝頂14a側の一部も非研磨領域B2とする。そして、ロール周面のうち、接触領域A2を研磨せずに、溝底部12を中心として研磨領域B1のみを局所的に研磨して平滑化する。
このような研磨加工により、接触領域A2の表面粗度を低下させることなく、研磨領域B1の表面粗度を低下させることができる。従って、溝底部12を中心とする研磨領域B1に対してドロス等の異物が付着及び堆積することを好適に防止することができるとともに、接触領域A2(溝頂部14)によるグリップ力を確保して鋼帯2のスリップを防止できる。
また、研磨領域B1の表面粗度がRaで2μm未満となるまで、研磨領域B1を研磨加工することが好ましい。これにより、溝10の研磨領域B1に対するドロス等の異物の付着力が十分小さくなるため、該付着物の脱落が促進するという効果がある。しかし、かかる例に限定されず、研磨後の研磨領域B1の表面粗度はRaで2μm以上であってもよい。また、研磨後の研磨領域B1の表面粗度は均一であってもよいし、不均一であってもよい。
[3.5.溝の変形例]
次に、溝10の変形例について説明する。溝10の配置・形状は、上記図2〜図4の例に限定されず、例えば、複数の方向の溝を組み合わせたクロスカット状の溝であってもよい。また、溝10の断面形状は、上記図3、図4の例に限定されない。
図6A〜6D及び図7A〜7Dは、溝10の形状の各種の変更例を示す断面図である。図6A〜6D及び図7A〜7Dに示すように、非接触領域A1の断面が曲線、若しくは、曲線及び直線から構成されるものであれば、溝10の形状は任意に変形可能である。非研磨領域B2となる接触領域A2(溝頂部14)の断面形状は、特に限定されず、曲線又は直線で構成される任意の形状であってよい。
例えば、接触領域A2(溝頂部14)の断面形状は、図4及び図6A〜6Dに示すように湾曲状であってもよいし、或いは、図7A〜7Dに示すように直線状であってもよい。また、溝底部12の曲面部分の断面形状が曲線で構成されれば、図6A、6B及び図7Bに示すように、溝10全体として略V字状であってもよいし、図6C及び図7Cに示すように、溝10全体として略U字状であってもよいし、或いは、図6D及び図7Dに示すように溝10全体として略矩形状であってもよい。
以上、図6A〜6D及び図7A〜7Dに示したように、溝10の形状は適宜に変更可能である。いずれの溝10においても、研磨領域B1の基準高さHcを変更することで、非接触領域A1に占める研磨領域B1の範囲を変更できる。ただし、基準高さHcが同一であっても、溝10の形状が異なれば、研磨領域B1の範囲及び比率kは相違することになる。
[4.研磨加工装置]
次に、上記のようにロール周面の溝10の表面粗度を調整するために、該溝10の表面を研磨する研磨加工装置について説明する。
[4.1.研磨加工装置の全体構成]
まず、図8及び図9を参照して、本実施形態に係る研磨加工装置の全体構成について説明する。図8、図9はそれぞれ、本実施形態に係る研磨加工装置を示す正面図及び側面図である。
図8及び図9に示すように、研磨加工装置30は、研磨ワイヤー40を用いて上記シンクロール6のロール周面の溝10を研磨することにより、溝底部12を中心に溝10の表面を平滑化するものである。なお、以下では、研磨加工対象の溶融金属めっき浴中ロールとして、上記シンクロール6を研磨する例について説明するが、その他の任意の溶融金属浴中ロール(例えば、上記サポートロール7、8)を研磨することも可能である。また、以下では、シンクロール6を単にロール6と称する。
研磨加工装置30は、基台31と、研磨ワイヤー40と、研磨ワイヤー40を支持する支持部材50と、研磨ワイヤー40をロール6に対して相対移動させる移動機構60と、ロール軸6aを中心にロール6を回転させる回転機構70とを備える。研磨ワイヤー40は研磨部材の一例であり、回転機構70は、研磨部材の一例である研磨ワイヤー40とロール6のロール周面を相対的に移動させる移動手段の一例である。移動機構60と、回転機構70は、コンピュータ等のコントローラ(図示せず)で制御される。
研磨ワイヤー40は、金属又は樹脂等で形成された線状の研磨工具であり、溝10内に挿入可能な太さを有する。溝10の溝底部12の断面形状及び曲率に応じて適宜の太さの研磨ワイヤー40が使用される。研磨ワイヤー40の表面には、粒状の研磨材が予め固定されていてもよいし、若しくは、研磨加工時に遊離砥粒が研磨材として加工点供給されてもよい。
かかる研磨ワイヤー40を所定の巻付角度θでロール6に巻き付けて溝10の内部に挿入し、ロール6を回転させることで、上記溝底部12を中心に研磨領域B1を研磨することができる。このために、研磨ワイヤー40の直径D(以下、ワイヤー径Dという。)は、溝10内に挿入可能な径に調整される。なお、この研磨ワイヤー40の詳細は後述する。
支持部材50は、ロール6の周面と対向して配置され、複数本の研磨ワイヤー40を溝10に対して平行な方向(即ち、ロール軸に対して垂直な方向)に張力をかけた状態で支持する。図8に示すように、本実施形態に係る支持部材50は、4本の研磨ワイヤー40を、所定のピッチPで等間隔に支持する。この研磨ワイヤー40のピッチPは、上記溝10のピッチpの自然数倍(図示の例では3倍)である。例えば、溝10のピッチpが狭い場合には、研磨ワイヤー40のピッチPを該ピッチpの複数倍とすればよいし、溝10のピッチpが広い場合には、研磨ワイヤー40のピッチPを該ピッチpの1倍としてもよい。これにより、複数本の研磨ワイヤー40により複数条の溝10を同時に研磨できるようになり、研磨効率が向上する。
また、図9に示すように、支持部材50は、フレーム51と、研磨ワイヤー40が張架される複数のフック52と、研磨ワイヤー40に一定の張力を与える張力発生機構53とを備える。フレーム51は、研磨ワイヤー40を支持するための矩形状の支持枠であり、後述する移動機構60の上部架台63に対して固定される。フック52は、フレーム51の一側及び他側に複数対設けられ、フレーム51のロール6側に突出して配置される。そして、研磨ワイヤー40は、フレーム51の両端のフック52、52間に張架されて、研磨ワイヤー40の張架方向とロール6の軸方向とは垂直である。かかる支持部材50により、フレーム51をロール6に接触させることなく、フック52、52間に張架された研磨ワイヤー40のみをロール6の溝10内に挿入して研磨領域B1に接触させることができる。
移動機構60は、研磨ワイヤー40を支持する支持部材50を移動させることにより、研磨ワイヤー40とロール6とを相対移動させる。この移動機構60は、ボールねじ62の回転によりロール軸方向(X方向)に移動する下部架台61と、該下部架台61に対してY方向に摺動可能な上部架台63を備える。これら架台61、63は、不図示のモータ等の駆動力により移動する。モータ等の駆動力はコンピュータ等のコントローラ(図示せず)で制御される。
かかる移動機構60は、研磨ワイヤー40及び支持部材50をロール軸方向(X方向)に移動させることで、研磨ワイヤー40を研磨対象の溝10の研磨領域B1の溝底部12に位置合わせしたり、1セットの研磨加工ごとに研磨ワイヤー40をロール軸方向(X方向)に溝10のピッチp分だけ送り出したりすることができる。
また、移動機構60は、研磨ワイヤー40及び支持部材50をロール周面に接近又は離隔させる方向(Y方向)に移動させることで、研磨ワイヤー40をロール周面の溝10に押し付けたり、溝10から離脱させたりすることができる。かかる移動機構60により、支持部材50をロール6に向けて押し出すことで、図9に示すように、研磨ワイヤー40がロール周面の溝10の研磨領域B1に押し付けられて、溝底部12に沿ってロール周面に対して所定の巻付角度θで巻き付けられた状態となる。この状態で、回転機構70によりロール軸6aを中心にロール6を回転させれば、回転するロール6の研磨領域B1に対して研磨ワイヤー40が擦り合わされて、ロール周面のうち溝底部12を中心として研磨領域B1のみを適切に研磨できる。移動機構60は、研磨ワイヤー40等の研磨部材を溝10の非接触領域A1に押し付ける押付手段の一例である。
さらに、移動機構60は、ロール6の溝10に研磨ワイヤー40を巻き付けた状態で支持部材50をロール軸方向(X方向)に往復運動(揺動)させることもできる。これにより、溝10内に挿入された研磨ワイヤー40を、支持部材50とともにロール軸方向(即ち、溝10の幅方向:X方向)に往復運動させながら溝10内部を研磨できるので、広い研磨領域B1(例えば、溝底部12及び溝中間部13)を研磨できる。
また、回転機構70は、ロール軸6aを中心にロール6を回転させる。回転機構70は、基台31上に設置され、ロール軸6aの両端を支持するベアリング71、71と、ロール軸6aを回転させるために駆動力を発生させるモータや回転力伝達機構等(図示せず。)を備える。モータや回転力伝達機構等はコンピュータ等のコントローラ(図示せず)で制御される。
[4.2.研磨ワイヤー]
次に、本実施形態に係る研磨ワイヤー40について詳細に説明する。
研磨ワイヤー40は、ワイヤー素線と、ワイヤー素線の周囲に配置される研磨材とからなる。研磨材は、電着若しくは樹脂等による接着によりワイヤー素線の周囲に予め固定される、もしくは、素線を製造する際に粒子として添加された固定砥粒であってもよいし、或いは、研磨材単体若しくは液体と混合したスラリーとして、研磨加工時に加工点に別途供給される遊離砥粒であってもよい。研磨材は、例えば、ダイヤモンド、アルミナ、クロミア、ジルコニア、珪素酸化物、炭化珪素、窒化珪素、酸化鉄、又はこれらの混合物からなる。この研磨材の粒径は、例えば、0.1〜200μm、特に、30〜40μmである。かかる研磨材を備えた研磨ワイヤー40を研磨対象に摩擦させることにより、研磨対象を研磨・平滑化し、その表面粗度を低下させることができる。
研磨ワイヤー40は、1本のワイヤー素線からなる単線であってもよいし、複数本のワイヤー素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
図10A、10Bは、本実施形態に係る撚り線の研磨ワイヤー40を示す正面図及びA−A線断面図である。図10A、10Bに示すように、複数本(例えば4本)のワイヤー素線41を撚り合わせることで、1本の研磨ワイヤー40が構成されている。ワイヤー素線41としては、例えば市販のダイヤモンドワイヤーなどを用いることができる。
研磨ワイヤー40を単線とした場合、研磨ワイヤー40の全体の直径(ワイヤー径D)は、ワイヤー素線41の直径d(以下、ワイヤー素線径dという)と同一である(D=d)。これに対し、図10A、10Bのように、研磨ワイヤー40を撚り線とした場合、研磨ワイヤー40のワイヤー径Dは、各々のワイヤー素線径dよりも大きくなる(D>d)。
上記のように研磨ワイヤー40として撚り線を用いることで、次の効果がある。まず、各々のワイヤー素線41と、ロール6の溝10の表面との接触箇所を、加工部の周方向で変化させることができるので、溝10の表面を均一に研磨加工することができる。また、研磨ワイヤー40を上記支持部材50のフック52に取り付ける際に、研磨ワイヤー40の曲げに対する柔軟性を高めることができる。さらに、撚り線の研磨ワイヤー40は、ロール6の曲率、溝10の形状、溝のピッチp等に対する追従性が高いので、溝10の研磨加工の効率及び均一性を向上できる。
また、溝10内で研磨ワイヤー40を溝幅方向に往復移動させることで、溝10の表面の研磨加工範囲(研磨領域B1の幅)を調整することができるが、撚り線の研磨ワイヤー40を用いて、ワイヤー素線41の素線径d、本数、又はこれらの組み合わせを調整することでも、該研磨加工範囲を調整できる。例えば、ワイヤー素線41の本数を増やして研磨ワイヤー40のワイヤー径Dを大きくすれば、溝底部12のみならず、溝中間部13をも容易に研磨することが可能となる。
図11A〜11Dは、本実施形態の変更例に係る撚り線の研磨ワイヤー40と溝10を示す断面図である。図11Aに示すように、ワイヤー素線41Aの本数を6本に増加させた研磨ワイヤー40Aを用いれば、溝底部12のみならず溝中間部13も含む研磨領域B1を研磨可能となる。さらに、図11Bに示すように、ワイヤー素線41Bの本数を10本に増加させた研磨ワイヤー40Bを用いれば、溝頂部14に近い溝中間部13の上部側も研磨可能となり、研磨領域B1を非接触領域A1の全域とすることができる。なお、図11A及び11Bの例では、多数本のワイヤー素線41を撚り合わせた研磨ワイヤー40A、40Bを溝10に押し当てることで、研磨ワイヤー40A、40Bの断面形状が、溝10の断面形状に追従して円形から略逆三角形状に変化している。このため、溝底部12を中心に溝底部12及び溝中間部13の双方を含む研磨領域B1を適切に研磨できる。なお、撚り線の研磨ワイヤー40の編み方を調整することで、上記のように研磨ワイヤー40の断面形状が変形可能であれば、「D≦2・RB」の条件を満たさない場合であっても、「d≦2・RB」の条件を満たしさえすれば、該研磨ワイヤー40のワイヤー素線41を溝底部12に接触させることができるため、該研磨ワイヤー40を用いて溝底部12を適切に研磨可能である。
また、図11Cに示すように、ワイヤー素線41Cの素線径dを小さくした研磨ワイヤー40Cを用いれば、研磨ワイヤー40Cの柔軟性及び追従性を向上でき、溝底部12の研磨領域B1をより適切かつ均一に研磨加工できる。また、図11Dに示すように、研磨材を備えないワイヤー素線41Dの周囲に、研磨材を備えたワイヤー素線41Eを配置した研磨ワイヤー40Dを用いれば、研磨材を備えたワイヤーの本数を減らせるため、研磨ワイヤー40のコストを抑制できる。
以上のように、研磨ワイヤー40を成すワイヤー素線41の本数や素線径d、撚り方などを調整することで、溝10の研磨加工範囲(研磨領域B1)や加工精度を柔軟に変更することができる。また、単線の研磨ワイヤー40のワイヤー径Dを調整する場合、特注品を製造する必要があるためコスト高となるが、撚り線の研磨ワイヤー40では、既製品のワイヤー素線の本数や素線径d等を調整してワイヤー径Dを調整できるので、溝10の形状や加工精度に応じた所望スペックの研磨ワイヤー40を安価に製造できる。
[4.3.研磨ワイヤーの支持部材]
次に、図12〜図15を参照して、本実施形態に係る研磨ワイヤーの支持部材について詳細に説明する。図12は、本実施形態に係る研磨ワイヤー40の支持部材50を示す背面図である。図13は、本実施形態に係る研磨ワイヤー40の支持部材50とロール6を示す正面図である。
図12及び図13に示すように、支持部材50は、複数本の研磨ワイヤー40を溝10に対して平行な方向に緊張させた状態で支持し、該複数本の研磨ワイヤー40を一定のピッチPで等間隔かつ平行に支持する。このために、支持部材50は、中空矩形状のフレーム51と、フレーム51の背面の両側に対向配置される複数のフック52と、フレーム51の一端側のフック52に付随して設けられる張力発生機構53と、研磨ワイヤー40を固定する固定部材54とを備える。
フック52は、研磨ワイヤー40を懸架するための部材であり、フック52が研磨ワイヤー40と接触する部分(接触部)は、所定の曲率で湾曲している。このため、フック52に懸架された研磨ワイヤー40は、該所定の曲率でフック52に沿って湾曲して、180°方向転換する。
複数対のフック52が、フレーム51の背面の一側及び他側(図12の例ではフレーム51の上側と下側)に対向して配置される。この際、これらフック52は、フレーム51の背面の一側及び他側に千鳥状に配置されている。この一側のフック52と他側のフック52との間に研磨ワイヤー40が張架されるが、研磨ワイヤー40が溝10に対して平行な方向に張架されるように、一側及び他側のフック52、52の形状及び配置が調整されている。また、フレーム51の背面の下側の両隅には、それぞれ固定用のフック52aが配置されている。
かかるフック52に対して、1本の研磨ワイヤーを蛇行させるように懸架し、その両端は固定用のフック52aに固定することで、これらフック52の間に上記複数本の研磨ワイヤー40が所定ピッチPで平行に張架されることとなる。このようにして1本の研磨ワイヤーを取り付けることで、作業者は、研磨加工装置30の支持部材50に研磨ワイヤー40を容易かつ迅速に装着できるようになり、作業時間を短縮できる。この作業効率化の効果は、1つの支持部材50における研磨ワイヤー40の本数が多いほど、高まる。しかし、研磨ワイヤー40の取り付け方法は、上記の例に限定されず、複数本の研磨ワイヤー40の両端をそれぞれフック52に固定するようにして取り付けてもよい。
次に、張力発生機構53について説明する。図12に示すように、張力発生機構53は、フレーム51の背面の一側に、フック52とともに装着される。この張力発生機構53は、エアシリンダー又は板ばね等からなり、フック52に対して一方向かつ一定の引張力を付与する。そして、張力発生機構53は、該フック52を支持しつつ、該フック52に懸架された複数本の研磨ワイヤー40を張る方向(図示の例では上方向)に該フック52を引っ張る。
かかる張力発生機構53により、該複数本の研磨ワイヤー40に一定の張力Tを発生させることができるので、溝10の研磨加工時に、適度に緊張した状態の研磨ワイヤー40を溝10に対して押し付けることができる。従って、研磨ワイヤー40により溝10の研磨領域Bを局所的に高精度で研磨できるとともに、均一な研磨が可能となる。
さらに、図12に示すように、上記のようにフレーム51の一側に張力発生機構53が設けられるとともに、フレーム51の他側に、研磨ワイヤー40を固定するための固定部材54が設けられる。例えば、固定部材54は、複数本の研磨ワイヤー40をフレーム51との間で押さえ込んで固定する押え板などで構成される。
かかる固定部材54により、フレーム51の一側のフック52に懸架された研磨ワイヤー40の両端を、フレーム51の下側で固定することができるので、該フック52に懸架された研磨ワイヤー40のずれを防止できる。従って、研磨加工時に、研磨ワイヤー40と溝10との摩擦力の違いや、溝10に対する研磨ワイヤー40の押し込み量の違いにより、ある研磨ワイヤー40に張力Tの変動が生じたとしても、該張力Tの変動が他の研磨ワイヤー40に伝達することを防止できる。よって、上記張力発生機構53及び固定部材54により、研磨加工中に、複数本の研磨ワイヤー40に対して均等な張力Tを作用させ続けることができるので、複数条の溝10を均等に研磨すること可能となる。
次に、上記研磨ワイヤー40のピッチPと、研磨ワイヤー40を成す1本のワイヤー素線41の素線径dとの関係について説明する。
研磨ワイヤー40のピッチPは、該ピッチPと素線径dとの比(P/d)で規定される。研磨ワイヤー40が単線であるか、撚り線であるかに関わらず、ピッチPと素線径dとの比(P/d)は、5以上、10000以下であることが好ましい。
P/dが5未満である場合には、フック52に掛かる部分の研磨ワイヤー40の曲率が過度に小さくなり、該研磨ワイヤー40が塑性変形してしまう。このため、フック52に掛かる位置で研磨ワイヤー40の移動が阻害され円滑に移動しなくなるため、研磨ワイヤー40の張力Tのばらつきによる研磨加工むらが生じてしまう。一方、P/dが10000を超過する場合には、研磨ワイヤー40のピッチPの過度に広くなるために、同時に研磨加工できる溝10の条数が少なくなり、経済的な処理時間で加工することができない。
従って、P/dを5〜10000とすることにより、フック52に掛かる部分における研磨ワイヤー40の塑性変形に伴う張力Tのばらつきを防止して、溝10の研磨加工むらを抑制できるとともに、多数の溝10を経済的な処理時間で効率的に研磨加工することができる。
次に、図14A〜14Cを参照して、フック52の変更例について説明する。図14A〜14Cは、本実施形態に係るフック52の変更例を示す正面図である。
図14A〜14Cに示すように、研磨ワイヤー40と接触するフック52の接触部の曲率(R)が、上記条件(P/dが5以上)に対応する「R≧2.5d」の条件を満たしていれば、フック52の形状や設置数は、図12のような楕円形の例に限定されず、多様に変更可能である。例えば、図14Aに示すように、円形のフック52Aに研磨ワイヤー40を懸架してもよいし、図14Bに示すように、2個の円形のフック52Bに対して研磨ワイヤー40を懸架してもよい。また、図14Cに示すように、長円形のフック52Cに研磨ワイヤー40を懸架してもよい。
次に、図15を参照して、研磨ワイヤー40の膨らみを矯正するスペーサ55について説明する。図15は、本実施形態に係るスペーサ55を備えた支持部材50を示す正面図である。
上述したように、研磨ワイヤー40は、硬質な溶射皮膜21を局所的に研磨可能なように、ダイヤモンドワイヤー等の高硬度のワイヤーで構成される。このため、研磨ワイヤー40をフック52に単純に懸架しただけでは、図15に示すように、研磨ワイヤー40がフック52の周辺でピッチ方向(ロール軸方向X)に膨らんでしまう場合がある。このように研磨ワイヤー40が膨らんで直進性が失われると、研磨ワイヤー40のピッチPが不均一となるため、研磨加工ピッチのばらつきの原因となり、溝10内の所望位置を適切に研磨できなくなる恐れがある。
そこで、本実施形態では、図15に示すように、フレーム51の背面上側においてロール軸方向に相隣接するフック52、52の間に、研磨ワイヤー40の膨らみを矯正するためのスペーサ55を設置する。このスペーサ55のロール軸方向Xの幅は、研磨ワイヤー40のピッチPと略同一であり、スペーサ55の厚みは、研磨ワイヤー40のY方向の変形量よりも大きい。また、スペーサ55の平面形状は、例えば楕円形状であるが、円形又は矩形などの形状であってもよい。
かかるスペーサ55を設置することで、上記フック52の周辺で生じる研磨ワイヤー40の膨らみを萎めるように矯正できる。従って、複数本の研磨ワイヤー40の直進性を確保し、複数本の研磨ワイヤー40を一定のピッチPで等間隔に配置できるので、研磨ワイヤー40による研磨位置の精度を向上できる。
[4.4.研磨ワイヤーの張力]
次に、図16を参照して、本実施形態に係る研磨ワイヤー40の張力Tについて詳細に説明する。
上記支持部材50により張架される研磨ワイヤー40の張力Tによって、ロール6の溝10に対する研磨ワイヤー40の押付力が決定する。研磨ワイヤー40の張力Tが大きいほど、溝10に対する研磨ワイヤー40の押付力が大きくなり、溝10の研磨加工速度が大きくなる。
この研磨ワイヤー40の張力Tは、5N以上、30N以下であることが好ましい。張力Tが5N未満である場合には、研磨ワイヤー40がロール周面の曲線形状に倣わず、溝10に対する当たりが不均一になるため、研磨加工力が部分的に不足し、溝10に研磨加工むらが生じてしまう。一方、張力Tが30N超である場合には、研磨加工速度が過度に速いために、研磨加工時間のばらつきにより、溝10に研磨加工むらが生じてしまう。これに対し、張力Tが5〜30Nの範囲内であれば、研磨ワイヤー40をロール周面の溝10に対して適度な押付力で均一に押し付けることができるため、適切な研磨加工速度で溝10を研磨でき、研磨加工むらの発生を防止できる。
かかる研磨ワイヤー40の張力Tの適正範囲を検証するために、研磨ワイヤー40の張力Tを4〜31Nの範囲内で変更して、溝底部12を研磨し、研磨加工むらを評価する試験を行った。図16は、本試験における研磨ワイヤー40の張力Tと、研磨加工むらとの関係を示すグラフである。図16は、研磨加工むらを表す指標として、実際に研磨された溝底部12の表面粗度の測定値と目標表面粗度の比(以下、粗度比という。)を縦軸に示している。
図16に示すように、張力Tが4Nである場合には、粗度比は0.83〜1.55の範囲にばらついている。また、張力Tが31Nである場合にも、粗度比は0.52〜1.35の範囲にばらついている。これは、張力Tが適切でないため、研磨加工むらが発生していることを表す。これに対し、張力Tが10N、15N、20N、25N、30Nである場合には、粗度比は0.81〜1.15の範囲内に収まっており、ばらつきは小さく、粗度比が1.0付近に集中している。従って、張力Tを5N〜30Nの範囲内とすることで、研磨加工後の溝底部12の表面粗度を目標粗度に近づけることができ、研磨加工むらを抑制できることが確認された。
[4.5.各種の研磨加工条件]
次に、本実施形態に係る研磨加工装置30によるその他各種の研磨加工条件について説明する。
上記研磨加工装置30による研磨加工条件として、例えば以下を例示できる。かかる研磨加工条件で溝10の研磨領域B1を研磨加工することで、該研磨領域B1の表面粗度が上述した数値範囲となるように適切に調整できる。
ロール6の回転数R :1〜400rpm
1つの溝10の研磨加工時間t:1〜1200s
研磨ワイヤー40の巻付角度θ:1〜180°
研磨材の粒径r :0.1〜200μm
研磨ワイヤー40の直径D :0.01〜2・RBmm(RB:溝底部12の曲率半径)
ロール6の回転数Rが1rpm未満であると、経済的な処理時間で研磨加工することができない。一方、該回転数Rが400rpm超過であると、研磨加工速度が速すぎるために、研磨加工時間のばらつきによる研磨加工むらが生じる。従って、ロール6の回転数Rは、1〜400rpmであることが好ましい。これにより、経済的な処理時間で研磨加工しつつ、研磨加工時間のばらつきを抑制して、研磨加工むらを防止できる。
研磨ワイヤー40により1つの溝10を研磨するときの研磨加工時間tが1s未満であると、研磨加工速度が速すぎるために、研磨加工時間のばらつきによる研磨加工むらが生じる。一方、研磨加工時間tが1200s超過であると、経済的な処理時間で研磨加工することができない。従って、研磨加工時間tは、1〜1200sであることが好ましい。これにより、研磨加工時間のばらつきを抑制して、研磨加工むらを防止しつつ、経済的な処理時間で研磨加工できる。
ロール6の溝10に対する研磨ワイヤー40の巻付角度θが1°未満であると、研磨ワイヤー40と溝底部12との接触面積が小さすぎるため、研磨加工むらが生じる。一方、巻付角度θが180°超過とすることは、研磨加工装置30の支持部材50等の構造上、実現できない。従って、研磨ワイヤー40の巻付角度θは1〜180°であることが好ましい。これにより、研磨ワイヤー40と溝底部12との接触面積を確保して、研磨加工むらを抑制しつつ、研磨ワイヤー40の支持構造を実現可能である。
研磨材の粒径rが0.1μm未満であると、研磨ワイヤー40による研磨加工力が不足し、経済的な処理時間で研磨加工することができない。一方、研磨材の粒径rが200μm超過であると、研磨ワイヤー40により研磨された溝10の表面粗度が、要求される粗度(例えば、Raで2μm未満)よりも大きくなる。従って、研磨材の粒径rは、0.1〜200μmであることが好ましい。これにより、研磨ワイヤー40の研磨加工力を確保して、経済的な処理時間で研磨加工できるとともに、溝10の所望の表面粗度を得ることができる。
研磨ワイヤー40の直径D(ワイヤー径)が0.01mm未満であると、研磨加工中に摩耗などにより研磨ワイヤー40が断線して研磨加工むらが生じる恐れがある。一方、ワイヤー径Dが2・RBmm超過であると、研磨ワイヤー40の半径が溝底部12の曲率半径RBより大きくなるので、研磨ワイヤー40が溝底部12の曲面に好適に接触せず、研磨ワイヤー40により溝底部12を研磨することが困難となる。従って、ワイヤー径Dは、0.01〜2・RBmmであることが好ましい。これにより、研磨加工中の研磨ワイヤー40の断線を抑制しつつ、溝底部12を適切に研磨可能となる。ただし、上述したように研磨ワイヤー40の断面形状が変形可能であり(図11A〜11D参照。)、ワイヤー素線径dが0.01〜2・RBmmである場合には、D≦2・RBであったとしても、溝底部12を適切に研磨することが可能である。
なお、上記研磨加工では、研磨材と研磨液(潤滑材)を混ぜ合わせたスラリーを、加工部に供給しながら加工してもよいし、或いは、研磨液を供給することなく無潤滑で加工してもよい。
[4.6.ワイヤーの搖動動作]
次に、図17及び図18を参照して、本実施形態に係る研磨加工時に研磨ワイヤー40を溝10内で揺動させる動作について詳細に説明する。図17、図18は、本実施形態に係る研磨ワイヤー40の揺動動作を示す平面図及び断面図である。
図17及び図18に示すように、上記研磨加工装置30の移動機構60は、支持部材50をロール軸方向(溝10の幅方向:X方向)に往復移動(揺動)させる。これにより、溝10内に挿入された研磨ワイヤー40を、支持部材50とともにロール軸方向(X方向)に往復移動させることができる。この結果、研磨ワイヤー40が溝10内で溝底部12を中心として溝10の表面に沿って揺動し、溝底部12及び溝中間部13の表面に擦り合わされる。このように、研磨ワイヤー40の位置を溝底部12の中心からずらすことにより、溝底部12のみならず、溝中間部13を含む広い研磨領域B1を簡便に研磨することができる。
図17は、支持部材50の往復移動に合わせて、溝10に対する研磨ワイヤー40の接触部全体が溝10の幅方向(X方向)に平行移動する場合を示している。巻付角度θが小さく、溝10の深さHが浅く、張力Tが高く、ワイヤー素線径dが大きい場合には、移動機構60により、研磨ワイヤー40を溝10の幅方向(X方向)及び溝10の深さ方向(Y方向)に複合的に往復移動させる。これにより、図17に示すように、研磨ワイヤー40と溝10との接触部全体が溝10の表面に沿って往復移動することとなる。
図18は、支持部材50の往復移動に合わせて、溝10に対する研磨ワイヤー40の接触部の中心部は移動せずに、該接触部の両端側の部分の研磨ワイヤー40のみが溝10の幅方向(X方向)に平行移動する場合を示している。巻付角度θが大きく、溝10の深さHが深く、張力Tが低く、ワイヤー素線径dが小さい場合には、移動機構60により、研磨ワイヤー40を溝10の幅方向(X方向)に単純に往復移動させる。これにより、図18に示すように、研磨ワイヤー40の接触部の両端側部分のみが溝10の表面に沿って往復移動することとなる。
以上、研磨加工装置30による研磨ワイヤー40の揺動動作について説明した。当該研磨装置によれば、研磨ワイヤー40を用いて、ロール周面のうち、溝底部12及び溝中間部13の一部又は全部を含む研磨領域B1を局部的に研磨して平滑化し、表面粗度を低下させることができる。これにより、簡便な方法で、研磨領域B1の表面粗度が上述した数値範囲(例えば、Raで2μm以下)となるように適切に調整できる。従って、鋼帯2と接触する接触領域A2の表面粗度を変化させずに、ドロス等の異物が付着しやすい非接触領域A1のうちの研磨領域A1のみを平滑化して、表面粗度を低下させることができる。
また、上述したように複数本のワイヤー素線41を撚り合わせた研磨ワイヤー40を使用する場合には、図11A〜11Dに示したように、溝10内で研磨ワイヤー40を往復移動させなくても、溝中間部13を研磨加工することができる。つまり、溝底部12の曲率半径RBよりも小さい半径のワイヤー素線41の撚り線を使用することで、当該複数本のワイヤー素線41が溝底部12及び溝中間部13を含む研磨領域B1に接触するため、これらの範囲を同時に研磨加工できる。
[5.研磨加工方法]
次に、図19を参照して、上記構成の研磨加工装置30を用いた研磨加工方法について説明する。図19は、本実施形態に係る研磨加工方法を示すフローチャートである。
図19に示すように、本実施形態に係る研磨加工装置30(図8等参照。)は、複数本の研磨ワイヤー40を用いて複数条の溝10の表面を同時に研磨する研磨動作を1セットとし、複数本の研磨ワイヤー40をロール軸方向に溝10のピッチpずつ送り出して次のセットの複数条の溝10の研磨動作を繰り返すことで、ロール周面の全ての溝10を研磨する。
まず、該複数本の研磨ワイヤー40を、最初に研磨される第1セットの複数条の溝10に対して位置合わせする(S2)。詳細には、図8に示したように、複数本の研磨ワイヤー40及び支持部材50をロール6の周面に対向するように配置し、該複数本の研磨ワイヤー40を第1セットの複数条の溝10の溝底部12に対して溝10の幅方向に位置合わせする。
次いで、上記複数本の研磨ワイヤー40を用いて、複数条の溝10の研磨領域B1を同時に研磨する(S4)。詳細には、図9に示したように、回転機構70によりロール6を回転させながら、移動機構60により研磨ワイヤー40及び支持部材50をロール6の周面に向けてY方向に前進させ、各研磨ワイヤー40を各溝10内に挿入し、溝底部12に所定の巻付角度θで巻き付ける。これにより、巻き付けられた各研磨ワイヤー40が、回転するロール6の各溝10の研磨領域B1の全周に渡って連続的に接触する。この結果、複数本の研磨ワイヤー40が、回転するロール6の4条の溝10の研磨領域B1と同時に摩擦するので、該複数条の溝10の研磨領域B1が同時に研磨される。
また、研磨領域B1が溝10の幅方向に広い場合には、該研磨領域B1の幅に合わせた太い研磨ワイヤー40を用いるか、或いは、研磨ワイヤー40を溝10の幅方向(X方向)に往復運動させることで、溝底部12のみならず溝中間部13を含む広い研磨領域B1を研磨できる。
かかる研磨動作を所定時間続けることで、溝底部12を中心として研磨領域B1の封孔皮膜22及びその下側の溶射皮膜21が研磨されて、研磨領域B1の溶射皮膜21の表面が所望の表面粗さに平滑化される。
次いで、上記第1セットの溝10の研磨終了後に、移動機構60により研磨ワイヤー40及び支持部材50をY方向に退避させてロール6の周面から離隔させる。さらに、移動機構60により研磨ワイヤー40及び支持部材50をロール軸方向(X方向)に溝10のピッチpだけ送り出して、次の第2セットの複数条の溝10の溝底部12に対して複数本の研磨ワイヤー40を位置合わせする(S2)。
その後、上記と同様にして、複数本の研磨ワイヤー40を用いて、第2セットの複数条の溝10の研磨領域B1を同時に研磨する(S4)。そして、ロール周面の全ての溝10の研磨が終了するまで(S6)、上記研磨動作(S2、S4)を複数セット繰り返すことで、ロール周面の溝10を研磨ワイヤー40の本数ずつ同時に研磨していく。
以上の研磨加工方法により、ロール6の周面に形成された多数の溝10の研磨領域B1を短時間で効率的に研磨加工することができる。例えば、ロール周面に形成された800本の溝10の研磨領域B1を研磨する場合、従来の研磨方法のように砥石等で溝10を1本ずつ研磨すると(加工時間1分/1本の溝10)、13時間以上の研磨加工時間を要していた。これに対し、本実施形態では、例えば15本の研磨ワイヤー40を備えた研磨加工装置30を用いれば、研磨加工時間は1時間程度で済む。
さらに、本実施形態に係る研磨加工装置30の研磨ワイヤー40は、局所的な研磨性能に優れており、溝10の幅及び形状に応じたワイヤー径Dを有している。そして、研磨ワイヤー40は、一定の張力Tで緊張するような状態で支持部材50により張架され、ロール6の溝10に所定の巻付角θで巻き付けられるように押し当てられる。
研磨工具として、かかる研磨ワイヤー40を用いることにより、溝10の表面のうち溝底部12を中心とした研磨領域B1のみを局所的に適切に研磨することができる。従って、溝底部12において、最上層の比較的軟質な封孔皮膜22のみならず、その下層の比較的硬質な溶射皮膜21をも研磨ワイヤー40で好適に研磨できる。よって、従来のバフ研磨等の研磨方法では平滑化できなかった溝底部12の溶射皮膜21自体を適切に研磨して平滑化でき、該溝底部12の溶射皮膜21の表面粗度を所望の表面粗度(例えば、Raで0.001〜2μm)に調整することができる。
なお、上記では、封孔皮膜22及び溶射皮膜21の双方を研磨する例について説明した
が、実施の形態は、かかる例に限定されない。溶射皮膜21上に封孔皮膜22を形成する前に、下層の溶射皮膜21のみを研磨してもよいし、又は、溶射皮膜21上に封孔皮膜22を形成した後に、上層の封孔皮膜22のみを研磨して、下層の溶射皮膜21を研磨しないようにしてもよい。また、溶射皮膜21上に封孔皮膜22が形成されないロールの場合には、上層の溶射皮膜21のみを研磨してもよい。
[6.ロールの製造方法]
次に、図20を参照して、本実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの製造方法について説明する。図20は、本実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの製造方法を示すフローチャートである。なお、以下では、浴中ロールとして上記シンクロール6を製造する例について説明するが、他の浴中ロール(例えばサポートロール7、8)を製造する際も同様な製造方法であってよい。
浴中ロールの母材としてはマルテンサイト系ステンレス遠心鋳造材や鍛造材が用いられる。
浴中ロール表面の凹凸は、希望とする凹凸形状に加工した工具鋼または超硬製のバイトをロール表面に押し付け切削加工する。
図20に示すように、まず、ロール6の基材となるロール基材20の周面に、周方向に複数の溝10を形成する(ステップS10)。この溝加工としては、例えば、旋盤加工や、切削工具を用いた切削加工などを利用できる。
次いで、上記溝10が形成されたロール基材20の周面に対して、溶射材を溶射することで、溶射皮膜21を形成する(ステップS12)。具体的には、上記サーメット等の材質の溶射材をロール基材20の周面に高速で衝突・付着させる。なお、溶射皮膜21の密着力を高める目的で、S12の前に溶射前ブラスト処理を必要に応じて行ってもよい。
例えば、溶射皮膜は、密着性向上のためグリッドブラストを行った後に、高速ガス溶射(High Velocity Oxygen−Fuel Thermal Spraying Process、HVOFという)、プラズマ溶射、爆発溶射(Detonation Gun Process、D−gunという)等により通常の溶射条件で行う。
HVOFによって溶射する場合には、燃料ガスをケロシン、C3H8、C2H2、C3H6の何れかとし、燃料ガスの圧力を0.1〜1MPa、燃料ガスの流量を10〜500l/minとし、酸素ガスの圧力を0.1〜1MPa、酸素ガスの流量を100〜1000l/minとすることが好ましい。
緻密な皮膜を形成するため、これらの溶射皮膜の原料粉体の粒度は、10〜50μmとすることが好ましい。
溶射皮膜は1層だけ形成してもよいし、同一又は異なる材質で複数層の溶射皮膜を形成してもよい。セラミック溶射皮膜厚みは、通常、20〜200μmの範囲、サーメット溶射皮膜厚みは、20〜300μmの範囲とする。
その後、上述した研磨加工装置30(図8、図9等参照。)の研磨ワイヤー40を用いて、溝10の表面のうち、研磨領域B1を局部的に研磨し、平滑化する(ステップS14)。これにより、鋼帯2に対する接触領域A2(溝頂部14)の表面粗度を変化させずに、研磨領域B1(溝底部12及び溝中間部13)の表面粗度を低下させる。かかる研磨加工により、局部的な研磨能力の高い研磨ワイヤー40により、比較的硬質の溶射皮膜21の研磨領域B1を適切に研磨して、平滑化することができる。
本研磨工程(S14)では、次の封孔処理(S16)による表面粗度の変化を考慮した上で、封孔処理(S16)後に最終的な目標表面粗度が得られるように、溝10の研磨領域B1の溶射皮膜21の表面粗度を調整する。もし封孔処理(S16)を行わない場合には、本研磨工程(S14)で、溝10の各部の溶射皮膜21の表面粗度を最終的な目標表面粗度に調整してもよい。なお、溝10の目標表面粗度は、上述した通りである。
さらに、上記研磨加工後の溶射皮膜21を封孔処理して、溶射皮膜21の表面に封孔皮膜22(最上層皮膜)を形成する(ステップS16)。まず、封孔処理皮膜としてクロム、シリカ、ジルコニア、アルミナのいずれか1種もしくは2種以上からなる酸化物層を得る酸化皮膜形成処理を施す。封孔皮膜は、封孔材を塗布及び焼成することにより形成される。具体的には、Cr2O3、SiO2等を含む封孔材(ゾルゲル溶液又はスラリー等)を溶射皮膜21の表面に塗布した後に焼成する。これにより、溶射皮膜21に含まれる気孔が封孔皮膜22で覆われて、溶射皮膜21の空隙が封止される。封孔皮膜の厚みは、通常、1〜50μmとする。封孔皮膜は、溶射皮膜の粗さ(Rz数十〜数百μm)に比べて薄いため、溶射および封孔処理後の表面粗さは、溶射皮膜の粗さに大きく影響される。
上記のようなロール製造方法により、ロール周面の溝10の表面粗度が接触領域A2と研磨領域B1との間で異なるロール6を、簡便かつ適切に製造できる。
なお、上記フローでは、溶射皮膜21の形成(S12)後に、研磨ワイヤー40による溝10の研磨加工(S14)を行い、溝10の表面粗度を調整したが、実施の形態はかかる例に限定されない。例えば、封孔皮膜22の形成(S16)後に、研磨ワイヤー40による溝10の研磨加工を行ってもよいし、或いは、溶射皮膜21の形成(S12)後及び封孔皮膜22の形成(S16)後の双方で、研磨ワイヤー40による溝10の研磨加工を行ってもよい。
[7.効果]
以上、実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロール及びその製造方法について説明した。実施形態によれば、ロール周面の溝10の全体を平滑化して表面粗度を低下させるのではなく、研磨ワイヤー40を用いて、異物付着が生じうる非接触領域A1(溝底部12及び溝中間部13)内の研磨領域B1のみを局部的に研磨・平滑化して表面粗度を部分的に低下させ、鋼帯2と接触する溝頂部14の表面粗度を低下させない。
具体的には、異物付着がほとんど無く、むしろ鋼帯2のグリップ力が求められる接触領域A2(溝頂部14:例えば、溝底12aから0.9H以上の高さ位置)については、研磨加工を施さずに、ある程度高い表面粗度(例えば、Raで3〜80μm)を確保する。一方、異物付着が激しい溝底部12や溝中間部13を含む非接触領域A1内の研磨領域B1については、表面粗度をRaで2μm未満に低下させる。
このように表面粗度が調整された溝10を有する浴中ロールでは、溝底部12の表面粗度が十分に低いため、溝底部12を中心として研磨領域Bに対するドロス等の異物付着を十分に抑制できる。また、溝中間部13も研磨領域Bに含まれる場合には、該溝中間部13に対するドロス等の異物付着も的確に抑制できる。
また、接触領域A2である溝頂部14の表面粗度がある程度高いので、鋼帯2に対する摩擦力を高め、溝頂部14による鋼帯2のグリップ力を確保できる。従って、連続溶融金属めっき装置1の操業時に、浴中ロールの周面に対して鋼帯2がスリップすることを防止できる。
以上のように、本実施形態によれば、シンクロール6やサポートロール7、8等の浴中ロールの周面の溝10の表面粗度を、その深さに応じて適切に調整する。これにより、非接触領域A1(溝底部12及び溝中間部13)に対するドロス等の異物の付着を大幅に低減できるとともに、非接触領域A2(溝頂部14)による鋼帯2のグリップ力を確保できる。従って、連続溶融金属めっき装置1の操業中に、浴中ロール周面の溝10に対するドロス等の異物の付着を十分に抑制できるとともに、鋼帯2のスリップを防止できる。よって、浴中ロールの搬送性能を低下させることなく、浴中ロールの寿命を延ばすことが可能となる。
また、上述したように、溝底部12の硬質の溶射皮膜21を通常の研磨方法により局部的に研磨して平滑化することは困難であるので、従来方法(例えば特許文献4参照。)では、溝頂部と溝底部の表面粗度を調整するために、軟質の封孔皮膜をバフ研磨する方法を採用していた。
これに対し、本実施形態に係る研磨加工装置30によれば、研磨ワイヤー40を用いて比較的な硬質な溶射皮膜21を適切に研磨することできる。従って、ロール周面の封孔皮膜22は勿論、該封孔皮膜22の下層の溶射皮膜21も適切に研磨加工して、溝底部12の表面粗度を調整することができる。
かかる研磨加工方法により、溝10の表面粗度を調整するに際して、ロール周面に封孔皮膜22が必須ではなくなる。従って、封孔皮膜22が存在しないロールについても、溝10の表面粗度を調整可能であるとともに、該封孔皮膜22の材質はバフ研磨で除去することが可能な材質に限定されないという利点がある。さらに、研磨領域Bの溶射皮膜21自体を研磨加工して平滑化できるので、溝10内のドロスを削ぎ落とす作業により封孔皮膜22が除去されて、その下層の溶射皮膜21が現れたとしても、該溶射皮膜21自体が所望の表面粗度にまで平滑化されているので、研磨領域Bの表面粗度が増加してしまうことがない。
上記実施形態では、溶融金属めっき浴中ロールとしてシンクロール6の例を挙げて説明したが、実施の形態は係る例に限定されない。実施の形態の溶融金属めっき浴中ロールは、例えば、上記サポートロール7、8などに適用することも可能であるし、その他にも、溶融金属めっき浴中に設置される任意の浴中ロールに適用可能である。
上記実施形態では、溝10内の非接触領域を機械的に選択的に研磨する研磨部材として、研磨ワイヤーを用いたが、ダイヤモンドバー等の棒状工具、ダイヤモンドカッター等のディスク状工具等を用いてもよい。これらの工具を用いる場合に対する研磨ワイヤー等のワイヤー工具を用いる場合の利点は、ワイヤー工具は、接触面積が広いため、加工が均一かつ短時間で行える点である。なお、ダイヤモンドバー等の棒状工具、ダイヤモンドカッター等のディスク状工具、研磨ワイヤー等のワイヤー工具等は、溝10内の非接触領域に押しつけた際、押付力が一定となるようにこれらの工具を支持する支持部材で支持して用いることが好ましい。ダイヤモンドバー等の棒状工具、ダイヤモンドカッター等のディスク状工具、研磨ワイヤー等のワイヤー工具等の表面に研磨剤を固定して工具を使用するか、これらの工具と溝10内の非接触領域との間に研磨剤を供給することで研磨加工を行うことが好ましい。
以上、種々の典型的な実施の形態を説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、次の請求の範囲によってのみ限定されるものである。