JPWO2004091020A1 - 酸素還元用電極およびそれを用いた電気化学素子 - Google Patents

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Abstract

酵母類を利用した後に発生する酵母類を含む廃棄物を有効利用する方法として、炭化することによって他材料の炭化物と同様に一般的な吸着剤、乾燥剤、土壌改良剤や触媒などの用途に適用できるが、産業利用を拡大するために新たな用途探索が必要であった。酵母類を含有する材料を炭化して得られた粒状または粉状の炭化物を導電性通気性基体に担持して用いることによって、電気化学的に酸素還元可能な電極を得ることができる。本炭化物は、イオンの経路と酸素の経路の交差点に配置されることによって酸素の電気化学的還元を小さな過電圧(抵抗)でスムーズに起こすことが可能になり、大きな起電力を得ることができるという従来では示唆されていなかった新しい用途を提供できる。

Description

本発明は、酸素を還元する反応に用いられる酸素還元用電極およびそれを用いた電気化学素子に関する。
酸素(O)を電解反応により還元した場合には、1電子還元、2電子還元又は4電子還元が起こることが知られている。1電子還元では、スーパーオキシドが生成する。2電子還元では、過酸化水素が生成する。4電子還元では、水が生成する(例えば、JACEK KIPKOWSKI、PHILIP N.ROSS編集、ELECTROCATALYSIS、WILEY−VCH出版、1998年、204−205頁)。
酸素の還元反応を電池の正極反応として用いる場合、大容量で、高電圧でしかも高出力電流の電池などを得ることが要求される。この場合、酸素の還元反応では、a)できるだけ多くの電子を移動させること、b)できるだけ貴な(プラスの)電位とすること、c)過電圧をできるだけ抑えることが要求される。そのためには、4電子還元反応を高電位で小さな過電圧で進行させる触媒を用いることが好ましい。このような触媒のひとつとして、白金(Pt)がある。
しかしながら、白金は、次のような問題がある。(1)白金は高価な貴金属であり、コスト的に不利である。また、(2)白金は、酸素の還元のみならず、エタノール、水素などの燃料物質の酸化反応にも活性を示すため、反応の選択性に乏しい。このため、実際の利用にあたって、酸化反応、還元反応が行われる場所をセパレータなどで分けなければならない。(3)白金の表面は一酸化炭素又は水酸基により不活性化されやすく、高い触媒活性を維持することが困難なことがある。
そこで、白金に代わる触媒を開発するため、これまでいくつかの取り組みがなされている。
例えば、特公平2−030141号公報又は特公平2−030142号公報には、酸素ガス還元能を有する鉄フタロシアニン、コバルトポルフィリンなどの金属キレート化合物を担持した導電性粉末とフッ素樹脂の多孔質成形体よりなる触媒が提案されている。また、金属キレート化合物の2量体(二核錯体)を使うことによって、高い酸素還元能(4電子還元能)が達成でき、大きな出力の空気電池への応用に期待できることが知られている。
例えば、コバルトポルフィリン二核錯体などのように、Cr、Mn、Fe、Coなどの遷移金属を中心金属とする大環状錯体を用いる酸素還元触媒の技術が開示されている(JACEK KIPKOWSKI、PHILIP N.ROSS編集、ELECTROCATALYSIS、WILEY−VCH出版、1998年、232−234頁)。
特開平11−253811号公報には、酸素還元用マンガン錯体触媒が開示されている。この錯体は、酸素の4電子還元反応を高い選択率で行うための触媒となる。この文献には、マンガン原子が、2価から7価の価数をとり、マイナス0.5Vからプラス2Vの電位範囲で酸素還元反応を触媒すると述べられている。
これら触媒を実際に用いる場合には、安定性に優れる担体に触媒を担持されることが多い。電気化学素子の電極反応に用いる場合には、導電性のある担体としてカーボン材料が広く使用されている。例えば、カーボンブラック、活性炭、グラファイト、導電性炭素、ガラス状カーボンなどのカーボン材料が用いられる。これらカーボン材料は、通常では酸素を電解還元した際に、2電子還元反応を起こし、過酸化水素を与えることが知られている。
しかしながら、前記のような触媒を用いることによって高い電位を得ようとすれば、価数の大きな中心金属原子をもつ金属錯体が必要となる。このような金属錯体は反応性が高いため、金属錯体が接触する部材(例えば、電解液、電極リード、集電体、電池ケース、セパレータ、ガス選択透過膜など)と反応し、これら部材の劣化を引き起こすという難点がある。
また、担体として用いるカーボン材料に関して、ヤシ殻活性炭、木質炭化物などは過酸化水素を分解する作用をもつことが知られている。例えば、過酸化水素分解触媒として高い性能をもつ活性炭としてアクリル繊維の炭化物、ビール粕の炭化物等が開示されている(特開平7−024315号公報、特開2003−001107号広報など)。
しかしながら、カーボン材料自体のもつ触媒作用に関しては、一般的に知られている電極反応(すなわち、2電子還元反応)しか知られていない。酸素を還元する電極触媒としての触媒作用や有効性については、特に開示されていない。
本発明の主な目的は、酸素を還元する反応において4電子還元反応をより高い選択率で与える酸素還元用電極を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、電解質に可溶の燃料物質に対してほとんど酸化活性を示さない安定な酸素還元用電極を提供することにある。
すなわち、本発明は、下記の酸素還元用電極およびそれを用いた電気化学素子に係る。
1. 酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極を製造する方法であって、(1)酵母含有物質を炭化することにより炭化物を得る第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて前記酸素還元用電極を製造する第二工程を有する製造方法。
2. 酵母含有物質が、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、パン酵母、食飼料酵母、ビール絞り粕、清酒粕、ワイン製造用葡萄汁絞り粕、ウイスキー製造用麦汁絞り粕、とうもろこし汁絞り粕及び醤油粕の少なくとも1種である前記項1記載の製造方法。
3. 第一工程において、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で300℃以上1200℃以下で前記酵母含有物質を炭化する前記項1記載の製造方法。
4. 第一工程において、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で500℃以上1000℃以下で前記酵母含有物質を炭化する前記項3記載の製造方法。
5. 前記雰囲気が不活囲ガス雰囲気である前記項3記載の製造方法。
6. 第一工程において、炭化物をさらに賦活処理する前記項1記載の製造方法。
7. 第二工程において、前記電極材料を所定の形状に成形して成形体を得た後、前記成形体を導電体基体に積層又は圧着することにより前記酸素還元用電極が製造される、前記項1に記載の製造方法。
8. 第二工程において、前記電極材料をペースト状にして電極材料を含有するペーストを得た後、前記ペーストを導電性基体にコーティングすることにより前記酸素還元用電極が製造される、前記項1に記載の製造方法。
9. 前記酵母含有物質、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を添加する前記項1記載の製造方法。
10. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
11. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
12. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
13. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
14. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
15. 前記酵母含有物質、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、金属及びその酸化物の少なくとも1種を添加する前記項1記載の製造方法。
16. 酸化物が一般式MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項7記載の製造方法。
17. 酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電極であって、酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極。
18. リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項17記載の酸素還元用電極。
19. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
20. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
21. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
22. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
23. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
24. 金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項17記載の酸素還元用電極。
25. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項24記載の酸素還元用電極。
26. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されてなる前記項17記載の酸素還元用電極。
27. 導電性基体が、通気性である前記項26記載の酸素還元用電極。
28. 中性水溶液電解質中で分子状酸素を電気化学的に還元するために用いる前記項17記載の酸素還元用電極。
29. a)酸素を4電子還元する正極、b)負極及びc)電解質を含み、かつ、上記正極が酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電気化学素子。
30. 前記正極が、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項29記載の電気化学素子。
31. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
32. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
33. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
34. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
35. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
36. 前記正極が金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項29記載の電気化学素子。
37. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項36記載の電気化学素子。
38. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されて前記正極が構成されている前記項29記載の電気化学素子。
39. 導電性基体が、通気性である前記項38記載の電気化学素子。
40. 電解質が、中性水溶液電解質である前記項29記載の電気化学素子。
41. 負極の反応が、電解質に可溶の燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることを特徴とする前記項29記載の電気化学素子。
42. 前記電解質に、糖類及びアルコール類の少なくとも1種が含まれている前記項29記載の電気化学素子。
43. 酸素の4電子還元を行う方法であって、
a)酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む正極、b)負極及びc)電解質を含む電池を提供する電池提供工程、および
上記正極に酸素を供給することによって酸素の4電子還元を行う酸素供給工程
を含む還元方法。
44. 前記正極が、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項43記載の還元方法。
45. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
46. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
47. 前記炭化物が、約2100cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
48. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
49. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約2100cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
50. 前記正極が金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項43記載の還元方法。
51. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項50記載の還元方法。
52. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されて前記正極が構成されている前記項43記載の還元方法。
53. 導電性基体が、通気性である前記52記載の還元方法。
54. 電解質が、中性水溶液電解質である前記項43記載の還元方法。
55. 負極の反応が、電解質に可溶の燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることを特徴とする前記項43記載の還元方法。
56. 前記電解質に、糖類及びアルコール類の少なくとも1種が含まれている前記項43記載の還元方法。
図1は、試験電極1と2、および各比較電極における酸素還元反応に対する電圧(起電力)−電流特性を示す図である。
図2は、試験電極3、4、5、6、および各比較電極における酸素還元反応に対する電圧(起電力)−電流特性を示す図である。
図3は、本発明の一実施例の測定における3極電極セルの断面図である。
図4は、本発明の他の一実施例における発電セルの断面図である。
符号の説明
1 空気電極
1a 空気極混合物
1b フッ素樹脂多孔質シート
1c 電極リード
2 対極
3 参照電極
4 電解液
5 ガラスセル
6 ガラス基板
7 ITO薄膜
8 TiO微粒子薄膜
9 色素分子層
10 電解液・燃料液
11 空気極
12 酸素透過性撥水膜
13a 電解液・燃料液注入口
13b 電解液・燃料液排出口
14a、14b 液バルブ
15 負極リード
16 正極リード
17 封止材
1. 酸素還元用電極及びその製造方法
本発明の酸素還元用電極は、(1)酵母含有物質を炭化することにより炭化物を得る第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて電極を製造する第二工程を有する製造方法により作製される。
(1)第一工程
第一工程では、酵母含有物質を炭化することにより炭化物を得る。
酵母類
酵母含有物質としては、酵母そのもののほか、酵母の絞り粕のような酵母由来の物質であってもよい。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
酵母としては、例えばビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、パン酵母、食飼料酵母等の各種の酵母が使用できる。
絞り粕としては、例えばビール絞り粕、清酒粕、ワイン製造用葡萄汁絞り粕、ウイスキー製造用麦汁絞り粕、とうもろこし汁絞り粕、醤油粕等が挙げられる。これらの絞り粕を使用する場合には、資源の有効利用、原料コストの低減等のメリットが得られる。
これら酵母含有物質の中でも、それを炭化した場合にリン及びカルシウムを比較的多く含むものが好ましい。このような酵母を用いる場合には、より高い酸素還元効果を得ることができる。例えば、ビール酵母及びその絞り粕の少なくとも1種を好適に使用することができる。
本発明では、必要に応じて、酵母含有物質に他の添加剤を配合することもできる。その添加量は、添加剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
例えば、炭化物の取り扱い性を向上するために、有機バインダー(ポリビニルアルコール、ブチラール樹脂等)又は無機バインダー(無水ケイ酸等)のバインダーを添加することができる。
また、溶剤を酵母含有物質に配合することもできる。例えば、フェノール又はフェノール誘導体(例えば、モノニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、レジルシノール、1,4−ジ−ヒドロキシベンゼン、m−クレゾール、p−クレゾールなど)の有機溶剤を用いることができる。
炭化処理及び賦活処理
上記酵母含有物質を炭化することにより炭化物をつくる。通常は、酵母含有物質を熱処理することによって炭化物を得ることができる。熱処理条件は、用いる酵母含有物質の組成、所望の炭化物の特性等に応じて適宜設定することができる。
熱処理温度は、一般的には300℃以上1200℃以下程度の範囲で設定することができる。1200℃を超える場合には、黒鉛化が進行するため、それ以下の温度で処理するのが好ましい。より好ましくは、500℃以上1000℃以下の範囲とする。500℃以上とすることにより、より良好な導電性を付与することができる。また、1000℃以下とすることにより、酸素還元活性を与えて反応を効率的に行わせるための上述のC−O−C結合などを炭素成分中に残存させることができる。
熱処理時間は、炭化が十分進行するように、熱処理温度、使用する酵母類含有材料の種類・量等に応じて適宜設定すれば良い。
熱処理雰囲気としては、約300℃以上で加熱する場合には酵母類を燃焼させないために酸素濃度が低い状態又は酸素が実質的に存在しない状態にしておくことが好ましい。具体的には、酸素濃度が10体積%以下の雰囲気、さらには1体積%以下の雰囲気に設定することが好ましい。特に、不活性ガス雰囲気(窒素、アルゴン、ヘリウム等)又は真空中とすることが望ましい。
炭化処理の後、得られた炭化物を賦活処理することが望ましい。賦活処理によって、炭化物の比表面積を高めて活性を向上させたり、被反応物との親和性を高めたり、担持する際の他の材料との親和性を高めたり、表面の酸性度を調節したりすることができる。
賦活処理の方法は、公知の方法に従って実施することができる。例えば、1)水蒸気、二酸化炭素などによるガス賦活法、2)塩化アンモニウム、塩化亜鉛、水酸化カリウムなどによる薬品賦活法を用いることができる。賦活処理の温度は処理方法によって異なる。例えば、ガス賦活法では、前記炭化処理と同程度の温度が好ましい。薬品賦活法では、室温で処理したり、薬品に晒した後に前記炭化処理と同程度の温度までの範囲で処理することができる。
(2)第二工程
第二工程では、前記炭化物を含む電極材料を用いて電極を製造する。
炭化物
炭化物は、一般に、酵母含有物質(酵母類の繊維質、糖質に由来する構造など)に由来する構造を有する有機成分を含む。
特に、上記炭化物は、赤外吸収分光において波数1000cm−1から1200cm−1範囲の約1100cm−1の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮吸収及び/又は約1600cm−1の不飽和炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮吸収を示すことが好ましい。これは、他の活性炭、カーボンブラックなどには見られない特徴であり、本発明に特有のものである。
また、炭化物は、赤外吸収分光には炭素成分と無機成分のどちらに由来するかは明確ではないが、親水性をもつカルボニル基に起因した約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)伸縮吸収及び/又は水酸基に起因した約3000cm−1近傍の酸素(O)−水素(H)伸縮吸収を示すことが好ましい。
これらの吸収を示す成分を含む炭化物を用いることによって、電極特性の向上により効果的に寄与することができる。このような炭化物の組成としては、一般的には炭素成分及び無機成分を含んでいる。
炭素成分は、結晶質又は非晶質のいずれであってもよいが、特に非晶質であることが望ましい。また、上記炭素成分は、一般的には、導電性を有することが好ましい。
無機成分は、用いる酵母含有物質の組成等によって異なるが、一般的には酵母類に由来した成分として、リン(P)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)等が含まれる。より好ましくは、主成分としてP及びCaを含む。これらの無機成分は、酸化物、リン酸塩、炭酸塩等の形態で存在していてもよい。炭化物中における無機成分の総含有量も、用いる酵母含有物質の種類等によって異なるが、通常は10質量%以上、好ましくは20質量%以上を含有する。この点において、無機成分の総含有量が数質量%である活性炭、カーボンブラック等と異なる。
なお、無機成分の含有量は、炭化物をCHN元素分析した際の灰分で測定され、元素量に関しては蛍光X線元素分析、イオンクロマト分析等で測定することができる。
本発明では、上記無機成分を補充するために、これらの無機成分を含む化合物を別途に配合することもできる。特に、リン及びカルシウムの少なくとも1種を含む無機化合物を好適に用いることができる。リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムのほか、リン酸塩、無機カルシウム塩等の1種又は2種以上を用いることができる。
また、無機成分を含む化合物は、上記酵母含有物質又は炭化物のいずれにも配合できるが、特に酵母含有物質に配合することが望ましい。
炭化物の形態は、上記のような物性を有していれば限定されないが、通常は粒状ないしは粉末状(粉粒体)であることが好ましい。炭化物が粉粒体である場合は、タイラー篩200メッシュ以上を通過する粒度とすることが好ましい。さらに、最大粒径(直径)が20μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下とすることが特に好ましい。一般に還元反応は粉粒体の表面で生じるため、20μmを越えると使用量に対する効率が低下するおそれがある。粒度の調整は、公知の粉砕機、分級機等を使用すればよい。
電極材料
上記炭化物を含む電極材料を用いて電極を作製する。電極材料には、電極特性等の向上のために各種の材料を必要に応じて配合することができる。これらの材料は、本発明の効果を妨げない範囲内で、あらかじめ上記酵母含有物質に配合しておくことも可能である。
例えば、酸素を取り込んだり又は酸素を放出したりする能力(酸素交換能力)をより高めるために金属及びその酸化物の少なくとも1種を配合することができる。例えば、Mn、Mn、Mn、γ−MnOOH(MnとMnのとの混合物)などのマンガン低級酸化物MnO(yは、マンガンの価数で決まる酸素の原子数であり、2未満である);酸化ルテニウム、Cux−1SrTiO(x=0〜0.5)、LaSr1−xMnO(x=0〜0.5)、SrTiOなどのペロブスカイト酸化物のほか、酸化バナジウム、白金黒などが挙げられる。
この中でも、マンガン低級酸化物は、過酸化水素の分解活性が高く、劣化が少なく、しかも安価であるという点で好ましい。マンガン低級酸化物とは、マンガン原子の原子価が4に満たないマンガン酸化物のことである。これは、たとえば使用後のマンガン乾電池の二酸化マンガン正極をそのまま使用したり、あるいは焼成したものを用いることができるので、資源の有効利用という観点からも特に好ましい。
上記金属又はその酸化物の添加量は、用いる金属酸又はその化合物の種類、所望の電極特性等に応じて適宜決定することができるが、最終的に得られる電極中において1重量%以上50重量%以下、特に5重量%以上20重量%以下となるように設定することが望ましい。
また、その他にも各種の添加剤を電極材料に配合することができる。添加剤は、例えば1)他の材料との親和性の調節、2)表面(電極表面)の酸性度の調節、3)触媒活性の付与、4)助触媒の提供、5)過電圧の低減などの目的で用いることができる。このような添加剤としては、上記添加目的に応じて有機材料、無機材料、これらの複合材料、これらの混合物等のいずれも使用することができる。より具体的には、白金、コバルト、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、金、銀、銅、白金−コバルト合金、白金−ルテニウム合金などの金属又は合金;黒鉛、活性炭などの炭素材料;酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ルテニウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化マンガン、ランタン−マンガン−銅ペロブスカイト酸化物などの金属酸化物;鉄フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銅フタロシアニン、マンガンフタロシアニン、亜鉛フタロシアニンなどのポルフィリン環を有する金属フタロシアニンあるいは金属ポルフィリン、ルテニウムアンミン錯体、コバルトアンミン錯体、コバルトエチレンジアミン錯体などの金属錯体などを用いることができる。
上記金属錯体の中心金属元素としては限定的ではないが、特に白金、ルテニウム、コバルト、マンガン、鉄、銅、銀及び亜鉛の少なくとも1種が好ましい。これらの金属元素を用いることにより、酸素の還元反応をより小さな過電圧で進行できる。また、金属元素の価数は4以下が好ましい。価数を4以下とすることにより、触媒の酸化力をより効果的に抑制することができる。その結果、電気化学素子の構成要素(例えば、電解質、電極リード、集電体、電池ケース、セパレータ、ガス選択透過膜など)の酸化による劣化を有効に防止することができる。
上記添加物の添加量は、用いる材料の種類、所望の電極特性等に応じて適宜決定することができるが、最終的に得られる電極中1重量%以上80重量%以下、特に20重量%以上60重量%以下となるようにすることが望ましい。
上記電極材料は、公知の電極材料に添加される材料を含んでいてもよい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ナフィオン等のフッ素樹脂バインダー、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等の樹脂バインダー、グラファイト、導電性カーボン、親水性カーボンブラック、疎水性カーボンブラック等の導電助剤等を必要に応じて適宜添加することができる。
電極の作製
電極の作製については、上記電極材料を用い、公知の電極の製法に従って製造すればよい。例えば、予め作製された電極材料の成形体を導電性基体(集電体)に積層又は圧着する方法、電極材料を含むペーストを導電性基体上にコーティングする方法、導電性材料と電極材料を混合して成形する方法等により作製することができる。
上記導電性基体は、例えばカーボン繊維を紙すき法で製紙したカーボンペーパー;ステンレス鋼メッシュ、ニッケルメッシュなどの金属メッシュ;カーボン粉末、金属粉末等をフッ素樹脂バインダーなどの合成樹脂バインダーでつなぎ合わせてシート状に加工した導電性の複合材料シートなどを有効に用いることができる。
また、上記ペーストを調製する場合は、バインダを適当な溶媒に溶解することによりペーストを得ることができる。例えば、バインダとしてポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、溶媒としてエタノール等のアルコール類を使用することができる。バインダの濃度は、用いるバインダの種類等に応じて適宜決定すればよい。
酸化還元用電極
本発明は、本発明の製造方法で得られる酸化還元用電極も包含する。すなわち、酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電極であって、酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極が包含される。従って、本発明に係る電極において、上記酵母含有物質、炭化物等の構成要素は、前記で掲げたものを採用すればよい。
本発明の酸素還元電極では、上記炭化物の含有量は制限されず、電極の用途、使用目的等に応じて適宜設定することができる。特に、電極中に上記炭化物が1重量%以上80重量%以下、特に20重量%以上60重量%以下含まれていることが望ましい。かかる範囲に設定することによって、より優れた4電子還元性能を得ることができる。
本発明の酸素還元用電極では、これを電池の正極として用いる場合には、以下の反応が起こる。
本発明の酸素還元用電極においては、O+HO+2e→OH+HO2−(アルカリ液中)で表される酸素の2電子還元反応(1)が起こり、過酸化水素(H、アルカリ液中ではHO2−で表される過酸化水素イオン)が生成する。さらに、生成した過酸化水素イオンが2HO2−→O+2OHで表される分解反応(2)を起こし、再び酸素を生成する。この酸素は、再び2電子還元を受け、過酸化水素イオンを生成する。
酸素1分子が、2電子還元反応(1)により過酸化水素イオン1分子を生成する。生成した過酸化水素イオン1分子は、分解反応(2)により1/2分子の酸素を与える。1/2分子の酸素分子は、2電子還元反応(1)により1/2分子の過酸化水素イオンを生成する。生成した1/2分子の過酸化イオンは、分解反応(2)により1/4分子の酸素を再生する。1/4分子の酸素分子は、2電子還元反応(1)により1/4分子の過酸化水素イオンを生成する。生成した1/4分子の過酸化イオンは、分解反応(2)により1/8分子の酸素を与える。このように、2電子還元反応(1)と分解反応(2)とが繰り返し起こる。
すなわち、酸素1分子の還元に対し、2電子、1電子、1/2電子、1/4電子、1/8電子、・・・・、(1/2)n電子(n→無限大)の合計4電子が用いられ、実質的に酸素1分子が2電子還元反応の電位で4電子還元反応を受けたのと同じとなる。換言すれば、O+2HO+4e→4OHの反応が起こったことと同じ結果となる。
酵母含有物質の炭化物の働きに関しては、酸素分子の2電子還元反応が炭素成分で生じてその際に生成した過酸化水素をすぐに無機成分が分解し、さらに生成した酸素をすぐに2電子還元反応することが繰り返されることにより、4電子還元が実質的に生じると考えられる。このような反応は、炭素成分と無機成分が極めて近傍に存在していることにより生じると考えられる。おそらく炭素成分と混在した無機の主成分であるリン、カルシウムなどの元素がいろいろな酸化状態を有するために、酸素交換能力が高く過酸化水素の分解を促進していると考えられる。
また、これらは炭素成分の近傍において、酸素に対する親和性の高さに加えて水に対する親和性も高くしているために2電子還元反応も促進していると考えられる。さらに、炭素成分自体もC−O−C結合やC=O結合、OH基なども有し、酸素や過酸化水素に対する親和性や水に対する親和性も高くなっているために効率的な還元反応が進行しているものと考えられる。また、ケイ素など他の無機成分も酸化状態として存在しているため、反応を促進する助触媒的な働きもしている可能性が考えられる。いずれにしても、各成分の相乗的な作用によって4電子還元反応が選択的に進行していると考えられる。
このように、本発明の酸素還元用電極は、酵母含有物質の炭化物による電気化学的な触媒作用によって、酸素を電極反応物質とした電気化学還元に対して酸素の還元経路を与え、4電子還元反応を高い選択率(100%に近い選択率)で起こすことができる。
(2)電気化学素子
本発明の電気化学素子は、a)酸素の還元反応を正極反応とする正極、b)負極及びc)電解質を含み、かつ、上記正極が酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含むことを特徴とする。
すなわち、本発明の電気化学素子では、基本的には上記正極として本発明に係る電極を用いる。負極としては、例えば白金、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、鉄等の公知の電極を使用することができる。
本発明の電気化学素子は、正極として本発明の酸素還元用電極を使用するほかは、公知の電気化学素子の構成要素を適用することができる。例えば、電解質、セパレータ、容器、電極リード等は、公知又は市販のものを用いることができる。
特に、電解質としては、電解液又は固体電解質のいずれでもよいが、特に電解液を好適に用いることができる。電解液を用いる場合、その溶媒は水又は有機溶媒のいずれであってもよい。この中でも、水溶液を電解液として用いることが好ましい。電解液のpHは限定的ではないが、特にpH6からpH9の中性領域とすることが好ましい。本発明では、より高い活性が得られるという点で中性水溶液を電解質として用いることが望ましい。
電解質には、燃料物質が含まれていることが望ましい。特に、中性水溶液に燃料物質が溶解されていることが好ましい。このときの負極の反応としては、電解質に溶解した燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることが好ましい。上記燃料物質としては、用いる電解質(特に中性水溶液)に可溶なものであれば特に限定されないが、好ましくは糖類及びアルコール類の少なくとも1種である。糖類としては、たとえばグルコース、フルクトース、マンノース、スターチ、セルロールなどが挙げられる。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロールなどが挙げられる。
電解質中における燃料物質の含有量(濃度)は、用いる燃料の種類、溶媒の種類等によるが、一般的には0.01重量%以上100重量%以下程度、特に1重量%以上20重量%以下とすることが望ましい。
本発明の電気化学素子において、酸化還元用電極は、たとえば1)酸素を含む気体、2)電解質溶液からなる液体、3)導電材からなる固体の三相が接触する場所に配置して用いるのが好ましい。このように、本発明に係る電極(特に酵母類の炭化物)をイオンの経路と電子の経路の交差点に配置することにより、酸素の電気化学的還元を小さな過電圧(抵抗)でスムーズに起こすことが可能となり、大きな電流値を得ることができる。
本発明の酸素還元用電極は、電解質に可溶の燃料である糖類あるいはアルコール類に対してほとんど酸化活性を示さない。このため、本発明に係る電極をプラス極(正極)として用い、糖類又はアルコール類の溶液を電解質とし、糖類又はアルコール類を酸化するためのマイナス極(負極)をすることによって、発電セルを構成することができる。この場合、正極側と負極側とをセパレータで隔離しなくても、正極に電解質に溶解した燃料である糖類あるいはアルコール類が直接接触しても発電セルの電圧が低下することはない。もちろん、本発明の電気化学素子では、必要に応じてセパレータを使用してもよい。
本発明の電気化学素子では、酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電極を正極として用いるので、前記で説明したような酸素の4電子還元反応が起こる。換言すれば、本発明の電気化学素子を用いることによって、酸素の4電子還元反応を行うことができる。
発明の効果
本発明における酸化還元用電極は、酵母含有物質の炭化物を用いることによって、効率的に電気化学的に酸素還元可能な電極を得ることができる。
すなわち、本発明に係る電極は、酸素分子の2電子還元反応を触媒する従来の炭素系材料では知られていなかった、実質的な4電子還元反応作用を示す。
本発明に係る電極は、イオンの経路と酸素の経路の交差点に配置されることによって、酸素の電気化学的還元を小さな過電圧(抵抗)でスムーズに起こすことが可能になる。その結果、大きな起電力でかつ大きな電流値を得ることができる電気化学素子を提供できる。
特に、本発明に係る電極は、酸素分子の還元反応が実質的に4電子で進行するために、従来の4電子還元触媒である白金などの貴金属触媒の代替品となる。これによって、1)安価である、2)酸化反応・還元反応が行われる場所をセパレータなどで分ける必要がない、3)被毒などによる触媒の不活性化を抑制できる、などの特徴を兼ね備えた電極を提供することが可能になる。
また、酵母含有物質を炭化して得られた炭化物を触媒の担体として酸化還元用電極に用いることにより、担持体自体が電気化学的に還元反応を触媒するため、白金などの貴金属触媒の使用量を低減することも可能になる。
さらには、おそらく白金などの貴金属触媒の被毒等による性能低下を抑制する効果も保有しているものと考えられ、より高い性能向上を図ることが可能になる。
本発明によれば、酸素の電気化学還元に対して、実質上4電子還元反応を100%に近い選択率で与える安定性にも優れた酸素還元用電極を提供することができる。このような酸素還元用電極を、酸素の還元反応を正極反応として用いる電気化学素子の酸素極、空気極などに利用することができる。例えば、亜鉛−空気電池、アルミニウム−空気電池、砂糖−空気電池などの空気電池;酸素水素燃料電池、メタノール燃料電池などの燃料電池;酵素センサ、酸素センサなどの電気化学センサ;などに好適に用いることができる。
以上のように、本発明の電極及びその製造方法は、工業的規模での生産に適した方法であり、実用性の高いものである。
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
試験電極1、2の作製
ビール酵母を含有するビール絞り粕材料を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、水蒸気賦活を900℃で行って得られた炭化物を用いて試験電極1、2を作製した。
得られた炭化物の固定炭素は約64質量%であった。元素分析における灰分は約30質量%であった。そのうちの無機成分については、蛍光X線分析によってリン(P)が約30質量%、カルシウム(Ca)が23質量%、マグネシウム(Mg)が7質量%、カリウム(K)が3質量%、ケイ素(Si)が約20質量%などであり、PとCaが主成分であることがわかった。また、赤外分光によって、特性吸収として波数約1110cm−1に吸収ピークを有するC−O−C吸収、約1570cm−1に吸収ピークを有するC=C吸収、約1705cm−1に吸収ピークを有するC=O吸収、3000cm−1近傍のブロードなO−H吸収が観察された。これらは、炭素のみの完全な炭化物ではなく、炭化前の酵母含有物質の分子構造に由来するものである。
得られた炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕して得た。この粉末25μgを、プロトン伝導性のナフィオン(製品名「Nafion112」デュポン社製、以下同じ。)を0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。得られた分散液を通気性の導電性基体に全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることで炭化物とナフィオンを含む試験電極を作製した。
通気性の導電性基体としては、厚さ0.36mmのカーボンペーパー(製品名「TGPH−120」東レ製、以下同じ。)を用いた。カーボンブラック粒子1重量部およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー0.1重量部からなる混合物を2.25mg/cmとなるようにカーボンペーパーに保持させて得た防水性のカーボンペーパー基体と、防水性処理をしていないカーボンペーパー基体とを用いた。
防水性カーボンペーパー基体の表面に、前述の方法で炭化物が4.2mg/cmとなるようにコートした試験電極1を得た。また、カーボンペーパー基体に前述の方法で炭化物が2mg/cmとなるように形成した試験電極2を得た。
試験電極3の作製
ビール酵母を含有するビール絞り粕材料を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、水蒸気賦活を900℃で行った。得られた炭化物(平均粒径約5μm)4重量部を、マンガン低級酸化物(MnとMnとの混合物、平均粒径約10μm)4重量部、カーボンブラック1重量部、フッ素樹脂バインダー(PTFE)0.2重量部とを混合した。この混合物を通気性の導電性基体のニッケルめっきステンレス鋼金網(厚み0.15mm、25メッシュ)を芯材とするシートを作製した。次に、このシートの片面にフッ素樹脂多孔質シート(空孔率約50%、厚み0.2mm)を圧着して厚み約3mmの試験電極3を作製した。
試験電極4の作製
ビール酵母5重量部とリン酸水素カルシウム0.1重量部を無水ケイ酸バインダー0.1重量部に混合して成形固化した。得られた混合物を窒素雰囲気下900℃で炭化した。得られた炭化物を最大直径が20μm以下となるように粉砕した。得られた粉末25μgを、ナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を実施例1で用いた防水処理したカーボンペーパー基体に全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させることで炭化物とナフィオンを含む試験電極4を作製した。なお、炭化物が2mg/cmとなるように形成した。
試験電極5の作製
ビール酵母を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、水蒸気賦活を900℃で行って炭化物を得た。この炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕した。得られた粉末を塩化白金酸の3mmol/Lのエタノール溶液に含浸することにより白金塩を付与した。これに室温で水素化ホウ素ナトリウムを加えて還元して白金を担持した。このときの白金担持率は、約10質量%であった。この白金を添加した炭化物25μgを、プロトン伝導性のナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を実施例1で用いた防水処理したカーボンペーパー基体に全面を覆うように滴下し、温風にて乾燥することによりエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより炭化物とナフィオンを含む試験電極5を作製した。なお、この試験電極5において、炭化物が2mg/cmとなるように形成し、そのときの白金量は約0.2mg/cmであった。
試験電極6の作製
酵母を含有するウイスキー製造用麦汁絞り粕材料を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、900℃で水蒸気賦活して得られた炭化物を用いて試験電極6を作製した。前記炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕した。この粉末25μgを、プロトン伝導性のナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を厚さ0.36mmのカーボンペーパーからなる通気性の導電性基体に全面を覆うように滴下し、温風にて乾燥することによりエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより炭化物とナフィオンを含む試験電極6を作製した。なお、カーボンペーパー基体には炭化物が2mg/cmとなるように担持した。
(比較例1)
比較電極1、2、3、4および5の作製
50質量%の白金担持率のカーボンブラック粉末25μgを、プロトン伝導性のナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。通気性の導電性基体であるカーボンブラック粒子1重量部およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー0.1重量部からなる混合物を2.25mg/cmとなるように厚さ0.36mmのカーボンペーパーに保持させた防水性のカーボンペーパー基体にこの分散液を全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより、白金量を約0.35mg/cmとした比較電極1を作製した。
この際に、上述のカーボンブラック粉末の代わりに白金担持率30質量%のカーボンブラック粉末を用いたほかは同様の処理を行うことにより、白金量を約0.2mg/cmとした比較電極2を作製した。
また、上述の防水性のカーボンペーパー基体を比較電極3、カーボンペーパーのみを比較電極4、上述の炭化物を含まないプロトン伝導性のナフィオンのエタノール溶液をカーボンペーパー基体に形成して比較電極5とした。
試験電極1、2の電極特性の評価
図3に示す構成の3極セルを構成して、試験電極での酸素の還元特性を電圧−電流特性で評価した。図3において、1は空気電極、1aは試験電極または比較電極、1bはフッ素樹脂多孔質シート、1cは電極リード、2は対極、3は参照電極、4は電解液、5は空気極を配置するための直径16mmの開口部を有するガラスセルである。空気極1は、ガラスセル5の開口部に図3に示すように、フッ素樹脂多孔質シート1b側の面は大気に曝され、他方の面は電解液4に接するように配置されている。電解液4としては、pH7.0の0.1Mりん酸緩衝溶液を用いた。対極2は白金を用い、参照電極3はAg/AgCl(飽和KCl)電極を用いた。なお、試験電極または比較電極1aとフッ素樹脂多孔質シート1bとは密着させた。
図1に、試験電極1と2、および各比較電極を空気極1とした場合の電圧−電流特性を比較して示す。なお、印加電流は少なくとも10分間維持して測定し、起電力はセル抵抗で補正して標準水素電極(NHE)基準で表している。カーボンブラックによる比較電極3に対して試験電極1および2は過電圧が小さく高い起電力が得られていた上に、白金触媒による比較電極1および2と同程度の起電力が得られた。このことは、従来の炭素系材料では酸素が2電子還元されているのに対し、試験電極に用いた炭化物が実質的に4電子還元しているために、白金における4電子還元反応に匹敵する特性が得られたものと考えられる。
試験電極3、4、5および6の電極特性の評価
実施例6と同様に、図3に示す構成の3極セルを構成して、試験電極での酸素の還元特性を電圧−電流特性で評価した。
図2に、試験電極3、4、5および6と各比較電極を空気極1とした場合の電圧−電流特性を比較して示す。カーボンブラックによる比較電極3に対して、実施例6と同じように各試験電極では過電圧が小さく高い起電力が得られ、酸素が4電子還元反応に近い作用で触媒されていることがわかる。
試験電極3においては、空気極に含まれるマンガン低級酸化物が酸素分子の2電子還元反応で生成した過酸化水素を分解する作用が強いために、実質的に4電子還元反応の効果が高くなり白金による比較電極1とほぼ等しい起電力を得られた。
試験電極4においては、成形固化して形成した炭化物においても粉粒体での電気化学的な触媒効果として高い起電力が得られた。このことから、粉粒体としなくても炭化物の成形体を形成して電極とするなど取り扱い性の向上が期待される。
試験電極5においては、炭化物に添着している白金量が同じである比較電極2に対して高い起電力が得られている。このことは、添加した白金に加えて酵母を炭化した炭化物の還元作用が加わって効率的な還元反応を生じているためである。この炭化物を触媒担持体として使用することによって、高価な貴金属触媒の使用量を低減することが可能になる。
また、試験電極5を用いた空気極における起電力の保持時間を比較電極1と比べた場合に、起電力の10%低下までの時間において試験電極5の方が比較電極1よりも5倍以上長く保持されることが確認された。この起電力低下の大きな要因の1つは、触媒である白金の被毒による要因がある。試験電極5では白金量が少ないため起電力低下が少ないが、単に白金量の違い(試験電極5:比較電極1=0.2:0.35)を超える効果があるために、被毒だけでは説明できなく、他の効果も寄与していると考えられる。その効果については明らかではないが、炭化物が実質的に酸素の4電子還元反応を進行させる効果によって、白金の被毒を抑制する効果のあるものと思われる。
試験電極6においては、ビール酵母以外の酵母由来の炭化物においても同様に4電子還元反応の効果が得られることがわかる。
発電セル特性の評価
実施例1の試験電極1を含む空気極をプラス極(正極)、対極の白金をマイナス極(負極)とし、グルコースを100mM溶解したpH6.8の0.1Mりん酸緩衝液を電解液として発電セルaを構成した。発電セルaと同じ正極、負極を用いて、メタノールを3質量%溶解したpH6.8の0.1Mりん酸緩衝液を電解液とする発電セルbを構成した。また、空気極を白金板Ptとして正極とする以外は同様の構成とした発電セルc、発電セルdを構成した。それぞれの発電セルの開路電圧と、発電セルを1mAの一定電流値で10時間放電した際の電圧を表1に示す。
Figure 2004091020
本発明の炭化物を有効成分として含む空気極をプラス極として用いた発電セルa、bでは、白金板をプラス極に用いた発電セルc、dに比べて開放電圧が0.2〜0.4V高い電圧を得ることができた。このことは、ビール酵母を炭化した炭化物を有効成分として含む空気極よりなるプラス極は、グルコースあるいはメタノールと直接接触しても酸化反応を起こさず、酸素の還元反応で決定される電位を与えるので、発電セルは高い電圧を与えることを示す。これに対し、白金板よりなるプラス極は、グルコースあるいはメタノールと直接接触すると酸化反応を起こすため、グルコースあるいはメタノールの酸化反応と酸素の還元反応で決定される低い電位を与えるために発電セルが低い電圧を与えていると考えられる。
なお、電解質に可溶な燃料物質としてグルコースあるいはメタノールを用いたが、グルコースの他の糖類(たとえば、フルクトース、マンノース、スターチ、セルロールなど)、あるいはメタノールの他のアルコール類(たとえば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロールなど)を用いても同様な結果が得られる。また、電解質としてpH6.8の0.1Mリン酸緩衝液に代えて、0.1NKOH水溶液またはNaClを3質量%溶解した塩水を用いても同様な結果が得られる。
発電セルの組み立て
図4に示す構成の発電セルAおよび発電セルBを組み立てた。
図4において正極として作用する空気極11は、発電セルAでは、実施例1で得た試験電極1を用いて作製した。図4において、15は負極リード、16は正極リード、17は透明のシリコンラバーよりなる封止材である。
図4において負極として作用する光触媒電極は、ガラス基板6、ITO薄膜7、酸化チタン(TiO)微粒子膜8、および色素分子層9より成っている。厚さ1mmのガラス基板6上に表面抵抗が10オーム/cmのインジウム・錫酸化物(ITO)薄膜7が形成された光透過性導電性基板を用意し、平均粒径が10nmのTiO粒子を11質量%分散したポリエチレングリコールを30質量%含むアセトニトリル溶液を、浸漬法によりITO薄膜上に塗布し、80℃で乾燥したのち、空気中で400℃で1時間焼成することで厚さ約10μmのTiO微粒子膜8を形成した。次に、TiO微粒子膜を、以下に示されるルテニウム金属錯体色素分子9を10mM溶解したエタノール中に浸漬することで、色素分子9をTiO微粒子膜8に添着した。さらに、4−tert−ブチルピリジンに浸漬したのち、アセトニトリルで洗浄したのち乾燥することで上記光触媒電極を作製した。
Figure 2004091020
電解液・燃料液10として、pH7.0の0.1Mリン酸緩衝溶液に、燃料のメタノール5質量%、補酵素ニコチンアミドヌクレオチド(NADH)を5mM、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)を16.0U/ml、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(AlDH)を1.0U/mlおよびホルメートデヒドロゲナーゼ(FDH)を0.3U/mlを溶解したものを用いた。電解液・燃料液10は、電解液・燃料液注入口13aより注入され、発電後、排出口13bより排出される。空気は、酸素透過性撥水膜12を通して外部より発電セル内部に供給される。
図4に記載されている発電セルの構造について説明する。この発電セルの負極側は、主としてガラス基板6からなり、このガラス基板6の表面にはITO薄膜7が積層されている。ITO薄膜7には、負極リード15が設けられている。発電セルの正極側は、主として板状の空気極11からなり、空気極11の表面には酸素透過性撥水膜12が積層されている。空気極11の内部からは正極リード16が伸び出している。このようなガラス基板6の表面および板状の空気極11の裏面とを向かい合わせにし、これらの間に封止材17を介してガラス基板6と空気極11とを貼り合わせることにより発電セルが形成されている。
ガラス基板6と空気極11との間には、空気極11側に電解液(または燃料液)10が、ガラス基板6側に酸化チタンからなる微粒子が分散された微粒子薄膜8が位置している。そして、電解液(または燃料液)10と微粒子薄膜8との間には、色素分離層9が挟まれている。
また、封止材17には、封止材17を貫通する電解液・燃料液注入口13aおよび電解液・燃料液排出口13bが設けられている。これらの電解液・燃料液注入口13aおよび電解液・燃料液排出口13bには、液バルブ14a・14bがそれぞれ設けられている。これらの電解液・燃料液注入口13aおよび電解液・燃料液排出口13bを介して、ガラス基板6と空気極11との間に電解液(または燃料液)10を外部から注入および外部に排出することができるように設計されている。
なお、発電セルBは、実施例2で得た試験電極3を用いて作製した空気極を使用した以外は、発電セルAと同じ構成となるように作製した。
発電セルの動作特性
発電セルを電解液・燃料液で満たしたのち、ガラス基板6側より太陽光シュミレータ(AM1.5、100mW/cm)からの光を照射し、発電セルの起電力(OCV)および、100μAの一定電流で発電セルを20分間放電した際の発電セルの電圧を測定した。OCVは、発電セルAでは0.80V、発電セルBでは0.65Vであった。また、20分間放電後の発電セルの電圧は、発電セルAでは0.75V、発電セルBでは0.55Vであった。このように高い起電力が得られるとともに、放電に際しても、高い電圧を維持することができた。
なお、本実施例では、発電セルの負極として光触媒電極を用い、メタノールを燃料とする電池を示したが、負極として、亜鉛、マグネシウム、アルミニウムなどの金属を用いても、本発明に従う酸素還元用電極と組み合わせることで、電気化学素子として起電力ならびに放電時の電池電圧が高い電池を得ることができる。
【書類名】明細書
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を還元する反応に用いられる酸素還元用電極およびそれを用いた電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素(O)を電解反応により還元した場合には、1電子還元、2電子還元又は4電子還元が起こることが知られている。1電子還元では、スーパーオキシドが生成する。2電子還元では、過酸化水素が生成する。4電子還元では、水が生成する(例えば、JACEK KIPKOWSKI、PHILIP N. ROSS編集、 ELECTROCATALYSIS、 WILEY-VCH 出版、1998年、204−205頁)。
【0003】
酸素の還元反応を電池の正極反応として用いる場合、大容量で、高電圧でしかも高出力電流の電池などを得ることが要求される。この場合、酸素の還元反応では、a)できるだけ多くの電子を移動させること、b)できるだけ貴な(プラスの)電位とすること、c)過電圧をできるだけ抑えることが要求される。そのためには、4電子還元反応を高電位で小さな過電圧で進行させる触媒を用いることが好ましい。このような触媒のひとつとして、白金(Pt)がある。
【0004】
しかしながら、白金は、次のような問題がある。(1)白金は高価な貴金属であり、コスト的に不利である。また、(2)白金は、酸素の還元のみならず、エタノール、水素などの燃料物質の酸化反応にも活性を示すため、反応の選択性に乏しい。このため、実際の利用にあたって、酸化反応、還元反応が行われる場所をセパレータなどで分けなければならない。(3)白金の表面は一酸化炭素又は水酸基により不活性化されやすく、高い触媒活性を維持することが困難なことがある。
【0005】
そこで、白金に代わる触媒を開発するため、これまでいくつかの取り組みがなされている。
【0006】
例えば、特公平2−030141号公報又は特公平2−030142号公報には、酸素ガス還元能を有する鉄フタロシアニン、コバルトポルフィリンなどの金属キレート化合物を担持した導電性粉末とフッ素樹脂の多孔質成形体よりなる触媒が提案されている。また、金属キレート化合物の2量体(二核錯体)を使うことによって、高い酸素還元能(4電子還元能)が達成でき、大きな出力の空気電池への応用に期待できることが知られている。
【0007】
例えば、コバルトポルフィリン二核錯体などのように、Cr、Mn、Fe、Coなどの遷移金属を中心金属とする大環状錯体を用いる酸素還元触媒の技術が開示されている(JACEK KIPKOWSKI、PHILIP N. ROSS編集、 ELECTROCATALYSIS、 WILEY-VCH 出版、1998年、232−234頁)。
【0008】
特開平11−253811号公報には、酸素還元用マンガン錯体触媒が開示されている。この錯体は、酸素の4電子還元反応を高い選択率で行うための触媒となる。この文献には、マンガン原子が、2価から7価の価数をとり、マイナス0.5Vからプラス2Vの電位範囲で酸素還元反応を触媒すると述べられている。
【0009】
これら触媒を実際に用いる場合には、安定性に優れる担体に触媒を担持されることが多い。電気化学素子の電極反応に用いる場合には、導電性のある担体としてカーボン材料が広く使用されている。例えば、カーボンブラック、活性炭、グラファイト、導電性炭素、ガラス状カーボンなどのカーボン材料が用いられる。これらカーボン材料は、通常では酸素を電解還元した際に、2電子還元反応を起こし、過酸化水素を与えることが知られている。
【発明の開示】
しかしながら、前記のような触媒を用いることによって高い電位を得ようとすれば、価数の大きな中心金属原子をもつ金属錯体が必要となる。このような金属錯体は反応性が高いため、金属錯体が接触する部材(例えば、電解液、電極リード、集電体、電池ケース、セパレータ、ガス選択透過膜など)と反応し、これら部材の劣化を引き起こすという難点がある。
【0010】
また、担体として用いるカーボン材料に関して、ヤシ殻活性炭、木質炭化物などは過酸化水素を分解する作用をもつことが知られている。例えば、過酸化水素分解触媒として高い性能をもつ活性炭としてアクリル繊維の炭化物、ビール粕の炭化物等が開示されている(特開平7−024315号公報、特開2003−001107号公報など)。
【0011】
しかしながら、カーボン材料自体のもつ触媒作用に関しては、一般的に知られている電極反応(すなわち、2電子還元反応)しか知られていない。酸素を還元する電極触媒としての触媒作用や有効性については、特に開示されていない。
【0012】
本発明の主な目的は、酸素を還元する反応において4電子還元反応をより高い選択率で与える酸素還元用電極を提供することにある。
【0013】
本発明のさらなる目的は、電解質に可溶の燃料物質に対してほとんど酸化活性を示さない安定な酸素還元用電極を提供することにある。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の酸素還元用電極およびそれを用いた電気化学素子に係る。
【0015】
1. 酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極を製造する方法であって、(1)酵母含有物質を炭化することにより炭化物を得る第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて前記酸素還元用電極を製造する第二工程を有する製造方法。
2. 酵母含有物質が、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、パン酵母、食飼料酵母、ビール絞り粕、清酒粕、ワイン製造用葡萄汁絞り粕、ウイスキー製造用麦汁絞り粕、とうもろこし汁絞り粕及び醤油粕の少なくとも1種である前記項1記載の製造方法。
3. 第一工程において、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で300℃以上1200℃以下で前記酵母含有物質を炭化する前記項1記載の製造方法。
・ 第一工程において、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で500℃以上1000℃以下で前記酵母含有物質を炭化する前記項3記載の製造方法。
・ 前記雰囲気が不活性ガス雰囲気である前記項3記載の製造方法。
6. 第一工程において、炭化物をさらに賦活処理する前記項1記載の製造方法。
7. 第二工程において、前記電極材料を所定の形状に成形して成形体を得た後、前記成形体を導電体基体に積層又は圧着することにより前記酸素還元用電極が製造される、前記項1に記載の製造方法。
8. 第二工程において、前記電極材料をペースト状にして電極材料を含有するペーストを得た後、前記ペーストを導電性基体にコーティングすることにより前記酸素還元用電極が製造される、前記項1に記載の製造方法。
9. 前記酵母含有物質、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を添加する前記項1記載の製造方法。
10. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
11. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
12. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
13. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
14. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
15. 前記酵母含有物質、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、金属及びその酸化物の少なくとも1種を添加する前記項1記載の製造方法。
16. 酸化物が一般式MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項7記載の製造方法。
17. 酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電極であって、酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極。
18. リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項17記載の酸素還元用電極。
19. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
20. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
21. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
22. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
23. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
24. 金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項17記載の酸素還元用電極。
25. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項24記載の酸素還元用電極。
26. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されてなる前記項17記載の酸素還元用電極。
27. 導電性基体が、通気性である前記項26記載の酸素還元用電極。
28. 中性水溶液電解質中で分子状酸素を電気化学的に還元するために用いる前記項17記載の酸素還元用電極。
29. a)酸素を4電子還元する正極、b)負極及びc)電解質を含み、かつ、上記正極が酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電気化学素子。
30. 前記正極が、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項29記載の電気化学素子。
31. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
32. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
33. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
34. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
35. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
36. 前記正極が金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項29記載の電気化学素子。
37. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項36記載の電気化学素子。
38. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されて前記正極が構成されている前記項29記載の電気化学素子。
39. 導電性基体が、通気性である前記項38記載の電気化学素子。
40. 電解質が、中性水溶液電解質である前記項29記載の電気化学素子。
41. 負極の反応が、電解質に可溶の燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることを特徴とする前記項29記載の電気化学素子。
42. 前記電解質に、糖類及びアルコール類の少なくとも1種が含まれている前記項29記載の電気化学素子。
43. 酸素の4電子還元を行う方法であって、
a)酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む正極、b)負極及びc)電解質を含む電池を提供する電池提供工程、および
上記正極に酸素を供給することによって酸素の4電子還元を行う酸素供給工程
を含む還元方法。
44. 前記正極が、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項43記載の還元方法。
45. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
46. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
47. 前記炭化物が、約2100cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
48. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
49. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約2100cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
50. 前記正極が金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項43記載の還元方法。
51. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項50記載の還元方法。
52. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されて前記正極が構成されている前記項43記載の還元方法。
53. 導電性基体が、通気性である前記52記載の還元方法。
54. 電解質が、中性水溶液電解質である前記項43記載の還元方法。
55. 負極の反応が、電解質に可溶の燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることを特徴とする前記項43記載の還元方法。
56. 前記電解質に、糖類及びアルコール類の少なくとも1種が含まれている前記項43記載の還元方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】試験電極1と2、および各比較電極における酸素還元反応に対する電圧(起電力)−電流特性を示す図である。
【図2】試験電極3、4、5、6、および各比較電極における酸素還元反応に対する電圧(起電力)−電流特性を示す図である。
【図3】本発明の一実施例の測定における3極電極セルの断面図である。
【図4】本発明の他の一実施例における発電セルの断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 空気電極
1a 空気極混合物
1b フッ素樹脂多孔質シート
1c 電極リード
2 対極
3 参照電極
4 電解液
5 ガラスセル
6 ガラス基板
7 ITO薄膜
8 TiO微粒子薄膜
9 色素分子層
10 電解液・燃料液
11 空気極
12 酸素透過性撥水膜
13a 電解液・燃料液注入口
13b 電解液・燃料液排出口
14a、14b 液バルブ
15 負極リード
16 正極リード
17 封止材
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1. 酸素還元用電極及びその製造方法
本発明の酸素還元用電極は、(1)酵母含有物質を炭化することにより炭化物を得る第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて電極を製造する第二工程を有する製造方法により作製される。
【0019】
(1)第一工程
第一工程では、酵母含有物質を炭化することにより炭化物を得る。
【0020】
酵母類
酵母含有物質としては、酵母そのもののほか、酵母の絞り粕のような酵母由来の物質であってもよい。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0021】
酵母としては、例えばビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、パン酵母、食飼料酵母等の各種の酵母が使用できる。
【0022】
絞り粕としては、例えばビール絞り粕、清酒粕、ワイン製造用葡萄汁絞り粕、ウイスキー製造用麦汁絞り粕、とうもろこし汁絞り粕、醤油粕等が挙げられる。これらの絞り粕を使用する場合には、資源の有効利用、原料コストの低減等のメリットが得られる。
【0023】
これら酵母含有物質の中でも、それを炭化した場合にリン及びカルシウムを比較的多く含むものが好ましい。このような酵母を用いる場合には、より高い酸素還元効果を得ることができる。例えば、ビール酵母及びその絞り粕の少なくとも1種を好適に使用することができる。
【0024】
本発明では、必要に応じて、酵母含有物質に他の添加剤を配合することもできる。その添加量は、添加剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0025】
例えば、炭化物の取り扱い性を向上するために、有機バインダー(ポリビニルアルコール、ブチラール樹脂等)又は無機バインダー(無水ケイ酸等)のバインダーを添加することができる。
【0026】
また、溶剤を酵母含有物質に配合することもできる。例えば、フェノール又はフェノール誘導体(例えば、モノニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、レジルシノール、1,4−ジ−ヒドロキシベンゼン、m−クレゾール、p−クレゾールなど)の有機溶剤を用いることができる。
【0027】
炭化処理及び賦活処理
上記酵母含有物質を炭化することにより炭化物をつくる。通常は、酵母含有物質を熱処理することによって炭化物を得ることができる。熱処理条件は、用いる酵母含有物質の組成、所望の炭化物の特性等に応じて適宜設定することができる。
【0028】
熱処理温度は、一般的には300℃以上1200℃以下程度の範囲で設定することができる。1200℃を超える場合には、黒鉛化が進行するため、それ以下の温度で処理するのが好ましい。より好ましくは、500℃以上1000℃以下の範囲とする。500℃以上とすることにより、より良好な導電性を付与することができる。また、1000℃以下とすることにより、酸素還元活性を与えて反応を効率的に行わせるための上述のC−O−C結合などを炭素成分中に残存させることができる。
【0029】
熱処理時間は、炭化が十分進行するように、熱処理温度、使用する酵母類含有材料の種類・量等に応じて適宜設定すれば良い。
【0030】
熱処理雰囲気としては、約300℃以上で加熱する場合には酵母類を燃焼させないために酸素濃度が低い状態又は酸素が実質的に存在しない状態にしておくことが好ましい。具体的には、酸素濃度が10体積%以下の雰囲気、さらには1体積%以下の雰囲気に設定することが好ましい。特に、不活性ガス雰囲気(窒素、アルゴン、ヘリウム等)又は真空中とすることが望ましい。
【0031】
炭化処理の後、得られた炭化物を賦活処理することが望ましい。賦活処理によって、炭化物の比表面積を高めて活性を向上させたり、被反応物との親和性を高めたり、担持する際の他の材料との親和性を高めたり、表面の酸性度を調節したりすることができる。
【0032】
賦活処理の方法は、公知の方法に従って実施することができる。例えば、1)水蒸気、二酸化炭素などによるガス賦活法、2)塩化アンモニウム、塩化亜鉛、水酸化カリウムなどによる薬品賦活法を用いることができる。賦活処理の温度は処理方法によって異なる。例えば、ガス賦活法では、前記炭化処理と同程度の温度が好ましい。薬品賦活法では、室温で処理したり、薬品に晒した後に前記炭化処理と同程度の温度までの範囲で処理することができる。
【0033】
(2)第二工程
第二工程では、前記炭化物を含む電極材料を用いて電極を製造する。
【0034】
炭化物
炭化物は、一般に、酵母含有物質(酵母類の繊維質、糖質に由来する構造など)に由来する構造を有する有機成分を含む。
【0035】
特に、上記炭化物は、赤外吸収分光において波数1000cm−1から1200cm−1範囲の約1100cm−1の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮吸収及び/又は約1600cm−1の不飽和炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮吸収を示すことが好ましい。これは、他の活性炭、カーボンブラックなどには見られない特徴であり、本発明に特有のものである。
【0036】
また、炭化物は、赤外吸収分光には炭素成分と無機成分のどちらに由来するかは明確ではないが、親水性をもつカルボニル基に起因した約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)伸縮吸収及び/又は水酸基に起因した約3000cm−1近傍の酸素(O)−水素(H)伸縮吸収を示すことが好ましい。
【0037】
これらの吸収を示す成分を含む炭化物を用いることによって、電極特性の向上により効果的に寄与することができる。このような炭化物の組成としては、一般的には炭素成分及び無機成分を含んでいる。
【0038】
炭素成分は、結晶質又は非晶質のいずれであってもよいが、特に非晶質であることが望ましい。また、上記炭素成分は、一般的には、導電性を有することが好ましい。
【0039】
無機成分は、用いる酵母含有物質の組成等によって異なるが、一般的には酵母類に由来した成分として、リン(P)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)等が含まれる。より好ましくは、主成分としてP及びCaを含む。これらの無機成分は、酸化物、リン酸塩、炭酸塩等の形態で存在していてもよい。炭化物中における無機成分の総含有量も、用いる酵母含有物質の種類等によって異なるが、通常は10質量%以上、好ましくは20質量%以上を含有する。この点において、無機成分の総含有量が数質量%である活性炭、カーボンブラック等と異なる。
【0040】
なお、無機成分の含有量は、炭化物をCHN元素分析した際の灰分で測定され、元素量に関しては蛍光X線元素分析、イオンクロマト分析等で測定することができる。
【0041】
本発明では、上記無機成分を補充するために、これらの無機成分を含む化合物を別途に配合することもできる。特に、リン及びカルシウムの少なくとも1種を含む無機化合物を好適に用いることができる。リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムのほか、リン酸塩、無機カルシウム塩等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
また、無機成分を含む化合物は、上記酵母含有物質又は炭化物のいずれにも配合できるが、特に酵母含有物質に配合することが望ましい。
【0043】
炭化物の形態は、上記のような物性を有していれば限定されないが、通常は粒状ないしは粉末状(粉粒体)であることが好ましい。炭化物が粉粒体である場合は、タイラー篩200メッシュ以上を通過する粒度とすることが好ましい。さらに、最大粒径(直径)が20μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下とすることが特に好ましい。一般に還元反応は粉粒体の表面で生じるため、20μmを越えると使用量に対する効率が低下するおそれがある。粒度の調整は、公知の粉砕機、分級機等を使用すればよい。
【0044】
電極材料
上記炭化物を含む電極材料を用いて電極を作製する。電極材料には、電極特性等の向上のために各種の材料を必要に応じて配合することができる。これらの材料は、本発明の効果を妨げない範囲内で、あらかじめ上記酵母含有物質に配合しておくことも可能である。
【0045】
例えば、酸素を取り込んだり又は酸素を放出したりする能力(酸素交換能力)をより高めるために金属及びその酸化物の少なくとも1種を配合することができる。例えば、Mn、Mn、Mn、γ−MnOOH(MnとMnのとの混合物)などのマンガン低級酸化物MnO(yは、マンガンの価数で決まる酸素の原子数であり、2未満である);酸化ルテニウム、Cux−1SrTiO(x=0〜0.5)、LaSr1−xMnO(x=0〜0.5)、SrTiOなどのペロブスカイト酸化物のほか、酸化バナジウム、白金黒などが挙げられる。
【0046】
この中でも、マンガン低級酸化物は、過酸化水素の分解活性が高く、劣化が少なく、しかも安価であるという点で好ましい。マンガン低級酸化物とは、マンガン原子の原子価が4に満たないマンガン酸化物のことである。これは、たとえば使用後のマンガン乾電池の二酸化マンガン正極をそのまま使用したり、あるいは焼成したものを用いることができるので、資源の有効利用という観点からも特に好ましい。
【0047】
上記金属又はその酸化物の添加量は、用いる金属酸又はその化合物の種類、所望の電極特性等に応じて適宜決定することができるが、最終的に得られる電極中において1重量%以上50重量%以下、特に5重量%以上20重量%以下となるように設定することが望ましい。
【0048】
また、その他にも各種の添加剤を電極材料に配合することができる。添加剤は、例えば1)他の材料との親和性の調節、2)表面(電極表面)の酸性度の調節、3)触媒活性の付与、4)助触媒の提供、5)過電圧の低減などの目的で用いることができる。このような添加剤としては、上記添加目的に応じて有機材料、無機材料、これらの複合材料、これらの混合物等のいずれも使用することができる。より具体的には、白金、コバルト、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、金、銀、銅、白金−コバルト合金、白金−ルテニウム合金などの金属又は合金;黒鉛、活性炭などの炭素材料;酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ルテニウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化マンガン、ランタン−マンガン−銅ペロブスカイト酸化物などの金属酸化物;鉄フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銅フタロシアニン、マンガンフタロシアニン、亜鉛フタロシアニンなどのポルフィリン環を有する金属フタロシアニンあるいは金属ポルフィリン、ルテニウムアンミン錯体、コバルトアンミン錯体、コバルトエチレンジアミン錯体などの金属錯体などを用いることができる。
【0049】
上記金属錯体の中心金属元素としては限定的ではないが、特に白金、ルテニウム、コバルト、マンガン、鉄、銅、銀及び亜鉛の少なくとも1種が好ましい。これらの金属元素を用いることにより、酸素の還元反応をより小さな過電圧で進行できる。また、金属元素の価数は4以下が好ましい。価数を4以下とすることにより、触媒の酸化力をより効果的に抑制することができる。その結果、電気化学素子の構成要素(例えば、電解質、電極リード、集電体、電池ケース、セパレータ、ガス選択透過膜など)の酸化による劣化を有効に防止することができる。
【0050】
上記添加物の添加量は、用いる材料の種類、所望の電極特性等に応じて適宜決定することができるが、最終的に得られる電極中1重量%以上80重量%以下、特に20重量%以上60重量%以下となるようにすることが望ましい。
【0051】
上記電極材料は、公知の電極材料に添加される材料を含んでいてもよい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ナフィオン等のフッ素樹脂バインダー、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等の樹脂バインダー、グラファイト、導電性カーボン、親水性カーボンブラック、疎水性カーボンブラック等の導電助剤等を必要に応じて適宜添加することができる。
【0052】
電極の作製
電極の作製については、上記電極材料を用い、公知の電極の製法に従って製造すればよい。例えば、予め作製された電極材料の成形体を導電性基体(集電体)に積層又は圧着する方法、電極材料を含むペーストを導電性基体上にコーティングする方法、導電性材料と電極材料を混合して成形する方法等により作製することができる。
【0053】
上記導電性基体は、例えばカーボン繊維を紙すき法で製紙したカーボンペーパー;ステンレス鋼メッシュ、ニッケルメッシュなどの金属メッシュ;カーボン粉末、金属粉末等をフッ素樹脂バインダーなどの合成樹脂バインダーでつなぎ合わせてシート状に加工した導電性の複合材料シートなどを有効に用いることができる。
【0054】
また、上記ペーストを調製する場合は、バインダを適当な溶媒に溶解することによりペーストを得ることができる。例えば、バインダとしてポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、溶媒としてエタノール等のアルコール類を使用することができる。バインダの濃度は、用いるバインダの種類等に応じて適宜決定すればよい。
【0055】
酸化還元用電極
本発明は、本発明の製造方法で得られる酸化還元用電極も包含する。すなわち、酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電極であって、酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極が包含される。従って、本発明に係る電極において、上記酵母含有物質、炭化物等の構成要素は、前記で掲げたものを採用すればよい。
【0056】
本発明の酸素還元電極では、上記炭化物の含有量は制限されず、電極の用途、使用目的等に応じて適宜設定することができる。特に、電極中に上記炭化物が1重量%以上80重量%以下、特に20重量%以上60重量%以下含まれていることが望ましい。かかる範囲に設定することによって、より優れた4電子還元性能を得ることができる。
【0057】
本発明の酸素還元用電極では、これを電池の正極として用いる場合には、以下の反応が起こる。
【0058】
本発明の酸素還元用電極においては、O+HO+2e→OH+ HO2−(アルカリ液中)で表される酸素の2電子還元反応(1)が起こり、過酸化水素(H、アルカリ液中ではHO2−で表される過酸化水素イオン)が生成する。さらに、生成した過酸化水素イオンが2HO2−→O+2OHで表される分解反応(2)を起こし、再び酸素を生成する。この酸素は、再び2電子還元を受け、過酸化水素イオンを生成する。
【0059】
酸素1分子が、2電子還元反応(1)により過酸化水素イオン1分子を生成する。生成した過酸化水素イオン1分子は、分解反応(2)により1/2分子の酸素を与える。1/2分子の酸素分子は、2電子還元反応(1)により1/2分子の過酸化水素イオンを生成する。生成した1/2分子の過酸化イオンは、分解反応(2)により1/4分子の酸素を再生する。1/4分子の酸素分子は、2電子還元反応(1)により1/4分子の過酸化水素イオンを生成する。生成した1/4分子の過酸化イオンは、分解反応(2)により1/8分子の酸素を与える。このように、2電子還元反応(1)と分解反応(2)とが繰り返し起こる。
【0060】
すなわち、酸素1分子の還元に対し、2電子、1電子、1/2電子、1/4電子、1/8電子、・・・・、(1/2)n電子(n→無限大)の合計4電子が用いられ、実質的に酸素1分子が2電子還元反応の電位で4電子還元反応を受けたのと同じとなる。換言すれば、O+2HO+4e→4OHの反応が起こったことと同じ結果となる。
【0061】
酵母含有物質の炭化物の働きに関しては、酸素分子の2電子還元反応が炭素成分で生じてその際に生成した過酸化水素をすぐに無機成分が分解し、さらに生成した酸素をすぐに2電子還元反応することが繰り返されることにより、4電子還元が実質的に生じると考えられる。このような反応は、炭素成分と無機成分が極めて近傍に存在していることにより生じると考えられる。おそらく炭素成分と混在した無機の主成分であるリン、カルシウムなどの元素がいろいろな酸化状態を有するために、酸素交換能力が高く過酸化水素の分解を促進していると考えられる。
【0062】
また、これらは炭素成分の近傍において、酸素に対する親和性の高さに加えて水に対する親和性も高くしているために2電子還元反応も促進していると考えられる。さらに、炭素成分自体もC−O−C結合やC=O結合、OH基なども有し、酸素や過酸化水素に対する親和性や水に対する親和性も高くなっているために効率的な還元反応が進行しているものと考えられる。また、ケイ素など他の無機成分も酸化状態として存在しているため、反応を促進する助触媒的な働きもしている可能性が考えられる。いずれにしても、各成分の相乗的な作用によって4電子還元反応が選択的に進行していると考えられる。
【0063】
このように、本発明の酸素還元用電極は、酵母含有物質の炭化物による電気化学的な触媒作用によって、酸素を電極反応物質とした電気化学還元に対して酸素の還元経路を与え、4電子還元反応を高い選択率(100%に近い選択率)で起こすことができる。
(2)電気化学素子
本発明の電気化学素子は、a)酸素の還元反応を正極反応とする正極、b)負極及びc)電解質を含み、かつ、上記正極が酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含むことを特徴とする。
【0064】
すなわち、本発明の電気化学素子では、基本的には上記正極として本発明に係る電極を用いる。負極としては、例えば白金、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、鉄等の公知の電極を使用することができる。
【0065】
本発明の電気化学素子は、正極として本発明の酸素還元用電極を使用するほかは、公知の電気化学素子の構成要素を適用することができる。例えば、電解質、セパレータ、容器、電極リード等は、公知又は市販のものを用いることができる。
【0066】
特に、電解質としては、電解液又は固体電解質のいずれでもよいが、特に電解液を好適に用いることができる。電解液を用いる場合、その溶媒は水又は有機溶媒のいずれであってもよい。この中でも、水溶液を電解液として用いることが好ましい。電解液のpHは限定的ではないが、特にpH6からpH9の中性領域とすることが好ましい。本発明では、より高い活性が得られるという点で中性水溶液を電解質として用いることが望ましい。
【0067】
電解質には、燃料物質が含まれていることが望ましい。特に、中性水溶液に燃料物質が溶解されていることが好ましい。このときの負極の反応としては、電解質に溶解した燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることが好ましい。上記燃料物質としては、用いる電解質(特に中性水溶液)に可溶なものであれば特に限定されないが、好ましくは糖類及びアルコール類の少なくとも1種である。糖類としては、たとえばグルコース、フルクトース、マンノース、スターチ、セルロールなどが挙げられる。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロールなどが挙げられる。
【0068】
電解質中における燃料物質の含有量(濃度)は、用いる燃料の種類、溶媒の種類等によるが、一般的には0.01重量%以上100重量%以下程度、特に1重量%以上20重量%以下とすることが望ましい。
【0069】
本発明の電気化学素子において、酸化還元用電極は、たとえば1)酸素を含む気体、2)電解質溶液からなる液体、3)導電材からなる固体の三相が接触する場所に配置して用いるのが好ましい。このように、本発明に係る電極(特に酵母類の炭化物)をイオンの経路と電子の経路の交差点に配置することにより、酸素の電気化学的還元を小さな過電圧(抵抗)でスムーズに起こすことが可能となり、大きな電流値を得ることができる。
【0070】
本発明の酸素還元用電極は、電解質に可溶の燃料である糖類あるいはアルコール類に対してほとんど酸化活性を示さない。このため、本発明に係る電極をプラス極(正極)として用い、糖類又はアルコール類の溶液を電解質とし、糖類又はアルコール類を酸化するためのマイナス極(負極)をすることによって、発電セルを構成することができる。この場合、正極側と負極側とをセパレータで隔離しなくても、正極に電解質に溶解した燃料である糖類あるいはアルコール類が直接接触しても発電セルの電圧が低下することはない。もちろん、本発明の電気化学素子では、必要に応じてセパレータを使用してもよい。
【0071】
本発明の電気化学素子では、酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電極を正極として用いるので、前記で説明したような酸素の4電子還元反応が起こる。換言すれば、本発明の電気化学素子を用いることによって、酸素の4電子還元反応を行うことができる。
【発明の効果】
【0072】
本発明における酸化還元用電極は、酵母含有物質の炭化物を用いることによって、効率的に電気化学的に酸素還元可能な電極を得ることができる。
【0073】
すなわち、本発明に係る電極は、酸素分子の2電子還元反応を触媒する従来の炭素系材料では知られていなかった、実質的な4電子還元反応作用を示す。
【0074】
本発明に係る電極は、イオンの経路と酸素の経路の交差点に配置されることによって、酸素の電気化学的還元を小さな過電圧(抵抗)でスムーズに起こすことが可能になる。その結果、大きな起電力でかつ大きな電流値を得ることができる電気化学素子を提供できる。
【0075】
特に、本発明に係る電極は、酸素分子の還元反応が実質的に4電子で進行するために、従来の4電子還元触媒である白金などの貴金属触媒の代替品となる。これによって、1)安価である、2)酸化反応・還元反応が行われる場所をセパレータなどで分ける必要がない、3)被毒などによる触媒の不活性化を抑制できる、などの特徴を兼ね備えた電極を提供することが可能になる。
【0076】
また、酵母含有物質を炭化して得られた炭化物を触媒の担体として酸化還元用電極に用いることにより、担持体自体が電気化学的に還元反応を触媒するため、白金などの貴金属触媒の使用量を低減することも可能になる。
【0077】
さらには、おそらく白金などの貴金属触媒の被毒等による性能低下を抑制する効果も保有しているものと考えられ、より高い性能向上を図ることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、酸素の電気化学還元に対して、実質上4電子還元反応を100%に近い選択率で与える安定性にも優れた酸素還元用電極を提供することができる。このような酸素還元用電極を、酸素の還元反応を正極反応として用いる電気化学素子の酸素極、空気極などに利用することができる。例えば、亜鉛―空気電池、アルミニウム―空気電池、砂糖―空気電池などの空気電池;酸素水素燃料電池、メタノール燃料電池などの燃料電池;酵素センサ、酸素センサなどの電気化学センサ;などに好適に用いることができる。
【0079】
以上のように、本発明の電極及びその製造方法は、工業的規模での生産に適した方法であり、実用性の高いものである。
【実施例】
【0080】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0081】
(実施例1)
試験電極1、2の作製
ビール酵母を含有するビール絞り粕材料を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、水蒸気賦活を900℃で行って得られた炭化物を用いて試験電極1、2を作製した。
【0082】
得られた炭化物の固定炭素は約64質量%であった。元素分析における灰分は約30質量%であった。そのうちの無機成分については、蛍光X線分析によってリン(P)が約30質量%、カルシウム(Ca)が23質量%、マグネシウム(Mg)が7質量%、カリウム(K)が3質量%、ケイ素(Si)が約20質量%などであり、PとCaが主成分であることがわかった。また、赤外分光によって、特性吸収として波数約1110cm−1に吸収ピークを有するC−O−C吸収、約1570cm−1に吸収ピークを有するC=C吸収、約1705cm−1に吸収ピークを有するC=O吸収、3000cm−1近傍のブロードなO−H吸収が観察された。これらは、炭素のみの完全な炭化物ではなく、炭化前の酵母含有物質の分子構造に由来するものである。
【0083】
得られた炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕して得た。この粉末25μgを、プロトン伝導性のナフィオン(製品名「Nafion112」デュポン社製、以下同じ。)を0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。得られた分散液を通気性の導電性基体に全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることで炭化物とナフィオンを含む試験電極を作製した。
【0084】
通気性の導電性基体としては、厚さ0.36mmのカーボンペーパー(製品名「TGPH−120」東レ製、以下同じ。)を用いた。カーボンブラック粒子1重量部およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー0.1重量部からなる混合物を2.25mg/cmとなるようにカーボンペーパーに保持させて得た防水性のカーボンペーパー基体と、防水性処理をしていないカーボンペーパー基体とを用いた。
【0085】
防水性カーボンペーパー基体の表面に、前述の方法で炭化物が4.2mg/cmとなるようにコートした試験電極1を得た。また、カーボンペーパー基体に前述の方法で炭化物が2mg/cmとなるように形成した試験電極2を得た。
【0086】
(実施例2)
試験電極3の作製
ビール酵母を含有するビール絞り粕材料を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、水蒸気賦活を900℃で行った。得られた炭化物(平均粒径約5μm)4重量部を、マンガン低級酸化物(MnとMnとの混合物、平均粒径約10μm)4重量部、カーボンブラック1重量部、フッ素樹脂バインダー(PTFE)0.2重量部とを混合した。この混合物を通気性の導電性基体のニッケルめっきステンレス鋼金網(厚み0.15mm、25メッシュ)を芯材とするシートを作製した。次に、このシートの片面にフッ素樹脂多孔質シート(空孔率約50%、厚み0.2mm)を圧着して厚み約3mmの試験電極3を作製した。
【0087】
(実施例3)
試験電極4の作製
ビール酵母5重量部とリン酸水素カルシウム0.1重量部を無水ケイ酸バインダー0.1重量部に混合して成形固化した。得られた混合物を窒素雰囲気下900℃で炭化した。得られた炭化物を最大直径が20μm以下となるように粉砕した。得られた粉末25μgを、ナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を実施例1で用いた防水処理したカーボンペーパー基体に全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させることで炭化物とナフィオンを含む試験電極4を作製した。なお、炭化物が2mg/cmとなるように形成した。
【0088】
(実施例4)
試験電極5の作製
ビール酵母を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、水蒸気賦活を900℃で行って炭化物を得た。この炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕した。得られた粉末を塩化白金酸の3mmol/Lのエタノール溶液に含浸することにより白金塩を付与した。これに室温で水素化ホウ素ナトリウムを加えて還元して白金を担持した。このときの白金担持率は、約10質量%であった。この白金を添加した炭化物25μgを、プロトン伝導性のナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を実施例1で用いた防水処理したカーボンペーパー基体に全面を覆うように滴下し、温風にて乾燥することによりエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより炭化物とナフィオンを含む試験電極5を作製した。なお、この試験電極5において、炭化物が2mg/cmとなるように形成し、そのときの白金量は約0.2mg/cmであった。
【0089】
(実施例5)
試験電極6の作製
酵母を含有するウイスキー製造用麦汁絞り粕材料を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、900℃で水蒸気賦活して得られた炭化物を用いて試験電極6を作製した。前記炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕した。この粉末25μgを、プロトン伝導性のナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を厚さ0.36mmのカーボンペーパーからなる通気性の導電性基体に全面を覆うように滴下し、温風にて乾燥することによりエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより炭化物とナフィオンを含む試験電極6を作製した。なお、カーボンペーパー基体には炭化物が2mg/cmとなるように担持した。
【0090】
(比較例1)
比較電極1、2、3、4および5の作製
50質量%の白金担持率のカーボンブラック粉末25μgを、プロトン伝導性のナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。通気性の導電性基体であるカーボンブラック粒子1重量部およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー0.1重量部からなる混合物を2.25mg/cmとなるように厚さ0.36mmのカーボンペーパーに保持させた防水性のカーボンペーパー基体にこの分散液を全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより、白金量を約0.35mg/cmとした比較電極1を作製した。
【0091】
この際に、上述のカーボンブラック粉末の代わりに白金担持率30質量%のカーボンブラック粉末を用いたほかは同様の処理を行うことにより、白金量を約0.2mg/cmとした比較電極2を作製した。
【0092】
また、上述の防水性のカーボンペーパー基体を比較電極3、カーボンペーパーのみを比較電極4、上述の炭化物を含まないプロトン伝導性のナフィオンのエタノール溶液をカーボンペーパー基体に形成して比較電極5とした。
【0093】
(実施例6)
試験電極1、2の電極特性の評価
図3に示す構成の3極セルを構成して、試験電極での酸素の還元特性を電圧−電流特性で評価した。図3において、1は空気電極、1aは試験電極または比較電極、1bはフッ素樹脂多孔質シート、1cは電極リード、2は対極、3は参照電極、4は電解液、5は空気極を配置するための直径16mmの開口部を有するガラスセルである。空気極1は、ガラスセル5の開口部に図3に示すように、フッ素樹脂多孔質シート1b側の面は大気に曝され、他方の面は電解液4に接するように配置されている。電解液4としては、pH7.0の0.1Mりん酸緩衝溶液を用いた。対極2は白金を用い、参照電極3はAg/AgCl(飽和KCl)電極を用いた。なお、試験電極または比較電極1aとフッ素樹脂多孔質シート1bとは密着させた。
【0094】
図1に、試験電極1と2、および各比較電極を空気極1とした場合の電圧―電流特性を比較して示す。なお、印加電流は少なくとも10分間維持して測定し、起電力はセル抵抗で補正して標準水素電極(NHE)基準で表している。カーボンブラックによる比較電極3に対して試験電極1および2は過電圧が小さく高い起電力が得られていた上に、白金触媒による比較電極1および2と同程度の起電力が得られた。このことは、従来の炭素系材料では酸素が2電子還元されているのに対し、試験電極に用いた炭化物が実質的に4電子還元しているために、白金における4電子還元反応に匹敵する特性が得られたものと考えられる。
【0095】
(実施例7)
試験電極3、4、5および6の電極特性の評価
実施例6と同様に、図3に示す構成の3極セルを構成して、試験電極での酸素の還元特性を電圧−電流特性で評価した。
【0096】
図2に、試験電極3、4、5および6と各比較電極を空気極1とした場合の電圧―電流特性を比較して示す。カーボンブラックによる比較電極3に対して、実施例6と同じように各試験電極では過電圧が小さく高い起電力が得られ、酸素が4電子還元反応に近い作用で触媒されていることがわかる。
【0097】
試験電極3においては、空気極に含まれるマンガン低級酸化物が酸素分子の2電子還元反応で生成した過酸化水素を分解する作用が強いために、実質的に4電子還元反応の効果が高くなり白金による比較電極1とほぼ等しい起電力を得られた。
【0098】
試験電極4においては、成形固化して形成した炭化物においても粉粒体での電気化学的な触媒効果として高い起電力が得られた。このことから、粉粒体としなくても炭化物の成形体を形成して電極とするなど取り扱い性の向上が期待される。
【0099】
試験電極5においては、炭化物に添着している白金量が同じである比較電極2に対して高い起電力が得られている。このことは、添加した白金に加えて酵母を炭化した炭化物の還元作用が加わって効率的な還元反応を生じているためである。この炭化物を触媒担持体として使用することによって、高価な貴金属触媒の使用量を低減することが可能になる。
【0100】
また、試験電極5を用いた空気極における起電力の保持時間を比較電極1と比べた場合に、起電力の10%低下までの時間において試験電極5の方が比較電極1よりも5倍以上長く保持されることが確認された。この起電力低下の大きな要因の1つは、触媒である白金の被毒による要因がある。試験電極5では白金量が少ないため起電力低下が少ないが、単に白金量の違い(試験電極5:比較電極1=0.2:0.35)を超える効果があるために、被毒だけでは説明できなく、他の効果も寄与していると考えられる。その効果については明らかではないが、炭化物が実質的に酸素の4電子還元反応を進行させる効果によって、白金の被毒を抑制する効果のあるものと思われる。
【0101】
試験電極6においては、ビール酵母以外の酵母由来の炭化物においても同様に4電子還元反応の効果が得られることがわかる。
【0102】
(実施例8)
発電セル特性の評価
実施例1の試験電極1を含む空気極をプラス極(正極)、対極の白金をマイナス極(負極)とし、グルコースを100mM溶解したpH6.8の0.1Mりん酸緩衝液を電解液として発電セルaを構成した。発電セルaと同じ正極、負極を用いて、メタノールを3質量%溶解したpH6.8の0.1Mりん酸緩衝液を電解液とする発電セルbを構成した。また、空気極を白金板Ptとして正極とする以外は同様の構成とした発電セルc、発電セルdを構成した。それぞれの発電セルの開路電圧と、発電セルを1mAの一定電流値で10時間放電した際の電圧を表1に示す。
【0103】
【表1】
Figure 2004091020
【0104】
本発明の炭化物を有効成分として含む空気極をプラス極として用いた発電セルa、bでは、白金板をプラス極に用いた発電セルc、dに比べて開放電圧が0.2〜0.4V高い電圧を得ることができた。このことは、ビール酵母を炭化した炭化物を有効成分として含む空気極よりなるプラス極は、グルコースあるいはメタノールと直接接触しても酸化反応を起こさず、酸素の還元反応で決定される電位を与えるので、発電セルは高い電圧を与えることを示す。これに対し、白金板よりなるプラス極は、グルコースあるいはメタノールと直接接触すると酸化反応を起こすため、グルコースあるいはメタノールの酸化反応と酸素の還元反応で決定される低い電位を与えるために発電セルが低い電圧を与えていると考えられる。
【0105】
なお、電解質に可溶な燃料物質としてグルコースあるいはメタノールを用いたが、グルコースの他の糖類(たとえば、フルクトース、マンノース、スターチ、セルロールなど)、あるいはメタノールの他のアルコール類(たとえば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロールなど)を用いても同様な結果が得られる。また、電解質としてpH6.8の0.1Mリン酸緩衝液に代えて、0.1NKOH水溶液またはNaClを3質量%溶解した塩水を用いても同様な結果が得られる。
【0106】
(実施例9)
発電セルの組み立て
図4に示す構成の発電セルAおよび発電セルBを組み立てた。
【0107】
図4において正極として作用する空気極11は、発電セルAでは、実施例1で得た試験電極1を用いて作製した。図4において、15は負極リード、16は正極リード、17は透明のシリコンラバーよりなる封止材である。
【0108】
図4において負極として作用する光触媒電極は、ガラス基板6、ITO薄膜7、酸化チタン(TiO)微粒子膜8、および色素分子層9より成っている。厚さ1mmのガラス基板6上に表面抵抗が10オーム/cmのインジウム・錫酸化物(ITO)薄膜7が形成された光透過性導電性基板を用意し、平均粒径が10nmのTiO粒子を11質量%分散したポリエチレングリコールを30質量%含むアセトニトリル溶液を、浸漬法によりITO薄膜上に塗布し、80℃で乾燥したのち、空気中で400℃で1時間焼成することで厚さ約10μmのTiO微粒子膜8を形成した。次に、TiO微粒子膜を、以下に示されるルテニウム金属錯体色素分子9を10mM溶解したエタノール中に浸漬することで、色素分子9をTiO微粒子膜8に添着した。さらに、4−tert−ブチルピリジンに浸漬したのち、アセトニトリルで洗浄したのち乾燥することで上記光触媒電極を作製した。
【0109】
【化1】
Figure 2004091020
【0110】
電解液・燃料液10として、pH7.0の0.1Mリン酸緩衝溶液に、燃料のメタノール5質量%、補酵素ニコチンアミドヌクレオチド(NADH)を5mM、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)を16.0U/ml、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(AlDH)を1.0U/mlおよびホルメートデヒドロゲナーゼ(FDH)を0.3U/mlを溶解したものを用いた。電解液・燃料液10は、電解液・燃料液注入口13aより注入され、発電後、排出口13bより排出される。空気は、酸素透過性撥水膜12を通して外部より発電セル内部に供給される。
【0111】
図4に記載されている発電セルの構造について説明する。この発電セルの負極側は、主としてガラス基板6からなり、このガラス基板6の表面にはITO薄膜7が積層されている。ITO薄膜7には、負極リード15が設けられている。発電セルの正極側は、主として板状の空気極11からなり、空気極11の表面には酸素透過性撥水膜12が積層されている。空気極11の内部からは正極リード16が伸び出している。このようなガラス基板6の表面および板状の空気極11の裏面とを向かい合わせにし、これらの間に封止材17を介してガラス基板6と空気極11とを貼り合わせることにより発電セルが形成されている。
【0112】
ガラス基板6と空気極11との間には、空気極11側に電解液(または燃料液)10が、ガラス基板6側に酸化チタンからなる微粒子が分散された微粒子薄膜8が位置している。そして、電解液(または燃料液)10と微粒子薄膜8との間には、色素分離層9が挟まれている。
【0113】
また、封止材17には、封止材17を貫通する電解液・燃料液注入口13aおよび電解液・燃料液排出口13bが設けられている。これらの電解液・燃料液注入口13aおよび電解液・燃料液排出口13bには、液バルブ14a・14bがそれぞれ設けられている。これらの電解液・燃料液注入口13aおよび電解液・燃料液排出口13bを介して、ガラス基板6と空気極11との間に電解液(または燃料液)10を外部から注入および外部に排出することができるように設計されている。
【0114】
なお、発電セルBは、実施例2で得た試験電極3を用いて作製した空気極を使用した以外は、発電セルAと同じ構成となるように作製した。
【0115】
発電セルの動作特性
発電セルを電解液・燃料液で満たしたのち、ガラス基板6側より太陽光シュミレータ(AM1.5、100mW/cm)からの光を照射し、発電セルの起電力(OCV)および、100μAの一定電流で発電セルを20分間放電した際の発電セルの電圧を測定した。OCVは、発電セルAでは0.80V、発電セルBでは0.65Vであった。また、20分間放電後の発電セルの電圧は、発電セルAでは0.75V、発電セルBでは0.55Vであった。このように高い起電力が得られるとともに、放電に際しても、高い電圧を維持することができた。
【0116】
なお、本実施例では、発電セルの負極として光触媒電極を用い、メタノールを燃料とする電池を示したが、負極として、亜鉛、マグネシウム、アルミニウムなどの金属を用いても、本発明に従う酸素還元用電極と組み合わせることで、電気化学素子として起電力ならびに放電時の電池電圧が高い電池を得ることができる。
1. 酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極を製造する方法であって、(1)酵母含有物質を炭化することにより炭化物を得る第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて前記酸素還元用電極を製造する第二工程を有する製造方法。
2. 酵母含有物質が、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、パン酵母、食飼料酵母、ビール絞り粕、清酒粕、ワイン製造用葡萄汁絞り粕、ウイスキー製造用麦汁絞り粕、とうもろこし汁絞り粕及び醤油粕の少なくとも1種である前記項1記載の製造方法。
3. 第一工程において、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で300℃以上1200℃以下で前記酵母含有物質を炭化する前記項1記載の製造方法。
・ 第一工程において、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で500℃以上1000℃以下で前記酵母含有物質を炭化する前記項3記載の製造方法。
・ 前記雰囲気が不活性ガス雰囲気である前記項3記載の製造方法。
6. 第一工程において、炭化物をさらに賦活処理する前記項1記載の製造方法。
7. 第二工程において、前記電極材料を所定の形状に成形して成形体を得た後、前記成形体を導電体基体に積層又は圧着することにより前記酸素還元用電極が製造される、前記項1に記載の製造方法。
8. 第二工程において、前記電極材料をペースト状にして電極材料を含有するペーストを得た後、前記ペーストを導電性基体にコーティングすることにより前記酸素還元用電極が製造される、前記項1に記載の製造方法。
9. 前記酵母含有物質、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を添加する前記項1記載の製造方法。
10. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
11. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
12. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
13. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
14. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項1記載の製造方法。
15. 前記酵母含有物質、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、金属及びその酸化物の少なくとも1種を添加する前記項1記載の製造方法。
16. 酸化物が一般式MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項15記載の製造方法。
17. 酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電極であって、酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極。
18. リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項17記載の酸素還元用電極。
19. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
20. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
21. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
22. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
23. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項17記載の酸素還元用電極。
24. 金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項17記載の酸素還元用電極。25. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項24記載の酸素還元用電極。
26. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されてなる前記項17記載の酸素還元用電極。
27. 導電性基体が、通気性である前記項26記載の酸素還元用電極。
28. 中性水溶液電解質中で分子状酸素を電気化学的に還元するために用いる前記項17記載の酸素還元用電極。
29. a)酸素を4電子還元する正極、b)負極及びc)電解質を含み、かつ、上記正極が酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電気化学素子。
30. 前記正極が、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項29記載の電気化学素子。
31. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
32. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
33. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
34. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
35. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項29記載の電気化学素子。
36. 前記正極が金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項29記載の電気化学素子。
37. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項36記載の電気化学素子。
38. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されて前記正極が構成されている前記項29記載の電気化学素子。
39. 導電性基体が、通気性である前記項38記載の電気化学素子。
40. 電解質が、中性水溶液電解質である前記項29記載の電気化学素子。
41. 負極の反応が、電解質に可溶の燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることを特徴とする前記項29記載の電気化学素子。
42. 前記電解質に、糖類及びアルコール類の少なくとも1種が含まれている前記項29記載の電気化学素子。
43. 酸素の4電子還元を行う方法であって、
a)酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む正極、b)負極及びc)電解質を含む電池を提供する電池提供工程、および
上記正極に酸素を供給することによって酸素の4電子還元を行う酸素供給工程
を含む還元方法。
44. 前記正極が、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む前記項43記載の還元方法。
45. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
46. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
47. 前記炭化物が、約2100cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
48. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
49. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約2100cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す前記項43記載の還元方法。
50. 前記正極が金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む前記項43記載の還元方法。
51. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項50記載の還元方法。
52. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されて前記正極が構成されている前記項43記載の還元方法。
53. 導電性基体が、通気性である前記52記載の還元方法。
54. 電解質が、中性水溶液電解質である前記項43記載の還元方法。
55. 負極の反応が、電解質に可溶の燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることを特徴とする前記項43記載の還元方法。
56. 前記電解質に、糖類及びアルコール類の少なくとも1種が含まれている前記項43記載の還元方法。

Claims (56)

  1. 酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極を製造する方法であって、(1)酵母含有物質を炭化することにより炭化物を得る第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて前記酸素還元用電極を製造する第二工程を有する製造方法。
  2. 酵母含有物質が、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、パン酵母、食飼料酵母、ビール絞り粕、清酒粕、ワイン製造用葡萄汁絞り粕、ウイスキー製造用麦汁絞り粕、とうもろこし汁絞り粕及び醤油粕の少なくとも1種である請求項1記載の製造方法。
  3. 第一工程において、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で300℃以上1200℃以下で前記酵母含有物質を炭化する請求項1記載の製造方法。
  4. 第一工程において、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で500℃以上1000℃以下で前記酵母含有物質を炭化する請求項3記載の製造方法。
  5. 前記雰囲気が不活性ガス雰囲気である請求項3記載の製造方法。
  6. 第一工程において、炭化物をさらに賦活処理する請求項1記載の製造方法。
  7. 第二工程において、前記電極材料を所定の形状に成形して成形体を得た後、前記成形体を導電体基体に積層又は圧着することにより前記酸素還元用電極が製造される、請求項1に記載の製造方法。
  8. 第二工程において、前記電極材料をペースト状にして電極材料を含有するペーストを得た後、前記ペーストを導電性基体にコーティングすることにより前記酸素還元用電極が製造される、請求項1に記載の製造方法。
  9. 前記酵母含有物質、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を添加する請求項1記載の製造方法。
  10. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す請求項1記載の製造方法。
  11. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す請求項1記載の製造方法。
  12. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す請求項1記載の製造方法。
  13. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す請求項1記載の製造方法。
  14. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す請求項1記載の製造方法。
  15. 前記酵母含有物質、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、金属及びその酸化物の少なくとも1種を添加する請求項1記載の製造方法。
  16. 酸化物が一般式MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である請求項7記載の製造方法。
  17. 酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電極であって、酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極。
  18. リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む請求項17記載の酸素還元用電極。
  19. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す請求項17記載の酸素還元用電極。
  20. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す請求項17記載の酸素還元用電極。
  21. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す請求項17記載の酸素還元用電極。
  22. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す請求項17記載の酸素還元用電極。
  23. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す請求項17記載の酸素還元用電極。
  24. 金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む請求項17記載の酸素還元用電極。
  25. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である請求項24記載の酸素還元用電極。
  26. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されてなる請求項17記載の酸素還元用電極。
  27. 導電性基体が、通気性である請求項26記載の酸素還元用電極。
  28. 中性水溶液電解質中で分子状酸素を電気化学的に還元するために用いる請求項17記載の酸素還元用電極。
  29. a)酸素を4電子還元する正極、b)負極及びc)電解質を含み、かつ、上記正極が酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む電気化学素子。
  30. 前記正極が、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む請求項29記載の電気化学素子。
  31. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す請求項29記載の電気化学素子。
  32. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す請求項29記載の電気化学素子。
  33. 前記炭化物が、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す請求項29記載の電気化学素子。
  34. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す請求項29記載の電気化学素子。
  35. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約1700cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す請求項29記載の電気化学素子。
  36. 前記正極が金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む請求項29記載の電気化学素子。
  37. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である請求項36記載の電気化学素子。
  38. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されて前記正極が構成されている請求項29記載の電気化学素子。
  39. 導電性基体が、通気性である請求項38記載の電気化学素子。
  40. 電解質が、中性水溶液電解質である請求項29記載の電気化学素子。
  41. 負極の反応が、電解質に可溶の燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることを特徴とする請求項29記載の電気化学素子。
  42. 前記電解質に、糖類及びアルコール類の少なくとも1種が含まれている請求項29記載の電気化学素子。
  43. 酸素の4電子還元を行う方法であって、
    a)酵母含有物質を炭化して得られる炭化物を含む正極、b)負極及びc)電解質を含む電池を提供する電池提供工程、および
    上記正極に酸素を供給することによって酸素の4電子還元を行う酸素供給工程
    を含む還元方法。
  44. 前記正極が、リン(P)及びカルシウム(Ca)の少なくとも1種を含む無機化合物を含む請求項43記載の還元方法。
  45. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収を示す請求項43記載の還元方法。
  46. 前記炭化物が、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収を示す請求項43記載の還元方法。
  47. 前記炭化物が、約2100cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収を示す請求項43記載の還元方法。
  48. 前記炭化物が、約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す請求項43記載の還元方法。
  49. 前記炭化物が、約1000から1200cm−1範囲の炭素(C)−酸素(O)−炭素(C)伸縮の赤外吸収、約1600cm−1の炭素(C)=炭素(C)の対称伸縮の赤外吸収、約2100cm−1の炭素(C)=酸素(O)の伸縮の赤外吸収、および約3000cm−1の酸素(O)−水素(H)の伸縮の赤外吸収を示す請求項43記載の還元方法。
  50. 前記正極が金属及びその酸化物の少なくとも1種を含む請求項43記載の還元方法。
  51. 前記酸化物が、MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である請求項50記載の還元方法。
  52. 前記炭化物が粒子状であって、前記炭化物を含む電極材料が導電性基体に担持されて前記正極が構成されている請求項43記載の還元方法。
  53. 導電性基体が、通気性である請求項52記載の還元方法。
  54. 電解質が、中性水溶液電解質である請求項43記載の還元方法。
  55. 負極の反応が、電解質に可溶の燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることを特徴とする請求項43記載の還元方法。
  56. 前記電解質に、糖類及びアルコール類の少なくとも1種が含まれている請求項43記載の還元方法。
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