JPWO2003020960A1 - 薬物の標的蛋白質を決定する方法 - Google Patents
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Abstract
薬物の標的蛋白質を決定する方法であって、薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を該薬物の標的蛋白質であると判定する工程を含む方法。例えば、細胞破砕液に含まれる蛋白質などのなかから薬物の標的蛋白質を選択することができる。
Description
技術分野
本発明は薬物の標的蛋白質を決定する方法に関する。
背景技術
薬物は生体内で特定の物質と結合し、その物質の機能を変化させることにより、生体に対しその薬理効果を示す。多くの場合、この生体内の物質は蛋白質であり、薬物の標的蛋白質と呼ばれる。薬物の結合により引き起こされるこの標的蛋白質の機能の変化は、標的蛋白質の何らかの構造変化を伴なうと考えられている[米国特許第5585277号、同第5679582号、特開平9−178746号公報、国際公開WO97/20952]。ある薬物の標的蛋白質を決定し、薬物とその標的蛋白質が結合した時の標的蛋白質の機能の変化の内容や、その機能の変化と薬理効果の関係を解明していくこと、すなわち薬物が生体内で薬理効果を示す機構を明らかにすることは、新たな薬物の探索や見出された薬物の評価、副作用の分離等を行ううえで非常に重要である。
この薬物の作用の機構の解明のためには、まず標的蛋白質の決定が必要である。薬物の標的蛋白質の決定法としては、標的蛋白質が薬物と結合することを利用して、アフィニティークロマトグラフィーにより組織や細胞から標的蛋白質を精製する方法[Shimizu N et al.,Nat.Biotechnol.18,877(2000)、Fruichi H et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.270,1002(2000)、Jbilo O et al.,J.Biol.Chem.272,27107(1997)]や、蛋白質発現型のcDNAライブラリーを構築し、薬物をプローブとして結合する発現クローンを単離する方法(特開平10−248571号公報、特表2000−508923号公報)が知られている。これらの方法により、まず薬物と結合する標的蛋白質あるいは標的蛋白質をコードする遺伝子を単離し、その構造を分析することにより標的蛋白質を決定することができる。
しかしながら、これらの方法では薬物と担体とを結合させる必要があり、標的蛋白質の決定のためには、担体との結合により本来の薬物の立体構造がくずれたり、薬物と標的蛋白質との結合が阻害されないように担体を設計しなければならない。通常は、薬物の薬理活性に大きな影響をおよぼさない官能基を用いて薬物と担体とを結合させるが、活性に影響を及ぼさない官能基を選択するためには、その薬物についての構造活性相関のデータが必要であり、この構造活性相関のデータを得るためには多くの労力がかかるという問題がある。
発明の開示
本発明の課題は、薬物の標的蛋白質を決定する方法を提供することにある。より具体的には、薬物を担体に結合させる必要がなく、簡便かつ正確に薬物の標的蛋白質を決定できる方法を提供することが本発明の課題である。
一般に、細胞内で天然に存在する蛋白質は、ポリペプチド鎖が折りたたまれて本来の立体構造をとっており、非常に安定であることが知られている[Levitt M et al.,Annu.Rev.Biochem.66,549(1997)]。本発明者らは、標的蛋白質が薬物と結合してその機能を変化させる場合、何らかの構造変化がおこり、そのためプロテアーゼに対して感受性が高まると予測した。本発明者らは、その仮説を実証すべく、細胞に薬物を投与して細胞内の蛋白質のプロテアーゼ感受性の変化を解析したところ、標的蛋白質がプロテアーゼ感受性に変化すること、及びプロテアーゼ感受性に変化を生じる蛋白質を検出することにより、その蛋白質を該薬物の標的蛋白質として決定できることを見出した。上記方法は、薬物と担体とを結合させる工程を省略でき、予め薬物の構造活性相関のデータを取得する必要がないことから、極めて簡便かつ正確に薬物の標的蛋白質を決定できる。本発明は上記の知見を基にして完成された。
すなわち、本発明により、以下の(1)〜(13)が提供される。
(1)薬物の標的蛋白質を決定する方法であって、薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を該薬物の標的蛋白質であると判定する工程を含む方法。
(2)細胞破砕液に含まれる蛋白質のなかから薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を選択する工程を含む(1)に記載の方法。
(3)プロテアーゼとして細胞の内在性プロテアーゼを用いる(1)又は(2)に記載の方法。
(4)プロテアーゼとして外来性プロテアーゼをさらに添加する工程を含む(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)プロテアーゼ感受性の上昇を該蛋白質の分解量の上昇として検出する(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)プロテアーゼ阻害剤の存在下において該蛋白質の分解量の上昇の抑制を検出する工程をさらに含む(5)に記載の方法。
(7)アクリルアミドゲル電気泳動を用いて蛋白質の量の変化を検出する(5)又は(6)に記載の方法。
(8)アクリルアミドゲル電気泳動がSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動又は二次元電気泳動である(7)に記載の方法。
(9)選択された蛋白質を同定する工程を含む(1)ないし(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10)選択された蛋白質を単離して同定する工程を含む(9)に記載の方法。
(11)該蛋白質を検出する工程を含む(1)ないし(8)のいずれか1項に記載の方法。
(12)該蛋白質を認識する抗体を用いて検出を行う(11)に記載の方法。
(13)ウェスタンブロット、ドットブロット、酵素免疫測定法、又は放射性免疫測定法により検出を行う(12)に記載の方法。
発明を実施するための最良の形態
本発明の方法は、薬物の標的蛋白質を決定する方法であって、薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を該薬物の標的蛋白質であると判定する工程を含むことを特徴としている。本発明の方法は、薬物の標的蛋白質であることが予想される1の蛋白質を対象として、該薬物の標的蛋白質であるか否かを判定するために用いることができる。また、本発明の方法は、2以上の蛋白質を含む混合物のなかから薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を選択するために用いることができる。
好ましくは、本発明の方法は、細胞破砕液を用い、該細胞破砕液中に含まれる蛋白質のなかから薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を選択する工程を含む。細胞破砕液を用いてイン・ビトロ(in vitro)の条件で上記の選択を行うことにより、イン・ビボ条件、すなわち細胞の培養時に薬物を添加して解析する場合よりも簡便に標的蛋白質を決定でき、標的蛋白質以降の情報伝達分子による二次的な作用、あるいは蛋白質の合成や分解機構への作用等の間接的な作用による蛋白質の変化を排除して、薬物の直接的な作用による蛋白質の変化のみを検出することができる。
薬物の存在下における蛋白質のプロテアーゼ感受性の上昇は、一般的には、プロテアーゼによるその蛋白質の分解量の上昇として検出できる。例えば、薬物の存在下において蛋白質混合物をプロテアーゼで処理して個々の蛋白質を検出し、各蛋白質の量の変化を解析することができる。この解析により、蛋白質の量が減少した蛋白質が検出された場合には、その蛋白質がプロテアーゼによる分解を受けており、その蛋白質のプロテアーゼ感受性が上昇したと認定される。上記の検出を行うにあたっては、薬物の非存在下において同様のプロテアーゼ処理を行って対照として用いるのがよい。上記のようにしてプロテアーゼ感受性が上昇した蛋白質がその薬物の標的蛋白質であると判定できる。
本発明の方法を行うにあたり、プロテアーゼとしては、細胞に由来するプロテアーゼ(本明細書において「内在性」のプロテアーゼと呼ぶ場合がある。)で十分な場合もあるが、必要に応じて適宜の種類のプロテアーゼ(該細胞に由来しないもの、本明細書において「外来性」プロテアーゼと呼ぶ場合がある。)を添加してもよい。2種以上のプロテアーゼを適宜組み合わせて反応系に添加してもよい。
さらに、プロテアーゼ反応をプロテアーゼ阻害剤の存在下で行ない、プロテアーゼ阻害剤の非存在下で行った場合の結果と比較することにより、蛋白質の量の減少が認められた場合に、その減少がプロテアーゼによる蛋白質の分解量の上昇によるものであり、他の原因、例えば蛋白質の凝集等によるものでないことを証明できる。
本発明の方法の好ましい態様として、蛋白質混合物として細胞破砕液を用いる場合について具体的に説明するが、本発明の方法は下記の説明の細部に限定されることはない。
1)細胞破砕液の調製
細胞破砕液は、薬物の標的蛋白質を決定すべき細胞や組織から調製することができいる。細胞破砕液の調製に用いる細胞又は組織としては、樹立された細胞株、血液や組織から分離した細胞、生体から採取した組織など、いかなるものを用いてもよい。一定の培養条件下で保存された細胞株を用い、細胞破砕液の調製時の条件を同一にすることにより、細胞破砕液に含まれる総蛋白質の質的な変動が少なく、再現性のよい結果を得ることができる。
細胞破砕液は、細胞や組織を適当な緩衝液と共に通常のホモゲナイザー、例えばダウンス・ホモゲナイザー(Dounce homogenizer)やポリトロン・ホモゲナイザー(Polytron homogenizer)等の組織用のホモゲナイザーを用いて物理的にすりつぶすか、あるいは超音波発振装置を用いて細胞を破砕し、得られた液を遠心分離した上清として調製することができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液(phosphate buffered saline;PBS)や網膜状赤血球膨潤緩衝液(reticulocyte swelling buffer;RSB:10mmol/Lトリス−塩酸 pH7.6、10mmol/L NaCl、1.5mmol/L MgCl2)等の低濃度のNaCl等の塩類を含む中性付近のリン酸系やトリス系の緩衝液を用いることができる。
2)薬物の添加
上記で得られた細胞破砕液に薬物を添加する。対照として、薬物を添加しない細胞破砕液も用意することが望ましい。蛋白質の分解が薬物の濃度に依存的であることを見るために、複数の薬物濃度で試験を行うことが好ましい。薬物が固体の場合は、細胞破砕液作成時の緩衝液、又は適当な溶媒に溶解して添加することができる。この場合はコントロールの薬物非添加の細胞破砕液にも薬物の溶解に用いた溶媒を添加するのが好ましい。添加する溶媒の量は、各細胞破砕液で全て同じにするのが好ましい。
3)プロテアーゼ反応
上記の薬物を添加した細胞破砕液にプロテアーゼを作用させる。細胞破砕液には通常は細胞由来のプロテアーゼが十分量含まれているので、細胞破砕液をそのまま25〜42℃、好ましくは37℃で保温することにより、プロテアーゼを作用させることができる。特定の蛋白質の量の減少がプロテアーゼによる分解によって生じたことを確認するために、プロテアーゼ阻害剤、好ましくは様々なプロテアーゼを広範に阻害するプロテアーゼ阻害剤混合物を添加した反応系を用意し、プロテアーゼ阻害剤を添加しない条件でプロテアーゼを作用させた系での結果と比較検討することが好ましい。プロテアーゼ阻害剤を添加した系においてその蛋白質の量の減少が認められず、一方、プロテアーゼ阻害剤を添加しない系において蛋白質量の減少が認められる場合には、蛋白質の量の減少がプロテアーゼによる分解で生じたと認定できる。
プロテアーゼを作用させる時間は特に限定されないが、細胞破砕液中の蛋白質全体を分解することなく、しかもプロテアーゼ感受性の上昇した標的蛋白質の特異的分解のためには十分である作用時間を適宜選択する必要がある。本明細書の実施例には、細胞破砕液を用いた本発明の方法の典型例が具体的かつ詳細に説明されているので、上記のプロテアーゼ作用時間は、細胞の種類や薬物の種類などの種々の条件に応じて、本明細書の実施例を参照することにより、当業者が適宜選択できることは言うまでもない。
例えば、薬物を添加しない細胞破砕液を30分〜24時間の間でいくつかの時間について同様に保温してプロテアーゼを作用させ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により蛋白質を検出し、適用した反応時間のうち、プロテアーゼを作用させる前と比較して50kDa以上の領域にもスメア状でなくはっきりとした蛋白質のバンドが多数見られる時間を反応時間として選択することができる。また、このように選択された時間の中では長い時間の方が好ましい。細胞により、含まれるプロテアーゼの量が異なるので、好ましい作用時間は異なるが、例えばHCT116細胞(ATCC番号CCL−247)の細胞破砕液では6〜12時間が好ましい。
上記の細胞破砕液にさらに外来性プロテアーゼを添加する場合、プロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、V8プロテアーゼ、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ、リジルエンドペプチダーゼ、プロテイナーゼK、テルモリシン、パパイン、ズブチリシン、又はそれらの混合物などを挙げることができる。
4)蛋白質の解析と標的蛋白質の決定
プロテアーゼ阻害剤の存在下及び非存在下のそれぞれの条件でプロテアーゼを作用させた細胞破砕液中の個々の蛋白質を解析し、各蛋白質のプロテアーゼ感受性の上昇を検出する。ある蛋白質におけるプロテアーゼ感受性の上昇は、通常は、それぞれの条件下の細胞破砕液中の蛋白質を解析したときに特異的に認めらる蛋白質量の減少であって、薬物量に依存した減少として検出され、かつプロテアーゼ阻害剤存在下ではその減少が阻害される現象として検出できる。このようにして、プロテアーゼ感受性の上昇が検出された蛋白質を薬物の標的蛋白質として決定することができる。以下、細胞破砕液に含まれる標的蛋白質を同定する方法と、ある特定の蛋白質が標的蛋白質であるかどうかを評価する方法とに分けて説明する。
4−1)標的蛋白質の同定
標的蛋白質が未知の場合は、プロテアーゼ感受性の上昇が検出された蛋白質を細胞破砕液から単離して構造決定することにより、標的蛋白質の同定を行うことができる。通常、この場合には、細胞破砕液の蛋白質全体を解析することが望ましい。解析方法としては、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、二次元電気泳動などのアクリルアミドゲル電気泳動法が挙げられる。電気泳動後のゲル、あるいはゲルから蛋白質を転写したポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜やニトロセルロース膜に対して、クマジー・ブリリアント・ブルー染色や銀染色等の方法により蛋白質全体を非特異的に染色し検出する。
薬物を添加した細胞破砕液について、プロテアーゼ阻害剤非存在下及び存在下それぞれの条件でプロテアーゼを作用させた場合の蛋白質全体のパターンを比較し、プロテアーゼ阻害剤非存在下で薬物添加により特異的に量が減少し、その量の減少がプロテアーゼ阻害剤存在下では阻害されるバンドやスポットを選択する。これらのバンドやスポットに相当する蛋白質は、薬物との結合によりコンフォメーションの変化を起こした結果、プロテアーゼ感受性が高くなり、プロテアーゼの分解をより多く受けるようになった蛋白質であり、添加した薬物の標的蛋白質と決定できる。
薬物を添加しなかった細胞破砕液のゲルあるいは蛋白質を転写した膜について、上記の解析で薬物依存的に量が減少しているバンドやスポットに相当するバンドやスポットを与える標的蛋白質は、以下のようにして単離して構造決定することができる。まず、相当するバンドあるいはスポットを切り出し、蛋白質をゲル上でトリプシンなどのプロテアーゼによりペプチドに切断後、該ペプチド混合物をMALDI−TOF(matrix assisted laser desorption ionization−time of flight)質量分析計により検出する。シークエンスデータベース上の配列のプロテアーゼ処理によって計算された理論上のペプチドの質量パターンと、実験的に得られたペプチド配列パターンとを比較する。ペプチド混合物の質量パターンの一致率などを加味したMOWSEスコア[Pappin et al.,Curr.Biol.3,327(1993)]の高い蛋白質が標的蛋白質であると決定できる。
複数の蛋白質が含まれている場合などには、以上の方法で決定できない場合もあるが、その場合には、ESI(electrospray ionization)を用いたタンデム質量分析法による解析を行い、部分シークエンスを得た後にGenBank等のEST(expressed sequence tag)のデータベースから検索、決定することができる[Pandey A and Mann M,Nature 405,837(2000)、谷口,実験医学17,2550(1999)]。すなわち、これらの方法から検索の結果見出された、一致するアミノ酸配列を含むデータベース中の蛋白質が、標的蛋白質であると決定できる。一致するアミノ酸配列が存在しない場合は、新規なアミノ酸配列を有する新規な蛋白質と判断できる。
4−2)特定の蛋白質が薬物の標的蛋白質であるかかどうかを評価する場合
ある特定の蛋白質が薬物の標的蛋白質であるかどうかを評価する場合は、蛋白質全体を解析する代わりに、評価の対象となる蛋白質を特異的に検出する。該蛋白質の特異的な検出法としては、該蛋白質を認識できる抗体を用いた方法があげられ、ウェスタン・ブロットやドット・ブロット、サンドイッチELISA等の酵素免疫測定法(enzyme immunoassay;EIA)、放射性免疫測定法(Radioimmunoassay;RIA)などをあげることができる。これらの方法は、文献[富山朔二・安東民衛編,単クローン抗体実験マニュアル,講談社サイエンティフィック(1987)、続生化学実験講座5,免疫生化学研究法,東京化学同人(1986)、Goding JW,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Thirdedition,Academic Press(1996)、Harlow E and Lane D,Antibodies:A laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]に基いて行うことができる。
該蛋白質の量がプロテアーゼ阻害剤非存在下で薬物依存的に減少し、その減少がプロテアーゼ阻害剤存在下では阻害される場合には、該蛋白質が薬物の標的蛋白質であると決定することができ、薬物依存的な減少が見られない場合、あるいはプロテアーゼ阻害剤存在下でも減少が見られる場合は、該蛋白質は薬物の標的蛋白質ではないと考えられる。
本発明の好ましい典型的な方法は、以下の工程(1)から(4)を含む。
(1)細胞破砕液を調製し、(a)薬物を添加した細胞破砕液(細胞破砕液(a))、及び(b)薬物及びプロテアーゼ阻害剤を添加した細胞破砕液(細胞破砕液(b))をそれぞれ調製する。
(2)上記工程(1)で調製した細胞破砕液(a)、細胞破砕液(b)、及び薬物もプロテアーゼ阻害剤も添加しない対照の細胞破砕液(対照細胞破砕液)をそのまま、あるいは外因性プロテアーゼを添加して保温することにより、プロテアーゼを細胞破砕液中の蛋白質に作用させる。
(3)保温後のそれぞれの細胞破砕液中の個々の蛋白質を検出し、対照細胞破砕液と比較したときに、細胞破砕液(a)では量が減少しており、細胞破砕液(b)ではその量の減少が阻害される蛋白質を選択する。
(4)選択した蛋白質(標的蛋白質)を単離して同定する。
また、別の典型的な方法では、上記工程(1)及び(2)に続けて以下の工程(5)及び(6)を含む。
(5)保温後のそれぞれの細胞破砕液中の個々の蛋白質をアクリルアミドゲル電気泳動によって分離して染色し、対照細胞破砕液と比較したときに、細胞破砕液(a)では面積が減少しており、細胞破砕液(b)ではその面積の減少が阻害されるバンド又はスポットを選択する。
(6)選択したバンド又はスポットを形成する蛋白質(標的蛋白質)を単離して同定する。
さらに別の典型的な方法では、上記工程(1)及び(2)に続けて以下の工程(7)を含む。
(7)保温後のそれぞれの細胞破砕液中のある特定の蛋白質を検出し、対照細胞破砕液と比較したときに、細胞破砕液(a)では該蛋白質の量が減少しており、細胞破砕液(b)ではその量の減少が阻害されることを検出する。
実施例
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に例示するが、本発明の範囲は実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例においては薬物としてUCS15Aを用いた。この薬物は、ストレプトマイセス属放線菌の培養液中から単離され、骨吸収抑制作用を有する物質(特開平8−268888号公報)であり、SI−4228(特公昭62−28959号公報)として報告されていた物質と同一の物質である。UCS15Aは骨吸収抑制作用の他、殺菌作用(特開昭58−116686号公報、特開昭63−22583号公報)、免疫抑制作用(特開昭61−293920号公報)、抗腫瘍活性(特開昭63−48213号公報)等の多様な作用を有する物質であるが、その作用機構及び標的蛋白質は不明であった。最近、UCS15Aが、チロシンキナーゼsrcの情報伝達を阻害するが、srcの酵素活性自体は阻害しないこと、さらにsrcとsrcの基質として知られているSam68の結合を特異的に阻害することが報告された[Sharma SV et al.,Oncogene,20,2068(2001)]。このことは、UCS15Aの標的蛋白質の一つがSam68であることを強く示唆するものである。
(1)細胞破砕液の調製
ヒト大腸癌細胞株HCT116(ATCC番号CCL−247)を10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modification of Eagle’s medium;DMEM)を用いて、37℃、5%CO2条件のCO2インキュベーターで細胞培養用100mm径ディッシュに培養し、3日ごとに1/5ずつに分けて継代して増殖させた。継代して3日目のHCT116細胞ディッシュ3枚分に対し、培地を取り除き、10mLの氷冷したPBSを加えてから取り除くことにより細胞を洗浄した。この細胞に、低浸透圧であるRSB(10mmol/Lトリス−塩酸 pH7.6、10mmol/L NaCl、1.5mmol/L MgCl2)10mLを加えた。氷上に10分間置き、細胞を膨張させた後、細胞をディッシュからはがして、RBSごと15mL容量のダウンス・ホモゲナイザーにいれた。ホモゲナイザーのすりつぶし棒を50往復させて細胞を破砕した。この細胞破砕液を4℃、15、000rpmで30分間遠心分離し、上清を回収し、1mLずつ10本に分けた。
(2)UCS15Aのプロテアーゼ分解アッセイ
UCS15Aは特開昭58−116686号公報の記載に基づきストレプトマイセス属放線菌より単離精製し、10mmol/Lの濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を調製した。UCS15Aを(1)で調製したHCT116細胞破砕液10本にそれぞれ、終濃度0(DMSOのみ)、25、50、75、100、150、200、225、250及び300μmol/Lになるように添加した。なお、添加するUCS15AはあらかじめDMSOで希釈し、添加するDMSOの量はどれも同じになるようにした。
UCS15Aを添加した細胞破砕液を、回転培養機でゆるやかに回転させながら37℃で12時間保温して、細胞内在性プロテアーゼを反応させた。反応後の細胞破砕液それぞれに333μLの4×濃度のレムリのサンプルバッファーを添加し、よく混合させた後、100℃で10分間加熱した。この20μLをそれぞれ8.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。電気泳動後のゲルをクマジー・ブリリアント・ブルー(Coomassie brilliant blue;ナカライテスク株式会社製)で染色した。その結果を第1図(左図)に示したが、UCS15Aの濃度が上昇するとともに量が減少しているいくつかの蛋白質が観察された。
(3)ウェスタンブロットによるSam68の検出
以下のようにしてウェスタンブロットにより細胞破砕液中のSam68を検出した。まず、上記(2)の電気泳動後のゲルから蛋白質を孔径0.45μmのニトロセルロース膜〔プロトラン(Protran);シュライシャー・アンド・シュエル(Schleicher and Schuell)社製〕にブロットした。膜に0.25%ゼラチンと0.2%Tween−20を含むPBS(以下PBS−TGとよぶ。)を乗せて4℃で一晩置いて非特異的結合をブロックした後、まず一次抗体としてPBS−TGで1:1000に希釈したウサギ抗Sam68ポリクローナル抗体〔サンタ・クルズ(Santa Cruz)社製〕を2時間反応させた。0.2%Tween−20を含むPBS(以下PBS−Tとよぶ)で洗浄した後、次に二次抗体としてPBS−TGで1:4000に希釈したホース・ラディッシュ・パーオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗ウサギIgG抗体〔アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)社製〕を1時間反応させた。検出はECL試薬(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)を用いた化学発光により行った。その結果、第1図(右図)に示すようにUCS15Aの濃度が上昇するとともに細胞破砕液中のSam68の量が減少していることが確認された。
(4)プロテアーゼ阻害剤の効果
(3)のSam68の量の減少がプロテアーゼによる分解によるものであることを、以下に示すプロテアーゼ阻害剤の添加により確認した。
(2)に記載したプロテアーゼ分解アッセイの際に、UCS15Aと共に広範囲のプロテアーゼを阻害できるプロテアーゼ阻害剤カクテル〔コンプリート(Complete);ロシュ(Roche)社製〕を添加して同様に反応を行い、電気泳動後、(3)と同様にしてウェスタンブロットによるSam68の検出を行った。阻害剤の添加条件等は試薬に付属するメーカーのマニュアルに従った。その結果、図2に示すように、プロテアーゼ阻害剤の添加により細胞破砕液中のSam68の量の減少は抑えられた。したがって、Sam68の量の減少はプロテアーゼによる分解であることが確認され、Sam68はUCS15A存在下で内在性プロテアーゼに感受性になることが確認された。
なお、第2図のプロテアーゼ阻害剤存在下と非存在下でのウェスタンブロットは両者とも同量の細胞破砕液を使用し、検出のための感光時間も同一で行ったが、両者のレーン2を比較すると、UCS15Aを添加しなかった場合は、37℃で12時間保温しても、プロテアーゼ阻害剤の非存在下でのSam68の蛋白質量は、プロテアーゼ阻害剤存在下でのSam68の蛋白質量と変わらなかった。したがって、Sam68は内在性プロテアーゼに対して元来非常に安定な蛋白質であることがわかった。
産業上の利用可能性
本発明の方法によれば、簡便かつ正確に薬物の標的蛋白質を決定できる。該方法は、新たな薬物の探索や見出された薬物の評価、副作用の分離等の医薬の創製のための手段として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、HCT116の細胞破砕液を用いた、UCS15Aを濃度を変えて添加した蛋白質のプロテアーゼ分解アッセイの結果を示す図である。左はSDS−PAGEのクマジー・ブリリアント・ブルー染色の結果、右は、ウェスタン・ブロットによりSam68を特異的に検出した結果である。両者とも各レーンの上の数字は細胞破砕液に添加したUCS15Aの濃度(μmol/L)を示し、Mは分子量マーカー、左の数字は分子量マーカーの各分子量(kDa)を示す。
第2図は、細胞破砕液中のSam68の分解に対するプロテアーゼ阻害剤の効果を示す図である。上は、プロテアーゼ阻害剤を添加しない場合、下はプロテアーゼ阻害剤を添加した場合の、UCS15Aを濃度を変えて添加したプロテアーゼ分解アッセイで、ウェスタン・ブロットによりSam68を特異的に検出した結果である。両者とも各レーンの上の数字は細胞破砕液に添加したUCS15Aの濃度(μmol/L)を示し、Mは分子量マーカーを示す。
本発明は薬物の標的蛋白質を決定する方法に関する。
背景技術
薬物は生体内で特定の物質と結合し、その物質の機能を変化させることにより、生体に対しその薬理効果を示す。多くの場合、この生体内の物質は蛋白質であり、薬物の標的蛋白質と呼ばれる。薬物の結合により引き起こされるこの標的蛋白質の機能の変化は、標的蛋白質の何らかの構造変化を伴なうと考えられている[米国特許第5585277号、同第5679582号、特開平9−178746号公報、国際公開WO97/20952]。ある薬物の標的蛋白質を決定し、薬物とその標的蛋白質が結合した時の標的蛋白質の機能の変化の内容や、その機能の変化と薬理効果の関係を解明していくこと、すなわち薬物が生体内で薬理効果を示す機構を明らかにすることは、新たな薬物の探索や見出された薬物の評価、副作用の分離等を行ううえで非常に重要である。
この薬物の作用の機構の解明のためには、まず標的蛋白質の決定が必要である。薬物の標的蛋白質の決定法としては、標的蛋白質が薬物と結合することを利用して、アフィニティークロマトグラフィーにより組織や細胞から標的蛋白質を精製する方法[Shimizu N et al.,Nat.Biotechnol.18,877(2000)、Fruichi H et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.270,1002(2000)、Jbilo O et al.,J.Biol.Chem.272,27107(1997)]や、蛋白質発現型のcDNAライブラリーを構築し、薬物をプローブとして結合する発現クローンを単離する方法(特開平10−248571号公報、特表2000−508923号公報)が知られている。これらの方法により、まず薬物と結合する標的蛋白質あるいは標的蛋白質をコードする遺伝子を単離し、その構造を分析することにより標的蛋白質を決定することができる。
しかしながら、これらの方法では薬物と担体とを結合させる必要があり、標的蛋白質の決定のためには、担体との結合により本来の薬物の立体構造がくずれたり、薬物と標的蛋白質との結合が阻害されないように担体を設計しなければならない。通常は、薬物の薬理活性に大きな影響をおよぼさない官能基を用いて薬物と担体とを結合させるが、活性に影響を及ぼさない官能基を選択するためには、その薬物についての構造活性相関のデータが必要であり、この構造活性相関のデータを得るためには多くの労力がかかるという問題がある。
発明の開示
本発明の課題は、薬物の標的蛋白質を決定する方法を提供することにある。より具体的には、薬物を担体に結合させる必要がなく、簡便かつ正確に薬物の標的蛋白質を決定できる方法を提供することが本発明の課題である。
一般に、細胞内で天然に存在する蛋白質は、ポリペプチド鎖が折りたたまれて本来の立体構造をとっており、非常に安定であることが知られている[Levitt M et al.,Annu.Rev.Biochem.66,549(1997)]。本発明者らは、標的蛋白質が薬物と結合してその機能を変化させる場合、何らかの構造変化がおこり、そのためプロテアーゼに対して感受性が高まると予測した。本発明者らは、その仮説を実証すべく、細胞に薬物を投与して細胞内の蛋白質のプロテアーゼ感受性の変化を解析したところ、標的蛋白質がプロテアーゼ感受性に変化すること、及びプロテアーゼ感受性に変化を生じる蛋白質を検出することにより、その蛋白質を該薬物の標的蛋白質として決定できることを見出した。上記方法は、薬物と担体とを結合させる工程を省略でき、予め薬物の構造活性相関のデータを取得する必要がないことから、極めて簡便かつ正確に薬物の標的蛋白質を決定できる。本発明は上記の知見を基にして完成された。
すなわち、本発明により、以下の(1)〜(13)が提供される。
(1)薬物の標的蛋白質を決定する方法であって、薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を該薬物の標的蛋白質であると判定する工程を含む方法。
(2)細胞破砕液に含まれる蛋白質のなかから薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を選択する工程を含む(1)に記載の方法。
(3)プロテアーゼとして細胞の内在性プロテアーゼを用いる(1)又は(2)に記載の方法。
(4)プロテアーゼとして外来性プロテアーゼをさらに添加する工程を含む(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)プロテアーゼ感受性の上昇を該蛋白質の分解量の上昇として検出する(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)プロテアーゼ阻害剤の存在下において該蛋白質の分解量の上昇の抑制を検出する工程をさらに含む(5)に記載の方法。
(7)アクリルアミドゲル電気泳動を用いて蛋白質の量の変化を検出する(5)又は(6)に記載の方法。
(8)アクリルアミドゲル電気泳動がSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動又は二次元電気泳動である(7)に記載の方法。
(9)選択された蛋白質を同定する工程を含む(1)ないし(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10)選択された蛋白質を単離して同定する工程を含む(9)に記載の方法。
(11)該蛋白質を検出する工程を含む(1)ないし(8)のいずれか1項に記載の方法。
(12)該蛋白質を認識する抗体を用いて検出を行う(11)に記載の方法。
(13)ウェスタンブロット、ドットブロット、酵素免疫測定法、又は放射性免疫測定法により検出を行う(12)に記載の方法。
発明を実施するための最良の形態
本発明の方法は、薬物の標的蛋白質を決定する方法であって、薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を該薬物の標的蛋白質であると判定する工程を含むことを特徴としている。本発明の方法は、薬物の標的蛋白質であることが予想される1の蛋白質を対象として、該薬物の標的蛋白質であるか否かを判定するために用いることができる。また、本発明の方法は、2以上の蛋白質を含む混合物のなかから薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を選択するために用いることができる。
好ましくは、本発明の方法は、細胞破砕液を用い、該細胞破砕液中に含まれる蛋白質のなかから薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を選択する工程を含む。細胞破砕液を用いてイン・ビトロ(in vitro)の条件で上記の選択を行うことにより、イン・ビボ条件、すなわち細胞の培養時に薬物を添加して解析する場合よりも簡便に標的蛋白質を決定でき、標的蛋白質以降の情報伝達分子による二次的な作用、あるいは蛋白質の合成や分解機構への作用等の間接的な作用による蛋白質の変化を排除して、薬物の直接的な作用による蛋白質の変化のみを検出することができる。
薬物の存在下における蛋白質のプロテアーゼ感受性の上昇は、一般的には、プロテアーゼによるその蛋白質の分解量の上昇として検出できる。例えば、薬物の存在下において蛋白質混合物をプロテアーゼで処理して個々の蛋白質を検出し、各蛋白質の量の変化を解析することができる。この解析により、蛋白質の量が減少した蛋白質が検出された場合には、その蛋白質がプロテアーゼによる分解を受けており、その蛋白質のプロテアーゼ感受性が上昇したと認定される。上記の検出を行うにあたっては、薬物の非存在下において同様のプロテアーゼ処理を行って対照として用いるのがよい。上記のようにしてプロテアーゼ感受性が上昇した蛋白質がその薬物の標的蛋白質であると判定できる。
本発明の方法を行うにあたり、プロテアーゼとしては、細胞に由来するプロテアーゼ(本明細書において「内在性」のプロテアーゼと呼ぶ場合がある。)で十分な場合もあるが、必要に応じて適宜の種類のプロテアーゼ(該細胞に由来しないもの、本明細書において「外来性」プロテアーゼと呼ぶ場合がある。)を添加してもよい。2種以上のプロテアーゼを適宜組み合わせて反応系に添加してもよい。
さらに、プロテアーゼ反応をプロテアーゼ阻害剤の存在下で行ない、プロテアーゼ阻害剤の非存在下で行った場合の結果と比較することにより、蛋白質の量の減少が認められた場合に、その減少がプロテアーゼによる蛋白質の分解量の上昇によるものであり、他の原因、例えば蛋白質の凝集等によるものでないことを証明できる。
本発明の方法の好ましい態様として、蛋白質混合物として細胞破砕液を用いる場合について具体的に説明するが、本発明の方法は下記の説明の細部に限定されることはない。
1)細胞破砕液の調製
細胞破砕液は、薬物の標的蛋白質を決定すべき細胞や組織から調製することができいる。細胞破砕液の調製に用いる細胞又は組織としては、樹立された細胞株、血液や組織から分離した細胞、生体から採取した組織など、いかなるものを用いてもよい。一定の培養条件下で保存された細胞株を用い、細胞破砕液の調製時の条件を同一にすることにより、細胞破砕液に含まれる総蛋白質の質的な変動が少なく、再現性のよい結果を得ることができる。
細胞破砕液は、細胞や組織を適当な緩衝液と共に通常のホモゲナイザー、例えばダウンス・ホモゲナイザー(Dounce homogenizer)やポリトロン・ホモゲナイザー(Polytron homogenizer)等の組織用のホモゲナイザーを用いて物理的にすりつぶすか、あるいは超音波発振装置を用いて細胞を破砕し、得られた液を遠心分離した上清として調製することができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液(phosphate buffered saline;PBS)や網膜状赤血球膨潤緩衝液(reticulocyte swelling buffer;RSB:10mmol/Lトリス−塩酸 pH7.6、10mmol/L NaCl、1.5mmol/L MgCl2)等の低濃度のNaCl等の塩類を含む中性付近のリン酸系やトリス系の緩衝液を用いることができる。
2)薬物の添加
上記で得られた細胞破砕液に薬物を添加する。対照として、薬物を添加しない細胞破砕液も用意することが望ましい。蛋白質の分解が薬物の濃度に依存的であることを見るために、複数の薬物濃度で試験を行うことが好ましい。薬物が固体の場合は、細胞破砕液作成時の緩衝液、又は適当な溶媒に溶解して添加することができる。この場合はコントロールの薬物非添加の細胞破砕液にも薬物の溶解に用いた溶媒を添加するのが好ましい。添加する溶媒の量は、各細胞破砕液で全て同じにするのが好ましい。
3)プロテアーゼ反応
上記の薬物を添加した細胞破砕液にプロテアーゼを作用させる。細胞破砕液には通常は細胞由来のプロテアーゼが十分量含まれているので、細胞破砕液をそのまま25〜42℃、好ましくは37℃で保温することにより、プロテアーゼを作用させることができる。特定の蛋白質の量の減少がプロテアーゼによる分解によって生じたことを確認するために、プロテアーゼ阻害剤、好ましくは様々なプロテアーゼを広範に阻害するプロテアーゼ阻害剤混合物を添加した反応系を用意し、プロテアーゼ阻害剤を添加しない条件でプロテアーゼを作用させた系での結果と比較検討することが好ましい。プロテアーゼ阻害剤を添加した系においてその蛋白質の量の減少が認められず、一方、プロテアーゼ阻害剤を添加しない系において蛋白質量の減少が認められる場合には、蛋白質の量の減少がプロテアーゼによる分解で生じたと認定できる。
プロテアーゼを作用させる時間は特に限定されないが、細胞破砕液中の蛋白質全体を分解することなく、しかもプロテアーゼ感受性の上昇した標的蛋白質の特異的分解のためには十分である作用時間を適宜選択する必要がある。本明細書の実施例には、細胞破砕液を用いた本発明の方法の典型例が具体的かつ詳細に説明されているので、上記のプロテアーゼ作用時間は、細胞の種類や薬物の種類などの種々の条件に応じて、本明細書の実施例を参照することにより、当業者が適宜選択できることは言うまでもない。
例えば、薬物を添加しない細胞破砕液を30分〜24時間の間でいくつかの時間について同様に保温してプロテアーゼを作用させ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により蛋白質を検出し、適用した反応時間のうち、プロテアーゼを作用させる前と比較して50kDa以上の領域にもスメア状でなくはっきりとした蛋白質のバンドが多数見られる時間を反応時間として選択することができる。また、このように選択された時間の中では長い時間の方が好ましい。細胞により、含まれるプロテアーゼの量が異なるので、好ましい作用時間は異なるが、例えばHCT116細胞(ATCC番号CCL−247)の細胞破砕液では6〜12時間が好ましい。
上記の細胞破砕液にさらに外来性プロテアーゼを添加する場合、プロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、V8プロテアーゼ、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ、リジルエンドペプチダーゼ、プロテイナーゼK、テルモリシン、パパイン、ズブチリシン、又はそれらの混合物などを挙げることができる。
4)蛋白質の解析と標的蛋白質の決定
プロテアーゼ阻害剤の存在下及び非存在下のそれぞれの条件でプロテアーゼを作用させた細胞破砕液中の個々の蛋白質を解析し、各蛋白質のプロテアーゼ感受性の上昇を検出する。ある蛋白質におけるプロテアーゼ感受性の上昇は、通常は、それぞれの条件下の細胞破砕液中の蛋白質を解析したときに特異的に認めらる蛋白質量の減少であって、薬物量に依存した減少として検出され、かつプロテアーゼ阻害剤存在下ではその減少が阻害される現象として検出できる。このようにして、プロテアーゼ感受性の上昇が検出された蛋白質を薬物の標的蛋白質として決定することができる。以下、細胞破砕液に含まれる標的蛋白質を同定する方法と、ある特定の蛋白質が標的蛋白質であるかどうかを評価する方法とに分けて説明する。
4−1)標的蛋白質の同定
標的蛋白質が未知の場合は、プロテアーゼ感受性の上昇が検出された蛋白質を細胞破砕液から単離して構造決定することにより、標的蛋白質の同定を行うことができる。通常、この場合には、細胞破砕液の蛋白質全体を解析することが望ましい。解析方法としては、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、二次元電気泳動などのアクリルアミドゲル電気泳動法が挙げられる。電気泳動後のゲル、あるいはゲルから蛋白質を転写したポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜やニトロセルロース膜に対して、クマジー・ブリリアント・ブルー染色や銀染色等の方法により蛋白質全体を非特異的に染色し検出する。
薬物を添加した細胞破砕液について、プロテアーゼ阻害剤非存在下及び存在下それぞれの条件でプロテアーゼを作用させた場合の蛋白質全体のパターンを比較し、プロテアーゼ阻害剤非存在下で薬物添加により特異的に量が減少し、その量の減少がプロテアーゼ阻害剤存在下では阻害されるバンドやスポットを選択する。これらのバンドやスポットに相当する蛋白質は、薬物との結合によりコンフォメーションの変化を起こした結果、プロテアーゼ感受性が高くなり、プロテアーゼの分解をより多く受けるようになった蛋白質であり、添加した薬物の標的蛋白質と決定できる。
薬物を添加しなかった細胞破砕液のゲルあるいは蛋白質を転写した膜について、上記の解析で薬物依存的に量が減少しているバンドやスポットに相当するバンドやスポットを与える標的蛋白質は、以下のようにして単離して構造決定することができる。まず、相当するバンドあるいはスポットを切り出し、蛋白質をゲル上でトリプシンなどのプロテアーゼによりペプチドに切断後、該ペプチド混合物をMALDI−TOF(matrix assisted laser desorption ionization−time of flight)質量分析計により検出する。シークエンスデータベース上の配列のプロテアーゼ処理によって計算された理論上のペプチドの質量パターンと、実験的に得られたペプチド配列パターンとを比較する。ペプチド混合物の質量パターンの一致率などを加味したMOWSEスコア[Pappin et al.,Curr.Biol.3,327(1993)]の高い蛋白質が標的蛋白質であると決定できる。
複数の蛋白質が含まれている場合などには、以上の方法で決定できない場合もあるが、その場合には、ESI(electrospray ionization)を用いたタンデム質量分析法による解析を行い、部分シークエンスを得た後にGenBank等のEST(expressed sequence tag)のデータベースから検索、決定することができる[Pandey A and Mann M,Nature 405,837(2000)、谷口,実験医学17,2550(1999)]。すなわち、これらの方法から検索の結果見出された、一致するアミノ酸配列を含むデータベース中の蛋白質が、標的蛋白質であると決定できる。一致するアミノ酸配列が存在しない場合は、新規なアミノ酸配列を有する新規な蛋白質と判断できる。
4−2)特定の蛋白質が薬物の標的蛋白質であるかかどうかを評価する場合
ある特定の蛋白質が薬物の標的蛋白質であるかどうかを評価する場合は、蛋白質全体を解析する代わりに、評価の対象となる蛋白質を特異的に検出する。該蛋白質の特異的な検出法としては、該蛋白質を認識できる抗体を用いた方法があげられ、ウェスタン・ブロットやドット・ブロット、サンドイッチELISA等の酵素免疫測定法(enzyme immunoassay;EIA)、放射性免疫測定法(Radioimmunoassay;RIA)などをあげることができる。これらの方法は、文献[富山朔二・安東民衛編,単クローン抗体実験マニュアル,講談社サイエンティフィック(1987)、続生化学実験講座5,免疫生化学研究法,東京化学同人(1986)、Goding JW,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Thirdedition,Academic Press(1996)、Harlow E and Lane D,Antibodies:A laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]に基いて行うことができる。
該蛋白質の量がプロテアーゼ阻害剤非存在下で薬物依存的に減少し、その減少がプロテアーゼ阻害剤存在下では阻害される場合には、該蛋白質が薬物の標的蛋白質であると決定することができ、薬物依存的な減少が見られない場合、あるいはプロテアーゼ阻害剤存在下でも減少が見られる場合は、該蛋白質は薬物の標的蛋白質ではないと考えられる。
本発明の好ましい典型的な方法は、以下の工程(1)から(4)を含む。
(1)細胞破砕液を調製し、(a)薬物を添加した細胞破砕液(細胞破砕液(a))、及び(b)薬物及びプロテアーゼ阻害剤を添加した細胞破砕液(細胞破砕液(b))をそれぞれ調製する。
(2)上記工程(1)で調製した細胞破砕液(a)、細胞破砕液(b)、及び薬物もプロテアーゼ阻害剤も添加しない対照の細胞破砕液(対照細胞破砕液)をそのまま、あるいは外因性プロテアーゼを添加して保温することにより、プロテアーゼを細胞破砕液中の蛋白質に作用させる。
(3)保温後のそれぞれの細胞破砕液中の個々の蛋白質を検出し、対照細胞破砕液と比較したときに、細胞破砕液(a)では量が減少しており、細胞破砕液(b)ではその量の減少が阻害される蛋白質を選択する。
(4)選択した蛋白質(標的蛋白質)を単離して同定する。
また、別の典型的な方法では、上記工程(1)及び(2)に続けて以下の工程(5)及び(6)を含む。
(5)保温後のそれぞれの細胞破砕液中の個々の蛋白質をアクリルアミドゲル電気泳動によって分離して染色し、対照細胞破砕液と比較したときに、細胞破砕液(a)では面積が減少しており、細胞破砕液(b)ではその面積の減少が阻害されるバンド又はスポットを選択する。
(6)選択したバンド又はスポットを形成する蛋白質(標的蛋白質)を単離して同定する。
さらに別の典型的な方法では、上記工程(1)及び(2)に続けて以下の工程(7)を含む。
(7)保温後のそれぞれの細胞破砕液中のある特定の蛋白質を検出し、対照細胞破砕液と比較したときに、細胞破砕液(a)では該蛋白質の量が減少しており、細胞破砕液(b)ではその量の減少が阻害されることを検出する。
実施例
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に例示するが、本発明の範囲は実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例においては薬物としてUCS15Aを用いた。この薬物は、ストレプトマイセス属放線菌の培養液中から単離され、骨吸収抑制作用を有する物質(特開平8−268888号公報)であり、SI−4228(特公昭62−28959号公報)として報告されていた物質と同一の物質である。UCS15Aは骨吸収抑制作用の他、殺菌作用(特開昭58−116686号公報、特開昭63−22583号公報)、免疫抑制作用(特開昭61−293920号公報)、抗腫瘍活性(特開昭63−48213号公報)等の多様な作用を有する物質であるが、その作用機構及び標的蛋白質は不明であった。最近、UCS15Aが、チロシンキナーゼsrcの情報伝達を阻害するが、srcの酵素活性自体は阻害しないこと、さらにsrcとsrcの基質として知られているSam68の結合を特異的に阻害することが報告された[Sharma SV et al.,Oncogene,20,2068(2001)]。このことは、UCS15Aの標的蛋白質の一つがSam68であることを強く示唆するものである。
(1)細胞破砕液の調製
ヒト大腸癌細胞株HCT116(ATCC番号CCL−247)を10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modification of Eagle’s medium;DMEM)を用いて、37℃、5%CO2条件のCO2インキュベーターで細胞培養用100mm径ディッシュに培養し、3日ごとに1/5ずつに分けて継代して増殖させた。継代して3日目のHCT116細胞ディッシュ3枚分に対し、培地を取り除き、10mLの氷冷したPBSを加えてから取り除くことにより細胞を洗浄した。この細胞に、低浸透圧であるRSB(10mmol/Lトリス−塩酸 pH7.6、10mmol/L NaCl、1.5mmol/L MgCl2)10mLを加えた。氷上に10分間置き、細胞を膨張させた後、細胞をディッシュからはがして、RBSごと15mL容量のダウンス・ホモゲナイザーにいれた。ホモゲナイザーのすりつぶし棒を50往復させて細胞を破砕した。この細胞破砕液を4℃、15、000rpmで30分間遠心分離し、上清を回収し、1mLずつ10本に分けた。
(2)UCS15Aのプロテアーゼ分解アッセイ
UCS15Aは特開昭58−116686号公報の記載に基づきストレプトマイセス属放線菌より単離精製し、10mmol/Lの濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を調製した。UCS15Aを(1)で調製したHCT116細胞破砕液10本にそれぞれ、終濃度0(DMSOのみ)、25、50、75、100、150、200、225、250及び300μmol/Lになるように添加した。なお、添加するUCS15AはあらかじめDMSOで希釈し、添加するDMSOの量はどれも同じになるようにした。
UCS15Aを添加した細胞破砕液を、回転培養機でゆるやかに回転させながら37℃で12時間保温して、細胞内在性プロテアーゼを反応させた。反応後の細胞破砕液それぞれに333μLの4×濃度のレムリのサンプルバッファーを添加し、よく混合させた後、100℃で10分間加熱した。この20μLをそれぞれ8.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。電気泳動後のゲルをクマジー・ブリリアント・ブルー(Coomassie brilliant blue;ナカライテスク株式会社製)で染色した。その結果を第1図(左図)に示したが、UCS15Aの濃度が上昇するとともに量が減少しているいくつかの蛋白質が観察された。
(3)ウェスタンブロットによるSam68の検出
以下のようにしてウェスタンブロットにより細胞破砕液中のSam68を検出した。まず、上記(2)の電気泳動後のゲルから蛋白質を孔径0.45μmのニトロセルロース膜〔プロトラン(Protran);シュライシャー・アンド・シュエル(Schleicher and Schuell)社製〕にブロットした。膜に0.25%ゼラチンと0.2%Tween−20を含むPBS(以下PBS−TGとよぶ。)を乗せて4℃で一晩置いて非特異的結合をブロックした後、まず一次抗体としてPBS−TGで1:1000に希釈したウサギ抗Sam68ポリクローナル抗体〔サンタ・クルズ(Santa Cruz)社製〕を2時間反応させた。0.2%Tween−20を含むPBS(以下PBS−Tとよぶ)で洗浄した後、次に二次抗体としてPBS−TGで1:4000に希釈したホース・ラディッシュ・パーオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗ウサギIgG抗体〔アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)社製〕を1時間反応させた。検出はECL試薬(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)を用いた化学発光により行った。その結果、第1図(右図)に示すようにUCS15Aの濃度が上昇するとともに細胞破砕液中のSam68の量が減少していることが確認された。
(4)プロテアーゼ阻害剤の効果
(3)のSam68の量の減少がプロテアーゼによる分解によるものであることを、以下に示すプロテアーゼ阻害剤の添加により確認した。
(2)に記載したプロテアーゼ分解アッセイの際に、UCS15Aと共に広範囲のプロテアーゼを阻害できるプロテアーゼ阻害剤カクテル〔コンプリート(Complete);ロシュ(Roche)社製〕を添加して同様に反応を行い、電気泳動後、(3)と同様にしてウェスタンブロットによるSam68の検出を行った。阻害剤の添加条件等は試薬に付属するメーカーのマニュアルに従った。その結果、図2に示すように、プロテアーゼ阻害剤の添加により細胞破砕液中のSam68の量の減少は抑えられた。したがって、Sam68の量の減少はプロテアーゼによる分解であることが確認され、Sam68はUCS15A存在下で内在性プロテアーゼに感受性になることが確認された。
なお、第2図のプロテアーゼ阻害剤存在下と非存在下でのウェスタンブロットは両者とも同量の細胞破砕液を使用し、検出のための感光時間も同一で行ったが、両者のレーン2を比較すると、UCS15Aを添加しなかった場合は、37℃で12時間保温しても、プロテアーゼ阻害剤の非存在下でのSam68の蛋白質量は、プロテアーゼ阻害剤存在下でのSam68の蛋白質量と変わらなかった。したがって、Sam68は内在性プロテアーゼに対して元来非常に安定な蛋白質であることがわかった。
産業上の利用可能性
本発明の方法によれば、簡便かつ正確に薬物の標的蛋白質を決定できる。該方法は、新たな薬物の探索や見出された薬物の評価、副作用の分離等の医薬の創製のための手段として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、HCT116の細胞破砕液を用いた、UCS15Aを濃度を変えて添加した蛋白質のプロテアーゼ分解アッセイの結果を示す図である。左はSDS−PAGEのクマジー・ブリリアント・ブルー染色の結果、右は、ウェスタン・ブロットによりSam68を特異的に検出した結果である。両者とも各レーンの上の数字は細胞破砕液に添加したUCS15Aの濃度(μmol/L)を示し、Mは分子量マーカー、左の数字は分子量マーカーの各分子量(kDa)を示す。
第2図は、細胞破砕液中のSam68の分解に対するプロテアーゼ阻害剤の効果を示す図である。上は、プロテアーゼ阻害剤を添加しない場合、下はプロテアーゼ阻害剤を添加した場合の、UCS15Aを濃度を変えて添加したプロテアーゼ分解アッセイで、ウェスタン・ブロットによりSam68を特異的に検出した結果である。両者とも各レーンの上の数字は細胞破砕液に添加したUCS15Aの濃度(μmol/L)を示し、Mは分子量マーカーを示す。
Claims (13)
- 薬物の標的蛋白質を決定する方法であって、薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を該薬物の標的蛋白質であると判定する工程を含む方法。
- 細胞破砕液に含まれる蛋白質のなかから薬物の存在下においてプロテアーゼ感受性が上昇する蛋白質を選択する工程を含む請求の範囲第1項に記載の方法。
- プロテアーゼとして細胞の内在性プロテアーゼを用いる請求の範囲第1項又は第2項に記載の方法。
- プロテアーゼとして外来性プロテアーゼをさらに添加する工程を含む請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の方法。
- プロテアーゼ感受性の上昇を該蛋白質の分解量の上昇として検出する請求の範囲第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の方法。
- プロテアーゼ阻害剤の存在下において該蛋白質の分解量の上昇の抑制を検出する工程をさらに含む請求の範囲第5項に記載の方法。
- アクリルアミドゲル電気泳動を用いて蛋白質の量の変化を検出する請求の範囲第5項又は第6項に記載の方法。
- アクリルアミドゲル電気泳動がSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動又は二次元電気泳動である請求の範囲第7項に記載の方法。
- 選択された蛋白質を同定する工程を含む請求の範囲第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の方法。
- 選択された蛋白質を単離して同定する工程を含む請求の範囲第9項に記載の方法。
- 該蛋白質を検出する工程を含む請求の範囲第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の方法。
- 該蛋白質を認識する抗体を用いて検出を行う請求の範囲第11項に記載の方法。
- ウェスタンブロット、ドットブロット、酵素免疫測定法、又は放射性免疫測定法により検出を行う請求の範囲第12項に記載の方法。
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