JPWO2005079859A1 - 標的指向性運搬体 - Google Patents
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Abstract
本発明は、生体内の標的細胞または組織に選択的に所望の薬物(例えば生理活性ペプチドまたはそれをコードする遺伝子)を輸送しえる標的指向性運搬体を提供する。具体的には、これは、MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチド、またはMAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の薬物を結合させて、該薬物を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体である。さらに、本発明は、上記標的指向性運搬体に、標的組織に輸送するための薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体を提供する。
Description
本発明は、生理活性ペプチドやそれをコードする遺伝子などの目的物質を、標的細胞または組織に、選択的に輸送ないしは結合させるための運搬体に関する。
本発明の標的指向性運搬体は、医学・薬学分野並びに化粧品分野等において、有用物質の生体内デリバリーシステム(例えば、ドラックデリバリーシステム)に利用可能なバイオマテリアルとして有用である。
本発明の標的指向性運搬体は、医学・薬学分野並びに化粧品分野等において、有用物質の生体内デリバリーシステム(例えば、ドラックデリバリーシステム)に利用可能なバイオマテリアルとして有用である。
通常、薬物の治療効果は、その薬物若しくはそれから生じる有用物質が特定の標的部位に到着し、そこで作用することによって有効に発現される。その一方で、薬物が不必要な部位に作用することによって副作用が生じることも知られている。よって、薬物を有効かつ安全に使用するために、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が求められている。
一方、サイトカインや細胞成長因子などの生理活性ペプチドの中には医薬品としての用途が期待されているものが多い(例えば、Journal of Cell Biology,第109巻、第1号、1〜6頁(1989);R.A.F.Clark編、The Molecular and Cellular Biology of Wound Repair、第2版、第6章、237〜248頁(1988);Zieglerら編、Growth Factors and Wound Healing、第3部、第12章、206〜228頁(1997),Springer−Verlag,New Yorkなど参照のこと)。しかしながら、一般的に生理活性ペプチドは生体内での安定性が悪く、局所保持や徐放が困難なために標的組織での効果が低く、他部位での副作用もある。このため、実用化がなかなか進んでいないのが現状であり、効率の良いドラッグデリバリーシステムが切望されている。この問題を解決するために、生理活性ペプチドに生体適合性を有する高分子を融合もしくは混合することにより、生体内での標的指向性もしくは徐放性を確保しようとする試みが数多くなされている。また、生理活性ペプチドを他のペプチドと遺伝子工学的にハイブリッド化し、これを生体内で発現させることにより、生理活性ペプチドのターゲッティングを達成しようとする試みもなされている。
これらに関連する技術として、特開平5−178897号公報には、細胞外マトリックス成分の一つであるフィブロネクチン(FN)の細胞接着ドメイン配列と、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)とをハイブリッド化した機能性ポリペプチドが開示されている。また、細胞外マトリックスを介しての徐放性をねらったものとして、ウシフォンビルブランド由来のコラーゲン結合性デカペプチドとトランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)とのハイブリッドポリペプチドであるコラーゲンターゲッティングTGF−βが報告されている(Tuanら、Connective Tissue Reserch,第34巻、1号、1〜9頁(1996);Hanら、Protein Expression and Purification、第11巻、169〜178頁(1997);Gordonら、Human Gene Therapy、第8巻、1385〜1394頁(1997);米国特許第5800811号公報)。また、西らによって、嫌気性のグラム陽性桿菌であるクロストリジウム ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)のコラゲナーゼ由来のコラーゲン結合性ポリペプチドとbFGFまたは上皮増殖因子(EGF)とのハイブリッドポリペプチドが、コラーゲン結合性細胞増殖因子として提案されている(Nishiら、Proc.Nat.Acad.of Sci,USA、第95巻、7018〜7023頁(1998))。さらに、機能性蛋白質を細胞外マトリックスにターゲッティングする技術として、フィブロネクチン(FN)分子のN末端70kDa領域とC末端37kDa領域との間に異種蛋白質またはペプチドのアミノ酸鎖を挿入してなるキメラ蛋白質の利用も提案されている(特開平8−140677号公報)。
ところで、細胞と細胞外マトリックス(ECM)蛋白質との相互作用は、細胞の生存、増殖、移動や分化において非常に重要である。これらの相互作用は、インテグリンや膜結合型プロテオグリカンのような細胞表面受容体を介して起こり、細胞内にシグナルを伝達する。上皮細胞では、細胞に直接接着しているECM蛋白質は基底膜に存在している。基底膜は、上皮・実質細胞の直下に位置し、主にラミニン(LN)、IV型コラーゲン、ニドゲン、及びパールカンにより構成され、ここにさらに多様なマトリックス分子が編み込まれる(図1参照)。かかるマトリックス分子の中には、組織発生時一過性に、または組織特異的に発現するものがあり、これらは組織特異的な形態形成の決定や器官形成の制御に関わっていると考えられている。
基底膜を構成する蛋白質の一種であるラミニン(LN)は、α、β、γ鎖から成るヘテロ三量体の糖蛋白質である。恒常的に基底膜に存在していることから、ラミニンは組織の恒常性と器官形成の制御に重要な役割を果たすと考えられている。現在までに5つのα鎖、3つのβ鎖、及び3つのγ鎖が同定されており、これらの組み合わせで少なくとも14種類の異なったラミニンアイソフォームが構成されることが示されている(Miner,J.H.,and Patton,B.L.(1999)Int J Biochem Cell Biol 31,811−816)。図2Aに示すように、ラミニンはα鎖のタイプによって大きく5種類に分類される。これは、ラミニンと細胞の相互作用が主にα鎖のC末端領域でおこるからであり、α3β1やα6β1のようなラミニン結合性インテグリンやα−ジストログリカン、シンデカンのような非インテグリン受容体は、ラミニンα鎖のC末端領域にある球状ドメインに結合する(図2B)。また、ラミニンの各α鎖は組織特異的・発生段階特異的な発現を示す。このことから、α鎖の種類に応じて各種ラミニンはそれぞれ組織特異的に発現分布しており、各部位で異なる機能を発揮している(図2A参照)。例えば、α1鎖を有するラミニン(α1鎖ラミニン:α1鎖LN)は発生段階の組織のみで発現しているため、胚性幹細胞の分化とマトリックス会合に必須だと考えられている(Li,S.,Edgar,D.,Fassler,R.,Wadsworth,W.,and Yurchenco,P.D.(2003)Dev Cell 4,613−624;Li,S.,Harrison,D.,Carbonetto,S.,Fassler,R.,Smyth,N.,Edgar,D.,and Yurchenco,P.D.(2002)J Cell Biol 157,1279−1290)。α2鎖を有するラミニン(α2鎖ラミニン:α2鎖LN)は主に骨格筋と心筋で発現しており、筋細胞の生存に必要である(Kuang,W.,Xu,H.,Vachon,P.H.,Liu,L.,Loechel,F.,Wewer,U.M.,and Engvall,E.(1998)J Clin Invest 102,844−852;Miyagoe,Y.,Hanaoka,K.,Nonaka,I.,Hayasaka,M.,Nabeshima,Y.,Arahata,K.,and Takeda,S.(1997)FEBS Lett 415,33−39)。α3鎖を有するラミニン(α3鎖ラミニン:α3鎖LN)は主として表皮下の基底膜に局在し、表皮細胞の生存に必須である(Ryan,M.C.,Lee,K.,Miyashita,Y.,and Carter,W.G.(1999)J Cell Biol 145,1309−1323)。α4鎖を有するラミニン(α4鎖ラミニン:α4鎖LN)は主に血管に局在しており、毛細血管の成熟に必要である(Thyboll,J.,Kortesmaa,J.,Cao,R.,Soininen,R.,Wang,L.,Iivanainen,A.,Sorokin,L.,Risling,M.,Cao,Y.,and Tryggvason,K.(2002)Mol Cell Biol 22,1194−1202)。α5鎖を有するラミニン(α5鎖ラミニン:α5鎖LN)は成体組織でもっとも幅広く発現しており、それを欠損させたマウスは胎盤の脈管構造、神経管の閉鎖、そして腎糸球体の欠失のために胎生致死となる(Miner,J.H.,Cunningham,J.,and Sanes,J.R.(1998)J Cell Biol 143,1713−1723;Miner,J.H.,and Li,C.(2000)Dev Biol 217,278−289)。さらに、最近の報告ではα5鎖LNが毛、肺、そして顎下腺の形態形成にも関わることが示されている(Li,J.,Tzu,J.,Chen,Y.,Zhang,Y.P.,Nguyen,N.T.,Gao,J.,Bradley,M.,Keene,D.R.,Oro,A.E.,Miner,J.H.,and Marinkovich,M.P.(2003)Embo J 22,2400−2410;Nguyen,N.M.,Miner,J.H.,Pierce,R.A.,and Senior,R.M.(2002)Dev Biol 246,231−244;Kadoya,Y.,Mochizuki,M.,Nomizu,M.,Sorokin,L.,and Yamashina,S.(2003)Dev Biol 263,153−164)。
このように、ラミニンの各α鎖が組織特異的・発生段階特異的な発現を示すことは、細胞外環境因子としてのラミニンの役割を考える上で重要である。実際、心臓という一つの器官を取り上げても、それを構成する細胞のタイプの違いによって、基底膜を構築するラミニンのタイプは大きく異なっている。心筋基底膜はα2鎖LNで構築されているが、心筋周囲に張り巡らされている毛細血管基底膜はα4LN鎖で、また、太い血管の基底膜はα5鎖LNで構築されている。このような各ラミニンアイソフォームの細胞特異的な発現の意義は、ノックアウトマウスなどの解析からも次第に明らかにされつつある。図3に示すように、様々なラミニン構成鎖のノックアウトマウスは特異的な表現型を示す(R.Nishiuchi et al.:J.Biochem.,134,497(2003);J.H.Miner,et al.:J Cell Biol 143,1713(1998);B.L.Patton,et al.:Nat Neurosci 4,597(2001);J.Thyboll,et al.:Mol Cell Biol 22,1194(2002))。また皮膚の基底膜ではα3鎖がβ3鎖とγ2鎖とヘテロ三量体(α3β3γ2)を組んだラミニン−5が強く発現しているが、ヒトにおいてα3鎖や他のラミニン−5の構成鎖遺伝子異常は表皮が基底膜から剥離する表皮水疱症をきたす。筋細胞の基底膜に選択的に発現するα2鎖の変異は、ヒトにおいてもマウスにおいても筋ジストロフィーを起こす。一方、多くの細胞・組織に幅広く発現するα5鎖や多くのラミニンに共通して含まれるγ1鎖のノックアウトマウスは胎生致死となる。胎児期に高い発現が見られるα1鎖のノックアウトマウスも同様に胎生致死となり、その発生・器官形成における重要性が窺われる。
このようなラミニン(LN)を始めとして、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカン等は、細胞や組織の種類によらず、どの基底膜でも構成的に発現している基底膜構成蛋白質であるが、最近の研究によって、基底膜には、これら以外にも組織特異的・発生段階特異的に発現する蛋白質が数多く存在することが知られるようになっている。
その一つが、ネフロネクチン(NN)である。ネフロネクチンはインテグリン結合に必要なRGD(Arg−Gly−Asp)配列(細胞接着モチーフ)の他、5つのEGF様繰り返し配列とMAMドメインから構成されている(図4参照のこと。但し、ネフロネクチン(NN)は、ここで示す「NN−FLAG」のうちFLAGタグを除く領域から構成される)。ネフロネクチンは基底膜に局在し、しかもα8β1インテグリンと共在していることから、インテグリンとの結合を介して腎の形成において関わっていることが強く示唆されている。事実、発生中の腎臓において選択的に尿管芽上皮細胞に発現されることが報告されている(Brandenberger,R.,Schmidt,A.,Linton,J.,Wang,D.,Backus,C.,Denda,S.,Muller,U.,and Reichardt,L.F.(2001)J Cell Biol 154,447−458)。また、近年、腎臓以外のさまざまな臓器形成期の基底膜にも発現していることも明らかとなっている(R.Brandenberger,et al.:J Cell Biol 154,447(2001))。
また、組織特異的・発生段階特異的に基底膜に発現する蛋白質として、MAEG(MAM−and EGF−containing gene)蛋白質も知られている。これは、ネフロネクチンと同様にMAMドメインを有するなど、ネフロネクチンと分子構造が非常によく似た蛋白質であり、これもまた限定された局在を示す。MAEGは発達中の毛胞基底膜へ特異的に存在し、その発現は毛胞が成熟するにつれて減少することもわかっている(長田ら、投稿中につき未発表)。
一方、サイトカインや細胞成長因子などの生理活性ペプチドの中には医薬品としての用途が期待されているものが多い(例えば、Journal of Cell Biology,第109巻、第1号、1〜6頁(1989);R.A.F.Clark編、The Molecular and Cellular Biology of Wound Repair、第2版、第6章、237〜248頁(1988);Zieglerら編、Growth Factors and Wound Healing、第3部、第12章、206〜228頁(1997),Springer−Verlag,New Yorkなど参照のこと)。しかしながら、一般的に生理活性ペプチドは生体内での安定性が悪く、局所保持や徐放が困難なために標的組織での効果が低く、他部位での副作用もある。このため、実用化がなかなか進んでいないのが現状であり、効率の良いドラッグデリバリーシステムが切望されている。この問題を解決するために、生理活性ペプチドに生体適合性を有する高分子を融合もしくは混合することにより、生体内での標的指向性もしくは徐放性を確保しようとする試みが数多くなされている。また、生理活性ペプチドを他のペプチドと遺伝子工学的にハイブリッド化し、これを生体内で発現させることにより、生理活性ペプチドのターゲッティングを達成しようとする試みもなされている。
これらに関連する技術として、特開平5−178897号公報には、細胞外マトリックス成分の一つであるフィブロネクチン(FN)の細胞接着ドメイン配列と、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)とをハイブリッド化した機能性ポリペプチドが開示されている。また、細胞外マトリックスを介しての徐放性をねらったものとして、ウシフォンビルブランド由来のコラーゲン結合性デカペプチドとトランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)とのハイブリッドポリペプチドであるコラーゲンターゲッティングTGF−βが報告されている(Tuanら、Connective Tissue Reserch,第34巻、1号、1〜9頁(1996);Hanら、Protein Expression and Purification、第11巻、169〜178頁(1997);Gordonら、Human Gene Therapy、第8巻、1385〜1394頁(1997);米国特許第5800811号公報)。また、西らによって、嫌気性のグラム陽性桿菌であるクロストリジウム ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)のコラゲナーゼ由来のコラーゲン結合性ポリペプチドとbFGFまたは上皮増殖因子(EGF)とのハイブリッドポリペプチドが、コラーゲン結合性細胞増殖因子として提案されている(Nishiら、Proc.Nat.Acad.of Sci,USA、第95巻、7018〜7023頁(1998))。さらに、機能性蛋白質を細胞外マトリックスにターゲッティングする技術として、フィブロネクチン(FN)分子のN末端70kDa領域とC末端37kDa領域との間に異種蛋白質またはペプチドのアミノ酸鎖を挿入してなるキメラ蛋白質の利用も提案されている(特開平8−140677号公報)。
ところで、細胞と細胞外マトリックス(ECM)蛋白質との相互作用は、細胞の生存、増殖、移動や分化において非常に重要である。これらの相互作用は、インテグリンや膜結合型プロテオグリカンのような細胞表面受容体を介して起こり、細胞内にシグナルを伝達する。上皮細胞では、細胞に直接接着しているECM蛋白質は基底膜に存在している。基底膜は、上皮・実質細胞の直下に位置し、主にラミニン(LN)、IV型コラーゲン、ニドゲン、及びパールカンにより構成され、ここにさらに多様なマトリックス分子が編み込まれる(図1参照)。かかるマトリックス分子の中には、組織発生時一過性に、または組織特異的に発現するものがあり、これらは組織特異的な形態形成の決定や器官形成の制御に関わっていると考えられている。
基底膜を構成する蛋白質の一種であるラミニン(LN)は、α、β、γ鎖から成るヘテロ三量体の糖蛋白質である。恒常的に基底膜に存在していることから、ラミニンは組織の恒常性と器官形成の制御に重要な役割を果たすと考えられている。現在までに5つのα鎖、3つのβ鎖、及び3つのγ鎖が同定されており、これらの組み合わせで少なくとも14種類の異なったラミニンアイソフォームが構成されることが示されている(Miner,J.H.,and Patton,B.L.(1999)Int J Biochem Cell Biol 31,811−816)。図2Aに示すように、ラミニンはα鎖のタイプによって大きく5種類に分類される。これは、ラミニンと細胞の相互作用が主にα鎖のC末端領域でおこるからであり、α3β1やα6β1のようなラミニン結合性インテグリンやα−ジストログリカン、シンデカンのような非インテグリン受容体は、ラミニンα鎖のC末端領域にある球状ドメインに結合する(図2B)。また、ラミニンの各α鎖は組織特異的・発生段階特異的な発現を示す。このことから、α鎖の種類に応じて各種ラミニンはそれぞれ組織特異的に発現分布しており、各部位で異なる機能を発揮している(図2A参照)。例えば、α1鎖を有するラミニン(α1鎖ラミニン:α1鎖LN)は発生段階の組織のみで発現しているため、胚性幹細胞の分化とマトリックス会合に必須だと考えられている(Li,S.,Edgar,D.,Fassler,R.,Wadsworth,W.,and Yurchenco,P.D.(2003)Dev Cell 4,613−624;Li,S.,Harrison,D.,Carbonetto,S.,Fassler,R.,Smyth,N.,Edgar,D.,and Yurchenco,P.D.(2002)J Cell Biol 157,1279−1290)。α2鎖を有するラミニン(α2鎖ラミニン:α2鎖LN)は主に骨格筋と心筋で発現しており、筋細胞の生存に必要である(Kuang,W.,Xu,H.,Vachon,P.H.,Liu,L.,Loechel,F.,Wewer,U.M.,and Engvall,E.(1998)J Clin Invest 102,844−852;Miyagoe,Y.,Hanaoka,K.,Nonaka,I.,Hayasaka,M.,Nabeshima,Y.,Arahata,K.,and Takeda,S.(1997)FEBS Lett 415,33−39)。α3鎖を有するラミニン(α3鎖ラミニン:α3鎖LN)は主として表皮下の基底膜に局在し、表皮細胞の生存に必須である(Ryan,M.C.,Lee,K.,Miyashita,Y.,and Carter,W.G.(1999)J Cell Biol 145,1309−1323)。α4鎖を有するラミニン(α4鎖ラミニン:α4鎖LN)は主に血管に局在しており、毛細血管の成熟に必要である(Thyboll,J.,Kortesmaa,J.,Cao,R.,Soininen,R.,Wang,L.,Iivanainen,A.,Sorokin,L.,Risling,M.,Cao,Y.,and Tryggvason,K.(2002)Mol Cell Biol 22,1194−1202)。α5鎖を有するラミニン(α5鎖ラミニン:α5鎖LN)は成体組織でもっとも幅広く発現しており、それを欠損させたマウスは胎盤の脈管構造、神経管の閉鎖、そして腎糸球体の欠失のために胎生致死となる(Miner,J.H.,Cunningham,J.,and Sanes,J.R.(1998)J Cell Biol 143,1713−1723;Miner,J.H.,and Li,C.(2000)Dev Biol 217,278−289)。さらに、最近の報告ではα5鎖LNが毛、肺、そして顎下腺の形態形成にも関わることが示されている(Li,J.,Tzu,J.,Chen,Y.,Zhang,Y.P.,Nguyen,N.T.,Gao,J.,Bradley,M.,Keene,D.R.,Oro,A.E.,Miner,J.H.,and Marinkovich,M.P.(2003)Embo J 22,2400−2410;Nguyen,N.M.,Miner,J.H.,Pierce,R.A.,and Senior,R.M.(2002)Dev Biol 246,231−244;Kadoya,Y.,Mochizuki,M.,Nomizu,M.,Sorokin,L.,and Yamashina,S.(2003)Dev Biol 263,153−164)。
このように、ラミニンの各α鎖が組織特異的・発生段階特異的な発現を示すことは、細胞外環境因子としてのラミニンの役割を考える上で重要である。実際、心臓という一つの器官を取り上げても、それを構成する細胞のタイプの違いによって、基底膜を構築するラミニンのタイプは大きく異なっている。心筋基底膜はα2鎖LNで構築されているが、心筋周囲に張り巡らされている毛細血管基底膜はα4LN鎖で、また、太い血管の基底膜はα5鎖LNで構築されている。このような各ラミニンアイソフォームの細胞特異的な発現の意義は、ノックアウトマウスなどの解析からも次第に明らかにされつつある。図3に示すように、様々なラミニン構成鎖のノックアウトマウスは特異的な表現型を示す(R.Nishiuchi et al.:J.Biochem.,134,497(2003);J.H.Miner,et al.:J Cell Biol 143,1713(1998);B.L.Patton,et al.:Nat Neurosci 4,597(2001);J.Thyboll,et al.:Mol Cell Biol 22,1194(2002))。また皮膚の基底膜ではα3鎖がβ3鎖とγ2鎖とヘテロ三量体(α3β3γ2)を組んだラミニン−5が強く発現しているが、ヒトにおいてα3鎖や他のラミニン−5の構成鎖遺伝子異常は表皮が基底膜から剥離する表皮水疱症をきたす。筋細胞の基底膜に選択的に発現するα2鎖の変異は、ヒトにおいてもマウスにおいても筋ジストロフィーを起こす。一方、多くの細胞・組織に幅広く発現するα5鎖や多くのラミニンに共通して含まれるγ1鎖のノックアウトマウスは胎生致死となる。胎児期に高い発現が見られるα1鎖のノックアウトマウスも同様に胎生致死となり、その発生・器官形成における重要性が窺われる。
このようなラミニン(LN)を始めとして、IV型コラーゲン、ニドゲン及びパールカン等は、細胞や組織の種類によらず、どの基底膜でも構成的に発現している基底膜構成蛋白質であるが、最近の研究によって、基底膜には、これら以外にも組織特異的・発生段階特異的に発現する蛋白質が数多く存在することが知られるようになっている。
その一つが、ネフロネクチン(NN)である。ネフロネクチンはインテグリン結合に必要なRGD(Arg−Gly−Asp)配列(細胞接着モチーフ)の他、5つのEGF様繰り返し配列とMAMドメインから構成されている(図4参照のこと。但し、ネフロネクチン(NN)は、ここで示す「NN−FLAG」のうちFLAGタグを除く領域から構成される)。ネフロネクチンは基底膜に局在し、しかもα8β1インテグリンと共在していることから、インテグリンとの結合を介して腎の形成において関わっていることが強く示唆されている。事実、発生中の腎臓において選択的に尿管芽上皮細胞に発現されることが報告されている(Brandenberger,R.,Schmidt,A.,Linton,J.,Wang,D.,Backus,C.,Denda,S.,Muller,U.,and Reichardt,L.F.(2001)J Cell Biol 154,447−458)。また、近年、腎臓以外のさまざまな臓器形成期の基底膜にも発現していることも明らかとなっている(R.Brandenberger,et al.:J Cell Biol 154,447(2001))。
また、組織特異的・発生段階特異的に基底膜に発現する蛋白質として、MAEG(MAM−and EGF−containing gene)蛋白質も知られている。これは、ネフロネクチンと同様にMAMドメインを有するなど、ネフロネクチンと分子構造が非常によく似た蛋白質であり、これもまた限定された局在を示す。MAEGは発達中の毛胞基底膜へ特異的に存在し、その発現は毛胞が成熟するにつれて減少することもわかっている(長田ら、投稿中につき未発表)。
図1は、基底膜と間質マトリックスの構造を示す模式図である。
図2のAは、ラミニンアイソフォームの種類とその組織特異性を示す表であり、Bはラミニンの構造を示す模式図である。
図3は、ラミニンサブユニット遺伝子ノックアウトマウスの表現径と遺伝性疾患との関係を示す図である。
図4は、組み換えネフロネクチン(NN)とその欠失変異体(NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAG)が有するドメイン構造の概略図である。「NN−FLAG」において、EGF様繰り返し配列とMAMドメインに挟まれた領域がRGDリンカー部位である(「NN−ΔMAM−FLAG」ではEGF様繰り返し配列とFLAGタグに挟まれた領域、また「NN−RGD−FLAG」ではシグナルペプチドとFLAGタグに挟まれた領域が、それぞれRGDリンカー部位である)。なお、図には示していないが、RGDリンカー部位は、多くのO結合型糖鎖で修飾されている。「NN−FLAG」はFLAG付き全長ネフロネクチン、「NN−ΔMAM−FLAG」はMAMドメインを欠失したFLAG付き全長ネフロネクチン、「NN−RGD−FLAG」はFLAG付きRGDリンカー部位、及び「NN−MAM−FLAG」はFLAG付きMAMドメインを示す。
図5は、精製した全長NN−FLAG(図A中、NNと示す)、NN−ΔMAM−FLAG(図A中、ΔMAMと示す)、NN−RGD−FLAG(図B中、RGDと示す)、及びNN−MAM−FLAG(図B中、MAMと示す)の電気泳動像(15%ゲル)を示す。図5のA及びBにおいて、それぞれ右側は電気泳動後CBB(Coomassie Brilliant Blue R−250)染色した結果を、左側は電気泳動後、抗FLAG M2モノクローナル抗体を用いて免疫ブロッティングを行った結果を示す。
図6は、実験例1においてネガティブ染色したネフロネクチン(NN)の電子顕微鏡写真画像図(A,B)及びそれから推定されるNNの分子構造を示す図(C)である。図Aにおいて、三角(▽)印はNNの単量体を指し、矢印はNNの多量体を指し示す。スケールバーは100nmを表す。図Bの左及び右の図は、図Aの三角(▽)印の部分を高倍率にした画像である(スケールバーは100nm)。
図7は、実験例2において、全長NN−FLAG(NN:図A)、NN−ΔMAM−FLAG(ΔMAM:図B)、NN−RGD−FLAG(RGD:図C)、及びNN−MAM−FLAG(MAM:図D)に対するKA8細胞(インテグリンα8鎖を安定に発現する白血病細胞)の接着性及び細胞の伸展を調べた結果を示す図である。
図8は、実験例3において、各種の基底膜蛋白質〔ラミニン(LN−1、LN−2/4、LN−5、LN−8、LN−10/11)、フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)、コラーゲンI型、II型、IV型及びV型〕に対するネフロネクチン(NN−FLAG)の結合性を調べた結果を示す図である。
図9は、NNの結合特異性を、ラミニン(LN−2/4(α2β1/2γ1))とラミニン(LN−10/11(α5β1/2γ1))を用いた免疫共沈降アッセイで調べた結果を示す図である。
図10は、ラミニン(LN−8)、ラミニン(LN−10/11)、及びフィブロネクチン(FN)に対するNNの結合を、それぞれ10mM EDTA、0.5M NaCl、または1μg/mlヘパリン存在下、ならびにこれら非存在下(コントロール)で、固相結合アッセイにより評価した結果を示す図である。
図11は、実験例4において、ネフロネクチン(全長)(NN−FLAG)及びその欠損変異体(NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAG)のラミニン(LN−10/11)に対する結合活性を、固相結合アッセイにより評価した結果を示す図である。
図12は、実験例5において、成体マウス腎臓の基底膜に対する、ネフロネクチン(全長)(NN−FLAG)及びその欠損変異体(NN−MAM−FLAG)の結合を調べた結果を示す図である。図AはNN−FLAGの結果、図BはNN−MAM−FLAGの結果、及び図Cはコントロール(no−probe)である。
図13のAは、GST融合蛋白質(GST−MAEG−MAM)の各種ラミニン(LN−1、LN−2/4、LN−5、LN−8、LN−10/11)に対する結合性をみた結果であり、図BはGST融合蛋白質(GST−NN−MAM)の各種ラミニン(上記と同じ)に対する結合性をみた結果を示す図である(実験例6)。
図14は、実験例7において、全長NN(NN−FLAG)とそのMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)について、それぞれ組換えLN−10(rLN−10)とそのGドメイン欠損変異体(LN−10ΔG)に対する結合活性を調べた結果を示す図である。
図15は、実験例8において、マウスの腎臓組織におけるNN及びLN−α5鎖の局在を、免疫組織化学的染色法によって調べた結果を示す図である(原図はカラー図)。図Aは、抗POEM/nephronectin抗体(抗NN抗体)で免疫染色した結果を、図Bは、抗LN−α5鎖抗血清(抗LN−α5抗体)で免疫染色した結果である。矢印は腎糸球体を示す。
図2のAは、ラミニンアイソフォームの種類とその組織特異性を示す表であり、Bはラミニンの構造を示す模式図である。
図3は、ラミニンサブユニット遺伝子ノックアウトマウスの表現径と遺伝性疾患との関係を示す図である。
図4は、組み換えネフロネクチン(NN)とその欠失変異体(NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAG)が有するドメイン構造の概略図である。「NN−FLAG」において、EGF様繰り返し配列とMAMドメインに挟まれた領域がRGDリンカー部位である(「NN−ΔMAM−FLAG」ではEGF様繰り返し配列とFLAGタグに挟まれた領域、また「NN−RGD−FLAG」ではシグナルペプチドとFLAGタグに挟まれた領域が、それぞれRGDリンカー部位である)。なお、図には示していないが、RGDリンカー部位は、多くのO結合型糖鎖で修飾されている。「NN−FLAG」はFLAG付き全長ネフロネクチン、「NN−ΔMAM−FLAG」はMAMドメインを欠失したFLAG付き全長ネフロネクチン、「NN−RGD−FLAG」はFLAG付きRGDリンカー部位、及び「NN−MAM−FLAG」はFLAG付きMAMドメインを示す。
図5は、精製した全長NN−FLAG(図A中、NNと示す)、NN−ΔMAM−FLAG(図A中、ΔMAMと示す)、NN−RGD−FLAG(図B中、RGDと示す)、及びNN−MAM−FLAG(図B中、MAMと示す)の電気泳動像(15%ゲル)を示す。図5のA及びBにおいて、それぞれ右側は電気泳動後CBB(Coomassie Brilliant Blue R−250)染色した結果を、左側は電気泳動後、抗FLAG M2モノクローナル抗体を用いて免疫ブロッティングを行った結果を示す。
図6は、実験例1においてネガティブ染色したネフロネクチン(NN)の電子顕微鏡写真画像図(A,B)及びそれから推定されるNNの分子構造を示す図(C)である。図Aにおいて、三角(▽)印はNNの単量体を指し、矢印はNNの多量体を指し示す。スケールバーは100nmを表す。図Bの左及び右の図は、図Aの三角(▽)印の部分を高倍率にした画像である(スケールバーは100nm)。
図7は、実験例2において、全長NN−FLAG(NN:図A)、NN−ΔMAM−FLAG(ΔMAM:図B)、NN−RGD−FLAG(RGD:図C)、及びNN−MAM−FLAG(MAM:図D)に対するKA8細胞(インテグリンα8鎖を安定に発現する白血病細胞)の接着性及び細胞の伸展を調べた結果を示す図である。
図8は、実験例3において、各種の基底膜蛋白質〔ラミニン(LN−1、LN−2/4、LN−5、LN−8、LN−10/11)、フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)、コラーゲンI型、II型、IV型及びV型〕に対するネフロネクチン(NN−FLAG)の結合性を調べた結果を示す図である。
図9は、NNの結合特異性を、ラミニン(LN−2/4(α2β1/2γ1))とラミニン(LN−10/11(α5β1/2γ1))を用いた免疫共沈降アッセイで調べた結果を示す図である。
図10は、ラミニン(LN−8)、ラミニン(LN−10/11)、及びフィブロネクチン(FN)に対するNNの結合を、それぞれ10mM EDTA、0.5M NaCl、または1μg/mlヘパリン存在下、ならびにこれら非存在下(コントロール)で、固相結合アッセイにより評価した結果を示す図である。
図11は、実験例4において、ネフロネクチン(全長)(NN−FLAG)及びその欠損変異体(NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAG)のラミニン(LN−10/11)に対する結合活性を、固相結合アッセイにより評価した結果を示す図である。
図12は、実験例5において、成体マウス腎臓の基底膜に対する、ネフロネクチン(全長)(NN−FLAG)及びその欠損変異体(NN−MAM−FLAG)の結合を調べた結果を示す図である。図AはNN−FLAGの結果、図BはNN−MAM−FLAGの結果、及び図Cはコントロール(no−probe)である。
図13のAは、GST融合蛋白質(GST−MAEG−MAM)の各種ラミニン(LN−1、LN−2/4、LN−5、LN−8、LN−10/11)に対する結合性をみた結果であり、図BはGST融合蛋白質(GST−NN−MAM)の各種ラミニン(上記と同じ)に対する結合性をみた結果を示す図である(実験例6)。
図14は、実験例7において、全長NN(NN−FLAG)とそのMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)について、それぞれ組換えLN−10(rLN−10)とそのGドメイン欠損変異体(LN−10ΔG)に対する結合活性を調べた結果を示す図である。
図15は、実験例8において、マウスの腎臓組織におけるNN及びLN−α5鎖の局在を、免疫組織化学的染色法によって調べた結果を示す図である(原図はカラー図)。図Aは、抗POEM/nephronectin抗体(抗NN抗体)で免疫染色した結果を、図Bは、抗LN−α5鎖抗血清(抗LN−α5抗体)で免疫染色した結果である。矢印は腎糸球体を示す。
本発明は、各種組織に特異的に存在する基底膜蛋白質に対して特異的な結合活性を有するポリペプチドまたはそれをコードする遺伝子から構成される運搬体であって、生体内の標的細胞または組織に選択的に所望の薬物(例えば生理活性ペプチドまたはそれをコードする遺伝子)を輸送しえる標的指向性運搬体を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は各種組織に特異的に存在する各種ラミニンに対して選択的結合性を有し、その特性に基づいてラミニンを発現する標的細胞または組織に、選択的に目的物質を輸送ないしは結合させることのできる、組織指向性を備えた運搬体(標的指向性運搬体)を提供することを目的とする。
かかる標的指向性運搬体に、所望の薬物(例えば生理活性ペプチドまたはそれをコードする遺伝子)を結合させて、薬物を運搬体との複合体(例えば、生理活性ペプチド複合体または生理活性ペプチド遺伝子複合体)として調製することにより、組織特異的なドラッグデリバリー、並びにターゲッティング療法が可能となる。よって、本発明はかかるシステムを提供することも目的とする。
本発明者らは、鋭意研究を進める中で、前述するネフロネクチン(NN)が、基底膜構成蛋白質の各種ラミニンのうち、LN−10/11(α5β1/2γ1)とLN−8(α4β1γ1)には選択特異的に結合するものの、LN−10/11及びLN−8と同じβ鎖とγ鎖を有するLN−2/4(α2β1/2γ1)には結合しないことから、ネフロネクチン(NN)がラミニンのα5鎖またはα4鎖を特異的に認識して結合することを見いだした(後述する実験例3、図8参照)。さらに、本発明者らは、ネフロネクチンとこれらのラミニンアイソフォームとの結合は、ネフロネクチンのMAMドメインを欠失させることによって消失することから、ネフロネクチンのMAMドメインを介して行われることを見出した(後述する実験例4、図11参照)。さらに、本発明者らは、ネフロネクチン(NN)と類似の構造を有するMAEG蛋白質は、そのMAMドメインを介して、ラミニン(LN−5(α3β3γ2))と選択特異的に結合することを見いだした(後述する実験例5、図12参照)。
前述するように、ラミニンはそれが有するα鎖に応じてそれぞれ異なる組織や部位に発現し局在していることが知られている。具体的には、ネフロネクチン(NN)及びそのMAMドメインが選択的結合性を示す、LN−8(α4鎖を有する)は、血管の中でも毛細血管や新生血管に特異的に局在しており、LN−10及びLN−11(α5鎖を有する)は、血管の中でも太い血管(大血管)、腎臓、肺及び膵臓組織に特異的に局在している。またMAEG蛋白質及びそのMAMドメインが選択的結合性を示す、LN−5(α3鎖を有する)は、皮膚(表皮)、毛包及び肺組織に特異的に局在している。
これらの知見から、本発明者らは、ネフロネクチンまたはそのMAMドメイン、並びにMAEG蛋白質またはそのMAMドメインが、その特異的ラミニン結合性に基づいて組織特異的に標的指向性を発揮し(後述する実験例7参照)、これにより当該標的部位に有用な薬物(例えば、生理活性ペプチドまたはその遺伝子など)を輸送する運搬体として利用できる可能性を見いだした。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は下記の態様を包含するものである;
項1. MAMドメイン(meprin,5A protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain)もしくはそれを一部に有するポリペプチド、またはMAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の物質を結合させて、該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体。
項2. MAMドメインが、(a)または(b)のアミノ酸配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(a)配列番号1に示される、ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列、
(b)上記ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列。
項3. 上記(b)が、配列番号1に示されるネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列と、少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列である、項2記載の標的指向性運搬体。
項4. 上記(b)が、ヒト由来ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列である、項2または3記載の標的指向性運搬体。
項5. 上記(b)が、配列番号37に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である、項2乃至4のいずれかに記載の標的指向性運搬体。
項6. MAMドメインを有するポリペプチドが、(c)または(d)のアミノ酸配列を有するものである請求項1記載の標的指向性運搬体;
(c)配列番号17または19に示される、ネフロネクチンのアミノ酸配列、
(d)上記ネフロネクチンのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列。
項7. 上記(d)が、配列番号17または19に示されるネフロネクチンのアミノ酸配列と、少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列である、項6記載の標的指向性運搬体。
項8. 上記(d)が、ヒト由来ネフロネクチンのアミノ酸配列である、項6または7記載の標的指向性運搬体。
項9. 上記(d)が、配列番号53に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である、項6乃至8のいずれかに記載の標的指向性運搬体。
項10. MAMドメインをコードする遺伝子を有する核酸が、(A)または(B)の塩基配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(A)配列番号2に示される、ネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列、
(b)上記塩基配列に対して、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の同一性を有する塩基配列であって、かつ当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列がラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するもの。
項11. 上記(B)が、ヒト由来ネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列である、項10記載の標的指向性運搬体。
項12. 上記(B)が、配列番号38に示される塩基配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列である、項10または11に記載の標的指向性運搬体。
項13. MAMドメインをコードする遺伝子を有する核酸が、(C)または(D)の塩基配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(C)配列番号18または20に示される、ネフロネクチンをコードする遺伝子の塩基配列、
(D)上記塩基配列に対して、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同一性を有する塩基配列であって、かつ当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列がラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するもの。
項14. 上記(D)が、ヒト由来ネフロネクチンをコードする遺伝子の塩基配列である、項13記載の標的指向性運搬体。
項15. 上記(D)が、配列番号54に示される塩基配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列である、項13または14に記載の標的指向性運搬体。
項16. 腎臓、新生血管、肺、膵臓、または大血管に対して指向性を有することを特徴とする項2乃至15のいずれかに記載する標的指向性運搬体。
項17. MAMドメインが、(e)または(f)のアミノ酸配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(e)配列番号3に示される、MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列、
(f)上記MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列。
項18. 上記(f)が、配列番号3に示されるMAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列と、少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列である、項17記載の標的指向性運搬体。
項19. 上記(f)が、ヒト由来MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列である、項17または18記載の標的指向性運搬体。
項20. 上記(f)が、配列番号39に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である、項17乃至19のいずれかに記載の標的指向性運搬体。
項21. MAMドメインを有するポリペプチドが、(g)または(h)のアミノ酸配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(g)配列番号21に示される、MAEG蛋白質のアミノ酸配列、
(h)上記MAEG蛋白質のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列。
項22. 上記(h)が、配列番号21に示されるMAEG蛋白質のアミノ酸配列と、少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列である、項21記載の標的指向性運搬体。
項23. 上記(h)が、ヒト由来MAEG蛋白質のアミノ酸配列である、項21または22記載の標的指向性運搬体。
項24. 上記(h)が、配列番号55に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である、項21乃至23のいずれかに記載の標的指向性運搬体。
項25. MAMドメインをコードする遺伝子を有する核酸が、(E)または(F)の塩基配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(E)配列番号4に示される、MAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列、
(F)上記塩基配列に対して、75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上の同一性を有する塩基配列であって、かつ当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列がラミニンのα3鎖に結合性を有するもの。
項26. 上記(F)が、ヒト由来MAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列である、項25記載の標的指向性運搬体。
項27. 上記(F)が、配列番号40に示される塩基配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列である、項25または26に記載の標的指向性運搬体。
項28. MAMドメインをコードする遺伝子を有する核酸が、(G)または(H)の塩基配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(G)配列番号22に示される、MAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列、
(H)上記塩基配列に対して、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同一性を有する塩基配列であって、かつ当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列がラミニンのα3鎖に結合性を有するもの。
項29. 上記(H)が、ヒト由来MAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列である、項28記載の標的指向性運搬体。
項30. 上記(H)が、配列番号56に示される塩基配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列である、項28または29に記載の標的指向性運搬体。
項31. 毛包、皮膚(表皮)、または肺に対して指向性を有することを特徴とする請求項17乃至30のいずれかに記載する標的指向性運搬体。
項32. 発現ベクターの形態を有する、項1乃至31のいずれかに記載する標的指向性運搬体。
項33. 項1乃至31のいずれかに記載の標的指向性運搬体に、標的組織に輸送するための薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体。
項34. 標的指向性薬物複合体が、ペプチドまたはタンパクからなる薬物を結合してなるポリペプチド形態を有するか、または核酸(遺伝子を含む)からなる薬物を結合してなるポリヌクレオチド形態を有するものである、請求項33に記載する標的指向性薬物複合体。
項35. 項33または34に記載する標的指向性薬物複合体を有効成分として含む医薬組成物。
項36. 標的指向性薬物として、項33または34に記載する標的指向性薬物複合体を用いることを特徴とする、ドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法。
項37. MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチド、またはMAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸の、所望の物質を結合させて該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体の調製のための使用。
項38. 項1乃至項32のいずれかに記載の標的指向性運搬体の、標的組織に輸送するための薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体の調製のための使用。
項39. 項1乃至項32のいずれかに記載の標的指向性運搬体に薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体の、標的組織や細胞に局所的に薬物を輸送して治療するドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法における使用。
かかる標的指向性運搬体に、所望の薬物(例えば生理活性ペプチドまたはそれをコードする遺伝子)を結合させて、薬物を運搬体との複合体(例えば、生理活性ペプチド複合体または生理活性ペプチド遺伝子複合体)として調製することにより、組織特異的なドラッグデリバリー、並びにターゲッティング療法が可能となる。よって、本発明はかかるシステムを提供することも目的とする。
本発明者らは、鋭意研究を進める中で、前述するネフロネクチン(NN)が、基底膜構成蛋白質の各種ラミニンのうち、LN−10/11(α5β1/2γ1)とLN−8(α4β1γ1)には選択特異的に結合するものの、LN−10/11及びLN−8と同じβ鎖とγ鎖を有するLN−2/4(α2β1/2γ1)には結合しないことから、ネフロネクチン(NN)がラミニンのα5鎖またはα4鎖を特異的に認識して結合することを見いだした(後述する実験例3、図8参照)。さらに、本発明者らは、ネフロネクチンとこれらのラミニンアイソフォームとの結合は、ネフロネクチンのMAMドメインを欠失させることによって消失することから、ネフロネクチンのMAMドメインを介して行われることを見出した(後述する実験例4、図11参照)。さらに、本発明者らは、ネフロネクチン(NN)と類似の構造を有するMAEG蛋白質は、そのMAMドメインを介して、ラミニン(LN−5(α3β3γ2))と選択特異的に結合することを見いだした(後述する実験例5、図12参照)。
前述するように、ラミニンはそれが有するα鎖に応じてそれぞれ異なる組織や部位に発現し局在していることが知られている。具体的には、ネフロネクチン(NN)及びそのMAMドメインが選択的結合性を示す、LN−8(α4鎖を有する)は、血管の中でも毛細血管や新生血管に特異的に局在しており、LN−10及びLN−11(α5鎖を有する)は、血管の中でも太い血管(大血管)、腎臓、肺及び膵臓組織に特異的に局在している。またMAEG蛋白質及びそのMAMドメインが選択的結合性を示す、LN−5(α3鎖を有する)は、皮膚(表皮)、毛包及び肺組織に特異的に局在している。
これらの知見から、本発明者らは、ネフロネクチンまたはそのMAMドメイン、並びにMAEG蛋白質またはそのMAMドメインが、その特異的ラミニン結合性に基づいて組織特異的に標的指向性を発揮し(後述する実験例7参照)、これにより当該標的部位に有用な薬物(例えば、生理活性ペプチドまたはその遺伝子など)を輸送する運搬体として利用できる可能性を見いだした。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は下記の態様を包含するものである;
項1. MAMドメイン(meprin,5A protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain)もしくはそれを一部に有するポリペプチド、またはMAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の物質を結合させて、該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体。
項2. MAMドメインが、(a)または(b)のアミノ酸配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(a)配列番号1に示される、ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列、
(b)上記ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列。
項3. 上記(b)が、配列番号1に示されるネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列と、少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列である、項2記載の標的指向性運搬体。
項4. 上記(b)が、ヒト由来ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列である、項2または3記載の標的指向性運搬体。
項5. 上記(b)が、配列番号37に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である、項2乃至4のいずれかに記載の標的指向性運搬体。
項6. MAMドメインを有するポリペプチドが、(c)または(d)のアミノ酸配列を有するものである請求項1記載の標的指向性運搬体;
(c)配列番号17または19に示される、ネフロネクチンのアミノ酸配列、
(d)上記ネフロネクチンのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列。
項7. 上記(d)が、配列番号17または19に示されるネフロネクチンのアミノ酸配列と、少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列である、項6記載の標的指向性運搬体。
項8. 上記(d)が、ヒト由来ネフロネクチンのアミノ酸配列である、項6または7記載の標的指向性運搬体。
項9. 上記(d)が、配列番号53に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である、項6乃至8のいずれかに記載の標的指向性運搬体。
項10. MAMドメインをコードする遺伝子を有する核酸が、(A)または(B)の塩基配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(A)配列番号2に示される、ネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列、
(b)上記塩基配列に対して、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の同一性を有する塩基配列であって、かつ当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列がラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するもの。
項11. 上記(B)が、ヒト由来ネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列である、項10記載の標的指向性運搬体。
項12. 上記(B)が、配列番号38に示される塩基配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列である、項10または11に記載の標的指向性運搬体。
項13. MAMドメインをコードする遺伝子を有する核酸が、(C)または(D)の塩基配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(C)配列番号18または20に示される、ネフロネクチンをコードする遺伝子の塩基配列、
(D)上記塩基配列に対して、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同一性を有する塩基配列であって、かつ当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列がラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するもの。
項14. 上記(D)が、ヒト由来ネフロネクチンをコードする遺伝子の塩基配列である、項13記載の標的指向性運搬体。
項15. 上記(D)が、配列番号54に示される塩基配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列である、項13または14に記載の標的指向性運搬体。
項16. 腎臓、新生血管、肺、膵臓、または大血管に対して指向性を有することを特徴とする項2乃至15のいずれかに記載する標的指向性運搬体。
項17. MAMドメインが、(e)または(f)のアミノ酸配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(e)配列番号3に示される、MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列、
(f)上記MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列。
項18. 上記(f)が、配列番号3に示されるMAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列と、少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列である、項17記載の標的指向性運搬体。
項19. 上記(f)が、ヒト由来MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列である、項17または18記載の標的指向性運搬体。
項20. 上記(f)が、配列番号39に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である、項17乃至19のいずれかに記載の標的指向性運搬体。
項21. MAMドメインを有するポリペプチドが、(g)または(h)のアミノ酸配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(g)配列番号21に示される、MAEG蛋白質のアミノ酸配列、
(h)上記MAEG蛋白質のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列。
項22. 上記(h)が、配列番号21に示されるMAEG蛋白質のアミノ酸配列と、少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列である、項21記載の標的指向性運搬体。
項23. 上記(h)が、ヒト由来MAEG蛋白質のアミノ酸配列である、項21または22記載の標的指向性運搬体。
項24. 上記(h)が、配列番号55に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である、項21乃至23のいずれかに記載の標的指向性運搬体。
項25. MAMドメインをコードする遺伝子を有する核酸が、(E)または(F)の塩基配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(E)配列番号4に示される、MAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列、
(F)上記塩基配列に対して、75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上の同一性を有する塩基配列であって、かつ当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列がラミニンのα3鎖に結合性を有するもの。
項26. 上記(F)が、ヒト由来MAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列である、項25記載の標的指向性運搬体。
項27. 上記(F)が、配列番号40に示される塩基配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列である、項25または26に記載の標的指向性運搬体。
項28. MAMドメインをコードする遺伝子を有する核酸が、(G)または(H)の塩基配列を有するものである項1記載の標的指向性運搬体;
(G)配列番号22に示される、MAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列、
(H)上記塩基配列に対して、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同一性を有する塩基配列であって、かつ当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列がラミニンのα3鎖に結合性を有するもの。
項29. 上記(H)が、ヒト由来MAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列である、項28記載の標的指向性運搬体。
項30. 上記(H)が、配列番号56に示される塩基配列であるか、またはそれと少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列である、項28または29に記載の標的指向性運搬体。
項31. 毛包、皮膚(表皮)、または肺に対して指向性を有することを特徴とする請求項17乃至30のいずれかに記載する標的指向性運搬体。
項32. 発現ベクターの形態を有する、項1乃至31のいずれかに記載する標的指向性運搬体。
項33. 項1乃至31のいずれかに記載の標的指向性運搬体に、標的組織に輸送するための薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体。
項34. 標的指向性薬物複合体が、ペプチドまたはタンパクからなる薬物を結合してなるポリペプチド形態を有するか、または核酸(遺伝子を含む)からなる薬物を結合してなるポリヌクレオチド形態を有するものである、請求項33に記載する標的指向性薬物複合体。
項35. 項33または34に記載する標的指向性薬物複合体を有効成分として含む医薬組成物。
項36. 標的指向性薬物として、項33または34に記載する標的指向性薬物複合体を用いることを特徴とする、ドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法。
項37. MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチド、またはMAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸の、所望の物質を結合させて該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体の調製のための使用。
項38. 項1乃至項32のいずれかに記載の標的指向性運搬体の、標的組織に輸送するための薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体の調製のための使用。
項39. 項1乃至項32のいずれかに記載の標的指向性運搬体に薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体の、標的組織や細胞に局所的に薬物を輸送して治療するドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法における使用。
(1)標的指向性運搬体
前述するように、ラミニンは、そのα鎖に基づいて組織特異的・発生段階特異的な発現を示す基底膜主要構成蛋白質である。
本発明は、こうした組織特異的に発現するラミニンのα鎖を選択的に認識して特異的に結合する特性を有し、それがゆえに標的の組織に対して指向性を有する標的指向性運搬体を提供するものである。
具体的には、本発明の標的指向性運搬体には、MAMドメインまたはそれを一部に有するポリペプチドであって、所望の薬物を結合させて、該薬物を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体が含まれる。
ここでMAMドメインとは、「meprin,A5 protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain(メプリン、A5蛋白質、受容体型蛋白質チロシン脱リン酸化酵素ミュードメイン)」の略である。ネフロネクチン(nephronectin)、MAEG蛋白質(ヒトについては「Genomics 62,p.304−307,1999」、マウスについては「Genomics 65,p.1623,2000」)、メプリン(meprin)α及びメプリンβ(The Journal of Biochemistry,Vol.276,No.25,p.23207−23211,2001)、ニューロピリン(neuropilin)1及びニューロピリン2(Neuron,Vol.21,p.1283−1290,1998)、RPTP(受容体型蛋白質チロシン脱リン酸化酵素:Receptor Protein−Tyrosine Phosphatase)κ及びRPTPμ(The Journal of Biological Chemistry p.14247−14250,1995)などは、いずれも共通してMAMドメインを有する蛋白質である(Beckmann,G.,and Bork,P.;Trends in Biochemical Science Vol.18,1993,p.40−41)。なお、MAMドメインは、メプリン、ニューロピリン(A5 proteinとニューロピリンは同義である)、RPTPμなどについて、MAMドメイン間での相互作用、及び二量体や多量体形成に必要といわれているものの、詳細な機能については知られていない。
ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号1;MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号3;メプリンαのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号5;メプリンβのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号7;ニューロピリン1のMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号9:ニューロピリン2のMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号11:RPTPκのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号13:RPTPμのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号15に示す。ここに記載するMAMドメインのアミノ酸配列はその一例であるマウスに由来するものであるが、他の例としては、上記配列が由来する生物種に類似もしくは近似する種(例えば、哺乳類に属する種、好ましくはヒト)に由来する、各種蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列を挙げることができる。
例えば、上記マウス由来の各種MAMドメインのアミノ酸配列と、ヒト由来の各種MAMドメインのアミノ酸配列との関係を示すと、下表の通りである。なお、ここでアミノ酸配列の同一性(相同性)は、ゼネティックス社製遺伝子解析ソフトのGENETIX−Mac ver.12.2.4の、homology search engineに基づくものである〔以下に述べるアミノ酸配列、並びに塩基配列の同一性(相同性)においても同じ。〕。
MAMドメインとして、好ましくはネフロネクチンのMAMドメイン及びMAEG蛋白質のMAMドメインを挙げることができる。
マウスに由来するネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号1に示す。但し、本発明の標的指向性運搬体が有するMAMドメインは、これに限定されることなく、例えば当該MAMドメインのアミノ酸配列と相同性を有する同等物であってもよい。かかる同等物としては、上記配列番号1のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、アミノ酸配列が配列番号1に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するネフロネクチンのMAMドメインを挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のネフロネクチンのMAMドメインである。ヒト由来のネフロネクチンのMAMドメインとしては、配列番号1(マウス由来のネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列)に対して90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。上記の表に示すヒト由来のネフロネクチンのMAMドメイン(配列番号37)はその一例である。
なお、ラミニンのα4鎖またはα5鎖に対する結合性は、後述する実験例3(1)に記載する固相結合アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)または実験例3(2)に記載する免疫共沈降アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)など、当業者に公知の方法を用いて評価することができる。
マウスに由来するMAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号3に示す。上記と同様、本発明の標的指向性運搬体が有するMAMドメインは、これに限定されることなく、例えば当該MAMドメインのアミノ酸配列と相同性を有する同等物であってもよい。かかる同等物としては、上記配列番号3のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、アミノ酸配列が配列番号3に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するMAEG蛋白質のMAMドメインを挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメインである。ヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメインとしては、配列番号3(マウス由来のMAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列)に対して80%以上、好ましくは85%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。具体的には上記表に示すヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメイン(配列番号39)を挙げることができる。
なお、ラミニンのα3鎖に対する結合性は、後述する実験例3(1)に記載する固相結合アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)または実験例3(2)に記載する免疫共沈降アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)など、当業者に公知の方法を用いて評価することができる。
また本発明の標的指向性運搬体は、MAMドメインを一部に有するポリペプチドからなるものであってもよい。かかるものとしては、本発明の効果を損なわないことを限度として、MAMドメインを一部に含むポリペプチドを広く例示することができるが、具体的には、ネフロネクチンの全長蛋白質、ネフロネクチンのMAMドメインとRGDリンカー部位との結合体、ネフロネクチンのMAMドメインとEGFドメインまたはその繰り返し配列との結合体、MAEG蛋白質、メプリンα、メプリンβ、ニューロピリン1、ニューロピリン2、RPTPκ、及びRPTPμなどを例示することができる。
なお、ヒトに由来するネフロネクチン相当物の配列は、「Journal of Biological Chemistry,Vol.276,No.45,pp.42172−42181,2001」に、MAEG蛋白質(ヒトではEGFL6とも称される)の配列は「NM_015507」に、メプリンαの配列は「NM_005588(Genbank accesion Number、以下同じ)」に、メプリンβの配列は「NM_005925」に、ニューロピリン1の配列は「NM_003873」に、ニューロピリン2の配列は「AF281074」に、及びRPTPκの配列は「Z70660」に,RPTPμの配列は「NM_002845」に、それぞれ記載されている。
MAMドメインを一部に有するポリペプチドとして、好ましくはネフロネクチン(全長)、及びMAEG蛋白質を挙げることができる。
マウス由来のネフロネクチンには、選択的スプライシングによって561アミノ酸からなるshort formと609アミノ酸からなるlong formとが存在することが知られている(The Journal of Cell Biology,Vol.154,No.2,2001,447−458)。short formのネフロネクチン(マウス)のアミノ酸配列を配列番号17に、long formのネフロネクチン(マウス)のアミノ酸配列を配列番号19にそれぞれ示す。なお、short formのネフロネクチン(マウス)は、その420〜561アミノ酸領域に「MAMドメイン」を有しており〔N末端から順に、「シグナルペプチド」(1−19aa)、「EGF繰り返し配列」(「EGF様ドメイン1」(57−88aa)、「EGF様ドメイン2」(89−127aa)、「EGF様ドメイン3」(128−168aa)、「EGF様ドメイン4」(169−212aa)、「EGF様ドメイン5」(213−253aa))、「RGDリンカー部位」(254−419aa)、及び「MAMドメイン」(420−561aa)から構成される〕、long formのネフロネクチン(マウス)は、その468〜609アミノ酸領域に「MAMドメイン」を有している〔N末端から順に、「シグナルペプチド」(1−19aa)、「alternative splicing region 1」(59−75aa)、「EGF様ドメイン1」(76−105aa)、「alternative splicing region 2」(106−136aa)、「EGF様ドメイン2」(137−175aa)、「EGF様ドメイン3」(176−215aa)、「EGF様ドメイン4」(216−260aa)、「EGF様ドメイン5」(261−301aa)、「RGDリンカー部位」(302−467aa)、及び「MAMドメイン」(468−609aa)から構成される〕。
ただし、本発明の標的指向性運搬体が有するポリペプチドは、これに限定されることなく、例えば当該マウス由来のネフロネクチンのアミノ酸配列と相同性を有する同等物であってもよい。かかる同等物としては、上記マウス由来のネフロネクチンのアミノ酸配列を示す配列番号17(short form)または配列番号19(long form)において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、アミノ酸配列が配列番号17または19に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するネフロネクチンを挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のネフロネクチンである。ヒト由来のネフロネクチンとしては、配列番号17〔マウス由来のネフロネクチン(short form)のアミノ酸配列〕に対して75%以上、好ましくは80%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。配列番号53に示すアミノ酸配列は、現在報告されているヒト由来のネフロネクチンのアミノ酸配列である。当該ネフロネクチンは、マウス由来のネフロネクチン(配列番号17:short form)に対して、80%以上(詳細には82.6%)の同一性を有している。このヒト由来のネフロネクチンは、その391〜509アミノ酸領域に「MAMドメイン」を有しており、N末端から順に「シグナルペプチド」(1−19aa)、「EGF繰り返し配列」(「EGF様ドメイン1」(57−88aa)、「EGF様ドメイン2」(89−127aa)、「EGF様ドメイン3」(128−168aa)、「EGF様ドメイン4」(169−212aa)、「EGF様ドメイン5」(213−253aa))、「RGDリンカー部位」(254−390aa)、及び「MAMドメイン」(391−509aa)から構成されている。但し、本発明が対象とするヒト由来のネフロネクチンはこれに限定されず、前述するように、配列番号17に対して75%以上、好ましくは80%以上の同一性を有するヒト由来ネフロネクチンであればよい。
マウス由来のMAEG蛋白質のアミノ酸配列を配列番号21に示す。当該MAEG蛋白質は550アミノ酸から構成され、その395〜550アミノ酸領域にMAMドメインを有している。上記と同様、本発明の標的指向性運搬体が有するポリペプチドは、これに限定されることなく、例えば当該MAEG蛋白質のアミノ酸配列と相同性を有する同等物であってもよい。かかる同等物としては、上記配列番号21のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、アミノ酸配列が配列番号21に対して65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するMAEG蛋白質を挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のMAEG蛋白質である。ヒト由来のMAEG蛋白質としては、配列番号21〔マウス由来のMAEG蛋白質のアミノ酸配列〕に対して70%以上、好ましくは75%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。現在報告されているヒト由来のMAEG蛋白質のアミノ酸配列を配列番号55に示すが、当該MAEG蛋白質は、配列番号21で示されるマウス由来のMAEG蛋白質に対して、約75%以上(詳細には77.6%)の同一性を有している。
以上のペプチド又はポリペプチドの形態を有する標的指向性運搬体によって、標的細胞または組織に運搬することのできる目的物質としては、アミノ酸、ポリアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、及び蛋白質等の形態を有するものを挙げることができる。
また本発明の標的指向性運搬体は、上記ポリペプチドの形態を有するもの以外に、核酸の形態を有するものであってもよい。すなわち、本発明の標的指向性運搬体には、MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の薬物を結合させて、該薬物を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体が含まれる。
MAMドメインをコードする遺伝子としては、ネフロネクチン、MAEG蛋白質、メプリンα、メプリンβ、ニューロピリン1、ニューロピリン2、RPTPκ、またはRPTPμなどの各種蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。マウス由来のネフロネクチンのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号2;MAEG蛋白質のMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号4;メプリンαのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号6;メプリンβのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号8;ニューロピリン1のMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号10:ニューロピリン2のMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号12:RPTPκのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号14:RPTPμのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号16に記載の通りである。なお、これらに限定されることなく、本発明が対象とする核酸には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来する上記各種蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子が含まれる。より好ましくはヒト由来する上記各種蛋白質のMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子である。
例えば、上記マウス由来の各種MAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列と、ヒト由来の各種MAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列との関係は、下表の通りである。
MAMドメインをコードする遺伝子として、好ましくはネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子及びMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。
マウスのネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号2に示すが、本発明の標的指向性運搬体(核酸)が有する遺伝子は、これに限定されることなく、例えば当該MAMドメイン遺伝子の塩基配列と相同性を有する機能同等物であってもよい。かかる機能同等物としては、上記配列番号2の塩基配列の相補的配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイスする塩基配列を有し、かつその発現産物(ポリペプチド)がラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、塩基配列が配列番号2に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。好ましくはヒトに由来するネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。ヒト由来のネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子としては、配列番号2(マウス由来のネフロネクチンのMAMドメインをコードする塩基配列)に対して85%以上、好ましくは90%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。上記の表に示すヒト由来のネフロネクチンのMAMドメインの遺伝子をコードする塩基配列(配列番号38)はその一例である。
マウス由来のMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号4に示すが、本発明の標的指向性運搬体(核酸)が有する遺伝子は、これに限定されることなく、例えば当該MAMドメイン遺伝子の塩基配列と相同性を有する機能同等物であってもよい。かかる機能同等物としては、上記配列番号4の塩基配列の相補的配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイスする塩基配列を有し、かつその発現産物(ポリペプチド)がラミニンのα3鎖に結合性を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、塩基配列が配列番号4に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。好ましくはヒトに由来するMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。ヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子としては、配列番号4(マウス由来のMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする塩基配列)に対して80%以上、好ましくは85%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。上記の表に示すヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメインの遺伝子をコードする塩基配列(配列番号40)はその一例である。
また本発明の標的指向性運搬体(核酸)は、MAMドメインを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有するものであってもよい。MAMドメインを一部に有するポリペプチド(蛋白質を含む)としては前述するように、具体的には、ネフロネクチンの全長蛋白質、ネフロネクチンのMAMドメインとRGDリンカー部位との結合体、ネフロネクチンのMAMドメインとEGFドメインまたはその繰り返し配列との結合体、MAEG蛋白質、メプリンα、メプリンβ、ニューロピリン1、ニューロピリン2、RPTPκ、及びRPTPμなどを例示することができる。
MAMドメインを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子として、好ましくはネフロネクチン(全長)をコードする遺伝子、及びMAEG蛋白質をコードする遺伝子を挙げることができる。
マウスに由来するネフロネクチンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号18(short form)及び20(long form)に示す。ただし、本発明の標的指向性運搬体が有する核酸は、これに限定されることなく、例えば当該ネフロネクチンの遺伝子の塩基配列と相同性を有する機能同等物であってもよい。かかる機能同等物としては、上記配列番号18または20の塩基配列の相補的配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイスする塩基配列を有し、かつその発現産物(ポリペプチド)がラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、塩基配列が配列番号18または20に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するネフロネクチンをコードする遺伝子を挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のネフロネクチンをコードする遺伝子である。ヒト由来のネフロネクチンをコードする遺伝子としては、配列番号18〔マウス由来のネフロネクチン(short form)をコードする遺伝子の塩基配列〕に対して75%以上、好ましくは80%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。配列番号54に示すアミノ酸配列は、現在報告されているヒト由来のネフロネクチンをコードする遺伝子の塩基配列である。当該塩基配列は、マウス由来の遺伝子の塩基配列(配列番号18:short form)に対して、80%以上(詳細には82.6%)の同一性を有している。
マウスに由来するMAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号22に示す。上記と同様、本発明の標的指向性運搬体が有する核酸は、これに限定されることなく、例えば当該MAEG蛋白質の遺伝子の塩基配列と相同性を有する機能同等物であってもよい。かかる機能同等物としては、上記配列番号22の塩基配列の相補的配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイスする塩基配列を有し、かつその発現産物(ポリペプチド)がラミニンのα3鎖に結合性を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、塩基配列が配列番号22に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するMAEG蛋白質をコードする遺伝子を挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のMAEG蛋白質をコードする遺伝子である。ヒト由来のMAEG蛋白質をコードする遺伝子としては、配列番号22〔マウス由来のMAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列〕に対して75%以上、好ましくは80%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。配列番号56に示すアミノ酸配列は、現在報告されているヒト由来のMAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列である。当該塩基配列は、マウス由来の遺伝子の塩基配列(配列番号22)に対して、80%以上(詳細には82.6%)の同一性を有している。
以上のポリヌクレオチド(核酸)の形態を有する標的指向性運搬体によって、標的細胞または組織に運搬することのできる目的物質としては、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド等の形態を有するものを挙げることができる。
なお、当該標的指向性運搬体(核酸形態)は、MAMドメイン若しくはMAMドメインを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を、発現可能な状態で他の塩基配列に組み込まれてなる、所謂発現ベクター(発現カセット)の形態で有するものであってもよい。
本発明で用いられる発現ベクターは、上記MAMドメイン若しくはMAMドメインを一部に有するポリペプチド(以下、これらを纏めて「目的のポリペプチド」という)をコードする遺伝子を、標的細胞内(好ましくは哺乳類由来の細胞内、よりこのヒト生体内)で発現・機能可能な状態で含むものであればよい。
一般に発現ベクターは、目的のポリペプチドを、対象とする宿主内で発現させるために、転写の下流方向順に必要に応じて(1)プロモーター機能領域、(2)リポソーム結合部位、(3)翻訳開始コドン、(4)シグナルペプチドをコードする塩基配列をもつDNA、(5)目的のポリペプチドをコードする塩基配列をもつDNA、(6)翻訳終始コドン、(7)ターミネーター、(8)宿主中で自己複製可能な自律性複製配列(レプリコン)、(10)相同領域等を、含むように構築される。
なお、ここで発現可能とは、発現ベクターを所望の細胞若しくは生体内に導入した場合に、発現ベクターが目的のポリペプチドをコードする遺伝子を発現するように機能することを意味する。また、機能可能とは、発現ベクターを生体内に導入した場合に、発現ベクターが目的のポリペプチドをコードする遺伝子を発現し、目的のポリペプチドを産生するように機能することを意味する。かかる発現ベクターは、当業界の遺伝子工学的手法を用いることによって作成することができる。
より好ましくは、哺乳類由来の細胞内で遺伝子発現が可能な発現ベクター(発現カセット)であり、特に好ましくは、ヒト由来の細胞内で遺伝子発現が可能な発現カセットである。発現カセットに用いられる遺伝子プロモーターには、例えばアデノウイルス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、シミアンウイルス40、ラウス肉腫ウイルス、単純ヘルペスウイルス、マウス白血病ウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、バピローマウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、JCウイルス、バルボウイルスB19、ポリオウイルス等のウイルス由来のプロモーター、アルブミンや熱ショック蛋白等の哺乳類由来のプロモーター、CAGプロモーター等のキメラ型プロモーター等が含まれる。
遺伝子によってコードされた目的の運搬物質(被運搬物質)を、細胞外に分泌および/または細胞内の局所に滞留させるためのシグナル配列としては、細胞外への分泌を補助するインターロイキン2由来のシグナルペプチド(駒田富佐夫、日本薬学会第115年会講演要旨集4,12,1995)や核局在化を促進するアデノウイルスE1a由来のペプチド、ポリオーマウイルスラージT抗原由来のペプチド、SV40ラージT抗原由来のペプチド、ヌクレオプラスミン由来のペプチド、HTLV1p24転写後調節蛋白質由来のペプチド(Kalderon,D.,et al.,Cell,39,499,1984)等を用いることができる。
上記の発現ベクター(発現カセット)は、遺伝子工学的手法に従って、所望の目的の運搬物質(被運搬物質)の遺伝子(例えば、生理活性ペプチドをコードする遺伝子など)(以下、「薬物遺伝子」ともいう)を導入することにより、いわゆる「標的指向性薬物複合体」の形態として、遺伝子治療に使用することができる。発現ベクター(発現カセット)に薬物遺伝子を導入する一つの方法として、発現ベクター(発現カセット)に組み込む上記「(5)目的のポリペプチドをコードする塩基配列をもつDNA」として、MAMドメイン若しくはMAMドメインを一部に有するポリペプチドと薬物(生理活性ペプチドなど)とが融合したポリペプチド(目的のポリペプチド)をコードする遺伝子を用いる方法を挙げることができる。
本発明は、患者から標的細胞を体外に取り出し、これに薬物遺伝子を上記「標的指向性薬物複合体」を用いて導入した後に、再びその細胞を患者の体内に戻すという自家移植による遺伝子治療(ex vivo遺伝子治療)に使用可能である。また、薬物遺伝子を上記「標的指向性薬物複合体」を用いて直接患者に投与する遺伝子治療(in vivo遺伝子治療)にも使用可能である。また、遺伝子治療の方法として、異常(原因)遺伝子をそのままにして、新しい(正常)遺伝子を付け加える方法(Augmentation Gene Therapy)と、異常遺伝子を正常遺伝子で置き換える方法(Replacement Gene Therapy)に大別できるが、本発明の発現ベクター(核酸運搬体)はどちらにも使用可能である。
(2)標的指向性薬物複合体
このように、本発明は、前述する標的指向性運搬体に所望の目的物質を結合させたものを予防・治療用組成物または化粧料組成物として提供するものでもある。当該目的物質としては、薬効や生理学的活性を有する物質を挙げることができる。以下、こうした物質を、本明細書中では単に「薬物」と称する。
本発明の標的指向性運搬体に結合して用いられる薬物としては、それに結合できるものであれば特に制限されないが、本発明の標的指向性運搬体がポリペプチドの形態の場合は生理活性ペプチドや抗体などを、また核酸の形態の場合は生理活性ペプチドをコードする遺伝子、iRNA、アンチセンスなどを例示することができる。
ここで生理活性ペプチドとは、種々の生理活性を有するペプチド、ポリペプチド及びタンパク質の総称であり、例えばサイトカイン、細胞成長因子が挙げられる。例えば、繊維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリー、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)ファミリー、上皮増殖因子(EGF)ファミリー、血小板由来増殖因子(PDGF)、インシュリン様増殖因子(IGF)、神経増殖因子(NGF)ファミリー、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)等の細胞増殖因子類及び骨形成因子類(BMP類)等の細胞分化因子類を含む細胞成長因子並びにインターフェロン(IFN)類、インターロイキン(IL)類、コロニー刺激因子(CSF)類、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)等を含むサイトカイン類、若しくはインシュリン、パラチロイドホルモン(PTH)等の各種ホルモン類またはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)類等のプロテアーゼ等の酵素類、並びにTIMP(Tissue Inhibitor of Metalloprotease)等の酵素阻害剤などを挙げることができる。
本発明の標的指向性運搬体が、ポリペプチドの形態である場合、標的指向性薬物複合体は、標的指向性運搬体と例えば上記生理活性ペプチド等とのハイブリッドポリペプチドとして提供される。当該ハイブリッドポリペプチドは、標的指向性運搬体(ポリペプチド)をコードする遺伝子と生理活性ペプチド等をコードする遺伝子とが遺伝子工学的手法により連結された状態の核酸を用いて、バクテリア(好ましくはEsherichia coli)、真核細胞(酵母)、昆虫細胞または動物細胞を利用して工業的に生産することができる。また、本発明の標的指向性運搬体が、核酸の形態である場合、標的指向性薬物複合体は、標的指向性運搬体(核酸)と例えば上記生理活性ペプチドをコードする遺伝子等とのハイブリッド遺伝子として提供され、細胞内もしくは生体内でハイブリッドポリペプチドとして産生される。
本発明のハイブリッドポリペプチド(標的指向性薬物複合体)、もしくは本発明のハイブリッド遺伝子(標的指向性薬物複合体)から生成されるハイブリッドポリペプチドは、標的指向性運搬体(またはその発現物)が有する特定のラミニンに対する特異的な結合活性に基づいて、組織指向性を備えている。
ゆえに本発明の標的指向性薬物複合体は、ドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法に有効に利用することができる。特に、標的指向性運搬体としてネフロネクチンのMAMドメインを利用した場合(一部にネフロネクチンのMAMドメインを含むものを含む。例えばネフロネクチンそのものも含まれる。)は、当該標的指向性運搬体が備える新生血管、大血管、腎臓、肺、または膵臓に対する特異的組織結合性に基づいて、所望の薬物をこれらの組織に指向させることができ、その結果、当該臓器における濃度(局所濃度)を高く維持し、薬物の有効性を高めることができる。またそれと同時に、薬物が他部位へ拡散して生じる副作用を防ぐこともできる。具体的には、例えば従来より腎炎治療にHGFが使用されていることから、薬物としてHGFを用いた標的指向性薬物複合体によれば、HGF単独よりも腎炎を効果的に治療することが可能となる。また、薬物として抗癌剤を用いた標的指向性薬物複合体によれば、上記臓器(腎臓、肺、または膵臓)に特異的に抗癌剤を指向させることができ、これにより、副作用を抑制しながら、これらの臓器における癌の治療、及び進展予防を行うことが可能である。例えば、従来より腎癌の治療に使用されているインターロイキン−2やインターフェロン−αの有効率は15%程度に過ぎないが、本発明の標的指向性運搬体を利用することで腎臓への移行性及び局在性を高め、有効率をより向上させることが可能であると期待される。また、肺癌治療剤としてハーセプチン(抗体医薬)などが知られているが、これについても同様である。
また近年、血管の新生を抑制することによって癌の進展や転移を抑制できることが知られている。従って、薬物として血管新生抑制剤(例えば、インテグリンα2阻害剤などが知られている。)を用いた標的指向性薬物複合体によれば、標的指向性運搬体が有する新生血管への特異的結合性に基づいて、血管新生抑制剤を新生血管に指向させることができ、その有効率をより向上させることが可能であると期待される。
また、標的指向性運搬体としてMAEG蛋白質のMAMドメインを利用した場合は(一部にMAEG蛋白質のMAMドメインを含むものを含む。例えばMAEG蛋白質そのものも含まれる。)、当該標的指向性運搬体が備える毛包、皮膚(表皮)、肺に対する特異的組織結合性に基づいて、薬物をこれらの組織に指向させることができ、その結果、当該臓器における濃度(局所濃度)を高く維持し、薬物の有効性を高めることができる。またそれと同時に、薬物が他部位へ拡散して生じる副作用を防ぐこともできる。例えば、皮膚癌は、近年増加する傾向にありながらもよい治療薬がない疾患の一つである。従って、これまでに開発された抗癌剤を上記標的指向性運搬体を利用することによって皮膚に特異的に指向させて局在化させることができ、その結果、全身性の副作用を低減しながらも、これらの皮膚における有効な癌の治療を行うことが可能であると期待される。
またこの手法は、癌領域以外の疾患にも適用できる。たとえば、5αリダクターゼ阻害剤は頭髪の育毛剤として知られているが、本発明の標的指向性運搬体を利用して標的指向性薬物複合体の形態にすることで、当該薬剤を頭髪の毛包に特異的に移行させて局在化させることが可能であり、その結果、その効果をより一層高めることが可能であると考えられる。また、薬物としてEGFやKGF(keratinocyte growth factor)を用いた場合、これを本発明の標的指向性薬物複合体の形態にすることで皮膚創傷部位や切開部位に特異的に移行させることができ、その結果、短時間に治癒させることが可能である。
本発明に係る標的指向性薬物複合体は、このように、好ましくは医薬組成物として生体に投与して使用されるが、生体への投与の方法については、特に制限はない。例えば非経口的投与、例えば注射投与を挙げることができる。かかる医薬組成物中には薬学的に許容できる担体や種々の添加剤を添加することができる。また、本発明に係る医薬組成物の用量は、その使用方法、使用目的等により異なるが、当業者は容易に適宜選択、最適化することが可能である。例えば、注射投与して用いる場合には、標的指向性薬物複合体に含まれる有効成分の量として、1日あたり約0.1μg/kg〜1000mg/kgを投与するのが好ましい。より好ましくは、1日あたり約1μg/kg〜100mg/kgである。
前述するように、ラミニンは、そのα鎖に基づいて組織特異的・発生段階特異的な発現を示す基底膜主要構成蛋白質である。
本発明は、こうした組織特異的に発現するラミニンのα鎖を選択的に認識して特異的に結合する特性を有し、それがゆえに標的の組織に対して指向性を有する標的指向性運搬体を提供するものである。
具体的には、本発明の標的指向性運搬体には、MAMドメインまたはそれを一部に有するポリペプチドであって、所望の薬物を結合させて、該薬物を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体が含まれる。
ここでMAMドメインとは、「meprin,A5 protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain(メプリン、A5蛋白質、受容体型蛋白質チロシン脱リン酸化酵素ミュードメイン)」の略である。ネフロネクチン(nephronectin)、MAEG蛋白質(ヒトについては「Genomics 62,p.304−307,1999」、マウスについては「Genomics 65,p.1623,2000」)、メプリン(meprin)α及びメプリンβ(The Journal of Biochemistry,Vol.276,No.25,p.23207−23211,2001)、ニューロピリン(neuropilin)1及びニューロピリン2(Neuron,Vol.21,p.1283−1290,1998)、RPTP(受容体型蛋白質チロシン脱リン酸化酵素:Receptor Protein−Tyrosine Phosphatase)κ及びRPTPμ(The Journal of Biological Chemistry p.14247−14250,1995)などは、いずれも共通してMAMドメインを有する蛋白質である(Beckmann,G.,and Bork,P.;Trends in Biochemical Science Vol.18,1993,p.40−41)。なお、MAMドメインは、メプリン、ニューロピリン(A5 proteinとニューロピリンは同義である)、RPTPμなどについて、MAMドメイン間での相互作用、及び二量体や多量体形成に必要といわれているものの、詳細な機能については知られていない。
ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号1;MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号3;メプリンαのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号5;メプリンβのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号7;ニューロピリン1のMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号9:ニューロピリン2のMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号11:RPTPκのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号13:RPTPμのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号15に示す。ここに記載するMAMドメインのアミノ酸配列はその一例であるマウスに由来するものであるが、他の例としては、上記配列が由来する生物種に類似もしくは近似する種(例えば、哺乳類に属する種、好ましくはヒト)に由来する、各種蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列を挙げることができる。
例えば、上記マウス由来の各種MAMドメインのアミノ酸配列と、ヒト由来の各種MAMドメインのアミノ酸配列との関係を示すと、下表の通りである。なお、ここでアミノ酸配列の同一性(相同性)は、ゼネティックス社製遺伝子解析ソフトのGENETIX−Mac ver.12.2.4の、homology search engineに基づくものである〔以下に述べるアミノ酸配列、並びに塩基配列の同一性(相同性)においても同じ。〕。
MAMドメインとして、好ましくはネフロネクチンのMAMドメイン及びMAEG蛋白質のMAMドメインを挙げることができる。
マウスに由来するネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号1に示す。但し、本発明の標的指向性運搬体が有するMAMドメインは、これに限定されることなく、例えば当該MAMドメインのアミノ酸配列と相同性を有する同等物であってもよい。かかる同等物としては、上記配列番号1のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、アミノ酸配列が配列番号1に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するネフロネクチンのMAMドメインを挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のネフロネクチンのMAMドメインである。ヒト由来のネフロネクチンのMAMドメインとしては、配列番号1(マウス由来のネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列)に対して90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。上記の表に示すヒト由来のネフロネクチンのMAMドメイン(配列番号37)はその一例である。
なお、ラミニンのα4鎖またはα5鎖に対する結合性は、後述する実験例3(1)に記載する固相結合アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)または実験例3(2)に記載する免疫共沈降アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)など、当業者に公知の方法を用いて評価することができる。
マウスに由来するMAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列を配列番号3に示す。上記と同様、本発明の標的指向性運搬体が有するMAMドメインは、これに限定されることなく、例えば当該MAMドメインのアミノ酸配列と相同性を有する同等物であってもよい。かかる同等物としては、上記配列番号3のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、アミノ酸配列が配列番号3に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するMAEG蛋白質のMAMドメインを挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメインである。ヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメインとしては、配列番号3(マウス由来のMAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列)に対して80%以上、好ましくは85%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。具体的には上記表に示すヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメイン(配列番号39)を挙げることができる。
なお、ラミニンのα3鎖に対する結合性は、後述する実験例3(1)に記載する固相結合アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)または実験例3(2)に記載する免疫共沈降アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)など、当業者に公知の方法を用いて評価することができる。
また本発明の標的指向性運搬体は、MAMドメインを一部に有するポリペプチドからなるものであってもよい。かかるものとしては、本発明の効果を損なわないことを限度として、MAMドメインを一部に含むポリペプチドを広く例示することができるが、具体的には、ネフロネクチンの全長蛋白質、ネフロネクチンのMAMドメインとRGDリンカー部位との結合体、ネフロネクチンのMAMドメインとEGFドメインまたはその繰り返し配列との結合体、MAEG蛋白質、メプリンα、メプリンβ、ニューロピリン1、ニューロピリン2、RPTPκ、及びRPTPμなどを例示することができる。
なお、ヒトに由来するネフロネクチン相当物の配列は、「Journal of Biological Chemistry,Vol.276,No.45,pp.42172−42181,2001」に、MAEG蛋白質(ヒトではEGFL6とも称される)の配列は「NM_015507」に、メプリンαの配列は「NM_005588(Genbank accesion Number、以下同じ)」に、メプリンβの配列は「NM_005925」に、ニューロピリン1の配列は「NM_003873」に、ニューロピリン2の配列は「AF281074」に、及びRPTPκの配列は「Z70660」に,RPTPμの配列は「NM_002845」に、それぞれ記載されている。
MAMドメインを一部に有するポリペプチドとして、好ましくはネフロネクチン(全長)、及びMAEG蛋白質を挙げることができる。
マウス由来のネフロネクチンには、選択的スプライシングによって561アミノ酸からなるshort formと609アミノ酸からなるlong formとが存在することが知られている(The Journal of Cell Biology,Vol.154,No.2,2001,447−458)。short formのネフロネクチン(マウス)のアミノ酸配列を配列番号17に、long formのネフロネクチン(マウス)のアミノ酸配列を配列番号19にそれぞれ示す。なお、short formのネフロネクチン(マウス)は、その420〜561アミノ酸領域に「MAMドメイン」を有しており〔N末端から順に、「シグナルペプチド」(1−19aa)、「EGF繰り返し配列」(「EGF様ドメイン1」(57−88aa)、「EGF様ドメイン2」(89−127aa)、「EGF様ドメイン3」(128−168aa)、「EGF様ドメイン4」(169−212aa)、「EGF様ドメイン5」(213−253aa))、「RGDリンカー部位」(254−419aa)、及び「MAMドメイン」(420−561aa)から構成される〕、long formのネフロネクチン(マウス)は、その468〜609アミノ酸領域に「MAMドメイン」を有している〔N末端から順に、「シグナルペプチド」(1−19aa)、「alternative splicing region 1」(59−75aa)、「EGF様ドメイン1」(76−105aa)、「alternative splicing region 2」(106−136aa)、「EGF様ドメイン2」(137−175aa)、「EGF様ドメイン3」(176−215aa)、「EGF様ドメイン4」(216−260aa)、「EGF様ドメイン5」(261−301aa)、「RGDリンカー部位」(302−467aa)、及び「MAMドメイン」(468−609aa)から構成される〕。
ただし、本発明の標的指向性運搬体が有するポリペプチドは、これに限定されることなく、例えば当該マウス由来のネフロネクチンのアミノ酸配列と相同性を有する同等物であってもよい。かかる同等物としては、上記マウス由来のネフロネクチンのアミノ酸配列を示す配列番号17(short form)または配列番号19(long form)において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、アミノ酸配列が配列番号17または19に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するネフロネクチンを挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のネフロネクチンである。ヒト由来のネフロネクチンとしては、配列番号17〔マウス由来のネフロネクチン(short form)のアミノ酸配列〕に対して75%以上、好ましくは80%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。配列番号53に示すアミノ酸配列は、現在報告されているヒト由来のネフロネクチンのアミノ酸配列である。当該ネフロネクチンは、マウス由来のネフロネクチン(配列番号17:short form)に対して、80%以上(詳細には82.6%)の同一性を有している。このヒト由来のネフロネクチンは、その391〜509アミノ酸領域に「MAMドメイン」を有しており、N末端から順に「シグナルペプチド」(1−19aa)、「EGF繰り返し配列」(「EGF様ドメイン1」(57−88aa)、「EGF様ドメイン2」(89−127aa)、「EGF様ドメイン3」(128−168aa)、「EGF様ドメイン4」(169−212aa)、「EGF様ドメイン5」(213−253aa))、「RGDリンカー部位」(254−390aa)、及び「MAMドメイン」(391−509aa)から構成されている。但し、本発明が対象とするヒト由来のネフロネクチンはこれに限定されず、前述するように、配列番号17に対して75%以上、好ましくは80%以上の同一性を有するヒト由来ネフロネクチンであればよい。
マウス由来のMAEG蛋白質のアミノ酸配列を配列番号21に示す。当該MAEG蛋白質は550アミノ酸から構成され、その395〜550アミノ酸領域にMAMドメインを有している。上記と同様、本発明の標的指向性運搬体が有するポリペプチドは、これに限定されることなく、例えば当該MAEG蛋白質のアミノ酸配列と相同性を有する同等物であってもよい。かかる同等物としては、上記配列番号21のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、アミノ酸配列が配列番号21に対して65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するMAEG蛋白質を挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のMAEG蛋白質である。ヒト由来のMAEG蛋白質としては、配列番号21〔マウス由来のMAEG蛋白質のアミノ酸配列〕に対して70%以上、好ましくは75%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。現在報告されているヒト由来のMAEG蛋白質のアミノ酸配列を配列番号55に示すが、当該MAEG蛋白質は、配列番号21で示されるマウス由来のMAEG蛋白質に対して、約75%以上(詳細には77.6%)の同一性を有している。
以上のペプチド又はポリペプチドの形態を有する標的指向性運搬体によって、標的細胞または組織に運搬することのできる目的物質としては、アミノ酸、ポリアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、及び蛋白質等の形態を有するものを挙げることができる。
また本発明の標的指向性運搬体は、上記ポリペプチドの形態を有するもの以外に、核酸の形態を有するものであってもよい。すなわち、本発明の標的指向性運搬体には、MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の薬物を結合させて、該薬物を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体が含まれる。
MAMドメインをコードする遺伝子としては、ネフロネクチン、MAEG蛋白質、メプリンα、メプリンβ、ニューロピリン1、ニューロピリン2、RPTPκ、またはRPTPμなどの各種蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。マウス由来のネフロネクチンのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号2;MAEG蛋白質のMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号4;メプリンαのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号6;メプリンβのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号8;ニューロピリン1のMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号10:ニューロピリン2のMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号12:RPTPκのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号14:RPTPμのMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子の塩基配列は配列番号16に記載の通りである。なお、これらに限定されることなく、本発明が対象とする核酸には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来する上記各種蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子が含まれる。より好ましくはヒト由来する上記各種蛋白質のMAMドメイン(ポリペプチド)をコードする遺伝子である。
例えば、上記マウス由来の各種MAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列と、ヒト由来の各種MAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列との関係は、下表の通りである。
MAMドメインをコードする遺伝子として、好ましくはネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子及びMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。
マウスのネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号2に示すが、本発明の標的指向性運搬体(核酸)が有する遺伝子は、これに限定されることなく、例えば当該MAMドメイン遺伝子の塩基配列と相同性を有する機能同等物であってもよい。かかる機能同等物としては、上記配列番号2の塩基配列の相補的配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイスする塩基配列を有し、かつその発現産物(ポリペプチド)がラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、塩基配列が配列番号2に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。好ましくはヒトに由来するネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。ヒト由来のネフロネクチンのMAMドメインをコードする遺伝子としては、配列番号2(マウス由来のネフロネクチンのMAMドメインをコードする塩基配列)に対して85%以上、好ましくは90%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。上記の表に示すヒト由来のネフロネクチンのMAMドメインの遺伝子をコードする塩基配列(配列番号38)はその一例である。
マウス由来のMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号4に示すが、本発明の標的指向性運搬体(核酸)が有する遺伝子は、これに限定されることなく、例えば当該MAMドメイン遺伝子の塩基配列と相同性を有する機能同等物であってもよい。かかる機能同等物としては、上記配列番号4の塩基配列の相補的配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイスする塩基配列を有し、かつその発現産物(ポリペプチド)がラミニンのα3鎖に結合性を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、塩基配列が配列番号4に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。好ましくはヒトに由来するMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子を挙げることができる。ヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする遺伝子としては、配列番号4(マウス由来のMAEG蛋白質のMAMドメインをコードする塩基配列)に対して80%以上、好ましくは85%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。上記の表に示すヒト由来のMAEG蛋白質のMAMドメインの遺伝子をコードする塩基配列(配列番号40)はその一例である。
また本発明の標的指向性運搬体(核酸)は、MAMドメインを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有するものであってもよい。MAMドメインを一部に有するポリペプチド(蛋白質を含む)としては前述するように、具体的には、ネフロネクチンの全長蛋白質、ネフロネクチンのMAMドメインとRGDリンカー部位との結合体、ネフロネクチンのMAMドメインとEGFドメインまたはその繰り返し配列との結合体、MAEG蛋白質、メプリンα、メプリンβ、ニューロピリン1、ニューロピリン2、RPTPκ、及びRPTPμなどを例示することができる。
MAMドメインを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子として、好ましくはネフロネクチン(全長)をコードする遺伝子、及びMAEG蛋白質をコードする遺伝子を挙げることができる。
マウスに由来するネフロネクチンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号18(short form)及び20(long form)に示す。ただし、本発明の標的指向性運搬体が有する核酸は、これに限定されることなく、例えば当該ネフロネクチンの遺伝子の塩基配列と相同性を有する機能同等物であってもよい。かかる機能同等物としては、上記配列番号18または20の塩基配列の相補的配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイスする塩基配列を有し、かつその発現産物(ポリペプチド)がラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、塩基配列が配列番号18または20に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するネフロネクチンをコードする遺伝子を挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のネフロネクチンをコードする遺伝子である。ヒト由来のネフロネクチンをコードする遺伝子としては、配列番号18〔マウス由来のネフロネクチン(short form)をコードする遺伝子の塩基配列〕に対して75%以上、好ましくは80%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。配列番号54に示すアミノ酸配列は、現在報告されているヒト由来のネフロネクチンをコードする遺伝子の塩基配列である。当該塩基配列は、マウス由来の遺伝子の塩基配列(配列番号18:short form)に対して、80%以上(詳細には82.6%)の同一性を有している。
マウスに由来するMAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号22に示す。上記と同様、本発明の標的指向性運搬体が有する核酸は、これに限定されることなく、例えば当該MAEG蛋白質の遺伝子の塩基配列と相同性を有する機能同等物であってもよい。かかる機能同等物としては、上記配列番号22の塩基配列の相補的配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイスする塩基配列を有し、かつその発現産物(ポリペプチド)がラミニンのα3鎖に結合性を有するものを挙げることができる。なお、相同性の範囲としては、塩基配列が配列番号22に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上の同等性を有する範囲を挙げることができる。具体的には、マウス以外の動物、好ましくは哺乳類に由来するMAEG蛋白質をコードする遺伝子を挙げることができる。特に好ましくはヒト由来のMAEG蛋白質をコードする遺伝子である。ヒト由来のMAEG蛋白質をコードする遺伝子としては、配列番号22〔マウス由来のMAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列〕に対して75%以上、好ましくは80%以上の同一性を有しているものを挙げることができる。配列番号56に示すアミノ酸配列は、現在報告されているヒト由来のMAEG蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列である。当該塩基配列は、マウス由来の遺伝子の塩基配列(配列番号22)に対して、80%以上(詳細には82.6%)の同一性を有している。
以上のポリヌクレオチド(核酸)の形態を有する標的指向性運搬体によって、標的細胞または組織に運搬することのできる目的物質としては、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド等の形態を有するものを挙げることができる。
なお、当該標的指向性運搬体(核酸形態)は、MAMドメイン若しくはMAMドメインを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を、発現可能な状態で他の塩基配列に組み込まれてなる、所謂発現ベクター(発現カセット)の形態で有するものであってもよい。
本発明で用いられる発現ベクターは、上記MAMドメイン若しくはMAMドメインを一部に有するポリペプチド(以下、これらを纏めて「目的のポリペプチド」という)をコードする遺伝子を、標的細胞内(好ましくは哺乳類由来の細胞内、よりこのヒト生体内)で発現・機能可能な状態で含むものであればよい。
一般に発現ベクターは、目的のポリペプチドを、対象とする宿主内で発現させるために、転写の下流方向順に必要に応じて(1)プロモーター機能領域、(2)リポソーム結合部位、(3)翻訳開始コドン、(4)シグナルペプチドをコードする塩基配列をもつDNA、(5)目的のポリペプチドをコードする塩基配列をもつDNA、(6)翻訳終始コドン、(7)ターミネーター、(8)宿主中で自己複製可能な自律性複製配列(レプリコン)、(10)相同領域等を、含むように構築される。
なお、ここで発現可能とは、発現ベクターを所望の細胞若しくは生体内に導入した場合に、発現ベクターが目的のポリペプチドをコードする遺伝子を発現するように機能することを意味する。また、機能可能とは、発現ベクターを生体内に導入した場合に、発現ベクターが目的のポリペプチドをコードする遺伝子を発現し、目的のポリペプチドを産生するように機能することを意味する。かかる発現ベクターは、当業界の遺伝子工学的手法を用いることによって作成することができる。
より好ましくは、哺乳類由来の細胞内で遺伝子発現が可能な発現ベクター(発現カセット)であり、特に好ましくは、ヒト由来の細胞内で遺伝子発現が可能な発現カセットである。発現カセットに用いられる遺伝子プロモーターには、例えばアデノウイルス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、シミアンウイルス40、ラウス肉腫ウイルス、単純ヘルペスウイルス、マウス白血病ウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、バピローマウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、JCウイルス、バルボウイルスB19、ポリオウイルス等のウイルス由来のプロモーター、アルブミンや熱ショック蛋白等の哺乳類由来のプロモーター、CAGプロモーター等のキメラ型プロモーター等が含まれる。
遺伝子によってコードされた目的の運搬物質(被運搬物質)を、細胞外に分泌および/または細胞内の局所に滞留させるためのシグナル配列としては、細胞外への分泌を補助するインターロイキン2由来のシグナルペプチド(駒田富佐夫、日本薬学会第115年会講演要旨集4,12,1995)や核局在化を促進するアデノウイルスE1a由来のペプチド、ポリオーマウイルスラージT抗原由来のペプチド、SV40ラージT抗原由来のペプチド、ヌクレオプラスミン由来のペプチド、HTLV1p24転写後調節蛋白質由来のペプチド(Kalderon,D.,et al.,Cell,39,499,1984)等を用いることができる。
上記の発現ベクター(発現カセット)は、遺伝子工学的手法に従って、所望の目的の運搬物質(被運搬物質)の遺伝子(例えば、生理活性ペプチドをコードする遺伝子など)(以下、「薬物遺伝子」ともいう)を導入することにより、いわゆる「標的指向性薬物複合体」の形態として、遺伝子治療に使用することができる。発現ベクター(発現カセット)に薬物遺伝子を導入する一つの方法として、発現ベクター(発現カセット)に組み込む上記「(5)目的のポリペプチドをコードする塩基配列をもつDNA」として、MAMドメイン若しくはMAMドメインを一部に有するポリペプチドと薬物(生理活性ペプチドなど)とが融合したポリペプチド(目的のポリペプチド)をコードする遺伝子を用いる方法を挙げることができる。
本発明は、患者から標的細胞を体外に取り出し、これに薬物遺伝子を上記「標的指向性薬物複合体」を用いて導入した後に、再びその細胞を患者の体内に戻すという自家移植による遺伝子治療(ex vivo遺伝子治療)に使用可能である。また、薬物遺伝子を上記「標的指向性薬物複合体」を用いて直接患者に投与する遺伝子治療(in vivo遺伝子治療)にも使用可能である。また、遺伝子治療の方法として、異常(原因)遺伝子をそのままにして、新しい(正常)遺伝子を付け加える方法(Augmentation Gene Therapy)と、異常遺伝子を正常遺伝子で置き換える方法(Replacement Gene Therapy)に大別できるが、本発明の発現ベクター(核酸運搬体)はどちらにも使用可能である。
(2)標的指向性薬物複合体
このように、本発明は、前述する標的指向性運搬体に所望の目的物質を結合させたものを予防・治療用組成物または化粧料組成物として提供するものでもある。当該目的物質としては、薬効や生理学的活性を有する物質を挙げることができる。以下、こうした物質を、本明細書中では単に「薬物」と称する。
本発明の標的指向性運搬体に結合して用いられる薬物としては、それに結合できるものであれば特に制限されないが、本発明の標的指向性運搬体がポリペプチドの形態の場合は生理活性ペプチドや抗体などを、また核酸の形態の場合は生理活性ペプチドをコードする遺伝子、iRNA、アンチセンスなどを例示することができる。
ここで生理活性ペプチドとは、種々の生理活性を有するペプチド、ポリペプチド及びタンパク質の総称であり、例えばサイトカイン、細胞成長因子が挙げられる。例えば、繊維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリー、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)ファミリー、上皮増殖因子(EGF)ファミリー、血小板由来増殖因子(PDGF)、インシュリン様増殖因子(IGF)、神経増殖因子(NGF)ファミリー、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)等の細胞増殖因子類及び骨形成因子類(BMP類)等の細胞分化因子類を含む細胞成長因子並びにインターフェロン(IFN)類、インターロイキン(IL)類、コロニー刺激因子(CSF)類、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)等を含むサイトカイン類、若しくはインシュリン、パラチロイドホルモン(PTH)等の各種ホルモン類またはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)類等のプロテアーゼ等の酵素類、並びにTIMP(Tissue Inhibitor of Metalloprotease)等の酵素阻害剤などを挙げることができる。
本発明の標的指向性運搬体が、ポリペプチドの形態である場合、標的指向性薬物複合体は、標的指向性運搬体と例えば上記生理活性ペプチド等とのハイブリッドポリペプチドとして提供される。当該ハイブリッドポリペプチドは、標的指向性運搬体(ポリペプチド)をコードする遺伝子と生理活性ペプチド等をコードする遺伝子とが遺伝子工学的手法により連結された状態の核酸を用いて、バクテリア(好ましくはEsherichia coli)、真核細胞(酵母)、昆虫細胞または動物細胞を利用して工業的に生産することができる。また、本発明の標的指向性運搬体が、核酸の形態である場合、標的指向性薬物複合体は、標的指向性運搬体(核酸)と例えば上記生理活性ペプチドをコードする遺伝子等とのハイブリッド遺伝子として提供され、細胞内もしくは生体内でハイブリッドポリペプチドとして産生される。
本発明のハイブリッドポリペプチド(標的指向性薬物複合体)、もしくは本発明のハイブリッド遺伝子(標的指向性薬物複合体)から生成されるハイブリッドポリペプチドは、標的指向性運搬体(またはその発現物)が有する特定のラミニンに対する特異的な結合活性に基づいて、組織指向性を備えている。
ゆえに本発明の標的指向性薬物複合体は、ドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法に有効に利用することができる。特に、標的指向性運搬体としてネフロネクチンのMAMドメインを利用した場合(一部にネフロネクチンのMAMドメインを含むものを含む。例えばネフロネクチンそのものも含まれる。)は、当該標的指向性運搬体が備える新生血管、大血管、腎臓、肺、または膵臓に対する特異的組織結合性に基づいて、所望の薬物をこれらの組織に指向させることができ、その結果、当該臓器における濃度(局所濃度)を高く維持し、薬物の有効性を高めることができる。またそれと同時に、薬物が他部位へ拡散して生じる副作用を防ぐこともできる。具体的には、例えば従来より腎炎治療にHGFが使用されていることから、薬物としてHGFを用いた標的指向性薬物複合体によれば、HGF単独よりも腎炎を効果的に治療することが可能となる。また、薬物として抗癌剤を用いた標的指向性薬物複合体によれば、上記臓器(腎臓、肺、または膵臓)に特異的に抗癌剤を指向させることができ、これにより、副作用を抑制しながら、これらの臓器における癌の治療、及び進展予防を行うことが可能である。例えば、従来より腎癌の治療に使用されているインターロイキン−2やインターフェロン−αの有効率は15%程度に過ぎないが、本発明の標的指向性運搬体を利用することで腎臓への移行性及び局在性を高め、有効率をより向上させることが可能であると期待される。また、肺癌治療剤としてハーセプチン(抗体医薬)などが知られているが、これについても同様である。
また近年、血管の新生を抑制することによって癌の進展や転移を抑制できることが知られている。従って、薬物として血管新生抑制剤(例えば、インテグリンα2阻害剤などが知られている。)を用いた標的指向性薬物複合体によれば、標的指向性運搬体が有する新生血管への特異的結合性に基づいて、血管新生抑制剤を新生血管に指向させることができ、その有効率をより向上させることが可能であると期待される。
また、標的指向性運搬体としてMAEG蛋白質のMAMドメインを利用した場合は(一部にMAEG蛋白質のMAMドメインを含むものを含む。例えばMAEG蛋白質そのものも含まれる。)、当該標的指向性運搬体が備える毛包、皮膚(表皮)、肺に対する特異的組織結合性に基づいて、薬物をこれらの組織に指向させることができ、その結果、当該臓器における濃度(局所濃度)を高く維持し、薬物の有効性を高めることができる。またそれと同時に、薬物が他部位へ拡散して生じる副作用を防ぐこともできる。例えば、皮膚癌は、近年増加する傾向にありながらもよい治療薬がない疾患の一つである。従って、これまでに開発された抗癌剤を上記標的指向性運搬体を利用することによって皮膚に特異的に指向させて局在化させることができ、その結果、全身性の副作用を低減しながらも、これらの皮膚における有効な癌の治療を行うことが可能であると期待される。
またこの手法は、癌領域以外の疾患にも適用できる。たとえば、5αリダクターゼ阻害剤は頭髪の育毛剤として知られているが、本発明の標的指向性運搬体を利用して標的指向性薬物複合体の形態にすることで、当該薬剤を頭髪の毛包に特異的に移行させて局在化させることが可能であり、その結果、その効果をより一層高めることが可能であると考えられる。また、薬物としてEGFやKGF(keratinocyte growth factor)を用いた場合、これを本発明の標的指向性薬物複合体の形態にすることで皮膚創傷部位や切開部位に特異的に移行させることができ、その結果、短時間に治癒させることが可能である。
本発明に係る標的指向性薬物複合体は、このように、好ましくは医薬組成物として生体に投与して使用されるが、生体への投与の方法については、特に制限はない。例えば非経口的投与、例えば注射投与を挙げることができる。かかる医薬組成物中には薬学的に許容できる担体や種々の添加剤を添加することができる。また、本発明に係る医薬組成物の用量は、その使用方法、使用目的等により異なるが、当業者は容易に適宜選択、最適化することが可能である。例えば、注射投与して用いる場合には、標的指向性薬物複合体に含まれる有効成分の量として、1日あたり約0.1μg/kg〜1000mg/kgを投与するのが好ましい。より好ましくは、1日あたり約1μg/kg〜100mg/kgである。
以下、本発明を詳細に説明するために実験例を記載する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら限定されるものではない。なお、下記の実験例において使用される略語の正式名称は、下記の通りである。
BSA:bovine serum albumin(ウシ血清アルブミン)
CBB:Coomasie Brilliant Blue(クーマシーブリリアントブルー)
ECM:extracellular matrix(細胞外マトリックス)
EDTA:ethylenediaminetetraacetic acid(エチレンジアミン四酢酸)
EGF:epidermal growth factor(上皮増殖因子)
GST:glutathione S−transferase(グルタチオン転移酵素)
kD:kilo dalton(キロダルトン)
HRP:horseradish peroxidase(西洋ワサビ過酸化酵素)
mAb:monoclonal antibody(モノクローナル抗体)
MAM domain:meprin,A5 protein,receptor protein−tyrosine phosphatase−μ domain(メプリン、A5蛋白質、受容体型蛋白質チロシン脱リン酸化酵素ミュードメイン)
MBP:maltose−binding protein(マルトース結合蛋白質)
PBS:phosphate−buffered saline(リン酸緩衝化生理食塩水)
PCR:polymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)
PVDF:polyvinilidene difluoride(ポリビニリデンジフルオリド)
PMSF:phenylmethylsulfonyl fluoride(フェニルメタンスルホニルフルオリド)
SDS−PAGE:sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
TBS:Tris−buffered saline(トリス緩衝化生理食塩水)
実験例1 FLAG付きネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体の発現ベクターの構築、並びにその発現産物の精製
(1)発現ベクターの構築
ネフロネクチン(NN)は、EGF様繰り返し配列(EGF−like repeat)、RGD細胞接着モチーフを含むリンカー部位、及びMAMドメイン(MAM domain)から構成されている(Brandenberger,R.et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458;Morimura,N.et al.,(2001)J Biol Chem 276,42172−42181)。マウス由来のネフロネクチン(NN)を用いて、NN(全長)、EGF様繰り返し配列(NN−EGFと略)、NNからMAMドメインを欠失させたもの(NN−ΔMAMと略)、RGDリンカー部位(NN−RGDと略)、及びMAMドメイン(NN−MAMと略)の各々について、それぞれC末端にFLAGタグ(Sigma社)を付加した発現ベクターを構築した。図1に、C末端にFLAGタグを付加した各タンパク質のドメイン構造を示す(但し、NN−EGFは示さず)。
(a)FLAG付き全長ネフロネクチン(NN−FLAG)の発現ベクターの構築(図2)
NN−FLAGは、全長NN(マウス)のcDNAを、3’末端のFLAGタグとコドンが合うようにpFLAG−CMVベクターに挿入することによって作成した。具体的には、まず、NN(マウス)のcDNA配列(5’−非翻訳領域、open reading frame(ORF)、及び3’−非翻訳領域の全てを含む2541bp)を、図中矢印で示すプライマー(forward primer:−5bpからスタート、Eco RI部位付き、reverse:1683bp(ストップコドン削除)からスタート、Not I部位付き)を用いてPCR増幅し、得られたPCR産物を、pCI−kanaベクターのEco RI/Not I部位に挿入してベタターを作成した。次いで、このベクターをNot Iで切断し、T4 polymeraseで平滑末端に処理した後、Eco RIで切断した。これを、同様に処理したpFLAG−CMV5aベクター(Pst Iで切断し、T4 polymeraseで平滑末端に処理した後、Eco RIで切断処理)とライゲーションして、C末端にFLAGタグを有する全長ネフロネクチン発現ベクターを構築した。
(b)FLAG付きMAMドメイン欠損NN(NN−ΔMAM−FLAG)の発現ベクターの構築
NN(マウス)のcDNA配列(5’−非翻訳領域、open reading frame(ORF)、及び3’−非翻訳領域の全てを含む2541bp)を、pBlueScriptのmulti−cloning部位(5’−Sal I/Xho I、3’−Bam HI部位)に挿入して調製したベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GAATTCGAGATCCCGGGACGC−3’(配列番号23)、reverse:5’−GTCGACGTCGTCCTTTCATTCCTC−3’(配列番号24)〕を用いて、PCR法(KOD plus DNA polymerase,TOYOBO)により、その−61〜1242bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、EcoR V cut/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した後、Eco RI/Sal Iで切断してこれを、同じくEco RI/Sal Iで切断したpFLAG−CMV5aベクターにライゲーションして、C末端にFLAGタグを有するMAMドメイン欠損ネフロネクチン(NN−ΔMAM−FLAG)発現ベクターを構築した。
(c)FLAG付きRGDリンカー部位(NN−RGD−FLAG)の発現ベクターの構築
i)NN(マウス)のcDNA配列(5’−非翻訳領域、open reading frame(ORF)、及び3’−非翻訳領域の全てを含む2541bp)を、pBlueScriptのmulti−cloning部位(5’−Sal I/Xho I、3’−Bam HI部位)に挿入して調製したベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GAATTCGAGATCCCGGGACGC−3’(配列番号25)、reverse:5’−GGGCCCGTCGAAGTCGGCAGC−3’(配列番号26)〕を用いて、PCR法(KOD plus DNA polymerase,TOYOBO)により、その−61〜69bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、EcoR V cut/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した。
ii)一方、上記NN(マウス)のcDNA配列を含むベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GGGCCCAAAGTCATGATTGAAC−3’(配列番号27)、reverse:5’−GTCGACGTCGTCCTTTACTTCCTC−3’(配列番号28)を用いて、PCR法(LA taq polymerase,TAKARA,GCI buffer使用)により、その769−1242bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、EcoR V cut/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した。
iii)上記i)及びii)で調製したPCR産物をそれぞれEco RI/Apa I及びApa I/Sal Iで切断してこれらを、Eco RI/Sal Iで切断したpFLAG−CMV5aベクターにライゲーションして、C末端にFLAGタグを有するRGDリンカー部位(NN−RGD−FLAG)発現ベクターを構築した。
(d)FLAG付きMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)の発現ベクターの構築
i)NN(マウス)のcDNA配列(5’−非翻訳領域、open reading frame(ORF)、及び3’−非翻訳領域の全てを含む2541bp)を、pBlueScriptのmulti−cloning部位(5’−Sal I/Xho I、3’−Bam HI部位)に挿入して調製したベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GAATTCGAGATCCCGGGACGC−3’(配列番号29)、reverse:5’−GGGCCCGTCGAAGTCGGCAGC−3’(配列番号30)〕を用いて、PCR法(KOD plus DNA polymerase,TOYOBO)により、その−61〜69bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、EcoR V cut/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した。
ii)一方、上記NN(マウス)のcDNA配列を含むベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GGGCCCGGTATTCTCATACACAGC−3’(配列番号31)、5’−GTCGACGCAGCGACCTCTTTTCAAG−3’(配列番号32)を用いて、PCR法(LA taq polymerase,TAKARA,GCI buffer使用)により、その1243−1683bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、Eco RI/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した。
iii)上記i)及びii)で調製したPCR産物をそれぞれEco RI/Apa I及びApa I/Sal Iで切断してこれらを、Eco RI/Sal Iで切断したpFLAG−CMV5aベクターにライゲーションして、C末端にFLAGタグを有するMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)発現ベクターを構築した。
(2)発現、及び発現産物の精製
FreestyleTM 293 Expression system(Invitrogen)の説明書に従って、上記で調製した各発現ベクターをFreestyleTM 293−F細胞(Invitrogen)に一過的に遺伝子導入した。遺伝子導入から60時間後、培養上清を集め、細胞や不溶物を取り除くため遠心した。その後Triton X−100(終濃度1%)、EDTA(同5mM)、PMSF(同1mM)、アジ化ナトリウム(同0.02%)をそれぞれ上清に添加し、さらに抗FLAG affinity beads(Sigma)を添加して4℃で一晩撹拌した。抗FLAG affinity beadsを空のカラムに移し、TBS(10mM Tris−HCl(pH7.4)and 150mM NaCl)でビーズを洗浄した。洗浄後、ビーズに結合した各蛋白質を、100μg/mlのFLAGペプチドを含むTBSで溶出した。溶出した各蛋白質を、0.5mM EDTAを含む2mM CAPS緩衝液(pH 11.4)で透析してペプチドを除去し、精製された蛋白質を取得した。
以上の全長NN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAGについて予想される分子量は、それぞれ65kD、47kD、15kD、及び18kDである。しかし、これらの蛋白質を抗FLAG affinityカラム〔抗FLAGモノクローナル抗体(抗FLAG mAb)はSigmaから入手〕で精製し、還元条件下でSDS−PAGEで展開したところ、図5に示すように、NN−MAM以外の全ての蛋白質は予想されたサイズより大きな分子量となって検出された。なお、図5のA及びBにおいて、それぞれ右側は電気泳動後CBB(Coomassie Brilliant Blue R−250)染色した結果を、左側は電気泳動後、抗FLAG M2モノクローナル抗体(抗FLAG mAb)を用いて免疫ブロッキングを行った結果を示す。
上記の理由として、以前より報告されているように、RGDリンカー部位が多量のO−結合型糖鎖による修飾を受けている可能性が考えられた(Brandenberger,R.et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458;Morimura,N.et al.,(2001)J Biol Chem 276,42172−42181)。また、これらの蛋白質をシアリダーゼで処理したところ、SDS−PAGEによる見かけの分子量が低下した。このことからも、上記に示すように精製した蛋白質の見かけの分子量が予想と大きく異なるのが、シアル酸による翻訳後修飾のためであると考えられた。
(3)ネフロネクチンの分子像(電子顕微鏡)(図6)
精製したNN溶液(75μg/ml、3μl)を等量の2%酢酸ウラン溶液で30秒間染色し(ネガティブ染色)、その後、透過型電子顕微鏡(JEM−100CX,JEOL)で解析した。顕微鏡は加速電圧100キロボルトで実行し、映像は14bit deep CCD camera(TVIPS)で、2k x 2kピクセルの解像度でデジタル映像として記録した。結果を図6Aに示す。その結果、NNの単量体はV字型の構造であることが確認できた。電子顕微鏡写真の解析から推測される全長NNの分子構造を図6Cに示す。これに示すように、EGF様繰り返し配列とMAMドメインは互いに向き合い、リンカー部位が蝶つがいのようにこれらのドメインを繋いでいると推測された。また、単量体に加えて、多くの凝集した多量体も観察された。これはNNがNN自身と相互作用しうる可能性を示唆している。
実験例2 ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体のα8β1インテグリンへの結合活性
ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体のα8β1インテグリンに対する結合活性を調べるために、全長NN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAGを用いて、KA8細胞(インテグリンα8鎖を安定に発現する白血病細胞)及びその親細胞であるK562細胞に対する細胞接着アッセイを行った。
具体的には、まず、KA8細胞及びK562細胞をそれぞれ、予め30nMのNN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、またはNN−MAM−FLAGでコーティングしておいた96穴マイクロタイタープレートに播種し(5.0×104細胞/ウェル)、37℃、5%の二酸化炭素を含む加湿した空気内で2時間静置した。その後、接着した細胞を15分間、3.7%ホルムアルデヒドで固定化し、接着していない細胞をPBSで4回洗浄することによって除去し、0.1%トルイジンブルー入りPBSで10分間染色した。
KA8細胞に関する結果を図7に示す。図に示すように、KA8細胞は、全長NN−FLAG(図中、NNと表記)、NN−ΔMAM−FLAG(図中、ΔMAMと表記)、及びNN−RGD−FLAG(図中、RGDと表記)をコーティングしたプレート表面に接着し、いずれもよく伸長していた。しかし、図には示さないが、K562細胞は、上記の全長NN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、及びNN−RGD−FLAGをコーティングしたプレート表面に接着・伸展しなかった。一方、NN−MAM−FLAG(図中、MAMと表記)をコーティングしたプレート表面には、KA8細胞及びK562細胞のいずれも接着・伸展しなかった。また、図7からわかるように、全長NN−FLAG(NN)またはNN−ΔMAM−FLAG(ΔMAM)をコーティングしたプレート上の方が、NN−RGD−FLAGをコーティングしたプレート上よりも、細胞がよく伸展していることが観察された。
この結果から、全長のネフロネクチン(NN)は、インテグリンα8β1に対して結合活性と細胞伸展活性を有しており、インテグリンα5β1には結合活性を持たないことがわかる。また、上記の結果は、ネフロネクチン(NN)の主な接着活性部位は、RGDリンカー部位であること、そして、細胞伸展活性にはEGF様繰り返し配列の存在が必要であることを示している。
実験例3 基底膜蛋白質に対するネフロネクチンの結合性
ネフロネクチン(NN)は、基底膜に分布していることが知られている(Brandenberger,R.et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458;Miner,J.H.(2001)J Cell Biol 154,257−259)。そこで、NNの基底膜蛋白質(ECM蛋白質)との結合性について調べた。基底膜蛋白質として、異なるα鎖をもつ一連のラミニン〔マウスLN−1(α1)、ヒトLN−2/4(α2)、ヒトLN−5(α3)、ヒトLN−8(α4)、ヒトLN−10/11(α5)〕、ヒト血漿フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)、及び各種コラーゲン〔ヒトI型、IV型、V型コラーゲン、ニワトリII型コラーゲン〕を使用した。
(1)基底膜蛋白質の調製
なお、マウスLN−1はPaulssonの手法(Paulsson,M.,et al.,(1987)Eur J Biochem 166,11−19)に従い、マウスEngelbreth−Holm−Swarm腫瘍組織から精製した。ヒトLN−2/4は、ヒトLN−α2鎖に対するモノクローナル抗体を用いた免疫親和性クロマトグラフィーにより、ヒト胎盤より精製した。ヒトLN−5、LN−8、及びLN−10/11はそれぞれ、ヒト胃癌細胞MKN45(LN−5)、ヒト神経膠腫細胞T98G(LN−8)、及びヒト肺腺癌細胞A549(LN−10/11)の培養上清より、免疫親和性クロマトグラフィーを用いて、既述の通りに精製した(Fujiwara,H.et al.,(2001)J Biol Chem 276,17550−17558;Fukushima,Y.et al,(1998)Int J Cancer 76,63−72;Gu,J.,et al,(2002)J Biol Chem 277,19922−19928)。
ヒト血漿フィブロネクチン(FN)とビトロネクチン(VN)は、ヒト血漿から、それぞれゼラチン及びヘパリン親和性クロマトグラフィーによって、過去の文献に記載されている通りに精製した(Sekiguchi,K.,et al,(1983)J Biol Chem 258,14359−14365、Yatohgo,T.,et al,,(1988)Cell Struct Funct 13,281−292)。 ヒトI型、IV型及びV型コラーゲンと、ニワトリII型コラーゲンはSigma社より購入した。コラーゲンの分類型はBornstein and Traubの報告(Bornstein,P.et al,(1979)The Chemistry and Biology of Collagen,Third Ed.The Proteins(Neurath,H.,and Hill,R.L.,Eds.),IV.4vols.,ACADEMIC PRESS,New York)に従った。
(2)固相結合アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)
96穴プレートに、PBSにて希釈した各種の基底膜蛋白質(10nM)を、各ウェル50μlずつ添加して、4℃で一晩静置してコーティングした。その後、各ウェルに200μlの1%スキムミルク入りPBSを添加して室温で2時間静置してブロッキングした。その後1%BSAと0.1% Tween−20入りのPBSで3回ウエルを洗浄して、これに適時希釈したFLAG付きネフロネクチン(NN−FLAG)(0.3nM、3nM、及び30nM)を添加して1時間静置した。洗浄後、これに洗浄溶液で1000倍希釈した抗FLAG抗体(Sigma)を各ウェル50μlずつ添加して1時間室温で静置した。洗浄後、HRPを結合させたヤギ抗マウスIgG抗体(二次抗体)を3000倍希釈して各ウェルに50μlずつ加え、1時間静置した。
これを洗浄した後、オルトフェニレンジアミン溶液を各ウェル50μlずつ加えて10分間静置し発色させ、その後2.5M硫酸を各ウェル50μl加えて発色を停止した。各基底膜蛋白質に結合したFLAG付きネフロネクチン(NN−FLAG)の量は、490nmの吸光度(OD490nm)を測定することで算出した。結果を図8に示す。尚、図に示す各490nm吸光度値は、ブロッキング後、NN−FLAGを添加したときの値と、NN−FLAGを加えず抗FLAG抗体だけを添加したときの値をそれぞれ差し引いて算出した。図8からわかるように、ネフロネクチン(NN)は、LN−8、LN−10/11およびフィブロネクチン(FN)に特異的に、濃度依存的に結合した。ニワトリII型コラーゲンにも弱いながら結合が認められた。II型コラーゲンは正常軟骨組織に特異的に発現・局在している基底膜蛋白質であり、この結果はNNが軟骨形成・骨形成に関係しているという報告と関係しているかもしれない(Morimura,N.et al.,(2001)J Biol Chem 276,42172−42181)。
このアッセイにおいて、NNは、LN−8(α4β1γ1)及びLN−10/11(α5β1/2γ1)と同じβ鎖及びγ鎖を有するLN−2/4(α2β1/2γ1)に対して結合活性を示さなかったことから、NNのLN−8(α4β1γ1)やLN−10/11(α5β1/2γ1)への結合はLNのα鎖に依存していると考えられる。
(3)免疫共沈降アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)
上記で示された、LN−8(α4β1γ1)及びLN−10/11(α5β1/2γ1)に対するNNの結合特異性を、LN−2/4(α2β1/2γ1)とLN−10/11(α5β1/2γ1)を用いた免疫共沈降アッセイでさらに確認した。
具体的には、まず、1.5μgのLN−2/4もしくはLN−10/11と1.8μgのFLAGタグ付きNN(NN−FLAG)を、500μlの1% BSAと0.1% Tween−20を含むPBSに希釈し、抗FLAG抗体(4.9μg)または抗ヒトラミニンγ1鎖抗体(MAB1920、1μl)とProtein G−Sepharose(Amersham)を添加して4℃で一晩混和した。その後溶液を遠心してSepharoseビーズを回収し、ビーズを1% BSAと0.1% Tween−20を含むPBSで3回洗浄した。沈降物をSDS−PAGEで展開し、PVDF膜に転写し、得られたPVDF膜を5%スキムミルクと0.1% Tween−20入りTBS(ブロッキング緩衝液)で1時間ブロッキングした。ブロッキング緩衝液で2000倍希釈した抗ヒトラミニンγ1鎖抗体(MAB1920)でそのPVDF膜を浸し、0.1% Tween−20入りTBSで膜を洗浄後、HRPを付加したウサギ抗マウスIgG(二次抗体、ICN Parmaceuticals,Inc.社製)をPVDF膜と反応させた。その後、0.1% Tween−20入りTBSで洗浄し、ECLキット(Amersham)で検出した。
結果を図9に示す。図中、「F」は抗FLAG抗体(モノクローナル抗体)との結合反応を、「M」は抗ヒトラミニンγ1鎖抗体(モノクローナル抗体)(MAB1920)(Chemicon社製)との結合反応を意味している。図9からわかるように、NNは、LN−10/11(α5β1/2γ1)と共沈降したが、LN−2/4(α2β1/2γ1)とは共沈降しなかった。このことから、固相結合アッセイの場合と同様に、NNの結合はLNのα鎖に依存していると考えられる。
(4)ネフロネクチンのラミニン(LN−8、LN−10/11)への結合における二価イオン、NaCl及びヘパリンの影響
基底膜蛋白質間の蛋白−蛋白間相互作用は、アミノ酸側鎖の静電的相互作用、または疎水的相互作用(場合によってはその両方)を介して生じる。またある時は、二価金属イオンやヘパリンのような糖鎖も基底膜蛋白間の相互作用に関わっている。上記で得られたNNのLN−8、LN−10/11、FNに対する結合を媒介する相互作用はどのようなものかを解析するために、それぞれ10mM EDTA、0.5M NaCl、または1μg/mlヘパリン存在下で、上記(1)と同様の方法によって、NNのLN−8、LN−10/11、及びFNに対する固相結合アッセイを行った。なお、コントロールとして、上記成分の非存在下で同様に固相結合アッセイを行った。結果を図10に示す。図10からわかるように、NNのLN−8、LN−10/11に対する結合は、0.5M NaClまたは1μg/mlヘパリンの存在で抑制されたが、EDTAの依存の有無によっては殆ど変化がなかった。このことから、これらの結合が二価イオンに依存しないことが判明した。
また、0.5M NaClの存在下では、NNはLN−8やLN−10/11には結合しなかった。このことは、NNがLN−8、LN−10/11に対して、静電的相互作用によって結合していることを示唆している。同様の結果は1μg/mlヘパリン存在下でも見られた。この結果は、ヘパリンがNNのラミニン(LN)への相互作用に必要なNNもしくはLN内部の正電荷を覆っていることを示している。興味深いことに、NNのFNへの結合は0.5M NaCl存在下や1μg/mlヘパリン存在下で増加した。これはNNがFNへ疎水的相互作用で結合していることを示唆している(Eriksson,K.O.,et al.,(1989)Hydrophobic Interaction Chromatography.PROTEIN PURIFICATION−Principles,High Resolution Methods,and Applications−(Janson,J.−C.,and Ryden,L.,Eds.).7vols.,VCH Publishers,Inc.,New York)これらの結果から、NNのLNへの結合特性は、FNへの結合特性とは全く異なるものであることが示された。
実験例4 ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体のラミニン(LN−10/11)に対する結合活性
ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体のラミニン(LN−10/11)に対する結合活性を調べるために、図4に示すドメイン構造を有する全長NN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAGを用いて、ラミニン(LN−10/11)に対する固相結合アッセイを行った。
具体的には、ラミニン(LN−10/11)でコーティングした96穴プレートを1%スキムミルクでブロッキングし、これに段階希釈したFLAG付きネフロネクチン(NN−FLAG)またはその欠損変異体(NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、NN−MAM−FLAG)を添加して1時間静置して反応させた。洗浄後、ラミニンに結合したNN−FLAG及びその欠損変異体を、実験例2の方法に従って、抗FLAG M2 mAb(Sigma)及びHRPを融合させたヤギ抗マウスIgG抗体(二次抗体)を用いた酵素結合免疫吸着検定を行い定量化した。結果を図11に示す。
図11からわかるように、NN−RGD−FLAGの結果から、全長NN−FLAGからMAMドメインとEGF様繰り返し配列を欠失させることにより、ラミニン(LN−10/11)に対する結合活性が完全に消失することが分かった。一方、MAMドメインを有するNN−MAM−FLAGは、全長NN−FLAGより弱いもののラミニン(LN−10/11)に対して結合活性を示し、またMAMドメインを欠損したNN−ΔMAM−FLAG(EGF様繰り返し配列とRGDリンカー部位を有する)もまたNN−MAM−FLAGより弱いが、ラミニン(LN−10/11)に対して結合活性を示した。
これらのことから、ネフロネクチンのラミニン(LN−10/11)への結合は主にMAMドメインが担っており、EGF様繰り返し配列も弱いながらもラミニン(LN−10/11)に対する結合部位であることが判明した。しかし、いずれもドメインも単独ではラミニン(LN−10/11)に対する結合活性は低く、全長のネフロネクチンが最も高い結合活性を示した。
実験例5 ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体(NN−MAM−FLAG)の成体マウス腎臓(髄質)の基底膜に対する結合性
成体マウスの腎臓を70%エタノール中で固定し、その後パラフィン中に包埋し、6μmの厚さの切片にした。切片は脱パラフィン操作をした後、DAKO peroxidase blocking reagent(Dako Cytomation USA)により内在性ペルオキシダーゼをブロッキングし、続いて1%BSAを含むPBS(ブロッキングバッファー)で1時間、室温でインキュベートして切片をブロッキングした。その後、PBSで希釈したNN−FLAG(12μg/ml)、NN−MAM−FLAG(16μg/ml)、もしくはブロッキングバッファー(PBS)をそれぞれ切片に添加して、1時間、室温でインキュベートした。次いで、得られた切片を、PBSで洗浄して結合していないNN−FLAG及びNN−MAM−FLAGを除去した後、ブロッキングバッファーで1:200に希釈したHRP−conjugated anti−FLAG M2 monoclonal antibody(SIGMA)を添加し、1時間、室温でインキュベートした。洗浄後、ジアミノベンジジン(DAB)によって発色反応を行い、腎臓組織におけるNN−FLAGまたはNN−MAM−FLAGの結合の有無を顕微鏡にて確認した。結果を図12に示す。
図12に示しているのは腎臓の髄質部分の拡大写真である(スケールバー:50μm)。図A及びBの結果から、尿細管の外側が、それぞれNN−MAM−FLAG及びNN−FLAGにより、基底膜様に染色されていることが分かる(褐色に染色)。これまでの実験結果から総合すると、NN−MAM−FLAG及びNN−FLAGは、腎臓の基底膜に存在するLN−10/11もしくはLN−8と結合することによって、基底膜に特異的に結合しているものと考えられる。
この結果は、ネフロネクチンのMAMドメイン及びMAMドメインを有するポリペプチド(ネフロネクチン)は、LN−10/11もしくはLN−8への結合性に基づいて、実際の生体組織の基底膜に対しても配向性及び結合性を有していることを示すものである。また、この結果は、基底膜をターゲットとしたドラッグデリバリーシステムにおいて、MAMドメイン及びMAMドメインを有するポリペプチドが有用であることを示唆するものである。
実験例6 基底膜蛋白質に対するMAEGタンパクの結合性
上記実験例4の結果から、ネフロネクチン(NN)のMAMドメインがラミニン(LN−10/11)に対する主要な結合部位であることが判明した。このことから、同様にMAMドメインを有しNNと相同性を有するMAEG(MAM−and EGF−containing gene)蛋白質もまたラミニン(LN−10/11)と結合する能力を有していると考えられた(The Journal of Cell Biology,Vol.154,No.2,2001,447−458;Genomics 65,16−23(2000))。
そこで、これを確認するために、NNとMAEG蛋白質の両方のMAMドメインをGST融合蛋白質(GST−NN−MAM、GST−MAEG−MAM)として発現精製し、一連のラミニン〔マウスLN−1(α1)、ヒトLN−2/4(α2)、ヒトLN−5(α3)、ヒトLN−8(α4)、ヒトLN−10/11(α5)〕に対する結合活性を、抗GSTモノクローナル抗体(抗GST mAb:Zymed Laboratories Inc.)を用いて、実験例3(2)に記載する固相結合アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)に準じて(ブロッキング溶液として、1%スキムミルク入りPBSに代えて、1%BSA入りPBSを使用)、測定した。
なお、上記GST融合蛋白質(GST−NN−MAM、GST−MAEG−MAM)は、まず、それぞれ5’−GAATTCCACAGCTGCAATTTTGACCAT−3’(forward)(配列番号33)と5’−GTCGACTCAGCAGCGACCTCTTTTCAA−3’(reverse)(配列番号34)、及び5’−CCGAATTCTCAGTTGACTGCAGCTTTGATC−3’(forward)(配列番号35)と5’−AACTCGAGTCAACCTTCTACAGATAAAAAG−3’(reverse)(配列番号36)の各2種類のプライマーを用いて、受精後13.5日マウス胚のcDNAライブラリーを鋳型として増幅したcDNA断片(PCR増幅産物)を、タグとしてGSTを有するpGEX−4T−1ベクター(Amersham Bioscience)に、そのGST部位とコドンが合うように挿入して、発現ベクターを作成し、これを大腸菌BL21に導入して、グルタチオン−セファロースビーズ(Amersham)を用いて精製することによって作成した。
結果を図13に示す。図AがGST融合蛋白質(GST−MAEG−MAM)のラミニンに対する結合性をみた結果であり、図BがGST融合蛋白質(GST−NN−MAM)のラミニンに対する結合性をみた結果である。この結果、前述の結果で示した通り、NNのMAMドメインはラミニンのうちLN−8とLN−10/11に特異的に結合するのに対し、MAEG蛋白質のMAMドメインはラミニン(LN−5)に特異的に結合した。このことはMAEGタンパクのMAMドメインはラミニンに結合するものの、その結合特異性はNNのMAMドメインと明らかに異なっていることを示す。
前述するように、ラミニンはα鎖のタイプによって大きく5種類に分類されており、各種が異なる組織に発現し分布していることが知られている(表1)。例えばLN−5(α3β3γ2)は皮膚・肺・その他上皮組織に、LN−8(α4β1γ1)は血管(毛細血管、新生血管)に、LN−10(α5β1γ1)及びLN−11(α5β2γ1)は大血管(太い血管)、腎臓、肺、膵臓、その他多くの上皮組織に発現し分布している。そして、MAEG蛋白質とNNは、互いに異なる組織局在性を示していることが知られている。
こうした事実、並びに上記実験で得られた結果から、NNとMAEG蛋白質の特異的な組織局在性は、NNとMAEG蛋白質の各々が有するMAMドメインのラミニン結合特異性が関与している可能性が考えられる。すなわち、NNとMAEGタンパクの組織局在性・結合特異性は、各タンパクが有するMAMドメインによって決められていると推測される。そしてMAMドメインに応じて異なる組織特異性(発現・結合)を有する蛋白質(NNとMAEG蛋白質)は、個々に特異的な組織の基底膜で機能し、器官形成や各種現象を制御するものと考えられる。
実験例7 ネフロネクチンとラミニン(LN−10)の結合様式
上皮細胞によって発現されたネフロネクチン(NN)は基底膜に蓄積し、間充織細胞へ何らかの影響を及ぼしていることが知られている(Brandenberger,R.et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458)。一方で、ラミニン(LN−10)は基底膜に存在しGドメインを介して上皮細胞へシグナルを伝達していると報告されている(Ido,H.et al.,(2003)J Biol Chem)。このことから、LN−10におけるNN結合部位の同定は、NNの生理的・分子的機能を解明するための重要な情報を与えてくれると思われる。そこで、組換えLN−10(rLN−10)とそのGドメイン欠損変異体(LN−10ΔG)を用いて、LN−10におけるNNの結合部位を固相結合アッセイにより解析した。なお、組換えLN−10(rLN−10)とそのGドメイン欠損変異体(LN−10ΔG)は、文献(Ido,H.,et al.,(2003)J Biol Chem)に記載されている方法に従って調製した。
具体的には、全長NN(NN−FLAG)とそのMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)について、それぞれ組換えLN−10(rLN−10)とそのGドメイン欠損変異体(LN−10ΔG)に対する結合活性を、実験例3に記載する固相結合アッセイ法に準じて調べた。結果を図14に示す。
図14に示すように、全長NN(NN−FLAG)のLN−10ΔGに対する結合は、rLN−10に対する結合と比較して約40%まで減少した。一方、NNのMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)のLN−10ΔGに対する結合とrLN−10に対する結合強度はほとんど同じレベルであった。また、NNのMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)のrLN−10に対する結合は全長NNの結合に比べて弱いレベルの結合であったが、このレベルは全長NNのLN−10ΔGに対する結合とほとんど同レベルであった。
これらの結果は、ネフロネクチン(NN)とラミニン(LN−10)の結合には、ラミニン(LN−10)のGドメインが重要であること、すなわち、NNはLN−10のGドメインを介してLN−10に結合すること、そして、Gドメインとの結合にNNのMAMドメインは寄与していないことを示している。前述する実験例4において、NNはEGF様繰り返し配列とMAMドメインを介してLN−10/11に結合することを示した(図11)。これらのことから総合すると、NNのMAMドメインはLN−10のGドメイン以外の部位、恐らくロッド部位に結合し、一方、NNのEGF様繰り返し配列はLN−10のGドメインと結合していると考えられる。
実験例8 マウス腎臓におけるネフロネクチン(NN)とLN−α5鎖の局在性
LN−10/11のα鎖であるLN−α5鎖に対するNNの生体内での結合性を評価するため、マウスの腎臓組織におけるNN及びLN−α5鎖の局在を、免疫組織化学的染色法によって調べた。なお、NNは成体マウスの腎臓で発現していることが知られている(Morimura,N.,et al.,(2001)J Biol Chem 276,42172−42181;Transgenic Inc.,Data sheet of anti−POEM/nephronectin polyclonal antibody,Rabbit)。
なお、免疫組織化学的染色は次のようにして行った。まず、腎臓を成体マウス個体から採取し、4% パラホルムアルデヒドで15分間、室温で固定、OCTコンパウンド(Tissue Tek社)に包埋した。その腎臓の3〜5μm凍結切片を1% BSAを含むPBS(ブロッキング緩衝液)でブロッキングし、ブロッキング緩衝液で洗浄した。その後、切片にブロッキング緩衝液で希釈した12μg/mlの抗POEM/nephronectin抗体(抗NN抗体:トランスジェニック社)、または同100倍希釈の抗LN−α5鎖抗血清(アメリカ・ワシントン大学J.H.Miner博士より譲渡)を添加して、室温で1時間静置した。その後、ABCキット(Vector Laboratories)を用いて検出した。
結果を図15に示す。図Aは抗POEM/nephronectin抗体(抗NN抗体)で免疫染色した結果であり、図Bは抗LN−α5鎖抗血清で免疫染色した結果である。この結果からわかるように、NNは腎糸球体基底膜に局在しており、そこではLN−α5鎖も同様に強く発現していた。このことはNNがLN−α5鎖と生体内でも共局在していることを示唆している。
<考察>
以上の実験から得られた知見を次のように纏めることができる。
(1)ネフロネクチン(NN)は、基底膜を構成する主要タンパクであるラミニンLN−8(α4β1γ1)とLN−10/11(α5β1/2γ1)に選択的に結合する。一方、これらのラミニンと同じβ鎖とγ鎖を有するLN−2/4(α2β1/2γ1)とは結合しない。
この結果は、NNはラミニンのα4鎖又はα5鎖に結合することを示唆している。また、α5鎖を有するラミニン(LN−10とLN−11)が特異的に発現分布している組織は腎臓であるが、我々は上記知見を裏付ける実験結果として、NNとLN−α5鎖が成体マウス腎臓の同じ部位、つまり腎糸球体基底膜に局在することを確認している。
これらのことから、発生期の腎臓において、NNはラミニンのα4鎖又はα5鎖に対する結合を介して基底膜に選択的に組み込まれると想定できる。なお、ラミニンのα4鎖とα5鎖の発生期腎臓における局在がNNの局在と非常に似通っているという報告(Miner,J.H.(2001)J Cell Biol 154,257−259:Miner,J.H.,et al.,(1997)J Cell Biol 137,685−701)、並びにLN−α4鎖及びLN−α5鎖が存在しない基底膜にはNNの局在も見られないという報告(Kanwar,Y.S.,et al.,(2004)Am J Physiol Renal Physiol 286,F202−215)があるが、これらは上記の見解を支持するものである。
(2)ネフロネクチン(NN)は、MAMドメインをhigh affinity siteとして、EGF様繰り返し配列をlow affinity siteとして、LN−10/11と結合する。但し、これらの各ドメインのLN−10/11に対する結合活性は、全長NNが有する結合活性に比して非常に弱いものである。
(3)全長のネフロネクチン(NN)は、ラミニン(LN−10)のGドメインを介してLN−10と結合している。しかし、ラミニン(LN−10)のGドメインはNNのMAMドメインとは結合しない。このことから、NNの基底膜の組み込みには、基底膜の構成タンパクであるラミニンのGドメインが必要であると考えられる。
上記(2)と(3)のことから、NNとラミニン(LNのα5又はα4鎖)の結合様式として、まずラミニンのGドメイン以外の部位にNNのMAMドメインが結合し、その後、その結合を安定化させるように、ラミニンのGドメイン部位にEGF様繰り返し配列が結合して、全長NNの結合を安定化している可能性が考えられる。また、全長のNNは、多量体形成が認められたが、これはLN−10/11に結合したNNに、さらに他のNNが結合することによって形成される可能性が考えられる。
ところで、インテグリンα8β1は、発生期腎臓の間充織で豊富に発現している蛋白質であり、インテグリンα8β1が欠損したマウスは深刻な腎臓発生欠損を示すことが知られている(Muller,U.,,et al.,(1997)Cell 88,603−613)。さらに、インテグリンα8β1はネフロネクチン(NN)の受容体であることがin vitro、in vivo両方の系で示されている(Brandenberger,R.,et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458)。これらのことから、NNはα8β1インテグリンを介して後腎間充織にシグナルを伝達し、腎臓形態形成の制御に関与していると思われる。さらに、LN−α5鎖とインテグリンα3β1もまた、腎臓の器官形成に必要不可欠であると報告されている(Miner,J.H.,et al.,(2000)Dev Biol 217,278−289;Kreidberg,J.A.,et al.,(1996)Development 122,3537−3547)。
これらのことから、腎臓形態形成に必要不可欠な経路が少なくとも2つあると考えられる。1つはNNとα8β1インテグリンを介して後腎間充織の分化誘導を調節する経路であり、もう一つは、LNα5とα3β1インテグリンを介して尿管芽上皮の伸展や分岐を調節する経路である。上記の実験から、これらの経路は互いに独立したものではなく、NNとLN−α5鎖との相互作用によって連結している可能性が考えられる。以上のことから、前述する(1)の見解を補足すると、発生期の腎臓において、NNは、ラミニンのα5鎖(またはα4鎖)に対する結合を介して基底膜に選択的に組み込まれ、その部位にある細胞にα8β1インテグリン及びα3β1インテグリンを介してシグナルを伝達していると推測される。
本発明において、ネフロネクチン(NN)が基底膜の構成蛋白質であるラミニンのLN−α4鎖とα5鎖に特異的に相互作用することを見いだした。NNはMAMドメインを含む珍しいECM蛋白質の1つである。他に知られているMAMドメイン含有蛋白質としては、MAEG、メプリン、ニューロピリン(A5蛋白質)、受容体蛋白質チロシン脱リン酸化酵素μ/κを挙げることができる。
さらに、本発明において、NNのMAMドメインがラミニンへの結合に強く関与していること、MAMドメインの種類によってラミニン結合特異性が異なることを見いだした。例えば、NNのMAMドメインはLN−8及びLN−10/11に選択的に結合するのに対し、MAEGのMAMドメインはLN−8及びLN−10/11には結合せず、LN−5に選択的に結合する。
MAMドメインは蛋白−蛋白間相互作用、特にMAMドメイン間の同種親和的な相互作用に必要であると考えられている。例えば、金属プロテアーゼの一種であるメプリンは、そのMAMドメインを介して巨大な多量体を形成する(Ishmael,F.T.,et al.,(2001)J Biol Chem 276,23207−23211)。膜貫通蛋白質でありセマフォリンの受容体であるニューロピリンの場合、そのMAMドメインは細胞表面上で互いに相互作用し二量体を形成する(Chen,H.,et al.,(1998)Neuron 21,1283−1290)。受容体型蛋白質チロシン脱リン酸化酵素μとκは、MAMドメインを介して細胞−細胞間で同種親和的な相互作用を示す(Zondag,G.C.,et al.,(1995)J Biol Chem 270,14247−14250)。本発明の結果は、MAMドメインが、それを含む各蛋白質に結合特異性を与えていることを示唆している。すなわち、上記実験における知見は、MAMドメイン及びそれを含む蛋白質は、各MAMドメインの組織特異性に応じて、特定の組織指向性を備えており、これによって、例えば特定の組織に有用な物質を運ぶ運搬体として利用できる可能性を示すものである。
BSA:bovine serum albumin(ウシ血清アルブミン)
CBB:Coomasie Brilliant Blue(クーマシーブリリアントブルー)
ECM:extracellular matrix(細胞外マトリックス)
EDTA:ethylenediaminetetraacetic acid(エチレンジアミン四酢酸)
EGF:epidermal growth factor(上皮増殖因子)
GST:glutathione S−transferase(グルタチオン転移酵素)
kD:kilo dalton(キロダルトン)
HRP:horseradish peroxidase(西洋ワサビ過酸化酵素)
mAb:monoclonal antibody(モノクローナル抗体)
MAM domain:meprin,A5 protein,receptor protein−tyrosine phosphatase−μ domain(メプリン、A5蛋白質、受容体型蛋白質チロシン脱リン酸化酵素ミュードメイン)
MBP:maltose−binding protein(マルトース結合蛋白質)
PBS:phosphate−buffered saline(リン酸緩衝化生理食塩水)
PCR:polymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)
PVDF:polyvinilidene difluoride(ポリビニリデンジフルオリド)
PMSF:phenylmethylsulfonyl fluoride(フェニルメタンスルホニルフルオリド)
SDS−PAGE:sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
TBS:Tris−buffered saline(トリス緩衝化生理食塩水)
実験例1 FLAG付きネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体の発現ベクターの構築、並びにその発現産物の精製
(1)発現ベクターの構築
ネフロネクチン(NN)は、EGF様繰り返し配列(EGF−like repeat)、RGD細胞接着モチーフを含むリンカー部位、及びMAMドメイン(MAM domain)から構成されている(Brandenberger,R.et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458;Morimura,N.et al.,(2001)J Biol Chem 276,42172−42181)。マウス由来のネフロネクチン(NN)を用いて、NN(全長)、EGF様繰り返し配列(NN−EGFと略)、NNからMAMドメインを欠失させたもの(NN−ΔMAMと略)、RGDリンカー部位(NN−RGDと略)、及びMAMドメイン(NN−MAMと略)の各々について、それぞれC末端にFLAGタグ(Sigma社)を付加した発現ベクターを構築した。図1に、C末端にFLAGタグを付加した各タンパク質のドメイン構造を示す(但し、NN−EGFは示さず)。
(a)FLAG付き全長ネフロネクチン(NN−FLAG)の発現ベクターの構築(図2)
NN−FLAGは、全長NN(マウス)のcDNAを、3’末端のFLAGタグとコドンが合うようにpFLAG−CMVベクターに挿入することによって作成した。具体的には、まず、NN(マウス)のcDNA配列(5’−非翻訳領域、open reading frame(ORF)、及び3’−非翻訳領域の全てを含む2541bp)を、図中矢印で示すプライマー(forward primer:−5bpからスタート、Eco RI部位付き、reverse:1683bp(ストップコドン削除)からスタート、Not I部位付き)を用いてPCR増幅し、得られたPCR産物を、pCI−kanaベクターのEco RI/Not I部位に挿入してベタターを作成した。次いで、このベクターをNot Iで切断し、T4 polymeraseで平滑末端に処理した後、Eco RIで切断した。これを、同様に処理したpFLAG−CMV5aベクター(Pst Iで切断し、T4 polymeraseで平滑末端に処理した後、Eco RIで切断処理)とライゲーションして、C末端にFLAGタグを有する全長ネフロネクチン発現ベクターを構築した。
(b)FLAG付きMAMドメイン欠損NN(NN−ΔMAM−FLAG)の発現ベクターの構築
NN(マウス)のcDNA配列(5’−非翻訳領域、open reading frame(ORF)、及び3’−非翻訳領域の全てを含む2541bp)を、pBlueScriptのmulti−cloning部位(5’−Sal I/Xho I、3’−Bam HI部位)に挿入して調製したベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GAATTCGAGATCCCGGGACGC−3’(配列番号23)、reverse:5’−GTCGACGTCGTCCTTTCATTCCTC−3’(配列番号24)〕を用いて、PCR法(KOD plus DNA polymerase,TOYOBO)により、その−61〜1242bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、EcoR V cut/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した後、Eco RI/Sal Iで切断してこれを、同じくEco RI/Sal Iで切断したpFLAG−CMV5aベクターにライゲーションして、C末端にFLAGタグを有するMAMドメイン欠損ネフロネクチン(NN−ΔMAM−FLAG)発現ベクターを構築した。
(c)FLAG付きRGDリンカー部位(NN−RGD−FLAG)の発現ベクターの構築
i)NN(マウス)のcDNA配列(5’−非翻訳領域、open reading frame(ORF)、及び3’−非翻訳領域の全てを含む2541bp)を、pBlueScriptのmulti−cloning部位(5’−Sal I/Xho I、3’−Bam HI部位)に挿入して調製したベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GAATTCGAGATCCCGGGACGC−3’(配列番号25)、reverse:5’−GGGCCCGTCGAAGTCGGCAGC−3’(配列番号26)〕を用いて、PCR法(KOD plus DNA polymerase,TOYOBO)により、その−61〜69bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、EcoR V cut/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した。
ii)一方、上記NN(マウス)のcDNA配列を含むベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GGGCCCAAAGTCATGATTGAAC−3’(配列番号27)、reverse:5’−GTCGACGTCGTCCTTTACTTCCTC−3’(配列番号28)を用いて、PCR法(LA taq polymerase,TAKARA,GCI buffer使用)により、その769−1242bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、EcoR V cut/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した。
iii)上記i)及びii)で調製したPCR産物をそれぞれEco RI/Apa I及びApa I/Sal Iで切断してこれらを、Eco RI/Sal Iで切断したpFLAG−CMV5aベクターにライゲーションして、C末端にFLAGタグを有するRGDリンカー部位(NN−RGD−FLAG)発現ベクターを構築した。
(d)FLAG付きMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)の発現ベクターの構築
i)NN(マウス)のcDNA配列(5’−非翻訳領域、open reading frame(ORF)、及び3’−非翻訳領域の全てを含む2541bp)を、pBlueScriptのmulti−cloning部位(5’−Sal I/Xho I、3’−Bam HI部位)に挿入して調製したベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GAATTCGAGATCCCGGGACGC−3’(配列番号29)、reverse:5’−GGGCCCGTCGAAGTCGGCAGC−3’(配列番号30)〕を用いて、PCR法(KOD plus DNA polymerase,TOYOBO)により、その−61〜69bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、EcoR V cut/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した。
ii)一方、上記NN(マウス)のcDNA配列を含むベクターを鋳型として、図中矢印で示す2種類のプライマー〔forward:5’−GGGCCCGGTATTCTCATACACAGC−3’(配列番号31)、5’−GTCGACGCAGCGACCTCTTTTCAAG−3’(配列番号32)を用いて、PCR法(LA taq polymerase,TAKARA,GCI buffer使用)により、その1243−1683bpの領域を増幅した。得られたPCR産物を、Eco RI/BAP処理したpBlueScript II KS+にサブクローニングして配列を確認した。
iii)上記i)及びii)で調製したPCR産物をそれぞれEco RI/Apa I及びApa I/Sal Iで切断してこれらを、Eco RI/Sal Iで切断したpFLAG−CMV5aベクターにライゲーションして、C末端にFLAGタグを有するMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)発現ベクターを構築した。
(2)発現、及び発現産物の精製
FreestyleTM 293 Expression system(Invitrogen)の説明書に従って、上記で調製した各発現ベクターをFreestyleTM 293−F細胞(Invitrogen)に一過的に遺伝子導入した。遺伝子導入から60時間後、培養上清を集め、細胞や不溶物を取り除くため遠心した。その後Triton X−100(終濃度1%)、EDTA(同5mM)、PMSF(同1mM)、アジ化ナトリウム(同0.02%)をそれぞれ上清に添加し、さらに抗FLAG affinity beads(Sigma)を添加して4℃で一晩撹拌した。抗FLAG affinity beadsを空のカラムに移し、TBS(10mM Tris−HCl(pH7.4)and 150mM NaCl)でビーズを洗浄した。洗浄後、ビーズに結合した各蛋白質を、100μg/mlのFLAGペプチドを含むTBSで溶出した。溶出した各蛋白質を、0.5mM EDTAを含む2mM CAPS緩衝液(pH 11.4)で透析してペプチドを除去し、精製された蛋白質を取得した。
以上の全長NN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAGについて予想される分子量は、それぞれ65kD、47kD、15kD、及び18kDである。しかし、これらの蛋白質を抗FLAG affinityカラム〔抗FLAGモノクローナル抗体(抗FLAG mAb)はSigmaから入手〕で精製し、還元条件下でSDS−PAGEで展開したところ、図5に示すように、NN−MAM以外の全ての蛋白質は予想されたサイズより大きな分子量となって検出された。なお、図5のA及びBにおいて、それぞれ右側は電気泳動後CBB(Coomassie Brilliant Blue R−250)染色した結果を、左側は電気泳動後、抗FLAG M2モノクローナル抗体(抗FLAG mAb)を用いて免疫ブロッキングを行った結果を示す。
上記の理由として、以前より報告されているように、RGDリンカー部位が多量のO−結合型糖鎖による修飾を受けている可能性が考えられた(Brandenberger,R.et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458;Morimura,N.et al.,(2001)J Biol Chem 276,42172−42181)。また、これらの蛋白質をシアリダーゼで処理したところ、SDS−PAGEによる見かけの分子量が低下した。このことからも、上記に示すように精製した蛋白質の見かけの分子量が予想と大きく異なるのが、シアル酸による翻訳後修飾のためであると考えられた。
(3)ネフロネクチンの分子像(電子顕微鏡)(図6)
精製したNN溶液(75μg/ml、3μl)を等量の2%酢酸ウラン溶液で30秒間染色し(ネガティブ染色)、その後、透過型電子顕微鏡(JEM−100CX,JEOL)で解析した。顕微鏡は加速電圧100キロボルトで実行し、映像は14bit deep CCD camera(TVIPS)で、2k x 2kピクセルの解像度でデジタル映像として記録した。結果を図6Aに示す。その結果、NNの単量体はV字型の構造であることが確認できた。電子顕微鏡写真の解析から推測される全長NNの分子構造を図6Cに示す。これに示すように、EGF様繰り返し配列とMAMドメインは互いに向き合い、リンカー部位が蝶つがいのようにこれらのドメインを繋いでいると推測された。また、単量体に加えて、多くの凝集した多量体も観察された。これはNNがNN自身と相互作用しうる可能性を示唆している。
実験例2 ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体のα8β1インテグリンへの結合活性
ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体のα8β1インテグリンに対する結合活性を調べるために、全長NN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAGを用いて、KA8細胞(インテグリンα8鎖を安定に発現する白血病細胞)及びその親細胞であるK562細胞に対する細胞接着アッセイを行った。
具体的には、まず、KA8細胞及びK562細胞をそれぞれ、予め30nMのNN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、またはNN−MAM−FLAGでコーティングしておいた96穴マイクロタイタープレートに播種し(5.0×104細胞/ウェル)、37℃、5%の二酸化炭素を含む加湿した空気内で2時間静置した。その後、接着した細胞を15分間、3.7%ホルムアルデヒドで固定化し、接着していない細胞をPBSで4回洗浄することによって除去し、0.1%トルイジンブルー入りPBSで10分間染色した。
KA8細胞に関する結果を図7に示す。図に示すように、KA8細胞は、全長NN−FLAG(図中、NNと表記)、NN−ΔMAM−FLAG(図中、ΔMAMと表記)、及びNN−RGD−FLAG(図中、RGDと表記)をコーティングしたプレート表面に接着し、いずれもよく伸長していた。しかし、図には示さないが、K562細胞は、上記の全長NN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、及びNN−RGD−FLAGをコーティングしたプレート表面に接着・伸展しなかった。一方、NN−MAM−FLAG(図中、MAMと表記)をコーティングしたプレート表面には、KA8細胞及びK562細胞のいずれも接着・伸展しなかった。また、図7からわかるように、全長NN−FLAG(NN)またはNN−ΔMAM−FLAG(ΔMAM)をコーティングしたプレート上の方が、NN−RGD−FLAGをコーティングしたプレート上よりも、細胞がよく伸展していることが観察された。
この結果から、全長のネフロネクチン(NN)は、インテグリンα8β1に対して結合活性と細胞伸展活性を有しており、インテグリンα5β1には結合活性を持たないことがわかる。また、上記の結果は、ネフロネクチン(NN)の主な接着活性部位は、RGDリンカー部位であること、そして、細胞伸展活性にはEGF様繰り返し配列の存在が必要であることを示している。
実験例3 基底膜蛋白質に対するネフロネクチンの結合性
ネフロネクチン(NN)は、基底膜に分布していることが知られている(Brandenberger,R.et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458;Miner,J.H.(2001)J Cell Biol 154,257−259)。そこで、NNの基底膜蛋白質(ECM蛋白質)との結合性について調べた。基底膜蛋白質として、異なるα鎖をもつ一連のラミニン〔マウスLN−1(α1)、ヒトLN−2/4(α2)、ヒトLN−5(α3)、ヒトLN−8(α4)、ヒトLN−10/11(α5)〕、ヒト血漿フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)、及び各種コラーゲン〔ヒトI型、IV型、V型コラーゲン、ニワトリII型コラーゲン〕を使用した。
(1)基底膜蛋白質の調製
なお、マウスLN−1はPaulssonの手法(Paulsson,M.,et al.,(1987)Eur J Biochem 166,11−19)に従い、マウスEngelbreth−Holm−Swarm腫瘍組織から精製した。ヒトLN−2/4は、ヒトLN−α2鎖に対するモノクローナル抗体を用いた免疫親和性クロマトグラフィーにより、ヒト胎盤より精製した。ヒトLN−5、LN−8、及びLN−10/11はそれぞれ、ヒト胃癌細胞MKN45(LN−5)、ヒト神経膠腫細胞T98G(LN−8)、及びヒト肺腺癌細胞A549(LN−10/11)の培養上清より、免疫親和性クロマトグラフィーを用いて、既述の通りに精製した(Fujiwara,H.et al.,(2001)J Biol Chem 276,17550−17558;Fukushima,Y.et al,(1998)Int J Cancer 76,63−72;Gu,J.,et al,(2002)J Biol Chem 277,19922−19928)。
ヒト血漿フィブロネクチン(FN)とビトロネクチン(VN)は、ヒト血漿から、それぞれゼラチン及びヘパリン親和性クロマトグラフィーによって、過去の文献に記載されている通りに精製した(Sekiguchi,K.,et al,(1983)J Biol Chem 258,14359−14365、Yatohgo,T.,et al,,(1988)Cell Struct Funct 13,281−292)。 ヒトI型、IV型及びV型コラーゲンと、ニワトリII型コラーゲンはSigma社より購入した。コラーゲンの分類型はBornstein and Traubの報告(Bornstein,P.et al,(1979)The Chemistry and Biology of Collagen,Third Ed.The Proteins(Neurath,H.,and Hill,R.L.,Eds.),IV.4vols.,ACADEMIC PRESS,New York)に従った。
(2)固相結合アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)
96穴プレートに、PBSにて希釈した各種の基底膜蛋白質(10nM)を、各ウェル50μlずつ添加して、4℃で一晩静置してコーティングした。その後、各ウェルに200μlの1%スキムミルク入りPBSを添加して室温で2時間静置してブロッキングした。その後1%BSAと0.1% Tween−20入りのPBSで3回ウエルを洗浄して、これに適時希釈したFLAG付きネフロネクチン(NN−FLAG)(0.3nM、3nM、及び30nM)を添加して1時間静置した。洗浄後、これに洗浄溶液で1000倍希釈した抗FLAG抗体(Sigma)を各ウェル50μlずつ添加して1時間室温で静置した。洗浄後、HRPを結合させたヤギ抗マウスIgG抗体(二次抗体)を3000倍希釈して各ウェルに50μlずつ加え、1時間静置した。
これを洗浄した後、オルトフェニレンジアミン溶液を各ウェル50μlずつ加えて10分間静置し発色させ、その後2.5M硫酸を各ウェル50μl加えて発色を停止した。各基底膜蛋白質に結合したFLAG付きネフロネクチン(NN−FLAG)の量は、490nmの吸光度(OD490nm)を測定することで算出した。結果を図8に示す。尚、図に示す各490nm吸光度値は、ブロッキング後、NN−FLAGを添加したときの値と、NN−FLAGを加えず抗FLAG抗体だけを添加したときの値をそれぞれ差し引いて算出した。図8からわかるように、ネフロネクチン(NN)は、LN−8、LN−10/11およびフィブロネクチン(FN)に特異的に、濃度依存的に結合した。ニワトリII型コラーゲンにも弱いながら結合が認められた。II型コラーゲンは正常軟骨組織に特異的に発現・局在している基底膜蛋白質であり、この結果はNNが軟骨形成・骨形成に関係しているという報告と関係しているかもしれない(Morimura,N.et al.,(2001)J Biol Chem 276,42172−42181)。
このアッセイにおいて、NNは、LN−8(α4β1γ1)及びLN−10/11(α5β1/2γ1)と同じβ鎖及びγ鎖を有するLN−2/4(α2β1/2γ1)に対して結合活性を示さなかったことから、NNのLN−8(α4β1γ1)やLN−10/11(α5β1/2γ1)への結合はLNのα鎖に依存していると考えられる。
(3)免疫共沈降アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)
上記で示された、LN−8(α4β1γ1)及びLN−10/11(α5β1/2γ1)に対するNNの結合特異性を、LN−2/4(α2β1/2γ1)とLN−10/11(α5β1/2γ1)を用いた免疫共沈降アッセイでさらに確認した。
具体的には、まず、1.5μgのLN−2/4もしくはLN−10/11と1.8μgのFLAGタグ付きNN(NN−FLAG)を、500μlの1% BSAと0.1% Tween−20を含むPBSに希釈し、抗FLAG抗体(4.9μg)または抗ヒトラミニンγ1鎖抗体(MAB1920、1μl)とProtein G−Sepharose(Amersham)を添加して4℃で一晩混和した。その後溶液を遠心してSepharoseビーズを回収し、ビーズを1% BSAと0.1% Tween−20を含むPBSで3回洗浄した。沈降物をSDS−PAGEで展開し、PVDF膜に転写し、得られたPVDF膜を5%スキムミルクと0.1% Tween−20入りTBS(ブロッキング緩衝液)で1時間ブロッキングした。ブロッキング緩衝液で2000倍希釈した抗ヒトラミニンγ1鎖抗体(MAB1920)でそのPVDF膜を浸し、0.1% Tween−20入りTBSで膜を洗浄後、HRPを付加したウサギ抗マウスIgG(二次抗体、ICN Parmaceuticals,Inc.社製)をPVDF膜と反応させた。その後、0.1% Tween−20入りTBSで洗浄し、ECLキット(Amersham)で検出した。
結果を図9に示す。図中、「F」は抗FLAG抗体(モノクローナル抗体)との結合反応を、「M」は抗ヒトラミニンγ1鎖抗体(モノクローナル抗体)(MAB1920)(Chemicon社製)との結合反応を意味している。図9からわかるように、NNは、LN−10/11(α5β1/2γ1)と共沈降したが、LN−2/4(α2β1/2γ1)とは共沈降しなかった。このことから、固相結合アッセイの場合と同様に、NNの結合はLNのα鎖に依存していると考えられる。
(4)ネフロネクチンのラミニン(LN−8、LN−10/11)への結合における二価イオン、NaCl及びヘパリンの影響
基底膜蛋白質間の蛋白−蛋白間相互作用は、アミノ酸側鎖の静電的相互作用、または疎水的相互作用(場合によってはその両方)を介して生じる。またある時は、二価金属イオンやヘパリンのような糖鎖も基底膜蛋白間の相互作用に関わっている。上記で得られたNNのLN−8、LN−10/11、FNに対する結合を媒介する相互作用はどのようなものかを解析するために、それぞれ10mM EDTA、0.5M NaCl、または1μg/mlヘパリン存在下で、上記(1)と同様の方法によって、NNのLN−8、LN−10/11、及びFNに対する固相結合アッセイを行った。なお、コントロールとして、上記成分の非存在下で同様に固相結合アッセイを行った。結果を図10に示す。図10からわかるように、NNのLN−8、LN−10/11に対する結合は、0.5M NaClまたは1μg/mlヘパリンの存在で抑制されたが、EDTAの依存の有無によっては殆ど変化がなかった。このことから、これらの結合が二価イオンに依存しないことが判明した。
また、0.5M NaClの存在下では、NNはLN−8やLN−10/11には結合しなかった。このことは、NNがLN−8、LN−10/11に対して、静電的相互作用によって結合していることを示唆している。同様の結果は1μg/mlヘパリン存在下でも見られた。この結果は、ヘパリンがNNのラミニン(LN)への相互作用に必要なNNもしくはLN内部の正電荷を覆っていることを示している。興味深いことに、NNのFNへの結合は0.5M NaCl存在下や1μg/mlヘパリン存在下で増加した。これはNNがFNへ疎水的相互作用で結合していることを示唆している(Eriksson,K.O.,et al.,(1989)Hydrophobic Interaction Chromatography.PROTEIN PURIFICATION−Principles,High Resolution Methods,and Applications−(Janson,J.−C.,and Ryden,L.,Eds.).7vols.,VCH Publishers,Inc.,New York)これらの結果から、NNのLNへの結合特性は、FNへの結合特性とは全く異なるものであることが示された。
実験例4 ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体のラミニン(LN−10/11)に対する結合活性
ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体のラミニン(LN−10/11)に対する結合活性を調べるために、図4に示すドメイン構造を有する全長NN−FLAG、NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、及びNN−MAM−FLAGを用いて、ラミニン(LN−10/11)に対する固相結合アッセイを行った。
具体的には、ラミニン(LN−10/11)でコーティングした96穴プレートを1%スキムミルクでブロッキングし、これに段階希釈したFLAG付きネフロネクチン(NN−FLAG)またはその欠損変異体(NN−ΔMAM−FLAG、NN−RGD−FLAG、NN−MAM−FLAG)を添加して1時間静置して反応させた。洗浄後、ラミニンに結合したNN−FLAG及びその欠損変異体を、実験例2の方法に従って、抗FLAG M2 mAb(Sigma)及びHRPを融合させたヤギ抗マウスIgG抗体(二次抗体)を用いた酵素結合免疫吸着検定を行い定量化した。結果を図11に示す。
図11からわかるように、NN−RGD−FLAGの結果から、全長NN−FLAGからMAMドメインとEGF様繰り返し配列を欠失させることにより、ラミニン(LN−10/11)に対する結合活性が完全に消失することが分かった。一方、MAMドメインを有するNN−MAM−FLAGは、全長NN−FLAGより弱いもののラミニン(LN−10/11)に対して結合活性を示し、またMAMドメインを欠損したNN−ΔMAM−FLAG(EGF様繰り返し配列とRGDリンカー部位を有する)もまたNN−MAM−FLAGより弱いが、ラミニン(LN−10/11)に対して結合活性を示した。
これらのことから、ネフロネクチンのラミニン(LN−10/11)への結合は主にMAMドメインが担っており、EGF様繰り返し配列も弱いながらもラミニン(LN−10/11)に対する結合部位であることが判明した。しかし、いずれもドメインも単独ではラミニン(LN−10/11)に対する結合活性は低く、全長のネフロネクチンが最も高い結合活性を示した。
実験例5 ネフロネクチン(全長)及びその欠損変異体(NN−MAM−FLAG)の成体マウス腎臓(髄質)の基底膜に対する結合性
成体マウスの腎臓を70%エタノール中で固定し、その後パラフィン中に包埋し、6μmの厚さの切片にした。切片は脱パラフィン操作をした後、DAKO peroxidase blocking reagent(Dako Cytomation USA)により内在性ペルオキシダーゼをブロッキングし、続いて1%BSAを含むPBS(ブロッキングバッファー)で1時間、室温でインキュベートして切片をブロッキングした。その後、PBSで希釈したNN−FLAG(12μg/ml)、NN−MAM−FLAG(16μg/ml)、もしくはブロッキングバッファー(PBS)をそれぞれ切片に添加して、1時間、室温でインキュベートした。次いで、得られた切片を、PBSで洗浄して結合していないNN−FLAG及びNN−MAM−FLAGを除去した後、ブロッキングバッファーで1:200に希釈したHRP−conjugated anti−FLAG M2 monoclonal antibody(SIGMA)を添加し、1時間、室温でインキュベートした。洗浄後、ジアミノベンジジン(DAB)によって発色反応を行い、腎臓組織におけるNN−FLAGまたはNN−MAM−FLAGの結合の有無を顕微鏡にて確認した。結果を図12に示す。
図12に示しているのは腎臓の髄質部分の拡大写真である(スケールバー:50μm)。図A及びBの結果から、尿細管の外側が、それぞれNN−MAM−FLAG及びNN−FLAGにより、基底膜様に染色されていることが分かる(褐色に染色)。これまでの実験結果から総合すると、NN−MAM−FLAG及びNN−FLAGは、腎臓の基底膜に存在するLN−10/11もしくはLN−8と結合することによって、基底膜に特異的に結合しているものと考えられる。
この結果は、ネフロネクチンのMAMドメイン及びMAMドメインを有するポリペプチド(ネフロネクチン)は、LN−10/11もしくはLN−8への結合性に基づいて、実際の生体組織の基底膜に対しても配向性及び結合性を有していることを示すものである。また、この結果は、基底膜をターゲットとしたドラッグデリバリーシステムにおいて、MAMドメイン及びMAMドメインを有するポリペプチドが有用であることを示唆するものである。
実験例6 基底膜蛋白質に対するMAEGタンパクの結合性
上記実験例4の結果から、ネフロネクチン(NN)のMAMドメインがラミニン(LN−10/11)に対する主要な結合部位であることが判明した。このことから、同様にMAMドメインを有しNNと相同性を有するMAEG(MAM−and EGF−containing gene)蛋白質もまたラミニン(LN−10/11)と結合する能力を有していると考えられた(The Journal of Cell Biology,Vol.154,No.2,2001,447−458;Genomics 65,16−23(2000))。
そこで、これを確認するために、NNとMAEG蛋白質の両方のMAMドメインをGST融合蛋白質(GST−NN−MAM、GST−MAEG−MAM)として発現精製し、一連のラミニン〔マウスLN−1(α1)、ヒトLN−2/4(α2)、ヒトLN−5(α3)、ヒトLN−8(α4)、ヒトLN−10/11(α5)〕に対する結合活性を、抗GSTモノクローナル抗体(抗GST mAb:Zymed Laboratories Inc.)を用いて、実験例3(2)に記載する固相結合アッセイ(酵素結合免疫吸着検定)に準じて(ブロッキング溶液として、1%スキムミルク入りPBSに代えて、1%BSA入りPBSを使用)、測定した。
なお、上記GST融合蛋白質(GST−NN−MAM、GST−MAEG−MAM)は、まず、それぞれ5’−GAATTCCACAGCTGCAATTTTGACCAT−3’(forward)(配列番号33)と5’−GTCGACTCAGCAGCGACCTCTTTTCAA−3’(reverse)(配列番号34)、及び5’−CCGAATTCTCAGTTGACTGCAGCTTTGATC−3’(forward)(配列番号35)と5’−AACTCGAGTCAACCTTCTACAGATAAAAAG−3’(reverse)(配列番号36)の各2種類のプライマーを用いて、受精後13.5日マウス胚のcDNAライブラリーを鋳型として増幅したcDNA断片(PCR増幅産物)を、タグとしてGSTを有するpGEX−4T−1ベクター(Amersham Bioscience)に、そのGST部位とコドンが合うように挿入して、発現ベクターを作成し、これを大腸菌BL21に導入して、グルタチオン−セファロースビーズ(Amersham)を用いて精製することによって作成した。
結果を図13に示す。図AがGST融合蛋白質(GST−MAEG−MAM)のラミニンに対する結合性をみた結果であり、図BがGST融合蛋白質(GST−NN−MAM)のラミニンに対する結合性をみた結果である。この結果、前述の結果で示した通り、NNのMAMドメインはラミニンのうちLN−8とLN−10/11に特異的に結合するのに対し、MAEG蛋白質のMAMドメインはラミニン(LN−5)に特異的に結合した。このことはMAEGタンパクのMAMドメインはラミニンに結合するものの、その結合特異性はNNのMAMドメインと明らかに異なっていることを示す。
前述するように、ラミニンはα鎖のタイプによって大きく5種類に分類されており、各種が異なる組織に発現し分布していることが知られている(表1)。例えばLN−5(α3β3γ2)は皮膚・肺・その他上皮組織に、LN−8(α4β1γ1)は血管(毛細血管、新生血管)に、LN−10(α5β1γ1)及びLN−11(α5β2γ1)は大血管(太い血管)、腎臓、肺、膵臓、その他多くの上皮組織に発現し分布している。そして、MAEG蛋白質とNNは、互いに異なる組織局在性を示していることが知られている。
こうした事実、並びに上記実験で得られた結果から、NNとMAEG蛋白質の特異的な組織局在性は、NNとMAEG蛋白質の各々が有するMAMドメインのラミニン結合特異性が関与している可能性が考えられる。すなわち、NNとMAEGタンパクの組織局在性・結合特異性は、各タンパクが有するMAMドメインによって決められていると推測される。そしてMAMドメインに応じて異なる組織特異性(発現・結合)を有する蛋白質(NNとMAEG蛋白質)は、個々に特異的な組織の基底膜で機能し、器官形成や各種現象を制御するものと考えられる。
実験例7 ネフロネクチンとラミニン(LN−10)の結合様式
上皮細胞によって発現されたネフロネクチン(NN)は基底膜に蓄積し、間充織細胞へ何らかの影響を及ぼしていることが知られている(Brandenberger,R.et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458)。一方で、ラミニン(LN−10)は基底膜に存在しGドメインを介して上皮細胞へシグナルを伝達していると報告されている(Ido,H.et al.,(2003)J Biol Chem)。このことから、LN−10におけるNN結合部位の同定は、NNの生理的・分子的機能を解明するための重要な情報を与えてくれると思われる。そこで、組換えLN−10(rLN−10)とそのGドメイン欠損変異体(LN−10ΔG)を用いて、LN−10におけるNNの結合部位を固相結合アッセイにより解析した。なお、組換えLN−10(rLN−10)とそのGドメイン欠損変異体(LN−10ΔG)は、文献(Ido,H.,et al.,(2003)J Biol Chem)に記載されている方法に従って調製した。
具体的には、全長NN(NN−FLAG)とそのMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)について、それぞれ組換えLN−10(rLN−10)とそのGドメイン欠損変異体(LN−10ΔG)に対する結合活性を、実験例3に記載する固相結合アッセイ法に準じて調べた。結果を図14に示す。
図14に示すように、全長NN(NN−FLAG)のLN−10ΔGに対する結合は、rLN−10に対する結合と比較して約40%まで減少した。一方、NNのMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)のLN−10ΔGに対する結合とrLN−10に対する結合強度はほとんど同じレベルであった。また、NNのMAMドメイン(NN−MAM−FLAG)のrLN−10に対する結合は全長NNの結合に比べて弱いレベルの結合であったが、このレベルは全長NNのLN−10ΔGに対する結合とほとんど同レベルであった。
これらの結果は、ネフロネクチン(NN)とラミニン(LN−10)の結合には、ラミニン(LN−10)のGドメインが重要であること、すなわち、NNはLN−10のGドメインを介してLN−10に結合すること、そして、Gドメインとの結合にNNのMAMドメインは寄与していないことを示している。前述する実験例4において、NNはEGF様繰り返し配列とMAMドメインを介してLN−10/11に結合することを示した(図11)。これらのことから総合すると、NNのMAMドメインはLN−10のGドメイン以外の部位、恐らくロッド部位に結合し、一方、NNのEGF様繰り返し配列はLN−10のGドメインと結合していると考えられる。
実験例8 マウス腎臓におけるネフロネクチン(NN)とLN−α5鎖の局在性
LN−10/11のα鎖であるLN−α5鎖に対するNNの生体内での結合性を評価するため、マウスの腎臓組織におけるNN及びLN−α5鎖の局在を、免疫組織化学的染色法によって調べた。なお、NNは成体マウスの腎臓で発現していることが知られている(Morimura,N.,et al.,(2001)J Biol Chem 276,42172−42181;Transgenic Inc.,Data sheet of anti−POEM/nephronectin polyclonal antibody,Rabbit)。
なお、免疫組織化学的染色は次のようにして行った。まず、腎臓を成体マウス個体から採取し、4% パラホルムアルデヒドで15分間、室温で固定、OCTコンパウンド(Tissue Tek社)に包埋した。その腎臓の3〜5μm凍結切片を1% BSAを含むPBS(ブロッキング緩衝液)でブロッキングし、ブロッキング緩衝液で洗浄した。その後、切片にブロッキング緩衝液で希釈した12μg/mlの抗POEM/nephronectin抗体(抗NN抗体:トランスジェニック社)、または同100倍希釈の抗LN−α5鎖抗血清(アメリカ・ワシントン大学J.H.Miner博士より譲渡)を添加して、室温で1時間静置した。その後、ABCキット(Vector Laboratories)を用いて検出した。
結果を図15に示す。図Aは抗POEM/nephronectin抗体(抗NN抗体)で免疫染色した結果であり、図Bは抗LN−α5鎖抗血清で免疫染色した結果である。この結果からわかるように、NNは腎糸球体基底膜に局在しており、そこではLN−α5鎖も同様に強く発現していた。このことはNNがLN−α5鎖と生体内でも共局在していることを示唆している。
<考察>
以上の実験から得られた知見を次のように纏めることができる。
(1)ネフロネクチン(NN)は、基底膜を構成する主要タンパクであるラミニンLN−8(α4β1γ1)とLN−10/11(α5β1/2γ1)に選択的に結合する。一方、これらのラミニンと同じβ鎖とγ鎖を有するLN−2/4(α2β1/2γ1)とは結合しない。
この結果は、NNはラミニンのα4鎖又はα5鎖に結合することを示唆している。また、α5鎖を有するラミニン(LN−10とLN−11)が特異的に発現分布している組織は腎臓であるが、我々は上記知見を裏付ける実験結果として、NNとLN−α5鎖が成体マウス腎臓の同じ部位、つまり腎糸球体基底膜に局在することを確認している。
これらのことから、発生期の腎臓において、NNはラミニンのα4鎖又はα5鎖に対する結合を介して基底膜に選択的に組み込まれると想定できる。なお、ラミニンのα4鎖とα5鎖の発生期腎臓における局在がNNの局在と非常に似通っているという報告(Miner,J.H.(2001)J Cell Biol 154,257−259:Miner,J.H.,et al.,(1997)J Cell Biol 137,685−701)、並びにLN−α4鎖及びLN−α5鎖が存在しない基底膜にはNNの局在も見られないという報告(Kanwar,Y.S.,et al.,(2004)Am J Physiol Renal Physiol 286,F202−215)があるが、これらは上記の見解を支持するものである。
(2)ネフロネクチン(NN)は、MAMドメインをhigh affinity siteとして、EGF様繰り返し配列をlow affinity siteとして、LN−10/11と結合する。但し、これらの各ドメインのLN−10/11に対する結合活性は、全長NNが有する結合活性に比して非常に弱いものである。
(3)全長のネフロネクチン(NN)は、ラミニン(LN−10)のGドメインを介してLN−10と結合している。しかし、ラミニン(LN−10)のGドメインはNNのMAMドメインとは結合しない。このことから、NNの基底膜の組み込みには、基底膜の構成タンパクであるラミニンのGドメインが必要であると考えられる。
上記(2)と(3)のことから、NNとラミニン(LNのα5又はα4鎖)の結合様式として、まずラミニンのGドメイン以外の部位にNNのMAMドメインが結合し、その後、その結合を安定化させるように、ラミニンのGドメイン部位にEGF様繰り返し配列が結合して、全長NNの結合を安定化している可能性が考えられる。また、全長のNNは、多量体形成が認められたが、これはLN−10/11に結合したNNに、さらに他のNNが結合することによって形成される可能性が考えられる。
ところで、インテグリンα8β1は、発生期腎臓の間充織で豊富に発現している蛋白質であり、インテグリンα8β1が欠損したマウスは深刻な腎臓発生欠損を示すことが知られている(Muller,U.,,et al.,(1997)Cell 88,603−613)。さらに、インテグリンα8β1はネフロネクチン(NN)の受容体であることがin vitro、in vivo両方の系で示されている(Brandenberger,R.,et al.,(2001)J Cell Biol 154,447−458)。これらのことから、NNはα8β1インテグリンを介して後腎間充織にシグナルを伝達し、腎臓形態形成の制御に関与していると思われる。さらに、LN−α5鎖とインテグリンα3β1もまた、腎臓の器官形成に必要不可欠であると報告されている(Miner,J.H.,et al.,(2000)Dev Biol 217,278−289;Kreidberg,J.A.,et al.,(1996)Development 122,3537−3547)。
これらのことから、腎臓形態形成に必要不可欠な経路が少なくとも2つあると考えられる。1つはNNとα8β1インテグリンを介して後腎間充織の分化誘導を調節する経路であり、もう一つは、LNα5とα3β1インテグリンを介して尿管芽上皮の伸展や分岐を調節する経路である。上記の実験から、これらの経路は互いに独立したものではなく、NNとLN−α5鎖との相互作用によって連結している可能性が考えられる。以上のことから、前述する(1)の見解を補足すると、発生期の腎臓において、NNは、ラミニンのα5鎖(またはα4鎖)に対する結合を介して基底膜に選択的に組み込まれ、その部位にある細胞にα8β1インテグリン及びα3β1インテグリンを介してシグナルを伝達していると推測される。
本発明において、ネフロネクチン(NN)が基底膜の構成蛋白質であるラミニンのLN−α4鎖とα5鎖に特異的に相互作用することを見いだした。NNはMAMドメインを含む珍しいECM蛋白質の1つである。他に知られているMAMドメイン含有蛋白質としては、MAEG、メプリン、ニューロピリン(A5蛋白質)、受容体蛋白質チロシン脱リン酸化酵素μ/κを挙げることができる。
さらに、本発明において、NNのMAMドメインがラミニンへの結合に強く関与していること、MAMドメインの種類によってラミニン結合特異性が異なることを見いだした。例えば、NNのMAMドメインはLN−8及びLN−10/11に選択的に結合するのに対し、MAEGのMAMドメインはLN−8及びLN−10/11には結合せず、LN−5に選択的に結合する。
MAMドメインは蛋白−蛋白間相互作用、特にMAMドメイン間の同種親和的な相互作用に必要であると考えられている。例えば、金属プロテアーゼの一種であるメプリンは、そのMAMドメインを介して巨大な多量体を形成する(Ishmael,F.T.,et al.,(2001)J Biol Chem 276,23207−23211)。膜貫通蛋白質でありセマフォリンの受容体であるニューロピリンの場合、そのMAMドメインは細胞表面上で互いに相互作用し二量体を形成する(Chen,H.,et al.,(1998)Neuron 21,1283−1290)。受容体型蛋白質チロシン脱リン酸化酵素μとκは、MAMドメインを介して細胞−細胞間で同種親和的な相互作用を示す(Zondag,G.C.,et al.,(1995)J Biol Chem 270,14247−14250)。本発明の結果は、MAMドメインが、それを含む各蛋白質に結合特異性を与えていることを示唆している。すなわち、上記実験における知見は、MAMドメイン及びそれを含む蛋白質は、各MAMドメインの組織特異性に応じて、特定の組織指向性を備えており、これによって、例えば特定の組織に有用な物質を運ぶ運搬体として利用できる可能性を示すものである。
本発明の標的指向性運搬体は、そのラミニンへの選択特異的な結合性に基づいて、組織特異的に標的指向性を発揮し、これにより目的とする標的組織または細胞に有用な薬物(例えば、生理活性ペプチドやその遺伝子、抗体医薬、アンチセンス分子や干渉RNA因子)を輸送する運搬体として利用することができる。当該標的指向性運搬体は、通常運搬する目的物質(例えば、薬物)を導入して、標的指向性薬物複合体として用いられる。
かかる標的指向性薬物複合体は、ドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法に有効に利用することができる。特に、標的指向性運搬体としてネフロネクチンのMAMドメインを利用した場合(例えばNNそのもの)は、当該標的指向性運搬体が備える新生血管、大血管、腎臓、肺、または膵臓に対する特異的組織結合性に基づいて、所望の薬物を当該組織に指向させることで局所濃度を高く維持し、薬物の有効性を高めることができ、またそれと同時に、他部位へ拡散して生じる副作用を防ぐことができる。
また、標的指向性運搬体としてMAEG蛋白質のMAMドメインを利用した場合は(例えばMAEG蛋白質そのもの)、当該標的指向性運搬体が備える毛包、皮膚(表皮)、肺に対する特異的組織結合性に基づいて、薬物を当該組織に指向させることで局所濃度を高く維持し、薬物の有効性を高めることができ、またそれと同時に、他部位へ拡散して生じる副作用を防ぐことができる。
かかる標的指向性薬物複合体は、ドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法に有効に利用することができる。特に、標的指向性運搬体としてネフロネクチンのMAMドメインを利用した場合(例えばNNそのもの)は、当該標的指向性運搬体が備える新生血管、大血管、腎臓、肺、または膵臓に対する特異的組織結合性に基づいて、所望の薬物を当該組織に指向させることで局所濃度を高く維持し、薬物の有効性を高めることができ、またそれと同時に、他部位へ拡散して生じる副作用を防ぐことができる。
また、標的指向性運搬体としてMAEG蛋白質のMAMドメインを利用した場合は(例えばMAEG蛋白質そのもの)、当該標的指向性運搬体が備える毛包、皮膚(表皮)、肺に対する特異的組織結合性に基づいて、薬物を当該組織に指向させることで局所濃度を高く維持し、薬物の有効性を高めることができ、またそれと同時に、他部位へ拡散して生じる副作用を防ぐことができる。
Claims (27)
- MAMドメイン(meprin,5A protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain)もしくはそれを一部に有するポリペプチド、またはMAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の物質を結合させて、該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体。
- 下記の(a)または(b)のアミノ酸配列を有するMAMドメイン(meprin,5A protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain)もしくはそれを一部に有するポリペプチド、または上記MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の物質を結合させて、該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体;
(a)配列番号1に示される、ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列、
(b)上記ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列。 - 上記(b)が、配列番号1に示されるネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列と、少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列である、請求項2記載の標的指向性運搬体。
- 上記(b)が、ヒト由来ネフロネクチンのMAMドメインのアミノ酸配列である、請求項2記載の標的指向性運搬体。
- 上記(b)が、配列番号37に示されるアミノ酸配列である、請求項2記載の標的指向性運搬体。
- 下記の(c)または(d)のアミノ酸配列を有するMAMドメイン(meprin,5A protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain)もしくはそれを一部に有するポリペプチド、または上記MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の物質を結合させて、該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体;
(c)配列番号17または19に示される、ネフロネクチンのアミノ酸配列、
(d)上記ネフロネクチンのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα4鎖またはα5鎖に結合性を有するアミノ酸配列。 - 上記(d)が、配列番号17または19に示されるネフロネクチンのアミノ酸配列と、少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列である、請求項6記載の標的指向性運搬体。
- 上記(d)が、ヒト由来ネフロネクチンのアミノ酸配列である、請求項6記載の標的指向性運搬体。
- 上記(d)が、配列番号53に示されるアミノ酸配列である、請求項6記載の標的指向性運搬体。
- 腎臓、新生血管、肺、膵臓、または大血管に対して指向性を有することを特徴とする請求項2または6に記載する標的指向性運搬体。
- 下記の(e)または(f)のアミノ酸配列を有するMAMドメイン(meprin,5A protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain)もしくはそれを一部に有するポリペプチド、または上記MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の物質を結合させて、該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体;
(e)配列番号3に示される、MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列、
(f)上記MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列。 - 上記(f)が、配列番号3に示されるMAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列と、少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列である、請求項11記載の標的指向性運搬体。
- 上記(f)が、ヒト由来MAEG蛋白質のMAMドメインのアミノ酸配列である、請求項11記載の標的指向性運搬体。
- 上記(f)が、配列番号39に示されるアミノ酸配列を有するものである、請求項11記載の標的指向性運搬体。
- 下記の(g)または(h)のアミノ酸配列を有するMAMドメイン(meprin,5A protein,receptor protein−tyrosine phosphatase μ−domain)もしくはそれを一部に有するポリペプチド、または上記MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸であって、所望の物質を結合させて、該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体;
(g)配列番号21に示される、MAEG蛋白質のアミノ酸配列、
(h)上記MAEG蛋白質のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつラミニンのα3鎖に結合性を有するアミノ酸配列。 - 上記(h)が、配列番号21に示されるMAEG蛋白質のアミノ酸配列と、少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列である、請求項15記載の標的指向性運搬体。
- 上記(h)が、ヒト由来MAEG蛋白質のアミノ酸配列である、請求項15記載の標的指向性運搬体。
- 上記(h)が、配列番号55に示されるアミノ酸配列である、請求項15記載の標的指向性運搬体。
- 毛包、皮膚(表皮)、または肺に対して指向性を有することを特徴とする請求項11または15に記載する標的指向性運搬体。
- 発現ベクターの形態を有する、請求項1に記載する標的指向性運搬体。
- 請求項1に記載の標的指向性運搬体に、標的組織に輸送するための薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体。
- 標的指向性薬物複合体が、ペプチドまたはタンパクからなる薬物を結合してなるポリペプチド形態を有するか、または核酸(遺伝子を含む)からなる薬物を結合してなるポリヌクレオチド形態を有するものである、請求項21に記載する標的指向性薬物複合体。
- 請求項21に記載する標的指向性薬物複合体を有効成分として含む医薬組成物。
- 標的指向性薬物として、請求項21に記載する標的指向性薬物複合体を用いることを特徴とする、ドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法。
- MAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチド、またはMAMドメインもしくはそれを一部に有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する核酸の、所望の物質を結合させて該物質を標的組織に輸送するために用いられる標的指向性運搬体の調製のための使用。
- 請求項1記載の標的指向性運搬体の、標的組織に輸送するための薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体の調製のための使用。
- 請求項1記載の標的指向性運搬体に薬物が結合されてなる標的指向性薬物複合体の、標的組織や細胞に局所的に薬物を輸送して治療するドラッグデリバリーシステムまたはターゲッティング療法における使用。
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JP2878341B2 (ja) * | 1989-03-03 | 1999-04-05 | 学校法人藤田学園 | 人工機能性ポリペプチド |
-
2004
- 2004-08-25 JP JP2006510153A patent/JPWO2005079859A1/ja active Pending
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Also Published As
Publication number | Publication date |
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WO2005079859A1 (ja) | 2005-09-01 |
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