JPWO2006043511A1 - 機械設備の異常診断システム - Google Patents
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Abstract
検出信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部103と、エンベロープを周波数スペクトルに変換するFFT部104と、周波数スペクトルを移動平均化することにより平滑化し更にそのスペクトルを平滑化微分して微分係数の符号が正から負へ変化する周波数ポイントをピークとして検出し、所定の闘値以上のものを抽出し、それらをソーティングしてそのうち上位のものをピークとして検出するピーク検出部105と、検出されたピークに基づいて異常を診断する診断部Tとを備えた。
Description
本発明は、鉄道車両、航空機械、風力発電装置、工作機械、自動車、製鉄機械、製紙機械、回転機械、等といった、軸受を含む機械設備の異常診断技術に関し、より詳細には、機械設備から発生する音または振動を分析することにより、その機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する機械設備の異常診断技術に関する。
従来、この種の異常診断技術として、機械設備の摺動部材または摺動部材関連部材からの音または振動を表す信号を検出し、検出した信号またはそのエンベロープ信号の周波数スペクトルを求め、その周波数スペクトルから、機械設備の摺動部材または機械設備の摺動部材関連部材の異常に起因する周波数成分のみを抽出し、抽出した周波数成分の大きさにより、機械設備に使用されている摺動部材における異常の有無を診断するものが知られている(特許文献1参照)。
また、回転体または回転体関連部材から発生する音または振動を検出し、検出した信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出し、更に取り出した信号のエンベロープ(包絡線)を求め、求めたエンベロープを周波数解析し、周波数解析により回転体または回転体関連部材の異常に起因する周波数の基本周波数成分の大きさと、その自然数倍の周波数成分の大きさとを求め、求めた基本周波数成分の大きさと、その自然数倍の周波数成分の大きさとを比較し、少なくともその比較結果を、機械設備の異常を判断する基準として用いるようにしたものも知られている(特許文献2参照)。
また、機械設備から発生した音または振動のアナログ信号をA/D(アナログ・デジタル)変換によりデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成し、この実測デジタルデータに対して周波数分析およびエンベロープ分析等の適宜解析処理を行なって実測周波数スペクトルデータを生成し、機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、機械設備に対する異常の有無の診断を行なうものも知られている(特許文献3参照)。
また、振動加速度のエンベロープ波形をデジタル信号に変換し、デジタル化した振動データの時間毎の振動スペクトル分布を求めると共に、振動測定時の転がり軸受の回転速度を時々刻々求めて、回転速度の時間変化パターンと振動スペクトル分布におけるピークスペクトルの周波数の時間変化パターンが一致し、さらに、任意の時刻におけるピークスペクトルの周波数が、転がり軸受の回転速度と転がり軸受の幾何学的寸法とから求まる転がり軸受損傷の特徴周波数と一致する場合に、転がり軸受の特定部位に損傷が発生したと判定するものも知られている(特許文献4参照)。
これらの特許文献には異常を示す周波数のピークを検出する方法について明記されてないが、軸受の剥離寿命や機械の回転軸偏心等の異常が発生した場合、これらの異常を示す信号(異常信号)の周波数のピークは、周波数スペクトルの積算平均によって容易に求めることができる。積算平均は、ランダムノイズの除去に有効であるとして高速フーリエ変換(FFT)解析等といった周波数分析の分野でよく使用される手法である。
また、これらの従来技術においては、エンベロープ信号を求める処理(エンベロープ処理)はアナログ処理であったりデジタル処理であったりするが、周波数解析処理にはデジタル処理である高速フーリエ変換(FFT)処理が使用される。FFT演算を行なうために、エンベロープ処理の前または後にA/D変換を行なっている。そして、いずれの従来技術においても、エンベロープ処理の直後にFFT演算を行なっている。
エンベロープ処理をアナログ処理により行なう方式では、エンベロープ処理ユニットが必要となる。したがって、システムのコスト低減および小型化を図る上では、エンベロープ処理をデジタル処理で行なう方式の方が有利である。
エンベロープ処理をデジタル処理で行なう方式において、異常診断効率を上げる方法として、FFT演算の効率を上げることが考えられる。FFT演算の効率向上は、FFT演算のポイント数を少なくすることにより達成可能である。
さらに、鉄道車両の車軸用軸受や車輪の損傷を振動(音響的振動を含む)を利用して検出する異常診断装置が知られている。従来のこの種の異常診断装置は、軸箱ごとに個々に振動センサを設けて、個々の軸受や車輪の損傷を検出していた(特許文献5、特許文献6、等参照)。
従来、鉄道車両の回転部品は、一定期間使用した後に、車軸軸受やその他の回転部品について、損傷や摩耗等の異常の有無が定期的に検査される。この定期的な検査は、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することにより行なわれ、回転部品に発生した損傷や摩耗は、作業者が目視による検査により発見するようにしている。そして、検査で発見される主な欠陥としては、軸受の場合、異物の噛み込み等によって生ずる圧痕、転がり疲れによる剥離、その他の摩耗等、歯車の場合には、歯部の欠損や摩耗等、車輪の場合には、フラット等の摩耗があり、いずれの場合も新品にはない凹凸や摩耗等が発見されれば、新品に交換される。
しかし、機械設備全体を分解して、作業者が目視で検査する方法では、装置から回転体や摺動部材を取り外す分解作業や、検査済みの回転体や摺動部材を再度装置に組込み直す組込み作業に多大な労力がかかり、装置の保守コストに大幅な増大を招くという問題があった。
また、組立て直す際に検査前にはなかった打痕を回転体や摺動部材につけてしまう等、検査自体が回転体や摺動部材の欠陥を生む原因となる可能性があった。また、限られた時間内で多数の軸受を目視で検査するため、欠陥を見落とす可能性が残るという問題もあった。さらに、この欠陥の程度の判断も個人差があり実質的には欠陥がなくても部品交換が行なわれるため、無駄なコストがかかることにもなる。
そこで、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することなく、実稼動状態で回転部品の異常診断を行なう様々な方法が提案された(例えば、特許文献1、7及び8)。最も、一般的なものとしては、特許文献1に記載されるように、軸受部に加速度計を設置し、軸受部の振動加速度を計測し、更に、この信号にFFT(高速フーリエ変換)処理を行なって振動発生周波数成分の信号を抽出して診断を行なう方法が知られている。
また、鉄道車両の車輪の転動面において、ブレーキの誤動作等による車輪のロックや滑走によるレールとの摩擦・摩耗によって生じるフラットと呼ぶ平坦部の検出方法としても種々提案されている(例えば、特許文献6、9及び10参照。)。特に特許文献6では、振動センサや回転測定装置等により鉄道車両車輪、および列車が通過する線路の欠陥状態を検出する装置について提案している。
特開2003−202276号公報 特開2003−232674号公報 特開2003−130763号公報 特開平09−113416号公報 特開平4−235327号公報 特表平9−500452号公報 特開2002−22617号公報 特開2004−257836号公報 特開平4−148839号公報 特表2003−535755号公報
しかし、振動センサや音響センサには、外部からの衝撃音や摩擦音、移動体の場合には旋回による加速度が作用するため、これら非定常的な外乱に起因して異常が誤検出されることが多い。このため、積算平均による周波数のピーク検出方法は、積算回数を多くとると速度の変化や外部からの衝撃音等の影響を受けやすくなるので有効でない場合もある。
しかし、振動センサや音響センサには、外部からの衝撃音や摩擦音、移動体の場合には旋回による加速度が作用するため、これら非定常的な外乱に起因して異常が誤検出されることが多い。このため、積算平均による周波数のピーク検出方法は、積算回数を多くとると速度の変化や外部からの衝撃音等の影響を受けやすくなるので有効でない場合もある。
また、寿命に至る前の小さな傷、剥離、錆、等による異常の場合、振動センサや音響センサからの信号のパワーは、機械的ノイズや電気的ノイズに埋もれやすいほど小さいことが多い。このため、寿命以前の異常予知段階においては、閾値を設けてその値よりもパワーの大きい信号のみ抽出する方法は使えない場合が多い。異常の予知を行なう上で、最も厄介な問題は、このように異常信号あるいは異常の予兆を示す信号(異常予兆信号)と雑音信号とのS/N比が小さい場合に、雑音信号を異常信号または異常予兆信号と誤判定してしまうことである。極小さな異常信号や異常予兆信号も見逃さないようにすることは、軸受等の異常予知の正確性を高める上で有利であるが、その結果雑音信号を異常信号や異常予兆信号と誤判定してしまうと、機械設備を頻繁に運転停止させて点検することになるため、運転コストの増大を招く。
また、FFT演算のポイント数を少なくして計算効率を上げようとすると、周波数分解能が悪くなってしまい、異常診断の精度低下を招くという問題がある。
さらに、エンベロープ処理をデジタル処理で行なう方式において、異常診断効率を上げる方法として、FFT演算の効率を上げることが考えられる。FFT演算の効率向上は、FFT演算の点数を少なくすることにより達成可能である。しかし、FFT演算の点数を少なくして計算効率を上げようとすると、周波数分解能が悪くなってしまい、異常診断の精度低下を招くという問題がある。
回転機械において軸受欠陥等に起因する異常を診断するための演算デバイスは、寸法や消費電力が小さい方が組込み用として望ましい。また計算精度の面からもメモリ容量の面からも、少ない演算点数でFFTを行なうことが要求される。しかし、その一方で、上述したように、周波数分解能がある程度高くないと異常診断の精度低下を招く。生波形を復元できる周波数を10kHz(サンプリング周波数は20kHz以上)までとる必要があっても軸受の欠陥周波数の上限は結局1kHz以下になる。
しかし、従来の異常診断装置では、軸箱ごとに個々に振動センサを設ける必要があるた
め、各車両ごとのセンサの設置数が多くなり、センサ信号を処理するための信号処理部の
入力回路や配線の数が多大となり回路構成が複雑になるという問題があった。
め、各車両ごとのセンサの設置数が多くなり、センサ信号を処理するための信号処理部の
入力回路や配線の数が多大となり回路構成が複雑になるという問題があった。
しかし、特許文献6に記載の欠陥状態の検出装置では、異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのか、あるいは線路または他の異常によるものなのかを識別できないという問題がある。
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、高精度に異常診断を実施できる、機械設備の異常診断システムを提供することにある。
本発明は、前述した事情に鑑みなされたものであり、その目的は、機械設備からの信号の周波数分解能の向上とFFT演算の効率向上とを両立させて、異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる、機械設備の異常診断システムを提供することにある。
本発明は、前述した事情に鑑みなされたものであり、その目的は、診断対象から検出された信号を、任意の周波数分解能でFFTして高精度に異常診断を実施できる、機械設備の異常診断システムを提供することにある。
本発明は、前述した事情に鑑みなされたものであり、その目的は、車両一台あたりに振動センサを1つ設けるのみで、その1つの振動センサからの波形信号を基に、その車両における軸受の剥離、車輪のフラット、等の異常を検出することができる異常診断装置を提供することにある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車軸軸受または車輪の振動を検出する振動センサの出力信号から車軸軸受および車輪の異常振動を検出して、その異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのかを特定することができる異常診断装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明に係る機械設備の異常診断システムは、下記(1)から(31)を特徴としている。
(1)機械設備から発生する音または振動を検出し、その検出信号を分析することにより、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、
前記検出信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部と、
当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープを周波数スペクトルに変換するFFT部と、
当該FFT部により得られた周波数スペクトルを移動平均化処理することにより平滑化してそのピークを検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部によって検出された周波数スペクトルのピークに基づいて異常を診断する診断部と、
を備えたこと。
前記検出信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部と、
当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープを周波数スペクトルに変換するFFT部と、
当該FFT部により得られた周波数スペクトルを移動平均化処理することにより平滑化してそのピークを検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部によって検出された周波数スペクトルのピークに基づいて異常を診断する診断部と、
を備えたこと。
(2)上記(1)の構成の異常診断システムにおいて、前記ピーク検出部が、前記FFT部により得られた周波数スペクトルに対して平滑化微分処理を実施し、得られた微分値の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出する平滑化微分ピーク抽出部を備えていること。
(3)上記(1)または(2)の構成の異常診断システムにおいて、前記移動平均化処理における重み係数が左右対称(現時点を基準にして前後対象)であること。
(4)上記(2)または(3)の構成の異常診断システムにおいて、前記ピーク検出部が、前記平滑化微分ピーク抽出部により抽出されたピークのうち、閾値以上のものを選別する第1の選別部を備えていること。
(5)上記(4)の構成の異常診断システムにおいて、前記ピーク検出部が、前記第1の選別部により選別されたピークのうち、振幅レベルが大きい方から所定の個数までのピークを選別する第2の選別部を備えていること。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか構成の異常診断システムにおいて、前記診断部が、前記ピーク検出部によって検出された周波数スペクトルのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断すること。
(7)機械設備から発生する音または振動を検出し、検出した信号を分析することにより、その機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、前記検出した信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出すフィルタ処理部と、当該フィルタ処理部により取り出された信号のエンベロープ信号を求めるエンベロープ処理部と、当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープ信号を間引き処理するデシメーション処理部と、
当該デシメーション処理部により間引き処理した後のエンベロープ信号を周波数解析するFFT演算部と、当該FFT演算部による解析結果に基づいて異常を診断する診断部とを備えたこと。
当該デシメーション処理部により間引き処理した後のエンベロープ信号を周波数解析するFFT演算部と、当該FFT演算部による解析結果に基づいて異常を診断する診断部とを備えたこと。
(8)機械設備から発生する音または振動を検出し、検出した信号を分析することにより、その機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、前記検出した信号を予め必要とされるサンプリング周波数よりも高いサンプリング周波数でサンプリングするサンプリング処理部と、当該サンプリング処理部によりサンプリングされた信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出すフィルタ処理部と、当該フィルタ処理部により取り出された信号を間引き処理するデシメーション処理部と、当該デシメーション処理部により間引き処理された信号のエンベロープ信号を求めるエンベロープ処理部と、当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープ信号を周波数解析するFFT演算部と、当該FFT演算部による解析結果に基づいて異常を診断する診断部とを備えたこと。
(9)上記(7)または(8)の構成の異常診断システムにおいて、前記エンベロープ信号の周波数帯域を低帯域化するデジタルフィルタ処理部を更に備えたこと。
(10)上記(7)、(8)または(9)の構成の異常診断システムにおいて、前記FFT演算部をDSPで実現するとともに、前記FFT演算部に入力するデータ数を当該DSP内のメモリに収容可能なデータ数としたこと。
(11)機械設備から発生する音または振動を検出し、その信号を分析することにより、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、前記信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、当該A/D変換部により変換されたデジタル信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出すデジタルフィルタ処理部と、当該デジタルフィルタ処理部により取り出された信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部と、当該エンベロープ処理部により求められたエンベロープを任意の周波数分解能で高速フーリエ変換するべくゼロ詰め補間する補間処理部と、当該補間処理部によりゼロ詰め補間された信号をFFTするFFT部と、当該FFT部により得られた周波数スペクトルに基づいて異常を診断する診断部とを備えたこと。
(12)上記(11)の構成を備えた機械設備の異常診断システムにおいて、前記補間処理部が、前記FFT部におけるサンプリング周波数が2のN乗ヘルツまたは2のN乗の倍数ヘルツになるようにゼロ詰め補間すること。
(13)上記(11)または(12)の構成を備えた機械設備の異常診断システムが、前記FFT部により得られた周波数スペクトルのピークを検出するピーク検出部を更に備え、前記診断部が、前記ピーク検出部によって検出されたピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断すること。
(14)車両の走行中に異常を診断する異常診断装置であって、車両の振動を検出する振動センサと、前記振動センサが出力する波形信号に基づいて、波高率、衝撃指数、波形率、および尖り度のうちいずれか1つの無次元パラメータ値を求めるパラメータ値検出回路と、前記パラメータ値検出回路から出力された無次元パラメータ値が一定の基準を超えたことを示す第1の電圧の信号または前記無次元パラメータ値が一定の基準以下であることを示す第2の電圧の信号を出力する比較回路とを備え、前記比較回路の出力に基づいて異常を検出するように構成したこと。
(14)車両の走行中に異常を診断する異常診断装置であって、車両の振動を検出する振動センサと、前記振動センサが出力する波形信号に基づいて、波高率、衝撃指数、波形率、および尖り度のうちいずれか1つの無次元パラメータ値を求めるパラメータ値検出回路と、前記パラメータ値検出回路から出力された無次元パラメータ値が一定の基準を超えたことを示す第1の電圧の信号または前記無次元パラメータ値が一定の基準以下であることを示す第2の電圧の信号を出力する比較回路とを備え、前記比較回路の出力に基づいて異常を検出するように構成したこと。
(15)車両の走行中に異常を診断する異常診断装置であって、車両の振動を検出する振動センサと、前記振動センサが出力する波形信号に基づいて、RMS(2乗平均の平方根)および絶対値平均のいずれか一方のパラメータ値を求める演算回路と、前記波形信号のピーク値を求めるピーク検出回路と、前記パラメータ値の一定倍の値と前記ピーク検出回路から出力されたピーク値とを比較し、その比較結果に応じて、前記ピーク値と前記パラメータ値との比として求まる無次元パラメータ値が一定の基準を超えたことを示す第1の電圧の信号または前記無次元パラメータ値が一定の基準以下であることを示す第2の電圧の信号を出力する比較回路とを備え、前記比較回路の出力に基づいて異常を検出するように構成したこと。
(16)上記(15)の構成の異常診断装置において、前記ピーク検出回路から出力されたピーク値と予め設定した参照値とを比較するピーク−参照値比較回路を更に備え、前記ピーク−参照値比較回路による比較の結果、前記ピーク値が前記参照値よりも大きい場合には、前記比較回路の出力を無効にするように構成したこと。
(17)上記(14)〜(16)のいずれかの構成の異常診断装置において、前記第1の電圧の信号のデューティ比に基づいて異常を検出するように構成したこと。
(18)上記(15)〜(17)のいずれかの構成の異常診断装置において、前記振動センサの出力信号のうち所定の帯域の信号のみ前記パラメータ値検出回路および前記ピーク検出回路に入力するためのフィルタ回路を更に備えたこと。
(19)上記(14)〜(18)のいずれかの構成の異常診断装置において、前記車両は鉄道車両であること。
(20)振動特性の異なる複数の部品を有する機械装置の異常診断装置であって、前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部とを備え、前記診断処理部が、前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを第1の振動特性の部品診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを第2の振動特性の部品診断用の振動データとして処理することを特徴とする異常診断装置。
(21)鉄道車両の車軸軸受および車輪の異常診断装置であって、車軸軸受および車輪の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なう診断処理部とを備え、前記診断処理部が、前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理することを特徴とする異常診断装置。
(22)前記診断処理部が、車軸軸受の回転速度と振動のエンベロープ波形を処理して得られる周波数ピークとに基づいて車軸軸受の異常を検出し、車輪の回転に同期して生じる振動のレベルが閾値を超える頻度に基づいて車輪の異常を検出し、それぞれの異常の検出結果に基づいて異常診断を行なうことを特徴とする上記(21)の異常診断装置。
(23)前記信号処理手段が、複数の振動センサの出力信号を1チャネルずつ切換えてサンプリングすることを特徴とする上記(21)〜(22)のいずれかの異常診断装置。
(24)振動センサの出力信号を車輪の回転に同期してサンプリングし加算平均処理して得られる振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なうように構成したことを特徴とする上記(22)または(23)の異常診断装置。
(25)振動特性の異なる複数の部品を有する機械装置の異常診断装置であって、前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部とを備え、前記診断処理部が、前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつそれを第1の振動特性の部品診断用と第2の振動特性の部品診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理することを特徴とする異常診断装置。
(26)鉄道車両の車軸軸受および車輪の異常診断装置であって、前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部とを備え、前記診断処理部が、前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつそれを車軸軸受診断用と車輪診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理することを特徴とする異常診断装置。
(27)車軸軸受と車輪それぞれについて複数回異常検出を実施し、それぞれの複数回分の集計値から統計的に異常診断を行なうことを特徴とする上記(22)、(23)、(24)、(26)のいずれかの異常診断装置。
(28)異常を検出する際に使用したデータを保存しておく機能を有することを特徴とする上記(20)〜(27)のいずれかの異常診断装置。
(29)回転或いは摺動する部品を有する機械装置の異常診断装置であって、前記機械装置の振動を検出する振動センサからのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、当該AD変換器からのデジタル信号をフーリエ変換処理し、その結果に基づいて異常診断を行なう診断処理部とを備え、前記診断処理部が、前記AD変換器からのデジタル信号を前記AD変換器の分解能よりもデータ幅を拡張してフーリエ変換処理するように構成されていることを特徴とする異常診断装置。
(30)回転或いは摺動する部品を有する機械装置の異常診断装置であって、前記機械装置の振動を検出する振動センサからのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、当該AD変換器からのデジタル信号をフーリエ変換処理し、その結果に基づいて異常診断を行なう診断処理部とを備え、前記診断処理部が、前記AD変換器の分解能を1ビットとし、これを2ビット以上の所定のデータ幅に拡張してフーリエ変換処理するように構成されていることを特徴とする異常診断装置。
(31)回転或いは摺動する部品を有する機械装置の異常診断装置であって、前記機械装置の振動を検出する振動センサからのアナログ信号の電圧と参照電圧とを比較して、当該アナログ信号の電圧が参照電圧よりも高か低かを示す2値の信号を出力するコンパレータを備え、前記診断処理部が、前記コンパレータからの信号を所定のデータ幅に拡張してフーリエ変換処理するように構成されていることを特徴とする異常診断装置。
上記(1)の構成の異常診断システムによれば、機械設備から発生する音または振動を検出し、その検出信号のエンベロープを求め、そのエンベロープを周波数スペクトルに変換し、得られた周波数スペクトルを移動平均化することにより平滑化した上でそのピークを検出し、検出されたピークに基づいて異常を診断するので、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、高精度に異常診断を実施できる。
上記(2)の構成の異常診断システムによれば、周波数スペクトルに対して平滑化微分処理(即ち、同じ点を中心にして複数の区間の差分と区間長の積和)を行ない、その微分値の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出するので、雑音に埋もれた周波数スペクトルのピーク検出を高精度に行なうことができる。
上記(3)の構成の異常診断システムによれば、移動平均化処理における重み係数が左右対称であるので、雑音信号を誤って異常信号や異常予兆信号として検出してしまうのを防止できる。
上記(4)の構成の異常診断システムによれば、抽出されたピークのうち、振幅レベルが閾値以上のものを選別するので、ピーク雑音に埋もれた周波数スペクトルのピーク検出をより高精度に行なうことができる。
上記(5)の構成の異常診断システムによれば、振幅レベルが閾値以上のピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が大きい方から所定の個数までのピークを選別するので、異常診断を行なう上で有効なピークに絞り込んで異常診断を高精度に且つ効率良く行なうことができる。
上記(6)の構成の異常診断システムによれば、検出された周波数スペクトルのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断するので、異常診断を高精度に実施できる。上記(7)の構成の異常診断システムによれば、エンベロープ処理の後で信号の間引き処理を行なって、エンベロープ波形解析のためのFFT演算のポイント数を少なくするので、検出された信号の周波数分解能の向上とFFT演算の効率向上とを両立させて、軸受の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。
上記(8)の構成の異常診断システムによれば、検出された信号のA/D変換時のサンプリングレートを高めに設定してから周波数帯域制限および間引き処理を行なうため、アンチエリアシングフィルタの省略が可能であり、エンベロープ処理の後で信号の間引き処理を行なって、エンベロープ波形解析のためのFFT演算のポイント数を少なくするので、検出された信号の周波数分解能の向上とFFT演算の効率向上とを両立させて、軸受の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。
上記(9)の構成の異常診断システムによれば、エンベロープ信号の周波数帯域を低帯域化するデジタルフィルタ処理を行なうことにより、エリアシング等の影響を抑えて確実に低域のFFT演算処理を実行することができる。
上記(10)の構成の異常診断システムによれば、DSPによる高速FFT処理が可能になる。上記(11)の構成の異常診断システムによれば、機械設備から発生する音または振動を検出し、その信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出してそのエンベロープを求め、そのエンベロープを任意の周波数分解能でFFTするべくゼロ詰め補間した上でFFTし、FFTにより得られた周波数スペクトルに基づいて異常を診断するので、高精度に異常診断を実施できる。
上記(12)の構成の異常診断システムによれば、FFT部におけるサンプリング周波数が2のN乗(例えばN=8〜12)ヘルツまたは2のN乗の倍数ヘルツになるようにゼロ詰め補間されるので、FFT演算時における周波数分解能を1.0Hz基準とすることができ、任意の分解能に設定することができる。
上記(13)の構成の異常診断システムによれば、検出された周波数スペクトルのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断するので、異常診断を高精度に実施できる。上記(14)の構成の異常診断装置によれば、振動センサが出力する波形信号に基づいて、波高率、衝撃指数、波形率、および尖り度のうちいずれか1つの無次元パラメータ値が、一定の基準を超えたことを示す第1の電圧の信号または前記無次元パラメータ値が一定の基準以下であることを示す第2の電圧の信号を出力する比較回路を備え、当該比較回路の出力に基づいて異常を検出することができるので、車両一台あたりに振動センサを1つ設けるのみで、その1つの振動センサからの波形信号を基に、その車両における軸受の剥離、車輪のフラット、等の異常を検出することができる。
上記(15)の構成の異常診断装置によれば、振動センサが出力する波形信号に基づいて、RMS(2乗平均の平方根)および絶対値平均のいずれか一方のパラメータ値を求める演算回路と、前記波形信号のピーク値を求めるピーク検出回路と、前記パラメータ値の一定倍(例えば後述する[発明を実施するための最良の形態]ではアナログ回路で倍率を決めるので一般的に整数にはならず一定倍あるいは定数倍となる。)の値と前記ピーク検出回路から出力されたピーク値とを比較し、その比較結果に応じて、前記ピーク値と前記パラメータ値との比(即ち、無次元パラメータ値)が一定の基準を超えたことを示す第1の電圧の信号または前記無次元パラメータ値が一定の基準以下であることを示す第2の電圧の信号を出力する比較回路と、を備え、前記比較回路の出力に基づいて異常を検出することができるので、車両一台あたりに振動センサを1つ設けるのみで、その1つの振動センサからの波形信号を基に、その車両における軸受の剥離、車輪のフラット、等の異常を検出することができる。また、上記(15)の構成の異常診断装置によれば、比較的簡単な回路構成で異常診断を行なうことができる。
上記(16)の構成の異常診断装置によれば、ピーク値と予め設定した参照値とを比較し、ピーク値が参照値よりも大きい場合には、異常を検出するため第1および第2の電圧の信号を無効にするので、ノイズに起因する非常に大きな信号によってセンサユニットの出力が飽和してしまうのを防止することができる。
上記(17)の構成の異常診断装置によれば、パラメータ値が一定の基準を超えたことを示す第1の電圧の信号のデューティ比に基づいて異常を検出するように構成したことにより、ノイズの影響を避けながら異常診断を行なうことができる。
上記(18)の構成の異常診断装置によれば、振動センサの出力信号のうち所定の帯域の信号のみ捉えて異常診断を行なうことができる。
上記(19)の構成の異常診断装置によれば、鉄道車両の異常を検出できるので、鉄道車両の信頼性を高めることができる。
さらに、上記(20)から(28)の構成の異常診断装置によれば、下記(I)〜(IV)の効果が得られる。
(I)振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを第1の振動特性の部品診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを第2の振動特性の部品診断用の振動データとして処理するので、両振動特性の部品の振動を検出する振動センサの出力信号から両振動特性の部品の異常振動をリアルタイムで検出して、その異常振動が第1の振動特性の部品の異常によるものか、第2の振動特性の部品の異常によるのかを特定することができる。
(II)振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理するので、車軸軸受および車輪の振動を検出する振動センサの出力信号から車軸軸受および車輪の異常振動をリアルタイムで検出して、その異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのかを特定することができる。
(III)振動データを連続して取り込みつつそれを第1の振動特性の部品診断用と第2の振動特性の部品診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理するので、両振動特性の部品の振動を検出する振動センサの出力信号から両振動特性の部品の異常振動をリアルタイムで検出して、その異常振動が第1の振動特性の部品の異常によるものか、第2の振動特性の部品によるのかを特定することができる。
(IV)振動データを連続して取り込みつつそれを車軸軸受診断用と車輪診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理するので、車軸軸受および車輪の振動を検出する振動センサの出力信号から車軸軸受および車輪の異常振動をリアルタイムで検出して、その異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのかを特定することができる。
〈発明の効果〉本発明によれば、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、高精度に異常診断を実施できる。本発明の異常診断システムによれば、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。本発明によれば、診断対象から検出された信号を、任意の周波数分解能でFFTして高精度に異常診断を実施できる。本発明の異常診断装置によれば、車両一台あたりに振動センサを1つ設けるのみで、その1つの振動センサからの波形信号を基に、その車両における軸受の剥離、車輪のフラット、等の異常を検出することができるので、異常診断システムを低コストで構築できる。
〈発明の効果〉本発明によれば、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、高精度に異常診断を実施できる。本発明の異常診断システムによれば、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。本発明によれば、診断対象から検出された信号を、任意の周波数分解能でFFTして高精度に異常診断を実施できる。本発明の異常診断装置によれば、車両一台あたりに振動センサを1つ設けるのみで、その1つの振動センサからの波形信号を基に、その車両における軸受の剥離、車輪のフラット、等の異常を検出することができるので、異常診断システムを低コストで構築できる。
本発明の異常診断装置によれば、低分解能のAD変換器や単なる比較器を使用して回路の低コスト化および省スペース化を図り、且つ精度低下を招くことなく異常診断を行なうことができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、転がり軸受を含む機械設備を対象とし、機械設備内の転がり軸受の傷といった異常の有無を判断する場合を例にとし説明する。
図1は本発明の異常診断システムの形態例を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の異常診断システムは、アンプ・フィルタ(フィルタ処理部)101、A/D変換器102、エンベロープ処理部103、FFT部104、ピーク検出部105、診断部106、および診断結果出力部107を備えている。
アンプ・フィルタ101には、診断対象の機械設備から発生する音または振動を検出するセンサ(振動センサ、音響センサ、等)により検出された信号が入力される。アンプ・フィルタ101は、入力された信号を所定のゲインで増幅するとともに、所定周波数以上の信号を遮断する。
A/D変換器102は、アンプ・フィルタ101を通過したアナログ信号を、所定のサンプリング周波数でサンプリングし、デジタル信号に変換する。
エンベロープ処理部103は、A/D変換器102により生成されたデジタル信号のエンベロープ(包絡線波形)を求めるFFT部104は、エンベロープ処理部103により求められたエンベロープを周波数解析し、周波数スペクトルに変換するピーク検出部105は、FFT部104により得られた周波数スペクトルのピークを検出する改行診断部106は、転がり軸受に設けられた図示しない回転センサにより検出された回転速度と軸受の内部諸元とで決まる特徴周波数と、ピーク検出部105により得られたピークとを比較し、その一致度を評価することにより異常を診断する。診断結果出力部107は、診断部106による診断結果を出力する。ピーク検出部105は、移動平均化処理部105aと、平滑化微分ピーク抽出部105bと、第1選別部105cと、第2選別部105dとを備えている。移動平均化処理部105aは、FFT部104により得られた周波数スペクトル(周波数領域の離散データ)を左右対称に重み付けして移動平均化する。たとえば、5点の移動平均では、FFT部104により得られた周波数スペクトルに対し、次式の演算を施すことにより、
したがって、式(2)によれば、式(1)を用いずとも雑音に埋もれたピークの検出が可能であるが、式(1)と併用してもよい。
第1選別部105cは、平滑化微分ピーク抽出部105bにより抽出されたピークのうち、振幅レベルが閾値以上のものを選別する。閾値には、平滑化微分ピーク抽出部105bにより抽出されたピークのパワー平均値やオーバーオール信号の二乗平均平方根に応じて決まる相対的な値を用いる。絶対的な閾値は、相対雑音レベルが低い場合には有効であるが、雑音レベルが大きい場合には必ずしも有効とは言えない。
第2選別部105dは、第1選別部105cで選別されたピークのうち、振幅レベルが大きい方から所定の個数までのピークを選別する。その最も簡単な方法として、たとえば公知のソーティングアルゴリズムを用いて複数のピークをレベルに関して降順あるいは昇順ソートした後、上位のもの、即ち、値の大きなものから順に選別する方法をあげることができる。
図2に周波数スペクトル波形の例を示す。この例は、傷ありと診断された振動データをエンベロープ処理したスペクトルとその移動平均処理後のスペクトルを示している。ここでの移動平均は、次式に示すような7点の移動平均である。
図2のように移動平均処理されたスペクトルを移動平均化処理部105aで平滑化微分し、平滑化微分ピーク抽出部105bで微分係数の符号が正から負へ変化する周波数ポイントをピークとして検出した後、第1選別部105cで閾値以上のものを抽出し、それらを第2選別部105dでソーティングしてそのうちの上位5個までをピークとして抽出することにより、ピーク周波数f1、f2、f3、f4が求められる。その際の平滑化微分係数yiは、離散化周波数スペクトルをxiとすると、次式で表される。
上記のようにして第2選別部105dにより得られた周波数スペクトル(エンベロープ周波数分布)のピークのデータが、診断部106に入力される。
診断部106は、入力された周波数スペクトルのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数とを比較し、その一致度を求める。そして、求めた一致度に点数を付けて累計することで、信頼性の高い診断を行なう。たとえば、主成分、2次、4次の3成分と異常を示す周波数との比較を行ない、主成分とその他の成分とが検出されれば、傷が発生している可能性があると判断して、予め設定された点数テーブル内の該当するポイント数を加算する。点数テーブルの例を下記の表1に示す。図2の例では、主成分、2次、4次の3成分とも検出されているので、4点が加算されることになる。
図4に示す周波数スペクトル波形の例では、外部衝撃によるノイズが大き過ぎたため、ピークが検出されていない。この場合の加算ポイント数は0点である。
図5は衝撃性のノイズが入ったときの振動波形の例を示している。このように振幅が大きく且つ突発的な衝撃性のノイズが入った振動波形のエンベロープの周波数分析結果は、DC(直流)成分に近い低周波側が大きくなってしまい、図4の例のように微小傷による振動のピークが隠れてしまう。このような場合には無理に傷による信号成分を検出するための処理を行なう必要はない。
この異常診断システムは、図6に示すように、上述の振動信号検出から異常ポイント数判定までの一連の処理を所定回数N(たとえば30回)繰り返して上記ポイント数を累計し、その累計ポイント数によって異常診断を行なう。図6において、nは現在の回数、PAは1回のスペクトル測定における診断ポイントを、PACCはPAの累積値をそれぞれ示している図2、図3および図4に例示した周波数スペクトル波形を各々1回サンプリングして異常診断するのに要する時間は1秒程度である。したがって、診断結果を得るために許容される時間が40〜60秒程度あれば、約40〜60回の診断を繰り返して上記ポイント数を累計し、その累計ポイント数によって異常診断を行なうことが可能である。ただ1回のみのサンプリングによる異常診断では、図2〜図4のようにどのようなスペクトルが得られるか不明であるが、周波数ピーク検出を繰り返してその都度、診断ポイント数を加算していき、ポイント数の累計値を評価することにより、スペクトルのばらつきの影響を軽減して異常診断を高精度に行なうことができる。
図7は、傷のない正常な軸受の診断スペクトルであり、ピーク検出を行なった結果、傷による振動の周波数成分が検出されなかった実測結果を示している。移動平均化された周波数分析結果に一見何か特徴がありそうに見えるが、閾値およびソーティングによる選別処理の結果、軸受異常による周波数成分とは無関係であったため、表1の異常診断ポイントは加算されない。
図8は、軸受の微小傷品と正常品の異常診断を40回繰り返しその診断ポイントの累計数を棒グラフにして示したものである。微小傷品と正常品とでは累計ポイント数に大きな開きがあるため、累計ポイントを40回分程度累計することにより、軸受の異常診断を正確に行なえることがわかる。また、微小な傷であるにもかかわらず正常品との間に大きな差が生じることから、図8に示すように閾値の範囲を大きく取れるため、この範囲をグレーゾーンとして段階的な警報を発するようにすることも可能である。
以上説明したように、この形態例の異常診断システムでは、機械設備から発生する音または振動を検出し、その検出信号のエンベロープを求め、そのエンベロープを周波数スペクトルに変換し、得られた周波数スペクトルを移動平均化処理し、更にそのスペクトルを平滑化微分して、微分係数の符号が正から負へ変化する周波数ポイントをピークとして検出した後、所定の閾値以上のものを抽出し、それらをソーティングしてそのうちの上位所定数個をピークとして抽出し、それらのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度に点数を付けて複数回分累計し、その累計値を評価することにより異常を診断するので、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、極めて高精度に且つ高効率に異常診断を実施できる。
なお、本発明は上記形態例に限定されない。たとえば、図1中に破線ブロックで示すように、A/D変換器ADC102とエンベロープ処理部103との間にデジタルフィルタ(LPF・HPF)108を設け、高域の雑音成分を除くとともにDCオフセットを除くことが望ましい。また、FFT部104の前にデシメーション部109を設け、必要な周波数に応じて間引き処理(デシメーション)を行なうようにしてもよい。エンベロープ処理の後で信号の間引き処理を行なって、エンベロープ波形解析のためのFFT演算のポイント数を少なくすることにより、検出された信号の周波数分解能の向上とFFT演算の効率向上とを両立させて、軸受の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。
[第2の形態例]
図9は本発明の異常診断システムの第2の形態例を示すブロック図、図10は本発明の異常診断システムの具体的構成要素であるマイクロコンピュータ(MPU)とその周辺回路の形態例を示すブロック図である。
[第2の形態例]
図9は本発明の異常診断システムの第2の形態例を示すブロック図、図10は本発明の異常診断システムの具体的構成要素であるマイクロコンピュータ(MPU)とその周辺回路の形態例を示すブロック図である。
図9に示すように、本発明の異常診断システムは、アンプ・フィルタ(フィルタ処理部)201、A/D変換器202、第1デジタルローパスフィルタ203、第1デシメーション部(間引き部)204、エンベロープ処理部205、第2デジタルローパスフィルタ206、第2デシメーション部(間引き部)207、FFT演算部208、診断部209、回転速度変換処理部210、および診断結果出力部211を備えている。
アンプ・フィルタ201には、診断対象の機械設備から発生する音または振動を検出するセンサ(振動センサ、音響センサ、等)により検出された信号が入力される。アンプ・フィルタ201は、入力された信号を所定のゲインで増幅するとともに、所定周波数(ここでは80kHz)以上の信号を遮断する。
A/D変換器202は、アンプ・フィルタ201を通過したアナログ信号を、所定のサンプリング周波数(ここでは250kHz)でサンプリングし、デジタル信号に変換する。一度にサンプリングするポイント数はおよそ20万とする。データ長は16ビットである。図10に示すように、このシステムは信号処理回路としてマイクロコンピュータ220を使用しているが、外付けのRAM221を備えているので、この程度の変数領域を確保することは容易である。マイクロコンピュータ220は浮動小数点ユニット(FPU)を備えていない。
第1デジタルローパスフィルタ203は、A/D変換器202により生成されたデジタル信号のうち、所定の周波数(ここでは10kHz)以下の信号のみ通過させるものであり、たとえば55次のFIRフィルタで構成されている。図11は第1デジタルローパスフィルタ203の周波数特性を例示している。このフィルタ203は、10kHz(fp)以下ではまったく減衰せず、10kHz(fp)から25kHz(fq)まで減衰率が増加し、25kHz以上では60dBの減衰率になる。25kHz(fq)で阻止域に達する周波数帯域の波形に対しては、サンプリング周波数が少なくとも50kHzあれば十分である。
第1デシメーション部(間引き部)204は、第1デジタルローパスフィルタ203を通過した信号を所定のサンプリング周波数(ここでは50kHz)でサンプリングすることにより間引き処理する。A/D変換器202によるサンプリング周波数が250kHzであるので、サンプリングポイント数(データ数)が1/5に間引かれる。これにより、20万ポイントあったデータが40960ポイントのデータに削減される。エンベロープ処理部205は、第1デシメーション部204により取り出された信号のエンベロープ信号(包絡線波形信号)を求める。
第2デジタルローパスフィルタ206は、エンベロープ処理部205により得られたエンベロープ信号のうち、所定の周波数(ここでは1kHz)以下の信号のみ通過させるためのフィルタであり、たとえば110次のFIRフィルタで構成されている。図12は第2デジタルローパスフィルタ206の特性波形を例示している。このフィルタ206は、軸受の異常を示す特徴周波数に合わせてフィルタリング処理を行なうものであり、1kHz(fp)以下では全く減衰せず、1kHzから2.5kHzまで減衰率が増加し、2.5kHz(fq)以上では60dBの減衰率になる。
第2デシメーション部(間引き部)207は、第2デジタルローパスフィルタ206を通過した信号を所定のサンプリング周波数(ここでは5kHz)でサンプリングすることにより間引き処理する。第1デシメーション部204によるサンプリング周波数(fs)が50kHzであるので、その1/10のサンプリングポイントに間引かれる。2.5kHzで阻止域に達する周波数の波形に対しては、サンプリング周波数が少なくとも5kHzあれば十分である。この間引き処理により、40960ポイントあったデータが4096ポイントのデータに削減される。
FFT演算部208は、第2デシメーション部207により間引き処理した後のエンベロープ信号を周波数解析する。この例の場合、4096ポイントのデータを使用して、検出された信号のエンベロープの周波数分析を行なう。これにより5000/4096=1.22Hzの分解能で周波数分析がなされる。
診断部209は、FFT演算部208にて周波数解析された結果より得られるピークのなかで、転がり軸受に起因した周波数の基本周波数成分及び高周波数成分の大きさと、回転速度変換処理部210より与えられる判定基準データ(回転速度)と軸受の諸元から得られる軸受の異常を示す周波数とを比較し、その結果に基づいて転がり軸受の異常を診断する。
回転速度変換処理部210は、転がり軸受に設けられた図示しない回転センサからの回転信号に応じた判定基準データを生成し、そのデータを診断部209に与える。
診断結果出力部211は、診断部209による診断結果を出力する。
図13(a)はFFT演算部208による演算の結果得られたエンベロープのスペクトル波形を示している。これは転がり軸受の外輪傷成分を捉えたもので、基本周波数成分(f1)と高周波成分(f2〜f6等)が明暸に表れている。この場合、診断部209は、回転速度変換部210から得られる回転速度と軸受の諸元から得られる軸受の異常を示す周波数を算出し、図13(a)における基本周波数と6次までの高調波成分とを比較した結果、外輪欠陥に起因する周波数成分と一致したため、外輪に異常があるとの診断結果を出力した。
ここで比較例として、サンプリング周波数fsを25kHz、カットオフ周波数fcを10kHzとした上記の例と同じ条件の波形をエンベロープ処理してからFFT演算して得られたスペクトル波形を図13(b)に示す。FFT演算のポイント数は16384であるから、この比較例における周波数分解能は25000/16384=1.526Hzである。本発明の形態例(図13(a))では、比較例(図13(b))に対してFFT演算のポイント数が16384からその1/4の4096に減った上に分解能は約1.53Hzから1.22Hzに向上している。これはエンベロープ処理の前後で間引き(デシメーション)処理を行なったことによる効果である。
図14は、FFT演算のポイント数を少なくしたことによるFFT演算処理時間削減の効果を示している。この形態例の場合、FFT演算処理を実行するハードウェアとして図10に示すように内部に高速RAM220cを有するマイクロコンピュータ220を使用した。このマイクロコンピュータ220の内部の高速RAM220cには4096ポイントまでのFFTデータを収めることができた。その結果、8192ポイント以上のFFTデータを収めた場合の計算時間よりも圧倒的に速く計算することができた。このような高速RAM220cを持たないシステムにおいても、図14中の点線に示したような演算サイクル数(FFT演算処理時間)の削減効果が得られる。FFTは2のべき乗の点数で計算することが必要なので、この例では結果的に4096ポイントになるようにサンプリングと間引き処理を行なったが、仮に4096ポイントに過不足があってもその分のポイント数を省くかまたは0のデータを前後に追加すればよい。
図15は、転がり軸受の外輪診断のS/N比の絶対比較を示すグラフである。基本波と6次までの高調波成分とそれらの成分を除いた1kHzまでの成分の比がS/N比で示されている。図15中のAは上記比較例に対応している。Cは上記形態例に対応している。Bは第2のデジタルローパスフィルタ206を省略した場合のS/N比である。AとCとの比較では、両者のS/N比にさほど差異はないといえるが、Cの方が若干良い。Cの方がAよりもFFT演算のポイント数が少ないにも拘わらず、S/N比が向上しているのは第2のデジタルローパスフィルタ206による帯域制限の効果である。
以上説明したように、この形態例の異常診断システムでは、エンベロープ処理の前後で信号の間引き処理を行なって、センサにより検出された信号のエンベロープ波形解析のためのFFT演算のポイント数を少なくしたことにより、信号の周波数分解能の向上とFFT演算の効率向上とを両立させて、軸受の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。
また、この異常診断システムでは、センサにより検出された信号のA/D変換時のサンプリングレートを高めに設定してから周波数帯域制限および間引き処理を行なうため、アンチエリアシングフィルタの省略が可能である。すなわち、A/D変換器202によるサンプリング周波数fs(250kHz)の1/2(ナイキスト周波数fs/2)以上の周波数の信号を第1デジタルローパスフィルタ203でカットするため、通常はアンチエリアシングフィルタを挿入する必要があるが、ここではアンプ・フィルタ201の周波数帯域が80kHz未満であるのに対して、A/D変換器202によるサンプリング周波数が250kHzであるので、サンプリング定理を満たしており、アンチエリアシングフィルタは不要となった。これにより、異常診断システムの低コスト化が可能となった。
[第3の形態例]
図16は本発明の異常診断システムの第3の形態例を示すブロック図である。第3の形態例では、第2の形態例においてエンベロープ処理部205の前後に設けられていたデジタルローパスフィルタ203、206およびエンベロープ処理部205の前のデシメーション処理部204が省略されている。この構成は、S/N比が多少低下しても、少ないポイント数のFFT算でエンベロープ波形解析の周波数分解能を高めることができればよい場合に適用できる。
[第3の形態例]
図16は本発明の異常診断システムの第3の形態例を示すブロック図である。第3の形態例では、第2の形態例においてエンベロープ処理部205の前後に設けられていたデジタルローパスフィルタ203、206およびエンベロープ処理部205の前のデシメーション処理部204が省略されている。この構成は、S/N比が多少低下しても、少ないポイント数のFFT算でエンベロープ波形解析の周波数分解能を高めることができればよい場合に適用できる。
デジタルローパスフィルタを使用しない間引き処理は、エリアシングの影響を受ける反面それ自体がローパスフィルタ処理の役割を果たす。そしてエンベロープ処理もそれ自体が結果的にローパスフィルタ処理の働きを兼ねるので、デシメーション処理部207の前のデジタルローパスフィルタ206を省略できる場合は多いと考えられる。前段のアンプや伝送路の周波数特性からエリアシングを起こさないことが分かっている場合は、デジタルローパスフィルタを使用せずに間引き処理を行なうことは何の差支えもない。
なお、デジタルフィルタの演算効率はFFT演算の場合と若干性格が異なる。FFTは一括演算処理のためデータ数が少ないほど演算速度が向上するのに対し、デジタルフィルタは基本的に逐次処理を行なうためフィルタの次数が問題となる。しかし、上記の形態例では、エンベロープ処理部205の後の第2デジタルローパスフィルタ206でも100〜200のフィルタ次数を見込んでおけばよい。この程度のフィルタ次数であれば、一般的なマイクロコンピュータ210内の高速メモリ210aにおける処理に何ら問題ない。
また、第2および第3の形態例では、マイクロコンピュータ220がFPU(浮動小数点演算ユニット)を備えていないため、固定小数点演算に適したFIRフィルタを使用したが、FPUを備えたシステムの場合にはデジタルローパスフィルタにIIRフィルタを使用すれば、計算精度を落とすことなくフィルタ次数を低減できる。
[第4の形態例]
図17は本発明の異常診断システムの第4の形態例を示すブロック図(ハードウェア構成図)である。図18は第4の形態例の異常診断システムにおける一連の処理の流れを示すフロー図である。マイクロコンピュータ220には、シンクロナスDRAM(SDRAM)221a、フラッシュメモリ222、アンプ・フィルタ(フィルタ処理部)223、および液晶表示器(LCD)224が接続されている。
[第4の形態例]
図17は本発明の異常診断システムの第4の形態例を示すブロック図(ハードウェア構成図)である。図18は第4の形態例の異常診断システムにおける一連の処理の流れを示すフロー図である。マイクロコンピュータ220には、シンクロナスDRAM(SDRAM)221a、フラッシュメモリ222、アンプ・フィルタ(フィルタ処理部)223、および液晶表示器(LCD)224が接続されている。
マイクロコンピュータ220は、CPU220aの他にDSP220b、およびキャッシュRAM220cを備えている。
DSP220bは、専用の命令で積和演算を1サイクルで実行できるように、それぞれ専用のバスで接続されたX−RAMとY−RAMとからなるX/Y−RAM220eを内蔵している。X−RAMとY−RAMの容量は8キロバイトずつである。DSP220bは、命令バスと合わせて3つのバスに同時にアクセス可能であり、複数の命令を同時に実行することができる。X/Y−RAMは、デュアルポートRAM、デュアルアクセスRAM、マルチポートRAM、等とも呼ばれる。
シンクロナスDRAM221a、フラッシュメモリ222およびアンプ・フィルタ223は、CPU220aの外部バスに接続されている。シンクロナスDRAM221aは、主記憶として機能する32MB(メガバイト)の容量のメモリである。フラッシュメモリ222は、プログラム格納領域として機能する4MBの容量のメモリである。フラッシュメモリ222には、図18に示す一連の処理を実施するためのプログラムが格納されている。アンプ・フィルタ223は、センサからの信号を増幅するアンプ223aと、アンプ223aにより増幅された信号を所定のサンプリング周波数(ここでは250kHz)でサンプリングし、デジタル信号に変換する16ビットの分解能のA/D変換器223bとで構成される。
シンクロナスDRAM221aおよびフラッシュメモリ222は、CPU220aよりも動作速度が遅いため、CPU220aの高速性を生かすためにはキャッシュメモリが不可欠である。そのために、マイクロコンピュータ220には、データ/命令混在型のキャッシュRAM220cが内蔵されている。
DMAC220dは、シンクロナスDRAM221aに対してA/D変換器223bで得られたデータをCPU220aを使わずに転送するDMA動作を制御する。液晶表示器224は、診断情報を表示するための出力装置である。
図18に示す一連の処理に含まれるデジタル演算処理のうち扱うデータの量が最も大きいのはFFT演算処理(S204)である。FFT演算処理(S204)をDSP220bで行なうには、FFT演算処理(S204)で使用するデータがX/Y−RAM220eに収まる必要がある。
一方、軸受の振動解析によって傷を検出するには、10kHz程度までの周波数帯域で振動を検出する必要があるが、傷を捕捉するための軸受の転動体の通過振動数は一般的には1kHz以下になる。この例では、診断対象である軸受の転動体通過振動数が100Hz以下の低い周波数であるものとする。
このように転動体通過振動数が低い場合、軸受の異常を正確に診断するには比較的長い時間の波形サンプリングが必要である。
そこで、図18のサンプリング処理(S201)では、アンプ・フィルタ223からの信号に対し、48kHzのサンプリング周波数でサンプリングを行なって、40000点以上のデータからなる波形データをサンプリングする。この場合、800ms以上のサンプリング時間Twを確保できる。FFT演算処理(S204)の周波数分解能Δfは、このサンプリング時間Twで決まる。すなわち、周波数分解能Δfは、サンプリング時間Twの逆数(1/Tw)である。
絶対値処理(S202)は、エンベロープ処理と同様の処理であり、デジタル処理ではヒルベルト変換による方法等に比べて大幅に演算を簡略化できる。この処理では、サンプリング処理(S201)にてサンプリングした信号のエンベロープまたは絶対値波形に対して、DC成分を消すために平均値をとって、振幅0のラインを引き直す。
デシメーション処理(S203)では、絶対値処理(S202)を経たエンベロープまたは絶対値波形信号を所定のサンプリング周波数(ここでは4.8kHz)でサンプリングすることにより間引き処理する。FFT演算処理(S204)では、デシメーション処理(S203)により間引き処理した後の信号を周波数解析する。
FFT演算処理(S204)におけるデータは、実数部と虚数とからなり、それぞれX/Y−RAM220eのX−RAMとY−RAMに割り当てられる。入力と出力でメモリ領域を供給させる方式とすれば、8kB分のデータ長をFFTできる。A/D変換器223bの分解能が16ビット(2バイト)なので8192/2バイトすなわち4096点までのデータをDSP220bで処理することが可能である。逆に4096を越える点数のデータはDSP220bでは扱えなくなる。そこで、本例では、データ長が4096になるように、デシメーション処理(S203)にて間引き処理を行なっている。サンプリング周波数fs=48kHzを1/10に間引くと、fs=4.8kHzになる。これでも軸受欠陥を検知するのに必要な1kHzの周波数帯域を確保するには十分なサンプリング周波数である。
スペクトル評価処理(S205)では、FFT演算処理(S204)にて周波数解析された結果より得られる周波数スペクトルのピークを検出し、そのピークと軸受異常周波数とを比較し、その比較結果に対応する部位別異常診断インデックスを参照することにより異常か否かを評価する。
異常診断ポイント加算処理(S206)では、スペクトル評価処理(S205)により異常と評価された数をカウントする。反復回数判定処理(S207)では、スペクトル評価処理(S205)を行なった回数(評価回数n1)が所定の回数N1に達したか否かを判定する。位相シフト処理(S208)は、反復回数判定処理(S207)にて評価回数n1が所定の回数N1に達していない(S207でNo)と判定された場合に実行される。この処理により、位相をずらしてデシメーション処理(S203)以降の処理が反復される。
波形取込回数判定処理(S209)は、反復回数判定処理(S207)にて評価回数n1が所定の回数N1に達した(S207でYes)と判定された場合に実行される。波形取込回数n2が所定の回数N2に達していない場合は(S209でNo)、サンプリング処理(S201)以降の処理が反復される。波形取込回数n2が所定の回数N2に達した場合(S209でYes)は、評価/判定処理(S210)に進む。
評価/判定処理(S210)では、異常診断ポイント加算処理(S206)によりカウントされた異常評価ポイント数に基づいて軸受の異常の評価/判定を行なう。
上記のように、この形態例では、スペクトル評価処理(S205)を実施する度に位相をずらして複数回のデシメーション処理(S203)を実施し、1回のサンプリング波形に対して複数回のFFT演算処理(S204)を行なって診断ポイントを累計する方法を採っている。これは、単に間引きをしたデータを1回のFFTで評価したのでは48kHzの周波数でサンプリングする意義が小さくなり、最初から4.8kHzでサンプリングしたのと同じことになるためである。軸受の転動体通過周期は長くても、通過中に起こる衝撃波は傷が小さいほど短時間で減衰するので、高サンプリングは本来有効であり、これを生かすために複数回の位相シフト処理およびFFT演算処理を行なっている。
図19(a)、(b)は、振動のエンベロープ波形に対して位相をずらして間引き処理を行なう様子を示している。位相シフトは、サンプリングポイントを1ポイントずらすことに相当する。図19の例では、●(黒丸)だけサンプリングする(a)の状態に対し(b)の状態は1ポイントだけ位相シフトして○(白丸)だけ再サンプリングしている様子を示している。図19の例では、1/5に間引きを行なっているため、最大5通りの再サンプリングの組が得られる。
したがって、1/10に間引きを行なった場合は、最大10通りの再サンプリングの組が得られる。この10通りの組すべてをFFT演算処理し、検出された周波数成分に応じた評価ポイントを積算した結果を下記の表に例示する。
図21はFFT演算処理の時間について、DSP220bを使った場合とCPU220aのみで行なった場合とを対比させて示したグラフである。この例では、FFT演算の点数を、DSP220bに命令と同時に2つのデータを読み込むことのできる高速メモリ220eの容量に合わせて4kワード長としたので、FFT演算をDSPで高速に実行することができた。
以上説明したように、この形態例の異常診断システムでは、デジタル化されたエンベロープ波形に対してDSP220b内のX/Y−RAM220eの容量に見合ったデータ数までサンプリング周波数を下げてFFT演算処理を行なうようにしたので、DSP220bによる高速FFT処理が可能であり、しかも絶対値処理の後で間引き処理を行なって、エンベロープ波形解析のためのFFT演算のポイント数を少なくしたことにより、信号の周波数分解能の向上とFFT演算の効率向上とを両立させて、軸受の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。
[第5の形態例]
図22は第5の形態例の異常診断システムにおける一連の処理の流れを示すフロー図で
ある。このフローは、デシメーション処理(S203)の前にデジタルローパスフィルタによるフィルタ処理(S211)が挿入されている点が図18と異なる。また、反復回数判定処理(S207)および位相シフト処理(S208)は省略されている。
[第5の形態例]
図22は第5の形態例の異常診断システムにおける一連の処理の流れを示すフロー図で
ある。このフローは、デシメーション処理(S203)の前にデジタルローパスフィルタによるフィルタ処理(S211)が挿入されている点が図18と異なる。また、反復回数判定処理(S207)および位相シフト処理(S208)は省略されている。
このように、デシメーション処理(S203)を行なう際、デジタルローパスフィルタで帯域を予め下げておくことにより、エリアスシング等の影響を抑えて確実に低域のFFT演算処理を実行することができる。図18の方式に比べると、デジタルローパスフィルタ用のプログラムコードとフィルタの特性に合わせて算出されたフィルタ係数とが余計に必要にはなるが、雑音の除去が確実に行なわれる点では有利である。図23は第5の形態例の場合の外輪傷診断結果を示している。試験に使用したサンプルは図20の場合と同じである。
[第6の形態例]
図24は第6の形態例の異常診断システムの形態例を示す機能ブロック図である。
[第6の形態例]
図24は第6の形態例の異常診断システムの形態例を示す機能ブロック図である。
図24に示すように、第6の形態例の異常診断システムは、アナログアンプフィルタ部301、A/D変換部302、デジタルフィルタ部303、デシメーション部304、絶対値化部(エンベロープ処理部)305、ゼロ補間部(補間処理部)306、ハニング窓関数処理部307、FFT部308、ピーク検出部309、軸受欠陥基本周波数算出部310、比較部311、積算部312、診断部313、および診断結果出力部314を備えている。
アナログアンプフィルタ部301には、診断対象の機械設備から発生する音または振動を検出する振動センサ(音響センサを含む)317により検出された信号が入力される。アナログアンプフィルタ部301は、入力された信号を所定のゲインで増幅するとともに、所定周波数以上の信号を遮断する。
A/D変換部302は、アナログアンプフィルタ部301を通過したアナログ信号を、所定のサンプリング周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換する。
デジタルフィルタ部303は、A/D変換部302により生成されたデジタル信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみ通過させる。
デシメーション部304は、デジタルローパスフィルタ部303を通過した信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングすることにより間引き処理する。
絶対値化部305は、デシメーション部304により取り出された信号のエンベロープ(包絡線波形)を離散化データとして求める。
ゼロ補間部306は、絶対値化部305により得られたエンベロープの離散化データを任意の周波数分解能で高速フーリエ変換するためにゼロ詰め補間する。ここで、ゼロ詰め補間とは、FFT部308によるサンプリング周波数が2の累乗になるように、不足が生じる場合にエンベロープの離散化データに0を追加して調整する補間をいう。
ハニング窓関数処理部307は、ゼロ補間部306により補間処理された後の信号に所定周期のハニング窓関数を掛けることにより、診断に使用する信号を切り出す。
FFT部308は、ハニング窓関数処理部307により切り出された信号をFFTアルゴリズムにより周波数解析し、周波数スペクトル波形信号を生成する。
ピーク検出部309は、FFT部308により得られた周波数スペクトルのピークを検出する。
軸受欠陥基本周波数算出部310は、回転速度検出器315により検出された転がり軸受の回転速度と、軸受諸元を記憶させたROM316から読み出された軸受の内部諸元とに基づいて軸受の欠陥を示す基本周波数を算出する。
比較部311は、ピーク検出部309により得られたピークと、軸受欠陥基本周波数算出部310により算出された周波数とを比較し、その一致度を数値化して出力する。
積算部312は、比較部311からの出力値を積算し、その結果を出力する。
診断部313は、積算部312による積算結果に基づいて異常を診断する。
診断結果出力部314は、診断部313による診断結果を出力する。
上記ピーク検出部309は、移動平均化処理部と、平滑化微分処理部と、閾値選別部と、ソーティング選別部とを備えている。
移動平均化処理部は、FFT部308により得られた周波数スペクトル(周波数領域の離散データ)を左右対称に重み付けして移動平均化する。
平滑化微分処理部は、移動平均化処理部による移動平均化処理の際に数値微分演算を行ない、微分係数の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出する。
閾値選別部は、平滑化微分処理部により抽出されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が閾値以上のものを選別する。閾値には、平滑化微分処理部により抽出されたピークのパワー平均値や二乗平均平方根に応じて決まる相対的な値を用いる。
ソーティング選別部は、閾値選別部で選別されたピークのうち、振幅レベルの二乗平均平方根が大きい方から所定の個数までのピークを選別する。その最も簡単な方法として、たとえば公知のソーティングアルゴリズムを用いて複数のピークをレベルに関して降順ソートした後、上位のものから選別する方法をあげることができる。
ここで、第6の形態例の異常診断システムの具体的構成要素であるマイクロコンピュータ(MPU)とその周辺回路の形態例を示すブロック図(ハードウェア構成図)については、図17と同様な構成が考えられる。尚、それらの説明については前述した通りであるので、ここでは説明を割愛する。
ところで、図24に示す異常診断システムでデジタル演算処理を行なう機能ブロックのうち一度に(1ループ毎に)扱うデータの量が最も大きいのはFFT部308である。FFT部308をMPU220内のDSP220bで実現するには、FFT演算処理で使用するデータがX/Y−RAM220eに収まる必要がある。
一方、軸受の振動解析によって傷を検出するには、10kHz程度までの周波数帯域で波形を観測する必要があるが、傷の特徴となる周波数は一般的には1kHz以下になる。
この例では、診断対象である軸受の傷の特徴周波数が100Hz以下の低い周波数であるものとし、FFT部308の周波数分解能を1Hz(±0.5Hz)、サンプリング周波数を32.768kHz、サンプリング時間(Tw)を750msとする。したがって、生波形のサンプリング個数は32768×0.75=24576である。最終的にFFT部308で周波数スペクトルを求める段階では、サンプリング時間が1sとなるようにゼロ補間を行なうことにより、周波数分解能は1Hz(±0.5Hz)となる。
デジタルフィルタ部303の通過帯域幅は、異常に起因する振動とノイズとのS/N比が最も大きくなる周波数帯域に合わせて選定される。たとえば、予め1kHz〜4kHzの周波数帯域で剥離欠陥のS/N比が最大になることが分かっている場合、デジタルフィルタ部303の通過帯域幅を1kHz〜4kHzに選定する。この種のデジタルフィルタは、FIRフィルタ、IIRフィルタ、FFTと逆FFT(IFFT)を用いたフィルタ、等で構成することが可能であるが、固定小数点演算方式のDSPを内蔵したRISC型マイコンの場合はFIRフィルタが適している。
絶対値化処理部305は、エンベロープまたは絶対値波形に対してDC成分を消すために平均値をとって、振幅ゼロのラインを引き直す。この絶対値処理(エンベロープ処理)により、軸受欠陥に起因した1kHz未満の低域の信号が顕在化する。この時点では、高域の信号も含まれたままになっているので、FFTを行なう前に1kHz未満の低域の信号のみ通過させるFIRローパスフィルタをかけておくことが望ましいが、既に生波形に対してデジタルフィルタ部303によるバンドパスフィルタ処理と絶対値化処理部5による絶対値化(エンベロープ抽出)処理とを施してあるので、FFT部308の直前におけるローパスフィルタ処理を省略しても軸受欠陥の診断精度への影響は少ない。
デシメーション部304によるFFT演算ポイントの間引き率(間引き量)およびゼロ補間部306による補間率あるいは補間ビット数は、分析すべき周波数帯域、周波数分解能、FFT演算点数、等に応じて決められる。この例では、MPU220内のDSP220bによる超高速FFT演算処理を実現しようしとしているため、FFT演算点数はDSP220bから並列専用バスでアクセスできるX/Y−RAM220eの容量によって自ずと制限される。
FFT部308で演算処理されるデータは、実数部と虚数部とからなり、それぞれX/Y−RAM220eのX−RAMとY−RAMに割り当てられる。入力と出力でメモリ領域を供給させる方式とすれば、8kB分のデータ長をFFTできる。A/D変換器223bの分解能が16ビット(2バイト)であれば、演算変数も2バイト長にしておくことにより、8192/2バイトすなわち4096点までのデータをDSP220bで高速処理することが可能である。
必要な周波数分解能Δfwは、サンプリング周波数(fs,fft)が1.0HzのときのFFTの区間長をTw,fftとすると、Δfw=1/Tw,fftで表される。したがって、Tw,fft=1sであれば要件を満たす。
この例では、サンプリング時間Tw,fftを0.75sとしたので、0.25sサンプリング時間が不足する。この不足分をゼロ補間部306で補間するのであるが、単にゼロ補間しただけでは、データ数が32786にも及んでしまう。
そこで、当初のサンプリング個数(32768)を、DSP220bのX/Y−RAM220eの容量と演算のバイト長から決まる上限のFFT演算点数である4096に間引くと、データ数が当初の1/8になり、FFT部308のサンプリング周波数も32768/8=4096に削減される。したがって、FFT部308で分析できる周波数の上限(ナイキスト周波数)は、その半分の2.048kHzになるが、それでもまだ軸受の欠陥を表す周波数(1kHz未満)を十分にカバーしている。
この例では、これに準じて32.768kHzで0.75sのサンプリング(24576点)を行ない、デジタルフィルタ部303と絶対値化処理部305とで周波数帯域を低域化した後に1/8の間引き処理を行ない、サンプリング数とサンプリング周波数とをそれぞれ3072点と4.096Hzに下げ、4096に足りない点には、3072点の後ろに1024個のゼロ(0)を詰めて4096点のサンプリング波形データとする(図25参照)。この波形データがハニング窓関数部307を経てFFT部308に入力される。ハニング窓関数部307は、入力波形データにハニング窓関数を掛けることにより、FFT部308に入力される波形データの両端の影響を軽減する。この波形データをFFT部308でFFTすることにより、周波数スペクトルが1Hzの分解能で得られる。得られた周波数スペクトルデータは、ピーク検出部309に入力される。
ピーク検出部309では、FFT部308により得られた周波数スペクトルを左右対称に重み付けして移動平均化する。これにより、周波数スペクトルが平滑化され雑音が軽減される。
さらに、移動平均化処理の際に数値微分演算を行なう。そして、微分係数の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出する。そして、抽出されたピークのうち振幅レベルの二乗平均平方根が閾値以上のものを選別し、振幅レベルの二乗平均平方根が大きい方から所定の個数(たとえば10個)までのピークを選別する。
一方、軸受欠陥基本周波数算出部310は、回転速度検出器315により検出された軸受の回転速度とROM316から読み出した軸受の内部諸元とに基づいて軸受の欠陥を示す基本周波数を算出する。回転速度検出器315による軸受の回転速度の検出は、振動センサ317による振動検出と同期して(例えば0.75sに1回)複数サイクル繰り返し実施される。
そして、ピーク検出部309により検出されたピークの周波数と、軸受欠陥基本周波数算出部310により算出された基本周波数とが、各サイクル毎に同期して比較部311に入力される。
比較部311は、ピークの周波数と基本周波数とが入力される度に、基本周波数およびその高調波成分とピークの周波数とを比較し、両者の一致する度合いに応じた点数を付け(数値化)、その値を積算部312に出力する。ここでの点数の付け方の例を下記の表に示す。
そして、周波数ピーク検出を繰り返してその都度、診断点数を加算していき、ポイント数の累計値を評価することにより、スペクトルのばらつきの影響を軽減して異常診断を高精度に行なうことができる。
図26は、欠陥を導入した軸受(欠陥品)と欠陥のない軸受(正常品)の診断点数の累計値を棒グラフにして示したものである。この例は、内輪回転タイプの軸受に対し、上記異常診断システムを使用してテストを行なったものである。内輪回転タイプの軸受では外輪軌道に損傷を生じる場合が多いので、この例でも外輪軌道に傷を導入してテストを行なった。4セットの軸受を診断対象に用い、そのうちの2セットに外輪傷を導入した。このテストの条件では、外輪軌道に欠陥がある場合の基本周波数は100Hz以下であった。基本波に関しては、ピークの周波数が基本周波数の±1.0Hzの範囲内にあればピークの周波数と一致したものと判断し、2次、3次、4次の各高調波に関しては、ピークの周波数が各高調波周波数の±2.0Hzの範囲内にあればピークの周波数と一致したものと判断して、上記表1の点数を加算した。テスト時間は60秒とした。1サイクル分のサンプリング時間は0.75秒で、異常診断点数を出すための演算所用時間は0.15秒程度かかる。データ取り込みはDMAで行ない、演算処理は次回のデータを取り込む間に0.15秒で行なってしまうので、図27のようにトータルで見れば、60(+0.15)秒間連続で本システムを走らせることにより、80(=60/0.75)回の診断処理を実行できる。
図26に示すように、正常品であっても若干のノイズがカウントされるが、欠陥品との差は歴然としている。欠陥品と正常品との間に大きな差が生じることから、閾値の範囲を大きく取れるため、この範囲をグレーゾーンとして段階的な警報を発するようにすることも可能である。
図21はFFT演算処理の時間について、DSP220bを使った場合とCPU220aのみで行なった場合とを対比させて示したグラフである。DSP220b内のX/Y−RAM220eの容量に合わせるように、FFT演算の点数をデジタルフィルタ部303で帯域を下げた後デシメーション部304で間引いたので、FFT演算をDSP220bで極めて高速に実行することができた。
以上説明したように、この形態例の異常診断システムでは、検出信号をデジタル信号に変換し、診断に必要な周波数帯域の信号を取り出し、それを間引き処理した信号のエンベロープを求め、そのエンベロープを任意の周波数分解能でFFTするためにゼロ詰め補間し、更にハニング窓関数により診断に使用する信号を切り出した上で、FFTにより周波数分析し、得られた周波数スペクトルに基づいて異常を診断するので、FFT演算に使用する演算デバイスに合ったサンプリング周波数および周波数分解能で検出信号をFFTして高精度に異常診断を実施できる。
また、FFTにより得られた周波数スペクトルを移動平均化処理し、更にそのスペクトルを平滑化微分して、微分係数の符号が正から負へ変化する周波数ポイントをピークとして検出した後、所定の閾値以上のものを抽出し、それらをソーティングしてそのうちの上位所定数個をピークとして抽出し、それらのピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度に点数を付けて複数回分累計し、その累計値を評価することにより異常を診断するので、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、極めて高精度に且つ高効率に異常診断を実施できる。
[第7の形態例]
図28は第7から第13の形態例の異常診断装置を備えた鉄道車両の概略構成図である。鉄道車両401は、4組の車輪(計8輪)402−1〜402−4と、それらを車台403の下に回転自在に保持する4つの軸受404−1〜404−4とを備え、車台403に異常診断装置410が設置されている。
[第7の形態例]
図28は第7から第13の形態例の異常診断装置を備えた鉄道車両の概略構成図である。鉄道車両401は、4組の車輪(計8輪)402−1〜402−4と、それらを車台403の下に回転自在に保持する4つの軸受404−1〜404−4とを備え、車台403に異常診断装置410が設置されている。
異常診断装置410は、センサユニット420と制御盤430とを備えている。センサユニット420は、車台403の振動を検出するユニットである。制御盤430は、センサユニット420の出力信号を基に、軸受404−1〜404−4の剥離や車輪402−1〜402−4のフラット等の異常の有無を診断する診断回路431を備えている。診断回路431による診断内容(警報信号)は車両401内の通信回線を通じて運転台や指令所に送られるシステムになっている。
以下の第8から第12の形態例では、図38のように、軸受404−1〜404−4の剥離等の劣化を示すパラメータとして、Peak/RMS(Root Mean Square)を利用することとする。ここで、Peakは一定区間における最大振幅の絶対値、RMSは一定区間における振動電圧の2乗平均の平方根値である。ここで対象にする波形は、図39のような車台403の振動を表す波形で、レールの継ぎ目による衝撃音や摩擦音等、車両401を構成する機械要素の劣化とは関係ないノイズを含んだものである。この種のノイズは、軸受404−1〜404−4の剥離や車輪402−1〜402−4のフラット等の異常に起因する振動よりも遙かに大きな振幅を有する。
図29は、センサユニット420の第7の構成例を示すブロック図である。図29に示すセンサユニット420は、振動センサ(Sens)421と、パラメータ値検出回路であってアナログ演算回路である2乗平均の平方根演算回路(RMS−DC;以後、RMS演算回路と記述する。)422と、ピーク検出回路(Peak)423と、比較回路である第1比較器(CMP1)424と、ピーク−参照値比較回路である第2比較器(CMP2)425と、参照電圧出力回路(Vref.)426と、を備えている。尚、RMS演算回路422は、次の計算式(3)に基づき2乗平均の平方根演算を行なう。
n:サンプル数(区間長)振動センサ421は、圧電セラミックにより鉛直方向の振動を検出するセンサであり、50Hz〜10kHzの周波数帯域の振動を検出し、その振動波形を電気信号として出力する。振動センサ421の出力信号(振動信号)は、増幅回路427で増幅された後、RMS演算回路422とピーク検出回路423とに同時に入力される。
RMS演算回路422は、入力された振動信号を処理することにより、その振動信号の電圧のRMSに相当する電圧(以下、RMS電圧と記す。)の直流信号を出力する。このRMS演算回路422には、たとえば、バッファアンプ、絶対値回路、平方・除算回路、出力用フィルタアンプ回路、等を内蔵したRMStoDCコンバータICが使用される。このRMStoDCコンバータICの具体例としては、商品型番「AD637」:アナログデバイセズ社製などが挙げられる。
RMS演算回路422の時定数は外付けのコンデンサによって決めることができる。この例では、100msとする。また、RMS演算回路422は、RMS電圧を一定の倍率に増幅して出力する回路を含んでいる。この例では、4倍の電圧を出力するものとする。
ピーク検出回路423は、入力された振動信号のピーク電圧を出力する。ピーク検出回路423の時定数はRMS演算回路422のそれと等しく、出力時の電圧レベルの増幅度は1である。
RMS演算回路422の出力信号は、第1比較器424の第1の入力端子に入力される。ピーク検出回路423の出力信号は、第1比較器424の第2の入力端子と、第2比較器425の第1の入力端子とに入力される。第2比較相25の第2の入力端子には、参照電圧出力回路426からの参照電圧が入力される。
第1比較器424は、RMS演算回路422からの信号電圧すなわちRMS電圧の4倍の電圧と、ピーク検出回路423からの信号電圧すなわちピーク電圧とを比較する。そして、ピーク電圧の方が大きければ+5Vの電圧(第1の電圧)の信号を出力し、ピーク電圧の方が小さければ−5Vの電圧(第2の電圧)の信号を出力する。即ち、波高率(Peak/RMS)が4を超えるかどうかを出力している。
第2比較器425は、ピーク検出回路423からの信号電圧すなわちピーク電圧と、参照電圧出力回路426からの参照電圧とを比較する。そして、ピーク電圧の方が参照電圧よりも大きければ+5Vの電圧の信号を出力し、ピーク電圧の方が小さければ−5Vの電圧の信号を出力する。参照電圧は、軸受等の異常に起因する信号の電圧レベルよりも高いレベルに選定されている。
第1比較器424の出力信号は、ゲート回路428の検出信号入力端子に入力される。第2比較器425の出力信号は、ゲート回路428の制御信号入力端子に入力される。ゲート回路428は、第1比較器424からの信号(+5Vまたは−5V)を、第2比較器425から−5Vの電圧の信号が与えられた場合にはそのまま出力するが、第2比較器425から+5Vの電圧の信号が与えられた場合には、常に0Vの電圧の信号を出力する。
下記の表4は、センサユニット420の第1および第2の比較器424、425における比較結果とゲート回路428の出力との関係を示している。表1において、4×RMSは第1比較器424の入力電圧であり、peakは第2比較器425の入力電圧(ピーク電圧)であり、Vrefは参照電圧出力回路426の出力電圧(参照電圧)であり、Outputはゲート回路428の出力電圧である。尚、第1および第2の比較器424、425の出力電圧それぞれは2値であることに留意されるべきである。ゲート回路428は、第2比較器425からの信号の真偽によって第1比較器424からの信号をそのまま通過させる(−5Vまたは+5V)か、無効(0V)にするかを制御する。第2比較器425の出力はゲート開閉制御信号、ゲート回路428の出力はゲート出力、そして第1比較器424の出力は信号源である。
制御盤430の診断回路431は、センサユニット420の出力信号を常時監視し、単位時間(ここでは60秒間とする。)における+5Vの電圧の信号の出力時間の割合を、Peak/RMSが基準を超えたデューティ比として算出する(図30参照)。そして、算出したデューティ比に応じた警報レベルの警報信号を発する。警報信号は1秒ごとに更新され、デューティ比の算出は常に、センサユニット420からの最新の信号を受信した時から60秒前までの受信信号に基づいて行なわれる。この警報信号が車両401内の通信回線を通じて運転台や指令所に送られる。運転台や指令所には、各々色の異なる複数の警報ランプが設けられており、センサユニット420から受信した警報信号の警報レベルに応じて所定の色の警報ランプが点灯あるいは点滅するようになっている。
下記の表5は、上記デューティ比と警報レベルとの対応関係を例示している。また、表5中には、警報レベルと警報ランプの色との対応関係も例示されている。
[第8の形態例]
図31は、センサユニット420の第8の形態例を示すブロック図である。図31に示すセンサユニット420は、振動センサ(Sens)421と、増幅器427と、増幅器427からの信号が入力される帯域の異なる3つのバンドパスフィルタ(BPF)441−1〜441−3と、各バンドパスフィルタ441−1〜441−3を通過した信号を各々処理する3つの信号処理部442−1〜442−3とを備えている。バンドパスフィルタ441−1〜441−3は、この例では、それぞれ500Hz、1.5kHz、3kHzの中心周波数を持つものとする。
各信号処理部442−1〜442−3は、それぞれ、RMS演算回路(RMS−DC)422と、ピーク検出回路(Peak)423と、比較器(CMP)424と、を備えている。
振動センサ421は、図29の例と同様、50Hz〜10kHzの周波数帯域の振動を検出し、その振動波形を電気信号として出力する。振動センサ421の出力信号(振動信号)は、増幅回路427で増幅された後、3つのバンドパスフィルタ441−1〜441−3に同時に入力される。各バンドパスフィルタ441−1〜441−3を通過した各々帯域の異なる信号は、各々別々の信号処理部442−1〜442−3内のRMS演算回路422とピーク検出回路423とに入力される。すなわち、この例では、第1の信号処理部442−1内のRMS演算回路422とピーク検出回路423とには、第1のバンドパスフィルタ441−1を通過した低帯域(中心周波数500Hz)の振動信号が入力される。第2の信号処理部442−2内のRMS演算回路422とピーク検出回路423とには、第2のバンドパスフィルタ441−2を通過した中間帯域(中心周波数1.5kHz)の振動信号が入力される。第2の信号処理部442−2内のRMS演算回路422とピーク検出回路423とには、第3のバンドパスフィルタ441−3を通過した高帯域(中心周波数3kHz)の振動信号が入力される。
各信号処理部442−1〜442−3内のRMS演算回路422は、入力された振動信号を処理することにより、その振動信号のRMS電圧の4倍の電圧を出力する。
各信号処理部442−1〜442−3内のピーク検出回路423は、入力された振動信号のピーク電圧を出力する。ピーク検出回路423の出力時の電圧レベルの増幅度は1である。各信号処理部442−1〜442−3内のRMS演算回路422の出力信号は、比較器424の第1の入力端子に入力される。ピーク検出回路423の出力信号は、比較器424の第2の入力端子に入力される。
各信号処理部442−1〜442−3内の比較器424は、RMS演算回路422からの信号電圧すなわちRMS電圧の4倍の電圧と、ピーク検出回路423からの信号電圧すなわちピーク電圧とを比較する。そして、ピーク電圧の方が大きければ+5Vの電圧の信号を出力し、ピーク電圧の方が小さければ−5Vの電圧の信号を出力する。
制御盤430の診断回路431は、センサユニット420の各信号処理部442−1〜442−3の出力信号を常時監視し、各信号毎に単位時間(ここでは60秒間とする。)における+5Vの電圧の信号の出力時間の割合を、Peak/RMSが基準を超えたデューティ比として算出する(図32参照)。そして、算出したデューティ比に応じた警報レベルの警報信号を発する。
この例では、図29の例とは異なり、デューティ比の算出に使用するピーク電圧に上限を設けていないので、ノイズ対策として、デューティ比の基準にノイズ成分を含めている。
表5の例では、正常であることを示すデューティ比20%未満の中に、レールの継ぎ目による衝撃音や摩擦音等、車両401を構成する機械要素の劣化とは関係ないノイズ分を見込んでいるわけである。
[第9の形態例]
図33は、センサユニット420の第9の形態例を示すブロック図である。図33に示すセンサユニット420は、振動センサ(Sens)421と、増幅器427と、増幅器427からの信号が入力されるローパスフィルタ(LPF)451と、ローパスフィルタ451を通過した信号を処理する信号処理部452とを備えている。ローパスフィルタ451は、1kHz程度のカットオフ周波数を持つ。1kHz程度を超える信号を遮断することにより、レールの継ぎ目による衝撃音や摩擦音等、車両401を構成する機械要素の劣化とは関係ないノイズに起因する非常に大きな信号をカットし、機械要素の振動のみを捉えることができる。
[第9の形態例]
図33は、センサユニット420の第9の形態例を示すブロック図である。図33に示すセンサユニット420は、振動センサ(Sens)421と、増幅器427と、増幅器427からの信号が入力されるローパスフィルタ(LPF)451と、ローパスフィルタ451を通過した信号を処理する信号処理部452とを備えている。ローパスフィルタ451は、1kHz程度のカットオフ周波数を持つ。1kHz程度を超える信号を遮断することにより、レールの継ぎ目による衝撃音や摩擦音等、車両401を構成する機械要素の劣化とは関係ないノイズに起因する非常に大きな信号をカットし、機械要素の振動のみを捉えることができる。
信号処理部452は、RMS演算回路(RMS−DC)422と、ピーク検出回路(Peak)423と、比較器(CMP)424と、を備えている。
振動センサ421は、図29の例と同様、50Hz〜10kHzの周波数帯域の振動を検出し、その振動波形を電気信号として出力する。振動センサ421の出力信号(振動信号)は、増幅回路427で増幅された後、ローパスフィルタ451に入力される。そして、ローパスフィルタ451を通過した1kHz程度以下の信号が信号処理部452に入力される。信号処理部452における処理は、図31中の各信号処理部442−1〜442−3における処理と同様である。
この第9の形態例によれば、1kHz程度以下の信号のみ捉えて信号処理部452に入力するようにしたので、レールの継ぎ目による衝撃音や摩擦音等、車両401を構成する機械要素の劣化とは関係ないノイズに起因する非常に大きな信号によってセンサユニット420の出力が飽和してしまうのを防止できる。
[第10の形態例]
図34は、センサユニット420の第10の構成例を示すブロック図である。図34に示すセンサユニット420は、図33の構成に加えて、増幅器427からの信号が入力されるハイパスフィルタ(HPF)453と、ハイパスフィルタ453を通過した信号を処理する信号処理部454とを備えている。信号処理部454の構成は、ローパスフィルタ451側の信号処理部452のそれと同じである。ハイパスフィルタ453は、1kHzのカットオフ周波数を持つ。1kHz以上の信号のみ信号処理部454に入力することにより、軸受のスポット傷を有効に検出することができる。
[第11の形態例]
図35は、センサユニット420の第11の形態例を示すブロック図である。この構成例は、上述したRMS演算回路422、ピーク検出回路423および比較器424の機能を、制御盤430に持たせた場合のものであり、センサユニット420内には、振動センサ(Sens)421、増幅器427、およびローパスフィルタ(LPF)451だけが設けられている。
[第12の形態例]
図36は、センサユニット420の第12の形態例を示すブロック図である。図36に示すセンサユニット420は、振動センサ(Sens)421と、増幅器427と、増幅器427の出力をデジタル信号に変換するA/D変換器(ADC)455と、A/D変換器455からの信号を処理するマイクロプロセッサ(MPU)456と、を備えている。MPU456は、その内部に格納されたプログラムに従って、A/D変換器455からの入力信号をデジタル処理することにより、上述したRMS演算回路422、ピーク検出回路423および比較器424の機能を果たすとともに、表5に例示した診断処理も行なう。したがって、この構成例によれば、制御盤430の診断回路431を省略できる。MPU456の代わりに、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)を使用することも可能である。また、MPU456の代わりに、A/D変換器を内蔵したマイクロプロセッサを使用すれば、外付けのA/D変換器455を省略できる。
[第10の形態例]
図34は、センサユニット420の第10の構成例を示すブロック図である。図34に示すセンサユニット420は、図33の構成に加えて、増幅器427からの信号が入力されるハイパスフィルタ(HPF)453と、ハイパスフィルタ453を通過した信号を処理する信号処理部454とを備えている。信号処理部454の構成は、ローパスフィルタ451側の信号処理部452のそれと同じである。ハイパスフィルタ453は、1kHzのカットオフ周波数を持つ。1kHz以上の信号のみ信号処理部454に入力することにより、軸受のスポット傷を有効に検出することができる。
[第11の形態例]
図35は、センサユニット420の第11の形態例を示すブロック図である。この構成例は、上述したRMS演算回路422、ピーク検出回路423および比較器424の機能を、制御盤430に持たせた場合のものであり、センサユニット420内には、振動センサ(Sens)421、増幅器427、およびローパスフィルタ(LPF)451だけが設けられている。
[第12の形態例]
図36は、センサユニット420の第12の形態例を示すブロック図である。図36に示すセンサユニット420は、振動センサ(Sens)421と、増幅器427と、増幅器427の出力をデジタル信号に変換するA/D変換器(ADC)455と、A/D変換器455からの信号を処理するマイクロプロセッサ(MPU)456と、を備えている。MPU456は、その内部に格納されたプログラムに従って、A/D変換器455からの入力信号をデジタル処理することにより、上述したRMS演算回路422、ピーク検出回路423および比較器424の機能を果たすとともに、表5に例示した診断処理も行なう。したがって、この構成例によれば、制御盤430の診断回路431を省略できる。MPU456の代わりに、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)を使用することも可能である。また、MPU456の代わりに、A/D変換器を内蔵したマイクロプロセッサを使用すれば、外付けのA/D変換器455を省略できる。
しかし、MPUやDSPを使用して演算処理を行なう場合、RMS演算処理はかなり重い処理になりかねない。2乗の総和演算は、固定小数点数演算を行なうシステムでは飽和を起こしやすいし、平方根の命令は存在しないのが普通である。
したがって、RMS演算処理がかなり複雑でその他の処理が比較的簡単なものであれば、MPUやDSPを使用するよりも、RMS演算の処理効率を優先した専用のデジタル演算回路をフィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)により実現する方が有利である。FPGAによる演算回路については、マイコンやDSPに対する優位性は実際の信号処理により異なるが、ハードウエアによる高速化を望め、マイコン回路よりも小さくできる可能性が高い。マイコンでは既に最初から搭載されている加算器および乗算器等は、FPGAでは後から書き込む必要がある。しかし、これは裏を返せば、演算機能と周辺機能を必要なだけ載せることができるので、装置の小型化や演算の並列化で高速化が期待できる。
[第13の形態例]
そこで、図37に示す第13の形態例では、A/D変換器(ADC)455からの入力信号をデジタル処理することにより、上述したRMS演算回路422、ピーク検出回路423および比較器424の機能を果たすとともに、表5に例示した診断処理も行なう専用のデジタル回路としてFPGA457を備えている。なお、上記の形態例の説明では、軸受404−1〜404−4の剥離等の劣化を示すパラメータとしてPeak/RMS(波高率)を用いたが、これに代えて、尖り度(Kurtosis)、衝撃指数(Peak/絶対値平均)または波形率(RMS/絶対値平均)を用いることもできる。尚、尖り度(Kurtosis)は、基本統計量における無次元パラメータであって、次の計算式(4)で算出される。
[第13の形態例]
そこで、図37に示す第13の形態例では、A/D変換器(ADC)455からの入力信号をデジタル処理することにより、上述したRMS演算回路422、ピーク検出回路423および比較器424の機能を果たすとともに、表5に例示した診断処理も行なう専用のデジタル回路としてFPGA457を備えている。なお、上記の形態例の説明では、軸受404−1〜404−4の剥離等の劣化を示すパラメータとしてPeak/RMS(波高率)を用いたが、これに代えて、尖り度(Kurtosis)、衝撃指数(Peak/絶対値平均)または波形率(RMS/絶対値平均)を用いることもできる。尚、尖り度(Kurtosis)は、基本統計量における無次元パラメータであって、次の計算式(4)で算出される。
Xi:i番目の実測値(時刻Iにおける値)
σ:標準偏差
平均値をゼロにする振動波形では、σはRMS値に等しいとして構わない。4乗回路は、RMS回路に含まれる2乗回路が応用できる。従って、上述した形態例における波高率(Peak/RMS)の代わりに、尖り度(Kurtosis)を使う形態例も実現可能である。すなわち、上記RMS演算回路(RMS−DC)422の代わりに、尖り度、衝撃指数または波形率を求める回路を用いたものも本発明の異常診断装置に含まれる。
[第14の形態例]
まず、図40〜図45を参照して、第14の形態例の異常診断装置について説明する。
まず、図40〜図45を参照して、第14の形態例の異常診断装置について説明する。
図40に示すように、一両の鉄道車両500は前後2つの車台によって支持され、各車台には4個の車輪501が取り付けられている。各車輪501の回転支持装置(軸受箱)510には、運転中に回転支持装置510から発生する振動を検出する振動センサ511が取り付けられている。
鉄道車両500の制御盤515には、4チャネル分のセンサ信号を同時(ほぼ同時)に取り込んで診断処理を実施する異常診断装置550が2つ搭載されている。即ち、各車台に設けられている4つの振動センサ511の出力信号が各々信号線516を介して車台毎に別の異常診断装置550に入力される。また、異常診断装置550には、車輪501の回転速度を検出する回転速度センサ(図示省略)からの回転速度パルス信号も入力される。
図41に示すように、回転支持装置510には、1例として回転部品である車軸軸受530が設けられており、車軸軸受530は、回転軸(不図示)に外嵌される回転輪である内輪531と、ハウジング(不図示)に内嵌される固定輪である外輪532と、内輪531および外輪532との間に配置された複数の転動体である玉533と、玉533を転動自在に保持する保持器(不図示)とを備える。振動センサ511は、重力方向の振動加速度を検出し得る姿勢に保持されてハウジングの外輪532近傍に固定されている。振動センサ511には、加速度センサ、AE(acousticEmission)センサ、超音波センサ、ショックパルスセンサ等、種々のものを使用することができる。
図42に示すように、異常診断装置550は、センサ信号処理部550Aと、診断処理部(MPU)550Bとを有する。センサ信号処理部550Aは、4つの増幅・濾波器(AFILT)551を備えている。そして、4つの振動センサ511の出力信号が増幅・濾波器551に個別に入力されるようになっている。各増幅・濾波器551は、アナログアンプの機能とアンチエリアシングフィルタの機能とを兼ね備えている。これら4つの増幅・濾波器551で増幅且つ濾波された4チャネルのアナログ信号は、診断処理部(MPU)550Bの信号に基づいて、スイッチ機能として働くマルチプレクサ(MUX)552にて1チャネルごとの信号に切換えて、AD変換器(ADC)553にてデジタル信号に変換されて、診断処理部(MPU)550Bに取り込まれる。一方、回転速度センサからの回転速度パルス信号は、波形整形回路555によって整形された後、タイマカウンタ(図示省略)により単位時間当りのパルス数がカウントされ、その値が回転速度信号として診断処理部(MPU)550Bに入力される。診断処理部(MPU)550Bは、振動センサ511により検出された振動波形と回転速度センサにより検出された回転速度信号とをもとに異常診断を実行する。診断処理部(MPU)550Bによる診断結果はラインドライバ(LD)556を介して通信回線520(図40参照)に出力される。通信回線520は警報機に接続されており、車輪501のフラット等の異常発生時には然るべき警報動作がなされるようになっている。
診断処理部(MPU)550Bは、回転速度センサにより検出された回転速度信号が略一定の所定速度(本形態例では、185〜370min−1)であるときに、サンプリング周波数fsと、サンプリング数Nsを一定にした波形ブロックデータを処理して、車輪501のフラットの検出を行なう。具体的には、fs=2kHz、Ns=2000、とすると、ブロックデータの区間長=1secである。この1秒間にフラットによる振動波形パルスをカウントした回数と、回転速度センサで検出した車速から1秒間に車輪501が回転する回数とを比較することでフラットの検出を行なう。
車輪501でフラットが発生している状態での振動加速度は大きく、通常の車両の振動で起きる振動加速度の値は、それよりも小さいことが多い。また、レール継ぎ目の振動は、フラットと同等、若しくは、それよりも大きい振動加速度のレベルとなる。さらに、レールのカーブにおけるレールと車輪501の摩擦からくる振動加速度のレベルも、フラットやレール継ぎ目によるものと同等である。診断処理部(MPU)550Bは、その内部にメモリ(RAM)559を有しており、これを利用してFFTやデジタルフィルタリングを極めて高速に実行することができる。このことにより、4チャネルの振動センサ511に対して、リアルタイム処理(即ち、サンプリング時間よりもかなり余裕をもった短時間での計算)を実行できる。
一方、フラットは1回転で1回の衝撃が起るのに対して、レールの継ぎ目による衝撃の場合は、より長い周期で発生し、レール摩擦による衝撃の場合は、不規則に発生する。そこで、本形態例では、フラット特有の振動加速度の閾値を越える衝撃(パルス)発生の規則性に着目して、ほぼ一定速度における単位時間あたりの衝撃波回数をカウントし、そのカウント数がほぼ車輪の回転数に一致していれば、フラットが発生している可能性が高い、として異常診断を行なう。
更に、本形態例では、同じ車輪501について繰り返し診断処理を行なうアルゴリズムを設計し、パルス数のカウント数のバラツキやノイズの影響等を考慮した、統計的判断手法により異常診断の信頼性を向上させる。
図43は、異常診断装置550による4チャネル分の振動データの取り込みとデータ解析のタイムチャートを示している。振動データは絶え間なく異常診断装置550に取り込まれるが、診断対象に応じて一定のサンプリング区間に分割することができる。軸受530の診断(はく離検出)に必要な取り込み周期T1は1秒未満で十分であり、レールと車輪501との接触ノイズの影響を減らすためにも、できるだけ短時間であることが望ましい。反対に、車輪501の転動面の異常を検出するには、車輪501が一回転する毎の衝撃を検出する必要があるので、周期T1より長い1秒程度の周期T2が必要である。
軸受診断用の振動データの取り込み周期T1を4チャネル分の振動データの取り込みに要する時間に一致させてたとえば0.67秒とし、サンプリング周波数を20kHzとすると、1周期T1の間に4×0.67×20,000点のデータが取り込まれる。したがって、車輪診断用の振動データの取り込み周期T2を1秒とすると、軸受診断用の振動データの取り込み周期T1で振動データの取り込みを行なったのでは0.33秒不足することになる。そこで、1区間、即ち、周期T1分のデータと一つ前の区間の最後の0.33秒分のデータを継ぎ足すことにより、周期T2分のデータとする。ただし、データ数は後述するようにフィルタリング後のデシメート処理により間引くことができるので、1チャネル当り2,000点以下とすることができる。その結果、車輪501と軸受530の診断を4チャネル分実行するのに要する時間を周期T1、即ち、0.67秒よりも小さくして、車輪・軸受診断データの処理時間に余裕を持たせることができる。
本形態例では、診断処理部(MPU)550Bは、上記振動データの取り込みと車輪・軸受診断データ処理とを並行して行なう。即ち、4チャネル分の振動データの取り込み周期T1内に車輪・軸受診断データ処理を完了するリアルタイム処理を行なう。このリアルタイム処理は、センサ信号処理部550Aのマルチプレクサ552とAD変換器553とを診断処理部(MPU)550Bが割り込み制御してデータサンプリングすることにより実現される。また、ダイレクトメモリーアクセスコントローラ(DMA)によるデータサンプリングによっても実現できる。
このように、車輪・軸受診断データの処理時間に余裕を持たせ、振動データの取り込みと車輪・軸受診断データの処理とを並行して行なうことにより、データの取りこぼしをなくすことができるので、レールの不規則性や車体の揺れ、荷重変動等による確率過程を含んだデータを統計処理して得られる診断結果の信頼性を高めることができる。
図44は、診断処理部(MPU)550Bの動作フローを示している。診断処理部(MPU)550Bは、振動データの取り込み、即ち、4チャネル分のセンサ信号のAD変換およびサンプリング(S300)と軸受・車輪診断データ処理(S400)とを並行して実施する。
車輪・軸受診断データ処理(S400)では、4チャネル分の振動データの更新(S401)がなされる度に、回転速度検出処理(S402)、診断処理(S403)、診断結果の記憶保持処理(S404)および判定結果の出力処理(S405)を順次実施する。
回転速度検出処理(S402)は、回転速度センサの信号に基づいて軸受130の回転速度を検出する処理である。
診断処理(S403)は、軸受診断処理(S410)と車輪診断処理(S420)とからなる。
軸受診断処理(S410)は、軸受530の回転速度と振動のエンベロープ波形を処理して得られる周波数ピークとに基づいて軸受530の異常を検出する処理である。軸受診断処理(S410)では、まず取り込んだ振動データから高域(3kHz以上)と低域(200Hz以下)の成分を減衰させた中域の振動データを抽出するバンドパスフィルタ(BPF)処理(S411)を実行し、抽出されたデータに対し、所定の間引き率でデシメート処理(S412)を実行した後、絶対値処理(S413)、低域(1kHz以下)の成分を抽出するローパスフィルタ処理(S414)を順次実行する。そして、抽出されたデータに対し更にデシメート処理(S415)を実行した後、ゼロ補間高速フーリエ変換(FFT)処理(S416)を実行することにより、分解能1Hzの周波数データを得る。この周波数データに対して平滑化微分によるピーク検出処理(S417)を実施し、回転速度と軸受内部諸元から得られる軸受欠陥の基本周波数(図45参照)と4次までの比較を行なって一致、不一致を判定する(S418:軸受欠陥判定処理)。
車輪診断処理(S420)は、車輪501の回転に同期して衝撃が生じる現象から車輪501の異常を検出する処理である。車輪501の回転に同期して生じる衝撃の主な発生原因は、車輪501の転動面に生じたフラットと呼ばれる平坦部の存在である。車輪診断処理(S420)では、まず取り込んだ振動データから所定周波数(1kHz)以下の成分を抽出するローパスフィルタ(LPF)処理(S421)を実行し、抽出されたデータに対し、所定の間引き率でデシメート処理(S422)を実行した後、図43で説明したように、1サンプリング区間(周期T1)よりも長い区間(周期T2)のデータを確保するために現在のサンプリング区間の1つ前のサンプリング区間の最後の1/3のデータを現在のサンプリング区間のデータの最初に継ぎ足すオーバーラップ処理(S423)を実行する。次に、このオーバーラップ処理(S423)を経たデータのうち閾値を超えたデータをピークホールド処理(S424)により絶対値化して一定時間(τ)だけ閾値を超えた値に保持する。この保持時間(τ)は、車輪501の回転速度によって決まり、車輪1回転分よりも短い値に選定される。この絶対値化して一定時間保持するピークホールド処理は、安定なピーク計測を可能とする。そして、パルスが閾値を越えた回数をカウントして(S425:閾値超え回数カウント処理)、カウント数が車輪501の回転数と一致するかどうか判定する(S426:車輪欠陥判定処理)。
軸受診断処理(S410)および車輪診断処理(S420)は、ステップS401で更新された4チャネル分の振動データに対して繰り返される。即ち、1回のデータ更新毎に軸受診断処理(S410)と車輪診断処理(S420)とがそれぞれ4回ずつ実施される。そして、各回の判定処理(S418、S426)による判定結果は診断処理部(MPU)550B内に記憶保持される(S404)。診断処理部(MPU)550Bは、最新の判定結果から遡って過去N回分の判定処理(S418、S426)の結果を記憶保持しており、そのN回分の判定結果から統計的に異常判定を行ない、その結果を出力する(S405)。
即ち、本形態例では、車軸軸受530、車輪501とも1回の欠陥周波数との一致、車輪回転数の一致があっただけでは異常と判定しない。周波数の一致は確率過程に基づくものであるので、複数回分の集計値から統計的に判断する必要があるからである。
統計的判断手法として一般的にはスペクトルの積算平均をあげることができるが、本形態例で用いている判断手法では、軸受であればスペクトルの一致度を整数値で表したデータを複数回例えば16回分加算して、基準値に達していれば異常と判断し、そうでなければ異常とは判断しないが、鉄道車両の車軸軸受の異常診断には十分適用できる。軸受に小さな剥離が生じたとしても、潤滑やシール等が十分になされていれば一気に進行することはなく、鉄道車両の走行に影響を及ぼす危険性は小さく、鉄道車両の走行に影響を及ぼす程の異常の発生は通常温度ヒューズ等、別の手段が感知することになっているからである。
上記のように、本形態例の異常診断装置550は、車軸軸受530または車輪501の振動を振動センサ511で検出し、振動センサ511の出力信号をセンサ信号処理部550Aでサンプリングし、その振動データを基に、診断処理部(MPU)550Bが車軸軸受530および車輪501の異常診断を行なう。その際、診断処理部(MPU)550Bは、センサ信号処理部550Aからの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理する。このように、軸受診断用の振動データと車輪診断用の振動データとに分けて処理することにより、異常振動が車輪501のフラットによるものか、車軸軸受530によるのかを特定して正確な診断を実施できる。
また、本形態例の異常診断装置では、各車台の4つの回転支持装置510に個々に取り付けられた4つの振動センサ511からの4チャネル分のセンサ信号を同時(ほぼ同時)に取り込みつつ、すべてのチャネルについてデータ取り込み時間内に診断データ処理が完了するリアルタイム処理を実施するので、データの取りこぼしがなく、極めて信頼性の高い異常診断を行なうことができる。
[第15の形態例]
図46は第15の形態例(上述した第14形態例の変形例)のブロック図である。この異常診断装置550は、診断処理部550Bとして、マルチプレクサ(MUX)およびAD変換器(ADC)を備えたMPUを用いている。即ち、MPUがセンサ信号処理部550Aの一部の機能を兼ね備えている。この構成によれば、異常診断装置550内の回路を簡略化でき、DMAコントローラ(DMAC)557等、他のMPU内蔵回路との連携をソフトウエアによって簡単に実現できるので、第14形態例の構成よりも効率の良いソフトウエア制御が可能となる。
図46は第15の形態例(上述した第14形態例の変形例)のブロック図である。この異常診断装置550は、診断処理部550Bとして、マルチプレクサ(MUX)およびAD変換器(ADC)を備えたMPUを用いている。即ち、MPUがセンサ信号処理部550Aの一部の機能を兼ね備えている。この構成によれば、異常診断装置550内の回路を簡略化でき、DMAコントローラ(DMAC)557等、他のMPU内蔵回路との連携をソフトウエアによって簡単に実現できるので、第14形態例の構成よりも効率の良いソフトウエア制御が可能となる。
[第16の形態例]
図47は第16の形態例(上述した第15形態例の変形例)のブロック図である。この異常診断装置550は、図46の構成に加えて、記憶素子としてバックアップ電池(Batt)561を有するスタティックランダムアクセスメモリー(SRAM)562を備えている。また、MPU内蔵のカレンダ時計回路(RTC)563を有効としたハード構成を採用することにより、異常時のデータを保存可能としている。
図47は第16の形態例(上述した第15形態例の変形例)のブロック図である。この異常診断装置550は、図46の構成に加えて、記憶素子としてバックアップ電池(Batt)561を有するスタティックランダムアクセスメモリー(SRAM)562を備えている。また、MPU内蔵のカレンダ時計回路(RTC)563を有効としたハード構成を採用することにより、異常時のデータを保存可能としている。
図48は第16形態例における診断処理部550Bの車輪・軸受診断データ処理の内容を示している。診断処理部550Bは、4チャネル分の振動データの更新(S401)がなされる度に、軸受診断処理(S510)と車輪診断処理(S520)とを実施する。そして、軸受診断処理(S510)により得られた軸受振動のエンベロープ波形のスペクトル強度が基準値以上か否かを判定(S511)し、基準値未満の場合は(S511でFalse)、軸受診断処理(S510)の結果をN回分の集計のために記憶保持(S404)する。また、車輪診断処理(S520)により得られた、振動レベル閾値を超えたイベントのカウント数が車輪501の回転数と一致したか否かを判定(S521)し、一致しなかった場合は(S521でFalse)、N回分の集計のために記憶保持(S404)する。
一方、スペクトル強度が基準値以上(S511でTrue)の場合は、軸受振動のエンベロープ波形のスペクトル強度をカレンダ時計回路(RTC)563から読み取った日時情報とともにSRAM562に保存する(S530)。また、振動レベル閾値を超えたイベントのカウント数が車輪501の回転数と一致した場合(S521でTrue)は、車輪診断における時間波形のデータをカレンダ時計回路(RTC)563から読み取った日時情報とともにSRAM562に保存する(S530)。保存データ量がSRAM562の許容量に達したら、最も過去のデータを削除する(S531)。
この形態例によれば、異常判定結果を警報機に送信して警報処理を行なうとともに、スペクトルの内容等については、SRAM562に保存されているデータを読み出して保守用のコンピュータに送信することにより、車両の保守情報として利用できる。
[第17の形態例]
図49は第17形態例(上述した第16形態例の変形例)のブロック図である。この異常診断装置550は、マルチプレクサ(MUX)552とAD変換器(ADC)553とをMPU内に2組ずつ備えることにより、1つのモジュールで8チャネルのセンサ信号によるリアルタイム診断を可能としている。このようなセンサ信号入力の多チャネル化は、MPUの計算能力が許すならば、AD変換器の数を増やすか、変換速度の速いAD変換器とマルチプレクサを使用することで何チャネルでも可能である。尚、図49の例では、カレンダ時計回路(RTC)563をMPUに内蔵せず、バックアップ電池(Batt)付きのものをMPUに外付けにしている。
[第18の形態例]
図50は第18の形態例(上述した第15形態例の変形例)のブロック図である。この異常診断装置550は、図46で説明した異常診断装置の構成に1回転信号発生分周回路565を付加したものである。波形整形回路555の出力は、診断処理部(MPU)550Bと1回転信号発生分周回路565とに入力される。1回転信号発生分周回路565は、波形整形回路555により整形された回転数比例正弦波を分周し、1回転に1パルスの回転同期信号を診断処理部(MPU)550Bに与える。診断処理部(MPU)550Bは、一定速度の区間でこの回転同期信号をトリガとしてデータのサンプリングを行ない、そのデータを加算平均処理して異常診断を行なう。車輪501が1回転する毎に発せられる回転同期信号をトリガとしてサンプリングしたデータを加算平均処理することにより、車輪501の回転に同期する信号以外の成分がキャンセルされ、車輪501の回転に同期した成分だけが残るので、衝撃レベルの閾値による判定によって車輪501のフラットの検出を精度良く行なうことができる。
図49は第17形態例(上述した第16形態例の変形例)のブロック図である。この異常診断装置550は、マルチプレクサ(MUX)552とAD変換器(ADC)553とをMPU内に2組ずつ備えることにより、1つのモジュールで8チャネルのセンサ信号によるリアルタイム診断を可能としている。このようなセンサ信号入力の多チャネル化は、MPUの計算能力が許すならば、AD変換器の数を増やすか、変換速度の速いAD変換器とマルチプレクサを使用することで何チャネルでも可能である。尚、図49の例では、カレンダ時計回路(RTC)563をMPUに内蔵せず、バックアップ電池(Batt)付きのものをMPUに外付けにしている。
[第18の形態例]
図50は第18の形態例(上述した第15形態例の変形例)のブロック図である。この異常診断装置550は、図46で説明した異常診断装置の構成に1回転信号発生分周回路565を付加したものである。波形整形回路555の出力は、診断処理部(MPU)550Bと1回転信号発生分周回路565とに入力される。1回転信号発生分周回路565は、波形整形回路555により整形された回転数比例正弦波を分周し、1回転に1パルスの回転同期信号を診断処理部(MPU)550Bに与える。診断処理部(MPU)550Bは、一定速度の区間でこの回転同期信号をトリガとしてデータのサンプリングを行ない、そのデータを加算平均処理して異常診断を行なう。車輪501が1回転する毎に発せられる回転同期信号をトリガとしてサンプリングしたデータを加算平均処理することにより、車輪501の回転に同期する信号以外の成分がキャンセルされ、車輪501の回転に同期した成分だけが残るので、衝撃レベルの閾値による判定によって車輪501のフラットの検出を精度良く行なうことができる。
[第19の形態例]
図51は第19の形態例のブロック図である。この異常診断装置550は、センサ信号処理部550Aと、診断処理部(MPU)550Bとを有する。センサ信号処理部550Aは、1つの増幅器(Amp)571と1つの濾波器(LPF)572とを備えている。そして、4つの振動センサ511の出力信号(アナログ信号)が1つの増幅器(Amp)571に入力され、増幅された後、1つの濾波器(LPF)572に入力されるようになっている。即ち、この形態例では、4つの振動センサ511からの4チャネルの出力信号を増幅・濾波するために増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572を用いている。そして、増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572で増幅且つ濾波されたアナログ信号が診断処理部(MPU)550Bに取り込まれ、診断処理部(MPU)550B内のAD変換器(ADC)553にてデジタル信号に変換されるようになっている。一方、回転速度センサからの回転速度パルス信号は、波形整形回路555によって整形された後、診断処理部(MPU)550Bに取り込まれ、診断処理部(MPU)550B内のタイマカウンタ(TCNT)573により単位時間当りのパルス数がカウントされ、その値が回転速度信号として処理されるようになっている。診断処理部(MPU)550Bは、振動センサ511により検出された振動波形と回転速度センサにより検出された回転速度信号とをもとに異常診断を実行する。診断処理部(MPU)550Bによる診断結果はラインドライバ(LD)556を介して通信回線520(図40参照)に出力される。通信回線520は警報機に接続されており、車輪501のフラット等の異常発生時には然るべき警報動作がなされるようになっている。
図51は第19の形態例のブロック図である。この異常診断装置550は、センサ信号処理部550Aと、診断処理部(MPU)550Bとを有する。センサ信号処理部550Aは、1つの増幅器(Amp)571と1つの濾波器(LPF)572とを備えている。そして、4つの振動センサ511の出力信号(アナログ信号)が1つの増幅器(Amp)571に入力され、増幅された後、1つの濾波器(LPF)572に入力されるようになっている。即ち、この形態例では、4つの振動センサ511からの4チャネルの出力信号を増幅・濾波するために増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572を用いている。そして、増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572で増幅且つ濾波されたアナログ信号が診断処理部(MPU)550Bに取り込まれ、診断処理部(MPU)550B内のAD変換器(ADC)553にてデジタル信号に変換されるようになっている。一方、回転速度センサからの回転速度パルス信号は、波形整形回路555によって整形された後、診断処理部(MPU)550Bに取り込まれ、診断処理部(MPU)550B内のタイマカウンタ(TCNT)573により単位時間当りのパルス数がカウントされ、その値が回転速度信号として処理されるようになっている。診断処理部(MPU)550Bは、振動センサ511により検出された振動波形と回転速度センサにより検出された回転速度信号とをもとに異常診断を実行する。診断処理部(MPU)550Bによる診断結果はラインドライバ(LD)556を介して通信回線520(図40参照)に出力される。通信回線520は警報機に接続されており、車輪501のフラット等の異常発生時には然るべき警報動作がなされるようになっている。
振動センサ511の出力信号から検出できる異常は、車軸軸受530の剥離と車輪501のフラット(摩耗)である。どちらも1kHz付近までの周波数帯域の振動信号として検知できる。そこで、この第19形態例では、振動センサ511の出力信号を増幅・濾波するために、増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572を使用している。そして、濾波器(LPF)572により濾波されAD変換器(ADC)553にてデジタル信号に変換されたデータをソフトウエア処理により車軸軸受診断用と車輪診断用とに分離して、両者の異常診断を行なう。
車軸軸受530に発生する異常の中で、静止輪の外輪軌道の剥離が最も起こりやすい。そこで、車軸軸受530については、静止輪の外輪軌道の剥離を検出対象とする。
車軸軸受530の剥離と車輪501のフラットとでは欠陥の周波数帯域が10倍程度異なる。車輪501の回転速度(see−1)は、車輪フラットの基本周波数に等しい。診断すべき回転速度の範囲は4〜10sec−1(基本周波数:4〜10Hz)である。これに対して車軸軸受530の静止輪の外輪軌道に欠陥がある場合、同じ回転速度の範囲(4〜40sec−1)でも、欠陥の基本周波数は33〜83Hzである。どちらも4次までの高調波を検査する場合、車輪501については4〜40Hz、車軸軸受530については33〜330Hzがそれぞれの必要とされるDFT(離散フーリエ変換)による周波数分析範囲である。車軸軸受530の診断の際の周波数分解能は1.0Hzで十分である。しかし、車輪501の診断には1.0Hzでは分解能が足りない上に、オフセットによるFFT低域におけるDC成分の影響を受けやすい。
そこで、この第19形態例では、AD変換器(ADC)553にてデジタル信号に変換(サンプリング)したデータを、車軸外輪軌道はく離解析用(車軸軸受診断用)と車輪フラット解析用(車輪診断用)のサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換して処理する。
図52は、第19形態例における診断処理部(MPU)550Bの動作フローを示している。診断処理部(MPU)550Bは、4つの振動センサ511から出力され、増幅器(Amp)571と濾波器(LPF)572とを経て送られてくるセンサ信号を、AD変換器(ADC)553にてサンプリングしデジタル信号に変換する(S601)。そして、AD変換器(ADC)553の出力信号に対してソフトウエアにより実現されるFIRローパスフィルタリングによりデシメーション処理(S602)を施す。この例では、AD変換器(ADC)553におけるサンプリングを8kHzの周波数で3秒間単位で実施している。また、デシメーション処理(S602)では、サンプリング周波数fsを2kHzに落とすために、デシメーション率Mを4としてデータ数を1/4に削減している。
診断処理部(MPU)550Bは、デシメーション処理(S602)を経たデータを、車軸外輪軌道はく離解析用(以下、「軸受用」と記す。)と車輪フラット解析用(以下、「車輪用」と記す。)のサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換する(図53(a)参照)。
軸受用のデータは、デシメーション処理(S602)を経たデータを4分割して0.75秒ごとのデータ区間に分けることにより得られる(S611)。得られたデータに絶対値化処理(S612)およびAC化処理(S613)を順次施する。そして更に、1区間あたりおよそ0.25秒(sec)分の0を追加することにより約1秒分のデータ区間長とし(S614)、周波数分解能を約1.0HzにしてFFTを行なう(S615)。FFTの入力データ数は2048個である。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、車速と軸受諸元データから外輪欠陥周波数Zfcを求め、基本波から4次までのピーク検出を行なう(S616)。そして、外輪欠陥周波数Zfcと周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(S617)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車軸軸受530の異常判定を行なう。
車輪用のデータは、デシメーション処理(S602)を経たサンプリング周波数fsが2kHzのデータを、絶対値化処理(S621)後、濾波器(LFP)によりデシメーション率Mを8としてデシメーション処理(S622)することによりサンプリング周波数fsを250Hzまで落とすことにより得られる。この時点でのデータ数は750個となるが、0詰め補間(S624)を行なって約4秒分のデータとすることで、周波数分解能を約0.25HzにしてFFTを実施する(S625)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、ピーク検出を行なう(S626)。そして、車輪フラットの基本周波数から4次までの高次成分と周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(S627)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車輪501の異常判定を行なう。車輪フラットの基本周波数はタイマカウンタ(TCNT)573により回転速度パルス信号の単位時間当りのパルス数をカウントすることにより求められる。
上記のように、4つの振動センサ511の各々に対して、増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572を一組ずつ備え、マルチプレクサ(MUX)552を介してAD変換器(ADC)553にてデジタル信号に変換(サンプリング)したデータを、軸受用と車輪用のサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換し、2系統に分けてFFTを含む処理を行なうことにより、軸受と車輪の異常診断を高精度且つ高効率に行なうことができる。これに対し、一度のFFTで周波数領域が大部分異なる軸受と車輪の両方の周波数範囲を調べた場合、計算コストに見合った精度(分解能)が実現できない(図53(b)参照)。
なお、上記の例では、デジタル処理の大部分をソフトウエアによって行なっているが、その一部またはすべてをFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウエアで実現してもよい。
[第20の形態例]
図54は、第20の形態例における診断処理部(MPU)550Bの動作フローを示している。この例では、AD変換器(ADC)553におけるサンプリングを16kHzの周波数で3秒間単位で実施している(S701)。また、デシメーション処理(S702)では、サンプリング周波数fsを4kHzに落とすため、デシメーション率Mを4としてデータ数を1/4に削減している。
図54は、第20の形態例における診断処理部(MPU)550Bの動作フローを示している。この例では、AD変換器(ADC)553におけるサンプリングを16kHzの周波数で3秒間単位で実施している(S701)。また、デシメーション処理(S702)では、サンプリング周波数fsを4kHzに落とすため、デシメーション率Mを4としてデータ数を1/4に削減している。
診断処理部(MPU)550Bは、デシメーション処理(S702)を経たデータを、軸受用と車輪用のサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換する(図53(a)参照)。
軸受用のデータは、デシメーション処理(S702)を経たデータを3分割して1.0秒ごとのデータ区間に分けることにより得られる(S711)。得られたデータに絶対値化処理(S712)およびAC化処理(S713)を順次施する。そして、0補間処理を完全に省略するか或いは僅かな端数のみ、例えば、4000データに96個の0を補間するような0補間処理を行ない、周波数分解能を約1.0HzにしてFFTを行なう(S714)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、車速と軸受諸元データから外輪欠陥周波数Zfcを求め、基本波から4次までのピーク検出を行なう(S715)。そして、外輪欠陥周波数Zfcと周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(S716)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車軸軸受530の異常判定を行なう。
車輪用のデータは、デシメーション処理(S702)を経たサンプリング周波数fsが4kHzのデータを、絶対値化処理(S721)後、更に濾波器(LFP)によりデシメーション処理(S722)することによりサンプリング周波数fsを500Hzまで落とすことにより得られる。得られたデータにAC化処理(S723)を順次施する。その後、0詰め補間(S724)を行なって約4秒分のデータとすることで、周波数分解能を約0.25HzにしてFFTを実施する(S725)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後、ピーク検出を行なう(S726)。そして、車輪フラットの基本周波数から4次までの高次成分と周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(S727)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車輪501の異常判定を行なう。
この第20形態例のように、軸受用のデータ処理において、0補間処理を完全に省略するか或いは僅かな端数のみ補間するような0補間処理を行なうことにより、FFT処理の回数を減らすことができる。即ち、第19形態例との比較では、同時間に実行するFFT処理の回数が4回から3回に減っている。ただし、第19形態例のように0補間処理を行なってFFT区間を短い時間に区切った方がレール雑音などを回避できるFFT区間を増やすことができる。
[第21形態例]
図55(a)、図55(b)は第21の形態例における診断処理部(MPU)550Bの部分ブロック図である。図55(a)では、図51のハードウエア構成において、診断処理部(MPU)550B内のAD変換器(ADC)553の前段(入力側)に絶対値回路(ABS)581を設け、更にその後段にローパスフィルタ(LPF)582を設けている。図55(b)では、図51のハードウエア構成において、診断処理部(MPU)550B内のAD変換器(ADC)553の前段(入力側)にエンベロープ回路(ENV)591を設け、更にその前段にハイパスフィルタ(HPF)592を設けている。
図55(a)、図55(b)は第21の形態例における診断処理部(MPU)550Bの部分ブロック図である。図55(a)では、図51のハードウエア構成において、診断処理部(MPU)550B内のAD変換器(ADC)553の前段(入力側)に絶対値回路(ABS)581を設け、更にその後段にローパスフィルタ(LPF)582を設けている。図55(b)では、図51のハードウエア構成において、診断処理部(MPU)550B内のAD変換器(ADC)553の前段(入力側)にエンベロープ回路(ENV)591を設け、更にその前段にハイパスフィルタ(HPF)592を設けている。
図56は、第21形態例における診断処理部(MPU)550Bの動作フローを示している。診断処理部(MPU)550Bは、4つの振動センサ511から出力され、増幅器(Amp)571と濾波器(LPF)572とを経て送られてくるセンサ信号を、AD変換器(ADC)553にてサンプリングしデジタル信号に変換する(S801)。この例では、AD変換器(ADC)553におけるサンプリングを2kHzの周波数で3秒間単位で実施している。軸受用のデータは、ローパスフィルタ582を経てAD変換されたデータを4分割して0.75秒ごとのデータ区間に分けることにより得られる(S811)。得られたデータにAC化処理(S812)を施す。そして更に、1区間あたりおよそ0.25秒(sec)分の0を追加することにより約1秒分のデータ区間長とし(S813:0詰め補間)、周波数分解能を約1.0HzにしてFFTを行なう(S814)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、車速と軸受諸元データから外輪欠陥周波数Zfcを求め、基本波から4次までのピーク検出を行なう(S815)。そして、外輪欠陥周波数Zfcと周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(S816)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車軸軸受530の異常判定を行なう。
車輪用のデータは、振動センサ111から出力されるセンサ信号を絶対値回路581により絶対値化処理を施し、2kHzでサンプリングした後、デシメーション率Mを8としてデシメーション処理(S821)することによりサンプリング周波数fsを250Hzまで落とすことにより得られる。得られたデータにAC化処理(S822)を施す。そして更に、0詰め補間(S823)を行なって約4秒分のデータとすることで、周波数分解能を約0.25HzにしてFFTを実施する(S824)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、基本波から4次までの高次成分のピーク検出を行なう(S825)。そして、車輪フラットの基本周波数から4次までの高次成分と周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(S826)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車輪501の異常判定を行なう。
この第21形態例では、図52においてソフトウエアにより実施されていたデシメーション処理(S602)と絶対値化処理(S612)とを高速処理が可能なハードウエアで実施することにより、ソフトウエアによる信号処理を簡略化している。AD変換器(ADC)553におけるサンプリング周波数fsを図52の場合の8kHzからその1/4の2kHzに下げても、高精度且つ高効率の異常判定を可能としている。
[第22の形態例]
まず、図40、41、45、51、57,58を参照して、第22の形態例の異常診断装置について説明する。
まず、図40、41、45、51、57,58を参照して、第22の形態例の異常診断装置について説明する。
図40に示すように、一両の鉄道車両500は前後2つの車台によって支持され、各車台には4個の車輪501が取り付けられている。各車輪501の回転支持装置(軸受箱)510には、運転中に回転支持装置510から発生する振動を検出する振動センサ511が取り付けられている。
鉄道車両500の制御盤515には、4チャネル分のセンサ信号を同時(ほぼ同時)に取り込んで診断処理を実施する異常診断装置550が2つ搭載されている。即ち、各車台に設けられている4つの振動センサ511の出力信号が各々信号線516を介して車台毎に別の異常診断装置550に入力される。また、異常診断装置550には、車輪501の回転速度を検出する回転速度センサ(図示省略)からの回転速度パルス信号も入力される。
図41に示すように、回転支持装置510には、1例として回転部品である車軸軸受530が設けられており、車軸軸受530は、回転軸(不図示)に外嵌される回転輪である内輪531と、ハウジング(不図示)に内嵌される固定輪である外輪532と、内輪531および外輪532との間に配置された複数の転動体である玉533と、玉533を転動自在に保持する保持器(不図示)とを備える。振動センサ511は、重力方向の振動加速度を検出し得る姿勢に保持されてハウジングの外輪532近傍に固定されている。振動センサ511には、加速度センサ、AE(acoustic emission)センサ、超音波センサ、ショックパルスセンサ等、種々のものを使用することができる。
図51に示すように、異常診断装置550は、センサ信号処理部550Aと、診断処理部(MPU:Micro Processing Unit)550Bとを有する。センサ信号処理部550Aは、1つの振動センサ511のために1つの増幅器(Amp)571と1つの濾波器(LPF)572とを備えている{即ち、4つの増幅器(Amp)571と4つの濾波器(LPF)572とを備えている}。そして、4つの振動センサ511の出力信号(アナログ信号)が、対応する増幅器(Amp)571にそれぞれ入力され、増幅された後、対応する濾波器(LPF)572にそれぞれ入力されるようになっている。増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572で増幅且つ濾波されたアナログ信号が診断処理部(MPU)550Bに取り込まれ、マルチプレクサ(MUX)552を介して診断処理部(MPU)550B内のAD変換器(ADC)553にてデジタル信号に変換されるようになっている。一方、回転速度センサからの回転速度パルス信号は、波形整形回路511によって整形された後、診断処理部(MPU)550Bに取り込まれ、診断処理部(MPU)550B内のタイマカウンタ(TCNT)573により単位時間当りのパルス数がカウントされ、その値が回転速度信号として処理されるようになっている。診断処理部(MPU)550Bは、振動センサ511により検出された振動波形と回転速度センサにより検出された回転速度信号とをもとに異常診断を実行する。診断処理部(MPU)550Bによる診断結果はラインドライバ(LD)556を介して通信回線520(図40も参照。)に出力される。通信回線520は警報機に接続されており、異常発生時には然るべき警報動作がなされるようになっている。
振動センサ511の出力信号から検出できる異常は、車軸軸受530の剥離と車輪501のフラット(摩耗)であるが、ここでは、車軸軸受530の診断について説明する。車軸軸受530に発生する異常の中で、静止輪の外輪軌道の剥離が最も起こりやすいので、車軸軸受530の静止輪の外輪軌道の剥離を検出対象とする。
この形態例では、振動センサ511の出力信号を増幅・濾波するために、増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572を使用している。そして、濾波器(LPF)572により濾波されAD変換器(ADC)553にてデジタル信号に変換されたデータをソフトウェアにより実現される演算機能により処理し各振動センサ511の出力信号に基づく異常診断を行なう。
振動センサ511の出力信号は、増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572を通して診断処理部(MPU)550B内のAD変換器(ADC)553に入力される。この形態例におけるAD変換器(ADC)553の分解能は8ビットである。診断処理部(MPU)550Bは振動データを8ビットの値として読み込む。また、AD変換器(ADC)553のサンプリング周波数は一定とし且つCPU558の負荷を抑えるために、コンペアマッチタイマ(CMT)554とダイレクト・メモリアクセス・コントローラ(DMAC)557を使用する。サンプリング周波数は8kHzである。濾波器(LPF)572はアンチエリアシング・フィルタとしても機能し、1kHz以上の帯域成分を減少させる。
AD変換器(ADC)553の入力レンジは0〜3.3Vである。振動センサ511、増幅器(Amp)571および濾波器(LPF)572は、AD変換器(ADC)553の入力レンジに振動波形が適合し、振動波形の中心の電圧が1.65Vになるように設計されている。
図57は、診断処理部(MPU)550Bの動作フローを示している。診断処理部(MPU)550Bは、4つの振動センサ511から出力され、増幅器(Amp)571と濾波器(LPF)572とを経て送られてくるセンサ信号それぞれを、マルチプレクサ(MUX)552を介してチャネルを切り替えながらサンプリングすることで多チャネルをほぼ同時にAD変換器(ADC)553にてサンプリングしデジタル信号(符号なし8ビットデータ)に変換する(ステップS901)。
そして、AD変換器(ADC)553から出力された符号なし8ビットデータを、まず符号付の16ビットデータに変換する(ステップS902)。具体的には、図58(a)に示すように、振動波形の中心電圧である1.65Vが0Vになるように8ビットデータを符号化し直した後、その下位に8ビットを付け足すことにより16ビットの値に変換する。
次に、固定小数点デジタルフィルタ処理(ステップS903)を施し、エンベロープ(絶対値化)処理(ステップS904)を施した後、16ビット固定小数点FFT処理(ステップS905)を実施する。そして、FFT処理(ステップS905)の結果から周波数のピークを求める(ステップS906)。また、車軸回転速度と軸受諸元(図45参照。)から軸受欠陥周波数を算出する(ステップS907)。そして、周波数のピークと軸受欠陥周波数との一致度を点数化し(ステップS908)、一定回数の累積値(累積点数)から異常(NG)を判断する(ステップS909)。
16ビット固定小数点デジタルフィルタ処理(ステップS903)から16ビット固定小数点FFT処理(ステップS905)までの固定小数点演算では、16ビットのうち下位15ビットを小数点以下の表現に使用する。デジタルフィルタの係数は、実数で表現すると−1.0以上1.0未満であるが、この固定小数点数表現を用いると、コンピュータの中では−215以上215−1以下となる。8ビットのままであれば、符号付の場合、−27以上27−1以下である。フィルタ処理は波形の振幅を小さくするので、8ビット幅のままのデータでは、更に振幅の小さなデータになり、周波数ピーク検出の精度に支障をきたす。そこで、AD変換の振幅範囲を実数で−1.0以上1.0未満とし、CPU558のデータ幅に合わせる。符号付の8ビットデータを符号付の16ビットデータに変換するには、符号付の8ビットデータの最上位ビットと小数点以下7ビットをそのままにして上位8ビットとし、下位8ビットをすべて0とすればよい。要するに、−128〜127の範囲の整数を256倍拡大して、−32768〜32767の範囲の整数に変換して演算を進める。これに対し、図58(b)に示すように、16ビットに拡張しても単に符号拡張するだけで、拡大しなければ効果がない。
FFT処理(ステップS905)は16ビットデータの固定小数点演算により行なった。その理由は、使用するCPU558が32ビットCPUであるため、16bit×16bitの乗算が桁あふれしないようにし、また、浮動小数点数演算装置(FPU)を備えていないので浮動小数点も使用しない方が計算速度の点から望ましいからである。
また、FFT処理(ステップS905)では、スケーリング処理を行なっている。つまり、演算点数を2のN乗個としてFFTを行なった場合、N段のバタフライ演算を行なうことになるが、このときオーバーフローを防ぐためにデータを縮小する。
このように固定小数点の演算では、ビット幅の制限があるためダイナミックレンジが小さくなりやすい。更に、入力データが半分の8ビットであれば、計算誤差の中に異常信号が埋もれてしまい、振動のピークの検出がうまくいかなくなる確率が非常に高くなる。そこで、本形態例では8ビットのデータをあらかじめ16ビットに拡大して演算することにより、検出されるべきピークが消失するのを防いでいる。
この異常診断処理では、周波数分析とそのピーク検出が重要であり、元波形を忠実にサンプリングし復元することは要求されないので、当初のAD変換データが8ビットと少なくても演算時に上記のように拡大することで周波数の特徴は十分捉えることができる。
その一検証例として、鉄道車両用の円錐ころ軸受のはく離検出を試みた結果を、比較例とともに表6に示す。
いずれの異常振動の場合も、16ビットAD変換機から得られる16ビット整数値をそのまま演算に用いた場合は異常の検出に成功した。一方、8ビットAD変換器から得られた8ビット整数値のまま符号拡張のみ行なって演算した場合は異常を検出することができなかった。これに対し、AD変換機から得られた8ビット整数値を符号化後16ビットに拡張することにより実質的にレンジを256倍に拡大して演算を行なった場合は異常の検出に成功した。
上記のように、振動センサ511からのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器(ADC)553からの出力信号をAD変換器(ADC)553の分解能(この例では8ビット)よりもデータ幅を拡張(この例では16ビットに拡張)してフーリエ変換処理し、その結果に基づいて異常診断を行なうことにより、低分解能のAD変換器を使用して回路の低コスト化および省スペース化を図り、且つ精度低下を招くことなく異常診断を行なうことができる。
[第23の形態例]
図59は本発明に係る異常診断装置の第23の形態例の要部ブロック図である。この形態例はAD変換器を備えていないマイコンシステム(マイクロコンピュータ・システム)を使用した例を示しており、振動センサ511からのアナログ信号(波形信号)は増幅器(Amp)571で増幅され、濾波器(LPF)572を通った直後にコンパレータ673を介して診断処理部(MPU)650Bのポート(Port)に入力される。即ち、この形態例では、診断処理部(MPU)650BがAD変換器553を持たない代わりに、センサ信号処理部550Aにコンパレータ673が設けられている。その他の構成は第22の形態例と同じである。
図59は本発明に係る異常診断装置の第23の形態例の要部ブロック図である。この形態例はAD変換器を備えていないマイコンシステム(マイクロコンピュータ・システム)を使用した例を示しており、振動センサ511からのアナログ信号(波形信号)は増幅器(Amp)571で増幅され、濾波器(LPF)572を通った直後にコンパレータ673を介して診断処理部(MPU)650Bのポート(Port)に入力される。即ち、この形態例では、診断処理部(MPU)650BがAD変換器553を持たない代わりに、センサ信号処理部550Aにコンパレータ673が設けられている。その他の構成は第22の形態例と同じである。
コンパレータ673には、雑音の影響を排除するためにヒステリシスコンパレータが使用される。コンパレータ673は、振動センサ511からのアナログ信号(図60(a)上部の波形参照。)の電圧と一定の参照電圧refとを比較して、当該アナログ信号の電圧が参照電圧refよりも高か低かを示す1ビットの信号(図60(a)下部の波形参照。)を出力する。参照電圧refは、例えば振動波形の中心電圧(1.65V)とする。コンパレータ673のサンプリング周波数は32kHzとしている。また、診断処理部(MPU)650Bのポート(Port)に入力されたコンパレータ673からの上記1ビット(2値)の信号は、診断処理部(MPU)650B内でデジタルフィルタ処理され、図60(b)に示される波形の信号となる。
図61は、第23の形態例における診断処理部(MPU)650Bの動作フローを示している。診断処理部(MPU)650Bは、コンパレータ673から信号を受け取る(ステップS910)。診断処理部(MPU)650Bのポートの値は0と1しかとらないが、これはAD変換における符号ビットに相当するので、単純に正負、即ち、0が−1を表し、1が1を表していると考え、符号付16ビットデータに変換する(ステップS920)。符号付16ビット整数で−32768と32767の2値から演算を始める。
次に、FIRデジタルフィルタ処理(ステップS930)を施し、エンベロープ(絶対値化)処理(ステップS940)を施した後、16ビット固定小数点FFT処理(ステップS950)を実施する。そして、FFT処理(ステップS950)の結果から周波数のピークを求める(ステップS960)。また、車軸回転速度と軸受諸元(図45参照。)から軸受欠陥周波数を算出する(ステップS970)。そして、周波数のピークと軸受欠陥周波数との一致度を数値化し(ステップS980)、一定回数の累積値から異常(NG)を判断する(ステップS990)。
車軸軸受530の欠陥周波数としては1kHz以下を対象としているが、軸受部材やセンサケース等から発生する振動には1kHzよりも高い周波数の振動が多く含まれている。振動センサ511により検出される振動の伝播は、これらの部材の振動によって行なわれ、欠陥による低周波の振動周波数はそれら高い周波数の振動(搬送波)を変調すると考えることができる。そこで、この形態例では、コンパレータ673のサンプリング周波数を32kHzと高く設定している。サンプリング周波数を高くすることで、2値のデータでも低い欠陥周波数を回復することができる。その原理はPWM{Pulse Width Modulation(パルス幅変調)}の原理と同じである。FIRローパスフィルタ処理(ステップS930)は、上記搬送波の成分を除き、欠陥周波数の範囲に波形信号を挟帯域化するために実施される。
このように、AD変換器を使用せず、より低コストのコンパレータ673を使用した場合でも、コンパレータ673から出力される2値データを16ビット幅のデータに拡張して演算処理することで、異常信号のピークを検出するのに十分なFFT処理による周波数分析を行なうことができる。
[第24の形態例]
図62は本発明に係る異常診断装置の第24の形態例の要部ブロック図である。第23の形態例と同様、診断処理部(MPU)650BがAD変換器553を持たない代わりに、センサ信号処理部550Aにコンパレータ673が設けられている。第23の形態例では参照電圧refを一定としたが、このの形態例では、振動センサ511からのアナログ信号よりも高い周波数の正弦波を参照電圧refとして用いている。コンパレータ673は、参照電圧refよりも高い周波数で振動センサ511からのアナログ信号をサンプリングしてデジタル化(2値化)する。
図62は本発明に係る異常診断装置の第24の形態例の要部ブロック図である。第23の形態例と同様、診断処理部(MPU)650BがAD変換器553を持たない代わりに、センサ信号処理部550Aにコンパレータ673が設けられている。第23の形態例では参照電圧refを一定としたが、このの形態例では、振動センサ511からのアナログ信号よりも高い周波数の正弦波を参照電圧refとして用いている。コンパレータ673は、参照電圧refよりも高い周波数で振動センサ511からのアナログ信号をサンプリングしてデジタル化(2値化)する。
診断処理部(MPU)650Bは、コンパレータ673からの2値信号をデジタル的にローパスフィルタ処理することで、多ビットのAD変換器の機能をソフトウェア的に実現する。上述の第23形態例は、軸受はく離の特徴周波数のオーダーは高々1kHzであるが、軸受530の軌道輪、転動体あるいは振動センサ511の固有振動による高周波成分が振動波形には重畳されており、診断処理部(MPU)650Bのソフトウェアによりローパスフィルタ処理を施しているので、全体的に見れば、この第24の形態例と同等の処理がなされていることになる。ただし、第23形態例の方が、正弦波発生回路が不要である点においてコスト面で有利であるといえる。
尚、上記形態例では、車軸軸受530の異常診断を行なう場合について説明したが、本発明の異常診断装置は、車輪その他の機械装置の異常診断にも有効に適用可能である。
本発明によれば、異常信号や異常予兆信号と雑音信号とのS/N比が小さい条件下においても、雑音信号を異常あるいは異常予兆信号と誤検出することなく、高精度に異常診断を実施できる。
本発明の異常診断システムによれば、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常診断を高精度に且つ高効率に実施することができる。
本発明によれば、診断対象から検出された信号を、任意の周波数分解能でFFTして高精度に異常診断を実施できる。
本発明の異常診断装置によれば、車両一台あたりに振動センサを1つ設けるのみで、その1つの振動センサからの波形信号を基に、その車両における軸受の剥離、車輪のフラット、等の異常を検出することができるので、異常診断システムを低コストで構築できる。
本発明の異常診断装置によれば、低分解能のAD変換器や単なる比較器を使用して回路の低コスト化および省スペース化を図り、且つ精度低下を招くことなく異常診断を行なうことができる。
Claims (31)
- 機械設備から発生する音または振動を検出し、その検出信号を分析することにより、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、
前記検出信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部と、
当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープを周波数スペクトルに変換するFFT部と、
当該FFT部により得られた周波数スペクトルを移動平均化処理することにより平滑化してそのピークを検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部によって検出された周波数スペクトルのピークに基づいて異常を診断する診断部と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断システム。 - 前記ピーク検出部は、前記FFT部により得られた周波数スペクトルに対して平滑化微分処理を実施し、得られた微分値の符号が変化する周波数ポイントを周波数スペクトルのピークとして抽出する平滑化微分ピーク抽出部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の機械設備の異常診断システム。
- 前記移動平均化処理における重み係数が左右対称であることを特徴とする請求項1または2に記載の機械設備の異常診断システム。
- 前記ピーク検出部は、前記平滑化微分ピーク抽出部により抽出されたピークのうち、閾値以上のものを選別する第1の選別部を備えていることを特徴とする請求項2または3に記載の機械設備の異常診断システム。
- 前記ピーク検出部は、前記第1の選別部により選別されたピークのうち、振幅レベルが大きい方から所定の個数までのピークを選別する第2の選別部を備えていることを特徴とする請求項4に記載の機械設備の異常診断システム。
- 前記診断部は、前記ピーク検出部によって検出されたピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の機械設備の異常診断システム。
- 機械設備から発生する音または振動を検出し、検出した信号を分析することにより、その機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、
前記検出した信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出すフィルタ処理部と、
当該フィルタ処理部により取り出された信号のエンベロープ信号を求めるエンベロープ処理部と、
当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープ信号を間引き処理するデシメーション処理部と、
当該デシメーション処理部により間引き処理した後のエンベロープ信号を周波数解析するFFT演算部と、
当該FFT演算部による解析結果に基づいて異常を診断する診断部と、
を備えた機械設備の異常診断システム。 - 機械設備から発生する音または振動を検出し、検出した信号を分析することにより、その機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、
前記検出した信号を予め必要とされるサンプリング周波数よりも高いサンプリング周波数でサンプリングするサンプリング処理部と、
当該サンプリング処理部によりサンプリングされた信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出すフィルタ処理部と、
当該フィルタ処理部により取り出された信号を間引き処理するデシメーション処理部と、
当該デシメーション処理部により間引き処理された信号のエンベロープ信号を求めるエンベロープ処理部と、
当該エンベロープ処理部により得られたエンベロープ信号を周波数解析するFFT演算部と、
当該FFT演算部による解析結果に基づいて異常を診断する診断部と、
を備えた機械設備の異常診断システム。 - 前記エンベロープ信号の周波数帯域を低帯域化するデジタルフィルタ処理部を更に備えた請求項7または8記載の機械設備の異常診断システム。
- 前記FFT演算部をDSPで実現するとともに、前記FFT演算部に入力するデータ数を当該DSP内のメモリに収容可能なデータ数としたことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の機械設備の異常診断システム。
- 機械設備から発生する音または振動を検出し、その信号を分析することにより、機械設備内の軸受または軸受関連部材の異常を診断する異常診断システムであって、
前記信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、
当該A/D変換部により変換されたデジタル信号から診断に必要な周波数帯域の信号を取り出すデジタルフィルタ処理部と、
当該デジタルフィルタ処理部により取り出された信号のエンベロープを求めるエンベロープ処理部と、
当該エンベロープ処理部により求められたエンベロープを任意の周波数分解能で高速フーリエ変換するべくゼロ詰め補間する補間処理部と、
当該補間処理部によりゼロ詰め補間された信号を高速フーリエ変換するFFT部と、
当該FFT部により得られた周波数スペクトルに基づいて異常を診断する診断部と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常診断システム。 - 前記補間処理部が、前記FFT部におけるサンプリング周波数が2のN乗ヘルツまたは2のN乗の倍数ヘルツになるようにゼロ詰め補間することを特徴とする請求項11に記載した機械設備の異常診断システム。
- 前記FFT部により得られた周波数スペクトルのピークを検出するピーク検出部を更に
備え、
前記診断部が、前記ピーク検出部によって検出されたピークのうち振動の主成分に対応するピークあるいは振動の主成分および高次成分に対応するピークと診断対象の異常を示す周波数との一致度を求め、その一致度の複数回分の累計結果を評価することにより異常を診断することを特徴とする請求項11または請求項12に記載した機械設備の異常診断システム。 - 車両の走行中に異常を診断する異常診断装置であって、
車両の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサが出力する波形信号に基づいて、波高率、衝撃指数、波形率、および尖
り度のうちいずれか1つの無次元パラメータ値を求めるパラメータ値検出回路と、
前記パラメータ値検出回路から出力された無次元パラメータ値が一定の基準を超えたこ
とを示す第1の電圧の信号または前記無次元パラメータ値が一定の基準以下であることを
示す第2の電圧の信号を出力する比較回路と、
を備え、
前記比較回路の出力に基づいて異常を検出するように構成したことを特徴とする異常診
断装置。 - 車両の走行中に異常を診断する異常診断装置であって、
車両の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサが出力する波形信号に基づいて、RMS(2乗平均の平方根)および絶
対値平均のいずれか一方のパラメータ値を求める演算回路と、
前記波形信号のピーク値を求めるピーク検出回路と、
前記パラメータ値の一定倍の値と前記ピーク検出回路から出力されたピーク値とを比較
し、その比較結果に応じて、前記ピーク値と前記パラメータ値との比として求まる無次元
パラメータ値が一定の基準を超えたことを示す第1の電圧の信号または前記無次元パラメ
ータ値が一定の基準以下であることを示す第2の電圧の信号を出力する比較回路と、
を備え、
前記比較回路の出力に基づいて異常を検出するように構成したことを特徴とする異常診
断装置。 - 前記ピーク検出回路から出力されたピーク値と予め設定した参照値とを比較するピーク
−参照値比較回路を更に備え、
前記ピーク−参照値比較回路による比較の結果、前記ピーク値が前記参照値よりも大き
い場合には、前記比較回路の出力を無効にするように構成したことを特徴とする請求項15
に記載の異常診断装置。 - 前記第1の電圧の信号のデューティ比に基づいて異常を検出するように構成したことを
特徴とする請求項15〜請求項16のいずれか一項に記載の異常診断装置。 - 前記振動センサの出力信号のうち所定の帯域の信号のみ前記パラメータ値検出回路およ
び前記ピーク検出回路に入力するためのフィルタ回路を更に備えたことを特徴とする請求
項15〜請求項17のいずれか一項に記載の異常診断装置。 - 前記車両は鉄道車両であることを特徴とする請求項14〜請求項18のいずれか一項に記載
の異常診断装置。 - 振動特性の異なる複数の部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを第1の振動特性の部品診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを第2の振動特性の部品診断用の振動データとして処理することを特徴とする異常診断装置。 - 鉄道車両の車軸軸受および車輪の異常診断装置であって、
車軸軸受および車輪の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理することを特徴とする異常診断装置。 - 前記診断処理部が、車軸軸受の回転速度と振動のエンベロープ波形を処理して得られる周波数ピークとに基づいて車軸軸受の異常を検出し、車輪の回転に同期して生じる振動のレベルが閾値を超える頻度に基づいて車輪の異常を検出し、それぞれの異常の検出結果に基づいて異常診断を行なうことを特徴とする請求項21記載の異常診断装置。
- 前記信号処理手段が、
複数の振動センサの出力信号を1チャネルずつ切換えてサンプリングすることを特徴とする請求項21〜22のいずれか一項記載の異常診断装置。 - 振動センサの出力信号を車輪の回転に同期してサンプリングし加算平均処理して得られる振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なうように構成したことを特徴とする請求項22または23記載の異常診断装置。
- 振動特性の異なる複数の部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつそれを第1の振動特性の部品診断用と第2の振動特性の部品診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理することを特徴とする異常診断装置。 - 鉄道車両の車軸軸受および車輪の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつそれを車軸軸受診断用と車輪診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理することを特徴とする異常診断装置。 - 車軸軸受と車輪それぞれについて複数回異常検出を実施し、それぞれの複数回分の集計値から統計的に異常診断を行なうことを特徴とする請求項22、23、24、26のいずれか一項記載の異常診断装置。
- 異常を検出する際に使用したデータを保存しておく機能を有することを特徴とする請求項20〜27のいずれか一項記載の異常診断装置。
- 回転或いは摺動する部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサからのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
当該AD変換器からのデジタル信号をフーリエ変換処理し、その結果に基づいて異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記AD変換器からのデジタル信号を前記AD変換器の分解能よりもデータ幅を拡張してフーリエ変換処理するように構成されていることを特徴とする異常診断装置。 - 回転或いは摺動する部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサからのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
当該AD変換器からのデジタル信号をフーリエ変換処理し、その結果に基づいて異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記AD変換器の分解能を1ビットとし、これを2ビット以上の所定のデータ幅に拡張してフーリエ変換処理するように構成されていることを特徴とする異常診断装置。 - 回転或いは摺動する部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサからのアナログ信号の電圧と参照電圧とを比較して、当該アナログ信号の電圧が参照電圧よりも高か低かを示す2値の信号を出力するコンパレータを備え、
前記診断処理部が、
前記コンパレータからの信号を所定のデータ幅に拡張してフーリエ変換処理するように構成されていることを特徴とする異常診断装置。
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JP2005251910 | 2005-08-31 | ||
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Publications (1)
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JP (1) | JPWO2006043511A1 (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN108981679A (zh) * | 2017-05-31 | 2018-12-11 | 精工爱普生株式会社 | 电路装置、物理量测量装置、电子设备以及移动体 |
CN114486263A (zh) * | 2022-02-15 | 2022-05-13 | 浙江大学 | 一种旋转机械滚动轴承振动信号降噪解调方法 |
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2005
- 2005-10-17 JP JP2006542972A patent/JPWO2006043511A1/ja not_active Withdrawn
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