【発明の詳細な説明】
ヒトJTV1遺伝子はPMS2遺伝子と部分的に重なる
本発明の一部は、NIH助成金CA35494およびCA62924を用いて
援助された。即ち、米国政府は本発明について一定の権利を有する。
発明の分野
遺伝性非ポリープ性結腸癌(HNPCC)は、結腸癌の早期発症(CRC)に
よって特徴づけられる常染色体優性遺伝性疾患である(Lynch et al
.,1993)。HNPCC患者由来の事実上全ての腫瘍および非遺伝性CRC
の一部は、そのゲノム上のミクロサテライト配列中に多くの変異を含む(Ion
ov et al.,1993;Thibodeau et al.,1993
;Aaltonen et al.,1993;Shibata et al.
,1994)。DNA不対合の遺伝性欠損は、HNPCC患者におけるミクロサ
テライトの不安定性および腫瘍感受性の両者の原因となると考えられる(Par
sons et al.,1993:Umar et al.,1994)。不
対合修復に関与する4つの遺伝子(hMSH2、hMLH1、hPMS1および
hPMS2)が現在発見され、HNPCC患者の生殖系列中で変異を有すること
が示されている(Fishel et al.,1993;Leach et
al.,1993;Palombo et al.,1994;Bronner
et al.,1994;Papadopoulos et al.,199
4;Nicolaides et al.,1994)。
不対合修復はMutS近縁タンパク質の不対合塩基対に対する結合によって開
始され、MutL近縁タンパク質のMutS−DNA複合体への結合によって引
き継がれる(総説・Modrich,1995)。次に不対合を含むDNA鎖を
切除するために他の構成分子が運び込まれ、正しいヌクレオチドで不対合を置き
換える。この系路に関与するヒトmutL近縁タンパク質が最近均質に精製され
、不対合修復に欠損のあるヒト腫瘍細胞系列の不対合修復活性を相補することが
示
された(Li and Modrich,1994)。この相補活性は85およ
び110kDaタンパク質からなるヘテロ二量体中に存在する。85kDaタン
パク質由来の消化タンパク質の配列解析から、それがhMLH1産物であること
が判明し、このタンパク質の分子量はcDNA配列から予想されるものと一致し
た(Bronner et al., 1994;Papadopoulose
t al.,1994)。110kDa構成分子から産生したペプチドの配列か
ら、それがhPMS2 mutLホモログであることが示された。しかし、hP
MS2の予想される分子量は95kDaに過ぎない(Nicolaides e
t al.,1994)。以前に単離されていたhPMS2 cDNAクローン
には開始メチオニンと考えられる位置の上流に読み枠内終止コドンが存在しなか
ったため、オープンリーディングフレームがさらに上流まで伸びることがあり得
る。即ち、当該分野においてはhPMS2遺伝子およびその近傍の遺伝的構造の
知見の必要が存在する。
発明の概要
本発明の目的は、7番染色体上の新規の単離された遺伝子を提供することであ
る。
本発明の目的は、新規のヒト遺伝子産物を産生するためのベクターおよび宿主
細胞を提供することである。
本発明の別の目的は、ヒト遺伝子産物を含む物質の組成物を提供することであ
る。
これらおよび他の目的は、以下に記載される一つまたは複数の態様によって提
供される。
本発明の一つの態様においては、cDNA断片が提供される。このcDNAは
図2に示されるヌクレオチド配列からなる。
本発明の別の態様においては、図2に示されるヌクレオチド配列からなるcD
NA断片を含むベクター、およびこのベクターを含む宿主細胞が提供される。
本発明のさらに別の態様においては、ある組成物が提供される。この組成物は
本質的に、図2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質からなる。
本発明のさらに別の態様においては、図1に示されるようなJTV1タンパク
質の組成物が提供される。この組成物には、他のヒトタンパク質が混入していな
い。
本発明の別の態様においては、図2に示されるJTV1タンパク質のアミノ酸
配列をコードするcDNA断片が提供される。
また本発明によって、cDNAプローブが提供される。上記のプローブのcD
NA部分は、SEQ ID NO:1に示される配列の、隣接するヌクレオチド
15から1176からなる。
図面の簡単な説明
図1は、hPMS2の5’領域および予想されるコーディング領域の配列を示
す。矢印は、以前に開示されたcDNAクローンの5’領域を示す。開始メチオ
ニンと考えられる位置を下線で示す。
図2は、JTV1の配列を示す。この配列はGenbankに登録されている
(登録番号U24169)。開始メチオニンと考えられる位置を下線で示す。
図3は、JTV1のゲノム上の位置を示す。hPMS2およびJTV1のゲノ
ム上の位置は、ヒト7番染色体の様々な領域を含む体細胞ハイブリッドをスクリ
ーニングすることによって確認された。レーン1,GM10791はチャイニー
ズハムスター卵巣(CHO)系列中に7番染色体全部を含む;レーン2,NA1
1440はCHO系列中に7pter>7p22を含む;レーン3,Ru−Ra
g4−13はマウス系列中に7cen−7pterを含む;レーン4,4AF1
/106/K015はネズミ系列中に7cen−7qterを含む;レーン5,
GM05184.17はCHO系列中に7q21.2−qterを含む;レーン
6,2068Rag22−2はマウス系列中に7q22−qterを含む;レー
ン7,ヒトゲノムDNA;レーン8,マウスゲノムDNA;レーン9,CHOゲ
ノムDNA。
図4は、hPMS2およびJTV1の転写開始点のマッピングを示す。2つの
遺伝子の5’端を含むゲノム領域の配列が示される。配列は、hPMS2のコド
ン1を基準に番号付けされる。小文字活字はJTV1(nt−479から−83
3)およびhPMS2(nt+24から+108)のイントロン配列を示す。矢
印は、hPMS2(センス鎖)およびJTV1(アンチセンス鎖)のcDNAク
ローンを示す。下線の付いたATGコドンは、予想されるhPMS2(センス鎖
のnt+1)およびJTV1(アンチセンス鎖のnt−345)の開始メチオニ
ンを示す。この配列はGenbankに登録番号U24168で登録されている
。
図5はhPMS2およびJTV1の発現を示す。様々な組織由来のRNAが逆
転写酵素(+RT)と、または逆転写酵素のない(−RT)対照反応中で保温さ
れた。このcDNAは、hPMS2(A)およびJTV1(B)に特異的なプラ
イマーによるPCRの鋳型として用いられた。RT−PCR産物はポリアクリル
アミドゲル電気泳動によって分離された。
好ましい態様の詳細な説明
hPMS2由来の上流領域を研究するため、我々は複数の新たなcDNAクロ
ーンを単離し、PCR利用法によってhPMS2転写物の5’端を解析し、対応
するゲノム断片をクローン化した。転写物を単離した上、hPMS2に重なった
、以前には記載されていない遺伝子を我々は運良く発見した。この遺伝子は本明
細書においてJTV1と呼称される。JTV1cDNAおよびタンパク質の配列
は、それぞれSEQ ID NO:1および2に示される。
本発明によるcDNA断片は、逆転写酵素に基づくRNA転写物の配列を有す
る隣接する一つながりのデオキシリボヌクレオチドである。このような断片はイ
ントロンを含まない。この断片は単離された分子であり得、または他の核酸配列
に共有結合され得る。この断片は例えばプラスミド、ウィルス、またはミニ染色
体のようなベクターの一部として複製され得る。このベクターは、組み換えDN
A分子を形質転換された細胞のような宿主細胞中で複製され得る。この宿主細胞
はJTV1を産生するために用いられ得る。この宿主細胞はまた、例えば宿主細
胞をJTV1配列の発現に影響し得るまたはしない様々な試薬で処理することに
よって、JTV1配列の発現制御を研究するために用いられ得る。本明細書にお
いてはDNA配列は特定のものが述べられるが、配列のいづれの位置においても
、
他の三つの核酸塩基の一つによる単数の核酸置換のような小さい変異を作成する
ことは十分に当業者の能力内である。さらに、タンパク質構造または機能に対す
る影響を研究するために、単数の塩基欠失または単数の塩基挿入を作成すること
は当業者の能力内である。
ヒト以外の組み換え宿主細胞でJTV1が産生される場合、他のヒトタンパク
質の混入しないJTV1タンパク質の組成物が産生される。JTV1タンパク質
が天然の産生細胞またはヒト宿主細胞から単離される場合、このタンパク質は例
えばJTV1アミノ酸配列からなる免疫原に対して作成された抗体を用いて精製
され得る。それが望ましい場合、当分野において既知のいかなる他の精製手段も
用いられ得る。
SEQ ID NO:1に開示されるのとは異なるヌクレオチド配列を有する
が、SEQ ID NO:2に開示されるJTV1タンパク質をコードするDN
A分子が作成され得る。コドン、アミノ酸および開示されたアミノ酸配列間の既
知のコード関係を用いて、多数の他の配列が容易に設計され、産生され得る。こ
のようなDNA分子は本発明の範囲に含まれる。
ハイブリダイゼーション実験のために、cDNAプローブが用いられ得る。こ
れらは典型的には放射性標識または蛍光分子のような検出可能なマーカーで標識
されるが、これは必ずしも必要ではない。本発明のcDNAプローブはSEQI
D NO:1に示される配列の少なくとも15の隣接したヌクレオチドからなる
。さらなる特異性が望まれる場合、より大きい18、20、25または30ヌク
レオチド(最大で全長配列の1176ヌクレオチド)が用いられ得る。
第7染色体上の欠失を検出するためのプローブとして、JTV1 cDNAが
用いられ得る。プロモーター領域が重なるため、JTV1の大きな欠失はPMS
2の発現にも影響し、遺伝性非ポリープ性結腸癌(HNPCC)を引き起こすと
予想される。JTV1 cDNAは染色体マッピングに用いられ得る。さらに、
PMS2プロモーター領域の活性または反応性を試験するために用いられ得る。
JTV1転写物またはJTV1タンパク質が存在する場合、PMS2プロモータ
ーは完全であると考えられる。PMS2プロモーターが完全であるがPMS2産
物が存在しない場合、コーデーィング領域内の構造欠損が示唆される。
JTV1配列は、PMS2遺伝子座における相同組み換えを行うために用いら
れ得る。例えば、PMS2変異が存在し、野生型遺伝子による置換による治療が
望まれる場合、相同性を有する隣接領域を提供するためにPMS2配列が用いら
れ得る。同様に、PMS2の隣接領域に他の遺伝子を導入することが望まれ得る
。JTV1配列はそのような他の遺伝子の端に用いられ、一つまたは複数の相同
領域を提供し得る。JTV1およびPMS2配列の間への他の遺伝子の挿入が望
まれる場合も、これらの同定された配列を相同組み換えのための相同性ユニット
として用いて達成され得る。
実施例
実施例1
hPMS2の5’末端の単離および配列解析
P1クローン53から精製されたDNA(hPMS2遺伝子を含むことが以前
に確認されている(Nicolaides, et al.,1994))は、
EcoRIで消化されpBluescriptベクター(Stratagene
)にサブクローン化された。hPMS2の5’端を含むクローンはエキソン1に
対するプライマーA(表1)でのハイブリダイゼーションによって同定された。
いくつかの陽性クローンは、制限酵素による解析によって同一物であることが判
明した。hPMS2のこの領域の配列は、35Sα−dATPおよびSeque
nase(USB)を用いて決定された。
※図1中の開始メチオニンと考えられる位置に対して。
それぞれが8.5kbのEcoRI挿入物を含む3つのクローンが単離された
。一つのクローンpSMNの部分的な配列の解析によって、そこにhPMS2の
コーディング配列および以前にコドン1と呼称されたものの上流配列が含まれる
ことが判明した。以前に報告された開始コドンと考えられる位置は、図1でヌク
レオチド1として示される。hPMS2の配列はヌクレオチド1の833bp上
流まで伸びていた。この配列から、開示されていた開始メチオニンの321ヌク
レオチド上流に読み枠内終止コドンが明らかとなり、この間にはメチオニンは存
在しなかった(図1)。
実施例2
hPMS2プローブを用いた、さらなるcDNAクローンの単離
P1クローン53を鋳型として、プライマーHおよびI(表1)を用いてPC
Rによって産生されたhPMS2のnt+24から+136を含むプローブを用
いて、二つのcDNAライブラリーがスクリーニングされた。λGT10に入っ
たヒト小腸ランダムプライマーcDNAライブラリー(Clontech)およ
びλZAPIIに入ったHelaオリゴdTプライマーcDNAライブラリー(
Stratagene)が、記載されたようにスクリーニングされた(Kinz
ler and Vogelstein,1989)。ただし、ハイブリダイゼ
ーションは68℃で行われ、フィルターは65℃で0.5時間洗浄された。プ
ラーク精製の後、小腸ライブラリー由来のEcoRI挿入物はpBluescr
iptベクターにサブクローン化され、一方HelacDNA挿入物は使用説明
書(Stratagene)に従ってファージミドとして回収された。
小腸ランダムプライマーcDNAライブラリーから一つのクローンが単離され
、これはhPMS2のnt−14から+1668を含んでいた。Helaオリゴ
dTプライマーcDNAライブラリーから二つのクローンが単離された。これら
のクローンはnt−53から始まり、nt+2722または+2749で終わる
。HelacDNAライブラリーはまた、hPMS2の5’ゲノム領域由来のn
t−414から+16を含む、プライマーD(表1)およびO(表2)を用いて
P1クローン53からPCRによって産生した430bpのプローブでスクリー
ニングされた。予想された通り、同一の二つのクローンが同定された。しかし、
12個の異なる重複クローンが発見され、異なる転写物であると考えられ、JT
V1と名づけられた(表2)。これらの12個のcDNAは約1.2kbの長さ
であり、全長をシークエンスされた。12個全てはポリA部位(3’末端と考え
られる)で終わり、その上流1.2kbに関して同一であった。5’末端は互い
の38bp以内に位置していた。hPMS2との比較から、JTV1は反対側の
鎖から転写されることが示唆された。
※図2中の開始メチオニンと考えられる位置に対して。
実施例3
JTV1
JTV1である一つのクローン(pM23NNFL)の長さは1233bpで
あり、936bpのオープンリーディングフレーム(ORF)をコードしていた
(図2)。このORF中の第一メチオニンはコドン1で示され(図2)、その6
6bp上流には読み枠内終止コドンが存在した。このメチオニンはKozak翻
訳開始コンセンサス(Kozak,1986)に順当な一致を示した。3’末端
はヌクレオチド1086から始まるポリアデニル化シグナル(AAUAAA)を
含み、その後にはポリA尾部を伴う。転写物は分子量34.5kDaの312ア
ミノ酸のポリペプチドをコードすると予想された。ヌクレオチドおよびペプチド
配列データベースの検索から、これがグルタチオンS−トランスフェラーゼ遺伝
子ファミリーと限られた相同性を有する新規の遺伝子であることが判明した。
実施例4
JTV1の染色体マッピング
hPMS2遺伝子座は以前にP1クローン53を用いたFISHによって染色
体7p22にマッピングされていた(Nicolaides et al.,1
994)。複数のhPMS2関連遺伝子は7番染色体の長腕に位置し保存された
5’領域を有するため(Hori et al.,私信)、我々はJTV1のゲ
ノム上の位置を、第7染色体の様々な領域を含むげっ歯類−ヒト体細胞ハイブリ
ッドDNA(Schere et al.,1993;Powers et a
l.,1993)のPCR解析によって確認した。hPMS2およびJTV1の
3’非翻訳領域からPCRプライマーが選択され、ゲノムDNAを増幅すること
が示された。hPMS2プライマーJおよびKは121bp産物を産生し、JT
V1プライマーQおよびRは134bp産物を産生した。両方の遺伝子のPCR
産物は7p22領域を含むDNA;系列GM10791(完全なヒト第7染色体
を含
む)、NA11440(Coriell Insitute)(7p22>7p
ter)、およびRu−Rag4−13(7cen−7pter)において形成
された(図3、レーン1、2および3)。系列4AF1/106/K015(7
cen−qter)、GM05184.17(7q21.2−qter)または
2068Rag22−2(7q22−qter)においてはいかなる産物も見ら
れなかった(図3、レーン4、5および6)。
実施例5
hPMS2およびJTV1の5’末端の解析
hPMS2転写物の5’末端は標準的なcDNAクローニング、RACEおよ
びRT−PCR解析によって研究された。RNAはイソチオシアン酸グアニジン
を用いる方法(Chomczynski and Sacchi, 1987)
を用いて組織および細胞から精製された。逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(
RT−PCR)がランダムプライマーcDNAライブラリーを鋳型として記載さ
れたように(Leach et al.,1993)行われた。hPMS2の5
’末端のRT−PCRは、表1に記載された共通のアンチセンスプライマー(I
)およびセンスプライマー(AからF)を用いて行われた。JTV1の5’末端
のRT−PCRマッピングは、表2に記載された共通のアンチセンスプライマー
Pおよびセンスプライマー(LからO)を用いて行われた。RACE(cDNA
末端迅速増幅法、Frohman,et al.,1988)は、hPMS2に
対して連続アンチセンスプライマーIおよびG(表1)を用いて、使用説明書(
Clontech)に従って行われた。JTV1のRACE解析は、アンチセン
スプライマーP(表2)を用いて行われた。増幅産物はT末端ベクター(InV
itrogen)中にクローン化され、SP6およびT7プライマーを用いてシ
ークエンスされた。増幅は95℃30秒、56℃1.5分、70℃1.5分、3
5サイクルで行われた。反応産物は6%非変性ポリアクリルアミドゲルによる電
気泳動によって分離された。
図4は、hPMS2およびJTV1の両者の転写開始点を含むゲノム領域の配
列を示す(図1のようにhPMS2に対して番号付ける)。hPMS2cDNA
クローンの5’末端は上部鎖に矢頭で示す。一つのクローンはnt−14から、
一つのクローンはnt−24から、二つのクローンはnt−53から始まる。R
ACE産物は成人脳、白血球および胎盤mRNAから生成された。nt+116
から+136に対応するアンチセンスプライマーを用いて、約160から191
bpの複数のバンドと、550bpまでの薄いバンドが観察された。クローン化
された4つのRACE産物の配列から、5’末端は予想されたようにnt−22
から−55の間に位置することが示された。これらのデータは、hPMS2転写
物の大部分はnt−13から−55の間で始まり、少数はさらに上流に伸びるこ
とを示す。これは、Hela細胞由来のmRNAを鋳型としたRT−PCR解析
によって確認された。RT−PCR粗産物は、5’末端がnt−14、−110
、−283および−414であるセンスプライマー(プライマーA、B、Cおよ
びD;表1)およびnt+90から+107に対応するアンチセンスプライマー
(G)で増幅された。5’末端がnt−448または−487であるセンスプラ
イマー(プライマーEおよびF)を用いた場合はいかなるPCR産物も観察され
なかった。プライマーEおよびFに欠陥がないことを確認するための、これらの
プライマーおよびnt−2から+16に対応するアンチセンスプライマー(O)
を用いたゲノムDNAの増幅は成功した。
JTV1の5’末端はhPMS2と同様に不均一なパターンを示した。12個
のcDNAクローンの5’末端は図4の下部鎖に矢頭で示す。これらはJTV1
のコドン1の上流73から113ntに位置する。RACEによって、JTV1
のnt+157に対応するアンチセンスプライマーを用いて産生した産物の大半
は230から270bpであったというcDNAからの結果が確かめられた。R
T−PCR解析は、表2に挙げたアンチセンスプライマーPおよびいくつかのセ
ンスプライマー(LからO)を用いて行われた。5’末端が−8、−23および
−111であるセンスプライマー(プライマーL、M、N)を用いた場合、PC
R産物が観察されたが、5’末端がJTV1の+1に対してnt−360である
センスプライマーOを用いた場合は観察されなかった。後者のプライマーはゲノ
ム断片を首尾よく増幅したため、これには欠陥はなかった。
hPMS2転写物は不均一だが共線的な5’末端を有し、11から415nt
の非翻訳配列と考えられる部位を含む。転写物の開始メチオニンと考えられる位
置の上流には読み枠内終止コドンが含まれ、元来記載されたメチオニンが最も有
力な翻訳開始点であると考えられる。hPMS2の他の上流コーディング領域は
存在しなかったため、hPMS2配列から予想される大きさと、LiおよびMo
drichによって同定された110kDa hPMS2タンパク質との大きさ
の差異は、翻訳後修飾または他の内在性エキソンのためであると考えられる。
我々の結果は、hPMS2が、反対側の鎖から転写される新規の遺伝子JTV
1と部分的に重なることを明らかにした(図4)。この構造はヒト第5染色体上
に発見されたmutS相同物HUMDUGとジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHF
R)遺伝子のものと類似している(Fujii and Shimada,19
89)。hPMS2−JTV1およびHUMDUG−DHFRの両者とも5’端
を互いに向けた配向(head to head arrangement)を持ち、両者とも普遍的に発現
され、両者とも複数の5’末端を有する。DHFRおよびHUMDUG由来の少
数の転写物は部分的に重なるため、これら二つの遺伝子は両方向性プロモーター
によって制御されることが仮定されてきた。しかし、DHFRおよびHUMDU
Gの転写物の大半は重複部分を持たず、これはhPMS2−JTV1にも当ては
まる。他の不対合修復遺伝子群が隣接した遺伝子と5’端を互いに向けた配向を
持つかどうか、JTV1がDNA複製または修復に関わるか決定することは興味
深いと考えられる。
実施例6
hPMS2およびJTV1の発現
hPMS2およびJTV1の発現は、ヒト組織から調製された種々のmRNA
試料において解析された。成人脳、白血球、腎臓、大腸、結腸、唾腺、肺、精巣
および前立腺由来のcDNA鋳型に対して、hPMS2にはプライマーJおよび
K、JTV1にはプライマーQおよびR(表1および2)を用いてRT−PCR
が行われた。両方の遺伝子とも検査した全ての組織で発現していた(図5)。
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【手続補正書】特許法第184条の4第4項
【提出日】1997年3月3日
【補正内容】
請求の範囲
1.図2に示されるヌクレオチド配列からなるcDNA断片。
2.請求項1のDNA断片を含むベクター。
3.請求項2のベクターを含む宿主細胞。
4.実質的に、図2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質からなる組成
物。
5.他のヒトタンパク質が混入していない、図2に示されるJTV1タンパク
質の組成物。
6.図2に示されるJTV1タンパク質のアミノ酸配列をコードするcDNA
断片。
7.cDNAがSEQ ID NO:3に示される15から1176の連続す
るヌクレオチドからなるcDNAプローブ。
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フロントページの続き
(72)発明者 ニコレイデス,ニコラス・シー
アメリカ合衆国メリーランド州21236,ボ
ルティモア,ローズンクランズ・プレース
1,アパートメント 2ビー
【要約の続き】