JPWO2009116301A1 - 複素誘電率測定装置、複素誘電率測定方法及びプログラム - Google Patents
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Abstract
複雑な測定器具を必要とすることなく、構造が単純な測定フィクスチャを用いて、低誘電率材料の複素誘電率をマイクロ波領域において高精度に測定することができる複素誘電率測定装置、複素誘電率測定方法及びプログラム。複素誘電率測定装置(100)は、フィクスチャ(110)、同軸コネクタ(120)、ネットワークアナライザ(130)、及び演算処理装置140を備え、フィクスチャ(110)は、平坦面が平行に対向配置された円形の第1の電極(113)及び第2の電極(111)と、第1の電極(113)の中心に開口した円形開口孔(113b)と、第2の電極(111)の中心から、第1の電極(113)の円形開口孔(113b)を経由して外部導体(125)の内部を外方に向かって延びる中心導体(117)とを備える。
Description
本発明は、複素誘電率測定装置、複素誘電率測定方法及びプログラムに関する。
すでに実用化されているマイクロ波領域での複素誘電率測定法として、例えば、空洞共振法とストリップライン法がある(特許文献1、特許文献2)。
空洞共振法では、誘電体または誘電体と気体(空気)で満たされた金属製コンテナ(共振器)に電磁波を入射し、共振条件を満たした場合の入射波と反射波の比(複素反射係数)から誘電体の複素誘電率を求める。
ストリップライン法では、金属基板上に固定された誘電体フィルムの表面に金属製のパターン(ストリップライン)を形成し、金属基板とストリップラインで挟まれた誘電体フィルムをトランスミッションラインとして取り扱い、その複素反射係数から複素誘電率を求める。
また、特許文献3には、同軸管反射法を並行平板型コンデンサに応用した複素誘電率測定法が開示されている。同軸線路の終端には並行平板型コンデンサが配置されている。同軸管の中心導体はコンデンサの一方の電極に接続されている。同軸管の外部導体は同軸線路の終端からコンデンサを囲むように延び、コンデンサの他方の電極に接続されている。コンデンサに挟まれた試料では、電磁波の多重反射が起こると考えられている。
特開2005−62152号公報
特開2005−308716号公報
特開2007−263625号公報
しかしながら、上記した複素誘電率測定法にあっては、次のような問題がある。
空洞共振法は、広帯域測定ではなく、スポット周波数測定であるため、広帯域をカバーするためには、高価なフィクスチャ(この場合は共振器)をいくつも用意しなければならない。また、フィクスチャが大きく、取り扱いが不便である。また、温度依存性の評価が困難である。
ストリップライン法は、電磁波の放射損失のため、低誘電率材料、例えばlow−k絶縁膜の小さな誘電損失を評価できず、低損失の測定には向いていない。また、ストリップラインのパターンの精度には限界があるため、高周波領域ではSN比が劣化し、高周波測定には向いていない。
同軸管反射法を並行平板型コンデンサに応用した複素誘電率測定法では、同軸管の外部導体が同軸線路の終端からコンデンサを囲むように延びているので、コンデンサの電極を大きくすることができない。電極の直径は3mm程度である。そのため、幾何容量を大きくすることができないので、低誘電率材料の小さな誘電損失を扱うには難がある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、複雑な測定器具を必要とすることなく、構造が単純な測定フィクスチャを用いて、低誘電率材料の複素誘電率をマイクロ波領域において高精度に測定することができる複素誘電率測定装置、複素誘電率測定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
本発明の複素誘電率測定装置は、平坦面が平行に対向配置された円形の第1及び第2電極と、前記第1電極の中心に開口した円形開口孔の外周部から、前記第2電極と反対方向の外方に向かって突出する円筒形状の外部導体と、前記第2電極の中心から、前記第1電極の円形開口孔を経由して前記外部導体の内部を外方に向かって延びる中心導体と、前記第1電極と前記第2電極との間に挟まれた円筒形状の試料に対して、前記外部導体と前記中心導体からなる同軸線路に沿ってTEM電磁波を入力するとともに、前記試料に作用したTEM電磁波を取得する取得手段と、取得したTEM電磁波に基づいて、試料の複素誘電率を測定する測定手段と、を備える構成を採る。
本発明の複素誘電率測定方法は、円筒状の試料に、前記試料の中心軸から前記試料の平面に沿って放射状に広がるTEM電磁波を入力し、前記入力されたTEM電磁波を前記試料の内部で多重反射させるステップと、前記試料に作用したTEM電磁波を取得するステップと、取得したTEM電磁波に基づいて、前記試料の複素誘電率を測定する測定ステップとを有する。
また他の観点から、本発明は、上記複素誘電率測定方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
本発明によれば、複雑な測定器具を必要とすることなく、単純な構成で、低誘電率材料の複素誘電率をマイクロ波領域において高精度に測定することができる。
また、本発明に係わる複素誘電率測定方法によれば、低誘電率材料の複素誘電率をマイクロ波領域において高精度に測定することができる。
以下、本発明の実施の形態に係わる複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法について、図面を参照して詳細に説明する。
(原理説明)
複素誘電率の取得原理について説明する。
複素誘電率の取得原理について説明する。
本発明の複素誘電率測定装置では、複素誘電率は対向する2つの電極を用いて取得される。例えば、平行平板コンデンサが用いられる。高周波で平行平板コンデンサを用いるときには、コンデンサ内での電磁波の伝播の解析が容易になるよう、コンデンサを設計する必要がある。上記平行平板コンデンサのことを外向型平行平板セルと呼ぶことにする。
図1は、本発明の原理説明の外向型平行平板セルの一例の断面図である。
図1に示すように、外向型平行平板セル210は、平坦面が平行に対向配置された円形の上部電極211(第2電極)と下部電極213(第1電極)とを有している。電極間には、円筒状の試料201が挟まれている。図1では、試料201の断面は網掛けのハッチングで表されている。
下部電極213の中心には、円筒形状の外部導体225に接続する円形開口孔213aが開口され、リング状である。また、上部電極211の中心には、円筒状の試料201及び下部電極213の円形開口孔213aを経由して外部導体225の内部を外方に向かって延びる中心導体217を有する。
すなわち、外向型平行平板セル210には、下部電極213の外部に向いた面(図1の下面)から、下部電極213と試料201を貫いて、上部電極211に至る孔(下部電極213の円形開口孔213a及び試料201の内径空隙)が設けられている。この孔は試料201の中心軸202上に設けられている。
下部電極213の円形開口孔213aの外周部には、同軸ケーブル250の外部導体225が接続されている。また、同軸ケーブル250の内部導体227は、試料201の中心軸202上で延びている中心導体217を介して上部電極211と接続されている。
上記下部電極213と円筒形状の外部導体225とは、導体により一体形成されていてもよく、同様に、上部電極211と中心導体217とは、導体により一体形成されていてもよい。
このように、外向型平行平板セル210は、平坦面が平行に対向配置された円形の下部電極213(第1電極)及び上部電極211(第2電極)と、下部電極213の中心に開口した円形開口孔213aの外周部から、上部電極211と反対方向の外方に向かって突出する円筒形状の外部導体225と、上部電極211の中心から、下部電極213の円形開口孔213aを経由して外部導体225の内部を外方に向かって延びる中心導体217とを備えて構成される。また、試料201は、円形の下部電極213(第1電極)と上部電極211(第2電極)との間に挟まれた円筒状の試料である。
外向型平行平板セル210は、終端をOPENとした同軸ケーブルの内部及び外部導体225を、同軸ケーブルの中心軸から遠ざかる方向に放射状に広げたような構造をしている。つまり、通常の同軸管反射法を、放射状に広がる伝送線に応用したものといえる。したがって、セル210のほとんどの部分で、電磁波の伝播が理想的であると仮定することができる。例えば、伝播する電磁波を単純な波形をもつ電磁波で近似できると仮定することができる。後述するように、このようなセルでは電磁波の多重反射が起こる。電磁波の伝播が理想的であるとすれば、多重反射を解析的に取り扱うことができる。
[平面波による多重反射の解析]
最も簡便な近似として平面波近似を考える。すなわち、伝播する電磁波を平面波exp[i(ωt−kr)]で近似する。rは試料201の中心軸202を軸とする円筒座標を設定したときの動径である(図1参照)。試料201内では電磁波の多重反射が起こる。
最も簡便な近似として平面波近似を考える。すなわち、伝播する電磁波を平面波exp[i(ωt−kr)]で近似する。rは試料201の中心軸202を軸とする円筒座標を設定したときの動径である(図1参照)。試料201内では電磁波の多重反射が起こる。
図2は、電磁波の多重反射を説明するダイヤグラムを示す図である。
図2に示すように、複素誘電率εr *をもつ試料201の境界面(r=a/2)から電磁波が試料201に入射する。図1と同様に、図2でも試料201の断面は網掛けのハッチングにて表されている。入射した電磁波は境界面(r=a/2)と境界面(r=b/2)との間で多重反射をしながら境界面(r=a/2)から出射する。境界面は空気に触れている。空気の誘電率を1とする。図2で示されたρ1、ρ2、η1、η2は以下の式(1)乃至式(4)から得られる。
終端である境界面(r=b/2)では平面波はそれ以上伝播しないので、完全に反射する。終端で電流が0であるので、境界面での電磁波の微係数が0となる自由端反射が起こる。
反射係数ΓMは、入射側に戻ってきた波の総和になる。
[円筒波による多重反射の解析]
伝播する電磁波を円筒波で近似する。下部電極213(図1参照)は接地されているものとする。電場及び磁場は、
伝播する電磁波を円筒波で近似する。下部電極213(図1参照)は接地されているものとする。電場及び磁場は、
図3は、円筒波を模式的に示す図である。図3のz軸は、図1に示す中心軸202と一致する。図3の電場の向きはハッチングが施された矢印で示されている。
式(8)は、真電荷が存在しない空間(電気的に中性な物質内)でのMaxwell方程式を満たすので、
また、磁場はFaraday則より、
領域(I)(r<a/2)では誘電率は1である。領域(II)(a/2≦r≦b/2)では誘電率はεr *である。領域(III)(r>b/2)では、電極がないので、電磁波は存在できない。したがって、領域(I)及び領域(II)での一般解は、
領域(I)と領域(II)の境界では電磁場の連続性が要請される。また、領域(II)から領域(III)へ電流が漏れないので、領域(II)と領域(III)の境界での磁場は0である。これらの境界条件と式(13)乃至(16)とから
アドミッタンスは電流I(r)(動径方向を正とする)と電圧V(r)(下部電極213(図1参照)は接地されている)とより求まる。z方向の一様性を仮定して得られるI(r)=2πr*H(r)、V(r)=E(r)*d(dは2つの電極間の距離)を用いると、アドミッタンスは、
ここで、電磁波は境界面(r=a/2)から試料201に入射すると仮定する。このときΩr=Ωaとなるので、式(28)の複雑な因子は、
ここで、
複素誘電率は、フリンジの静電容量を無視すると、
(実施の形態)
図4は、上記基本原理に基づく本発明の一実施の形態に係る複素誘電率測定装置の概略図である。本実施の形態は、TEM電磁波を用いた反射係数法に適用した例である。
図4は、上記基本原理に基づく本発明の一実施の形態に係る複素誘電率測定装置の概略図である。本実施の形態は、TEM電磁波を用いた反射係数法に適用した例である。
図4に示すように、複素誘電率測定装置100は、フィクスチャ110、同軸コネクタ120、ネットワークアナライザ130、及び演算処理装置140を有する。
フィクスチャ110は、複素誘電率を測定する試料を保持する。フィクスチャ110は、上部の第2の電極111と、下部の第1の電極113とから構成されている。フィクスチャ110の具体的な構成については、後で詳細に説明する。
ネットワークアナライザ130は、フィクスチャ110に電磁波(入射波)を入力し、この電磁波の入力に応答してフィクスチャ110から出力された電磁波(反射波)を受信する。フィクスチャ110は、試料に作用した電磁波を取得する電磁波取得手段に含まれている。そして、入射波と反射波を解析して、複素誘電率の算出に必要な反射係数Γmeasureを算出し、算出結果を演算処理装置140に出力する。なお、フィクスチャ110とネットワークアナライザ130とは、例えば、同軸ケーブル150及び同軸コネクタ120を介して接続されている。
演算処理装置140は、ネットワークアナライザ130から出力された複素反射係数Γmeasureに基づいて、所定の演算式(34)を用いて、試料の複素誘電率を算出する。演算処理装置140は、例えば、パーソナルコンピュータにより構成されている。演算処理装置140は、取得した電磁波に基づいて複素誘電率を取得する複素誘電率取得手段に含まれている。
本実施の形態では、ネットワークアナライザ130と演算処理装置140は、測定デスク161上に載置されている。また、測定デスク161には、フィクスチャ110その他の器具を上下移動可能に支持する支持ガイド163が取り付けられている。支持ガイド163には、フィクスチャ110の第1の電極113を支持する支持部材167が上下移動可能に取り付けられている。また、支持ガイド163には、試料1をフィクスチャ110にインストールするための試料インストール器具170を支持する支持部材165が上下移動可能に取り付けられている。支持部材165は、支持ガイド163に対して、上下移動可能のみならず、水平(平行または回転)移動可能に構成されている。これにより、試料をフィクスチャ110に容易にインストールできる。さらに、支持ガイド163には、測定温度を制御するための温度制御ユニット180が上下移動可能に取り付けられている。
図5は、フィクスチャ110と同軸コネクタ120の断面図である。
フィクスチャ110と同軸コネクタ120は、図1に示されている平行平板コンデンサと同様に構成されている。フィクスチャ110は第1の電極113と第2の電極111とを含んでいる。第1の電極113及び第2の電極111は、電磁波を試料1に作用させる。第1の電極113及び第2の電極111には、平坦面113a及び平坦面111aがそれぞれ形成されている。平坦面111aと平坦面113aは互いに対向している。平坦面111aと平坦面113aには金メッキが施されている。第1の電極113及び第2の電極111はそれぞれ円盤状に形成されている。半径は、例えば50mmに設定される。
平坦面111aと平坦面113aの間には、試料1が配置され、試料1は平坦面111aと平坦面113aで挟まれる。試料1は円筒状に形成され、試料1の中心軸102と交差する試料1の2つの端面が平坦面111a及び平坦面113aにそれぞれ対向する。好ましくは、試料1は薄く形成される。この場合、試料1は円盤状に形成され、試料の両面が平坦面111a及び平坦面113aにそれぞれ対向する。試料1が液状の場合には、試料1は、試料1が円盤状に形成されるよう、平坦面111aと平坦面113aとの間で薄く引き伸ばされる。
平坦面113aには、第1の電極113を貫通する孔113bが形成されている。円筒状の試料1には、試料1を貫き、試料1の中心軸102上で延びて第1の電極113の孔113bと連通している孔1bが形成されている。中心導体117が、第2の電極111の平坦面111aから延びて、孔1bと孔113bを通っている。中心導体117は試料1の中心軸上で延びている。試料1は中心導体117を囲む。
このように、フィクスチャ110は、平坦面が平行に対向配置された円形の第1の電極113及び第2の電極111と、第1の電極113の中心に開口した円形開口孔113bと、第2の電極111の中心から、第1の電極113の円形開口孔113bを経由して外部導体125の内部を外方に向かって延びる中心導体117とを備える。上記円形開口孔113bには、同軸コネクタ120の中空円筒状の外部導体125端部と螺合するねじ部113cが形成される。
第1の電極113の円形開口孔113bには、同軸コネクタ120が挿入されていて、同軸コネクタ120は第1の電極113に螺合されている。同軸コネクタ120には、例えばHUBER+SUHNER社のPC3.5(female−female)やAPC7が用いられる。同軸コネクタ120は、中空円筒状の外部導体125と、外部導体125の円筒軸上で延びている内部導体127とを有している。第1の電極113と外部導体125は、螺合に用いられるねじ部113cを介して電気的に接続されている。
中心導体117は内部導体127に設けられている、弾性を有するピン127aに差し込まれている。ピン127aは、内部導体127と中心導体117との電気的な接続を保ちながら、外部導体125の円筒軸の延びる方向に中心導体117をピン127aに対して移動可能なように形成されている。これにより、内部導体127と中心導体117との電気的な接続を保ちながら、平坦面111aと平坦面113aの間の距離を変えることができる。平坦面111aと平坦面113aの間の距離は、図示しないスペーサにより維持される。例えば、100μm又は300μmの厚さのスペーサが用いられる。外部導体125及び内部導体127は、同軸ケーブル150(図4参照)の外部導体及び内部導体にそれぞれ接続されている。
フィクスチャ110は所定の基準軸に対して対称に形成されている。この基準軸は試料1の中心軸102と一致している。平坦面111aと平坦面113aは基準軸が延びる方向に向いていて、互いに平行である。中心導体117は、基準軸に沿って、基準軸上で延びている。中空円筒状の外部導体125の円筒軸は基準軸と一致している。
同軸ケーブル150にはTEM波が入力される。上述したように、試料1では電磁波の多重反射が起こる。円筒状の試料1に作用する電磁波は、試料1の中心軸から放射状に広がる電磁波と、この電磁波とは逆向きに伝播する電磁波との少なくとも一方を含む。電磁波は平坦面111a及び平坦面113aに沿って伝播する。試料1が円盤状の場合には、試料1の面に沿って伝播するとみなせる。電磁波の波面は中心軸102を囲む。試料1に作用する電磁波は円筒波とみなせる。
試料1の複素誘電率は一実施の形態に係わる複素誘電率測定方法により取得される。
図6は、複素誘電率測定方法のフローチャートである。図中、Sはフローの各ステップを示す。
まず、複素誘電率測定装置100を用意する。同軸コネクタ120として上述のPC3.5を用意する。同軸コネクタ120からは第1の電極113、第2の電極111及び中心導体117が取り外されている。同軸コネクタ120にHewlett−Packard社の85052校正キットを接続し、OPEN、LOAD及びSHORTの校正を行う(校正工程S1)。
校正の後、試料1をフィクスチャ110にインストールする(試料インストール工程S2)。同軸コネクタ120から校正キットを取り外し、同軸コネクタ120に第1の電極113を螺合する。螺合された第1の電極113の平坦面113a上に試料インストール器具170を用いて試料1を配置する。配置後、中心導体117を内部導体127のピン127aに差し込んで、第1の電極113と第2の電極111で試料1を挟む。このとき、平坦面111aと平坦面113aの間の距離を調節する。試料1が液状の場合には、平坦面113a上に試料1をやや多めに塗布し、試料を挟むときに余剰分を第1の電極113と第2の電極111の間から流出させる。
インストール後、ネットワークアナライザ130を動作させて、電磁波を試料1に作用させ(電磁波作用工程S3)、試料に作用した電磁波を取得する(電磁波取得工程S4)。ネットワークアナライザ130は、取得した電磁波に基づいて上述の反射係数Γmeasureを得る。得た反射係数Γmeasureを演算処理装置140に転送する。
転送した反射係数Γmeasureに基づいて試料1の複素誘電率εr *を取得する(複素誘電率取得工程S5)。演算処理装置140において、あらかじめ用意しておいた複素誘電率計算用ソフトウェアを用いて、試料1の複素誘電率εr *を計算する。ソフトウェアは、上述の式(34)をもとに作成されている。
次に、試料1を取り除き、試料1と同じ厚さの空気をフィクスチャ110に充填する。上記工程S3乃至S5と同様の工程を行い、空気の複素誘電率を取得する(空気複素誘電率取得工程S6)。
複素誘電率取得工程S5で取得した試料1の複素誘電率εr *を、空気複素誘電率取得工程S6で取得した空気の複素誘電率で補正する(複素誘電率補正工程S7)。本工程S7では、空気を、誘電率が1で誘電損失が0の、しかも周波数依存性がない複素誘電率を持つ誘電体とみなす。本工程S7では、このみなし誘電体の複素誘電率と、空気複素誘電率取得工程S6で取得した空気の複素誘電率との違いを使う。さらに、適宜、校正面の位置に関係する遅延長の補正を行う。
幾つかの低誘電率材料について、複素誘電率の取得例を以下に示す。
図7は、エタノールの取得された複素誘電率を示すグラフであり、取得されたエタノールの複素誘電率を示す。図7のε’measureは実部であり、ε’’measureは虚部である。計算は終端容量法で行われている。妥当性の検討のために、Satoらの文献T. Sato, R. Buchner, J. Phys. Chem. A, 108, 5007, 2004にて測定されたエタノールの複素誘電率と比較している。ε’sato及びε’’satoはそれぞれSatoらによる複素誘電率の実部及び虚部である。100MHz以上ではSatoらによる測定値から大きくずれるが、これはエタノールの誘電率の大きさのため、空気に比してずれが大きく出ているのではないかと考えられる。一方、低周波数側ではSatoらによる測定値とは異なり、直流電導成分が現れているが、妥当な結果ではないかと考えられる。
図7は、グリセロールの取得された複素誘電率を示すグラフであり、取得されたグリセロールの複素誘電率を示す。図8のε’measureは実部であり、ε’’measureは虚部である。グリセロールは室温では粘性が非常に大きく、ピペットで計量することができなかったため、電子天秤にて大まかな重量を計り、フィクスチャ110に充填されている。計算は終端容量法で行われている。妥当性の検討のために、典型的な従来の電極を使用して測定されたグリセロールの複素誘電率と比較されている。ε’ref及びε’’refはそれぞれこの測定による複素誘電率の実部及び虚部である。
グリセロールでは、エタノールほどには高周波での両者のずれは大きくなかった。これは、グリセロールの主分散の緩和周波数がエタノールのそれよりも低く、高周波領域では既に誘電率が小さくなっているためであると考えられる。グリセロールでは低周波に大きな損失は認められなかったが、そのため、このフィクスチャの低周波での特性の良さが際立っている。グラフを対数で表示すると、その精度は一桁も向上していることが分かる。
図9乃至図11は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレンテレフタレート(PET)の取得された複素誘電率を示す図である。
図11Aに示すPETの複素誘電率の実部は、フィクスチャにPETが十分に充填されていなかったために、比較的小さくなっている。
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、複素誘電率測定装置100は、フィクスチャ110、同軸コネクタ120、ネットワークアナライザ130、及び演算処理装置140を備え、フィクスチャ110は、平坦面が平行に対向配置された円形の第1の電極113及び第2の電極111と、第1の電極113の中心に開口した円形開口孔113bと、第2の電極111の中心から、第1の電極113の円形開口孔113bを経由して外部導体125の内部を外方に向かって延びる中心導体117とを備える。本複素誘電率測定方法では、第1の電極113と第2の電極111との間に挟まれた円筒状の試料1に、試料1の中心軸から試料1の平面に沿って放射状に広がるTEM電磁波を入力し、入力されたTEM電磁波を試料1の内部で多重反射させる。そして、試料1に作用したTEM電磁波を取得し、取得したTEM電磁波に基づいて、試料1の複素誘電率を測定する。
ここで、外部導体125及び中心導体117を断面円形形状とすることで、多重反射の境界条件を定めることができ、上記式(30)に示す入力アドミッタンスYに基づいて、上記式(34)に示す試料の複素誘電率εを測定することができる。
これにより、複雑な測定器具を必要とすることなく、単純な構成で、低誘電率材料の複素誘電率をマイクロ波領域において高精度に測定することができる。
本複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法によれば、フィクスチャ110は、構造及び動作原理が非常にシンプルである。このため、下記のような優れた優位性がある。
(a)超広帯域測定が可能である。
(b)取り扱いが大変容易である。
(c)広範囲な試料(液体、粉末、しなやかなフィルム、薄い固体など)に対応することができる。
(d)温度変化に対してフィクスチャ特性変化が少なく、誘電率の温度依存性測定にも対応することができる。
(e)前記半径b/2を調整することにより、さまざまな誘電率・誘電損失の試料に対応することができる。
さらに、フィクスチャ110の第1の電極113と第2の電極111を大きくできる、特に平坦面113a及び平坦面111aを大きくできるので、幾何容量を大きくすることができる。これにより、低誘電率材料の複素誘電率を高精度に測定することができる。
また、上記実施の形態に係わる複素誘電率測定装置によれば、空洞共振法とは異なり、広帯域をカバーするために高価なフィクスチャをいくつも用意する必要がない。また、フィクスチャ110の構造が単純である。
特に、本実施の形態は、外部導体125及び中心導体117を、円形形状にすることにより、多重反射の境界条件を単一のものに制限することができる。
また、外向型平行平板セル210を、円形形状にすることにより、単一共振周波数の多重反射モードに制限することができる。
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されることはない。
また、本実施の形態では複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、装置の名称は複素誘電率取得装置、また方法の名称は複素誘電率取得方法等であってもよいことは勿論である。
また、上記複素誘電率測定装置を構成する各部、例えば同軸ケーブル、同軸接続コネクタの種類、その材質及び接続方法などはどのようなものでもよい。
また、以上説明した複素誘電率測定方法は、この複素誘電率測定方法を機能させるためのプログラムでも実現される。このプログラムはコンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納されている。
2008年3月19日出願の特願2008−072170の日本出願に含まれる明細書、図面及び要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
本発明に係る複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法は、低誘電率材料、特に、ハイスピードマイクロエレクトロニクスで使用されるようなlow−k絶縁膜の複素誘電率を取得するのに有用である。
Claims (17)
- 平坦面が平行に対向配置された円形の第1及び第2電極と、
前記第1電極の中心に開口した円形開口孔の外周部から、前記第2電極と反対方向の外方に向かって突出する円筒形状の外部導体と、
前記第2電極の中心から、前記第1電極の円形開口孔を経由して前記外部導体の内部を外方に向かって延びる中心導体と、
前記第1電極と前記第2電極との間に挟まれた円筒形状の試料に対して、前記外部導体と前記中心導体からなる同軸線路に沿ってTEM(Transverse Electromagnetic Wave)電磁波を入力するとともに、前記試料に作用したTEM電磁波を取得する取得手段と、
取得したTEM電磁波に基づいて、試料の複素誘電率を測定する測定手段と、
を備える複素誘電率測定装置。 - 前記外部導体と前記中心導体は、同軸ケーブルのOPEN端部、又は、同軸接続コネクタである請求項1記載の複素誘電率測定装置。
- 前記試料に入力するTEM電磁波は、TEM円筒波を含む請求項1記載の複素誘電率測定装置。
- 前記試料に入力するTEM電磁波は、前記試料の内部を多重反射する請求項1記載の複素誘電率測定装置。
- 前記試料に入力するTEM電磁波は、前記試料の内部をTEMモードで伝播する請求項1記載の複素誘電率測定装置。
- 前記第1電極の平坦面と、前記第2電極の平坦面との間隔は、300μm以下である請求項1記載の複素誘電率測定装置。
- 前記測定手段は、取得したTEM電磁波を基に反射係数を求め、該反射係数を基に試料の複素誘電率を計算する請求項1記載の複素誘電率測定装置。
- 前記測定手段は、前記外部導体及び前記中心導体を断面円形形状とする前記試料の内部の多重反射の境界条件に基づいて、前記試料の複素誘電率を測定する請求項1記載の複素誘電率測定装置。
- 前記測定手段は、前記第1電極と前記第2電極との間に挟まれた円筒形状の試料の中心から前記試料の内縁までの領域Iと、前記内縁から前記試料の外縁までの領域IIとに分け、
前記領域Iと前記領域IIのそれぞれについて、TEM円筒波に対する電場及び磁場を与える前記多重反射の境界条件に基づいて、前記試料の複素誘電率を測定する請求項8記載の複素誘電率測定装置。 - 前記測定手段は、前記第1電極と前記第2電極との間に挟まれた円筒形状の試料の中心から前記試料の内縁までの領域Iと、前記内縁から前記試料の外縁までの領域IIとに分け、
TEM円筒波が、前記領域II内縁から入射し、前記外部導体と前記中心導体側から見た場合の、前記第1及び第2電極により形成される円形コンデンサの入力アドミッタンスに基づいて、前記試料の複素誘電率を測定する請求項1記載の複素誘電率測定装置。 - 円筒状の試料に、前記試料の中心軸から前記試料の平面に沿って放射状に広がるTEM電磁波を入力し、前記入力されたTEM電磁波を前記試料の内部で多重反射させるステップと、
前記試料に作用したTEM電磁波を取得するステップと、
取得したTEM電磁波に基づいて、前記試料の複素誘電率を測定する測定ステップと
を有する複素誘電率測定方法。 - 前記測定ステップでは、前記外部導体及び前記中心導体を断面円形形状とする前記試料の内部の多重反射の境界条件に基づいて、前記試料の複素誘電率を測定する請求項13記載の複素誘電率測定方法。
- 前記測定ステップでは、前記第1電極と前記第2電極との間に挟まれた円筒形状の試料の中心から前記試料の内縁までの領域Iと、前記内縁から前記試料の外縁までの領域IIとに分け、
TEM円筒波が、前記領域II内縁から入射した場合の、前記外部導体と前記中心導体側から見た場合の、前記第1及び第2電極により形成される円形コンデンサの入力アドミッタンスに基づいて、前記試料の複素誘電率を測定する請求項13記載の複素誘電率測定方法。 - 前記測定された複素誘電率を、フリンジ容量を評価して補正するステップをさらに含む請求項13記載の複素誘電率測定方法。
- 請求項13乃至請求項16のいずれかに記載の複素誘電率測定方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
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