JPWO2006088165A1 - 遺伝子検出用試薬及びその利用 - Google Patents

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Abstract

標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備える遺伝子検出用試薬であって、前記標的核酸とのハイブリダイズにより高次構造変化が誘起され、レポータータンパク質への翻訳が開始されることを特徴とする遺伝子検出用試薬。被験試料とこの遺伝子検出用試薬とを混合し、レポータータンパク質の発現量を被験試料が存在しない場合と比較することにより、被験試料中の標的核酸を検出する。

Description

本発明は、外来遺伝子の存在や遺伝子の構造異常の検査に用いられる遺伝子検出用試薬、及びキット、並びに遺伝子検出方法に関する。
遺伝子検査は、自己に存在しない外来遺伝子の存在を検査するものと、遺伝子の構造異常を解析するものとに分けられる。外来遺伝子の存在を検査する場合として、培養困難な微生物の同定検査、抗生物質加療中や感染初期の病原微生物の検出などが挙げられる。また、遺伝子構造異常の検査として、遺伝病の確定診断のための検査や遺伝病の予測検査、表現型には影響しないDNA多型の検査(親子鑑定や法医学鑑定)などが挙げられる。
従来は、目的遺伝子を増幅できるPCRプライマーを用いて被験試料についてPCRを行い、PCR産物をシークエンスする方法により、その遺伝子の存在や突然変異などを検出していた。
近年、細胞から遺伝子を抽出することなく、細胞そのままの状態で遺伝子診断することができる試薬が提案されており、その代表例としてモレキュラービーコン(molecular beacon)が挙げられる。このような試薬として、例えば、標的配列に相補的なループ部分とその両端に存在するステム形成配列とからなるオリゴヌクレオチドであって、一端に蛍光色素が結合し、他端に消光剤が結合したものが提案されている(非特許文献1)。
この試薬は、標的核酸とハイブリダイズしていない状態で、光照射すると、両端の蛍光色素と消光剤とが近接しているため、蛍光色素が発する蛍光が消光剤にエネルギー移動して蛍光を発せず、又は本来の蛍光とは異なる波長の光を発する。一方、標的核酸がループ部分にハイブリダイズすると、ループ部分が2本鎖になり剛直になるためステム形成部分が解離する。これにより蛍光色素と消光剤とが離れるため、蛍光物質本来の蛍光を発するようになる。従って、蛍光強度又は波長を検出することにより、標的配列が存在するか否かを検出することができる。同文献のモレキュラービーコンによる標的配列の検出の様子を図8に示す。
しかし、この方法は、モレキュラービーコンに結合した蛍光色素が発する光をそのまま検出するため、モレキュラービーコンを大量に使用しない限り検出感度が低い。
また、ループに標的核酸がハイブリダイズしたか否かを検出するために、蛍光色素と消光剤との組み合わせに加えて、DNAザイム/リボザイムを用いるモレキュラービーコンも提案されている(非特許文献2)。図9にこのモレキュラービーコンを用いた標的核酸の検出方法を示す。DNAザイムは、2価金属イオンと結合した触媒活性を示すループ部分の両側に標的核酸配列と相補的な2つの領域を存在させたものであり、この2つの領域で標的核酸とハイブリダイズしてループ部分でそれを切断すると考えられている。同文献に記載のモレキュラービーコンは、このようなDNAザイムの一方の標的結合領域を利用してステム−ループ構造を形成したものである。ループ部分は標的核酸配列と相補的な配列を有する。
この分子は、標的核酸の非存在下ではステム−ループ構造を形成しているため、DNAザイムがその標的核酸に結合できず、切断活性は発現しない。一方、ループ領域に標的核酸がハイブリダイズするとループが開き、DNAザイムがその標的核酸に結合して切断活性が発現する。この切断活性を検出することにより、ループ部分にハイブリダイズできる配列の存否を確認することができる。
しかし、この方法も、モレキュラービーコン分子自体の切断活性を検出するため、検出感度が低い。
検出感度の高いモレキュラービーコンとして、非特許文献3は、酵素に1本鎖DNA断片を介してこの酵素に対するインヒビターを結合したものを報告している。このモレキュラービーコンは、1本鎖DNA断片中に標的核酸配列と相補的な配列を含むものであり、標的核酸が存在しないときは1本鎖DNA断片が柔軟であるためインヒビターが酵素の相互作用部位と結合しているが、標的核酸とDNA断片とがハイブリダイズするとその部分が剛直になって伸びるためインヒビターが酵素から外れて酵素活性が発現する。このモレキュラービーコンは、酵素による基質の変換を検出するため、その分検出感度が高くなる。
しかし、この分子は、酵素タンパク質と核酸と低分子化合物という異質な物質を結合させる手間を要し、コスト高になる。
なお、特許文献1は、リボレギュレーターと呼ばれるRNAを用いて特定遺伝子の翻訳開始のオン・オフを調節して特定タンパク質の発現をコントロールし、生体内でのそのタンパク質の機能を解明する方法を教えている。同文献のリボレギュレーターは、リボソーム結合領域(RBS)、開始コドン、及び緑色蛍光タンパク質コード領域を含み、RBSの上流に「シスリプレッシブRNA」領域を有するmRNA分子である。
シスリプレッシブRNA領域は、分子内でRBSとハイブリダイズできる配列からなり、通常はこの領域とRBSとがハイブリダイズしているため、リボソームはRBSに結合せず緑色蛍光タンパク質への翻訳は行われない。さらに、シスリプレッシブRNA領域に相補的な領域を有する「トランスアクティベーティングRNA」をシスリプレッシブRNAにハイブリダイズさせることにより、シスリプレッシブRNAとRBSとが解離し、緑色蛍光タンパク質への翻訳が行われる。
同文献の方法では、トランスアクティベーティングRNAがリボソーム結合領域と略同じ配列でなければならない。従って、このリボレギュレーターは、任意の塩基配列の存在を検出できるものではない。
Tyagi, S.; Kramer, F. R. Nat. Biotechnol. 1996, 14, 303. Stojanovic MN. et al. ChemBioChem 2001, 2, 411 Saghatelian, A. et al. J. Am. Chem. Soc. 2003、125、344. WO2004/046321号公報
本発明は、核酸からなる高感度な遺伝子検出用試薬、この試薬を含むキット、核酸を用いて標的遺伝子の有無を高感度に検出することができる方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために本発明者らは研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、標的核酸とそれに相補的な領域とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がレポータータンパク質への翻訳を開始させるようなRNAは、レポータータンパク質の発現を検出することにより、標的核酸を検出することができ、遺伝子検出用試薬として使用できる。
(ii) 例えば、上流より順に、リボソーム結合領域(以下、「RBS」ということもある)、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、リボソーム結合領域の上流に、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域(A)を介して、リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域(B)を備えるRNAは、標的核酸の非存在下では、領域(B)とRBSとがハイブリダイズして、領域(A)をループとするループ−ステム構造を採る。また、標的核酸の存在下では、標的核酸と領域(A)とがハイブリダイズすることによりこの領域が剛直になってループが伸び、その結果、RBSと領域(B)とが解離する。これにより、RBSにリボソームが結合できるようになり、レポーター遺伝子の翻訳が開始される。
この現象を利用して、レポーター遺伝子の発現の有無を検出することにより、被験試料中の標的核酸の有無や一塩基多型を判定することができる。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の遺伝子検出用試薬、遺伝子検出用キット、及び遺伝子検出方法を提供する。
項1. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備える遺伝子検出用試薬であって、前記標的核酸とのハイブリダイズにより高次構造変化が誘起され、レポータータンパク質への翻訳が開始される遺伝子検出用試薬。
項2. 少なくとも、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域がRNAである項1に記載の遺伝子検出用試薬。
項3. リボソーム結合領域にリボソームが結合できない状態にあり、標的核酸とハイブリダイズできる領域と標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がリボソーム結合領域へのリボソームの結合を可能にしてレポータータンパク質への翻訳を開始させるものである項2に記載の遺伝子検出用試薬。
項4. 上流より順に、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、リボソーム結合領域のさらに上流に、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域を介して、リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域を備えるものである項3に記載の遺伝子検出用試薬。
項5. リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域の塩基数に対する、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域の塩基数の比率が1〜10である項4に記載の遺伝子検出用試薬。
項6. リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域が5〜30塩基からなり、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が5〜60塩基からなる項4に記載の遺伝子検出用試薬。
項7. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が、標的核酸配列と相補的な領域である項1に記載の遺伝子検出用試薬。
項8. 標的核酸とハイブリダイズした場合に自己切断するリボザイムとして機能する領域を含むものである項1に記載の遺伝子検出用試薬。
項9. レポータータンパク質が酵素である項1に記載の遺伝子検出用試薬。
項10. 前記酵素が可視光を発生する物質の生産に関与するものである項9に記載の遺伝子検出用試薬。
項11. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がレポータータンパク質への翻訳を開始させるRNAに転写され得るDNAを含む遺伝子検出用試薬。
項12. 前記RNAが、リボソーム結合領域にリボソームが結合できない状態にあり、標的核酸とハイブリダイズできる領域と標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がリボソーム結合領域へのリボソームの結合を可能にしてレポータータンパク質への翻訳を開始させるものである項11に記載の遺伝子検出用試薬。
項13. 前記RNAが、上流より順に、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、リボソーム結合領域のさらに上流に、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域を介して、リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域を備えるものである項12に記載の遺伝子検出用試薬。
項14. リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域の塩基数に対する、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域の塩基数の比率が1〜10である項13に記載の遺伝子検出用試薬。
項15. リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域が5〜30塩基からなり、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が5〜60塩基からなる項13に記載の遺伝子検出用試薬。
項16. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が、標的核酸配列と相補的な領域である項11に記載の遺伝子検出用試薬。
項17. 前記RNAが、標的核酸とハイブリダイズした場合に自己切断するリボザイムとして機能する領域を含むものである項11に記載の遺伝子検出用試薬。
項18. レポータータンパク質が酵素である項11に記載の遺伝子検出用試薬。
項19. 前記酵素が可視光を発生する物質の生産に関与するものである項18に記載の遺伝子検出用試薬。
項20. 項1に記載の遺伝子検出用試薬を備える遺伝子検出用キット。
項21. さらに、原核細胞抽出液を備える項20に記載の遺伝子検出用キット。
項22. さらに、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素を備える項20に記載の遺伝子検出用キット。
項23. 項11に記載の遺伝子検出用試薬を備える遺伝子検出用キット。
項24. さらに、原核細胞抽出液を備える項23に記載の遺伝子検出用キット。
項25. さらに、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素を備える項23に記載の遺伝子検出用キット。
項26. 被験試料と項1に記載の遺伝子検出用試薬とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での項1に記載の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む遺伝子検出方法。
項27. 遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現を原核細胞抽出液の存在下で行う項26に記載の方法。
項28. 第1工程において、被験試料と、項1に記載の遺伝子検出用試薬と、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素とを混合する工程を含む項26に記載の方法。
項29. 被験試料と項11に記載の遺伝子検出用試薬とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での項11に記載の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む遺伝子検出方法。
項30. 遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現を原核細胞抽出液の存在下で行う項29に記載の方法。
項31. 第1工程において、被験試料と、項1に記載の遺伝子検出用試薬と、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素とを混合する工程を含む項29に記載の方法。
項32. 被験試料と、項1に記載の遺伝子検出用試薬と、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での項1に記載の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む1塩基多型の検出方法。
項33. 被験試料と、項11に記載の遺伝子検出用試薬と、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での項11に記載の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む1塩基多型の検出方法。
項34. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備える核酸であって、前記標的核酸とのハイブリダイズにより高次構造変化が誘起され、レポータータンパク質への翻訳が開始される核酸の遺伝子検出用試薬としての使用。
項35. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備えるRNAであり、標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がレポータータンパク質への翻訳を開始させるRNAに転写され得るDNAの遺伝子検出用試薬としての使用。
本発明の第1の試薬であるRNAからなる遺伝子検出用試薬によれば、被験試料中の標的核酸の存否が、レポータータンパク質をコードするRNAからレポータータンパク質への翻訳の有無として現れる。この翻訳により1分子のRNAから例えば複数分子のレポータータンパク質が生産可能になるため、蛍光等の検出シグナルを増幅でき、検出感度の向上を図ることができる。このため、本発明の試薬を用いる場合は、被験試料中の核酸をPCRなどで予め増幅することを必ずしも要さず、細胞溶解液などを直接被験試料として用いることができる。
また、本発明の第2の試薬であるDNAからなる遺伝子検出用試薬によれば、DNAからRNAへの転写課程が加わり、DNA1分子から複数分子のRNAが生成する。また、DNAは非常に安定であるため、試薬として使い易いものとなる。
さらに、レポータータンパク質として、例えばルシフェラーゼやβ−ガラクトシダーゼのような酵素を用いる場合は、1分子の酵素から複数分子の基質が変換されるため、より一層検出感度が高くなる。
また、本発明の遺伝子検出用試薬とともに、DNAとハイブリダイズしたDNA−RNA2本鎖中のRNAを特異的に切断するRNA分解酵素を用いる場合は、本発明の第1の試薬であるRNA又は第2の試薬であるDNAの転写産物RNAと標的核酸(通常はDNA)とがハイブリダイズすると、試薬側のRNA鎖が切断され、標的核酸から乖離する。標的核酸はさらに別のRNA分子と結合することができ、同様に酵素の作用で試薬RNAの切断、及び標的核酸からの乖離のサイクルを形成する。このようにして、1分子の標的核酸が次々に本発明試薬とハイブリダイズすることにより、レポーター遺伝子の発現を増幅させることができる。このため、検出感度が一層向上し、標的核酸がフェムトモルオーダーしか存在しない場合でも、標的核酸をPCR等で増幅させることなく遺伝子検出を行うことができる。
ここで、本発明の試薬においては、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が長くなるほど塩基配列選択性が低下し、即ちミスマッチが存在する場合に検出可能なそのミスマッチ塩基数が少なくなる。一方、試薬RNA分子において、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域を短くする場合は、高次構造変化を引き起こす力が弱くなるため、その分、ハイブリダイズによる高次構造変化を起こし易い構造にする必要がある。この場合は、非特異的なRNA分子の高次構造変化が生じ易くなる。従って、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域を短くする場合は、ハイブリダイズによる高次構造変化を起こし易くするために、例えば、リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域の長さをその分短くする必要がある。この場合、非特異的にリボソームがリボソーム結合領域と結合してレポーター遺伝子の発現が生じ易くなる。
このような状況の下で、本発明の試薬と共に、DNA−RNA2本鎖のRNAを特異的に切断するRNA分解酵素を用いる場合は、標的核酸が試薬RNA分子と結合するとRNA分解酵素がこのRNA分子を切断して強制的に高次構造変化を起こさせる。即ち、リボソーム結合領域や開始コドンがそれに相補的な配列とハイブリダイズしている状態が解消される。このため、試薬RNA分子の標的核酸配列とハイブリダイズできる領域の長さが短く、かつ高次構造変化を起こし難い分子構造としても(例えばリボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域を長くしても)、ハイブリダイズにより一層確実に高次構造変化が起こるようになる。これにより、標的核酸と標的核酸とハイブリダイズできる領域との間の1塩基のミスマッチでも一層確実に検出できるようになり、即ち1塩基多型の検出が可能になる。また、完全にマッチする塩基対のみを切断するというRNA分解酵素の性質によっても、1塩基ミスマッチの選択性が上昇する。
また、試薬RNA自体が、標的核酸とハイブリダイズした場合に自己切断する能力を有するリボザイムである場合も、上記RNA分解酵素を使用する場合と同様の効果が得られる。
本発明試薬を用いたこのような遺伝子検出は、「触媒的遺伝子検出」と称することができる。
また、本発明の遺伝子検出用試薬は、蛍光物質や酵素インヒビターのような合成化合物を含まず、核酸のみから構成されるため、製造が簡単である。また、使用に当たり、細胞抽出液を用いるだけでよい。また、生体由来材料だけを用いて製造、及び使用できるため、将来的な生体への適用可能性が広がる。
実施例1で構築したMB−ルシフェラーゼmRNAの構造を示す図である。 MB−ルシフェラーゼmRNAを鋳型とした場合の、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド、及びミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下での化学発光強度を、こられのターゲットが存在しない場合の化学発光強度に対する相対値で表したグラフである。 MB−ルシフェラーゼ発現dsDNAを鋳型とした場合の、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド、及びミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下での化学発光強度を、これらのターゲットが存在しない場合の化学発光強度に対する相対値で表したグラフである。 MB−ルシフェラーゼ発現dsDNAを鋳型とした場合の、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド、及びミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下での各反応混合物の化学発光像をVersadoc3000で測定したものである。 フルマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下及びターゲットの非存在下で、鋳型MB−ルシフェラーゼDNAをリボソーム、及びtRNAを含まないセルフリー転写/翻訳システムを用いて転写したときの蛍光像をATTOデンシトグラフで測定したものである。 ターゲット量に対する化学発光強度の関係を示すグラフである。 MB−ルシフェラーゼmRNAを鋳型とした場合の、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド、及び1塩基GTミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下での化学発光強度を、ターゲットが存在しない場合の化学発光強度に対する相対値で表したグラフである。また、RNaseHの使用による効果を示すグラフである。 MB−ルシフェラーゼmRNAを鋳型とした場合の、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下での化学発光強度を、ターゲットが存在しない場合の化学発光強度に対する相対値で表したグラフである。また、RNaseHの使用による効果を示すグラフである。 図(A)は、MB−β−ガラクトシダーゼdsRNAを鋳型とした場合の、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下でのニトロフェノールによる吸光度を、ターゲットが存在しない場合の吸光度に対する相対値で表したグラフである。また、RNaseHの使用による効果を示すグラフである。図(B)は、β−ガラクトシダーゼdsDNAを鋳型とした場合のニトロフェノールによる発色を目視観察した結果である。 従来のモレキュラービーコンの1例を用いた遺伝子検出を説明する図である。 従来のモレキュラービーコンの他の例を用いた遺伝子検出を説明する図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)遺伝子検出用試薬
RNAからなる試薬
本発明の第1の遺伝子検出用試薬は、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がレポータータンパク質への翻訳を開始させる試薬である。
この試薬は、少なくともリボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域がRNAからなっていればよい。それ以外の部分は、RNA、DNA、又は人工核酸等のいずれの核酸配列であってもよい。人工核酸としては、ペプチド核酸(PNA;Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid)等が挙げられる。
この試薬の構造は、標的核酸とハイブリダイズできる領域に標的核酸が結合することにより、翻訳開始に必要な因子がこの試薬に結合できるようになる構造であれば良い。このような構造として、標的核酸にハイブリダイズできる領域をループとし、その両側に存在する2領域が塩基対形成によりステムを形成しているようなヘアピン構造が挙げられる。ステムを形成する2領域としては、例えば、リボソーム結合領域及びそれを含む領域とハイブリダイズできる領域、開始コドン及びそれを含む領域とハイブリダイズできる領域などが挙げられる。
このようなヘアピン構造を有することにより、通常は、リボソーム結合領域や開始コドン等が2本鎖状態であるため、翻訳に必要な因子が結合することができず、レポータータンパク質への翻訳は実質的に起こらない。さらに、標的核酸とハイブリダイズできる領域に標的核酸が結合すると、このループが剛直になって伸び、その結果ステムの2本鎖の全部又は一部が解消して、翻訳開始に必要な因子がリボソーム結合領域や開始コドン等に結合できるようになり、レポータータンパク質への翻訳が開始する。
リボソーム結合領域と、それを含む領域とハイブリダイズできる領域とが2本鎖のステムを形成するような試薬としては、上流より順に、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、リボソーム結合領域のさらに上流に、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域を介して、リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域を備える試薬が挙げられる。この試薬は、通常は、リボソーム結合領域と、この試薬分子中のリボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域とがハイブリダイズしてステムを形成し、その間に存在する標的核酸相補的領域をループとするヘアピン構造を採っている。ここに、標的核酸が存在すると、これが標的核酸相補的領域とハイブリダイズしてループが伸び、リボソーム結合領域が1本鎖状態になる。この高次構造変化により、リボソーム結合領域へのリボソームの結合が可能になってレポータータンパク質への翻訳が開始される。
リボソーム結合領域には、原核細胞で機能するもの、真核細胞で機能するもの、ウィルス由来のものなどが含まれる。原核細胞で機能するリボソーム結合領域は、原核細胞mRNAにおいてリボソームが結合できるプリンリッチな配列からなる領域をいい、一般に3〜9塩基程度からなる。原核細胞で機能するリボソーム結合領域はSD配列とも称される。また、真核細胞で機能するリボソーム結合領域としては、例えばコザック配列(5'−AGCCACCAUGG−3')(配列番号1)、リボソーム内部認識部位(IRES:Internal Ribosome Entry Site)が挙げられる。また、ウィルス由来のリボソーム結合領域としては、例えばリボソーム内部認識部位(IRES)が挙げられる。ウィルスのIRESはウィルスRNAに含まれる配列であり、宿主のリボソームと結合することによりリボソームの立体構造を変化させて、通常はウィルスタンパク質の翻訳を開始させる。本発明の遺伝子検出用試薬では、ウィルスのIRESを使用してレポータータンパク質の翻訳を開始させることができる。
リボソーム結合領域と開始コドンとの間に存在する塩基数には制限はないが、好ましくは3〜12塩基程度離れていればよい。この範囲であれば、リボソームの結合に始まる翻訳開始が効率良く行われる。
開始コドンは、通常AUGであるが、開始コドンとして機能する限りGUGなどのその他の配列も使用できる。
レポータータンパク質の種類は特に限定されず、公知のレポータータンパク質を制限無く使用できる。公知のレポーター遺伝子としては、例えばルシフェラーゼ遺伝子、分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、β-ガラクトシダーゼ遺伝子等が挙げられる。これらのレポーター遺伝子は酵素タンパク質をコードし、酵素反応を利用してその発現を検出するものであるため、その分検出感度が高くなる。レポーター遺伝子は、緑色蛍光タンパク質遺伝子のように、その産物自体の信号を検出するものであってもよい。なお、分泌型アルカリフォスファターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼは、その基質生成物が可視光を発するものが多いため、簡単に酵素活性を検出できる点で好ましい。
RBSを含む領域とハイブリダイズできる領域は、この分子中のRBSとハイブリダイズできるか、又はRBSとそれに隣接する領域とからなる領域をハイブリダイズできる領域であればよい。ここで、「ハイブリダイズできる」とは、本試薬の使用条件下でハイブリダイズできることをいい、例えば、原核細胞抽出液中で37℃でインキュベートした後、同溶液中で37℃で洗浄した場合に、陽性のハイブリタイズのシグナルが観察されることが挙げられる。
特に、この領域とRBSとが相補的であるのが好ましいが、標的核酸検出方法を実施する温度においてハイブリダイズできる限りミスマッチが存在していてもよい。例えば、この方法の実施温度が37℃であり、ハイブリダイズ領域が10塩基以上ある場合には10%以上のミスマッチの存在が可能である。
RBSとハイブリダイズできる領域の長さは、5〜30塩基程度が好ましく、8〜10塩基程度がより好ましい。標的核酸が存在しなくても、この領域とRBSとはハイブリダイズしたり1本鎖になったりしており、平衡状態にある。この領域の長さが上記範囲であれば、このような標的核酸によらない非特異的な2本鎖の解離が生じにくい。また、前述したように、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域は標的核酸非存在下ではループ構造を採っているが、この領域と標的核酸との2本鎖形成によりループが伸びて、それによりステムを形成しているRBSを含む領域とそれにハイブリダイズできる領域との2本鎖状態の全部又は一部が解消する。従って、RBSを含む領域とハイブリダイズできる領域の長さが上記範囲であれば、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域の長さが長くなりすぎず、両者間のミスマッチを感度良く検出できるものとなる。
標的核酸配列としては、疾患の遺伝子診断のための検出を行う場合はヒトの疾患に関与する遺伝子中の配列が挙げられる。また、親子鑑定や法医学鑑定のための検出を行う場合は遺伝マーカー近傍の配列が挙げられる。また、ヒトに感染した病原微生物の同定や、食品の微生物汚染を検査するための検出を行う場合は、その微生物に固有の染色体配列が挙げられる。
標的核酸配列とハイブリダイズできる領域は、標的核酸配列の全部又は一部にハイブリダイズできればよい。中でも、標的核酸配列と相補的な領域であることが好ましく、これにより1塩基のミスマッチでも検出できるものとなる。相補的であればよい。その長さは、5〜60塩基程度が好ましく、14〜20塩基程度がより好ましい。前述したようにこの領域は標的核酸非存在下ではループ構造を採っているが、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域の長さが上記範囲であれば、標的核酸との2本鎖形成によりループを伸ばしてRBSの2本鎖状態を容易に解消でき、かつ標的核酸との間のミスマッチの検出感度が高くなる。
いずれにしても、RBSを含む領域の塩基数に対する、標的核酸とハイブリダイズできる領域の塩基数の比率は、1〜10程度が好ましく、2〜5程度がより好ましい。上記比率範囲であることにより、標的核酸のループ部分への結合により容易にステムを開放することができ、かつ標的核酸配列とハイブリダイズできる領域の長さが適当になってミスマッチの検出感度が高くなる。
標的核酸配列とハイブリダイズできる領域はRBSに隣接していてもよく、これらの間に1〜5塩基程度の任意の配列が存在していてもよい。同様に、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域はRBSを含む領域とハイブリダイズできる領域に隣接していてもよく、これらの間に1〜5塩基程度の任意の配列が存在していてもよい。
また、開始コドンと、それを含む領域とハイブリダイズできる領域とが2本鎖のステムを形成するような試薬としては、上流より順に、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、リボソーム結合領域のさらに上流に、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域を介して、開始コドンを含む領域とハイブリダイズできる領域を備える試薬が挙げられる。
この試薬は、標的核酸の存在により開始コドンが1本鎖状態になって、翻訳開始に必要な因子の結合が可能になり、翻訳が開始される。標的核酸とハイブリダイズできる領域と、開始コドンとハイブリダイズできる領域とは隣接していてもよく、これらの間に1〜5塩基程度の任意の配列が存在していてもよい。その他の構成は、リボソーム結合領域を含むステムを有する試薬と同様である。
本発明の第1の試薬分子の大きさの上限は、細胞抽出液を用いてレポータータンパク質への翻訳を行うことができるものである限り特に限定されないが、通常1000〜2000塩基程度とすればよい。
この試薬は、標的核酸とハイブリダイズした場合に、自己RNA鎖を切断するリボザイムとして機能する領域を含むものであってもよい。自己切断する位置は、RNAの切断によりレポーター遺伝子の翻訳を開始させるような位置であればよいが、代表的には、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域内の位置が挙げられる。この場合、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域はRNAからなり、この領域がリボザイムとして機能する領域である。このようなRNAとして、例えば、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域をアロステリックエフェクター核酸配列結合部位とする自己切断型ハンマーヘッド型リボザイムやヘアピン型リボザイムになったものが挙げられる。
DNAからなる試薬
本発明の第2の遺伝子検出用試薬は、上記説明した第1の試薬であってRNAからなるものに転写され得るDNAを含む試薬である。このDNAは通常2本鎖DNAである。このDNAは、RBSを含む領域とハイブリダイズできる領域のさらに上流に、転写に必要なプロモーター領域を備えていればよい。
レポーター遺伝子を含むプラスミドが市販されているが、これには、通常プロモーター領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポーター遺伝子が含まれている。従って、この市販のレポータープラスミドのプロモーター領域とリボソーム結合領域との間に、RBS又は開始コドンを含む領域とハイブリダイズできる領域、及び標的核酸配列とハイブリダイズできる領域に転写され得るDNA配列を挿入すればよい。この配列は化学合成することができる。
本発明の第2の試薬は分解され難いDNAを含むため、保存安定性がよい試薬となる。
(II)遺伝子検出用キット
本発明の遺伝子検出用キットは、上記説明した本発明の遺伝子検出用試薬を備えるキットである。
また、リボソーム結合領域が原核細胞で機能するものである場合は、原核細胞抽出液を備えていればよい。通常、被験試料中に転写・翻訳に必要な因子が含まれるため、この細胞抽出液によりレポータータンパク質への翻訳、又は転写及び翻訳が行われる。なお、リボソーム結合領域が真核細胞で機能するものやウィルス由来のものである場合は、真核細胞抽出液を利用すればよい。
細胞抽出液は、Zubay法(Zubay, G. Ann. Rev. Genet. 1978, 7, 267)により作製することができるが、市販品を使用してもよい。
また本発明のキットは、さらに、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断する活性を有するRNA分解酵素を備えていてよい。このRNA分解酵素は、DNAとRNAとが完全に相補的である領域でそのRNAを切断するものであることが好ましい。これにより、試薬RNAの標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が標的核酸であるDNAの対応領域と完全に相補的である場合に2本鎖中のRNAを切断する。RNaseHは非常に高いミスマッチ認識能を有しており、1塩基多型の検出を確実に行えるようになる。このRNA分解酵素はエンドヌクレアーゼであることが好ましく、これにより、標的核酸とハイブリダイズした試薬RNAを効率良く切断して、標的核酸を試薬RNAから乖離させることができる。このようなRNA分解酵素として、RNaseHが挙げられる。
(III)遺伝子検出方法
本発明の遺伝子検出方法は、被験試料と本発明の遺伝子検出用試薬とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での本発明の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む方法である。
遺伝子検出用試薬のリボソーム結合領域が原核細胞で機能するものである場合は、原核細胞抽出液の存在下でレポータータンパク質の発現を行えばよい。
被験試料としては、それには限定されないが、例えば、口腔内の粘膜細胞のような採取された細胞、血液、唾液、毛髪などが挙げられる。また、細菌感染が疑われる食品なども使用できる。
第1工程において、被験試料は、試料中に核酸が露出している場合はそのまま使用すればよいが、通常は、常法に従い細胞を破砕又は溶解してから使用すればよい。また、細胞破砕液又は細胞溶解液に対して標的核酸配列をPCRで増幅してから用いれば一層感度が向上する。
本発明試薬の使用量は、試薬がRNAを含むものである場合は被験試料に対して、モル比で1〜10倍程度とすればよく、試薬がDNAの場合はモル比で0.01〜0.1倍程度とすればよい。また、細胞抽出液の使用量は、1被験試料に対して2.5〜10μL程度とすればよい。
これらを混合した後、通常25〜42℃程度で、10〜60分間程度インキュベートすればよい。
第1工程において、被験試料と本発明の遺伝子検出用試薬とを混合する際に、さらにDNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に分解するRNA分解酵素を混合することができる。このRNA分解酵素はハイブリダイズ前の1本鎖RNAを分解しないため、これらの混合順序は特に限定されず、例えば、RNA分解酵素と遺伝子検出用試薬とを混合したものを被験試料に添加してもよい。
このようなRNA分解酵素を使用すれば1塩基のミスマッチでも検出できるため、本発明方法は1塩基多型の検出方法となる。この場合、遺伝子検出用試薬中の標的核酸配列とハイブリダイズできる領域は、標的核酸配列の野生型配列又は予想される1塩基変異型配列のいずれかと相補的な配列を有していればよい。
第2工程では、レポータータンパク質の発現をその種類に応じた方法で検出すればよい。これらのタンパク質の発現は以下のような市販のキットを用いて検出及び測定することができる。
例えばルシフェラーゼの発現は、細胞溶解液に発光基質であるルシフェリン(例えば東洋インキ社製)を添加し基質の分解による発光をルミノメーター、液体シンチレーションカウンター又はトップカウンター等を用いて検出・測定すればよい。アルカリフォスファターゼの発現は、例えばLμMi-Phos530(和光純薬社製)を用いて検出・測定できる。クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼの発現は、FAST CAT Chrolamphenicol Acetyltransferase Assay Kit(和光純薬社製)を用いて検出・測定できる。β-ガラクトシダーゼの発現はAurora Gal-XE(和光純薬社製)を用いて検出・測定できる。
第2工程では、被験試料が存在しない場合、すなわち本発明の試薬を同じ条件でインキュベートした場合と、被験試料が存在する場合との間で、レポータータンパク質の発現量を比較すればよい。タンパク質の発現量は、目視などにより直接比較することもできるが、各場合のタンパク質発現量を測定した上で比較してもよい。
各場合のタンパク質発現量を測定する場合の判定基準は、それには限定されないが、例えば、被験試料の存在によりタンパク質発現量が3倍以上に向上すれば、被験試料中に標的核酸配列が存在していると判定することができる。
(IV)遺伝子検出用試薬としての使用
本発明の第1の使用は、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備える核酸であって、前記標的核酸とのハイブリダイズにより高次構造変化が誘起され、レポータータンパク質への翻訳が開始される核酸の遺伝子検出用試薬としての使用である。
本発明の第2の使用は、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備えるRNAであり、標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がレポータータンパク質への翻訳を開始させるRNAに転写され得るDNAの遺伝子検出用試薬としての使用である。
実施例
以下、本発明を実施例、及び試験例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(MB制御されたルシフェラーゼ発現鋳型の構築)
ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドpGL3はプロメガから購入した。ターゲットと相補的な3'末端側部分領域及びSD配列を含むフォワードプライマー(5’-d(GGT CTG AAG GTT TAT TAG AAG GAG ATA TAC CAA TGG AAG ACG CCA AAA ACA TA)-3’:配列番号2)5pmol及びリバースプライマー(5'-d(TAT TCA TTA CAC GGC GAT CTT TCC G)-3’:配列番号3)5pmolを含む25μlの反応混合物を用いて、プラスミドpGL3を鋳型として第1回目のPCRを行った。第1回目のPCRでは、5ngのpGL3ベクター、1.25UのPfu Ultra HF DNAポリメラーゼ(ストラタジーン社)、5nmolの各dNTPs(東洋紡績社)、及び2.5μLの10×Pfu Ultra HF反応バッファーを用いた。PCR条件は、95℃で3分間、(95℃で45秒間、54℃で45秒間、72℃で1分間)のセットを30サイクル、72℃で10分間の条件とした。
ターゲットと相補的な5'末端側部分領域及びT7プロモーターを含むユニバーサルプライマー5’-d(GAA ATT AAT ACG ACT CAC TAT AGG GAG ACC ACA ACG GTT TCC CTC TAT CTC CTG GTC TGA AGG TTT A)-3’(配列番号4)5pmolを含む20μlの反応混合物を用いて、1回目のPCR反応で生成した2本鎖DNAを鋳型として第2回目のPCRを行った。第2回目のPCRでは、5pmolのリバースプライマー( 5’-d(TAT TCA TTA CAC GGC GAT CTT TCC G)-3’:配列番号5)、1μLの1/100倍希釈した第1回目のPCRと同じPCR反応溶液、1.25UのPfu Ultra HF DNAポリメラーゼ(ストラタジーン社)、5nmolの各dNTPs(東洋紡績社)、及び2.5μLの10×Pfu Ultra HF反応バッファーを用いた。PCR条件は、95℃で3分間、(95℃で45秒間、54℃で45秒間、72℃で1分間)を30サイクル、72℃で10分間の条件とした。
これにより、MB−制御されたルシフェラーゼmRNA転写用の2本鎖DNAが得られた。このDNAの塩基配列を配列番号6に示す。配列番号6において、塩基番号1〜22がT7−プロモーター領域であり、塩基番号73〜77の6塩基がSD配列(リボソーム結合配列)であり、塩基番号86〜1722が開始コドンから始まるルシフェラーゼ遺伝子である。また、塩基番号54〜69は、mRNAに転写された場合にターゲット配列であるCCR5と相補的な配列を与える配列である。
この2本鎖DNAより、T7 MEGAshortscriptキット(アンビオン社)を用いて、MB制御されたルシフェラーゼmRNAがT7ランオフ転写により得られた。簡単に説明すれば、鋳型DNAの第2回目のPCR溶液を3μLを含むT7転写反応混合物(10μL)を37℃で120分間インキュベートした。この反応混合物に1UのDNase Iを添加し、混合物をさらに15分間インキュベートした。
次いで、RNeasy MinElute Cleanupキット(キアゲン社)を用いてmRNAを精製した。mRNAの濃度を260nmの吸収を測定することにより決定した。
このようにして得られたMB−ルシフェラーゼmRNAの構造を図1に示す。このRNAは、レポーター遺伝子対応部分と、その上流に制御ヘアピン構造を有する。ヘアピン構造は、8塩基長さのステムと19塩基長さのループを有する。ステムには6塩基長さのRBSが含まれる。ループを含む18塩基がヒトCCケモキンレセプター5(CCR5)遺伝子の第620〜635番目の塩基配列(5’-AATAAACCTTCAGACC-3’:配列番号7)に相補的な配列である。
CCR5は、HIV−1コアレセプターであり、その配列の多様性はHIV−1感染の促進/遅延のハプロタイプマーカーと考えられる。従って、この配列の選択性は重要である。
実施例2(ルシフェラーゼの翻訳と化学発光解析)
ターゲットのCCR5オリゴデオキシヌクレオチド(18pmol)の存在下又は非存在下で、1.8pmolの実施例1で得た鋳型MB−ルシフェラーゼmRNAを含む再構築されたE.coli翻訳溶液(T7−トランスクリプション/トランスレーションカップルド、ピュアシステムクラシック1、ポストゲノム研究所社)の中でIn Vitro翻訳を行った。合計容量10μLの反応混合物を37℃で60分間インキュベートした。
ターゲット核酸としては、CCR5遺伝子の第620〜635番目の塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(5’-CCGTAAATAAACCTTCAGACCAGAGA-3’:配列番号8)をフルマッチオリゴデオキシヌクレオチドとして用いた。また、配列番号8において、塩基番号13のCをTに1塩基変異させたもの、及び塩基番号13のCをAに1塩基変異させたものを、それぞれ1塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドとして用いた。さらに、塩基番号13のCをTに変異させるとともに塩基番号14のTをAに変異させたものを、2塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドとして用いた。
各サンプルを翻訳後、2.5μLを100μLのルシフェラーゼアッセイ試薬(プロメガ社)と混合した。102.5μLを96穴プレートに移してWallac1420システムを用いて化学発光強度を測定した。
結果を図2に示す。図2は、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド、及びミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下での化学発光強度を、これらのターゲットが存在しない場合の化学発光強度に対する相対値で表したグラフである。
ターゲット非存在下に比べて、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド存在下では、約3倍の発光強度が観察された。また、CからTへ変異した1塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチド存在下では、ターゲット非存在下の約2倍の発光強度が観察された。また、2塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチド存在下、及びCからAへ変異した1塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下では、ターゲット非存在下での発光強度と差が認められなかった。
実施例3(ルシフェラーゼの転写/翻訳と化学発光解析)
1.8pmolの鋳型MB−ルシフェラーゼmRNAに代えて、0.2pmolのMB−ルシフェラーゼ発現dsDNA鋳型を用いた他は、実施例2と同様の操作を行った。
鋳型MB−ルシフェラーゼmRNAの1.8pmolに代えてMB−ルシフェラーゼ発現dsDNAの0.2pmolを用いた他は、実施例2と同様にして、CCR5遺伝子の部分配列DNAと、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド、及び3種のミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドと作用させた。
結果を図3に示す。ターゲット非存在下に比べて、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド存在下では、約8倍の発光強度が観察された。また、CからTへ変異した1塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチド存在下でも、ターゲット非存在下の約5倍の発光強度が観察された。また、2塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチド存在下、及びCからAへ変異した1塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下では、ターゲット非存在下に比べて、約2倍の発光強度が観察された。
遺伝子検出用試薬として、RNAを用いるより2本鎖DNAを用いる方が、一層高感度で遺伝子変異を検出でき、1塩基の違いも確実に検出できることが分かる。
また、図4に、各反応混合物の102.5μLを250μLエッペンドルフチューブに移して、その化学発光像をVersadoc3000で測定したものを示す。図4から、遺伝子の1塩基の変異でも目視により明確に把握できることが分かる。
実施例4(翻訳段階でのターゲット核酸配列との相互作用の確認)
CCR5フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド(18pmol)の存在下又は非存在下で、0.2pmolの鋳型MB−ルシフェラーゼDNAを含む再構築されたリボソーム及びtRNAを含まないセルフリーT7−転写/翻訳、ピュアシステムクラシック1(ポストゲノム研究所社)の中でIn Vitro転写を行った。詳しくは、合計容量10μLの反応混合物を37℃で60分間インキュベートした。18pmolのCCR5フルマッチオリゴデオキシヌクレオチドを用いた。転写反応の効率は、CCR5フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド存在下における転写mRNAの希釈溶液(0,20,40,60,80,100%)を内部標準とし、CCR5フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド非存在下における転写量と比較することによって行った。
図5に、各反応混合物の化学発光像をATTOデンシトグラフで測定したものを示す。フルマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下では、このターゲットヌクレオチドが存在しない場合と同程度の発光強度が観察された。
このことから、転写段階だけでは、ターゲットによる翻訳阻害は実質的に検出できないことが分かる。
実施例5(ターゲット量と発光強度との関係)
実施例2において、ターゲットとしてCCR5フルマッチオリゴデオキシヌクレオチドの使用量を、0〜22pmolまで変化させて、化学発光強度を測定した(図6)。CCR5フルマッチオリゴデオキシヌクレオチドの7pmol程度で、化学発光強度はやや飽和するが、それ以下の濃度では、ターゲット量と発光強度はほぼ比例していることが分かる。このことから、直線性の点で、本ルシフェラーゼ発現鋳型は標的核酸配列の検出、定量に好適に使用できることが分かる。
実施例6(DNA分解酵素の併用)
<MB制御されたルシフェラーゼ発現鋳型の構築>
PCRプライマーとして以下のものを用い、プラスミドpBESTluc(プロメガ社)を鋳型とした他は実施例1と同様にして、MB−制御されたルシフェラーゼmRNA転写用の2本鎖DNAを得た。この2本鎖DNAから転写されるルシフェラーゼmRNAは、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域として、CCR5の第620〜637番目の塩基配列(5'−AATAAACCTTCAGACCAG−3':配列番号9)に相補的な配列を有する。その他は、実施例1で得た2本鎖DNAから得られるルシフェラーゼmRNAと同様である。
第1回目PCR
フォワードプライマー(5’-d(GGT CTG AAG GTT TAT TAG AAG GAG ATA TAC CAA TGG AAG ACG CCA AAA ACA TA)-3’:配列番号2)
リバースプライマー(5'-d(TAT TCA TTA CAA TTT GGA CTT TCC GCC)-3’:配列番号10)
第2回目PCR
ユニバーサルプライマー(5’-d(GAA ATT AAT ACG ACT CAC TAT AGG GAG ACC ACA ACG GTT TCC CTC TAT CTC CTG GTC TGA AGG TTT A)-3’:配列番号4)
リバースプライマー( 5’-d(TAT TCA TTA CAA TTT GGA CTT TCC GCC)-3’:配列番号10)
このようにして得られた1.8pmolのMB−ルシフェラーゼmRNAを、ターゲットのCCR5オリゴデオキシヌクレオチド(1.8pmol)の存在下又は非存在下で、再構築されたE.coli翻訳溶液(T7−トランスクリプション/トランスレーションカップルド、ピュアシステムクラシック1、ポストゲノム研究所社)の中でIn Vitro翻訳を行った。合計容量10μLの反応混合物を37℃で60分間インキュベートした。
また、Tth RNaseH(0.1U;東洋紡績社)を含む反応混合物を用いて上記と同様の操作を行った。
ターゲット核酸としては、CCR5遺伝子の第620〜635番目の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(5’-AATAAACCTTCAGACC-3’:配列番号11)をフルマッチオリゴデオキシヌクレオチドとして用いた。また、配列番号11において、塩基番号8のCをTに1塩基変異させたものを1塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドとして用いた。
各サンプルを翻訳後、2.5μLを100μLのルシフェラーゼアッセイ試薬(プロメガ社)と混合した。102.5μLを96穴プレートに移してWallac1400システムを用いて化学発光強度を測定した。
結果を図7に示す。図7は、フルマッチオリゴデオキシヌクレオチド、及び1塩基ミスマッチオリゴデオキシヌクレオチドの存在下での化学発光強度を、ターゲット及びRNaseHが存在しない場合の化学発光強度に対する相対値で表したグラフである。また、レーン1〜3はRNaseH非存在下での結果であり、レーン4〜6はRNaseH存在下での結果である。
ここで用いた1塩基ミスマッチは、比較的安定な“ゆらぎ塩基対”であるGT塩基対によるものである。鋳型MB−ルシフェラーゼmRNA中のターゲット塩基配列と相補的な領域が16merと短いため、RNaseHを使用しない場合は、フルマッチオリゴヌクレオチドとGTミスマッチオリゴヌクレオチドとの区別が困難であるが(レーン2,3)、RNaseHを使用することにより、フルマッチオリゴヌクレオチドとGTミスマッチオリゴヌクレオチドとを明確に区別できることが分かる(レーン5,6)。GT1塩基ミスマッチを検出できるため、その他の1塩基ミスマッチは確実に検出できると考えられる。
実施例7(標的核酸が極少である場合)
<ルシフェラーゼの翻訳と化学発光解析>
ターゲットのCCR5オリゴデオキシヌクレオチド(45fmol)の存在下又は非存在下で、0.45pmolの上記鋳型MB−ルシフェラーゼmRNAを含む再構築されたE.coli翻訳溶液(T7−トランスクリプション/トランスレーションカップルド、ピュアシステムクラシック1、ポストゲノム研究所社)の中でIn Vitro翻訳を行った。合計容量10μLの反応混合物を37℃で60分間インキュベートした。ターゲットオリゴデオキシヌクレオチドの使用モル数は、鋳型MB−ルシフェラーゼmRNAのモル数の1000分の1である。
また、Tth RNaseH(1U;東洋紡績社)を含む反応混合物を用いて上記と同様の操作を行った。
ターゲット核酸としては、CCR5遺伝子の第620〜637番目の塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(5’-CCGTAAATAAACCTTCAGACCAGAGA-3’:配列番号8)をフルマッチオリゴデオキシヌクレオチドとして用いた。
各サンプルを翻訳後、2.5μLを100μLのルシフェラーゼアッセイ試薬(プロメガ社)と混合した。102.5μLを96穴プレートに移してLumatLB9507を用いて化学発光強度を測定した。
結果を図8に示す。レーン1及び2はRNaseH存在下での結果であり、レーン3及び4はRNaseH非存在下での結果である。ターゲットが非常に少ない場合でも、RNaseHを使用することにより、ターゲットが存在しない場合に比べて非常に強い化学発光が観察された。極少量のターゲットによりルシフェラーゼの転写、翻訳が検出できたことが分かる。
実施例8(β−ガラクトシダーゼを用いた検出)
<MB制御されたβ−ガラクトシダーゼ発現鋳型の構築>
PCRプライマーとして以下のものを用いた他は実施例1と同様にして、MB−制御されたβ−ガラクトシダーゼmRNA転写用のdsDNAを得た。この2本鎖DNAから転写されるβ−ガラクトシダーゼmRNAは、ルシフェラーゼをコードするmRNAに代えてβ−ガラクトシダーゼをコードするmRNAを有する。また、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域として、CCR5の第620〜637番目の塩基配列(5'−AATAAACCTTCAGACCAG−3':配列番号9)に相補的な配列を有する。その他は、実施例1で得た2本鎖DNAから得られるルシフェラーゼmRNAと同様である。
第1回目PCR
フォワードプライマー(5’-d(GGT CTG AAG GTT TAT TAG AAG GAG ATA TAC CAA TGA CCA TGA TTA CGG ATT CAC)-3’:配列番号12)
リバースプライマー(5'-d(GGA TTA GTT ATT CAT TAT TTT TGA CAC CAG ACC AAC)-3’:配列番号13)
第2回目PCR
フォワードプライマー(5’-d(GAA ATT AAT ACG ACT CAC TAT AGG GAG ACC ACA ACG GTT TCC CTC TAT CTC CTG GTC TGA AGG TTT ATT AG)-3’:配列番号14)
リバースプライマー( 5’-d(GGA TTA GTT ATT CAT TAT TTT TGA CAC CAG ACC AAC)-3’:配列番号13)
<β−ガラクトシダーゼの翻訳と発色>
ターゲットのCCR5オリゴデオキシヌクレオチド(18pmol)の存在下又は非存在下で、0.2pmolの上記MB−β−ガラクトシダーゼdsDNAを含む再構築されたE.coli翻訳溶液(T7−トランスクリプション/トランスレーションカップルド、ピュアシステムクラシック1、ポストゲノム研究所社)の中でIn Vitro翻訳を行った。合計容量10μLの反応混合物を37℃で60分間インキュベートした。
また、Tth RNaseH(1U;東洋紡績社)を含む反応混合物を用いて上記と同様の操作を行った。
ターゲット核酸としては、CCR5遺伝子の第620〜637番目の塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(5’-CCGTAAATAAACCTTCAGACCAGAGA-3’:配列番号8)をフルマッチオリゴデオキシヌクレオチドとして用いた。
各サンプルを翻訳後、β−ガラクトシダーゼ酵素アッセイシステム(プロメガ社)を用い添付プロトコールに従ってβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。但し、11μLの翻訳溶液を、39μLの1×レポーター溶解バッファー、及びo−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド(ONPG)を含む50μLのアッセイ2×バッファーと混合した。
結果を図9(A)に示す。レーン1及び2はRNaseH非存在下での結果であり、レーン3及び4はRNaseH存在下での結果である。フルマッチターゲットが存在する場合、ターゲットが存在しない場合に比べてニトロフェノールの生成による405nmにおける強い吸収が観察された。また、RNaseHを使用することにより、ターゲットが存在しない場合との区別が一層明確になった。
また、β−ガラクトシダーゼによる発色の様子を図9(B)に示す。2及び3はRNaseHを使用する場合であり、2はターゲットが存在しない場合、3はフルマッチターゲットが存在する場合である。4及び5はRNaseHを使用しない場合であり、4はターゲットが存在しない場合、5はフルマッチターゲットが存在する場合である。なお、1は4と同じである。1,2は透明であるが、3は強く黄色に発色していた。また4は透明であるが、5は黄色に発色していた。すなわち、フルマッチターゲットの存在によりターゲットが存在しない場合に比べて強い発色が観察された。また、RNaseHを使用することによりターゲットが存在しない場合との区別が一層明確になった。反応生成物であるニトロフェノールは可視域に吸収を有するため、レポーター遺伝子としてβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を用いれば、特別な装置を用いることなく目視によりターゲットの検出を行える。

Claims (35)

  1. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備える遺伝子検出用試薬であって、前記標的核酸とのハイブリダイズにより高次構造変化が誘起され、レポータータンパク質への翻訳が開始される遺伝子検出用試薬。
  2. 少なくとも、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域がRNAである請求項1に記載の遺伝子検出用試薬。
  3. リボソーム結合領域にリボソームが結合できない状態にあり、標的核酸とハイブリダイズできる領域と標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がリボソーム結合領域へのリボソームの結合を可能にしてレポータータンパク質への翻訳を開始させるものである請求項2に記載の遺伝子検出用試薬。
  4. 上流より順に、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、リボソーム結合領域のさらに上流に、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域を介して、リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域を備えるものである請求項3に記載の遺伝子検出用試薬。
  5. リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域の塩基数に対する、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域の塩基数の比率が1〜10である請求項4に記載の遺伝子検出用試薬。
  6. リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域が5〜30塩基からなり、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が5〜60塩基からなる請求項4に記載の遺伝子検出用試薬。
  7. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が、標的核酸配列と相補的な領域である請求項1に記載の遺伝子検出用試薬。
  8. 標的核酸とハイブリダイズした場合に自己切断するリボザイムとして機能する領域を含むものである請求項1に記載の遺伝子検出用試薬。
  9. レポータータンパク質が酵素である請求項1に記載の遺伝子検出用試薬。
  10. 前記酵素が可視光を発生する物質の生産に関与するものである請求項9に記載の遺伝子検出用試薬。
  11. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がレポータータンパク質への翻訳を開始させるRNAに転写され得るDNAを含む遺伝子検出用試薬。
  12. 前記RNAが、リボソーム結合領域にリボソームが結合できない状態にあり、標的核酸とハイブリダイズできる領域と標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がリボソーム結合領域へのリボソームの結合を可能にしてレポータータンパク質への翻訳を開始させるものである請求項11に記載の遺伝子検出用試薬。
  13. 前記RNAが、上流より順に、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備え、リボソーム結合領域のさらに上流に、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域を介して、リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域を備えるものである請求項12に記載の遺伝子検出用試薬。
  14. リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域の塩基数に対する、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域の塩基数の比率が1〜10である請求項13に記載の遺伝子検出用試薬。
  15. リボソーム結合領域を含む領域とハイブリダイズできる領域が5〜30塩基からなり、標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が5〜60塩基からなる請求項13に記載の遺伝子検出用試薬。
  16. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域が、標的核酸配列と相補的な領域である請求項11に記載の遺伝子検出用試薬。
  17. 前記RNAが、標的核酸とハイブリダイズした場合に自己切断するリボザイムとして機能する領域を含むものである請求項11に記載の遺伝子検出用試薬。
  18. レポータータンパク質が酵素である請求項11に記載の遺伝子検出用試薬。
  19. 前記酵素が可視光を発生する物質の生産に関与するものである請求項18に記載の遺伝子検出用試薬。
  20. 請求項1に記載の遺伝子検出用試薬を備える遺伝子検出用キット。
  21. さらに、原核細胞抽出液を備える請求項20に記載の遺伝子検出用キット。
  22. さらに、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素を備える請求項20に記載の遺伝子検出用キット。
  23. 請求項11に記載の遺伝子検出用試薬を備える遺伝子検出用キット。
  24. さらに、原核細胞抽出液を備える請求項23に記載の遺伝子検出用キット。
  25. さらに、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素を備える請求項23に記載の遺伝子検出用キット。
  26. 被験試料と請求項1に記載の遺伝子検出用試薬とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での請求項1に記載の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む遺伝子検出方法。
  27. 遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現を原核細胞抽出液の存在下で行う請求項26に記載の方法。
  28. 第1工程において、被験試料と、請求項1に記載の遺伝子検出用試薬と、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素とを混合する工程を含む請求項26に記載の方法。
  29. 被験試料と請求項11に記載の遺伝子検出用試薬とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での請求項11に記載の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む遺伝子検出方法。
  30. 遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現を原核細胞抽出液の存在下で行う請求項29に記載の方法。
  31. 第1工程において、被験試料と、請求項1に記載の遺伝子検出用試薬と、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素とを混合する工程を含む請求項29に記載の方法。
  32. 被験試料と、請求項1に記載の遺伝子検出用試薬と、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での請求項1に記載の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む1塩基多型の検出方法。
  33. 被験試料と、請求項11に記載の遺伝子検出用試薬と、DNAとハイブリダイズしたRNAを特異的に切断するRNA分解酵素とを混合する第1工程と、遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量を、被験試料の非存在下での請求項11に記載の遺伝子検出用試薬からのレポータータンパク質の発現量と比較することにより、被験試料中の標的核酸の有無を判定する第2工程とを含む1塩基多型の検出方法。
  34. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備える核酸であって、前記標的核酸とのハイブリダイズにより高次構造変化が誘起され、レポータータンパク質への翻訳が開始される核酸の遺伝子検出用試薬としての使用。
  35. 標的核酸配列とハイブリダイズできる領域、リボソーム結合領域、開始コドン、及びレポータータンパク質をコードする領域を備えるRNAであり、標的核酸とのハイブリダイズにより誘起される高次構造変化がレポータータンパク質への翻訳を開始させるRNAに転写され得るDNAの遺伝子検出用試薬としての使用。
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