【発明の詳細な説明】
発明の名称
細胞核に毒性放射性同位元素を伝達するための組成物及びその使用
発明の背景
本発明の分野は、抗腫瘍化学療法である。より詳しくは、本発明は、核酸を標
的とする放射能標識された小さな分子と複合した標的タンパク質(targeting pro
tein)またはポリペプチドを用いた、腫瘍細胞の核への細胞毒性を有する放射性
同位元素の伝達に関する。
いくつかの放射性同位元素、特に123Iや125Iのようなオージェ(Auger)電子を
放出する放射性同位元素は、もし、それらが細胞の核の中に存在するのであれば
、生存する細胞に対して非常な毒性を有することが知られている(Warters et al
.,Curr.TOP.Rad.Res.,12: 389(1977))。正常な細胞に対し腫瘍細胞にいく
らかの選択性をもつ抗体が知られているが、抗体自身で効率的に核に到達するこ
とはできない。大抵のそのような抗体は、細胞表面と反応し、徐々に内部に取り
込まれ、リソソームに運ばれ、分解される(Kyriakos et al.,Cancer Res.,52:
835(1992))。その抗体に付着した放射性同位元素を含む分解生成物は、その後
、リソソーム膜と細胞膜を通過することによって、徐々に細胞から離れる。抗体
分解生成物上の従来の放射性同位元素標識は、理論的には、核膜を通過し、核に
いくらかの放射能を与えることができるが(Woo et al.,WO90/03799)、実際の観
察は、その量が非常にわずかであり、腫瘍細胞に細胞毒性を与えるには不十分で
あることを示す。従来技術は、従来のヨウ素が抗体の異化後に細胞から急速に離
脱することを示す。
タンパク質やポリペプチドのホルモンや成長因子、特に細胞表面受容体に伴う
それらは、直接放射能標識され、腫瘍細胞を標的とするのに用いられるであろう
。しかし、直接放射能標識された標的抗体を用いた場合のように、ホルモンや成
長因子のアミノ酸残基と結合した放射性同位元素は、異化後に細胞から放出され
、核の核酸とは結合しない。
腫瘍細胞を標的とし、腫瘍細胞によってエンドサイトーシスされて分解される
ことができ、また、核物質と相互作用することによって細胞毒性を発揮すること
ができる放射性同位元素を核に伝達することができる組成物に対する重要な必要
性が存在する。そのような発明を以下に記載する。
発明の概要
本発明の目的は、腫瘍標的タンパク質またはポリペプチドと、核酸を標的とす
る放射能標識された小さな分子との共有結合複合体を提供することにある。該小
さな分子は、標的タンパク質から離脱した後、リソソーム膜と核膜を通過し、核
の構成成分に結合することができる。それによって、該小さな分子と結合した放
射性同位元素の崩壊は、核の構成成分、そして結果的に、標的とされた腫瘍細胞
の生存性(viability)を破壊する。
本発明の他の目的は、上記複合体を生産する方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、腫瘍を有する対象物に、上述の腫瘍細胞を標的と
する複合体を含む組成物を投与することからなる腫瘍の治療方法を提供すること
にある。
治療上の抗腫瘍複合体は、オージェ電子を放出する放射性同位元素を用いて誘
導された核酸を標的とする小さな分子と共有結合によって複合した、腫瘍細胞を
標的とするタンパク質またはポリペプチドからなる。該複合体は、腫瘍細胞の表
面に付着して、腫瘍細胞の中にエンドサイトーシス(飲食作用)されることができ
る。エンドサイトーシスされた複合体は、放射能標識された小さな分子を含む生
成物へと、溶菌的(lytically)に分解されることができる。遊離した放射能標識
された小さな分子は、腫瘍細胞の核の中に入り、核内に存在する核酸に結合する
ことができる。該結合は、DNAへの挿入(intercalation)を含む。放射能標識
は、小さな分子が結合した核酸を分解することができる。
腫瘍を有する患者の治療方法は、治療学的に有効な量の上記治療上の抗腫瘍複
合体を、患者に投与する段階を含む。
これらの及び他の目的は、明細書と添付の請求の範囲を参照することによって
、明らかになるであろう。
好ましい態様の詳細な説明
本発明の一般的な形は、DNAまたは他の核の核酸物質と結合し、腫瘍細胞を
標的とするタンパク質またはポリペプチドと共有結合で複合し、核内で崩壊すれ
ば細胞に毒性を示すオージェ電子を放出する放射性同位元素で標識された小さな
分子である。
本発明の好ましい形は、腫瘍を標的とする抗体またはそのフラグメントと複合
する、125Iまたは123Iまたはその両方で標識された、核酸と結合するまたはDN
Aに挿入される小さな分子である。標的タンパク質またはポリペプチドがホルモ
ンまたは成長因子であることが、また、好ましい。これらの放射性核種は、高い
比活性のものを容易に入手することができ、核酸と結合する及びDNAに挿入さ
れる小さな分子を標識するのに用いることができ、非常に大きな毒性を有する。
この毒性は、放出されるオージェ電子によるものである。オージェ電子は、また
、多数の他の放射性同位元素によって放出される。これら多数の放射性同位元素
の全てが、本発明の範囲に含まれる。例示すれば、77Br、131I、225At、213Bi、111
In、188Rh等である。
本発明の実施に適する多くの核酸と結合する及びDNAに挿入される小さな分
子は、クロラミンT(chloramine T)またはヨードゲン(Iodogen)を用いた標準的
な酸化ヨウ素化によって放射能標識することができ、さらに、多くの標準的な手
法
のいずれか一つによって、抗体と複合することができる。放射性同位元素を効率
的に用いるために、複合方法は、効率的(efficient)でなければならない。本発
明の実施に適するそのような小さな分子としては、フルオレセイン及びその誘導
体、アクリジン及びその誘導体、ジアクリジン(diacridine)及びその誘導体、ア
ントラサイクリン(anthracyclines)及びビスアントラサイクリン、短いアルキル
鎖で結合されたジアミノアクリジン、2−ニトロイミダゾール・フェナントリジ
ン(2-nitroimidazole phenanthridine)やビス−フェナントリジンのようなフェ
ナントリジン、3−アセトアミド−5−ヨード−6−アミノアクリジン(3-aceta
mido-5-iodo-6-aminoacridine)のようなアミノアクリジン、臭化エチジウム誘導
体、ジキノリン(diquinolines)、ニトラクリン(nitracrine)、リンカーによって
オリゴヌクレオチド認識システムと複合したフェナントリジウム(phenanthridiu
m)、ドーノマイシン(daunomycin)、メパクリン(mepacrine)、アクリジン・オレ
ンジ(acridine orange)、メチジウム・スペルミン(methidium spermine)、縮合
芳香多環(fused aromatic polycyclic rings)を含有するピリミドン・ヌクレオ
シド塩基、8−アミノ−12−オキソ−10,12−ジヒドロインドロ誘導体(8
-amino-12-oxo-10,12-dihydroindolo derivative)のようなキナゾリン(quinazol
ine)誘導体、Hoechst 33258、蛍光染料等が含まれるが、それらに限定されるも
のではない。細胞系、抗体、放射能標識
本発明の複合体を試験するのに用いられる細胞系、及び本発明の複合体を生産
するのに用いられるモノクローナル抗体(mAbs)は、容易に入手することができる
(例えば、上記のKyriakos et al.、Mattes et al.,Cancer(Suppl.)73: 787(199
4)、0ng et al.,Molec.Immunol.30: 1455(1993)、Demignot et al.,Cancer
Immunol.Immunotherap.33: 359(1991)、Ali et al.,Cancer Res.50:783S(19
90)、Halpern et al.,Cancer Res.43: 5347(1983)、Anderson-Berg et al.,C
ancer Res.47: 1905(1987)を参照されたい。これらの文献は、引用す
ることによって本明細書に含められる。)。実験で用いるモノクローナル抗体(mA
bs)は、マウスの免疫グロブリンG(IgG)抗体でよいが、ヒト化した(humanized)
及びヒト抗体も本発明の範囲に含まれる。モノクローナル抗体MA103は、試
験される全てのヒト腫瘍細胞系上に存在する高密度の抗原と高い結合活性で反応
し、細胞表面と反応する大抵の他の抗体と同様に処理される(上記Mattes et al.
,1994)。ヒトがん腫症細胞系ME180は、アメリカン・タイプ・カルチャー
・コレクション(American Type Culture Collection)(Rockville,MD)から得る
ことができる。放射能標識された抗体は、上述のように、SDS-PAGE及びオートラ
ジオグラフィーによって機械的に監視され(Cairncross et al.,Proc.Natl.Ac
ad.Sci USA,79: 5641(1982))、少なくとも90%の放射能標識が、免疫グロブ
リンGのサブユニット上に存在していた。複合体は、以下に述べるように、TC
Aを用いた種々の時点での沈降によって、少なくとも3日間、組織培養培地中の
安定性について試験されるべきである。125Iを用いた従来の抗体の直接標識は、
上述のように行われる(上記Kyriakos et al.)。
抗体と125I-フルオレセインの複合は、従来行われているように行なうことが
できる。一つの手順として、始めに、0.05M、pH8.0のトリス塩酸中に13μg/mlで
25μlの放射能標識されたフルオレセイン・イソチオシアネート(Sigma Chemical
s,St.Louis,MO)を、Pittman et al.(Biochem.J.,212:791(1983))に記載さ
れているように、ヨードゲン(Iodogen)(Pierce)でプレコート(precoated)した0.
5mlのマイクロヒュージ・チューブ(microfuge tube)に加える。同じ緩衝液中に2
mCi(74MBq)の125Iを加える。室温で30分経過後、pH9.5、0.1Mの炭酸ナトリウ
ム緩衝液0.2ml中に0.1mgのIgGを含有する他のマイクロフュージ・チューブに、
溶液を移す。4℃で一晩、インキュベートした後、複合体をPD-10カラム上でゲ
ル濾過することによって精製する。生成物の比活性は、典型的には約0.3mCi/mg(
11.1MBq/mg)である。
抗体とフルオレセイン−β−D−ガラクトピラノシド(fluorescein-β-D-gala
ctopyranoside)(Sigma F-4146)の複合は、他のガラクトース含有分子のために開
発されたStrobel et al.(Arch.Biochem.Biophys.,240: 635(1985))の方法に
よって行なうことができる。ヨードゲンで被覆されたマイクロフュージ・チュー
ブに、1〜10nmolのフルオレセイン−ガラクトシドを含むpH7.0の25μlの0.5MのK
PO4緩衝液を加える(生成量及び最終の比活性は、この濃度範囲では実質的に変わ
らない)。25μlの同じ緩衝液中の1〜2mCi(37〜74MBq)の125Iを加えた後、試料を
室温で30分間、インキュベートし、その後、5μlの同じ緩衝液中に4単位のガ
ラクトース・オキシダーゼ(Sigma G-3385)を含有する他のマイクロフュージ・チ
ューブに移す。37℃で45分経過後、50μlのリン酸緩衝食塩水中の0.1mgのIg
Gを加え、その後、直ちに2.1μlの2.0Mのソジウム・シアノボロハイドライド(so
dium cyanoborohydride)を加える。37℃で3時間経過後、複合体は、上述のよ
うに、PD-10カラム上で精製される。125Iの結合は、9〜11%であり、生成物の比
活性は、0.8〜1.0mCi/mg(30〜37MBq/mg)である。意図した方法によって実際に標
識されたことを確認するために、ガラクトース・オキシダーゼを省いた対照試験
が行われる。対照試験では、有意な結合が生じないはずである。
DTAFを用いたヨウ素化は、試薬の量が大幅に削減されるRushfeldt et al.,Ca
ncer Res.,53: 658(1993)の方法によって本質的に行なうことができる。pH9.0
の25μlの0.1Mホウ酸ナトリウム中の1nmolのDTAFを、ヨードゲンで被覆したチュ
ーブに加える。1mCi(37MBq)の125Iを、25μl中に加え、室温で30分間、インキ
ュベートする。反応混合物を、1.0mg/mlで10μlのNa2S2O3を含有するチューブに
移す。室温で3分経過後、25μgのIgGを50μl以下のリン酸緩衝食塩水中に加え
、室温で2時間、インキュベートする。50mMの最終濃度となるまでグリシンを加
えた後、37℃で30分間、インキュベーションし、試料を上述のように精製す
ることができる。ヨウ素化の効率は、一般的には8〜10%の範囲であり、約3〜5m
Ci
/mg(111〜185MBq/mg)の比活性という結果となる。抗体保持実験
詳細に前述したように(上記のKyriakos et al.)、96個のウェルのプレート
中の密集した細胞を、37℃で2時間、5×105cpmの抗体でインキュベートし、
その後、4回洗浄する。0.2mlの組織培養培地を加え、インキュベーションを、
例えば、4時間から7日間の種々の時間で続ける。種々の時点で、0.1mlの上澄
み液を集め(全上澄み液の1/2)、さらに洗浄後、細胞を、2.0MのNaOHで溶液中に
分散させる。上澄み液中のcpmを測定後、試料を、5mlの冷たい10%TCAを用いて沈
澱させる。Sorvall SS-34ローター中で15分間、6000rpmで遠心分離することに
よって、沈澱を集める。各実験に含められるであろう対照ウェルにおいて、標識
されない多くの過剰の抗体をいくつかのウェルに加える。これらの条件下のcpm
結合は、非特異的であると考えられている。全ての実験において、少なくとも80
〜90%の活性結合は、一般的に特異的に結合される。異なる標識の比活性は、約
7倍の範囲にわたって、変化するかもしれない。しかし、少なくとも従来の125I
標識を用いた場合、抗体濃度中の同様な変化が抗体処理(Kyriakos et al.)に有
意な影響を及ぼさないことがわかっている。
核酸を標的とする放射能標識された小さな分子と、核構成成分との結合は、本
発明の複合体の投与後に、冷却下に細胞を溶菌(Iysing)し、セル分画の従来技術
によって核を遊離させ、核分画中の放射能を測定することによって、測定するこ
とができる。本発明の複合体で処理した後に、並行して腫瘍細胞の生存性を試験
することによって、核構成物質と結合した放射能標識の量と、放射能標識の細胞
毒性の間の相互関係を見い出すことができる。種々の方法
ガラクトサミンと複合したウシアルブミンをSigma Chemicals(A-1159)から購
入し、上述のようにクロラミンTを用いてヨウ素化することができる。それは、
非特異的結合を測定するために対照ウェル中で0.5mg/mlで用いられるgalNAc-BSA
を用いて、ヨウ素化された抗体のために記載された結合及び処理実験の中で用い
ることができる。患者への投与
従来の製薬的に受容できる担体(REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCEを参照
されたい。)中に溶解または懸濁された本発明の複合体は、従来の手順によって
患者に非経口的に投与することができる。投与量は、患者の大きさ、体重、他の
医学的条件を含む因子によって、及び腫瘍の浸潤の段階によって決定されるであ
ろう。これらの決定は、臨床技術分野の専門家による過度の実験を要しない。
次の実施例は、本発明の態様を述べるために提供されるものであり、いかなる
場合でも明細書及び添付の請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限するよう
に解釈されるべきではない。
実施例1ヨウ素化されたフルオレセイン誘導体で標識された抗体
予備的な実験において、ヨウ素化に対するフルオレセインの感度を示すために
、FITC-デキストラン(Sigma Chemicals,FD-20s)を、ヨウ素化タンパク質に対し
て通常用いられる条件下でヨウ素化した。17,000の平均分子量をもつ50μgのFIT
C-デキストランを、同じ重量のIgGを用いて通常得られるのとほぼ同じである30
〜40%の効率で、ヨウ素化した。タンパク質複合前に直ちに放射能標識したFITC
を用いて、ヨードフルオレセインを抗体MA103と複合させた。この複合は、比較
的低い比活性である約0.5mCi/mg(18.5MBq/mg)を結果的に示したが、これは、細
胞表面への抗体結合の後の放射能標識の運命を決定するには十分であった。ヨー
ドフルオレセインの複合の第二の手順は、上記のStrobel et al.によって開発さ
れた方法に続いて、フルオレセイン−ガラクトシドを用いて行われた。ヨウ素化
に続いて、ガラクトース部分をガラクトースオキシダーゼによって酸化し、次に
、シッフ塩
基(Schiff base)による還元的アミノ化によって、MA103上のアミノ基と複合させ
た。この複合方法は、約10%の効率のヨウ素化と約1mCi/mg(37MBq/mg)の比活性
を結果的に示した。IgGサブユニットへのこれらの放射能標識の包含は、SDS-PAG
E(データは示さない。)によって示された。これらの放射能標識を用いた2〜3の
実験において、ヨード−FITCまたはヨード−フルオレセイン−ガラクトースと、
従来のイオジンの間の処理における有意の相違は、検出されなかった(表1)。
使用された第三のヨードフルオレセイン複合体は、ヨード−DTAFであった。ヨ
ード−DTAF標識は、他の非クロラミンTのヨウ素化手順のいずれよりもかなり効
率的であり、3〜5mCi/mg(111〜185MBq/mg)の比活性を結果的に示した。ヨード−
DTAF−MA103は、従来の125Iよりもわずかに良好に、SK-RC-18細胞によって保持
されたが、In-DTPAやDLTほどには良好でなかった(表1)。上澄み液中の分解した
物質のいくらかは、10%TCAによって沈澱し、それゆえ、この放射能標識のために
メタノール沈澱を用いた。従来のイオジン標識を用いた対照実験において、TCA
と培養上澄み液のメタノール沈澱は、区別がつかない結果を示した。
これらのデータは、上記Rushfeldt et al.の結果と一致しないように思われる
。それゆえ、細胞表面レクチンによってガン腫細胞に侵入すると報告されている
、これらの研究者によって用いられたリガンドであるGalNAc-BSAを試験した。こ
のタンパク質は、従来のクロラミンTによるヨウ素化の後に、初めて試験された
。試験されたガン腫細胞のSK-RC-18とヒーラ(HeLa)の両方に、特異的にかつ比較
的高いレベルで結合するように見えた。96個のウェルのプレート中の1個のウ
ェルにおいて、20〜50,000cpmが結合し、そのうち、非特異的結合は、約15%であ
った。しかし、予期せぬことに、この従来のヨウ素化リガンドは、3日以内に分
解物質を本質的に放出せず、細胞によって強く保持されているように見えた。こ
のゆえに、この標識の長い保持は、ヨウ素化の様式(mode)に依存するのではなく
、むしろ運搬役(carrier)のタンパク質に依存すると考えられた。さらなる研究
は、
しかし、リガンドが、細胞よりもむしろ、プラスチックのウェルに結合すること
を示した。この結論を支持する証拠は、次に掲げるものを含む。1)111In標識
で以前行われたような細胞のトリプシニゼーション(trypsinization)は、細胞ペ
レットと放射能の関連を結果的に示さなかった。cpmのほんの1〜2%が、細胞と関
連し、ほんの2%が、トリプシナイズされペレット化された細胞の上澄み液中に存
在した。対照的に、cpmの89〜91%が、空のウェル中に残り、2.0MのNaOHを用い
て抽出された。さらなる実験は、これらのプラスチックに結合したカウント(cou
nts)が、2%のSDSで抽出されないことを示した。2)細胞をもたないが、組織培
養培地でプレインキュベートした空のウェルを用いて行った実験は、細胞を含む
ウェルを用いた場合と非常に似た結合及びプロセシング(processing)を示した。
それゆえ、このリガンドの異化作用の欠如は、細胞よりはむしろプラスチックに
結合しているという事実に寄与し得る。追加の実験は、プラスチックへのリガン
ドの結合が血清タンパク質を必要としないこと、及び、実際に、血清のない培地
中で結合が約3倍に増加すること(このことは、血清タンパク質が部分的に結合
を阻害することを示唆する。)を示した。
本発明の原理は、放射能標識が付着する標的タンパク質(例えば、抗体)の分解
後の放射能標識の運命の分析を基礎とする。この因子は、腫瘍に位置する標的タ
ンパク質によって腫瘍に伝達される放射線の量に大きく影響する。例えば、抗体
異化は、放射免疫療法に通常用いられる同位体の物理的半減期と比べて、比較的
速い。この例の重要な点は、15の異なる抗原と反応する17の抗体の評価に基
づく、実験のための典型的な抗体の選択である(上記Kyriakos et al.及び上記Ma
ttes et al.)。抗体のインターナリゼーションとプロセシングの大抵の以前の研
究は、被覆小胞(coated pit)に入る、急速にインターナライズする抗体を意図
的に選択し、その結果は、急速にインターナライズする抗体にのみ適用されると
考えられてきた(LaBadie et al.,Biochem.J.,152;271(1975); Geissler et a
l.,Cancer Res.,52: 2907(1992);上記Anderson-Berg et al.)。これゆえに、
この研究の主要な結論は、抗体異化が、急速にインターナライズする抗体のため
だけではなく、むしろ細胞表面に結合する全ての抗体のために重要な因子である
ということである。
表1は、抗体MA103と複合する7つの放射能標識を用いて得られた結果の概要
である。21〜69時間からの細胞からの損失率のT1/2は、細胞による標識の保持の
最も意味のある測定を提供する。最も多く残留した標識は、従来のイオジンより
も4〜6倍高いT1/2を有していた。
ヨードフルオレセイン複合体は、DNAと結合するこれらの分子の能力のため
に幾分、研究された。DNAに挿入される125Iの細胞毒性の潜在能力は、よく確
認されており(上記Warters et al.)、テトラヨードフルオレセイン(エリトロシ
ンB)は、死滅した細胞の核と結合することが知られており(McCoy et al.,Canc
er Res.,36: 3339(1976))、ジヨードフルオレセインは、また、死滅した細胞の
核の染色剤である(現結果)。一旦、分子がリソソームから離脱すれば、分子は、
核の中に侵入し、細胞から出る前にDNAやRNAと結合する機会を得る。
DTAF標識は、二つの観点から論ずることができる。それがフルオレセイン誘導
体であれば、ヨウ素化したDTAFは、核構成成分と結合する潜在能力をもつ。しか
し、ヨード−DTAFは、また、上記Rushfeldtらによって、残留(residualizing)標
識として働くと報告されている。ヨード−DTAFを用いた我々の実験は、しかし、
上記Rushfeldtらによって用いられたリガンドであるヨウ素化されたGalNAc-BSA
が、プラスチックのウェルと食欲に結合し、これが、それが分解しない理由であ
ることを示した。プラスチックへのこのリガンドの結合は、異常な性質を有し、
特異
的であると思われる。結合は、7.5%の胎児ウシ血清を含有する組織培養培地を用
いたウェルの一晩の先インキュベーションによって遮断されなかった。それは、
過剰の標識されないリガンドによって80%以上遮断された。この結合の性質は、
タンパク質の広範な修飾によるかもしれないと推測する。全てのアミノ基は、グ
リセルアルデヒドと複合し、約20のカルボキシル基は、炭水化物ハプテンと複
合した。この解釈は、標識した細胞懸濁液を利用した上記Rushfeldtらのin vivo
の実験と一致しない。これらの実験において、細胞は、リガンドを用いて20時
間、インキュベートされ、ピノサイトーシスのためのいくらかの理解(uptake)が
、期待された。プラスチックの皿への小さな分子の結合のような因子から得られ
るもっともらしい結果の可能性を上記のように試験するために、過度の実験は要
しないであろう。
現結果は、腫瘍細胞の生存性を破壊する有効な手段が、オージェ電子を放出す
る放射性同位元素を用いて誘導された核酸を標的とする小さな分子に共有結合で
結合した標的タンパク質(例えば、腫瘍細胞表面抗原に対して相補的な抗体また
はそのフラグメント、またはタンパク質またはポリペプチド、ホルモンまたは成
長因子)からなる複合体を、患者に投与することからなることを示す。複合体は
、腫瘍細胞中にインターナライズ(internalize)され、また、放射能標識された
小さな分子を遊離させるように溶菌的に異化(おそらくはリソソーム膜において)
することが可能でなければならない。この小さな分子は、腫瘍細胞の核の中に拡
散し、好ましくはDNAへの挿入によって、核内に含まれる核酸と結合すること
が可能でなければならない。核酸への接近した近接状態における放射性同位元素
の崩壊は、この分子を分解し、腫瘍細胞の生存性を減少させるはずである。
上述した実験は、標的抗体を含有する複合体に集中したが、他の標的タンパク
質やポリペプチドもまた、本発明を実施する上で適する。そのような標的タンパ
ク質やポリペプチドは、受容体が細胞表面にあり、例えば受容体仲介エンドサイ
トーシスによって細胞に侵入することのできるホルモンや成長因子を含む。
ここで用いられる方法を提供する上記の文献は、参照することによって含めら
れる。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1996年5月29日
【補正内容】
請求の範囲(補正)
1.使用に適するオージェ電子を放出する放射性同位元素で標識された小さな
分子と共有結合によって複合された、腫瘍細胞を標的とするタンパク質またはポ
リペプチドからなり、該複合体は、次の生化学的性質、
(a)該腫瘍細胞の表面への付着、
(b)該表面から該腫瘍細胞の内部へのエンドサイトーシス、
(c)該放射能標識された小さな分子を遊離するための、該腫瘍細胞内に存在
する細胞内溶菌酵素による該複合体の分解、
(d)該遊離した放射能標識された小さな分子の、該腫瘍細胞の核の中への侵
入、
(e)該放射能標識された小さな分子の、該核内に含まれる核酸への挿入、
(f)該腫瘍細胞の核酸を分解するための、挿入された該放射能標識された小
さな分子の放射能標識の崩壊、
を示す、治療上の抗腫瘍複合体。
2.腫瘍細胞を標的とする上記タンパク質またはポリペプチドが、抗体または
そのフラグメントである請求項1に記載の複合体。
3.腫瘍細胞を標的とする上記タンパク質またはポリペプチドが、ホルモンま
たは成長因子である請求項1に記載の複合体。
4.上記使用に適するオージェ電子を放出する放射性同位元素が、125I、188R
h、131I、77Br、255At、213Biからなる群より選ばれる請求項1に記載の複合体
。
5.上記小さな分子が、フルオレセイン、アクリジン、ジアクリジン、フェナ
ントリジン、ビス−フェナントリジン、2−ニトロイミダゾール・フェナントリ
ジン、アミノアクリジン、3−アセトアミド−5−ヨード−6−アミノアクリジ
ン、アントラサイクリン、ビス−アントラサイクリン、臭化エチジウム、メパク
リン、フェナントリジウム、DTAF、DLT、メチジウム・スペルミン、ドー
ノマイシン、アクリジン・オレンジ、ジキノリン、ピリミドン・ヌクレオシド塩
基、キナゾリン、及び8−アミノ−12−オキソ−10,12−ジヒドロインド
ールからなる群より選ばれる請求項1に記載の複合体。
6.上記放射能標識された小さな分子が、核DNAに挿入されることができる
請求項1に記載の複合体。
7.治療学的に有効な量の請求項1に記載の抗腫瘍複合体を、患者に投与する
段階を含む、腫瘍を有する患者の治療方法。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ,UG),
AM,AT,AU,BB,BG,BR,BY,CA,C
H,CN,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,GB
,GE,HU,IS,JP,KE,KG,KP,KR,
KZ,LK,LR,LT,LU,LV,MD,MG,M
N,MW,MX,NO,NZ,PL,PT,RO,RU
,SD,SE,SG,SI,SK,TJ,TT,UA,
UZ,VN