【発明の詳細な説明】
植物において光合成効率を上昇させるための方法およびDNA分子
本発明は、植物において光合成効率を上昇させるとともに、植物の収量を増加
させるための方法およびDNA分子に関する。光合成効率および/または収量は、
制御を受けにくいまたは制御を受けないフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ
をトランスジェニック植物の細胞質で発現させることにより増加する。本発明は
また、この方法により作成可能な植物細胞および植物、ならびに光合成効率の上
昇した植物を生産することを目的としたフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ
の酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA配列の使用に関する。さらに本
発明は、植物細胞および植物体内でフルクトース-1,6-ビスホスファターゼの発
現を導き、光合成効率の上昇をもたらす組み換えDNA分子にも関する。
世界人口が増え続ける結果として食料の必要性はますます高まっており、この
ため有用植物の増産がバイオテクノロジー分野における研究目標の一つとなって
いる。この目標を達成する道の一つが、植物の代謝を遺伝学的に操作することで
ある。標的となるのは、たとえば、二酸化炭素固定を行う光合成の最初の過程、
植物体内における光合成産物(photoassimilates)の分布に関わる輸送の過程、
デンプン、タンパク質または脂質などの貯蔵物質の合成を導く代謝経路などであ
る。
たとえば、原核生物のアスパラギンシンテターゼを植物細胞内で発現させると
、トランスジェニック植物内ではとりわけバイオマス生産が増加することが報告
されている(欧州特許第0 511 979号)。
また、原核生物のポリホスフェートキナーゼを、トランスジェニック植物の細
胞質で発現させる試みも行われている。ジャガイモで発現させた結果、塊茎重に
して30%もの増収が見られた。
欧州特許出願第0 442 592号において、アポプラスチックインベルターゼをジ
ャガイモで発現させたところ、このように操作したトランスジェニック植物では
、収量に変化が見られたと報告されている。
さらに、多くの植物種において最も重要な輸送代謝物であるショ糖の合成に関
与する酵素の活性の改変が試みられている。植物では、光合成の過程で固定され
た二酸化炭素は、プラスチドから細胞質へ、トリオースリン酸(グリセルアルデ
ヒド-3-リン酸およびジヒドロキシアセトンリン酸)の形で輸送される。細胞質
中で、アルドラーゼ酵素によるグリセルアルデヒド3リン酸およびジヒドロキシ
アセトンリン酸の縮合によって、フルクトース-1,6-2リン酸分子が形成される
。この分子は、フルクトース-6-リン酸分子に変換され、これが次に、スクロー
スホスフェートシンターゼ酵素による、次の式に従うスクロースリン酸合成の基
質となる。
フルクトース-1,6-2リン酸からフルクトース-6-リン酸への変換はフルクトー
ス-1,6-ビスホスファターゼ(以下:FBPアーゼ;EC 3.1.3.11)酵素により触媒
され、この酵素は様々な基質による制御を受ける。たとえば、フルクトース-2,6
-2リン酸およびAMPは該酵素の強力な阻害剤である。AMPはアロステリック阻害
剤であり、一方フルクトース-2,6-2リン酸は本酵素の活性中心に結合する(「
ケー(Ke)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(1989),1475〜1479」;「リュ
ー(Liu)ら、Biochem.Biophys.Res.Comm.161(1989),689〜695」)。植物細
胞は、核のゲノムにコードされるFBPアーゼを細胞質と葉緑体の両方に含んでい
る。逆反応(フルクトース-6-リン酸からフルクトース-1,6-2リン酸への変換)
は、ATPを用いてホスホフルクトキナーゼ(PFK)により触媒される。該酵素はフ
ルクトース-6-リン酸、Piおよびフルクトース-2,6-2リン酸により活性化され、
グリセルアルデヒド-3-リン酸およびジヒドロキシアセトンリン酸により阻害さ
れる。該酵素のほか、植物細胞にはもう一つの酵素、すなわちピロリン酸:フル
クトース-6-リン酸-1-ホスホトランスフェラーゼ(PFP)という酵素があり、次
の式で表される双方向の反応を触媒する。:
ショ糖合成におけるこの段階を操作して二酸化炭素固定の量を増加させ、バイ
オマス生産の増加をもたらそうという様々な試みがこれまでになされている。た
とえば、細胞質中で植物のFBPアーゼを過剰発現させてフルクトース-1,6-2リン
酸の生産量を上げようという試みがあった(ジュアン(Juan)ら、Supplement t
o Plant Physiol.,Vol.105(1994),118)。しかしながら、測定可能なほどのシ
ョ
糖合成の増加には至らなかった。PFPのアンチセンスによる阻害でも、植物細胞
内のショ糖合成は検出可能なほどの増加には至らなかった。(ハジレゼイ(Haji
rezaei)ら、Planta 192(1994)16〜30)。さらに、アロステリック阻害剤である
フルクトース-2,6-リン酸の濃度を変えることにより、FBPアーゼが触媒する反応
に影響を与えようとする試みもなされた(クルーガー(Kruger)およびスコット
(Scott),Biochemical Society Transactions,Transgenic Plants and Plant
Biochemistry 22(1994),904〜909)。しかしながら、フルクトース-2,6-リン
酸の濃度を増加させても光合成効率に何の影響もなく、単にデンプンまたはショ
糖の合成に弱い影響を与えるだけであることが分かった。
本発明が解決しようとする課題は、植物に一般的に有用であって、植物の光合
成効率を上昇させ、それによりバイオマス生産および収量の増加が起こるような
、別の方法を提供することである。
この課題は、請求の範囲で特徴づけられる態様を提供することにより解決され
る。
本発明は、
(a) 植物細胞内で機能するプロモーター
(b) フルクトース-1,6-ビスホスファターゼの酵素活性を有するポリペプチドを
コードし、センスの方向でプロモーターに結合しているDNA配列
を含む組み換えDNA分子、ならびに制御を受けにくいまたは制御を受けない酵素
であるフルクトース-1,6-ビスホスファターゼの酵素活性を有するポリペプチド
に関する。
驚くべきことに、該DNA分子を植物細胞内で発現させると、このように改変し
た植物において、野生型植物と比較して光合成効率が劇的に増加することがわか
った。「制御を受けにくい」とは、該FBPアーゼ酵素が、植物細胞内で通常発現
しているFBPアーゼ酵素と同様には制御されないことを意味する。具体的には、
これらの酵素は他の制御機構による制御を受ける、すなわち、通常植物のFBPア
ーゼを阻害するような阻害剤または活性化するような活性化剤により、同程度に
阻害または活性化されないということである。たとえば、これらはフルクトース
-2,6-2リン酸またはAMPによる阻害を、植物中に通常存在するFBPアーゼと同程
度には受け
ない。
本発明において用いられる、「制御を受けないFBPアーゼ酵素」という語は、
植物細胞において制御機構の対象とならないFBPアーゼ酵素、特に、AMP 、ATPま
たはフルクトース-2,6-2リン酸により制御されないFBPアーゼ酵素に関する。
光合成効率の上昇とは、本発明によるDNA分子で形質転換され、植物体中で制
御を受けにくいまたは制御を受けないFBPアーゼの合成を行うような植物が、非
形質転換植物と比較して、光合成効率が上昇していること、好ましくは少なくと
も10%上昇した光合成効率、特に少なくとも20%上昇した光合成効率、最も好ま
しくは30〜40%上昇した光合成効率を示すことを意味する。
本発明によるDNA分子に含まれるプロモーターは、原則として、植物細胞内で
機能するいかなるプロモーターでもよい。制御を受けにくいまたは制御を受けな
いFBPアーゼをコードするDNA配列の発現は、原則として、形質転換植物のいずれ
の組織でも、またどの時点でも起こってもよいが、好ましくは光合成活性のある
組織で起こる。適当なプロモーターの例としては、植物の全組織において構造的
に発現可能なカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(オデル(Odell
)ら、Nature 313(1985),810〜812)がある。しかしながら、それに続く配列の
発現を植物の特定の組織、好ましくは光合成活性のある組織(例えば、ストック
ハウス(Stockhaus)ら、EMBO J.8(1989),2245〜2251を参照)、または外的影
響により決定される時点(例えば、国際公開公報第93/07279号を参照)でのみ起
こすようなプロモーターも用いることができる。プロモーターのほか、本発明に
よるDNA分子は、転写をさらに増加させるDNA配列、例えばいわゆるエンハンサー
因子、または転写領域内に位置し、合成されたRNAから対応するタンパク質への
翻訳をより効率的にするDNA配列を含んでいてもよい。これらの5’非翻訳領域は
ウイルスの遺伝子もしくは適当な真核生物の遺伝子から得てもよく、または合成
して作成してもよい。これらは使用するプロモーターに対して相同でも非相同で
もよい。
さらに、本発明によるDNA分子には、転写の終結および生じた転写産物のポリ
アデニル化を確実にする3’非翻訳DNA配列が含まれていてもよい。このような終
結シグナルは既知であり、開示されている。これらは自由に交換できる。このよ
う
な終結配列の例として、アグロバクテリア由来のノパリンシンターゼ遺伝子(NO
S遺伝子)のポリアデニル化シグナルを含む3’非翻訳領域、またはリブロース-1
,5-2リン酸カルボキシラーゼのスモールサブユニット(ssRUBISCO)遺伝子の3
’非翻訳領域がある。
FBPアーゼの酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列は、該酵素を
発現するいかなる生物種に由来してもよい。これらのDNA配列は、好ましくは、
野生型植物において生じるFBPアーゼと比較して阻害剤による制御が変化、好ま
しくは低下している、特にアロステリック制御が低下しているFBPアーゼ酵素を
コードするDNA配列である。この配列にコードされる酵素は、既知の、さまざま
な基質によって制御が変化する天然の酵素、または細菌、藻類、菌類、動物また
は植物由来の既知の酵素を変異させることにより作成される酵素であってもよい
。特に、このような酵素の断片であって、FBPアーゼの酵素活性を保持している
が、植物細胞内で自然に生成するFBPアーゼと比べて制御を受けにくいまたは制
御を受けないようなものでもよい。
本発明の好ましい態様において、FBPアーゼの酵素活性を有するポリペプチド
をコードするDNA配列は、原核生物、好ましくは細菌類に由来する。細菌由来のF
BPアーゼは、植物由来FBPアーゼに比べ、フルクトース-2,6-2リン酸による制御
を受けないという点で優れている。多くの細菌由来FBPアーゼは、植物および動
物由来のFBPアーゼとは対照的に、その酵素活性がAMPによる制御を受けない。こ
のようなFBPアーゼをコードするDNA配列の使用が好ましい。
別の好ましい態様において、本発明によるDNA分子は、フルクトース-1,6-ビス
ホスファターゼをコードするアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eu
trophus)由来のDNA配列、好ましくは配列番号:1に示すコード領域を示すDNA配
列を含む。配列番号:1に示すアミノ酸配列を有する、アルカリゲネス・ユート
ロファス(Alcaligenes eutorophus)由来のFBPアーゼ酵素は、植物および動物
由来のFBPアーゼ酵素と対照的に、AMPによる阻害を受けない(AbdelalおよびSch
legal,J.Bacteriol.120(1974),304〜310)。配列番号:1に示すDNA配列は、
染色体DNAの配列である。該FBPアーゼ酵素のほかにも、アルカリゲネス・ユート
ロファス(Alcaligenes eutorophus)はプラスミドにコードされるFBPアーゼを
有する
(J.Koβmann; 論文,1988,Georg-August-Universitat,Gottingen,Germany
)。
さらに、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutorophus)由来の
上記のDNA配列のほかにも、FBPアーゼの酵素活性を有するポリペプチドをコード
し、その性質により本発明に記載のDNA分子の構築に使用できる、細菌のDNA配列
が知られている。例えば、キサントバクター・フラブス(Xanthobacter flavus
)H4-14由来のcfxF遺伝子(「Meijerら、J.Gen.Microbiol.136(1990),2225〜223
0」;「Meijerら、Mol.Gen.Genet.225(1991),320〜330」)、およびロドバ
クター・スフェロイド(Rhodobacter sphaeroides)由来のfbp遺伝子(Gibsonら
、Biochemistry 29(1990),8085〜8093; GenEMBLデータベース: 寄託番号J02922
)がクローニングされている。ロドバクター・スフェロイド(Rhodobacter spha
eroides)由来のfbp遺伝子は、該遺伝子にコードされるFBPアーゼがAMPに阻害さ
れないため、特に適している。
さらに、FBPアーゼをコードする、大腸菌(Escherichia coli)由来のfbp遺伝
子のDNA配列(「Sedivyら、J.Bacteriol.158(1984),1048〜1053」;「Hamilt
onら、Nucl.Acids Res.16(1988),8707」;「Rainesら、Nucl.Acids.Res.16(1
988),7931〜7942」)、ならびにAMPに非感受性の変異FBPアーゼが知られている
(Sedivyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83(1986),1656〜1659)。
さらに、FBPアーゼをコードする、ニトロバクター・ブルガリス(Nitrobacter
vulgaris)由来のDNA配列(GenEMBL データベース: 寄託番号L22884)も知られ
ており、これも本発明に記載のDNA分子の構築に使用できる。
別の好ましい態様において、本発明に記載のDNA分子には、FBPアーゼをコード
する菌類由来のDNA配列が含まれる。FBPアーゼをコードするDNA配列は、例えば
、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびシゾサッ
カロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)由来のものが知られてい
る(「Rogersら、J.Biol.Chem.263(1988),6051〜6057」;「GenEMBLデータ
ベース:寄託番号J03207およびJ03213」)。
別の好ましい態様において、本発明に記載のDNA分子には、FBPアーゼをコード
する動物、好ましくは哺乳類由来のDNA配列が含まれる。例えば、哺乳類由来のc
DNA配列として、FBPアーゼをコードするラット肝臓由来cDNA配列(El-Maghrabi
ら、
Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(1988),8430〜8434)、ならびにブタ肝臓およ
びブタ腎臓由来のFBPアーゼをコードするDNA配列が知られている(「Marcusら、
Proc.Natl.Acad.Sci.USA79(1982),7161〜7165」;「Williamsら、Proc.Na
tl.Acad.Sci.USA 89(1992),3080〜3082」;「Burtonら、Biochem.Biophys
.Res.Commun.192(1993),511〜517」;「GenEMBLデータベース: 寄託番号M86
347」)。さらに、ヒト由来FBPアーゼをコードするcDNA配列も知られている(「
El-Maghrabi、J.Biol.Chem.268(1993),9466〜9472」;「GenEMBLデータベー
ス: 寄託番号M19922およびL10320」)。
さらに好ましい態様において、本発明に記載のDNA分子には、FBPアーゼをコー
ドする植物由来のDNA配列が含まれる。このような配列も同様に知られている。
例えば、ハー(Hur)ら(Plant Mol.Biol.18(1992),799〜802)は、ホウレン
ソウ由来の細胞質FBPアーゼをコードするcDNAについて述べている。該酵素は生
化学的レベルでさらに調査されている(「Zimmermanら、J.Biol.Chem.253(19
78),5952〜5956」;「Ladrorら、Eur.J.Biochem.189(1990),89〜94」)。
レインズ(Raines)ら(Nucl.Acids Res.16(1988),7931〜7942)は、コムギ
由来の葉緑体FBPアーゼをコードするcDNA配列について述べている。該酵素をコ
ードするゲノムDNA配列についても報告されている(Lloydら、Mol.Gen.Genet
.225(1991),209〜216)。さらにアラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thal
iana)(GenEMBLデータベース:寄託番号X58148)、ベータ・ブルガリス(Beta
vulgaris、サトウキビ;GenEMBLデータベース:寄託番号M80597)、ブラシカ・
ナプス(Brassica napus)(GenEMBLデータベース:寄託番号L15303)、ピスム
・サティブム(Pisum sativum)(GenEMBLデータベース:寄託番号X68826)、ス
ピナチア・オレラセア(Spinacia oleacea)(GenEMBLデータベース:寄託番号X
61690)およびソラナム・ツベロッサム(Solanum tuberosum)(GenEMBLデータ
ベース:寄託番号X76946)由来の、FBPアーゼをコードするcDNA配列が知られて
いる。
FBPアーゼ酵素をコードする上記のDNA配列は、例えば適当なプローブを用いた
cDNAライブラリまたはゲノムライブラリのスクリーニングなどの従来の方法を用
いて、さらに他の生物種からDNA配列を単離するために用いることができる。
植物細胞内で自然に生成するFBPアーゼと比較して、制御を受けにくいまたは
制
御を受けないFBPアーゼ酵素をコードするDNA配列は、当業者に知られている技術
を用いて、その配列にコードされるタンパク質が制御を受けにくいまたは制御を
受けないように改変することができる。したがって、本発明に記載のDNA分子に
は、原核生物、植物もしくは動物、または菌類由来の、FBPアーゼをコードするD
NA配列に由来するものが含まれる。この事実は追ってさらに詳細に説明する。
FBPアーゼ酵素をコードするDNA配列とは別に、多数の生物種からFBPアーゼ酵
素が精製され、生化学的に特徴付けられ、部分的に配列決定されている。例えば
、ホウレンソウ由来の細胞質FBPアーゼおよび葉緑体FBPアーゼ(「Zimmermannら
、J.Biol.Chem.253(1978),5952〜5956」;「Ladrorら、Eur.J.Biochem.1
89(1990),89〜94」;「Zimmermannら、Eur.J.Biochem.70(1976),361〜367
」;「Soulieら、Eur.J.Biochem.195(1991),671〜678」;「MarcusおよびHa
rrsch,Arch.Biochem.Biophys.279(1990),151〜157」;「Marcusら、Bioche
mistry 26(1987),7029〜7035」)、トウモロコシ由来FBPアーゼ(Nishizawaおよ
びBuchanan,J.Biol.Chem.256(1981),6119〜6126)、コムギ由来葉緑体FBP
アーゼ(LeegoodおよびWalker,Planta 156(1982),449〜456)、シネココッカ
ス・レオポリエンシス(Synechococcus leopoliensis)由来FBPアーゼ(Gerblin
gら、Plant Physiol.(1986),716〜720)、ポリスフォンディリウム・パリドゥ
ム(Polysphondylium pallidum)由来FBPアーゼ(Rosen,Arch.Biochem.Bioph
ys.114(1966),31〜37)、ウサギ肝臓由来FBPアーゼ(Pontremoliら、Arch.Bi
ochem.Biophys.114(1966),24〜30)、ブタ由来FBPアーゼ(Marcusら、Proc.
Natl.Acad.Sci.USA 79(1982),7161〜7165)、ロドシュードモナス・パルス
トリス(Rhodopseudomonas palustris)由来FBPアーゼ(「SpringgateおよびSta
chow,Arch.Biochem.Biophys.152(1972),1〜12」;「SpringgateおよびStac
how,Arch.Biochem.Biophys.152(1972),13〜20」)、大腸菌(E.coli)由来
FBPアーゼ(Fraenkelら、Arch.Biochem.Biophys.114(1966),4〜12)ならび
にノカルディア・オパカ(Nocardia opaca)1b 由来の2つのアイソフォーム(A
machiおよびBowien,J.Gen.Microbiol.113(1979),347〜356 )。
さらに、ブタ由来のFBPアーゼについて、この酵素とフルクトース-6-リン酸、
AMP、フルクトース-2,6-2リン酸およびマグネシウムとの複合体の結晶構造が決
定されている(「Seatonら、J.Biol.Chem.25a(1984),8915〜8916」;「Keら
、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87(1990),5243〜5247」;「Keら、J.Mol.Bio
l.212(1989),513〜539」;「Keら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88(1991),2
989〜2993」;「Keら、Biochemistry 30(1991),4412〜4420」)。その過程で、
フルクトース-6-リン酸およびAMPの結合部位、ならびにこれらの基質と相互作用
するアミノ酸残基が同定された。さらに、ブタ由来FBPアーゼについて、1〜25番
目のアミノ酸残基をコードするヌクレオチドを除去すると、AMPによる阻害を受
けず、その触媒性は保持しているFBPアーゼが合成されることが報告されている
(chatterjeeら、J.Biol.Chem.260(1985),13553〜13559)。好ましくはこの
ようなFBPアーゼをコードするDNA配列が、本発明において用いられる。
FBPアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列レベル、ならびにFBPアーゼ酵素のアミノ
酸配列レベルでの配列比較は、同様に多数行われている(Marcusら、Biochem.B
iophys.Res.Comm.135(1986),374〜381)。この結果は、FBPアーゼの特定の
ドメインが、遠縁の生物種間でも比較的高度に保存されているというものであっ
た(「Gibsonら、Biochemistry 29(1990),8085〜8093」;「Marcusら、Proc.N
atl.Acad.Sci.USA 85(1988),5379〜5383」;「Rogersら、J.Biol.Chem.263(1
988),6051〜6057」)。例えば、ブタFBPアーゼの触媒中心を形成するアミノ酸残
基が、キサントバクター・フラブス(Xanthobacter flavus)由来のFBPアーゼに
おいて高度に保存されていることが示されている(Meijerら、J.Gen.Microbio
l.136(1990),2225〜2230)。
ロドバクター・スフェロイズ(Rhodobacter sphaeroides)由来FBPアーゼのア
ミノ酸配列をこれまでに知られている他のFBPアーゼ酵素のアミノ酸配列と配列
比較することにより、保存領域ならびに酵素活性の触媒性または制御に関与する
アミノ酸残基が示される(Gibsonら、Biochemistry 29(1990),8085〜8093)。
FBPアーゼ酵素の制御についても同様に広範に調べられており、詳細に報告さ
れている(Tejwani,Advances in Enzymology,Vol.54(1983),121〜194)。
概して、FBPアーゼ酵素をコードするDNA配列、FBPアーゼ酵素のアミノ酸配列
、結晶構造、ならびに制御、これまでに知られているFBPアーゼの動力学的およ
び生化学的特性に関する現在のところ既知のデータから、この情報を用いて、有
用な
DNA配列に特異的に変異を導入して、合成されるタンパク質の酵素活性の制御を
改変できることがわかる。既に述べたように、例えば、酵素のN-末端の25個の
アミノ酸を欠失させることにより、ブタFBPアーゼにおいてAMPによる阻害性を取
り除くことが可能である。本酵素の触媒活性はこの欠失による影響を受けない。
FBPアーゼ遺伝子は高度に保存されているため、他のFBPアーゼ酵素においても、
酵素のN-末端領域の十分な長さを欠失させることにより、AMPに対する非感受性
をもたらすことが可能であるはずである。
さらに、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)の染色
体またはプラスミドにコードされているFBPアーゼに関して、プラスミドにコー
ドされる酵素は、染色体にコードされる酵素には見られない特徴的なATP結合部
位を有することがわかっている。FBPアーゼをコードするプラスミドは、染色体
にコードされるFBPアーゼには見られないGQCMAGKSのモチーフがアミノ酸配列中
に見られる。この配列は、ホスホリブロキナーゼおよび他の多くの酵素において
ATP結合部位と同定されているかまたはそうであると考察されている。検出され
たこの共通配列(GXXXXGKT/S)は、上記の配列中に完全に含まれている。この配
列が、ATPの結合に関与し、したがってさまざまな細菌由来FBPアーゼにおいて観
察されているような、ATPによる酵素活性の阻害に関与している可能性がある。
従って、FBPアーゼをコードし、ATP結合部位に相当する配列を含むためにATP
による阻害を受ける細菌のDNA配列をスクリーニングすること、およびこのATP結
合部位を分子生物学において既知の方法により不活性化するかまたは取り除くこ
と、ならびにこのようにしてATPによる阻害を受けない酵素を作出すること、が
可能である。
同様にして、阻害剤であるフルクトース-2,6-2リン酸に対する感受性を改変
することができる。ブタFBPアーゼの結晶のX線構造解析により得られたデータ、
ならびにさまざまな変異体の解析により、FBPアーゼの活性中心におけるフルク
トース-2-2リン酸の結合部位の特徴付けも可能となった。例えば、ブタFBPアー
ゼについては、得られた構造データから酵素の機能に重要であると思われるアミ
ノ酸残基を、部位特異的突然変異誘発により改変した(Girouxら、J.Biol.Che
m.269(1994),31404〜31409および付属の参考文献)。ブタ腎臓FBPアーゼの243
番目
のアミノ酸であるアルギニンが、基質との結合だけでなくフルクトース-2,6-2
リン酸による阻害に関与していることが示された。このアミノ酸をアラニン残基
で置換することにより、フルクトース-2,6-2リン酸に対する親和性は野生型酵
素と比較して1000分の1に低下しているが、基質であるフルクトース-1,6-2リン
酸に対する親和性は10分の1にしか低下していない、機能的なFBPアーゼ酵素が
作製された(Girouxら、J.Biol.Chem.269(1994),31404〜31409)。さらに、
ラット肝臓FBPアーゼについても、活性中心にある、フルクトース-1,6-2リン酸
およびフルクトース-2,6-2リン酸の結合に必須のリジン残基を取り除くことに
より、阻害剤であるフルクトース-2,6-2リン酸に対する親和性が1000分の1に低
下した酵素が得られることが示された(El-Maghrabiら、J.Biol.Chem.267(19
92),6526〜6530)。
従って、関係するアミノ酸残基を変異誘発させることによって、野生型のタン
パク質に対してフルクトース-2,6-2リン酸による制御が変化した変異体を作製
することも可能である。さらに、FBPアーゼ酵素のアミノ酸配列が、特に活性中
心において高度に保存されていることにより、特定の生物種の酵素の変異体につ
いて得られた結果を、他の生物種由来の酵素に応用することも可能であるはずで
ある。
さらに、コンピューターを用いた分子構造のシミュレーションにより、触媒能
ならびにフルクトース-2,6-2リン酸による阻害に必須のアミノ酸残基を同定で
きる可能性がある。あるアミノ酸残基が関係していると同定されれば、部位特異
的突然変異誘発により特異的に改変し、変異体の特性について調べることができ
る。
光合成効率、またはフルクトース-1,6-2リン酸からのフルクトース-6-リン酸
の合成を特に効果的に増加させるために、植物FBPアーゼ酵素の阻害剤による制
御が低下している(制御を受けにくいFBPアーゼ酵素)、好ましくは、いかなる
制御も受けなくなった(制御を受けないFBPアーゼ酵素)FBPアーゼを用いる。し
かしながら、これらの触媒活性はたいてい変化しないままである。細菌類、菌類
、動物または植物のFBPアーゼ遺伝子のコード領域を、大腸菌(E.coli)または
他の適当な宿主内で、当業者に既知の方法により変異させることができ、続いて
FBPアーゼ活性の増加および制御機構について解析することができる。変異の誘
発は、特異的なオリゴヌクレオチドを用いる特異的な方法(例えば、部位特異的
突然変異
誘発)、または非特異的な方法により行うことができる。非特異的な変異誘発の
場合、Mg2+イオンの代わりにMn2+イオンを存在させることにより、エラーが起こ
る割合を増加させ、ポリメラーゼ連鎖反応を行うことによりそれぞれのDNA配列
を増幅させる、または、それぞれのDNA分子を大腸菌(E.coli)XL1-Red株中で増
殖させることにより、組み込まれたプラスミドDNAの複製中に誤りが起こる割合
を高めることが可能である。
続いて、FBPアーゼ酵素をコードする変異DNA配列を、FBPアーゼ活性の解析の
ために、適当な宿主、好ましくはFBPアーゼを欠損した大腸菌(E.coli)菌株に
組み込む。このような菌株の例として、大腸菌(E.coli)DF657株がある(Sediv
yら、J.Bacteriol.158(1984),1048〜1053)。機能的なFBPアーゼ酵素を発現す
るクローンを同定するために、形質転換した細胞を、例えばグリセロールおよび
コハク酸(濃度はそれぞれ0.4%)を炭素源として含む最小培地上に播種した。
機能的なFBPアーゼを発現しない細胞はこの培地で生育できない。発現したFBPア
ーゼ活性の最初の指標として、形質転換した生存可能なクローンの増殖率を用い
ることができる。FBPアーゼ活性の増加を起こすようなプロモーター領域の変異
をあらかじめ排除するために、最小培地での生育を可能にするコード領域DNA配
列の変異体を、非変異ベクターに再びクローニングし、FBPアーゼ活性について
再度スクリーニングしなくてはならない(FBPアーゼ欠損大腸菌(E.coli)菌株
の相補性試験を再度行うことにより)。2度目のスクリーニングにおいてもFBP
アーゼ欠損大腸菌(E.coli)菌株の相補性試験を終えた変異体を、さまざまな阻
害剤および活性化剤の存在下でFBPアーゼ活性の解析に用いる。
それぞれの細胞を破壊し、FBPアーゼ活性をインビトロで、酵素的試験を用い
て検出する。このような試験において、変異FBPアーゼの性質を解析するための
試験に用いる緩衝液は、pH値および塩濃度が至適範囲にあるものを選択する。さ
らにその緩衝液には、基質であるフルクトース-1,6-2リン酸(約1mM)およびM
gCl2(約5mM)が含まれていなくてはならない。植物および動物のFBPアーゼを
発現させる場合、DTTまたはβ-メルカプトエタノールなどのSH保護基試薬(SH p
rotection group reagent)を緩衝液中に存在させるべきである。酵素活性の測
定は、FBPアーゼ反応の産物であるフルクトース-6-リン酸とさらに反応する他の
2つの酵
素、酵母のホスホグルコースイソメラーゼおよびグルコース-6-リン酸デヒドロ
ゲナーゼ、ならびに混合物に加えられたNADPに基づいている。ホスホグルコース
イソメラーゼによりフルクトース-6-リン酸がグルコース-6-リン酸へと変換され
、これが次にグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼと反応して6-ホスホグルコ
ノ-δ-ラクトンとなり、この際NADPHが生成される。NADPHの増加は、334nmにお
ける吸光度を測定することにより光学的に決定することができる。この増加によ
り、FBPアーゼ活性も決定できる。
さまざまな阻害剤(AMP、ATP、フルクトース-2,6-2リン酸)を加えることに
より、変異FBPアーゼの酵素活性に対する阻害剤の影響を、上記の酵素試験によ
り決定できる。
これらの値を、変異を起こしていない酵素の活性の値と比較することにより、
適当な変異体を選択できる。続いて、制御を受けにくいまたは制御を受けない変
異タンパク質をコードするDNA配列を、本発明に記載のDNA分子の構築に使用でき
る。
FBPアーゼ遺伝子における変異誘発、ならびにFBPアーゼ欠損大腸菌(E.coli)
菌株における適当な変異体の選択については、Sedivyらの記載(Proc.Natl.Ac
ad.Sci.USA 83(1986),1656〜1659)に従って、実施できる。この方法により
、すでにAMP非感受性FBPアーゼが単離されている。
本発明によれば、制御を受けにくいまたは制御を受けないFBPアーゼは、植物
細胞のいかなる望ましい区分に局在していてもよい。好ましい態様において、制
御を受けにくいまたは制御を受けないFBPアーゼは、植物細胞内の細胞質または
プラスチドに局在する。目的のタンパク質を植物細胞内のさまざまな区分、すな
わち細胞質またはプラスチドに局在させるように、DNA分子を構築する方法は、
当業者には周知である。
本発明のもう一つの主題は、本発明に記載の、上記のDNA分子で形質転換され
たトランスジェニック植物細胞、または、このような形質転換細胞に由来し、好
ましくはそのゲノムに安定的に組み込まれている、本発明に記載の組み換えDNA
分子を含むトランスジェニック植物細胞である。トランスジェニック植物細胞は
、好ましくは、光合成活性を有する細胞である。
本発明に記載のトランスジェニック細胞は、トランスジェニック全植物体の再
生に用いることができる。
従って、本発明はまた、本発明に記載のトランスジェニック植物細胞を含むト
ランスジェニック植物にも関する。該植物体の細胞における、制御を受けにくい
または制御を受けないFBPアーゼの発現により、光合成効率が上昇し、したがっ
て非形質転換植物と比べてバイオマス生産および/または収量における増加へと
つながる。
本発明に記載のトランスジェニック植物は、好ましくは本発明に記載のDNA分
子の植物細胞への導入、および形質転換細胞からの全植物体の再生により作成さ
れる。
本発明に記載のDNA分子の植物細胞内への移入は、好ましくは適当なプラスミ
ド、特に、形質転換植物細胞のゲノムへのDNA分子の安定的な組み込みを可能に
するプラスミド、例えば、バイナリープラスミドを用いて行われる。適当な植物
形質転換用ベクターとしては、例えばアグロバクテリウム・ツメファシェンス(
Agrobacterium tumefaciens)のTiプラスミド由来のベクター、ならびにヘレラ
−エストレラ(Herrera-Estrella)ら(Nature 303(1983),209)、ビーバン(B
evan)(Nucl Acids Res.12(1984),8711〜8721)、クリー(Klee)ら(Bio/Te
chnology 3(1985),637〜642)および欧州特許出願第2-120 516号に記載されて
いるベクターが含まれる。
本発明に記載のDNA分子による形質転換は、基本的に、全ての植物種の細胞で
可能である。単子葉植物および双子葉植物の両者とも対象となる。さまざまな単
子葉および双子葉植物について、形質転換の技術がすでに説明されている。好ま
しくは、鑑賞用植物または有用植物の細胞が形質転換される。有用植物とは、好
ましくは作物となる植物、特に穀類(例えば、ライムギ、オートムギ、オオムギ
、コムギ、トウモロコシ、イネ)、ジャガイモ、ナタネ、エンドウ、サトウキビ
、ダイズ、タバコ、ワタ、トマトなどである。
さらに、本発明は、本発明に記載の細胞を含む、種子、果実、挿し木、塊茎、
根茎などの、本発明にしたがう植物の繁殖材料に関する。
さらに、本発明の主題は、野生型植物体と比較して光合成効率の上昇、および
/またはバイオマス生産の増加を示す植物の生産を目的とするほか、植物細胞内
、好ましくは細胞質またはプラスチドにおける発現を目的とした、制御を受けに
くいまたは制御を受けないFBPアーゼ酵素をコードするDNA配列の使用である。
本発明はさらに、通常植物細胞内で生成されるFBPアーゼと比較して制御を受
けにくいまたは制御を受けないフルクトース-1,6-2リン酸をコードするDNA分子
の植物細胞内での発現を含む、植物の光合成効率を上昇させるための方法に関す
る。
図1は、プラスミドp35S-FBPアーゼ-Aeを示す。
A = フラグメントA:CaMV 35Sプロモーター、第6909〜7437塩基
(Franckら、Cell 21(1980),285〜294)
B = フラグメントB:染色体にコードされるフルクトース-1,6-ビスホスファター
ゼをコードするアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)由
来のDNA;配列番号:1に示すDNA配列を有する1113塩基対断片
プロモーターに対する方向:センス
C = フラグメントC:TiプラスミドpTiACH5(Gielenら、EMBO J.3(1984),835〜
846)のT-DNAの第11748〜11939塩基
実施例により本発明を説明する。
実施例において、以下の技術を用いた。:
1.クローニングの方法
大腸菌へのクローニングには、ベクターpUC18を用いた。植物の形質転換のた
め、
Willmitzer、Plant Sci.66(1990),221〜230)。
2.細菌の菌株
pUCベクターおよびpBinARの構築物には、大腸菌のDH5α株(Bethesda Researc
h Laboratories、Gaithersburgh、米国)を用いた。それらのプラスミドによる
ジャガイモ植物体の形質転換は、アグロバクテリウム・ツメファシェンス(Agro
bacterium tumefaciens)C58C1 pGV2260株(Debleareら、Nucl.Acids Res.13(
1985),4777〜4788)を用いて行った。
3.アグロバクテリウム・ツメファシェンス(Agrobacterium tumefaciens)の
形質転換
法(Nucleic Acids Res.16(1988),9877)に従い直接形質転換により行った。
形質転換されたアグロバクテリアのプラスミドDNAは、バーンボイム(Birnboim
)およびドリー(Doly)の方法(Nucleic Acids Res.7(1979),1513〜1523)に
したがって単離し、適当な制限酵素により切断した後、ゲル電気泳動解析にかけ
た。
4.ジャガイモの形質転換
ジャガイモ(ソラナム・ツベロッサム(Solunum tuberosum)L.cv.Desiree
)無菌培養の小葉10枚をメスで傷つけ、選択的に終夜培養したアグロバクテリウ
ム・ツメファシェンス(Agrobacterium tumefaciens)の培養液50μlを加えた、
2%ショ糖含有MS培地(MurashigeおよびSkook,Physiol.Plant.15(1962),473
)10mlに浸した。この混合液を3〜5分間ゆっくり振とうした後、さらに暗黒下で
2日間培養した。カルスを誘導するため、葉を1.6%グルコース、5mg/lナフチル
酢酸、0.2mg/lベンジルアミノプリン、250mg/lクラフォラン、50mg/lカナマ
イシン、および0.80%バクトアガーを含むMS培地上に置いた。25℃、3,000ルク
スで1週間培養後、苗条を誘導するため、葉を1.6%グルコース、1.4mg/lゼアチ
ンリブロース、20mg/lナフチル酢酸、20mg/lジベレリン酸、250mg/lクラフォ
ラン、50mg/lカナマイシンおよび0.80%バクトアガーを含むMS培地に置いた。
5.DNA断片の放射性標識
DNA断片を、ベーリンガー社(ドイツ)のDNAランダムプライマーラベリングキ
ットを用い製造者の指示に従って、放射性標識した。
6.ノーザンブロット解析
RNAを、標準的な技術に従って植物体の葉組織から単離した。50 μgのRNAをア
ガロースゲルで分離した(1.5%アガロース、1×MEN緩衝液、16.6%ホルムアル
デヒド)。泳動後、ゲルを簡単に水洗した。RNAは、20×SSCを用い、キャピラリ
ーブロッティングによりハイボンドN(Hybond N)ナイロン膜(アマシャム、英
国)に転写した。つぎにその膜を減圧下で80℃2時間、乾熱処理した。
膜をNSEB緩衝液中で68℃で2時間プレハイブリダイゼーションし、続いて放射
性標識したプローブの存在下、NSEB緩衝液中68℃で一晩ハイブリダイゼーション
した。
7.植物の育成
ジャガイモ植物体は、温室内で以下の条件下で育成した。:
明期 25,000ルクス、22℃で16時間
暗期 15℃で8時間
湿度 60%
用いた培地および溶液
20×SSC 塩化ナトリウム 175.3g
クエン酸ナトリウム 88.2g
超純水で1000 mlとする
10N 水酸化ナトリウムでpH 7.0に調整
10×MEN 200 mM MOPS
50 mM 酢酸ナトリウム
10 mM EDTA
pH 7.0
NSEB緩衝液 0.25 M リン酸ナトリウム緩衝液 pH 7.2
7% SDS
1 mM EDTA
1% BSA (重量/体積)
実施例1
プラスミドp35S-FBPアーゼ-Aeの構築およびジャガイモ植物体ゲノムへのプラス
ミドの導入
配列番号:1として示されるDNA配列を有する、長さ1136塩基対のDNA断片を、
適当なプラスミドから、制限エンドヌクレアーゼNsi IおよびBal Iを用いて単
離した。このDNA断片には染色体にコードされるアルカリゲネス・ユートロファ
ス(Alcaligenes eutrophus)由来FBPアーゼの全コード領域が含まれる。付着端
をT4-DNAポリメラーゼを用いて平滑化し、この断片をSma Iで線状化したベクタ
ーpBinAR(HofgenおよびWillmitzer,Plant Sci.66(1990),221〜230)に挿入
した。ベクターpBinARは、バイナリーベクターBin19(Bevan,Nucleic Acids Re
s.12(1984),8711〜8721; Clontech Laboratories,Inc.,USAより入手可能)
の誘導
体である。
pBinARは、以下のように構築した。:
カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(Franckら、Cell 21(1980)
,285〜294)の第6909〜7437ヌクレオチドを含む、長さ529塩基対の断片を、プ
ラスミドpDH51(Pietrzakら、Nucl.Acids Res.14,5857〜5868)よりEcoRI/Kpn I
断片として単離し、pBin19のポリリンカー内のEcoRIおよびKpn I切断部位の間に
結合させ、プラスミドpBin19-Aを得た。
TiプラスミドpTiACH5(Gielenら、EMBO J.3,835〜846)のT-DNAの遺伝子 3
のポリアデニル化シグナルを含む、長さ192塩基対の断片(第11749〜11939ヌク
レオチド)を、プラスミドpAGV40(Herrera-Estrellaら、Nature 303,209〜213
)から、制限エンドヌクレアーゼPvu IIおよびHindIIIを用いて単離した。Pvu I
切断部位にSph Iリンカーを付加後、断片をSph IおよびHindIIIで切断したpBin1
9-Aに結合して、pBinARを得た。
DNA断片は、コード領域が35Sプロモーターに対してセンスの方向になるように
ベクターに挿入した。
生じたプラスミドをp35S-FBPアーゼ-Aeと命名し、図1に示す。
DNA断片の挿入により、フラグメントA、BおよびCを含む発現カセットが得られ
る(図1)。:
フラグメントA(529塩基対)は、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35
Sプロモーターを含む。この断片には、CaMV(Franckら、Cell 21(1980),285〜2
94)の第6909〜7437ヌクレオチドが含まれる。
フラグメントBは、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus
)の染色体にコードされるFBPアーゼの、タンパク質コード領域を含む。この断
片を、上記の通り、NsI/BalI断片として単離し、pBinARの35Sプロモーターにセ
ンスの方向に結合した。
フラグメントC(192bp)は、TiプラスミドpTiACH5(Gielenら、EMBO J.3(198
4),835〜846)のT-DNAの遺伝子 3のポリアデニル化シグナルを含む。
プラスミドp35S-FBPアーゼ-Aeの大きさは、約12kbである。
ベクターp35S-FBPアーゼ-Aeを、アグロバクテリウム・ツメファシェンス(Agr
obacterium tumefaciens)を介する形質転換によりジャガイモ植物細胞に移入し
た。完全な植物体を、移入した細胞から再生した。植物の遺伝的改変が成功した
かどうかは、A.ユートロファス(A.eutrophus)由来のFBPアーゼをコードする
mRNAの合成について、全RNAをノーザンブロット解析にかけることにより確認す
る。全RNAは、標準的な方法により形質転換植物の葉から単離し、アガロースゲ
ル上で分離し、ナイロン膜に転写し、配列番号:1に示す配列、または該配列の
一部を有する放射性標識したプローブにハイブリダイズさせた。うまく形質転換
している植物体では、ノーザンブロット解析で、アルカリゲネス・ユートロファ
ス(Alcaligenes eutrophus)由来のFBPアーゼ遺伝子の特異的な転写産物を示す
バンドが現れる。
実施例2
形質転換したジャガイモ植物体の解析
プラスミドp35S-FBPアーゼ-Aeで形質転換したジャガイモ植物体について、非
形質転換植物と比較して光合成効率を調べた。
光合成効率は、リーフディスク酸素電極(LD2; Hansatech; Kinks Lynn,Engl
and)中で、リーフディスクを用いて測定した。測定は、20℃、二酸化炭素で飽
和した空気中で、シャーウェン(Schaewen)らの方法(EMBO J.9(1990),3033
〜3044)により行った。光の強度は550〜600PAR(光合成活性発光(photosynthe
tic active radiation))とした。
プラスミドp35S-FBPアーゼ-Aeで形質転換した植物体(UFI-7)の、非形質転換
植物と比較した光合成効率の測定結果を、次の表に示す。
野生型植物体については10回、形質転換ジャガイモ植物体UFI-7については5回の
測定を行った。