JPWO2014098089A1 - 真菌の生育を促進する方法 - Google Patents
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Abstract
真菌の生育を促進する新規な方法を提供すること、また、当該方法に有用なポリペプチド及びそのポリペプチドをコードする核酸を提供すること、更に、例えば、バイオエタノールの酵母による生産に最適な方法を提供することを目的とする。真菌の生育を促進する能力を有するポリペプチドであって、配列番号2で示されるアミノ酸配列のうちの435位−グルタミンまでを含まず、少なくとも配列番号2の436位−グリシンから693位−システインまでを含むアミノ酸配列から成るポリペプチドが提供される。
Description
本発明は、真菌の生育を促進する方法、並びに当該方法に有用なポリペプチド及びそれをコードする核酸に関する。
ほとんど全ての発酵産業は、真菌を利用している。例えば、清酒、醤油、味噌の醸造にはアスペルギルス属の糸状菌が利用される。チーズの熟成にはペニシリウム属の糸状菌も利用される。清酒、ビールやワインの醸造には、サッカロミセス属の酵母が不可欠なことは言うまでもない。更にピキァ属等の酵母は、遺伝子組換え技術における宿主として多用されている。これらの発酵工程は、通常、用いられる真菌の生育にとって最適な環境下、例えば至適温度やpHで実施される。
しかしながら、真菌の生育にとって最適な環境条件を維持するためには、多くのエネルギーと精緻なコントロールを必要とする。従って、発酵生産が、より広範な環境条件下(例えば、高温、低温、高pH、低pH、高アルコール濃度環境下等)でも生育可能な真菌、つまり環境ストレスに対して耐性を示す真菌が利用できれば、発酵工程の省エネルギー化や収量の増大を期待できるであろう。
とりわけ、近年、バイオエタノール燃料生産における酵母の利用が脚光を浴びている。典型的なそれらの技術では、廃糖蜜、セルロース及びリグノセルロース等の植物体由来の原料を酵母により発酵してエタノールを得る。従って、当該技術の重要な課題は、その発酵工程に多大なエネルギーを費やさないということである。例えば、酵母の発酵には発熱を伴うので、酵母の最適な生育温度を維持するためには培養物を冷却しなければならないのが通常である。その他にも、酵母生育に最適なpHを維持するために多量の塩類を消費すると廃液による環境汚染の問題が生じるかもしれない。
非特許文献1は、脂肪酸等の有用物質を出芽酵母により生産させる技術に関連している。当該文献は、外来遺伝子によりΔ12不飽和化酵素及びω3不飽和化酵素を発現させたSaccharamyces cerevisiaeは、親株よりもアルカリpHに対して耐性を示すことを記載している。非特許文献2は、バイオエタノール生産において有用な、高温耐性のS.cerevisiae突然変異株を、UV照射により得ている。非特許文献3も、UV照射により得られた高温耐性のS.cerevisiae突然変異株を記載している。
ところで、最近、本発明者らは、特定のイネいもち病菌株に内在的に存在する新規なマイコウイルスを見出した。このマイコウイルス(以下、「MoCV1」と記載することもある。)は、既知のマイコウイルスRNAの塩基配列のいずれとも異なる、2.8〜3.6kbの4種類の二本鎖RNAをしていた。また、MoCV1に感染したイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)の分生子を、強毒性のイネいもち病菌の分生子と共にイネに接種することにより、病斑数を顕著に減少させ得た(特許文献1)。
更に、本発明者らは、MoCV1の4つの主要蛋白質のうちのP70蛋白質をコードするORF4を過剰発現させたSaccharomyces cerevisiaeが、細胞の肥大化や細胞内の顆粒化といった形態異常を伴った生育不全示すことを見出した(非特許文献4)。
しかしながら、本発明者らの知る限りにおいて、これまでにマイコウイルスを利用して真菌の生育を促進しようというアプローチはとられたことが無い。したがって、いずれの先行文献も、マイコウイルス及び当該ウイルス由来の蛋白質が、真菌の生育を促進することや、真菌にストレス耐性を付与し得ることを開示も示唆もしていない。
植村 浩、「出芽酵母(S.cerevisiae)の脂肪酸組成とストレス耐性 〜エタノール耐性とアルカリ耐性の解析〜」、第183回酵母研究会例会、講演要旨(2012年11月)
Hosein Shahsavaraniら、「Development of multiple stress tolerant hubrid Saccharomyces cerevisiae strain TJ14 for cost−efficient production of bio−ethanol」、酵母遺伝学フォーラム 第45回研究報告会、講演要旨(2012年9月)
Masahi Kobataら、「High ethanol fermentation from sugarcane molasses by Saccharomyces cerevisiae strain TJ14−U54 under high−temperature condition」、酵母遺伝学フォーラム 第45回研究報告会、講演要旨(2012年9月)
J.Virol.,2012,86(15),p.8287−8295
本発明は、真菌の生育を促進する新規な方法を提供することを課題とする。また、本発明は、当該方法に有用なポリペプチド及びそのポリペプチドをコードする核酸を提供することを課題とする。
前記のとおり、MoCV1のORF4遺伝子翻訳産物(配列番号2)は、真菌の生育を阻害する。しかしながら、当該翻訳産物のC末端側には、真菌の生育を促進するドメインがコードされており、そのN末端側が真菌の生育抑制を担うことが見出された。単一のポリペプチド鎖が、真菌の生育を促進するドメインと、生育を抑制するドメインを有することは驚くべき知見であった。そして、MoCV1のORF4遺伝子翻訳産物のC末端側を発現する遺伝子組換酵母は、顕著なストレス耐性を示した。従って、本発明の第1の局面は、
[1]真菌の生育を促進する能力を有するポリペプチドであって、以下のアミノ酸配列:
1) 配列番号2で示されるアミノ酸配列のうちの435位−グルタミンまでを含まない配列であって、少なくとも配列番号2の436位−グリシンから693位−システインまでを含むアミノ酸配列;
2) 上記1)に対して少なくとも60%以上の相同性を示すアミノ酸配列;、又は
3) 上記1)のアミノ酸配列に対して、一個又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加を有するアミノ酸配列、
から成る、前記ポリペプチド、
である。
[1]真菌の生育を促進する能力を有するポリペプチドであって、以下のアミノ酸配列:
1) 配列番号2で示されるアミノ酸配列のうちの435位−グルタミンまでを含まない配列であって、少なくとも配列番号2の436位−グリシンから693位−システインまでを含むアミノ酸配列;
2) 上記1)に対して少なくとも60%以上の相同性を示すアミノ酸配列;、又は
3) 上記1)のアミノ酸配列に対して、一個又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加を有するアミノ酸配列、
から成る、前記ポリペプチド、
である。
典型的な上記1)のポリペプチドは、後記実施例のとおり、436位−グリシンから693位−システインまでのアミノ酸配列を含む。従って、本発明の好適な態様は、
[2]上記1)のアミノ酸配列が、配列番号2の436位−グリシンから693位−システインまでの配列である、上記[1]記載のポリペプチド、
である。
[2]上記1)のアミノ酸配列が、配列番号2の436位−グリシンから693位−システインまでの配列である、上記[1]記載のポリペプチド、
である。
本発明のポリペプチドは、それをコードする核酸を適切な宿主細胞内で過剰発現させることにより好適に生産され得る。従って、本発明の第2の局面は、
[3]上記[1]又は[2]に記載のポリペプチドをコードする核酸、
[4]上記[3]に記載の核酸が作動可能に連結されたベクター、及び
[5]上記[4]に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞、
である。
[3]上記[1]又は[2]に記載のポリペプチドをコードする核酸、
[4]上記[3]に記載の核酸が作動可能に連結されたベクター、及び
[5]上記[4]に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞、
である。
本発明のポリペプチド及び核酸は、真菌の生育を促進するための組成物の有効成分として好適に使用できる。従って、本発明の更なる局面は、
[6]上記[1]又は[2]に記載のポリペプチド、上記[3]に記載の核酸或いは上記[4]に記載のベクターを含む、真菌の生育を促進するための組成物、
である。言うなれば、本発明のこの局面は、真菌の生育を促進するために用いる、上記[1]又は[2]のいずれかに記載のポリペプチドである。或いは、真菌の生育を促進するために用いる、上記[3]に記載の核酸である。更には、真菌の生育を促進するために用いる、上記[4]に記載のベクターである。
[6]上記[1]又は[2]に記載のポリペプチド、上記[3]に記載の核酸或いは上記[4]に記載のベクターを含む、真菌の生育を促進するための組成物、
である。言うなれば、本発明のこの局面は、真菌の生育を促進するために用いる、上記[1]又は[2]のいずれかに記載のポリペプチドである。或いは、真菌の生育を促進するために用いる、上記[3]に記載の核酸である。更には、真菌の生育を促進するために用いる、上記[4]に記載のベクターである。
更に、本発明は、有用な真菌の生育を促進する方法、及び当該真菌の耐ストレス性を向上させる方法を意図する。すなわち、本発明の別の局面は、
[7]真菌の生育を促進する方法であって、そのような処理が必要とされる真菌に対して上記[1]又は[2]に記載のポリペプチド、上記[3]に記載の核酸或いは上記[4]に記載のベクターを投与することを含む、前記方法、及び
[8]真菌のストレス耐性を向上する方法であって、そのような処理が必要とされる真菌に対して上記[1]又は[2]に記載のポリペプチド、上記[3]に記載の核酸或いは上記[4]に記載のベクターを投与することを含む、前記方法、
である。
[7]真菌の生育を促進する方法であって、そのような処理が必要とされる真菌に対して上記[1]又は[2]に記載のポリペプチド、上記[3]に記載の核酸或いは上記[4]に記載のベクターを投与することを含む、前記方法、及び
[8]真菌のストレス耐性を向上する方法であって、そのような処理が必要とされる真菌に対して上記[1]又は[2]に記載のポリペプチド、上記[3]に記載の核酸或いは上記[4]に記載のベクターを投与することを含む、前記方法、
である。
本発明のポリペプチドは、顕著な真菌生育促進活性及び耐ストレス性向上活性を示すので、当該ポリペプチド及びそれをコードする核酸は、真菌の生育を促進するための有効成分として有用である。更に、本発明のポリペプチドを過剰生産するように形質転換された真菌は、各種の発酵生産において有利に使用できる。また、本発明のポリペプチドは、真菌生育促進活性及び耐ストレス性向上活性を示すので、真菌の生育機構を解明するための研究に用いることが可能である。また、本発明のポリペプチドは、更なる高活性ポリペプチドのリード物質として利用可能である。
ポリペプチド
本発明のポリペプチドは、MoCV1ウイルスのORF4遺伝子翻訳産物ののC末端側配列を含む部分ポリペプチドである。本明細書において、用語「部分ポリペプチド」は、いかなる場合にもそのポリペプチドが、アミノ酸配列において全長ORF4遺伝子翻訳産物と同一ではないことを意味する。
本発明のポリペプチドは、MoCV1ウイルスのORF4遺伝子翻訳産物ののC末端側配列を含む部分ポリペプチドである。本明細書において、用語「部分ポリペプチド」は、いかなる場合にもそのポリペプチドが、アミノ酸配列において全長ORF4遺伝子翻訳産物と同一ではないことを意味する。
前記のとおり、元の全長ORF4遺伝子翻訳産物が真菌の生育阻害活性を示すにもかかわらず、そのC末端側ポリペプチドは、真菌の生育を促進する活性だけでなく、真菌のストレス耐性を向上させる活性を示したことは、驚嘆すべき発見であった。
具体的に、後記の実施例のとおり、ORF4遺伝子翻訳産物の436位−グリシンから693位−システインまでのアミノ酸残基から成る部分ポリペプチドが、真菌の生育を有意に促進することが明らかにされた。そして、当該部分ポリペプチドを過剰生産するように形質転換されたS.cerevisiaeは、35℃といった高温条件下でも良好に成育した。さらにその生育は、培地がpH4.0を下回る酸性になった以降でさえも持続した。通常のS.cerevisiaeの最適生育温度は25℃前後であり、最適pHは約5.0〜6.0であるので、35℃の温度及びpH4.0を下回る水素イオン濃度は、当該酵母の生育にとって実質的なストレス条件と看做される。
一方、後記の各参考例のとおり、ORF4遺伝子翻訳産物の1位から15位までのアミノ酸残基を切詰めて得た部分ポリペプチドは、全長ORF4遺伝子翻訳産物よりも、当該ポリペプチドを発現する酵母の培養における生菌数及び濁度の上昇並びにpH及びグルコース濃度の低下をいっそう強く抑制した。同様に、ORF4遺伝子翻訳産物の1位から15位まで及び436位以降の全てのアミノ酸残基を切詰めて得た部分ポリペプチドも、全長ORF4遺伝子翻訳産物よりも、当該ポリペプチドを発現する酵母の培養における生菌数及び濁度の上昇並びにpHの低下をいっそう強く抑制した。従って、これらの結果は、ORF4遺伝子翻訳産物のN末端側に、真菌の生育を阻害するドメインが存在することを意味する。(本発明者らは、この発明について、本願と同じ優先権主張及び出願日を有する日本国特許出願において開示及び特許請求している。)。単一のポリペプチド鎖上に、宿主細胞の成育を阻害する部分と促進する部分が共存していたことは、とりわけ驚嘆すべき発見であったが、ウイルスの種の存続という観点からすれば、その宿主を完全に殺滅してしまわないのは、MoCV1ウイルスにとって合理的な戦略かもしれない。いずれにせよ、真菌の生育を促進する活性に対して、ORF4遺伝子翻訳産物のN末端側は重要でないと考えられる。
MoCV1ウイルスのORF4遺伝子に対応するDNA配列(つまり、MoCV1ウイルスはdsRNAウイルスであるので、その遺伝子は、本来はRNAである。)及びその全長翻訳産物のアミノ酸配列は、特許文献1において、それぞれ、同文献の配列番号3及び配列番号7として開示されている。また、特許文献1は、ラ・フランス病ウイルスのdsRNA断片が、MoCV1ウイルスのORF4遺伝子と相同性を有することを開示している。従って、当業者は、少なくともORF4遺伝子翻訳産物の436位−グリシンから693位−システインまでの配列を含む本発明の部分ポリペプチドと高いアミノ酸配列相同性を示すポリペプチドを得て、その中から真菌の生育を促進する能力を有するものを容易に同定できるであろう。そして、そのようなポリペプチドも、本発明の範囲内である。当該アミノ酸配列の相同性としては、60%以上、70%以上、80%以上のいずれかであればよい。特に、90%以上のアミノ酸配列の相同性を示すポリペプチドが好ましい。なお、本明細書において、アミノ酸配列の相同性は、プログラムのデフォルトパラメータ(マトリクス=Blosum62;ギャップ存在コスト=11、ギャップ拡張コスト=1)を用いた検索で、インターネットサイトhttp://www.ncbi.n/m.nih.gov/egi−gin/BLASTで実装可能なBLASTPアルゴリズムによって示される陽性のパーセンテージとして定義される。
また、本発明の、少なくともORF4遺伝子翻訳産物436位−グリシンから693位−システインまでの配列を含む部分ポリペプチドに対して、一個又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加を有するポリペプチドもまた、本発明において利用可能である。例えば、ロイシンをバリンに、リシンをアルギニンに、グルタミンをアスパラギンに置換してもポリペプチドの機能を変化させないこともあり得る。従って、そのようなポリペプチドのうちで真菌の生育を阻害する能力を有するものは本発明の範囲内である。
核酸
本発明のポリペプチドは、そのアミノ酸配列をコードする核酸を適切な宿主内で過剰発現させることで、容易に得ることができる。また、そのような過剰発現は、その場で(in situ)、つまり生育が促進されるべき真菌細胞内でも行い得る。そのような目的に用いることができる核酸は、本明細書の配列番号1の1467位−グリシンから2240位−チミンまでのヌクレオチド配列を少なくとも有するであろう。その部分が、ORF4遺伝子翻訳産物の436位−グリシンから693位−システインまでのアミノ酸配列をコードする天然型の配列である。しかしながら、本発明の核酸は、上記した本発明のポリペプチドに翻訳される限り、自然界で発生し得るすべての変異や、人工的に導入された変異及び修飾を有していてもよい。例えば、特定のアミノ酸をコードする種々のコドンには余分のコドン(redundancy)が存在することが知られている。そのため本発明においても同一のアミノ酸に最終的に翻訳されることになる代替コドンを利用してよい。つまり、遺伝子コードは縮重しているので、ある特定のアミノ酸をコードするのに複数のコドンを使用でき、そのためアミノ酸配列は任意の1セットの類似のDNAオリゴヌクレオチドでコードされ得る。そのセットの唯一のメンバーだけが天然型酵素の遺伝子配列に同一であるが、ミスマッチのあるDNAオリゴヌクレオチドでさえ適切な緊縮条件下(例えば、3xSSC、68℃でハイブリダイズし、2xSSC、0.1%SDS及び68℃で洗浄)で天然型配列にハイブリダイズでき、天然型配列をコードするDNAを同定、単離でき、更にそのような遺伝子も本発明において利用できる。特に、ほとんどの生物は特定のコドン(最適コドン)のサブセットを優先的に用いることが知られているので(Gene、Vol.105、pp.61−72、1991等)、宿主微生物に応じて「コドン最適化」を行うことは本発明においても有用であり得る。
本発明のポリペプチドは、そのアミノ酸配列をコードする核酸を適切な宿主内で過剰発現させることで、容易に得ることができる。また、そのような過剰発現は、その場で(in situ)、つまり生育が促進されるべき真菌細胞内でも行い得る。そのような目的に用いることができる核酸は、本明細書の配列番号1の1467位−グリシンから2240位−チミンまでのヌクレオチド配列を少なくとも有するであろう。その部分が、ORF4遺伝子翻訳産物の436位−グリシンから693位−システインまでのアミノ酸配列をコードする天然型の配列である。しかしながら、本発明の核酸は、上記した本発明のポリペプチドに翻訳される限り、自然界で発生し得るすべての変異や、人工的に導入された変異及び修飾を有していてもよい。例えば、特定のアミノ酸をコードする種々のコドンには余分のコドン(redundancy)が存在することが知られている。そのため本発明においても同一のアミノ酸に最終的に翻訳されることになる代替コドンを利用してよい。つまり、遺伝子コードは縮重しているので、ある特定のアミノ酸をコードするのに複数のコドンを使用でき、そのためアミノ酸配列は任意の1セットの類似のDNAオリゴヌクレオチドでコードされ得る。そのセットの唯一のメンバーだけが天然型酵素の遺伝子配列に同一であるが、ミスマッチのあるDNAオリゴヌクレオチドでさえ適切な緊縮条件下(例えば、3xSSC、68℃でハイブリダイズし、2xSSC、0.1%SDS及び68℃で洗浄)で天然型配列にハイブリダイズでき、天然型配列をコードするDNAを同定、単離でき、更にそのような遺伝子も本発明において利用できる。特に、ほとんどの生物は特定のコドン(最適コドン)のサブセットを優先的に用いることが知られているので(Gene、Vol.105、pp.61−72、1991等)、宿主微生物に応じて「コドン最適化」を行うことは本発明においても有用であり得る。
なお、本発明のポリペプチドはdsRNAウイルスの蛋白質に由来するので、本発明の核酸はDNAだけでなく、RNAであってもよい。更に、本発明の核酸は、修飾DNA及び修飾RNAであってもよい。つまり、用途に応じて本発明の核酸を、例えばCy3やCy5等の蛍光物質、化学発光物質等により標識してもよい。或いは、本発明の核酸を、ホスホロチオエート又はメチルホスホネート等の安定なDNA誘導体、2’−O−アルキルRNA等の安定なRNA誘導体として作製してもよい。それらの核酸も、全て本発明の核酸に含まれる。
ベクター
しかるに、本発明の核酸は、「発現カセット」として宿主細胞内に導入されることにより、より安定的で高レベルの本発明のポリペプチド生産を達成することを当業者は理解するであろう。本明細書において、「発現カセット」とは、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子に機能的に結合された転写及び翻訳をレギュレートする核酸配列を含むヌクレオチドを意味する。典型的に、本発明の発現カセットは、コード配列から5’上流にプロモーター配列、3’下流にターミネーター配列、場合により更なる通常の調節エレメントを機能的に結合された状態で含み、そのような場合に、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子が宿主に、「作動可能」に導入される。
しかるに、本発明の核酸は、「発現カセット」として宿主細胞内に導入されることにより、より安定的で高レベルの本発明のポリペプチド生産を達成することを当業者は理解するであろう。本明細書において、「発現カセット」とは、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子に機能的に結合された転写及び翻訳をレギュレートする核酸配列を含むヌクレオチドを意味する。典型的に、本発明の発現カセットは、コード配列から5’上流にプロモーター配列、3’下流にターミネーター配列、場合により更なる通常の調節エレメントを機能的に結合された状態で含み、そのような場合に、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子が宿主に、「作動可能」に導入される。
プロモーターは、構造性プロモーターであるか調節プロモーターであるかに拘わらず、RNAポリメラーゼをDNAに結合させ、RNA合成を開始させるDNA配列と定義される。強いプロモーターとはmRNA合成を高頻度で開始させるプロモーターであり、本発明においても好適に使用される。例えば、宿主細胞が真菌細胞である場合、TDH3、ADH1、ADC1、MFa、AC、P−60、CYC1、GAPDH並びにアミラーゼ系遺伝子及びtrpCのプロモーターが使用できるが、TDH3プロモーターが好ましい。宿主が動物細胞である場合、SV40遺伝子プロモーター、アデノウイルス主要後期遺伝子プロモーター、チミジンキナーゼ遺伝子プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、免疫グロブリン遺伝子プロモーター等が例示できる。宿主が植物細胞である場合は、CaMV由来の35S転写物、トウモロコシのユビキチン、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子、オクトピン(OCT)合成遺伝子のプロモーターなどが挙げらる。また、原核生物宿主細胞のためには、lac系、trp系、TAC又はTRC系、λファージの主要オペレーター及びプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、解糖系酵素(例えば、3−ホスホグリセレートキナーゼ、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸脱水素酵素)、グルタミン酸デカルボキシラーゼA、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼに対するプロモーター等が利用可能である。プロモーター及びターミネーター配列のほかに、他の調節エレメントの例として挙げられ得るのは、選択マーカー、増幅シグナル、複製起点などである。好適な調節配列については、例えば、”Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185”、Academic Press (1990)に記載されている。
上記で説明した発現カセットは、例えば、プラスミド、ウイルス、ファージ、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、コスミド、又は線状もしくは環状のDNA等から成るベクターに組み入れて、宿主細胞中に挿入される。これらのベクターは、宿主細胞中で自律複製されるものでもよいし、また染色体により複製されてもよい。真菌宿主細胞のための好適なベクターとしては、pRS426(ATCCより入手可能)、pAUR101及びpAUR316(Takara BIO Inc.より入手可能)、pYepSec1、pMFa、pJRY88、pYES2や“Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi”、Applied Molecular Genetics of Fungi、J.F.Peberdy et al.、eds.、p.1−28、Cambridge University Pressに記載されたものが挙げられる。動物宿主細胞のための好適なベクターとしては、pCDM8及びpMT2PC、並びにアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等が挙げられる。植物宿主細胞のための好適なベクターとしては、pBE2113Not、pBI2113Not、pBI2113、pBI101、pBI121、pGA482、pGAH、pBIG、pGreen等のバイナリーベクター系のプラスミドやpLGV23Neo、pNCAT、pMON200等の中間ベクター系のプラスミドが挙げられる。原核生物宿主細胞のための好適なプラスミドは、例えば、大腸菌のpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223−3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN−III113−B1、λgt11又はpBdCI;桿菌のpUB110、pC194又はpBD214;コリネバクテリウム属のpSA77又はpAJ667などである。これらの他にも使用可能なプラスミド等は、”Cloning Vectors”、Elsevier、1985に記載されている。ベクターへの発現カセットの導入は、適当な制限酵素による切り出し、クローニング、及びライゲーションを含む慣用の方法によって可能である。
上記ようにして本発明の発現カセットを有するベクターが構築された後、該ベクターを宿主微生物に導入する際に適用できる手法として、例えば、共沈、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクションなどの慣用のクローニング法及びトランスフェクション法が使用される。それらの例は、「分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、F. Ausubelら、Publ.Wiley Interscience、New York、1997、またはSambrookら、「分子クローニング:実験室マニュアル」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載されている。
本発明の組成物
上記のようにして本発明のベクターにより形質転換された宿主細胞を、その細胞の至適培養条件下でインキュベーとすることにより、本発明のポリペプチドを生産することができる。その後、培養物から、遠心分離、塩析、pH沈殿、透析及び各種のクロマトグラフィーを組み合わせることで、本発明のポリペプチドを精製することができる。たとえば、本発明のポリペプチドの末端にHisタグを付加しておき、それをアフィニティ・クロマトグラフィーにより精製してもよい。従って、本発明の組成物の有効成分は、本発明のポリペプチドあり得る。また、本発明のポリペプチドは、真菌用ベクター内に作動可能に連結された本発明の核酸により、その生育を促進すべき真菌の細胞を直接形質転換することで、当該真菌自身に生産させてもよい。そのような生産は、形質転換された真菌に高い増殖能と向上したストレス耐性をもたらすであろう。従って、本発明の組成物の有効成分は、本発明の核酸又は本発明のベクターであってよい。
上記のようにして本発明のベクターにより形質転換された宿主細胞を、その細胞の至適培養条件下でインキュベーとすることにより、本発明のポリペプチドを生産することができる。その後、培養物から、遠心分離、塩析、pH沈殿、透析及び各種のクロマトグラフィーを組み合わせることで、本発明のポリペプチドを精製することができる。たとえば、本発明のポリペプチドの末端にHisタグを付加しておき、それをアフィニティ・クロマトグラフィーにより精製してもよい。従って、本発明の組成物の有効成分は、本発明のポリペプチドあり得る。また、本発明のポリペプチドは、真菌用ベクター内に作動可能に連結された本発明の核酸により、その生育を促進すべき真菌の細胞を直接形質転換することで、当該真菌自身に生産させてもよい。そのような生産は、形質転換された真菌に高い増殖能と向上したストレス耐性をもたらすであろう。従って、本発明の組成物の有効成分は、本発明の核酸又は本発明のベクターであってよい。
従って、本発明の組成物は、有効量の本発明のポリペプチド、核酸、又はベクターに加え、任意の担体を含むことができる。
そのような担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
その有効成分が核酸又はベクターである場合、本発明の組成物は、更に核酸導入用試薬を含むことができる。該核酸導入用試薬としては、アテロコラーゲン、リボソーム、ナノパーティクル、リポフェクチン、リプフェクタミン、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、或いはポリエチレンイミン等の陽イオン性脂質等を用いることが出来る。つまり、本発明の核酸ないしベクターをアテロコラーゲン等に含ませることにより、本発明のポリペプチドを生産させるべき細胞に対して本発明の核酸又はベクターを効率よく送達し、当該細胞に効率よく取り込ませることができる。
本発明の組成物は、その生育を促進し、或いは耐ストレス性を向上させるべき真菌の培養物、例えば固体培養や液体培養に対して投与することができる。好ましくは、本発明の組成物を真菌の液体培養に混合する。本発明の組成物中の有効成分の含有量としては、例えば、組成物全体の約0.1ないし100重量%が例示される。
本発明によりその増殖の促進、或いは耐ストレス性を向上させることが可能な真菌類として、Ambrosiozyma、Arxula、Babjevia、Blastobotrys、Candida、Citeromyces、Clavispora、Debaryomyces、Dekkera、Dipodascus、Galactomyces、Geotrichum、Hanseniaspora、Kazachstania、Kloeckera、Kluyveromyces、Lipomyces、Lodderomyces、Metschnikowia、Myxozyma、Nadsonia、Pachysolen、Pichia、Saccharomyces、Saccharomycopsis、Saitoella、Saprochaete、Saturnispora、Schizoblastosporium、Schizosaccharomycopsis、Sporopachyderma、Starmerella、Stephanoascus、Symbiotaphrina、Sympodiomyces、Tetrapisispora、Torulaspora、Trigonopsis、Wickerhamia、Wickerhamiella、Williopsis、Yarrowia、Zygoascus、Zygosaccharomyces、及びZygozyma属等の子嚢菌系酵母;Bannoa、Bensingtonia、Bullera、Bulleromyces、Cryptococcus、Curvibasidium、Cystofilobasidium、Dioszegia、Erythrobasidium、Fellomyces、Fibulobasidium、Filobasidium、Filobasidiella、Guehomyces、Kockovaella、Kondoa、Kurtzmanomyces、Leucosporidium、Malassezia、Mastigobasidium、Mrakia、Occultifur、Pseudozyma、Rhodosporidium、Rhodotorula、Sakaguchia、Sirobasidium、Sporidiobolus、Sporobolomyces、Sterigmatomyces、Sterigmatospororidium、Sympodiomycopsis、Tausonia、Tilletiopsis、Trichosporiella、Trichosporon、Tsuchiyaea、Udeniomyces、及びXanthophyllomyces属等の担子菌系酵母;並びにAspergillus、Mucor、Penicillium、及びRhizopus属等の糸状菌が挙げられるが、これらに限定されない。
特に、バイオエタノール生産に用いられる、Saccharomyces cerevisiaeの天然或いはその変異体への本発明の適用は興味深い。つまい、本発明のベクターにより形質転換されたそれらの酵母は、通常の最適生育温度よりも高い、例えば35℃でも十分に良好な生育を示すので、発酵工程のための特別に大きな冷却器を必要とせず、また多大なエネルギーを消費しないであろう。また、本発明のベクターにより形質転換されたそれらの酵母は、通常の最適なpHよりも低い環境下でも十分に良好な生育を示すので、発酵中にpHを高くするためのアルカリの添加の労力を減らすだけでなく、廃液の問題も低下させるであろう。
その他の用途
上記のとおり、本発明のポリペプチドは、真菌の生育促進機構を解明するための研究に用いることが可能である。また、本発明のポリペプチドは、更なる高活性ポリペプチドのリード物質として利用可能である。そのような用途のために、本発明のポリペプチド、核酸及びベクターのいずれも、研究のための試薬として利用できる。当該試薬は、本発明のポリペプチド、核酸又はベクターを、例えば、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、及び界面活性剤等の分散剤とともに、適切なpHの緩衝液に溶解して得ることができる。
上記のとおり、本発明のポリペプチドは、真菌の生育促進機構を解明するための研究に用いることが可能である。また、本発明のポリペプチドは、更なる高活性ポリペプチドのリード物質として利用可能である。そのような用途のために、本発明のポリペプチド、核酸及びベクターのいずれも、研究のための試薬として利用できる。当該試薬は、本発明のポリペプチド、核酸又はベクターを、例えば、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、及び界面活性剤等の分散剤とともに、適切なpHの緩衝液に溶解して得ることができる。
以上の説明を与えられた当業者は、本発明を十分に実施できる。以下、更なる説明の目的として実施例を与え、従って、本発明は当該実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において特に断りのない限りヌクレオチド配列は5’から3’方向に向けて記載され、アミノ酸配列はN末端からC末端方向に向けて記載される。
参考例1:全長ORF4コード化配列を導入した酵母の作製
MoCV1のORF4遺伝子中のオープン・リーディング・フレームによりコードされる蛋白質を生産する形質転換体を、以下の手順で作製した。
MoCV1のORF4遺伝子中のオープン・リーディング・フレームによりコードされる蛋白質を生産する形質転換体を、以下の手順で作製した。
<1−a> 発現ベクターの構築
ATCCより購入したプラスミドpRS426(図3)をもとにして、S.cerevisiaeのTDH3遺伝子のプロモーター領域とターミネーター領域の間に挟まれたマルチ・クローニング・サイトを有する、プラスミドpRST426を作製した(図4)。詳細には、S.cerevisiae W303−1A[L−A−o]株よりゲノムDNAを抽出し、PCRにてTDH3遺伝子のプロモーター領域(Primer1:forwardとPrimer2:reverse)とターミネーター領域(Primer3:forwardとPrimer4:reverse)を増幅し、それぞれ市販のpUC19プラスミドへクローニングした。なお、PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。次に、プロモーター領域を含むプラスミドからBlnI1/BamHIでプロモーター領域を切り出し、同じ制限酵素で切断したターミネーター領域を含むプラスミドに挿入した。NotI/XhoIでこのプラスミドから遺伝子発現用カセット部分を切り出し、同じ制限酵素で切断したpRS426プラスミドに挿入した(図5)。
ATCCより購入したプラスミドpRS426(図3)をもとにして、S.cerevisiaeのTDH3遺伝子のプロモーター領域とターミネーター領域の間に挟まれたマルチ・クローニング・サイトを有する、プラスミドpRST426を作製した(図4)。詳細には、S.cerevisiae W303−1A[L−A−o]株よりゲノムDNAを抽出し、PCRにてTDH3遺伝子のプロモーター領域(Primer1:forwardとPrimer2:reverse)とターミネーター領域(Primer3:forwardとPrimer4:reverse)を増幅し、それぞれ市販のpUC19プラスミドへクローニングした。なお、PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。次に、プロモーター領域を含むプラスミドからBlnI1/BamHIでプロモーター領域を切り出し、同じ制限酵素で切断したターミネーター領域を含むプラスミドに挿入した。NotI/XhoIでこのプラスミドから遺伝子発現用カセット部分を切り出し、同じ制限酵素で切断したpRS426プラスミドに挿入した(図5)。
一方、MoCV1−dsRNA4 cDNA(配列番号1)を鋳型として、PCRにてORF4(PrimerA:forwardとPrimerB:reverse)を増幅した。PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。PCR増幅産物は、pUC19プラスミドへクローニングし、当該プラスミドからEcoRI/HpaIで挿入断片を切り出した。その断片を、同じ制限酵素で切断したpRST426へ挿入して、全長ORF4の発現ベクターを構築した。
<1−b> 酵母の形質転換
S.cerevisiae W303−1A(Mat a ura3 leu2 his3 trp1 ade2 L−A−o)株を30℃で培養した後、遠心分離により回収してから蒸留水で懸濁し、再度遠心分離にかけて洗浄した。沈殿物にSolA(0.1M Lithium acetate、10mM Tris−HCl pH7.8、1mM EDTA)を加えて懸濁して遠心分離し、沈殿物に再びSolAを加えて懸濁して酵母溶液とした。これを30℃で50分間インキュベートした後、熱処理したssDNA(1mg/ml、サーモンスパーム)10μl、酵母溶液50μl、上記の全長ORF4の発現ベクター10μl、SolA 20μl、50% ポリエチレングリセロール750μlの順に加えた後、30℃で30分間、42℃で15分間インキュベートした。遠心分離後、沈殿物に蒸留水を加えてSC寒天平板培地(シャトルベクターの選択マーカーに合わせてドロップアウト培地を選択する)にまいて、30℃で培養した。
S.cerevisiae W303−1A(Mat a ura3 leu2 his3 trp1 ade2 L−A−o)株を30℃で培養した後、遠心分離により回収してから蒸留水で懸濁し、再度遠心分離にかけて洗浄した。沈殿物にSolA(0.1M Lithium acetate、10mM Tris−HCl pH7.8、1mM EDTA)を加えて懸濁して遠心分離し、沈殿物に再びSolAを加えて懸濁して酵母溶液とした。これを30℃で50分間インキュベートした後、熱処理したssDNA(1mg/ml、サーモンスパーム)10μl、酵母溶液50μl、上記の全長ORF4の発現ベクター10μl、SolA 20μl、50% ポリエチレングリセロール750μlの順に加えた後、30℃で30分間、42℃で15分間インキュベートした。遠心分離後、沈殿物に蒸留水を加えてSC寒天平板培地(シャトルベクターの選択マーカーに合わせてドロップアウト培地を選択する)にまいて、30℃で培養した。
参考例2:ORF4の16位−イソロイシンから812位−セリンまでのコード化配列を導入した酵母の作製
上記<1−a>で作製した発現ベクターpRST426のマルチ・クローニング・サイトに、ORF4の16位−イソロイシンから812位−セリンまでのコード化配列(以下、当該配列及びその翻訳産物を「1B」と略す。)を挿入した。詳細には、MoCV1−dsRNA4 cDNA(配列番号1)を鋳型として、PCRにて1B(PrimerC:forwardとPrimerB:reverse)を増幅した。PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。PCR増幅産物は、pUC19プラスミドへクローニングし、当該プラスミドからEcoRI/HpaIで挿入断片を切り出した。その断片を、同じ制限酵素で切断したpRST426へ挿入して、1Bの発現ベクターを構築した。
上記<1−a>で作製した発現ベクターpRST426のマルチ・クローニング・サイトに、ORF4の16位−イソロイシンから812位−セリンまでのコード化配列(以下、当該配列及びその翻訳産物を「1B」と略す。)を挿入した。詳細には、MoCV1−dsRNA4 cDNA(配列番号1)を鋳型として、PCRにて1B(PrimerC:forwardとPrimerB:reverse)を増幅した。PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。PCR増幅産物は、pUC19プラスミドへクローニングし、当該プラスミドからEcoRI/HpaIで挿入断片を切り出した。その断片を、同じ制限酵素で切断したpRST426へ挿入して、1Bの発現ベクターを構築した。
上記<1−b>と同じ手順で、得られた1B発現ベクターによりS.cerevisiae W303−1A(Mat a ura3 leu2 his3 trp1 ade2 L−A−o)株を形質転換した。
参考例3:ORF4の16位−イソロイシンから435位−グルタミンまでのコード化配列を導入した酵母の作製
上記<1−a>で作製した発現ベクターpRST426のマルチ・クローニング・サイトに、ORF4の16位−イソロイシンから435位−グルタミンまでのコード化配列(以下、当該配列及びその翻訳産物を「13」と略す。)を挿入した。詳細には、MoCV1−dsRNA4 cDNA(配列番号1)を鋳型として、PCRにて13(PrimerC:forwardとPrimerD:reverse)を増幅した。PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。PCR増幅産物は、pUC19プラスミドへクローニングし、当該プラスミドからEcoRI/SmaIで挿入断片を切り出した。その断片を、同じ制限酵素で切断したpRST426へ挿入して、13の発現ベクターを構築した。
上記<1−a>で作製した発現ベクターpRST426のマルチ・クローニング・サイトに、ORF4の16位−イソロイシンから435位−グルタミンまでのコード化配列(以下、当該配列及びその翻訳産物を「13」と略す。)を挿入した。詳細には、MoCV1−dsRNA4 cDNA(配列番号1)を鋳型として、PCRにて13(PrimerC:forwardとPrimerD:reverse)を増幅した。PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。PCR増幅産物は、pUC19プラスミドへクローニングし、当該プラスミドからEcoRI/SmaIで挿入断片を切り出した。その断片を、同じ制限酵素で切断したpRST426へ挿入して、13の発現ベクターを構築した。
上記<1−b>と同じ手順で、得られた13発現ベクターによりS.cerevisiae W303−1A(Mat a ura3 leu2 his3 trp1 ade2 L−A−o)株を形質転換した。
実施例1:ORF4の436位−グリシンから693位−システインまでのコード化配列を導入した酵母の作製
上記<1−a>で作製した発現ベクターpRST426のマルチ・クローニング・サイトに、ORF4の436位−グリシンから693位−システインまでのコード化配列(以下、当該配列及びその翻訳産物を「24」と略す。)を挿入した。詳細には、MoCV1−dsRNA4 cDNA(配列番号1)を鋳型として、PCRにて24(PrimerE:forwardとPrimerF:reverse)を増幅した。PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。PCR増幅産物は、pUC19プラスミドへクローニングし、当該プラスミドからEcoRI/SmaIで挿入断片を切り出した。その断片を、同じ制限酵素で切断したpRST426へ挿入して、24の発現ベクターを構築した。
上記<1−a>で作製した発現ベクターpRST426のマルチ・クローニング・サイトに、ORF4の436位−グリシンから693位−システインまでのコード化配列(以下、当該配列及びその翻訳産物を「24」と略す。)を挿入した。詳細には、MoCV1−dsRNA4 cDNA(配列番号1)を鋳型として、PCRにて24(PrimerE:forwardとPrimerF:reverse)を増幅した。PCR条件は、KOD-plus-(商品名、TOYOBO社製)のマニュアルに従った。PCR増幅産物は、pUC19プラスミドへクローニングし、当該プラスミドからEcoRI/SmaIで挿入断片を切り出した。その断片を、同じ制限酵素で切断したpRST426へ挿入して、24の発現ベクターを構築した。
上記<1−b>と同じ手順で、得られた24発現ベクターによりS.cerevisiae W303−1A(Mat a ura3 leu2 his3 trp1 ade2 L−A−o)株を形質転換した。
実施例2:全長ORF4、1B、13及び24導入酵母の生育試験
ジャーファーメンター培養により、それぞれの形質転換酵母の生育を試験した。
ジャーファーメンター培養により、それぞれの形質転換酵母の生育を試験した。
<2−a> 全長ORF4、1B及び24の比較
微生物培養装置(BM2−02NP3、ABLE社製)を用いて標題の配列を導入した酵母を培養し、その生育を試験した。なお、陰性対照としては、pRST426を導入した酵母を用いた。培地は全てSC−ura液体培地を用いた。詳細には、5mlの液体培地(試験管)に30℃、3日間寒天培地上で培養した酵母を植菌し、28℃、145rpmで16時間震盪培養した(前々培養)。この培養液をOD600=0.1となるように50mlの液体培地(200mlコルベン)に加え、28℃、140rpmで12時間培養した(前培養)。この培養液をOD600=0.03となるように液体培地1Lを入れた微生物培養装置に植菌し、温度35℃、空気流量1.5L/min、撹拌100rpmの条件で培養した(本培養)。溶存酸素濃度を、ABLE社製のDOセンサー(直径12ミリ密閉型 L=220mm)により測定した。
微生物培養装置(BM2−02NP3、ABLE社製)を用いて標題の配列を導入した酵母を培養し、その生育を試験した。なお、陰性対照としては、pRST426を導入した酵母を用いた。培地は全てSC−ura液体培地を用いた。詳細には、5mlの液体培地(試験管)に30℃、3日間寒天培地上で培養した酵母を植菌し、28℃、145rpmで16時間震盪培養した(前々培養)。この培養液をOD600=0.1となるように50mlの液体培地(200mlコルベン)に加え、28℃、140rpmで12時間培養した(前培養)。この培養液をOD600=0.03となるように液体培地1Lを入れた微生物培養装置に植菌し、温度35℃、空気流量1.5L/min、撹拌100rpmの条件で培養した(本培養)。溶存酸素濃度を、ABLE社製のDOセンサー(直径12ミリ密閉型 L=220mm)により測定した。
上記の培養液を経時的にサンプリングした。詳細には、微生物培養装置のサンプルング口にシリコンチューブでシリンジを接続し、培養液10mlをシリンジで取り出し、滅菌遠心管に移した。そのようにして得た培養液サンプルの一部を滅菌水で希釈した後に寒天平板上に撒いた。それらの平板を28℃で3日間インキュベートした後、平板上のコロニーの形成数を計測して、生菌細胞数を測定した。また、培養液サンプルの別の一部の吸光度を、分光光度計(UV−1800、島津社製)により測定した。次いで、吸光度を測定した後のサンプルを遠心分離して、上清と菌体に分けた。上清中のグルコース濃度を、バイオセンサー(BF−5、BF−30AS、グルコースセンサー:ED05−0003、王子計測機器社製)を用いて測定した。また、菌体からはタンパク質を抽出し、抗ORF4p抗体を用いたウエスタンブロッティングにより目的のタンパク質が生産されていることを確認した(図8)。更に、一部の菌体について、顕微鏡(倒立型リサーチ顕微鏡 IX71 Olympus)を用いて細胞形態を観察した(倍率1,000倍、微分干渉)。
培養液サンプルの試験結果として、1B導入株で顕著な生育不良が認められた。一方、24導入株では生育速度の上昇が見られた(図6)。なお、24導入株において、濁度の上昇とCFUの上昇が培養26時間付近で停滞しているが、下記のように菌体の異常な凝集が確認されており、その影響と考えられた。
また、細胞形態観察の結果として、ORF4と1Bの導入株では細胞が肥大化し、細胞内が顆粒化しているのが認められた。一方、24導入株では細胞の肥大化はあまり見られなかったが、多数の細胞が集まり、巨大な細胞凝集体を形成していた(図7)。また、プレート上のコロニーは、1B導入株でサイズが顕著に小さく、逆に24導入株では凸凹したサイズの大きなコロニーが見られた(図7)。
<2−b> 全長ORF4、1B及び13の比較
上記<2−a>の生育試験(pH、濁度及び生菌細胞数)を、全長ORF4、1B及び13を導入した酵母について行った。結果として、pHの低下、濁度の上昇及び生菌細胞数の増加のいずれの項目においても、1B及び13導入株は、全長ORF4よりも著しい生育阻害活性を示した。なお、pHの低下や濁度の上昇速度は1B導入株が最も緩やかであった。しかし、生菌細胞数は13導入株でも1B導入株と同程度の抑制が見られ、常に低い値が示された(図9)。このことから、ORF4の16位−イソロイシンから435位−グルタミンまでの領域は、真菌の生育を阻害する活性を有していると考えられた。
上記<2−a>の生育試験(pH、濁度及び生菌細胞数)を、全長ORF4、1B及び13を導入した酵母について行った。結果として、pHの低下、濁度の上昇及び生菌細胞数の増加のいずれの項目においても、1B及び13導入株は、全長ORF4よりも著しい生育阻害活性を示した。なお、pHの低下や濁度の上昇速度は1B導入株が最も緩やかであった。しかし、生菌細胞数は13導入株でも1B導入株と同程度の抑制が見られ、常に低い値が示された(図9)。このことから、ORF4の16位−イソロイシンから435位−グルタミンまでの領域は、真菌の生育を阻害する活性を有していると考えられた。
本発明のポリペプチドは、顕著な真菌の生育促進活性及び耐ストレス性向上活性を示すので、各種の発酵生産において利用可能である。また、研究用試薬としても利用可能であるので、化学品製造業においても有用であり得る。
Claims (8)
- 真菌の生育を促進する能力を有するポリペプチドであって、以下のアミノ酸配列:
1) 配列番号2で示されるアミノ酸配列のうちの435位−グルタミンまでを含まない配列であって、少なくとも配列番号2の436位−グリシンから693位−システインまでを含むアミノ酸配列;
2) 上記1)に対して少なくとも60%以上の相同性を示すアミノ酸配列;、又は
3) 上記1)のアミノ酸配列に対して、一個又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加を有するアミノ酸配列、
から成る、前記ポリペプチド。 - 上記1)のアミノ酸配列が、配列番号2の436位−グリシンから693位−システインまでの配列である、請求項1に記載のポリペプチド。
- 請求項1又は2に記載のポリペプチドをコードする核酸。
- 請求項3に記載の核酸が作動可能に連結されたベクター。
- 請求項4に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
- 請求項1又は2に記載のポリペプチド、請求項3に記載の核酸或いは請求項4に記載のベクターを含む、真菌の生育を促進するための組成物。
- 真菌の生育を促進する方法であって、そのような処理が必要とされる真菌に対して請求項1又は2に記載のポリペプチド、請求項3に記載の核酸或いは請求項4に記載のベクターを投与することを含む、前記方法。
- 真菌のストレス耐性を向上する方法であって、そのような処理が必要とされる真菌に対して請求項1又は2に記載のポリペプチド、請求項3に記載の核酸或いは請求項4に記載のベクターを投与することを含む、前記方法。
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