JPH1088312A - 摺動部材の耐摩耗性溶射被覆層 - Google Patents

摺動部材の耐摩耗性溶射被覆層

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JPH1088312A
JPH1088312A JP8248210A JP24821096A JPH1088312A JP H1088312 A JPH1088312 A JP H1088312A JP 8248210 A JP8248210 A JP 8248210A JP 24821096 A JP24821096 A JP 24821096A JP H1088312 A JPH1088312 A JP H1088312A
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浩行 高村
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政宏 仲川
Hiroyuki Hashimoto
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Abstract

(57)【要約】 【課題】摺動部材の耐摩耗性及び耐スカッフィング性を
向上する。 【解決手段】摺動部材であるピストンリング10の母材M
の外周摺動面に、高速酸素火炎(HVOF)溶射によ
り、Cr、W、Moを含むニッケル基摺動面材料の第1
材料60〜90重量%と、SiO2 を1〜7%添加した
Cr2 O3 及びMoO3 のいずれか一方又は双方からな
る第2材料10〜40重量%とからなる溶射被覆層Cを
形成する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はピストンリング等の
摺動部材の表面に設ける耐摩耗性溶射被覆層の改良に関
するものである。
【0002】
【従来の技術】内燃機関用ピストンリングの耐摩耗性を
向上するため、特開平3−172681号公報は、少な
くともその外周摺動面母材上に、Ni−Cr合金と、C
r3 O2 とからなる単層の溶射皮膜をプラズマ溶射によ
って形成することを提案している。又、特開平6−25
6786号公報はモリブデン、クロムを主成分とするコ
バルト基もしくはニッケル基摺動面部材、又は、クロ
ム、コバルト、ニッケルを主成分とする鉄基摺動面部材
の単層溶射皮膜をレーザ溶射又は減圧プラズマ溶射にレ
ーザ照射を併用したレーザ・プラズマハイブリッド溶射
によって形成することを提案している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、プラズマ溶射
法によって密着性に優れた高緻密性の溶射被覆層を形成
することは困難であり、形成された溶射被覆層は耐剥離
性が低く、空孔が多いため、油膜破断が発生しやすく、
耐相手攻撃性に劣るという問題があった。又、プラズマ
溶射法は粉末が約10000度以上の炎にさらされるた
め、熱分解したり、気化したりして、溶射材本来の特性
が発揮できないおそれがある。
【0004】さらに、プラズマ溶射ガンは溶射粉末を炎
の噴出方向に対して直角に近い角度で供給するため、溶
射粒子の溶射被覆層内での分散にばらつきを生じるとい
う問題があった。本発明は上記問題を解決するためにな
されたものであり、その目的とするところは、密着性が
高く、緻密で空孔がきわめて少ない溶射被覆層であっ
て、耐摩耗性及び耐スカッフィング性に優れ、溶射によ
って溶射本来の特性が失われるおそれのない溶射被覆層
を摺動部材の摺動面に形成することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するた
め、本発明が採用する手段は、摺動部材の摺動面に被覆
層を高速酸素火炎(HVOF)溶射によって形成したこ
とにある。その溶射被覆層は第1材料60〜90重量%
と第2材料10〜40重量%とからなる。第1材料はC
r、W、Moを含むニッケル基摺動面材料であり、第2
材料はCr2 O3とMoO3 のいずれか一方又は双方か
らなり、そのCr2 O3 は重量において1〜7%のSi
O2 が添加されたものである。
【0006】第1材料のCrとWとMoとを含むニッケ
ル基摺動面材料はCr:5〜20重量%、W:1〜10
重量%、Mo:2〜9重量%、Cu:1〜4重量%、、
C:0.1〜1重量%、B:0.1〜1重量%、残部N
iからなることが好ましい。この材料の限定理由は下記
の理由による。Crは20重量%以上では相手攻撃性が
大であり、5重量%以下では耐摩耗性が小であるため組
成範囲は5〜20重量%とする。
【0007】Wは10重量%以上では相手攻撃性が大で
あり、1重量%以下では耐摩耗性が小であるため、組成
範囲は1〜10重量%とする。Moは9重量%以上では
相手攻撃性が大であり、2重量%以下では耐摩耗性が小
であるため、組成範囲は2〜9重量%とする。Cuは4
重量%以上では靱性が低下し、1重量%以下では硫酸系
溶液に対する耐蝕性が劣るため、組成範囲は1〜4重量
%とする。
【0008】Cは炭化物を形成し、硬度を向上させる
が、1重量%以上では脆性の点で性能が低下し、0.1
重量%以下では硬度が向上しないため、組成範囲は0.
1〜1重量%とする。Bは一方では酸化物を形成して皮
膜表面をきれいにし、他方では硬質のほう化物を形成し
て耐摩耗性を向上させるが、1重量%以上では脆性の点
で性能が低下し、0.1重量%以下では酸化物が多く硬
度が不十分であるため、組成範囲は0.1〜1重量%と
する。
【0009】第2材料のCr2 O3 は高温下においても
安定した硬度を有し、耐摩耗性を向上させ、凝着を防止
する。MoO3 は摺動面において粒子が固体潤滑材とし
て作用し、耐スカッフィング性を向上させる。溶射材の
第2材料が10重量%未満の場合は、硬さが低下し耐摩
耗性が劣り、第2材料が40重量%を越えると、第1材
料のニッケル基摺動面部材とCr2 O3 又はMoO3 の
結合力が低下し皮膜強度が下がり脆化する。その結果、
被覆層を形成する溶射材の組成範囲はニッケル基摺動面
材料を60〜90重量%、第2材料を10〜40重量%
とする。
【0010】第2材料のCr2 O3 に添加されたSiO
2 はCr2 O3 に対して7重量%以上では靱性を低下さ
せ、1重量%以下では摺動特性を損なうので、対Cr2
O3添加量は1〜7重量%とする。高速酸素火炎(HV
OF)は火炎温度が2700℃程度と比較的低温である
ため、溶射材粉末が熱分解又は気化するおそれは少な
く、溶射材は本来の特性を維持し発揮する。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図1及び図
2に示すピストンリングに設けた耐摩耗性被覆層に基づ
いて説明する。図1及び図2に示すように、凹形又は凸
形にしたピストンリング母材Mの外周摺動面に、溶射被
覆層Cを高速酸素火炎(HVOF)溶射によって形成し
たことにある。前記溶射被覆層は、Cr、W、Moを含
む第1材料のニッケル基摺動面材料(一例としてスルザ
ーメテコ社商品名:ダイアマロイ4006)60〜90
重量%と、SiO2 が1〜7%添加されたCr2 O3
(一例としてスルザーメテコ社商品名:メテコ136
F)及びMoO3 (一例としてスルザーメテコ社商品
名:メテコ630)のいずれか一方又は双方からなる第
2材料10〜40重量%とからなる。
【0012】高速酸素火炎(HVOF)溶射は図3に示
すスルザーメテコ社製ダイアモンドジェットガン(商品
名)を用いて実施する。ガン20は二重構造のノズル2
1と、そのノズルに外嵌したエアキャップ23と、その
エアキャップを支持するエアキャップボディ24からな
る。ノズル21は内側がインサート25、外側がシェル
26である。インサート25の内部中央にパウダーイン
ジェクター22が挿入され、その内部に溶射粉末が窒素
ガスで搬送される。パウダーインジェクター22とイン
サート25の間の環状空隙に挿入された圧縮空気が溶射
材粉末をガン20から噴出させる。
【0013】インサート25とシェル26の間の環状空
隙に酸素−プロパン、又は酸素−プロピレン、又は酸素
−水素の燃焼用ガスが挿入され、そのガスはガン20か
ら噴出し、出口で点火する。点火したガスは2700℃
程度の円筒形火炎を形成して同じく噴出する溶射材粉末
を包む。この火炎により溶射材粉末は均一に加熱されて
溶融する。溶融した溶射材粉末は800m/sec以上
の高速でピストンリング外周摺動面母材に衝突する。衝
突した溶射材粉末は瞬時に偏平化し、母材温度まで急冷
し、そこに溶射被覆層を形成する。シェル26とエアキ
ャップ23の間の環状空隙にも圧縮空気が圧入される。
この圧縮空気は火炎を包み、ガン20を冷却する。
【0014】溶射材粉末は火炎軸と同方向の軸心方向に
供給されるため、粉末粒子は均一に分散する。粉末粒子
は800m/sec以上の高速火炎により高速で母材に
衝突して被覆層を形成するため、緻密性及び密着性が高
く、きわめて空孔の少ない被覆層となる。ダイアマロイ
4006だけでは、耐摩耗性が劣るので、これに硬質粒
子Cr2 O3 及びMoO3 を加えることにより、耐摩耗
性、相手攻撃性及び耐スカッフィング性に優れた被覆層
を得ることが出来る。
【0015】
【実施例】本発明の耐摩耗性被覆層を各種の試験によっ
て説明する。同一ピストンリング用鋳鉄材の母材上に次
の2種類の被覆層を形成してテスト片とした。 テスト片No.1(比較例):単層溶射被覆層(350μm) メテコ505(Mo:75%、Ni自溶性合金:25%) プラズマ溶射 テスト片No.2(実施例):単層溶射被覆層(350μm) ダイアマロイ4006:70%、Cr2 O3 :15%、MoO3 :15% テスト片No.3(実施例):単層溶射被覆層(350μm) ダイアマロイ4006:70%、Cr2 O3 :30% テスト片No.4(実施例):単層溶射被覆層(350μm) ダイアマロイ4006:70%、MoO3 :30% 実施例溶射被覆層は高速酸素火炎(HVOF)溶射によ
るものであり、図3に示すガンを使用して形成した。そ
の溶射条件は次のとおりである。
【0016】 燃焼ガス: 酸素 310〜320(SLPM) プロピレン 63〜67(SLPM) 空気 285〜295(SLPM) 溶射粉末: ダイアマロイ4006: スルザーメテコ ダイアマロイ4006(商品名)、 −90+45μm 組成(重量%):Cr20%、W10%、Mo9%、Cu4%、 C1%、B1%、Fe1%、Ni残部 Cr2 O3 (SiO2 5%添加):−53+15μm スルザーメテコ メテコ136F(商品名)、 MoO3 :−53+15μm スルザーメテコ メテコ630(商品名)、 各テスト片について各種の評価試験を実施した。 耐摩耗性及び相手攻撃性試験 図6に模式的に示すアムスラー型摩耗試験機により、各
テスト片と相手材の摩耗量を測定した。摩耗試験機の容
器15には潤滑油14が溜められており、摩耗試験用の
相手材12が潤滑油14に部分的に浸されている。相手
材12は円板状もしくはローラ状のものであり、一定の
速度で回転している。この状態で、テスト片11を相手
材12の外周面に接しさせ、回転軸に垂直に荷重をか
け、摩耗の程度を測定したものである。
【0017】測定条件は以下の通りである。 周速 :1m/sec 荷重 :45kgf 潤滑油 :軸受油(日本石油 スピノックスS−2) 油温 :室温(25℃±10℃) 試験時間:100時間 相手材 :ターカロイ(日本ピストンリング(株)の商
品名として知られているボロン鋳鉄) 測定結果は図4に示すとおりであった。
【0018】この図から、耐摩耗性は実施例テスト片N
o.2が比較例テスト片No.1よりも著しく優れ、実
施例No.3、No.4も比較例テスト片No.1より
は良好であることがわかる。相手攻撃性については実施
例テスト片No.2、No.4は比較例テスト片No.
1よりも良好であるが、実施例テスト片No.3は比較
例テスト片No.1と同等である。 耐スカッフィング性試験 各テスト片の耐スカッフィング性を、図7に模式的に示
す回転式平面滑り摩擦試験機により測定した。摩擦試験
機は、一定速度で回転する相手材12の回転面に、テス
ト片11を一定時間、所定の面圧(P)で圧接し、スカ
ッフィングの発生したときの面圧を限界面圧として測定
したものである。圧接操作は、初期面圧を25kgf/
cm2とし、面圧を30分後に50kgf/cm2、それ
から5分ごとに10kgf/cm2ずつ増加させていく
方法で行われた。
【0019】測定条件は以下の通りである。 滑り速度:5m/sec 潤滑油 :SAE30+白灯油(1:1) 油量 :無給油、初期塗布 相手材 :ターカロイ 測定結果は図5に示すとおりであった。この図から、耐
スカッフィング性は実施例テスト片No.2、No.
3、No.4のすべてが比較例テスト片No.1よりも
優れていることがわかる。
【0020】これらの評価試験から、耐摩耗性と耐スカ
ッフィング性においては、実施例テスト片の溶射被覆層
が比較例テスト片のものよりも優れ、耐相手攻撃性は同
等以上であることが確かめられた。
【0021】
【発明の効果】上記のとおり、本発明の溶射被覆層を設
けた摺動部材は、耐摩耗性及び耐スカッフィング性にお
いて、従来のものより優れているから、より厳しい条件
下で使用される摺動部材、例えば高性能ディーゼルエン
ジンのピストンリング等にも使用できるという格別の効
果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】は本発明の一実施例の溶射被覆層を設けたピス
トンリングの断面図、
【図2】は本発明の別の実施例の図1に相当する図、
【図3】は高速酸素火炎溶射を実施するガンの模式的断
面図、
【図4】は本発明の実施例及び比較例の耐摩耗性及び耐
相手攻撃性試験の結果を示すグラフ、
【図5】は本発明の実施例及び比較例のスカッフィング
試験の結果を示すグラフ、
【図6】は耐摩耗性及び耐相手攻撃性試験を実施する試
験機の略図、
【図7】は耐スカッフィング性試験を実施する試験機の
略図、
【符号の説明】
C:溶射被覆層 M:母材 10:ピストンリング
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 仲川 政宏 東京都千代田区二番町11番19号 スルザー メテコジャパン株式会社内 (72)発明者 橋本 裕之 東京都千代田区二番町11番19号 スルザー メテコジャパン株式会社内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 少なくとも摺動面に溶射被覆層が高速酸
    素火炎(HVOF)溶射により形成された摺動部材であ
    って、前記溶射被覆層は第1材料60〜90重量%と第
    2材料10〜40%とからなり、前記第1材料はCr
    と、Wと、Moとを含むニッケル基摺動面材料であり、
    前記第2材料はCr2 O3 とMoO3 のいずれか一方又
    は双方からなり、前記Cr2 O3 はその重量に対して1
    〜7%のSiO2 が添加されたものであることを特徴と
    する摺動部材の耐摩耗性溶射被覆層。
  2. 【請求項2】 ニッケル基摺動面材料はCr:5〜20
    重量%、W:1〜10重量%、Mo:2〜9重量%、C
    u:1〜4重量%、C:0.1〜1重量%、B:0.1
    〜1重量%、残部Niからなることを特徴とする請求項
    1記載の摺動部材の耐摩耗性溶射被覆層。
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