JPWO2004092373A1 - Htlv−i特異的ctl誘導活性ペプチド - Google Patents

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Abstract

成人T細胞白血病(ATL)等のヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV−I)腫瘍に対して抗腫瘍効果を有する細胞傷害活性T細胞(CTL)を誘導することができるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドや、これらを利用した免疫応答誘導用ワクチンや免疫機能検査診断薬等を提供するものである。HLAが一致する同胞ドナーからの造血幹細胞移植(HSCT)後に完全寛解を得たATL患者の細胞性免疫応答を調査したところ、ATL患者のHSCT後の末梢血単核細胞(PBMC)の培養液において、HTLV−I特異的CTLが、HSCT前にインビトロで構築した自己HTLV−I感染T細胞に応答して活発に増殖したHLA−A24拘束性Tax301−309エピトープにのみ誘導された。これは、患者体内でこのエピトープが強く発現されていたことを意味し、本エピトープがワクチン抗原として有用であることを示している。

Description

本発明は、成人T細胞白血病(ATL)等のヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV−I)腫瘍に対して抗腫瘍効果を有する細胞傷害活性T細胞(CTL)を誘導することができるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドや、該ペプチドをコードするDNAや、これらを利用した免疫応答誘導用ワクチン並びに免疫機能検査診断薬等に関する。
成人T細胞白血病(ATL)はヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV−I)感染者の約5%が発症するT細胞悪性腫瘍であり、主にCD4及びCD25成熟Tリンパ球表現型をもつこと、中年又はそれ以降の発症、免疫抑制、及び予後が悪いことを特徴としている(例えば、Int.J.Cancer 45,237−243,1990;Blood 50,481−492,1977、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78,6476−6480,1981参照。)。ATLに対して化学療法を併用した臨床使用により4年生存率は8〜12%に高まったものの、白血病の他のタイプと比べると依然として低率である(例えば、J.Clin.Oncol 6,128−141,1988、J.Clin.Onco 6,1088−1097,1988参照。)。最近になって、造血幹細胞移植(HSCT)が一部のATL患者に適用されるようになってきた。自己HSCTの初期の研究はATL再発が頻繁に起きることを明らかにした(例えば、Bone Marrow Transplant 23,87−89,1999参照。)。しかしながら、より最近の報告によると、移植片対宿主病(GVHD)の危険性は同様にあるものの、同種HSCTの方がより良い結果を生じうることが明らかになった(例えば、Bone Marrow Transplant 27,15−20,2001参照。)。以上の報告は、他のタイプの白血病で観察されたように、レシピエントに対するドナーの細胞性免疫応答、つまり移植片対白血病(GVL)効果がATL細胞根絶に貢献することを強く示唆している。
ヒト白血球抗原(HLA)が一致する同胞から受けた同種HSCTはある程度のGVHDを起こすことが示され、レシピエントのマイナー組織適合抗原(mHA)がGVHDの標的抗原と考えられてきた(例えば、N.Engl.J.Med.334,281−285,1996参照。)。男性特異的H−Y移植抗原(例えば、Science 269,1588−1590,1995参照。)、HA−1抗原(例えば、Science 279,1054−1057,1998参照。)、CD31分子(例えば、N.Engl.J.Med.334,286−291,1996、Br.J.Haematol 106,723−729,1999参照。)、及びヒト血小板抗原(HPA)(例えば、Br.J.Haematol 106,723−729,1999、Blood 92,2169−2176,1998参照。)を含むいくつかのmHAがGVHDに関与すると示唆されてきた。同種HSCT後の白血病再発の可能性は、移植片からT細胞を除去した場合又はドナーが遺伝学的に一卵性双生児の場合に増加することが知られており、GVL効果が白血病再発を防ぐ為に重要であることを示している(例えば、Blood 75,552−562,1990参照。)。従って、レシピエントの非造血細胞にではなく造血細胞において発現するmHA特異的なドナーT細胞応答を増加することが、GVHDを引き起こさずにGVL効果を誘導できる戦略の一つとして提案されてきた(例えば、Blood 93,2336−2341,1999参照。)。腫瘍細胞特異的又は腫瘍細胞において過剰発現するbcr/abl融合タンパク質及びWT−1等の腫瘍抗原もまた、GVL効果の標的抗原の候補である(例えば、Blood 95,1781−1787,2000、Blood 96,1480−1489,2000参照。)。
HTLV−Iに対する宿主細胞性免疫応答、特に細胞傷害性T細胞の増殖は、無症候性HLTV−1キャリア及びHTLV−I随伴脊髄症/熱帯性痙性対麻痺
(HAM/TSP)患者のPBMC培養液からは頻繁に見い出されるが、ATL患者から見い出されることは稀である(例えば、Leukemia 8 Suppl 1,S54−59,1994、J.Immunol.133,1037−1041,1984参照。)。env、gag、pol、pX遺伝子産物等のHTLV−I抗原のうち、pX遺伝子産物であるTaxがHTLV−I特異的な細胞傷害性リンパ球(CTL)の優位な標的抗原であることが知られている(例えば、Nature 348,245−248,1990、Int.Immunol.3,761−767,1991参照。)。Taxはまた、細胞成長を促進しアポトーシスを抑制することによってHTLV−Iの白血病化における重要な役割を果たしていることも知られている(例えば、Lancet 1,1085−1086,1987、J.Virol.73,7981−7987,1999参照。)。以上の発見からTax特異的CTLがHTLV−I感染細胞の白血病化の免疫的監視の役割を果たしうることが示唆されている。
本発明者らは以前にヒトHLA−A2に拘束されるCTLの主要エピトープを既に見い出している(例えば、J.Virol.66,2928−2933,1992参照。)が、HLA−A2は日本人の30〜40%のみに陽性である。また、最近樹立したHTLV−I感染T細胞リンパ腫瘍のモデル動物において、本発明者らはインビボでのTax特異的CTLの抗腫瘍効果を明らかにした(例えば、特開2002−372532号公報、J.Virol.74,428−435,2000、J.Virol.73,6031−6040,1999参照。)。このモデルにおいては、TaxをコードするDNA又はCTLエピトープに対応するペプチドのいずれかを用いたワクチン接種を受けた同系免疫担当ラットから新鮮なT細胞を移植することにより、同系HTLV−I感染細胞を接種したヌードラットにおける無処置では致命的となるT細胞リンパ腫が根治し得た(例えば、J.Virol.74,9610−9616,2000、J.Natl.Cancer Inst.93,1775−1783,2001参照。)。しかしながら、末梢血でのヒトATL細胞におけるHTLV−I発現は非常に低いので、実験動物における上記の観察がヒトに適用できるかどうかは不明である(例えば、非特許文献Gann 73,341−344,1982、Int.J.Cancer 54,582−588,1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,5620−5624,1989参照。)。
ATLは、日本に多くの保有率を持つHTLV−Iの感染によって引き起こされる腫瘍性疾患であるが、化学療法剤に抵抗性であるため、極めて予後の悪い悪性腫瘍とされてきた。種々の臨床的観察や動物実験結果から、宿主細胞性免疫、特にCTLの抗腫瘍効果が示唆されているが、CTLの主要な標的抗原であるHTLV−I Taxには腫瘍化促進機能があることが分かっている。従って、より特異的で安全性の高いワクチン開発のためには、CTL認識エピトープを特定する必要がある。しかし、ヒトATL患者において抗腫瘍効果を持つCTLエピトープは特定されていなかった。本発明の課題は、ATL等のHTLV−I腫瘍に対して抗腫瘍効果を有するCTLを誘導することができるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドや、該ペプチドをコードするDNAや、これらを利用した免疫応答誘導用ワクチン並びに抗腫瘍免疫能検査診断薬等を提供することにある。
本発明者らは、HSCT前のATL患者に由来するHTLV−I感染T細胞に対する、HSCT後の同じ患者の細胞性免疫応答を調査した。これらのHTLV−I感染細胞はGVL効果の標的を含む、レシピエント由来の抗原を所有すると考えられていた。本発明者らはHSCT後のPBMCが実際にレシピエント由来細胞に応答することを見い出した。しかしながら、応答細胞の大部分はHTLV−I抗原、特に限られた数のTaxエピトープに強く反応した。HSCT後のATL患者2名から同様の結果を得たが、そのうち1名のドナーはHTLV−I陰性であった。以上の観察から移植片対HTLV−I応答がHSCT後のATL患者に生じたことが明らかとなった。かかる研究の過程で、HLA−A24に拘束されるCTLの主要エピトープを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド(請求項1)や、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド(請求項2)や、請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドと、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合ペプチド(請求項3)や、HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとが結合したタンパク−ペプチド結合体(請求項4)や、HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとが結合したタンパク−ペプチド結合体の4量体(請求項5)や、請求項4記載のタンパク−ペプチド結合体又は請求項5記載のタンパク−ペプチド結合体の4量体と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質(請求項6)や、以下の(a)又は(b)のペプチドをコードするDNA。
(a)配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド
(b)配列番号3又は4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド(請求項7)や、配列番号7又は8に示される塩基配列若しくはその相補的配列からなるDNA(請求項8)や、請求項8記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドをコードするDNA(請求項9)に関する。
また本発明は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドからなるHLA−A24拘束性Taxエピトープ(請求項10)や、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを有効成分として含有する免疫応答誘導用ワクチン(請求項11)や、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを有効成分として含有する免疫応答誘導用ワクチン(請求項12)や、請求項7〜9のいずれか記載のDNAを発現させることができるベクターを有効成分として含有する免疫応答誘導用ワクチン(請求項13)や、さらに、HTLV−I特異的CTL誘導活性を増強するアジュバントが含まれている、請求項8〜10のいずれか記載の免疫応答誘導用ワクチン(請求項14)や、請求項11〜14のいずれか記載の免疫応答誘導用ワクチンを有効成分として含有する医薬組成物(請求項15)や、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを有効成分として含有する免疫機能検査診断薬(請求項16)や、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを有効成分として含有する免疫機能検査診断薬(請求項17)に関する。
さらに本発明は、請求項7〜9のいずれか記載のDNAを発現させることができるベクターを有効成分として含有する免疫機能検査診断薬(請求項18)や、HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとが結合したタンパク−ペプチド結合体を有効成分として含有する免疫機能検査診断薬(請求項19)や、HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとが結合したタンパク−ペプチド結合体の4量体を有効成分として含有する免疫機能検査診断薬(請求項20)や、請求項7〜9のいずれか記載のDNAを有効成分として含有するHTLV−I腫瘍の診断薬(請求項21)や、請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドに特異的に結合する抗体(請求項22)や、抗体がモノクローナル抗体である請求項22記載の抗体(請求項23)や、請求項22又は23記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドに特異的に結合する抗体を有効成分として含有するHTLV−I腫瘍の診断薬(請求項24)や、請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを発現することができる発現ベクター(請求項25)や、請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞(請求項26)や、HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとの結合体を発現することができる発現ベクター(請求項27)や、HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとの結合体を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞(請求項28)や、HSCT前のATL患者に由来するHTLV−I感染T細胞を用いて、同種のHLAタイプのドナー由来のHSCT後の同じ患者のPBMCを刺激することを特徴とするHTLV−I認識CTLの誘導方法(請求項29)や、請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを用いて、HLA−A24陽性のATL患者のPBMCを刺激することを特徴とするHTLV−I認識CTLの誘導方法(請求項30)や、請求項7〜9のいずれか記載のDNAを発現させることができるベクターを用いて、HLA−A24陽性のATL患者のPBMCを刺激することを特徴とするHTLV−I認識CTLの誘導方法(請求項31)に関する。
(1)本発明により、日本人の60%以上が有するHLA−A24に拘束されるCTLの主要エピトープを見い出された。HTLV−Iに対する免疫応答の検査に本エピトープ部位のペプチドを使用することによって、日本人集団のかなりの部分をカバーできることになる。
(2)現在では、それぞれのHLAについて親和性のあるアミノ酸アンカーモチーフからエピトープの予測が可能である。しかしながら、生体内の病原体に対する宿主の免疫反応は必ずしもこの予測と一致しない。本発明により同定されたエピトープは感染個体から得られたものであり、しかも他のエピトープよりも非常に強い選択性を持って認識されている。
(3)ATL患者からHTLV−I特異的CTLが誘導されることは稀だが、幹細胞移植後に完全寛解に入ったATL症例から、本発明により同定されたエピトープに対するCTLが選択的に誘導された。これは、患者体内でこのエピトープが強く発現されていたことを意味し、本エピトープがワクチン抗原として有用であることを示している。
第1図は、HSCT後の患者#37(図1a)及びドナー#36(図1b)のPBMC中のILT−#37細胞に対するCTL誘導を示す写真である。様々な数のPBMCを19日間培養し、その間初日及び10日目にホルマリンで固定化したILT−#37で2回刺激を与えた。上記PBMCを刺激することなく(○)又はILT−#37を用いて刺激し(●)、又はK562を用いて刺激し(×)、18時間インキュベーションした後、上澄中のIFN−γ量をELISA分析により測定した結果を示す図である。値は2回の実験の平均値を示す。
第2図は、HSCT後の患者#37から誘導されたCTLのHTLV−IのTax特異性とMHCクラスI拘束性を示す写真である。
a.HSCT後の患者#37のPBMC培養液をホルマリンで固定化したILT−#37で4回刺激し、その細胞傷害性を51Cr放出分析を6時間行い調査した。使用した標的細胞はHLAが一致するILT−#37(●)、LCL−#36(○)、及びHSCT前の患者#37のPHA活性化PBMC(×)、HLA−A2及びB46が一致するTCL−Kan(▲)及びLCL−Kan(△)、及びHLAが一致しないILT−As−2(◆)及びLCL−As(◇)であった。黒色の記号はHTLV−I感染細胞を表し、白色の記号はEBV感染細胞を表す。値は3回の実験の細胞障害性(Specific Lysis)の平均を表す。
b.HTLV−IのTaxを発現する競合細胞によるILT−#37特異的細胞傷害性の阻害を表す。HSCT後の患者#37のPBMC培養液を、ホルマリンで固定したILT−#37細胞であらかじめ5回刺激し、放射能標識したILT−#37に対してエフェクター細胞対標的細胞の割合を30対1として51Cr放出分析を行った。上記分析はHTLV−IのpX遺伝子産物を発現するrvvに感染させた非標識のLCL−#36細胞(LCL−#36/p27X)、又はコントロールrvvで感染させた非標識のLCL−#36細胞(LCL−#36/HA)又はILT−#37細胞の存在下で行い、競合細胞対標的細胞の割合は30対1とした。
第3図は、HSCT後の患者#37(ケース1)から誘導されたCTLが認識するHTLV−IのHLA−A2拘束性Taxエピトープのマッピングの結果を示す写真である。LCL−#36細胞を10mMのTaxアミノ酸配列に対応する9−24塩基長の合成オリゴペプチド33種類でパルス標識し、HSCT後の患者#37のCTLに対するそれぞれの感受性を51Cr放出分析を用いてエフェクター対標的細胞の割合を10として測定した。値は3回の実験の細胞障害性の平均値である。
第4図は、ILT−#37細胞の刺激により誘導された、HSCT前の患者#37、HSCT後の患者#37及びドナー#36のPBMC培養液における細胞傷害性の特徴についての結果を示す写真である。
a.エフェクター細胞対標的細胞の割合を30とし、2回刺激を与え40日間培養したHSCT前の患者#37のPBMCの細胞傷害性、及び3回刺激を与え41日間培養したHSCT後の患者#37及びドナー#36のPBMCの細胞傷害性を測定した。ILT−#37に対する細胞傷害性(黒枠)、TLC−Kanに対する細胞傷害性(斜線枠)、及びLCL−Kan(白枠)に対する細胞傷害性をそれぞれ示す。値は3回の実験の平均値である。
b.ILT−#37で刺激されたPBMC中のHLA−A0201/Tax11−19の4量体結合CD8T細胞のフローサイトメトリー分析結果を示す。HSCT後の患者#37及びドナー#36のPBMC培養液は46日間培養したものを使用したが、HSCT前の患者#37のPBMC培養液は長期培養が不可能だったため36日間培養したものを使用した。HTLV−IのTax11−19特異的細胞株であるTc−Myj(Int.Immunol.3,761−767,1991)を染色して、4量体特異性を確認した。右上の数字は4量体に結合したPBMCの割合を示す。各ケースとも全部で100,000の現象を示している。
第5図は、HSCT後の患者R07(ケース2)から誘導されたCTLが認識するHTLV−IのHLA−A24拘束性Taxエピトープのマッピングの結果を示す写真である。CD8細胞を豊富に含むPBMCをホルマリンで固定したILT−R07細胞で3回刺激し32日間培養し、Taxの一連の33合成オリゴペプチドでパルス標識したHLA−A24+EBV形質転換B細胞株であるTOKとエフェクター対標的の割合を8として混合し、18時間インキュベーションした後、上澄液中のIFN−γをELISA分析により測定した。値は2回の実験の平均値である。
第6図は、HSCT後の患者R07(ケース2)から誘導されたCTL中のHLA−A2402/Tax301−309の4量体結合CD8T細胞のフローサイトメトリー分析結果を示す写真である。。HSCT後の患者R07の培養67日のPBMCを使用した。右上の数字は4量体に結合したPBMCの割合を示しており、全部で100,000個の細胞における現象である。
本発明のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド、すなわち、HTLV−I腫瘍に対して特異的に抗腫瘍効果を有するCTLを誘導することができるペプチドとしては、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドや、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、HTLV−I特異的にCTL誘導活性を有するペプチドであれば特に制限されるものではなく(以下、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド及びこれらアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたペプチドをあわせて「本件ペプチド類」ということがある)、ここで、アミノ酸の「置換、欠失若しくは付加」の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチドが、配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと同様にHTLV−I特異的CTL誘導活性を有する同効物であれば特に制限されず、アミノ酸配列の改変(変異)は、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明においては、このような改変・変異の原因及び手段などを問わず、上記特性を有する全ての改変ペプチドを包含する。
本発明の本件ペプチド類は、化学的又は遺伝子工学的手法により製造することができる。化学的方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の合成は、そのいずれによることもできる。
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
なお、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸及至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明の本件ペプチド類におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することができる。
本発明の本件ペプチド類は、上記のように化学合成により得られる他、遺伝子工学的手法を用いて常法により製造することもできる。このようにして得られた
本発明の本件ペプチド類は、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行うことができる。
本発明の融合ペプチドとしては、本件ペプチド類とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとが結合しているものであればどのようなものでもよく、マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、抗体のFc領域、HRP、GFPなどを具体的に挙げることができ、またペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合ペプチド類は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本件ペプチド類の精製や、本件ペプチド類の検出や、本件ペプチド類に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
本発明のタンパク−ペプチド結合体としては、HLA−A24と本件ペプチド類との結合体であれば特に制限されるものではなく、例えばHLA−A24分子と配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドとの結合体など、かかる結合体を認識するCTLに結合できる形態のものが好ましい。また、本発明のタンパク−ペプチド結合体の4量体としては、HLA−A24と本件ペプチド類とが結合したタンパク−ペプチド結合体の4量体であれば特に制限されるものではなく、上記タンパク−ペプチド結合体を、ストレプトアビジンを核として4量体(テトラマー)としたものを例示することができ、例えばHLA−A24のC末端に酵素Bir−Aの基質を発現させておき、Bir−A−dependent biotinilation法でビオチン化したHLA−A24と、フィコエリトリン(PE)標識脱グリコシル化アビジンを4:1で混合することにより得ることができる(Altman,J.D.,et al.:Science 274,94−96,1996)。これらタンパク−ペプチド結合体及びその4量体は、化学合成された本件ペプチド類と、HLA−A24遺伝子(アクセッションナンバー AAB60651)やβ−2ミクログロブリン遺伝子(アクセッションナンバー NM_004048)を利用した遺伝子工学的手法を用いて常法により作製したHLA−A24のαドメイン及びβ−2ミクログロブリンとをリフォールディングバッファー中でインビトロで結合させる(Garboczi et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,89:3429−3433,1992)ことにより、あるいは本件ペプチド類をコードするDNAとHLA−A24遺伝子やβ−2ミクログロブリン遺伝子とをそれぞれ利用した遺伝子工学的手法を用いて常法により本件ペプチド類とHLA−A24のαドメインやβ−2ミクログロブリンとを同一宿主細胞内で共発現させ、精製後にこれらを結合させることにより作製することができる。
本発明の融合タンパク質としては、上記タンパク−ペプチド結合体又はタンパク−ペプチド結合体の4量体とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとが結合しているものであればどのようなものでもよく、マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、蛍光色素、アルカリフォスファターゼ、抗体のFc領域、HRP、GFPなどを具体的に挙げることができ、またペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質類は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用したタンパク−ペプチド結合体の精製や、CTLの検出や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
本発明の本件ペプチド類に特異的に結合する抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらは上記本件ペプチド類を抗原として用いて常法により作製することができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点でより好ましい。かかるモノクローナル抗体等の本件ペプチド類に特異的に結合する抗体は、例えば、ATL等のHTLV−I腫瘍の診断に有用であるばかりでなく、本件ペプチド類のHTLV−I特異的CTL誘導の活性機構や分子機構を明らかにする上で有用である。
本件ペプチド類に対する抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に、該本件ペプチド類、該本件ペプチド類と免疫原性を有するタンパク質との複合体、該本件ペプチド類を膜表面に提示した細胞等を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256,495−497,1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4,72,1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,pp.77−96,Alan R.Liss,Inc.,1985)など任意の方法を用いることができる。
また、本発明のDNAとしては、上記本件ペプチド類をコードするDNAや、配列番号7又は8に示される塩基配列若しくはその相補的配列からなるDNAや、かかる配列番号7又は8に示される塩基配列若しくはその相補的配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドをコードするDNAであれば特に制限されるものではない(以下、上記の本発明のDNAを総称して「本件DNA群」ということがある。)。上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理をより好ましく挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば、種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。これら本発明のDNA群は、本件ペプチド類を遺伝子工学的手法を用いて常法により作製するときに有利に用いることができる他、特に本発明のDNA群のアンチセンス鎖は、ATL等のHTLV−I腫瘍の診断用プローブとして有用である。
本発明のHLA−A2拘束性Taxエピトープとしては、インビボやインビトロにおいてCTLを誘導することができる、上記配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドからなるエピトープであれば特に制限されるものではない。かかるHLA−A2拘束性Taxエピトープを含めた本件ペプチド類や、本件DNA群を発現させることができるベクターは、細胞性免疫や体液性免疫等の本発明の免疫応答誘導用ワクチンにおける有効成分として用いることができる。本発明の免疫応答誘導用ワクチンはATL等のHTLV−I腫瘍の治療に用いることができる。
また、本発明の免疫応答誘導用ワクチンとしては、さらに細胞性の又は局所的な免疫を増強する種々のアジュバントを含むものがより好ましく、かかるアジュバントとしては、例えば、効率よくペプチド特異的なCTLを誘導することができる樹状細胞、CpGモチーフを含むISS−ODN(Immunostimulatory DNA sequences−oligodeoxynucleotide;Nat.Med.3,849−854,1997)、細胞傷害性T細胞を刺激するQS21(Quillaia saponaria、Cambridge Biotech,Worcester,MAより商業的に入手可能)、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、油性エマルジョン、サポニン、ビタミンE溶解物等を具体的に挙げることができる。アジュバントを用いる場合、アジュバントとなる種々の菌体成分や毒素等と、前記本発明の本件ペプチド類とを連続してコードするDNAから作製した組換え融合タンパクあるいは組換え融合ペプチドとして用いることもできる。
また、上記本発明の免疫応答誘導用ワクチンを有効成分として含有する本発明の医薬組成物は、医薬的に容認可能な担体又は希釈剤、免疫賦活剤、添加剤等を含んでいてもよく、かかる担体又は希釈剤としては、例えば、SPGAなどの安定化剤や、ソルビトール、マンニトール、澱粉、スクロース、グルコース、デキストラン等の炭水化物や、アルブミン、カゼイン等のタンパク質や、ウシ血清、スキムミルク等のタンパク質含有物質や、リン酸緩衝液、生理食塩水、水等の緩衝液などを具体的に挙げることができる。免疫賦活剤としては、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−12(IL−12)、腫瘍壊死因子α(THF−α)等のサイトカインを具体的に例示することができ、添加剤としては、低分子量のポリペプチド(約10残基未満)、タンパク質、アミノ酸、グルコース又はデキストランを含む炭水化物、EDTAなどのキレート剤、蛋白質安定化剤、微生物増殖阻止若しくは抑制剤等を例示することができるがこれらに限定されるものではない。
また、本発明の医薬組成物は、経口、静脈内、腹腔内、鼻腔内、皮内、皮下、筋肉内等により投与することができる形態のものが好ましい。投与すべき有効量は、医薬品や医薬組成物の種類・組成、投与方法、患者の年齢や体重等を考慮して適宜決定することができ、これらを1日あたり1〜数回投与することが好ましい。また、経口投与する場合、通常、製剤用担体と混合して調製した製剤の形で投与される。この際、製剤に用いることができる担体としては、製剤分野において常用され、かつ本発明のペプチドと反応しない物質が用いられる。また、剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等を具体的に例示することができ、これらの製剤は常法に従って調製され、特に液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形態とすることもできる。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明のペプチドを水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。またこれらの製剤は、治療上価値のある他の成分を含有していてもよい。
さらに、本発明の本件ペプチド類は、HTLV−Iの感染予防及び/又はHTLV−I関連疾患の症状改善用食品素材として、プリン、クッキー、パン、ケーキ、ゼリー、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜へ配合し、機能性食品として摂取することもできる。
本発明の免疫機能検査診断薬としては、本件ペプチド類、本件DNA群を発現させることができるベクター、HLA−A24と本件ペプチド類とが結合したタンパク−ペプチド結合体、又は該タンパク−ペプチド結合体の4量体を有効成分とし、免疫機能、特にHTLV−Iに対する免疫機能を検査・診断しうるものであれば特に制限されるものではないが、通常は、本件ペプチド類の標識体、発現産物が標識体となる本件DNA群を発現させることができるベクター、HLA−A24と本件ペプチド類とが結合したタンパク−ペプチド結合体の標識体、又は該タンパク−ペプチド結合体の4量体の標識体を用いることが好ましい。標識体とするために用いられる標識化物質しては、上記のマーカータンパク質やペプチドタグの他、放射性同位元素を用いることができる。本発明の免疫機能検査診断薬を用いた免疫機能検査診断は、対象被験者の末梢血白血球(リンパ球)に本発明の免疫機能検査診断薬を接触させ、本件ペプチド類等におけるエピトープを認識するT細胞と結合させることによりHTLV−I Tax特異的T細胞を識別することができる。免疫機能検査診断薬の中でも、上記タンパク−ペプチド結合体の4量体のPE等の蛍光標識体はフローサトメトリーによるCTLの検出・定量を可能にするため、免疫機能検査診断薬の他、ワクチン効果判定に特に有用である。例えば、ヘパリン末梢血検体から単核球分画を分離し、PE標識テトラマー(タンパク−ペプチド結合体の4量体)と、FITCやCy5で標識したCD8抗体等の活性化マーカー抗体とで2重染色し、フローサイトメーターでCD8陽性テトラマー陽性の細胞数を計算することにより、対象被験者の免疫機能の検査・診断を行うことができる。また、新鮮血液検体ではテトラマー陽性細胞数が非常に少ないことがよくあることから、新鮮血液検体だけでなく、本件ペプチド類やその発現細胞などで一回刺激をした後、数日〜1週間培養後に同様の染色解析をすることもできる。
本発明の発現ベクターとしては、本件ペプチド類や、HLA−A24(αドメイン及び/又はβ−2ミクログロブリン)と本件ペプチド類との結合体を発現することができるものであればどのようなものでもよく、使用される発現系としては、上記本件ペプチド類を細胞内で発現させることができる発現系であればどのようなものでもよく、染色体、エピソーム及びウイルスに由来する発現系、例えば、細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来、SV40のようなパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルス由来のベクター、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来及びこれらの組合せに由来するベクター、例えば、コスミドやファージミドのようなプラスミドとバクテリオファージの遺伝的要素に由来するものを挙げることができるが、中でもウイルス系ベクターが好ましい。これら発現系は、発現を起こさせるだけでなく、発現を調節する制御配列を含んでいてもよい。また、読み枠を変えて翻訳することができる発現ベクターシリーズも有利に用いることができる。本発明の発現ベクターは、本発明の免疫応答誘導用ワクチンにおける有効成分として有用である。
本発明の宿主細胞としては、本件ペプチド類や、HLA−A24(αドメイン及び/又はβ−2ミクログロブリン)と本件ペプチド類との結合体を発現することができる発現系を含む細胞であればどのようなものでもよく、使用される宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真核細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、HEK293細胞、Bowesメラノーマ細胞、卵母細胞等の動植物細胞などを挙げることができる。また、本件ペプチド類を発現することができる発現系の宿主細胞への導入は、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング(scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等により行うことができる。これら本発明の宿主細胞は、本件ペプチド類のHTLV−I特異的CTL誘導の活性機構や分子機構を明らかにする上で有用である。
本発明のHTLV−I認識CTLの誘導方法としては、HSCT前のATL患者に由来するHTLV−I感染T細胞を用いて、同種のHLAタイプ、すなわちHLA−A24タイプのドナー由来のHSCT後の同じ患者のPBMCをインビトロ、インビボ又はエクスビボで刺激するCTLを誘導する方法や、本件ペプチド類を用いて、HLA−A24陽性のATL患者のPBMCをインビトロ、インビボ又はエクスビボで刺激するHTLV−I認識CTLの誘導方法や、本件DNA群を発現させることができるベクターを用いて、例えばPBMC中の抗原提示細胞に遺伝子工学的にペプチドを発現させるなど、HLA−A24陽性のATL患者のPBMCをインビトロ、インビボ又はエクスビボで刺激するHTLV−I認識CTLの誘導方法であれば特に制限されるものではなく、かかる誘導方法により得られるHTLV−I認識CTLは、養子免疫療法としてATL等のHTLV−I腫瘍の治療に用いることができる他、HTLV−I特異的CTL誘導の活性機構や分子機構を明らかにする上で有用である。
以下に、実施例を揚げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
A[方法と材料]
A−1(レシピエント/ドナー組み合わせ及び血液サンプル)
2名の急性型ATL患者である#37(ケース1)及びR07(ケース2)、並びに、それぞれの患者のHLAが一致する同胞ドナーである#36及びD07から末梢血サンプルを得た。患者#37はHSCT後4週間で一過性再発を起こしたものの、いずれのケースもHSCT後2ヶ月で完全寛解を得た。ヘパリン処置した血液を、移植12日前及び移植183日後に患者#37から、移植30日前及び移植255日後に患者R07から、それぞれ採取した。彼らの末梢血単核細胞(PBMC)をフィコール・ハイパックプラス勾配遠心法(Amersham Bioscience社製、Piscataway,New Jersey)により単離し、使用するまで一部を液体窒素で保存した。
A−2(細胞株)
HSCT前の患者#37及び患者R07のそれぞれに由来するHTLV−I感染T細胞株であるILT−#37及びILT−R07を、下記の手順で樹立した。PBMCからダイナビーズM450−CD8(Dynal社製、Oslo,Norway)を用いてCD8細胞を除去した後に1μg/mlのフィトヘマグルチニン(PHA)−P(SIGMA社製、St.Louis,Missouri)で刺激し、次に10%熱不活性ウシ胎児血清(FCS)(SIGMA社製)と、10U/mlの組換えヒトIL−2(塩野義製薬社製、大阪、日本)又は10ng/mlの組換えヒトIL−15(SIGMA社製)とを含むRPMI−1640培地(GIBCO−Invitrogen社製、Grand Island,New York)で5%の二酸化炭素と共に37℃で2ヶ月以上維持した。エプスタイン・バールウイルス(EBV)形質転換B細胞株であるLCL−#36は、EBVを含むB95−8細胞(J.Immunol.124,1045−1049,1980)の上澄を用いて感染させたドナー#36のCD19PBMCからインビトロで樹立した。HTLV−I感染T細胞株であるTCL−Kan(Int.J.Cancer 34,221−228,1984)及びILT−As−2(Int.Immunol.3,761−767,1991)、EBV形質転換B細胞株であるLCL−Kan,LCL−As、及びTOK(J.Virol.66,2928−2933,1992)、及び赤芽球様細胞株であるK562(Blood 45,321−334,1975)もまた使用した。
A−3(HTLV−I特異的CTLの誘導)
HSCT後の患者#37及びR07の全細胞又はCD8細胞を豊富に含む100万個のPBMCを、1μg/mlのPHA−Pで刺激し、次に1%ホルムアルデヒド/PBSで前処理した同数のILT−#37又はILT−R07細胞と混合した。これらのT細胞を10%FCS及び100U/mlの組換えヒトIL−2を添加したAIM−VTM培地(GIBCO−Invitrogen社製)で維持し、10日から14日の間隔をあけて定期的にそれぞれのILT細胞で刺激をあたえた。
A−4(合成ペプチド)
本発明者らはHTLV−IのTaxタンパク質の配列すべてを網羅するために全部で38のペプチド(9〜24塩基長)を調製した。いくつかのペプチドは従前の方法に従って合成し(J.Natl.Cancer Inst.93,1775−1783,2001;J.Virol.66,2928−2933,1992)、他のすべての9塩基長のペプチドは株式会社ホクドー(北海道、日本)より購入した。HTLV−IのTaxのうちHLA−A2又はHLA−A24と結合する可能性のあるペプチドを同定するために、コンピュータを利用したプログラムであるBIMAS(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbil/hla#bind/)を文献(J.Immunol.152,163−175,1994;J.Immunol.152,3913−3924,1994)記載の方法に従い使用した。
A−5(CTL分析)
様々なエフェクター細胞対標的細胞(E/T)割合において文献(J.Natl.Cancer Inst.93,1775−1783,2001;J.Virol.76,7010−7019,2002)記載の方法に従い、51Cr放出分析を6時間行い、細胞傷害活性を測定した。特異的細胞傷害性を式([実験により得られた51Cr放出量−自発性の51Cr放出量]/[最大51Cr放出量−自発性の51Cr放出量]×100%)により算出した。エフェクター細胞が産生するIFN−γを測定するために、様々なE/T割合において標的細胞と18時間インキュベーションした後に、ELISA法(ヒトIFN−γELISAキット,Endogen社製、Woburn,Massachusetts)を用いて2回測定した。
A−6(組み換えワクシニアウイルス)
HTLV−IのpX遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス(rvv)WR−p27及びHTLV−I遺伝子をもたないWR−HAはDr.Hisatoshi Shida(北海道大学、日本)(Cell 55,197−209,1988)から供与されたものを用い、文献(Int.Immunol.3,761−767,1991;J.Natl.Cancer Inst.93,1775−1783,2001)記載の方法に従い感染効率(MOI)を50にして使用した。
A−7(ELISPOT分析)
文献(J.Immunol.Methods 191,131−142,1996;J.Exp.Med.186,859−865,1997)記載の方法で、IFN−γ特異的ELISPOT分析を行い、IFN−γを産生する抗原特異的T細胞数を計測した。簡潔に述べると、抗IFN−γモノクロナール抗体である1−D1K(MABTECH社製,Nacka,Sweden)であらかじめ3回コーティングした96ウェルのPVDFプレート(ELISIP10SSP,Millipore社製、Bedford,Massachusetts)に、5×10細胞/ウェルの刺激細胞又は10μg/mlのペプチドと共に、1×10細胞/ウェルのPBMCを37℃で一晩静置した。翌日に細胞を除去し、ウェルをビオチン標識した抗IFN−γモノクロナール抗体である7−B6−1ビオチン(MABTECH社製)と共に2時間インキュベーションした後、ストレプトアビジンアルカリフォスファターゼ(MABTECH社製)と共にさらに1時間インキュベーションした。BICP/NBTアルカリフォスファターゼ基質(SIGMA社製)と10分間反応させた後、乾燥させた膜上の染色箇所数をKS−ELISPOT光学顕微鏡システム(Carl Zeiss社製、Jena,Germany)を用いて計数した。
A−8(4量体染色)
フィコエリトリン(PE)複合型HLA−A0201/Tax11−19(LLFGYPVYV;配列番号1)4量体およびフィコエリトリン(PE)複合体HLA−A2402/Tax301−309(SFHSLHLLF;配列番号4)4量体は、NIAID Tetramer Facility,Emory Univ.Vaccine Center at Yerks(Atlanta,Georgia)に合成を委託し提供を受けた。リンパ球を、Cy−ChromeTM複合型抗CD8抗モノクロナール抗体(BD Pharmingen社製)を用いて30分間染色した後、4量体を用いてさらに60分間4℃で染色し、次にCellQuestソフトウェア(Beckton Dickinson社製)を用いてFACSCaliburで2色解析を行った(J.Immunol.162,1765−1771,1999)。
B[結果]
B−1(HSCT前のHTLV−I感染細胞と反応するHSCT後のレシピエントからのCTL誘導)
HSCT前のレシピエント由来の造血細胞に対するHSCT後のレシピエントの免疫応答を調べるために、本発明者らはHSCT前の患者#37及びR07それぞれから、IL−2又はIL−15の存在下でPHAの刺激を受けたPBMCを2ヶ月以上維持することにより、T細胞株であるILT−#37及びILT−R07を樹立した。どちらの細胞株もCD4や、HTLV−IのTax、p19等のHTLV−I抗原に陽性であった。
ILT−#37細胞に対するHSCT後の患者#37のPBMCにおけるT細胞応答を、造血細胞がドナー由来の造血細胞に完全に置換されたHSCTの183日後に調べた。ドナー#36はHTLV−Iキャリアだったので、ドナー#36のILT#37に対するT細胞応答も調べてみた。培養開始19日後に、インビトロでIL−2の存在下においてホルムアルデヒド処理したILT−#37で2回刺激したHSCT後の患者#37のPBMCとドナー#36のPBMCを調べ、ILT−#37及びK562細胞に対するインターフェロンガンマ(IFN−γ)産生能力を測定した。一晩インキュベーションした後、ILT−#37に対してはHSCT後の#37及びドナー#36両方の培養からIFN−γが産生されたが、K562細胞に対しては産生されなかった(図1)。IFN−γ産生応答の規模はドナー#36の培養液よりもHSCT後の#37の培養液においてはるかに大きかった。細胞増殖もまた、ドナー#36の培養液よりもHSCT後の患者#37の培養液において速かった。本発明者らは、HSCT後の患者#37のエフェクター細胞のほとんどがILT−#37細胞を死滅させる能力のあるCD8細胞傷害性Tリンパ球(CTL)であることを51Cr放出分析により確認した。
B−2(HSCT後の患者から誘導したCTLのHTLV−I特異性)
次に、ILT−#37細胞の刺激に対する、HSCT後の患者#37由来のCTLの特異性を調べた。ILT−#37に対して顕著なレベルの細胞傷害性を観察したが、PHAで刺激を受けたHSCT前の患者#37のPBMCに対しては観察できなかった(図2a)。この結果は、どちらの標的細胞もHSCT前の患者#37から由来するものの、CTLの主な標的抗原は好ましくはILT−#37で発現する抗原であり、PHAで刺激を受けたPBMCで発現する抗原ではないということを明示している。さらに、CTLはHLA−A2及びB46を共有する同種HTLV−I感染TCL−Kan細胞を効果的に死滅させたが、HLA不一致のHTLV−I感染ILT−As−2、HLAが一致するドナー#36由来のEBV感染LCL−#36、LCL−Kan、LCL−As細胞は死滅させなかった。以上の結果は、ILT−#37に応答するHSCT後の患者#37から樹立したCTL株(HSCT後の患者#37のCTL株)がHTLV−I抗原特異的であることを強く明示した。
放射標識したILT−#37に対するHSCT後の患者#37のCTL株の細胞傷害性は顕著であったが、Taxを含むHTLV−IのpX遺伝子産物を発現するワクシニア組換え体で感染させた非標識のLCL−#36(LCL−#36/p27X)によって部分的に抑制され(図2b)、HSCT後の患者#37のCTL株がILT−#37細胞を溶解することのできる大量のHTLV−IのTax特異的CD8CTLを含むことが示された。
さらに本発明者らは、アンカーモチーフに基づきコンピュータプログラムによってHLA−A2拘束性Taxエピトープである可能性が最も高いと予測されたTaxアミノ酸配列に対応する15から24塩基長のオリゴペプチドのパネルと、5種の9塩基長のペプチドを用いてHSCT後の患者#37のCTL株が認識したHTLV−IのTaxにおけるエピトープを調べた。オリゴペプチドTax1−24(MAHFPGFGQSLLFGYPVYVFGDCV;配列番号2)及びTax11−19(LLFGYPVYV;配列番号1)でパルスされたLCL−#36細胞は、HSCT後の患者#37のCTL株によって選択的に死滅させられた。以上の結果は、HSCT後の患者#37のCTL培養液中のHTLV−IのTax特異的CTLの主な集団が、HLA−A2拘束性Tax11−19エピトープに導かれることを明らかにした(図3)。なお、かかるHLA−A2拘束性Tax11−19エピトープについては、本発明者らは以前にヒトHLA−A2に拘束されるCTLの主要エピトープとして既に報告している(J.Virol.66,2928−2933,1992)。
B−3(HSCT前の患者、HSCT後の患者、及びドナー間での異なるHTLV−I特異的応答)
次に、HSCT前の#37、HSCT後の#37及びドナー#36間で、HTLV−I特異的CTL応答が質的又は量的に異なるかどうかを調べてみた。インビトロ培養による実験的なバイアスを受けずに、HTLV−I特異的CTL前駆体細胞数を調べるために、冷凍保存したPBMCを直ちにELISPOT分析にかけ、IFN−γ産生を調べた。ILT−#37又はTaxエピトープに応答するレシピエント#37及びドナー#36の非培養PBMC中のCTL前駆体についての結果を表1に示す。冷凍貯蔵されていたHSCT前及びHSCT後の患者#37の非培養PBMC及びドナー#36の非培養PBMCを直接解凍し、上記A[方法と材料]で述べたように、ホルマリン処理したILT−#37、合成オリゴペプチドTax11−19及びTax307−315、又はコントロール培地と共に一晩インキュベーションした後、IFN−γのELISPOT分析を行い、10あたりのIFN−γ産生細胞の数を測定した。値は3回の実験の平均値±SDである。また、IFN−γのELISPOT分析の結果はPBMC10あたりのスポット形成細胞(SFC)で表わされている。その結果、一晩ILT−#37で刺激を受けた結果生じたIFN−γ産生細胞数は、HSCT後の患者#37及びドナー#36でほぼ同じであった。しかしながらTax11−19ペプチドに応答するIFN−γ産生細胞数は、HSCT後の#37の方がドナー#36よりも多かった。HSCT前の患者#37のPBMCにおいては、IFN−γ産生細胞数は刺激がないときであっても一般的に高く、ILT−#37細胞又はTax11−19ペプチドで刺激を受けるとさらに増加した。
Figure 2004092373
次に、IL−2の存在下でILT−#37細胞により定期的に刺激を与え、HSCT前の患者#37のPBMCを培養した。HSCT後の患者#37のPBMCと異なり、HSCT前のPBMCは増殖せず、7週間以上維持することができなかった。この細胞株の培養開始40日後の細胞傷害能力を示す(図4a)。同じように培養した培養46日後のHSCT後の#37及びドナー#36のPBMCと対照的に、HSCT前の患者#37の培養液はHTLV−I特異的細胞傷害性の有意なレベルを示さなかった。また、本発明者らはこれらの培養したPBMCをHLA−A0201/Tax11−19の4量体で染色した。CD8細胞中のHLA−A0201/Tax11−19細胞の割合はドナー#36よりもHSCT後の患者#37において著しく高かった(図4b)。HSCT前の患者#37の培養液は主にCD8陰性細胞で構成されていた。以上の観察から、HSCT後の#37及びドナー#36のHTLV−I特異的CTLはインビボでILT−#37の刺激に応答して増殖することができるが、HSCT前の#37のHTLV−I特異的CTLは増殖できないこと、及びTax11−19特異的CTLはHSCT後の患者#37において選択的に活性化されることが明らかとなった。
B−4(HTLV−I陰性ドナーからのHSCT後のHTLV−I特異的CTLの誘導)
HSCTの2番目のケースでは、HSCT前の患者R07から由来するILT−R07に対して、HSCT後の患者R07(HSCT255日後)の細胞性免疫応答を同様に調査した。インビトロでの培養3週間後に、ホルムアルデヒド処理したILT−R07で刺激を受けたHSCT後の患者R07のCD8細胞を豊富に含むPBMCは、HLA−A24を共有するILT−R07及び同種HTLV−I感染細胞に対する顕著なレベルの細胞傷害性及びIFN−γ産生を示した。このように、HSCT後の患者R07のPBMC培養液中に、HLA−A24拘束性HTLV−I特異的CTLが存在することが強く示唆された。続いてこれらのCTLのエピトープのマッピングを行った。HLA−A24拘束性エピトープである可能性が最も高いとコンピュータプログラムが予測したTaxの15から24塩基長のオリゴペプチドのパネル及び5種の9塩基長のオリゴペプチドのうち、Tax301−315(SFHSLHLLFEEYTNI;配列番号3)及びTax301−309(SFHSLHLLF;配列番号4)が応答細胞と選択的に反応した(図5)。また、本発明者らはこれらの培養PBMCをHLA−A2402/Tax301−309の4量体で染色した。CD8細胞中のHLA−A2402/Tax301−309細胞の割合は3割を超えていた(図6)。以上の観察から、選択的なTaxエピトープに対するHTLV−I特異的CTL応答が、HSCT後の患者#37においてもみられたように、HSCT後の患者R07においても誘導されることが明らかにされた。
C[考察]
2名のATL患者において、HLAが一致する同胞からの骨髄非破壊性HSCT後に、限られた数のエピトープに対するHTLV−IのTax特異的CTL応答が見い出された。HSCT後の患者#37の培養PBMCは、HTLV−Iキャリアであるドナー#36のCTL株よりもはるかに大量のHLA−A0201/Tax11−19の4量体で染色されるCTLを含有していた(図4b)。これは、HSCT後の患者のHTLV−I特異的CTL応答とドナーにおけるCTL応答とがCTLの量だけではなく質的にも異なることを意味している。ドナーにおいては、HTLV−I特異的T細胞免疫応答は一次的なHTLV−I感染に対して取得した宿主防御応答として誘引されなければならなかった。それに対して、HSCT後のレシピエントにおいては、T細胞免疫はHTLV−Iが持続的に感染している状態において導入された。移植後レシピエントに観察されたと同様のHTLV−I特異的CTLのオリゴクローナル(oligoclonal)増殖が、ウイルス量が通常高いHAM/TSP患者にも観察されることは興味深いことであり(Virology 217,139−146,1996;J.Clin.Invest.94,1830−1839,1994)、HSCT後のATL患者に観察されるHTLV−I特異的応答の特定のパターンは、インビボでの豊富な抗原提示が原因でありうることが示唆された。非感染ドナーからのHSCTであった2番目のケースでは、HSCT後の患者R07から誘導されたCTLもまた限られたエピトープ、つまりHLA−A24拘束性Tax301−309エピトープを特異的に認識し、選択的CTL応答の原因がドナー側ではなくレシピエント側にあることを明示している。
HSCT後の患者#37及びドナー#36の非培養PBMCをHTLV−I抗原で一晩刺激後、ELISPOT分析を行い、ほぼ同量の含有IFN−γ産生細胞数を検出した(表1)。特に、HSCT前の患者#37のPBMCは刺激を受けなくても自発的にIFN−γを産生する、かなりの数の細胞を含んでいた。しかしながら、ILT−#37細胞による刺激を受けたインビトロ培養後には、HTLV−I特異的CTLはHSCT後の患者#37及びドナー#36からは誘導されたものの、HSCT前の患者#37からは誘導され得なかった(図4a、b)。この結果はHTLV−I特異的CTLの増殖はATL患者においては稀であるという従前の観察と一致するものである(Leukemia 8 Suppl 1,S54−59,1994;J.Immunol.133,1037−1041,1984;J.Exp.Med.177,1567−1573,1993;Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,7568−7573,1998;J.Immunol.162,1765−1771,1999)。ATL患者においてHTLV−I特異的CTLが増殖できない理由は未だ不明であるが、本発明者らが得た結果によって、HSCT後の免疫再構築は抗原刺激により、記憶状態にあるHTLV−I特異的CTLを増殖可能にならしめることが明示された。
GVHDに関与することが示唆されてきたいくつかのmHA(N.Engl.J.Med.334,281−285,1996;Science 279,1054−1057,1998;Br.J.Haematol 106,723−729,1999;Blood 92,2169−2176,1998)はGVL標的の候補である。HSCT前のATL患者に由来するILT−#37及びILT−R07細胞株は、HTLV−I抗原と共にレシピエント由来の抗原も所有していた。ILT−#37に対するHSCT後の患者#37から樹立したCTL株の細胞傷害性は、非標識のTax発現細胞を用いても完全には競合されなかったので(図2b)、Tax特異的抗原以外の他の抗原を認識するCTLも同時に存在すると思われる。GVL効果の正確な標的抗原及びGVL効果に対するHTLV−IのTax特異的CTLの貢献度は充分には解明されていない。しかし、HAM/TSP患者において同様に観察されたように、強力で選択的なHTLV−I特異的CTL応答が、HLA一致の同胞からの同種HSCT後にATL患者に樹立されたことは、患者体内でCTLエピトープが強く発現されていたことを意味し、本発明のCTLエピトープがワクチン抗原として有用であることを示す。このワクチン抗原を用いると、HTLV−I感染細胞の増殖をインビボで抑制するCTLを誘導することが可能となる。
(1)本発明により、日本人の60%以上が有するHLA−A24に拘束されるCTLの主要エピトープを見い出された。HTLV−Iに対する免疫応答の検査に本エピトープ部位のペプチドを使用することによって、日本人集団のかなりの部分をカバーできることになる。
(2)現在では、それぞれのHLAについて親和性のあるアミノ酸アンカーモチーフからエピトープの予測が可能である。しかしながら、生体内の病原体に対する宿主の免疫反応は必ずしもこの予測と一致しない。本発明により同定されたエピトープは感染個体から得られたものであり、しかも他のエピトープよりも非常に強い選択性を持って認識されている。
(3)ATL患者からHTLV−I特異的CTLが誘導されることは稀だが、幹細胞移植後に完全寛解に入ったATL症例から、本発明により同定されたエピトープに対するCTLが選択的に誘導された。これは、患者体内でこのエピトープが強く発現されていたことを意味し、本エピトープがワクチン抗原として有用であることを示している。
【配列表】
Figure 2004092373
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Figure 2004092373
Figure 2004092373

Claims (31)

  1. 配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド。
  2. 配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド。
  3. 請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドと、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合ペプチド。
  4. HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとが結合したタンパク−ペプチド結合体。
  5. HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとが結合したタンパク−ペプチド結合体の4量体。
  6. 請求項4記載のタンパク−ペプチド結合体又は請求項5記載のタンパク−ペプチド結合体の4量体と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質。
  7. 以下の(a)又は(b)のペプチドをコードするDNA。
    (a)配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド
    (b)配列番号3又は4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチド。
  8. 配列番号7又は8に示される塩基配列若しくはその相補的配列からなるDNA。
  9. 請求項8記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドをコードするDNA。
  10. 配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドからなるHLA−A24拘束性Taxエピトープ。
  11. 配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを有効成分として含有する免疫応答誘導用ワクチン。
  12. 配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを有効成分として含有する免疫応答誘導用ワクチン。
  13. 請求項7〜9のいずれか記載のDNAを発現させることができるベクターを有効成分として含有する免疫応答誘導用ワクチン。
  14. さらに、HTLV−I特異的CTL誘導活性を増強するアジュバントが含まれている、請求項8〜10のいずれか記載の免疫応答誘導用ワクチン。
  15. 請求項11〜14のいずれか記載の免疫応答誘導用ワクチンを有効成分として含有する医薬組成物。
  16. 配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを有効成分として含有する免疫機能検査診断薬。
  17. 配列番号3又は4に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを有効成分として含有する免疫機能検査診断薬。
  18. 請求項7〜9のいずれか記載のDNAを発現させることができるベクターを有効成分として含有する免疫機能検査診断薬。
  19. HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとが結合したタンパク−ペプチド結合体を有効成分として含有する免疫機能検査診断薬。
  20. HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとが結合したタンパク−ペプチド結合体の4量体を有効成分として含有する免疫機能検査診断薬。
  21. 請求項7〜9のいずれか記載のDNAを有効成分として含有するHTLV−I腫瘍の診断薬。
  22. 請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドに特異的に結合する抗体。
  23. 抗体がモノクローナル抗体である請求項22記載の抗体。
  24. 請求項22又は23記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドに特異的に結合する抗体を有効成分として含有するHTLV−I腫瘍の診断薬。
  25. 請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを発現することができる発現ベクター。
  26. 請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞。
  27. HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとの結合体を発現することができる発現ベクター。
  28. HLA−A24と請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドとの結合体を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞。
  29. HSCT前のATL患者に由来するHTLV−I感染T細胞を用いて、同種のHLAタイプのドナー由来のHSCT後の同じ患者のPBMCを刺激することを特徴とするHTLV−I認識CTLの誘導方法。
  30. 請求項1又は2記載のHTLV−I特異的CTL誘導活性ペプチドを用いて、HLA−A24陽性のATL患者のPBMCを刺激することを特徴とするHTLV−I認識CTLの誘導方法。
  31. 請求項7〜9のいずれか記載のDNAを発現させることができるベクターを用いて、HLA−A24陽性のATL患者のPBMCを刺激することを特徴とするHTLV−I認識CTLの誘導方法。
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