JPH115850A - 湿式摩擦材及びその製造方法 - Google Patents

湿式摩擦材及びその製造方法

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JPH115850A
JPH115850A JP16246097A JP16246097A JPH115850A JP H115850 A JPH115850 A JP H115850A JP 16246097 A JP16246097 A JP 16246097A JP 16246097 A JP16246097 A JP 16246097A JP H115850 A JPH115850 A JP H115850A
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JP
Japan
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mesophase pitch
precursor
wet friction
friction material
carbon fiber
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Application number
JP16246097A
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English (en)
Inventor
Hideo Ono
英雄 小野
Atsushi Suzuki
厚 鈴木
Keiji Hayashi
圭二 林
Keita Nakanishi
圭太 中西
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Osaka Gas Co Ltd
Toyota Motor Corp
Aisin Chemical Co Ltd
Original Assignee
Osaka Gas Co Ltd
Toyota Motor Corp
Aisin Chemical Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 高い強度と共に十分な多孔性を確保し、か
つ、自己及び相手材の摩耗を少なく抑制する。 【解決手段】 炭素繊維を予め抄造して形成した抄紙体
に、メソフェーズピッチの粉体を混合分散したフェノー
ル樹脂等の熱硬化性樹脂(バインダ)液を含浸し、次い
で熱成形して前駆体を形成する。そして、この前駆体を
焼成してメソフェーズピッチ及び熱硬化性樹脂を炭化さ
せ、炭素繊維の抄紙体を基材とし、主にメソフェーズピ
ッチの炭化物(光学的異方性炭素)を母材とする炭素繊
維/炭素質複合材からなる湿式摩擦材を得る。炭素繊維
が相互に絡み合った抄紙体が、基材として強固で均質な
網目構造を形成するため、高い強度を保持しつつ十分な
多孔性を確保できる。また、母材は、強度は高いが攻撃
性の少ないメソフェーズピッチの炭化物を主とするの
で、自己及び相手材の摩耗を共に少なく抑制できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は自動車の自動変速機
等において潤滑油中に浸した状態で使用されるクラッ
チ、ブレーキ等の摩擦係合装置に用いる湿式摩擦材及び
その製造方法に関するものであり、特に、炭素繊維/炭
素質複合材からなる湿式摩擦材及びその製造方法に関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】自動車の自動変速機においては、リング
プレート状の金属製基板(芯金)の両面に湿式摩擦材を
接着した複数のディスクプレート(摩擦プレート)と、
同じくリングプレート状の一般に鋼材からなる摩擦相手
材としての複数のセパレートプレート(カウンタプレー
ト)とを交互に配した多板形クラッチが組込まれ、潤滑
油として使用されるATF(オートマチックトランスミ
ッションフルード)の中で、これらのプレートを相互に
圧接し、また開放することによって、駆動力を伝達また
は遮断するようにしている。また、この自動変速機に
は、反力要素を固定し、また解放するために、同様の多
板形ブレーキまたはバンドブレーキも組込まれている。
【0003】そして、このような潤滑油中で使用される
クラッチ、ブレーキ等においてフェーシングまたはライ
ニングとして用いられる摩擦材は、従来より、「ペーパ
ー摩擦材」とも呼ばれるペーパー系の湿式摩擦材が一般
的である。この湿式摩擦材は、パルプやアラミド繊維等
の基材繊維と摩擦調整剤や体質充填剤等の充填剤とを抄
造して得た抄紙体に、熱硬化性樹脂からなる樹脂結合剤
(液状樹脂バインダ)を含浸し、加熱硬化して形成した
ものであり、軽量で、安価であるだけでなく、材質が多
孔質で比較的弾性にも富むため潤滑油の吸収・放出性
(流通性)が高く、その潤滑と冷却作用によって良好な
耐熱性と耐摩耗性とを有している。
【0004】しかしながら、近年では、自動車エンジン
の出力の増大、自動変速機の高性能化等にも伴なって、
湿式摩擦材の特に耐熱性に対する要求はますます厳しく
なっている。例えば、自動車の加速特性向上のために自
動変速機の変速点を向上させると、摩擦材と相手材との
係合回転数が上昇し、摩擦係合面は瞬間的に400℃に
も達することがある。また、変速機の小型化のために湿
式摩擦材と相手材プレートの径または枚数を少なくする
場合にはより高い圧力での摩擦係合が必要となるが、そ
のような高面圧下で、しかも、スリップ制御法によって
湿式摩擦材と相手材との間に差回転を発生させつつ(つ
まり、半クラッチ状態で)トルクの伝達を行うとき、摩
擦係合面での単位面積当たりの発熱は極度に高いものと
なる。そして、こうした過酷な摩擦係合条件下において
は、パルプ等の有機繊維を基材とするペーパー系の湿式
摩擦材では当然のことながら耐熱性が不足し、その結
果、相手材との焼付きが生じ、或いは、焼付きに至らな
いまでも、熱劣化することにより安定した摩擦性能が得
られない。
【0005】そこで、このような実情から、自動変速機
等に用いる湿式摩擦材として、強度が高く、しかも、耐
熱性が格段に優れた炭素繊維/炭素質複合材(C/C複
合材)の使用が検討されている。なお、このC/C複合
材は、その優れた特性により、例えば、航空機のブレー
キ要素(乾式多板形ブレーキのディスクプレート)とし
ても既に実用化されているものであり、一般に、強化材
としての炭素繊維(チョップドファイバ)と、フェノー
ル樹脂等の熱硬化性樹脂からなる炭化性バインダとの混
合物を熱成形して所定形状の前駆体を形成し、次いで、
これを不活性雰囲気中で焼成してその熱硬化性樹脂を炭
化させることによって製造される。そして、こうして得
られたC/C複合材は、その熱硬化性樹脂の硬化物を前
駆材料とする硬質のガラス状炭素(等方性炭素)をマト
リックス(母材)とし、炭素繊維が分散してその強化構
造を形成している。
【0006】なお、C/C複合材の湿式摩擦材としての
使用に関して、例えば、特開昭63−22888号公報
には、湿式で使用される摩擦プレートに関するものであ
るが、パルプと黒鉛の粉体とを抄造して得た抄紙体に熱
硬化性樹脂液を含浸し、この複数枚を積層して熱成形
し、次いでこれを炭化焼成してなるものが開示されてい
る。また、特開平4−76086号公報には、同様の湿
式摩擦プレートに関するが、未炭化炭素質繊維とコール
タール系メソカーボンの粉体とを交互に積層し、次い
で、これをそのメソカーボンの溶融温度に加熱すると共
に加圧して前駆体を形成し、そしてこれを炭化焼成して
なるものが提案されている。
【0007】また、特開平7−18091号公報では、
ペーパー系に代わるC/C複合材からなる湿式摩擦材と
して、炭素繊維と、パルプ等の易焼失性有機繊維と、熱
硬化性樹脂またはコールタールピッチ等の炭化性バイン
ダ(液状)との混練物を熱成形して前駆体を形成し、こ
れを炭化焼成してなるもの、即ち、有機繊維の焼失によ
り十分な多孔質性を確保したものが提案されている。な
お、特開平7−18093号公報にも、非晶質(ガラス
状)の硬質炭素フィラを含むものであるが、同様の炭素
質からなる湿式摩擦材が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】このように、C/C複
合材は化学的にも安定な炭素材のみからなり、熱によっ
て溶融することはなく、耐熱性に格段に優れている。そ
のため、ペーパー系に代えて、湿式摩擦材をこのC/C
複合材から形成することによって、高面圧下での連続的
な擦動摩擦時等、過酷な条件での摩擦係合時にも、その
焼付きを完全に防止することができる。即ち、このよう
な湿式摩擦材の使用によって、高負荷耐久性に優れた湿
式摩擦係合装置を構成することができる。
【0009】しかしながら、このC/C複合材は、一般
にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を母材(マトリック
ス)の前駆材料として用いて形成されるが、その炭化物
である光学的に等方性の非晶質なガラス状炭素は非常に
硬質であるため、湿式摩擦材をこのようなガラス状炭素
を母材とする一般のC/C複合材から形成した場合、鋼
材からなる相手材(カウンタプレート)に対する攻撃性
が強く、特に過酷な摩擦係合条件下では、この相手材に
過大な摩耗を生じさせる傾向があった。またそこで、こ
のC/C複合材を更に高温で熱処理(黒鉛化処理)し、
そのガラス状炭素を黒鉛化させ組織を軟質化させると、
今度は逆に、自己の摩耗が著しく増大するものであっ
た。
【0010】ところでまた、湿式摩擦材は、C/C複合
材から形成される場合においても、摩擦係合時の油切れ
性が良く、相手材との間に潤滑油の均一な油膜が形成さ
れるために、また、摩擦材内部の潤滑油の置換性(吸収
及び排出性)が良く、それによって摩擦係合面に発生す
る熱が系外に容易に放出されるために、十分な解放気孔
を有すること、即ち、十分な多孔質性を有することが重
要である。この多孔質性(気孔率)が不足すると、油切
れ性が悪いことにより摩擦特性(摩擦係数)が不安定と
なり、また、過酷な摩擦係合条件では係合面に摩擦熱が
蓄積することにより相手材の変形等の熱損が引起こされ
る。しかし、この多孔質性は強度と相反する関係にあ
り、気孔率を上げるとそれに伴なって必然的に組織強度
が低下し、また耐摩耗性が低下する。
【0011】そして、前述の特開平7−18091,1
8093号において提案されているC/C複合材からな
る湿式摩擦材によれば、母材の前駆材料として焼成によ
り結晶性の高い異方性炭素を生成するコールタールピッ
チ等が使用されていることによって、相手材に対する攻
撃性を低く抑えることができると共に、焼成時に焼失す
る有機質材が前駆体に混入されていることによって、十
分な多孔質性を確保することができる。しかし、この湿
式摩擦材は、その強度(剪断強度)が若干低い傾向にあ
り、高い耐摩耗性を有するものの、特に、高面圧下での
使用の際にはその耐摩耗性もやや不足する傾向にあっ
た。
【0012】そこで、本発明は、高い強度と共に十分な
多孔質性を確保することができ、また、自己及び相手材
の摩耗をより少なく抑制することができる炭素繊維/炭
素質複合材からなる湿式摩擦材及びその製造方法の提供
を課題とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、炭素繊維
を基材とし、炭素質を母材とするC/C複合材からなる
その湿式摩擦材について、主に、多孔質化しても高い強
度を保持できる基材構造、相手材攻撃性の低い母材前駆
材料の選定、及び基材と母材との均質な組合せ方法の観
点から種々の試験と検討とを重ねた。そしてその結果、
炭素繊維を、湿式抄造工法により予め形成したシート状
の抄造体(抄紙体)の形態で使用することによって、均
質で、強度の高い網目状の基材構造(補強構造)が得ら
れること、また、母材の前駆材料としては、異方性炭素
質でかつ高強度炭素となるメソフェーズピッチが最も適
切であること、更に、そのメソフェーズピッチを粉末の
形態でフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂液に分散し、こ
れを炭素繊維の抄紙体に含浸させ、次いで熱成形して前
駆体として形成することにより、その母材前駆材料であ
るメソフェーズピッチを多量に、かつ均質に、炭素繊維
の抄紙体の網目構造中に分布し定着でき、それによって
基材と母材との均質な組合わせが得られること、そし
て、これらによって上記の課題を有利に解決できること
を見出し、また確認した。
【0014】即ち、本発明にかかる湿式摩擦材は、炭素
繊維の抄紙体に、メソフェーズピッチの粉体を混合分散
した熱硬化性樹脂液を含浸し、次いで熱成形して前駆体
を形成した後、焼成してそれらのメソフェーズピッチ及
び熱硬化性樹脂を炭化してなるものである。
【0015】また、本発明にかかる湿式摩擦材の製造方
法は、炭素繊維を湿式抄造工法により抄造して、炭素繊
維の抄紙体を形成する工程と、その抄紙体に、メソフェ
ーズピッチの粉体を混合分散した熱硬化性樹脂液を含浸
する工程と、その熱硬化性樹脂液を含浸した抄紙体を熱
成形し、湿式摩擦材の前駆体を形成する工程と、その前
駆体を焼成し、メソフェーズピッチ及び熱硬化性樹脂を
炭化する工程とを具備するものである。
【0016】このように、本発明においては、炭素繊維
の抄紙体に、メソフェーズピッチの粉体を混合分散した
熱硬化性樹脂液(メソフェーズピッチ分散液)を含浸
し、次いで、これを熱成形してその熱硬化性樹脂を硬化
させ、前駆体として形成した後、炭化焼成しているの
で、これによって、炭素繊維の抄紙体を基材とし、主に
メソフェーズピッチの炭化焼成物を母材(マトリック
ス)とする炭素繊維/炭素質複合材(C/C複合材)か
らなる湿式摩擦材が得られる。そのため、この湿式摩擦
材によれば、全体が炭素質のみから形成されるので、耐
熱性が格段に優れ、後述の評価試験結果からも明らかな
ように、過酷な摩擦係合条件下で使用した場合でも、焼
付きを完全に防止することができる。
【0017】そして、特に本発明においては、炭素繊維
を予め湿式抄造工法により抄造して形成した抄紙体を基
材とするため、均質で(部分的な方向性や偏析等がな
く)、かつ強固なネットワークを形成するその基材構造
によって、高い強度(特に、剪断強度)を維持しつつ、
十分な多孔質性(気孔率)を確保することができる。ま
た、母材前駆材料として、焼成により軟質な黒鉛質構造
の異方性炭素質を容易に生成し、しかも残炭率が高いメ
ソフェーズピッチを使用しているので、相手材攻撃性が
低く、その摩耗を少なく抑制できると共に、その高い残
炭率により高配向性で高強度の炭素質が生成されるの
で、自己の摩耗も少なく抑制することができる(なお、
メソフェーズピッチの残炭率は一般に70%以上であ
り、これに対して、コールタール等の一般ピッチは40
〜60%、フェノール樹脂(硬化物)は30〜50%で
ある)。更に、このメソフェーズピッチを粉体として使
用し、熱硬化性樹脂液に分散して炭素繊維の抄紙体に含
浸するので、例えば、これを炭素繊維と共に混抄する場
合よりも、より多量のメソフェーズピッチを、しかも均
質に炭素繊維の基材と組合わせることができる。なおこ
こで、熱硬化性樹脂は、熱成形により形成する前駆体の
バインダとしてそのメソフェーズピッチと基材との均質
な組合わせを焼成中にも保持するだけでなく、炭化して
硬質のガラス状炭素となり、炭素繊維基材とメソフェー
ズピッチの炭化物とを強固に接合し、より強度の高い組
織構造を形成することに寄与する。
【0018】こうして、本発明によれば、高い強度と共
に十分な多孔質性を確保することができ、それによっ
て、良好な油切れ性が得られ、安定した摩擦特性(摩擦
係数)を得ることができると共に、摩擦材内部での潤滑
油の置換(流通)が円滑になされるため、高負荷時の相
手材の熱損を防止できる。また、高い強度と低攻撃性と
により、特に過酷な条件下で使用された場合において
も、自己及び相手材の摩耗を少なく抑制することができ
る。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、この湿式摩擦材及びその製
造方法について、更に詳細に説明する。
【0020】上記のように、本発明の湿式摩擦材は、湿
式抄造工法によって予め抄造して得た炭素繊維の抄紙体
に、メソフェーズピッチの粉体を分散した熱硬化性樹脂
液(メソフェーズピッチ分散液)を含浸し、熱成形して
湿式摩擦材の焼成前駆体を形成した後、炭化焼成するこ
とによって、より詳しくは、炭素繊維を湿式抄造工法に
より抄造して、炭素繊維の抄紙体を形成する工程と、そ
の抄紙体に、メソフェーズピッチの粉体を混合分散した
熱硬化性樹脂液を含浸する工程と、その熱硬化性樹脂液
を含浸した抄紙体を熱成形し、湿式摩擦材の前駆体を形
成する工程と、その前駆体を焼成し、メソフェーズピッ
チ及び熱硬化性樹脂を炭化する工程とによって、形成さ
れ、また製造される。これらの出発材料として使用され
る炭素繊維の抄紙体、及び含浸材であるメソフェーズピ
ッチ分散液について、また、湿式摩擦材の製造につい
て、以下、更に詳細に説明する。
【0021】〈炭素繊維抄紙体〉C/C複合材として形
成される本発明の湿式摩擦材において、その基材構造
(骨格構造)は、炭素繊維を湿式抄造工法により抄造し
て得た抄紙体から構成される。
【0022】ここで、炭素繊維としては、PAN(ポリ
アクリロニトリル)系、ピッチ系、レーヨン系等の任意
のものを使用することができる。具体的には、PAN
(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維は、例えば、アク
リル繊維を空気中で約200〜300℃で焼成して耐炎
化し、その耐炎繊維を不活性ガス中で約800〜150
0℃で焼成し、炭化して得ることができる。また、ピッ
チ系炭素繊維は、例えば、コールタールピッチや石油ピ
ッチ等から調製した原料ピッチを紡糸してピッチ繊維を
得、これを空気中で約250〜400℃で焼成して不融
化し、次いで不活性ガス中で約1000〜1500℃で
焼成し、炭化して得ることができる。なお、この原料ピ
ッチは、光学的に等方性を示すものでも、異方性を示す
ものでもよい。また、この炭素繊維としては、完全に炭
化されていない未炭化炭素質繊維を使用することもで
き、この場合、その未炭化炭素質繊維は焼成時にメソフ
ェーズピッチ及び熱硬化性樹脂と共に炭化される。
【0023】また、この炭素繊維の繊維長及び繊維径は
特に限定されるものではないが、湿式抄造工法による抄
紙体の製造の容易さ等の点から、その繊維長は0.03
〜150mm程度が好ましく、また0.1〜5.0mm
程度がより好ましい。なお、その繊維径は、一般に5〜
25μm程度が好ましい。
【0024】シート状の抄造体である抄紙体は、このよ
うな炭素繊維から、湿式抄造工法によって形成される。
即ち、上記の炭素繊維を水中に分散してスラリーを調成
し、この抄造用スラリーを長網式または丸網式等の抄紙
機により所定の秤量となるように抄き、次いで、その湿
潤状態の湿シート体を圧搾、乾燥して、炭素繊維からな
る抄紙体を形成する。なお、この炭素繊維の抄造に際し
て、歩留まり性を向上するために、或いは抄紙体の紙力
強度を増強するために、パルプまたはフィブリル化繊
維、或いは有機質バインダ等を適宜配合することができ
る(ただし、添加物としての範囲内で)。そして、この
ように形成した炭素繊維の抄紙体は、打抜き等の手段に
よって、得ようとする湿式摩擦材に応じたリング状等の
形状に切断して使用することができる。
【0025】〈メソフェーズピッチ分散液〉また、本発
明において、母材(マトリックス)を形成する前駆材料
としてはメソフェーズピッチが用いられ、また、このメ
ソフェーズピッチは、その粉体を熱硬化性樹脂の溶液に
分散した分散液の形態で炭素繊維の抄紙体に含浸する。
【0026】ここで、このメソフェーズピッチの粉体
は、石油系ピッチやコールタール系ピッチ等の原料ピッ
チを熱処理(熱分解重合)し、光学的に異方性な液晶状
態のメソフェーズを生成させ、これを粉砕機で微粉砕し
て得ることができる。そして、このメソフェーズピッチ
の粒径は、一般に、0.1〜100μm程度が好まし
く、20〜50μm程度がより好ましい。
【0027】また、熱硬化性樹脂は、そのメソフェーズ
ピッチと炭素繊維抄紙体との成形体(前駆体)を形成
し、焼成の間その前駆体の形状を保持するための一時的
バインダとして使用される。ただし、この熱硬化性樹脂
は、焼成によってメソフェーズピッチと共に炭化され、
母材の一部を形成することになる。そのため、この熱硬
化性樹脂としては、熱成形時の加熱によって硬化して前
駆体を形成できるものであれば任意のものを使用できる
が、強度がより高い湿式摩擦材を得る上で、残炭率がよ
り高いものが好ましく、具体的には、フェノール樹脂、
フラン樹脂、ポリイミド樹脂、或いはエポキシ樹脂等が
好ましい。しかし、これらの中でも、結合強度も高いフ
ェノール樹脂(レゾール系)が最も好ましい。そして、
この熱硬化性樹脂を含むメソフェーズピッチ分散液は、
水または有機溶剤によって含浸のための適度な粘度及び
適当な濃度に調整して使用することができる。
【0028】なお、このメソフェーズピッチ分散液にお
ける熱硬化性樹脂の配合割合については、メソフェーズ
ピッチと熱硬化性樹脂(固形分)との重量比において9
0:10〜50:50が好ましい。即ち、熱硬化性樹脂
は、メソフェーズピッチの粉体を炭素繊維に定着させる
ために十分な割合で使用され、その配合割合は、実用上
一般に、分散液全固形分の10重量%以上が好ましい。
また、この熱硬化性樹脂(の硬化物)は炭化焼成によっ
て一般に硬質なガラス状(等方性)炭素質を生成するた
め、それの比較的多い配合は、組織強度を高める上で、
また自己の摩耗を少なくする上で、むしろ好ましい。し
かし、そのガラス状炭素質は硬質であるだけに相手材に
対する攻撃性が高く、また脆性質でもあるため、その割
合が多すぎると、特に高面圧下での摩擦係合の際には、
自己及び相手材の摩耗が共に増大する。そのため、熱硬
化性樹脂の配合割合は、メソフェーズピッチに対して等
量である全固形分の50重量%を限度として、それ以下
であることが好ましい。
【0029】〈湿式摩擦材の製造〉そして、本発明の湿
式摩擦材は、このメソフェーズピッチ分散液を上記の炭
素繊維抄紙体に含浸し、これを熱成形して湿式摩擦材の
前駆体を形成し、次いで、この前駆体を焼成してそのメ
ソフェーズピッチ及び熱硬化性樹脂を炭化することによ
って製造される。
【0030】より具体的には、そのメソフェーズピッチ
分散熱硬化性樹脂液をローラコート等の適宜工法により
炭素繊維の抄紙体に塗布し、含浸させ、次いで、これを
適宜乾燥した後、その熱硬化性樹脂の硬化温度(一般に
150〜250℃)で熱成形し、その樹脂を硬化する。
これによって、炭素繊維とメソフェーズピッチの粉体と
が熱硬化性樹脂により一体に結合された板状の熱成形
体、即ち、湿式摩擦材の焼成前駆体が形成される。な
お、ここで、基材である炭素繊維の抄紙体に対するメソ
フェーズピッチ分散液(固形分)の含浸量、即ち、前駆
体における基材である炭素繊維と母材の前駆材料である
メソフェーズピッチ及び熱硬化性樹脂との割合は、要求
される具体的強度等に応じて適宜に決めることができる
が、一般的には、炭素繊維とメソフェーズピッチ及び熱
硬化性樹脂(固形分)との重量比において20:80〜
60:40の範囲の割合が好ましい。
【0031】次いで、この熱成形体を非酸化性雰囲気下
で焼成し、そのメソフェーズピッチ及び硬化した熱硬化
性樹脂を炭化する。なお、その焼成温度は800〜20
00℃が好ましい。即ち、800℃以下では有機成分が
残存する傾向があり、他方、2000℃以上では、コス
トが増大するだけでなく、炭素の黒鉛構造化(黒鉛結晶
化)が過度に進行するため、強度が低下し、好ましくな
い。
【0032】こうして、炭素繊維の抄紙体を基材とし、
また、主にメソフェーズピッチを前駆材料とする異方性
炭素質を母材とするC/C複合材からなる湿式摩擦材を
得ることができる。そして、ここで、この湿式摩擦材の
気孔率は、潤滑油の十分な流通性が確保されるために、
一般に30%以上であることが好ましく、35%以上で
あることがより好ましい。ただし、余り気孔率が高くて
も、それによる効果は頭打ち状態となるだけでなく、湿
式摩擦材の強度がその高さに応じて逆に低下するため、
50%を限度とし、それ以下であることが好ましく、4
0%以下であることがより好ましい。なお、この気孔率
は、偏光顕微鏡による観察によって求められる。即ち、
偏光顕微鏡で観察して、黒点として確認される気孔の面
積を概算して求め、その気孔の面積の視野面積に対する
割合として算出される。
【0033】また、この湿式摩擦材は、嵩密度において
0.9〜1.3g/cm3 であることが好ましい。この嵩
密度は気孔率だけでなく、繊維とマトリックスとの界面
の密着性、及びマトリックスの緻密性等をも含む特性値
であるが、この嵩密度が余り高いと、油切れ性が低下し
て摩擦特性が不安定になり易く、また、摩擦材内部での
油の吸収放出が円滑になされず、高負荷時に相手材の熱
損を招き易くなる傾向があり、他方、余り低いと、強度
を十分に確保することが困難となる。なお、これらの気
孔率及び嵩密度は、メソフェーズピッチと熱硬化性樹脂
との比率、或いは熱成形時の成形圧力等を適宜調整する
ことによって、適切に設定することができる。
【0034】そして、この湿式摩擦材は、適宜仕上げ加
工等を施すと共に、適当な芯金に接着して、自動変速機
等における湿式摩擦係合装置の湿式摩擦プレート(ディ
スクプレート)等として使用することができる。
【0035】
【実施例】以下、本発明を、実施例及び比較例により更
に具体的に説明する。
【0036】図1は本発明の実施例の湿式摩擦材の前駆
体の材料組成(重量部)と、その諸物性及び評価試験結
果とを示す表図である。また同様に、図2は比較例の湿
式摩擦材の前駆体の材料組成(重量部)と、その諸物性
及び評価試験結果とを示す表図である。
【0037】図1に示す組成で前駆体を形成し、次いで
これを焼成して、炭素繊維/炭素複合材(C/C材)か
らなる本発明の実施例1乃至実施例6の湿式摩擦材を作
製した。また、これらとの対比のために、図2に示す組
成で前駆体を形成し、同様に比較例1乃至比較例4の湿
式摩擦材を作製した。なお、従来から一般に使用されて
いるペーパ系の湿式摩擦材も比較例5として用意した。
そして、これらの湿式摩擦材について、嵩密度、気孔
率、及び剪断力を測定した。
【0038】〈実施例1〉まず、炭素繊維を湿式抄造工
法にて抄造し、それの抄紙体を作製した。具体的には、
炭素繊維として平均繊維長3mm、平均繊維径13μm
のピッチ系炭素繊維を用い、これを水中に分散して抄造
用スラリーを形成した。そして、これを丸網式抄紙機で
抄紙し、次いで圧搾、乾燥して、秤量約200g/
2 、厚さ約0.5mmのシート状(厚紙状)の抄造
体、即ち、抄紙体を作製した。
【0039】また、平均粒子径約50μm、軟化点32
0℃のメソフェーズピッチの粉体を、炭化性熱硬化性樹
脂であるレゾール系フェノール樹脂ワニスに混合し、均
一に分散させて、含浸用のメソフェーズピッチ分散液を
調製した。ここで、メソフェーズピッチとフェノール樹
脂(固形分)との混合比率は、重量比で1:1とした。
即ち、フェノール樹脂を比較的多い割合で使用した。
【0040】そして、このメソフェーズピッチ分散液
を、予めリング状に打抜いた上記の炭素繊維からなる抄
紙体にローラーを用いて塗布し、含浸した。次いで、こ
れを乾燥して十分に溶剤分を揮発させた後、200℃で
30分間熱成形し、フェノール樹脂を加熱硬化させて、
板状の成形体(前駆体)を形成した。なお、ここで、メ
ソフェーズピッチ分散液の含浸量は、炭素繊維の抄紙体
30重量部に対して、70重量部(固形分)の割合とし
た。したがって、この前駆体の成分組成は、ほぼ、炭素
繊維(抄紙体)30重量部、メソフェーズピッチ35重
量部、及びフェノール樹脂35重量部(全100重量
部)からなっている。
【0041】次に、この前駆体を黒鉛質の板の間に挟み
込み、窒素雰囲気中において約1000℃で1時間焼成
し、メソフェーズピッチ及び硬化したフェノール樹脂を
炭化した。なお、メソフェーズピッチの残炭率は一般に
少なくとも70%以上であり、また、フェノール樹脂
(硬化物)の残炭率は一般に30〜50%程度である。
そして、この得られた炭化焼成体に機械加工を施してそ
の表面を平滑に仕上げ、外径130mm、内径110m
m、厚さ0.5mmのリング状の湿式摩擦材を作製し
た。
【0042】こうして、炭素繊維の抄紙体を基材とし、
主にメソフェーズピッチを前駆物質とする炭素質(光学
的異方性を有する炭素)を母材とするC/C複合材から
なる湿式摩擦材を作製した。そして、この実施例1の湿
式摩擦材は、嵩密度1.2g/cm3 、気孔率35%、剪
断力0.40kgf/mm2 であった。
【0043】〈実施例2〉実施例2では、実施例1の前
駆体におけるメソフェーズピッチとフェノール樹脂との
割合を変えて、即ち、フェノール樹脂をより少なくする
一方、メソフェーズピッチを増量し、同様に湿式摩擦材
を作製した。
【0044】即ち、実施例1と同じ抄紙体を用い、これ
にメソフェーズピッチとフェノール樹脂(固形分)とを
重量比で4:1で混合して調製したメソフェーズピッチ
分散液を、実施例1と同じ割合で含浸し、熱成形して前
駆体を形成した。したがって、この前駆体は、炭素繊維
30重量部、メソフェーズピッチ56重量部、及びフェ
ノール樹脂14重量部(全100重量部)からなる。そ
して、これを実施例1と同様に炭化焼成し、仕上加工し
て湿式摩擦材を作製した。
【0045】この湿式摩擦材は、嵩密度1.2g/c
m3 、気孔率36%、剪断力0.38kgf/mm2 であっ
た。
【0046】〈実施例3〉同様に、前駆体のメソフェー
ズピッチとフェノール樹脂との割合を更に変えて、即
ち、フェノール樹脂を更により少なくする一方、メソフ
ェーズピッチをその分だけより増量して、湿式摩擦材を
作製した。
【0047】即ち、実施例1及び実施例2と同じ抄紙体
を用い、これにメソフェーズピッチとフェノール樹脂
(固形分)とを重量比で9:1で混合して調製したメソ
フェーズピッチ分散液を、実施例1及び実施例2と同じ
割合で含浸し、熱成形して前駆体を形成した。したがっ
て、この前駆体は、炭素繊維30重量部、メソフェーズ
ピッチ63重量部及びフェノール樹脂7重量部(全10
0重量部)からなる。そして、これを実施例1及び実施
例2と同様に炭化焼成し、仕上加工して湿式摩擦材を製
造した。
【0048】この湿式摩擦材は、嵩密度1.2g/c
m3 、気孔率38%、剪断力0.37kgf/mm2 であっ
た。
【0049】〈実施例4〉実施例4では、実施例1にお
けるメソフェーズピッチ分散液の含浸割合を変えて、即
ち、その割合を少なくして、同様に湿式摩擦材を製造し
た。
【0050】具体的には、実施例1乃至実施例3と同じ
抄紙体を用い、これに実施例1と同じメソフェーズピッ
チ分散液、即ち、メソフェーズピッチとフェノール樹脂
とを重量比(固形分)で1:1で混合して調製したもの
を含浸し、これを熱成形したが、ここでは、そのメソフ
ェーズピッチ分散液の含浸量を、抄紙体50重量部に対
して50重量部(固形分)の割合とした。したがって、
この前駆体は、炭素繊維50重量部、メソフェーズピッ
チ25重量部、及びフェノール樹脂25重量部(全10
0重量部)からなる。そして、この前駆体を実施例1と
同様に炭化焼成し、仕上加工を施して、湿式摩擦材を作
製した。
【0051】この湿式摩擦材は、嵩密度1.2g/c
m3 、気孔率37%、剪断力0.34kgf/mm2 であっ
た。
【0052】〈実施例5〉実施例5では、実施例4の前
駆体におけるメソフェーズピッチとフェノール樹脂との
割合を変えて、同様に湿式摩擦材を製造した。
【0053】具体的には、実施例4において、そのメソ
フェーズピッチ分散液として、実施例2で用いたメソフ
ェーズピッチ分散液、即ち、メソフェーズピッチとフェ
ノール樹脂(固形分)とを重量比で4:1で混合して調
製したものを使用し、あとは同様にして前駆体を形成し
た。したがって、ここでは、前駆体は炭素繊維50重量
部、メソフェーズピッチ40重量部、及びフェノール樹
脂10重量部(全100重量部)から形成されている。
そして、この前駆体を、同様に炭化焼成し、仕上加工し
て、湿式摩擦材を作製した。
【0054】この湿式摩擦材は、嵩密度1.2g/c
m3 、気孔率39%、剪断力0.33kgf/mm2 であっ
た。
【0055】〈実施例6〉実施例6では、メソフェーズ
ピッチとフェノール樹脂との相互の割合を更に変えて、
同様に湿式摩擦材を作製した。
【0056】具体的には、実施例4及び実施例5におい
て、そのメソフェーズピッチ分散液として、実施例3で
用いたメソフェーズピッチ分散液、即ち、メソフェーズ
ピッチとフェノール樹脂(固形分)とを重量比で9:1
で混合して調製したものを使用し、前駆体を形成した。
したがって、この前駆体の組成は、炭素繊維50重量
部、メソフェーズピッチ45重量部、及びフェノール樹
脂5重量部(全100重量部)からなる。そして、同様
に、この前駆体を炭化焼成し、次いで仕上加工して、湿
式摩擦材を作製した。
【0057】この湿式摩擦材は、嵩密度1.2g/c
m3 、気孔率39%、剪断力0.34kgf/mm2 であっ
た。
【0058】〈比較例1〉比較例1では、実施例2と同
じ組成成分からなるが、炭素繊維を抄造しないで、その
ままメソフェーズピッチ及びフェノール樹脂と混合し、
その混合物を熱成形して前駆体を形成した。
【0059】即ち、炭素繊維30重量部と、メソフェー
ズピッチ56重量部と、フェノール樹脂14重量部(固
形分)とを乾式混合法にて均一に分散混練し(全100
重量部)、この混練物を200℃の金型内に充填し、熱
成形して薄肉リング状の前駆体を形成した。その後は、
実施例と同様に、この前駆体を炭化焼成してメソフェー
ズピッチ及びフェノール樹脂を炭化し、更に機械加工を
施して、湿式摩擦材を作製した。
【0060】この湿式摩擦材、即ち、メソフェーズピッ
チの炭化物を主とする炭素質の母材中に、炭素繊維が補
強材として分散された組織構造のC/C複合材からなる
この湿式摩擦材は、嵩密度1.2g/cm3 、気孔率37
%、剪断力0.17kgf/mm2であった。
【0061】〈比較例2〉比較例2では、前駆体を比較
例1と同じ材料組成で、また、乾式混合した混合物を熱
成形する方法で形成したが、その際、熱成形時の加圧圧
力を高くして、より緻密な前駆体を形成した。そして、
この前駆体を同様に炭化焼成し、また仕上加工を行っ
て、湿式摩擦材を作製した。
【0062】この湿式摩擦材は、嵩密度1.4g/c
m3 、気孔率26%、剪断力0.32kgf/mm2 であっ
た。
【0063】〈比較例3〉比較例3では、各実施例に対
して、メソフェーズピッチの粉末を用いることなく前駆
体を形成し、湿式摩擦材を形成した。
【0064】具体的には、上記実施例で用いた炭素繊維
の抄紙体に、フェノール樹脂ワニスのみを、その抄紙体
30重量部に対して70重量部(固形分)の割合で含浸
し(全100重量部)、熱成形して前駆体を形成した。
そして、これを同様に炭化焼成し、次いで仕上加工を行
って、湿式摩擦材を作製した。
【0065】この湿式摩擦材、即ち、炭素繊維の抄紙体
を基材とし、フェノール樹脂の熱硬化物を前駆物質とす
る炭素質(ガラス状等方性炭素)を母材とするC/C材
からなるこの湿式摩擦材は、嵩密度1.2g/cm3 、気
孔率33%、剪断力0.31kgf/mm2 であった。
【0066】〈比較例4〉比較例3に対し、その前駆体
の焼成温度を高くして2400℃とし、それ以外は同様
にして湿式摩擦材を作製した。
【0067】この湿式摩擦材、つまり、比較例3のC/
C材を更に黒鉛化した形態の湿式摩擦材は、嵩密度1.
3g/cm3 、気孔率34%、剪断力0.18kgf/mm2
あった。
【0068】〈比較例5〉比較例5の湿式摩擦材は、従
来から最も一般的であるペーパー系の湿式摩擦材からな
る。具体的には、この湿式摩擦材は、パルプ30重量
部、アラミド繊維10重量部、珪藻土20重量部、及び
カシューダスト10重量部からなる抄紙体に、フェノー
ル樹脂ワニス20重量部(固形分)を含浸し(全90重
量部)、熱成形して作製したものである。
【0069】このペーパー系湿式摩擦材は、嵩密度0.
7g/cm3 、気孔率43%、剪断力0.21kgf/mm2
あった。
【0070】〔評価試験〕作製したこれらの実施例及び
比較例の各湿式摩擦材について、スリップ試験(連続滑
り摩擦試験)を行ない、その摩擦性能を評価した。
【0071】図3はその湿式摩擦材の評価試験に使用し
たスリップ試験機を概略的に示す説明図である。
【0072】図3のように、このスリップ試験機(連続
滑り摩擦試験機)30は、固定のハウジング31と、こ
のハウジング31内に同軸に配設され、図示しない駆動
源によって回転駆動される入力回転軸32とを備え、そ
して、それらのハウジング31及び入力回転軸32に、
内歯または外歯を有する摩擦プレート10とカウンタプ
レート20とが、それぞれスプライン結合によって軸方
向に可動に組付けられるようになっている。また他方、
ハウジング31内には、その相手材20を押圧可能なピ
ストン33を含む作動装置が形成されている。即ち、こ
のスリップ試験機30は、図示しない油圧源からの油圧
によってピストン33を作動することにより、摩擦プレ
ート10が一対のカウンタプレート20間で挟持され、
これらがトルク伝達可能に摩擦係合するように形成され
ている。
【0073】そして、実施例及び比較例の各湿式摩擦材
11を鋼板製のリング状芯金12の両側面に接着して摩
擦プレート10として形成し、この摩擦プレート10を
炭素鋼材[S45C]からなる相手材としてのカウンタ
プレート20と共にスリップ試験機30に組付け、潤滑
油中に浸した状態でこれらを相互に連続滑り摩擦係合さ
せ、そのときの摩擦係数の安定性、耐摩耗性、相手材攻
撃性、摩擦熱の放出性等について試験し、評価した。こ
の試験条件は次の通りである。 回転速度:2m/s 面圧:40kgf/cm2 潤滑油:ATF 油温:80℃ 油量:100ml。
【0074】実施例及び比較例の各湿式摩擦材につい
て、この条件で連続滑り摩擦試験を30分間実施し、そ
の間の摩擦係数の平均値及び変動幅を測定した。また、
この試験終了後、湿式摩擦材11を接着した摩擦プレー
ト10と相手材であるカウンタプレート20とをスリッ
プ試験機30から取外してそれぞれの厚さを測定し、予
め測定した初期の値から差引いて、それらの摩耗量を算
出した。更に、試験終了後の相手材の状態(変形等の熱
損の有無)について観察した。
【0075】これらの試験結果(摩擦係数の平均値とそ
の変動幅、湿式摩擦材自体の摩耗量、相手材の摩耗量、
及び相手材の熱損(変形)の有無)を、前記の物性(嵩
密度、気孔率、及び剪断力)と共に、図1及び図2に合
わせて示す。
【0076】〔試験結果〕図1のように、実施例1乃至
実施例6の湿式摩擦材は、炭素繊維を予め抄造して形成
した抄紙体を基材とし、この炭素繊維の抄紙体にメソフ
ェーズピッチの粉体を分散したフェノール樹脂ワニス
(熱硬化性樹脂)を含浸し、熱成形して前駆体を形成
し、次いでこれを焼成し、炭化してなるものであって、
炭素繊維の抄紙体を基材(骨格構造)とし、主にメソフ
ェーズピッチの炭化物(異方性炭素質)を母材とする炭
素繊維/炭素質複合材からなるものであるが、これらに
よれば、いずれも、適度な嵩密度と気孔率、即ち、十分
な多孔質性が、高い強度、特に、剪断に対する高い強力
と共に得られている。そして、その強度のある多孔質構
造によって、湿式摩擦材の表面及び内部での潤滑油の良
好な流通性が確保されるため、油切れ性が良く、摩擦係
数の変動が少ないと共に、潤滑油による冷却性も良好で
あり、過酷な本試験条件下でも相手材には変形等の熱損
は生じていない。また、これらの湿式摩擦材によれば、
自己の摩耗量と共に相手材の摩耗量も少なく、優れた耐
摩耗性と十分に低い相手材攻撃性とを示している。
【0077】これらの湿式摩擦材の効果は、比較例との
対比によってより明らかである。即ち、材料成分の組成
自体は実施例2と同じであるが、炭素繊維を抄造するこ
となくそのままメソフェーズピッチ及びフェノール樹脂
と混合して前駆体を形成した比較例1の湿式摩擦材で
は、その実施例2と比較して、剪断力が低い。また、組
織強度が低いため、摩擦係合によって脆く砕け、摩耗量
が多いと共に、その際に比較的大きな塊として欠落ちる
ので、摩擦係合面が粗面となって相手材攻撃性が高くな
るためと考られるが、相手材の摩耗量も多い。また、摩
擦係数の変動量も若干多くなっている。そして、その比
較例1よりも前駆体をより緻密に形成した比較例2で
は、実施例と同程度に剪断力は高められるが、十分な多
孔質性が得られず、それによって、摩擦係数の変動幅が
増加し、また試験後の相手材には過熱による変形(反
り)が発生している。
【0078】また、比較例3は、メソフェーズピッチを
使用することなく、炭素繊維の抄紙体にフェノール樹脂
のみを含浸して前駆体を形成したものであり、母材がそ
のフェノール樹脂の硬化物を前駆物質とする硬質で脆性
質の焼成炭素(ガラス状炭素)からなるものであるが、
これによれば、それ自体の摩耗量が多いだけでなく、相
手材に対する攻撃性が高く、相手材の摩耗が著しい。ま
た、その前駆体をより高温で焼成して、ガラス状炭素を
更に黒鉛質化させた比較例4では、構造欠陥の多い黒鉛
質となるためと考えられるが、相手材の摩耗は大幅に減
少されるものの、自己の摩耗が著しく多くなっている。
【0079】なお、湿式摩擦材として従来から最も一般
的である比較例5のペーパー系湿式摩擦材では、過酷な
本試験条件下においては、耐熱性の欠如から、わずか1
0分ほどで焼付きを生じている。
【0080】
【発明の効果】以上のように、本発明にかかる湿式摩擦
材は、炭素繊維の抄紙体に、メソフェーズピッチの粉体
を混合分散した熱硬化性樹脂液を含浸し、次いで熱成形
して前駆体を形成した後、焼成してそれらのメソフェー
ズピッチ及び熱硬化性樹脂を炭化してなるものである。
【0081】また、本発明にかかる湿式摩擦材の製造方
法は、炭素繊維を湿式抄造工法により抄造して、炭素繊
維の抄紙体を形成する工程と、その抄紙体に、メソフェ
ーズピッチの粉体を混合分散した熱硬化性樹脂液を含浸
する工程と、その熱硬化性樹脂液を含浸した抄紙体を熱
成形し、湿式摩擦材の前駆体を形成する工程と、その前
駆体を焼成し、メソフェーズピッチ及び熱硬化性樹脂を
炭化する工程とからなるものである。
【0082】したがって、本発明においては、特に、炭
素繊維を湿式抄造工法により抄造して得た炭素繊維の抄
紙体を基材としているので、その均質で、強固な網目構
造によって多孔質化しても高い強度(特に剪断強度)を
保持することができ、また、母材を主に形成する前駆材
料としてメソフェーズピッチを用い、更に、このメソフ
ェーズピッチを粉体の形態で熱硬化性樹脂液に分散して
その抄紙体に含浸させ、次いで熱硬化して前駆体を形成
しているので、軟質ではあるが強度が高い異方性の炭素
質から母材を形成することができ、それによって自己及
び相手材の摩耗を共に少なく抑えることができる。即
ち、本発明によれば、C/C複合材として形成されるこ
とにより耐熱性が格段に優れるだけでなく、高い強度と
共に十分な多孔質性を確保することができ、また、自己
及び相手材の摩耗を少なく抑制することができる湿式摩
擦材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の実施例の湿式摩擦材の前駆体の
材料組成と、その諸物性(嵩密度、気孔率、剪断力)及
び連続滑り摩擦試験による評価試験の結果を示す表図で
ある。
【図2】図2は比較例の湿式摩擦材の前駆体の材料組成
と、その諸物性(嵩密度、気孔率、剪断力)及び連続滑
り摩擦試験による評価試験の結果を示す表図である。
【図3】図3は実施例及び比較例の湿式摩擦材の評価試
験に使用したスリップ試験機を概略的に示す説明図であ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 小野 英雄 愛知県西加茂郡藤岡町大字飯野字大川ケ原 1141番地1 アイシン化工株式会社内 (72)発明者 鈴木 厚 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 (72)発明者 林 圭二 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 (72)発明者 中西 圭太 大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪 瓦斯株式会社内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素繊維の抄紙体に、メソフェーズピッ
    チの粉体を混合分散した熱硬化性樹脂液を含浸し、次い
    で熱成形して前駆体を形成した後、焼成して前記メソフ
    ェーズピッチ及び前記熱硬化性樹脂を炭化してなること
    を特徴とする湿式摩擦材。
  2. 【請求項2】 炭素繊維を湿式抄造工法により抄造し
    て、炭素繊維の抄紙体を形成する工程と、 前記抄紙体に、メソフェーズピッチの粉体を混合分散し
    た熱硬化性樹脂液を含浸する工程と、 前記熱硬化性樹脂液を含浸した抄紙体を熱成形し、湿式
    摩擦材の前駆体を形成する工程と、 前記前駆体を焼成し、前記メソフェーズピッチ及び前記
    熱硬化性樹脂を炭化する工程とを具備することを特徴と
    する湿式摩擦材の製造方法。
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