JPWO2002027328A1 - 抗体分子の構造解析法 - Google Patents
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Abstract
抗体分子のH鎖およびL鎖を分離し、分離した各鎖を消化し、各々から得られたペプチド断片を解析して抗体分子の一次構造を解析する方法が提供された。In gel消化を組み合わせれば、より再現性を高めることができる。抗体分子の解析を、少ない工程で、再現性良く実施できる。また、本発明に基づいて抗体分子の品質評価を容易に行うことができる。
Description
技術分野
本発明は、抗体分子の一次構造を解析する方法に関する。より具体的には、抗体分子をH鎖およびL鎖に分離し、分離した各鎖を断片化し、各々から得られたペプチド断片を解析して抗体分子の一次構造を解析する方法に関する。
また本発明は、抗体分子のH鎖およびL鎖のそれぞれについて、消化により得られるペプチド断片を解析してペプチドマップを作成する方法を提供する。さらに本発明は、構造未知の抗体のH鎖のサブクラスおよびL鎖のタイプを推定する方法を提供する。
背景技術
抗体分子は、H鎖およびL鎖からなり、例えばIgGではH鎖、L鎖それぞれ二本がジスルフィド結合(S−S結合)を介して4量体として構成されている。抗体分子にはいくつかの構造上の不均一性が起こりうる。例えば、N末端のブロッキング、C末端アミノ酸の欠落、脱アミド化、酸化、メチル化、スクシニル化、グリコシレーション等が一般に報告されている。これらの構造上の不均一性は抗体の機能や安定性に影響を与えるため、不均一性の確認は重要である。特に、医薬用途での抗体分子の利用では、不均一性の解析を行うことが、品質評価を行う上で重要になる。また、初期物性評価としてアミノ酸配列を確認することと、原体規格試験や品質保証に用いるペプチドマッピング系を構築することは医薬品開発を進める上で必須である。そこで、より簡便に、より短期間にそれらを調べることができる分析系が必要となる。
抗体分子の一次構造解析では、酵素的あるいは化学的手法により断片化が行われる。しかし抗体分子は、一般に多量体構造であるうえに分子量が大きい。例えば代表的な抗体分子であるIgGの分子量は約15万である。そのため、抗体分子を直接断片化した場合は、複雑なペプチド断片混合物となり、各断片を分離して帰属することは困難である。よって、このような方法によっては高い再現性を期待することはできない。
多量体であることの影響を避けるために、逆相系高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)等の液体クロマトグラフィーでH鎖およびL鎖に分離した後で断片化することも考えられる。ところが、H鎖とL鎖はS−S結合(共有結合)以外にイオン結合、疎水結合、水素結合などの非共有結合によっても強く結合しているため、H鎖およびL鎖を液体クロマトグラフィーによって回収率よく分取することは困難である。その結果、従来の解析方法では試料として多量の抗体が必要とされていた。
発明の開示
本発明は、抗体分子の一次構造解析において、抗体分子を断片化して得られるペプチド断片を種類・量の両面から収率よく回収し解析する方法を提供することを目的とする。また、抗体分子を断片化して得られるペプチド断片を、適切な分離手段(例えばRP−HPLC)で分離分取し、解析した結果をもとに再現性のよいペプチドマップを作成し、より簡便にかつより短期間に抗体分子の不均一性の解析および品質評価を行う方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、得られるペプチドマップの比較により、構造未知の抗体のH鎖のサブクラス及びL鎖タイプの同定を容易に行い、可変領域の解析を効率よく行う方法を提供する。
前記課題を解決するために、本発明者らは、抗体分子の持つ構造上の特徴に着目した。その結果、抗体分子の分子量が大きいこととともに、その多量体構造が、抗体分子の解析における障害となっていることを見出した。そして、抗体分子を予めH鎖とL鎖とに分離し、分離した状態でこれらを断片化することによって、前述のような障害が取り除かれることを明らかにした。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。すなわち本発明は、以下の解析方法、並びにこの解析方法の用途に関する。
〔1〕次の工程を含む、抗体分子の構造解析方法。
a)抗体分子をH鎖とL鎖に分離する工程、
b)分離したH鎖とL鎖を断片化する工程、および
c)断片化により得られたペプチド断片を解析する工程
〔2〕変性ゲル電気泳動によって、抗体分子をH鎖とL鎖に分離する〔1〕に記載の方法。
〔3〕抗体分子をH鎖とL鎖に分離する前に、抗体分子のジスルフィド結合を還元により切断する〔1〕に記載の方法。
〔4〕抗体分子のジスルフィド結合を還元することで生じたチオール基を修飾により不可逆化する〔3〕に記載の方法。
〔5〕分離したH鎖とL鎖をゲル中で断片化する〔2〕に記載の方法。
〔6〕断片化したペプチドをゲルから溶出する工程を含む〔5〕に記載の方法。
〔7〕分離したH鎖とL鎖をタンパク質吸着膜に転写し、タンパク質吸着膜上で断片化する〔2〕に記載の方法。
〔8〕断片化により得られたペプチド断片を分離する工程を含む〔1〕に記載の方法。
〔9〕N末端がブロッキングされたペプチド断片をデブロッキングする工程を付加的に含む〔8〕に記載の方法。
〔10〕ペプチド断片の解析が、配列分析によって行われる〔1〕に記載の方法。
〔11〕ペプチド断片の解析が、質量分析によって行われる〔1〕に記載の方法。
〔12〕ペプチド断片の解析が、組成分析によって行われる〔1〕に記載の方法。
〔13〕〔1〕に記載の方法により得ることができる構造解析結果を基に作成したペプチドマップ。
〔14〕分離により得られたペプチド断片のうち不均一性に関与するペプチド断片を解析し、不均一性の種類を決定する〔1〕に記載の方法。
〔15〕抗体が医薬用途の抗体である〔1〕に記載の方法。
〔16〕次の工程を含む抗体分子の品質評価法。
a)抗体分子をH鎖とL鎖に分離する工程、
b)分離したH鎖とL鎖を断片化する工程、
c)断片化により得られたペプチド断片を解析する工程、
d)得られた解析結果を構造既知の抗体の解析によって得られた解析結果と比較する工程、および
e)両解析結果に相違がないか、又は相違が規定の範囲内である場合に両抗体が同等であると判定する工程
〔17〕構造既知の抗体と構造未知の抗体のそれぞれについて〔1〕に記載の方法により構造を解析し、両者のコンスタント領域に関する解析結果を比較することにより構造未知の抗体のH鎖のサブクラス及び/またはL鎖のタイプを同定する方法。
〔18〕次の工程を含む、抗体分子のバリアブル領域の解析方法。
a)〔1〕に記載の方法により、抗体分子の構造を解析する工程、および
b)a)の解析情報から構造既知の抗体の解析結果に基づいて、コンスタント領域の情報を取り除いて、バリアブル領域の情報を選択する工程、
〔19〕解析方法が逆相液体クロマトグラフィーであり、工程b)がコンスタント領域に由来するピークからバリアブル領域に由来するピークを選択する工程である〔18〕に記載の方法。
本発明では、抗体分子の一次構造解析を容易にするため、まず抗体分子をH鎖とL鎖に分離する。次に、分離された両鎖を別々に断片化し、得られるペプチド断片を解析する。得られたペプチド断片についての解析結果に基づいて、ペプチドマップを作成することができる。ペプチドマップは、抗体分子の品質評価等に用いることができる。
本発明において、抗体分子のH鎖とL鎖は、任意の手法によって分離することができる。たとえば、ジチオスレイトール(DTT)や、2−メルカプトエタノール(2−ME)等の還元剤で処理して抗体分子のS−S結合を切断し、更に分子量の差等に基づいてH鎖とL鎖を分離することができる。還元処理の後に、チオール基(SH基)を修飾することにより、S−S結合の再結合を防ぐこともできる。S−S結合は、もともと結合していたSH基間のみならず、まったく無関係なSH基の間でも起きる可能性がある。したがって、S−S結合の再結合は、複雑な混合物を生じる原因となる。
SH基は、アルキル化やアシル化等によって修飾することができる。具体的には、例えば、還元カルボキシメチル(CM)化、還元ピリジルエチル(PE)化、還元カルボキシアミドメチル(CAM)化等の処理を挙げることができる。SH基を修飾することにより、S−S結合は不可逆化されるので、再結合による複雑な混合物の生成が抑制され、解析精度の向上が期待できる。
本発明においてSH基の修飾は、H鎖とL鎖の分離前、分離後断片化前のゲル中、そして断片化後の、任意のタイミングで実施することができる。特にSDS−PAGEによって分離を行う場合には、実施例でも述べるように、分離前に修飾を行うことにより、収率良く、しかも高い再現性を達成することができる。つまり、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)による変性とDTTによる還元、そしてCM化処理の後にSDS−PAGEによる分離を行うのである。
本発明において、S−S結合を切断された抗体分子は、断片化に先だって、H鎖とL鎖に分離する。H鎖とL鎖の分離は、任意の手法で行うことができる。H鎖とL鎖の分離は両者の性質の差(例えば分子量、電価、疎水性等)に基づいて分離することができる。具体的には、電気泳動や液体クロマトグラフィー等の分離手法を用いることができる。このとき、H鎖とL鎖の再結合を阻止できる条件下での分離が必要である。具体的には、両者を変性ゲル電気泳動によって分離するのが有利である。変性ゲル電気泳動の採用によって、H鎖とL鎖を物理的に分離することができ、より高度な再現性を期待できる。
本発明において、変性ゲル電気泳動とは、抗体分子のH鎖とL鎖とを分離することができるゲル電気泳動を言う。このような電気泳動としては、SDSや尿素を含むアクリルアミドゲル媒体を利用した電気泳動が公知である。中でもSDS−PAGEは、本発明における特に有利な分離手法である。SDS−PAGEはLaemmliの方法(Laemmli(1970)Nature 227,680−685)に準じて行うことができる。H鎖とL鎖は共有結合(S−S結合)とともに非共有結合により強く結合しているが、SDS−PGAEを用いることにより容易にH鎖とL鎖を分離できる。
あるいは、還元アシル化等を行わずに変性ゲル電気泳動を実施することも可能である。たとえば抗体分子の内部配列が部分的に判ればよい場合、還元条件下のSDS−PAGEでもH鎖とL鎖に分離でき同様に一次構造解析が可能なので、システイン残基を除いたアミノ酸配列を調べることが可能である。
分離されたH鎖とL鎖は、それぞれ断片化される。蛋白質の一次構造解析における断片化法は公知である。蛋白質の構造解析には、一般に酵素的消化や化学的切断が利用される。酵素としては、たとえば次のような酵素が用いられる。これらの酵素はいずれも市販されており、その消化条件も公知である。
リシルエンドペプチダーゼ
エンドプロティナーゼLysC
マウス顎下腺プロテアーゼD
Staphylococcus aureuse V8プロテアーゼ
エンドプロテイナーゼAsp−N
酵素的な消化は、穏やかな条件下で蛋白質を消化することができるので、アミノ酸残基側鎖の修飾等が起きにくい。また、消化の条件を一定とすれば再現性を容易に維持することができる。
本発明においては、酵素的な消化の他に化学的な切断を利用することもできる。臭化シアンによるメチオニン残基のカルボキシル側での切断は、代表的な化学的切断法である。
分離したH鎖およびL鎖の断片化は、任意の手法で行うことができる。たとえば蛋白質の構造解析のために最近開発された技術として、蛋白質をSDS−PAGEまたは二次元電気泳動にかけて得られたバンドまたはスポットを切り取り、ゲル中で化学的または酵素的に断片化する方法がある(Jahnen−Dechent and Simpson(1990)Plant Mol.Biol.Reporter 8,92−103、Hellman U.et al.,(1995)Anal.Biochem.224,451−455、Kawasaki et al.(1990)Anal.Biochem.191,332−336)。この方法は、ゲル中でタンパク質を断片化することから、In gel法と呼ばれている。この他、ゲル中で分離された蛋白質をポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜や、ニトロセルロース膜等の蛋白質吸着膜に転写し、この膜上で断片化を行うこともできる。本発明では、前記断片化工程にIn gel法や蛋白質吸着膜上での断片化法を組み合わせることにより、解析の再現性を更に高めることができる。PVDF膜は「イモビロン」等の商品名(MILLIPORE)で市販されている。
プロテオーム解析の解析法の一つであるIn gel消化法は、通常は二次元電気泳動で分離精製した蛋白質をそのままゲル中で酵素消化し、回収されるペプチド断片からそのアミノ酸配列に関する情報を得る、という手順で行われる。本発明においては、抗体はSDS−PAGE等の変性ゲル電気泳動によりH鎖とL鎖へ簡単に分離できる。したがって、電気泳動は変性ゲル電気泳動のみとし、分離したH鎖とL鎖をそのままゲル中で酵素消化することによって、本発明における断片化を達成できると考えた。つまり酵素消化に先立って行われる電気泳動を、二次元ではなく、変性ゲル電気泳動のみとするのである。
In gel消化法は、SDS−PAGEにより分離したH鎖およびL鎖のバンドを切り出し、ゲルが浸る程度まで消化バッファーを加えてインキュベートし、これにLys−C等のプロテアーゼを加えて消化することにより行うことができる。消化液を回収し、ゲルに新たに溶出バッファーを加え、ゲルからの断片の抽出を行う。この操作を繰り返し、得られた消化液および溶出液を混合してつぎの構造解析に用いる。In gel法を用いる場合は、少ないステップ数でH鎖およびL鎖を容易に断片化することができるとともに、その後のペプチド断片の分離分取も回収率よく行うことができる。また、本発明では、SDS−PAGEにより分離したH鎖およびL鎖をPVDF膜に転写し、PVDF膜上でH鎖およびL鎖を断片化することも可能である。PVDF膜への転写およびPVDF膜上での断片化は、通常の方法により行うことができる。
抗体分子の立体構造は、S−S結合をはじめとする多様な結合様式によって維持されている。そのため、例えばS−S結合のみを解離させても、その他の結合を十分に阻止することができなければ、消化中にも様々な立体構造を構築してしまう。この立体構造の構築は、ペプチドの断片化を妨げる要因の一つとなる。本発明の解析方法ではIn gel法や蛋白質吸着膜上での断片化法を組み合わせることにより、分離したH鎖とL鎖の分子の動きが制限され立体構造の構築が大幅に抑制された状態で消化を進めることができる。その結果、再現性良く解析することができる。
本発明は、あらゆる抗体の解析に利用することができる。本発明によって、たとえば天然型抗体、キメラ抗体、ヒト型化抗体、これらの誘導体又は改変体等の構造解析を行うことができる。本発明は、完全な抗体分子(whole抗体)のみならず、Fab、F(ab’)2、Fab’等の抗体断片に対して適用することもできる。更に、本発明の方法は、IgGのみならず、IgA、IgM、IgD、あるいはIgEなど、あらゆるクラスの抗体に応用することができる。また、解析すべき抗体が由来する動物種や、細胞株も制限されない。そして、どのような方法によって調製された抗体であっても、分離可能なH鎖とL鎖を含む抗体分子である限り、本発明の方法によって解析することができる。
抗体分子のH鎖およびL鎖を消化して得られたペプチド断片は、公知の蛋白質解析法によって解析することができる。本発明において、ペプチド断片の解析とは、ペプチド断片が有する生化学的な情報を明らかにすることと定義される。生化学的な情報とは、ペプチド断片を構成するアミノ酸配列、分子量、質量、あるいは修飾の有無やその種類等の情報を例示することができる。ペプチド断片の修飾には、脱アミド化、酸化、メチル化、スクシニル化、あるいはグリコシレーション(糖化)等が含まれる。消化により得られたペプチド断片は、必要に応じて適当な手段により分離してから解析を行ってもよい。このような分離手段としては、RP−HPLC、SDS−PAGE、イオン交換クロマトグラフィー等を挙げることができる。上記分離手段で得られるペプチド断片の分離パターンをペプチドマップとして使用することができる。また、不均一性に起因しているペプチド断片については、適切な分析法を適用することで不均一性の種類を決定することができる。本発明では、抗体分子中に存在する不均一性について、H、L両鎖を断片化してから分析するため、容易に分析を行うことができる。分析を行う方法は公知である。
ペプチド断片の解析方法としては、質量分析、アミノ酸配列分析、アミノ酸組成分析等が一般的である。これら各構造解析法は、通常の方法に従って行うことができる。質量分析は、現在のところ分子量の違いに基づく解析方法としては、最も信頼性の高い解析手法である。本発明においても、質量分析法は好適な解析手法の一つである。質量分析計はイオン源と質量検出部及び検出器から構成されている。イオン化法と分析部には種々の方式があり、装置はそれらの組み合わせでできている。代表的な方式を次に示す。
イオン化法−MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)
EI(Electron Ionization)
FAB(Fast Atom Bombardment)
API(Atmosphere Pressure Ionization)
分析部−TOF(Time of Flight)
Sector(Magnetic,Electrostatic)
Quadrupole
FT(Fourier Transform)
中でもMALDI−TOF−MS(TOF−MS)は、本発明における特に有利な解析装置である。その他に質量分析装置に液体クロマトグラフィー(LC)を組み合わせたLC−MSや質量分析装置を2台繋ぎ合わせたタンデムMS(MS/MS)、更にはLCとMS/MSを組み合わせたLC−MS/MSといった装置も存在しそれぞれ目的に応じた解析に用いられている。
アミノ酸配列はタンパク質の一次構造解析において最も重要なデータである。本発明においても、ペプチド断片の確認は配列分析の結果で行った。代表的なアミノ酸配列の分析法を以下に示す。
N末端分析法−エドマン分解法(PITC法)
DABITC法
ダンシル法(DNS−Cl法)
アミノペプチダーゼ法
C末端分析法−ヒドラジン分解法
カルボキシペプチダーゼ法
現在エドマン分解法を用いた自動分析装置が存在し、この装置を用いた解析が一般に行われている。本発明においてもこの装置を用いた。エドマン分解法においては、ペプチド断片のN末端のブロッキングが障害となる。本発明においては、N末端のデブロッキングの後に、エドマン分解法によって解析することができる。特に、ペプチドの断片化の後にデブロッキングを行うことで、デブロッキングを容易にかつ確実に行うことができる。N末端のデブロッキングのための手法は公知である。
N末端のブロッキングとは、N末端アミノ酸のαアミノ基が、アセチル化等によって修飾された状態にあることを言う。αアミノ基が、修飾されたアミノ酸は、エドマン分解法等の手法では同定が困難である。しかしブロッキングされたN末端は、その修飾を除去すれば、解析は可能となる。たとえば、アセチル化されたアミノ酸は、アミノ酸アシラーゼによって酵素的に修飾を除去することができる。アミノ酸アシラーゼは、一般に大きな蛋白質には作用しにくい。本発明においては、消化断片に対してアミノ酸アシラーゼを作用させることができる。そのため、本発明においては、N末端を容易に、かつ確実にデブロッキングできる。
アミノ酸組成分析はタンパク質の基本的な特性を知る上で必要である。加水分解で生成した構成アミノ酸を誘導体化して検出するのが一般的で、誘導体化がアミノ酸分離の前か後かで二種に大別される。代表的な誘導体化試薬を示す。
ポストカラム法−ニンヒドリン
o−フタルアルデヒド
プレカラム法−PITC
NBD−F
FMO−Cl
Dabsyl−Cl
o−フタルアルデヒド
DNS−Cl
ニンヒドリンを用いたポストカラム法は全自動化されており再現性も高いが、検出限界の問題からタンパク質の一次構造解析ではPITCを用いたプレカラム法が利用されることが多い。
また本発明は、本発明の解析方法によって得られたペプチドマップに関する。このような解析結果に基づいて、抗体分子の構造に関するペプチドマップを作成することができる。本発明においてペプチドマップとは、あるペプチド混合物を特徴付けることができる、ペプチド混合物を構成する個々のペプチド断片の情報の集合を意味する。ペプチドマップは、一般的にはペプチド断片の混合物を何らかの手法によって分離した状態を意味する用語であるが、本発明においては分離された状態にあるペプチド断片そのもののみならず、ペプチド断片の解析によって得られた情報の集合も含めて、ペプチドマップと呼ぶ。したがって、消化断片を電気泳動によって展開した泳動像は、本発明のペプチドマップに含まれる。あるいは、ペプチド断片の質量分析の結果も、やはり本発明のペプチドマップに含まれる。
ペプチドマップの比較によって、あるペプチド断片混合物と他のペプチド断片混合物との特性を対比させることで、元のタンパク質の構造上の同等性もしくは差異を調べることができる。共通のペプチドマップを与えるペプチド断片混合物は、元の抗体分子の構造が共通である可能性が高いことを示唆している。逆にペプチドマップの相違は、抗体分子に構造的な違いがあることを示している。したがって、ペプチドマップの比較によって、抗体分子の構造を比較することができる。
たとえば構造既知の抗体の解析結果と比較することにより、抗体の品質評価を行うことができる。具体的には、生産された抗体分子のペプチドマップを本発明に基づいて作成し、標準となるペプチドマップと比較する。その結果、両ペプチドマップの相違が目的とする解析精度に応じて規定した範囲内であれば、生産された抗体は不均一性を含め同等と判定される。本発明において、不均一性とは、抗体分子間の構造的な相異を言う。抗体分子の構造的な相異は、たとえばN末端のブロッキング、C末端アミノ酸の欠落、脱アミド化、酸化、メチル化、スクシニル化、あるいはグリコシレーション等の有無によってもたらされる。しかし本発明によって見出すことができる不均一性は、ここで例示した原因によって生じた不均一性に制限されない。
本発明の方法に基づいて作成したペプチドマップを用いることにより、構造未知の抗体のサブクラス及びタイプの同定を行うことができる。すなわち、構造既知の抗体および構造未知の抗体のそれぞれについて本発明の方法によりペプチドマップを作成し、両者のコンスタント領域を比較することにより構造未知の抗体のH鎖のサブクラス及びL鎖のタイプを同定することができる。また、本発明の方法によれば、複数の構造未知の抗体の混合物についても、サブクラス及びタイプの異なる構造既知の抗体について作成したペプチドマップと比較することにより、どのサブクラス又はタイプの混合物であるかを容易に判定することが可能となる。
イムノグロブリンは、コンスタント領域(constant region;定常領域)とバリアブル領域(variable region;可変領域)とで構成されている。バリアブル領域は抗原認識のために多様な構造となるのに対して、コンスタント領域の構造は限られている。したがって、予想される全てのコンスタント領域について、予めペプチドマップを作成しておくことが可能である。コンスタント領域の構造は、H鎖ではサブクラスとして、L鎖ではタイプとして分類されている。全てのサブクラスと、全てのタイプについて作成されたペプチドマップがあれば、同じ方法によってペプチドマップを作成し、両者を比較することによって、構造未知のイムノグロブリンを構成するH鎖のサブクラス、あるいはL鎖のタイプを決定することができる。
一方、ペプチドマップにおけるコンスタント領域に由来する断片の情報を利用して、未知抗体の一次構造解析を効率的に進めることができる。抗体分子がコンスタント領域とバリアブル領域からなっていることは既に述べた。したがって、ペプチドマップにおいてコンスタント領域に由来する断片の情報が得られるということは、バリアブル領域に由来する断片のピークを推定できることに他ならない。したがって、バリアブル領域に由来すると推定される断片ピークについて、優先的に構造を解析することができるのである。抗体分子の評価において、抗原との結合特異性を左右するバリアブル領域の構造解析情報は重要である。そのバリアブル領域の解析を効率的に進めることができる本発明の手法は、抗体分子の評価方法として有用である。
たとえば実施例に示すように、ペプチド断片の解析を逆相クロマトグラフィーや質量分析によって行うとする。このときペプチドマップは、クロマトグラムや質量スペクトルとして得られる。ペプチドマップの比較による抗体分子の評価は、ピークの帰属の決定等を経て進められる。評価にあたって、コンスタント領域に由来する断片のピークを同定することができれば、残るピークについて比較することによってバリアブル領域を解析できることは明らかである。
また、逆相クロマトグラフィーのクロマトグラムにおけるバリアブル領域に由来する断片のピークを選択し、選択されたピークを分取してそのアミノ酸配列を解析することができる。本発明によれば、このようにして、バリアブル領域の構造解析を効率的に進めることもできる。
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1.
以下、抗Parathyroid hormone−related peptideヒト型化抗体(IgG1)(抗体の作製方法はWO98/13388に記載)を例に、本発明による解析例を示す。
ヒト型化PTHrP抗体のL鎖のアミノ酸配列を配列番号:1に、そしてH鎖のアミノ酸配列を配列番号:2に示した。ヒト型化PTHrP抗体はIgG1抗体でH鎖とL鎖二本づつがS−S結合で架橋された構造を取っており、アミノ酸総数は1300個余りからなる巨大な蛋白質である。そのため抗体分子全体を一度に分析した場合、酵素消化及び断片の分離分取の二点で再現性を維持することは困難であった。また還元修飾によりS−S結合を不可逆的に切断後、RP−HPLCでH鎖とL鎖に分けそれぞれを分析した場合も、H鎖とL鎖の分離が不十分で回収率も低く分析精度は良くなかった。抗体は巨大な蛋白質なので一般的な蛋白質の分析法をそのまま適用しても確度の高いデータが得られてないのが現状であった。そこで本発明の方法を考えた。
(操作手順)
1)サンプル調製
a)還元カルボキシメチル(CM)化
ヒト型化PTHrP抗体溶液(13.4mg protein/ml;150mM NaCl,20mM酢酸/酢酸Na緩衝液,pH5.7)とSDSサンプルバッファー(5%SDS,2mM Ethylenediamine Tetraacetic Acid(EDTA),0.005%Bromophenol Blue(BPB),20mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane(Tris)−HCl,pH8.0)を1:5(V/V)で混合撹拌し、95℃水浴中5分間の加熱で変性した。最終濃度で40mMになるようにDTTを添加し、チューブの上部間隙を窒素ガスで置換し、空気恒温槽中37℃で2時間インキューベートし還元した。最終濃度で80mMになるようにヨード酢酸を添加し、チューブの上部間隙を窒素ガスで置換し、空気恒温槽中37℃で30分間反応させCM化した。1N NaOHでpH6.8程度まで中和し、泳動サンプルとした。
b)還元のみ
ヒト型化PTHrP抗体溶液と還元用SDSサンプルバッファー(5%2−ME,5%SDS,2mM EDTA,0.005%BPB,20mM Tris−HCl,pH8.0)を1:5(V/V)で混合撹拌し、95℃水浴中5分間の加熱で変性還元し泳動サンプルとした。
2)SDS−PAGEによるH鎖とL鎖の分離
SDS−PAGEで泳動しH鎖とL鎖に分離した。泳動はLaemmliの方法に準じて行った。ゲルはSDS−PAGE mini 12%(TEFCO)を用いた。ランニングバッファー(0.1%SDS,200mM Glycine,25mM Tris)中25mA(定電流)で泳動し、BPBが流れ切った時点で止めた。各鎖のバンドは染色液(0.2%Coomassie Brilliant Blue R−250,40%エタノール,10%酢酸)で染色し検出した。脱色液(40%メタノール,10%酢酸)で脱色後、ミリQ水に浸して冷蔵庫中で保管した。
3)In gel消化
H、L各鎖のバンドに相当する部分を切り出し、ゲルが浸る程度まで消化バッファー(0.1%SDS,100mM Tris−HCl,pH9.0)を加え、空気恒温槽中37℃で30分間プレインキューベーションした。最終濃度で5μg/mlになるように酵素Lys−Cを添加し、空気恒温槽中37℃で18時間消化した。Lys−Cにより、蛋白質を構成するアミノ酸中、リジンのC末端側が特異的に切断される。
4)ゲルからの断片の抽出
消化液を別のチューブに取り、溶出バッファー(0.1%SDS,100mM Tris−HCl,pH9.0)を新たに加え空気恒温槽中37℃で1時間溶出した。この溶出操作を3回繰り返し、得られた消化液及び溶出液を混合し消化物混合液とし次の解析に用いた。
5)質量分析(TOF−MS)による還元CM化及び消化の確認
消化物混合液をZipTip(MILLIPORE)で脱塩し、TOF−MSサンプルとした。マトリクスは3,5−dimethoxy−4−hydroxycinnamic acid(Sinapinic Acid)を用いた。サンプルとマトリックスは0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む50%アセトニトリル溶液で溶解し、サンプルプレート上で乾燥した。装置はVoyager−DE STR(PerSeptive Biosystems)を用いた。この装置はイオン化法にマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、検出法に飛行時間(TOF)型を用いている。
測定はサンプルの理論質量数範囲を網羅できるMethod fileを選んだ。その測定条件は、Accelerated Voltage:20kV,Delay:30ns,Mode:Linear,Positiveで行った。操作は全てマニュアルに従い行った。
6)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による断片の分取
消化物混合液をRP−HPLCに懸け消化断片を分取した。
分離カラムはODS−A(250X4.6mm)(YMC)を用い、ガードカラムにTSKguardgel DEAE−SW(10X6.0mm)(東ソー)を使用した。装置はシステムコントローラーSCL−6A、ポンプLC−6A、UVディテクターSPD−6A、インテグレータークロマトパックC−R3A(Shimadzu)を用いた。
移動相は0.1%TFAを含んだミリQ水及びアセトニトリルを用いた。流速を1.0ml/minとしアセトニトリル5−60%のリニアグラジエントで溶出した。検出はUV215nmで行った。
分取物は凍結乾燥後少量のギ酸で溶解し、シークエンサ及びTOF−MSによる断片確認のサンプルとした。
7)シークエンサによる断片の確認
分取サンプルをサンプルフィルター上にそのまま添加乾燥し、分析を行った。装置はプロテインシークエンサー476A(Applied Biosystems)を用い、操作は全てマニュアルに従い行った。
8)TOF−MSによる断片の確認
分取サンプルをサンプルプレート上で乾燥した。0.1%TFAを含む50%アセトニトリル溶液に溶解したマトリクス(Sinapinic acid)をサンプル上に滴下し、分析サンプルとした。装置は5)と同じものを用いた。測定はサンプルの理論質量数範囲を網羅できるMethod fileを選んだ。その測定条件は、Accelerated Voltage:20kV,Delay:100ns,Mode:Linear,Positiveとした。操作は全てマニュアルに従い行った。
(結果)
1)S−S結合の還元CM化
ヒト型化PTHrP抗体はIgG1抗体でH鎖とL鎖二本づつがS−S結合で架橋された構造を取っている。S−S結合を還元切断しただけで、反応性の高いSH基がそのまま残っているとS−S結合の再編成や試薬等の付加でデータの解釈が複雑かつ困難になりマッピングの系としては不適当である。そこで、無用な混乱を避けるためS−S結合の還元修飾処理を手順に組み入れる検討を行った。組み入れる位置は泳動前サンプル、酵素消化前のゲル中、溶出後の消化物混合液の三ヶ所が考えられた。ゲルから溶出後の消化物混合液ではもう既にSH基に何かが付加していることが予備検討で確認されている(Data not shown)のでこの段階は除外した。
一般にはゲル中での還元修飾が行われているが、ここでは泳動前サンプルの還元CM化を行った。泳動前サンプルをSDSサンプルバッファー中すなわちSDSで変性させ還元CM化処理を行った。処理後のサンプルはそのまま泳動することが可能で、泳動パターンも影響を受けてなかった。消化物混合液のTOF−MSでもS−S結合に関与する断片は理論質量数通りに検出され、CM化反応は進んでいた。RP−HPLCのクロマトグラムや回収量も問題なかった。
2)CM化処理のあるなしの比較
CM化処理をした場合としなかった場合のクロマトグラムの比較を図8(CM化処理無し)および図3(CM化処理有り)に示す。CM化処理の部分以外は本発明の方法に従って操作した。
S−S結合に関与したピークは分取物のシークエンサ及びTOF−MSの結果からSH基に試薬等が付加していると考えられた。同じ配列が複数箇所で検出されたものはTOF−MSの結果からSH基への付加物が異なったものであると考えられた。また、S−S結合に関与しない断片は全て図8と図3で同じように検出されていた。
以上のことから、CM化処理をしなかった場合でも還元条件下SDS−PAGEでのH鎖とL鎖の分離、ゲル中断片化及び構造解析が可能な事が判明した。よって、抗体分子の内部配列が部分的に判ればよい場合など、システイン残基を除いたアミノ酸配列を決定することが可能である。以降の実験及び結果については、特に示した場合を除き、CM化処理を行った。
3)消化物混合液のTOF−MS解析
ヒト型化PTHrP抗体を還元CM化処理しSDS−PAGEに懸けた後、H鎖、L鎖のバンドを切り出しゲルをそのまま酵素Lys−Cで消化した。マトリクスにSinapinic Acidを用い、各鎖の消化物混合物をTOF−MSで調べた結果を図1、図2に示す。ピークトップの数値は測定された質量数でそれに相当すると推定される断片番号を示した。
L鎖(図1)では配列から予想される断片16個中7個が検出できていた。L鎖のアミノ酸配列(配列番号:1)から理論的に生じる断片を表1に示す。表は左から断片の番号(CLn)、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。また「定常」と「可変」は、コンスタント領域(定常)とバリアブル領域(可変)の各領域を分ける部分を示している。検出できた7個はほぼ理論質量数通りで、その中にはシークエンサでは確認できないN末ブロッキング断片(CL1)と推測されるものも含まれていた。
CL9はピークが小さくて有無が不明確であったが、TOF−MSではイオン化効率の低いものが検出され難いのは避けられない。CL9は分取物のシークエンサでの解析では存在が確認できたことから、イオン化効率が低くて検出され難かったと考えられた。検出されなかった他の8個は質量数1000以下の断片で低分子量域のノイズ或いは試薬やゲルからの抽出物のピークに紛れて帰属が不明確なため未検出とした。
H鎖(図2)では配列から予想される断片31個中15個がほぼ理論質量数通りで検出された。H鎖のアミノ酸配列(配列番号:2)から予測される断片を表2〜表3に示す。表は左から断片の番号(CHn)、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。また「定常」と「可変]は、コンスタント領域(定常)とバリアブル領域(可変)の各領域を分ける部分を示している。検出できたピークの内CH7−8、13−14、17−18はLys−Cで切断され難いと言われるLys−Proと並ぶ配列が切断されずに繋がった断片として検出された。
質量数1000以下は上記L鎖の場合と同理由で帰属が不明確なので除外すれば、検出できなかったのはCH4とCH15であった。しかしこれらの断片はどちらも分取物のシークエンサでの解析では存在が確認されたことから、イオン化効率が低くて検出されなかったと考えられた。
現行の方法で種類的に大部分の断片がゲルから回収できたことから、ゲル中での酵素消化が可能と考えられた。また量的にはTOF−MSのスペクトル強度から80〜90%の断片が回収できたと概算された。
上記の検討中では消化物混合物のTOF−MS測定は還元CM化反応の進み具合の確認として用いたが、その結果では測定範囲内のほとんどの断片に相当するピークが理論質量数通りに検出できていた。このスペクトルはマスマッピングとしての利用が可能である。配列が既知のものであれば断片の理論質量数が算出できるので、測定値の帰属が可能である。N末修飾断片のようにシークエンサで検出できないもの又はRP−HPLCでの溶出位置が変わらない修飾が起きた場合でも質量数のズレからその修飾の種類が推測可能である。TOF−MSスペクトルとRP−HPLCクロマトグラム両方を揃えることでより確度の高いマッピングデータにすることができる。
4)RP−HPLCクロマトグラム及び分取物の解析
消化物混合液をRP−HPLCに懸け分取したクロマトグラムを図3、図4に示す。シークエンサで分取物のアミノ酸配列を調べた結果、帰属された断片番号をピークトップに示した。シークエンサで解析できる残基数には限度があるので、最後まで読めていない長い断片は、予想配列の全長であるかどうかは、分取物をTOF−MSで調べた結果と併せて判断した。
L鎖(図3)では予想配列から得られる断片16個中13個が帰属できた。CL11−12は繋がった断片として19.5分ピークで確認された。これはLys−Proと並ぶ配列がLys−Cで切断されなかったためである。またこのフラクションではCL10も同時に検出されていた。32.8分ピークも同様にCL2とCL8が同時に検出されていた。
また26.5分と32.2分はどちらもCL4の配列が読めた。配列分析の結果では26.5分ピークの48残基目のMetの回収量が極端に悪く、Metの修飾が起きていると考えられた。LC−MSの結果からMetの酸化体の生成によるものと推測した。CL9は48.9分ピークで確認され(Data not shown)、消化物混合液のTOF−MSで検出できなかったのはイオン化効率の問題であったことが示された。帰属できなかった断片の内CL1はN末Glnのピログルタミル化のためシークエンサでは確認できなかったが、32.5分ピークはシークエンサで何も読めなかったことと分取物のTOF−MSの結果からCL1と考えられる。帰属できてないCL3とCL13はそれぞれアミノ酸3残基と5残基からなる小断片なのでODSカラムを用いたRP−HPLCでは保持されずに素通りしたものと考えられる。
H鎖(図4)では予想配列から得られる断片31個中19個が帰属できた。39.3分ピークでCH13−14、46.7分でCH17−18がそれぞれ確認された。これらはLys−Proと並ぶ配列がLys−Cで切断されなかったためである。消化物混合液のTOF−MS(図2)で繋がった断片の質量数ピークが検出できていたことと矛盾しない。45.9分ピークでCH7の配列が読めたが、長い断片なので全長の配列は確認できなかった。しかしLys−Cで切断され難いLys−Proと並ぶ配列であることと、TOF−MSで繋がった断片の質量数ピークが検出できていたことからCH7はCH8まで繋がった断片と考えている。
34.1分ピークではCH15とCH30が同時検出されていた。30.6分と34.1分両ピークでCH30の配列が読めたが、配列分析の結果では30.6分ピークの429残基目のMetの回収量が極端に悪く、Metの修飾が起きていると考えられる。CL4と同様にMetの酸化体の生成によるものと推測している。CH4は48.4分、CH15は34.1分でそれぞれと確認され、消化物混合物のTOF−MSで検出できなかったのはイオン化効率の問題であったことが示された。
上記のRP−HPLCのクロマトグラムは良好な再現性が認められた。そして大部分の断片が回収できたことがTOF−MSによる質量分析とシークエンサによる配列分析から確認できた。また断片の回収率は、シークエンサの繰り返し収率から算出したアプライサンプル量を用いて計算して30〜60%と良好な回収率であった。以上からマッピングの系とするのに必要な要件をほぼ充たしていると言える。よってIn gel消化法を適用した本手法は抗体のペプチドマッピング系に利用可能といえる。
5)不均一性断片の検出例(グリコシレーション)
ヒト型化PTHrP抗体はH鎖の298残基目Asnへの糖鎖の付加が想定されている。298残基目は断片CH17−18に在り、シークエンサによる分析の結果から46.6分(図4)がそのピークであった。
他の断片ピークに比べてブロードなのは糖鎖のヘテロジェニティーに起因すると考えられる。このフラクションのTOF−MSの結果を図5に示す。ペプチド断片部分だけの理論質量数3461付近は何も検出されず、4500から6900付近でピークが検出されている。質量数のズレは付加している糖鎖の分で、複数見られているピークは糖鎖のヘテロジェニティーが検出できたものと考えられる。更にこのフラクションを用いて、質量分析やグリコシダーゼ消化を組み合わせることで糖鎖に関する情報を得ることも可能である。
6)H鎖のサブクラス及びL鎖のタイプの同定
ヒト型化PTHrP抗体以外のヒト型化抗体ヒト型化抗HM1.24抗体とヒト型化抗TF抗体を本発明の方法に従って分析しクロマトグラムを得た。なお、ヒト型化抗HM1.24抗体およびヒト型化抗TF抗体は、ぞれぞれWO98/14580およびWO99/51743に従って作製した。各抗体のL鎖のクロマトグラムの比較を図6に、H鎖の比較を図7に示す。クロマトグラムで検出位置が一致し且つ出方が似通ったピークを直線で結んだ。
図6では、ヒト型化抗HM1.24抗体とヒト型化抗TF抗体は幾つかのピークが直線で結べたが、ヒト型化PTHrP抗体との間は結べるものがなかった。cDNAの予想塩基配列からL鎖のタイプはヒト型化抗HM1.24抗体とヒト型化抗TF抗体がκ鎖で同じ、ヒト型化PTHrP抗体はλ鎖で異なることが判っている。また、ヒト型化抗TF抗体の分取物の解析結果から直線で結べたピークは全て定常部(コンスタント領域)由来断片であったことが確認できている。図中、星印(★印)を付けたピークが定常部位(コンスタント領域)に相当する。これらのことから、同じタイプのものを解析した場合、定常部(コンスタント領域)由来断片が同じように検出されるため似通ったクロマトグラムを示し、異なったものでは違ったクロマトグラムを示すことが判明した。
図7ではヒト型化PTHrP抗体とヒト型化抗HM1.24抗体の間は多くの直線で結べたが、ヒト型化抗TF抗体との間は2本しか結べなかった。cDNAの予想塩基配列からH鎖のサブクラスはヒト型化PTHrP抗体とヒト型化抗HM1.24抗体がγ1、ヒト型化抗TF抗体がγ4であることが判っている。また、ヒト型化PTHrP抗体の分取物の解析結果から直線で結べたピークは全て定常部(コンスタント領域)由来断片であったことが確認できている。ヒト型化抗TF抗体との間で結べたピークはγ1と4の定常部位(コンスタント領域)で同一の配列を持った部分由来の断片であったことがヒト型化抗TF抗体分取物の解析で確認できている。L鎖のタイプと同様で同じサブクラスのものは似通ったクロマトグラムを示し、異なったものでは違ったクロマトグラムを示すことが判明した。
クロマトグラムの比較からその抗体のサブクラス及びタイプを推定することが逆に可能である。未知の抗体や抗体の混合物でもクロマトグラムの比較で同定できることが判っている。
抗体のサブクラスやタイプが同定できれば、可変部(バリアブル領域)由来のピークを特定できるので、そのピークを優先的に解析することで抗体の構造解析を効率よく進めることが可能になる。
7)サンプル必要量
ここでの検討はサンプル量として50μgを用いた場合であるが、配列の確認が目的なら20μg程度で十分確認可能であり、ペプチドマップの比較であれば10μgでも可能である。マイクロボアHPLC等の利用により更に微量サンプルでの分析も可能である。従来の方法では数百μgが必要であったのに比べて極めて少量で分析可能である。本方法は手技的には更に微量でもサンプル調整可能であり、実験開始時の必要最少量は同定に用いる分析装置(シークエンサ、質量分析計等)の感度に依存している。高感度な分析装置を用いれば更に微量のサンプルでも分析、同定可能である。
本手法ではこれまで困難だった抗体のH鎖とL鎖の分離とその精製が同時に容易にできるようになった。現行条件でゲル中での酵素消化、ゲルからの断片回収及び回収断片の配列分析が可能なことが示された。回収断片から大部分の配列が確認できることから、抗体のアミノ酸配列の確認に利用可能なことが判明した。またこれまで一般にIn gel消化で問題と言われていた回収率についても30〜60%程度で良好であった。結果の再現性も良いことから、In gel消化法を適用した本手法は抗体のペプチドマッピング系に利用可能といえる。
実施例2.
消化酵素としてエンドプロテイナーゼAsp−Nを用い、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)を消化バッファーに利用する他は、実施例1と同じ条件で次の3種類の抗体を分析した。ヒト型化抗IL6−R抗体はWO92/19759に従って作製した。Asp−Nは、アスパラギン酸のN末端側を切断するエンドプロティナーゼである。
ヒト型化抗PTHrP抗体
ヒト型化抗TF抗体
ヒト型化抗IL6−R抗体
ヒト型化抗PTHrP抗体のH鎖とL鎖の消化物混合物をTOF−MSで解析した結果を図9(L鎖)および図10(H鎖)に示した。帰属できたピークについてはピークトップに断片番号と括弧内に理論質量数を示した。L鎖では、アミノ酸配列から予想される断片10個中5個が検出できていた。一方H鎖では、アミノ酸配列から予想される断片17個中10個が検出できていた。L鎖のアミノ酸配列(配列番号:1)から予測される断片を表4に、H鎖のアミノ酸配列(配列番号:2)から予測される断片を表5に示す。表は左から断片の番号(CLn)、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。L鎖、H鎖のいずれにおいても、検出できた断片の質量数はほぼ理論質量数通りである。
L鎖において検出されなかった他の5個は、質量数1000以下の断片で低分子量域のノイズ或いは試薬やゲルからの抽出物のピークに紛れて帰属が不明確なため未検出とした。H鎖においても同様の理由から質量数1000以下の断片は未検出とした。
次に、ヒト型化抗PTHrP抗体とヒト型化抗IL6−R抗体について、RP−HPLCによる消化混合物の解析を行った。
消化物混合液をRP−HPLCに懸け分取したクロマトグラムを図11および図12に示す。図11は、ヒト型化抗PTHrP抗体のL鎖のAsp−Nによる消化混合物のRP−HPLCによるクロマトグラムである。また図12は、ヒト型化抗IL6−R抗体のL鎖のAsp−Nによる消化混合物のRP−HPLCによるクロマトグラムである。
シークエンサで分取物のアミノ酸配列を調べた結果、帰属された断片番号をピークトップに示した。シークエンサで解析できる残基数には限度があるので、最後まで読めていない長い断片は、予想配列の全長であるかどうかは、分取物をTOF−MSで調べた結果と併せて判断した。
ヒト型化抗PTHrP抗体のL鎖(図11)では、予想配列から得られる断片10個中7個が帰属できた。ヒト型化抗IL6−R抗体(図12)では、予想配列から得られる断片10個中8個が帰属できた。副反応生成物としてAsp(D)以外のGlu(E)のN末端で切断された断片も検出された。消化に用いたAsp−Nの基質特異性が不完全なため、このような副反応生成物の生成は避けられないものと思われた。ヒト型化抗IL6−R抗体のL鎖のアミノ酸配列から予測される断片を表6に示す。表は左から断片の番号、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。
更に、ヒト型化抗PTHrP抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化抗IL6−R抗体の3検体について、H鎖とL鎖のそれぞれについて、RP−HPLCのクロマトグラムを比較した結果を図13(L鎖)および図14(H鎖)に示す。検出位置が一致し、かつ検出パターンが類似するピークを直線で結んだ。図12(L鎖)において、定常部由来の断片と確認できる断片に星印(★印)を付けた。その中で副反応生成物には逆向きの黒塗り三角印(▼)を付けた。その結果、抗体のタイプが同じ場合には、副反応生成物も同じように検出されることが明らかとなった。このことは、副反応生成物の情報も、抗体のタイピングに有用であることを示していた。
H鎖については、サブクラスが同じ(γ1)である、ヒト型化抗PTHrP抗体(図14上)とヒト型化抗IL6−R抗体(図14中)とは多くの直線で結ぶことができた。しかし、これらの抗体とヒト型化抗TF抗体(図14下)の間では、1本のみであった。このピークはγ1とγ4の定常部で同一の配列を持った部分由来の断片であったことが分取物のシークエンサでの解析により確認できた。AsP−Nで消化した場合もLys−Cの場合と同様にクロマトグラムの比較から抗体のサブクラス及びタイプの推定が可能であることが判明した。
実施例3.
ヒト型化抗PTHrP抗体のL鎖を用い、本発明による抗体分子の解析方法に必要なサンプル量について検討した。実施例1と同様の条件で、Lys−Cによってヒト型化抗PTHrP抗体のL鎖を消化した混合物をRP−HPLCで解析した。
実験開始時のL鎖の量を、30、10、5、2、および1μgとした場合の、RP−HPLCのクロマトグラムを比較したのが図15である。サンプルの量に応じてピークの大きさは変わるものの、クロマトグラム全体の形は大きく変化していない。24分、48分、および49分付近のピークは、サンプル量に関係なく同程度の大きさであることから、解析操作過程の混入物である可能性がある。これらのピークはシーケンサでピークが確認されなかったことから、蛋白質ではないと考えられた。
以上の結果から実験で試みた範囲のサンプル量であれば、各断片をおよそ定量的に回収できることが確認できた。したがって、本発明によれば、サンプルの量に多少のばらつきがあったとしても、クロマトグラムの比較に基づいて、サブクラスやタイプの同定が可能であると考えられた。加えて、サンプル量が1μgであってもピークとして検出できるものは分取可能であった。更に、分取したサンプルはシーケンサーでアミノ酸配列を確認することもできた。したがって、本発明に基づく抗体分子の解析方法は、1μgという微量のサンプルで実施することができる、優れた解析方法であることが示された。
また同じ解析を異なる日に5回行い、解析結果の日差変動を確認した。その結果、本発明の方法には高い再現性が認められた。
実施例4.
実施例1と同じ条件で、以下の3種類の抗体をLys−Cで消化し、TOF−MSおよびRP−HPLCを利用して、本発明に基づく解析方法を行った。結果は、以下に示す図のとおりである。図中、帰属されたピークには、ピークトップに断片番号を付けた。
更に、先に実施例1で得られたヒト型化抗PTHrP抗体、並びに上記ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化抗IL6−R抗体の4検体について、H鎖とL鎖のそれぞれについて、TOF−MSのクロマトグラムを比較した結果を図22(L鎖)および図23(H鎖)に示す。検出位置が一致し、かつ検出パターンが類似するピークを直線で結んだ。帰属がついたピークには、ピークトップに星印(★印)を付けた。
消化物混合物のTOF−MSでは、質量数1000程度以下の断片は、低分子量域のノイズ、あるいは試薬やゲルからの抽出物に紛れて帰属が不明確なため未検出であるが、1000程度以上の質量数の断片のほとんどが検出できていた。検出されなかったものも、分取物をシークエンサで解析すれば、その存在が確認されたことから、それらはイオン化効率が低くて検出されにくかったと考えられる。各鎖のスペクトルを並べて比較すると種類の同じ抗体は似通ったスペクトルを示していた(図22、図23)。したがって、TOF−MSスペクトルからも抗体のサブクラスまたはタイプのタイピングが可能である。すなわち、消化混合物のTOF−MS測定は、反応の進み具合の確認やマスマッピングとしての利用のほかにタイピングにも利用可能であると考えられる。RP−HPLCで分取したフラクションを、シークエンサおよびTOF−MSで調べた結果、各抗体の各鎖とも大部分の断片が回収されていたことが確認できた。
上記ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化抗IL6−R抗体のL鎖並びにH鎖のアミノ酸配列に基づいて、Lys−Cで消化した場合に予測される断片を表7〜表12に示す。表は左から断片の番号、アミノ酸番号、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。また表内に、TOF−MSスペクトル(図16〜図21)においてピークを帰属することができた断片について丸印:○を付けた。またRP−HPLCの分取物の解析(図24〜図29)によって帰属を確認することができた断片に、星印:★を付けた。
実施例4.
実施例2と同じ条件でAsp−Nによってヒト型化抗PTHrP抗体のH鎖を消化し、RP−HPLCによって解析した。解析結果(クロマトグラム)を図30に示す。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、抗体分子を断片化したペプチド断片を、種類と量の両面から精度よく解析することが可能となる。その結果、再現性のよいペプチドマップを作成することができ、より簡便にかつより短期間に抗体分子の不均一性の解析および品質評価を行うことが可能となる。さらに、本発明によって得られるペプチドマップの比較により、構造未知の抗体のサブクラスの同定、バリアブル領域の同定を容易に行うことができる。
加えて、本発明による抗体分子の解析方法によれば、少ないサンプル量の抗体を用いて抗体分子を精度よく解析することが可能となる。本発明による解析方法の再現性の高さが、微量サンプルによる解析を可能とした。
更に、本発明の再現性の高さは、消化混合物中の副反応生成物にまで及ぶことが確認された。すなわち本発明の解析方法においては、理論的に生成することが予測される反応生成物のみならず、理論的には予測し難い副反応生成物も高い再現性で検知できる。このことは、本発明のペプチドマップによって、抗体分子をより緻密に、かつより正確にキャラクタライズできることを示している。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、ヒト型化PTHrP抗体L鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。ピークトップの数値は測定された質量数で、それに相当すると推定される断片番号を示した。
図2は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。ピークトップの数値は測定された質量数で、それに相当すると推定される断片番号を示した。
図3は、ヒト型化PTHrP抗体L鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。分取物をシークエンサで調べ帰属された断片番号をピークトップに示した。
図4は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。分取物をシークエンサで調べ帰属された断片番号をピークトップに示した。
図5は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖の298残基目を含む断片CH17−18に相当するRP−HPLCのフラクションのTOF−MSの結果を示す図。
図6は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体の各L鎖について、消化酵素としてLys−Cを用いた本発明の方法によって得られたペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体の結果を表している。
図7は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体の各H鎖について、消化酵素としてLys−Cを用いた本発明の方法によって得られたペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体の結果を表している。
図8は、ヒト型化PTHrP抗体について、還元カルボキシメチル化をしないで作成したLys−Cによるペプチドマップを示す図。還元カルボキシメチル化をしなくても、ペプチドマップの作成が可能なことがわかる。
図9は、ヒト型化PTHrP抗体L鎖のAsp−N消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。ピークトップに断片番号と括弧内に理論質量数を示した。
図10は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖のAsp−N消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。ピークトップに断片番号と括弧内に理論質量数を示した。
図11は、ヒト型化PTHrP抗体L鎖のAsp−N消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。分取物をシークエンサで調べ帰属された断片番号をピークトップに示した。
図12は、ヒト型化IL−6R抗体L鎖のAsp−N消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。分取物をシークエンサで調べ帰属された断片番号をピークトップに示した。
図13は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗IL−6R抗体、およびヒト型化抗TF抗体の各L鎖について、消化酵素としてAsp−Nを用いた本発明の方法によって得られたペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化IL−6R抗体、ヒト型化抗TF抗体の結果を表している。
図14は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗IL−6R抗体、およびヒト型化抗TF抗体の各H鎖について、消化酵素としてAsp−Nを用いた本発明の方法によって得られたペプチドマップを比較した図。同じアミノ酸配列を有するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化IL−6R抗体、ヒト型化抗TF抗体の結果を表している。
図15は、異なるサンプル量のヒト型化PTHrP抗体L鎖のAsp−N消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。上から順に、サンプル量を30、10、5、2、および1μgとしたときの結果を表している。
図16は、ヒト型化HM1.24抗体H鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図17は、ヒト型化HM1.24抗体L鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図18は、ヒト型化TF抗体H鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図19は、ヒト型化TF抗体L鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図20は、ヒト型化IL−6R抗体H鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図21は、ヒト型化IL−6R抗体L鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図22は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化IL−6R抗体の各L鎖について、消化酵素としてLys−Cを用いた本発明の方法によって得られたTOF−MSによるペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化IL−6R抗体の結果を表している。
図23は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化IL−6R抗体の各H鎖について、消化酵素としてLys−Cを用いた本発明の方法によって得られたTOF−MSによるペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化IL−6R抗体の結果を表している。
図24は、ヒト型化HM1.24抗体H鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図25は、ヒト型化HM1.24抗体L鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図26は、ヒト型化TF抗体H鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図27は、ヒト型化TF抗体L鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図28は、ヒト型化IL−6R抗体H鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図29は、ヒト型化IL−6R抗体L鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図30は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖のAsp−N消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
本発明は、抗体分子の一次構造を解析する方法に関する。より具体的には、抗体分子をH鎖およびL鎖に分離し、分離した各鎖を断片化し、各々から得られたペプチド断片を解析して抗体分子の一次構造を解析する方法に関する。
また本発明は、抗体分子のH鎖およびL鎖のそれぞれについて、消化により得られるペプチド断片を解析してペプチドマップを作成する方法を提供する。さらに本発明は、構造未知の抗体のH鎖のサブクラスおよびL鎖のタイプを推定する方法を提供する。
背景技術
抗体分子は、H鎖およびL鎖からなり、例えばIgGではH鎖、L鎖それぞれ二本がジスルフィド結合(S−S結合)を介して4量体として構成されている。抗体分子にはいくつかの構造上の不均一性が起こりうる。例えば、N末端のブロッキング、C末端アミノ酸の欠落、脱アミド化、酸化、メチル化、スクシニル化、グリコシレーション等が一般に報告されている。これらの構造上の不均一性は抗体の機能や安定性に影響を与えるため、不均一性の確認は重要である。特に、医薬用途での抗体分子の利用では、不均一性の解析を行うことが、品質評価を行う上で重要になる。また、初期物性評価としてアミノ酸配列を確認することと、原体規格試験や品質保証に用いるペプチドマッピング系を構築することは医薬品開発を進める上で必須である。そこで、より簡便に、より短期間にそれらを調べることができる分析系が必要となる。
抗体分子の一次構造解析では、酵素的あるいは化学的手法により断片化が行われる。しかし抗体分子は、一般に多量体構造であるうえに分子量が大きい。例えば代表的な抗体分子であるIgGの分子量は約15万である。そのため、抗体分子を直接断片化した場合は、複雑なペプチド断片混合物となり、各断片を分離して帰属することは困難である。よって、このような方法によっては高い再現性を期待することはできない。
多量体であることの影響を避けるために、逆相系高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)等の液体クロマトグラフィーでH鎖およびL鎖に分離した後で断片化することも考えられる。ところが、H鎖とL鎖はS−S結合(共有結合)以外にイオン結合、疎水結合、水素結合などの非共有結合によっても強く結合しているため、H鎖およびL鎖を液体クロマトグラフィーによって回収率よく分取することは困難である。その結果、従来の解析方法では試料として多量の抗体が必要とされていた。
発明の開示
本発明は、抗体分子の一次構造解析において、抗体分子を断片化して得られるペプチド断片を種類・量の両面から収率よく回収し解析する方法を提供することを目的とする。また、抗体分子を断片化して得られるペプチド断片を、適切な分離手段(例えばRP−HPLC)で分離分取し、解析した結果をもとに再現性のよいペプチドマップを作成し、より簡便にかつより短期間に抗体分子の不均一性の解析および品質評価を行う方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、得られるペプチドマップの比較により、構造未知の抗体のH鎖のサブクラス及びL鎖タイプの同定を容易に行い、可変領域の解析を効率よく行う方法を提供する。
前記課題を解決するために、本発明者らは、抗体分子の持つ構造上の特徴に着目した。その結果、抗体分子の分子量が大きいこととともに、その多量体構造が、抗体分子の解析における障害となっていることを見出した。そして、抗体分子を予めH鎖とL鎖とに分離し、分離した状態でこれらを断片化することによって、前述のような障害が取り除かれることを明らかにした。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。すなわち本発明は、以下の解析方法、並びにこの解析方法の用途に関する。
〔1〕次の工程を含む、抗体分子の構造解析方法。
a)抗体分子をH鎖とL鎖に分離する工程、
b)分離したH鎖とL鎖を断片化する工程、および
c)断片化により得られたペプチド断片を解析する工程
〔2〕変性ゲル電気泳動によって、抗体分子をH鎖とL鎖に分離する〔1〕に記載の方法。
〔3〕抗体分子をH鎖とL鎖に分離する前に、抗体分子のジスルフィド結合を還元により切断する〔1〕に記載の方法。
〔4〕抗体分子のジスルフィド結合を還元することで生じたチオール基を修飾により不可逆化する〔3〕に記載の方法。
〔5〕分離したH鎖とL鎖をゲル中で断片化する〔2〕に記載の方法。
〔6〕断片化したペプチドをゲルから溶出する工程を含む〔5〕に記載の方法。
〔7〕分離したH鎖とL鎖をタンパク質吸着膜に転写し、タンパク質吸着膜上で断片化する〔2〕に記載の方法。
〔8〕断片化により得られたペプチド断片を分離する工程を含む〔1〕に記載の方法。
〔9〕N末端がブロッキングされたペプチド断片をデブロッキングする工程を付加的に含む〔8〕に記載の方法。
〔10〕ペプチド断片の解析が、配列分析によって行われる〔1〕に記載の方法。
〔11〕ペプチド断片の解析が、質量分析によって行われる〔1〕に記載の方法。
〔12〕ペプチド断片の解析が、組成分析によって行われる〔1〕に記載の方法。
〔13〕〔1〕に記載の方法により得ることができる構造解析結果を基に作成したペプチドマップ。
〔14〕分離により得られたペプチド断片のうち不均一性に関与するペプチド断片を解析し、不均一性の種類を決定する〔1〕に記載の方法。
〔15〕抗体が医薬用途の抗体である〔1〕に記載の方法。
〔16〕次の工程を含む抗体分子の品質評価法。
a)抗体分子をH鎖とL鎖に分離する工程、
b)分離したH鎖とL鎖を断片化する工程、
c)断片化により得られたペプチド断片を解析する工程、
d)得られた解析結果を構造既知の抗体の解析によって得られた解析結果と比較する工程、および
e)両解析結果に相違がないか、又は相違が規定の範囲内である場合に両抗体が同等であると判定する工程
〔17〕構造既知の抗体と構造未知の抗体のそれぞれについて〔1〕に記載の方法により構造を解析し、両者のコンスタント領域に関する解析結果を比較することにより構造未知の抗体のH鎖のサブクラス及び/またはL鎖のタイプを同定する方法。
〔18〕次の工程を含む、抗体分子のバリアブル領域の解析方法。
a)〔1〕に記載の方法により、抗体分子の構造を解析する工程、および
b)a)の解析情報から構造既知の抗体の解析結果に基づいて、コンスタント領域の情報を取り除いて、バリアブル領域の情報を選択する工程、
〔19〕解析方法が逆相液体クロマトグラフィーであり、工程b)がコンスタント領域に由来するピークからバリアブル領域に由来するピークを選択する工程である〔18〕に記載の方法。
本発明では、抗体分子の一次構造解析を容易にするため、まず抗体分子をH鎖とL鎖に分離する。次に、分離された両鎖を別々に断片化し、得られるペプチド断片を解析する。得られたペプチド断片についての解析結果に基づいて、ペプチドマップを作成することができる。ペプチドマップは、抗体分子の品質評価等に用いることができる。
本発明において、抗体分子のH鎖とL鎖は、任意の手法によって分離することができる。たとえば、ジチオスレイトール(DTT)や、2−メルカプトエタノール(2−ME)等の還元剤で処理して抗体分子のS−S結合を切断し、更に分子量の差等に基づいてH鎖とL鎖を分離することができる。還元処理の後に、チオール基(SH基)を修飾することにより、S−S結合の再結合を防ぐこともできる。S−S結合は、もともと結合していたSH基間のみならず、まったく無関係なSH基の間でも起きる可能性がある。したがって、S−S結合の再結合は、複雑な混合物を生じる原因となる。
SH基は、アルキル化やアシル化等によって修飾することができる。具体的には、例えば、還元カルボキシメチル(CM)化、還元ピリジルエチル(PE)化、還元カルボキシアミドメチル(CAM)化等の処理を挙げることができる。SH基を修飾することにより、S−S結合は不可逆化されるので、再結合による複雑な混合物の生成が抑制され、解析精度の向上が期待できる。
本発明においてSH基の修飾は、H鎖とL鎖の分離前、分離後断片化前のゲル中、そして断片化後の、任意のタイミングで実施することができる。特にSDS−PAGEによって分離を行う場合には、実施例でも述べるように、分離前に修飾を行うことにより、収率良く、しかも高い再現性を達成することができる。つまり、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)による変性とDTTによる還元、そしてCM化処理の後にSDS−PAGEによる分離を行うのである。
本発明において、S−S結合を切断された抗体分子は、断片化に先だって、H鎖とL鎖に分離する。H鎖とL鎖の分離は、任意の手法で行うことができる。H鎖とL鎖の分離は両者の性質の差(例えば分子量、電価、疎水性等)に基づいて分離することができる。具体的には、電気泳動や液体クロマトグラフィー等の分離手法を用いることができる。このとき、H鎖とL鎖の再結合を阻止できる条件下での分離が必要である。具体的には、両者を変性ゲル電気泳動によって分離するのが有利である。変性ゲル電気泳動の採用によって、H鎖とL鎖を物理的に分離することができ、より高度な再現性を期待できる。
本発明において、変性ゲル電気泳動とは、抗体分子のH鎖とL鎖とを分離することができるゲル電気泳動を言う。このような電気泳動としては、SDSや尿素を含むアクリルアミドゲル媒体を利用した電気泳動が公知である。中でもSDS−PAGEは、本発明における特に有利な分離手法である。SDS−PAGEはLaemmliの方法(Laemmli(1970)Nature 227,680−685)に準じて行うことができる。H鎖とL鎖は共有結合(S−S結合)とともに非共有結合により強く結合しているが、SDS−PGAEを用いることにより容易にH鎖とL鎖を分離できる。
あるいは、還元アシル化等を行わずに変性ゲル電気泳動を実施することも可能である。たとえば抗体分子の内部配列が部分的に判ればよい場合、還元条件下のSDS−PAGEでもH鎖とL鎖に分離でき同様に一次構造解析が可能なので、システイン残基を除いたアミノ酸配列を調べることが可能である。
分離されたH鎖とL鎖は、それぞれ断片化される。蛋白質の一次構造解析における断片化法は公知である。蛋白質の構造解析には、一般に酵素的消化や化学的切断が利用される。酵素としては、たとえば次のような酵素が用いられる。これらの酵素はいずれも市販されており、その消化条件も公知である。
リシルエンドペプチダーゼ
エンドプロティナーゼLysC
マウス顎下腺プロテアーゼD
Staphylococcus aureuse V8プロテアーゼ
エンドプロテイナーゼAsp−N
酵素的な消化は、穏やかな条件下で蛋白質を消化することができるので、アミノ酸残基側鎖の修飾等が起きにくい。また、消化の条件を一定とすれば再現性を容易に維持することができる。
本発明においては、酵素的な消化の他に化学的な切断を利用することもできる。臭化シアンによるメチオニン残基のカルボキシル側での切断は、代表的な化学的切断法である。
分離したH鎖およびL鎖の断片化は、任意の手法で行うことができる。たとえば蛋白質の構造解析のために最近開発された技術として、蛋白質をSDS−PAGEまたは二次元電気泳動にかけて得られたバンドまたはスポットを切り取り、ゲル中で化学的または酵素的に断片化する方法がある(Jahnen−Dechent and Simpson(1990)Plant Mol.Biol.Reporter 8,92−103、Hellman U.et al.,(1995)Anal.Biochem.224,451−455、Kawasaki et al.(1990)Anal.Biochem.191,332−336)。この方法は、ゲル中でタンパク質を断片化することから、In gel法と呼ばれている。この他、ゲル中で分離された蛋白質をポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜や、ニトロセルロース膜等の蛋白質吸着膜に転写し、この膜上で断片化を行うこともできる。本発明では、前記断片化工程にIn gel法や蛋白質吸着膜上での断片化法を組み合わせることにより、解析の再現性を更に高めることができる。PVDF膜は「イモビロン」等の商品名(MILLIPORE)で市販されている。
プロテオーム解析の解析法の一つであるIn gel消化法は、通常は二次元電気泳動で分離精製した蛋白質をそのままゲル中で酵素消化し、回収されるペプチド断片からそのアミノ酸配列に関する情報を得る、という手順で行われる。本発明においては、抗体はSDS−PAGE等の変性ゲル電気泳動によりH鎖とL鎖へ簡単に分離できる。したがって、電気泳動は変性ゲル電気泳動のみとし、分離したH鎖とL鎖をそのままゲル中で酵素消化することによって、本発明における断片化を達成できると考えた。つまり酵素消化に先立って行われる電気泳動を、二次元ではなく、変性ゲル電気泳動のみとするのである。
In gel消化法は、SDS−PAGEにより分離したH鎖およびL鎖のバンドを切り出し、ゲルが浸る程度まで消化バッファーを加えてインキュベートし、これにLys−C等のプロテアーゼを加えて消化することにより行うことができる。消化液を回収し、ゲルに新たに溶出バッファーを加え、ゲルからの断片の抽出を行う。この操作を繰り返し、得られた消化液および溶出液を混合してつぎの構造解析に用いる。In gel法を用いる場合は、少ないステップ数でH鎖およびL鎖を容易に断片化することができるとともに、その後のペプチド断片の分離分取も回収率よく行うことができる。また、本発明では、SDS−PAGEにより分離したH鎖およびL鎖をPVDF膜に転写し、PVDF膜上でH鎖およびL鎖を断片化することも可能である。PVDF膜への転写およびPVDF膜上での断片化は、通常の方法により行うことができる。
抗体分子の立体構造は、S−S結合をはじめとする多様な結合様式によって維持されている。そのため、例えばS−S結合のみを解離させても、その他の結合を十分に阻止することができなければ、消化中にも様々な立体構造を構築してしまう。この立体構造の構築は、ペプチドの断片化を妨げる要因の一つとなる。本発明の解析方法ではIn gel法や蛋白質吸着膜上での断片化法を組み合わせることにより、分離したH鎖とL鎖の分子の動きが制限され立体構造の構築が大幅に抑制された状態で消化を進めることができる。その結果、再現性良く解析することができる。
本発明は、あらゆる抗体の解析に利用することができる。本発明によって、たとえば天然型抗体、キメラ抗体、ヒト型化抗体、これらの誘導体又は改変体等の構造解析を行うことができる。本発明は、完全な抗体分子(whole抗体)のみならず、Fab、F(ab’)2、Fab’等の抗体断片に対して適用することもできる。更に、本発明の方法は、IgGのみならず、IgA、IgM、IgD、あるいはIgEなど、あらゆるクラスの抗体に応用することができる。また、解析すべき抗体が由来する動物種や、細胞株も制限されない。そして、どのような方法によって調製された抗体であっても、分離可能なH鎖とL鎖を含む抗体分子である限り、本発明の方法によって解析することができる。
抗体分子のH鎖およびL鎖を消化して得られたペプチド断片は、公知の蛋白質解析法によって解析することができる。本発明において、ペプチド断片の解析とは、ペプチド断片が有する生化学的な情報を明らかにすることと定義される。生化学的な情報とは、ペプチド断片を構成するアミノ酸配列、分子量、質量、あるいは修飾の有無やその種類等の情報を例示することができる。ペプチド断片の修飾には、脱アミド化、酸化、メチル化、スクシニル化、あるいはグリコシレーション(糖化)等が含まれる。消化により得られたペプチド断片は、必要に応じて適当な手段により分離してから解析を行ってもよい。このような分離手段としては、RP−HPLC、SDS−PAGE、イオン交換クロマトグラフィー等を挙げることができる。上記分離手段で得られるペプチド断片の分離パターンをペプチドマップとして使用することができる。また、不均一性に起因しているペプチド断片については、適切な分析法を適用することで不均一性の種類を決定することができる。本発明では、抗体分子中に存在する不均一性について、H、L両鎖を断片化してから分析するため、容易に分析を行うことができる。分析を行う方法は公知である。
ペプチド断片の解析方法としては、質量分析、アミノ酸配列分析、アミノ酸組成分析等が一般的である。これら各構造解析法は、通常の方法に従って行うことができる。質量分析は、現在のところ分子量の違いに基づく解析方法としては、最も信頼性の高い解析手法である。本発明においても、質量分析法は好適な解析手法の一つである。質量分析計はイオン源と質量検出部及び検出器から構成されている。イオン化法と分析部には種々の方式があり、装置はそれらの組み合わせでできている。代表的な方式を次に示す。
イオン化法−MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)
EI(Electron Ionization)
FAB(Fast Atom Bombardment)
API(Atmosphere Pressure Ionization)
分析部−TOF(Time of Flight)
Sector(Magnetic,Electrostatic)
Quadrupole
FT(Fourier Transform)
中でもMALDI−TOF−MS(TOF−MS)は、本発明における特に有利な解析装置である。その他に質量分析装置に液体クロマトグラフィー(LC)を組み合わせたLC−MSや質量分析装置を2台繋ぎ合わせたタンデムMS(MS/MS)、更にはLCとMS/MSを組み合わせたLC−MS/MSといった装置も存在しそれぞれ目的に応じた解析に用いられている。
アミノ酸配列はタンパク質の一次構造解析において最も重要なデータである。本発明においても、ペプチド断片の確認は配列分析の結果で行った。代表的なアミノ酸配列の分析法を以下に示す。
N末端分析法−エドマン分解法(PITC法)
DABITC法
ダンシル法(DNS−Cl法)
アミノペプチダーゼ法
C末端分析法−ヒドラジン分解法
カルボキシペプチダーゼ法
現在エドマン分解法を用いた自動分析装置が存在し、この装置を用いた解析が一般に行われている。本発明においてもこの装置を用いた。エドマン分解法においては、ペプチド断片のN末端のブロッキングが障害となる。本発明においては、N末端のデブロッキングの後に、エドマン分解法によって解析することができる。特に、ペプチドの断片化の後にデブロッキングを行うことで、デブロッキングを容易にかつ確実に行うことができる。N末端のデブロッキングのための手法は公知である。
N末端のブロッキングとは、N末端アミノ酸のαアミノ基が、アセチル化等によって修飾された状態にあることを言う。αアミノ基が、修飾されたアミノ酸は、エドマン分解法等の手法では同定が困難である。しかしブロッキングされたN末端は、その修飾を除去すれば、解析は可能となる。たとえば、アセチル化されたアミノ酸は、アミノ酸アシラーゼによって酵素的に修飾を除去することができる。アミノ酸アシラーゼは、一般に大きな蛋白質には作用しにくい。本発明においては、消化断片に対してアミノ酸アシラーゼを作用させることができる。そのため、本発明においては、N末端を容易に、かつ確実にデブロッキングできる。
アミノ酸組成分析はタンパク質の基本的な特性を知る上で必要である。加水分解で生成した構成アミノ酸を誘導体化して検出するのが一般的で、誘導体化がアミノ酸分離の前か後かで二種に大別される。代表的な誘導体化試薬を示す。
ポストカラム法−ニンヒドリン
o−フタルアルデヒド
プレカラム法−PITC
NBD−F
FMO−Cl
Dabsyl−Cl
o−フタルアルデヒド
DNS−Cl
ニンヒドリンを用いたポストカラム法は全自動化されており再現性も高いが、検出限界の問題からタンパク質の一次構造解析ではPITCを用いたプレカラム法が利用されることが多い。
また本発明は、本発明の解析方法によって得られたペプチドマップに関する。このような解析結果に基づいて、抗体分子の構造に関するペプチドマップを作成することができる。本発明においてペプチドマップとは、あるペプチド混合物を特徴付けることができる、ペプチド混合物を構成する個々のペプチド断片の情報の集合を意味する。ペプチドマップは、一般的にはペプチド断片の混合物を何らかの手法によって分離した状態を意味する用語であるが、本発明においては分離された状態にあるペプチド断片そのもののみならず、ペプチド断片の解析によって得られた情報の集合も含めて、ペプチドマップと呼ぶ。したがって、消化断片を電気泳動によって展開した泳動像は、本発明のペプチドマップに含まれる。あるいは、ペプチド断片の質量分析の結果も、やはり本発明のペプチドマップに含まれる。
ペプチドマップの比較によって、あるペプチド断片混合物と他のペプチド断片混合物との特性を対比させることで、元のタンパク質の構造上の同等性もしくは差異を調べることができる。共通のペプチドマップを与えるペプチド断片混合物は、元の抗体分子の構造が共通である可能性が高いことを示唆している。逆にペプチドマップの相違は、抗体分子に構造的な違いがあることを示している。したがって、ペプチドマップの比較によって、抗体分子の構造を比較することができる。
たとえば構造既知の抗体の解析結果と比較することにより、抗体の品質評価を行うことができる。具体的には、生産された抗体分子のペプチドマップを本発明に基づいて作成し、標準となるペプチドマップと比較する。その結果、両ペプチドマップの相違が目的とする解析精度に応じて規定した範囲内であれば、生産された抗体は不均一性を含め同等と判定される。本発明において、不均一性とは、抗体分子間の構造的な相異を言う。抗体分子の構造的な相異は、たとえばN末端のブロッキング、C末端アミノ酸の欠落、脱アミド化、酸化、メチル化、スクシニル化、あるいはグリコシレーション等の有無によってもたらされる。しかし本発明によって見出すことができる不均一性は、ここで例示した原因によって生じた不均一性に制限されない。
本発明の方法に基づいて作成したペプチドマップを用いることにより、構造未知の抗体のサブクラス及びタイプの同定を行うことができる。すなわち、構造既知の抗体および構造未知の抗体のそれぞれについて本発明の方法によりペプチドマップを作成し、両者のコンスタント領域を比較することにより構造未知の抗体のH鎖のサブクラス及びL鎖のタイプを同定することができる。また、本発明の方法によれば、複数の構造未知の抗体の混合物についても、サブクラス及びタイプの異なる構造既知の抗体について作成したペプチドマップと比較することにより、どのサブクラス又はタイプの混合物であるかを容易に判定することが可能となる。
イムノグロブリンは、コンスタント領域(constant region;定常領域)とバリアブル領域(variable region;可変領域)とで構成されている。バリアブル領域は抗原認識のために多様な構造となるのに対して、コンスタント領域の構造は限られている。したがって、予想される全てのコンスタント領域について、予めペプチドマップを作成しておくことが可能である。コンスタント領域の構造は、H鎖ではサブクラスとして、L鎖ではタイプとして分類されている。全てのサブクラスと、全てのタイプについて作成されたペプチドマップがあれば、同じ方法によってペプチドマップを作成し、両者を比較することによって、構造未知のイムノグロブリンを構成するH鎖のサブクラス、あるいはL鎖のタイプを決定することができる。
一方、ペプチドマップにおけるコンスタント領域に由来する断片の情報を利用して、未知抗体の一次構造解析を効率的に進めることができる。抗体分子がコンスタント領域とバリアブル領域からなっていることは既に述べた。したがって、ペプチドマップにおいてコンスタント領域に由来する断片の情報が得られるということは、バリアブル領域に由来する断片のピークを推定できることに他ならない。したがって、バリアブル領域に由来すると推定される断片ピークについて、優先的に構造を解析することができるのである。抗体分子の評価において、抗原との結合特異性を左右するバリアブル領域の構造解析情報は重要である。そのバリアブル領域の解析を効率的に進めることができる本発明の手法は、抗体分子の評価方法として有用である。
たとえば実施例に示すように、ペプチド断片の解析を逆相クロマトグラフィーや質量分析によって行うとする。このときペプチドマップは、クロマトグラムや質量スペクトルとして得られる。ペプチドマップの比較による抗体分子の評価は、ピークの帰属の決定等を経て進められる。評価にあたって、コンスタント領域に由来する断片のピークを同定することができれば、残るピークについて比較することによってバリアブル領域を解析できることは明らかである。
また、逆相クロマトグラフィーのクロマトグラムにおけるバリアブル領域に由来する断片のピークを選択し、選択されたピークを分取してそのアミノ酸配列を解析することができる。本発明によれば、このようにして、バリアブル領域の構造解析を効率的に進めることもできる。
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1.
以下、抗Parathyroid hormone−related peptideヒト型化抗体(IgG1)(抗体の作製方法はWO98/13388に記載)を例に、本発明による解析例を示す。
ヒト型化PTHrP抗体のL鎖のアミノ酸配列を配列番号:1に、そしてH鎖のアミノ酸配列を配列番号:2に示した。ヒト型化PTHrP抗体はIgG1抗体でH鎖とL鎖二本づつがS−S結合で架橋された構造を取っており、アミノ酸総数は1300個余りからなる巨大な蛋白質である。そのため抗体分子全体を一度に分析した場合、酵素消化及び断片の分離分取の二点で再現性を維持することは困難であった。また還元修飾によりS−S結合を不可逆的に切断後、RP−HPLCでH鎖とL鎖に分けそれぞれを分析した場合も、H鎖とL鎖の分離が不十分で回収率も低く分析精度は良くなかった。抗体は巨大な蛋白質なので一般的な蛋白質の分析法をそのまま適用しても確度の高いデータが得られてないのが現状であった。そこで本発明の方法を考えた。
(操作手順)
1)サンプル調製
a)還元カルボキシメチル(CM)化
ヒト型化PTHrP抗体溶液(13.4mg protein/ml;150mM NaCl,20mM酢酸/酢酸Na緩衝液,pH5.7)とSDSサンプルバッファー(5%SDS,2mM Ethylenediamine Tetraacetic Acid(EDTA),0.005%Bromophenol Blue(BPB),20mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane(Tris)−HCl,pH8.0)を1:5(V/V)で混合撹拌し、95℃水浴中5分間の加熱で変性した。最終濃度で40mMになるようにDTTを添加し、チューブの上部間隙を窒素ガスで置換し、空気恒温槽中37℃で2時間インキューベートし還元した。最終濃度で80mMになるようにヨード酢酸を添加し、チューブの上部間隙を窒素ガスで置換し、空気恒温槽中37℃で30分間反応させCM化した。1N NaOHでpH6.8程度まで中和し、泳動サンプルとした。
b)還元のみ
ヒト型化PTHrP抗体溶液と還元用SDSサンプルバッファー(5%2−ME,5%SDS,2mM EDTA,0.005%BPB,20mM Tris−HCl,pH8.0)を1:5(V/V)で混合撹拌し、95℃水浴中5分間の加熱で変性還元し泳動サンプルとした。
2)SDS−PAGEによるH鎖とL鎖の分離
SDS−PAGEで泳動しH鎖とL鎖に分離した。泳動はLaemmliの方法に準じて行った。ゲルはSDS−PAGE mini 12%(TEFCO)を用いた。ランニングバッファー(0.1%SDS,200mM Glycine,25mM Tris)中25mA(定電流)で泳動し、BPBが流れ切った時点で止めた。各鎖のバンドは染色液(0.2%Coomassie Brilliant Blue R−250,40%エタノール,10%酢酸)で染色し検出した。脱色液(40%メタノール,10%酢酸)で脱色後、ミリQ水に浸して冷蔵庫中で保管した。
3)In gel消化
H、L各鎖のバンドに相当する部分を切り出し、ゲルが浸る程度まで消化バッファー(0.1%SDS,100mM Tris−HCl,pH9.0)を加え、空気恒温槽中37℃で30分間プレインキューベーションした。最終濃度で5μg/mlになるように酵素Lys−Cを添加し、空気恒温槽中37℃で18時間消化した。Lys−Cにより、蛋白質を構成するアミノ酸中、リジンのC末端側が特異的に切断される。
4)ゲルからの断片の抽出
消化液を別のチューブに取り、溶出バッファー(0.1%SDS,100mM Tris−HCl,pH9.0)を新たに加え空気恒温槽中37℃で1時間溶出した。この溶出操作を3回繰り返し、得られた消化液及び溶出液を混合し消化物混合液とし次の解析に用いた。
5)質量分析(TOF−MS)による還元CM化及び消化の確認
消化物混合液をZipTip(MILLIPORE)で脱塩し、TOF−MSサンプルとした。マトリクスは3,5−dimethoxy−4−hydroxycinnamic acid(Sinapinic Acid)を用いた。サンプルとマトリックスは0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む50%アセトニトリル溶液で溶解し、サンプルプレート上で乾燥した。装置はVoyager−DE STR(PerSeptive Biosystems)を用いた。この装置はイオン化法にマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、検出法に飛行時間(TOF)型を用いている。
測定はサンプルの理論質量数範囲を網羅できるMethod fileを選んだ。その測定条件は、Accelerated Voltage:20kV,Delay:30ns,Mode:Linear,Positiveで行った。操作は全てマニュアルに従い行った。
6)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による断片の分取
消化物混合液をRP−HPLCに懸け消化断片を分取した。
分離カラムはODS−A(250X4.6mm)(YMC)を用い、ガードカラムにTSKguardgel DEAE−SW(10X6.0mm)(東ソー)を使用した。装置はシステムコントローラーSCL−6A、ポンプLC−6A、UVディテクターSPD−6A、インテグレータークロマトパックC−R3A(Shimadzu)を用いた。
移動相は0.1%TFAを含んだミリQ水及びアセトニトリルを用いた。流速を1.0ml/minとしアセトニトリル5−60%のリニアグラジエントで溶出した。検出はUV215nmで行った。
分取物は凍結乾燥後少量のギ酸で溶解し、シークエンサ及びTOF−MSによる断片確認のサンプルとした。
7)シークエンサによる断片の確認
分取サンプルをサンプルフィルター上にそのまま添加乾燥し、分析を行った。装置はプロテインシークエンサー476A(Applied Biosystems)を用い、操作は全てマニュアルに従い行った。
8)TOF−MSによる断片の確認
分取サンプルをサンプルプレート上で乾燥した。0.1%TFAを含む50%アセトニトリル溶液に溶解したマトリクス(Sinapinic acid)をサンプル上に滴下し、分析サンプルとした。装置は5)と同じものを用いた。測定はサンプルの理論質量数範囲を網羅できるMethod fileを選んだ。その測定条件は、Accelerated Voltage:20kV,Delay:100ns,Mode:Linear,Positiveとした。操作は全てマニュアルに従い行った。
(結果)
1)S−S結合の還元CM化
ヒト型化PTHrP抗体はIgG1抗体でH鎖とL鎖二本づつがS−S結合で架橋された構造を取っている。S−S結合を還元切断しただけで、反応性の高いSH基がそのまま残っているとS−S結合の再編成や試薬等の付加でデータの解釈が複雑かつ困難になりマッピングの系としては不適当である。そこで、無用な混乱を避けるためS−S結合の還元修飾処理を手順に組み入れる検討を行った。組み入れる位置は泳動前サンプル、酵素消化前のゲル中、溶出後の消化物混合液の三ヶ所が考えられた。ゲルから溶出後の消化物混合液ではもう既にSH基に何かが付加していることが予備検討で確認されている(Data not shown)のでこの段階は除外した。
一般にはゲル中での還元修飾が行われているが、ここでは泳動前サンプルの還元CM化を行った。泳動前サンプルをSDSサンプルバッファー中すなわちSDSで変性させ還元CM化処理を行った。処理後のサンプルはそのまま泳動することが可能で、泳動パターンも影響を受けてなかった。消化物混合液のTOF−MSでもS−S結合に関与する断片は理論質量数通りに検出され、CM化反応は進んでいた。RP−HPLCのクロマトグラムや回収量も問題なかった。
2)CM化処理のあるなしの比較
CM化処理をした場合としなかった場合のクロマトグラムの比較を図8(CM化処理無し)および図3(CM化処理有り)に示す。CM化処理の部分以外は本発明の方法に従って操作した。
S−S結合に関与したピークは分取物のシークエンサ及びTOF−MSの結果からSH基に試薬等が付加していると考えられた。同じ配列が複数箇所で検出されたものはTOF−MSの結果からSH基への付加物が異なったものであると考えられた。また、S−S結合に関与しない断片は全て図8と図3で同じように検出されていた。
以上のことから、CM化処理をしなかった場合でも還元条件下SDS−PAGEでのH鎖とL鎖の分離、ゲル中断片化及び構造解析が可能な事が判明した。よって、抗体分子の内部配列が部分的に判ればよい場合など、システイン残基を除いたアミノ酸配列を決定することが可能である。以降の実験及び結果については、特に示した場合を除き、CM化処理を行った。
3)消化物混合液のTOF−MS解析
ヒト型化PTHrP抗体を還元CM化処理しSDS−PAGEに懸けた後、H鎖、L鎖のバンドを切り出しゲルをそのまま酵素Lys−Cで消化した。マトリクスにSinapinic Acidを用い、各鎖の消化物混合物をTOF−MSで調べた結果を図1、図2に示す。ピークトップの数値は測定された質量数でそれに相当すると推定される断片番号を示した。
L鎖(図1)では配列から予想される断片16個中7個が検出できていた。L鎖のアミノ酸配列(配列番号:1)から理論的に生じる断片を表1に示す。表は左から断片の番号(CLn)、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。また「定常」と「可変」は、コンスタント領域(定常)とバリアブル領域(可変)の各領域を分ける部分を示している。検出できた7個はほぼ理論質量数通りで、その中にはシークエンサでは確認できないN末ブロッキング断片(CL1)と推測されるものも含まれていた。
CL9はピークが小さくて有無が不明確であったが、TOF−MSではイオン化効率の低いものが検出され難いのは避けられない。CL9は分取物のシークエンサでの解析では存在が確認できたことから、イオン化効率が低くて検出され難かったと考えられた。検出されなかった他の8個は質量数1000以下の断片で低分子量域のノイズ或いは試薬やゲルからの抽出物のピークに紛れて帰属が不明確なため未検出とした。
H鎖(図2)では配列から予想される断片31個中15個がほぼ理論質量数通りで検出された。H鎖のアミノ酸配列(配列番号:2)から予測される断片を表2〜表3に示す。表は左から断片の番号(CHn)、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。また「定常」と「可変]は、コンスタント領域(定常)とバリアブル領域(可変)の各領域を分ける部分を示している。検出できたピークの内CH7−8、13−14、17−18はLys−Cで切断され難いと言われるLys−Proと並ぶ配列が切断されずに繋がった断片として検出された。
質量数1000以下は上記L鎖の場合と同理由で帰属が不明確なので除外すれば、検出できなかったのはCH4とCH15であった。しかしこれらの断片はどちらも分取物のシークエンサでの解析では存在が確認されたことから、イオン化効率が低くて検出されなかったと考えられた。
現行の方法で種類的に大部分の断片がゲルから回収できたことから、ゲル中での酵素消化が可能と考えられた。また量的にはTOF−MSのスペクトル強度から80〜90%の断片が回収できたと概算された。
上記の検討中では消化物混合物のTOF−MS測定は還元CM化反応の進み具合の確認として用いたが、その結果では測定範囲内のほとんどの断片に相当するピークが理論質量数通りに検出できていた。このスペクトルはマスマッピングとしての利用が可能である。配列が既知のものであれば断片の理論質量数が算出できるので、測定値の帰属が可能である。N末修飾断片のようにシークエンサで検出できないもの又はRP−HPLCでの溶出位置が変わらない修飾が起きた場合でも質量数のズレからその修飾の種類が推測可能である。TOF−MSスペクトルとRP−HPLCクロマトグラム両方を揃えることでより確度の高いマッピングデータにすることができる。
4)RP−HPLCクロマトグラム及び分取物の解析
消化物混合液をRP−HPLCに懸け分取したクロマトグラムを図3、図4に示す。シークエンサで分取物のアミノ酸配列を調べた結果、帰属された断片番号をピークトップに示した。シークエンサで解析できる残基数には限度があるので、最後まで読めていない長い断片は、予想配列の全長であるかどうかは、分取物をTOF−MSで調べた結果と併せて判断した。
L鎖(図3)では予想配列から得られる断片16個中13個が帰属できた。CL11−12は繋がった断片として19.5分ピークで確認された。これはLys−Proと並ぶ配列がLys−Cで切断されなかったためである。またこのフラクションではCL10も同時に検出されていた。32.8分ピークも同様にCL2とCL8が同時に検出されていた。
また26.5分と32.2分はどちらもCL4の配列が読めた。配列分析の結果では26.5分ピークの48残基目のMetの回収量が極端に悪く、Metの修飾が起きていると考えられた。LC−MSの結果からMetの酸化体の生成によるものと推測した。CL9は48.9分ピークで確認され(Data not shown)、消化物混合液のTOF−MSで検出できなかったのはイオン化効率の問題であったことが示された。帰属できなかった断片の内CL1はN末Glnのピログルタミル化のためシークエンサでは確認できなかったが、32.5分ピークはシークエンサで何も読めなかったことと分取物のTOF−MSの結果からCL1と考えられる。帰属できてないCL3とCL13はそれぞれアミノ酸3残基と5残基からなる小断片なのでODSカラムを用いたRP−HPLCでは保持されずに素通りしたものと考えられる。
H鎖(図4)では予想配列から得られる断片31個中19個が帰属できた。39.3分ピークでCH13−14、46.7分でCH17−18がそれぞれ確認された。これらはLys−Proと並ぶ配列がLys−Cで切断されなかったためである。消化物混合液のTOF−MS(図2)で繋がった断片の質量数ピークが検出できていたことと矛盾しない。45.9分ピークでCH7の配列が読めたが、長い断片なので全長の配列は確認できなかった。しかしLys−Cで切断され難いLys−Proと並ぶ配列であることと、TOF−MSで繋がった断片の質量数ピークが検出できていたことからCH7はCH8まで繋がった断片と考えている。
34.1分ピークではCH15とCH30が同時検出されていた。30.6分と34.1分両ピークでCH30の配列が読めたが、配列分析の結果では30.6分ピークの429残基目のMetの回収量が極端に悪く、Metの修飾が起きていると考えられる。CL4と同様にMetの酸化体の生成によるものと推測している。CH4は48.4分、CH15は34.1分でそれぞれと確認され、消化物混合物のTOF−MSで検出できなかったのはイオン化効率の問題であったことが示された。
上記のRP−HPLCのクロマトグラムは良好な再現性が認められた。そして大部分の断片が回収できたことがTOF−MSによる質量分析とシークエンサによる配列分析から確認できた。また断片の回収率は、シークエンサの繰り返し収率から算出したアプライサンプル量を用いて計算して30〜60%と良好な回収率であった。以上からマッピングの系とするのに必要な要件をほぼ充たしていると言える。よってIn gel消化法を適用した本手法は抗体のペプチドマッピング系に利用可能といえる。
5)不均一性断片の検出例(グリコシレーション)
ヒト型化PTHrP抗体はH鎖の298残基目Asnへの糖鎖の付加が想定されている。298残基目は断片CH17−18に在り、シークエンサによる分析の結果から46.6分(図4)がそのピークであった。
他の断片ピークに比べてブロードなのは糖鎖のヘテロジェニティーに起因すると考えられる。このフラクションのTOF−MSの結果を図5に示す。ペプチド断片部分だけの理論質量数3461付近は何も検出されず、4500から6900付近でピークが検出されている。質量数のズレは付加している糖鎖の分で、複数見られているピークは糖鎖のヘテロジェニティーが検出できたものと考えられる。更にこのフラクションを用いて、質量分析やグリコシダーゼ消化を組み合わせることで糖鎖に関する情報を得ることも可能である。
6)H鎖のサブクラス及びL鎖のタイプの同定
ヒト型化PTHrP抗体以外のヒト型化抗体ヒト型化抗HM1.24抗体とヒト型化抗TF抗体を本発明の方法に従って分析しクロマトグラムを得た。なお、ヒト型化抗HM1.24抗体およびヒト型化抗TF抗体は、ぞれぞれWO98/14580およびWO99/51743に従って作製した。各抗体のL鎖のクロマトグラムの比較を図6に、H鎖の比較を図7に示す。クロマトグラムで検出位置が一致し且つ出方が似通ったピークを直線で結んだ。
図6では、ヒト型化抗HM1.24抗体とヒト型化抗TF抗体は幾つかのピークが直線で結べたが、ヒト型化PTHrP抗体との間は結べるものがなかった。cDNAの予想塩基配列からL鎖のタイプはヒト型化抗HM1.24抗体とヒト型化抗TF抗体がκ鎖で同じ、ヒト型化PTHrP抗体はλ鎖で異なることが判っている。また、ヒト型化抗TF抗体の分取物の解析結果から直線で結べたピークは全て定常部(コンスタント領域)由来断片であったことが確認できている。図中、星印(★印)を付けたピークが定常部位(コンスタント領域)に相当する。これらのことから、同じタイプのものを解析した場合、定常部(コンスタント領域)由来断片が同じように検出されるため似通ったクロマトグラムを示し、異なったものでは違ったクロマトグラムを示すことが判明した。
図7ではヒト型化PTHrP抗体とヒト型化抗HM1.24抗体の間は多くの直線で結べたが、ヒト型化抗TF抗体との間は2本しか結べなかった。cDNAの予想塩基配列からH鎖のサブクラスはヒト型化PTHrP抗体とヒト型化抗HM1.24抗体がγ1、ヒト型化抗TF抗体がγ4であることが判っている。また、ヒト型化PTHrP抗体の分取物の解析結果から直線で結べたピークは全て定常部(コンスタント領域)由来断片であったことが確認できている。ヒト型化抗TF抗体との間で結べたピークはγ1と4の定常部位(コンスタント領域)で同一の配列を持った部分由来の断片であったことがヒト型化抗TF抗体分取物の解析で確認できている。L鎖のタイプと同様で同じサブクラスのものは似通ったクロマトグラムを示し、異なったものでは違ったクロマトグラムを示すことが判明した。
クロマトグラムの比較からその抗体のサブクラス及びタイプを推定することが逆に可能である。未知の抗体や抗体の混合物でもクロマトグラムの比較で同定できることが判っている。
抗体のサブクラスやタイプが同定できれば、可変部(バリアブル領域)由来のピークを特定できるので、そのピークを優先的に解析することで抗体の構造解析を効率よく進めることが可能になる。
7)サンプル必要量
ここでの検討はサンプル量として50μgを用いた場合であるが、配列の確認が目的なら20μg程度で十分確認可能であり、ペプチドマップの比較であれば10μgでも可能である。マイクロボアHPLC等の利用により更に微量サンプルでの分析も可能である。従来の方法では数百μgが必要であったのに比べて極めて少量で分析可能である。本方法は手技的には更に微量でもサンプル調整可能であり、実験開始時の必要最少量は同定に用いる分析装置(シークエンサ、質量分析計等)の感度に依存している。高感度な分析装置を用いれば更に微量のサンプルでも分析、同定可能である。
本手法ではこれまで困難だった抗体のH鎖とL鎖の分離とその精製が同時に容易にできるようになった。現行条件でゲル中での酵素消化、ゲルからの断片回収及び回収断片の配列分析が可能なことが示された。回収断片から大部分の配列が確認できることから、抗体のアミノ酸配列の確認に利用可能なことが判明した。またこれまで一般にIn gel消化で問題と言われていた回収率についても30〜60%程度で良好であった。結果の再現性も良いことから、In gel消化法を適用した本手法は抗体のペプチドマッピング系に利用可能といえる。
実施例2.
消化酵素としてエンドプロテイナーゼAsp−Nを用い、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)を消化バッファーに利用する他は、実施例1と同じ条件で次の3種類の抗体を分析した。ヒト型化抗IL6−R抗体はWO92/19759に従って作製した。Asp−Nは、アスパラギン酸のN末端側を切断するエンドプロティナーゼである。
ヒト型化抗PTHrP抗体
ヒト型化抗TF抗体
ヒト型化抗IL6−R抗体
ヒト型化抗PTHrP抗体のH鎖とL鎖の消化物混合物をTOF−MSで解析した結果を図9(L鎖)および図10(H鎖)に示した。帰属できたピークについてはピークトップに断片番号と括弧内に理論質量数を示した。L鎖では、アミノ酸配列から予想される断片10個中5個が検出できていた。一方H鎖では、アミノ酸配列から予想される断片17個中10個が検出できていた。L鎖のアミノ酸配列(配列番号:1)から予測される断片を表4に、H鎖のアミノ酸配列(配列番号:2)から予測される断片を表5に示す。表は左から断片の番号(CLn)、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。L鎖、H鎖のいずれにおいても、検出できた断片の質量数はほぼ理論質量数通りである。
L鎖において検出されなかった他の5個は、質量数1000以下の断片で低分子量域のノイズ或いは試薬やゲルからの抽出物のピークに紛れて帰属が不明確なため未検出とした。H鎖においても同様の理由から質量数1000以下の断片は未検出とした。
次に、ヒト型化抗PTHrP抗体とヒト型化抗IL6−R抗体について、RP−HPLCによる消化混合物の解析を行った。
消化物混合液をRP−HPLCに懸け分取したクロマトグラムを図11および図12に示す。図11は、ヒト型化抗PTHrP抗体のL鎖のAsp−Nによる消化混合物のRP−HPLCによるクロマトグラムである。また図12は、ヒト型化抗IL6−R抗体のL鎖のAsp−Nによる消化混合物のRP−HPLCによるクロマトグラムである。
シークエンサで分取物のアミノ酸配列を調べた結果、帰属された断片番号をピークトップに示した。シークエンサで解析できる残基数には限度があるので、最後まで読めていない長い断片は、予想配列の全長であるかどうかは、分取物をTOF−MSで調べた結果と併せて判断した。
ヒト型化抗PTHrP抗体のL鎖(図11)では、予想配列から得られる断片10個中7個が帰属できた。ヒト型化抗IL6−R抗体(図12)では、予想配列から得られる断片10個中8個が帰属できた。副反応生成物としてAsp(D)以外のGlu(E)のN末端で切断された断片も検出された。消化に用いたAsp−Nの基質特異性が不完全なため、このような副反応生成物の生成は避けられないものと思われた。ヒト型化抗IL6−R抗体のL鎖のアミノ酸配列から予測される断片を表6に示す。表は左から断片の番号、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。
更に、ヒト型化抗PTHrP抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化抗IL6−R抗体の3検体について、H鎖とL鎖のそれぞれについて、RP−HPLCのクロマトグラムを比較した結果を図13(L鎖)および図14(H鎖)に示す。検出位置が一致し、かつ検出パターンが類似するピークを直線で結んだ。図12(L鎖)において、定常部由来の断片と確認できる断片に星印(★印)を付けた。その中で副反応生成物には逆向きの黒塗り三角印(▼)を付けた。その結果、抗体のタイプが同じ場合には、副反応生成物も同じように検出されることが明らかとなった。このことは、副反応生成物の情報も、抗体のタイピングに有用であることを示していた。
H鎖については、サブクラスが同じ(γ1)である、ヒト型化抗PTHrP抗体(図14上)とヒト型化抗IL6−R抗体(図14中)とは多くの直線で結ぶことができた。しかし、これらの抗体とヒト型化抗TF抗体(図14下)の間では、1本のみであった。このピークはγ1とγ4の定常部で同一の配列を持った部分由来の断片であったことが分取物のシークエンサでの解析により確認できた。AsP−Nで消化した場合もLys−Cの場合と同様にクロマトグラムの比較から抗体のサブクラス及びタイプの推定が可能であることが判明した。
実施例3.
ヒト型化抗PTHrP抗体のL鎖を用い、本発明による抗体分子の解析方法に必要なサンプル量について検討した。実施例1と同様の条件で、Lys−Cによってヒト型化抗PTHrP抗体のL鎖を消化した混合物をRP−HPLCで解析した。
実験開始時のL鎖の量を、30、10、5、2、および1μgとした場合の、RP−HPLCのクロマトグラムを比較したのが図15である。サンプルの量に応じてピークの大きさは変わるものの、クロマトグラム全体の形は大きく変化していない。24分、48分、および49分付近のピークは、サンプル量に関係なく同程度の大きさであることから、解析操作過程の混入物である可能性がある。これらのピークはシーケンサでピークが確認されなかったことから、蛋白質ではないと考えられた。
以上の結果から実験で試みた範囲のサンプル量であれば、各断片をおよそ定量的に回収できることが確認できた。したがって、本発明によれば、サンプルの量に多少のばらつきがあったとしても、クロマトグラムの比較に基づいて、サブクラスやタイプの同定が可能であると考えられた。加えて、サンプル量が1μgであってもピークとして検出できるものは分取可能であった。更に、分取したサンプルはシーケンサーでアミノ酸配列を確認することもできた。したがって、本発明に基づく抗体分子の解析方法は、1μgという微量のサンプルで実施することができる、優れた解析方法であることが示された。
また同じ解析を異なる日に5回行い、解析結果の日差変動を確認した。その結果、本発明の方法には高い再現性が認められた。
実施例4.
実施例1と同じ条件で、以下の3種類の抗体をLys−Cで消化し、TOF−MSおよびRP−HPLCを利用して、本発明に基づく解析方法を行った。結果は、以下に示す図のとおりである。図中、帰属されたピークには、ピークトップに断片番号を付けた。
更に、先に実施例1で得られたヒト型化抗PTHrP抗体、並びに上記ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化抗IL6−R抗体の4検体について、H鎖とL鎖のそれぞれについて、TOF−MSのクロマトグラムを比較した結果を図22(L鎖)および図23(H鎖)に示す。検出位置が一致し、かつ検出パターンが類似するピークを直線で結んだ。帰属がついたピークには、ピークトップに星印(★印)を付けた。
消化物混合物のTOF−MSでは、質量数1000程度以下の断片は、低分子量域のノイズ、あるいは試薬やゲルからの抽出物に紛れて帰属が不明確なため未検出であるが、1000程度以上の質量数の断片のほとんどが検出できていた。検出されなかったものも、分取物をシークエンサで解析すれば、その存在が確認されたことから、それらはイオン化効率が低くて検出されにくかったと考えられる。各鎖のスペクトルを並べて比較すると種類の同じ抗体は似通ったスペクトルを示していた(図22、図23)。したがって、TOF−MSスペクトルからも抗体のサブクラスまたはタイプのタイピングが可能である。すなわち、消化混合物のTOF−MS測定は、反応の進み具合の確認やマスマッピングとしての利用のほかにタイピングにも利用可能であると考えられる。RP−HPLCで分取したフラクションを、シークエンサおよびTOF−MSで調べた結果、各抗体の各鎖とも大部分の断片が回収されていたことが確認できた。
上記ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化抗IL6−R抗体のL鎖並びにH鎖のアミノ酸配列に基づいて、Lys−Cで消化した場合に予測される断片を表7〜表12に示す。表は左から断片の番号、アミノ酸番号、断片のアミノ酸配列、そして理論質量数を示す。また表内に、TOF−MSスペクトル(図16〜図21)においてピークを帰属することができた断片について丸印:○を付けた。またRP−HPLCの分取物の解析(図24〜図29)によって帰属を確認することができた断片に、星印:★を付けた。
実施例4.
実施例2と同じ条件でAsp−Nによってヒト型化抗PTHrP抗体のH鎖を消化し、RP−HPLCによって解析した。解析結果(クロマトグラム)を図30に示す。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、抗体分子を断片化したペプチド断片を、種類と量の両面から精度よく解析することが可能となる。その結果、再現性のよいペプチドマップを作成することができ、より簡便にかつより短期間に抗体分子の不均一性の解析および品質評価を行うことが可能となる。さらに、本発明によって得られるペプチドマップの比較により、構造未知の抗体のサブクラスの同定、バリアブル領域の同定を容易に行うことができる。
加えて、本発明による抗体分子の解析方法によれば、少ないサンプル量の抗体を用いて抗体分子を精度よく解析することが可能となる。本発明による解析方法の再現性の高さが、微量サンプルによる解析を可能とした。
更に、本発明の再現性の高さは、消化混合物中の副反応生成物にまで及ぶことが確認された。すなわち本発明の解析方法においては、理論的に生成することが予測される反応生成物のみならず、理論的には予測し難い副反応生成物も高い再現性で検知できる。このことは、本発明のペプチドマップによって、抗体分子をより緻密に、かつより正確にキャラクタライズできることを示している。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、ヒト型化PTHrP抗体L鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。ピークトップの数値は測定された質量数で、それに相当すると推定される断片番号を示した。
図2は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。ピークトップの数値は測定された質量数で、それに相当すると推定される断片番号を示した。
図3は、ヒト型化PTHrP抗体L鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。分取物をシークエンサで調べ帰属された断片番号をピークトップに示した。
図4は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。分取物をシークエンサで調べ帰属された断片番号をピークトップに示した。
図5は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖の298残基目を含む断片CH17−18に相当するRP−HPLCのフラクションのTOF−MSの結果を示す図。
図6は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体の各L鎖について、消化酵素としてLys−Cを用いた本発明の方法によって得られたペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体の結果を表している。
図7は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体の各H鎖について、消化酵素としてLys−Cを用いた本発明の方法によって得られたペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体の結果を表している。
図8は、ヒト型化PTHrP抗体について、還元カルボキシメチル化をしないで作成したLys−Cによるペプチドマップを示す図。還元カルボキシメチル化をしなくても、ペプチドマップの作成が可能なことがわかる。
図9は、ヒト型化PTHrP抗体L鎖のAsp−N消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。ピークトップに断片番号と括弧内に理論質量数を示した。
図10は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖のAsp−N消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。ピークトップに断片番号と括弧内に理論質量数を示した。
図11は、ヒト型化PTHrP抗体L鎖のAsp−N消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。分取物をシークエンサで調べ帰属された断片番号をピークトップに示した。
図12は、ヒト型化IL−6R抗体L鎖のAsp−N消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。分取物をシークエンサで調べ帰属された断片番号をピークトップに示した。
図13は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗IL−6R抗体、およびヒト型化抗TF抗体の各L鎖について、消化酵素としてAsp−Nを用いた本発明の方法によって得られたペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化IL−6R抗体、ヒト型化抗TF抗体の結果を表している。
図14は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗IL−6R抗体、およびヒト型化抗TF抗体の各H鎖について、消化酵素としてAsp−Nを用いた本発明の方法によって得られたペプチドマップを比較した図。同じアミノ酸配列を有するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化IL−6R抗体、ヒト型化抗TF抗体の結果を表している。
図15は、異なるサンプル量のヒト型化PTHrP抗体L鎖のAsp−N消化物混合液をRP−HPLCで分取したクロマトグラムを示す図。上から順に、サンプル量を30、10、5、2、および1μgとしたときの結果を表している。
図16は、ヒト型化HM1.24抗体H鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図17は、ヒト型化HM1.24抗体L鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図18は、ヒト型化TF抗体H鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図19は、ヒト型化TF抗体L鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図20は、ヒト型化IL−6R抗体H鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図21は、ヒト型化IL−6R抗体L鎖のLys−C消化物混合液をTOF−MSで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図22は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化IL−6R抗体の各L鎖について、消化酵素としてLys−Cを用いた本発明の方法によって得られたTOF−MSによるペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化IL−6R抗体の結果を表している。
図23は、ヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化IL−6R抗体の各H鎖について、消化酵素としてLys−Cを用いた本発明の方法によって得られたTOF−MSによるペプチドマップを比較した図。コンスタント領域の対応するフラグメントを直線で結んで示した。図中、上から順にヒト型化PTHrP抗体、ヒト型化抗HM1.24抗体、ヒト型化抗TF抗体、およびヒト型化IL−6R抗体の結果を表している。
図24は、ヒト型化HM1.24抗体H鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図25は、ヒト型化HM1.24抗体L鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図26は、ヒト型化TF抗体H鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図27は、ヒト型化TF抗体L鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図28は、ヒト型化IL−6R抗体H鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図29は、ヒト型化IL−6R抗体L鎖のLys−C消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
図30は、ヒト型化PTHrP抗体H鎖のAsp−N消化物混合液をRP−HPLCで解析した結果を示す図。帰属が付いたピークのピークトップに断片番号を示した。
Claims (19)
- 次の工程を含む、抗体分子の構造解析方法。
a)抗体分子をH鎖とL鎖に分離する工程、
b)分離したH鎖とL鎖を断片化する工程、および
c)断片化により得られたペプチド断片を解析する工程 - 変性ゲル電気泳動によって、抗体分子をH鎖とL鎖に分離する請求項1に記載の方法。
- 抗体分子をH鎖とL鎖に分離する前に、抗体分子のジスルフィド結合を還元により切断する請求項1に記載の方法。
- 抗体分子のジスルフィド結合を還元することで生じたチオール基を修飾により不可逆化する請求項3に記載の方法。
- 分離したH鎖とL鎖をゲル中で断片化する請求項2に記載の方法。
- 断片化したペプチドをゲルから溶出する工程を含む請求項5に記載の方法。
- 分離したH鎖とL鎖をタンパク質吸着膜に転写し、タンパク質吸着膜上で断片化する請求項2に記載の方法。
- 断片化により得られたペプチド断片を分離する工程を含む請求項1に記載の方法。
- N末端がブロッキングされたペプチド断片をデブロッキングする工程を付加的に含む請求項8に記載の方法。
- ペプチド断片の解析が、配列分析によって行われる請求項1に記載の方法。
- ペプチド断片の解析が、質量分析によって行われる請求項1に記載の方法。
- ペプチド断片の解析が、組成分析によって行われる請求項1に記載の方法。
- 請求項1に記載の方法により得ることができる構造解析結果を基に作成したペプチドマップ。
- 分離により得られたペプチド断片のうち不均一性に関与するペプチド断片を解析し、不均一性の種類を決定する請求項1に記載の方法。
- 抗体が医薬用途の抗体である請求項1に記載の方法。
- 次の工程を含む抗体分子の品質評価法。
a)抗体分子をH鎖とL鎖に分離する工程、
b)分離したH鎖とL鎖を断片化する工程、
c)断片化により得られたペプチド断片を解析する工程、
d)得られた解析結果を構造既知の抗体の解析によって得られた解析結果と比較する工程、および
e)両解析結果に相違がないか、又は相違が規定の範囲内である場合に両抗体が同等であると判定する工程 - 構造既知の抗体と構造未知の抗体のそれぞれについて請求項1に記載の方法により構造を解析し、両者のコンスタント領域に関する解析結果を比較することにより構造未知の抗体のH鎖のサブクラス及び/またはL鎖のタイプを同定する方法。
- 次の工程を含む、抗体分子のバリアブル領域の解析方法。
a)請求項1に記載の方法により、抗体分子の構造を解析する工程、および
b)a)の解析情報から構造既知の抗体の解析結果に基づいて、コンスタント領域の情報を取り除いて、バリアブル領域の情報を選択する工程、 - 解析方法が逆相液体クロマトグラフィーであり、工程b)がコンスタント領域に由来するピークからバリアブル領域に由来するピークを選択する工程である請求項18に記載の方法。
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