JPWO2006082926A1 - タリウム化合物熱電変換材料とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本技術は、熱電変換性能の良い材料、すなわち、熱電変換の無次元性能指数ZTが1を超える材料を提供するものである。Ag,Tl及びTeを構成元素として含む特定組成の複合金属間化合物が、高いゼーベック係数と低い電気抵抗率を有するものであり、かつ、極端に低い熱伝導率を有しており、熱電変換素子における熱電変換材料として有用であることを見い出した。特に、Ag9TlTe5付近の組成をもつAg-Tl-Te三元系化合物が熱電変換材料として優れており、無次元性能指数ZTも1をはるかに超え、ZTの最大値は700Kにおいて1.42である。p型熱電変換材料として用いられる。作成方法は、Ag2Te0.5〜1.5とTl2Te0.5〜1.5をおよそ9:1の比で混合して溶融、冷却するだけで得られる。

Description

本発明は、熱電冷却素子、熱電発電素子として好適に使用される熱電変換材料とその製造方法に関する技術である。
熱電変換効率の指標として、モジュールを構成する材料の無次元性能指数(ZT)が用いられる。ZTは、材料のゼーベック係数(S)、電気伝導率(σ)、熱伝導率(κ)、絶対温度(T)を用いて、ZT=S2σT/κで表される。
既存熱電変換材料としては、低温領域(室温以下〜450K)においては、BiTe系化合物がペルチェ効果を利用した熱電冷却用として広く利用されている。また、中温領域(450K〜800K)においては、PbTe系化合物やTAGS系化合物(GeTeとAgSbTeの擬二元系固溶体からなる高性能p型材料)が知られている。さらに、高温領域(800K以上)においては、Si-Ge合金が原子炉を熱源とする宇宙用発電器・ラジオアイソトープ熱発電器用材料として、また、高温・空気中で安定なFeSi系化合物のβ-FeSiが知られている。
これらの既存熱電変換材料の性能指数を図10(p型熱電変換材料)と図11(n型熱電変換材料)に示す。図からわかるように、既存材料のZTは最大で1程度である。
熱電変換で効率よく発電していくためには、熱電変換性能の良い材料、すなわち、より大きなZTを有する材料、具体的には無次元性能指数ZT=1を超えるような材料の開発が望まれている。
本発明者らは、タリウム(Tl)系化合物について、熱電変換性能の良い材料を探求している。Tl系化合物に関して、例えば、TlSnTeが、400Kにおいて無次元性能指数ZT=0.85が報告されている(非特許文献1)。また、TlBiTeが、500K付近において無次元性能指数ZT=1.2が報告されている(非特許文献2)。また、TlBiTeは、超伝導体としても知られている(非特許文献3)。
この他、タリウムをSi半導体に添加することにより、熱電性能が向上することが知られている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
特開2000−261043号公報 特開2000−261044号公報 特開2000−261046号公報 J.W.Sharp et al.,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.545,pp.391-396,(2001). B.Wolfing et al.,Phys.Rev.Lett.,Vol.86,pp.4350-4353,(2001). J.D.Jensen et al.,Phys.Rev.B,Vol.6,pp.319-327,(1972).
高い無次元性能指数ZTを得るためには、大きなゼーベック係数Sと高い電気伝導率σを持ちながら、低い熱伝導率κを有することが要求される。しかしながら、高い電気伝導率はすなわち高い熱伝導率を意味し、このあい矛盾する条件を達成することが、高性能熱電材料の開発にむけての大きな課題であった。
ここで、熱伝導率κは、一般に、電気的キャリアの寄与κelと格子振動の寄与κphにわけられる(κ=κel + κph)。電気伝導率が大きな物質は、必然的にκelが大きくなるため、κphをいかに低減させるかが重要な課題となる。
本発明者らは、種々の研究を重ねた結果、Ag-Tl-Te三元系合金で、ZT=1をはるかに越える材料の作製に成功し、本発明を完成した。すなわち、Ag,Tl及びTeを構成元素として含む特定組成の複合金属間化合物が、高いゼーベック係数と低い電気抵抗率を有するものであり、かつ、極端に低い熱伝導率を有しており、熱電変換素子における熱電変換材料として有用であることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の観点に係る発明を提供するものである。
本発明の第1の観点からは、Ag,Tl,及びTeよりなり、かつ、無次元性能指数(ZT)が0.8以上であることを特徴とする複合金属間化合物が提供される。
ここで、Ag,Tl,及びTeよりなる第1の観点の複合金属間化合物は、一般式:Ag8〜10Tl0.8〜1.2Te4.5〜5.5で表されるものが好ましく、更に好ましくは、AgTlTeである。
Ag-Tl-Te三元系合金を特定の組成にすることで、高いゼーベック係数と低い電気抵抗率と熱伝導率を有する複合金属間化合物となり、一般式がAg8〜10Tl0.8〜1.2Te4.5〜5.5で示されるものが電気的特性がよく、更に、AgTlTeは無次元性能指数ZTが1を超える熱電変換材料となるからある。
ここで、上述の第1の観点から提供される複合金属間化合物は、693K(絶対温度)以上の温度で200μVK-1以上のゼーベック係数を有することが好ましい。
また、693K以上の温度で1×10-3Ωm以下の電気抵抗率を有する複合金属間化合物であることが好ましい。
また、693K以上の温度で0.5Wm-1K-1以下の熱伝導率を有する複合金属間化合物であることが好ましい。
さらに、693K以上の温度で1.2以上の無次元性能指数(ZT)を有する複合金属間化合物であることが好ましい。無次元性能指数(ZT)は、上述したように、材料のゼーベック係数S、電気伝導率σ、熱伝導率κ、絶対温度Tを用いて、ZT=S2σT/κで表される。
693K(420℃)以上の温度(中高温領域)における上述の特性は、ゴミ焼却場の燃焼炉などの廃熱を利用する場合に、一般に熱電変換材料に必要といわれている特性よりも優れているものである。
本発明の第2の観点からは、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を8〜10:1の比で混合して溶融、冷却したことを特徴とする複合金属間化合物が提供される。ここで、より好ましくは、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を9:1の比で混合して溶融、冷却する。
AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を8〜10:1の比で混合し、例えば石英管に真空封入した後、約900℃で溶融させ、その後に約300℃で1週間アニーリングを施すことにより、簡単に目的とする複合金属間化合物が得られるのである。
本発明の第3の観点からは、上述の第2の観点の複合金属間化合物に、さらに加圧処理を行い、次いで所定の温度で熱処理を施したことを特徴とする複合金属間化合物が提供される。
本発明の第2の観点で得られる複合金属間化合物を加圧処理及び熱処理を施すことで、高密度試料を作製することができる。好ましくは、真空封入して熱処理を行うのが良い。混合物のうちTeは、高温において蒸発しやすいためである。
なお、熱処理温度及び熱処理時間は、目的とする複合金属間化合物が形成される条件とすればよく、特に限定されないが、通常は、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を8〜10:1の比で混合して溶融、冷却したものを、約100 MPaで加圧成形し、350〜450℃程度で1〜100時間程度、好ましくは425℃程度で48時間程度熱処理すればよい。
本発明の第4の観点からは、上述の第1〜第3の観点のいずれかに記載の複合金属間化合物からなる熱電変換材料が提供される。なお、この熱電変換材料は、P型熱電変換材料として用いることが好ましい。
本発明の第5の観点からは、上述の第4の観点の熱電変換材料を有することを特徴とする熱電発電用素子が提供される。本発明に係る熱電変換材料の無次元性能指数ZTはZT=1を超え、熱電変換で効率よく発電していくための熱電変換性能の良い材料である。
本発明の第6の観点からは、上述の第5の観点の熱電変換材料を有することを特徴とする熱電冷却用素子が提供される。
また、本発明の第7の観点からは、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を8〜10:1の比で混合する工程と、溶融し冷却する工程とを含むことを特徴とする熱電変換材料の製造方法が提供される。なお、好ましくは、さらに加圧処理工程と、所定の温度での熱処理工程とを含むことが望ましい。
本発明に係る熱電変換材料のうち、AgTlTe付近の組成をもつAg-Tl-Te三元系化合物について、その特徴を以下に説明する。
(1)無次元性能指数ZTの最大値は700Kにおいて1.42
(2)Ag-Tl-Te三元系化合物
(3)p型熱電変換材料として好適である(通常、熱電素子はn型熱電変換材料とp型熱電変換材料を接合して得られる)。
(4)作成方法が非常に簡単である(市販のAgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5をおよそ9:1の比で混合して溶融、冷却するだけで得られる)。
本発明者らが発明したAgTlTeという物質は、適度な大きさのゼーベック係数と電気伝導率を有しながら、極端に低い熱伝導率を有することに特徴がある。つまりκphが極端に小さい。熱伝導率の実測値は、室温で0.15 Wm-1K-1であり、この値は既存の熱電材料であるBi2Te3の約10分の1である。
通常、熱伝導率の低い物質を得るためには、
(1)単位格子体積が大きい
(2)重元素を含む
(3)融点・デバイ温度が低く、弾性定数が小さい
という条件を満たす必要があるといわれている。
本発明に係るAgTlTeをみると、この条件を全て満たしていることがわかる。つまり、各条件に対するAgTlTeの特徴を示すと、以下のようになる。
(1)結晶系は六方晶で格子定数はa=b=1.1442 (nm), c=4.1971 (nm)と非常に大きい。
(2)タリウムは重い元素(原子番号81番)。
(3)融点は約500 ℃、デバイ温度は約50 K、ヤング率は23 (GPa)。
これらの融点やデバイ温度の値は既存材料と比べても十分小さい。
以上より、本発明に係るAgTlTeは、適度な電気的特性を持ちながら、上記の理由により極端に低い熱伝導率を達成した特異な材料であるといえる。またこの特長は、熱電材料の高性能化に非常に有利であり、結果としてZT=1.42という高い性能を示したといえる。
機械的な稼動部が無く、廃棄物を全く出さない熱電変換は、産業用から民生用まで分散的に存在する廃熱エネルギーを電力に変換する分散熱エネルギー有効利用技術として位置づけることができる。また、熱電変換にはスケール効果がないことから、廃熱源のスケールを問わないというメリットもある。
一つの試算ではあるが、本発明に係る熱電変換材料を用いて発電モジュールを作成した場合、出力密度が1.5 W/cm2を超える発電モジュールが実現できる可能性がある。この値は、現行のシリコン太陽電池よりも高密度であり、分散型発電システムとして十分利用できるものである。本発明の複合金属間化合物を熱電変換モジュールとして熱電発電システム中に組み込むことにより、これまで大気中に廃棄されていた熱エネルギーを有効に利用することが可能になると期待される。
以下、本発明の実施形態につき、その作製手順と材料特性に関して、図面を示しながら詳細に説明する。
本発明の一実施例として、AgTlTeについて説明する。AgTlTeは700 K付近において無次元性能指数ZTが1.42という値が得られている。ここで、ZT=1.42の時のそれぞれの物理量は、温度:693 K、抵抗率:2.94×10-4 Ωm、ゼーベック係数:312 μV/K、熱伝導率:0.15 Wm-1K-1、密度:6.2 g/cm3(室温の値)である。以下、AgTlTeの試料の作成方法、試料の同定方法、電気的特性、熱伝導率と無次元性能指数ZTについて順に説明する。
(試料の作成方法)(コメント:実施例なので、AgTeとTlTeのままでよいかもしれません。ご判断いただけると幸いです。)
先ず、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を9:1で混合し、石英管に真空封入した後、900 ℃で溶融させその後300 ℃で1週間アニーリングを施すことにより試料を得る。得られた試料を粉砕し、常温で一軸プレスすることで物性測定用の試料を得た。測定試料は粉末を普通に固めただけのもので、ホットプレスはもちろん、焼結処理すら施していない。
(試料の同定)
AgTlTeの結晶構造とX線回折パターンを図1と図2にそれぞれ示す。AgTlTeの結晶系は六方晶(菱面体晶)で、試料の格子定数は、a=b=1.1328 (nm), c=4.1542 (nm)である。この格子定数の値と化学組成から求めた理論密度は7.8 (g/cm3)であり、物性測定用の試料の実測定密度が6.2 g/cm3(室温の値)であるから、物性測定用の試料密度は、約80 (%T.D.)であることが確認できる。ここで、T.D.は、Theoretical Density(理論密度)の略である。
(電気的特性)
AgTlTeの電気抵抗率(ρ=1/σ、σ:電気伝導率)とゼーベック係数(S)の温度依存性を、図3と図4にそれぞれ示す。電気抵抗率は、およそ10-3〜10-4 Ωmのオーダーであり、既存材料であるB1Teと比べて一桁から二桁程度大きい。ゼーベック係数は正の値を示し、およそ300〜400 μV/Kの値である。特に、650 Kを越えたあたりから、ゼーベック係数が少し上昇する。熱電材料の電気的特性を評価する指標にパワーファクター(S2σ=S2/ρ)がある。本実施例に係るAgTlTeのパワーファクターの最大値は、約3.3×10-4 Wm-1K-2であり、熱電材料としてはそれほど大きな値ではない。しかしながら次に示す熱伝導率が極端に小さいため、ZTは1を超えるのである。なお、電気的特性測定前後の試料の重量変化は、マイナス0.1重量%である。
(熱伝導率とZT)
AgTlTeの熱伝導率(κ)の温度依存性を図5に示す。熱伝導率は、熱拡散率、比熱、密度のかけあわせで評価している。ここで、熱拡散率はレーザーフラッシュ法で測定、密度は試料の寸法と重量から算出、比熱はAg2TeとTl2Teの比熱の文献データのたしあわせで評価している。図5から、AgTlTeの熱伝導率は極端に小さいことが確認できる。また温度依存性はほとんど見られないことが確認できる。熱伝導率の値は、およそ0.15 Wm-1K-1であり、この値は既存材料であるBi2Te3の約十分の一である。もともと低い熱伝導率に加えて、試料の密度が低いため(約80 %T.D.)このような低い値が得られたと考えられる。なお、熱拡散率測定前後の試料の重量変化は、マイナス2.9重量%であった。
AgTlTeの無次元性能指数ZTの温度依存性を図6に示す。既存材料であるBi2Te3のZTの最大値は1程度であり、本実施例に示すAgTlTeはそれ以上の値を有する。また排熱を回収して熱電発電を行う場合、廃熱の温度が300〜500 ℃であるため、その温度域で高い性能を示す材料が要求される。Bi2Te3の場合は、ZTの最大値は室温付近にあり、高温域での使用には不向きであるのに対し、AgTlTeの場合は、700 KにおいてZTは最大となるので、発電用熱電モジュールに適した高性能材料であるといえる。
次に、実施例2では、実施例1で示したAgTlTeの高密度試料の作製とその物性測定を実施した結果を説明する。
実施例1と異なり、実施例2では、通常のプレスを施した試料を真空封入して、425 ℃で熱処理を施すことで、高密度試料を得た。具体的には、電気的特性測定用試料が95 %T.D.、熱伝導率評価用試料が93 %T.D.となっている。これらについて物性測定を行った結果を図7から図9に示す。
図7のAgTlTeの高密度試料の電気的特性の温度依存性を示すグラフには、高密度試料(95 %T.D.)と参照用として実施例1の高密度化していない試料(80 %T.D.)について、(a) 電気抵抗率,(b) ゼーベック係数,(c) パワーファクターの温度依存性を示している。また、図8は、AgTlTeの高密度試料(93 %T.D.)と実施例1の高密度化していない試料(80 %T.D.)の熱伝導率の温度依存性を示している。
この結果をまとめると、実施例2の高密度試料は、実施例1の高密度化していない試料と比べて、以下の(1)〜(4)になる。
(1)電気抵抗率は小さくなる。
(2)ゼーベック係数は若干上昇する。
(3)上記(1)(2)よりパワーファクターは上昇する。
(4)ただし、熱伝導率も上昇する。
図9は、AgTlTeの高密度試料のZTの温度依存性を示すグラフである。図9から、高密度試料の無次元性能指数ZTは、実施例1の高密度化していない試料よりも小さくなっていることがわかる。本実施例の高密度試料のZTの最大値は、700 Kで1.23となっている。
以上のように、高密度試料のZTは、最大で約1.23であり、高密度化していない試料よりもZTは小さくなった。しかし、ふつうに固めただけの試料とくらべて若干のZTの減少はあったものの、それでも実用化の目安であるZT=1を大きく超える値を示すことが理解できる。
(コメント:実施例なので、AgTeとTlTeのままでよいかもしれません。ご判断いただけると幸いです。)
次に、AgTlTeの特性が少しの組成のずれで大きく変化することについて、図12を参照しながら説明する。図12は、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5の混合比を9:1から変化させたときの生成物の電気的特性を示すグラフ図である。AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5の混合比が、8:1の場合と、8.5:1の場合と、9:1の場合と、9.05:1の場合と、9.1:1の場合について、各々の電気抵抗率(ρ),ゼーベック係数(S),パワーファクター(P)の温度依存性を示している。
パワーファクターの値が大きいほど無次元性能指数(ZT)は大きくなる。図12のグラフ(c)に示されるように、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5の混合比が9:1の場合の生成物のパワーファクターが他と混合比のものと比べて最も高い値を示している。従って、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5の混合比が9:1の場合の生成物が、無次元性能指数(ZT)が大きい値となって熱電材料として優れていることになる。
また、図12のグラフ(c)に示されるように、AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5の混合比が9:1以外の場合の生成物のパワーファクターは軒並み低くなっており(最大で0.1 mWm-1K-2程度)、無次元性能指数(ZT)が小さい値を示すこととなり、無次元性能指数(ZT)>1は達成できそうに無いことが確認できる。
また、上述したように、AgTlTeの熱電変換材料は、p型熱電変換材料として好適である。熱電変換素子はn型熱電変換材料とp型熱電変換材料を接合して得ることができる。このAgTlTeのp型熱電変換材料に好適なn型熱電変換材料として、AgTlTeの組成の物質とTlBiTeについて検討した。
先ず、AgTlTeの組成の物質の場合は、その特徴として、ゼーベック係数は負の値を示し、熱伝導率は非常に低い値を示す(0.25 Wm-1K-1以下)。但し、電気伝導率が非常に低いために、無次元性能指数(ZT)は0.1程度であるが、少し組成を変えるだけで、電気的特性が大きく変化することを見出している。
また、TlBiTeの場合は、その特徴として、ゼーベック係数は負の値を示し、熱伝導率は上述のAgTlTeの組成の物質と比べて比較的高い値を示す(1.5 Wm-1K-1 程度)。無次元性能指数(ZT)の最大値は0.15程度である。
AgTlTeまたはTlBiTeをn型熱電変換材料として採用し、AgTlTeをp型熱電変換材料として採用し、これらを接合することで、熱電変換素子を得ることができるのである。
(測定機器の仕様)
電気抵抗率とゼーベック係数の測定には、ULVAC社製のZEM-1を用いた。これは、熱電変換材料の性能評価に欠かすことのできない熱起電力(ゼーベック係数)と電気抵抗率を測定する装置である。熱電対で温度と電圧を同時に測定することで、電気抵抗率と熱起電力の同時測定が可能となる。不活性ガス雰囲気下で最大800 ℃までの昇温測定を行うことで、両物性の温度依存性を得ることができる。別途得られた熱伝導率の温度依存性とあわせることで、無次元性能指数ZTを求めることができる。
試料の熱拡散率の測定には、ULVAC社製のレーザーフラッシュ熱定数測定装置「TC7000」を用いた。試料表面に瞬間熱源としてレーザーを照射し、その裏面の温度上昇を調べることにより、物質の熱拡散率が測定できる。本装置では、室温から1000℃の温度範囲での測定が可能である。測定雰囲気は真空中である。熱拡散率は物質の密度と比熱をかけることにより、熱伝導率に計算することができる。
本発明に係る熱電変換材料は、市販のAgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を9:1で混ぜ合わせて溶かしただけのものである。特別なナノ構造化や組織の制御は施していない。いいかえると、それだけ性能向上にむけた様々な取り組みを行う余地があり、大きなポテンシャルを秘めている材料であるといえる。
また、実際に実用化を目指すなら、簡単な作成方法で、誰でも再現可能で、しかもZT=1を超える高性能材料を見つける必要がある。本発明に係る熱電変換材料は、まさにこの要件をみたす新材料であるといえる。
本発明に係る熱電変換材料は、熱電発電を用いた廃熱の有効利用が実現できることから、発電所・ごみ焼却施設・自動車などの幅広い分野で利用可能性がある。また、熱電冷却も可能であるので、CPUの冷却といったIT分野、無音冷蔵庫などの家電分野での利用可能性がある。具体的な製品としては、熱電発電モジュール・熱電冷却モジュール(ペルチェ素子)が考えられる。
AgTlTe(Ag96Tl12Te66)の結晶構造の模式図を示す。 AgTlTeのX線回折パターン図を示す。 AgTlTeの電気抵抗率の温度依存性を示すグラフ図である。 AgTlTeのゼーベック係数の温度依存性を示すグラフ図である。 AgTlTeの熱伝導率の温度依存性を示すグラフ図である。 AgTlTeのZTの温度依存性を示すグラフ図である。 AgTlTeの高密度試料の電気的特性の温度依存性を示すグラフ図である。(a)〜(c)のグラフ図の縦軸はそれぞれ次の通りである。(a) 電気抵抗率,(b) ゼーベック係数,(c) パワーファクター AgTlTeの高密度試料の熱伝導率の温度依存性を示すグラフ図である。 AgTlTeの高密度試料のZTの温度依存性を示すグラフ図である。 既存p型熱電変換材料の性能指数を示すグラフ図である。 既存n型熱電変換材料の性能指数を示すグラフ図である。 AgTeとTlTeの混合比を9:1から変化させたときの生成物の電気的特性を示すグラフ図である。(a)〜(c)のグラフ図の縦軸はそれぞれ次の通りである。(a) 電気抵抗率,(b) ゼーベック係数,(c) パワーファクター

Claims (16)

  1. Ag,Tl,及びTeより成り、かつ、無次元性能指数(ZT)が0.8以上であることを特徴とする複合金属間化合物。
  2. 一般式:Ag8〜10Tl0.8〜1.2Te4.5〜5.5で表されることを特徴とする請求項1に記載の複合金属間化合物。
  3. 組成式:AgTlTeで表されることを特徴とする請求項1に記載の複合金属間化合物。
  4. 693K(絶対温度)以上の温度で200μVK-1以上のゼーベック係数を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の複合金属間化合物。
  5. 693K(絶対温度)以上の温度で1×10-3 Ωm以下の電気抵抗率を有することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の複合金属間化合物。
  6. 693K(絶対温度)以上の温度で0.5Wm-1K-1以下の熱伝導率を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の複合金属間化合物。
  7. 693K(絶対温度)以上の温度で1.2以上の無次元性能指数(ZT)を有することを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の複合金属間化合物。
  8. AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を8〜10:1の比で混合して溶融、冷却したことを特徴とする請求項1に記載の複合金属間化合物。
  9. AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を9:1の比で混合して溶融、冷却したことを特徴とする請求項1に記載の複合金属間化合物。
  10. 請求項8又は9に記載の複合金属間化合物に、さらに加圧処理を行い、次いで所定の温度で熱処理を施したことを特徴とする複合金属間化合物。
  11. 請求項1乃至10のいずれか1項に記載の複合金属間化合物からなる熱電変換材料。
  12. 請求項11に記載の熱電変換材料がP型熱電変換材料であること。
  13. 請求項11又は12に記載の熱電変換材料を有することを特徴とする熱電発電用素子。
  14. 請求項11又は12に記載の熱電変換材料を有することを特徴とする熱電冷却用素子。
  15. AgTe0.5〜1.5とTlTe0.5〜1.5を8〜10:1の比で混合する工程と、溶融し冷却する工程を含むことを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
  16. 請求項15に記載の製造方法において、さらに加圧処理工程と、所定の温度での熱処理工程とを含むことを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
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