JPWO2003062429A1 - 新規セリンプロテアーゼ - Google Patents
新規セリンプロテアーゼ Download PDFInfo
- Publication number
- JPWO2003062429A1 JPWO2003062429A1 JP2003562296A JP2003562296A JPWO2003062429A1 JP WO2003062429 A1 JPWO2003062429 A1 JP WO2003062429A1 JP 2003562296 A JP2003562296 A JP 2003562296A JP 2003562296 A JP2003562296 A JP 2003562296A JP WO2003062429 A1 JPWO2003062429 A1 JP WO2003062429A1
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- amino acid
- acid sequence
- polypeptide
- seq
- sequence represented
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Withdrawn
Links
Classifications
-
- C—CHEMISTRY; METALLURGY
- C12—BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
- C12N—MICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
- C12N9/00—Enzymes; Proenzymes; Compositions thereof; Processes for preparing, activating, inhibiting, separating or purifying enzymes
- C12N9/14—Hydrolases (3)
- C12N9/48—Hydrolases (3) acting on peptide bonds (3.4)
- C12N9/50—Proteinases, e.g. Endopeptidases (3.4.21-3.4.25)
- C12N9/64—Proteinases, e.g. Endopeptidases (3.4.21-3.4.25) derived from animal tissue
- C12N9/6421—Proteinases, e.g. Endopeptidases (3.4.21-3.4.25) derived from animal tissue from mammals
- C12N9/6424—Serine endopeptidases (3.4.21)
-
- A—HUMAN NECESSITIES
- A61—MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
- A61P—SPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
- A61P3/00—Drugs for disorders of the metabolism
- A61P3/08—Drugs for disorders of the metabolism for glucose homeostasis
- A61P3/10—Drugs for disorders of the metabolism for glucose homeostasis for hyperglycaemia, e.g. antidiabetics
-
- C—CHEMISTRY; METALLURGY
- C12—BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
- C12Q—MEASURING OR TESTING PROCESSES INVOLVING ENZYMES, NUCLEIC ACIDS OR MICROORGANISMS; COMPOSITIONS OR TEST PAPERS THEREFOR; PROCESSES OF PREPARING SUCH COMPOSITIONS; CONDITION-RESPONSIVE CONTROL IN MICROBIOLOGICAL OR ENZYMOLOGICAL PROCESSES
- C12Q1/00—Measuring or testing processes involving enzymes, nucleic acids or microorganisms; Compositions therefor; Processes of preparing such compositions
- C12Q1/34—Measuring or testing processes involving enzymes, nucleic acids or microorganisms; Compositions therefor; Processes of preparing such compositions involving hydrolase
- C12Q1/37—Measuring or testing processes involving enzymes, nucleic acids or microorganisms; Compositions therefor; Processes of preparing such compositions involving hydrolase involving peptidase or proteinase
-
- G—PHYSICS
- G01—MEASURING; TESTING
- G01N—INVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
- G01N33/00—Investigating or analysing materials by specific methods not covered by groups G01N1/00 - G01N31/00
- G01N33/48—Biological material, e.g. blood, urine; Haemocytometers
- G01N33/50—Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing
- G01N33/74—Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing involving hormones or other non-cytokine intercellular protein regulatory factors such as growth factors, including receptors to hormones and growth factors
-
- G—PHYSICS
- G01—MEASURING; TESTING
- G01N—INVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
- G01N2500/00—Screening for compounds of potential therapeutic value
- G01N2500/04—Screening involving studying the effect of compounds C directly on molecule A (e.g. C are potential ligands for a receptor A, or potential substrates for an enzyme A)
Landscapes
- Health & Medical Sciences (AREA)
- Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
- Chemical & Material Sciences (AREA)
- Engineering & Computer Science (AREA)
- Organic Chemistry (AREA)
- Molecular Biology (AREA)
- Zoology (AREA)
- Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
- Wood Science & Technology (AREA)
- General Health & Medical Sciences (AREA)
- Biomedical Technology (AREA)
- Biotechnology (AREA)
- Genetics & Genomics (AREA)
- Microbiology (AREA)
- Medicinal Chemistry (AREA)
- Biochemistry (AREA)
- Hematology (AREA)
- Diabetes (AREA)
- Immunology (AREA)
- Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
- Urology & Nephrology (AREA)
- Analytical Chemistry (AREA)
- Physics & Mathematics (AREA)
- General Engineering & Computer Science (AREA)
- Endocrinology (AREA)
- Veterinary Medicine (AREA)
- Cell Biology (AREA)
- Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
- General Chemical & Material Sciences (AREA)
- Nuclear Medicine, Radiotherapy & Molecular Imaging (AREA)
- Pharmacology & Pharmacy (AREA)
- Animal Behavior & Ethology (AREA)
- Public Health (AREA)
- Obesity (AREA)
- Biophysics (AREA)
- Emergency Medicine (AREA)
- Food Science & Technology (AREA)
- General Physics & Mathematics (AREA)
- Pathology (AREA)
- Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
Abstract
脳下垂体ホルモンの関わる特定の疾患、特には糖尿病又は糖尿病性網膜症治療薬の探索に有用な新規なポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び前記発現ベクターでトランスフェクトされた細胞を開示する。前記ポリペプチドは脳下垂体で産生されるホルモンの調節に関わる新規なII型膜貫通セリンプロテアーゼ又はその前駆体である。また、前記ポリペプチドを用いた糖尿病又は糖尿病性網膜症治療薬のスクリーニング方法並びに該スクリーニング方法により得られる物質を有効成分とする糖尿病治療用医薬組成物及び糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法を開示する。
Description
技術分野
本発明は、新規なセリンプロテアーゼの前駆体または成熟体であるポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクター、該ベクターでトランスフェクトされた細胞及び前記プロテアーゼ成熟体を使用する糖尿病治療に有用な薬物のスクリーニング法に関するものである。
背景技術
これまでに数百種類のプロテアーゼが報告されている。これらのプロテアーゼの中には、単に蛋白やペプチドの消化を行う分子の他に、ペプチド鎖の切断を介して蛋白質の成熟や生理活性の発現、代謝の調節、情報の発現や伝達など生命現象に直結した重要な役割に関与している分子が多数あることが知られている。そのため、古くより、プロテアーゼ阻害剤の医薬品応用が進められてきた。
II型膜貫通セリンプロテアーゼはセリンプロテアーゼのうち、N末端側に膜貫通領域、細胞外のC末端側にプロテアーゼドメインを有する分子種であり(非特許文献1参照)、心房性ナトリウム利尿因子前駆体(proANP)から成熟体への変換を制御するコリン(Corin)(非特許文献2参照)、トリプシノーゲンをトリプシンに変換するエンテロペプチダーゼ(Enteropeptidase)(非特許文献3参照)など、重要な生理作用を調節する役割を担う分子が同ファミリーに分類される。また、これらのII型膜貫通セリンプロテアーゼの多くは比較的限局した特徴ある組織分布を示すことが報告されている(非特許文献1参照)。
本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある配列に関しては種々の報告がある(特許文献1−6参照)が、本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと100%同一の配列は知られていなかった。前記報告には本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある配列の特定用途、すなわち糖尿病治療の記載がない、あるいは、実験的裏付けもなく前記相同配列の機能を調整する物質の用途として多数の疾患の治療が列挙されているのみであり、本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドの生理機能に関する具体的な情報はなかった。
一方、脳下垂体は種々のホルモンの生産、分泌を担う内分泌器官である。ホルモンは生体のホメオスタシスの維持や機能の発現などを担う分子であり、ホルモンのプロセシング、分泌や分解、その発現制御に係わる分子の分解を制御することにより、標的としたホルモンの作用を修飾することができ、その結果、該ホルモンの係わる特定の疾患の治療に繋がることが期待できる。脳下垂体から分泌されるホルモンの中で、少なくとも成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)には、その血中濃度と糖尿病の発症、進行度に関連性があることが示されている(非特許文献4参照)。GHの生理作用としてはインスリン様増殖因子(IGF−I)を介する成長促進作用と、そのものによる直接作用とがあり、種々の代謝作用に関与することが知られている。GH産生はソマトスタチンにより抑制され、GH自身やIGF−Iによりネガティブフィードバックを受けて抑制される。また、GHは血糖値による制御を受けて分泌され糖代謝へ関与するが、低血糖ではGH分泌は促進され、高血糖ではGH分泌は抑制される。糖尿病患者においては、GH過剰分泌をきたしていると考えられる血中GH濃度の慢性的高値例が多数報告されている。一方、GHの慢性的な過分泌状態にある末端肥大症患者においては高率で耐糖能低下を合併することが知られており、GH分泌を正常化する治療により耐糖能が改善することから、GHは糖尿病誘発性に働くホルモンとして位置付けられている。これらのことからGHの過剰分泌の抑制は糖尿病治療に繋がると考えられる(以上、GHに関する知見は非特許文献5参照)。上述のように、GHはその下垂体からの分泌がIGF−Iにより負に制御されることから、IGF−Iを臨床応用する試みがなされている。しかしながら、糖尿病治療において一定の治療効果が得られているものの、機能が多岐に渡るIGF−Iを全身投与することに起因する副作用が報告されている(非特許文献6参照)。したがって、脳下垂体で産生される成長ホルモンの調節に関わる新規な創薬標的分子の発見が待望されていた。
ソマトスタチンはそのアナログの試験的投与により糖尿病性網膜症を改善することが知られている(非特許文献7参照)。また、網膜におけるソマトスタチンの免疫組織化学的解析の結果、ソマトスタチンの免疫陽性細胞は内顆粒細胞層および視神経節細胞層で検出されることが報告されている(非特許文献8参照)。さらに糖尿病性網膜症を発症した糖尿病患者においては健常者に比べて硝子体液中のソマトスタチン様物質の免疫反応性が低下することが報告されている(非特許文献9参照)。したがってソマトスタチンの安定化は糖尿病性網膜症を改善することが期待されていた。
(特許文献1)
国際公開第01/55441号パンフレット
(特許文献2)
国際公開第02/00860号パンフレット
(特許文献3)
国際公開第01/36645号パンフレット
(特許文献4)
国際公開第01/55314号パンフレット
(特許文献5)
国際公開第01/55301号パンフレット
(特許文献6)
国際公開第01/75067号パンフレット
(非特許文献1)
「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、(米国)、2001年、第276巻、p.857−860
(非特許文献2)
「プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・ユナイテッドステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」(米国)、2001年、第97巻、p.8525−8529
(非特許文献3)
「バイオケミストリー(Biochemistry)」(米国)、1995年、第34巻、p.4562−4568
(非特許文献4)
「日本臨床」、55巻・1997年増刊号、p155−163
(非特許文献5)
「日本臨床」、56巻、1998年増刊号、p.97−102
(非特許文献6)
「ホルモンと臨床」、1998年、第46巻 第2号、p.73−81
(非特許文献7)
「ホルモン アンド メタボリック リサーチ(Hormone and Metabolic Research)」,2001年、33巻,p.295−299
(非特許文献8)
「マイクロスコピー リサーチ アンド テクニック(Microscopy Reseach and Technique)」,2000年、50巻,p.103−111
(非特許文献9)
「ダイアベート ケア(Diabetes Care)」,2002年、25巻,p.2282−2286
発明の開示
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ヒト及びマウスの新規なII型膜貫通セリンプロテアーゼ遺伝子全長配列、全長ORFを決定し、全長遺伝子及び組換え体蛋白質を取得した。次いで、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチドが前記プロテアーゼの細胞外領域であることを明らかにした。更に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチドが十分なプロテアーゼ活性を有することを見出した。加えて、活性型酵素を得る為に前記プロテアーゼの全長領域及び細胞外領域を用いることができることを見出した。また、前記プロテアーゼは脳下垂体、眼を含む領域に限局して発現することを確認した。前記プロテアーゼがソマトスタチン及びプロラクチン放出ペプチドを切断し成長ホルモンを切断しなかったことから、前記プロテアーゼは脳下垂体において糖尿病の増悪に関与することが報告されている成長ホルモンの分泌量を増加させることを明らかにした。
これらの結果、糖尿病治療薬の検索に有用な新規なポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、前記発現ベクターでトランスフェクトされた細胞、糖尿病治療薬及び糖尿病性網膜症治療薬をスクリーニングする方法、並びに、糖尿病治療用医薬組成物及び糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法を提供し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)下記(a)又は(b)に記載のポリペプチド
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、
(2)下記(a)〜(c)記載のアミノ酸配列を含む(1)記載のポリペプチド
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列、
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列、
(3)下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)から選択されるポリペプチド
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(e)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(4)下記(a)、(b)及び(c)から選択されるポリペプチド
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(c)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示すポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示すポリペプチド、
(5)(1)乃至(4)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(6)(5)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(7)(6)に記載の発現ベクターで形質転換された細胞、
(8)i)(4)に記載のポリペプチド又は配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示すポリペプチドと、ii)前記ポリペプチドにより切断可能な基質と、iii)試験化合物とを接触させる工程、
前記基質の切断を分析する工程、及び
前記基質を切断する活性を阻害する物質を選択する工程
を含む、試験化合物が前記ポリペプチドのプロテアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングする方法、
(9)(8)に記載の方法により、糖尿病治療薬及び/又は糖尿病性網膜症治療薬をスクリーニングする方法、
(10)(8)又は(9)に記載のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び
前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程
を含むことを特徴とする、糖尿病治療用医薬組成物及び/又は糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法、
に関する。
本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある種々の配列が報告(WO01/55441、WO02/00860、WO01/36645、WO01/55314、WO02/6453(本願優先日後に公開))されているが、いずれの報告においても本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある配列が糖尿病に関与するとの記載はない。WO01/55301には本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある配列が示され、該配列の機能を調整する物質の用途として多数の疾患の治療が列挙された中に糖尿病治療が含まれるが、該配列が糖尿病に関与するとの裏付けの実施例及び記載はない。WO01/75067には、本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドのうちプロテアーゼ活性を有する領域(セリンプロテアーゼ領域)と100%一致する配列を含む配列が記載されている。しかしながら、これらの配列からなるポリペプチド及びポリヌクレオチドは現実に取得しておらず、プロテアーゼ活性を有することも明らかにされておらず、特定の用途も記載されていない。
即ち、脳下垂体及び眼を含む限局した領域に発現し、ソマトスタチン及びプロラクチン放出ペプチドの分解により成長ホルモンを増加させる活性を有するプロテアーゼである本発明のプロテアーゼは本発明者らが初めて見出したものである。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明で使用される用語につき説明する。
本明細書中で使用される「前駆体」は「酵素前駆体」を示しており、これ自体では不活性型であるが、活性化(プロセッシング)を受けて活性型酵素となる蛋白質を表す。「成熟体」は、活性化を受けて活性型となった酵素である蛋白質を表す。「プロテアーゼ活性」は、ペプチド結合の加水分解を触媒する活性であり、活性型酵素(成熟体)の示す酵素活性を表す。
本発明のポリペプチドには、成熟体であるポリペプチド(1)〜(4)と、前駆体であるポリペプチド(5)〜(16)が含まれる。
すなわち、本発明のポリペプチドには、成熟体であるポリペプチド
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「ポリペプチド187/418」と称することがある);
(2)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「ポリペプチド161/392」と称することがある);
(3)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示すポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示すポリペプチド(以下、「ポリペプチド161/392の機能的等価改変体」と称することがある);
(4)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、プロテアーゼ活性を示すポリペプチド(以下、「ポリペプチド161/392の相同ポリペプチド」と称することがある)
が含まれる。
本発明のポリペプチドには、前駆体であるポリペプチド
(5)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(6)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(7)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(8)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「ポリペプチド45/418」と称することがある);
(9)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「ポリペプチド46/392」と称することがある)(以下、(5)乃至(9)をあわせて「本発明の前駆体」と称することがある);
(10)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
(11)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
(12)配列番号17で表されるアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
(13)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
(14)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド(以下、(10)乃至(14)を「本発明の前駆体の機能的等価改変体」と称する);
(15)ポリペプチド187/418を含み、かつ、
配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、またはポリペプチド45/418のアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
及び
(16)配列番号17で表されるアミノ酸配列又は配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド(以下、(15)乃至(16)を「本発明の前駆体の相同ポリペプチド」と称する)
が含まれる。
「ポリペプチド187/418の機能的等価改変体」、「ポリペプチド161/392の機能的等価改変体」および「本発明の前駆体の機能的等価改変体」を総称して「本発明の機能的等価改変体」と称するが、「本発明の機能的等価改変体」としては、各本発明の機能的等価改変体のうち、脳下垂体を含む限局された組織に発現されるポリペプチドが好ましい。
「本発明の前駆体の相同ポリペプチド」及び「ポリペプチド161/392の相同ポリペプチド」を、以下、「本発明の相同ポリペプチド」と称する。「本発明の相同ポリペプチド」である限り、特に限定されるものではないが、該相同性が、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むことができ、また、各相同ポリペプチドのうち、脳下垂体を含む限局された組織に発現されるポリペプチドが好ましい。
なお、本明細書における前記「相同性」とは、BLASTパッケージ[sgi32bit版,バージョン2.0.12;National Center for Biotechnology Information(NCBI)より入手]のbl2seqプログラム(Tatiana A.Tatusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,174,247−250,1999)を用いて得られた値を意味する。なお、パラメーターでは、ペアワイズアラインメントパラメーターとして、
「プログラム名」として「blastp」を、
「Gap挿入Cost値」を「0」で、
「Gap伸長Cost値」を「0」で、
「Matrix」として「BLOSUM62」を、
それぞれ使用する。
本発明の機能的等価改変体の起源はヒト又はマウスに限定されない。例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド45/418のヒトにおける変異体、配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、またはポリペプチド46/392のマウスにおける変異体が含まれるだけでなく、ヒト又はマウス以外の生物(例えば、ラット、ハムスター、又はイヌ)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、ヒト又はマウス由来の変異体、あるいはヒト又はマウス以外の生物由来の機能的等価改変体)又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド45/418、配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはポリペプチド46/392を元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドなどが含まれる。なお、本明細書において「変異体」(variation)とは、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
以上、本発明のポリペプチドについて説明したが、「ポリペプチド187/418」「ポリペプチド161/392」、「本発明の前駆体」、「本発明の機能的等価改変体」、及び「本発明の相同ポリペプチド」を総称して、以下、「本発明のポリペプチド」と称する。「本発明のポリペプチド」のうち、成熟体であるポリペプチドを「本発明のプロテアーゼ」と総称する。また、「本発明のポリペプチド」のうち、配列番号2で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「ヒトNSP蛋白質」または「ヒトNSP」と称する。配列番号17で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「マウスNSP蛋白質」または「マウスNSP」と称する。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドはヒトNSP蛋白質全長ORFであり、ポリペプチド45/418は細胞外領域であり、いずれも酵素の前駆体に関するものである。また、ポリペプチド187/418はセリンプロテアーゼ領域であると推定される。配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドはマウスNSP蛋白質全長ORFであり、ポリペプチド46/392は細胞外領域であり、いずれも酵素の前駆体に関するものである。また、ポリペプチド161/392はセリンプロテアーゼ領域であると推定される。後述の実施例に示すように配列番号2に記載の酵素前駆体は、自己触媒的にN末端領域をプロセッシングし、成熟体(活性型酵素)となった結果、酵素活性が発現することが明らかとなっている。また同様に、細胞外領域(ポリペプチド45/418)も活性型酵素を得る為に用いることができる。セリンプロテアーゼ領域と推定されるポリペプチド187/418は、酵素活性が観察されたことから、該領域を有すれば酵素活性を示すことが確認された。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードする限り、特に限定されるものではなく、例えば、配列番号1で表される塩基配列、配列番号1で表される塩基配列における第4番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号1で表される塩基配列における第133番〜第1257番の塩基からなる配列、配列表の配列番号1で表される塩基配列における第559番〜第1257番の塩基からなるポリヌクレオチド、配列番号16で表される塩基配列、配列番号16で表される塩基配列における第136番〜第1179番の塩基からなる配列、あるいは、配列表の配列番号16で表される塩基配列における第481番〜第1179番の塩基からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。配列番号1で表される塩基配列における第133番〜第1257番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、ポリペプチド45/418を、配列番号1で表される塩基配列における第559番〜第1257番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、ポリペプチド187/418をコードする。配列番号1で表される塩基配列における第4番〜第1257番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列の第2番〜第418番からなるポリペプチドをコードする。配列番号1で表される塩基配列からなる前記ポリヌクレオチドは配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。配列番号16で表される塩基配列における第136番〜第1179番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、ポリペプチド46/392を、配列番号1で表される塩基配列における第481番〜第1179番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、ポリペプチド161/392をコードする。また、配列番号16で表される塩基配列からなる前記ポリヌクレオチドは配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。
本発明のポリヌクレオチドは、当業者であれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド45/418、ポリペプチド187/418、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド46/392、またはポリペプチド161/392の遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列、配列番号1で表される塩基配列における第133番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号1で表される塩基配列における第559番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号16で表される塩基配列、配列番号16で表される塩基配列における第136番〜第1179番の塩基からなる配列または配列番号1で表される塩基配列における第481番〜第1179番の塩基からなる配列)の情報を基にして、取得することができる。なお、遺伝子組換え技術については、特に断りがない場合、公知の方法(例えば、Sambrook,Jら,“Molecular Cloning−A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1989等の遺伝子操作実験マニュアル)に従って実施することが可能である。
例えば、配列番号1で表される塩基配列、配列番号1で表される塩基配列における第4番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号1で表される塩基配列における第133番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号1で表される塩基配列における第559番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号16で表される塩基配列、配列番号16で表される塩基配列における第136番〜第1179番の塩基からなる配列または配列番号16で表される塩基配列における第481番〜第1179番の塩基からなる配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと、目的とする生物[例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)]由来の試料(例えば、総RNA若しくはmRNA画分、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(Saiki,R.K.ら,Science,239,487−491,1988)又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、ポリヌクレオチドを取得できる。そのポリヌクレオチドを適当な発現系(例えば、実施例6に記載の方法)を用いて発現させる、あるいは更に精製する(例えば、実施例7に記載の方法)ことにより本発明のポリペプチドが得られる。例えば、実施例8に記載の方法により、該ポリペプチドまたは該ポリペプチドがプロセッシングを受けて生成した成熟体がプロテアーゼ活性を示すことを確認できる。
また、前記の遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドは、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site−specific mutagenesis;Mark,D.F.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,5662−5666,1984)により、ポリヌクレオチドを取得し、該ポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドまたは該ポリペプチドがプロセッシングを受けて生成した成熟体が、例えば、実施例8に記載の方法により、プロテアーゼ活性を示すことを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
また、本発明の機能的等価改変体には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列の第2番から第418番からなるポリペプチド、ポリペプチド45/418、ポリペプチド187/418を含むポリペプチド、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド46/392、またはポリペプチド161/392を含むポリペプチド、例えば、N末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等を付加したポリペプチド(すなわち、融合ポリペプチド)も、プロテアーゼ活性を示すか、あるいは、プロセッシングを受けた後にプロテアーゼ活性を示す限り含まれる。
前記マーカー配列としては、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行なうための配列を用いることができ、例えば、FLAGエピトープ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを挙げることができる。
本発明のポリペプチドには、本発明の前駆体蛋白質をコードするポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させることにより得られる、活性化に伴う切断を受けたポリペプチドもプロテアーゼ活性を示す限り含まれる。好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第186番目と第187番目のアミノ酸であるセリンプロテアーゼの活性化配列の間が切断されて生成したセリンプロテアーゼ活性を有する、N末端が第187番目のアミノ酸であるポリペプチド又は配列番号17で表されるアミノ酸配列における第160番目と第161番目のアミノ酸であるセリンプロテアーゼの活性化配列の間が切断されて生成したセリンプロテアーゼ活性を有する、N末端が第161番目のアミノ酸であるポリペプチド(すなわち、ポリペプチド187/418又はポリペプチド161/392であると推定される)である。
本明細書において、あるポリペプチドが「プロテアーゼ活性」を示すか否かは、特に限定されるものではないが、蛍光標識された合成ペプチド、例えばMCA(4−Methyl−Coumaryl−7−Amide)でC末端を標識された合成ペプチドを用いて酵素切断活性を検出することにより確認することができ(Yasuoka,S,ら,Am.J.Respir.Cell Mol Biol.,16,300−308,1997)、より好ましくは、実施例8に記載の方法により確認することができる。また、生理活性物質であるソマトスタチン、プロラクチン放出ペプチドを用いて例えば実施例10に記載の方法により酵素切断活性を検出し確認することができる。生理活性物質を用いた切断活性の検出が最も好ましい。
本発明のポリヌクレオチドの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、(1)PCRを用いた方法、(2)常法の遺伝子工学的手法(すなわち、cDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から、所望のcDNAを含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(3)化学合成法などを挙げることができる。各製造方法については、WO01/34785に記載されていると同様に実施できる。ただし、上記特許出願明細書における「本発明の新規蛋白」を本発明のポリペプチド、「本発明の遺伝子」を本発明のポリヌクレオチドと読み替える。
PCRを用いた方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法a)第1製造法に記載された手順により、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。本発明のポリペプチドを産生する能力を有する細胞あるいは組織、例えば、ヒト又はマウスの脳下垂体からmRNAを抽出する。次いで、このmRNAをランダムプライマーまたはオリゴdTプライマーの存在下で、逆転写酵素反応を行い、第一鎖cDNAを合成することが出来る。得られた第一鎖cDNAを用い、目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に供し、本発明のポリヌクレオチドまたはその一部を得ることができる。より具体的には、例えば実施例3又は11に記載の方法により本発明のポリヌクレオチドを製造することが出来る。
常法の遺伝子工学的手法を用いる方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法b)第2製造法に記載された手順により、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。
化学合成法を用いた方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法c)第3製造法、d)第4製造法に記載された方法によって、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。より具体的には、化学合成法によって製造したヌクレオチド断片を結合することによっても製造できる。また、各ポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、DNA合成機(例えば、Oligo 1000M DNA Synthesizer(ベックマン社)、あるいは、394 DNA/RNA Synthesizer(アプライドバイオシステムズ社)など)を用いて合成することができる。
本発明の発現ベクター、形質転換細胞、ポリペプチドの製造方法は、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」2)本発明のベクター、本発明の宿主細胞、本発明の組換え蛋白の製造方法に記載された方法により実施できる。単離された本発明のポリヌクレオチドを、適当なベクターDNAに再び組込むことにより、真核生物又は原核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。また、これらのベクターに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞においてポリヌクレオチドを発現させることが可能である。
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明のポリヌクレオチドを挿入することにより得られる発現ベクターを挙げることができる。
また、本発明の細胞も、本発明の前記発現ベクターでトランスフェクションされ、本発明のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明のポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた細胞であることもできるし、あるいは、本発明によるポリヌクレオチドを含む発現ベクターの形で含有する細胞であることもできる。また、本発明のポリペプチドを発現している細胞であることもできるし、あるいは、本発明のポリペプチドを発現していない細胞であることもできる。本発明の細胞は、例えば、本発明の発現ベクターにより、所望の宿主細胞をトランスフェクションすることにより得ることができる。より具体的には、例えば、実施例3〜6に記載のように本発明のポリヌクレオチドをほ乳類動物細胞用の発現ベクターpcDNA3.1またはサイトメガロウイルスプロモーターを有するpCEP4(インビトロジェン社)に組み込むことにより、所望のポリペプチドの発現ベクターを得ることができ、該発現ベクターを市販のトランスフェクション試薬(例えば、FuGENETM6 Transfection Reagent;ロシュ社)を用いてヒト胎児腎臓由来HEK293細胞にエプスタイン・バーウイルスのEBNA−1遺伝子を導入したHEK293−EBNA細胞(インビトロジェン社)に取り込ませて本発明の形質転換細胞を製造することができる。
上記で得られる所望の形質転換細胞は、常法に従い培養することができ、該培養により本発明のポリペプチドが生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば上記HEK293−EBNA細胞であれば牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修飾イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地にG418を加えたものを使用できる。
上記により、形質転換細胞に生産される本発明のポリペプチドは、該ポリペプチドの物理的性質や生化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離・精製することができる。
本発明のポリペプチドは、マーカー配列とインフレームで融合して発現させることにより、本発明のポリペプチドの発現の確認及び精製等が容易になる。前記マーカー配列としては、例えば、FLAGエピトープ、ヘキサーヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを挙げることができる。また、マーカー配列と本発明のポリペプチドとの間に、プロテアーゼ(例えば、エンテロキナーゼ、ファクターXa、又はトロンビンなど)が認識する特異的なアミノ酸配列を挿入することにより、マーカー配列部分をこれらのプロテアーゼにより切断除去することが可能である。例えば、ムスカリンアセチルコリン受容体とヘキサーヒスチジン・タグとをトロンビン認識配列で連結した報告がある(Hayashi,M.K.及びHaga,T.,J.Biochem.,120,1232−1238(1996)。
<本発明のスクリーニング方法>
本発明のプロテアーゼ又は配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示すポリペプチド(以下、「本発明のスクリーニングに用いるポリペプチド」)を用いて、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドのプロテアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングすることができる。本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドとしては、後述の実施例1及び13に示すように脳下垂体で発現している蛋白質であり、かつ実施例8に示すようにプロテアーゼ活性を有するものが望ましい。実施例10に示すように本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドの1つである、ポリペプチド45/418をコードするポリヌクレオチドを発現させることにより得られる活性化に伴う切断を受けたポリペプチドはソマトスタチン及びプロラクチン放出ホルモンを切断することがわかった。ソマトスタチンは視床下部から分泌され、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌を抑制する制御因子である。また、プロラクチン放出ホルモンはソマトスタチンの脳下垂体における分泌を促進して成長ホルモンの血中レベルを下げることが報告されている(Iijima,N.ら,Endocrinology,142,3239−3243,2001)。本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドがソマトスタチン及びプロラクチン放出ペプチドを切断したことから、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドを用いてその阻害剤をスクリーニングすることにより、内在性のソマトスタチン量を増加させ成長ホルモン等の分泌抑制を介して糖尿病を改善する物質が得られる。
本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドとしては、実施例8に示すようにプロテアーゼ活性を有するものであり、後述の実施例12及び13に示すように眼で発現している蛋白質が好ましい。実施例10に示すように、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドの1つである、ポリペプチド45/418をコードするポリヌクレオチドを発現させることにより得られる活性化に伴う切断を受けたポリペプチドはソマトスタチン及びプロラクチン放出ホルモンを切断することがわかっている。ソマトスタチンのアナログは試験的投与により糖尿病性網膜症を改善することが知られている(Davis,M.I.ら、Hormone and Metabolic Research,33,295−299,2001)。また、網膜におけるソマトスタチンの免疫組織化学的解析の結果、ソマトスタチンの免疫陽性細胞はNSPの免疫陽性細胞が検出された視神経節細胞層およびその隣接する内顆粒細胞層で検出されることが報告されている(Johnson,J.ら、Microscopy Reseach and Technique,50,103−111,2000)。さらに糖尿病性網膜症を発症した糖尿病患者においては健常者に比べて硝子体液中のソマトスタチン様物質の免疫反応性が低下することが報告されている(Simo,R.ら、Diabetes Care,25,2282−2286,2002)。これらのことから、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドの阻害剤はNSP陽性細胞の近傍で産生されるソマトスタチンの分解を抑制し、内在性のソマトスタチンを安定化することにより、ソマトスタチンアナログと同様の糖尿病性網膜症治療効果を示すと期待できる。従って、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドを用いてその阻害剤をスクリーニングすることにより、糖尿病性網膜症を改善する物質が得られる。
本発明のスクリーニング法は、特に限定されるものではないが、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドによる蛍光標識された合成ペプチド、例えばMCA(4−Methyl−Coumaryl−7−Amide)でC末端を標識された合成ペプチドの酵素切断活性を検出することにより確認することができ(Yasuoka,S.ら,Am.J.Respir.Cell Mol Biol.,16,300−308,1997)、より好ましくは、実施例8に記載の方法により実施することができる。
たとえば実施例8及び9に記載の条件で、IC50=10μM以下の物質を、好ましくはIC50=1μM以下の物質を、更に好ましくはIC50=0.1μM以下の物質をプロテアーゼ阻害活性を有する物質として、選択することができる。また、このようにプロテアーゼ阻害活性を有する物質を選択することによって糖尿病治療薬または糖尿病性網膜症治療薬を得ることができる。
本発明のスクリーニング法で使用する試験化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(N.K.Terrett,M.Gardner,D.W.Gordon,R.J.Kobylecki,J.Steele,Tetrahedron,51,8135−73(1995))によって得られた化合物群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、あるいは、本発明のスクリーニング法により選択された化合物(ペプチドを含む)を化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を挙げることができる。
<本発明の糖尿病治療用医薬組成物又は糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法>
本発明には、本発明のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程を含むことを特徴とする、糖尿病治療用医薬組成物又は糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法が包含される。
本発明のスクリーニング方法により得られる物質を有効成分とする製剤は、前記有効成分のタイプに応じて、それらの製剤化に通常用いられる担体、賦形剤、及び/又はその他の添加剤を用いて調製することができる。
投与としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、又は経口用液剤などによる経口投与、あるいは、静注、筋注、若しくは関節注などの注射剤、坐剤、経皮投与剤、又は経粘膜投与剤などによる非経口投与を挙げることができる。特に胃で消化されるペプチドにあっては、静注等の非経口投与が好ましい。
経口投与のための固体組成物においては、1又はそれ以上の活性物質と、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合することができる。前記組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、又は溶解若しくは溶解補助剤などを含有することができる。錠剤又は丸剤は、必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質などのフィルムで被覆することができる。
経口のための液体組成物は、例えば、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はエリキシル剤を含むことができ、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば、精製水又はエタノールを含むことができる。前記組成物は、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤を含有することができる。
非経口のための注射剤としては、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、懸濁剤、又は乳濁剤を含むことができる。水溶性の溶液剤又は懸濁剤には、希釈剤として、例えば、注射用蒸留水又は生理用食塩水などを含むことができる。非水溶性の溶液剤又は懸濁剤の希釈剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、アルコール類(例えば、エタノール)、又はポリソルベート80等を含むことができる。前記組成物は、更に湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解若しくは溶解補助剤、又は防腐剤などを含むことができる。前記組成物は、例えば、バクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、又は照射によって無菌化することができる。また、無菌の固体組成物を製造し、使用の際に、無菌水又はその他の無菌用注射用媒体に溶解し、使用することもできる。
投与量は、有効成分、すなわち本発明のスクリーニング方法により得られる物質の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して、適宜決定することができる。
例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mgである。非経口投与の場合、注射剤の形では、1日につき0.01〜50mg、好ましくは0.01〜10mgである。
実施例
以下に実施例により本発明を詳述するが,本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、遺伝子操作技術に関しては公知の方法(Maniatis、 T.et al.(1982):「Molecular Cloning−A Laboratory Manual」Cold Spring Harbor Laboratory、NY等)に従って実施可能である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って実施可能である。
(実施例1)新規II型膜貫通セリンプロテアーゼ遺伝子NSPの部分配列の取得
配列番号3(配列番号1の607番から633番の配列)と配列番号4(配列番号1の1124番から1150番の相補配列)のオリゴDNAを合成し、クロンテック社のポリA+RNAよりスーパースクリプトII(SUPERSCRIPT First−Strand Synthesis System for RT−PCR)(インビトロジェン社)を用いcDNAに転換することにより作製した自家製のヒト各組織由来のcDNAパネルを鋳型とし、DNAポリメラーゼ(LA−Taq DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、94℃2分の後、98℃10秒、60℃30秒、72℃1分のサイクルを36回のPCR反応を行った。この反応により、脳下垂体、子宮を含む組織に選択的に544bpのDNA断片が生成した。このDNA断片の配列を直接ジデオキシターミネーター法によりABI3700 DNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社)で解析し、配列番号1の607番から1150番の配列を得た。
(実施例2)NSPの全長ORF配列の決定
クロンテック社のヒト子宮の鋳型cDNA(Marathon−ReadyTM cDNA)、DNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、cDNA末端増幅PCR(Rapid Amplification of cDNA Ends、RACE)を繰り返すことにより、5’側および3’側の塩基配列を解読し、実施例1で取得した配列の全長のオープンリーディングフレーム(open reading frame、ORF)配列を決定した。この遺伝子をNSPと名付けた。該遺伝子の全長塩基配列を配列番号1に、推定アミノ酸配列を配列番号2に示した。NSPのORFは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番から第418番まで、あるいは該配列における第2番から第418番までの417または418アミノ酸からなる新規蛋白質をコードしており、ホモロジー検索の結果、そのドメイン構造はN末から、細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、プロ領域、プロテアーゼ活性化配列、セリンプロテアーゼドメイン、C末端配列であり、II型膜貫通セリンプロテアーゼファミリーに属する分子であった。
(実施例3)NSP全長ORFのクローニングと蛋白質発現プラスミドの構築
配列番号5(配列番号2の1番から30番の配列5’末端に制限酵素Xba I認識配列が付加された配列)と配列番号6(配列番号2の1225番から1254番の相補配列5’末端に制限酵素BamH I認識配列が付加された配列)で示されるオリゴDNAをプライマーとし、ヒト子宮の鋳型cDNA(Marathon−ReadyTM cDNA;クロンテック社)、DNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、94℃2分の後、98℃10秒、65℃30秒、72℃1分30秒のサイクルを40回、続いて72℃7分のPCR反応を行った。このPCR産物(約1.3Kbp)をフェノールクロロホルム処理し、エタノール沈殿処理し、精製水に溶解した。このDNAをBamHI、XbaIで切断し、pCEP4dE2−FLAG(WO 01/34785実施例3)のBamHI、XbaI部位に挿入して、全長蛋白質発現プラスミドpCEP−NSP−FLAGを完成した。
(実施例4)NSP細胞外領域蛋白質発現プラスミドの構築
配列番号2の45番から418番にコードされるポリペプチドをN末端に分泌シグナル配列、FLAGを付加した蛋白質として発現するためのプラスミドは以下のように構築した。
まず、配列番号1の133番から1257番の遺伝子をPCRにより取得した。詳しくは、配列番号7(配列番号1の133番から162番の配列5’末端に制限酵素BamH I認識配列が付加された配列)と配列番号8(配列番号1の1225番から1257番の相補配列5’末端に制限酵素Xho I認識配列が付加された配列)で示されるオリゴDNAプライマー、鋳型としてpCEP−NSP−FLAG、DNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、94℃2分の後、98℃10秒、65℃30秒、72℃1分30秒のサイクルを25回、続いて72℃7分の反応を行った。こうして生成したDNA断片をpZErO−2ベクター(インビトロジェン社)のEcoRV部位にサブクローニングして配列を確認した。BamHI、XhoI部位で目的のDNA断片を切り出し、pcDNA3.1−signal−FLAGベクターのBamHI、XhoI部位に挿入しpcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−extracellularとした。なお、pcDNA3.1−signal−FLAGは、pcDNA3.1(+)(インビトロジェン社)のHindIII、XhoI部位にWO01/34785の(実施例7−1)記載の方法に従い、配列番号10と配列番号11から成る2重鎖オリゴDNAを挿入したプラスミドである。
(実施例5)NSPのセリンプロテアーゼドメインおよびC末端配列発現プラスミドの構築
配列番号2の187番から418番にコードされるポリペプチドをN末端に分泌シグナル配列、FLAGを付加した蛋白質として発現するためのプラスミドは以下のように構築した。
まず、配列番号1の559番から1257番の遺伝子をPCRにより取得した。詳しくは、配列番号9(配列番号1の559番から588番の配列5’末端に制限酵素BamHI認識配列が付加された配列)と配列番号8で示されるオリゴDNAプライマー、鋳型としてpCEP−NSP−FLAG、DNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNApolymerase;宝酒造社)を用いて、94℃2分の後、98℃10秒、65℃30秒、72℃1分のサイクルを25回、続いて72℃7分の反応を行った。こうして生成したDNA断片を制限酵素BamHIおよびXhoIで切断した後、pcDNA3.1−signal−FLAGベクターのBamHI、XhoI部位に挿入しpcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−SerPDとした。
(実施例6)NSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellular、signal−FLAG−NSP−SerPDの動物細胞株での発現
実施例3−5において作製した発現プラスミドをトランスフェクション試薬
(FuGENETM6 Transfection Reagent;ロシュ社)を用いて添付指示書に従いHEK293−EBNA細胞(インビトロジェン社)に導入した。プラスミド導入後12−16時間で培地を無血清に置換した後、さらに48−60時間培養を継続し、培養上清を回収した。培養上清中に目的蛋白が存在することを末端に付加したFLAGタグに対する抗体(マウス抗FLAGモノクローナル抗体M2;シグマ社)を用いたウエスタンブロッティングで確認した。すなわち、上記培養上清をSDS/4%〜20%アクリルアミドゲル(第一化学薬品社)に電気泳動(還元条件)後、ブロッティング装置を用いてPVDF膜(ミリポア社)に転写した。転写後のPVDF膜にブロックエース(大日本製薬社)を添加してブロッキングした後、ビオチン化マウス抗FLAGモノクローナル抗体(M2;シグマ社)、西洋わさびパーオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(アマシャムファルマシア社)を順次反応させた。反応後、ECLウエスタンブロッティング検出システム(アマシャムファルマシア社)を用いて該蛋白の発現を確認した。pCEP−NSP−FLAGを導入した場合、培養上清に分子量26.9±0.5kDのバンドが検出されたが細胞溶解液には予想分子量47kDの全長タンパク質はほとんど検出されなかった。このことからNSP遺伝子産物はセリンプロテアーゼファミリーに保存されたプロ領域とセリンプロテアーゼドメインの間にある活性化配列で切断されて成熟体として培養上清中に分泌されると示唆される。一方、pcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−extracellularを導入した場合には、培養上清中に分子量41.6±0.6kD、40.0±0.5kD、21.3±1.0kD、および20.0±1.0kDのバンドが検出された。またpcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−SerPDを導入した場合では培養上清中に分子量27.9±0.5kDのバンドが検出された。pCEP−NSP−FLAGを導入した場合に比較してpcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−SerPDを導入した場合に得られた物質の分子量がやや大きいのは、発現させるためにsignal−FLAG−NSP−SerPDに付加したシグナル配列が残っているためと考えられた。
(実施例7)NSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellular、signal−FLAG−NSP−SerPDの精製
上述のようにHEK293−EBNA細胞にて発現させた蛋白質にFLAGタグが付加されていることを利用して、以下の方法でアフィニィティ精製を行った。すなわち実施例6において回収した培養上清をカラムに詰めたFLAG抗体結合レジン(M2−agarose)(シグマ社)にアプライし、20mM Tris−HCl(pH7.4)/150mM NaCl(以下、TBSという)で洗浄した後、0.1M Gly−HCl(pH3.0)で、溶出、分画し、この溶液に直ちに1M Tris−HCl(pH8.0)を加えて中和した。pCEP−NSP−FLAGを導入した場合、pcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−extracellularを導入した場合、pcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−SerPDを導入した場合に得られた精製標品をそれぞれNSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellular、signal−FLAG−NSP−SerPDと称する。溶出した精製標品は、還元条件下、非還元条件下において電気泳動した後、実施例6に示したFLAG抗体を用いたウエスタンブロッティングおよび銀染色キット(和光純薬社)によって検出した。NSP−FLAGにはC末端にFLAGタグが付加され、signal−FLAG−NSP−extracellularおよびsignal−FLAG−NSP−SerPDにはN末端にFLAGタグが付加されている。この結果NSP−FLAGを発現させた場合、還元条件では分子量26.9±1.0kDのバンドが抗FLAG抗体および銀染色でともに検出され、非還元条件下では分子量26.9±1.0kD付近にスメアなバンドが検出された。一方、signal−FLAG−NSP−extracellularを発現させた場合は非還元条件下では分子量41.6±0.6kD、40.0±0.5kD、21.3±1.0kD、および20.0±1.0kDのバンドが抗FLAG抗体および銀染色でともに検出され、還元条件下ではさらに分子量26.4±0.5kDのバンドが銀染色で検出されたが、抗FLAG抗体では検出されなかった。また、signal−FLAG−NSP−SerPDを発現させた場合は、還元条件、非還元条件いずれの場合でも分子量27.9±0.5kDのバンドが抗FLAG抗体および銀染色でともに検出された。NSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellularのバンドパターンが大きく異なるのは、NSP−FLAGはC末端にタグが付加されているためにプロセッシング後の成熟体が精製されているのに対して、signal−FLAG−NSP−extracellularはN末端にタグが付加されているために精製後に自己消化によるプロセッシングが起きているためと考えられる。更に、N末端にFLAGタグを付加したNSP細胞外領域の精製蛋白の抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロット(還元条件)と還元・非還元条件下での銀染色パターンを比較すると抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロットでは検出されない分子量26.4±0.5kDのバンドが還元条件下での銀染色では検出されることから、これはFLAGタグがついていないC末端側のセリンプロテアーゼドメインをふくむポリペプチドであると考えられる。一方、41.6±0.6kDおよび40.0±0.5kDのバンドは非還元条件と比較して還元条件で減少することから、還元条件下で分子量26.4±0.5kDの部分が解離していると推測される。これらのことからNSPは少なくとも2箇所以上で自己消化により切断されて成熟体になると考えられる。セリンプロテアーゼが活性化するときに切断されることが知られている活性化部位(小出武比古、医学の歩み、198,11−16、2001)がNSPにも存在する(配列2で示した186番アルギニンと187番イソロイシン)ことからこの間で切断され、さらにそのN端側で少なくとも1箇所切断されると考えられる。また、既知のII型セリンプロテアーゼHAT(Yamaoka,K.ら,J.Biol.Chem.273,11895−11901,1998),Desc1(Lang,J.C.and Schuller,D.E.,British J.Cancer,84,237−243,2001),hepsin(Leytus,S.P.ら,Biochemistry,27,1067−1074,1988)とのアミノ酸配列の比較から、ジスルフィド結合を形成すると推定されているシステイン残基がNSPでも保存されている(Cys175、212、228、292、337,353,364,393)ことから約26kDのセリンプロテアーゼドメインを含むポリペプチドとN端側のポリペプチドがジスルフィド結合を形成していると推測される。(他のプロテアーゼとの比較からCys175と292の間でジスルフィド結合が形成されていると予想される。)
(実施例8)合成ペプチドを用いた酵素活性の検出
MCA(4−Methyl−Coumaryl−7−Amide)でC末端を標識された合成ペプチドを用いて酵素的切断活性を検出する方法は特に断りの無い限り、論文報告された方法(Yasuoka,S.ら,Am.J.Respir.Cell Mol Biol.,16,300−308,1997)に従った。すなわち、MCAでC末端を標識された合成ペプチド(ペプチド研究所)を基質として、96穴プレートに終濃度100μMとなるようにTBS中に基質を希釈した。この基質溶液に実施例7に示した方法で精製した酵素標品を10−50μl添加し密閉した後、37℃で30分−2時間インキュベートした。その後合成ペプチドから酵素により切断されて遊離したAMC(7−Amino−4−Methyl−Coumarin)の蛍光を蛍光測定プレートリーダー(Fluostar、SLT社)で励起波長390nm、測定波長460nmにて測定した。この結果、組換え体NSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellular、signal−FLAG−NSP−SerPDはいずれも合成ペプチドBoc−Glu(OBzl)−Ala−Arg−MCA、Boc−Gln−Arg−Arg−MCA、Boc−Phe−Ser−Arg−MCAの切断活性を示した。
(実施例9)既知プロテアーゼ阻害剤による酵素活性の阻害
実施例8で示した酵素活性検出法を用いて、反応液に既知プロテアーゼ阻害剤を添加した場合の酵素活性の阻害効果を調べた。基質としてBoc−Glu(OBzl)−Ala−Arg−MCA、酵素標品として実施例7のように精製したNSP細胞外領域の組換え体を用い、各種既知プロテアーゼ阻害剤存在下あるいは非存在下における酵素活性を比較した。NSPの酵素活性は終濃度1mM N−tosyl−L−phenylalanyl chloromethyl ketoneで約40%、1mM phenylmethane sulfonyl fluoride(PMSF)で約15%、10μM leupeptinで約10%阻害された。一方、NSPの酵素活性は終濃度0.66TIU(trypsin inhibitor unit)(シグマ社)aprotininでは全く阻害されず既知のトリプシン様セリンプロテアーゼとは阻害剤への感受性が異なっていることから、配列のみならず、この点においてもNSP成熟体は新しいセリンプロテアーゼであると考えられた。
実施例8、9に記載の方法でNSP成熟体阻害剤のスクリーニングが可能であることがわかった。
(実施例10)NSP成熟体による生理活性物質の切断
NSP成熟体の生理活性ペプチド切断活性を以下の方法で検討した。すなわち、オキシトシン、ソマトスタチン(Somatostatin1−14)、α−メラニン細胞刺激ホルモン(α−Melanocyte stimulating hormone)、メラニン凝集ホルモン(Melanin−concentrating hormone)、プロラクチン放出ペプチド(Prolactin−releasing peptide31)、アドレノコルチコトロピックホルモン、脳下垂体アデニルシクラーゼ活性化ポリペプチド38、インスリン、インスリン様成長因子−1、黄体形成ホルモン放出ホルモン(Luteinizing hormone releasing hormone)、バソプレッシン、ニューロテンシン、サブスタンスP、ブラジキニン、エンケファリン及びApelin(すべてペプチド研究所)を終濃度4−40μMとなるようにそれぞれTBS中に希釈した。これらの基質溶液に実施例7に示した方法で精製したsignal−FLAG−NSP−extracellularの酵素標品または酵素を含まない9mM Gly−HCl(pH3.0)/0.909M Tris−HCl(pH8.0)溶液を3μl添加し密閉した後、37℃で一晩インキュベートした。酵素標品添加または無添加の基質溶液をそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(島津製作所)を用いて解析し比較したところ、ソマトスタチン、プロラクチン放出ペプチド31の場合のみNSP成熟体による切断に伴う分離パターンの変化が観察された。NSP成熟体による切断部位を決定するためにソマトスタチンならびにプロラクチン放出ペプチド31の分解産物をHPLCはナノスペース(資生堂)、MSはLCQ(サーモクエスト社)、カラムはカプセルパック(C18UG120、1x150mm;資生堂)を用いてマス(MS)スペクトル測定を行い、検出されたペプチド断片のMS/MSスペクトルをマニュアルもしくはSequestソフト(サーモクエスト社)を用いて解析した。この結果ソマトスタチンの切断部位は配列番号12の第9番目Kと第10番目Tの間、すなわちAGCKNFFWK/TFTSCと考えられた。プロラクチン放出ペプチドの切断部位は配列番号13の第5番目Rと第6番目Hの間、すなわちSRTHR/HSMEIRTPDINPAWYASRGIRPVGRFと考えられた。またNSP成熟体による成長ホルモンの切断を検討した。成長ホルモン(バイオジェネシス社)、200ngと実施例7に示した方法で精製したsignal−FLAG−NSP−extracellularの酵素標品または酵素を含まない9mM Gly−HCl(pH3.0)/0.909M Tris−HCl(pH8.0)溶液5μlを混合し密閉した後、37℃で一晩インキュベートした。この反応液を用いて、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を実施した後、PVDF膜に転写し、実施例6と同様の方法でウエスタンブロットを行い、バンドパターンを解析した。1次抗体として抗成長ホルモンモノクローナル抗体(ネオマーカーズ社)を、2次抗体としてパーオキシダーゼ標識ロバ抗マウスIgGポリクローナル抗体(アマシャム社)を用いて検出した。この結果、NSP成熟体によって成長ホルモンは切断されなかった。
ソマトスタチンは視床下部から分泌され、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌を抑制する制御因子である。また、プロラクチン放出ホルモンはソマトスタチンの脳下垂体における分泌を促進して成長ホルモンの血中レベルを下げることが報告されている(Iijima,N.ら,Endocrinology,142,3239−3243,2001)。NSPがソマトスタチン及びプロラクチン放出ペプチドを切断し、成長ホルモンを切断しなかったことからNSP成熟体は脳下垂体において成長ホルモンの分泌量を増加させる方向に作用すると考えられる。すなわち、NSP成熟体を用いてその阻害剤をスクリーニングすることにより、内在性のソマトスタチン量を増加させ成長ホルモン等の分泌抑制を介して糖尿病を改善する物質が得られると考えられた。
(実施例11)マウスNSPの全長ORF配列の決定
配列番号14と配列番号15で示したプライマーを作製し、胎齢17日目のマウス胚のcDNA(Marathon−ReadyTMcDNA;クロンテック社)を鋳型としてDNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、94℃5分の後、98℃10秒、65℃20秒、72℃2分のサイクルを40回、続いて72℃7分のPCR反応を行った。このPCR産物(約1.2Kbp)をアガロースゲル電気泳動後、DNAゲル抽出キット(QIAquick Gel Extraction Kit、キアゲン社)を用いて精製し、精製水に溶解した。このDNAをEcoRVで切断したpZErO−2ベクター(インビトロジェン社)に挿入した。得られたクローンの塩基配列はジデオキシターミネーター法によりABI3700 DNA Sequencer(アプライドバイオシステムズ社)を用いて解析した。明らかになった配列を配列番号16に示した。同配列は1179塩基のORF(配列番号16)を持っている。ORFから予測されるアミノ酸配列(392アミノ酸)を配列番号17に示した。
得られたマウスNSPとヒトNSPとの相同性は塩基配列で比較して79.7%、アミノ酸配列で比較して69.7%であった。ヒトNSPのセリンプロテアーゼドメイン(配列番号1の559番から1257番にコードされ、配列番号2の187番から418番で示されるアミノ酸配列からなるドメイン)とマウスNSPのセリンプロテアーゼドメイン(配列番号16の481番から1179番にコードされ、配列番号17の161番から392番で示されるアミノ酸配列からなるドメイン)における相同性は塩基配列で比較して84%、アミノ酸配列で比較して76.8%であった。マウスNSPはヒトNSPと高い相同性を示したことから、マウスNSPはヒトNSPと同等の機能を持つ蛋白質であることが推察される。
(実施例12)眼におけるヒト及びマウスNSPの発現
眼におけるヒトNSPの検出はヒト網膜由来cDNA(バイオチェイン社)を鋳型として実施例1と同様のPCR法で行い、544bpのDNA断片の生成を確認した。マウスNSPの検出はセリンプロテアーゼドメインをコードする領域内に配列番号18と19で示したプライマーを作製しマウス眼由来cDNA(クロンテック社)を鋳型としDNAポリメラーゼを含有する蛍光試薬(SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix、アプライドバイオシステムズ社)を用いて、95℃10分の後、94℃15秒、59℃1分のサイクルを45回のPCR反応および経時的な増幅産物の検出をABI PRISM7700(アプライドバイオシステムズ社)を用いて行った。この増幅産物(配列番号12の762−833番)をアガロースゲル電気泳動後ゲル抽出により精製し、増幅された72bpの塩基配列を解読することによりマウスNSPが特異的に増幅されていることを確認した。
NSP成熟体は生理活性ペプチドであるソマトスタチンを切断する活性を有することを実施例10において見出した。ソマトスタチンアナログは糖尿病性網膜症を改善することが知られている(Davis,M.I.ら、Hormone and Metabolic Research,33,295−299,2001)。これらの知見より、NSP成熟体のプロテアーゼ活性を測定する方法(実施例8)は糖尿病性網膜症治療薬をスクリーニングする方法として利用でき、NSP成熟体を阻害する物質は内因性ソマトスタチン量を増加させ糖尿病性網膜症に効果を示すと考えられる。
(実施例13)脳下垂体、眼におけるNSPの免疫組織化学的検出
抗NSP抗体の作製および精製は、抗ペプチド抗体作製法(竹縄ら編、分子生物学研究のためのタンパク実験法、バイオマニュアルシリーズ7、実験医学別冊、羊土社、77−86、1994)に従い、以下のように行った。抗原ペプチドとして配列番号20で示されるペプチド(配列番号2の238番目から252番目のアミノ酸配列で示されるNSPの部分ペプチドにシステイン残基を付加したペプチド)を合成し、ウシサイクログロブリンをキャリア蛋白質として結合させ、油性アジュバントを混合してエマルジョンを作製し、ウサギの皮内または皮下に2−3週間おきに8回にわたって接種することによりNSP蛋白質に対する抗血清を作製した。抗原ペプチドを結合したアフィニティカラムを用いてこの抗血清を精製し、抗NSPポリクローナル特異抗体を得た。この精製抗体を用いて以下に示すNSPの免疫組織化学的検出を行った。
マウスを頚椎脱臼後4%パラホルムアルデヒドで還流固定した後、脳下垂体および眼を摘出した。湿組織をアルコール系列に順次浸漬することにより脱水し、透徹、パラフィン包埋後、薄切組織切片を作製した。この切片に抗NSP抗体または正常ウサギ抗体を一次抗体として反応させ免疫組織染色キット(ベクター社)を用いて内在性NSPの免疫陽性細胞を特異的に検出した。この結果、脳下垂体においてNSP免疫陽性細胞は中間部(中葉)に検出され、前葉においても弱く検出された。眼においてNSP免疫陽性細胞は主に網膜の視神経節細胞層で検出され、視神経節細胞が染色されていると考えられる。一方、正常ウサギ抗体を一次抗体とした場合いずれの組織切片においてもバックグラウンドの染色はほとんど検出されなかった。さらにヒト脳下垂体および眼におけるNSPの検出を上記と同様の方法で行った。この結果、ヒト脳下垂体においてNSP免疫陽性細胞は中間部および前葉に強く検出された。ヒト眼においては網膜にNSP免疫陽性細胞が存在し視神経節細胞層などに高発現していることが確認された。また糖尿病罹患者由来の脳下垂体、眼の組織切片においても正常組織と同様の部位にNSP免疫陽性細胞の存在が検出された。これらの結果よりNSPはヒト、マウスいずれにおいても脳下垂体前葉および中間部、眼の網膜に高度に局在するセリンプロテアーゼであると言える。
ところで、NSPの基質の一つであるソマトスタチンのアナログは試験的投与により糖尿病性網膜症を改善することが知られている(Davis,M.I.ら、Hormone and Metabolic Research,33,295−299,2001)。網膜におけるソマトスタチンの免疫組織化学的解析の結果、ソマトスタチンの免疫陽性細胞はNSPの免疫陽性細胞が検出された視神経節細胞層およびその隣接する内顆粒細胞層で検出されることが報告されている(Johnson,J.ら、Microscopy Reseach and Technique,50,103−111,2000)。さらに糖尿病性網膜症を発症した糖尿病患者においては健常者に比べて硝子体液中のソマトスタチン様物質の免疫反応性が低下することが報告されている(Simo,R.ら、Diabetes Care,25,2282−2286,2002)。すなわち、NSP阻害剤には実施例10で示した糖尿病治療効果に加え、NSP陽性細胞の近傍で産生されるソマトスタチンの分解を抑制し、内在性のソマトスタチンを安定化することにより、ソマトスタチンアナログと同様の糖尿病性網膜症治療効果を期待できる。
産業上の利用可能性
本発明のポリペプチドは脳下垂体、眼を含む組織に局所的に発現するプロテアーゼまたはその前駆体である。本発明の前駆体は本発明のプロテアーゼを得るために有用である。本発明のプロテアーゼはソマトスタチン切断活性を有することから、本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクター、及び細胞は、糖尿病治療薬のスクリーニング及び/又は糖尿病性網膜症治療薬のスクリーニングに有用である。
配列表フリーテキスト
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号5〜11の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。配列番号20は人工的に合成した抗原用のペプチドである。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表】
本発明は、新規なセリンプロテアーゼの前駆体または成熟体であるポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクター、該ベクターでトランスフェクトされた細胞及び前記プロテアーゼ成熟体を使用する糖尿病治療に有用な薬物のスクリーニング法に関するものである。
背景技術
これまでに数百種類のプロテアーゼが報告されている。これらのプロテアーゼの中には、単に蛋白やペプチドの消化を行う分子の他に、ペプチド鎖の切断を介して蛋白質の成熟や生理活性の発現、代謝の調節、情報の発現や伝達など生命現象に直結した重要な役割に関与している分子が多数あることが知られている。そのため、古くより、プロテアーゼ阻害剤の医薬品応用が進められてきた。
II型膜貫通セリンプロテアーゼはセリンプロテアーゼのうち、N末端側に膜貫通領域、細胞外のC末端側にプロテアーゼドメインを有する分子種であり(非特許文献1参照)、心房性ナトリウム利尿因子前駆体(proANP)から成熟体への変換を制御するコリン(Corin)(非特許文献2参照)、トリプシノーゲンをトリプシンに変換するエンテロペプチダーゼ(Enteropeptidase)(非特許文献3参照)など、重要な生理作用を調節する役割を担う分子が同ファミリーに分類される。また、これらのII型膜貫通セリンプロテアーゼの多くは比較的限局した特徴ある組織分布を示すことが報告されている(非特許文献1参照)。
本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある配列に関しては種々の報告がある(特許文献1−6参照)が、本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと100%同一の配列は知られていなかった。前記報告には本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある配列の特定用途、すなわち糖尿病治療の記載がない、あるいは、実験的裏付けもなく前記相同配列の機能を調整する物質の用途として多数の疾患の治療が列挙されているのみであり、本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドの生理機能に関する具体的な情報はなかった。
一方、脳下垂体は種々のホルモンの生産、分泌を担う内分泌器官である。ホルモンは生体のホメオスタシスの維持や機能の発現などを担う分子であり、ホルモンのプロセシング、分泌や分解、その発現制御に係わる分子の分解を制御することにより、標的としたホルモンの作用を修飾することができ、その結果、該ホルモンの係わる特定の疾患の治療に繋がることが期待できる。脳下垂体から分泌されるホルモンの中で、少なくとも成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)には、その血中濃度と糖尿病の発症、進行度に関連性があることが示されている(非特許文献4参照)。GHの生理作用としてはインスリン様増殖因子(IGF−I)を介する成長促進作用と、そのものによる直接作用とがあり、種々の代謝作用に関与することが知られている。GH産生はソマトスタチンにより抑制され、GH自身やIGF−Iによりネガティブフィードバックを受けて抑制される。また、GHは血糖値による制御を受けて分泌され糖代謝へ関与するが、低血糖ではGH分泌は促進され、高血糖ではGH分泌は抑制される。糖尿病患者においては、GH過剰分泌をきたしていると考えられる血中GH濃度の慢性的高値例が多数報告されている。一方、GHの慢性的な過分泌状態にある末端肥大症患者においては高率で耐糖能低下を合併することが知られており、GH分泌を正常化する治療により耐糖能が改善することから、GHは糖尿病誘発性に働くホルモンとして位置付けられている。これらのことからGHの過剰分泌の抑制は糖尿病治療に繋がると考えられる(以上、GHに関する知見は非特許文献5参照)。上述のように、GHはその下垂体からの分泌がIGF−Iにより負に制御されることから、IGF−Iを臨床応用する試みがなされている。しかしながら、糖尿病治療において一定の治療効果が得られているものの、機能が多岐に渡るIGF−Iを全身投与することに起因する副作用が報告されている(非特許文献6参照)。したがって、脳下垂体で産生される成長ホルモンの調節に関わる新規な創薬標的分子の発見が待望されていた。
ソマトスタチンはそのアナログの試験的投与により糖尿病性網膜症を改善することが知られている(非特許文献7参照)。また、網膜におけるソマトスタチンの免疫組織化学的解析の結果、ソマトスタチンの免疫陽性細胞は内顆粒細胞層および視神経節細胞層で検出されることが報告されている(非特許文献8参照)。さらに糖尿病性網膜症を発症した糖尿病患者においては健常者に比べて硝子体液中のソマトスタチン様物質の免疫反応性が低下することが報告されている(非特許文献9参照)。したがってソマトスタチンの安定化は糖尿病性網膜症を改善することが期待されていた。
(特許文献1)
国際公開第01/55441号パンフレット
(特許文献2)
国際公開第02/00860号パンフレット
(特許文献3)
国際公開第01/36645号パンフレット
(特許文献4)
国際公開第01/55314号パンフレット
(特許文献5)
国際公開第01/55301号パンフレット
(特許文献6)
国際公開第01/75067号パンフレット
(非特許文献1)
「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、(米国)、2001年、第276巻、p.857−860
(非特許文献2)
「プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・ユナイテッドステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」(米国)、2001年、第97巻、p.8525−8529
(非特許文献3)
「バイオケミストリー(Biochemistry)」(米国)、1995年、第34巻、p.4562−4568
(非特許文献4)
「日本臨床」、55巻・1997年増刊号、p155−163
(非特許文献5)
「日本臨床」、56巻、1998年増刊号、p.97−102
(非特許文献6)
「ホルモンと臨床」、1998年、第46巻 第2号、p.73−81
(非特許文献7)
「ホルモン アンド メタボリック リサーチ(Hormone and Metabolic Research)」,2001年、33巻,p.295−299
(非特許文献8)
「マイクロスコピー リサーチ アンド テクニック(Microscopy Reseach and Technique)」,2000年、50巻,p.103−111
(非特許文献9)
「ダイアベート ケア(Diabetes Care)」,2002年、25巻,p.2282−2286
発明の開示
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ヒト及びマウスの新規なII型膜貫通セリンプロテアーゼ遺伝子全長配列、全長ORFを決定し、全長遺伝子及び組換え体蛋白質を取得した。次いで、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチドが前記プロテアーゼの細胞外領域であることを明らかにした。更に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチドが十分なプロテアーゼ活性を有することを見出した。加えて、活性型酵素を得る為に前記プロテアーゼの全長領域及び細胞外領域を用いることができることを見出した。また、前記プロテアーゼは脳下垂体、眼を含む領域に限局して発現することを確認した。前記プロテアーゼがソマトスタチン及びプロラクチン放出ペプチドを切断し成長ホルモンを切断しなかったことから、前記プロテアーゼは脳下垂体において糖尿病の増悪に関与することが報告されている成長ホルモンの分泌量を増加させることを明らかにした。
これらの結果、糖尿病治療薬の検索に有用な新規なポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、前記発現ベクターでトランスフェクトされた細胞、糖尿病治療薬及び糖尿病性網膜症治療薬をスクリーニングする方法、並びに、糖尿病治療用医薬組成物及び糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法を提供し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)下記(a)又は(b)に記載のポリペプチド
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、
(2)下記(a)〜(c)記載のアミノ酸配列を含む(1)記載のポリペプチド
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列、
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列、
(3)下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)から選択されるポリペプチド
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(e)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(4)下記(a)、(b)及び(c)から選択されるポリペプチド
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(c)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示すポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示すポリペプチド、
(5)(1)乃至(4)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(6)(5)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(7)(6)に記載の発現ベクターで形質転換された細胞、
(8)i)(4)に記載のポリペプチド又は配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示すポリペプチドと、ii)前記ポリペプチドにより切断可能な基質と、iii)試験化合物とを接触させる工程、
前記基質の切断を分析する工程、及び
前記基質を切断する活性を阻害する物質を選択する工程
を含む、試験化合物が前記ポリペプチドのプロテアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングする方法、
(9)(8)に記載の方法により、糖尿病治療薬及び/又は糖尿病性網膜症治療薬をスクリーニングする方法、
(10)(8)又は(9)に記載のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び
前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程
を含むことを特徴とする、糖尿病治療用医薬組成物及び/又は糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法、
に関する。
本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある種々の配列が報告(WO01/55441、WO02/00860、WO01/36645、WO01/55314、WO02/6453(本願優先日後に公開))されているが、いずれの報告においても本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある配列が糖尿病に関与するとの記載はない。WO01/55301には本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドと相同性のある配列が示され、該配列の機能を調整する物質の用途として多数の疾患の治療が列挙された中に糖尿病治療が含まれるが、該配列が糖尿病に関与するとの裏付けの実施例及び記載はない。WO01/75067には、本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドのうちプロテアーゼ活性を有する領域(セリンプロテアーゼ領域)と100%一致する配列を含む配列が記載されている。しかしながら、これらの配列からなるポリペプチド及びポリヌクレオチドは現実に取得しておらず、プロテアーゼ活性を有することも明らかにされておらず、特定の用途も記載されていない。
即ち、脳下垂体及び眼を含む限局した領域に発現し、ソマトスタチン及びプロラクチン放出ペプチドの分解により成長ホルモンを増加させる活性を有するプロテアーゼである本発明のプロテアーゼは本発明者らが初めて見出したものである。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明で使用される用語につき説明する。
本明細書中で使用される「前駆体」は「酵素前駆体」を示しており、これ自体では不活性型であるが、活性化(プロセッシング)を受けて活性型酵素となる蛋白質を表す。「成熟体」は、活性化を受けて活性型となった酵素である蛋白質を表す。「プロテアーゼ活性」は、ペプチド結合の加水分解を触媒する活性であり、活性型酵素(成熟体)の示す酵素活性を表す。
本発明のポリペプチドには、成熟体であるポリペプチド(1)〜(4)と、前駆体であるポリペプチド(5)〜(16)が含まれる。
すなわち、本発明のポリペプチドには、成熟体であるポリペプチド
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「ポリペプチド187/418」と称することがある);
(2)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「ポリペプチド161/392」と称することがある);
(3)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示すポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示すポリペプチド(以下、「ポリペプチド161/392の機能的等価改変体」と称することがある);
(4)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、プロテアーゼ活性を示すポリペプチド(以下、「ポリペプチド161/392の相同ポリペプチド」と称することがある)
が含まれる。
本発明のポリペプチドには、前駆体であるポリペプチド
(5)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(6)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(7)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(8)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「ポリペプチド45/418」と称することがある);
(9)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「ポリペプチド46/392」と称することがある)(以下、(5)乃至(9)をあわせて「本発明の前駆体」と称することがある);
(10)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
(11)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
(12)配列番号17で表されるアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
(13)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
(14)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド(以下、(10)乃至(14)を「本発明の前駆体の機能的等価改変体」と称する);
(15)ポリペプチド187/418を含み、かつ、
配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、またはポリペプチド45/418のアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド;
及び
(16)配列番号17で表されるアミノ酸配列又は配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド(以下、(15)乃至(16)を「本発明の前駆体の相同ポリペプチド」と称する)
が含まれる。
「ポリペプチド187/418の機能的等価改変体」、「ポリペプチド161/392の機能的等価改変体」および「本発明の前駆体の機能的等価改変体」を総称して「本発明の機能的等価改変体」と称するが、「本発明の機能的等価改変体」としては、各本発明の機能的等価改変体のうち、脳下垂体を含む限局された組織に発現されるポリペプチドが好ましい。
「本発明の前駆体の相同ポリペプチド」及び「ポリペプチド161/392の相同ポリペプチド」を、以下、「本発明の相同ポリペプチド」と称する。「本発明の相同ポリペプチド」である限り、特に限定されるものではないが、該相同性が、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むことができ、また、各相同ポリペプチドのうち、脳下垂体を含む限局された組織に発現されるポリペプチドが好ましい。
なお、本明細書における前記「相同性」とは、BLASTパッケージ[sgi32bit版,バージョン2.0.12;National Center for Biotechnology Information(NCBI)より入手]のbl2seqプログラム(Tatiana A.Tatusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,174,247−250,1999)を用いて得られた値を意味する。なお、パラメーターでは、ペアワイズアラインメントパラメーターとして、
「プログラム名」として「blastp」を、
「Gap挿入Cost値」を「0」で、
「Gap伸長Cost値」を「0」で、
「Matrix」として「BLOSUM62」を、
それぞれ使用する。
本発明の機能的等価改変体の起源はヒト又はマウスに限定されない。例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド45/418のヒトにおける変異体、配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、またはポリペプチド46/392のマウスにおける変異体が含まれるだけでなく、ヒト又はマウス以外の生物(例えば、ラット、ハムスター、又はイヌ)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、ヒト又はマウス由来の変異体、あるいはヒト又はマウス以外の生物由来の機能的等価改変体)又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド45/418、配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはポリペプチド46/392を元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドなどが含まれる。なお、本明細書において「変異体」(variation)とは、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
以上、本発明のポリペプチドについて説明したが、「ポリペプチド187/418」「ポリペプチド161/392」、「本発明の前駆体」、「本発明の機能的等価改変体」、及び「本発明の相同ポリペプチド」を総称して、以下、「本発明のポリペプチド」と称する。「本発明のポリペプチド」のうち、成熟体であるポリペプチドを「本発明のプロテアーゼ」と総称する。また、「本発明のポリペプチド」のうち、配列番号2で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「ヒトNSP蛋白質」または「ヒトNSP」と称する。配列番号17で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「マウスNSP蛋白質」または「マウスNSP」と称する。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドはヒトNSP蛋白質全長ORFであり、ポリペプチド45/418は細胞外領域であり、いずれも酵素の前駆体に関するものである。また、ポリペプチド187/418はセリンプロテアーゼ領域であると推定される。配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドはマウスNSP蛋白質全長ORFであり、ポリペプチド46/392は細胞外領域であり、いずれも酵素の前駆体に関するものである。また、ポリペプチド161/392はセリンプロテアーゼ領域であると推定される。後述の実施例に示すように配列番号2に記載の酵素前駆体は、自己触媒的にN末端領域をプロセッシングし、成熟体(活性型酵素)となった結果、酵素活性が発現することが明らかとなっている。また同様に、細胞外領域(ポリペプチド45/418)も活性型酵素を得る為に用いることができる。セリンプロテアーゼ領域と推定されるポリペプチド187/418は、酵素活性が観察されたことから、該領域を有すれば酵素活性を示すことが確認された。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードする限り、特に限定されるものではなく、例えば、配列番号1で表される塩基配列、配列番号1で表される塩基配列における第4番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号1で表される塩基配列における第133番〜第1257番の塩基からなる配列、配列表の配列番号1で表される塩基配列における第559番〜第1257番の塩基からなるポリヌクレオチド、配列番号16で表される塩基配列、配列番号16で表される塩基配列における第136番〜第1179番の塩基からなる配列、あるいは、配列表の配列番号16で表される塩基配列における第481番〜第1179番の塩基からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。配列番号1で表される塩基配列における第133番〜第1257番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、ポリペプチド45/418を、配列番号1で表される塩基配列における第559番〜第1257番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、ポリペプチド187/418をコードする。配列番号1で表される塩基配列における第4番〜第1257番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列の第2番〜第418番からなるポリペプチドをコードする。配列番号1で表される塩基配列からなる前記ポリヌクレオチドは配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。配列番号16で表される塩基配列における第136番〜第1179番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、ポリペプチド46/392を、配列番号1で表される塩基配列における第481番〜第1179番の塩基からなる前記ポリヌクレオチドは、ポリペプチド161/392をコードする。また、配列番号16で表される塩基配列からなる前記ポリヌクレオチドは配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。
本発明のポリヌクレオチドは、当業者であれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド45/418、ポリペプチド187/418、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド46/392、またはポリペプチド161/392の遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列、配列番号1で表される塩基配列における第133番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号1で表される塩基配列における第559番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号16で表される塩基配列、配列番号16で表される塩基配列における第136番〜第1179番の塩基からなる配列または配列番号1で表される塩基配列における第481番〜第1179番の塩基からなる配列)の情報を基にして、取得することができる。なお、遺伝子組換え技術については、特に断りがない場合、公知の方法(例えば、Sambrook,Jら,“Molecular Cloning−A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1989等の遺伝子操作実験マニュアル)に従って実施することが可能である。
例えば、配列番号1で表される塩基配列、配列番号1で表される塩基配列における第4番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号1で表される塩基配列における第133番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号1で表される塩基配列における第559番〜第1257番の塩基からなる配列、配列番号16で表される塩基配列、配列番号16で表される塩基配列における第136番〜第1179番の塩基からなる配列または配列番号16で表される塩基配列における第481番〜第1179番の塩基からなる配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと、目的とする生物[例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)]由来の試料(例えば、総RNA若しくはmRNA画分、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(Saiki,R.K.ら,Science,239,487−491,1988)又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、ポリヌクレオチドを取得できる。そのポリヌクレオチドを適当な発現系(例えば、実施例6に記載の方法)を用いて発現させる、あるいは更に精製する(例えば、実施例7に記載の方法)ことにより本発明のポリペプチドが得られる。例えば、実施例8に記載の方法により、該ポリペプチドまたは該ポリペプチドがプロセッシングを受けて生成した成熟体がプロテアーゼ活性を示すことを確認できる。
また、前記の遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドは、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site−specific mutagenesis;Mark,D.F.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,5662−5666,1984)により、ポリヌクレオチドを取得し、該ポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドまたは該ポリペプチドがプロセッシングを受けて生成した成熟体が、例えば、実施例8に記載の方法により、プロテアーゼ活性を示すことを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
また、本発明の機能的等価改変体には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列の第2番から第418番からなるポリペプチド、ポリペプチド45/418、ポリペプチド187/418を含むポリペプチド、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ポリペプチド46/392、またはポリペプチド161/392を含むポリペプチド、例えば、N末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等を付加したポリペプチド(すなわち、融合ポリペプチド)も、プロテアーゼ活性を示すか、あるいは、プロセッシングを受けた後にプロテアーゼ活性を示す限り含まれる。
前記マーカー配列としては、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行なうための配列を用いることができ、例えば、FLAGエピトープ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを挙げることができる。
本発明のポリペプチドには、本発明の前駆体蛋白質をコードするポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させることにより得られる、活性化に伴う切断を受けたポリペプチドもプロテアーゼ活性を示す限り含まれる。好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第186番目と第187番目のアミノ酸であるセリンプロテアーゼの活性化配列の間が切断されて生成したセリンプロテアーゼ活性を有する、N末端が第187番目のアミノ酸であるポリペプチド又は配列番号17で表されるアミノ酸配列における第160番目と第161番目のアミノ酸であるセリンプロテアーゼの活性化配列の間が切断されて生成したセリンプロテアーゼ活性を有する、N末端が第161番目のアミノ酸であるポリペプチド(すなわち、ポリペプチド187/418又はポリペプチド161/392であると推定される)である。
本明細書において、あるポリペプチドが「プロテアーゼ活性」を示すか否かは、特に限定されるものではないが、蛍光標識された合成ペプチド、例えばMCA(4−Methyl−Coumaryl−7−Amide)でC末端を標識された合成ペプチドを用いて酵素切断活性を検出することにより確認することができ(Yasuoka,S,ら,Am.J.Respir.Cell Mol Biol.,16,300−308,1997)、より好ましくは、実施例8に記載の方法により確認することができる。また、生理活性物質であるソマトスタチン、プロラクチン放出ペプチドを用いて例えば実施例10に記載の方法により酵素切断活性を検出し確認することができる。生理活性物質を用いた切断活性の検出が最も好ましい。
本発明のポリヌクレオチドの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、(1)PCRを用いた方法、(2)常法の遺伝子工学的手法(すなわち、cDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から、所望のcDNAを含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(3)化学合成法などを挙げることができる。各製造方法については、WO01/34785に記載されていると同様に実施できる。ただし、上記特許出願明細書における「本発明の新規蛋白」を本発明のポリペプチド、「本発明の遺伝子」を本発明のポリヌクレオチドと読み替える。
PCRを用いた方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法a)第1製造法に記載された手順により、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。本発明のポリペプチドを産生する能力を有する細胞あるいは組織、例えば、ヒト又はマウスの脳下垂体からmRNAを抽出する。次いで、このmRNAをランダムプライマーまたはオリゴdTプライマーの存在下で、逆転写酵素反応を行い、第一鎖cDNAを合成することが出来る。得られた第一鎖cDNAを用い、目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に供し、本発明のポリヌクレオチドまたはその一部を得ることができる。より具体的には、例えば実施例3又は11に記載の方法により本発明のポリヌクレオチドを製造することが出来る。
常法の遺伝子工学的手法を用いる方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法b)第2製造法に記載された手順により、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。
化学合成法を用いた方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法c)第3製造法、d)第4製造法に記載された方法によって、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。より具体的には、化学合成法によって製造したヌクレオチド断片を結合することによっても製造できる。また、各ポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、DNA合成機(例えば、Oligo 1000M DNA Synthesizer(ベックマン社)、あるいは、394 DNA/RNA Synthesizer(アプライドバイオシステムズ社)など)を用いて合成することができる。
本発明の発現ベクター、形質転換細胞、ポリペプチドの製造方法は、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」2)本発明のベクター、本発明の宿主細胞、本発明の組換え蛋白の製造方法に記載された方法により実施できる。単離された本発明のポリヌクレオチドを、適当なベクターDNAに再び組込むことにより、真核生物又は原核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。また、これらのベクターに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞においてポリヌクレオチドを発現させることが可能である。
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明のポリヌクレオチドを挿入することにより得られる発現ベクターを挙げることができる。
また、本発明の細胞も、本発明の前記発現ベクターでトランスフェクションされ、本発明のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明のポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた細胞であることもできるし、あるいは、本発明によるポリヌクレオチドを含む発現ベクターの形で含有する細胞であることもできる。また、本発明のポリペプチドを発現している細胞であることもできるし、あるいは、本発明のポリペプチドを発現していない細胞であることもできる。本発明の細胞は、例えば、本発明の発現ベクターにより、所望の宿主細胞をトランスフェクションすることにより得ることができる。より具体的には、例えば、実施例3〜6に記載のように本発明のポリヌクレオチドをほ乳類動物細胞用の発現ベクターpcDNA3.1またはサイトメガロウイルスプロモーターを有するpCEP4(インビトロジェン社)に組み込むことにより、所望のポリペプチドの発現ベクターを得ることができ、該発現ベクターを市販のトランスフェクション試薬(例えば、FuGENETM6 Transfection Reagent;ロシュ社)を用いてヒト胎児腎臓由来HEK293細胞にエプスタイン・バーウイルスのEBNA−1遺伝子を導入したHEK293−EBNA細胞(インビトロジェン社)に取り込ませて本発明の形質転換細胞を製造することができる。
上記で得られる所望の形質転換細胞は、常法に従い培養することができ、該培養により本発明のポリペプチドが生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば上記HEK293−EBNA細胞であれば牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修飾イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地にG418を加えたものを使用できる。
上記により、形質転換細胞に生産される本発明のポリペプチドは、該ポリペプチドの物理的性質や生化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離・精製することができる。
本発明のポリペプチドは、マーカー配列とインフレームで融合して発現させることにより、本発明のポリペプチドの発現の確認及び精製等が容易になる。前記マーカー配列としては、例えば、FLAGエピトープ、ヘキサーヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを挙げることができる。また、マーカー配列と本発明のポリペプチドとの間に、プロテアーゼ(例えば、エンテロキナーゼ、ファクターXa、又はトロンビンなど)が認識する特異的なアミノ酸配列を挿入することにより、マーカー配列部分をこれらのプロテアーゼにより切断除去することが可能である。例えば、ムスカリンアセチルコリン受容体とヘキサーヒスチジン・タグとをトロンビン認識配列で連結した報告がある(Hayashi,M.K.及びHaga,T.,J.Biochem.,120,1232−1238(1996)。
<本発明のスクリーニング方法>
本発明のプロテアーゼ又は配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示すポリペプチド(以下、「本発明のスクリーニングに用いるポリペプチド」)を用いて、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドのプロテアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングすることができる。本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドとしては、後述の実施例1及び13に示すように脳下垂体で発現している蛋白質であり、かつ実施例8に示すようにプロテアーゼ活性を有するものが望ましい。実施例10に示すように本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドの1つである、ポリペプチド45/418をコードするポリヌクレオチドを発現させることにより得られる活性化に伴う切断を受けたポリペプチドはソマトスタチン及びプロラクチン放出ホルモンを切断することがわかった。ソマトスタチンは視床下部から分泌され、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌を抑制する制御因子である。また、プロラクチン放出ホルモンはソマトスタチンの脳下垂体における分泌を促進して成長ホルモンの血中レベルを下げることが報告されている(Iijima,N.ら,Endocrinology,142,3239−3243,2001)。本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドがソマトスタチン及びプロラクチン放出ペプチドを切断したことから、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドを用いてその阻害剤をスクリーニングすることにより、内在性のソマトスタチン量を増加させ成長ホルモン等の分泌抑制を介して糖尿病を改善する物質が得られる。
本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドとしては、実施例8に示すようにプロテアーゼ活性を有するものであり、後述の実施例12及び13に示すように眼で発現している蛋白質が好ましい。実施例10に示すように、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドの1つである、ポリペプチド45/418をコードするポリヌクレオチドを発現させることにより得られる活性化に伴う切断を受けたポリペプチドはソマトスタチン及びプロラクチン放出ホルモンを切断することがわかっている。ソマトスタチンのアナログは試験的投与により糖尿病性網膜症を改善することが知られている(Davis,M.I.ら、Hormone and Metabolic Research,33,295−299,2001)。また、網膜におけるソマトスタチンの免疫組織化学的解析の結果、ソマトスタチンの免疫陽性細胞はNSPの免疫陽性細胞が検出された視神経節細胞層およびその隣接する内顆粒細胞層で検出されることが報告されている(Johnson,J.ら、Microscopy Reseach and Technique,50,103−111,2000)。さらに糖尿病性網膜症を発症した糖尿病患者においては健常者に比べて硝子体液中のソマトスタチン様物質の免疫反応性が低下することが報告されている(Simo,R.ら、Diabetes Care,25,2282−2286,2002)。これらのことから、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドの阻害剤はNSP陽性細胞の近傍で産生されるソマトスタチンの分解を抑制し、内在性のソマトスタチンを安定化することにより、ソマトスタチンアナログと同様の糖尿病性網膜症治療効果を示すと期待できる。従って、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドを用いてその阻害剤をスクリーニングすることにより、糖尿病性網膜症を改善する物質が得られる。
本発明のスクリーニング法は、特に限定されるものではないが、本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドによる蛍光標識された合成ペプチド、例えばMCA(4−Methyl−Coumaryl−7−Amide)でC末端を標識された合成ペプチドの酵素切断活性を検出することにより確認することができ(Yasuoka,S.ら,Am.J.Respir.Cell Mol Biol.,16,300−308,1997)、より好ましくは、実施例8に記載の方法により実施することができる。
たとえば実施例8及び9に記載の条件で、IC50=10μM以下の物質を、好ましくはIC50=1μM以下の物質を、更に好ましくはIC50=0.1μM以下の物質をプロテアーゼ阻害活性を有する物質として、選択することができる。また、このようにプロテアーゼ阻害活性を有する物質を選択することによって糖尿病治療薬または糖尿病性網膜症治療薬を得ることができる。
本発明のスクリーニング法で使用する試験化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(N.K.Terrett,M.Gardner,D.W.Gordon,R.J.Kobylecki,J.Steele,Tetrahedron,51,8135−73(1995))によって得られた化合物群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、あるいは、本発明のスクリーニング法により選択された化合物(ペプチドを含む)を化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を挙げることができる。
<本発明の糖尿病治療用医薬組成物又は糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法>
本発明には、本発明のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程を含むことを特徴とする、糖尿病治療用医薬組成物又は糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法が包含される。
本発明のスクリーニング方法により得られる物質を有効成分とする製剤は、前記有効成分のタイプに応じて、それらの製剤化に通常用いられる担体、賦形剤、及び/又はその他の添加剤を用いて調製することができる。
投与としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、又は経口用液剤などによる経口投与、あるいは、静注、筋注、若しくは関節注などの注射剤、坐剤、経皮投与剤、又は経粘膜投与剤などによる非経口投与を挙げることができる。特に胃で消化されるペプチドにあっては、静注等の非経口投与が好ましい。
経口投与のための固体組成物においては、1又はそれ以上の活性物質と、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合することができる。前記組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、又は溶解若しくは溶解補助剤などを含有することができる。錠剤又は丸剤は、必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質などのフィルムで被覆することができる。
経口のための液体組成物は、例えば、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はエリキシル剤を含むことができ、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば、精製水又はエタノールを含むことができる。前記組成物は、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤を含有することができる。
非経口のための注射剤としては、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、懸濁剤、又は乳濁剤を含むことができる。水溶性の溶液剤又は懸濁剤には、希釈剤として、例えば、注射用蒸留水又は生理用食塩水などを含むことができる。非水溶性の溶液剤又は懸濁剤の希釈剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、アルコール類(例えば、エタノール)、又はポリソルベート80等を含むことができる。前記組成物は、更に湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解若しくは溶解補助剤、又は防腐剤などを含むことができる。前記組成物は、例えば、バクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、又は照射によって無菌化することができる。また、無菌の固体組成物を製造し、使用の際に、無菌水又はその他の無菌用注射用媒体に溶解し、使用することもできる。
投与量は、有効成分、すなわち本発明のスクリーニング方法により得られる物質の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して、適宜決定することができる。
例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mgである。非経口投与の場合、注射剤の形では、1日につき0.01〜50mg、好ましくは0.01〜10mgである。
実施例
以下に実施例により本発明を詳述するが,本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、遺伝子操作技術に関しては公知の方法(Maniatis、 T.et al.(1982):「Molecular Cloning−A Laboratory Manual」Cold Spring Harbor Laboratory、NY等)に従って実施可能である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って実施可能である。
(実施例1)新規II型膜貫通セリンプロテアーゼ遺伝子NSPの部分配列の取得
配列番号3(配列番号1の607番から633番の配列)と配列番号4(配列番号1の1124番から1150番の相補配列)のオリゴDNAを合成し、クロンテック社のポリA+RNAよりスーパースクリプトII(SUPERSCRIPT First−Strand Synthesis System for RT−PCR)(インビトロジェン社)を用いcDNAに転換することにより作製した自家製のヒト各組織由来のcDNAパネルを鋳型とし、DNAポリメラーゼ(LA−Taq DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、94℃2分の後、98℃10秒、60℃30秒、72℃1分のサイクルを36回のPCR反応を行った。この反応により、脳下垂体、子宮を含む組織に選択的に544bpのDNA断片が生成した。このDNA断片の配列を直接ジデオキシターミネーター法によりABI3700 DNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社)で解析し、配列番号1の607番から1150番の配列を得た。
(実施例2)NSPの全長ORF配列の決定
クロンテック社のヒト子宮の鋳型cDNA(Marathon−ReadyTM cDNA)、DNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、cDNA末端増幅PCR(Rapid Amplification of cDNA Ends、RACE)を繰り返すことにより、5’側および3’側の塩基配列を解読し、実施例1で取得した配列の全長のオープンリーディングフレーム(open reading frame、ORF)配列を決定した。この遺伝子をNSPと名付けた。該遺伝子の全長塩基配列を配列番号1に、推定アミノ酸配列を配列番号2に示した。NSPのORFは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番から第418番まで、あるいは該配列における第2番から第418番までの417または418アミノ酸からなる新規蛋白質をコードしており、ホモロジー検索の結果、そのドメイン構造はN末から、細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、プロ領域、プロテアーゼ活性化配列、セリンプロテアーゼドメイン、C末端配列であり、II型膜貫通セリンプロテアーゼファミリーに属する分子であった。
(実施例3)NSP全長ORFのクローニングと蛋白質発現プラスミドの構築
配列番号5(配列番号2の1番から30番の配列5’末端に制限酵素Xba I認識配列が付加された配列)と配列番号6(配列番号2の1225番から1254番の相補配列5’末端に制限酵素BamH I認識配列が付加された配列)で示されるオリゴDNAをプライマーとし、ヒト子宮の鋳型cDNA(Marathon−ReadyTM cDNA;クロンテック社)、DNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、94℃2分の後、98℃10秒、65℃30秒、72℃1分30秒のサイクルを40回、続いて72℃7分のPCR反応を行った。このPCR産物(約1.3Kbp)をフェノールクロロホルム処理し、エタノール沈殿処理し、精製水に溶解した。このDNAをBamHI、XbaIで切断し、pCEP4dE2−FLAG(WO 01/34785実施例3)のBamHI、XbaI部位に挿入して、全長蛋白質発現プラスミドpCEP−NSP−FLAGを完成した。
(実施例4)NSP細胞外領域蛋白質発現プラスミドの構築
配列番号2の45番から418番にコードされるポリペプチドをN末端に分泌シグナル配列、FLAGを付加した蛋白質として発現するためのプラスミドは以下のように構築した。
まず、配列番号1の133番から1257番の遺伝子をPCRにより取得した。詳しくは、配列番号7(配列番号1の133番から162番の配列5’末端に制限酵素BamH I認識配列が付加された配列)と配列番号8(配列番号1の1225番から1257番の相補配列5’末端に制限酵素Xho I認識配列が付加された配列)で示されるオリゴDNAプライマー、鋳型としてpCEP−NSP−FLAG、DNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、94℃2分の後、98℃10秒、65℃30秒、72℃1分30秒のサイクルを25回、続いて72℃7分の反応を行った。こうして生成したDNA断片をpZErO−2ベクター(インビトロジェン社)のEcoRV部位にサブクローニングして配列を確認した。BamHI、XhoI部位で目的のDNA断片を切り出し、pcDNA3.1−signal−FLAGベクターのBamHI、XhoI部位に挿入しpcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−extracellularとした。なお、pcDNA3.1−signal−FLAGは、pcDNA3.1(+)(インビトロジェン社)のHindIII、XhoI部位にWO01/34785の(実施例7−1)記載の方法に従い、配列番号10と配列番号11から成る2重鎖オリゴDNAを挿入したプラスミドである。
(実施例5)NSPのセリンプロテアーゼドメインおよびC末端配列発現プラスミドの構築
配列番号2の187番から418番にコードされるポリペプチドをN末端に分泌シグナル配列、FLAGを付加した蛋白質として発現するためのプラスミドは以下のように構築した。
まず、配列番号1の559番から1257番の遺伝子をPCRにより取得した。詳しくは、配列番号9(配列番号1の559番から588番の配列5’末端に制限酵素BamHI認識配列が付加された配列)と配列番号8で示されるオリゴDNAプライマー、鋳型としてpCEP−NSP−FLAG、DNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNApolymerase;宝酒造社)を用いて、94℃2分の後、98℃10秒、65℃30秒、72℃1分のサイクルを25回、続いて72℃7分の反応を行った。こうして生成したDNA断片を制限酵素BamHIおよびXhoIで切断した後、pcDNA3.1−signal−FLAGベクターのBamHI、XhoI部位に挿入しpcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−SerPDとした。
(実施例6)NSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellular、signal−FLAG−NSP−SerPDの動物細胞株での発現
実施例3−5において作製した発現プラスミドをトランスフェクション試薬
(FuGENETM6 Transfection Reagent;ロシュ社)を用いて添付指示書に従いHEK293−EBNA細胞(インビトロジェン社)に導入した。プラスミド導入後12−16時間で培地を無血清に置換した後、さらに48−60時間培養を継続し、培養上清を回収した。培養上清中に目的蛋白が存在することを末端に付加したFLAGタグに対する抗体(マウス抗FLAGモノクローナル抗体M2;シグマ社)を用いたウエスタンブロッティングで確認した。すなわち、上記培養上清をSDS/4%〜20%アクリルアミドゲル(第一化学薬品社)に電気泳動(還元条件)後、ブロッティング装置を用いてPVDF膜(ミリポア社)に転写した。転写後のPVDF膜にブロックエース(大日本製薬社)を添加してブロッキングした後、ビオチン化マウス抗FLAGモノクローナル抗体(M2;シグマ社)、西洋わさびパーオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(アマシャムファルマシア社)を順次反応させた。反応後、ECLウエスタンブロッティング検出システム(アマシャムファルマシア社)を用いて該蛋白の発現を確認した。pCEP−NSP−FLAGを導入した場合、培養上清に分子量26.9±0.5kDのバンドが検出されたが細胞溶解液には予想分子量47kDの全長タンパク質はほとんど検出されなかった。このことからNSP遺伝子産物はセリンプロテアーゼファミリーに保存されたプロ領域とセリンプロテアーゼドメインの間にある活性化配列で切断されて成熟体として培養上清中に分泌されると示唆される。一方、pcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−extracellularを導入した場合には、培養上清中に分子量41.6±0.6kD、40.0±0.5kD、21.3±1.0kD、および20.0±1.0kDのバンドが検出された。またpcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−SerPDを導入した場合では培養上清中に分子量27.9±0.5kDのバンドが検出された。pCEP−NSP−FLAGを導入した場合に比較してpcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−SerPDを導入した場合に得られた物質の分子量がやや大きいのは、発現させるためにsignal−FLAG−NSP−SerPDに付加したシグナル配列が残っているためと考えられた。
(実施例7)NSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellular、signal−FLAG−NSP−SerPDの精製
上述のようにHEK293−EBNA細胞にて発現させた蛋白質にFLAGタグが付加されていることを利用して、以下の方法でアフィニィティ精製を行った。すなわち実施例6において回収した培養上清をカラムに詰めたFLAG抗体結合レジン(M2−agarose)(シグマ社)にアプライし、20mM Tris−HCl(pH7.4)/150mM NaCl(以下、TBSという)で洗浄した後、0.1M Gly−HCl(pH3.0)で、溶出、分画し、この溶液に直ちに1M Tris−HCl(pH8.0)を加えて中和した。pCEP−NSP−FLAGを導入した場合、pcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−extracellularを導入した場合、pcDNA3.1−signal−FLAG−NSP−SerPDを導入した場合に得られた精製標品をそれぞれNSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellular、signal−FLAG−NSP−SerPDと称する。溶出した精製標品は、還元条件下、非還元条件下において電気泳動した後、実施例6に示したFLAG抗体を用いたウエスタンブロッティングおよび銀染色キット(和光純薬社)によって検出した。NSP−FLAGにはC末端にFLAGタグが付加され、signal−FLAG−NSP−extracellularおよびsignal−FLAG−NSP−SerPDにはN末端にFLAGタグが付加されている。この結果NSP−FLAGを発現させた場合、還元条件では分子量26.9±1.0kDのバンドが抗FLAG抗体および銀染色でともに検出され、非還元条件下では分子量26.9±1.0kD付近にスメアなバンドが検出された。一方、signal−FLAG−NSP−extracellularを発現させた場合は非還元条件下では分子量41.6±0.6kD、40.0±0.5kD、21.3±1.0kD、および20.0±1.0kDのバンドが抗FLAG抗体および銀染色でともに検出され、還元条件下ではさらに分子量26.4±0.5kDのバンドが銀染色で検出されたが、抗FLAG抗体では検出されなかった。また、signal−FLAG−NSP−SerPDを発現させた場合は、還元条件、非還元条件いずれの場合でも分子量27.9±0.5kDのバンドが抗FLAG抗体および銀染色でともに検出された。NSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellularのバンドパターンが大きく異なるのは、NSP−FLAGはC末端にタグが付加されているためにプロセッシング後の成熟体が精製されているのに対して、signal−FLAG−NSP−extracellularはN末端にタグが付加されているために精製後に自己消化によるプロセッシングが起きているためと考えられる。更に、N末端にFLAGタグを付加したNSP細胞外領域の精製蛋白の抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロット(還元条件)と還元・非還元条件下での銀染色パターンを比較すると抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロットでは検出されない分子量26.4±0.5kDのバンドが還元条件下での銀染色では検出されることから、これはFLAGタグがついていないC末端側のセリンプロテアーゼドメインをふくむポリペプチドであると考えられる。一方、41.6±0.6kDおよび40.0±0.5kDのバンドは非還元条件と比較して還元条件で減少することから、還元条件下で分子量26.4±0.5kDの部分が解離していると推測される。これらのことからNSPは少なくとも2箇所以上で自己消化により切断されて成熟体になると考えられる。セリンプロテアーゼが活性化するときに切断されることが知られている活性化部位(小出武比古、医学の歩み、198,11−16、2001)がNSPにも存在する(配列2で示した186番アルギニンと187番イソロイシン)ことからこの間で切断され、さらにそのN端側で少なくとも1箇所切断されると考えられる。また、既知のII型セリンプロテアーゼHAT(Yamaoka,K.ら,J.Biol.Chem.273,11895−11901,1998),Desc1(Lang,J.C.and Schuller,D.E.,British J.Cancer,84,237−243,2001),hepsin(Leytus,S.P.ら,Biochemistry,27,1067−1074,1988)とのアミノ酸配列の比較から、ジスルフィド結合を形成すると推定されているシステイン残基がNSPでも保存されている(Cys175、212、228、292、337,353,364,393)ことから約26kDのセリンプロテアーゼドメインを含むポリペプチドとN端側のポリペプチドがジスルフィド結合を形成していると推測される。(他のプロテアーゼとの比較からCys175と292の間でジスルフィド結合が形成されていると予想される。)
(実施例8)合成ペプチドを用いた酵素活性の検出
MCA(4−Methyl−Coumaryl−7−Amide)でC末端を標識された合成ペプチドを用いて酵素的切断活性を検出する方法は特に断りの無い限り、論文報告された方法(Yasuoka,S.ら,Am.J.Respir.Cell Mol Biol.,16,300−308,1997)に従った。すなわち、MCAでC末端を標識された合成ペプチド(ペプチド研究所)を基質として、96穴プレートに終濃度100μMとなるようにTBS中に基質を希釈した。この基質溶液に実施例7に示した方法で精製した酵素標品を10−50μl添加し密閉した後、37℃で30分−2時間インキュベートした。その後合成ペプチドから酵素により切断されて遊離したAMC(7−Amino−4−Methyl−Coumarin)の蛍光を蛍光測定プレートリーダー(Fluostar、SLT社)で励起波長390nm、測定波長460nmにて測定した。この結果、組換え体NSP−FLAG、signal−FLAG−NSP−extracellular、signal−FLAG−NSP−SerPDはいずれも合成ペプチドBoc−Glu(OBzl)−Ala−Arg−MCA、Boc−Gln−Arg−Arg−MCA、Boc−Phe−Ser−Arg−MCAの切断活性を示した。
(実施例9)既知プロテアーゼ阻害剤による酵素活性の阻害
実施例8で示した酵素活性検出法を用いて、反応液に既知プロテアーゼ阻害剤を添加した場合の酵素活性の阻害効果を調べた。基質としてBoc−Glu(OBzl)−Ala−Arg−MCA、酵素標品として実施例7のように精製したNSP細胞外領域の組換え体を用い、各種既知プロテアーゼ阻害剤存在下あるいは非存在下における酵素活性を比較した。NSPの酵素活性は終濃度1mM N−tosyl−L−phenylalanyl chloromethyl ketoneで約40%、1mM phenylmethane sulfonyl fluoride(PMSF)で約15%、10μM leupeptinで約10%阻害された。一方、NSPの酵素活性は終濃度0.66TIU(trypsin inhibitor unit)(シグマ社)aprotininでは全く阻害されず既知のトリプシン様セリンプロテアーゼとは阻害剤への感受性が異なっていることから、配列のみならず、この点においてもNSP成熟体は新しいセリンプロテアーゼであると考えられた。
実施例8、9に記載の方法でNSP成熟体阻害剤のスクリーニングが可能であることがわかった。
(実施例10)NSP成熟体による生理活性物質の切断
NSP成熟体の生理活性ペプチド切断活性を以下の方法で検討した。すなわち、オキシトシン、ソマトスタチン(Somatostatin1−14)、α−メラニン細胞刺激ホルモン(α−Melanocyte stimulating hormone)、メラニン凝集ホルモン(Melanin−concentrating hormone)、プロラクチン放出ペプチド(Prolactin−releasing peptide31)、アドレノコルチコトロピックホルモン、脳下垂体アデニルシクラーゼ活性化ポリペプチド38、インスリン、インスリン様成長因子−1、黄体形成ホルモン放出ホルモン(Luteinizing hormone releasing hormone)、バソプレッシン、ニューロテンシン、サブスタンスP、ブラジキニン、エンケファリン及びApelin(すべてペプチド研究所)を終濃度4−40μMとなるようにそれぞれTBS中に希釈した。これらの基質溶液に実施例7に示した方法で精製したsignal−FLAG−NSP−extracellularの酵素標品または酵素を含まない9mM Gly−HCl(pH3.0)/0.909M Tris−HCl(pH8.0)溶液を3μl添加し密閉した後、37℃で一晩インキュベートした。酵素標品添加または無添加の基質溶液をそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(島津製作所)を用いて解析し比較したところ、ソマトスタチン、プロラクチン放出ペプチド31の場合のみNSP成熟体による切断に伴う分離パターンの変化が観察された。NSP成熟体による切断部位を決定するためにソマトスタチンならびにプロラクチン放出ペプチド31の分解産物をHPLCはナノスペース(資生堂)、MSはLCQ(サーモクエスト社)、カラムはカプセルパック(C18UG120、1x150mm;資生堂)を用いてマス(MS)スペクトル測定を行い、検出されたペプチド断片のMS/MSスペクトルをマニュアルもしくはSequestソフト(サーモクエスト社)を用いて解析した。この結果ソマトスタチンの切断部位は配列番号12の第9番目Kと第10番目Tの間、すなわちAGCKNFFWK/TFTSCと考えられた。プロラクチン放出ペプチドの切断部位は配列番号13の第5番目Rと第6番目Hの間、すなわちSRTHR/HSMEIRTPDINPAWYASRGIRPVGRFと考えられた。またNSP成熟体による成長ホルモンの切断を検討した。成長ホルモン(バイオジェネシス社)、200ngと実施例7に示した方法で精製したsignal−FLAG−NSP−extracellularの酵素標品または酵素を含まない9mM Gly−HCl(pH3.0)/0.909M Tris−HCl(pH8.0)溶液5μlを混合し密閉した後、37℃で一晩インキュベートした。この反応液を用いて、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を実施した後、PVDF膜に転写し、実施例6と同様の方法でウエスタンブロットを行い、バンドパターンを解析した。1次抗体として抗成長ホルモンモノクローナル抗体(ネオマーカーズ社)を、2次抗体としてパーオキシダーゼ標識ロバ抗マウスIgGポリクローナル抗体(アマシャム社)を用いて検出した。この結果、NSP成熟体によって成長ホルモンは切断されなかった。
ソマトスタチンは視床下部から分泌され、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌を抑制する制御因子である。また、プロラクチン放出ホルモンはソマトスタチンの脳下垂体における分泌を促進して成長ホルモンの血中レベルを下げることが報告されている(Iijima,N.ら,Endocrinology,142,3239−3243,2001)。NSPがソマトスタチン及びプロラクチン放出ペプチドを切断し、成長ホルモンを切断しなかったことからNSP成熟体は脳下垂体において成長ホルモンの分泌量を増加させる方向に作用すると考えられる。すなわち、NSP成熟体を用いてその阻害剤をスクリーニングすることにより、内在性のソマトスタチン量を増加させ成長ホルモン等の分泌抑制を介して糖尿病を改善する物質が得られると考えられた。
(実施例11)マウスNSPの全長ORF配列の決定
配列番号14と配列番号15で示したプライマーを作製し、胎齢17日目のマウス胚のcDNA(Marathon−ReadyTMcDNA;クロンテック社)を鋳型としてDNAポリメラーゼ(Pyrobest(登録商標)DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、94℃5分の後、98℃10秒、65℃20秒、72℃2分のサイクルを40回、続いて72℃7分のPCR反応を行った。このPCR産物(約1.2Kbp)をアガロースゲル電気泳動後、DNAゲル抽出キット(QIAquick Gel Extraction Kit、キアゲン社)を用いて精製し、精製水に溶解した。このDNAをEcoRVで切断したpZErO−2ベクター(インビトロジェン社)に挿入した。得られたクローンの塩基配列はジデオキシターミネーター法によりABI3700 DNA Sequencer(アプライドバイオシステムズ社)を用いて解析した。明らかになった配列を配列番号16に示した。同配列は1179塩基のORF(配列番号16)を持っている。ORFから予測されるアミノ酸配列(392アミノ酸)を配列番号17に示した。
得られたマウスNSPとヒトNSPとの相同性は塩基配列で比較して79.7%、アミノ酸配列で比較して69.7%であった。ヒトNSPのセリンプロテアーゼドメイン(配列番号1の559番から1257番にコードされ、配列番号2の187番から418番で示されるアミノ酸配列からなるドメイン)とマウスNSPのセリンプロテアーゼドメイン(配列番号16の481番から1179番にコードされ、配列番号17の161番から392番で示されるアミノ酸配列からなるドメイン)における相同性は塩基配列で比較して84%、アミノ酸配列で比較して76.8%であった。マウスNSPはヒトNSPと高い相同性を示したことから、マウスNSPはヒトNSPと同等の機能を持つ蛋白質であることが推察される。
(実施例12)眼におけるヒト及びマウスNSPの発現
眼におけるヒトNSPの検出はヒト網膜由来cDNA(バイオチェイン社)を鋳型として実施例1と同様のPCR法で行い、544bpのDNA断片の生成を確認した。マウスNSPの検出はセリンプロテアーゼドメインをコードする領域内に配列番号18と19で示したプライマーを作製しマウス眼由来cDNA(クロンテック社)を鋳型としDNAポリメラーゼを含有する蛍光試薬(SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix、アプライドバイオシステムズ社)を用いて、95℃10分の後、94℃15秒、59℃1分のサイクルを45回のPCR反応および経時的な増幅産物の検出をABI PRISM7700(アプライドバイオシステムズ社)を用いて行った。この増幅産物(配列番号12の762−833番)をアガロースゲル電気泳動後ゲル抽出により精製し、増幅された72bpの塩基配列を解読することによりマウスNSPが特異的に増幅されていることを確認した。
NSP成熟体は生理活性ペプチドであるソマトスタチンを切断する活性を有することを実施例10において見出した。ソマトスタチンアナログは糖尿病性網膜症を改善することが知られている(Davis,M.I.ら、Hormone and Metabolic Research,33,295−299,2001)。これらの知見より、NSP成熟体のプロテアーゼ活性を測定する方法(実施例8)は糖尿病性網膜症治療薬をスクリーニングする方法として利用でき、NSP成熟体を阻害する物質は内因性ソマトスタチン量を増加させ糖尿病性網膜症に効果を示すと考えられる。
(実施例13)脳下垂体、眼におけるNSPの免疫組織化学的検出
抗NSP抗体の作製および精製は、抗ペプチド抗体作製法(竹縄ら編、分子生物学研究のためのタンパク実験法、バイオマニュアルシリーズ7、実験医学別冊、羊土社、77−86、1994)に従い、以下のように行った。抗原ペプチドとして配列番号20で示されるペプチド(配列番号2の238番目から252番目のアミノ酸配列で示されるNSPの部分ペプチドにシステイン残基を付加したペプチド)を合成し、ウシサイクログロブリンをキャリア蛋白質として結合させ、油性アジュバントを混合してエマルジョンを作製し、ウサギの皮内または皮下に2−3週間おきに8回にわたって接種することによりNSP蛋白質に対する抗血清を作製した。抗原ペプチドを結合したアフィニティカラムを用いてこの抗血清を精製し、抗NSPポリクローナル特異抗体を得た。この精製抗体を用いて以下に示すNSPの免疫組織化学的検出を行った。
マウスを頚椎脱臼後4%パラホルムアルデヒドで還流固定した後、脳下垂体および眼を摘出した。湿組織をアルコール系列に順次浸漬することにより脱水し、透徹、パラフィン包埋後、薄切組織切片を作製した。この切片に抗NSP抗体または正常ウサギ抗体を一次抗体として反応させ免疫組織染色キット(ベクター社)を用いて内在性NSPの免疫陽性細胞を特異的に検出した。この結果、脳下垂体においてNSP免疫陽性細胞は中間部(中葉)に検出され、前葉においても弱く検出された。眼においてNSP免疫陽性細胞は主に網膜の視神経節細胞層で検出され、視神経節細胞が染色されていると考えられる。一方、正常ウサギ抗体を一次抗体とした場合いずれの組織切片においてもバックグラウンドの染色はほとんど検出されなかった。さらにヒト脳下垂体および眼におけるNSPの検出を上記と同様の方法で行った。この結果、ヒト脳下垂体においてNSP免疫陽性細胞は中間部および前葉に強く検出された。ヒト眼においては網膜にNSP免疫陽性細胞が存在し視神経節細胞層などに高発現していることが確認された。また糖尿病罹患者由来の脳下垂体、眼の組織切片においても正常組織と同様の部位にNSP免疫陽性細胞の存在が検出された。これらの結果よりNSPはヒト、マウスいずれにおいても脳下垂体前葉および中間部、眼の網膜に高度に局在するセリンプロテアーゼであると言える。
ところで、NSPの基質の一つであるソマトスタチンのアナログは試験的投与により糖尿病性網膜症を改善することが知られている(Davis,M.I.ら、Hormone and Metabolic Research,33,295−299,2001)。網膜におけるソマトスタチンの免疫組織化学的解析の結果、ソマトスタチンの免疫陽性細胞はNSPの免疫陽性細胞が検出された視神経節細胞層およびその隣接する内顆粒細胞層で検出されることが報告されている(Johnson,J.ら、Microscopy Reseach and Technique,50,103−111,2000)。さらに糖尿病性網膜症を発症した糖尿病患者においては健常者に比べて硝子体液中のソマトスタチン様物質の免疫反応性が低下することが報告されている(Simo,R.ら、Diabetes Care,25,2282−2286,2002)。すなわち、NSP阻害剤には実施例10で示した糖尿病治療効果に加え、NSP陽性細胞の近傍で産生されるソマトスタチンの分解を抑制し、内在性のソマトスタチンを安定化することにより、ソマトスタチンアナログと同様の糖尿病性網膜症治療効果を期待できる。
産業上の利用可能性
本発明のポリペプチドは脳下垂体、眼を含む組織に局所的に発現するプロテアーゼまたはその前駆体である。本発明の前駆体は本発明のプロテアーゼを得るために有用である。本発明のプロテアーゼはソマトスタチン切断活性を有することから、本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクター、及び細胞は、糖尿病治療薬のスクリーニング及び/又は糖尿病性網膜症治療薬のスクリーニングに有用である。
配列表フリーテキスト
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号5〜11の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。配列番号20は人工的に合成した抗原用のペプチドである。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表】
Claims (10)
- 下記(a)又は(b)に記載のポリペプチド。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド。
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示す酵素の前駆体であるポリペプチド。 - 下記(a)〜(c)記載のアミノ酸配列を含む(1)記載のポリペプチド。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第1番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列。
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列。
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第186番のアミノ酸配列、あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第186番のアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入された配列を含むアミノ酸配列のC末端側に、配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列が連結されたアミノ酸配列。 - 下記(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)から選択されるポリペプチド。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第45番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第46番〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第2番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(e)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。 - 下記(a)、(b)及び(c)から選択されるポリペプチド。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161〜第392番のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(c)配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示すポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列における第161番〜第392番のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつプロテアーゼ活性を示すポリペプチド。 - 請求の範囲1乃至請求の範囲4に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
- 請求の範囲5に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
- 請求の範囲6に記載の発現ベクターで形質転換された細胞。
- i)請求の範囲4に記載のポリペプチド又は配列番号2で表されるアミノ酸配列における第187番〜第418番のアミノ酸配列を含み、かつ、プロテアーゼ活性を示すポリペプチドと、ii)前記ポリペプチドにより切断可能な基質と、iii)試験化合物とを接触させる工程、
前記基質の切断を分析する工程、及び
前記基質を切断する活性を阻害する物質を選択する工程
を含む、試験化合物が前記ポリペプチドのプロテアーゼ活性を阻害する物質をスクリーニングする方法。 - 請求の範囲8に記載の方法により、糖尿病治療薬及び/又は糖尿病性網膜症治療薬をスクリーニングする方法。
- 請求の範囲8又は請求の範囲9に記載のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び
前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程
を含むことを特徴とする、糖尿病治療用医薬組成物及び/又は糖尿病性網膜症治療用医薬組成物の製造方法。
Applications Claiming Priority (5)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002013849 | 2002-01-23 | ||
JP2002013849 | 2002-01-23 | ||
JP2002298003 | 2002-10-10 | ||
JP2002298003 | 2002-10-10 | ||
PCT/JP2003/000547 WO2003062429A1 (fr) | 2002-01-23 | 2003-01-22 | Nouvelle serine protease |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPWO2003062429A1 true JPWO2003062429A1 (ja) | 2005-05-26 |
Family
ID=27615683
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003562296A Withdrawn JPWO2003062429A1 (ja) | 2002-01-23 | 2003-01-22 | 新規セリンプロテアーゼ |
Country Status (2)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JPWO2003062429A1 (ja) |
WO (1) | WO2003062429A1 (ja) |
Family Cites Families (7)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
EP1244793A2 (en) * | 1999-11-17 | 2002-10-02 | Curagen Corporation | Serine/threonine kinase and serine protease polypeptides and nucleic acids encoding same |
AU2001241407A1 (en) * | 2000-01-31 | 2001-08-07 | Human Genome Sciences, Inc. | Nucleic acids, proteins, and antibodies |
CA2395838A1 (en) * | 2000-01-31 | 2001-08-02 | Human Genome Sciences, Inc. | Nucleic acids, proteins, and antibodies |
US6436703B1 (en) * | 2000-03-31 | 2002-08-20 | Hyseq, Inc. | Nucleic acids and polypeptides |
JP2004501637A (ja) * | 2000-06-26 | 2004-01-22 | スージェン・インコーポレーテッド | 新規プロテアーゼ |
AU2001281967A1 (en) * | 2000-07-18 | 2002-01-30 | Bayer Aktiengesellschaft | Regulation of human desc1-like serine protease |
US6365391B1 (en) * | 2000-09-27 | 2002-04-02 | Pe Corporation (Ny) | Isolated human serine protease, nucleic acid molecules encoding human serine protease, and uses thereof |
-
2003
- 2003-01-22 WO PCT/JP2003/000547 patent/WO2003062429A1/ja active Application Filing
- 2003-01-22 JP JP2003562296A patent/JPWO2003062429A1/ja not_active Withdrawn
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
WO2003062429A1 (fr) | 2003-07-31 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US9005949B2 (en) | Pregnancy-associated plasma protein-A2 (PAPP-A2) polynucleotides | |
EP1811035A1 (en) | Aspartic proteinase 2 (ASP2) | |
JP2003530869A (ja) | 新規化合物 | |
JP2002511233A (ja) | Trek1様の2孔カリウムチャネル | |
US20020090373A1 (en) | ADAMTS polypeptides, nucleic acids encoding them, and uses thereof | |
US5948669A (en) | Rat cathepsin K polynucleotide and polypeptide sequence | |
CA2223038A1 (en) | A c5a-like seven transmembrane receptor | |
US20020103354A1 (en) | Splicing variant of human membrane-type matrix metalloproteinase-5 (MT-MMP5-L) | |
JP2003210183A (ja) | ヒトIκB−β | |
JPWO2003062429A1 (ja) | 新規セリンプロテアーゼ | |
JP2002223782A (ja) | ヒトafc1 | |
US6180384B1 (en) | Compounds | |
US20060134719A1 (en) | Novel serine protease | |
JPH11318472A (ja) | Mprot15ポリペプチドおよびmprot15ポリヌクレオチド | |
WO2009120760A1 (en) | Corin for treating obesity and diabetes | |
EP0913472A2 (en) | Human LIG-1 Homolog (HLIG-1) | |
CA2593541A1 (en) | Identification of phospholipase a2 as target in cancer treatment, with special emphasis on colorectal cancer and its mechanism of action | |
JPH11243971A (ja) | Sbperr4ポリペプチドおよびポリヌクレオチド | |
WO2000017349A1 (en) | A HUMAN Hsg III GENE | |
US20030036102A1 (en) | Cathepsin differentially expressed in lung cancer | |
JP2002515452A (ja) | ACRP30(30kDの脂肪細胞補体関連タンパク質)の相同体であるACRP30R1 | |
JPH11155583A (ja) | Asp5 | |
JP2002504377A (ja) | ヒトシステインプロテアーゼcprot03 | |
JPH11290086A (ja) | Hsscrg1ポリペプチドおよびポリヌクレオチド | |
JP2002223784A (ja) | Ant5ポリペプチドおよびant5ポリヌクレオチド |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A300 | Withdrawal of application because of no request for examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300 Effective date: 20060404 |