JPWO2011046218A1 - 抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファ、それを用いた抗体の生産方法、およびそれにより得られる抗体 - Google Patents

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Abstract

本発明は、抗体及び/又は部分抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体、抗体及び/又は部分抗体遺伝子を含む発現ベクターを直鎖状にして、該ベクターを染色体に組み込んだハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体、並びにハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体を用いた抗体及び/又は部分抗体の製造方法を提供する。

Description

本発明は、抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファ、それを用いた抗体の生産方法、およびそれにより得られる抗体に関する。
近年、抗体は診断や治療等の医療分野において、抗原に対する高親和性を特徴として幅広く使用されている。最近、完全長型抗体の抗原結合部位以外の領域を一部もしくは全て除去することによって分子量を小さくした低分子化抗体が開発されつつある。低分子化抗体としては、例えば、Fab、scFv、F(ab’)などが挙げられる(非特許文献1)。低分子化抗体の特徴としては、例えば標的部位への高集積性が期待できる。
中でも次世代タンパク医薬品としての利用が注目されている低分子化抗体としてFab型抗体がある。Fab型抗体とは、完全長型抗体からFc領域とヒンジ部位を除去したものであり、Fd鎖とL鎖から成る抗体である。Fab型抗体は、これまで、完全長型抗体をパパインなどの酵素によって消化して分解し、その後精製するという製造方法が用いられてきたが、現在ではFab型抗体のみを直接生産させる遺伝子組換え法が検討されている(非特許文献2)。
一般的に、遺伝子組換え法によってタンパク質を生産するために、そのタンパク質に適切な宿主、例えば動物細胞や、カイコ等の昆虫及び昆虫細胞、ニワトリや牛などの動物、大腸菌、酵母などの微生物を選択する必要性がある。
抗体のような高度なヘテロマー構造を有するタンパク質においては、特定の種の酵母でしか発現が報告されていないことから(非特許文献3)、特に最適な種を選択する必要性がある。
現在、抗体医薬品は主にCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞等の動物細胞を用いて生産されているが、高価な培地や長時間の培養が必要とされ、生産コストが非常に高くなることが問題となっている。バイオ医薬品の生産宿主として最も使用されている大腸菌(Escherichia coli)による異種タンパク質生産は、大腸菌の増殖速度が速く生産コストが低いという長所を有するものの、糖鎖修飾が行われないこと、フォールディングが不十分でタンパク質が不活性型として菌体内に蓄積することなどの傾向が見られる場合が多い。また、大腸菌は異種タンパク質を分泌発現させることが困難であるため、精製過程が煩雑となる短所も持つ。
そこで、代替宿主として酵母を用い、低コストで実用的かつ高生産の培養技術を確立するため、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)や、メタノール資化性酵母であるピキア・パストリス(Pichia pastoris)のNRRL Y−11430株を用いて抗体を産生させる試みが複数報告されている(非特許文献3)。酵母は安価な培地で大規模高密度培養が可能であり、異種タンパク質を低コストで生産することができる。シグナルペプチドを利用すれば培養液中への分泌発現も可能で精製過程も容易となり、しかも真核生物であるため糖鎖付加などの翻訳後修飾も可能であるという長所が期待できる。
ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)は、異種タンパク質生産の宿主として知られており、その生産例として、緑色蛍光タンパク質、ヒト血清アルブミン、B型肝炎ウイルス表面抗原、ヒト上皮成長因子、ヒルジンなどが挙げられる(非特許文献4)が、実用的な発現量で抗体を発現させた例は知られていない。
マウス由来のFab型抗体のL鎖およびFd鎖遺伝子を含んだ発現ベクターを環状の状態でハンゼヌラ・ポリモルファに導入し、抗体の産生を試みた例が報告されているが、培養上清に僅かにL鎖とFd鎖がそれぞれ単独で分泌発現するにとどまり、発現タンパク質の大部分は菌体内に、しかもL鎖とFd鎖がそれぞれ単独で蓄積されている状態であり、抗体の発現に成功していなかった(非特許文献5)。
Bio/Technology (1991) 9: 545−551 Science (1988) 240: 1041−1043 Biotechnol Lett (2007) 29: 201-212 Gellissen, G. (Ed.), Hansenula polymorpha Biology and Applications.,Chapter10 p147−155 (2002),Wiley−VCH (Weinheim, Germany) Appl Microbiol Biotechnol. (2001) 56:157−64.
本発明は、ハンゼヌラ・ポリモルファを用いて、抗体、中でも部分抗体、特にはFab型抗体を分泌発現させることを課題とする。さらに、抗体、中でも部分抗体、特にはFab型抗体を分泌発現するハンゼヌラ・ポリモルファ形質転換体を提供することを課題とする。また、当該形質転換体を作製する方法、当該方法に用いるベクターをそれぞれ提供することを課題とする。
本発明においては、直鎖状にしたベクターを用いて、ハンゼヌラ・ポリモルファを形質転換することで、活性型の抗体や部分抗体を発現する形質転換体を作製することに成功した。また、該形質転換体を培養して、抗体や部分抗体を分泌発現させることに成功した。環状の発現ベクターでハンゼヌラ・ポリモルファによるFab型抗体の分泌発現に失敗した例が知られている以上、直鎖状の発現ベクターを用いたからといって成功することは期待できなかったが、思いもよらぬことに、直鎖状の発現ベクターを用いることで、課題を解決し、本願発明を完成するに到った。
即ち、本発明は、
[1]抗体及び/又は部分抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体;
[2]直鎖状にして染色体に組み込まれた、抗体及び/又は部分抗体遺伝子を含む発現ベクターを含む上記[1]に記載の形質転換体;
[3]該発現ベクターが、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側にプロモーター及びシグナル配列をコードする塩基配列を有し、3’側に停止コドン及び/又はターミネーター配列を有する上記[2]に記載の形質転換体;
[4]該発現ベクターが、ハンゼヌラ・ポリモルファの染色体に含まれる少なくとも50bp以上の塩基配列と少なくとも50%以上の配列同一性を有する相同塩基配列を有する上記[2]または[3]に記載の形質転換体;
[5]該相同塩基配列が、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側に存在するプロモーター配列、及び/又は、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の3’側に存在するターミネーター配列である上記[4]に記載の形質転換体;
[6]染色体あたりの該発現ベクターのコピー数が2コピー以上である上記[2]〜[5]のいずれか1項に記載の形質転換体;
[7]染色体における該発現ベクターの組み込み位置が染色体上のMOXターミネーター領域及び/又はMOXプロモーター領域である上記[2]〜[6]のいずれか1項に記載の形質転換体;
[8]染色体上のMOX遺伝子の機能が部分的又は完全に欠損している上記[2]〜[7]のいずれか1項に記載の形質転換体;
[9]栄養要求性相補遺伝子および/または薬剤耐性遺伝子を選択マーカーとして利用して選抜されたものである上記[1]〜[8]のいずれか1項に記載の形質転換体;
[10]栄養要求性相補遺伝子および/または薬剤耐性遺伝子が、URA3、LEU2、ADE1、HIS4、G418耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、および、ハイグロマイシン耐性遺伝子からなる群から選ばれる1以上の遺伝子である上記[9]に記載の形質転換体;
[11]該発現ベクターに含まれる部分抗体遺伝子がFab型抗体遺伝子である上記[2]〜[10]のいずれか1項に記載の形質転換体;
[12]Fab型抗体遺伝子を含む発現ベクターが、L鎖遺伝子及びFd鎖遺伝子を含む塩基配列、L鎖Fd鎖融合遺伝子を含む塩基配列、及び/又は、Fd鎖L鎖融合遺伝子を含む塩基配列を含む発現ベクターである上記[11]に記載の形質転換体;
[13]抗体及び/又は部分抗体を分泌生産する上記[1]〜[12]のいずれか1項に記載の形質転換体;
[14]抗体及び/又は部分抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、又は、マウス抗体から選ばれる抗体及び/又はそれに由来する部分抗体である上記[1]〜[13]のいずれかに記載の形質転換体;
[15]抗体及び/又は部分抗体が、CD20、HER2、IL2R、CD33、CD52、EGFR、VEGF、CD3、CD25、TNFα、CD11、IgE、CD2、α4integrin、CD80、CD86、IL6R、C5a、GPIIb/IIIa、RSVF Protein、VEGF−A、及び、GM−CSFからなる群から選ばれる1以上の抗原に結合するものである上記[1]〜[14]のいずれかに記載の形質転換体;
[16]部分抗体がFab型抗体である上記[13]〜[15]のいずれか1項に記載の形質転換体;
[17]抗体及び/又は部分抗体としてHUMIRA(登録商標)に含まれる抗体に由来するFab型部分抗体を生産させた場合の、培養上清中のFab型部分抗体分泌生産量が1mg/mL以上である上記[13]〜[16]のいずれか1項に記載の形質転換体;
[18]上記[1]〜[17]のいずれか1項に記載の形質転換体を用いる、抗体及び/又は部分抗体の製造方法;
[19]上記[18]に記載の製造方法で製造された抗体及び/又は部分抗体
を提供する;
または、本発明は以下の1または複数の特徴を有する。
本発明の特徴の一つは、抗体及び/又は部分抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体である。
本発明の特徴の一つは、抗体及び/又は部分抗体遺伝子を含む発現ベクターを直鎖状にして、該ベクターを染色体に組み込んだことを特徴とする、抗体及び/又は部分抗体を分泌生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体である。
本発明の特徴の一つは、部分抗体がFab型抗体であることを特徴とする、抗体及び/又は部分抗体を分泌生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体である。
本発明の特徴の一つは、抗体及び/又は部分抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体を用いる、抗体及び/又は部分抗体の製造方法である。
本発明の特徴の一つは、抗体及び/又は部分抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体を用いる、抗体及び/又は部分抗体の製造方法で製造された抗体及び/または部分抗体である。
本発明により、抗体や部分抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体、それを利用した抗体や部分抗体の製造方法、およびこれらより得られる抗体や部分抗体が提供される。
本発明の実施例8に係るウエスタンブロッティングに関する図である。 本発明の実施例10に係るSDS−PAGE電気泳動(CBB染色)に関する図である。 本発明の実施例13に係るウエスタンブロッティングに関する図である。(A)非還元条件でのAnti−Human IgG−Fc HRP conjugate Antibody (Bethyl Laboratories,Inc.社製)による溶出画分および標準IgGの検出、(B)還元条件でのAnti−Human IgG−Fc HRP conjugate Antibody (Bethyl Laboratories,Inc.社製)による溶出画分および標準IgGの検出、(C)還元条件でのAnti−Human IgG(Fab SPECIFIC)HRP conjugate Antibody(SIGMA社製)による溶出画分および標準IgGの検出を示す。サンプルは実施例12に記載のように調製した。レーン1は標準IgG、レーン2−9は溶出画分、レーン10は標準IgG、レーン11は(A)にて検出が確認された溶出画分((A)のレーン6サンプル)、レーン12は標準IgG、レーン13は(A)にて検出が確認された溶出画分((A)のレーン6サンプル)である。 本発明の実施例14に係るサザンブロッティング(BY5242株)に関する図である。
以下、本発明を、実施形態を用いて詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の抗体とは、L鎖とH鎖の各2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合して構成されるヘテロテトラマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
本発明の部分抗体とは、前記抗体の結合性断片であり、具体的にはFab型抗体、F(ab’)型抗体、scFv型抗体、diabody型抗体や、これらの誘導体等のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
本発明のFab型抗体とは抗体のL鎖とFd鎖がS−S結合で結合したヘテロマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
F(ab’)型抗体とは、2つのFab型抗体のFd鎖がヒンジ部を介してS−S結合で結合したヘテロテトラマータンパク質を指す。さらに、scFv型抗体とは、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を一本鎖になるようにリンカーペプチドで連結されたタンパク質を指し、diabody型抗体とは、VHとVLをリンカー等で結合したフラグメント(例えば、scFv等)を2つ結合させて二量体化させたもの指す。それらの誘導体としては、上記分子がポリエチレングリコール(PEG)等のタンパク質安定化作用を有する分子等で修飾されたものが挙げられる。
本発明の抗体の種類は、特に限定されないが、例えばヒト抗体、ヒト化抗体、マウス抗体、イヌ抗体、ネコ抗体、ウマ抗体、ウシ抗体、ブタ抗体、ニワトリ抗体やこれらを融合したキメラ抗体が挙げられる。本発明の部分抗体(例、Fab型抗体)の種類は、特に限定されないが、例えばヒト抗体、ヒト化抗体、マウス抗体、イヌ抗体、ネコ抗体、ウマ抗体、ウシ抗体、ブタ抗体、ニワトリ抗体やこれらを融合したキメラ抗体の部分配列からなる部分抗体(例、Fab型抗体)などが挙げられる。本発明の部分抗体としては、Fab型抗体が特に好ましく挙げられる。
また、本発明の抗体や部分抗体(Fab型抗体等)が結合する抗原も特に限定されないが、好ましくは創薬のターゲットとして知られるCD20、HER2、IL2R、CD33、CD52、EGFR、VEGF、CD3、CD25、TNFα、CD11、IgE、CD2、α4integrin、CD80、CD86、IL6R、C5a、GPIIb/IIIa、RSVF Protein、VEGF−A、GM−CSFなどの抗原が挙げられる。
本発明の抗体をコードする遺伝子は、L鎖遺伝子及びH鎖遺伝子(即ち、L鎖遺伝子とH鎖遺伝子の組み合わせ)である。
本発明の部分抗体をコードする遺伝子のうち、Fab型抗体をコードする遺伝子はL鎖遺伝子及びFd鎖遺伝子(即ち、L鎖遺伝子とFd鎖遺伝子の組み合わせ)であっても良いし、L鎖Fd鎖融合遺伝子又はFd鎖L鎖融合遺伝子であっても良い。L鎖Fd鎖融合遺伝子はL鎖遺伝子とFd鎖遺伝子が順に並び、かつ、その間にリンカー配列を含む遺伝子(即ち、上流から、L鎖遺伝子−リンカー配列−Fd鎖遺伝子)であり、Fd鎖L鎖融合遺伝子はFd鎖遺伝子とL鎖遺伝子が順に並び、かつ、その間にリンカー配列を含む遺伝子(即ち、上流から、Fd鎖遺伝子−リンカー配列−L鎖遺伝子)である。本発明に用いるL鎖遺伝子、H鎖遺伝子またはFd鎖遺伝子等の遺伝子の調製方法は特に限定されず、各種抗体産生細胞、ハイブリドーマやファージディスプレイライブラリからPCRなどで調製しても良いし、該塩基配列を元に遺伝子を全合成して調製しても良い。
本発明におけるハンゼヌラ・ポリモルファは、好ましくはNCYC495(ATCC14754)、8V(ATCC34438)、DL−1(ATCC26012)などの株が挙げられる。これらの菌株はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手することができる。また、該株からの誘導株なども含まれ、例えばロイシン要求性株であれば、NCYC495由来のBY4329、8V由来のBY5242、DL−1由来のBY5243などが挙げられ、これらはNational BioResource Projectから分譲可能である。
本発明における形質転換体とは、抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)を生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体である。該形質転換体は、直鎖状にした、抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)遺伝子を含む発現ベクターで宿主のハンゼヌラ・ポリモルファを形質転換することにより得ることができる。ここで、本発明におけるベクターの直鎖状の状態とは、環状である発現ベクターの1ヶ所以上が切断されて、直鎖状になっている状態を指す。この直鎖状のベクターを調製する方法は、環状のベクターを制限酵素等で切断して直鎖状にしても良いし、環状のベクターをテンプレートにPCRを行う方法でも良い。
本発明において用いられる発現ベクターは、宿主ハンゼヌラ・ポリモルファにおいて、抗体及び/又は部分抗体を発現することが可能なベクターであれば、特に限定されない。用いることができる発現ベクターとして例えば、pSH19、pSH15またはpUC19などが挙げられる。本発明において用いられる発現ベクターは、直鎖状にして、宿主ハンゼヌラ・ポリモルファの染色体に組み込まれた場合に発現可能な態様で前記抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)遺伝子を含んでいる。
本発明におけるFab型抗体の発現ベクターは、L鎖遺伝子とFd鎖遺伝子を含む塩基配列、L鎖Fd鎖融合遺伝子を含む塩基配列、及び/又は、Fd鎖L鎖融合遺伝子を含む塩基配列を含む発現ベクターである。なお、本発明におけるFab型抗体の発現ベクターは、実施例1に示したようにL鎖遺伝子とFd鎖遺伝子が同一のベクター上に存在する1種類(単一)のベクターの態様で用いても良いし、実施例3に示したようなL鎖遺伝子とFd鎖遺伝子のそれぞれが別々のベクター上に存在する2種類のベクター(即ち、2種類の発現ベクターの組み合わせ)の態様で用いても良い。抗体の発現ベクターやFab型抗体以外の部分抗体の発現ベクターについても同様である。
また、発現ベクターに含まれる抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側にプロモーター及びシグナル配列をコードする塩基配列を有し、3’側に停止コドン及び/又はターミネーター配列を有することが好ましい。ここで、本発明において用いられるプロモーターは、ハンゼヌラ・ポリモルファで発現誘導が起こりうるプロモーターであれば、特に限定されないが、例えばメタノールオキダーゼ(以下、MOXと略記する)、GAP、TEF、FMDプロモーターなどが挙げられる。好ましくは、ハンゼヌラ・ポリモルファ(好ましくは宿主であるハンゼヌラ・ポリモルファ)のMOXプロモーター又はGAPプロモーターである。
シグナル配列をコードする塩基配列としては、ハンゼヌラ・ポリモルファがタンパク質を分泌発現できるシグナル配列をコードする塩基配列であれば特に限定されないが、サッカロマイセス・セレビシエのMating Factor α(MFα)プレプロシグナル(例、配列番号8)をコードする塩基配列などが挙げられる。
また、シグナル配列をコードする塩基配列と抗体及び/又は部分抗体遺伝子(例、L鎖遺伝子、Fd鎖遺伝子、H鎖遺伝子、L鎖Fd鎖融合遺伝子、Fd鎖L鎖融合遺伝子等)との間が適切なリンカー配列をコードする塩基配列でつながれている状態でも良い。このリンカー配列をコードする塩基配列は特に限定されないが、分泌生産後にシグナル配列と抗体及び/又は部分抗体遺伝子産物(L鎖、Fd鎖、H鎖、L鎖Fd鎖融合タンパク又はFd鎖L鎖融合タンパク等)とを分離できるような塩基配列が好ましい。例えばプロテアーゼの一種であるハンゼヌラ・ポリモルファのKEX2pによって認識切断されるLys−Argのアミノ酸配列をコードする塩基配列をリンカー配列をコードする塩基配列として用いることができる。
ターミネーター配列としては、ハンゼヌラ・ポリモルファが遺伝子の転写を終結できる配列であれば特に限定されない。例えば、ハンゼヌラ・ポリモルファのMOX遺伝子のターミネーターを用いることが出来る。
さらには、本発明において用いられる発現ベクターは、好ましくは、ハンゼヌラ・ポリモルファ(好ましくは、宿主のハンゼヌラ・ポリモルファ)の染色体に含まれる少なくとも50bp以上の塩基配列と少なくとも50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%)の配列同一性を有する塩基配列を有する。
ここで「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つの塩基配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全塩基配列に対する、同一塩基配列の割合(%)を意味する。本明細書における塩基配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST−2(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(ギャップオープン=5;ギャップエクステンション=2;x_ドロップオフ=50;期待値=10;フィルタリング=ON))にて計算することができる。塩基配列の同一性を決定するためのアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873−5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389−3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444−453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11−17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444−2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
該発現ベクターにおいては、好ましくは、前記ハンゼヌラ・ポリモルファ(好ましくは、宿主のハンゼヌラ・ポリモルファ)の染色体に含まれる少なくとも50bp以上の塩基配列と少なくとも50%以上の配列同一性を有する塩基配列が、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側に存在するプロモーター配列、及び/又は、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の3’側に存在するターミネーター配列である。このような観点から、好ましい態様において、本発明に用いる発現ベクターは、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側に存在するプロモーター配列として、ハンゼヌラ・ポリモルファ(好ましくは、宿主のハンゼヌラ・ポリモルファ)のMOX遺伝子またはGAP遺伝子のプロモーター配列を有し、且つ/或いは抗体及び/又は部分抗体遺伝子の3’側に存在するターミネーター配列として、ハンゼヌラ・ポリモルファ(好ましくは、宿主のハンゼヌラ・ポリモルファ)のMOX遺伝子のターミネーター配列を有する。
本発明において用いられるFab型抗体の発現ベクター及び抗体の発現ベクターに含まれる各構成要素の5’側から3’側への並び方の好適な例を以下に挙げる。
(1)第1のプロモーター配列−第1のシグナル配列−L鎖遺伝子−第2のプロモーター配列−第2のシグナル配列−Fd鎖遺伝子−ターミネーター配列
(2)第1のプロモーター配列−第1のシグナル配列−Fd鎖遺伝子−第2のプロモーター配列−第2のシグナル配列−L鎖遺伝子−ターミネーター配列
(3)第1のプロモーター配列−第1のシグナル配列−L鎖遺伝子−第2のプロモーター配列−第2のシグナル配列−H鎖遺伝子−ターミネーター配列
(4)第1のプロモーター配列−第1のシグナル配列−H鎖遺伝子−第2のプロモーター配列−第2のシグナル配列−L鎖遺伝子−ターミネーター配列
(5)(第1のプロモーター配列−第1のシグナル配列−L鎖遺伝子−第1のターミネーター配列)を含む発現ベクターと、(第2のプロモーター配列−第2のシグナル配列−Fd鎖遺伝子−第2のターミネーター配列)を含む発現ベクターとの組み合わせ
(6)(第1のプロモーター配列−第1のシグナル配列−L鎖遺伝子−第1のターミネーター配列)を含む発現ベクターと、(第2のプロモーター配列−第2のシグナル配列−H鎖遺伝子−第2のターミネーター配列)を含む発現ベクターとの組み合わせ
(1)〜(6)において、第1のプロモーターと第2のプロモーターは同一であっても異なっていてもよい。第1及び第2のプロモーターは、好ましくは、ハンゼヌラ・ポリモルファ(好ましくは宿主であるハンゼヌラ・ポリモルファ)のMOXプロモーター又はGAPプロモーターである。
(1)〜(6)において、第1のシグナル配列と第2のシグナル配列は同一であっても異なっていてもよい。第1及び第2のシグナル配列は、好ましくは、サッカロマイセス・セレビシエのMating Factor α(MFα)プレプロシグナルである。
(5)及び(6)において、第1のターミネーター配列と第2のターミネーター配列は同一であっても異なっていてもよい。第1及び第2のターミネーター配列は、好ましくは、ハンゼヌラ・ポリモルファのMOX遺伝子のターミネーター配列である。
本発明に用いる発現ベクターは、好ましくは、栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子などの選択マーカーを含む。宿主のハンゼヌラ・ポリモルファを上記発現ベクターで形質転換した後、選択マーカーを利用して、発現ベクターが組み込まれた形質転換体を選抜することにより、本発明の形質転換体を取得可能である。選択マーカーは特に限定されないが、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子などの栄養要求性相補遺伝子であれば、それぞれウラシル、ロイシン、アデニン、ヒスチジンの栄養要求性株において原栄養株表現型の回復により選択することができる。また、G418耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子であれば、それぞれG418、ゼオシン、ハイグロマイシンを含む培地上における耐性により選択することができる。
発現ベクターにおける選択マーカーの位置は、選択マーカーを利用して、発現ベクターが組み込まれた形質転換体を選抜することが可能である限り特に限定されないが、好ましくは、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側にあるプロモーターの更に5’側である。上記(1)〜(4)の態様においては、第1のプロモーターの5’側が好ましい。(5)及び(6)の態様においては、第1のプロモーター及び第2のプロモーターのそれぞれの5’側に選択マーカーが存在することが好ましい。
ハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換は、公知の方法(例えば、エレクトロポレーション等)に従って実施することができる。例えば、Meth. Enzymol., 194: 182−187 (1991), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75: 1929 (1978) などに記載の方法に従って形質転換することができる。
本発明における形質転換体においては、好ましくは、宿主であるハンゼヌラ・ポリモルファの染色体上に、直鎖状にした抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)遺伝子を含む発現ベクターが組み込まれている。染色体あたりの発現ベクターのコピー数は、1コピー又は2コピー以上であり、特に限定されないが、高生産するためには2コピー以上が好ましい。染色体あたりの発現ベクターのコピー数は、例えば、サザンブロッティング法を用いて確認することができる。即ち、形質転換体からゲノムDNAを抽出し、適切な制限酵素で処理する。その後、処理済ゲノムDNAをアガロースゲル電気泳動で分離し、ナイロンメンブレンに転写し、発現ベクター内の適当な遺伝子に相補的な塩基配列を有するプローブを用いてハイブリダイゼーションを行うことでゲノムDNAに組み込まれた発現ベクターのコピー数を確認することができる。そのような確認方法は、例えば実施例14に示すような手法で解析できる。染色体あたりの発現ベクターのコピー数が2コピー以上の形質転換体を効率的に得る方法として、選択マーカーとしてプロモーター領域を短くすることで転写量を低下させた各種選択マーカー遺伝子(LEU2、URA3、ADE1、HIS4)を用いることが挙げられる。具体的には、実施例3で構築したようなプロモーター領域を短くしたLEU2遺伝子やURA3遺伝子などを選択マーカーに用いる方法が挙げられる。なお、2コピー以上の発現ベクターが組み込まれている形質転換体の組み込み位置については、同じ位置に複数が組み込まれている状態でも良いし、異なる位置に1コピーずつ組み込まれている状態でも良い。
染色体上への抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)遺伝子を含む発現ベクターの組み込みの方法は、相同領域を利用しない非特異的な組み込みでも良いし、1箇所の相同領域を利用した組み込みでも良いし、2箇所の相同領域を利用したダブルインテグレート型の組み込みでも良い。なお、相同領域とは染色体と発現ベクターの塩基配列を比較して、50%以上の配列同一性があれば良く、その長さも特に限定されないが、50bp以上が好ましい。相同領域の配列同一性は、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらにより好ましく、最も好ましくは100%である。ここで「同一性」とは、前記の通りに決定される。
相同領域の末端部分の塩基配列の配列同一性を高くすれば相同組換えが好適に行われることは公知であり、当業者は好適な配列同一性を有する相同領域を選択することが出来る。相同領域の長さは、100bp以上であることがより好ましく、500bp以上であることがさらに好ましく、1000bp以上であることがさらにより好ましい。また、10kbp以下がより好ましく、5kbp以下であることがさらに好ましく、3kbp以下であることがさらにより好ましい。長すぎるとベクターサイズが大きくなりベクターが入り難くなることは当業者にとって周知のことであり、上限は適切に選択しうる。相同領域の長さを長くすれば相同組換えが好適に行われることは公知であり、下限を適切に選択しうる。当業者は好適な長さの相同領域を選択することが出来る。相同領域を利用した組み込みの場合、例えば、プラスミドベクターの相同領域を制限酵素で1箇所以上を切断し、直鎖状の発現ベクターの末端に相同領域が来るようにして形質転換を行うことが出来る。
従って、上述のように、本発明に用いる発現ベクターが、ハンゼヌラ・ポリモルファ(好ましくは、宿主のハンゼヌラ・ポリモルファ)の染色体に含まれる少なくとも50bp以上の塩基配列と少なくとも50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%)の配列同一性を有する塩基配列を有する場合、特に、ハンゼヌラ・ポリモルファ(好ましくは、宿主のハンゼヌラ・ポリモルファ)の染色体に含まれる少なくとも50bp以上の塩基配列と少なくとも50%以上の配列同一性を有する塩基配列が、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側に存在するプロモーター配列、及び/又は、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の3’側に存在するターミネーター配列である場合には、相同組換により染色体上に組み込まれやすくなることが期待される。
また、ハンゼヌラ・ポリモルファの染色体上において、抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)遺伝子を含む発現ベクターが組み込まれる位置は、形質転換体が抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)を生産するのであれば特に限定されないが、好ましくはMOX遺伝子の周辺が挙げられ、より好ましくはMOX遺伝子のMOXプロモーター領域、MOXターミネーター領域が挙げられる。例えば、MOXターミネーターへの相同組込みであれば、発現ベクターとしてMOXターミネーターを含む発現ベクターを採用し、MOXターミネーターの配列中に1箇所存在するEcoRVサイトで切断して直鎖状にした該発現ベクターを用いることでMOXターミネーターへ組み込むことができる。
MOX遺伝子の周辺に組み込むことにより、抗体遺伝子が発現しやすく生産量が増えるという効果が期待される。
本発明において用いられる発現ベクターに含まれる、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側に存在するプロモーターの塩基配列、並びに/或いは3’側に存在するターミネーターの塩基配列として、それぞれ、ハンゼヌラ・ポリモルファの染色体上のMOXプロモーター領域配列(例えば、配列番号1)及びMOXターミネーター領域配列(配列番号2)とそれぞれ、50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%)の配列同一性を有する塩基配列を採用することにより、MOXターミネーター領域及び/又はMOXプロモーター領域において相同的組換えが生じ、組み込み位置が染色体上のMOXターミネーター領域及び/又はMOXプロモーター領域である形質転換体を得ることが可能である。
MOX遺伝子欠損とは、染色体上のMOX遺伝子の一部または全体が欠損や破壊などにより機能しなくなった状態を指す。MOX遺伝子欠損の確認は、実施例6のようにメタノールを単一炭素源とする培地での生育の有無でできる。MOX遺伝子が欠損した株の作製方法としては、実施例6のようにFab型抗体発現ベクターをMOX遺伝子内に挿入する方法などが挙げられる。
MOX遺伝子の一部または全部が欠損や破壊などにより機能しなくなった状態とは、染色体DNA上の該遺伝子の塩基配列中に塩基の欠損があるため、(1)MOX遺伝子のプロモーターまたはオペレーターなどの転写制御が機能せず、MOX遺伝子が発現しない状態、(2)フレームシフトが生じ、MOXタンパク質が活性あるタンパク質として発現しない状態、(3)MOX遺伝子中の構造遺伝子の一部または全部が欠損しているため活性あるタンパク質を発現しない状態、などを挙げることができる。相同組換えによってMOX遺伝子が欠損する場合、(3)の状態を挙げることができる。例えば、上述のように、MOX遺伝子のMOXプロモーター領域やMOXターミネーター領域に発現ベクターが組み込まれた場合には、MOX遺伝子欠損となることが期待される。
MOX遺伝子欠損であることにより、形質転換体のメタノール代謝が低下し、効率的なメタノール誘導が可能になるという効果が期待される。
また、前記の通り得られた形質転換体の培養は、公知の方法に従って実施することができる。例えば、本発明の形質転換体を用いて抗体、部分抗体(Fab型抗体等)を生産する方法としては、上記ハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体を培養し、その培養上清中に蓄積させる方法が挙げられる。なお、形質転換体の培養は、通常ハンゼヌラ・ポリモルファが資化しうる栄養源を含む培地であれば何でも使用しうる。例えば、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、メタノール、エタノール、グリセリン等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油脂類、またはこれらの混合物等の炭素源、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源、更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源を適宜混合・配合した通常の培地を用いることが出来、バッチ培養や連続培養のいずれでも培養可能である。また、培養中に抗体遺伝子等の発現誘導を行うことも可能であり、MOXプロモーターで抗体遺伝子等を発現誘導する場合は例えばメタノールなどを培養中に添加することで実施できる。本発明の培養は通常一般の条件により行なうことができ、例えば、pH2.5〜10.0、温度範囲10℃〜48℃の範囲で、好気的に10時間〜10日間培養することにより行うことができる。
本発明のHUMIRA(登録商標)のL鎖とFd鎖がS−S結合で結合したFab型抗体を試験管培養にて分泌生産させた場合の、培養上清中のFab型抗体分泌生産量が1mg/L以上である形質転換体とは、実施例1に示したFab型抗体の遺伝子を含む発現ベクターを用い、それを実施例5に示す方法でハンゼヌラ・ポリモルファに形質転換し、得られた形質転換体を、実施例7に示す方法で試験管培養して、得られた培養上清中のFab型抗体分泌生産量を解析した場合に、そのFab型抗体の濃度が1mg/L以上になるハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体を指す。
本発明の形質転換体を用いて生産された抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)は、培養上清の状態であっても良いし、そこから任意の方法で単離したものでも良い。培養上清からの抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)の単離は、公知の蛋白質精製法を適当に組み合わせて用いることにより実施できる。例えば、以下のように実施できる。まず、当該形質転換体を適当な培地で培養し、培養液の遠心分離、あるいは、濾過処理により培養上清から菌体を除く。得られた培養上清を、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿など)、溶媒沈殿(アセトンまたはエタノールなどによる蛋白質分画沈殿法)、透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、限外濾過等の手法を単独で、または組み合わせて用いることにより、該培養上清から本発明の抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)を単離する。
単離された抗体及び/又は部分抗体(Fab型抗体等)は、そのまま使用することもできるが、その後PEG化等の薬理学的な変化をもたらす修飾、酵素やアイソトープ等の機能を付加する修飾を加えて使用することもできる。また、各種の製剤化処理を使用しても良い。
以下、実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例において用いた組み換えDNA技術に関する詳細な操作方法などは、次の成書に記載されている:Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience)。
抗体発現ベクターの構築において利用した、MOXプロモーター(配列番号1)、MOXターミネーター(配列番号2)、LEU2遺伝子(配列番号3)、プロモーター領域を短くしたLEU2遺伝子(配列番号4)、URA3遺伝子(配列番号5)、プロモーター領域を短くしたURA3遺伝子(配列番号6)及びGAPプロモーター(配列番号7)はハンゼヌラ・ポリモルファ 8V株のゲノムDNAをテンプレートにしてPCRで調製した。Mating Factorαプレプロシグナル(MFα、配列番号8)は、サッカロマイセス・セレビシアエS288c株のゲノムDNAをテンプレートにしてPCRで調製した。抗体遺伝子は、完全ヒト型化抗TNF−α 抗体(adalimumab;HUMIRA(登録商標))の公開配列情報に基づいて、L鎖(配列番号9)、H鎖(配列番号10)を化学合成した(特開2009−082033)ものをテンプレートにしてPCRで調製した。
PCRにはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は添付のマニュアルに記載の方法で行った。ゲノムDNAの調製は、各菌株からGenとるくん(タカラバイオ社製)を用いて、これに記載の条件で実施した。
各プラスミドの調製は、大腸菌DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換することで行った。プラスミド保持株からのプラスミドの調製は、QIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて、行った。
(実施例1)Fab抗体発現ベクターの構築1
HindIII−NotI−BamHI−SpeI−MunI−BglII−XbaI−EcoRIのサイトをもつ遺伝子断片(配列番号11)を全合成し、これをpUC19のHindIII−EcoRIサイトに挿入してpUC−1を調製した。LEU2遺伝子の両側にHindIIIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー1および2(配列番号12および13)を用いたPCRにより調製し、HindIII処理後にpUC−1のHindIIIサイトに挿入した(pUC−2)。次に、MOXプロモーターの両側にBamHIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー3および4(配列番号14および15)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUC−2のBamHIサイトへ挿入した(pUC−3)。MOXプロモーターの両側にMunIサイトをつけた遺伝子断片をプライマー5および6(配列番号16および17)を用いたPCRにより調製・MunI処理後にpUC−3のMunIサイトへ挿入した(pUC−4)。MOXターミネーターの両側にXbaIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー7および8(配列番号18および19)を用いたPCRにより調製し、XbaI処理後にpUC−4のXbaIサイトに挿入した(pUC−PmPmTm)。
MFαの上流にSpeIサイトをつけた遺伝子断片をプライマー9および10(配列番号20および21)を用いたPCRにより調製した。L鎖の上流にMFαの3’末端20bpをつけ、下流にSpeIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー11および12(配列番号22および23)を用いたPCRにより調製した。これらの遺伝子断片を混合してテンプレートにして、プライマー9および12を用いたPCRにより、MFαとL鎖の融合遺伝子の両側にSpeIサイトをつけた遺伝子断片を調製した。本遺伝子断片をSpeI処理後、pUC−PmPmTmのSpeIサイトに挿入し、pUC−PmLPmTmを構築した。MFαの上流にBglIIサイトをつけた遺伝子断片をプライマー13(配列番号24)および10を用いたPCRにより調製した。Fd鎖の上流にMFαの3’末端20bpをつけ、下流にBglIIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー14および15(配列番号25および26)を用いたPCRにより調製した。これらの遺伝子断片を混合してテンプレートにし、プライマー13および15を用いたPCRにより、MFαとFd鎖の融合遺伝子の両側にBglIIサイトをつけた遺伝子断片を調製した。本遺伝子断片をBglII処理後、pUC−PmLPmTmのBglIIサイトに挿入し、pUC−PmLPmFTmを構築した。本発現ベクターは、Fab型抗体のL鎖およびFd鎖がそれぞれ別々のMOXプロモーター制御下で発現するように設計されている。
(実施例2)Fab抗体発現ベクターの構築2
GAPプロモーター制御下でFab型抗体のL鎖およびFd鎖を発現するようにした発現ベクターを構築した。即ち、GAPプロモーターの両側にBamHIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー16および17(配列番号27および28)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後、実施例1記載のpUC−2のBamHIサイトへ挿入した(pUC−5)。GAPプロモーターの両側にMunIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー18および19(配列番号29および30)を用いたPCRにより調製し、MunI処理後に、pUC−5のMunIサイトに挿入した(pUC−6)。実施例1で調製したMOXターミネーターの両側にXbaIサイトをつけた遺伝子断片を、pUC−6のXbaIサイトに挿入した(pUC−PgPgTm)。実施例1で調製したMFαとL鎖の融合遺伝子の両側にSpeIサイトをつけた遺伝子断片をpUC−PgPgTmのSpeIサイトに挿入し、pUC−PgLPgTmを構築した。そして、実施例1で調製したMFαとFd鎖の融合遺伝子の両側にBglIIサイトをつけた遺伝子断片を、pUC−PgLPgTmのBglIIサイトに挿入し、pUC−PgLPgFTmを構築した。本発現ベクターは、Fab型抗体のL鎖およびFd鎖がそれぞれ別々のGAPプロモーター制御下で分泌発現するように設計されている。
(実施例3)Fab型抗体各鎖(L鎖、Fd鎖)発現ベクターの構築
実施例1で調製したMOXプロモーターの両側にMunIサイトをつけた断片をPCRにより調製し、MunI処理後、実施例1で構築したpUC−1のMunIサイトに挿入した(pUC−7)。実施例1で調製したMOXターミネーターの両側にXbaIサイトをつけた遺伝子断片をPCRにより調製し、pUC−7のXbaIサイトに挿入した(pUC−8)。
L鎖発現ベクターは、LEU2遺伝子、プロモーター領域を短くしたLEU2遺伝子それぞれの両側にHindIIIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー1および2、プライマー20(配列番号31)および2を用いたPCRでぞれぞれ調製し、HindIII処理後、pUC−8のHindIIIサイトへそれぞれ挿入した(pUC−PmTm−1、pUC−PmTm−2)。MFαの上流にBglIIサイトをつけた遺伝子断片をプライマー13および10を用いたPCRにより調製した。L鎖の上流にMFαの3’末端20bpをつけ、下流にBglIIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー11および21(配列番号32)を用いたPCRにより調製した。これらの遺伝子断片を混合してテンプレートにして、プライマー13および21を用いたPCRにより、MFαとL鎖の融合遺伝子の両側にBglIIサイトをつけた遺伝子断片を調製した。本遺伝子断片をBglII処理後、pUC−PmTm−1、pUC−PmTm−2のBglIIサイトに挿入し、pUC−PmLTm−1、pUC−PmLTm−2を構築した。このL鎖発現ベクターは、Fab型抗体のL鎖遺伝子がMOXプロモーター制御下で分泌発現するように設計されている。また、pUC−PmLTm−1はLEU2遺伝子を、pUC−PmLTm−2はプロモーター領域を短くしたLEU2遺伝子を、それぞれ選択マーカーにしている。
Fd鎖発現ベクターは、URA3遺伝子、プロモーター領域を短くしたURA3遺伝子の両側にEcoRIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー22および23(配列番号33および34)、プライマー24(配列番号35)および23を用いたPCRで調製し、EcoRI処理後、pUC−8のEcoRIサイトに挿入した(pUC−PmTm−3、pUC−PmTm−4)。実施例1で調製したMFαとFd鎖の融合遺伝子の両側にBglIIサイトをつけた遺伝子断片を、pUC−PmTm−3、pUC−PmTm−4のBglIIサイトへそれぞれ挿入し、pUC−PmFTm−1、pUC−PmFTm−2を構築した。これらのFd鎖発現ベクターは、Fab型抗体のFd鎖遺伝子がMOXプロモーター制御下で分泌発現するように設計されている。また、pUC−PmFTm−1はURA3遺伝子を、pUC−PmFTm−2はプロモーター領域を短くしたURA3遺伝子を選択マーカーにしている。
(実施例4)完全長抗体発現ベクターの構築
実施例1で調製したMFαの上流にBglIIサイトをつけた遺伝子断片をPCRにより調製した。H鎖の上流にMFαの3’末端20bpをつけ、下流にBglIIサイトをつけた遺伝子断片を、プライマー14および25(配列番号36)を用いたPCRにより調製した。これらの遺伝子断片を混合してテンプレートにし、プライマー13および25を用いたPCRにより、MFαとH鎖の融合遺伝子の両側にBglIIサイトをつけた遺伝子断片を調製した。本遺伝子断片をBglII処理後、実施例1で調製したpUC−PmLPmTmのBglIIサイトに挿入し、pUC−PmLPmHTmを構築した。本発現ベクターは、Fab型抗体のL鎖およびH鎖がそれぞれ別々のMOXプロモーター制御下で発現するように設計されている。
(実施例5)ハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換による組換え抗体発現株の取得
実施例1〜4で構築した各種の抗体発現ベクターを、MOXターミネーター内のEcoRVまたはNruIサイトで切断して直鎖状にした。本断片を用いてハンゼヌラ・ポリモルファを形質転換した。形質転換方法は、ハンゼヌラ・ポリモルファ BY4329(NCYC495由来、leu1−1)、BY5242(8V由来、leu1−1)、BY5243(DL−1由来、leu1−1)、BY4868(NCYC495由来、ura3 leu1−1)を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Difco社製),2% tryptone bacto(Difco社製),2% glucose)にそれぞれ接種し、37℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで30℃で振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)した。菌体を250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に懸濁し、懸濁液を37℃で15分インキュベートした。集菌(3000×g、10分、4℃)した後、氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース, 10mM Tris−HCl, 1mM塩化マグネシウム, pH7.5)で菌体を再懸濁した。集菌(3000×g、10分、4℃)後、菌体を25mlの氷冷STMバッファーで再懸濁した。集菌(3000×g、10分、4℃)した後、菌体を250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状の各プラスミド溶液3μl(DNA量0.5〜1μg)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極,電極間隔2mm;ビーエム機器社製)に移し入れ、7.5kV/cm、10μF、900Ωの条件でエレクトロポレーションした。その後、菌体をYPD培地1mlで懸濁し、37℃で1時間静置した。集菌(3000×g、5分、室温)し、1mlのYNB培地(0.67% yeast nitrogen base(Difco社製),1% glucose)で菌体を洗浄し、再度集菌(3000×g、5分、室温)した。菌体を適当量のYNB培地で懸濁後、YNB選択寒天プレートに塗布し、37℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、各種組換え抗体発現株を取得した。
(実施例6)染色体上のMOX遺伝子が欠損したFab型抗体発現株の取得
実施例5の方法でFab型抗体発現株を取得した後、得られた形質転換株を、メタノールを単一炭素源とする培地(0.67% yeast nitrogen base(Difco社製),1% methanol)に植菌して、30℃で72時間振とう培養を行い、生育してこない株を選抜することにより、染色体上のMOX遺伝子が欠損したFab型抗体発現株を取得した。
(実施例7)培養上清への抗体分泌および、ELISA法による抗体分泌量の測定
Fab抗体およびフル抗体の培養上清への分泌発現量は、サンドイッチELISA(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay)法により解析した。
培養上清の調製は以下のように実施した。即ち、実施例5または6で得られた各抗体発現株を2mlのBMGMY培地(1% yeast extract bacto,2% peptone,1.34% yeast nitrogen base,0.4mg/l Biotin,100mMリン酸カリウム(pH6.0),1% Glycerol, 1% Methanol)に植菌し、30℃で72時間振とう培養後、遠心分離(15,000rpm、1分、4℃)により培養上清を調製した。
サンドイッチELISAは、ELISA用プレート(マキシソープ;NUNC社製)に固定化バッファー(0.1N重炭酸ナトリウム溶液,pH9.6)にて5000倍希釈したANTI−HUMAN IgG(Fab SPECIFIC)Affinity Isolated Antigen Specific Antibody(SIGMA社製)を50μl/ウェルで添加し、終夜で4℃インキュベートした。インキュベート後、ウェル中の溶液を除去し、5倍希釈したイムノブロック(大日本住友製薬社製)を250μl/ウェルで加え、室温で1時間静置し、ブロッキングした。各ウェルをPBST(PBS(タカラバイオ社製)+0.1% Tween20)で3回洗浄後、系列希釈した標準タンパク質(Anti−Human IgG Fab;rockland社製)と培養上清の希釈液を50μl/ウェルで加え、室温で1時間反応した。ウェル中の溶液を除去し、PBSTで2回洗浄後、PBSTIB(PBST+1/50希釈イムノブロック)溶液にて8000倍希釈した二次抗体溶液(二次抗体:Anti−Human IgG(Fab SPECIFIC)PEROXIDASE CONJUGATE Antibody developed in Goat Affinity Isolated Antibody;SIGMA社製)を50μl/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。ウェル中の溶液を除去し、PBSTで4回洗浄後、TMB 1−Component Microwell Peroxidase Substrate,SureBlue(KPL社製)を100μl/ウェルで添加し、室温で20分静置した。TMB Stop Solution(KPL社製)を100μl/ウェルで添加して反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(BenchMark Plus;Bio−Rad社製)で450nmの吸光度を測定した。培養上清中の抗体の定量は、標準タンパク質の検量線を用いて行った。この方法で、培養上清に分泌発現している抗体の蓄積を確認した(表1)。
(実施例8)ウエスタンブロッティングによるFab抗体の検出
Fab抗体およびフル抗体の検出はウエスタンブロッティング法で行った。即ち、実施例5で得られた培養上清と菌体画分10μlを、それぞれ2×サンプルバッファー(10% SDS,50% Glycerol,0.3125M Tris−HCl,pH6.8,0.01% BPB)10μlを混合したものを15% e−PAGEL(ATTO社製)を用いた非還元条件にてSDS−PAGEに供した。続いて、セミドライブロッティング装置(MilliBlot−Graphite ElectroblotterI;ミリポア社製)上に、陽極バッファー1(0.3M Tris,10% Methanol,pH10.4)に浸した濾紙2枚、陽極バッファー2(25mM Tris,10% Methanol,pH10.4)に浸した濾紙1枚とPVDFメンブレン(Immobilon−P;ミリポア社製)1枚、陰極バッファー(25mM Tris,192mM グリシン,10% Methanol,pH9.4)に15分間浸した電気泳動後のゲルと濾紙3枚を順に静置し、120mAの定電流で90分間通電させることで、ゲル上のタンパク質をPVDFメンブレンに転写させた。転写後のメンブレンを、3%BSAを含むTBST(0.24% Tris,0.8% NaCl,pH7.6,0.1% Tween20)に1時間浸漬し、ブロッキングした。メンブレンをTBSTにて15分×1回、5分×2回洗浄後、TBSTで20000倍希釈した二次抗体:Anti−Human IgG(Fab SPECIFIC)PEROXIDASE CONJUGATE Antibody developed in Goat Affinity Isolated Antibody(SIGMA社製)溶液にて室温で1時間反応させた。メンブレンをTBSTにて15分×1回、5分×2回洗浄後、ECL Western Blotting Detection Reagents(GEバイオサイエンス社製)用いて発光させた。発光したメンブレンをイメージャー(ChemiDoc XRS;Bio−Rad社製)にて適当な時間露光した。
その結果、Fab型抗体の推定分子量(約50kDa)付近にバンドが認められ、Fab抗体の殆どは培養上清に分泌発現していることが確認した(図1)
(実施例9)培養上清からのFab抗体の精製
培養上清からのFab抗体の精製は以下に示す方法で行った。実施例7で得られた培養上清を0.2μmのフィルター(DISMIC;東洋濾紙社製)で清澄化後、これを予め平衡化buffer(20mM リン酸ナトリウム, pH7.0)にて平衡化したプロテインGカラム(HiTrap ProteinG Fast Flow;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に供し、溶出buffer(0.1M Glycine−HCl, pH3.0)により溶出画分から精製Fab画分を取得した。さらにマイクロコン3(ミリポア社製)を用いた限外ろ過により、濃縮液を得た。
(実施例10)Fab抗体の確認
実施例9で得られたFab抗体をSDS−PAGEにて分析した。即ち、10μlの濃縮液と等量の2×サンプルバッファーを混合したものを、15% e−PAGEL(ATTO社製)を用いて非還元及び還元条件(DTT in 2×サンプルバッファー)にてSDS−PAGE電気泳動に供した。泳動後、ゲルを15分間水洗し、染色液(Bio−Safe CBB G−250ステイン;Bio−Rad社製)により30分染色したのち、水で脱色した。その結果、非還元条件でFab抗体の分子量付近(約50kDa)に1本のバンド、還元条件でL鎖およびFd鎖の分子量付近(約25kDa)に2本のバンドを確認できた(図2)。
(実施例11)ELISA法によるFab型抗体の抗原結合能の確認
ハンゼヌラで分泌発現させたFab抗体の抗原(TNF−α)に対する結合能の評価を、ELISA法で行った。即ち、ELISA用プレート(マキシソープ;NUNC社製)にPBSにて希釈したTNF−α(PEPROTECH社製)を50μl/ウェルで加え、終夜4℃でインキュベートした。インキュベート後、ウェル中の溶液を除去し、5倍希釈したイムノブロック(大日本住友製薬社製)250μl/ウェルで加え、室温で1時間静置し、ブロッキングした。ウェル中の溶液を除去後、PBST(PBS+0.1% Tween20)で3回洗浄後、実施例9で得られた濃縮液の希釈液を50μl/ウェルで添加し、室温で2時間反応した。PBSTで2回洗浄後、PBSTIB(PBST+1/50希釈イムノブロック)溶液にて7500倍希釈した二次抗体溶液(二次抗体:Anti−Human IgG(Fab SPECIFIC)PEROXIDASE CONJUGATE Antibody developed in Goat Affinity Isolated Antibody;SIGMA社製)を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。PBSTで4回洗浄後、100μlのTMB 1−Component Microwell Peroxidase Substrate,SureBlue(KPL社製)を添加し、室温で20分静置した。100μlのTMB Stop Solution(KPL社製)を添加して反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(BenchMark Plus;Bio−Rad社製)で450nmの吸光度を測定した。その結果、濃縮液の添加量に応じた吸光度の増加が認められ、ハンゼヌラで分泌発現させたFab抗体は抗原結合能を有していることが確認された。
(実施例12)完全長抗体の精製
完全長抗体の精製は以下に示す方法で行った。実施例7で調製した完全長抗体発現株の培養上清を0.2μmのフィルター(DISMIC;東洋濾紙社製)で清澄化後、これを予め平衡化buffer(20mM リン酸ナトリウム, pH7.0)にて平衡化したプロテインAカラム(HiTrap rProtein A Fast Flow;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に供した後、溶出buffer(0.1M クエン酸ナトリウム, pH3.0)により溶出させ、完全長抗体を精製した。
(実施例13)ウエスタンブロッティングによる完全ヒト型化抗TNF−α完全長抗体の検出
完全ヒト型化抗TNF−α完全長抗体の検出は以下に示す方法で行った。即ち、実施例12で得られた完全長抗体溶液と標準IgG(ImmunoPure Human IgG, whole Molecule(Thermo scientific 社製))をAnti−Human IgG−Fc HRP conjugate Antibody (Bethyl Laboratories,Inc.社製)やAnti−Human IgG(Fab SPECIFIC)HRP conjugate Antibody(SIGMA社製)を用いたウエスタンブロッティング法により検出した。まず、10μlのサンプルと等量の2×サンプルバッファー(10% SDS,50% Glycerol,0.3125M Tris−HCl,pH6.8,0.01% BPB)を混合したものを、15% e−PAGEL(ATTO社製)を用いた非還元、及び還元条件(上述の2×サンプルバッファーにDTTを50mMで添加した条件)にてSDS−PAGE電気泳動に供した。続いて、セミドライブロッティング装置(MilliBlot−Graphite ElectroblotterI;ミリポア社製)上に、陽極バッファー1(0.3M Tris,10% Methanol,pH10.4)に浸した濾紙2枚、陽極バッファー2(25mM Tris,10% Methanol,pH10.4)に浸した濾紙1枚とPVDFメンブレン(Immobilon−P;ミリポア社製)1枚、陰極バッファー(25mM Tris,192mM グリシン,10% Methanol,pH9.4)に15分間浸した電気泳動後のゲルと濾紙3枚を順に静置し、120mAの定電流で90分間通電させることで、ゲル上のタンパク質をPVDFメンブレンに転写させた。転写後、メンブレンを5%BSAを含むTBST(0.24% Tris,0.8% NaCl,pH7.6,0.1% Tween20)に1時間浸漬し、ブロッキングした。メンブレンをTBSTにて15分×1回、5分×2回洗浄後、TBSTで50000倍希釈した二次抗体:Anti−Human IgG−Fc HRP conjugate Antibody (Bethyl Laboratories,Inc.社製)溶液もしくはTBSTで20000倍希釈した二次抗体:Anti−Human IgG(Fab SPECIFIC)HRP conjugate Antibody(SIGMA社製)溶液にて室温で1時間反応させた。メンブレンをTBSTにて15分×1回、5分×2回洗浄後、ECL Western Blotting Detection Reagents(GEバイオサイエンス社製)を用いて発光させた。発光したメンブレンをイメージャー(ChemiDoc XRS;Bio−Rad社製)にて適当な時間露光した。その結果、非還元条件において標準IgGと同じ位置にバンドが認められた。さらに、還元条件では、Anti−Human IgG−Fc HRP conjugate Antibodyを二次抗体にした時にH鎖(約50kDa)のバンドが、Anti−Human IgG(Fab SPECIFIC)HRP conjugate Antibodyを二次抗体にした時にL鎖(約25kDa)のバンドが認められた(図3)。
(実施例14)サザンブロッティングによる染色体上の抗体発現ベクターの導入コピー数の解析
ゲノムDNAのサザンブロッティングは、DIG−High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit(ロシュ社製)を用いて行った。実施例1〜4記載の各Fab型抗体発現ベクターやL鎖発現ベクターの検出には、プローブにLEU2遺伝子を使用した。実施例3記載のFd鎖発現ベクターの検出には、プローブにURA3遺伝子を使用した。実施例5で調製した各抗体発現株のゲノムDNAを制限酵素(BglII)で消化後、アガロースゲル電気泳動した。ゲルを加水分解液(0.25M HCl)にて30分浸漬した後、水洗した。次に、変性溶液(1.5M NaCl,0.5M NaOH)にて30分浸漬した後、水洗した。次に、中和溶液(1.5M NaCl,0.5M Tris−HCl,pH7.2,1mM Na2EDTA)にて30分浸漬した。このゲルを10×SSC(1.5M NaCl,0.15Mクエン酸ナトリウム)を展開液として用いて、中和したゲルからゲノムDNAをナイロンメンブレン(Nylon membrane,positively charged;ロシュ社製)に、終夜転写させた。メンブレンを6×SSCで洗浄後、20分室温で乾燥した後、80℃で2時間ベーキング処理を行った。その後のメンブレン処理(プローブ調製、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、プローブ検出)は、上述のキットに記載の条件で行った。プローブの発光後のメンブレンについては、イメージャー(ChemiDoc XRS;Bio−Rad社製)にて適当な時間露光した。ハンゼヌラ・ポリモルファ染色体上のLEU2遺伝子またはURA3遺伝子(染色体上に1コピー存在)のバンド強度に対する、ベクター由来のLEU2遺伝子またはURA3遺伝子のバンドの本数や強度の相対値を算出することにより、各F発現ベクターの導入コピー数を算出した。その結果、LEU2遺伝子やURA3遺伝子を選択マーカーにしたFab型抗体発現ベクター、L鎖発現ベクターの導入コピー数は、1コピーであった。プロモーター領域を短くしたLEU2遺伝子やURA3遺伝子を選択マーカーにしたL鎖発現ベクターやFd鎖発現ベクターの導入コピー数は、2〜3コピーであった。
本発明のハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体を用いることによって、従来の動物細胞を培養することによる抗体生産法と比較して、安価かつ簡便に所望の抗体医薬品を生産することができる。
本出願は、日本で出願された特願2009−239471(出願日:平成21年10月16日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。

Claims (19)

  1. 抗体及び/又は部分抗体を生産するハンゼヌラ・ポリモルファの形質転換体。
  2. 直鎖状にして染色体に組み込まれた、抗体及び/又は部分抗体遺伝子を含む発現ベクターを含む請求項1に記載の形質転換体。
  3. 該発現ベクターが、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側にプロモーター及びシグナル配列をコードする塩基配列を有し、3’側に停止コドン及び/又はターミネーター配列を有する請求項2に記載の形質転換体。
  4. 該発現ベクターが、ハンゼヌラ・ポリモルファの染色体に含まれる少なくとも50bp以上の塩基配列と少なくとも50%以上の配列同一性を有する相同塩基配列を有する請求項2または3に記載の形質転換体。
  5. 該相同塩基配列が、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の5’側に存在するプロモーター配列、及び/又は、抗体及び/又は部分抗体遺伝子の3’側に存在するターミネーター配列である請求項4に記載の形質転換体。
  6. 染色体あたりの該発現ベクターのコピー数が2コピー以上である請求項2〜5のいずれか1項に記載の形質転換体。
  7. 染色体における該発現ベクターの組み込み位置が染色体上のMOXターミネーター領域及び/又はMOXプロモーター領域である請求項2〜6のいずれか1項に記載の形質転換体。
  8. 染色体上のMOX遺伝子の機能が部分的又は完全に欠損している請求項2〜7のいずれか1項に記載の形質転換体。
  9. 栄養要求性相補遺伝子および/または薬剤耐性遺伝子を選択マーカーとして利用して選抜されたものである請求項1〜8のいずれか1項に記載の形質転換体。
  10. 栄養要求性相補遺伝子および/または薬剤耐性遺伝子が、URA3、LEU2、ADE1、HIS4、G418耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、および、ハイグロマイシン耐性遺伝子からなる群から選ばれる1以上の遺伝子である請求項9に記載の形質転換体。
  11. 該発現ベクターに含まれる部分抗体遺伝子がFab型抗体遺伝子である請求項2〜10のいずれか1項に記載の形質転換体。
  12. Fab型抗体遺伝子を含む発現ベクターが、L鎖遺伝子及びFd鎖遺伝子を含む塩基配列、L鎖Fd鎖融合遺伝子を含む塩基配列、及び/又は、Fd鎖L鎖融合遺伝子を含む塩基配列を含む発現ベクターである請求項11に記載の形質転換体。
  13. 抗体及び/又は部分抗体を分泌生産する請求項1〜12のいずれか1項に記載の形質転換体。
  14. 抗体及び/又は部分抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、又は、マウス抗体から選ばれる抗体及び/又はそれに由来する部分抗体である請求項1〜13のいずれかに記載の形質転換体。
  15. 抗体及び/又は部分抗体が、CD20、HER2、IL2R、CD33、CD52、EGFR、VEGF、CD3、CD25、TNFα、CD11、IgE、CD2、α4integrin、CD80、CD86、IL6R、C5a、GPIIb/IIIa、RSVF Protein、VEGF−A、及び、GM−CSFからなる群から選ばれる1以上の抗原に結合するものである請求項1〜14のいずれかに記載の形質転換体。
  16. 部分抗体がFab型抗体である請求項13〜15のいずれか1項に記載の形質転換体。
  17. 抗体及び/又は部分抗体としてHUMIRA(登録商標)に含まれる抗体に由来するFab型部分抗体を生産させた場合の、培養上清中のFab型部分抗体分泌生産量が1mg/mL以上である請求項13〜16のいずれか1項に記載の形質転換体。
  18. 請求項1〜17のいずれか1項に記載の形質転換体を用いる、抗体及び/又は部分抗体の製造方法。
  19. 請求項18に記載の製造方法で製造された抗体及び/又は部分抗体。
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