JPWO2007046398A1 - 幹細胞特異的プロモーター - Google Patents
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Abstract
Description
造血幹細胞は造血系の再構築能を有し、自己あるいは同種の骨髄および臍帯血に由来する造血幹細胞がすでに臨床応用されている(特許文献1〜7、非特許文献2)。神経幹細胞は、ニューロンおよびグリア細胞等に分化する能力を有しており、パーキンソン病等の神経変性疾患に対する根治療法への利用が期待されている。間葉系幹細胞は骨細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、脂肪細胞、線維芽細胞等に分化する能力を有し、骨、軟骨、腱、骨格筋、靭帯組織、脂肪組織における疾患の治療および皮膚の創傷治癒への利用が期待されている(特許文献8)。
例えば、造血幹細胞の場合、マウス骨髄においてはCD34-/c-kit+/Sca1+/Lineage(Lin)-(非特許文献4)、ヒト末梢血においてはCD34+/CD38-/Lin-(非特許文献5、6)またはCD34+/KDR+(非特許文献7)、ヒト骨髄においてはCD34-/Lin-(非特許文献8)、ヒト臍帯血においてはCD34-/Lin-/CD133+/CD7-(非特許文献9)をマーカーとして、造血幹細胞が濃縮された細胞画分を分離できることが知られている。また、Hoechst33342の細胞外排出能を指標にしたFACS分画法により、骨髄side population(SP)から造血幹細胞が濃縮された細胞画分を分離できることが知られている(非特許文献10)。また、β-catenin遺伝子をマーカーとした造血幹細胞の分離方法が知られている(特許文献11、12)。
間葉系幹細胞(特許文献8、16〜22、非特許文献14〜19)の場合、分離方法としては、SH2+, SH4+, CD29+, CD44+, CD71+, CD90+, CD106+, CD120a+, CD124+, CD14-, CD34-, CD45-をマーカーとして用いる方法が知られている。
一方、ES細胞や胚性生殖細胞(EG細胞)が未分化状態で特異的に発現する遺伝子としてOct-3/4が知られている。Oct-3/4は原腸陥入前の胎児、発生初期の分裂時期、胚盤胞の内部細胞塊やembryonic carcinomaで発現し、分化すると発現が減少する。種々の解析からOct-3/4はES細胞等の未分化維持に必要であることが明らかにされている。Oct-3/4はRox-1と結合してESの未分化維持に必要なZn finger proteinであるRex-1の転写を活性化する(非特許文献24)。Oct-3/4遺伝子の発現を指標にして成体組織中の成体多能性幹細胞を同定する手法(特許文献9)が報告されている。
また、β2-microglobulinを指標にした多能性幹細胞の分離手法も知られているが(特許文献23)、組織中のβ2-microglobulin陽性細胞集団から陰性の多能性幹細胞を同定することは容易ではない。
また、ヌクレオステミンは、その発現様式から、幹細胞の幹細胞性(Stemness)の維持に必要であると同時に、成体組織に存在する幹細胞や多能性幹細胞を分離同定するのに適したマーカーとなることが期待されている。しかしながら、前記のようにヌクレオステミンは核小体に局在しているため、細胞内で発現するヌクレオステミンを検出するためには細胞固定が必要となり、ヌクレオステミンを発現する細胞を生きた状態で分離することは出来ない。また、ヌクレオステミン遺伝子のプロモーターやエンハンサーなどの発現調節領域についてはこれまで報告が全くない。
(1)配列番号1または配列番号3で表される塩基配列からなるDNAを含み、幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNA。
(2)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAを含むDNAが、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAである上記(1)のDNA。
(3)配列番号1、2または3で表される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつ幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNA。
(4)配列番号1、2または3で表される塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNA。
(5)配列番号1、2または3で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNA。
(6)幹細胞が成体幹細胞である、上記(1)〜(5)のいずれか1項のDNA。
(7)外来遺伝子配列の上流側に、上記(1)〜(6)のいずれか1項のDNAが連結されてなる、幹細胞特異的に外来遺伝子を発現させるベクター。
(8)外来遺伝子がβ−ガラクトシダーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、成長ホルモン遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、青色蛍光タンパク質遺伝子、黄色蛍光タンパク質遺伝子、赤色蛍光タンパク質遺伝子、β-ラクタマーゼ遺伝子およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる遺伝子である、上記(7)のベクター。
(9)幹細胞が成体幹細胞である、上記(7)または(8)のベクター。
(10)上記(7)〜(9)のいずれか1項のベクターを含有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
(11)ベクターが哺乳動物の染色体中に組み込まれてなる、上記(10)のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
(12)非ヒト哺乳動物がげっ歯類である、上記(10)または(11)のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
(13)げっ歯類がマウスである、上記(12)のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
(14)上記(7)〜(9)のいずれか1項のベクターを含有する形質転換細胞。
(15)上記(10)〜(13)のいずれか1項のトランスジェニック非ヒト哺乳動物から単離された、上記(14)記載の形質転換細胞。
幹細胞とは、多分化能を有すると同時に幹細胞が幹細胞を生み出すという自己複製能を有する細胞をいう。本発明において、幹細胞としては、前記の性質を有する細胞であればいずれも包含されるが、好ましくは胚性幹細胞(ES細胞)、成体幹細胞、より好ましくは成体幹細胞があげられる。
各種組織幹細胞としては、例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、消化管組織幹細胞、生殖組織幹細胞等があげられる。
プロモーターとは、細胞内でRNAポリメラーゼとの会合が可能な発現調節領域を含み、当該領域の下流(3’末端方向)に存在するコーディング配列の転写を開始させる機能を有する領域を含むDNA上の領域をいう。本発明においては、当該性質を有するプロモーターであればいずれのプロモーターも包含するが、転写の効率を調節するいわゆるエンハンサー領域をも含むプロモーターが好ましい。
幹細胞特異的なプロモーター活性とは、幹細胞におけるプロモーター活性が、他の細胞や組織と比較して高いことを意味する。
本発明のDNAとしては、配列番号1または3で表される塩基配列からなるDNAを含み、幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNAがあげられる。配列番号1で表される塩基配列からなるDNAを含むDNAとしては、配列番号2で表される塩基配列からなるDNA等があげられる。
配列番号2で表される塩基配列は、マウスヌクレオステミン遺伝子の翻訳開始点(1st atg)の下流6番目のgから該翻訳開始点の上流10058番目のgまでの約10kb からなる領域の配列である。
なお、前記マウスヌクレオステミン遺伝子の配列は、Genbank Accession Number NW_000091により、前記ヒトヌクレオステミン遺伝子の配列は、Genbank Accession Number NT_00595986により参照することができる。
(1)被検対象のプロモーターの下流に、例えばルシフェラーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、青色蛍光タンパク質遺伝子、黄色蛍光タンパク質遺伝子、赤色蛍光タンパク質遺伝子、β-ラクタマーゼ遺伝子、もしくはこれらの誘導体等のレポーター遺伝子を作動可能に連結した配列を含む活性測定用プラスミドを作製する工程、
(2)前記(1)の活性測定用プラスミドを用いて幹細胞および対照細胞を形質転換する工程、および
(3)前記(2)で得られた細胞におけるレポーター遺伝子の発現の有無を検出し、発現強度を測定する工程からなる方法により測定することができる。
本発明のDNAは、配列番号1、2または3で表される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加(以下、単に「変異」と称する場合がある)された塩基配列からなり、かつ幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNAを包含する。
本発明のDNAにおいて1以上の塩基が欠失、置換または付加されたとは、同一配列中の任意かつ1または複数の塩基配列中の位置において、1または複数の塩基の欠失、置換または付加があることを意味し、欠失、置換または付加が同時に生じてもよい。
また、本発明のDNAが幹細胞特異的なプロモーター活性を有するためには、配列番号1、2または3で表される塩基配列と、少なくとも60%以上、通常は80%以上、特に95%以上の相同性を有していることが好ましい。
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAとは、配列番号1、2または3で表される塩基配列を有するDNAをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0mol/lの塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/l塩化ナトリウム、15mmol/lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University (1995)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、上記したBLAST等を用いて計算したときに、配列番号1、2または3で表される塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するDNA、好ましくは80%以上の相同性を有するDNA、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
2.本発明のDNAを含有するベクター
本発明のベクターは、外来遺伝子配列の上流側に本発明のDNAが連結されており、幹細胞特異的に外来遺伝子を発現させることができる。
3.トランスジェニック非ヒト哺乳動物および形質転換細胞
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、本発明のベクターを含有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物であって、該発現ベクター中の外来遺伝子が幹細胞特異的に発現される。
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、ベクターが哺乳動物の染色体中に組み込まれていてもよい。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物の作製方法としては、例えば、マウス胚の操作マニュアル(近代出版、1989)、分子生物学プロトコール(南江堂、1994)、ジーンターゲティング(羊土社、1995)等により行うことができる。
外来遺伝子として前記マーカー遺伝子を含有したベクターを保持した形質転換細胞を用いた場合、該マーカー遺伝子の発現の有無および強度を指標として、形質転換細胞の中から幹細胞を簡便に分離同定することができる。
公知の形質転換法としては、例えばリン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーション法等があげられる。
ヒト組織におけるヌクレオステミン遺伝子の発現量を定量RT-PCR法にて測定した。各組織のcDNAは、ヒト正常組織由来の1μgのpoly A RNA (BD Biosciences Clontech社)に対してSuperScript First-strand System for RT-PCR (Invitrogen社)を用いて合成した。
調製したcDNA、ヒトヌクレオステミン遺伝子特異的プライマー、SyberGreen I (Molecular Probe社)、dNTP mixおよびDNA Taq polymerase(TaKaRa Ex TaqTMR-PCR, TaKaRa社)を含む反応液を作製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems社)を用いてPCR反応を行った。用いたcDNA量は2ngのpoly A RNA量に相当し、PCRプライマーは終濃度300nmol/L、dNTP mixは終濃度300nmol/Lになるように添加した。ヒトヌクレオステミン遺伝子特異的なプライマーの配列は配列番号4および5に、ヒトグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子特異的なプライマーの配列は配列番号6および7にそれぞれ示した。
また、各組織におけるヌクレオステミン遺伝子の発現量は、GAPDH遺伝子の発現量に対する相対量で表した。
結果を図2に示す。脳、腎臓および肝臓において、胎児でのヌクレオステミン遺伝子の発現が顕著に高いことが明らかとなった。胎児期の組織は幹細胞の存在比が高いことが知られており、胎児組織における幹細胞の存在比とヌクレオステミン遺伝子の発現量との相関が示された。
マウスの各種血球系細胞集団におけるヌクレオステミン遺伝子の発現量をRT-PCR法にて検討した。
まず、C57Bl/6マウス(日本クレア社)の骨髄から公知の方法により取得した血球系細胞について、細胞表面抗原およびHoechst33342 (Bis-Benzimide, Sigma社)の排出能を指標に、FACSソーター(BD FACSVantage SE System, BD Biosystems社)を用いて、造血幹細胞が存在しないと考えられているlineage陽性の細胞集団(Lin+)、造血幹細胞を僅かしか含まないと考えられているlineage陰性の細胞集団(Lin-)、造血幹細胞の存在が1000個に一個程度と考えられているc-kit陽性 Sca-1陽性 lineage陰性の細胞集団(KSL)におけるHoechst33342低排出性の亜群(MP/KSL)および高排出性の亜群(SP/KSL)を分取した。
調製したcDNA、遺伝子特異的プライマー、およびDNA Taq polymerase(TaKaRa Ex TaqTM, TaKaRa社)を含む反応液を調製し、PCR装置(GeneAmp PCR system9600, Perkin Elmer Cetus社, PTC-200 Peltier Thermal Cycler, MJ Research社)を用いてPCR反応を行った。用いたcDNA量は20ngのtotal RNA量に相当し、PCR プライマーは終濃度500nmol/Lとなるように添加した。マウスヌクレオステミン遺伝子特異的なプライマー配列は配列番号8および9に、マウスGAPDH遺伝子特異的なプライマー配列は配列番号10および11にそれぞれ示した。PCR反応の増幅数は、ヌクレオステミン遺伝子、GAPDH遺伝子に対してそれぞれ、35サイクル、20サイクルとした。
その結果、Lin+、Lin-、およびMP/KSLでは、ヌクレオステミン遺伝子の発現は検出限界以下であった。一方、SP/KSLではヌクレオステミン遺伝子の発現が検出されたことから、血球系細胞におけるヌクレオステミン遺伝子の発現はSP/KSLに限局していることが明らかとなった。
1.マウスヌクレオステミン遺伝子の上流配列のクローン化
まず、マウスヌクレオステミン遺伝子を含むゲノム配列のクローニングを行った。
マウスゲノムが挿入されたBACクローン(BACPAC Resources Center)からマウスヌクレオステミン遺伝子(Genbank Accession# BC037996)を含むクローン(RP23-84O17、Invitrogen社)を選出し、以下のサザン解析に供した。
制限酵素(KpnI, BamHI, EcoRIまたはHindIII, TaKaRa社)で処理したBACクローンRP23-84O17を転写したナイロンメンブレン(Hybond N+, Amersham社)に対して、上記DIG標識したマウスヌクレオステミン遺伝子のプローブをDIG High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit II(Roche社)を用いてハイブリダイズさせた。
次に、RP23-84O17をKpnIで酵素処理して得られた断片をpBlueScriptIISK(-)(Stratagene社)にクローニングしたライブラリーを作製し、上記プローブおよびDIG High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit II (Roche社)を用いて、ヌクレオステミン遺伝子の上流配列を含むKpnI断片(12.2kb)のサブクローンを確認した。配列解析を行った結果、クローニングした断片にはヌクレオステミン遺伝子の翻訳開始点(1st atg)より上流10kbを含む配列が含まれていた。
2.マウスヌクレオステミン遺伝子の上流配列を含むレポーターベクターの構築
増強された緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子レポーターベクター(pEGFP-N1, BD Biosciences Clontech社)をAseIおよびBglIIにて切断して平滑末端に変換した後、再結合することにより、プロモーターおよびエンハンサー領域を切除したレポーターベクター(pPLE)を構築した。上記のKpnI断片(12.2kb)の制限酵素部位KpnIから翻訳開始点(atg)の下流に存在するStuIまでの10kbの配列をpPLEの制限酵素部位KpnIからBamHI(平滑化処理)に挿入し、ヌクレオステミン遺伝子の翻訳開始位置より上流10kbのゲノム配列を含むEGFPレポーターベクターpPLEmNSgKSB10(図3)を構築した。pPLEmNSgKSB10に含まれる、ヌクレオステミン遺伝子の翻訳開始位置より上流10kbのゲノム配列を、配列番号2に示す。
3.ヌクレオステミン遺伝子上流10kb配列の転写調節能
上記の、ヌクレオステミン遺伝子の上流10kbのゲノム配列の転写調節能を解析するため、構築したEGFPレポーターベクターpPLEmNSgKSB10のレポーター活性を検討した。
樹立した細胞株を蛍光顕微鏡(ECLIPSE TE300, Nikon社)下で観察した結果、多くの細胞でEGFPが発現されており、ヌクレオステミン遺伝子上流10kbのゲノム配列がES細胞において転写活性を示すことが明らかとなった。
次に、前記細胞株について、FACSソーター(BD FACSVantage SE System, BD Biosystems社)でEGFPの発現量の高い細胞集団(EGFP++)および低い細胞集団(EGFP+)を分取し、それぞれの細胞集団のEGFPの発現レベルを調べた。
なお、各サンプルのヌクレオステミン遺伝子およびEGFP遺伝子の発現量をGAPDH遺伝子の発現量に対する相対量で表した。
pPLEmNSgKSB10に含まれるヌクレオステミン遺伝子の上流10kbのゲノム配列をKpnI、ついでNdeIで切断した後、Erase-a-Base System(Promega社)を用いて、5’側から段階的に欠失させた。
プラスミドを再環状化した後、大腸菌に導入し、pPLE-N1 mNSgKSB10 AU7078を得た。pPLE-N1 mNSgKSB10 AU7078に含まれる、約7kbのヌクレオステミン遺伝子上流の塩基配列を配列番号1に示す。
1.造血組織
実施例4で作製したトランスジェニックマウスの大腿骨より骨髄液を採取し、比重遠心法(Lymphoprep, 比重1.077, Fresenius Kabi Norge AS社)により単核球を分離した。FACS(FACS Vantage, Becton Dickinson社)により、EGFPの発現を確認した結果、約90%の細胞はEGFP陽性であった(図6のA)。
次に、前記単核球を抗ヌクレオステミン抗体(R&D system社製)で免疫染色した結果、EGFP強陽性の細胞集団(EGFP+++)ではヌクレオステミン蛋白の発現は高く、一方、EGFP弱陽性の集団(EGFP+)では低いことが明らかとなり、EGFPの発現と内在性のヌクレオステミンの発現には相関があることが示された。
結果を図7のAに示す。EGFP強陽性細胞(EGFP+++)は、中〜弱陽性細胞(EGFP++ 〜 EGFP+)と比較し、コロニーを形成する能力が高かった。この結果から、EGFP強陽性細胞集団(EGFP+++)の中に、造血幹細胞が高い頻度で含まれていると考えられた。
すなわち、C57BL/6マウス(Ly5.1)をレシピエントマウスとして用い、致死量のX線 (線原9.5Gy、0.5 Gy/min)を照射した後、尾静脈よりEGFP強陽性(EGFP+++)または弱陽性細胞(EGFP+)を注入し、4ヶ月飼育した。またその際、4×105個のLy5.1マウス由来骨髄単核球を同時に注入した。
以上の結果から、本トランスジェニックマウスの造血組織において、EGFPが造血幹細胞特異的に発現していることが明らかとなり、本トランスジェニックマウスを用いることによって、造血幹細胞を分離同定できることが示された。
2.生殖組織
10週齢雄のトランスジェニックマウスから精巣組織凍結切片および精細管whole-mount標本を作製し、蛍光顕微鏡(OLYMPUS FV1000, オリンパス社)でEGFPの発現を解析した。
次に、精細管内の細胞を1mg/mLコラゲナーゼTypeVI(Sigma社)および0.05% Trypsin-EDTA (Gibco社)処理により分離し、抗c-kit抗体、抗EpCAM抗体(BD Bioscience社製)を用いてFACS解析を行った。なおEpCAMは精原細胞の特異的マーカーである。
さらに、それぞれの細胞集団を生殖細胞の分化障害のあるWBB6F1 W/Wvマウス(SLC社より購入)の精細管に移植し、3ヶ月後に生着能を調べた。その結果、EGFP+++細胞に生着能が認められ、該細胞が幹細胞活性を有することが示された。
3.消化管組織
10週齢雄のトランスジェニックマウスの小腸組織標本を作製し、蛍光顕微鏡でEGFPの発現を解析した。その結果、幹細胞が存在すると考えられているクリプト下部に位置する細胞にEGFPの発現が認められたことから、消化管組織幹細胞が標識されていると考えられた。すなわち、本トランスジェニックマウスの消化管組織において、EGFPが消化管組織幹細胞特異的に発現していることが明らかとなった。
4.中枢神経組織
10週齢雄のトランスジェニックマウスの中枢神経組織標本を作製し、蛍光顕微鏡でEGFPの発現を解析した。その結果、中枢神経系の幹細胞が存在することが知られている海馬歯状回および側脳室に面する脳室下帯で、EGFPは特に強く発現していた。また、神経幹細胞の特異的マーカーであるGlial fibrillary acidic protein(GFAP)に対する抗体を用いた組織免疫染色により、EGFP強陽性細胞とGlial fibrillary acidic protein(GFAP)陽性細胞とが一致したことから、神経幹細胞が標識されていると考えられた。すなわち、本トランスジェニックマウスの中枢神経組織において、EGFPが神経幹細胞特異的に発現していることが明らかとなった。
配列表フリーテキスト
配列番号4−人工配列の説明:合成DNA
配列番号5−人工配列の説明:合成DNA
配列番号6−人工配列の説明:合成DNA
配列番号7−人工配列の説明:合成DNA
配列番号8−人工配列の説明:合成DNA
配列番号9−人工配列の説明:合成DNA
配列番号10−人工配列の説明:合成DNA
配列番号11−人工配列の説明:合成DNA
配列番号12−人工配列の説明:合成DNA
配列番号13−人工配列の説明:合成DNA
配列番号14−人工配列の説明:合成DNA
配列番号15−人工配列の説明:合成DNA
配列番号16−人工配列の説明:合成DNA
配列番号17−人工配列の説明:合成DNA
Claims (15)
- 配列番号1または配列番号3で表される塩基配列からなるDNAを含み、幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNA。
- 配列番号1で表される塩基配列からなるDNAを含むDNAが、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAである請求項1記載のDNA。
- 配列番号1、2または3で表される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつ幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNA。
- 配列番号1、2または3で表される塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNA。
- 配列番号1、2または3で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ幹細胞特異的なプロモーター活性を有するDNA。
- 幹細胞が成体幹細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のDNA。
- 外来遺伝子配列の上流側に、請求項1〜6のいずれか1項に記載のDNAが連結されてなる、幹細胞特異的に外来遺伝子を発現させるベクター。
- 外来遺伝子がβ−ガラクトシダーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、成長ホルモン遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、青色蛍光タンパク質遺伝子、黄色蛍光タンパク質遺伝子、赤色蛍光タンパク質遺伝子、β-ラクタマーゼ遺伝子およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる遺伝子である、請求項7記載のベクター。
- 幹細胞が成体幹細胞である、請求項7または8記載のベクター。
- 請求項7〜9のいずれか1項に記載のベクターを含有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- ベクターが哺乳動物の染色体中に組み込まれてなる、請求項10記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- 非ヒト哺乳動物がげっ歯類である、請求項10または11記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- げっ歯類がマウスである、請求項12記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- 請求項7〜9のいずれか1項に記載のベクターを含有する形質転換細胞。
- 請求項10〜13のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物から単離された、請求項14記載の形質転換細胞。
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