JPWO2006112451A1 - プロテインcインヒビターを含有する抗癌剤 - Google Patents

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Abstract

本発明によって、プロテインCインヒビター(PCI)またはその誘導体を有効成分として含有する抗癌剤が提供された。本発明の抗癌剤は、癌細胞の増殖、癌の転移、浸潤、そして血管新生の抑制作用を有する。更に本発明は、PCIのヘパリン結合領域を含む誘導体が、癌細胞の増殖、転移、並びに血管新生を抑制することを明らかにした。したがって本発明は、PCIあるいはその誘導体の、癌の増殖、転移、および血管新生の抑制に有用である。

Description

本発明は、抗癌剤に関する。より具体的には、本発明は、プロテインCインヒビターを含有する抗癌剤、プロテインCインヒビターを含有する抗癌剤による治療方法、およびプロテインCインヒビターを含有する抗癌剤の製造方法に関する。
近年、先進国における主な死亡原因は、感染症から成人病へとシフトしてきた。このような疾病構造の変化の中にあって、特に癌は、多くの国で共通して、主要な死亡原因の上位を占める重要な疾患である。たとえば日本においては、年間の癌による死亡者数は30万人を超えている。この数字は、心疾患による死亡者数のおよそ倍である。したがって癌の治療技術の提供は、重要な研究課題である。
癌の治療には、一般に、外科的治療、理化学的治療、そして薬物治療等が利用されている。理化学的治療とは、放射線療法、粒子線(荷電重粒子線)治療、あるいは温熱療法などが含まれる。薬物治療に利用される多くの化学療法剤も実用化された。更に、ワクチン療法、あるいは細胞免疫療法などの、新しいアプローチについても、その治療効果が明らかにされつつある。しかし、今なお、癌の治療方法の提供は、重要な研究課題である。特に、癌の悪性化を防ぐ技術、あるいは悪性の癌の治療方法が提供されれば、癌医療に大きく貢献する。
一般的に、癌の悪性化のメカニズムは、癌細胞の増殖、浸潤、および転移によって説明することができる。言い換えれば、増殖した癌細胞が、浸潤によって転移するとき、その癌は悪性とされる。癌の増殖には、通常、血管新生が伴う。したがって、血管新生もまた、癌の悪性化を構成する重要なメカニズムとされている。
癌の悪性化を構成する一連のメカニズムは、一般に次のように説明されている。まず原発巣で増殖した癌細胞が原発巣から離脱する。離脱した癌細胞がリンパ液や血流によって移動し、他の組織に浸潤する。浸潤した癌細胞が再び増殖を開始すると、転移が成立する。癌細胞の増殖には血管新生が必要である。あるいは原発巣から血流中への癌細胞の離脱においても、血管新生が重要な意味を持つ。これらの一連のメカニズムのいずれかを阻止することができれば、癌の悪性化を防ぐことができると考えられている。つまり、癌の治療、とりわけ悪性の癌の治療においては、細胞増殖、浸潤、転移、そして血管新生が、重要な治療標的となる。
癌の90%以上は上皮細胞で発生する。上皮細胞は相互にE-カドヘリンを介した細胞間接着によって強固なシート状の構造を保っている。そのため上皮細胞の移動は制限されている。悪性の癌では、この細胞間の接着機能が弱いために、原発巣からの離脱が起こりやすくなっていると考えられている。
しかし細胞の移動性のみでは悪性化を説明することはできない。通常、固形癌の癌組織は細胞外基質(extracellular matrix; ECM)によって包まれている。癌が転移するためには、癌細胞は、何らかのメカニズムによってECMを通過しなければならない。ECMは、主として、次のような成分によって構成されている。
コラーゲン(collagen) フィブロネクチン(fibronectin)
ラミニン(laminin) プロテオグリカン(proteoglycan)
エラスチン(elastin)
各成分、並びにその他の構成成分の割合は、組織によっても相違している。更にこれらの各成分そのものにも、いくつかのサブタイプが存在する。しかし複数の組織に共通して、ECMのもっとも主要な構成成分は、コラーゲンである。悪性の癌は、ECMのコラーゲンを分解する酵素を産生して組織の中を移動することが明らかにされた。一般にコラーゲンは安定な分子で、各種のプロテアーゼに対しても耐性を有することが多い。したがって、プロテアーゼによるECMの破壊は、癌が悪性化するための重要な条件である。ECMの分解に関与する複数のプロテアーゼが同定されている。ECMの分解に関与するプロテアーゼは、マトリクスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase; MMP)と呼ばれる。MMPは、癌の転移を防ぐための標的分子として重要視されている。生体中では、組織メタロプロテアーゼインヒビター(Tissue inhibitor of metalloproteinase; TIMP)やα-2-マクログロブリン(Alfa-2-macroglobulin; α2M)などのプロテアーゼインヒビターが、MMPの活性を制御している。
一方、プロテアーゼであるMMPの中には、他のプロテアーゼによる消化によって、潜在型から活性型に変化するものがある。たとえばMMP-1やMMP-3は、プラスミンによって活性型となることが知られている。プラスミンは、プラスミノーゲンの活性化によってプロテアーゼ活性を獲得する。そしてプラスミノーゲンの活性化に必要なのが、プラスミノーゲンアクチベータ(plasminogen activator;PA)である。PAにはウロキナーゼ型(uPA)と組織型(tPA)とが存在する。tPAは主に線溶系に作用し、血栓溶解剤としても利用されている分子である。一方uPAは癌の浸潤や転移に関与する可能性が指摘されている。
血管新生が癌の悪性化を構成する重要なメカニズムであることは既に述べた。したがって、MMPと同様に、癌組織における血管新生も、癌の治療戦略の重要な標的と考えられている。実際、血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor; VEGF)の発現が、多くの癌において亢進していることが知られている。またECMを分解するプロテアーゼは、先に述べた細胞の移動のみならず、血管新生においても重要な働きを持つことが指摘されている。たとえばプロテアーゼは、ECMを分解して血管を新生するためのスペースを作る。このように、癌の悪性化には、さまざまなプロテアーゼの活性制御システムが複雑に関与している。
一般にプロテアーゼは、生体中においてはそのインヒビターとの結合によって活性を制御されている。またPAのようなプロテアーゼ活性化因子の中にも、インヒビターでその機能が制御されているものもある。たとえば、先に述べたuPAは、尿中ではプロテインCインヒビター(protein C inhibitor; PCI)と複合体を形成していることが明らかにされている(非特許文献1)。またPCIがuPAの作用を阻害することも知られている(非特許文献2)。
PCIは、抗凝固系のプロテアーゼであるプロテインCの阻害因子として同定されたプロテアーゼインヒビターである(非特許文献3、非特許文献4)。セリンプロテアーゼ(SERPIN)ファミリーに属し、トロンビン、Xa因子、XIa因子、血漿カリクレイン、そしてuPA等に対する阻害作用を有することが確認されている。PAのインヒビターとして同定されたプラスミノーゲンアクチベータインヒビター−3(plasminogen activator inhibitor 3)は、PCIと同じ分子である。
Stump D.C. et al, J. Biol. Chem. 261:12759-66, 1986 Stief T.W. et al., Biol. Chem. Hoppe Seyler 368:1427-33, 1987 Marlar R.A. et al., J. Clin. Invest. 66:1186-9, 1980 Suzuki K. et al., J. Biol. Chem. 258:163-8, 1983
本発明は、抗癌剤の提供を課題とする。あるいは本発明は、癌の細胞増殖、転移、および血管新生の抑制作用を有する抗癌剤の提供を課題とする。また、本発明は、抗癌剤による治療方法および抗癌剤の製造方法に関する。
本発明者は、PCIが腎癌組織で発現が著しく低下していた事実に基づき、PCIの発現低下が腎癌の発生、腎癌細胞の増殖と関係すると考え、PCIの腎癌細胞の浸潤転移に及ぼす効果を検討した。そして、PCIが腎癌細胞のマトリゲル(in vitro)における浸潤を阻害することを既に明らかにしている(Wakita T. et al., Int. J. Cancer 108:516-23, 2004)。またPCIを過剰発現させた乳癌細胞において、細胞接着分子が増加することが報告されている(Palmieri D. et al., J. Biol. Chem. 277:40950-7, 2002)。これらのPCIの癌細胞に対する作用をin vivoにおいて確認するために、本発明者らは腎癌細胞Caki-1の増殖と転移に及ぼすPCIの影響を観察した。ところが実験に用いたCaki-1は、SCIDマウス中に生着しなかった(Wakita T. et al., Int. J. Cancer 108:516-23, 2004)。そのため、実際に生体中(in vivo)において、PCIが腎癌に対してどのような作用を有するのかは、現在もなお明らかでない。
そこで本発明者らは、Caki-1細胞に代えて乳癌細胞MDA-231細胞をもちいて検討を行い、生体内においてPCIが癌細胞に与える影響を観察することに成功した。そしてPCIが生体内において癌細胞の増殖や転移を阻害する作用を持つことを明らかにして本発明を完成した。更に、PCIのin vivoでの抗癌作用の一部は、PCIのプロテアーゼ阻害作用に依存しないことを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の抗癌剤を提供するものである:
〔1〕プロテインCインヒビター(PCI)またはその誘導体を有効成分として含有する抗癌剤。
〔2〕癌の増殖、癌の転移、および血管新生から選択された活性の少なくとも1つを抑制する〔1〕に記載の抗癌剤。
〔3〕癌が乳癌である〔1〕または〔2〕に記載の抗癌剤。
〔4〕プロテインCインヒビターの誘導体のプロテアーゼ阻害作用がプロテインCインヒビターよりも低い〔2〕に記載の抗癌剤。
〔5〕プロテインCインヒビターの誘導体が、プロテインCインヒビターのヘパリン結合領域を含む蛋白質である〔4〕に記載の抗癌剤。
〔6〕プロテインCインヒビターの誘導体が、ヘパリンおよびヘパリン様グリコサミノグルカンのいずれかまたは両方との結合能を有する蛋白質である〔5〕に記載の抗癌剤。
〔7〕癌の浸潤を抑制する〔1〕に記載の抗癌剤。
〔8〕プロテインCインヒビターの誘導体がプロテアーゼ阻害作用を有する〔7〕に記載の抗癌剤。
あるいは本発明は、プロテインCインヒビターまたはその誘導体の抗癌剤の製造における使用に関する。また本発明は、プロテインCインヒビターまたはその誘導体の癌の治療における使用に関する。加えて本発明は、プロテインCインヒビターまたはその誘導体を投与する工程を含む、癌の治療方法に関する。すなわち、本発明は、以下を提供するものである:
〔9〕プロテインCインヒビター(PCI)またはその誘導体を投与する工程を含む、癌の治療方法。
〔10〕癌の増殖、癌の転移、および血管新生から選択された活性の少なくとも1つが抑制される、〔9〕に記載の方法。
〔11〕癌が乳癌である〔9〕または〔10〕に記載の方法。
〔12〕プロテインCインヒビターの誘導体のプロテアーゼ阻害作用がプロテインCインヒビターよりも低い、〔10〕に記載の方法。
〔13〕プロテインCインヒビターの誘導体が、プロテインCインヒビターのヘパリン結合領域を含む蛋白質である、〔12〕に記載の方法。
〔14〕プロテインCインヒビターの誘導体が、ヘパリンおよびヘパリン様グリコサミノグルカンのいずれかまたは両方との結合能を有する蛋白質である、〔13〕に記載の方法。
〔15〕癌の浸潤が抑制される、〔9〕に記載の方法。
〔16〕プロテインCインヒビターの誘導体がプロテアーゼ阻害作用を有する、〔15〕に記載の方法。
〔17〕プロテインCインヒビターまたはその誘導体を有効成分として含有する抗癌剤の製造のための使用。
〔18〕抗癌剤が、癌の増殖、癌の転移、および血管新生から選択された活性の少なくとも1つを抑制する、〔17〕に記載の使用。
〔19〕癌が乳癌である、〔17〕または〔18〕に記載の使用。
〔20〕プロテインCインヒビターの誘導体のプロテアーゼ阻害作用がプロテインCインヒビターよりも低い、〔18〕に記載の使用。
〔21〕プロテインCインヒビターの誘導体が、プロテインCインヒビターのヘパリン結合領域を含む蛋白質である、〔20〕に記載の使用。
〔22〕プロテインCインヒビターの誘導体が、ヘパリンおよびヘパリン様グリコサミノグルカンのいずれかまたは両方との結合能を有する蛋白質である、〔21〕に記載の使用。
〔23〕抗癌剤が、癌の浸潤を抑制する、〔17〕に記載の使用。
〔24〕プロテインCインヒビターの誘導体がプロテアーゼ阻害作用を有する、〔23〕に記載の使用。
あるいは本発明は、PCIまたはその誘導体を有効成分として含有する、癌細胞の増殖抑制剤、癌の転移抑制剤、癌の浸潤阻害剤、あるいは癌組織における血管新生の阻害剤を提供する。また本発明は、PCIまたはその誘導体の、癌細胞の増殖抑制剤、癌の転移抑制剤、癌の浸潤阻害剤、あるいは癌組織における血管新生の阻害剤の製造における使用に関する。
加えて本発明は、PCIまたはその誘導体の、癌細胞の増殖抑制、癌の転移抑制、癌の浸潤阻害、あるいは癌組織における血管新生の阻害における使用に関する。更に本発明は、PCIまたはその誘導体を投与する工程を含む、癌細胞の増殖抑制方法、癌の転移抑制方法、癌の浸潤阻害方法、あるいは癌組織における血管新生の阻害方法に関する。
本発明によりPCIまたはその誘導体を有効成分として含有する抗癌剤が提供された。本発明によって、PCIはそのプロテアーゼ阻害作用依存的に、癌の浸潤を抑制することが明らかにされた。したがって、プロテアーゼ阻害作用を有するPCI誘導体は、癌の浸潤の抑制剤として有用である。一方、PCIによる癌における血管新生阻害作用は、PCIのプロテアーゼ阻害作用に依存しなかった。同様にPCIによる癌細胞の増殖阻害作用も、PCIのプロテアーゼ阻害作用に依存しないことが示された。したがって、プロテアーゼ阻害作用が低い、あるいは欠失したPCI誘導体は、血管新生の阻害剤並びに癌細胞の増殖抑制剤として有用である。PCIのプロテアーゼ阻害作用を欠失した誘導体が血管新生や細胞増殖を抑制することは、本発明によって示された新規な知見である。
プロテアーゼ阻害作用が低い、あるいは欠失したPCI誘導体の使用によって、プロテアーゼ阻害作用に起因する副作用を避けることができる。たとえばPCIは、線溶系に対する強力な阻害作用を有する。したがってPCIの投与によって、線溶系の阻害が起きる心配がある。しかし本発明に基づいてプロテアーゼ阻害作用を欠失したPCI誘導体を利用すれば、抗癌作用を維持しながら、線溶系に対する阻害作用の無い薬剤とすることができる。
また、PCIは、抗凝固作用や抗炎症作用を有する活性化プロテインC(APC)を阻害し、生体内の凝固制御系・炎症制御系を阻害する恐れがあり、同様に、PCIは、抗凝固作用を発揮するトロンビン・トロンボモジュリン複合体を阻害してプロテインCのAPCへの変換を阻害し、APCの生成を低下させる恐れがある。しかし、プロテアーゼ阻害作用を欠失したPCI誘導体を使用すればそれらの心配はなくなり、抗癌作用を維持しながら、凝固制御系・炎症制御系に対して影響を与えない抗癌剤とすることができる。
更に、アンジオスタチンやエンドスタチンなどの血管新生阻害作用を有する内因性の蛋白質の存在が知られている。これらの内因性血管新生阻害物質は、強力な血管新生阻害作用を有する。その作用を利用して、癌の血管新生作用を標的とする抗癌剤の開発が進められている。これらの内因性の血管新生阻害因子は、プラスミンやコラーゲンがある種のプロテアーゼによって消化されて産生されると考えられている。プロテアーゼ阻害剤は抗癌剤としての作用を有するとともに、一方では、これらの血管新生阻害因子の産生を妨げる可能性を伴っている。本発明によれば、プロテアーゼ阻害作用を伴わない薬剤を提供することができる。すなわち本発明によれば、内因性の血管新生阻害物質の産生に影響しない抗癌剤が提供される。
ヘパリン結合性のセルピン(SERPIN)であるカリスタチン(Kallistatin)が、血管新生を伴う癌細胞の増殖に対して抑制作用を持つことが明らかにされている(Miao R.Q. et al., Blood 100:3245-52, 2002)。カリスタチンによる癌細胞の血管新生の阻害作用は、VEGFとその受容体との結合において重要なヘパリンとの結合阻害によるものと推定された(Miao R.Q. et al., Am. J. Physiol. Cell Physiol. 284:C1604-13, 2003)。同様にヘパリン結合性セルピンであるアンチトロンビン(AT)も血管新生阻害作用を持つことが知られている(O'Reilly MS et al., Science 285:1926-8, 1999)。本発明では、これらの報告とは異なる機構、すなわち、PCIのプロテアーゼ阻害作用に依存しない機構による抗癌作用が確認された。PCIのプロテアーゼ阻害作用非依存性の抗癌作用は、既知の知見からは予測できなった作用である。
組換え原型PCI、R354APCI、およびdegPCIのウェスタンブロット解析を示す写真である。 各組換えタンパク質(レーン1、原型PCI;レーン2、R354APCI;レーン3、degPCI)1μgを、SDS-PAGE、ならびに抗ヒトPCIウサギIgGおよび次にアルカリホスファターゼ結合抗ウサギIgGを用いたウェスタンブロットに供した。材料および方法に記載したように、ウェスタンブルー安定化基質を用いて各バンドを可視化した。 組換え原型PCI、R354APCI、およびdegPCIによるAPCの阻害を示すグラフである。 ヒトAPCに対する各組換えPCIの阻害活性を以下のように決定した。ヘパリン(10 U/ml)の存在下において、各組換えタンパク質(40μg/ml)をヒトAPC(40μg/ml)と共に20分間インキュベートした後、S-2366を用いて残存APC活性を決定した。 トランスフェクションしていないMDA-231細胞の浸潤活性に及ぼすPCIの効果を示すグラフである。 図3A―Dは、トランスフェクションしていないMDA-231細胞(2 x 105)を、様々な濃度のPCI (A)、および抗ヒトuPA IgG (B)、PAI-1 (C)、またはuPA (D)の存在下でDMEM 500μl中に懸濁し、培養インサート(上チャンバー)に入れた。下チャンバーは、化学誘引物質としての10% FBSを含むDMEM 750μlを含んだ。24時間インキュベートした後、膜の下表面上の浸潤細胞を固定し染色した。光学顕微鏡下で100 x倍率において、細胞をカウントした。データは、4枚の独立した浸潤膜に由来する細胞の数(平均値±S.D.)として表す。NDは「未検」を示す。 トランスフェクションしていないMDA-231細胞の浸潤活性に及ぼす抗ヒトuPA IgGの効果を示すグラフである。 トランスフェクションしていないMDA-231細胞の浸潤活性に及ぼすPAI-1の効果を示すグラフである。 トランスフェクションしていないMDA-231細胞の浸潤活性に及ぼすuPAの効果を示すグラフである。 MDA-231細胞浸潤に及ぼす組換え原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの効果を示すグラフである。トランスフェクションしていないMDA-231細胞(2 x 105)を、10μg/mlの原型PCI、R354APCI、またはdegPCIの存在下でDMEM 500μl中に懸濁し、培養インサート(上チャンバー)に入れた。下チャンバーは、化学誘引物質としての10% FBSを含むDMEM 750μlを含んだ。24時間インキュベートした後、膜の下表面上の浸潤細胞を固定し染色した。光学顕微鏡下で100 x倍率において、細胞をカウントした。データは、4枚の独立した浸潤膜に由来する細胞の数(平均値±S.D.)として表す。*p<0.05。 原型PCI、R354APCI、およびdegPCI発現MDA-231細胞株の浸潤活性を示すグラフである。MDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、またはMDA-Mock細胞株(2 x 105)をDMEM 500μl中に懸濁し、培養インサート(上チャンバー)に入れた。その後の実験手順は、図4の説明に記載したものと基本的に同じである。データは、4枚の独立した浸潤膜に由来する細胞の数(平均値±S.D.)として表す。*p<0.05。 SCIDマウスにおける原型PCI、R354APCI、およびdegPCI発現MDA-231細胞株の増殖を示すグラフである。滅菌したDMEM 200μl中の2 x 105個細胞のMDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、またはMDA-Mockを、5週齢の雄SCIDマウスの腹壁に皮内注射し、ノギス測定(calipation)により腫瘍容積を測定した。 SCIDマウスにおける原型PCI、R354APCI、およびdegPCI発現MDA-231細胞株の実験的転移を示すグラフ、及び写真である。MDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、またはMDA-Mock細胞株(2 x 105)をDMEM 200μlに懸濁し、5週齢の雌SCIDマウスに静脈内注射した。35日後に肺を摘出して固定し、腫瘍巣数をカウントすることにより肺の転移形成を定量した。代表的な結果を示す写真(A)、および6匹のマウスの増殖巣数(平均値±S.D.)として表したグラフ(B)を示す。 SCIDマウスにおける、原型PCI、R354APCI、およびdegPCI発現MDA-231細胞株を含むマトリゲルでの新血管形成および血管新生の定量的解析を示すグラフ、及び写真である。VEGFおよび様々な濃度のヘパリンと共にMDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、またはMDA-Mock(2 x 106 細胞)を含むマトリゲル0.5 mlを、各雄SCIDマウスの腹部正中近傍に皮下注射した。3日後、デジタルカメラシステム(Olympus、ニューヨーク州、メルビル)で、マトリゲルへの新血管形成を撮影した(A)。同時に、マトリゲルプラグを除去し、ハンクス液に溶解した0.1%コラゲナーゼ1 mlでこれを消化し、ヘモグロビンアッセイ法により新血管形成を定量した。それぞれについて、n>6および平均値±S.Dを示す(B)。 CAMでの血管形成に及ぼす原型PCI、R354APCI、およびdegPCの効果を示すグラフである。原型PCI、R354APCI、およびdegPCIを含むディスクを、胚の尿漿膜(CAM)上に載せた。デジタルカメラシステム(Olympus、ニューヨーク州、メルビル)およびNIH Image 1.61(NIH、メリーランド州、ベテスダ)により、CAMの画像を撮影した。新血管長を画素として測定し、結果を平均値±S.Dとして表す。*p<0.05。 HUVECの管形成に及ぼす原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの効果を示すグラフ、及び写真である。マトリゲルをコーティングした24ウェルプレート上で、5% FBSを添加したMCDB-131中、HUVEC(2 x 104 細胞)を、10μgの原型PCI、R354APCIもしくはdegPCIの存在下、またはこれらのPCIの非存在下(対照)において培養した。プレーティングしてから6時間後に写真を撮影し(倍率x 100)(A)、管形成に及ぼす様々な組換え変異体PCIの効果を定量解析した(B)。管長を画素として測定し、結果を平均値±S.Dとして表す。*p<0.05。
本発明により、PCIがin vivoにおいて抗癌作用を示すことが見出された。PCIによる抗癌作用は、癌細胞の増殖、浸潤、そして血管新生の抑制によってもたらされることが確認された。更に、これらの抗癌作用を維持した複数のPCI誘導体の存在が明らかにされた。これらの知見に基づいて、PCIまたはその誘導体を有効成分として含有する、抗癌剤が提供された。
PCIは、分子量約57 kDaの一本鎖糖蛋白質である。本発明においては、天然PCI及び人工的に作製したPCIを用いることができる。ヒトおよびその他の哺乳動物のPCIが公知である(Suzuki, K. et al., J. Biol. Chem. 262:611-6, 1987)。ヒトの治療に用いる場合には、ヒト由来のPCIが好ましい。ヒトPCIのアミノ酸配列を配列番号:2(GenBank Accession Number: P05154)に、そしてcDNAの塩基配列を配列番号:1に示す。
本発明においては、ヒト以外の種に由来するPCIを利用することもできる。具体的には、哺乳動物のPCIとしては、例えばマウス、ラット、またはウシ等のPCIが公知である(Zechmeister-Machhart, M. et. al., Gene 186(1):61-6, 1997; Wakita, T. et. al., FEBS Lett. 429(3):263-8, 1998; Yuasa, H. et. al., Thromb. Haemost. 83(2):262-7, 2000)。
本発明において、抗癌作用を有する限り、PCIの全長を含むポリペプチドに加え、その断片配列を含むポリペプチドを用いることもできる。本発明において、抗癌作用を維持したPCIの断片配列を含むポリペプチドは、PCIの誘導体と言う。PCIの全長を含むポリペプチド、あるいはその断片配列を含むポリペプチドには、その他のペプチドにより修飾された融合ポリペプチドが含まれる。以下、PCIに加えて、その抗癌作用を維持した誘導体を含む用語として、「PCIs」を用いる場合がある。
本発明によって、癌細胞の転移や増殖活性は、PCIのプロテアーゼ阻害作用には依存しないことが示された。したがって、癌の転移および増殖の両方またはいずれかを抑制するための抗癌剤の有効成分として、プロテアーゼ阻害活性が低い、あるいは欠失したPCI断片を利用することができる。本発明において、プロテアーゼ阻害活性が低いとは、天然のPCIと比較して、たとえば50%以下、あるいは30%以下、通常10%以下のプロテアーゼ阻害活性を言う。
プロテアーゼに対するPCI誘導体の阻害活性は、たとえば実施例に示すような方法によって評価することができる。すなわち、活性化プロテインC(activated protein C; APC)を、阻害作用を評価すべきPCI誘導体とともにインキュベートする。インキュベート後のプロテアーゼ活性を比較することによって、PCIまたはその誘導体のプロテアーゼ阻害活性を評価することができる。プロテアーゼの活性は、適当な基質を与え、プロテアーゼによって消化される基質の量、あるいは消化の速度を指標として測定することができる。ペプチドに色素を結合した発色基質を用いれば、消化を光学的に追跡することができる。実施例においては、発色基質としてGlu-Pro-Arg-p-nitroanilide (S-2366)を用いた。
プロテアーゼ阻害活性の評価に用いるaPC(activated protein C)は、遺伝子工学的にあるいは化学的に合成したaPCを利用することができる。aPCは、その全長アミノ酸配列のみならず、酵素活性を維持した断片を用いることもできる。ヒトおよびその他の哺乳動物のaPCのアミノ酸配列は公知である(Mather, T. et al., EMBO J. 15:6822-6831, 1996; Foster, D.C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 82:4673-4677, 1985)。例えば、市販のaPC(protein C activated, from human plasma (ヒト血漿由来), SIGMA, #P2200)を用いることもできる。
プロテアーゼ阻害活性が低いPCI誘導体として、たとえば次のようなポリペプチドを示すことができる。これらの条件を備えたポリペプチドは、本発明における抗癌剤の有効成分として有用である。
(a) ヘパリン結合領域を構成するアミノ酸配列を含むPCIの断片
(b) aPCによる消化部位に変異を有する変異PCI
続いて、本発明において有用なPCI誘導体について具体的に説明する。本発明におけるプロテアーゼ阻害作用を欠失したPCI変異体として、たとえば、PCIのヘパリンあるいはヘパリン様グリコサミノグルカンとの結合領域を含むポリペプチドを示すことができる。たとえばヒトPCIのアミノ酸配列中、次に示す領域は、ヘパリンとの結合において重要な領域であるとされている(Kuhn L.A. et al, Proc Natl Acad Sci USA. 87:8506-8510, 1990)。ヒト以外の種に由来するPCIにおいても、両者のアミノ酸配列を整列させ、当該領域に相同な領域を同定することができる。したがって、この領域を含むPCIの断片は、本発明におけるPCI誘導体として利用することができる。このような断片アミノ酸配列として、たとえばN末端側1−354位のアミノ酸残基を含む断片を示すことができる。実施例においてdegPCIとして記載された断片(配列番号:15)は、配列番号:2の1−354位に相当するアミノ酸配列であり、プロテアーゼ阻害作用は持たない一方で、十分な抗癌作用を示すことが確認された。
1位− 15位 (helix A)
264位−278位 (helix H)
PCIと結合するヘパリン様グルコサミノグルカンの例を表1にその構造とともに示す。表1にはこれらのヘパリン様グルコサミノグルカンの生体内における分布も合わせて示した。これらのグルコサミノグルカンに結合するPCI誘導体は、本発明に有用である。

中でもコンドロイチン硫酸は、PCIの作用を増強する作用が大きい。あるいはデキストラン硫酸もヘパリンと同様にPCIの作用を増強することが知られている(Kazama Y. et al., Thromb Res. 48(2):179-85, 1987 Oct 15)。したがって、コンドロイチン硫酸やデキストラン硫酸との結合性を維持したPCIの変異体は、本発明において好ましい。
PCI誘導体のヘパリンあるいはヘパリン様グリコサミノグルカンとの結合性は、任意の方法によって評価することができる。以下、ヘパリンおよびヘパリン様グリコサミノグルカンを示す用語として、ヘパリン類を用いる。たとえば、PCI誘導体とヘパリン類との結合を、固定化したヘパリン類に対するPCI誘導体の結合を観察することによって評価することができる。たとえばヘパリンカラムを利用して、ヘパリンに対するPCI誘導体の結合を比較することができる。すなわち、ヘパリンアガロースカラムでPCIまたはPCI誘導体を吸着し、NaClで溶出する。溶出分画中に含まれるPCIまたはPCI誘導体をELISA等で定量して、カラムへの吸着レベルを比較することができる。ヘパリンに対する吸着活性が大きいPCIまたはPCI誘導体はより遅い分画に溶出される(Kuhn L.A. et al, Proc Natl Acad Sci USA. 87: 8506-8510, 1990)。
本発明におけるPCI誘導体として、aPCによる消化部位に変異を有する変異PCIを用いることもできる。PCIがaPCに結合して不活性化する過程で、PCIはそのC末端に近い領域でaPCに消化されてC末端側の断片が遊離する。aPCによって切断される部分は354−355位のArg-Serの間であることが明らかにされている(Suzuki K. et al., J. Biol. Chem. 262(2):611-616, 1987)。そしてこの領域に変異を含むPCI誘導体は、aPCによって消化されず、そのプロテアーゼ阻害活性を失う。たとえば実施例に示したPCI変異体R354APCIは、354位のArgをAlaに変異させたPCI誘導体である。R354APCIは、N末端領域におけるヘパリンとの結合性は保持しているが、aPCによる消化部位に変異を含むために、プロテアーゼ活性を持たない。このような変異体を、本発明におけるPCI誘導体として用いることもできる。
本発明におけるPCIは、配列番号:2のアミノ酸配列からなるヒトポリペプチドの他、ヒト以外の様々な種に由来するポリペプチドであってもよい。本発明におけるPCI誘導体は、抗癌作用を有する限り、PCIのアミノ酸配列において1またはそれ以上のアミノ酸残基が改変された、アミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。アミノ酸配列の改変とは、アミノ酸配列における、1つまたはそれ以上のアミノ酸の欠失、置換または付加であってもよい。例えば、生体内における安定性、あるいはPCIの物理的および生物学的特性を改善するために、そのアミノ酸配列を改変することができる。アミノ酸配列の改変方法は、公知である。たとえば、部位特異的変異(Kunkel T.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-92, 1985参照)、PCR変異、カセット変異等の方法によってアミノ酸配列を改変したポリペプチド、あるいはそれをコードするDNAを得ることができる。
このような変異体は、元のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップ導入した後、元となったPCIのアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸残基に置換することにより、蛋白質の性質を維持することができる。例えば次のような特徴を有するアミノ酸は、互いに類似した特長を持ち、相互に置換したときに、蛋白質の活性が維持される可能性が高い。なお括弧内に記載したアルファベットは、いずれもアミノ酸の一文字表記を表す。
疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)
親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)
脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)
水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)
硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)
カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)
塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)
芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)
これらの各グループ内のアミノ酸の置換は、保存的置換と呼ばれる。あるアミノ酸配列に対する1または複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D.F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:5662-6, 1984; Zoller, M.J. and Smith, M., Nucleic Acids Res. 10:6487-500, 1982; Wang, A. et al., Science 224:1431-3, 1984; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad .Sci. USA 79:6409-13, 1982)。本発明において変異するアミノ酸数は特に制限されない。通常、全長アミノ酸配列を構成するアミノ酸の40%以内であり、好ましくは35%以内であり、さらに好ましくは30%以内(例えば、25%以内)である。アミノ酸配列の同一性は、以下の方法により決定することができる。
具体的には、塩基配列あるいはアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S. and Altschul S.F., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-7, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul S.F. et al., J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI (National Center for Biotechnology Information) の BLAST (Basic Local Alignment Search Tool) のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
本発明において、PCIおよびその抗癌作用を維持した誘導体を用いることができる。PCIおよびPCI誘導体の抗癌作用は、たとえば実施例に示すような方法によって確認することができる。具体的には、癌細胞の浸潤、増殖、転移、あるいは血管新生等の作用に与える影響を確認するために、以下のような方法を利用することができる。これらの方法によって候補ポリペプチドの抗癌作用を確認し、浸潤、増殖、転移、あるいは血管新生の少なくともひとつの抗癌作用を確認できたポリペプチドを本発明におけるPCI誘導体として選択することができる。抗癌作用は、抗癌作用を有しない対照ポリペプチドとの比較によって評価することができる。ポリペプチドをコードするDNAを保持したベクターを使って抗癌作用を評価するときには、当該DNAを含まないベクター(Mock)を対照とすることもできる。あるいは抗癌作用を有することが確認されているポリペプチドを対照とすることで、同程度、あるいはそれ以上の抗癌作用を有することを確認することもできる。
[浸潤:in vitro浸潤アッセイ法(in vitro invasion assay)]
マトリゲル中で癌細胞の浸潤を観察することができる。癌細胞をPCI誘導体の存在下でインキュベーションすることによって、PCI誘導体が癌細胞の浸潤に与える影響を確認することができる。
[増殖:in vivoにおける腫瘍増殖の評価(evaluation of tumor growth in vivo)]
PCI誘導体をコードするDNAで形質転換された癌細胞の増殖を観察することによって、PCI誘導体が癌細胞の増殖に与える影響を評価することができる。癌細胞としてはたとえば乳癌細胞MDA-231を利用することができる。癌細胞はSCIDマウスに移植して、生体中における癌細胞の増殖に与える影響を評価することができる。
[転移:実験的肺転移のアッセイ法(assay of experimental lung metastasis)]
生体内における評価系を利用して、PCI誘導体が癌細胞の転移に与える影響を評価することもできる。たとえば、乳癌細胞MDA-231をSCIDマウスの尾静脈に接種し、肺への転移を観察することができる。PCI誘導体をコードするDNAの形質転換によって肺への転移が抑制されれば、PCI誘導体の転移に対する抑制作用が確認できる。
[血管新生:マトリゲル移植アッセイ法(matrigel implant assay)]
癌組織における血管新生に与えるPCI誘導体の影響を、in vivoで評価することもできる。すなわち、癌細胞を含むマトリゲルをSCIDマウスに移植し、マトリゲル中への血液成分の進入を指標として、癌細胞の血管新生活性を評価することができる。実施例においては、マトリゲルを消化して、マトリゲル中に含まれるヘモグロビンの含有量を比較した。PCI誘導体をコードするDNAで形質転換された癌細胞において、血管新生が抑制されれば、PCI誘導体の血管新生に対する抑制作用を確認することができる。
[血管新生:ニワトリ漿尿膜アッセイ法(Chick chorioallantoic membrane assay: CAM-assay)]
トリの漿尿膜上で癌細胞を培養して、漿尿膜における血管新生を観察することにより、癌細胞の血管新生活性を評価することができる。PCI誘導体をコードするDNAで形質転換された癌細胞において、血管新生が抑制されれば、PCI誘導体の血管新生に対する抑制作用を確認することができる。
[血管新生:in vitro血管新生アッセイ法(in vitro angiogenesis assay)]
マトリゲル中で癌細胞を培養するときに、マトリゲル中に癌細胞によって形成される毛細管を指標として、癌細胞の血管新生活性を評価することができる(Schnaper H.W. et al., J. Cell Physiol. 65:107-18, 1995)。PCI誘導体をコードするDNAで形質転換された癌細胞において、血管新生が抑制されれば、PCI誘導体の血管新生に対する抑制作用を確認することができる。
本発明において、癌細胞として乳癌細胞MDA-231を用いることで、癌細胞の増殖、浸潤、転移、および血管新生等の活性を生体内で評価することができる。すなわち、MDA-231をSCIDマウスに移植することによって、増殖、浸潤、転移、および血管新生という癌の悪性化機構を実験的に再現することができる。したがって本発明は、以下の工程を有する、被験物質の抗癌作用の評価方法を提供する。
a)乳癌細胞MDA-231を免疫不全動物に移植する工程;
b)a)の移植の前、移植と同時、または移植の後のいずれかのタイミングで、被験物質をMDA-231に接触させる工程;
c)MDA-231の癌細胞としての活性を測定する工程;および
d)c)で測定した活性が対照と比較して低い場合に被験物質の抗癌作用が検出される工程。
本発明において、癌細胞としての活性とは、細胞の増殖、浸潤、転移、および血管新生からなる群から選択することができる。これらの活性は、たとえば先に述べたような方法によって測定することができる。一方上記の方法に用いるMDA-231細胞は、MDA-MB-231としてセルバンクから入手することができる (ATCC Accession No. HTB-26)。
PCIは、血液、尿、精漿、滑液またはPCIを発現する細胞若しくは組織等を原料として、その物理的性質等に基づいて天然より単離することができる。また、公知の配列情報に基づき、化学的に合成してもよい。PCI誘導体については、目的とするアミノ酸配列をコードするDNAを発現させることによって、遺伝子工学的に合成することができる。すなわち、遺伝子組換え技術により、PCIまたはPCI誘導体をコードする遺伝子で宿主細胞を形質転換することができる。遺伝子は適当な発現ベクターに組み込んで、宿主細胞に形質転換するのが好ましい。得られた形質転換細胞を培養することにより、該細胞またはその培養上清中から、PCIまたはPCI誘導体を得ることができる。PCIまたはPCI誘導体の組換え体は、例えば、実施例に記載したようにして調製することができる。
遺伝子工学的にPCIまたはPCI誘導体を製造する際に適当なベクターとして、ウイルス、コスミド、プラスミド、バクテリオファージ等を利用した各種ベクターを利用することができる(Molecular Cloning 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987))。所望の宿主細胞内に導入された場合にPCIが発現されるよう、ベクターは適当な制御配列を含むことができる。PCIまたはPCI誘導体をコードする遺伝子は、該制御配列に対して読み枠がずれないようにベクターに挿入される。ここで、PCIまたはPCI誘導体をコードする遺伝子は、選択されたベクターおよび宿主において発現され得るものであれば、その種類や塩基配列は任意である。またDNAのみならず場合によっては、RNA等も利用することができる。
発現に好適な「制御配列」は、宿主細胞やベクターに応じて適宜選択することができる。具体的には、宿主細胞として原核細胞を選択した場合には、制御配列として、少なくともプロモーター、リボソーム結合部位及びターミネーターがベクターに含まれる。真核細胞の場合には、必須の制御配列は、プロモーターおよびターミネーターである。さらに必要に応じ、エンハンサー、スプライシングシグナル、転写因子、トランスアクチベーター、ポリAシグナル及び/またはポリアデニル化シグナル等を含むことができる。
PCIまたはPCI誘導体を発現するためのベクターは、さらに必要に応じ、選択可能なマーカーを含んでいてもよい。マーカーによって形質転換された宿主細胞を容易に選択することができる。さらに、細胞内で発現されたPCIまたはPCI誘導体を、小胞体内腔若しくは細胞外、または、宿主がグラム陰性菌の場合にはペリプラズム内への移行させるためにシグナルペプチドコード配列をPCI遺伝子またはPCI誘導体遺伝子に付加するようにしてベクターに組み込んでもよい。このようなシグナルペプチドは、選択された宿主細胞において正確に認識されればよく、PCI固有のものでも、異種蛋白質由来のものであってもよい。また、必要に応じリンカー、開始コドン及び終止コドン等を付加してもよい。たとえば配列番号:2に記載されたアミノ酸配列406アミノ酸残基中、N末端の1−19位はヒトPCI固有のシグナル配列である。したがって、この領域のアミノ酸配列を他のシグナル配列に組み換えることもできる。
遺伝子は、制限酵素部位を利用したリガーゼ反応により、ベクターに挿入することができる(Molecular Cloning 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989)Section5.61-5.63; Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987)11.4-11.11)。また、使用する宿主細胞のコドン使用頻度を考慮して、高い発現効率が得られる塩基配列を選択し、ベクターを設計することができる(Grantham R. et al., Nucleic Acids Res. 9:r43-74, 1981)。
適当な宿主に導入してPCIまたはPCI誘導体を作製する場合には、上述の発現ベクターと適当な宿主との組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞及び真菌細胞を用いることができる。宿主として利用できる細胞を以下に例示する。
[動物細胞]
(1) 哺乳類細胞:例えば、CHO, COS,ミエローマ、BHK(baby hamster kidney),HeLa,Vero,
(2) 両生類細胞:例えば、アフリカツメガエル卵母細胞
(3) 昆虫細胞:例えば、Sf9, Sf21, Tn5等、若しくはカイコ等の個体
[植物細胞]
ニコティアナ(Nicotiana)属:例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞をカルス培養する
[真菌細胞]
酵母:例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属;例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)
糸状菌:例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属;例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)等
[原核細胞]
細菌細胞:例えば大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)
これらの細胞に、PCI遺伝子またはPCI誘導体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することによりPCIまたはPCI誘導体が得られる。
宿主細胞の形質転換は、選択した宿主及びベクターに適した方法を採用すればよい。例えば、原核細胞を宿主とする場合には、カルシウム処理及びエレクトポレーション等による方法が知られている。植物細胞についてはアグロバクテリウム法を、哺乳動物細胞についてはリン酸カルシウム沈降法を例示できる。本発明は、特にこれらの方法に限定されるわけではなく、公知の核マイクロインジェクション、細胞融合、電気パルス穿孔法、プロトプラスト融合、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、DEAE-デキストラン法、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)を用いた方法を包含する様々な方法を採用することができる。
宿主細胞の培養は、選択した細胞に適した公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とする場合、DMEM、MEM、RPMI-1640、199またはIMDM等の培地を用い、必要に応じウシ胎児血清(FCS)等を添加して、pH約6〜8、30〜40℃において15〜200時間前後の培養を行うことができる。その他、培養中、必要に応じ培地の交換、通気、攪拌等の必要とされる操作を行うことができる。
PCIおよびPCI誘導体は、公知の手法により精製して用いることが好ましい。PCIまたはPCI誘導体は、一般的な蛋白質の精製方法に従って均一に精製することができる。例えば、次に示すような精製技術を適宜選択し、組み合わせて目的とする蛋白質を分離・精製することができる(Strategies for Protein Purification and Charcterization: A Laboratoy Course Manual, Daniel R.Marshak et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996);Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)) 。
クロマトグラフィーカラム
フィルター
限外濾過
塩析
透析
調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動
等電点電気泳動等
本発明における精製方法は、これらに限定されない。また本発明に利用できるクロマトグラフィーとしては、次のようなクロマトグラフィーを示すことができる。
アフィニティークロマトグラフィー
イオン交換クロマトグラフィー
疎水性クロマトグラフィー
ゲル濾過
逆相クロマトグラフィー
吸着クロマトグラフィー等
これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーには、例えば、PCIに対する抗体を用いることができる。
本発明の抗癌剤は、上述のようにして得られるPCIまたはPCI誘導体を有効成分として含有する。有効成分として配合されるPCIまたはPCI誘導体は単一であってもよいし、複数種のPCIおよび/またはPCI誘導体を配合することもできる。なお、PCIおよび/またはPCI誘導体を「有効成分として含有する」とは、PCIおよび/またはPCI誘導体を活性成分の少なくとも1つとして含むことを言う。抗癌剤における有効成分の含有率は限定されない。また、本発明の抗癌剤は、PCIおよび/またはPCI誘導体と合わせて、抗癌作用を有する他の有効成分を含有することができる。
PCIおよびPCI誘導体は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含むこともできる。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の抗癌剤は、その他常用の担体を含むこともできる。
具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等の蛋白質、並びに、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸を含むこともできる。
注射用の水溶液とする場合には、PCIおよび/またはPCI誘導体を、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
また、必要に応じPCIおよび/またはPCI誘導体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知である(Langer et al., J. Biomed. Mater. Res. 15:167-277, 1981; Langer, Chem. Tech. 12:98-105, 1982; 米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman K.R. et al., Biopolymers 22:547-56, 1983; EP第133,988号)。これらの公知の製剤技術を本発明に応用することができる。
本発明の抗癌剤は、経口または非経口のいずれの経路によっても投与することができる。好ましい投与方法は、非経口投与である。具体的には、注射、経鼻投与、経肺投与及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射または皮下注射等により全身または局部的に投与することができる。
また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の抗癌の投与量は、これらの投与量に制限されない。
また、上述のPCIおよび/またはPCI誘導体をコードする遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うための抗癌剤とすることもできる。遺伝子の投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングすることもできる。あるいは各種の遺伝子治療用ベクターを利用することもできる。たとえば以下のような遺伝子治療用の各種ウイルスベクターが公知である(Adolph K.W. ed., Viral Genome Methods, CRC Press, Florid (1996)参照)。
レトロウイルスベクター
アデノウイルスベクター
ワクシニアウイルスベクター
ポックスウイルスベクター
アデノ随伴ウイルスベクター
HVJベクター等
あるいは、コロイド金粒子等のビーズ担体に遺伝子を被覆(WO93/17706等)して投与することができる。生体内においてPCIまたはPCI誘導体が発現され、その作用を発揮できる限り、遺伝子の投与方法は限定されない。好ましくは、適当な非経口経路を介して遺伝子を注射、あるいは注入することにより十分な量が投与される。非経口経路としては、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入若しくは筋肉内の経路、ガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、添鼻薬等粘膜経路を介する方法等を示すことができる。ex vivoにおいて遺伝子を細胞に導入し、該細胞を動物に戻すことによりPCIまたはPCI誘導体をコードする遺伝子を投与することもできる。ex vivoにおける遺伝子の導入には、リポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、またはウイルス感染等を利用することができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
<材料および方法>
1)材料
制限エンドヌクレアーゼは、TOYOBO、日本、大阪から購入した。Taq DNAポリメラーゼはRoche Biochemicals(スイス、バーゼル)製、クレノー断片、T4ポリヌクレオチドキナーゼ、およびT4 DNAリガーゼは日本ジーン(日本、東京)製であった。QuikChange XL部位特異的突然変異誘発キットは、Stratagene 、米国、テキサス州、シーダークリークから購入した。ダイターミネーターサイクルシークエンスレディーリアクションキットは、ABI、カリフォルニア州、フォスターシティーから購入した。放射性ヌクレオチド([α-32P]dCTPおよび[γ-32P]ATP)は、Amersham Bioscience(スウェーデン、ウプサラ)製であった。トランスフェクション試薬Effectene、は、QIAGEN, Inc、日本、東京から購入した。使用した他の化学薬品および試薬はすべて、市販の最等級のものであった。
2)細胞培養
乳癌細胞MDA-231は、日本癌研究リサーチリソースバンクから入手した。MDA-231は、10%ウシ胎仔血清(FBS)(EQUITECH-BIO、テキサス州、ケルビル)、100μg/mlペニシリン、および100 IU/mlストレプトマイシン(三光純薬、日本、東京)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(日水製薬、日本、東京)中、5% CO2を含む加湿雰囲気中で37℃で培養した。
3)原型PCI、R354APCI、degPCI発現MDA-231細胞の調製
ヒト原型PCI(intact PCI)、R354APCI、またはdegPCIの発現ベクターは、以下のように構築した。シグナルペプチドを有するR354APCI cDNAは、次の塩基配列からなる合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、全長PCI cDNA (Suzuki K. et al., J. Biol. Chem. 262:611-6, 1987)を鋳型としてQuickChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene、カリフォルニア州、ラ・ホーヤ)により調製した。下線を引いたヌクレオチドは変異部位を示す。
5'-TTCACTTTCGCGTCGGCCCGC-3'(配列番号:3)および
5'-GCGGGCCGACGCGAAAGTGAA-3'(配列番頭:4)
シグナルペプチド配列を有するdegPCI cDNAは、以下のプライマー対を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Saiki R.K. et al., Science 239:487-91, 1988)により調製した。配列番号:5と配列番号:6で示したプライマーは、それぞれPCIのcDNA(配列番号:1)の31〜52位、および1194〜1176位に対応している(Hayashi T. et al., Int. J. Hematol. 58:213-224, 1993)。下線を引いたヌクレオチドは、2つのプライマーの5'末端に挿入されたEcoR I部位を示す。
5'-GCGAATTCCTCTGGCAGAGCCTCCGTTTCC-3'(配列番号:5)および
5'-GCGAATTCTCACCTGAAAGTGAAGATTGTCC-3'(配列番号:6)
製造業者の説明に従って、R354APCIまたはdegPCIのDNA断片をpCRII-TOPOにサブクローニングし、大腸菌Top10F'に形質転換した。ABI 310ジェネティックアナライザーを用いて、DNA配列を確認した。次いで、原型ヒトPCI cDNA (Suzuki K. et al., J. Biol. Chem. 262:611-6, 1987)、変異体R354APCI cDNA、またはdegPCI cDNAを哺乳動物発現ベクターpRC/CMV(Invitrogen Corp.、カリフォルニア州、カールズバッド)に挿入し、Effectanceトランスフェクション試薬を用いてMDA-231にトランスフェクションした。
トランスフェクションした後、800μg/mlジェネティシンを含むDMEMを用いて、原型PCI、R354APCI、degPCI発現MDA-231細胞株を選択した。その後、以下に示すように酵素免疫測定法(ELISA)により、およびノーザンブロット解析によるPCI mRNAの評価により、各細胞株の培地中のPCI抗原を測定し、クローニングしたMDA-231細胞株の原型PCI、R354APCI、またはdegPCI発現を確認した。トランスフェクションした480の細胞株から、大量のPCIを発現する細胞株としてMDA-PCI 1およびMDA-PCI 2、大量のR354APCIを発現する細胞株としてMDA-R354APCI 1およびMDA-R354APCI 2、ならびに大量のdegPCIを発現する細胞株としてMDA-degPCI 1およびMDA-degPCI 2を選択し、実験に使用した。同様の手順に従い、DNA挿入物を含まないpRC/CMVをトランスフェクションしたMDA231細胞を調製して陰性対照として使用し、これらをMDA-Mock 1およびMDA-Mock 2と命名した。
4)酵素免疫測定法(ELISA)
培地中のPCIおよびuPA抗原レベルは、以前に記載したように(Wakita T. et al., Int. J. Cancer 108:516-23, 2004)、ポリクローナル抗PCI抗体および抗uPA抗体を用いた酵素免疫測定法(ELISA)により決定した。
5)RNA抽出
RNAzol B試薬(TEL-TEST、テキサス州、フレンズウッド)を用いて、改変チオシアン酸グアニジン-フェノールクロロホルム技法により、MDA-231、MDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、およびMDA-Mock細胞から全RNAを調製した(Chomczynski P. et al., Anal Biochem 162:156-59, 1987)。分光測定により全RNAを定量し、使用するまで-80℃で保存した。
6)ノーザンブロット解析法
MDA-231、MDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、およびMDA-Mock細胞に由来する全RNA(20μg)をホルムアルデヒド-アガロースゲル中で電気泳動し、次いでGeneScreenナイロン膜(NEN Life Science、マサチューセッツ州、ボストン)に転写した。UV架橋した後、膜をランダムプライム32P標識全長ヒトPCI cDNAプローブ(Suzuki K. et al., J. Biol. Chem. 262:611-6, 1987)とハイブリダイズさせた。
2x塩化ナトリウム-コハク酸ナトリウム (SSC)[300 mM NaCl、30 mMコハク酸ナトリウム、pH 7.0]および0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む溶液で、次いで1x SSCおよび0.1% SDSを含む溶液で、最終的に0.1x SSCおよび0.1% SDSを含む溶液でそれぞれ20分間、連続して洗浄した後、膜をイメージングプレートに露光し、BAS-2000イメージアナライザー(富士写真フィルム、日本、東京)を用いて可視化した。ヒトPCI cDNAプローブとハイブリダイズさせた後、膜を0.5% SDS中で煮沸し、上記のように、32P標識ヒトグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素(GAPDH) cDNAプローブ(Clontech、カリフォルニア州、パロアルト)とハイブリダイズさせた。
7)逆転写(RT)-PCR
RT-PCRを行い、MDA-231細胞における少量のヒトPCIの発現を評価した。オリゴdTプライマーおよびSuperscript第一鎖cDNA合成キット(Invitrogen Corp.、カリフォルニア州、カールズバッド)を用いて、製造業者の説明に従い、MDA231細胞から抽出した全RNA(5μg)を逆転写した。ヒトPCIの増幅に用いたフォワードおよびリバースPCRプライマーの塩基配列は次のとおりである。配列番号:7と配列番号:8で示したプライマーは、それぞれPCIのcDNA(配列番号:1)の733〜752位、および1289〜1270位に対応している(Suzuki K., J. Biol. Chem. 262:611-6, 1987)
5'-GAGCAAGACTTCTACGTGAC-3'(配列番号:7)および
5'-CGGTTCACTTTGCCAAGGAA-3'(配列番号:8)
PCR混合液は、PCR緩衝液(100 mM Tris-HCl、200 mM KCl、pH 8.3)、25 mM MgCl2、200μMデオキシリボヌクレオシド(dATP、dGTP、dCTP、dTTP)、それぞれ0.2μMのフォワードプライマーおよびリバースプライマー、適量のジエチルピロカルボネート処理蒸留水、ならびにTaqポリメラーゼ(Roche Biochemicals、スイス、バーゼル)2.5ユニットから構成された。次いで、cDNA試料2μlを含むPCRチューブに混合液を一定量分注し、PC-800プログラムテンプコントロールシステム(アステック、日本、福岡)を用いて増幅を行った。続いて、PCR産物を1%アガロースゲルに電気泳動し、0.5μg/mlエチジウムブロマイドで染色した。
8)バキュロウイルス発現系を用いた、原型ヒトPCI、R354APCI、degPCIのプラスミド構築および発現
以下のプライマー対を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、シグナルペプチド配列を含まない野生型PCI cDNAを調製した(Saiki R.K. et al., Science 239:487-91, 1988)。配列番号:9および配列番号:1で示したプライマーは、それぞれPCIのcDNA(配列番号:1)の133〜152位、および1296〜1276位に対応している。下線を引いたヌクレオチドは、挿入されたBamH I部位を示す(Hayashi T. et al., Int. J. Hematol. 58:213-224, 1993)。
5'-GCGGATCCCCACCGCCACCACCCCCGGGA-3'(配列番号:9)、および
5'-GGCGGATCCTCAGGGGCGGTTCACTTTGCC-3'(配列番号:10)
シグナルペプチド配列を含まないdegPCI cDNAもまた、以下のプライマー対を用いて、PCRにより調製した。配列番号:11および配列番号:12で示したプライマーは、それぞれPCIのcDNA(配列番号:1)の133〜152位、および1194〜1175位に対応している。下線を引いたヌクレオチドは、挿入されたBamH I部位を示す(Hayashi T. et al., Int. J. Hematol. 58:213-224, 1993)。
5'-GGCGGATCCCCACCGCCACCACCCCCGGGA-3'(配列番号:11)、および
5'-GGCGGATCCTCACCTGAAAGTGAAGATTGTCC-3'(配列番号:12)
増幅した断片をpBluescript SKII(+)のBamH I部位にサブクローニングした後、これらのプラスミドのDNA配列をABI 310 DNAシーケンサー(ABI、カリフォルニア州、フォスターシティー)により確認した。
続いて、ミツバチメリチンシグナルペプチドおよび免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質を発現させるために、バキュロウイルストランスファーベクターpFastBac1を用いて構成されたバキュロウイルス発現ベクターpFastBac1-Msp-Fcに(Fujita M. et al., Thromb. Res. 105:95-102, 2002)、シグナルペプチドを含まない野生型ヒトPCI cDNAおよびdegPCI cDNAを挿入した。シグナルペプチド配列を含まないR354APCI cDNAを含むpBluescript SKII(+)は、次の合成オリゴヌクレオチドプライマーを用い、シグナルペプチドを有するR354APCI cDNAを鋳型として調製した。配列番号:13および配列番号:14で示したプライマーは、それぞれPCIのcDNA(配列番号:1)の133〜152位、および1296〜1276位に対応している。下線を引いたヌクレオチドは、挿入されたBamH I部位を示す(Hayashi T. et al., Int. J. Hematol. 58:213-224, 1993)。
5'-GGCGGATCCCCACCGCCACCACCCCCCGGGA-3'(配列番号:13)、および
5'-GGCGGATCCTCAGGGGCGGTTCACTTTGCC-3'(配列番号:14)
DNAの塩基配列を確認した後、シグナルペプチドを含まない適切なR354APCI cDNAをpFastBac1-Msp-FcのBmH I部位に挿入した。10% FBSを含むグレース昆虫細胞培地(Invitrogen Corp.、カリフォルニア州、カールズバッド)で培養したSf-9細胞を用いて、製造業者の説明に従い(Invitrogen Corp.)、原型PCI、R354APCI、およびdegPCIを発現させるための組換えバキュロウイルスの作製および増幅を行った。無血清培地EX-CELL 400(JRH, BIOSCIENCES、米国、カンザス州、レネクサ)でHigh-Five細胞を培養し、これにバキュロウイルスを感染させ、27℃で72時間培養した。
9)組換え原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの精製
各組換えPCI(原型PCI、R354APCI、およびdegPCI)の培養上清を回収し、10 mMベンズアミジンの存在下で最終濃度70%の(NH4)2SO4を用いて塩析することにより濃縮した。遠心分離後、沈殿物を回収し、10 mMベンズアミドを含む50 mM Tris-HCl、pH 7.5で溶解し、1 mMベンズアミドを含む50 mM Tris-HCl、pH 7.5に対して透析した。次に、各透析試料を0.22μmフィルター(MILLEX-HA)に通し、ベンズアミドを含まない同じ緩衝液で平衡化したHitrap CM FFの5 mlカラムに供した。平衡緩衝液でカラムを洗浄した後、0 M〜0.5 M NaClの720μl/分直線勾配でタンパク質を溶出し、1 ml画分を回収した。続いて、PCIを含む画分を収集し、50 mM NaClを含むTris-HCl緩衝液、pH 7.4に対して透析し、次に同じ緩衝液で平衡化したHiTrapヘパリン FFの1 mlカラムに供した。0.05 M〜0.5 M NaClの500μl/分直線勾配でタンパク質を溶出し、500μl画分を回収した。以下に記載するように、ウェスタンブロットにより各組換えPCIを検出した。組換えPCIを含む画分を収集し、VIVASPIN 6 ml CONCENTRATOR(VIVASCIENCE、ドイツ、ハノーバー)により濃縮および脱塩した。リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解した精製組換えPCIの一定分割量を、還元条件下でドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、銀染色した。
10)SDSポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)およびウェスタンブロット解析
SDS-PAGEはLaemmli法(Laemmli U.K. et al., Nature 227:680-5, 1970)に従って行った。電気泳動した後、ゲル内のタンパク質をニトロセルロース膜に電気的に転写した。次いで、膜上の原型PCI、R354APCI、およびdegPCIを、以下のようにウェスタンブロット解析により検出した。膜をまず抗PCIウサギIgG(非特許文献4)で処理し、次に抗ウサギIgGアルカリフォスファターゼコンジュゲートで処理した。ニトロセルロース膜上のバンドを、以前に記載したようにウェスタンブルー安定化基質を用いて可視化した。
11)組換えPCIの活性を測定するアッセイ法
様々な組換えPCIの活性は、以下の通りに決定した。APC(40μg/ml)10μlを、30 U/mlヘパリンを含むTBS 10μlおよび組換え原型PCI、R354APCI、およびdegPCI(40μg/ml)10μlと混合した。混合物を37℃で20分間インキュベートした後、0.2 mM S-2366、50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、および0.1 M CsClを含む緩衝液250μlと混合した。混合物を室温で15分間インキュベートした後、100%酢酸25μlを添加して反応を停止した。モデル550マイクロプレートリーダー(Bio-RAD)を用いて、405 nmにおける吸光度を測定した。APCの段階希釈物を用いて検量線を作成し、残存APC活性を算出した。
12)in vitro浸潤アッセイ法
Albini(Albini A. et al., Cancer Res. 47:3239-45, 1987)によって記載されている通りに、MDA-231細胞の侵襲性に関するアッセイを行った。簡潔に説明すると、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出されたマトリゲル基底膜マトリックスを25μg/フィルターでコーティングしたトラックエッチングポリエチレンテレフタラート(PET)メンブレンフィルター(8μmポアサイズ)を備えた直径6.4 mmのトランスウェル(Becton Dickinson、カリフォルニア州、マウンテンビュー)を使用した。一晩乾燥させた後、8μmポリカーボネート膜を含む細胞培養インサートを、無血清DMEM中、37℃で2時間膨潤させた。野生型、原型PCI、R354APCI、degPCI、またはMock発現MDA-231細胞株をトリプシン処理により回収し、FBSおよびプロテイナーゼ阻害剤を含まないDMEMで洗浄した。
次いで、精製したPCI、R354APCI、degPCI、uPA(Technoclone、オーストリア、ウィーン)の存在下または非存在下において、FBSを含まないDMEM 500μl中に細胞(2 x 105)を懸濁し、培養インサート(上チャンバー)に入れた。下チャンバーを、化学誘引物質として用いる10% FBSを含むDMEM 750μlで満たした。5% CO2下で37℃で24時間インキュベートした後、各インサートの膜の上表面を綿棒で穏やかにこすり、非浸潤細胞およびマトリゲルをすべて除去した。膜の下表面上の浸潤細胞を、Diff-Quik染色キット(国際試薬、日本、神戸)を用いて固定し染色した。光学顕微鏡下で100 x倍率において、細胞をカウントした。
13)動物
in vivoにおける様々なMDA-231細胞の転移能および増殖を評価するため、雄および雌の重症複合免疫不全マウス(SCID)(5週齢)を日本クレア(日本、大阪)から購入した。マウスは、12時間明/12時間暗の一定サイクルで飼育し、標準的な食餌および水を自由に得られるようにした。実験は三重大学動物実験審査委員会により承認され、国立保健研究所の実験動物指針に従って行った。
14)in vivoにおける腫瘍増殖の評価
滅菌したDMEM 0.2 ml中のMDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、またはMDA-Mock細胞(5 x 105 細胞)を、5週齢の雄SCIDマウスの側腹部に皮内注射した。週に1度ノギスを用いて腫瘍の大きさを測定し、腫瘍増殖をモニターした。以下の式に従って腫瘍容積を決定した:V = (L x W2)x 0.52、式中、Lは長さでありWは幅である。
15)実験的肺転移のアッセイ法
サブコンフルエントなMDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、またはMDA-Mock細胞をEDTA溶液を用いて回収し、無血清DMEMを用いて適切な密度(2.5 x 106 細胞/ml)に再懸濁した。次いで、MDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、またはMDA-Mock細胞を、雌SCIDマウスの尾静脈に注射した。腫瘍を注射してから35日後、ペントバルビタールを用いてマウスを麻酔し、屠殺した。肺を摘出し、ホルムアルデヒド中性緩衝液中で固定した。拡大鏡を用いて、白い斑点として見える小塊をカウントした。
16)マトリゲル移植アッセイ法
以前に記載されているように(McMahon G.A. et al., J. Biol. Chem. 276:33964-68, 2001)、MDA-PCI、MDA-R354APCI、MDA-degPCI、またはMDA-Mock細胞(2 x 106 細胞/ml)、VEGF、および様々な濃度のヘパリンを含むマトリゲル0.5 ml(9〜10 mg/ml;Becton Diskinson、ニュージャージー州、フランクリンレイク)を、各雄SCIDマウスの腹部正中に皮下注射した。3日後、マトリゲルプラグに向かう毛細血管を、デジタルカメラシステム(Olympus、ニューヨーク州、メルビル)を用いて可視化した。平行した実験では、ハンクス液に溶解した0.1%コラゲナーゼ1 mlでマトリゲルプラグを消化し、ヘモグロビンアッセイ法(Passaniti A. et al., Lab. Invest. 67:519-28, 1992)により新たな血管の数を定量した。
17)ニワトリ漿尿膜(CAM)アッセイ法
環を備えた開口プラスチックチューブ(直径8 cm、後部6 cm)に正方形のプラスチックラップを固定し、卵用ハンモックを準備した。受精卵(3日齢)を割り、内容物を卵用ハンモックに移し、胚が卵の表面に来るように操作した。無菌性を維持するために、ハンモックの上にペトリ皿の蓋を被せた。37℃の加湿インキュベーター内で、胚を維持した。フード内で、2%メチルセルロース50μlをペトリ皿上で一晩乾燥させ、メチルセルロースディスクを調製した。皿からディスクを剥がし、CAM上に載せ、次いで原型PCI、R354APCI、またはdegPCIをディスク上に添加した。デジタルカメラシステム(Olympus、ニューヨーク州、メルビル)およびNIH Image 1.61(NIH、メリーランド州、ベテスダ)により、CAMの画像を撮影した。倍率x 100のランダムな6視野にある無傷の血管の数をカウントした。
18)in vitro血管新生アッセイ法
以前に記載されている通りに(Schnaper H.W. et al., J. Cell Physiol. 165:107-18, 1995)、マトリゲル上での毛管形成アッセイを行った。24ウェルプレートにマトリゲル(Becton Dickinson、ニュージャージー州、フランクリンレイク)を4℃でコーティングし、37℃で30分間重合させた。マトリゲルコーティングプレートに、HUVECを播種した(2 x 104 細胞/ウェル)。ヘパリンの非存在下において、細胞を原型PCI、R354APCIもしくはdegPCI(10μg/ml)と共に、またはこれらのPCIの非存在下で(対照)、インキュベートした。インキュベーションしてから6時間後、位相差顕微鏡下で毛管形成を視覚的に評価した。倍率x 100のランダムな6視野にある無傷の管の数をカウントした。
19)統計解析
値はすべて、平均値±平均値の標準偏差として表した。どの実験も、少なくとも3回繰り返した。分散分析を用いて、有意な相違を評価した。P<0.05の値を、統計学的に有意であると見なした。
<結果>
〔実施例1〕バキュロウイルス発現系により産生された組換え原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの発現、精製、およびAPC阻害活性
バキュロウイルス発現系により発現された原型PCI、R354APCI、およびdegPCIを、Hitrap CM FFおよびHitrapヘパリンFFを用いて精製した。次いで、精製したタンパク質を、還元条件下でのウェスタンブロット解析により検出した。原型PCI、R354APCI、およびdegPCIのMWは、それぞれ約57 KDa、約57 KDa、および約54 KDaであった(図1)。これらの組換えPCIのAPC阻害活性についても試験した。R354APCIおよびdegPCIは、APCを阻害することがほとんどできなかった(図2)。
〔実施例2〕MDA-231細胞の侵襲性に及ぼすPCI、抗ヒトuPA抗体、PAI-1、およびuPAの効果
マトリゲルシステムにおける、MDA-231細胞の侵襲性に及ぼす原型PCIの効果。まず、ELISAおよびRT-PCR解析により、MDA-231細胞でのuPAおよびPCI発現を評価した。MDA-231細胞は、それぞれ470 ng/104 細胞/24時間のuPA、および58 ng/104 細胞/24時間のPCIを発現する。RT-PCR解析からも、MDA-231細胞によりuPA mRNAおよびPCI mRNAの両方が発現することが示された(データは示さず)。続いて、MDA-231細胞の浸潤活性に及ぼすPCIの効果を試験した。原型PCIはMDA-231細胞の浸潤活性を用量依存的にかつ有意に阻害したが(図3A)、BSAにはこの活性に対する効果がなかった(データは示さず)。さらに、抗ヒトPCI抗体は、MDA-231細胞浸潤のPCI誘導性阻害を用量依存的に阻止した(データは示さず)。浸潤アッセイにより、MDA-231細胞の侵襲性が抗uPA抗体(図3B)およびPAI-1(図3C)によって阻害され、uPAによって用量依存的に促進される(図3D)ことも示された。
〔実施例3〕MDA-231細胞の侵襲性に及ぼす原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの効果
MDA-231細胞の侵襲性に対するPCIの阻害活性がPCIのプロテアーゼ阻害活性に依存するのかどうかを評価するため、MDA-231細胞の侵襲性に及ぼす原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの効果を評価した。図4に示すように、原型PCIはMDA-231細胞の侵襲性を有意に阻害したが、R354APCIもdegPCIもMDA-231細胞の浸潤を阻害しなかった。これらの知見から、MDA-231細胞のin vitro侵襲性を阻害するためには、PCIのプロテアーゼ阻害活性が必要であることが示唆される。
〔実施例4〕それぞれの発現ベクターをトランスフェクションしたMDA-231細胞における原型PCI、R354APCI、またはdegPCIの発現
原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの発現がMDA-231細胞の侵襲性、増殖、および転移能に影響を及ぼすかどうかを評価するため、2つのPCI発現MDA-231細胞株(MDA-PCI 1、MDA-PCI 2)、2つの変異体PCI発現MDA-231細胞株(MDA-R354APCI 1、MDA-R354APCI 2)、2つのdegPCI発現MDA-231細胞株(MDA-degPCI 1、MDA-degPCI 2)、および2つのMockトランスフェクション細胞株(MDA-Mock 1、MDA-Mock 2)を調製した。MDA-PCI、MDA-R354APCI、およびMDA-degPCI細胞株は各PCI mRNAの強力な発現を示したのに対し、トランスフェクションしていないMDA細胞およびMDA-Mock細胞株は原型PCIを弱く発現していた(データは示さず)。MDA-PCI 1およびMDA-PCI 2細胞により分泌されるPCIの量は、それぞれ10.3および12.5 ng/104 細胞/24時間であった。MDA-R354APCI 1およびMDA-R354APCI 2細胞により分泌されるR354APCIの量は、それぞれ20.0および12.0 ng/104 細胞/24時間であった。MDA-degPCI 1およびMDA-degPCI 2細胞より分泌される分解型PCIの量は、それぞれ3.0および1.1 ng/104 細胞/24時間であった。これらの細胞株の増殖速度およびuPA産生は、ほぼ同じであった(データは示さず)。
〔実施例5〕MDA-231細胞のin vitro侵襲性に及ぼす原型PCI、R354APCI、またはdegPCI発現の効果
原型PCI、R354APCI、またはdegPCIの発現がMDA-231細胞の浸潤能に影響を及ぼすかどうかを判定するため、マトリゲルにおけるPCI、R354APCI、degPCI発現MDA-231細胞およびMockトランスフェクションMDA-231細胞の侵襲性をin vitroで評価した。図5に記載したように、2つのMDA-PCI細胞株の侵襲性は、MDA-Mock細胞株よりも有意に低かった。MDA-R354APCIおよびMDA-degPCI細胞株の侵襲性は、MDA-Mock細胞株と有意に異なっていなかった。これらの知見から、MDA-231細胞で発現したPCIが浸潤を抑制すること、およびMDA-231細胞の浸潤に対するPCIの阻害活性がそのプロテアーゼ阻害活性に依存していることが示唆される。これらのデータは、上記のMDA-231細胞の侵襲性に及ぼす組換えR354APCIおよびdegPCIの効果と一致する。
〔実施例6〕MDA-231細胞の増殖に及ぼす原型PCI、R354APCI、またはdegPCIの効果
腫瘍増殖に及ぼすPCIのin vivo効果を評価するため、SCIDマウスの背側に移植したMock、PCI、R354APCI、またはdegPCI発現MDA-231細胞の増殖をモニターした。図6に示すように、MDA-PCI細胞株の増殖は、Mock発現細胞株よりも有意に低かった。驚いたことに、MDA-R354APCIおよびMDA-degPCI細胞株の増殖もまた、MDA-Mock細胞株よりも有意に低く、MDA-PCIの増殖と同じかまたはそれよりもわずかに低かった。これらの知見から、PCIがin vivoで腫瘍増殖を阻害すること、およびPCIのこの増殖阻害活性がそのプロテアーゼ阻害活性に依存しないことが示唆される。
〔実施例7〕MDA-231細胞の転移能に及ぼす原型PCI、R354APCI、またはdegPCIの効果
MDA-Mock、MDA-PCI、MDA-R354APCI、またはMDA-degPCIを尾静脈から注射した後、転移性肺小塊の数をカウントすることにより、MDA-231細胞の転移能に及ぼすPCIの効果を試験した。図7Aおよび7Bに示すように、MDA-PCI、MDA-R354APCI、またはMDA-degPCI細胞株の肺小塊の数は、MDA-Mock細胞株のものよりも有意に少なかった。さらに、MDA-R354APCIおよびMDA-degPCI細胞株の転移性小塊は、MDA-PCI細胞株のものよりもわずかに大きかった。これらのデータから、PCIがin vivoで腫瘍転移を阻害すること、およびPCIの腫瘍転移に対する阻害活性がそのプロテアーゼ阻害活性に依存しないことが実証される。
〔実施例8〕in vivo血管新生に及ぼす原型PCI、R354APCI、またはdegPCIの効果
VEGF、ヘパリン、および原型PCI、R354APCI、degPCI、またはMock発現MDA-231細胞を含むマトリゲルを皮下注射した動物を用いて、VEGF誘導性血管新生に及ぼすPCIの効果を試験した。図8Aから、PCI発現MDA-231細胞ならびにR354APCIおよびdegPCI発現MDA-231細胞を含むマトリゲルへの血管形成が、Mock発現MDA-231細胞よりも低かったことが示される。図8Bに示すように、MDA-PCI細胞、MDA-R354APCIまたはMDA-degPCI細胞株を含むマトリゲル中のヘモグロビンレベルは、MDA-Mock細胞株のレベルよりも有意に低かった。続いて、in vivoでのニワトリCAMアッセイ法により、様々な組換えPCIの抗血管新生活性を示した。図9に示すように、PCIはニワトリCAMアッセイにおいて血管の増殖を有意に阻害した。PCI処理したCAMは対照よりも有意に小さく、血管新生も少なかった。R354APCIおよびdegPCIもまた、血管の増殖を有意に阻害した。これらのデータから、PCIがin vivoで血管新生を阻害すること、およびこの阻害活性がそのプロテアーゼ阻害活性に依存しないことが示される。この結果は、in vivoアッセイで記載した観察と一致する。
〔実施例9〕HUVECによる管形成に及ぼす原型PCI、R354APCI、またはdegPCIの効果
HUVECのin vitro血管新生に及ぼす様々なPCIの効果を評価した。図10Aおよび10Bに示すように、原型PCI、R354APCI、およびdegPCIにより管形成が阻害された。さらに、抗ヒトPCI抗体は、管形成のPCI誘導性阻害を用量依存的に阻止した(データは示さず)。興味深いことに、R354APCIおよびdegPCIの血管新生阻害活性は、原型PCIよりも有意に強かった。これらのデータから、皮下に移植したR354APCIまたはdegPCI発現MDA-231細胞が、原型PCI発現MDA-231細胞よりもゆっくりと増殖する理由が説明され得る。
<考察>
最近になって、本発明者らは、非腫瘍性腎組織と比較して腎癌細胞においてPCI発現が有意に減少していること、およびPCI発現が腎癌細胞株Caki-1細胞の浸潤活性を阻害することを実証した(Wakita T. et al., Int. J. Cancer 108:516-23, 2004)。また、PCI発現Caki-1細胞を用いて、腫瘍増殖および転移に及ぼすPCIの効果をin vivoで評価したが、野生型Caki-1細胞でさえSCIDマウスで増殖し得なかった。これに基づき、乳癌細胞株MDA-231細胞の侵襲性に及ぼすPCIの効果を試験した。MDA-231細胞は、大量のuPAおよび少量のPCIを発現していた。
精製PCIはMDA-231細胞の浸潤活性を効率的かつ有意に阻害したが、PCIの阻害活性はCaki細胞の浸潤の場合と比較して弱かった。この結果はおそらく、Caki-1細胞よりも非常に高い、MDA-231によるuP発現Aに起因する。さらに、MDA-231細胞の浸潤活性はuPAの添加により増大し、PAI-1により阻害された。この結果は、MDA-231の浸潤は主としてuPAにより媒介されるという考えと一致する。また本発明者らは、B16マウスメラノーマ細胞の浸潤活性に及ぼすPCIの効果を評価し、同様の結果を見出した(データは示さず)。これらの知見から、様々な腫瘍細胞の浸潤がPCIにより制御されることが示唆される。
さらに、本発明者らはいくつかの組換え変異体PCIを調製して、MDA-231細胞浸潤に及ぼすそれらの阻害活性を評価し、原型PCIがMDA-231細胞の浸潤活性を阻害することを見出した。R354APCI(反応部位変異体)およびプロテアーゼ分解型PCIのN末端断片は、APCに対する阻害活性を有さない。このことから、in vitro腫瘍細胞浸潤に対するPCIの阻害活性がそのプロテアーゼ阻害活性に依存することが示唆される。
続いて、本発明者らは、PCI発現MDA-231細胞がMockトランスフェクションMDA-231細胞よりも浸潤性が低いことを見出した。この知見は、PCI発現Caki-1細胞がMockトランスフェクションCali-1細胞よりも浸潤性が低いことを示す以前のデータと一致する。本発明者らはまた、MDA-231細胞の浸潤能に及ぼすPCIのプロテアーゼ阻害活性の効果を試験し、degPCI発現MDA-231細胞およびR354APCI発現MDA-231細胞の浸潤能が、Mock発現MDA-231細胞と有意に違いがないことを実証した。この結果は、組換えR354APCIおよびdegPCIがin vitroでMDA-231細胞浸潤に効果を及ぼさないことを示すデータと一致する。
次に、様々なPCI発現MDA-231細胞を用いて、SCIDマウスにおけるMDA-231細胞の増殖および転移に及ぼすPCIのin vivo効果を試験した。データから、PCIが腫瘍増殖および転移の両方をin vivoで阻害することが示された。驚いたことに、R354APCIおよびdegPCIもまた、腫瘍増殖および転移に対する強力な阻害活性を示し、このことから、腫瘍増殖および転移に対するPCIの阻害活性がそのプロテアーゼ阻害活性によって媒介されないことが示唆された。
カリスタチン(kallistatin)は、血管新生の抑制を介して腫瘍増殖を阻害するヘパリン結合セルピンである(Miao R.Q. et al., Blood 100:3245-52, 2002)。VEGFおよびbFGFが血管新生の強力な媒介物であること、および内皮細胞表面上でのヘパラン硫酸プロテオグリカンへのVEGFおよびbFGFの結合が、VEGFおよびbFGFの特異的受容体への結合を調節することは周知である(Folkman J. et al., Adv. Exp. Med. Biol. 313:355-64, 1992)。ヘパリン自体がVEGF依存的血管新生を促進することもまた、報告されている(Folkman J. et al., Adv. Exp. Med. Biol. 313:355-64, 1992)。
カリスタチンはヘパリンに結合する能力により血管新生を阻害するが、この結合はVEGFがその受容体に結合するのに重要であり、したがってカリスタチンによりVEGF媒介性血管新生が阻害される(Miao R.Q. et al., Am. J. Physiol. Cell Physiol. 284:C1604-13, 2003)。ヘパリン結合セルピンであるアンチトロンビン(AT)の 潜在型もまた抗血管新生活性を有することが知られており(O'Reilly M.S. et al., Science 285:1926-8, 1999)、潜在型ATが内皮細胞において、血管新生促進性(proangiogenetic)プロテオグリカン、パールカンの発現を下方制御することが最近報告された(Zhang W. et al, Blood 103:1185-91, 2004)。カリスタチンおよびATのように、PCIもまたヘパリン結合セルピンである。本発明において、本発明者らはPCIがMDA-231の増殖および転移を阻害することを見出し、したがって血管新生に及ぼすPCIの効果を評価した。
まず、マトリゲルに取り込んだ原型PCI発現MDA-231細胞の、ヘパリン存在下におけるVEGF誘導性血管新生に及ぼす効果を評価した。VEGF誘導性血管新生は、原型PCI発現MDA-231細胞を含むマトリゲルでは阻害されたが、Mock発現MDA-231細胞を含むマトリゲルでは阻害されなかった。さらに、ヘパリンの存在下でVEGFにより誘導される血管新生の阻害活性は、R354APCI、または分解型PCIのN末端断片発現MDA-231細胞を含むマトリゲルにおいても認められた。原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの抗血管新生活性は、CAMアッセイおよび内皮細胞の管形成により確認された。これらのデータから、PCIによる血管新生の阻害が、そのプロテアーゼ阻害活性によって媒介されないことが示唆される。これらの知見は、in vivo実験で観察された腫瘍増殖および転移に対する原型PCI、R354APCI、およびdegPCIの阻害活性と一致する。APCはそのプロテアーゼ活性を介して血管新生を促進することが、最近報告された(Uchiba M. et al., Circ. Res. 95:34-41, 2004)。しかし、本発明では、PCIがAPCの活性を阻害することにより血管新生を抑制することは認められなかった。
次に、原型PCI発現MDA-231細胞による血管新生の阻害活性に及ぼすヘパリンの効果を評価した。PCI発現細胞を含むマトリゲルにおける血管新生は、大量のヘパリン存在下でほぼ完全に消失した(データは示さず)。さらに、R354APCIおよびdegPCI発現MDA-231細胞を含むマトリゲルにおいても、血管新生阻害活性が認められた。これらの知見から、PCIはヘパリンにおけるVEGFの競合相手として作用すること、およびPCIは内皮細胞表面上のヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカンへの結合により血管新生を阻害することが示唆される。このデータは、阻害活性を欠くがヘパリン結合活性を有する切断型ATのN末端領域が抗血管新生活性を有すること(O'Reilly M.S. et al., Science 285:1926-8, 1999)、およびカリスタチンのヘパリン結合部位変異体に抗血管新生活性がないこと(Miao RQ et al., Blood 100:3245-52, 2002)を示す以前の報告と一致する。PCIのヘパリン結合部位は、正に荷電した残基を含む、セルピン分子のHおよびDヘリックス上に位置することが報告されている(Neese L.L. et al., Arch. Biochem. Biophys. 355:101-8, 1998)(Shirk R.A. et al., J. Biol. Chem. 269:28690-5, 1994)。
要するに、本発明は、PCIが腫瘍増殖および転移をin vivoで阻害すること、およびPCIの抗転移および抗増殖活性がそのプロテアーゼ阻害活性に依存しないことを実証した。これらの知見から、PCIが腎細胞癌および乳癌等の様々な腫瘍の治療に潜在的に有用であることが示唆される。
本発明によって、PCIはそのプロテアーゼ阻害作用依存的に、癌の浸潤を抑制することが明らかにされた。したがって、プロテアーゼ阻害作用を有するPCI誘導体は、癌の浸潤の抑制剤として有用である。一方、PCIによる癌における血管新生阻害作用は、PCIのプロテアーゼ阻害作用に依存しなかった。同様にPCIによる癌細胞の増殖阻害作用も、PCIのプロテアーゼ阻害作用に依存しないことが示された。したがって、プロテアーゼ阻害作用が低い、あるいは欠失したPCI誘導体は、血管新生の阻害剤並びに癌細胞の増殖抑制剤として有用である。
血管新生と細胞増殖は癌の悪性化における重要なメカニズムである。したがって、これらのメカニズムに作用してそれを阻害する抗癌剤は、癌の悪性化の防止、あるいは悪性化した癌の治療に有用である。特に、プロテアーゼに対する阻害作用を持たないPCI誘導体は、PCIによるプロテアーゼ阻害作用に起因する副作用の軽減が期待できる。

Claims (24)

  1. プロテインCインヒビターまたはその誘導体を有効成分として含有する抗癌剤。
  2. 癌の増殖、癌の転移、および血管新生から選択された活性の少なくとも1つを抑制する請求項1に記載の抗癌剤。
  3. 癌が乳癌である請求項1または2に記載の抗癌剤。
  4. プロテインCインヒビターの誘導体のプロテアーゼ阻害作用がプロテインCインヒビターよりも低い請求項2に記載の抗癌剤。
  5. プロテインCインヒビターの誘導体が、プロテインCインヒビターのヘパリン結合領域を含む蛋白質である請求項4に記載の抗癌剤。
  6. プロテインCインヒビターの誘導体が、ヘパリンおよびヘパリン様グリコサミノグルカンのいずれかまたは両方との結合能を有する蛋白質である請求項5に記載の抗癌剤。
  7. 癌の浸潤を抑制する請求項1に記載の抗癌剤。
  8. プロテインCインヒビターの誘導体がプロテアーゼ阻害作用を有する請求項7に記載の抗癌剤。
  9. プロテインCインヒビターまたはその誘導体を投与する工程を含む、癌の治療方法。
  10. 癌の増殖、癌の転移、および血管新生から選択された活性の少なくとも1つが抑制される、請求項9に記載の方法。
  11. 癌が乳癌である請求項9または10に記載の方法。
  12. プロテインCインヒビターの誘導体のプロテアーゼ阻害作用がプロテインCインヒビターよりも低い、請求項10に記載の方法。
  13. プロテインCインヒビターの誘導体が、プロテインCインヒビターのヘパリン結合領域を含む蛋白質である、請求項12に記載の方法。
  14. プロテインCインヒビターの誘導体が、ヘパリンおよびヘパリン様グリコサミノグルカンのいずれかまたは両方との結合能を有する蛋白質である、請求項13に記載の方法。
  15. 癌の浸潤が抑制される、請求項9に記載の方法。
  16. プロテインCインヒビターの誘導体がプロテアーゼ阻害作用を有する、請求項15に記載の方法。
  17. 抗癌剤の製造のためのプロテインCインヒビターまたはその誘導体の使用。
  18. 抗癌剤が、癌の増殖、癌の転移、および血管新生から選択された活性の少なくとも1つを抑制する、請求項17に記載の使用。
  19. 癌が乳癌である、請求項17または18に記載の使用。
  20. プロテインCインヒビターの誘導体のプロテアーゼ阻害作用がプロテインCインヒビターよりも低い、請求項18に記載の使用。
  21. プロテインCインヒビターの誘導体が、プロテインCインヒビターのヘパリン結合領域を含む蛋白質である、請求項20に記載の使用。
  22. プロテインCインヒビターの誘導体が、ヘパリンおよびヘパリン様グリコサミノグルカンのいずれかまたは両方との結合能を有する蛋白質である、請求項21に記載の使用。
  23. 抗癌剤が、癌の浸潤を抑制する、請求項17に記載の使用。
  24. プロテインCインヒビターの誘導体がプロテアーゼ阻害作用を有する、請求項23に記載の使用。
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