JPWO2012014694A1 - 糞便由来核酸の合成方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、糞便に含まれているRNAから、逆転写反応によりcDNAを効率よく合成するための方法を提供することを目的とする。本発明は、糞便から抽出されたRNAを、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄する洗浄工程と、洗浄後のRNAを鋳型とし、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質を含有する反応液中で逆転写反応を行う反応工程とを有する糞便由来核酸の合成方法、及び、前記反応液が、さらにRNaseA阻害剤を含む糞便由来核酸の合成方法、並びに、カオトロピック塩、アルコール、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素、及び一本鎖核酸結合タンパク質を有する、糞便由来核酸の合成用キットを提供する。
Description
本発明は、糞便に含まれているRNAから逆転写反応によりcDNAを効率よく合成するための方法に関する。
近年、糞便中の癌遺伝子を増幅し、解析することによって大腸癌を検出する方法が開示されている。例えば、特許文献1及び非特許文献1には、癌細胞由来の核酸に多く観察される非アポトーシス性DNAを検出することによって大腸癌を検査する方法、特に、Alu反復領域・アルフォイド反復領域や、p53等の癌関連遺伝子の断片長の差異に基づいて大腸癌を検査する方法が開示されている。
このように、糞便中の癌細胞由来の核酸等の核酸を解析するためには、糞便から高品質の核酸を回収することが重要である。例えば、糞便中には、消化残留物やバクテリアが大量に含まれているため、核酸は非常に分解されやすいという問題がある。また、糞便から回収された核酸に、糞便中の夾雑物が持ち込まれることにより、解析精度が損なわれるという問題もある。このため、より信頼性の高い核酸解析結果を得るために、糞便から、分解等を防止しつつ精製度の高い核酸を回収するための方法の開発がなされている。
例えば特許文献2には、糞便をゲル氷点未満の温度まで冷却することによって便の構造を安定化させ、この状態の糞便からの細胞を分離し、そこから抽出したDNAを解析する方法が開示されている。その他、糞便試料からRNAを回収する方法として、非特許文献2には、糞便試料からタンパク質等の夾雑物を除去した後、フェノールとカオトロピック塩を用いてRNAを抽出し、抽出されたRNAをさらにシリカ含有固形支持体に吸着させることにより回収する方法が開示されている。
特許文献2記載の方法においては、糞便試料の変質を効果的に防止するために、糞便を採便直後に冷却することが重要である。しかしながら、検診等のように家庭において採便が行われる場合には、採取後速やかに糞便試料を冷却することは非常に困難であり、現実的ではない。また、特許文献2記載の方法や非特許文献2記載の方法において行われているように、糞便から夾雑物を除去し、標的となる遺伝子を持つ細胞を分離し、そこから核酸を回収する方法には、細胞を分離する工程が煩雑であり、検査のコストアップにつながるという問題に加えて、細胞を分離する工程後に回収される核酸は、収量が低く、工程による収量の損失が大きいという問題もある。このため、糞便から核酸を回収する場合には、ヒト由来細胞と細菌由来細胞を区別せず、混在した状態で回収するほうが望ましい。
糞便から細胞を分離回収せずに、糞便から直接核酸を回収する方法もある。例えば特許文献3には、糞便中の癌遺伝子を解析するための、糞便サンプルの調整方法が開示されている。これは、糞便サンプルを、糞便質量1に対して、少なくとも5の溶媒比でホモジナイズした後、哺乳細胞由来のDNAを、細菌のDNAを含めて回収する方法である。また、特許文献4には、採取された糞便をRNA分解酵素阻害剤の存在下で均質化し、調製された懸濁物から直接RNAを抽出し、癌遺伝子であるCOX2(cyclooxygenase−2)遺伝子の転写産物を検出する方法が開示されている。
ボイントン(Boynton)、他3名、2003年、クリニカル・ケミストリー(Clinical Chemistry )、第49巻第7号、第1058〜1065ページ。
アレクサンダー(Alexander)、他1名、1998年、ダイジェスティブ・ディシーシズ・アンド・サイエンシズ(Digestive Diseases and Sciences)、第43巻第12号、第2652〜2658ページ。
ウィルソン(Wilson IG)、アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY)、1997年、第63巻、第3741〜3751ページ。
一方で、糞便中には、胆汁酸やその塩等の、PCR(Polymerase Chain Reaction)等の核酸合成反応に対して阻害作用を有する物質が含まれている(例えば、非特許文献3参照)。例えば、大人の平均的な排泄糞便量は、約200〜400g/日とされるが、健常人ではその糞便中に200〜650mg/日の胆汁酸が排泄されるという報告がある。すなわち、便1gあたりに換算した場合、健常人で約0.5mg〜3.25mg、患者でその10倍の胆汁酸が含まれることになる。一方で、胆汁酸塩によるPCRの阻害効果は、50μg/mL程度の濃度で生じるとの報告もある。
また、胆汁酸塩等の核酸合成反応阻害物質は、PCRのみならず、逆転写反応も阻害する。したがって、糞便から核酸を抽出し、それを用いて逆転写反応やPCR等による増幅反応を行う場合は、反応効率を向上させるために、これらの核酸合成反応阻害物質による影響を低減させることが好ましい。
また、胆汁酸塩等の核酸合成反応阻害物質は、PCRのみならず、逆転写反応も阻害する。したがって、糞便から核酸を抽出し、それを用いて逆転写反応やPCR等による増幅反応を行う場合は、反応効率を向上させるために、これらの核酸合成反応阻害物質による影響を低減させることが好ましい。
しかしながら、特許文献3及び4に記載されている方法のように、糞便から直接核酸を回収した場合には、細胞を分離した後に回収する方法に比べて、回収後の核酸に糞便中の夾雑物が大量に持ち込まれてしまうという問題がある。このため、特に逆転写反応を行う際に、鋳型として多量の糞便由来RNAを反応液中に持ち込んだ場合には、反応阻害が起こり、反応産物が得られないという問題がある。
本発明は、糞便に含まれているRNAから、逆転写反応によりcDNAを効率よく合成するための方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、糞便から抽出・回収されたRNAを、逆転写反応を行う前に、予めカオトロピック塩及びアルコールで洗浄し、洗浄後のRNAを鋳型とし、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質の存在下で反応を行うことにより、反応効率を改善し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1) (a)糞便から抽出されたRNAを、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄する洗浄工程;及び
(b)洗浄後のRNAを鋳型とし、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質を含有する反応液中で逆転写反応を行う反応工程;
を有する、糞便由来核酸の合成方法、
(2) 前記反応液が、さらにRNaseA阻害剤を含む、前記(1)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(3) 前記洗浄工程(a)が、糞便から抽出されたRNAに、まずカオトロピック塩溶液を添加し、次いでアルコール溶液を添加した後、得られたRNA溶液からRNAを回収する工程を含む、前記(1)又は(2)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(4) 前記洗浄工程(a)が、糞便から抽出されたRNAに、カオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加し、得られたRNA溶液からRNAを回収する工程を含む、前記(1)又は(2)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(5) 前記糞便から抽出されたRNAが、糞便からカオトロピック塩を用いて抽出されたRNAである、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の糞便由来核酸の合成方法、
(6) 前記洗浄工程(a)の前に、
(A)
(i)糞便にアルコール溶液を添加し、懸濁液を調製する工程;
(ii)前記懸濁液から、固形成分を回収する工程;及び
(iii)回収された固形成分にカオトロピック剤を添加して懸濁液を調製し、当該固形成分からRNAを抽出する工程;
を有する、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の糞便由来核酸の合成方法、
(7) 前記洗浄工程(a)の前に、
(a-1)糞便にカオトロピック塩溶液を添加して懸濁液を調製し、RNAを抽出する工程;及び
(a-2)前記懸濁液に、さらにアルコール溶液又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加した後、当該懸濁液からRNAを回収する工程;
を行う、前記(1)又は(2)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(8) 前記洗浄工程(a)が、
(a-3)糞便にアルコール溶液を添加し、懸濁液を調製する工程;
(a-4)前記懸濁液から、固形成分を回収する工程;
(a-5)回収された固形成分にカオトロピック剤を添加して懸濁液を調製し、当該懸濁液よりRNAを抽出する工程;及び
(a-6)前記懸濁液に、さらにアルコール溶液又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加した後、当該懸濁液からRNAを回収する工程;
である、前記(1)又は(2)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(9) カオトロピック塩、アルコール、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素、及び一本鎖核酸結合タンパク質を有する、糞便由来核酸の合成用キット、
を提供するものである。
(1) (a)糞便から抽出されたRNAを、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄する洗浄工程;及び
(b)洗浄後のRNAを鋳型とし、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質を含有する反応液中で逆転写反応を行う反応工程;
を有する、糞便由来核酸の合成方法、
(2) 前記反応液が、さらにRNaseA阻害剤を含む、前記(1)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(3) 前記洗浄工程(a)が、糞便から抽出されたRNAに、まずカオトロピック塩溶液を添加し、次いでアルコール溶液を添加した後、得られたRNA溶液からRNAを回収する工程を含む、前記(1)又は(2)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(4) 前記洗浄工程(a)が、糞便から抽出されたRNAに、カオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加し、得られたRNA溶液からRNAを回収する工程を含む、前記(1)又は(2)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(5) 前記糞便から抽出されたRNAが、糞便からカオトロピック塩を用いて抽出されたRNAである、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の糞便由来核酸の合成方法、
(6) 前記洗浄工程(a)の前に、
(A)
(i)糞便にアルコール溶液を添加し、懸濁液を調製する工程;
(ii)前記懸濁液から、固形成分を回収する工程;及び
(iii)回収された固形成分にカオトロピック剤を添加して懸濁液を調製し、当該固形成分からRNAを抽出する工程;
を有する、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の糞便由来核酸の合成方法、
(7) 前記洗浄工程(a)の前に、
(a-1)糞便にカオトロピック塩溶液を添加して懸濁液を調製し、RNAを抽出する工程;及び
(a-2)前記懸濁液に、さらにアルコール溶液又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加した後、当該懸濁液からRNAを回収する工程;
を行う、前記(1)又は(2)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(8) 前記洗浄工程(a)が、
(a-3)糞便にアルコール溶液を添加し、懸濁液を調製する工程;
(a-4)前記懸濁液から、固形成分を回収する工程;
(a-5)回収された固形成分にカオトロピック剤を添加して懸濁液を調製し、当該懸濁液よりRNAを抽出する工程;及び
(a-6)前記懸濁液に、さらにアルコール溶液又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加した後、当該懸濁液からRNAを回収する工程;
である、前記(1)又は(2)記載の糞便由来核酸の合成方法、
(9) カオトロピック塩、アルコール、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素、及び一本鎖核酸結合タンパク質を有する、糞便由来核酸の合成用キット、
を提供するものである。
本発明の糞便由来核酸の合成方法により、夾雑物の多い糞便から回収されたRNAから逆転写反応によりcDNAを合成する場合に、より多量のcDNAを合成することができる。
本発明及び本願明細書において、阻害物質とは、核酸を基質とする酵素反応に対して阻害的に作用する物質を意味する。当該酵素反応としては、核酸を基質とする酵素反応であれば特に限定されるものではなく、逆転写反応やPCR等の核酸合成反応も含まれる。具体的には、胆汁酸、胆汁酸塩、ビリルビン、ムコ多糖類等が挙げられる。
本発明の糞便由来核酸の合成方法(以下、本発明の合成方法、ということがある。)は、糞便から抽出されたRNAを、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄する洗浄工程と、洗浄後のRNAを鋳型とし、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質を含有する反応液中で逆転写反応を行う反応工程と、を有することを特徴とする。
すなわち、本発明の合成方法では、糞便から抽出されたRNAを、予めカオトロピック塩及びアルコールで洗浄した後、洗浄後のRNAを鋳型とし、特定の性質を備える逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質の存在下で逆転写反応を行うことにより、逆転写反応の反応効率を飛躍的に改善することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下に述べるように、糞便由来の阻害物質による影響を顕著に低減し得るためと推察される。
糞便から抽出されたRNA中には、糞便中に含まれていた阻害物質が持ち込まれている。この抽出されたRNAを、カオトロピック塩を含有する溶液やアルコール溶液で洗浄することにより、持ち込まれた阻害物質を効率良く洗浄除去することができる。
糞便から細胞を分離することなく、糞便から直接RNAを回収する場合、カオトロピック塩やアルコールを用いて洗浄した場合であっても、完全に阻害物質を洗浄除去することは難しい。このため、洗浄後に回収されたRNAにも、一部の阻害物質が残存してしまう。
このような阻害物質による弊害に対する対策として、より逆転写効率の高い逆転写酵素を用いることも考えられるが、高活性の酵素を選択したとしても、阻害物質の持ち込み量によっては、反応産物が得られない場合がある。その他にも、PCRの反応阻害物質の緩和剤としてBSA(ウシ血清アルブミン)等のタンパク質が一般的に用いられているが、糞便由来のRNAを用いた場合には、従来から用いられている緩和剤を反応液に添加するだけでは逆転写反応効率は改善されない場合が多い。
本発明においては、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質を含有する反応液中で逆転写反応を行うことにより、糞便中の阻害物質の影響を従来になく顕著に低減させることができる。このように、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素と一本鎖核酸結合タンパク質とを併用することが、特に糞便由来の阻害物質の影響を低減させ、反応効率を改善することに有効であることは、本発明者により初めて見出された知見である。
以下、工程ごとに説明する。
まず、洗浄工程として、糞便から抽出されたRNAを、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄する。具体的には、糞便から抽出されたRNAに、カオトロピック塩及びアルコールを添加してRNA溶液を調製した後、当該RNA溶液からRNAを回収することにより、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄されたRNAを得ることができる。
まず、洗浄工程として、糞便から抽出されたRNAを、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄する。具体的には、糞便から抽出されたRNAに、カオトロピック塩及びアルコールを添加してRNA溶液を調製した後、当該RNA溶液からRNAを回収することにより、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄されたRNAを得ることができる。
洗浄工程においては、RNAに、カオトロピック塩とアルコールとをそれぞれ添加してもよく、予めカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を調製し、これを添加してもよい。また、カオトロピック塩とアルコールとを別個に添加する場合、いずれを先に添加するかは、糞便からのRNAの抽出方法等を考慮して、適宜決定することができる。本発明においては、先にカオトロピック塩を添加した後にアルコールを添加するか、又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加するほうが好ましい。
洗浄工程において糞便から抽出されたRNAに添加されるカオトロピック塩としては、特に限定されるものではなく、当該技術分野において用いられているいずれのカオトロピック塩を用いてもよい。このようなカオトロピック塩として、例えば、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン等のグアニジン塩が好ましい。また、1種類のカオトロピック塩を用いてもよく、2種類以上のカオトロピック塩を併用してもよい。
カオトロピック塩は、適当な溶媒に溶解させたカオトロピック塩溶液として添加することが好ましい。この際用いられる溶媒としては、例えば、水、クエン酸バッファー、リン酸バッファー、トリスバッファー等を用いることができる。特に、RNAは非常に分解されやすい物質であるため、チオシアン酸グアニジンや塩酸グアニジン等のRNase阻害剤を含有したバッファーを用いることが好ましい。なお、当該溶媒として、アルコールを用いることにより、カオトロピック塩含有アルコール溶液(カオトロピック塩を含有するアルコール溶液)を調製することができる。
糞便から抽出されたRNAに添加されるカオトロピック塩溶液の濃度は、阻害物質洗浄除去効果を発揮し得る濃度であれば、特に限定されるものではなく、カオトロピック塩の種類、添加後に得られるRNA溶液中のカオトロピック塩やアルコールの濃度、アルコールの種類等を考慮して、適宜決定することができる。
洗浄工程において糞便から抽出されたRNAに添加されるアルコールとしては、直鎖構造を有し、室温付近、例えば15〜40℃において液状であるものを用いる。本発明においては、水に対する溶解度が12重量%以上のアルコールであることが好ましく、水に対する溶解度が20重量%以上のアルコールであることがより好ましく、水に対する溶解度が90重量%以上のアルコールであることがさらに好ましく、水と任意の割合で混合可能であるアルコールであることが特に好ましい。水と任意の割合で混合可能であるアルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール等がある。
具体的には、水溶性アルコールであるメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メルカプトエタノール等がある。プロパノールは、n−プロパノールであってもよく、2−プロパノールであってもよい。また、ブタノールは、1−ブタノール(水に対する溶解度20重量%)であってもよく、2−ブタノール(水に対する溶解度12.5重量%)であってもよい。本発明において用いられるアルコールとしては、入手容易性、取り扱い性、安全性等の点から、エタノール、プロパノール、メタノールであることがさらに好ましい。特にエタノールは、最も安全性が高く、家庭内でも容易に扱うことが可能であるため、定期健診等のスクリーニング検査において特に有用である。なお、糞便から抽出されたRNAに添加するアルコールとしては、1種類のみであってもよく、2種類以上を併用して添加してもよい。
糞便から抽出されたRNAに、直接アルコールとして添加してもよく、適当な溶媒で希釈したアルコール溶液として添加してもよい。添加するアルコールの量、アルコール溶液の濃度や量は、添加後に得られるRNA溶液中で阻害物質洗浄除去効果を奏することができる濃度となるように添加されるものであれば、特に限定されるものではなく、アルコールの種類、添加後に得られるRNA溶液の量、添加したカオトロピック塩の種類等を考慮して、適宜決定することができる。
例えば、カオトロピック塩含有アルコール溶液を糞便から抽出されたRNAに添加する場合には、カオトロピック塩含有アルコール溶液中のアルコール濃度は25%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましい。なお、本発明及び本願明細書中においては、特に記載がない限り、「%」は「体積%」を意味する。
洗浄工程に供されるRNAとしては、糞便から所望の細胞を分離回収した後、回収された細胞から抽出されたRNAであってもよいが、細胞分離操作を行うことなく、糞便から直接抽出されたRNAであることが好ましい。糞便から直接RNAを抽出した場合には、分離回収された細胞から抽出する場合よりも、糞便由来の阻害物質の持ち込み量が多くなるため、本発明の効果がより顕著に奏されるためである。
また、細胞分離操作を行うことなく、糞便から直接RNAを回収した場合には、糞便に含まれている全ての生物種の核酸、主に当該糞便を排泄した動物由来の核酸と腸内常在菌等のバクテリア由来の核酸とが、同時に糞便から抽出され回収される。これにより、糞便中に比較的微量にしか含まれていない哺乳細胞由来のRNAも、効率よく抽出・回収することができる。ここで、糞便に含まれている核酸としては、動物由来の核酸とバクテリア由来の核酸に加えて、当該動物が摂取した食物由来の核酸等が挙げられる。
洗浄工程に供される糞便から抽出されたRNAは、糞便中の細胞等の固形成分から抽出されたRNAであればよい。例えば、糞便に核酸抽出用溶液を添加して混合することによって、糞便に含まれていた細胞等からRNAが液相に抽出された懸濁液であってもよく、当該懸濁液から固形成分が除去された、比較的清澄な抽出液であってもよく、さらに、これらの懸濁液や粗抽出液から回収・精製されたRNA溶液であってもよい。
RNAが液相に抽出された懸濁液を調製するために糞便に添加される核酸抽出用溶液としては、固形成分中のタンパク質を変性させ、この固形成分中の哺乳細胞や腸内常在菌等の細胞から、核酸を核酸抽出用溶液中に溶出させることが可能な溶液であれば、特に限定されるものではなく、当該技術分野において用いられているいずれの溶液を用いてもよい。例えば、カオトロピック塩、有機溶媒、界面活性剤等の、通常タンパク質の変性剤として用いられている化合物を有効成分として適当な溶媒に添加した溶液を、核酸抽出用溶液として用いることができる。なお、これらの有効成分は2種類以上を組み合わせたものであってもよい。
核酸抽出用溶液の有効成分となり得るカオトロピック塩としては、例えば、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン等がある。
核酸抽出用溶液の有効成分となり得る有機溶媒としては、フェノールであることが好ましい。フェノールは中性であってもよいが、酸性であることが好ましい。酸性のフェノールを用いた場合には、DNAよりもRNAを選択的に水層に抽出することができる。
これらの有効成分を添加して核酸抽出用溶液を調製する溶媒としては、例えば、水、クエン酸バッファー、リン酸バッファー、トリスバッファー等を用いることができる。
固形成分からRNAを抽出する前に、糞便をアルコールで処理しておくことも好ましい。糞便をアルコールに懸濁させると、糞便の固形成分中に含まれていた阻害物質が、アルコールに溶出される。この際、RNA等の核酸は、固形成分中に留まるため、当該懸濁液の液相を除去し、残った固形成分からRNAを抽出・回収することにより、糞便由来の阻害物質のキャリーオーバーがより低減されたRNAを回収することができる。
特にアルコールには、阻害物質の溶出除去効果のみならず、糞便中の核酸を安定して保存し得る効果もある。これは、アルコールが有する脱水作用により、糞便中に含まれている哺乳細胞や微生物等の細胞活性が顕著に低下するため、及び、アルコールが有するタンパク質変性作用により、糞便中のプロテアーゼ、DNase、RNase等の各種分解酵素の活性が顕著に低下するために得られると推察される。つまり、糞便をアルコールと懸濁させることにより、糞便中の核酸の分解等を抑制しつつ、阻害物質を溶出除去することができる。
固形成分からのRNA抽出前に糞便に添加されるアルコールとしては、洗浄工程で添加し得るものとして列挙されたものと同様のアルコールを用いることができる。また、アルコールとして直接糞便に添加してもよく、適当な溶媒で希釈したアルコール溶液として添加してもよい。糞便に添加するアルコール量、又はアルコール溶液の濃度や量は、懸濁液で核酸の安定化効果及び阻害物質の溶出除去効果を奏することができる濃度となるように添加されるものであれば、特に限定されるものではなく、アルコールの種類、糞便量(固形成分量)と添加したカオトロピック塩溶液やアルコール等の液体成分との混合比等を考慮して、適宜決定することができる。なお、懸濁液中のアルコール濃度が充分に高濃度であることにより、糞便全体にアルコール成分が迅速に浸透し、阻害物質溶出除去効果や核酸安定化効果を速やかに奏することができる。
糞便にアルコール又はアルコール溶液を混合して得られた懸濁液の液相には、阻害物質が多く溶出されている。このため、当該懸濁液から液相を除去し、回収された固形成分に核酸抽出液を添加する等により、RNAを抽出することが好ましい。固形成分の回収方法は、液体成分と固体成分を分離する場合に通常用いられる分離方法から適宜選択して行うことができる。例えば、懸濁液を遠心分離処理後、上清を除去することにより、沈殿である糞便由来固形成分を回収する遠心分離法により行ってもよく、懸濁液をフィルター濾過し、フィルター面上に残った糞便由来固形成分を回収する濾過法により行ってもよい。
アルコール成分を除去して固形成分を回収した後、核酸抽出液を添加する前に、回収された固形成分を、適当なバッファー等により洗浄してもよい。当該バッファーとして、例えば、前述のカオトロピック塩含有アルコール溶液や、pHが2〜7.5の範囲内に維持されるような緩衝液等が挙げられる。
また、糞便にアルコール又はアルコール溶液を混合して得られた懸濁液は、固形成分を回収する前に、所定時間保存されることが好ましい。懸濁液を保存することにより、糞便由来の固形成分から溶出除去される阻害物質の量を多くすることができる。懸濁液を保存する時間は、アルコールの種類や濃度、懸濁液に占める糞便由来成分の割合、保存温度等を考慮して適宜決定することができる。本発明の合成方法においては、1時間以上保存することが好ましく、12時間以上保存することがより好ましく、24時間以上保存することがさらに好ましく、72時間以上保存することが特に好ましい。また、168時間以上保存してもよい。
アルコールによる阻害物質溶出除去効果は、懸濁液を保存する温度が低温の場合よりもむしろ温度が高いほうが高い効果が得られる。具体的には、糞便にアルコール又はアルコール溶液を混合して得られた懸濁液の保存温度は、4℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。但し、保存温度は、50℃以下で行うことが好ましい。50℃以上の高温条件下で長期間保存することにより、揮発等により、該懸濁液中のアルコールの濃度が、効果を奏するに充分な濃度よりも低下するおそれがあるためである。
糞便由来の固形成分を含む懸濁液の液相中のRNAを、糞便から抽出されたRNAとして洗浄工程に供する場合には、具体的には、懸濁液に、カオトロピック塩やアルコールを添加した後、得られた懸濁状態のRNA溶液の液相中に存在するRNAを回収することにより、洗浄済みのRNAを回収することができる。
液相中のRNAを回収する前に、懸濁液から変性させたタンパク質を除去してもよい。
RNAを回収する前に、予め変性させたタンパク質を除去することにより、回収されるRNAの品質を向上させることができる。懸濁液からのタンパク質の除去は、公知の手法で行うことができる。例えば、遠心分離により、変性タンパク質を沈殿させて上清のみを回収することにより、変性タンパク質を除去することができる。また、クロロホルムを添加し、ボルテックス等により充分に攪拌混合させた後に遠心分離を行い、変性タンパク質を沈殿させて上清のみを回収することにより、単に遠心分離を行う場合よりも、より完全に変性タンパク質を除去することができる。
RNAを回収する前に、予め変性させたタンパク質を除去することにより、回収されるRNAの品質を向上させることができる。懸濁液からのタンパク質の除去は、公知の手法で行うことができる。例えば、遠心分離により、変性タンパク質を沈殿させて上清のみを回収することにより、変性タンパク質を除去することができる。また、クロロホルムを添加し、ボルテックス等により充分に攪拌混合させた後に遠心分離を行い、変性タンパク質を沈殿させて上清のみを回収することにより、単に遠心分離を行う場合よりも、より完全に変性タンパク質を除去することができる。
液相中のRNAの回収方法は、例えば、エタノール沈殿法や塩化セシウム超遠心法等の公知の手法で行うことができる。また、液相中のRNAを無機支持体に吸着させた後、この吸着させた核酸を、一定容量の溶媒を用いて無機支持体から溶出させることにより、核酸を回収することができる。その他、カオトロピック塩やアルコールを添加した後の懸濁液の液相中からのRNAの回収は、核酸抽出キット等の市販のキットを用いて行うこともできる。
核酸を吸着させる無機支持体は、核酸を吸着することができる公知の無機支持体を用いることができる。また、該無機支持体の形状も特に限定されるものではなく、粒子状であってもよく、膜状であってもよい。該無機支持体として、例えば、シリカゲル、シリカ質オキシド、ガラス、珪藻土等のシリカ含有粒子(ビーズ)や、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ニトロセルロース等の多孔質膜等がある。吸着させた核酸を無機支持体から溶出させる溶媒は、回収する核酸の種類やその後の核酸解析方法等を考慮して、これらの公知の無機支持体から核酸を溶出するために通常用いられている溶媒を適宜用いることができる。該溶出用溶媒として、特に精製水であることが好ましい。なお、核酸を吸着させた無機支持体は、核酸を溶出させる前に、適当な洗浄バッファーを用いて洗浄することが好ましい。
なお、液相からRNAを回収する際に、DNAよりもRNAを選択的に回収することも好ましい。例えば、酸性フェノールを用いたフェノール/クロロホルム法により、DNAよりもRNAを優先的に水層に溶出させた後に、エタノール沈殿や無機支持体を用いた回収方法を行うことにより、DNAの混入量を低減させたRNAを回収することができる。
また、塩化セシウム超遠心法により、RNAを選択的に回収することができる。その他、例えば米国特許5,155,018号明細書において、ギレスピイ(Gillespie)らは、RNA、DNA及びその他の細胞内容物を含む生物学的原料から、生物学的に活性なRNAを単離及び精製する方法を開示している。当該方法では、RNAを含む原料は、例えば細かく粉砕されたガラスのような材料を含むシリカゲルからなる粒子と接触させられる。そこからRNAが前記粒子に吸着される結合バッファーはカオトロピック塩を含む酸性化溶液である。そのような条件下、RNAはシリカ物質に結合するが、DNAはしないため、RNAを選択的に回収することができる。また、特許04036625号公報には、グアニジン塩とエタノール濃度を変化させることにより、RNAを選択的に吸着、回収することができることが記載されている。これらの方法においては、糞便由来の固形成分からRNAが抽出された後の任意の工程において、カオトロピック塩溶液やアルコール溶液、若しくはカオトロピック塩含有アルコール溶液を添加し、その後RNAを回収することにより、DNAの混入量を低減させた、洗浄済みのRNAを回収することができる。
また、塩化セシウム超遠心法により、RNAを選択的に回収することができる。その他、例えば米国特許5,155,018号明細書において、ギレスピイ(Gillespie)らは、RNA、DNA及びその他の細胞内容物を含む生物学的原料から、生物学的に活性なRNAを単離及び精製する方法を開示している。当該方法では、RNAを含む原料は、例えば細かく粉砕されたガラスのような材料を含むシリカゲルからなる粒子と接触させられる。そこからRNAが前記粒子に吸着される結合バッファーはカオトロピック塩を含む酸性化溶液である。そのような条件下、RNAはシリカ物質に結合するが、DNAはしないため、RNAを選択的に回収することができる。また、特許04036625号公報には、グアニジン塩とエタノール濃度を変化させることにより、RNAを選択的に吸着、回収することができることが記載されている。これらの方法においては、糞便由来の固形成分からRNAが抽出された後の任意の工程において、カオトロピック塩溶液やアルコール溶液、若しくはカオトロピック塩含有アルコール溶液を添加し、その後RNAを回収することにより、DNAの混入量を低減させた、洗浄済みのRNAを回収することができる。
また、糞便に核酸抽出用溶液を添加して得られた懸濁液から遠心分離処理等により固形成分を除き、RNAを含む液相のみを回収した粗抽出液を、糞便から抽出されたRNAとして洗浄工程に供することもできる。具体的には、粗抽出液に、カオトロピック塩やアルコールを添加した後、液相中のRNAを回収することにより、洗浄済みのRNAを回収することができる。同じく、常法により精製されたRNAに、カオトロピック塩溶液やアルコール溶液、若しくはカオトロピック塩含有アルコール溶液を添加した後、液相中のRNAを回収することにより、洗浄済みRNAを回収することができる。なお、液相中のRNAの回収方法は、懸濁液にカオトロピック塩やアルコールを添加した場合に挙げられた方法と同様の方法を用いることができる。
糞便からRNAを抽出する工程において、カオトロピック塩を用いたり、アルコールを用いた場合には、糞便から抽出されたRNAには、既にカオトロピック塩やアルコールが含まれていることもある。例えば、核酸抽出用溶液としてカオトロピック塩溶液を用いた場合や、固形成分からRNAを抽出する前に、糞便をアルコール溶液で保存した場合には、抽出されたRNAには、カオトロピック塩やアルコールが残留している場合がある。この場合にも、さらに、カオトロピック塩やアルコールで洗浄することにより、より効果的に阻害物質を洗浄除去することができる。
また、洗浄工程における洗浄処理は、糞便の固形成分から抽出されたRNAに直接カオトロピック塩やアルコールを接触させた後に、カオトロピック塩やアルコールを含有する液相からRNAを回収する処理である。このため、糞便からRNAを抽出する工程において、カオトロピック塩やアルコールを用いた場合であって、固形成分から抽出されたRNAが、カオトロピック塩やアルコールに接触する処理が行われる場合には、当該処理を本発明の洗浄工程における洗浄処理とすることができる。
例えば、核酸抽出用溶液としてカオトロピック塩溶液を用いて、固形成分からRNAを抽出した場合には、抽出されたRNAが液相中のカオトロピック塩に直接接触するため、当該液相からRNAを回収することにより、その後、新たにカオトロピック塩を添加せずとも、カオトロピック塩で洗浄されたRNAを回収することができる。
具体的には、糞便にカオトロピック塩溶液を添加して懸濁液を調製し、RNAを抽出した後、カオトロピック塩を含む当該懸濁液に、さらにアルコール溶液又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加した後、当該懸濁液からRNAを回収する。これにより、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄されたRNAを回収することができる。
また、糞便にアルコール溶液を添加し、懸濁液を調製した後、当該懸濁液から、固形成分を回収し、アルコール成分と分離された当該固形成分にカオトロピック塩溶液を添加して、再度懸濁液を調製する。カオトロピック塩の働きにより固形成分からRNAを抽出した後、当該懸濁液に、さらにアルコール溶液又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加した後、当該懸濁液からRNAを回収することにより、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄されたRNAを回収することができる。
なお、本発明の合成方法に供されるRNAが抽出される糞便は、動物のものであれば特に限定されるものではないが、哺乳動物由来のものであることが好ましく、ヒト由来のものであることがより好ましい。例えば、定期健診や診断等のために採取されたヒトの糞便であることが好ましいが、家畜や野生動物等の糞便であってもよい。また、採取後一定期間保存されたものであってもよいが、採取直後のものであることが好ましい。さらに、採取された糞便は、排泄直後のものであることが好ましいが、排泄後時間を経たものであってもよい。
また、洗浄工程において、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄されるRNAは、例えば、重量として10mg〜1gの糞便から抽出されたRNAであることが好ましい。糞便量があまりに多くなってしまうと、取り扱い性等が低下するおそれがある。逆に糞便量があまりに少量である場合には、糞便中に含まれる大腸剥離細胞等の哺乳細胞数が少なくなりすぎるため、必要なRNA量を回収できないおそれがある。また、糞便はヘテロジニアスであるため、哺乳細胞の局在の影響を避けるために、採糞時には、糞便の広範囲から採取することが好ましい。
洗浄工程後、さらに反応工程として、洗浄工程において回収された洗浄済みのRNAを鋳型とし、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質を含有する反応液中で逆転写反応を行う。特定の性質を備える逆転写酵素と一本鎖核酸結合タンパク質とを併用することにより、鋳型RNAと逆転写酵素の両方が十分に安定化されるため、阻害物質による反応効率の低下を抑制し得ると考えられる。なお、逆転写反応は、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いることと、反応液に一本鎖核酸結合タンパク質を添加すること以外は、常法により行うことができる。
本発明において用いる逆転写酵素は、耐熱性を有する酵素である。なお、本発明において、「耐熱性を有する逆転写酵素」とは、熱に対する不活性化に対して耐性を有する逆転写酵素を意味する。具体的には、90℃において30秒間加熱された場合でも、その酵素活性の少なくとも50%以上を保持する酵素である。
本発明において用いる逆転写酵素は、さらに、RNaseH活性が低い酵素である。なお、本発明において、「RNaseH活性が低い逆転写酵素」とは、当該酵素のRNaseH活性が、野生型又は野生型モロニーマウス白血病ウイルス(M−MLV)、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)若しくはラウス肉腫ウイルス(RSV)逆転写酵素等のRNaseH+酵素のRNaseH活性の約20%未満である逆転写酵素を意味する。
耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素としては、具体的には、例えば、M−MLV H−逆転写酵素等が挙げられる。特に、Invitrogen社製のSuperScript(登録商標) IIIが最も好ましい。当該酵素は、M−MLV逆転写酵素のRNaseH−の一塩基変異株である。
本発明において、「一本鎖核酸結合タンパク質」とは、塩基配列に関係なく、二本鎖DNAよりも一本鎖DNAに主に結合するタンパク質である。本発明において用いることができる一本鎖核酸結合タンパク質としては、具体的には、例えば、T4 gene 32
protein(プロメガ社製)、E.coli由来のSSB、耐熱性を示すThermus aquaticus SSB、メタン細菌(Methanococcus jannaschii)、Sulfolobus sulfataricus由来のSSB等が挙げられる。なお、これらの一本鎖核酸結合タンパク質は、単体で用いても良く、組み合わせて用いても良い。
protein(プロメガ社製)、E.coli由来のSSB、耐熱性を示すThermus aquaticus SSB、メタン細菌(Methanococcus jannaschii)、Sulfolobus sulfataricus由来のSSB等が挙げられる。なお、これらの一本鎖核酸結合タンパク質は、単体で用いても良く、組み合わせて用いても良い。
逆転写反応において本発明において用いられる一本鎖核酸結合タンパク質としては、非耐熱性の一本鎖核酸結合タンパク質であってもよいが、耐熱性の一本鎖核酸結合タンパク質であることが好ましい。なお、「耐熱性の一本鎖核酸結合タンパク質」とは、一本鎖DNAに対する結合活性が、熱に対する不活性化に対して耐性を有するタンパク質を意味し、具体的には、90℃において30秒間加熱された場合でも、その結合活性の少なくとも50%以上を保持する一本鎖核酸結合タンパク質である。
本発明においては、逆転写反応の反応液に、さらに、RNaseA阻害剤を添加することが好ましい。RNaseA阻害剤の存在下で逆転写反応を行うことにより、一本鎖核酸結合タンパク質と、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素とを用いることにより得られる、糞便由来の阻害物質による影響低減効果をより高めることができる。RNaseA阻害剤としては、例えば、Ribonuclease Inhibitor, Cloned(invitrogen社製)、Ribonuclease Inhibitor(TaKaRa社製)等が挙げられる。
本発明の合成方法により合成されたcDNAは、その他の手法により得られたDNAと同様に、様々な解析に供することができる。遺伝子変異の有無は、例えば、RNA上の塩基の挿入、欠失、置換、重複、逆位、又はスプライシングバリアント(アイソフォーム)等の変異を検出することができる。その他、RNA発現量を検出する(mRNAの発現解析)こともできる。なお、これらの解析は、当該分野において公知の方法により行うことができる。また、K−ras遺伝子変異解析キット等の市販の解析キットを用いてもよい。
本発明の合成方法により合成されたcDNAは、糞便由来であることから、大腸、小腸、胃等の消化管細胞由来のRNAを解析するために用いることが好ましく、大腸剥離細胞由来のRNAを解析するために用いることがより好ましい。
特に、新生物性転化(癌を含む)のマーカー遺伝子や炎症性消化器疾患のマーカー遺伝子由来のRNAを解析するために用いることが好ましく、大腸癌のマーカー遺伝子由来のRNAを解析するために用いることがより好ましい。なお、「遺伝子由来のRNA」とは、当該遺伝子のmRNA等の発現産物を意味する。該新生物性転化を示すマーカーとして、例えば、COX2(cyclooxygenase−2)遺伝子、癌胎児性抗原(CEA)、シアリルTn抗原(STN)等の公知の癌マーカーや、APC遺伝子、p53遺伝子、K−ras遺伝子等の変異の有無等がある。また、p16、hMLHI、MGMT、p14、APC、E−cadherin、ESR1、SFRP2等の遺伝子のメチル化の検出も、大腸疾患の診断マーカーとして有用である(例えば、Lind et al.、「A CpG island hypermethylation profile of primary colorectal carcinomas and colon cancer cell lines」、Molecular Cancer、2004年、第3巻第28章参照。)。一方、炎症性消化器疾患を示すマーカーとして、例えば、COX2遺伝子由来RNA等がある。なお、Cox−2遺伝子由来RNAは、新生物性転化を示すマーカーとしても用いられる。
本発明の合成方法により、糞便由来の阻害物質による影響を顕著に低減し、逆転写反応の反応効率を高めることができ、結果として安定した反応を行うことが可能となる。このため、本発明の合成方法により得られたcDNAを、糞便由来RNAの遺伝子発現解析等の核酸解析に用いることにより、信頼性の高い結果を得ることができる。こうして得られた検出結果は、臨床検査のために好適に用いられる。
また、本発明の合成方法において用いる試薬類をキット化することにより、本発明の合成方法をより簡便に行うことができる。このような糞便由来核酸の合成用キットとしては、例えば、カオトロピック塩、アルコール、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素、及び一本鎖核酸結合タンパク質を備えるものが挙げられる。また、当該キットは、糞便からのRNA抽出や、逆転写反応に用いられる試薬等をさらに備えていてもよい。このような試薬としては、例えば、核酸抽出用溶液、無機支持体、無機支持体からの溶出用溶媒、逆転写反応用バッファー、プライマー、dNTP等が挙げられる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、MKN45細胞は、常法により培養したものを用いた。
<擬似糞便由来RNAの調製>
SDS/フェノール抽出法、グアニジン・エタノール抽出法、及びグアニジン・エタノール・シリカ抽出法の3種類の方法により、擬似大腸癌患者由来糞便試料(大腸癌患者から採取された糞便の擬似試料)からRNAを抽出・回収し、擬似糞便由来RNAを調製した。
SDS/フェノール抽出法、グアニジン・エタノール抽出法、及びグアニジン・エタノール・シリカ抽出法の3種類の方法により、擬似大腸癌患者由来糞便試料(大腸癌患者から採取された糞便の擬似試料)からRNAを抽出・回収し、擬似糞便由来RNAを調製した。
擬似大腸癌患者由来糞便試料は、以下のようにして調製した。まず、健常人の糞便5gに生理食塩水を等量添加し、よく混ぜて均一化した後、200×gの遠心分離処理をいって夾雑物を沈殿させ、その上清を回収した。この糞便上清と、MKN45細胞が1×105個含むように調整した細胞ペレットとを混合し、これを擬似大腸癌患者由来糞便試料とした。なお、MKN45細胞は胃癌由来であるが、大腸癌細胞と同様にCOX2遺伝子を高発現する培養細胞株である。
調製された擬似大腸癌患者由来糞便試料を300μLずつ3本の1.5mLチューブに分け、それぞれSDS/フェノール抽出法、グアニジン・エタノール抽出法、又はグアニジン・エタノール・シリカ抽出法により、RNAを抽出し、回収した。
SDS/フェノール抽出法では、まず、300μLの擬似大腸癌患者由来糞便試料が入っているチューブに、300μLのAEバッファー(50 mM CH3COONa、10 mM EDTA、pH5.3)を添加して懸濁させた後、30μLの10%SDS溶液を添加して、Vortexを行った。当該チューブに、さらに等量のフェノールを添加してVortexを行った後、65℃で4分間加熱した。その後、直ちに液体窒素を用いて当該チューブを冷却した。当該チューブの凍らせた内容物を室温で融解させた後、14000rpm、2分間で遠心処理を行い、上層を別の1.5mLチューブに回収した。当該1.5mLチューブにクロロホルムを添加して混合した後(フェノール/クロロホルム処理)、再度14000rpm、2分間で遠心処理を行い、上層を別の1.5mLチューブに回収した。得られた上層に30μLの3M CH3COONa及び等量のイソプロパノールを加えて混和し、4℃、14000rpm、10分間の遠心処理を行い、ペレットを得た(エタノール沈殿)。当該ペレットを75%エタノール溶液でリンスし、乾燥させた後、50μLの蒸留水に溶解させたものを、フェノール・クロロホルム抽出RNAとした。
グアニジン・エタノール抽出法では、まず、300μLの擬似大腸癌患者由来糞便試料が入っているチューブに、300μLのチオシアン酸グアニジンバッファー(RLTバッファー、QIAGEN社製)を添加し、Vortexを行った後、等量(約600μL)の70%エタノールを加えてVortexを行い、懸濁液を得た。その後、当該懸濁液を300μLずつ4本の1.5mLチューブに分注し、それぞれに2.5倍容量の99.5% エタノール溶液と60μLの3M CH3COONaを添加して混和した後、4℃、14000rpm、10分間の遠心処理を行い、ペレットを得た(エタノール沈殿)。得られた4本のチューブ内のペレットを1つに纏めた後、75%エタノール溶液でリンスし、乾燥させた後、50μLの蒸留水に溶解させたものを、グアニジン・エタノール抽出RNAとした。
グアニジン・エタノール・シリカ抽出法では、RNeasy mini kit(QIAGEN社製)を使用した。まず、300μLの擬似大腸癌患者由来糞便試料が入っているチューブに、300μLのRTLバッファー(グアニジン塩を含むバッファー、Quiagen社製)を添加し、Vortexで攪拌した。攪拌後、等量の70%エタノール溶液を加えて混和したものを、RNeasy midi kit(Quiagen社製)のRNA回収用カラムに通し、添付のプロトコールに従って該RNA回収用カラムの洗浄操作及びRNA溶出操作を行うことにより、RNAを50μLのRNA溶液として回収した。当該RNAをグアニジン・エタノール・シリカ抽出RNAとした。
<比較対象として用いるRNAの調製>
MKN45細胞が1×105個含むようにPBSで調整した細胞試料(MKN45細胞試料)、前記細胞試料に、液体培地で培養して得られた大腸菌を1×108個含むように添加したもの(大腸菌含有MKN45細胞試料)、及び前記細胞試料に、最終濃度が1mg/μLとなるようにビリルビンを添加したもの(ビリルビン含有MKN45細胞試料)の3種類を比較対象とした。
これらの細胞試料から、擬似大腸癌患者由来糞便試料と同様にして、SDS/フェノール抽出法又はグアニジン・エタノール抽出法によりRNAを抽出・回収した。
MKN45細胞が1×105個含むようにPBSで調整した細胞試料(MKN45細胞試料)、前記細胞試料に、液体培地で培養して得られた大腸菌を1×108個含むように添加したもの(大腸菌含有MKN45細胞試料)、及び前記細胞試料に、最終濃度が1mg/μLとなるようにビリルビンを添加したもの(ビリルビン含有MKN45細胞試料)の3種類を比較対象とした。
これらの細胞試料から、擬似大腸癌患者由来糞便試料と同様にして、SDS/フェノール抽出法又はグアニジン・エタノール抽出法によりRNAを抽出・回収した。
<逆転写反応>
得られた各RNAをそれぞれ鋳型として、逆転写反応を行った。各RNAの定量を行い、RNA濃度の測定結果をもとに、各反応液に1μgのRNAが添加されるようにした。
具体的には、擬似糞便由来RNA、MKN45細胞試料由来RNA、大腸菌含有MKN45細胞試料由来RNA、及びビリルビン含有MKN45細胞試料由来RNAのそれぞれに対して、表1に示すように、鋳型としてフェノール・クロロホルム抽出RNA又はグアニジン・エタノール抽出RNAを用い、逆転写酵素として非耐熱性かつRNaseH活性の高いM−MLV(TakaRa社製)又は耐熱性かつRNaseH活性の低いSuperScript(登録商標) III(Invitrogen社製)を用い、40ng/μLのT4 gene 32 protein(プロメガ社製)の添加の有無、及びRNaseA阻害剤(TaKaRa社製)の添加の有無の条件を変えた16種類の反応液(サンプル)を調製し、逆転写反応を行い、cDNAを合成した。なお、T4 gene 32 proteinは、一本鎖核酸結合タンパク質(以下、SSB)である。表1中、「RNA抽出法」の欄においては、「+」は当該抽出法で抽出されたRNAを鋳型として添加したことを、「−」は当該抽出法で抽出されたRNAを鋳型として用いなかったことを、それぞれ意味する。また、「逆転写反応」の欄においては、「+」は当該物質を逆転写反応の反応液に添加したことを、「−」は添加しなかったことを、それぞれ意味する。
得られた各RNAをそれぞれ鋳型として、逆転写反応を行った。各RNAの定量を行い、RNA濃度の測定結果をもとに、各反応液に1μgのRNAが添加されるようにした。
具体的には、擬似糞便由来RNA、MKN45細胞試料由来RNA、大腸菌含有MKN45細胞試料由来RNA、及びビリルビン含有MKN45細胞試料由来RNAのそれぞれに対して、表1に示すように、鋳型としてフェノール・クロロホルム抽出RNA又はグアニジン・エタノール抽出RNAを用い、逆転写酵素として非耐熱性かつRNaseH活性の高いM−MLV(TakaRa社製)又は耐熱性かつRNaseH活性の低いSuperScript(登録商標) III(Invitrogen社製)を用い、40ng/μLのT4 gene 32 protein(プロメガ社製)の添加の有無、及びRNaseA阻害剤(TaKaRa社製)の添加の有無の条件を変えた16種類の反応液(サンプル)を調製し、逆転写反応を行い、cDNAを合成した。なお、T4 gene 32 proteinは、一本鎖核酸結合タンパク質(以下、SSB)である。表1中、「RNA抽出法」の欄においては、「+」は当該抽出法で抽出されたRNAを鋳型として添加したことを、「−」は当該抽出法で抽出されたRNAを鋳型として用いなかったことを、それぞれ意味する。また、「逆転写反応」の欄においては、「+」は当該物質を逆転写反応の反応液に添加したことを、「−」は添加しなかったことを、それぞれ意味する。
<COX2遺伝子の発現量の測定>
得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。リアルタイムPCRのプライマーは、アプライドバイオシステム社製のCOX2プライマープローブMIX(カタログNo:Hs00153133_m1)を用いた。具体的には、0.2mLの96ウェルPCRプレートに、各cDNAを1μLずつ分取した。その後、各ウェルに8μLの超純水と10μLの核酸増幅試薬「TaqMan GeneExpression Master Mix」(アプライドバイオシステム社製)を添加し、さらに、1μLのCOX2プライマープローブMIX(アプライドバイオシステム社製)をそれぞれ添加して混合し、PCR反応液を調製した。該PCRプレートを、ABIリアルタイムPCR装置に設置し、95℃で10分間処理した後、95℃で1分間、56.5℃で1分間、72℃で1分間の熱サイクルを40サイクル行った後、さらに72℃で7分間処理することにより、経時的に蛍光強度を計測しながらPCRを行った。
得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。リアルタイムPCRのプライマーは、アプライドバイオシステム社製のCOX2プライマープローブMIX(カタログNo:Hs00153133_m1)を用いた。具体的には、0.2mLの96ウェルPCRプレートに、各cDNAを1μLずつ分取した。その後、各ウェルに8μLの超純水と10μLの核酸増幅試薬「TaqMan GeneExpression Master Mix」(アプライドバイオシステム社製)を添加し、さらに、1μLのCOX2プライマープローブMIX(アプライドバイオシステム社製)をそれぞれ添加して混合し、PCR反応液を調製した。該PCRプレートを、ABIリアルタイムPCR装置に設置し、95℃で10分間処理した後、95℃で1分間、56.5℃で1分間、72℃で1分間の熱サイクルを40サイクル行った後、さらに72℃で7分間処理することにより、経時的に蛍光強度を計測しながらPCRを行った。
蛍光強度の計測結果を分析して、各サンプル中のCOX2遺伝子のmRNAから合成されたcDNA量(COX2遺伝子の発現量)を調べた。表1に示す16種類のサンプルのうち、グアニジン・エタノール抽出RNAを鋳型とし、M−MLV逆転写酵素を用いて、SSBとRNaseA阻害剤のいずれも添加しなかったサンプル12の発現量を1として、他のサンプルの発現量の相対値を算出した。算出結果を図1〜4に示す。図1は擬似糞便由来RNAを鋳型とした場合の結果であり、図2はMKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合の結果であり、図3は大腸菌含有MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合の結果であり、図4はビリルビン含有MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合の結果である。
この結果、図1〜4のいずれにおいても、他の条件が同じ場合には、M−MLVを用いた場合(サンプル1〜4、9〜12)よりも、SuperScript(登録商標) IIIを用いた場合(サンプル5〜8、13〜16)のほうが、COX2遺伝子の発現量が高かった。
一方で、MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合(図2)及び大腸菌含有MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合(図3)には、同じく他の条件が同じ場合には、フェノール・クロロホルム抽出RNAを用いた場合(サンプル1〜8)とグアニジン・エタノール抽出RNAを用いた場合(サンプル9〜16)とでは、ほとんど差がなく、RNAの抽出方法の相違は、逆転写反応にほとんど影響を与えないことが分かった。また、SSBの添加の有無とRNaseA阻害剤の添加の有無は、いずれも発現量に対する影響は観察されなかった。
これに対して、擬似糞便由来RNAを鋳型とした場合(図1)には、他の条件が同じ場合には、フェノール・クロロホルム抽出RNAを用いた場合(サンプル1〜8)よりも、グアニジン・エタノール抽出RNAを用いた場合(サンプル9〜16)のほうが、COX2遺伝子の発現量が高かった。ビリルビン含有MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合(図4)にも、擬似糞便由来RNAを鋳型とした場合と同様の傾向が観察された。
これらの結果から、ビリルビンをはじめとする糞便由来の阻害物質を含むRNAを鋳型として逆転写反応を行う場合に、RNAを回収する際に、カオトロピック塩及びアルコールを用いる等によって、RNAを予めカオオトロピック塩及びアルコールで処理することにより、阻害物質が逆転写反応の反応液中に持ち込まれたことによる影響を低減させられることが明らかである。
さらに、擬似糞便由来RNAを鋳型とした場合(図1)には、グアニジン・エタノール抽出RNAを鋳型とし、SuperScript(登録商標) IIIを用いた場合(サンプル13〜16)にのみ、SSBの添加(サンプル14)やRNaseA阻害剤の添加(サンプル15)、及び両者の併用(サンプル13)により、いずれも添加しなかった場合(サンプル16)よりも明らかにCOX2遺伝子の発現量が高かった。中でもいずれも添加しなかったサンプル16に比べて、SSBを添加したサンプル14のCOX2遺伝子の発現量はおよそ5倍、両者を併用したサンプル13はおよそ6倍と非常に多かった。
一方で、ビリルビン含有MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合(図4)には、グアニジン・エタノール抽出RNAを鋳型とし、SuperScript(登録商標) IIIを用い、SSBを添加した場合(サンプル13及び14)には、SSBを添加しなかった場合(サンプル15及び16)よりもCOX2遺伝子の発現量が高かった。但し、サンプル13と14、又は15と16の比較から分かるように、擬似糞便由来RNAを鋳型とした場合とは異なり、RNaseA阻害剤の添加の有無による影響はほとんど観察されなかった。
つまり、RNaseA阻害剤の添加による効果がビリルビン含有MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合には観察されず、また、SSBの添加による効果がビリルビン含有MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合よりも擬似糞便由来RNAを鋳型とした場合のほうが顕著に大きかった。このような相違は、ビリルビン含有MKN45細胞試料由来RNAを鋳型とした場合には、反応液に持ち込まれた阻害物質はビリルビン1種類のみであったのに対して、擬似糞便由来RNAを鋳型とした場合には、糞便由来の様々な阻害物質が反応液に持ち込まれていたため、と推察される。
これらの結果から、逆転写反応の反応液にSSBやRNaseA阻害剤を添加することにより得られる反応効率の改善効果は、反応液中に糞便由来の阻害物質が持ち込まれた場合に顕著に奏されることが分かった。つまり、糞便から回収する際にカオトロピック塩及びアルコールを用いる等により、糞便由来の阻害物質の持ち込み量を低減させたRNAを鋳型とし、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用い、逆転写反応の反応液にSSBを添加することにより、糞便由来のRNAから効率よくcDNAを合成し得ることが明らかである。また、SSBに加えてさらにRNaseA阻害剤を添加することにより、ビリルビン以外にも様々な特性を持つ糞便特有の阻害物質による影響を、より効果的に回避し得るといえる。
健常人由来の糞便中のRNAを鋳型としてcDNAを合成する際の、反応に用いる逆転写酵素のRNaseH活性の影響を調べた。
<糞便由来RNAの抽出>
まず、健常人由来の糞便から、実施例1と同様にグアニジン・エタノール抽出法によりRNAを抽出した。具体的には、健常人から採取された糞便検体に、等量のチオシアン酸グアニジンバッファー(RLTバッファー、QIAGEN社製)を添加し、Vortexを行った後、等量の70%エタノールを加えてVortexを行い、懸濁液を得た。その後、当該懸濁液を300μLずつ4本の1.5mLチューブに分注し、それぞれに2.5倍容量の99.5% エタノール溶液と60μLの3M CH3COONaを添加して混和した後、4℃、14000rpm、10分間の遠心処理を行い、ペレットを得た(エタノール沈殿)。得られた4本のチューブ内のペレットを1つに纏めた後、75%エタノール溶液でリンスし、乾燥させた後、50μLの蒸留水に溶解させたものを、糞便から抽出されたRNAサンプルとした。当該RNAサンプルの定量を行い、RNA濃度を測定した。
まず、健常人由来の糞便から、実施例1と同様にグアニジン・エタノール抽出法によりRNAを抽出した。具体的には、健常人から採取された糞便検体に、等量のチオシアン酸グアニジンバッファー(RLTバッファー、QIAGEN社製)を添加し、Vortexを行った後、等量の70%エタノールを加えてVortexを行い、懸濁液を得た。その後、当該懸濁液を300μLずつ4本の1.5mLチューブに分注し、それぞれに2.5倍容量の99.5% エタノール溶液と60μLの3M CH3COONaを添加して混和した後、4℃、14000rpm、10分間の遠心処理を行い、ペレットを得た(エタノール沈殿)。得られた4本のチューブ内のペレットを1つに纏めた後、75%エタノール溶液でリンスし、乾燥させた後、50μLの蒸留水に溶解させたものを、糞便から抽出されたRNAサンプルとした。当該RNAサンプルの定量を行い、RNA濃度を測定した。
<逆転写反応及びCOX2遺伝子の発現量の測定>
得られたRNAサンプルを鋳型とし、RNaseH活性の高いAMV(Avian Myeloblastosis Virus) Reverse Transcriptase(Promega社製)(以下、AMV)、RNaseH活性のほとんど無いReverScript IV(Wako社製)、及びRNaseH活性の低いSuperScript III(M−MLV由来、Invitorgen社製)の3つの耐熱性逆転写酵素をそれぞれ用いて逆転写反応を行った。各反応液は、RNAサンプルを1μgのRNAが添加されるように添加し、さらに、耐熱性のSSBであるTaq SSB(バイオアカデミア社製)を500ng/μLになるように、また、RNaseA inhibitor(TaKaRa社製)を0.5units/μLになるように添加した以外は、それぞれの逆転写酵素に添付されていた取扱説明書に従って調製した。調製された各反応液に対して、各逆転写酵素の取扱説明書に記載通りに反応を行い、cDNAを合成した。
その後、実施例1と同様にして、得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。
得られたRNAサンプルを鋳型とし、RNaseH活性の高いAMV(Avian Myeloblastosis Virus) Reverse Transcriptase(Promega社製)(以下、AMV)、RNaseH活性のほとんど無いReverScript IV(Wako社製)、及びRNaseH活性の低いSuperScript III(M−MLV由来、Invitorgen社製)の3つの耐熱性逆転写酵素をそれぞれ用いて逆転写反応を行った。各反応液は、RNAサンプルを1μgのRNAが添加されるように添加し、さらに、耐熱性のSSBであるTaq SSB(バイオアカデミア社製)を500ng/μLになるように、また、RNaseA inhibitor(TaKaRa社製)を0.5units/μLになるように添加した以外は、それぞれの逆転写酵素に添付されていた取扱説明書に従って調製した。調製された各反応液に対して、各逆転写酵素の取扱説明書に記載通りに反応を行い、cDNAを合成した。
その後、実施例1と同様にして、得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。
また、得られたRNAサンプルを鋳型とし、AMV、ReverScript IV、又はSuperScript IIIをそれぞれ用いて、RNaseA inhibitorの非存在下で逆転写反応を行った。具体的には、各反応液は、RNAサンプルを1μgのRNAが添加されるように添加し、さらに、Taq SSB(バイオアカデミア社製)を500ng/μLになるように添加した以外は、それぞれの逆転写酵素に添付されていた取扱説明書に従って調製した。調製された各反応液に対して、各逆転写酵素の取扱説明書に記載通りに反応を行い、実施例1と同様にして、得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。
蛍光強度の計測結果を分析して、各反応液中のCOX2遺伝子の発現量を調べた。この結果、反応液へのRNaseA inhibitorの添加の有無に関わらず、RNaseH活性の高いAMVを用いた場合が最も発現量が少なく、SuperScript IIIを用いた場合が最も発現量が多かった。RNaseA inhibitor存在下でAMVを用いた場合の発現量を1として、他の逆転写酵素を用いた場合の発現量の相対値を算出した。算出結果を図5に示す。同じRNAサンプルを鋳型としたにも関わらず、RNaseA inhibitorを反応液に添加した場合には、AMVを用いた場合に比べて、SuperScript IIIを用いた場合は約4.8倍、ReverScript IVを用いた場合は約3.5倍も発現量が高く検出できた。
また、いずれの逆転写酵素を用いた場合にも、RNaseA inhibitorを反応液に添加した場合のほうが、添加しなかった場合よりも、COX2遺伝子の発現量が多かった。AMVを用いた場合には、RNaseA inhibitorを反応液に添加した場合の発現量を1とすると、RNaseA inhibitorを添加しなかった場合は約0.7であった。同じく、SuperScript IIIやReverScript IVを用いた場合には、RNaseA inhibitorを添加しなかった場合の発現量は、添加した場合の発現量の約95%程度であった。
なお、健常人由来の糞便から、実施例1と同様にグアニジン・エタノール・シリカ抽出法によりRNAを抽出し、得られたRNAサンプルを鋳型として、上記3種の逆転写酵素をそれぞれ用いて、上記と同様に、RNaseA inhibitorを添加した反応液中で逆転写反応を行い、得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。この結果、グアニジン・エタノール抽出法により抽出されたRNAを用いた場合と同様に、AMVを用いた場合が最も発現量が少なく、SuperScript IIIを用いた場合が最も発現量が多かった。AMVを用いた場合の発現量を1として、他の逆転写酵素を用いた場合の発現量の相対値を算出したところ、ReverScript IVを用いた場合の発現量は4.1であり、SuperScript IIIを用いた場合の発現量は4.6であった。
これらの結果から、逆転写反応、及びその後のPCR等の核酸増幅反応により、糞便から抽出されたRNAを検出する場合には、SuperScript(登録商標) IIIやReverScript(登録商標) IVのような、耐熱性を示し、かつRNaseH活性の低い逆転写酵素を用いることにより高感度に検出し得ること、及び、逆転写反応をRNaseA阻害剤存在下で行うことにより、さらに検出感度を高められることが明らかである。
[比較例1]
阻害物質が少ないと考えられる培養細胞から抽出されたRNAを鋳型として、実施例2と同様にして3種類の逆転写酵素を用いてそれぞれcDNA合成及びCOX2遺伝子の発現産物の発現量を測定し、反応に用いる逆転写酵素のRNaseH活性の影響を調べた。
具体的には、MKN45細胞が1×105個含むように調整した細胞ペレットから、実施例1と同様にグアニジン・エタノール抽出法によりRNAを抽出し、これをRNAサンプルとした。得られたRNAサンプルを鋳型とし、実施例2と同様にして、AMV、ReverScript IV、又はSuperScript IIIを用いて逆転写反応を行い、得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。
阻害物質が少ないと考えられる培養細胞から抽出されたRNAを鋳型として、実施例2と同様にして3種類の逆転写酵素を用いてそれぞれcDNA合成及びCOX2遺伝子の発現産物の発現量を測定し、反応に用いる逆転写酵素のRNaseH活性の影響を調べた。
具体的には、MKN45細胞が1×105個含むように調整した細胞ペレットから、実施例1と同様にグアニジン・エタノール抽出法によりRNAを抽出し、これをRNAサンプルとした。得られたRNAサンプルを鋳型とし、実施例2と同様にして、AMV、ReverScript IV、又はSuperScript IIIを用いて逆転写反応を行い、得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。
蛍光強度の計測結果を分析して、各反応液中のCOX2遺伝子の発現量を調べた。この結果、実施例2と同様に、AMVを用いた場合が最も発現量が少なく、SuperScript IIIを用いた場合が最も発現量が多かったが、発現量にあまり差はなかった。
AMVを用いた場合の発現量を1として、他の逆転写酵素を用いた場合の発現量の相対値を算出したところ、SuperScript IIIやReverScript IVを用いた場合の発現量は約1.6〜1.7にすぎなかった。算出結果を図6に示す。これらの結果から、阻害物質の量が少ない培養細胞から抽出されたRNAを鋳型とする場合には、RNaseH活性の低い逆転写酵素を用いたとしても、RNaseH活性の高い逆転写酵素を用いた場合に比べて反応効率はあまり改善されないことが明らかである。
AMVを用いた場合の発現量を1として、他の逆転写酵素を用いた場合の発現量の相対値を算出したところ、SuperScript IIIやReverScript IVを用いた場合の発現量は約1.6〜1.7にすぎなかった。算出結果を図6に示す。これらの結果から、阻害物質の量が少ない培養細胞から抽出されたRNAを鋳型とする場合には、RNaseH活性の低い逆転写酵素を用いたとしても、RNaseH活性の高い逆転写酵素を用いた場合に比べて反応効率はあまり改善されないことが明らかである。
健常人由来の糞便中のRNAを鋳型としてcDNAを合成する際の、反応液に添加するSSBの耐熱性の影響を調べた。
実施例2において糞便から抽出したRNAサンプルを鋳型とし、同じく実施例2において用いた逆転写酵素SuperScript IIIを用い、下記4種のSSBを各濃度となるように反応液を調製した。
・T4 gene 32 protein(非耐熱性、バイオアカデミア社製)、500ng/μL
・E.coli SSB(非耐熱性、バイオアカデミア社製)、500ng/μL
・ET SSB(耐熱性、New England Bio Lab社製)、4ng/μL
・Taq SSB(耐熱性、バイオアカデミア社製)、500ng/μL
実施例2において糞便から抽出したRNAサンプルを鋳型とし、同じく実施例2において用いた逆転写酵素SuperScript IIIを用い、下記4種のSSBを各濃度となるように反応液を調製した。
・T4 gene 32 protein(非耐熱性、バイオアカデミア社製)、500ng/μL
・E.coli SSB(非耐熱性、バイオアカデミア社製)、500ng/μL
・ET SSB(耐熱性、New England Bio Lab社製)、4ng/μL
・Taq SSB(耐熱性、バイオアカデミア社製)、500ng/μL
具体的には、各反応液は、RNAサンプルを1μgのRNAが添加されるように添加し、さらに、各種SSBを各濃度となるように添加した以外は、SuperScript IIIに添付されていた取扱説明書に従って調製した。調製された各反応液に対して、SuperScript IIIの取扱説明書に記載通りに反応を行い、実施例1と同様にして、得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。
蛍光強度の計測結果を分析して、各反応液中のCOX2遺伝子の発現量を調べた。T4 gene 32 proteinを用いた場合の発現量を1として、他のSSBを用いた場合の発現量の相対値を算出した。算出結果を図7に示す。この結果、同じRNAサンプルを鋳型としたにも関わらず、ET SSB及びTaq SSBを用いた場合には、T4 gene 32 protein及びE.coli SSBを用いた場合に比べて、COX2遺伝子の発現量が多かった。これらの結果から、糞便から抽出されたRNAを鋳型として逆転写反応を行う際には、反応液に耐熱性のSSBを添加することにより、非耐熱性のSSBを添加した場合よりも、反応効率を改善し得ることが明らかである。
健常人由来の糞便中のRNAを鋳型としてcDNAを合成する際に、さらにBSAを反応液に添加した場合の反応効率を調べた。
実施例2において糞便から抽出したRNAサンプルを鋳型とし、同じく実施例2において用いた逆転写酵素SuperScript IIIを用い、400ng/μLとなるようにBSA(プロメガ社製)を添加し、さらに40ng/μLのT4 gene 32 protein(プロメガ社製)の添加の有無及びRNaseA阻害剤(TaKaRa社製)の添加の有無の条件を変えた4種類の反応液(サンプル17〜20)を調製し、逆転写反応を行い、cDNAを合成した。各サンプル中のT4 gene 32 protein(表中、「SSB」)、BSA、及びRNaseA阻害剤の添加の有無を、表2に示す。表2中、「+」は当該物質を逆転写反応の反応液に添加したことを、「−」は添加しなかったことを、それぞれ意味する。なお、サンプル17〜20は、RNAの抽出条件及び逆転写反応の反応液の組成において、実施例1のサンプル13〜16にそれぞれBSAを添加した条件に相当する。
実施例2において糞便から抽出したRNAサンプルを鋳型とし、同じく実施例2において用いた逆転写酵素SuperScript IIIを用い、400ng/μLとなるようにBSA(プロメガ社製)を添加し、さらに40ng/μLのT4 gene 32 protein(プロメガ社製)の添加の有無及びRNaseA阻害剤(TaKaRa社製)の添加の有無の条件を変えた4種類の反応液(サンプル17〜20)を調製し、逆転写反応を行い、cDNAを合成した。各サンプル中のT4 gene 32 protein(表中、「SSB」)、BSA、及びRNaseA阻害剤の添加の有無を、表2に示す。表2中、「+」は当該物質を逆転写反応の反応液に添加したことを、「−」は添加しなかったことを、それぞれ意味する。なお、サンプル17〜20は、RNAの抽出条件及び逆転写反応の反応液の組成において、実施例1のサンプル13〜16にそれぞれBSAを添加した条件に相当する。
サンプル17〜20の4種の反応液中で、実施例1と同様にして逆転写反応を行い、得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行い、COX2遺伝子の発現産物(mRNA)の検出を行った。蛍光強度の計測結果を分析して、各反応液中のCOX2遺伝子の発現量を調べた。この結果、実施例1のサンプル13〜16と同様に、反応液にSSBとRNaseA阻害剤の両方を添加した場合(サンプル17)が最も発現量が多く、SSBとRNaseA阻害剤のいずれも添加しなかった場合(サンプル20)が最も発現量が少なかった。また、SSBとRNaseA阻害剤のうち、反応液にSSBのみを添加した場合(サンプル18)のほうが、RNaseA阻害剤のみを添加した場合(サンプル19)よりも発現量が多かった。
実施例1の擬似糞便由来RNAを鋳型とした場合(図1)のサンプル12の発現量を1として、サンプル17〜20のサンプルの発現量の相対値を算出した。算出結果を図8に示す。また、参考値として、図1のサンプル13〜16の発現量相対値も同じグラフに示した。この結果、反応液にSSBを添加したサンプル(サンプル13、14、17、及び18)では、BSAをさらに添加することにより、COX2遺伝子の発現量が若干低下する傾向が観察された。逆に、反応液にSSBを添加していないサンプル(サンプル15、16、19、及び20)では、BSAの添加の有無によって発現量はほとんど変化がみられなかった。
本発明の合成方法を用いることにより、糞便に含まれているRNAからcDNAを効率よく合成することができるため、学術研究のみならず、糞便を検体とする臨床検査等の分野において利用が可能である。
Claims (9)
- (a)糞便から抽出されたRNAを、カオトロピック塩及びアルコールで洗浄する洗浄工程;及び
(b)洗浄後のRNAを鋳型とし、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素を用いて、一本鎖核酸結合タンパク質を含有する反応液中で逆転写反応を行う反応工程;
を有する、糞便由来核酸の合成方法。 - 前記反応液が、さらにRNaseA阻害剤を含む、請求項1記載の糞便由来核酸の合成方法。
- 前記洗浄工程(a)が、糞便から抽出されたRNAに、まずカオトロピック塩溶液を添加し、次いでアルコール溶液を添加した後、得られたRNA溶液からRNAを回収する工程を含む、請求項1又は2記載の糞便由来核酸の合成方法。
- 前記洗浄工程(a)が、糞便から抽出されたRNAに、カオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加し、得られたRNA溶液からRNAを回収する工程を含む、請求項1又は2記載の糞便由来核酸の合成方法。
- 前記糞便から抽出されたRNAが、糞便からカオトロピック塩を用いて抽出されたRNAである請求項1〜4のいずれか一項に記載の糞便由来核酸の合成方法。
- 前記洗浄工程(a)の前に、
(A)
(i)糞便にアルコール溶液を添加し、懸濁液を調製する工程;
(ii)前記懸濁液から、固形成分を回収する工程;及び
(iii)回収された固形成分にカオトロピック剤を添加して懸濁液を調製し、当該固形成分からRNAを抽出する工程;
を有するRNA抽出工程
を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の糞便由来核酸の合成方法。 - 前記洗浄工程(a)の前に、
(a-1)糞便にカオトロピック塩溶液を添加して懸濁液を調製し、RNAを抽出する工程;及び
(a-2)前記懸濁液に、さらにアルコール溶液又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加した後、当該懸濁液からRNAを回収する工程;
を行う、請求項1又は2記載の糞便由来核酸の合成方法。 - 前記洗浄工程(a)が、
(a-3)糞便にアルコール溶液を添加し、懸濁液を調製する工程;
(a-4)前記懸濁液から、固形成分を回収する工程;
(a-5)回収された固形成分にカオトロピック剤を添加して懸濁液を調製し、当該懸濁液よりRNAを抽出する工程;及び
(a-6)前記懸濁液に、さらにアルコール溶液又はカオトロピック塩を含有するアルコール溶液を添加した後、当該懸濁液からRNAを回収する工程;
である、請求項1又は2記載の糞便由来核酸の合成方法。 - カオトロピック塩、アルコール、耐熱性かつ低RNaseH活性である逆転写酵素、及び一本鎖核酸結合タンパク質を含む、糞便由来核酸の合成用キット。
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