JPWO2011148469A1 - エレベータ用ロープ - Google Patents
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Abstract
Description
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係るエレベータ用ロープは、ロープ本体の外周が、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと100℃以上150℃以下の融点を有する摩擦安定剤と1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物とを混合した樹脂被覆層形成組成物の成形体により被覆されていることに特徴がある。温度や滑り速度に依存せずに摩擦係数が安定する理由は、エレベータの静止保持時及び通常運転時のような摩擦熱の発生が少ない摺動条件下では、摩擦安定剤は溶融せずに摩擦係数を低下させないが、エレベータ急停止時のような滑り速度が大きく且つ著しい摩擦熱が発生するような摺動条件下では、摩擦安定剤が融解して樹脂被覆層の潤滑性が急激に増加し、摩擦面での温度上昇が抑制され、その結果、樹脂被覆層の強度低下や溶融が起こらず、摩擦による損傷が抑制され、一定以上の摩擦係数が確保できたためと考えられる。
これらの熱可塑性ポリウレタンエラストマーの中でも、使用環境で起こる加水分解を防ぐために、エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いることが好ましく、エレベータ用ロープの柔軟性や耐久性も考慮すると、JIS A硬度(JIS K7215で規定されるタイプAデュロメータによる硬さ)が85以上95以下のポリエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いることが更に好ましい。
また、摩擦安定剤及び1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物との混合等の取り扱い性の点から、ペレット状に加工された熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いることが好ましい。
摩擦安定剤の融点が100℃未満であると、夏季のような雰囲気温度が高い環境下でのロープ表面の摩擦係数、特に静止保持時のような滑り速度が極めて小さい摺動条件下での摩擦係数が低くなり過ぎる恐れがある。一方、摩擦安定剤の融点が150℃を超えると、著しい摩擦熱が発生するような摺動条件下において摩擦安定剤の融解とそれに伴う潤滑性の発現が遅れることとなり、樹脂被覆層の強度低下や溶融が起こり、摩擦係数が急激に低下する恐れがある。
摩擦安定剤の添加量は、特に限定されるものでないが、樹脂被覆層形成組成物に対して好ましく0.5重量%以上5重量%以下であり、より好ましくは1重量%以上3重量%以下である。摩擦安定剤の添加量が0.5重量%未満であると、安定した摩擦係数を有する樹脂被覆層が得られない場合があり、一方、5重量%を超えると、被覆材の強度、耐摩耗性及び接着性が低下したり、エレベータ用ロープの柔軟性や耐久性が損なわれる場合がある。
これらのイソシアネート化合物の添加量は、得られる成形体のJIS A硬度が98以下及びガラス転移温度が−20℃以下となる範囲で適宜調整すればよい。
また、成形体のガラス転移温度を−20℃以下と規定した理由は、成形体のガラス転移温度が高いほど摩擦係数の滑り速度依存性が小さくなるが、一方で、成形体のガラス転移温度が高いほど成形体の弾性率が大きくなり、これを樹脂被覆層としてエレベータ用ロープに適用した場合、ロープの柔軟性が低下し、成形体のガラス転移温度よりも高い環境下でロープが繰り返し曲げられると、樹脂被覆層が受ける応力により樹脂被覆層の割れ等の疲労破壊が生じ易くなる傾向があることが発明者らの検討により分かったためである。成形体のガラス転移温度は、より好ましくは−25℃以下である。
<実施例1〜11>
JIS A硬度95のエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー(以下、TPUと略記することがある)に、摩擦安定剤及び必要に応じて無機充填材を添加した後、ペレット状に加工した。このペレット状樹脂組成物に、ポリスチレン樹脂1.85質量部、エポキシ樹脂1.3質量部及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート1.85質量部を二軸押出機により混練して得られるペレット状のイソシアネートバッチを所定量添加し、十分に混合したものを押出成形機に供給し、ロープ本体の外周を被覆する樹脂被覆層として成形した。ロープ本体を樹脂被覆層で被覆した後、接着剤の硬化及び樹脂被覆層のアニール処理のために100℃で2時間加熱し、直径12mmのエレベータ用ロープを得た。なお、得られたエレベータ用ロープは、国際公開第2003/050348号の図1に記載される断面構造を有するものである。ここで、ロープ本体は、複数の鋼製素線が撚り合わされている複数の芯子縄と複数の鋼製素線が撚り合わされている複数の内層子縄とを有する内層ロープと、内層ロープの外周を被覆する樹脂製の内層被覆体と、内層被覆体の外周部に設けられ、複数の鋼製素線が撚り合わされている複数の外層子縄を有する外層ロープとからなるものに相当し、樹脂被覆層は外層被覆体に相当する。ロープ本体を樹脂被覆層で被覆する前に、ロープ本体の外周子縄にケムロック(登録商標)218(ロードファーイースト社製)を塗布し乾燥させておいた。樹脂被覆層の組成を表1に示す。
TPUに、必要に応じて無機充填材を添加した後、ペレット状に加工した。このペレット状樹脂組成物をロープ本体の外周を被覆する樹脂被覆層として用いた以外は実施例と同様にしてエレベータ用ロープを得た。樹脂被覆層の組成を表2に示す。
TPUに、摩擦安定剤又は無機充填材を添加した後、ペレット状に加工した。このペレット状樹脂組成物に、ポリスチレン樹脂1.85質量部、エポキシ樹脂1.3質量部及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート1.85質量部を二軸押出機により混練して得られるペレット状のイソシアネートバッチを所定量添加し、十分に混合したものをロープ本体の外周を被覆する樹脂被覆層として用いた以外は実施例と同様にしてエレベータ用ロープを得た。樹脂被覆層の組成を表2に示す。
樹脂被覆層のガラス転移温度(Tg)は以下のように測定した。実施例及び比較例それぞれに用いた樹脂被覆層と同一組成の成形用組成物を射出成形機に供給し、100mm×100mm×厚さ2mmの平板に成形し、100℃で2時間加熱した後、その中心部から50mm×10mm×厚さ2mmの試験片を切り出した。セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータDMS120を用い、変形モード曲げモード、測定周波数10Hz、昇温速度2℃/分、加振振幅10μmの条件で、試験片の損失弾性率を測定し、損失弾性率のピーク温度をTgとした。
JIS K7215に従い、タイプAデュロメータを用いてデュロメータA硬さを測定した。
(1)微小滑り速度および通常運転滑り速度での測定法
図2は、微小滑り速度域での摩擦係数を測定するための装置の概念図である。図2に示されるように、実施例及び比較例で得られたエレベータ用ロープ1をシーブ2に対し180度巻き付け、その一端を測定装置3に固定し、他端をおもり4に繋ぎ、エレベータ用ロープ1に張力を掛けた。ここでシーブ2を所定速度で時計回りに回転させると、エレベータ用ロープ1とシーブ2との間に生じる摩擦力だけ、固定側のロープ張力(T2)が緩められ、おもり側のロープ張力(T1)との間で張力差が発生する。これらのおもり側のロープ張力(T1)及び固定側のロープ張力(T2)を、ロープとおもりの連結部に備え付けられたロードセルによって測定した。静止保持時の滑り速度を1×10-5mm/sec、通常運転時の滑り速度を1mm/secと定義し、T1及びT2(ただしT1>T2)、ロープ巻き付け角θ(=180度)、シーブ溝の形状で決まる係数K2(=1.19)を下記式1に代入して、エレベータ用ロープ1とシーブ2との間の摩擦係数μ1を求めた。なお、測定は25℃の雰囲気温度下で実施した。結果を表1及び2に示す。
図3は、非常停止させる際の大きな滑り速度域での摩擦係数を測定するための装置の概念図である。実施例及び比較例で得られたエレベータ用ロープ1を駆動シーブ5に対し180度巻き付け、その一端をおもり4aに繋ぎ、他端をおもり4aよりも質量の大きいおもり4bに繋いだ。ここで駆動シーブ5を時計周りに回転させることでおもり4aを上昇させ、ロープ速度が4m/sになった時点で駆動シーブ5を急停止させ、駆動シーブ5に対しエレベータ用ロープ1をスリップさせた。その際のおもり4aの最小減速度α、おもり4a側の張力(T3)及びおもり4b側の張力(T4)をロープとおもりの連結部に備え付けられたロードセルによって測定し、それらの値を下記式2に代入して、スリップ中の最小摩擦係数μ2を求めた。なお、測定は25℃の雰囲気温度下で実施した。初回(1回目)の試験結果及び樹脂被覆層の同じ面を繰返し10回スリップさせた際の試験結果を表1及び2に示す。
実施例で得られたエレベータ用ロープは、微小滑り速度域及び初回試験後の非常停止時の摩擦係数がいずれも0.2以上を示した。特に、摩擦安定剤、架橋剤であるイソシアネート化合物及び無機充填材を併用した実施例7〜9は、摩擦係数の変動が小さく、中でも繊維状無機充填材であるガラス繊維を添加した実施例8及び板状無機充填材であるタルクを添加した実施例9は、摩擦係数の変動が特に小さいことが分かった。また摩擦安定剤としてオレフィン系化合物を用いた実施例1〜4及び7〜11は、静止保持時の摩擦係数の変動が特に小さいことが分かった。
Claims (5)
- ロープ本体、及び該ロープ本体の外周を被覆し、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと100℃以上150℃以下の融点を有する摩擦安定剤と1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物とを混合した樹脂被覆層形成組成物の成形体からなる樹脂被覆層を備えることを特徴とするエレベータ用ロープ。
- 前記摩擦安定剤がオレフィン系化合物であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ロープ。
- 前記樹脂被覆層形成組成物に無機充填材が更に混合されていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ロープ。
- 前記無機充填材が繊維状又は板状であることを特徴とする請求項3に記載のエレベータ用ロープ。
- 前記摩擦安定剤が、前記樹脂被覆層形成組成物に対して0.5重量%以上5重量%以下で含まれることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ロープ。
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