JPH11287250A - 高速回転機器用の転がり軸受装置 - Google Patents

高速回転機器用の転がり軸受装置

Info

Publication number
JPH11287250A
JPH11287250A JP10713498A JP10713498A JPH11287250A JP H11287250 A JPH11287250 A JP H11287250A JP 10713498 A JP10713498 A JP 10713498A JP 10713498 A JP10713498 A JP 10713498A JP H11287250 A JPH11287250 A JP H11287250A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
oil
retainer
rolling bearing
bearing device
speed rotating
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP10713498A
Other languages
English (en)
Other versions
JP4243781B2 (ja
Inventor
Akira Matsui
昌 松井
Yoshinori Morita
義典 森田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
J Morita Manufaturing Corp
Original Assignee
J Morita Manufaturing Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by J Morita Manufaturing Corp filed Critical J Morita Manufaturing Corp
Priority to JP10713498A priority Critical patent/JP4243781B2/ja
Priority to US09/172,794 priority patent/US6164831A/en
Priority to DE19848051A priority patent/DE19848051B4/de
Priority to CH00045/99A priority patent/CH693540A5/de
Priority to AT0010999A priority patent/AT412304B/de
Publication of JPH11287250A publication Critical patent/JPH11287250A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4243781B2 publication Critical patent/JP4243781B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Fee Related legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Rolling Contact Bearings (AREA)
  • Dental Tools And Instruments Or Auxiliary Dental Instruments (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 高速回転系の歯科用エアータービンハンドピ
ースなどの高速回転機器用の転がり軸受装置として、耐
熱性(耐オートクレーブ)、耐久性などに優れたものを
提供する。 【解決手段】 外輪、内輪、転動体、及び保持器(リテ
ーナ)からなる転がり軸受要素を有する高速回転機器用
の転がり軸受装置において、(i).前記転動体が、非金属
製の無機質ボールで構成され、かつ、(ii).前記保持器
(リテーナ)が、少なくとも一部に連通構造の気孔部
(連通気孔部)を有する合成樹脂成形体で構成され、更
に、(iii).前記転動体及び保持器(リテーナ)の連通気
孔部が、吸油性樹脂粒子からなる吸油剤を含有した潤滑
油で潤滑処理されて構成されたこと、を特徴とする高速
回転機器用の転がり軸受装置。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子部品用、医療
用、食品製造用、航空宇宙機器用等の高速かつ高い安全
性が要求される分野において使用される高速回転機器用
の転がり軸受装置に関する。更に詳しくは、本発明は、
例えば、歯科用高速回転切削機器(歯科用エアータービ
ンハンドピース)のように安定した高速回転を確保し、
かつ高い生体安全性を有し、更に高温高圧下での滅菌処
理(オートクレーブ処理)にも耐える耐久性のある転が
り軸受装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】高速回転機器、特に切削工具を高速に回
転させるための高速切削器は、概略的には、切削工具を
固定保持する回転軸、前記回転軸を回動駆動させるため
の回転駆動装置、及び前記回転軸を回転自在に支承する
軸受部、とから構成されるものである。
【0003】この種の高速切削器として、例えば医療歯
科用の高速切削器(エアータービンハンドピース)を示
すことができる。そして、前記した医療歯科用高速切削
器(エアータービンハンドピース)の軸受部は、ボール
(転動体)を使用した玉軸受機構を有するものとエアー
ベアリングを使用した(無接触型の)空気軸受け機構を
有するものとが知られている。なお、当業界において、
前記ボール(転動体)として金属製のもの、より具体的
にはステンレス製(マルテンサイト系ステンレス、SU
S440C)のものが汎用されている。
【0004】例えば、歯科用のエアータービンハンドピ
ースの軸受け機構に注目すると、ボールベアリングター
ビン型、及びエアーベアリングタービン型の2種類のエ
アータービンハンドピースが知られている。なお、前者
のボールベアリングタービン型のものは約20〜40万
rpm程度の高速回転の機種であり、後者のエアーベア
リングタービン型のものは約30〜50万rpm程度の
超高速回転の機種であるということができる。前記した
ボールベアリングタービン型、及びエアーベアリングタ
ービン型の機種の回転数は、一般的な値であり、例えば
本発明者らが先に提案した歯科用エアータービンハンド
ピース(特願平6−36404号、U.S.Patent No.5,56
2,446)は、ボールベアリングタービン型のものである
が超高速回転を実現することができる高性能のものであ
る。
【0005】ここで、従来技術及び本発明の理解を助け
るために、本発明の転がり軸受装置が適用される一つの
応用機器、即ち、歯科用の高速切削器(歯科用エアータ
ービンハンドピース)の構造について説明する。
【0006】図1〜図2は、歯科用エアータービンハン
ドピースの構造を説明する図である。なお、図1は、全
体構造を説明する図(斜視図)であり、図2は、特にヘ
ッド部とネック部の内部構造を説明する図(断面図)で
ある。
【0007】図1に示されるように、歯科用エアーター
ビンハンドピース(A)は、エアータービンのロータ軸
(駆動軸)に固定保持される切削工具(B)(5)を有
するヘッド部(H)とグリップ部(G)からなるもので
ある。そして、前記グリップ部(G)のネック部(N)
は、前記ヘッド(H)に連接されると共に、ヘッド部
(H)内に配設されたエアータービンに加圧空気を供
給、排出する手段を内部に有するものである。
【0008】図2は、歯科用エアータービンハンドピー
ス(A)のヘッド部(H)とネック部(N)の内部構造
を示す。図示されるように、ヘッド部(H)において、
ヘッド(1)のチャンバー(11)の内部に周縁部にタ
ービンブレード(2)を有するタービンロータ軸(3)
が配設されると共に、前記タービンロータ軸(3)はヘ
ッド(1)の内部において軸受部(4)を介して回動自
在に支承されている。前記ヘッド(1)は、ヘッド本体
部(12)とキャップ部(13)からなる。そして、前
記ヘッド本体部(12)の内部に、前記タービンロータ
軸(3)を回転自在に支承するための軸受部(4)が配
設される。タービンロータ軸(3)の軸心穴には、切削
工具(5)が固定保持され、治療行為が行なわれる。な
お、切削工具(5)の周側部には、切削工具(5)を軸
心穴中に把持するためのチャック(51)が配設されて
いる。軸受部(4)は、内輪(41)、外輪(42)、
転動体(43)及び保持器(44)からなるボールベア
リング方式のもので構成されている。なお、軸受部
(4)の外周や側部には、求軸心のためのO−リングや
軸剛性を高めるための公知のウェーブワッシャなどを配
設しても良いものである。また、前記転動体(43)
は、前記したように一般にステンレス製(SUS440
C)ボールで構成されている。ネック部(N)には、そ
のネック本体部(6)がチャンバー(11)内に配設さ
れたタービンブレード(2)に加圧空気を供給するため
の給気路(7)と給気口(71)、及びチャンバー(1
1)内の加圧空気を排出するための排気路(8)(9)
と排気口(81)、(91)を有する。
【0009】前記図2に示される歯科用エアータービン
ハンドピース(A)の内部構造において、加圧空気の給
気・排気手段は、本発明者らが、先に提案したものであ
り(特願平6−36404号、U.S.Patent No.5,562,44
6)、従来技術においては全く見られない新しい構成の
ものである。このため、図2には、前記した各要素(部
材)を説明するための参照符号に加えて他の参照符号
(記号)も示されている。これらの参照符号(記号)の
説明は省略するが、図2により従来の歯科用エアーター
ビンハンドピースの構成が容易に理解することができ
る。なお、図2に示される本発明者らが先に提案した給
気・排気手段をもつ歯科用エアータービンハンドピース
(A)は、従来の転がり軸受装置を内蔵するハンドピー
スのカテゴリーに属するものであるが、極めて高速の回
転、従って大トルクが得られることは先に説明した通り
である。
【0010】前記したボールベアリング式の歯科用エア
ータービンハンドピースにおいて、その軸受部はミニア
チュア型軸受部により構成され、そのタービンロータ軸
は毎分20〜40万rpm程度で高速回転する。このた
め、軸受部内部の温度が高くなり、かつ軸受部にかかる
応力も大きくなるため、軸受部の構成部材の構成が重要
になってくる。また、前記した過酷な条件のもとで使用
される軸受部用の潤滑油において、その品質、特性の管
理も極めて重要である。
【0011】また、前記したボールベアリング式の歯科
用エアータービンハンドピースは、口腔内で使用される
ため、使用前に軸受け部に潤滑油をスプレー、あるいは
滴下して使用され、別言すれば稀薄潤滑の環境下におい
て使用され、かつ滅菌消毒のために高圧高温処理(オー
トクレーブ処理ともいわれ、その処理条件は、例えば蒸
気圧2.4kgf/cm2、温度135℃、時間5分であ
る。)される。このため、前記歯科用エアタービンハン
ドピースに使用される転がり軸受装置も、前記したと同
様の条件を満足するものが要求されている。特に、潤滑
系において重要な構成要素となる保持器(リテーナ、re
tainer)の特性として、前記したと同様の条件を満足す
るものが要求されている。更にまた、前記転がり軸受装
置に適用される潤滑油も、耐酸化性など過酷な使用条件
を満足する特性を有するものが要求されている。
【0012】従来、前記した歯科用エアタービンハンド
ピースの転がり軸受装置の重要な構成要素である転動体
(ボール)としては、前記した厳しい使用環境から一般
にステンレス製(SUS440C)のものが使用されて
いることは前記した通りである。また、保持器(リテー
ナ)としては、前記した要求特性の観点から、ポリアミ
ド樹脂系のものや繊維層を有するフェノール樹脂系のも
のなどで構成されているが、十分なものであるとはいえ
ない。
【0013】一方、前記した歯科用エアータービンハン
ドピースの転がり軸受装置に対して、各種の潤滑油が使
用もしくは提案されている。
【0014】例えば、潤滑油をフロンやLPGを用いて
スプレー方式により供給することが広く行われており、
前記した潤滑油としてパラフィン等の精製鉱油系のもの
が知られている。前記した潤滑油は、典型的には石油系
のものであり、石油を各種留分に分留精製し、これに必
要な酸化防止剤などの添加剤を配合して調製されたもの
である。なお、前記した潤滑油の基油成分は、天然の鉱
油系のもののほか、グリコール、エステル、低分子量の
ポリオレフィンなどの合成系のものも知られている。
【0015】このほか、動物油や植物油の食用油も精密
機械、工作機械、船舶機関などの潤滑油として使用され
ることが知られている。しかしながら、前記食用油は、
一般的には鉱油系潤滑油に10〜20重量%配合して使
用されるものである。なお、前記食用油は、耐酸化性に
問題があるため、各種の酸化安定剤(酸化防止剤)を併
用して使用されるのが常態である。
【0016】最近、歯科用エアータービンハンドピース
の前記した過酷な使用条件を考慮して、耐熱性に優れ、
従って、滅菌消毒(オートクレーブ処理)が可能であ
り、かつ潤滑性に優れたフッ素化オイルを含浸させた保
持器(リテーナ)を有する歯科用エアータービンハンド
ピースが、特公平5−43884号、実開平7−105
53号に提案されている。なお、前記保持器(リテー
ナ)は、ポリイミド樹脂の粉末体を焼結して得た多孔質
体から成るものである。前記した提案の歯科用エアータ
ービンハンドピースは、フッ素化オイルが不活性であ
り、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性に優れ、高温に晒され
ても固体状劣化物を生成しないという特性を有してお
り、これらの特性保持器(リテーナ)に利用したという
ことができる。
【0017】また、特開平6−165790号は、直接
的には、以下に概略説明する歯科用エアータービンハン
ドピースの軸受装置における玉軸受の冠型保持器(リテ
ーナ)に関するものであるが、前記保持器に潤滑油を含
浸する態様を開示している。即ち、前記特開平6−16
5790号に開示の歯科用エアータービンハンドピース
において、玉軸受の保持器(リテーナ)は、(i).内部に
布製の繊維層を有する合成樹脂製筒体の一側に玉保持用
ポケットが形成されるとともに、前記ポケットの開口側
端面に面取り部が形成された冠型保持器であって、か
つ、(ii).前記保持器の繊維層に潤滑油が含浸されたこ
と、を特徴とするものである。前記特開平6−1657
90号に開示の玉軸受の冠型保持器(リテーナ)は、前
記(i)の構成により回転バランスを良くし、保持器と外
輪の接触による保持器の摩耗や回転トルクの増大を防止
しようとするものである。なお、前記特開平6−165
790号において、潤滑油の具体的な構成については不
明である。また、前記特開平6−165790号は、従
来技術の説明において、ハウジング内に食用油を注油す
る態様を説明しているが、ここでいう食用油の具体的な
構成も不明である。本発明者らは、前記特開平6−16
5796号に開示の潤滑油は、当業界の技術水準からみ
て従来から提案されてきている潤滑油の域を出るもので
はないと考える。
【0018】更に、特開平6−212179号は、歯科
用エアータービンのベアリングに対する潤滑油の補給回
数を少なくするために、潤滑油にセラミック粉末を混入
させることを開示している。これは、潤滑油内にセラミ
ック粉末を混入しておくと、潤滑油の持ちが良くなると
いう知見をベースにした提案である。
【0019】前記した従来から提案されている各種の潤
滑油は、転がり軸受機構を有する医療歯科用エアーター
ビンハンドピースなどの高速回転機器におけるそれらの
適用を可能にするためには、種々の改善すべき課題を有
すものである。例えば、前記した流動パラフィンなどの
鉱油系または合成油系の潤滑油、あるいはこれらに食用
油を配合した潤滑油は、高速回転系での持続的な潤滑特
性の発現という観点から、改善すべき点が残されている
ものである。
【0020】また、前記特公平5−43884号及び実
開平7−10553号に提案されているパーフルオロポ
リエーテル(PFPE)やパーフルオロポリアルキルエ
ーテル(PFAE)などのフッ素化オイルは、耐熱性、
耐薬品性、耐溶剤性に優れ、高温に晒されても固体状劣
化物を生成しないため、高速切削器(エアータービンハ
ンドピース)の潤滑油として好ましいものであるが、高
速回転系での持続的な潤滑特性の発現という観点から、
改善すべき点が残されているものである。
【0021】更に、前記特開平6−165790号は、
繊維層を有するフェノール樹脂製の成形体で構成される
軸受装置の保持器(リテーナ)に潤滑油を含浸させるこ
とを開示し、かつ前記潤滑油として食用油の使用を示唆
しているが、詳しくは後述するが、一般の食用油は、大
半が乾性油であり、油が乾燥すると樹脂状の固体とな
り、耐久性のある軸受用の潤滑油としては不適当なもの
である。
【0022】一般の食用油は、前記したように、大半が
乾性油であり、酸化され易く、そのために合成の酸化防
止剤を添加配合して使用するのが常態である。前記乾性
油を主体とし、かつ酸化防止剤を配合した食用油系の潤
滑油においては、前記酸化防止剤と軸受装置系から溶出
する金属との反応生成物が生体為害性物質となる場合が
あることに留意しなければならない。
【0023】また、前記特開平6−212179号は、
潤滑油にセラミック粉体を混入させ、潤滑油の持ち(ラ
イフタイム)を良くし潤滑系への補給回数を低減化しよ
うとするものであるが、高速回転系の医療歯科用切削器
(エアータービンハンドピース)においては、軸受のレ
ース(保持器)やボールが前記セラミック粉体により削
られて生体に有害な金属を溶出したり、あるいは稀薄潤
滑環境下において潤滑油が少なくなると軸受機構に致命
的な損傷を与えることになる。
【0024】前記したように、高速回転機器、例えば医
療歯科用の高速回転機器(エアータービンハンドピー
ス)において使用される従来の転がり軸受装置用の潤滑
油は、(i).生体安全性(生体に対する為害性が少ないこ
と。)、(ii).環境の保全性(安全性)、(iii).耐熱性
(オートクレーブ処理による滅菌消毒が可能であるこ
と。)、(iv).耐久性のある潤滑系、などの面から評価
すると課題を残すものである。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記した従
来技術の高速回転機器用の転がり軸受装置における問題
点に鑑み創案されたものである。なお、本発明の直接の
契機は、本発明者らが先に提案した高性能、超高速回転
のボールベアリングタービン型の歯科用エアータービン
ハンドピース(特願平6−36404号、U.S.Patent N
o.5,562,446)に対して、優れた特性の転がり軸受装置
が存在していなかったことにあった。本発明者らは、高
速回転機器用の転がり軸受装置において、特に軸受機構
の重要な構成要素である転動体(ボール)及び前記転動
体(ボール)を保持する保持器(リテーナ)について、
更なる高速回転野実現や高速回転下での耐久性の改善な
どの高度の要求特性を満足する方策について鋭意検討を
加えた。その結果、本発明者らは、転動体(ボール)を
従来のステンレス製のものに代えて結晶化ガラスや強化
ガラスなどの無機質ボールにするとともに、前記保持器
を特定の多孔質樹脂成形体で構成し、更に、前記無機質
ボールと多孔質樹脂成形体で構成される保持器に対して
特定の潤滑油、詳しくは、吸油性樹脂粒子からなる吸油
剤を含有した潤滑油を適用したとき、従来にない優れた
特性の潤滑系が実現できる、という知見を見い出した。
本発明は、前記知見をベースにして完成されたものであ
る。
【0026】本発明は、転がり軸受機構を内蔵する歯科
用エアータービンハンドピースなどの高速切削機器にお
いて、高速回転下において十分な耐久性を有し、オート
クレーブ滅菌などの高温高圧にも耐える耐熱性を持ち、
また高速回転の雰囲気下において、安定かつ持続的な潤
滑特性を発現するなど、高性能の転がり軸受装置を提供
するものである。別言すれば、本発明は、ボールベアリ
ング式の30万rpm以上、更には40万rpm以上の
医療歯科用高速切削器などの高速回転機器において、従
来の金属製(ステンレス製)ボールベアリング方式より
も格段に高い回転数を安定して実現することができ、か
つ耐久性のある潤滑系を実施することができる高速回転
機器の主要な構成要素である転がり軸受装置を提供する
ものである。
【0027】
【課題を解決するための手段】本発明を概説すれば、本
発明は、外輪、内輪、転動体、及び保持器(リテーナ)
からなる転がり軸受要素を有する高速回転機器用の転が
り軸受装置において、(i).前記転動体が、非金属製の無
機質ボールで構成され、かつ、(ii).前記保持器(リテ
ーナ)が、少なくとも一部に連通構造の気孔部(連通気
孔部)を有する合成樹脂成形体で構成され、更に、(ii
i).前記転動体及び保持器(リテーナ)の連通気孔部
が、吸油性樹脂粒子からなる吸油剤を含有した潤滑油で
含浸処理されて構成されたこと、を特徴とする高速回転
機器用の転がり軸受装置に関するものてある。
【0028】以下、本発明の技術的構成及び実施態様に
ついて詳しく説明する。
【0029】本発明の高速回転機器用の転がり軸受装置
において、第一の特徴点は、軸受装置の重要な構成要素
である転動体(ボール)の構成を、従来の金属製のもの
から非金属製の無機質ボールに変更する点にある。ま
た、第二の特徴点は、保持器(リテーナ)を、特定のマ
トリックス材からなる多孔質体により構成する点に特徴
点がある。更にまた、本発明の高速回転機器用の転がり
軸受装置は、第三の特徴点は、前記した特定材質の転動
体(ボール)及び保持器(リテーナ)に対して特定の潤
滑油、より具体的には、吸油性樹脂粒子からなる吸油剤
を含有した潤滑油を適用もしくは含浸して軸受部を構成
する点に特徴点がある。本発明の高速回転機器の転がり
軸受装置は、以下に説明するように、前記した三つの特
徴点が有機的に作用して優れた作用効果を奏するもので
ある。
【0030】以下、前記した本発明の第一〜第三の特徴
点の順に、本発明の技術的構成を説明する。
【0031】まず、本発明の第一の特徴点である転動体
(ボール)の構成について説明する。前記したように、
従来技術において、この種の転動体(ボール)として一
般にステンレス製(例えばSUS440C)のものが使
用されている。しかしながら、本発明においては、より
高いレベルの高速回転の実現、高速回転下での低騒音の
実現、高速回転下における軸受部を構成する他部材との
接触による磨耗の低減、高速回転下での低発熱性、後述
する特殊な潤滑油である植物性不乾性油との親和性など
の観点から、従来のステンレス製ボールに代えて非金属
製の無機質ボールを採用するものである。
【0032】本発明の転動体(ボール)として採用する
前記非金属製の無機質ボールとしては、非酸化セラミッ
ク材料、酸化セラミック材料、耐熱ガラス材料、あるい
は結晶化ガラス材料などで製作されたものを使用するこ
とができる。前記非酸化セラミック材料としては、窒化
物、炭化物、あるいは硼化物などが含まれる。前記した
無機質ボールの具体例として、窒化珪素(Si34)、
炭化珪素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、アルミナ
(Al23)、酸化ジルコニウム及び、ジルコニア(Z
rO2)、耐熱ガラス材料に属するパイレックス(Corni
ng GlassWorks社製)やテレックス(東京芝浦電気社
製)、結晶化ガラス材料に属するネオセラム(日本電気
硝子社製)などを挙げることができる。なお、本発明に
おいて、無機質ボールの中に、窒化物と酸化物との中間
的な組成の酸窒化物系のもの、例えばサイアロン(sial
on)も包含されると解されるべきである。
【0033】以下、本発明の第二の特徴点である保持器
(リテーナ)の構成について説明する。本発明の保持器
(リテーナ)の第一実施態様は、次の通りである。本発
明の保持器(リテーナ)の第一実施態様は、多孔質のポ
リイミド樹脂成形体で構成される。図3は、前記多孔質
ポリイミド樹脂成形体からなる保持器(44)の斜視図
を示す。図中、(44a)は保持器本体を示し、(44
b)は孔部(気孔部)を示す。なお、前記保持器(4
4)は、図1〜図2を参照して説明したボールベアリン
グ式の歯科用エアータービンハンドピースに適用される
ものである。
【0034】本発明の多孔質ポリイミド樹脂成形体で構
成される保持器(リテーナ)において、前記ポリイミド
樹脂(以下、PI樹脂と略記する。)は、芳香族カルボ
ン酸と芳香族アミンを縮重合して得られる主鎖にイミド
結合を有する樹脂(熱可塑のものであっても、あるいは
熱硬化性のものであってもよい。)であって、耐熱性、
耐薬品性、機械的性質、電気的特性に優れたものであ
る。なお、本発明において、PI樹脂なる用語は、主鎖
にイミド結合及びアミド結合を有するポリアミドイミド
樹脂(以下、PAI樹脂と略記する。)も包含するもの
であると理解されるべきである。
【0035】本発明において、前記リテーナを構成する
PI樹脂及びPAI樹脂は、市販されているものが好都
合に使用することができる。例えば、市販されているP
I樹脂及びPAI樹脂としてその化学構造式を含めて以
下のものを例示することができる。 (i).PI樹脂: (1).オーストリア国レンジング社製、P84−HT(下
記化1で示されるもの。なお、化1において、Rはアル
キレン基を表わす。) (2).東レ社製、TI−3000(下記化2で示されるも
の。) (3).宇部興産社製、UIP−S(下記化3で示されるも
の。) (4).デュポン社製、ベスペル(下記化2で示されるも
の。) (5).三井東圧化学社製、オーラム(下記化4で示される
もの。) (6).その他、米国ヒューロン社製、メルディン810
0,900などがある。 (ii).PAI樹脂: (1).アモコ社製、トーロン4000TF(下記化5で示
されるもの。なお、化5において、Arはフェニレン基
を表わす)。
【0036】
【化1】
【0037】
【化2】
【0038】
【化3】
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】前記多孔質のPAI樹脂成形体からなる保
持器は、特公平5−43884号に示されるように、平
均粒径が15〜50μmに分級整粒したPAI樹脂粉末
を加圧焼成して製造するすることができる。前記焼結成
形において、樹脂粉末の平均粒径や圧力などを所望に調
整して、体積比5〜20%の連通気孔を有するポーラス
な構造の保持器を調製する。次いで、前記連通気孔に、
詳しくは後述するが特定の潤滑油(基油:植物性不乾性
油)を含浸し本発明の保持器を製造する。
【0042】前記、多孔質ポリアミドイミド(PAI)
成形体からなる保持器において、原料の樹脂粉末に15
μm未満の微小粒径の粉末が混入している場合、孔、即
ち、空間部が前記微小粉末により閉塞されてしまうの
で、製品の気孔率のバラツキを招来させる。このため、
前記した分級整粒が必要となる。また、逆に50μmを
超える大きな粒径の粉末が混入する場合、粒子間の空隙
が大きくなり、高速回転時の含浸油の保持率(保油率)
が低下するため、前記した大きな粒径の混入は好ましく
ない。
【0043】図4〜図5は、多孔質PAI樹脂成形体か
らなる保持器(44)の別の態様を説明する図である。
なお、図4は保持器(44)の応用例である前記図2に
示されるものとは別の構造の歯科用エアータービンハン
ドピースを説明する図である。なお、図4の歯科用エア
ータービンハンドピースの構造は、対応する前記図2よ
り明らかであるため説明を省略する。また、図5は、保
持器(44)の形状構造を説明する図であり、前記図3
に対応する図である。図5において、(44a)は保持
器本体を示し、(44b)は穴部(気孔部)を示してい
る。
【0044】本発明の保持器(リテーナ)の第二実施態
様は、次の通りである。本発明の保持器(リテーナ)の
第二実施態様は、多孔質のPI樹脂成形体で構成され
る。
【0045】前記多孔質のPI樹脂成形体からなる保持
器は、前記PAI樹脂の粉末の焼結成形と同様にして製
造することができる。即ち、平均粒径が、15〜50μ
mに分級整粒したPI樹脂樹脂粉末を加圧焼結すること
により、体積比5〜20%の連通気孔の多孔質PI樹脂
成形体を製造することができる。
【0046】前記第一の実施態様及び第二の実施態様に
おいては、保持器(リテーナ)を、焼結成形して成形す
る方法を示したが、これに限定されず、例えば、以下の
方法によって成形しても良い。多孔質のマトリックス材
を構成するPI樹脂及び前記PI樹脂に近似する成形温
度帯を有する他の耐熱性樹脂であって、かつ前記PI樹
脂の共存下に溶媒で処理されると他の耐熱性樹脂だけが
溶出される他の耐熱性樹脂を混合し、次にこの混合物を
溶媒成形して所望形状の保持器(リテーナ)に成形し、
この成形した保持器から前記他の耐熱性樹脂のみを溶媒
溶出させて多孔質の保持器としても良い。
【0047】前記した保持器(リテーナ)の成形方法に
おいて、PI樹脂なる用語には前記したようにPAI樹
脂も含まれる。なお、前記した他の耐熱性樹脂の例とし
ては、ポリエーテルアルフォン(PES)、ポリエーテ
ルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリ
サルフォン(PSF)などが使用できる。また、前記し
た溶媒としては、塩化メチレン(ジクロロメタン)、ク
ロロホルム、メチルエチルケトン、テトラヒドロラン、
N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド
などを使用することができる。
【0048】前記多孔質PI樹脂製の保持器は、前記多
孔質PAI樹脂のものと比較して、潤滑油が切れた場
合、溶融することがなく、軸受が使用不能とならないこ
と、またPI樹脂は吸湿速度が遅く原料粉や成形品の管
理が容易であること、などというメリットを有してい
る。なお、前記した理由により後者のPAI樹脂は、溶
融型樹脂として位置づけられるものである。また、滅菌
処理(オートクレーブ処理)においても、近年、特にH
IVの感染予防が求められ、従来の処理条件よりも更に
きびしい条件下での処理(例えば、蒸気圧2.4kgf/c
m2(235Pa)、温度135℃、時間5分)が求められて
いるが、前記多孔質PI樹脂製の保持器は、200℃程
度まで耐えることができる。
【0049】本発明の保持器(リテーナ)の第三実施態
様は、次の通りである。本発明の保持器(リテーナ)の
第三実施態様は、連通気孔層とみなされる繊維層を有す
るフェノール樹脂成形体で構成される。この種の繊維層
を有するフェノール樹脂成形体は、前記繊維層を利用し
て潤滑油を含浸させることができるものである。本発明
において、前記繊維層入りのフェノール樹脂成形体(以
下、多孔質P・Rということがある。)は、前記多孔質
PI/PAI樹脂成形体(以下、多孔質PI/PAI・
Rということがある。)の場合の連通気孔による潤滑油
の含浸機能とは異なるものの、繊維層(布)を介しての
潤滑油の含浸機能を有する。このため、本発明におい
て、用語の正確さは欠けるが前記繊維層(布)入りのフ
ェノール樹脂成形体を気孔部(連通気孔部)を有する樹
脂成形体であると位置づけしている。
【0050】この種の繊維層を有するフェノール樹脂系
の保持器は、特開平6−165790号に示される方式
などにより製造すればよい。例えば、前記布入りフェノ
ール樹脂成形体は、(i).布を多重合巻きにしてパイプ状
とし、これを真空状態に維持して布の間にフェノール樹
脂を充填、硬化させて多孔質の筒状体とする方法、(i
i).フェノール樹脂を含浸した布を多重巻きにし、これ
を加熱圧縮して多孔質の筒状体とする方法、などにより
製造することができる。前記布入りフェノール樹脂成形
体の気孔率は、前記PI樹脂と同様のものでよく、体積
比5〜20%の多孔質のものを使用すればよい。
【0051】次に、本発明の第三の特徴点である潤滑油
成分、即ち、前記した特定の無機質ボール及び特定の多
孔質成形体からなる保持器(リテーナ)に適用もしくは
含浸される特定の潤滑油成分について説明する。
【0052】本発明の第三の特徴点は、エアータービン
翼が固定された回転軸を回動自在に支承する外輪、内
輪、無機質ボールからなる転動体、及び耐熱合成樹脂製
の多孔質保持器(リテーナ)からなる転がり軸受要素を
有する高速切削器(エアータービンハンドピース)など
の高速回転機器に対して、積極的に潤滑油を使用する点
に特徴点がある。なお、この種の40万〜50万rpm
の高速回転機器の転がり軸受部においては、リテーナを
使用しなかったり、水潤滑を採用したりして、潤滑油の
使用を排除する方向にあり、この面からも本発明は特異
性がある。前記した潤滑油はいうまでもないことである
が、生体安全性や環境保全性、耐熱性(オートクレーブ
処理による滅菌消毒が可能であること。)、高速回転の
実現性、などの観点から所望のものが選択されなければ
ならないことはいうまでもないことである。
【0053】前記したように、本発明の第三の特徴点で
ある潤滑油は、基油成分と吸油性樹脂粒子からなる吸油
剤成分とから構成されるものである。このため、まず、
基油成分について説明し、次いで、吸油剤成分について
説明する。また、本発明の潤滑油は、基油成分として、
パラフィン油やフッ素化油に加えて従来技術にはみられ
らない植物性の不乾性油をも採用するものである。この
ため、本発明の理解を助けるために、まず植物性不乾性
油から説明する。
【0054】植物油は、大別すると下記の三種に分類す
ることができる。 (i).不乾性油(Nondrying oil) これは、薄層にして空気中で乾燥(酸化)しても膜状物
(樹脂状固体)を形成しない油である。この種の不乾性
油は、分子中の二重結合が二以上(以下、多価とい
う。)の不飽和脂肪酸の量が少なく、オレイン酸(1分
子当り二重結合一個)のグリセリド(グリセリンエステ
ル)が主成分であり、従って、ヨウ素価(油の不飽和度
を示す尺度。Iodine value) は100以下である。この
種の不乾性油の代表例は、オリーブ油、落花生油、オレ
イソル油などがある。
【0055】(ii).半乾性油(Semidrying oil) これは、前記した不乾性油と後述する乾性油の中間的性
質を示す油である。なお、ヨウ素価は100〜130の
ものである。この種の半乾性油の代表例は、菜種油、ゴ
マ油、綿実油などがある。
【0056】(iii).乾性油(Drying oil) これは、薄層にして空気中で乾燥(酸化)すると膜(樹
脂状固体)を形成する油である。この種の乾性油は、不
飽和度の高い脂肪酸(例えば、リノール酸は二重結合が
二個、リノレン酸は二重結合が三個ある。)のグリセリ
ドからなり、これが空気中の酸素を吸収して、酸化重合
して膜状物を容易に形成する。なお、前記乾性油のヨウ
素価は、130以上のものである。この種の乾性油の代
表例は、アマニ油、桐油などがある。
【0057】前記した各種の植物油のうち、不乾性油
は、薄層にして乾燥(酸化)しても膜状物(樹脂状固
体)を生成しない油脂(高級脂肪酸のグリセリンエステ
ル)であり、耐熱性(オートクレーブ処理により滅菌消
毒が可能なこと)や耐久性に優れているため、歯科用エ
アータービンハンドピースなどの高速回転機器の転がり
の軸受装置用潤滑油として好適なものである。
【0058】本発明は、歯科用エアータービンハンドピ
ースなどの高速回転機器の転がりの軸受装置用潤滑油と
して、植物油のうちの不乾性油を採用するものである。
以下、前記植物油の不乾性油として代表例であるオリー
ブ油(Olive Oil)について詳しく説明する。
【0059】オリーブ油は、オリーブ(Olea Europae
a)の果実から製造される油脂(グリセリンエステル)
であり、その成分は大別すると下記の3種に分類するこ
とができる。 (i).不飽和樹脂酸、(ii).飽和樹脂酸、(iii).各種の微
量成分。
【0060】オリーブ油の不飽和樹脂酸は、一般に一価
及び二価以上(多価)のもので構成される。以下、オリ
ーブ油の不飽和樹脂酸の種類と含有量を示す。 1).オレイン酸(一価)…………………56.0〜83.0% CH3(CH27CH=CH(CH27COOH 2).リノール酸(多価)………………… 3.5〜20.0% CH3(CH24CH=CHCH2CH=CH(CH27COOH 3).パルミトオレイン酸(一価)……… 0.3〜3.5% CH3(CH25CH=CH(CH27COOH 4).リノレン酸(多価)………………… 0.0〜1.5% CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH27 COOH 5).ガドレイン酸(一価)……………… 0.0〜0.05% CH3(CH29CH=CH(CH27COOH
【0061】前記したように、オリーブ油は、一価の不
飽和脂肪酸であるオレイン酸を多く含有するものであ
る。また、オリーブ油は、リノール酸などの多価の不飽
和脂肪酸を少量、含有している。前記したように、多価
の不飽和脂肪酸は酸化しやすいものであるが、オリーブ
油は、後述するように微量成分としてトコフェロール類
(ビタミンE)を含有しているため、前記トコフェロー
ル類(ビタミンE)の抗酸化作用によりリノール酸など
の多価不飽和脂肪酸の酸化劣化が防止され、オリーブ油
全体は、耐酸化性に優れている。
【0062】次に、オリーブ油の飽和脂肪酸成分につい
て説明する。以下、オリーブ油の飽和脂肪酸の種類と含
有量を示す。 (1).パルミチン酸 CH3(CH214COOH ……7.5〜20.0% (2).ステアリン酸 CH3(CH216COOH ……0.5〜 3.5% (3).ミリスチン酸 CH3(CH212COOH ……0.0〜0.05% (4).アラキジン酸 CH3(CH218COOH ……0.0〜0.05% (5).ベヘニン酸 CH3(CH220COOH ……0.0〜0.05% (6).リグノセリン酸 CH3(CH222COOH ……0.0〜0.05% 前記したことから判るように、オリーブ油は高コレステ
ロール血症の原因となる飽和脂肪酸の含有量が少ないも
のであるということができる。
【0063】次に、オリーブ油の各種微量成分について
説明する。以下、オリーブ油の各種微量成分の種類と前
記成分の特性や機能について説明する。 .不ケン化物 (a).ステロール類、 (b).炭化水素類 ・スクアレン ・芳香族炭化水素(これは、固有の感覚的特性、即ち香
りや風味を与える。) (c).トコフェロール類(酸化防止機能) ・α−トコフェロール(ビタミンE)(黒変と重合防
止) ・β、γ、δ−トコフェロール(重金属の存在によって
起こる酸敗の防止) (d).トリテルペン・アルコール類 ・シクロ・アルテノール ・エルトロ・ジオール (e).脂溶性のビタミン類 ・ビタミンA、D(抗酸化作用) .燐脂質、葉緑素及び誘導体 (a).燐脂質 (b).葉緑素(抗酸化作用) .フェノール化合物 (a).フェノール化合物(抗酸化作用) (b).ポリフェノール(抗酸化作用) 前記したことから判るように、オリーブ油は、他の不乾
性や乾性油と比較して、油脂の酸化に抗して作用する各
種の微量成分の含有量が高く、耐熱性(オートクレーブ
処理による滅菌消毒が可能である。)や耐久性に優れた
潤滑油となるのである。
【0064】次に、本発明の歯科用エアータービンハン
ドピースなどの高速回転機器の転がり軸受装置用の潤滑
油を構成し得る他の植物性不乾性油について、説明す
る。 (i).前記したオリーブ油以外の植物性不乾性油として、
落花生油(ArachisOil)がある。落花生油は、落花生
(Arachis Hypogaea)の種子に40〜50%含まれてお
り、その種子から搾られて製造される。 (ii).前記したオリーブ油以外の植物性不乾性油とし
て、オレイソル油がある。オレイソル油は、不乾性油で
はないリノール酸(多価)を多く含有するヒマワリの突
然変異種から製造される。今日、農業化学者の努力によ
りオレイン酸(一価の不飽和脂肪酸)を多く含む突然変
異種のヒマワリを育てることに成功しており、この突然
変異種からオレイソルと命名された油が製造されてい
る。オレイソル油は、前記したオリーブ油と同様の不乾
性油である。
【0065】本発明の歯科用エアータービンハンドピー
スなどの高速回転機器の転がり軸受装置用の潤滑油を構
成し得る植物性不乾性油と植物性半乾性油及び他の食用
油との違いを下記の表1に示す。表1において、オリー
ブ油、落花生油、及びオレイソル油は本発明の転がり軸
受装置に有用な植物性不乾性油であり、他のものは比較
対照例の植物性半乾性油及び乾性油を示している。な
お、表1の注釈は、次の通りである。 (1).オレイン酸を主とし、パルミトオレイン酸を含む。 (2).リノール酸。 (3).リノレン酸。 (4).パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリス
チン酸から成る。 表1中、(*)印は、比較対照例の植物油である。
【0066】
【表1】
【0067】表1から、次の点が明らかである。 (i).植物性不乾性油は、酸化しにくい1価の不飽和脂肪
酸が多い。 (ii).植物性不乾性油は、酸化しやすい2価〜3価の不
飽和脂肪酸、即ち多価の不飽和脂肪酸が少ない。 (iii).植物性不乾性油は、抗酸化作用を有するトコフェ
ロール類(ビタミンEなど)の対多価不飽和脂肪酸比が
高い。
【0068】本発明の歯科用エアータービンハンドピー
スなどの高速回転機器の転がり軸受装置用の潤滑油を構
成し得る植物性不乾性油(オリーブ油、落花生油、オレ
イソル油など)において、遊離の脂肪酸(飽和、不飽
和)の合計含有量が少ないほど、潤滑特性に優れてい
る。この点は、本発明者らの植物性不乾性油の潤滑特性
の改善を検討している過程で見い出されたものであり、
後述するように実証データにより裏付けされている。
【0069】前記した植物性不乾性油中の遊離した脂肪
酸(以下、遊離脂肪酸ということがある。)について、
以下に説明を加える。一般に、油脂(牛脂、豚脂、バタ
ーなどの脂肪、及び菜種油、桐油、アマニ油などの脂肪
油)は、高級脂肪酸のグリセリンエステルで構成されて
いる。即ち、本発明の転がり軸受装置に有用な植物性不
乾性油において、各種の脂肪酸(飽和、不飽和)は、下
式(1)で示されるエステルとして存在するものである。 脂肪酸の3分子+グリセリンの1分子→トリグリセリドの1分子(エステル) …………(1)
【0070】しかしながら、前記植物性不乾性油中には
グリセリン(Grycerol, CH2OH-CHOH-CH2OH)と結合して
いない各種の脂肪酸(遊離脂肪酸)も含まれている。前
記した遊離脂肪酸の合計含有量の度合を遊離酸度で示す
と、この値が低いほど酸度が低くなり、かつ粘度も高粘
度側にシフトするため、遊離酸度の低い植物性不乾性油
は転がり軸受装置用潤滑油として耐久性に優れたものと
なる。前記した遊離酸度に基づいて、オリーブ油の品質
を分類したのが下記の表2である。表2より高級なオリ
ーブ油ほど遊離酸度が低く、後述するように優れた潤滑
特性を示す(表3参照)。なお、オリーブ油などの植物
性不乾性油の遊離酸度を低くする方法としては、例え
ば、以下の方法を採用すればよい。即ち、オリーブ油に
5〜10%の水酸化ナトリウムを加えて加熱すると、け
ん化されてグリセリンと脂肪酸ナトリウム塩を生成し、
生成したグリセリンは遊離脂肪酸とエステル結合する。
その後、遠心分離などによって油脂分を分離除去すれ
ば、遊離酸度の低いオリーブ油が得られる。また、表2
中、オリーブ油の各種グレード名は、アメリカのゴール
デンイーグルオリーブプロダクツ社製のオリーブ油の商
品名である。
【0071】
【表2】
【0072】本発明の潤滑油の基油成分として、前記し
た植物性不乾性油のほかに、従来公知の鉱油系(天然
系)または合成系の各種の基油成分を使用することがで
きる。この種の鉱油系または合成等の基油成分として
は、鉱油(パラフィン油)、オレフィンオリゴマー、リ
ン酸エステル、有機酸エステル、シリコーン油、ポリア
ルキレングリコールなどを例示することができる。これ
らの基油成分は、前記した植物性不乾性油と比較して、
生体安全性(生体為害性)や環境保全性(安全性)に劣
るものの、機器の用途においては十分に使用することが
できるものである。
【0073】次ぎに、本発明の潤滑油を構成する吸油性
樹脂粒子からなる吸油剤成分について説明する。
【0074】本発明者らは、高速回転機器、例えば歯科
用エアータービンハンドピースの高速回転下の潤滑系に
おいて、前記した基油成分の特性を損ねることなく軸受
用潤滑油の保持力を向上させるうえで、アクリル酸エス
テル系の架橋化した重合体(以下、単に架橋重合体とい
う。)などの吸油性のある合成樹脂体(吸油性架橋重合
体)粒子は極めて有効である、という知見を得ている。
【0075】前記した高速回転機器の潤滑系、例えば回
転数が20〜40万rpm、更には、より高速回転の環
境下にある歯科用エアータービンハンドピースの潤滑系
において、吸油剤成分の添加効果は後述されるように顕
著なものであり、このような高速回転下の潤滑系におけ
る効果は、本発明者らによってはじめて見い出されたも
のである。
【0076】以下、前記した本発明の実施に有用な植物
性不乾性油などの基油成分の特性改善に好ましい吸油性
の架橋重合体について説明する。なお、前記した吸油性
の架橋重合体それ自体は、特開平5−337367号あ
るいは特公平3−143996号などにより当業界にお
いて公知のものである。しかしながら、前記したよう
に、前記吸油性の架橋重合体が高速回転系の転がり軸受
装置において、優れた特性を付与することができること
は、本発明者らによってはじめて見い出されたものであ
る。
【0077】前記した吸油性架橋重合体は、潤滑油の主
剤である植物性不乾性油などの基油成分の溶解度パラメ
ーター(Solubility Parameter,SP 値)が6〜9であ
り、相溶性の観点から同程度のSP値を有するものを使
用することが好ましい。例えば、本発明の植物性不乾性
油を主剤とした潤滑油において、SP値が9以下の吸油
性架橋重合体を添加配合することが好ましい。
【0078】前記した吸油性架橋重合体は、一般的に
は、(i).SP値=9以下の重合体を調製することができ
る分子中に1個の重合性不飽和基を有する単量体(A)
…………90〜99.9重量%、(ii).分子中に少なく
とも2個の重合性不飽和基を有する架橋性単量体(B)…
…………0.1〜10重量%、を共重合させることによ
り、調製することができる。
【0079】前記した単量体(A)は、(1).少なくとも1
個のC2〜C30の脂肪酸炭化水素基を有し、かつ、(2).
アルキル(メタ)アクリレート、アルキルアリール(メ
タ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、
アルキルアリール(メタ)アクリルアミド、脂肪酸ビニ
ルエステル、アルキルスチレン、及びα−オレフィンの
残基、からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性
不飽和単量体で構成されるものである。
【0080】前記した架橋性単量体(B)は、エチレング
リコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコー
ルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ
(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メ
タ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メ
タ)アクリレート、1.3−ブチレングリコールジ(メ
タ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)
アクリレート、N,N´−メチレンビスアクリルアミ
ド、N,N´−プロピレンビスアクリルアミド、グリセ
リントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパ
ントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、など
が例示される。
【0081】前記した吸油性架橋重合体は、分子中に2
個の重合性不飽和基を有する単量体、具体的には、ジエ
ン系単量体を採用することによっても調製することがで
きる。この種のジエン系単量体を採用した吸油性架橋重
合体として、ブタジエン、イソプレン、シクロベンタジ
エン、1.3−ベンタジエンの重合体及びその水素化
物、あるいは、前記したジエン類とスチレン類やブチレ
ンなどのα−オレフィン類などの他の重合性単量体との
共重合体及びその水素化物などを例示することができ
る。なお、重合性単量体としては前記したものを使用す
ればよい。また、前記した吸油性架橋重合体は、エチレ
ンと他のオレフィンとの架橋化した共重合物により構成
されたものであってもよいものである。エチレンと共重
合される他のオレフィンとしては、プロピレン、ブチレ
ン、ペンテンなどがあり、また架橋性単量体としては前
記したものを使用すればよい。
【0082】前記した吸油性架橋重合体は、平均粒径が
0.5〜2000μmの粒状物であり、植物性不乾性油
に対し所望の配合量で配合される。この種の吸油性架橋
化重合体として、日本触媒社製のアクリル酸エステル系
のオレオソープPW−190、PW−170(商品名)
を使用することができる。
【0083】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施例により更に
詳しく説明する。特に、歯科用エアータービンハンドピ
ースの転がり軸受装置において、本発明に係る非金属製
の無機質ボールと多孔質の樹脂成形体で構成される保持
器(リテーナ)を有する軸受部に対する潤滑油としての
吸油剤を含有した潤滑油の潤滑効果と、従来公知のステ
ンレス製ボールと非多孔質樹脂成形体(バルク)で構成
される保持器(リテーナ)を有する軸受部に対する他の
潤滑油の潤滑効果を比較し、本発明の潤滑系の優位性を
検討した。
【0084】(i).試験に供した歯科用エアータービンハ
ンドピースの全体構造:本発明の実施例において試験に
供した歯科用エアータービンハンドピース(図1〜図2
参照)の転がり軸受装置の構成は次の通りである。 (1).外輪(マルテンサイト系ステンレス、NSS12
5)外径………………………… 6.350mm (2).内輪(マルテンサイト系ステンレス、NSS12
5)内径………………………… 3.175mm (3).幅 …………………… 2.380mm (4).ボールの外径 ……… 約1.00mm の寸法を有する開放型ミニアチュア型玉軸受で冠型リテ
ーナを有するものである。
【0085】(ii).給気圧、給気量の条件:前記転がり
軸受装置を歯科用エアータービンハンドピースに装着
し、給気圧1.8kgf/cm2、給気量25リットル
/分の条件で試験した。
【0086】(iii).保持器(リテーナ)の種類: .バルクPI/PAI・R ……… これは、ポリイ
ミド(PI)系または、ポリアミドイミド(PAI)系
の無孔性(バルク状)のリテーナを意味する。なお、前
記バルクPI・Rは、デュポン社製のベスペルSP−1
をリテーナ形状に加工したものである。また、前記バル
クPI・R、帝人アコモエンジニアリングプラスチック
ス社製のトーロン4203をリテーナ形状に加工したも
のである。
【0087】.多孔質P・R ……… これはフェノ
ール樹脂系のリテーナを意味する。なお、前記多孔質P
・Rは、パイプ状に多重巻きされた織布に対して真空状
態で織布の間にフェノール樹脂を含浸し、加熱成形し、
その後リテーナ形状に加工したものである。
【0088】.多孔質PI/PAI・R ……… こ
れは、ポリイミド(PI)系または、ポリアミドイミド
(PAI)系の粉末の焼結体からなる多孔質リテーナを
意味する。なお、前記多孔質PI・Rは、宇部興産社製
UIP−Sを成形圧力4000kgf/cm2 で圧縮成
形し、窒素雰囲気中で400℃にて焼結し、これをリテ
ーナ形状に加工したものである(気孔率:体積比約13
%)。また、前記多孔質PAI・Rは、米国アモコ社製
トーロン4000TFを平均粒径20μmに分級整粒
し、予備成形圧2800kgf/cm2 で圧縮成形し、
次いで300℃で焼結し、これをリテーナ形状に加工し
たものである(気孔率:体積比約14%)。
【0089】歯科用エアータービンハンドピース(図1
〜図2参照)の転がり軸受装置で試験した本発明に係る
転がり軸受部に対する植物性不乾性油などの基油成分と
吸油性架橋重合体成分(吸油剤成分)とからなる潤滑系
と、従来公知の転がり軸受部に対する従来の潤滑系の生
体安全性、環境保全性、及び耐熱性(耐オートクレー
ブ;回)についての試験結果を下記の表3に示す。
【0090】表3における注釈は、次の通りである。 (1)<耐熱性試験(耐オートクレーブ;回)> (株)モリタ製作所製のオートクレーブ装置「アルフィ
ー」を使用し、耐オートクレーブ性を歯科用エアーター
ビンハンドピースの回転が不安定になり回転効率が1割
(10%、約4万rpm)低下する時点までの回数で示
す。なお、前記試験は、転動体(ボール)の種類にあま
り影響されないと考えられるため、ボールとして従来の
ステンレス製のものを使用し、給気圧1.8kgf/c
2、給気量25リットル/分で約40万rpmの条件
で試験した。また、オートクレーブ装置「アルフィー」
での処理条件は、蒸気圧2.4kgf/cm2(235P
a)、温度135℃、時間5分である。
【0091】表3において、 (i).パラフィン油(流動パラフィン)は、既存歯科治療
関連メーカー製スプレー剤を使用した。 (ii).フッ素化オイルは、イタリアのAusimontu S.P.
A社製FOMBLINを使用した。 (iii).アクリル酸エステル系吸油性重合体は、日本触媒
社製PW−170を使用した。
【0092】
【表3】
【0093】次に、同一の不乾性油潤滑油(基油成分:
エキストラバージンオリーブ油,吸油性重合体:PW−
170)のもとにおいて、かつ保持器(リテーナ)の構
成の違いにより、転動体(ボール)が従来品のSUS4
40C製ボールの場合と本発明の非金属製無機質ボール
の場合、(i)高速回転能、(ii)回転耐久性の特性におい
て、どのような効果が実現されるかを試験した。
【0094】前記(i)高速回転能は、前記したように歯
科用エアータービンハンドピース(図1〜図2参照)に
最初に潤滑油を適用し給気圧1.8kgf/cm2、給
気量25リットル/分の条件で給気したときの回転数
(×104)で評価した。また、前記(ii)回転耐久時間
は、前記(i)の状態から無給油で連続運転を行ない、回
転が不安定になり回転数が1割(10%、約4万rp
m)低下するまでの時間(hrs)で評価した。
【0095】結果を下記の表4に示す。 (イ).表中、ボールの欄の「SUS」は、ステンレス製
(SUS440C)のボールベアリングを意味する。他
のものは本発明の非金属製の無機質ボールを意味する。 (ロ).表中、リテーナの欄の「バルク」は、バルクIP/
PAI・Rを意味する。また、「ポーラス」は、多孔質
PI/PAI・Rを意味する。更に、「フェノール」
は、多孔質P・Rを意味する。 (ハ).表中、オイルの欄の「バイオオイル」は、エキスト
ラバージンオリーブ油を意味し、また、「バイオオイル
/A」は基油成分(エキストラバージンオリーブ油)と
吸油性アクリル系重合体(PW−170)から成る潤滑
油を意味する。更に、「パラフィン油/A」は、パラフ
ィン油と吸油性アクリル系重合体(PW−170)から
成る潤滑油を意味する。
【0096】
【表4】
【0097】
【発明の効果】表3に示されるように、高速回転系の歯
科用切削器(エアータービンハンドピース)などの高速
切削器に適用される本発明の基油成分と吸油剤成分(吸
油性架橋重合体)とからなる潤滑系、特に植物性不乾性
油を使用した潤滑系は、生体安全性(生体為害性)、環
境保全性(安全性)、及び耐熱性(耐オートクレーブ)
の点で総合的に優れていることがわかる。また、フッ素
化オイル系より安価であるため、経済性にも優れたもの
である。更に、植物油として不乾性油以外の半乾性油や
乾性油、及びパラフィン油(流動パラフィン)は、空気
中135℃、175時間放置するテストにおいて、激し
い色調変化が見られる。別言すれば、これら各種の油
は、耐酸化性に劣るものである。なお、前記テストにお
いて、オリーブ油や落花生油などの不乾性油は色調変化
を示さなかった。
【0098】更に、本発明の高速回転系の歯科用エアー
タービンハンドピースに適用される植物性不乾性油など
の基油成分と吸油剤成分とからなる潤滑油は、微生物に
よる分解が速く、排水の暫定水質基準(総理府令)から
評価してみても従来の鉱油類より好ましいものである。
なお、前記排水の暫定水質基準によれば、排水の許容限
度は、従来の鉱油類は、5mg/リットルであるのに対
し、植物油脂類は、30mg/リットルである。
【0099】更に、表4に示されるように、本発明の転
がり軸受装置、即ち、軸受部の転動体(ボール)と保持
器(リテーナ)をそれぞれ非金属製の無機質ボールと多
孔質合成樹脂成形体で構成した転がり軸受装置におい
て、潤滑油、例えば植物性不乾性と吸油性樹脂粒子から
なる吸油剤を組合わせた潤滑油を使用した場合、従来の
転がり軸受装置にみられない格段の特性向上を実現する
ことができる。
【0100】更にまた、本発明の非金属製の無機質ボー
ルを用いた転がり軸受装置は、金属ボールを用いたもの
に比べて金属ボールが金属レース上を走るような音がな
く、またバルクリテーナを用いたものに比べて極めて静
かである(ノイズレス)という効果も享受することがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の潤滑油含浸タイプの保持器(リテー
ナ)が適用される歯科用エアータービンハンドピースの
斜視図である。
【図2】 図1の歯科用エアータービンハンドピースの
ヘッド部(H)とネック部(N)の断面図であり、前記
ヘッド部(H)及びネック部(N)の構造を説明する図
である。
【図3】 本発明の多孔質樹脂成形体で構成された第一
実施態様の保持器(リテーナ)の斜視図である。
【図4】 本発明の潤滑油含浸タイプの保持器(リテー
ナ)が適用される他の歯科用エアータービンハンドピー
スの断面図であり、図2に対応する図である。
【図5】 図4の潤滑油含浸タイプの保持器(リテー
ナ)(44)の断面図である。
【符号の説明】
A ………… 歯科用エアータービンハンドピース H ………… ヘッド部 G ………… グリップ部 N ………… グリップ部(G)のネック部 B ………… 切削工具 1 ………… ヘッド 11 ………… チャンバー 12 ………… ヘッド本体部 13 ………… キャップ部 2 ………… タービンブレード 3 ………… タービンロータ軸 4 ………… 軸受部 41 ………… 内輪 42 ………… 外輪 43 ………… 転動体(ボール) 44 ………… 保持器(リテーナ) 44a ………… 保持器本体 44b ………… 穴部(気孔部) 5 ………… 切削工具 6 ………… ネック部(N)の本体部 7 ………… 給気路 71 ………… 給気口 8、9 ………… 排気路 81、91 ………… 排気口
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成10年7月23日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正内容】
【書類名】 明細書
【発明の名称】 高速回転機器用の転がり軸受装置
【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器用、医療
用、食品製造用、航空宇宙機器用等の高速かつ高い安全
性が要求される分野において使用される高速回転機器用
の転がり軸受装置に関する。更に詳しくは、本発明は、
例えば、歯科用高速回転切削機器(歯科用エアータービ
ンハンドピース)のように安定した高速回転を確保し、
かつ高い生体安全性を有し、更に高温高圧下での滅菌処
理(オートクレーブ処理)にも耐える耐久性のある転が
り軸受装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】高速回転機器、例えば切削工具を高速に
回転させるための高速切削器は、概略的には、切削工具
を固定保持する回転軸、前記回転軸を回動駆動させるた
めの回転駆動装置、及び前記回転軸を回転自在に支承す
る軸受部、とから構成されるものである。
【0003】この種の高速切削器として、例えば医療歯
科用の高速切削器(エアータービンハンドピース)を示
すことができる。そして、前記した医療歯科用高速切削
器(エアータービンハンドピース)の軸受部は、ボール
(転動体)を使用した玉軸受機構を有するものとエアー
ベアリングを使用した(無接触型の)空気軸受け機構を
有するものとが知られている。なお、当業界において、
玉軸受機構における前記ボール(転動体)としては金属
製のもの、より具体的にはステンレス鋼製(マルテンサ
イト系ステンレス鋼、SUS440C)のものが汎用さ
れている。
【0004】例えば、歯科用のエアータービンハンドピ
ースの軸受け機構に注目すると、ボールベアリングター
ビン型、及びエアーベアリングタービン型の2種類のエ
アータービンハンドピースが知られている。なお、前者
のボールベアリングタービン型のものは約20〜40万
rpm程度の高速回転の機種であり、後者のエアーベア
リングタービン型のものは約30〜50万rpm程度の
超高速回転の機種であるということができる。前記した
ボールベアリングタービン型、及びエアーベアリングタ
ービン型の機種の回転数は、一般的な値であり、例えば
本発明者らが先に提案した歯科用エアータービンハンド
ピース(特願平6−36404号、U.S.Patent No.5,56
2,446)は、ボールベアリングタービン型のものである
が超高速回転を実現することができる高性能のものであ
る。
【0005】ここで、従来技術及び本発明の理解を助け
るために、本発明の転がり軸受装置が適用される一つの
応用機器、即ち、歯科用の高速切削器(歯科用エアータ
ービンハンドピース)の構造について説明する。
【0006】図1〜図2は、歯科用エアータービンハン
ドピースの構造を説明する図である。なお、図1は、全
体構造を説明する図(斜視図)であり、図2は、特にヘ
ッド部とネック部の内部構造を説明する図(断面図)で
ある。
【0007】図1に示されるように、歯科用エアーター
ビンハンドピース(A)は、エアータービンのロータ軸
(駆動軸)に固定保持される切削工具(B)(5)を有
するヘッド部(H)とグリップ部(G)からなるもので
ある。そして、前記グリップ部(G)のネック部(N)
は、前記ヘッド(H)に連接されると共に、ヘッド部
(H)内に配設されたエアータービンに加圧空気を供
給、排出する手段を内部に有するものである。
【0008】図2は、歯科用エアータービンハンドピー
ス(A)のヘッド部(H)とネック部(N)の内部構造
を示す。図2に示されるように、ヘッド部(H)におい
て、ヘッド(1)のチャンバー(11)の内部に、周縁
部にタービンブレード(2)を有するタービンロータ軸
(3)が配設されると共に、前記タービンロータ軸
(3)はヘッド(1)の内部において軸受部(4)を介
して回動自在に支承されている。前記ヘッド(1)は、
ヘッド本体部(12)とキャップ部(13)からなる。
そして、前記ヘッド本体部(12)の内部に、前記ター
ビンロータ軸(3)を回転自在に支承するための軸受部
(4)が配設される。タービンロータ軸(3)の軸心穴
には、切削工具(5)が固定保持され、治療行為が行な
われる。なお、切削工具(5)の周側部には、切削工具
(5)を軸心穴中に把持するためのチャック(51)が
配設されている。図2に示されるように、軸受部(4)
は、内輪(41)、外輪(42)、転動体(43)及び
保持器(44)からなるボールベアリング方式のもので
構成されている。なお、軸受部(4)は、その外周や側
部に求軸心のためのO−リングや軸剛性を高めるための
公知のウェーブワッシャなどを配設したもので構成され
ても良いものである。当業界において、前記転動体(4
3)は、前記したように一般にステンレス鋼製(マルテ
ンサイト系ステンレス鋼、例えばJIS規格のSUS4
40C)のボールで構成されている。また、前記内輪
(41)及び外輪(42)は、レース(race)といわれ
るものであり、一般にステンレス鋼製(マルテンサイト
系ステンレス鋼、例えばNTN社のNSS125製)の
もので構成されている。更にまた、前記保持器(44)
は、無孔質または多孔質の合成樹脂製のものなどで構成
されている。図2に示されるように、ネック部(N)に
は、そのネック本体部(6)がチャンバー(11)内に
配設されたタービンブレード(2)に加圧空気を供給す
るための給気路(7)と給気口(71)、及びチャンバ
ー(11)内の加圧空気を排出するための排気路(8)
(9)と排気口(81)、(91)を有する。
【0009】前記図2に示される歯科用エアータービン
ハンドピース(A)の内部構造において、加圧空気の給
気・排気手段は、本発明者らが、先に提案したものであ
り(特願平6−36404号、U.S.Patent No.5,562,44
6)、従来技術においては全く見られない新しい構成の
ものである。このため、図2には、前記した各要素(部
材)を説明するための参照符号に加えて他の参照符号
(記号)も示されている。これらの参照符号(記号)の
説明は省略するが、図2により従来の歯科用エアーター
ビンハンドピースの構成が容易に理解することができ
る。なお、図2に示される本発明者らが先に提案した給
気・排気手段をもつ歯科用エアータービンハンドピース
(A)は、従来の転がり軸受装置を内蔵するハンドピー
スのカテゴリーに属するものであるが、極めて高速の回
転、従って大トルクが得られることは先に説明した通り
である。
【0010】次に、図2に示されるボールベアリング式
の歯科用エアータービンハンドピースなどの高速回転機
器に対する要求特性について説明する。例えば、図2に
示されるボールベアリング式の歯科用エアータービンハ
ンドピースにおいて、その軸受部は、ミニアチュア型軸
受部により構成されるとともに、そのタービンロータ軸
は毎分20〜40万rpm程度で高速回転する。このた
め、軸受部内部の温度が高くなり、かつ軸受部にかかる
応力も大きくなるため、軸受部の構成部材の構成が重要
になってくる。また、前記した過酷な条件のもとで使用
される軸受部に適用される潤滑油において、その品質、
特性の管理も極めて重要である。特に、潤滑油として耐
酸化性、高速回転の実現性やその長期的・安定的維持な
どの特性において優れたものが要求されている。
【0011】更にまた、前記ボールベアリング式の歯科
用エアータービンハンドピースは、口腔内で使用される
ため、使用直前に軸受け部に潤滑油をスプレー、あるい
は滴下して使用され、別言すれば稀薄潤滑の環境下にお
いて使用され、かつ滅菌消毒のために高圧高温処理(オ
ートクレーブ処理ともいわれ、その処理条件は、例えば
蒸気圧2.4kgf/cm2、温度135℃、時間5分であ
る。)に付される。このため、前記歯科用エアタービン
ハンドピースに使用される転がり軸受装置も、前記した
条件を満足するものが要求されている。特に、潤滑系に
おいて重要な構成要素である転動体(ボール)や保持器
(リテーナ、retainer)の特性として、前記したと同様
の条件を満足するものが要求されている。
【0012】従来、前記した歯科用エアタービンハンド
ピースに使用されて転がり軸受装置の重要な構成要素で
ある転動体(ボール)は、前記した厳しい使用環境から
一般にステンレス鋼製(SUS440C)のもので構成
されていることは前記した通りである。また、保持器
(リテーナ)は、前記した要求特性の観点から、ポリア
ミド樹脂系のものや繊維層を有するフェノール樹脂系の
ものなどで構成されている。しかしながら、詳しくは後
述するが、従来の軸受装置は、十分な特性を発揮するこ
とができないものである。
【0013】次に、高速回転機器の転がり軸受装置に適
用される潤滑油の観点から、従来技術を説明する。当業
界において、前記した歯科用エアータービンハンドピー
スの転がり軸受装置に対して、各種の潤滑油が使用もし
くは提案されている。
【0014】例えば、潤滑油をフロンやLPGを用いて
スプレー方式により供給することが広く行われており、
前記した潤滑油としてパラフィン等の精製鉱油系のもの
が広く知られている。前記した潤滑油は、典型的には石
油系のものであり、石油を各種留分に分留精製し、これ
に必要な酸化防止剤などの添加剤を配合して調製された
ものである。なお、前記した潤滑油の基油成分は、天然
の鉱油系のもののほか、グリコール、エステル、低分子
量のポリオレフィンなどの合成系のものも知られてい
る。
【0015】このほか、動物油や植物油の食用油も精密
機械、工作機械、船舶機関などの潤滑油として使用され
ることが知られている。しかしながら、前記食用油は、
一般的には鉱油系潤滑油に10〜20重量%配合して使
用されるものである。なお、前記食用油は、耐酸化性に
問題があるため、各種の酸化安定剤(酸化防止剤)を併
用して使用されるのが常態である。
【0016】最近、歯科用エアータービンハンドピース
の前記した過酷な使用条件を考慮して、耐熱性に優れ、
従って、滅菌消毒(オートクレーブ処理)が可能であ
り、かつ潤滑性に優れたフッ素化オイルを含浸させた保
持器(リテーナ)を有する歯科用エアータービンハンド
ピースが、特公平5−43884号、実開平7−105
53号に提案されている。なお、前記保持器(リテー
ナ)は、ポリイミド樹脂の粉末体を焼結して得た多孔質
体から成るものである。前記した提案の歯科用エアータ
ービンハンドピースは、フッ素化オイルが不活性であ
り、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性に優れ、高温に晒され
ても固体状劣化物を生成しないという特性を有してお
り、これらの特性保持器(リテーナ)に利用したという
ことができる。
【0017】また、特開平6−165790号は、直接
的には、以下に概略説明する歯科用エアータービンハン
ドピースの軸受装置における玉軸受の冠型保持器(リテ
ーナ)に関するものであるが、前記保持器に潤滑油を含
浸する態様を開示している。即ち、前記特開平6−16
5790号に開示の歯科用エアータービンハンドピース
において、玉軸受の保持器(リテーナ)は、(i).内部に
布製の繊維層を有する合成樹脂製筒体の一側に玉保持用
ポケットが形成されるとともに、前記ポケットの開口側
端面に面取り部が形成された冠型保持器であって、か
つ、(ii).前記保持器の繊維層に潤滑油が含浸されたこ
と、を特徴とするものである。前記特開平6−1657
90号に開示の玉軸受の冠型保持器(リテーナ)は、前
記(i)の構成により回転バランスを良くし、保持器と外
輪の接触による保持器の摩耗や回転トルクの増大を防止
しようとするものである。しかしながら、前記特開平6
−165790号において、転動体(ボール)及び潤滑
油の具体的な構成については不明である。また、前記特
開平6−165790号は、ハウジング内に食用油を注
油する態様は従来技術であると説明しているが、ここで
いう食用油の具体的な構成も不明である。なお、本発明
者は、前記特開平6−165796号に開示の潤滑油
は、当業界の技術水準からみて従来から提案されている
潤滑油の域を出るものではないと考える。
【0018】更に、特開平6−212179号は、歯科
用エアータービンのベアリングに対する潤滑油の補給回
数を少なくするために、潤滑油にセラミック粉末を混入
させることを開示している。これは、潤滑油内にセラミ
ック粉末を混入しておくと、潤滑油の持ちが良くなると
いう知見をベースにした提案である。
【0019】前記した従来から提案されている各種の潤
滑油は、転がり軸受機構を有する医療歯科用エアーター
ビンハンドピースなどの高速回転機器への適用を可能に
するためには、種々の改善すべき課題を有すものであ
る。例えば、前記した流動パラフィンなどの鉱油系また
は合成油系の潤滑油、あるいはこれらに食用油を配合し
た潤滑油は、高速回転性能の向上(高速回転の実現とそ
の長期的・安定的維持)、あるいは、高速回転系での持
続的な潤滑特性の発現という観点から、その使用量の低
減化を含めて改善すべき点が残されているものである。
【0020】また、前記特公平5−43884号及び実
開平7−10553号に提案されているパーフルオロポ
リエーテル(PFPE)やパーフルオロポリアルキルエ
ーテル(PFAE)などのフッ素化オイルは、耐熱性、
耐薬品性、耐溶剤性に優れ、高温に晒されても固体状劣
化物を生成しないため、高速切削器(エアータービンハ
ンドピース)の潤滑油として好ましいものであるが、高
速回転性能の向上、あるいは高速回転系での持続的な潤
滑特性の発現という観点から、その使用量の低減化を含
めて改善すべき点が残されているものである。
【0021】更に、前記特開平6−165790号は、
繊維層を有するフェノール樹脂製の成形体で構成される
軸受装置の保持器(リテーナ)に潤滑油を含浸させるこ
とを開示し、かつ前記潤滑油として食用油の使用を示唆
しているが、詳しくは後述するが、一般の食用油は、大
半が乾性油であり、油が乾燥すると樹脂状の固体とな
り、耐久性のある軸受用の潤滑油としては不適当なもの
である。
【0022】一般の食用油は、前記したように、大半が
乾性油であり、酸化され易く、そのために合成の酸化防
止剤を添加配合して使用するのが常態である。前記乾性
油を主体とし、かつ酸化防止剤を配合した食用油系の潤
滑油においては、前記酸化防止剤と軸受装置系から溶出
する金属との反応生成物が生体為害性物質となる場合が
あることに留意しなければならない。
【0023】また、前記特開平6−212179号は、
潤滑油にセラミック粉体を混入させ、潤滑油の持ち(ラ
イフタイム)を良くし潤滑系への補給回数を低減化しよ
うとするものであるが、高速回転系の医療歯科用切削器
(エアータービンハンドピース)においては、軸受のレ
ース(保持器)やボールが前記セラミック粉体により削
られて生体に有害な金属を溶出したり、あるいは稀薄潤
滑環境下において潤滑油が少なくなると軸受機構に致命
的な損傷を与えることになる。
【0024】前記したように、高速回転機器、例えば医
療歯科用の高速回転機器(エアータービンハンドピー
ス)において使用される従来の転がり軸受装置に適用さ
れる潤滑油は、(i).生体安全性(生体に対する為害性が
少ないこと。)、(ii).環境の保全性(安全性)、(ii
i).耐熱性(オートクレーブ処理による滅菌消毒が可能
であること。)、(iv).耐久性、(v).高速回転性能の向
上性、などの面から評価すると課題を残すものである。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記した従
来技術の高速回転機器用の転がり軸受装置における問題
点に鑑み創案されたものである。なお、本発明の直接の
契機は、本発明者らが先に提案した高性能、超高速回転
のボールベアリングタービン型の歯科用エアータービン
ハンドピース(特願平6−36404号、U.S.Patent N
o.5,562,446)に対して、優れた特性の転がり軸受装置
が存在していなかったことにあった。本発明者は、高速
回転機器用の転がり軸受装置において、特に軸受機構の
重要な構成要素である転動体(ボール)及び前記転動体
(ボール)を保持する保持器(リテーナ)及び潤滑油に
ついて、更なる高速回転の実現や高速回転下での耐久性
の改善などの高度の要求特性を満足する方策について鋭
意検討を加えた。その結果、本発明者は、転動体(ボー
ル)を従来のステンレス製のものに代えて結晶化ガラス
や強化ガラスなどの無機質ボールを採用するとともに、
前記保持器(リテーナ)を特定の多孔質樹脂成形体で構
成し、更に、前記無機質ボールと多孔質樹脂成形体で構
成される保持器(リテーナ)に対して特定の潤滑油、詳
しくは、吸油性樹脂粒子からなる吸油剤を含有した潤滑
油を適用したとき、従来にない優れた特性の潤滑系が実
現できる、という知見を見い出した。本発明は、前記知
見をベースにして完成されたものである。
【0026】本発明は、転がり軸受機構を内蔵する歯科
用エアータービンハンドピースなどの高速切削機器にお
いて、その転がり軸受装置として、より高度の回転数を
実現することができるとともに高速回転下において十分
な耐久性を有し、オートクレーブ滅菌などの高温高圧に
も耐える耐熱性を持ち、また高速回転の雰囲気下におい
て、安定かつ持続的な潤滑特性を発現するなど、高性能
の転がり軸受装置を提供するものである。別言すれば、
本発明は、ボールベアリング式の30万rpm以上、更
には40万rpm以上の医療歯科用高速切削器などの高
速回転機器において、従来の転動体(ボール)として金
属製(ステンレス鋼製)ボールベアリングを採用したも
のよりも格段に高い回転数を安定して実現することがで
き、かつ耐久性のある潤滑系を実施することができる高
速回転機器の主要な構成要素である転がり軸受装置を提
供するものである。
【0027】
【課題を解決するための手段】本発明を概説すれば、本
発明は、外輪、内輪、転動体、及び保持器(リテーナ)
からなる転がり軸受要素を有する高速回転機器用の転が
り軸受装置において、(i).前記転動体が、非金属製の無
機質ボールで構成され、かつ、(ii).前記保持器(リテ
ーナ)が、少なくとも一部に連通構造の気孔部(連通気
孔部)を有する合成樹脂成形体で構成され、更に、(ii
i).前記転動体及び保持器(リテーナ)の連通気孔部
が、吸油性樹脂粒子からなる吸油剤を含有した潤滑油で
含浸処理されて構成されたこと、を特徴とする高速回転
機器用の転がり軸受装置に関するものてある。
【0028】以下、本発明の技術的構成及び実施態様に
ついて詳しく説明する。
【0029】本発明の高速回転機器用の転がり軸受装置
において、第一の特徴点は、軸受装置の重要な構成要素
である転動体(ボール)の構成を、従来の金属製のもの
から非金属製の無機質ボールに変更する点にある。ま
た、第二の特徴点は、保持器(リテーナ)を、特定のマ
トリックス材からなる多孔質体により構成する点に特徴
点がある。更にまた、本発明の高速回転機器用の転がり
軸受装置は、第三の特徴点は、前記した特定材質の転動
体(ボール)及び保持器(リテーナ)に対して特定の潤
滑油、より具体的には、吸油性樹脂粒子からなる吸油剤
を含有した潤滑油を適用もしくは含浸して軸受部を構成
する点に特徴点がある。本発明の高速回転機器の転がり
軸受装置は、以下に説明するように、前記した三つの特
徴点が有機的に作用して優れた作用効果を奏するもので
ある。
【0030】以下、前記した本発明の第一〜第三の特徴
点の順に、本発明の技術的構成を説明する。
【0031】まず、本発明の高速回転機器用の転がり軸
受装置における前記第一の特徴点、即ち、転がり軸受装
置の主要な構成要素である転動体(ボール)の構成につ
いて説明する。前記したように、従来技術において、こ
の種の転がり軸受装置の転動体(ボール)は、一般にス
テンレス鋼製(例えばマルテンサイト系ステンレス鋼、
SUS440C)のものが使用されている。しかしなが
ら、本発明においては、より高いレベルの高速回転の実
現、高速回転下での低騒音の実現、高速回転下における
軸受部を構成する他部材との接触による磨耗の低減、高
速回転下での低発熱性、後述する特殊な潤滑油である植
物性不乾性油との親和性などの観点から、従来のステン
レス製ボールに代えて非金属製の無機質ボールを採用す
るものである。
【0032】本発明の転動体(ボール)として採用する
前記非金属製の無機質ボールとしては、非酸化セラミッ
ク材料、酸化セラミック材料、耐熱ガラス材料、あるい
は結晶化ガラス材料などで製作されたものを使用するこ
とができる。前記非酸化セラミック材料としては、窒化
物、炭化物、あるいは硼化物などが含まれる。前記した
無機質ボールの具体例として、窒化珪素(Si34)、
炭化珪素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、アルミナ
(Al23)、酸化ジルコニウム及び、ジルコニア(Z
rO2)、耐熱ガラス材料に属するパイレックス(Corni
ng GlassWorks社製)やテレックス(東京芝浦電気社
製)、結晶化ガラス材料に属するネオセラム(日本電気
硝子社製)などを挙げることができる。なお、本発明に
おいて、無機質ボールの中に、窒化物と酸化物との中間
的な組成の酸窒化物系のもの、例えばサイアロン(sial
on)も包含されると解されるべきである。
【0033】次に、本発明の高速回転機器用の転がり軸
受装置における前記第二の特徴点、即ち、転がり軸受装
置の他の主要な構成要素である保持器(リテーナ)の構
成について説明する。本発明の保持器(リテーナ)は、
少なくとも一部に連通構造の気孔部を有する多孔質合成
樹脂成形体で構成される点に特徴がある。本発明の保持
器(リテーナ)の第一実施態様は、次の通りである。本
発明の保持器(リテーナ)の第一実施態様は、多孔質の
ポリイミド樹脂成形体で構成される。図3は、前記多孔
質ポリイミド樹脂成形体からなる保持器(44)の斜視
図を示す。図中、(44a)は保持器本体を示し、(4
4b)は孔部(気孔部)を示す。なお、前記保持器(4
4)は、図1〜図2を参照して説明したボールベアリン
グ式の歯科用エアータービンハンドピースに適用される
ものである。
【0034】本発明の多孔質ポリイミド樹脂成形体で構
成される保持器(リテーナ)において、前記ポリイミド
樹脂(以下、PI樹脂と略記する。)は、芳香族カルボ
ン酸と芳香族アミンを縮重合して得られる主鎖にイミド
結合を有する樹脂(熱可塑のものであっても、あるいは
熱硬化性のものであってもよい。)であって、耐熱性、
耐薬品性、機械的性質、電気的特性に優れたものであ
る。なお、本発明において、PI樹脂なる用語は、主鎖
にイミド結合及びアミド結合を有するポリアミドイミド
樹脂(以下、PAI樹脂と略記する。)も包含するもの
であると理解されるべきである。
【0035】本発明において、前記保持器(リテーナ)
を構成するPI樹脂及びPAI樹脂は、市販されている
ものが好都合に使用することができる。例えば、市販さ
れているPI樹脂及びPAI樹脂としてその化学構造式
を含めて以下のものを例示することができる。 (i).PI樹脂: (1).オーストリア国レンジング社製、P84−HT(下
記化1で示されるもの。なお、化1において、Rはアル
キレン基を表わす。) (2).東レ社製、TI−3000(下記化2で示されるも
の。) (3).宇部興産社製、UIP−S(下記化3で示されるも
の。) (4).デュポン社製、ベスペル(下記化2で示されるも
の。) (5).三井東圧化学社製、オーラム(下記化4で示される
もの。) (6).その他、米国ヒューロン社製、メルディン810
0,900などがある。 (ii).PAI樹脂: (1).アモコ社製、トーロン4000TF(下記化5で示
されるもの。なお、化5において、Arはフェニレン基
を表わす)。
【0036】
【化1】
【0037】
【化2】
【0038】
【化3】
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】前記多孔質のPAI樹脂成形体からなる保
持器は、特公平5−43884号に示されるように、平
均粒径が15〜50μmに分級整粒したPAI樹脂粉末
を加圧焼成して製造するすることができる。前記焼結成
形において、樹脂粉末の平均粒径や圧力などを所望に調
整して、体積比5〜20%の連通気孔を有するポーラス
な構造の保持器を調製する。次いで、前記連通気孔に、
詳しくは後述するが特定の潤滑油(基油:植物性不乾性
油)を含浸し本発明の保持器(リテーナ)を製造する。
【0042】前記、多孔質ポリアミドイミド(PAI)
成形体からなる保持器(リテーナ)において、原料の樹
脂粉末に15μm未満の微小粒径の粉末が混入している
場合、孔、即ち、空間部が前記微小粉末により閉塞され
てしまうので、製品の気孔率のバラツキを招来させる。
このため、前記した分級整粒が必要となる。また、逆に
50μmを超える大きな粒径の粉末が混入する場合、粒
子間の空隙が大きくなり、高速回転時の含浸油の保持率
(保油率)が低下し、さらに保持器(リテーナ)の強度
も低下するため、前記した大きな粒径の混入は好ましく
ない。
【0043】図4〜図5は、多孔質PAI樹脂成形体か
らなる保持器(44)の別の態様を説明する図である。
なお、図4は保持器(44)の応用例である前記図2に
示されるものとは別の構造の歯科用エアータービンハン
ドピースを説明する図である。なお、図4の歯科用エア
ータービンハンドピースの構造は、対応する前記図2よ
り明らかであるため説明を省略する。また、図5は、保
持器(44)の形状構造を説明する図であり、前記図3
に対応する図である。図5において、(44a)は保持
器本体を示し、(44b)は穴部(気孔部)を示してい
る。
【0044】本発明の保持器(リテーナ)の第二実施態
様は、次の通りである。本発明の保持器(リテーナ)の
第二実施態様は、多孔質のPI樹脂成形体で構成され
る。
【0045】前記多孔質のPI樹脂成形体からなる保持
器(リテーナ)は、前記PAI樹脂の粉末の焼結成形と
同様にして製造することができる。即ち、平均粒径が、
15〜50μmに分級整粒したPI樹脂樹脂粉末を加圧
焼結することにより、体積比5〜20%の連通気孔の多
孔質PI樹脂成形体を製造することができる。
【0046】前記第一の実施態様及び第二の実施態様に
おいては、保持器(リテーナ)を、焼結成形して成形す
る方法を示したが、これに限定されず、例えば、以下の
方法によって成形しても良い。多孔質のマトリックス材
を構成するPI樹脂及び前記PI樹脂に近似する成形温
度帯を有する他の耐熱性樹脂であって、かつ前記PI樹
脂の共存下に溶媒で処理されると他の耐熱性樹脂だけが
溶出される他の耐熱性樹脂を混合し、次にこの混合物を
溶媒成形して所望形状の保持器(リテーナ)に成形し、
この成形した保持器から前記他の耐熱性樹脂のみを溶媒
溶出させて多孔質の保持器(リテーナ)としても良い。
【0047】前記した保持器(リテーナ)の成形方法に
おいて、PI樹脂なる用語には前記したようにPAI樹
脂も含まれる。なお、前記した他の耐熱性樹脂の例とし
ては、ポリエーテルアルフォン(PES)、ポリエーテ
ルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリ
サルフォン(PSF)などが使用できる。また、前記し
た溶媒としては、塩化メチレン(ジクロロメタン)、ク
ロロホルム、メチルエチルケトン、テトラヒドロラン、
N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド
などを使用することができる。
【0048】前記多孔質PI樹脂製の保持器(リテー
ナ)は、前記多孔質PAI樹脂のものと比較して、潤滑
油が切れた場合、溶融することがなく、軸受が使用不能
とならないこと、またPI樹脂は吸湿速度が遅く原料粉
や成形品の管理が容易であること、などというメリット
を有している。なお、前記した理由により後者のPAI
樹脂は、溶融型樹脂として位置づけられるものである。
また、滅菌処理(オートクレーブ処理)においても、近
年、特にHIVの感染予防が求められ、従来の処理条件
よりも更にきびしい条件下での処理(例えば、蒸気圧
2.4kgf/cm2(235Pa)、温度135℃、時間5分)
が求められているが、前記多孔質PI樹脂製の保持器
(リテーナ)は、200℃程度まで耐えることができ
る。
【0049】本発明の保持器(リテーナ)の第三実施態
様は、次の通りである。本発明の保持器(リテーナ)の
第三実施態様は、連通気孔層とみなされる繊維層を有す
るフェノール樹脂成形体で構成される。この種の繊維層
を有するフェノール樹脂成形体は、前記繊維層を利用し
て潤滑油を含浸させることができるものである。本発明
において、前記繊維層入りのフェノール樹脂成形体(以
下、多孔質P・Rということがある。)は、前記多孔質
PI/PAI樹脂成形体(以下、多孔質PI/PAI・
Rということがある。)の場合の連通気孔による潤滑油
の含浸機能とは異なるものの、繊維層(布)を介しての
潤滑油の含浸機能を有する。このため、本発明におい
て、用語の正確さは欠けるが前記繊維層(布)入りのフ
ェノール樹脂成形体を気孔部(連通気孔部)を有する樹
脂成形体であると位置づけしている。
【0050】この種の繊維層を有するフェノール樹脂系
の保持器(リテーナ)は、特開平6−165790号に
示される方式などにより製造すればよい。例えば、前記
布入りフェノール樹脂成形体は、(i).布を多重合巻きに
してパイプ状とし、これを真空状態に維持して布の間に
フェノール樹脂を充填、硬化させて多孔質の筒状体とす
る方法、(ii).フェノール樹脂を含浸した布を多重巻き
にし、これを加熱圧縮して多孔質の筒状体とする方法、
などにより製造することができる。前記布入りフェノー
ル樹脂成形体の気孔率は、前記PI樹脂と同様のもので
よく、体積比5〜20%の多孔質のものを使用すればよ
い。
【0051】次に、本発明の高速回転機器用の転がり軸
受装置における前記第三の特徴点である潤滑油成分、即
ち、前記した特定の無機質ボール及び特定の多孔質成形
体からなる保持器(リテーナ)に適用もしくは含浸され
る特定の潤滑油成分について説明する。
【0052】本発明の第三の特徴点は、高速切削器(エ
アータービンハンドピース)などの高速回転機器用の転
がり軸受装置、即ち、エアータービン翼が固定された回
転軸を回動自在に支承する外輪、内輪、無機質ボールか
らなる転動体、及び耐熱合成樹脂製の多孔質保持器(リ
テーナ)からなる転がり軸受装置に対して、積極的に潤
滑油を使用するという点にある。なお、この種の40万
〜50万rpmの高速回転機器の転がり軸受装置におい
て、保持器(リテーナ)と潤滑油の使用を排除したり、
あるいは水潤滑を採用して潤滑油の使用を排除する提案
がなされているが、この面からみても本発明には特異性
がある。前記した潤滑油はいうまでもないことである
が、生体安全性や環境保全性、耐熱性(オートクレーブ
処理による滅菌消毒が可能であること。)、高速回転の
実現性、などの観点から所望のものが選択されなければ
ならないことはいうまでもないことである。
【0053】前記したように、本発明の第三の特徴点で
ある潤滑油は、基油成分と吸油性樹脂粒子からなる吸油
剤成分とから構成されるものである。このため、まず、
基油成分について説明し、次いで、吸油剤成分について
説明する。また、本発明の潤滑油は、基油成分として、
従来のパラフィン油やフッ素化油のほかに、更なる高性
能の潤滑系を実現するために従来技術にはみられらない
植物性の不乾性油を採用するものである。このため、本
発明の理解を助けるために、まず植物性不乾性油につい
て説明し、次いで、前記基油成分に配合される特定の吸
油剤について説明する。
【0054】植物油は、大別すると下記の三種に分類す
ることができる。 (i).不乾性油(Nondrying oil) これは、薄層にして空気中で乾燥(酸化)しても膜状物
(樹脂状固体)を形成しない油である。この種の不乾性
油は、分子中の二重結合が二以上(以下、多価とい
う。)の不飽和脂肪酸の量が少なく、オレイン酸(1分
子当り二重結合一個)のグリセリド(グリセリンエステ
ル)が主成分であり、従って、ヨウ素価(油の不飽和度
を示す尺度。Iodine value) は100以下である。この
種の不乾性油の代表例は、オリーブ油、落花生油、オレ
イソル油などがある。
【0055】(ii).半乾性油(Semidrying oil) これは、前記した不乾性油と後述する乾性油の中間的性
質を示す油である。なお、ヨウ素価は100〜130の
ものである。この種の半乾性油の代表例は、菜種油、ゴ
マ油、綿実油などがある。
【0056】(iii).乾性油(Drying oil) これは、薄層にして空気中で乾燥(酸化)すると膜(樹
脂状固体)を形成する油である。この種の乾性油は、不
飽和度の高い脂肪酸(例えば、リノール酸は二重結合が
二個、リノレン酸は二重結合が三個ある。)のグリセリ
ドからなり、これが空気中の酸素を吸収して、酸化重合
して膜状物を容易に形成する。なお、前記乾性油のヨウ
素価は、130以上のものである。この種の乾性油の代
表例は、アマニ油、桐油などがある。
【0057】前記した各種の植物油のうち、不乾性油
は、薄層にして乾燥(酸化)しても膜状物(樹脂状固
体)を生成しない油脂(高級脂肪酸のグリセリンエステ
ル)であり、耐熱性(オートクレーブ処理により滅菌消
毒が可能なこと)や耐久性に優れているため、歯科用エ
アータービンハンドピースなどの高速回転機器の転がり
の軸受装置用潤滑油として好適なものである。
【0058】本発明は、歯科用エアータービンハンドピ
ースなどの高速回転機器の転がりの軸受装置用潤滑油と
して、植物油のうちの不乾性油を採用するものである。
以下、前記植物油の不乾性油として代表例であるオリー
ブ油(Olive Oil)について詳しく説明する。
【0059】オリーブ油は、オリーブ(Olea Europae
a)の果実から製造される油脂(グリセリンエステル)
であり、その成分は大別すると下記の3種に分類するこ
とができる。 (i).不飽和樹脂酸、(ii).飽和樹脂酸、(iii).各種の微
量成分。
【0060】オリーブ油の不飽和樹脂酸は、一般に一価
及び二価以上(多価)のもので構成される。以下、オリ
ーブ油の不飽和樹脂酸の種類と含有量を示す。 1).オレイン酸(一価)…………………56.0〜83.0% CH3(CH27CH=CH(CH27COOH 2).リノール酸(多価)………………… 3.5〜20.0% CH3(CH24CH=CHCH2CH=CH(CH27COOH 3).パルミトオレイン酸(一価)……… 0.3〜3.5% CH3(CH25CH=CH(CH27COOH 4).リノレン酸(多価)………………… 0.0〜1.5% CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH27 COOH 5).ガドレイン酸(一価)……………… 0.0〜0.05% CH3(CH29CH=CH(CH27COOH
【0061】前記したように、オリーブ油は、一価の不
飽和脂肪酸であるオレイン酸を多く含有するものであ
る。また、オリーブ油は、リノール酸などの多価の不飽
和脂肪酸を少量、含有している。前記したように、多価
の不飽和脂肪酸は酸化しやすいものであるが、オリーブ
油は、後述するように微量成分としてトコフェロール類
(ビタミンE)を含有しているため、前記トコフェロー
ル類(ビタミンE)の抗酸化作用によりリノール酸など
の多価不飽和脂肪酸の酸化劣化が防止され、オリーブ油
全体は、耐酸化性に優れている。
【0062】次に、オリーブ油の飽和脂肪酸成分につい
て説明する。以下、オリーブ油の飽和脂肪酸の種類と含
有量を示す。 (1).パルミチン酸 CH3(CH214COOH ……7.5〜20.0% (2).ステアリン酸 CH3(CH216COOH ……0.5〜 3.5% (3).ミリスチン酸 CH3(CH212COOH ……0.0〜0.05% (4).アラキジン酸 CH3(CH218COOH ……0.0〜0.05% (5).ベヘニン酸 CH3(CH220COOH ……0.0〜0.05% (6).リグノセリン酸 CH3(CH222COOH ……0.0〜0.05% 前記したことから判るように、オリーブ油は高コレステ
ロール血症の原因となる飽和脂肪酸の含有量が少ないも
のであるということができる。
【0063】次に、オリーブ油の各種微量成分について
説明する。以下、オリーブ油の各種微量成分の種類と前
記成分の特性や機能について説明する。 .不ケン化物 (a).ステロール類、 (b).炭化水素類 ・スクアレン ・芳香族炭化水素(これは、固有の感覚的特性、即ち香
りや風味を与える。) (c).トコフェロール類(酸化防止機能) ・α−トコフェロール(ビタミンE)(黒変と重合防
止) ・β、γ、δ−トコフェロール(重金属の存在によって
起こる酸敗の防止) (d).トリテルペン・アルコール類 ・シクロ・アルテノール ・エルトロ・ジオール (e).脂溶性のビタミン類 ・ビタミンA、D(抗酸化作用) .燐脂質、葉緑素及び誘導体 (a).燐脂質 (b).葉緑素(抗酸化作用) .フェノール化合物 (a).フェノール化合物(抗酸化作用) (b).ポリフェノール(抗酸化作用) 前記したことから判るように、オリーブ油は、他の不乾
性や乾性油と比較して、油脂の酸化に抗して作用する各
種の微量成分の含有量が高く、耐熱性(オートクレーブ
処理による滅菌消毒が可能である。)や耐久性に優れた
潤滑油となるのである。
【0064】次に、本発明の歯科用エアータービンハン
ドピースなどの高速回転機器の転がり軸受装置用の潤滑
油を構成し得る他の植物性不乾性油について、説明す
る。 (i).前記したオリーブ油以外の植物性不乾性油として、
落花生油(ArachisOil)がある。落花生油は、落花生
(Arachis Hypogaea)の種子に40〜50%含まれてお
り、その種子から搾られて製造される。 (ii).前記したオリーブ油以外の植物性不乾性油とし
て、オレイソル油がある。オレイソル油は、不乾性油で
はないリノール酸(多価)を多く含有するヒマワリの突
然変異種から製造される。今日、農業化学者の努力によ
りオレイン酸(一価の不飽和脂肪酸)を多く含む突然変
異種のヒマワリを育てることに成功しており、この突然
変異種からオレイソルと命名された油が製造されてい
る。オレイソル油は、前記したオリーブ油と同様の不乾
性油である。
【0065】本発明の歯科用エアータービンハンドピー
スなどの高速回転機器用の転がり軸受装置において、潤
滑油として適用される前記植物性不乾性油と他の植物性
半乾性油あるいは食用油との組成の違いを下記の表1に
示す。表1において、オリーブ油、落花生油、及びオレ
イソル油は本発明の転がり軸受装置に有用な植物性不乾
性油であり、他のものは比較対照例の植物性半乾性油及
び乾性油を示している。なお、表1の注釈は、次の通り
である。 (1).オレイン酸を主とし、パルミトオレイン酸を含む。 (2).リノール酸。 (3).リノレン酸。 (4).パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリス
チン酸から成る。 表1中、(*)印は、比較対照例の植物油である。
【0066】
【表1】
【0067】表1から、次の点が明らかである。 (i).植物性不乾性油は、酸化しにくい1価の不飽和脂肪
酸が多い。 (ii).植物性不乾性油は、酸化しやすい2価〜3価の不
飽和脂肪酸、即ち多価の不飽和脂肪酸が少ない。 (iii).植物性不乾性油は、抗酸化作用を有するトコフェ
ロール類(ビタミンEなど)の対多価不飽和脂肪酸比が
高い。
【0068】本発明の歯科用エアータービンハンドピー
スなどの高速回転機器の転がり軸受装置用の潤滑油を構
成し得る植物性不乾性油(オリーブ油、落花生油、オレ
イソル油など)において、遊離の脂肪酸(飽和、不飽
和)の合計含有量が少ないほど、潤滑特性に優れてい
る。この点は、本発明者らの植物性不乾性油の潤滑特性
の改善を検討している過程で見い出されたものであり、
後述するように実証データにより裏付けされている。
【0069】前記した植物性不乾性油中の遊離した脂肪
酸(以下、遊離脂肪酸ということがある。)について、
以下に説明を加える。一般に、油脂(牛脂、豚脂、バタ
ーなどの脂肪、及び菜種油、桐油、アマニ油などの脂肪
油)は、高級脂肪酸のグリセリンエステルで構成されて
いる。即ち、本発明の転がり軸受装置に有用な植物性不
乾性油において、各種の脂肪酸(飽和、不飽和)は、下
式(1)で示されるエステルとして存在するものである。 脂肪酸の3分子+グリセリンの1分子→トリグリセリドの1分子(エステル) …………(1)
【0070】しかしながら、前記植物性不乾性油中には
グリセリン(Grycerol, CH2OH-CHOH-CH2OH)と結合して
いない各種の脂肪酸(遊離脂肪酸)も含まれている。前
記した遊離脂肪酸の合計含有量の度合を遊離酸度で示す
と、この値が低いほど酸度が低くなり、かつ粘度も高粘
度側にシフトするため、遊離酸度の低い植物性不乾性油
は転がり軸受装置用潤滑油として耐久性に優れたものと
なる。前記した遊離酸度に基づいて、オリーブ油の品質
を分類したのが下記の表2である。表2より高級なオリ
ーブ油ほど遊離酸度が低く、後述するように優れた潤滑
特性を示す(表3参照)。なお、オリーブ油などの植物
性不乾性油の遊離酸度を低くする方法としては、例え
ば、以下の方法を採用すればよい。即ち、オリーブ油に
5〜10%の水酸化ナトリウムを加えて加熱すると、け
ん化されてグリセリンと脂肪酸ナトリウム塩を生成し、
生成したグリセリンは遊離脂肪酸とエステル結合する。
その後、遠心分離などによって油脂分を分離除去すれ
ば、遊離酸度の低いオリーブ油が得られる。また、表2
中、オリーブ油の各種グレード名は、アメリカのゴール
デンイーグルオリーブプロダクツ社製のオリーブ油の商
品名である。
【0071】
【表2】
【0072】本発明の潤滑油の基油成分として、前記し
た植物性不乾性油のほかに、従来公知の鉱油系(天然
系)または合成系の各種の基油成分を使用することがで
きる。この種の鉱油系または合成系の基油成分として
は、鉱油(パラフィン油)、オレフィンオリゴマー、リ
ン酸エステル、有機酸エステル、シリコーン油、ポリア
ルキレングリコールなどを例示することができる。これ
らの基油成分は、前記した植物性不乾性油と比較して、
生体安全性(生体為害性)や環境保全性(安全性)に劣
るものの、高速回転機器の用途においては十分に使用す
ることができるものである。
【0073】次ぎに、本発明の高速回転機器用の転がり
軸受装置において、前記した潤滑油による潤滑特性を更
に改善するために、前記した基油成分に配合される吸油
性樹脂粒子からなる吸油剤成分について説明する。
【0074】本発明者は、高速回転機器、例えば歯科用
エアータービンハンドピースの高速回転下の潤滑系にお
いて、前記した基油成分の特性を損ねることなく軸受用
潤滑油の保持力を向上させるうえで、アクリル酸エステ
ル系の架橋化した重合体(以下、単に架橋重合体とい
う。)などの吸油性のある合成樹脂体(吸油性架橋重合
体)粒子は極めて有効である、という知見を得ている。
【0075】前記した高速回転機器の潤滑系、例えば回
転数が20〜40万rpm、更には、より高速回転の環
境下にある歯科用エアータービンハンドピースの潤滑系
において、吸油剤成分の添加効果は後述されるように顕
著なものであり、このような高速回転下の潤滑系におけ
る効果は、本発明者によってはじめて見い出されたもの
である。
【0076】以下、前記した本発明の実施に有用な植物
性不乾性油などの基油成分の特性改善に好ましい吸油性
の架橋重合体について説明する。なお、前記した吸油性
の架橋重合体それ自体は、特開平5−337367号あ
るいは特公平3−143996号などにより当業界にお
いて公知のものである。しかしながら、前記したよう
に、前記吸油性の架橋重合体が高速回転系の転がり軸受
装置において、優れた特性を付与することができること
は、本発明者らによってはじめて見い出されたものであ
る。
【0077】前記した吸油性架橋重合体は、潤滑油の主
剤である植物性不乾性油などの基油成分の溶解度パラメ
ーター(Solubility Parameter,SP 値)が6〜9であ
り、相溶性の観点から同程度のSP値を有するものを使
用することが好ましい。例えば、本発明の植物性不乾性
油を主剤とした潤滑油において、SP値が9以下の吸油
性架橋重合体を添加配合することが好ましい。
【0078】前記した吸油性架橋重合体は、一般的に
は、(i).SP値=9以下の重合体を調製することができ
る分子中に1個の重合性不飽和基を有する単量体(A)
…………90〜99.9重量%、(ii).分子中に少なく
とも2個の重合性不飽和基を有する架橋性単量体(B)…
…………0.1〜10重量%、を共重合させることによ
り、調製することができる。
【0079】前記した単量体(A)は、(1).少なくとも1
個のC2〜C30の脂肪酸炭化水素基を有し、かつ、(2).
アルキル(メタ)アクリレート、アルキルアリール(メ
タ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、
アルキルアリール(メタ)アクリルアミド、脂肪酸ビニ
ルエステル、アルキルスチレン、及びα−オレフィンの
残基、からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性
不飽和単量体で構成されるものである。
【0080】前記した架橋性単量体(B)は、エチレング
リコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコー
ルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ
(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メ
タ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メ
タ)アクリレート、1.3−ブチレングリコールジ(メ
タ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)
アクリレート、N,N´−メチレンビスアクリルアミ
ド、N,N´−プロピレンビスアクリルアミド、グリセ
リントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパ
ントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、など
が例示される。
【0081】前記した吸油性架橋重合体は、分子中に2
個の重合性不飽和基を有する単量体、具体的には、ジエ
ン系単量体を採用することによっても調製することがで
きる。この種のジエン系単量体を採用した吸油性架橋重
合体として、ブタジエン、イソプレン、シクロベンタジ
エン、1.3−ベンタジエンの重合体及びその水素化
物、あるいは、前記したジエン類とスチレン類やブチレ
ンなどのα−オレフィン類などの他の重合性単量体との
共重合体及びその水素化物などを例示することができ
る。なお、重合性単量体としては前記したものを使用す
ればよい。また、前記した吸油性架橋重合体は、エチレ
ンと他のオレフィンとの架橋化した共重合物により構成
されたものであってもよいものである。エチレンと共重
合される他のオレフィンとしては、プロピレン、ブチレ
ン、ペンテンなどがあり、また架橋性単量体としては前
記したものを使用すればよい。
【0082】前記した吸油性架橋重合体は、平均粒径が
0.5〜2000μmの粒状物であり、植物性不乾性油
に対し所望の配合量で配合される。この種の吸油性架橋
化重合体として、日本触媒社製のアクリル酸エステル系
のオレオソープPW−190、PW−170(商品名)
を使用することができる。
【0083】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施例により更に
詳しく説明する。特に、歯科用エアータービンハンドピ
ースの転がり軸受装置において、本発明に係る非金属製
の無機質ボールと多孔質の合成樹脂成形体で構成される
保持器(リテーナ)を有する軸受部に対する潤滑油とし
ての吸油剤を含有した潤滑油の潤滑効果と、従来公知の
ステンレス製ボールと非多孔質(バルク状、無孔質)の
合成樹脂成形体で構成される保持器(リテーナ)を有す
る軸受部に対する他の潤滑油の潤滑効果を比較し、本発
明の潤滑系の優位性を検討した。なお、前記多孔質の合
成樹脂成形体で構成される保持器(リテーナ)を「ポー
ラス」、前記非多孔質の合成樹脂成形体で構成される保
持器(リテーナ)を「バルク」と表記する場合がある。
従って、以下の説明において、(1).ステンレス(SU
S)製転動体(ボール)とバルク状(無孔質)保持機
(リテーナ)の組合わせのもの、(2).ステンレス(SU
S)製転動体(ボール)と多孔質保持器(リテーナ)の
組合わせのもの、及び、(3).非金属製、例えば窒化珪
素、ジルコニア、パイレックスで製作された転動体(ボ
ール)とバルク状(無孔質)保持器(リテーナ)の組合
わせのもの、は本発明の比較対照例となるものである。
【0084】(i).試験に供した歯科用エアータービンハ
ンドピースの全体構造:本発明の実施例において試験に
供した歯科用エアータービンハンドピース(図1〜図2
参照)の転がり軸受装置の構成は次の通りである。 (1).外輪(マルテンサイト系ステンレス、NTN社のN
SS125製)外径………………………… 6.350
mm (2).内輪(マルテンサイト系ステンレス、NTN社のN
SS125製)内径………………………… 3.175
mm (3).幅 …………………… 2.380mm (4).ボールの外径 ……… 約1.00mm の寸法を有する開放型ミニアチュア型玉軸受で冠型リテ
ーナを有するものである。
【0085】(ii).給気圧、給気量の条件:前記転がり
軸受装置を歯科用エアータービンハンドピースに装着
し、給気圧1.8kgf/cm2、給気量25リットル
/分の条件で試験した。
【0086】(iii).保持器(リテーナ)の種類: .バルクPI/PAI・R ……… これは、ポリイ
ミド(PI)系または、ポリアミドイミド(PAI)系
の無孔性(バルク状)のリテーナを意味する。即ち、本
発明の先に説明した第一実施態様〜第三実施態様の保持
器(リテーナ)とは異なる連通構造の気孔部を持たない
構造の保持器(リテーナ)を示す。なお、前記バルクP
I・Rは、デュポン社製のベスペルSP−1をリテーナ
形状に加工したものである。また、前記バルクPI・R
は、帝人アコモエンジニアリングプラスチックス社製の
トーロン4203をリテーナ形状に加工したものであ
る。
【0087】.多孔質P・R ……… これはフェノ
ール樹脂系のリテーナを意味する。即ち、このリテーナ
は、本発明の先に説明した第三実施態様の保持器(リテ
ーナ)を示す。前記多孔質P・Rは、パイプ状に多重巻
きされた織布に対して真空状態で織布の間にフェノール
樹脂を含浸し、加熱成形し、その後リテーナ形状に加工
したものである。
【0088】.多孔質PI/PAI・R ……… こ
れは、ポリイミド(PI)系または、ポリアミドイミド
(PAI)系の粉末の焼結体からなる多孔質リテーナを
意味する。なお、前記多孔質PI・Rは、宇部興産社製
UIP−Sを成形圧力4000kgf/cm2 で圧縮成
形し、窒素雰囲気中で400℃にて焼結し、これをリテ
ーナ形状に加工したものである(気孔率:体積比約13
%)。また、前記多孔質PAI・Rは、米国アモコ社製
トーロン4000TFを平均粒径20μmに分級整粒
し、予備成形圧2800kgf/cm2 で圧縮成形し、
次いで300℃で焼結し、これをリテーナ形状に加工し
たものである(気孔率:体積比約14%)。
【0089】A.各種潤滑油の生体安全性、環境保全
性、及び耐熱性の評価:歯科用エアータービンハンドピ
ース(図1〜図2参照)の転がり軸受装置を使用して植
物性不乾性油などの基油成分と吸油性架橋重合体成分
(吸油剤成分)とからなる潤滑系と、従来公知のパラフ
ィン油とフッ素化オイルを主体とした潤滑系において、
生体安全性、環境保全性、及び耐熱性(耐オートクレー
ブ;回)について試験した。その結果を、下記の表3に
示す。
【0090】表3における注釈は、次の通りである。 (1)<耐熱性試験(耐オートクレーブ;回)> (株)モリタ製作所製のオートクレーブ装置「アルフィ
ー」を使用し、耐オートクレーブ性を歯科用エアーター
ビンハンドピースの回転が不安定になり回転効率が1割
(10%、約4万rpm)低下する時点までの回数で示
す。なお、前記試験は、転動体(ボール)の種類にあま
り影響されないと考えられるため、ボールとして従来の
ステンレス製のものを使用し、給気圧1.8kgf/c
2、給気量25リットル/分で約40万rpmの条件
で試験した。また、オートクレーブ装置「アルフィー」
での処理条件は、蒸気圧2.4kgf/cm2(235P
a)、温度135℃、時間5分である。
【0091】表3において、 (i).パラフィン油(流動パラフィン)は、既存歯科治療
関連メーカー製スプレー剤を使用した。 (ii).フッ素化オイルは、イタリアのAusimontu S.P.
A社製FOMBLINを使用した。 (iii).アクリル酸エステル系吸油性重合体は、日本触媒
社製PW−170を使用した。
【0092】
【表3】
【0093】B.各種潤滑油の潤滑性能の評価:次に、
歯科用エアータービンハンドピース(図1〜図2参照)
の転がり軸受装置に対して各種の潤滑油を適用し、潤滑
性能を評価した。特に、植物性不乾性油潤滑油(基油成
分:エキストラバージンオリーブ油,100重量部。吸
油性重合体:PW−170,5重量部)のものにおい
て、転動体(ボール)及び保持器(リテーナ)の構成の
違いによる潤滑特性、即ち、(i)高速回転性能、(ii)回
転耐久性の特性において、どのような効果が実現される
かを試験した。
【0094】前記(i)高速回転性能は、前記したように
歯科用エアータービンハンドピース(図1〜図2参照)
に最初に潤滑油を適用し給気圧1.8kgf/cm2
給気量25リットル/分の条件で給気したときの回転数
(×104)で評価した。また、前記(ii)回転耐久時間
は、前記(i)の状態から無給油で連続運転を行ない、回
転が不安定になり回転数が1割(10%、約4万rp
m)低下するまでの時間(hrs)で評価した。
【0095】結果を下記の表4に示す。 (イ).表中、ボールの欄の「SUS」は、ステンレス製
(SUS440C)のボールベアリングを意味する。他
のものは本発明の非金属製の無機質ボールを意味する。 (ロ).表中、リテーナの欄の「バルク」は、バルクIP/
PAI・Rを意味する。また、「ポーラス」は、多孔質
PI/PAI・Rを意味する。更に、「フェノール」
は、多孔質P・Rを意味する。 (ハ).表中、オイルの欄の「バイオオイル」は、エキスト
ラバージンオリーブ油を意味し、また、「バイオオイル
/A」は基油成分(エキストラバージンオリーブ油)と
吸油性アクリル系重合体(PW−170)から成る潤滑
油を意味する。更に、「パラフィン油/A」は、パラフ
ィン油と吸油性アクリル系重合体(PW−170)から
成る潤滑油を意味する。
【0096】
【表4】
【0097】
【発明の効果】本発明の優位性は、前記表3〜表4から
容易に理解することができる。表3に示されるように、
高速回転系の歯科用切削器(エアータービンハンドピー
ス)などの高速切削器に適用される基油成分と吸油剤成
分(吸油性架橋重合体)とからなる潤滑系、特に基油成
分として植物性不乾性油を使用した潤滑系は、生体安全
性(生体為害性)、環境保全性(安全性)、及び耐熱性
(耐オートクレーブ)の点で総合的に優れていることが
わかる。また、フッ素化オイル系より安価であるため、
経済性にも優れたものである。更に、植物油として不乾
性油以外の半乾性油や乾性油、及びパラフィン油(流動
パラフィン)は、空気中135℃、175時間放置する
テストにおいて、激しい色調変化が見られる。別言すれ
ば、これら各種の油は、耐酸化性に劣るものである。な
お、前記テストにおいて、オリーブ油や落花生油などの
不乾性油は色調変化を示さなかった。
【0098】更に、本発明の高速回転系の歯科用エアー
タービンハンドピースに適用される植物性不乾性油など
の基油成分と吸油剤成分とからなる潤滑油は、微生物に
よる分解が速く、排水の暫定水質基準(総理府令)から
評価してみても従来の鉱油類より好ましいものである。
なお、前記排水の暫定水質基準によれば、排水の許容限
度は、従来の鉱油類は、5mg/リットルであるのに対
し、植物油脂類は、30mg/リットルである。
【0099】更に、表4に示されるように、本発明の転
がり軸受装置、即ち、軸受部の転動体(ボール)と保持
器(リテーナ)をそれぞれ非金属製の無機質ボールと多
孔質合成樹脂成形体で構成した転がり軸受装置におい
て、潤滑油、例えば植物性不乾性と吸油性樹脂粒子から
なる吸油剤を組合わせた潤滑油を使用した場合、従来の
転がり軸受装置にみられない格段の特性向上を実現する
ことができる。
【0100】更にまた、本発明の非金属製の無機質ボー
ルを用いた転がり軸受装置は、金属製のボールとレース
を用いたものに比べて金属製のボールが金属製のレース
上を走るような音がなく、また無孔質合成樹脂製のバル
クリテーナを用いたものに比べて、極めて静かである
(ノイズレス)という効果も享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の潤滑油含浸タイプの保持器(リテー
ナ)が適用される歯科用エアータービンハンドピースの
斜視図である。
【図2】 図1の歯科用エアータービンハンドピースの
ヘッド部(H)とネック部(N)の断面図であり、前記
ヘッド部(H)及びネック部(N)の構造を説明する図
である。
【図3】 本発明の多孔質樹脂成形体で構成された第一
実施態様の保持器(リテーナ)の斜視図である。
【図4】 本発明の潤滑油含浸タイプの保持器(リテー
ナ)が適用される他の歯科用エアータービンハンドピー
スの断面図であり、図2に対応する図である。
【図5】 図4の潤滑油含浸タイプの保持器(リテー
ナ)(44)の断面図である。
【符号の説明】 A ………… 歯科用エアータービンハンドピース H ………… ヘッド部 G ………… グリップ部 N ………… グリップ部(G)のネック部 B ………… 切削工具 1 ………… ヘッド 11 ………… チャンバー 12 ………… ヘッド本体部 13 ………… キャップ部 2 ………… タービンブレード 3 ………… タービンロータ軸 4 ………… 軸受部 41 ………… 内輪 42 ………… 外輪 43 ………… 転動体(ボール) 44 ………… 保持器(リテーナ) 44a ………… 保持器本体 44b ………… 穴部(気孔部) 5 ………… 切削工具 6 ………… ネック部(N)の本体部 7 ………… 給気路 71 ………… 給気口 8、9 ………… 排気路 81、91 ………… 排気口

Claims (14)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 外輪、内輪、転動体、及び保持器(リテ
    ーナ)からなる転がり軸受要素を有する高速回転機器用
    の転がり軸受装置において、 (i).前記転動体が、非金属製の無機質ボールで構成さ
    れ、かつ、 (ii).前記保持器(リテーナ)が、少なくとも一部に連
    通構造の気孔部(連通気孔部)を有する合成樹脂成形体
    で構成され、更に、 (iii).前記転動体及び保持器(リテーナ)の連通気孔部
    が、吸油性樹脂粒子からなる吸油剤を含有した潤滑油で
    潤滑処理されて構成されたこと、を特徴とする高速回転
    機器用の転がり軸受装置。
  2. 【請求項2】 非金属製の無機質ボールが、非酸化セラ
    ミック材料、酸化セラミック材料、耐熱ガラス、または
    結晶化ガラスで構成されたものである請求項1に記載の
    高速回転機器用の転がり軸受装置。
  3. 【請求項3】 連通気孔部を有する合成樹脂成形体が、 (1).気孔率が体積比5〜20%の連通気孔部を有するポ
    リイミド樹脂成形体、又は、 (2).連通気孔部として気孔率が体積比5〜20%の繊維
    層を有するフェノール樹脂成形体、から選ばれたもので
    ある請求項第1項に記載の高速回転機器用の転がり軸受
    装置。
  4. 【請求項4】 連通気孔部を有するポリイミド樹脂成形
    体が、樹脂粉末体を焼結成形して調製されたものである
    請求項3に記載の高速回転機器用の転がり軸受装置。
  5. 【請求項5】 潤滑油が、植物性不乾性油であって、 (i).1分子当り1個の不飽和結合を含む少なくとも一種
    の1価の不飽和脂肪酸、60重量%以上と、 (ii).1分子当り少なくとも2個の不飽和結合を有する
    多価の不飽和脂肪酸、30重量%以下を含有すること、
    ことを特徴とする請求項第1項に記載の高速回転機器用
    の転がり軸受装置。
  6. 【請求項6】 植物性不乾性油が、トコフェロール類の
    含有量が10重量%以下のもので構成される請求項第5
    項に記載の高速回転機器用の転がり軸受装置。
  7. 【請求項7】 植物性不乾性油が、オリーブ油、落花生
    油、及びオレイソル油からなる群より選ばれた少なくと
    も1種のものである請求項第5項に記載の高速回転機器
    用の転がり軸受装置。
  8. 【請求項8】 植物性不乾性油が、グリセリンと結合し
    ていない飽和及び不飽和の脂肪酸(遊離脂肪酸)の含有
    量が5重量%以下のもので構成される請求項第7項に記
    載の高速回転機器用の転がり軸受装置。
  9. 【請求項9】 潤滑油が、パラフィン油またはフッ素化
    油である請求項第1項に記載の高速回転機器用の転がり
    軸受装置。
  10. 【請求項10】 吸油剤が、 (A).溶解度パラメータ(SP値)を9以下とする単量体
    を主成分としてなる分子中に1個の重合性不飽和基を有
    する単量体…………90〜90.9重量%、 (B).分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する
    架橋性単量体…………0.1〜10重量%、からなる単
    量体混合物を重合して得られる架橋重合体で構成される
    請求項第1項に記載の高速回転機器用の転がり軸受装
    置。
  11. 【請求項11】 単量体(A)が、少なくとも1個のC
    3〜C30の脂肪族炭化水素基を有し、かつアルキル
    (メタ)アクリレート、アルキルアリール(メタ)アク
    リレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、アルキル
    アリール(メタ)アクリルアミド、脂肪酸ビニルエステ
    ル、アルキルスチレン、及びα−オレフィンの残基から
    なる群より選ばれる少なくとも1種の重合性不飽和基を
    有するものである請求項第10項に記載の高速回転機器
    用の転がり軸受装置。
  12. 【請求項12】 吸油剤が、ジエン系単量体を重合して
    得られるジエン系架橋重合体で構成される請求項第1項
    に記載の高速回転機器用の転がり軸受装置。
  13. 【請求項13】 高速回転機器が、エアータービン翼が
    固定された回転軸を回動自在に支承するための外輪、内
    輪、転動体、及び耐熱樹脂製の保持器(リテーナ)から
    なる転がり軸受要素を有するものである請求項第1項に
    記載の高速回転機器用の転がり軸受装置。
  14. 【請求項14】 高速回転機器が、ボールベアリング式
    の医療歯科用のエアータービンハンドピースである請求
    項13に記載の高速回転機器用の転がり軸受装置。
JP10713498A 1998-04-03 1998-04-03 高速回転機器用の転がり軸受装置 Expired - Fee Related JP4243781B2 (ja)

Priority Applications (5)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP10713498A JP4243781B2 (ja) 1998-04-03 1998-04-03 高速回転機器用の転がり軸受装置
US09/172,794 US6164831A (en) 1998-04-03 1998-10-15 Rolling bearing for high-speed rotating equipment
DE19848051A DE19848051B4 (de) 1998-04-03 1998-10-19 Wälzlager für sich mit hoher Drehzahl drehende Vorrichtungen
CH00045/99A CH693540A5 (de) 1998-04-03 1999-01-11 Wolzlager fur sich mit hoher Drehzahl drehende Vorrichtungen.
AT0010999A AT412304B (de) 1998-04-03 1999-01-27 Hochgeschwindigkeitswälzlager

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP10713498A JP4243781B2 (ja) 1998-04-03 1998-04-03 高速回転機器用の転がり軸受装置

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPH11287250A true JPH11287250A (ja) 1999-10-19
JP4243781B2 JP4243781B2 (ja) 2009-03-25

Family

ID=14451376

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP10713498A Expired - Fee Related JP4243781B2 (ja) 1998-04-03 1998-04-03 高速回転機器用の転がり軸受装置

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4243781B2 (ja)

Cited By (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2005344906A (ja) * 2004-06-07 2005-12-15 Ntn Corp 転がり軸受用保持器および転がり軸受
JP2005351373A (ja) * 2004-06-10 2005-12-22 Ntn Corp 転がり軸受用保持器および転がり軸受
WO2005121578A1 (ja) * 2004-06-07 2005-12-22 Ntn Corporation 転がり軸受用保持器および転がり軸受
JP2008540021A (ja) * 2005-05-17 2008-11-20 イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド 歯科用具および医療用具に使用する低摩擦コーティング
JP2010090908A (ja) * 2008-10-03 2010-04-22 Nsk Ltd 高速回転用転がり軸受用保持器の製造方法
JPWO2017183454A1 (ja) * 2016-04-21 2019-02-28 日本電気硝子株式会社 絶縁部材及びその製造方法
US11446413B2 (en) 2014-01-06 2022-09-20 Yeda Research And Development Co. Ltd. Attenuation of encrustation of medical devices using coatings of inorganic fullerene-like nanoparticles

Cited By (10)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2005344906A (ja) * 2004-06-07 2005-12-15 Ntn Corp 転がり軸受用保持器および転がり軸受
WO2005121578A1 (ja) * 2004-06-07 2005-12-22 Ntn Corporation 転がり軸受用保持器および転がり軸受
JP4541765B2 (ja) * 2004-06-07 2010-09-08 Ntn株式会社 転がり軸受用保持器および転がり軸受
JP2005351373A (ja) * 2004-06-10 2005-12-22 Ntn Corp 転がり軸受用保持器および転がり軸受
JP4541769B2 (ja) * 2004-06-10 2010-09-08 Ntn株式会社 転がり軸受用保持器および転がり軸受
JP2008540021A (ja) * 2005-05-17 2008-11-20 イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド 歯科用具および医療用具に使用する低摩擦コーティング
US9877806B2 (en) 2005-05-17 2018-01-30 Yeda Research And Development Co. Ltd. Low friction coatings for use in dental and medical devices
JP2010090908A (ja) * 2008-10-03 2010-04-22 Nsk Ltd 高速回転用転がり軸受用保持器の製造方法
US11446413B2 (en) 2014-01-06 2022-09-20 Yeda Research And Development Co. Ltd. Attenuation of encrustation of medical devices using coatings of inorganic fullerene-like nanoparticles
JPWO2017183454A1 (ja) * 2016-04-21 2019-02-28 日本電気硝子株式会社 絶縁部材及びその製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP4243781B2 (ja) 2009-03-25

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP3016735B2 (ja) 高速回転機器の転がり軸受装置
US6164831A (en) Rolling bearing for high-speed rotating equipment
US5981448A (en) Lubricating oil for rolling bearing in high-speed rotating equipment and bearing lubricated with the same lubricating oil
EP2275698B1 (en) Method of manufacturing a rolling bearing retainer
EP1965081B1 (de) Kreiselpumpe mit koaxialer magnetkupplung
JP3431421B2 (ja) 転がり軸受装置用の多孔質保持器の製造方法
KR101648986B1 (ko) 윤활 특성이 향상된 슬라이딩 베어링
JPH11287250A (ja) 高速回転機器用の転がり軸受装置
US6113278A (en) Rolling bearing for a dental instrument hand-piece
DE19743041A9 (de) Schmieröl für Wälzlager in einer mit hoher Drehzahl rotierenden Anordnung sowie mit diesem Schmieröl geschmiertes Lager
WO2009129435A1 (en) High speed ball bearing for dental or medical handpieces
JP4126274B2 (ja) 高速切削器の転がり軸受装置用潤滑油
JP4243780B2 (ja) 高速回転機器用の転がり軸受装置
CN101576122B (zh) 粉末冶金无油润滑轴承及其制备方法
JP2002181049A (ja) スリーブ軸受装置
JP3742885B2 (ja) 高速回転機器用の転がり軸受装置
JP2009002437A (ja) 歯科ハンドピース用転がり軸受
JP3195545B2 (ja) 高速切削器の転がり軸受装置用潤滑油
US6001778A (en) Lubricating oil for rolling bearing in high-speed rotating equipment, and bearing lubricated with the same lubricating oil
EP2333366A1 (en) Sintered bearing and process for producing same
JPH1137162A (ja) 高速回転用玉軸受およびこれを用いた医療用高速回転切削機器
JP2003049841A (ja) 転動装置および転動装置用保持器
JPH0580940B2 (ja)
JP2588081Y2 (ja) ハンドピース用転がり軸受装置
JP6765707B2 (ja) 摺動組成物、並びに、摺動部材及びその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20040209

RD02 Notification of acceptance of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7422

Effective date: 20040315

A521 Written amendment

Effective date: 20040318

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20060613

A711 Notification of change in applicant

Effective date: 20060622

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A711

A131 Notification of reasons for refusal

Effective date: 20060627

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

A521 Written amendment

Effective date: 20060803

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20070213

A521 Written amendment

Effective date: 20070406

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20071002

R155 Notification before disposition of declining of application

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R155

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Effective date: 20081222

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

R150 Certificate of patent (=grant) or registration of utility model

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

FPAY Renewal fee payment (prs date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120116

Year of fee payment: 3

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees