JPH10333703A - 制御装置およびその制御装置の設計方法 - Google Patents

制御装置およびその制御装置の設計方法

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JPH10333703A
JPH10333703A JP16047897A JP16047897A JPH10333703A JP H10333703 A JPH10333703 A JP H10333703A JP 16047897 A JP16047897 A JP 16047897A JP 16047897 A JP16047897 A JP 16047897A JP H10333703 A JPH10333703 A JP H10333703A
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正敬 大澤
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 むだ時間の大きく、かつ特性が変化しやすい
制御対象、例えばクラッチのスリップ回転数などを、応
答性良くかつ安定に制御する。 【解決手段】 制御対象をむだ時間部分とダイナミクス
部分に分け、ダイナミクス部分を2次の線形モデルによ
り近似し、サーボ系であることを加味して、離散時間系
の3次のモデルに拡張する。この3次モデルおよびむだ
時間から、状態予測制御器110を設計し、他方、3次
モデルをもとにスライディングモード制御器120のパ
ラメータを設定する。制御対象をむだ時間部分とダイナ
ミクス部分に分けることにより、低次のモデルを用いる
ことができ、スライディングモード制御の特性を充分に
引き出して、むだ時間が大きくかつ特性が変化すること
のある制御対象を、応答性と安定性を満足させつつ制御
することができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、制御装置およびそ
の制御装置の設計方法に関し、詳しくは一般的な制御対
象についてその状態を目標状態に一致させるよう操作量
指令値を出力し、制御対象の状態を制御する制御装置お
よびかかる制御装置を設計する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】制御理論の発展と共に、種々の制御装置
が設計され、製造されているが、その一つをクラッチの
スリップ制御装置を例に挙げて説明する。クラッチのス
リップ制御装置は、例えばトルクコンバータのロックア
ップクラッチの滑りを制御するものが種々知られてい
る。これらのスリップ制御装置は、トルクコンバータの
入力,出力を直結したのでは低エンジン回転域ではエン
ジンの振動が直接変速機側に伝わって乗り心地を悪化
し、他方回転数の広い範囲で入力,出力の結合を解放し
たのでは、燃費低減作用が有効に活用されないという相
反した問題を解決するものである。
【0003】従来、こうしたスリップ制御装置は、高い
応答性と制御の安定性とをいかに両立させるかという点
を中心に改良が続けられ、例えば現時刻の操作量指令値
を目標スリップ回転速度と実際のスリップ回転速度との
差である制御偏差量と、この偏差量の微分量および積分
量もしくはこの偏差の微分量と更にその二階の微分量か
ら算出するものが提案されている(特公平2−586
号)。あるいは、これらの量を時系列量に展開して操作
量の増分量を算出するものも提案されている(特開昭6
4−30966号)。これらの制御装置では、十分な合
わせ込みがなされていれば、所定の作動を行ない、スリ
ップ量を目標値に安定に維持・制御すると共に、安定性
を損なうことなく目標値に対する高い追従性を実現する
ことができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これら
の制御装置では、制御特性が変動する制御対象、例えば
クラッチのスリップ状態を制御する系などに対して、十
分な制御が実現できないという問題があった。ロックア
ップクラッチならびにスリップ量を制御する油圧制御系
の固体間の差が大きい場合、あるいは制御系が設計され
た初期状態から摩擦材および作動油の劣化によりロック
アップクラッチの摩擦特性、即ちクラッチのμ−v特性
がスリップ速度の安定性を損なうような変化をきたした
場合には、スリップ量を目標値に安定かつ高速に制御す
ることができないのである。この点を図を用いて簡明に
説明する。
【0005】スリップ制御系の特性の変化を操作量指令
値からスリップ速度までの伝達関数のゲインと位相によ
り図示する。図28は、設計時の特性の固体間のバラツ
キを示すグラフである。クラッチの特性は、摩擦材の不
安定さや摩擦材の押しつけ方などにより、固体間で、特
に高周波域でばらつく。また、図29に示すように、摩
擦材がすり減ったり、作動油が経時的,熱的に劣化する
と、特性は、ゲイン・位相特性とも設計時の特性から下
がってくる。従来の制御装置では、こうした制御対象の
特性の大きな変化に対応して、高い応答性と安定性とを
両立させることはできなかった。
【0006】更に、こうした制御特性の変化という問題
に加えて、こうした制御対象では、制御に大きなむだ時
間が存在するという問題があった。例えば、自動変速機
のクラッチの制御を考えると、実際にクラッチを駆動す
る高い油圧を直接制御しようとすると、制御バルブが大
型化することから、コントローラは、駆動油圧より低圧
・低流量で済むパイロット油圧をソレノイドバルブによ
り制御し、このパイロット油圧の変化によりクラッチの
作動油圧を制御するという手法を採るのが一般的であ
る。この場合には、ソレノイドバルブを制御してから実
際にクラッチが動作してその出力側の回転数が変化する
までにはかなりの遅れが存在する。この遅れが、制御上
のむだ時間となり、制御性を向上する上での問題となっ
ていた。
【0007】こうした特性変化の問題は、現実の装置で
は常に存在するので、実際に用いられる制御装置では、
制御の安定性を優先するあまり、制御系の応答性を緩や
かなものとすることが多い。この結果、定常的な運転状
態が長く続くような状況下では、目標スリップ回転速度
を安定に維持するが、入力側であるエンジンのトルク変
動を遮断したり、目標スリップ回転速度が変動する過渡
運転状態に追従してトルクの伝達効率を高めることがで
きなかった。
【0008】本発明の制御装置は、こうした問題を解決
し、制御対象に特性変化が生じた場合にも安定性を損な
うことがなく、かつ制御における高い応答性を実現する
ことを目的している。かかる制御装置法の好適な適用例
として、クラッチのスリップ制御装置をあげることがで
きる。本発明は、こうした目的を達成するために、次の
構成を採った。
【0009】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】本
発明の制御装置は、制御特性上大きなむだ時間を有する
制御対象の操作量指令値を求め、該操作量指令値を該制
御対象に出力することにより、該制御対象の状態を目標
状態に一致させる制御装置であって、前記制御対象の制
御状態を検出する制御状態検出手段と、該検出された制
御状態から、前記むだ時間後の該制御対象の状態量を予
測する状態予測手段と、前記制御対象を低次の線形モデ
ルにより同定して得られたモデルを用い、かつ前記予測
された状態量を入力としてスライディングモード制御を
行なって、前記操作量指令値を出力するスライディング
モード制御手段とを備えたことを要旨とする。
【0010】こうした制御装置によれば、制御特性上大
きなむだ時間を有する制御対象に対して、これを直接制
御の対象とするのではなく、制御状態からむだ時間後の
制御対象の状態量を予測し、これを用いてスライディン
グモード制御を行なう。したがって、スライディングモ
ード制御を低次の線形モデルにより同定して得られたモ
デルを用いて行なうことができ、制御特性上大きなむだ
時間を有する制御対象に対しても、スライディングモー
ド制御の特性を十分に引き出すことができる。従って、
制御対象の特性が大きく変化したり、大きな外乱が存在
する場合やむだ時間が変動するような場合でも、スライ
ディングモード制御による制御の安定性、応答性の良さ
を十分に享受することができる。こうした利点は、制御
対象を、単に高次のモデルにより同定した場合には、得
られないものである。
【0011】制御特性上の大きなむだ時間としては、該
制御対象の応答時間と同じオーダーもしくは応答時間よ
り大きいものを考えることができる。もとより、むだ時
間は、応答時間より短いものを制御対象としても差し支
えない。こうした制御装置は、例えば、自動変速機のク
ラッチを制御対象とするものなどを考えることができ、
直接はスリップ回転数を制御するものを考えることがで
きるが、こうした制御対象では、制御対象の応答時間は
数十ミリ秒、むだ時間としても同じ程度のオーダーとな
ることが多い。本発明の制御装置は、こうした長いむだ
時間を持つ系を制御対象とするとき、特に好適である。
【0012】こうした構成では、むだ時間後の制御対象
の状態量の予測を、制御対象の内部状態量および過去の
操作量指令値を用いて行なうものとすることができる。
また、スミス法によりむだ時間後の状態量を予測する構
成も好適である。
【0013】こうした制御装置を設計する本発明の設計
方法は、制御特性上大きなむだ時間を有する制御対象の
操作量指令値を求め、該操作量指令値を該制御対象に出
力することにより、該制御対象の状態を目標状態に一致
させる制御装置を設計する方法であって、(a)前記制
御対象の操作量指令値と制御状態との関係から該制御対
象のモデルを同定する工程、(b)該モデルを、むだ時
間部分とダイナミクス部分とに分離する工程、(c)該
ダイナミクス部分については、低次の線形モデルにより
近似する工程、(d)該線形モデルおよび前記むだ時間
に基づいて状態予測制御器を設計する工程、(e)前記
線形モデルに基づいて、前記状態予測制御器の出力を制
御入力とするスライディングモード制御の設計パラメー
タを設定する工程を備えたことを要旨としている。
【0014】この設計方法によれば、制御対象のモデル
を同定した後、このモデルをむだ時間部分とダイナミク
ス部分とに分離し、ダイナミクス部分については、低次
の線形モデルにより近似する。その後、この線形モデル
およびむだ時間に基づいて状態予測制御器を設計し、こ
の状態予測制御器の出力を制御入力とするスライディン
グモード制御の設計パラメータを設定する。
【0015】工程(c)における低次の線形モデルとし
ては、二次の線形モデルを用いることができる。また、
工程(c)の後で、前記線形モデルを、制御対象の状態
とその目標値との偏差を積分する積分器を加えて該モデ
ルを拡大する工程を備えるものとし、工程(d)(e)
では、拡大されたこの線形モデルを用いることも可能で
ある。こうした制御装置の設計方法は、自動変速機のク
ラッチを制御対象とし、直接的にはスリップ回転数を制
御する制御装置の設計方法に適用することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】以上説明した本発明の構成・作用
を一層明らかにするために、以下本発明の好適な実施例
について説明する。図1は、本発明の一実施例としての
自動変速機10におけるクラッチ制御装置の全体構成を
示す概略構成図である。自動変速機10の制御は、エン
ジンEGの制御と関連しているため、図1では、エンジ
ン制御コンピュータ50を、自動変速制御コンピュータ
30と共に示している。なお、自動変速機10は、アク
セルペダルAPにより開度が調整されるスロットルバル
ブTHVにより吸入空気量が調整されるエンジンEGと
一体に構成されており、内部には後述する油圧を制御す
る油圧制御装置20が組み込まれている。また、エンジ
ン回転速度を検出するセンサなどのセンサ群が、エンジ
ンEGや自動変速機10およびその周辺に設けられてお
り、これらのセンサ群からの信号が、自動変速制御コン
ピュータ30やエンジン制御コンピュータ50に接続さ
れている。実施例のクラッチ制御装置は、後述するよう
に、各種のセンサ群40からの信号を入力しつつ、自動
変速機10の変速点においてスリップ速度Nfukiを
目標回転数N*に一致させるよう制御を行なう。
【0017】このスリップ制御装置には、種々のセンサ
群40が設けられている。センサ群40からの信号を列
記すると、エンジン制御コンピュータ50に入力されて
いる信号としては、エンジン回転速度、吸入空気流量、
吸入空気温度等がある。また、エンジン制御コンピュー
タ50および自動変速制御コンピュータ30に入力され
ている信号としては、スロットル開度、車速、エンジン
水温、ブレーキスイッチなどがある。更に、自動変速制
御コンピュータ30に入力されている信号としては、シ
フトポジション、パターンセレクトスイッチ、オーバド
ライブスイッチ、油圧制御装置20内の後述するC0セ
ンサ,C2センサの出力、トランスミッション油温、マ
ニュアルシフトスイッチなどがある。
【0018】エンジン制御コンピュータ50は、吸入空
気通路に設けられた第2スロットルバルブの開度を制御
するスロットルモータMやエンジンEGに設けられた燃
料噴射弁あるいはイグナイタなどに接続されており、燃
料噴射量や点火時期の制御を行なっている。自動変速制
御コンピュータ30は、油圧制御装置20に設けられた
ソレノイドバルブを制御することにより、ソレノイドバ
ルブにより制御される各油圧の制御を介して、自動変速
機10を制御する。なお、自動変速制御コンピュータ3
0からソレノイドバルブへの制御信号は、エンジン制御
コンピュータ50にも入力されており、エンジン制御コ
ンピュータ50は、自動変速機10の動作状態を知るこ
とができる。エンジン制御コンピュータ50と自動変速
制御コンピュータ30とは、このほか、現在の変速段の
情報や、現在のエンジンEGの負荷を示す信号(Q/
N)などをやり取りしている。したがって、エンジン制
御コンピュータ50は、自動変速機10の動作状態を知
って、エンジンEGの燃料噴射量や点火時期を制御する
ことができるし、自動変速制御コンピュータ30は、現
在のエンジンEGの動作状態を知って、変速段の切り換
え制御等を行なうことができる。
【0019】実施例のクラッチ制御装置は、自動変速制
御コンピュータ30の内部に実現される装置である。こ
のクラッチ制御装置は、自動変速機のB3コントロール
バルブと呼ばれるバルブの開度を制御することによりク
ラッチの解放側の回転数Nfukiを目標回転数N*に
制御するものである。このクラッチ制御装置の設計方法
および内部構成について説明する前に、自動変速機10
の構造について、簡略に説明する。図2は、自動変速機
10の構造を示す模式図である。また、図3は、各変速
壇にいて、各コントロールバルブやスイッチがどのよう
に状態になっているかを示す説明図である。
【0020】図2に示すように、自動変速機10の機構
部は、前置式オーバドライブプラネタリギヤユニットか
らなる副変速機構Dと、単純連結3プラネタリギヤトレ
インからなる前進4速・後進1速の主変速機構Mとを組
み合わせた5速構成となっており、この機構部がロック
アップクラッチL付きのトルクコンバータTに連結され
ている。
【0021】副変速機構Dは、前置式オーバドライブプ
ラネタリギヤユニットを構成するサンギヤS0,キャリ
アC0,リングギヤR0に関連してワンウェイクラッチ
F−0、これに並列に結合された多板クラッチC−0お
よびこれと直列に結合された多板ブレーキB−0を備え
ている。主変速機構Mは、サンギヤS1〜S3、キャリ
アC1〜C3、リングギヤR1〜R3をそれぞれ一つず
つ備えたギヤユニットP1からP3を備え、これらのギ
ヤユニットP1〜P3を、変速要素として適宜直結し
て、単純連結3プラネタリギヤトレインを構成してい
る。各ギヤユニットP1〜P3の変速要素に関連して、
多板クラッチC1〜C3、バンドブレーキB−1、多板
ブレーキB−2〜B−4、ワンウェイクラッチF−1,
F−2が配設されている。これらのギヤユニットの連結
構成やクラッチおよびブレーキの配置などは、周知のも
のである。なお、自動変速機10には、クラッチC−0
のドラムの回転を検出するC0センサSN1、クラッチ
C−2のドラムの回転を検出するC2センサSN2、多
板クラッチC1〜C3の解放側の回転数であるスリップ
速度Nfukiを検出するスリップ速度センサSN3な
ども設けられている。また、図2には示していないが、
各クラッチおよびブレーキには、それらの摩擦材を係合
・解放操作するピストン・シリンダ機構からなる油圧サ
ーボ機構が設けられている。
【0022】この自動変速機10では、図1に示したエ
ンジンEGの出力軸の回転は、トルクコンバータTを介
して副変速機構Dの入力軸INに伝達され、入力軸IN
に連結するキャリアC0を常時回転させている。このキ
ャリアC0の回転は、上記油圧制御装置20による制御
の下で各摩擦係合要素を解放した状態、あるいはブレー
キB−0のみ係合させた状態とすることにより、出力軸
OUに対して遮断され、いわゆるニュートラル状態とな
る。
【0023】自動変速機10を第1速の変速状態とする
には、クラッチC−0を係合させて副変速機構Dを直結
とし、主変速機構MのクラッチC−1を係合し、ワンウ
ェイクラッチF−2を係合状態とする他は、他の摩擦係
合要素を全て解放とする。このとき、入力軸INの回転
は、リングギヤR0,上記クラッチC−1経由でギヤユ
ニットP3のサンギヤS3に入る。ギヤユニットP3の
リングギヤR3は、ワンウェイクラッチF−2により逆
回転が阻止されているので、入力軸INの回転は、最終
的には、キャリアC3から出力軸OUに、第1速回転と
して出力される。
【0024】自動変速機10を第2速、第3速・・に各
々設定する場合の各摩擦係合要素の状態を図3に示し
た。図3では、○印はクラッチおよびブレーキについて
は係合状態にあることを示し、ワンウェイクラッチにつ
いてはロック状態にあることを示している。また、●印
は、エンジンブレーキ時のみの係合を示し、△印は、係
合または解放状態にあることを示す。更に、◎印は、動
力伝達に関与しない係合を示している。図3に示すよう
に、各係合要素の状態を制御することにより、自動変速
機10の出力軸OUは、ニュートラル状態、逆転状態
(車輌は後退)、第1,第2,第3,第4,第5速回転
を出力する状態の変速状態となる。各速回転を出力する
場合の副変速機構Dや主変速機構Mの動作状態は、上述
した第1速回転の場合と同様に考えればよいので、詳細
な説明は省略する。
【0025】ここで、本実施例のクラッチ制御装置が直
接制御する対象について詳しく説明する。図4は、実施
例のクラッチ制御装置が制御する対象であるB−3コン
トロールバルブ25と、このB−3コントロールバルブ
25のパイロット圧を調整するソレノイドバルブSL3
と、B−3コントロールバルブ25から出力される作動
油圧により駆動されるブレーキB−3を示す模式図であ
る。ここで、ブレーキB−3は、その摩擦状態が可変さ
れることでギヤユニットP1を経由して出力される回転
数を変更するから、全体としては滑り回転数の制御がな
されるクラッチとして機能していると言える。ソレノイ
ドバルブSL3を制御するとにより、このB−3コント
ロールバルブ25、ひいてはこのクラッチにより制御さ
れる第2速回転における出力軸OUの回転数を調整する
ことができる。
【0026】ソレノイドバルブSL3は、デューティ制
御される電磁弁であり、コイルに印加される電圧信号の
パルスのデューティを制御することにより、スプール弁
開度調整され、このスプール弁開度により定まるパイロ
ット圧がB−3コントロールバルブ25に供給される。
B−3コントロールバルブ25は、バネ22により一方
向に付勢されたスプール24を備え、ソレノイドバルブ
SL3を介して第1ポート25Aに供給されたパイロッ
ト圧と、スプール24のバネ22による付勢力との釣り
合いにより、スプール24を動作させる構造となってい
る。スプール24は、バネ22の付勢力とパイロット圧
とが釣り合う位置で停止するから、自動変速制御コンピ
ュータ30は、ソレノイドバルブSL3に印加する動作
電圧のデューティを制御することにより、パイロット圧
を調整して、スプール24の位置を自由に制御すること
ができる。なお、パイロット圧によりスプール24を上
向きに駆動しようとする力(制御力)FVが作用する
と、スプール24は、B−3コントロールバルブ25の
シリンダ25Dとの間の摩擦により、摩擦力FRDを生
じる。この摩擦は、スプール24が動き始めるまでは静
摩擦係数による摩擦力であり、一旦移動し始めると動摩
擦係数による摩擦力となるが、システムの設計を簡略化
するため、本実施例では、図5に示すように、パイロッ
ト圧とバネ22の付勢力との差圧によりスプール24に
作用する制御力に対して、摩擦力FRDは、駆動力FV
が所定範囲ではこれに比例し、所定範囲により大きい場
合には一定になるものとして近似した。
【0027】B−3コントロールバルブ25の第2ポー
ト25Bには、自動変速機10の作動用の元圧が供給さ
れている。ソレノイドバルブSL3を介して供給された
パイロット圧が上昇し、スプール24がバネ22の付勢
力に抗して押し上げられると、元圧の一部が第3ポート
25Cを介して出力され、主変速機構MのブレーキB−
3に供給される。この結果、ブレーキB3は供給された
元圧に応じた制動力を発生し、プラネタリギヤユニット
P1の動作状態を変更する。したがって、ソレノイドバ
ルブSL3のデューティduを変更してから、実際にプ
ラネタリギヤユニットP1が動作して、軸の回転数が変
換するまでには、大きな遅れが存在する。本実施例では
この遅れ(むだ時間)はおよそ50〜70[msec]程度
であった。
【0028】次に、本実施例における制御上の構成につ
いて説明する。図6は、本実施例の対象となっているク
ラッチの制御システムのブロック構成図である。図示す
るように、制御の直接の対象となっているのは、B−3
コントロールバルブ25であり、このB−3コントロー
ルバルブ25から主変速機構Mに供給されるB3油圧が
調整され、この油圧によりギヤトレインとクラッチパッ
クが制御され、自動変速機10内のスリップ速度Nfu
kiが変化することになる。もっともスリップ速度Nf
ukiは、B3油圧のみでは決まらず、スロットル開度
θに基づいて運転されるエンジンEGの出力軸の回転に
より回転するトルクコンバータTの出力回転数によって
も影響を受ける。本実施例では、スリップ回転速度Nf
ukiを制御入力として受け取り、B−3コントロール
バルブ25をソレノイドバルブSL3に印加される電圧
のデューティにより制御するコントローラ100が、自
動変速制御コンピュータ30内に構成されている。コン
トローラ100の出力uがB−3コントロールバルブ2
5に対する操作量指令値に該当し、ソレノイドバルブS
L3のデューティ信号として出力される。
【0029】次に、このコントローラ100の設計手法
と、設計されたコントローラの内部構成などについて説
明する。最初に、コントローラ100の内部構成につい
て大まかに説明する。このコントローラ100は、図7
に示すように、状態予測制御器110、スライディング
モード制御器120、フィードフォワード制御器13
0、積分器140、および差分器150を備える。コン
トローラ100に対する制御入力であるスリップ速度N
fukiは、主変速機構M内部に設けられたセンサSN
3から入力される。このスリップ速度Nfukiの目標
値N*は、自動変速制御コンピュータ30の内部で、現
在のエンジンEGや自動変速機10の動作状態、車速な
どから決定される。
【0030】積分器140は、この実際のスリップ速度
Nfukiと目標値N*との偏差を累積するものであ
り、その出力x3(k)は、コントローラ100が扱う
状態量の一つとして状態予測制御器110に出力されて
いる。他方、差分器150は、所定のサンプリング時間
T以前と現在との間のスリップ速度Nfukiの偏差を
求めるものである。即ち、差分器150は、スリップ速
度Nfukiの微分値を求める手段であり、この差分器
150の出力x2(k)も、状態量の一つとして状態予
測制御器110に出力されている。状態予測制御器11
0は、これらの状態量x3(k),x2(k)と共に、
スリップ速度Nfuki自体も、状態量x1(k)とし
て入力している。これらの状態量x1(k)等は、サン
プリングタイム△Tで繰り返される制御のk回目におけ
る量として、即ち離散化されたものとして示した。
【0031】状態予測制御器110は、これら3つの状
態量x1(k),x2(k),x3(k)に基づいて、
むだ時間後の内部状態量xx1(k),xx2(k),
xx3(k)を求めるものである。ここで、xx(k)
とは、現在の制御タイミング(k)からサンプリングタ
イム△Tでn回後の時点の状態量の予測値を示してい
る。即ち、状態予測制御器110の出力する内部状態量
xx1(k)等は、むだ時間が経過した後の制御対象の
内部状態を先取りした予測値となっている。状態予測制
御器110の設計方法およびその内容については、後で
詳しく説明する。
【0032】次にスライディングモード制御器120に
ついて簡単に説明する。スライディングモード制御器1
20は、いわゆるスライディングモード制御理論に基づ
いてB−3コントロールバルブ25を制御するソレノイ
ドバルブSL3のデューティを制御する制御器である。
スライディングモード制御の理論については、「スライ
ディングモード制御」(コロナ社、野波健蔵・田宏奇共
著)に詳しいが、制御対象に対して用意した切り換え関
数により位相空間を二つの領域に切り分けて考察する
と、システムの位相空間上での挙動は、全く異なる二つ
の挙動から成り立っているとの知見に基づく可変構造制
御系の理論である。二つの異なる挙動の一つは、到達モ
ード(非スライディングモード)であり、位相平面上の
任意の場所から出発して軌跡は、切換線に向かって動
き、有限時間で切換線に到達する。もう一つの挙動は、
スライディングモードであり、この軌跡は位相平面上の
原点に漸近的に近づく。
【0033】スライディングモード制御を実現するため
には、次の手法による。先ず制御対象が次式(1)によ
り表わされるものとする。
【0034】
【数1】
【0035】ここで、xは内部状態量を示すn次元のベ
クトルであり、uは系の制御入力を示すm次元のベクト
ルである。この時、σ(x)のようなベクトル表現でm
個の切換関数が表わされ、可変制御構造は、次式(2)
により表わされる。
【0036】
【数2】
【0037】この結果、次の条件を満たすように切換面
σ(x)と可変構造制御入力を設計すれば、スライディ
ングモード制御が実現される。 与えられた制御対象の次数より低次数のシステムダイ
ナミクスを表わす切換面σ(x)を設計する 切換面の外にあるどのような状態xも、有限時間内に
切換面に到達するような可変構造制御入力u(x,t)
を設計する。 なお、で設計する低次数のシステムは、一般的にはn
−m次元とすることが望ましい。このように設計すれ
ば、切換面上では望ましいシステムダイナミクスに追従
するようにスライディングモードか発生する。この場
合、システム全体はグローバルに見て漸近安定となる。
なお、本実施例で用いるスライディングモード制御器1
20は、スリップ速度の目標値Nfukiが変化するサ
ーボ系であり、スライディングモード制御のサーボ制御
系の設計は、同書第141頁第1行目から第144頁第
2行目までに詳しい。
【0038】以上の構成を前提として、次に、本実施例
のクラッチ制御装置の設計方法と、その結果得られる制
御装置の内容について説明する。図8は、実施例のクラ
ッチ制御装置の設計方法を示す工程図である。この工程
図に従って、設計方法を説明する。 (1)工程S10−制御対象のうち油圧制御系のモデル
を同定する 最初に、制御対象のモデルを同定する作業を行なう。制
御対象は、図9に示すように、ソレノイドバルブSL3
のデューティuを操作量指令値として受け、このデュー
ティuにより油圧制御装置20内のB−3コントロール
バルブ25が動作し、B−3コントロールバルブ25か
ら供給される制御油圧PB3により自動変速機10のギ
ヤトレーン部が動作し、最終的に解放側のクラッチのス
リップ速度Nfukiが変化する系である。この系に対
して、操作指令値であるu,B−3コントロールバルブ
25の制御圧力PB3の関係を多数得て、クラッチ油圧
制御系のモデル同定する作業を行なう。
【0039】(2)工程S20−制御対象のうちギヤト
レーン部のモデルを同定する 次に、制御対象の後段であるギヤトレーン部のモデル
を、制御油圧PB3を入力とし、スリップ速度Nfuk
iを出力として、多数のデータを取り、これらの入出力
データからギヤトレーン部のモデルを同定する作業を行
なう。
【0040】(3)工程S30−工程S10,S20で
求めたモデルを結合する 上記の二つの工程で求めたモデルを直列結合し、制御対
象全体を表わす同定モデルを作成する。
【0041】(4)工程S40−モデルの分離 工程S40で得たモデルを、むだ時間部分とダイナミク
ス部分に分離し、ダイナミクス部分は2次の線形モデル
で近似する処理を行なう。この工程で分離されたダイナ
ミクス部分は、連続時間系では次式(3)のように表わ
される。
【0042】
【数3】
【0043】(5)工程S50−系の拡大 次に、この系を、目標値に追従してスリップ速度Nfu
kiが変化するサーボ系とするため、スリップ速度の目
標値N*と検出されたスリップ速度Nfukiとの偏差
を時間積分したものであるx3を用いて拡大する。即
ち、図7に示した積分器140の出力を付け加えるので
ある。拡大された系は次式(4)により表わされる。
【0044】
【数4】
【0045】(6)工程S60−制御周期の決定 この制御系を、次の工程S70で離散時間モデルに変換
するために、制御周期(サンプリングタイム)△Tを決
定する処理を行なう。制御周期は、必要な行列演算を自
動変速制御コンピュータ30が行なうのに要する時間を
基礎として決定される。本実施例では、後述するよう
に、制御周期△Tは、約5ミリセカンドに決定された。
【0046】(7)工程S70−離散時間モデルへの変
換 次に、工程S60で決定された制御周期△Tを用いて、
式(4)を離散時間モデルに変換し、次式(5)の状態
方程式を得る。この式(5)は、制御周期△Tで繰り返
し制御される場合を示し、kは現在の制御のタイミング
を示す変数であり、k+1は次回の制御タイミングを示
す。また、X(k)は、x1(k),x2(k),x3
(k)からなるベクトルである。更に、Ad,Bd,C
dは、式(4)で表わされた連続時間モデルを3次の離
散時間モデルへ変換した場合の係数ベクトルである。
【0047】
【数5】
【0048】式(5)の状態方程式において扱われる状
態量は、スリップ速度Nfukiに相当する量x1
(k),スリップ速度Nfukiの微分値x2(k),
およびこの実スリップ速度Nfukiと目標値N*との
偏差の積分値x3(k)であり、微分値x2(k)と積
分値x3(k)とは次のように定義される。 x2(k)={x1(k)−x1(k−1)}/△T x3(k)=x3(k−1)+{N*−x1(k)}・
△T 以上でダイナミクス部分の設計が完了した。
【0049】(8)工程S80−状態予測制御器110
の設計 以上の工程により得られた3次モデルとこの制御対象の
むだ時間とにより状態予測制御器110を設計する。こ
の状態予測制御器110は、むだ時間Lに相当する時間
後の制御対象の内部状態量を予測するものであり、式
(5)の状態方程式に基づいて、むだ時間に相当する過
去のn回分の操作量指令値u(k−n),u(k−(n
−1)),・・・u(k−1)と現在の状態量X(k)
とから、むだ時間L秒先の内部状態量の推定値xx1
(k),xx2(k),xx3(k)を求めるものであ
る。ここで、演算に用いる過去の操作量指令値の数n
は、n=L/△Tとして求めることができる(但し、n
は正の整数)。即ち、状態予測制御器110は、制御対
象となっているクラッチ速度の制御系のモデルを内部に
持つことにより、このモデルに従って、予測を行なう時
点の内部状態量X(k)と過去のn回分の操作量指令値
uとから、むだ時間L後の状態量を推定するものであ
る。式(5)に基づいて設計される状態予測制御器11
0は、次式(6)により表わすことができる。
【0050】
【数6】
【0051】以上の工程により、状態予測制御器110
の設計が完了した。次にスライディングモード制御器1
20を設計する。 (9)工程S90−スライディングモード制御器120
の設計 スライディングモード制御器120の各パラメータは、
上述した式(5)の3次モデルを基に設定する。まず、
スライディングモード制御器120の設計において、切
換平面を次式(7)のように措定する。なお、以下の説
明では、記載の煩雑を避けて、制御のタイミングを示す
添え字(k)は総て省略したが、スライディングモード
制御器120も状態予測制御器110と同様、離散時間
系で既述され、設計されることに変わりはない。
【0052】
【数7】
【0053】ここで、 σ・(dσ/dt)<0 が満たされるように制御すればスライディングモードが
発生し、状態量は切換超平面σ=0に拘束される。式
(7)を満たす操作量指令値u(k)は、次式(8)に
示す二つの制御入力Ueq,Unlの和として構成され
る。
【0054】
【数8】
【0055】上述した式(7)および式(8)に示した
ように、スライディングモード制御器120設計上のパ
ラメータは、S1,κ,ξの3つの係数がある。これら
の係数のうち、S1は閉ループ系の位相を進めるパラメ
ータであり、κはスリップ速度Nfuki(即ち状態量
x1)の応答性に直接関与するパラメータである。した
がって、これらのパラメータを適宜増減することによ
り、所望の応答性と安定性の下でスライディングモード
制御を実行するようスライディングモード制御器120
を設定することができる。
【0056】(10)工程S100−システムの結合 上述した状態予測制御器110とスライディングモード
制御器120とを結合し、全体としてコントローラ10
0を構成する。この結果、図7に示したコントローラ1
00が構成される。なお、図7では、フィードフォワー
ド制御器130が記載されているが、これは目標値N*
等が大きく変化した際、スリップ速度Nfukiの目標
値N*からのずれの検出を待つことなく、コントローラ
100の出力である操作量指令値uに所定の制御量を入
れて、制御の応答性を改善するものである。上述したス
ライディングモード制御器120は優れた安定性を備え
るから、目標値N*が大きく変化した場合などに、フィ
ードフォワード制御器130により、操作量指令値を所
定量調整しても、ハンチング等を起こすことなく、安定
な制御が実現される。
【0057】以上の工程により得られたコントローラ1
00を用いて実際に自動変速機10のB−3コントロー
ルバルブ25を用いてスリップ速度Nfukiを制御し
た。以下に、この制御例を、従来の制御装置による制御
特性と対比しつつ示す。工程S50で求め、式(4)と
して表わされた制御対象の連続時間モデルにおける係数
として、本実施例では、 a1=269.0 a2=38.5 b=5.16 を得た。
【0058】これを工程70において、サンプリングタ
イム△Tを4[msec]として離散時間のモデルに変換し
たところ、状態方程式(5)の各係数Ad,Bd,Cd
は、次の通りとなった。
【0059】
【数9】
【0060】この3次の離散時間系モデルの係数から状
態予測制御器110係数Adn ,Dを求め、次の値を得
た。なお、このスリップ速度Nfukiの制御系の遅れ
時間としては、初期値として64[msec]を見込んだの
で、状態予測制御器110が扱うn回分のデータとして
は、制御周期が4[msec]であることから、64/4=
16回分とした。
【0061】
【数10】
【0062】更に、式(7),(8)で表わされるスラ
イディングモード制御器120の各係数は、実験を繰り
返し以下の値に設定した。 S1=35,κ=8.75,α1=0,α2=0,α3
=30
【0063】次に、本実施例の自動変速制御コンピュー
タ30が実行する処理について説明する。自動変速制御
コンピュータ30は、内部に周知のCPU,RAM,R
OM等を有し、予めROMに記憶されたプログラムに従
って、自動変速機10の油圧制御装置20の各ソレノイ
ドバルブを制御している。自動変速制御コンピュータ3
0は、車速やアクセル開度開度等に基づいて、自動変速
機10の変速点を切り換える制御を行なうが、変速点制
御の一つとして、スリップ速度Nfukiを所望の値に
調整している。この制御は、上述したコントローラ10
0による制御であって、具体的には、自動変速制御コン
ピュータ30により行なわれる。即ち、コントローラ1
00、ひいてはその内部の状態予測制御器110,スラ
イディングモード制御器120は、自動変速制御コンピ
ュータ30が、これらの制御器に対応するプログラムを
実行することにより実現されるものである。図10は、
このスリップ速度Nfukiの制御の一例を示すフロー
チャートである。
【0064】図10に示したスリップ速度Nfuki制
御ルーチンが開始されると、まずスリップ速度Nfuk
i,スロットル開度θth等を入力する処理をおこなう
(ステップS200)。次に、スロットル開度θth等
に基づいて、目標回転数N*を求める処理を行ない(ス
テップS201)、実際のスリップ速度Nfukiと目
標回転数N*との偏差eを求める処理を行なう(ステッ
プS202)。更に、この偏差eを積分する処理(ステ
ップS203)と、スリップ速度Nfukiの微分値を
求める処理(ステップS204)とを行なう。偏差eの
積分値が、上述した式のx3に、微分値がx2に、スリ
ップ速度Nfukiがx1にそれぞれ相当する。そこ
で、次にこれらの状態量を上述した式(6)に算入し、
予測値xx1,xx2,xx3を求める処理を行ない
(ステップS205)、更にこれらの予測値を用いて、
スライディングモード制御の式(8)に基づいて、操作
量指令値u(k)であるソレノイドバルブSL3のデュ
ーティを求める処理を行なう(ステップS206)。こ
の操作量指令値u(k)は、実際にソレノイドバルブS
L3に出力される(ステップS207)。この結果、ソ
レノイドバルブSL3の開度の制御がなされ、B−3コ
ントロールバルブ25の動作量を介して、スリップ速度
Nfukiが目標回転数N*に調整されることになる。
【0065】かかる処理を繰り返し実行することによ
り、自動変速機10のスリップ速度Nfukiは常時目
標回転数N*に調整されることになるが、変速点が切り
換えられる場合には、目標回転数N*が変更される。こ
うした場合のスリップ速度Nfukiの制御例を、従来
のPID制御との比較において以下に示す。図11は、
自動変速機10のクラッチの解放側回転数、即ちスリッ
プ速度Nfukiの目標値が26rpmだけ増加した場
合の実際のスリップ速度Nfukiの制御の様子を示す
グラフである。このとき、自動変速機10の油圧制御装
置20内の油温80[℃]、B−3コントロールバルブ
25の摩擦係数0.13であった。目標回転数N*の変
化に対して本実施例のコントローラ100は、良好な応
答性、安定性を実現していることが分かる。これに対し
て、従来のPID制御による制御例を図12に示す。図
11および図12の比較からも、本実施例の状態予測制
御器110とスライディングモード制御器120とを備
えたコントローラ100の優れた制御特性は諒解される
が、本実施例のコントローラ100の優れた特性は、制
御対象であるB−3コントロールバルブ25やギヤトレ
インなどの特性が変動した場合に一層明らかになる。
【0066】図13は、制御対象であるB−3コントロ
ールバルブ25およびギヤトレインを含む系全体のむだ
時間が約30[msec]ほど増加した場合の実施例のコン
トローラ100による制御特性を示している。他方、同
様の条件下で、従来のPID制御装置の制御特性を図1
4に示した。図示するように、本実施例のコントローラ
100によれば、むだ時間が変動しても、制御特性はや
やアンダシュート,オーバシュートが大きくなった程度
であるが、従来のPID制御では、スリップ速度Nfu
kiは大きく変動し、収束せず、ハンチングを起こして
いる。これは、PID制御が制御対象の特性が大きくは
変わらないことを前提として諸係数を最適に合わせ込ん
でおり、制御対象のむだ時間などが変動すると、これに
対応できないからである。同様に、油圧制御装置20内
の作動油の温度が40[℃]に変化した場合、図15に
示すように、本実施例のコントローラ100による制御
では、目標回転数N*が変動してもスリップ速度Nfu
kiはこれに追従して制御されるのに対して、図16に
示すように、従来のPID制御ではスリップ速度Nfu
kiは大きく変動してしまう。更に、図17,図18
は、クラッチの摩擦係数が0.11に変化した場合のコ
ントローラ100と従来のPID制御との制御例を示し
ている。この場合にも、本実施例のコントローラ100
は優れた制御特性を示す。
【0067】更に、本実施例によれば、制御対象をむだ
時間部分と2次の線形モデルとに分離して設計した。こ
の結果、ダイナミクス部分は、基本的に2次の線形モデ
ル(サーボ系にするために最終的なモデルは3次)とい
う比較的単純なモデルを用いながら、極めて優れた制御
特性を得ることができた。本来むだ時間を含む系をその
まま表現しようとすると、高次のモデルを用いざるを得
ない。しかし、スライディングモード制御は、高次のモ
デルに対してはさほど有効性を示さない。また、高次の
モデルを用いる場合、解が複雑になり、実際の制御時に
おける演算量も大きくなって制御周期を短くすることが
困難である。これに対して、本実施例では、むだ時間部
分とダイナミクス部分を分離してから、ダイナミクス部
分にスライディングモード制御を適用しているので、単
純なモデルを用いることができ、構成の簡略化、制御周
期の短縮化に寄与するところは大きい。また、スライデ
ィングモード制御の優れた特性を十二分に引き出すこと
ができるので、制御対象の特性が大きく変動する場合
(例えば、摩擦係数の大きな変動、油温の大きな変動)
にも、応答性と安定性を満足した制御を実現することが
できる。更に、むだ時間部分に対しては状態予測制御器
110を用いてむだ時間後の状態量を予測しているの
で、むだ時間の大きな油圧および摩擦という現象を用い
た対象に対して、応答性を確保したまま安定性に優れた
制御を行なうことができる。
【0068】なお、むだ時間の予測は、状態予測制御器
110以外の構成によって行なうものとしても良い。例
えば、図19に示すスミス法によるむだ時間補償なども
採用可能である。図19では、スミス法補償部110に
よりむだ時間を補償した状態量xx1,xx2,xx3
と外乱に対する補償成分xM1,xM2,xM3とを加
算して、スライディングモード制御器120の状態量x
h1,xh2,xh3としている。スミス法によるむだ
時間補償は、伝達関数を用いて設計するものであり、む
だ時間が一定という前提で設計する周知のものである。
【0069】次に本発明の第2実施例について説明す
る。第2実施例は、発明の制御装置をロックアップクラ
ッチのスリップ制御装置が適用したものである。図20
は、このスリップ制御装置が適用される車両用動力伝達
装置を示す図である。まず、実施例におけるクラッチの
スリップ制御装置のハードウェア構成について説明す
る。図20に示すように、エンジン210の動力は、ロ
ックアップクラッチ付トルクコンバータ212および3
組の遊星歯車ユニットなどから構成された有段式自動変
速機214、更には図示しない差動歯車装置などを経て
駆動輪へ伝達されるようになっている。トルクコンバー
タ212は、エンジン210のクランク軸216と連結
されているポンプ翼車218と、自動変速機214の入
力軸220とに固定されている。このトルクコンバータ
212は、ポンプ翼車218からのオイルを受けて回転
するタービン翼車222と、非回転部材であるハウジン
グ226に一方向クラッチ224を介して固定されたス
テータ翼車228と、ダンパ230を介して上記入力軸
220に連結されたロックアップクラッチ232とを備
えている。ロックアップクラッチ232は、トルクコン
バータ212の入出力部材、すなわちクランク軸216
および入力軸220を直結状態とするものである。トル
クコンバータ212の係合側油室235内の油圧が解放
側油室233よりも高められると、ロックアップクラッ
チ232が係合状態とされ、クランク軸216の回転は
そのまま入力軸220に伝達される。他方、トルクコン
バータ212内の解放側油室233内の油圧が係合側油
室235よりも高められると、ロックアップクラッチ2
32が非係合状態とされ、トルクコンバータ212は、
その本来の働き、即ち入出力回転速度比に応じた増幅率
でトルクを変換し、クランク軸216の回転を入力軸2
20に伝達する。
【0070】自動変速機214は、この入力軸220と
出力軸234とを備え、複数の油圧式摩擦係合装置の作
動の組み合わせにより、複数の前進ギヤ段および後進ギ
ヤ段のうちの1つが選択的に噛み合った状態とされる有
段式遊星歯車装置として構成されている。この自動変速
機214のギヤ段を制御するための変速制御用油圧制御
回路244と、ロックアップクラッチ232の係合を制
御するための係合制御用油圧制御回路246とが設けら
れている。変速制御用油圧制御回路244は、よく知ら
れているようにソレノイドNo.1およびソレノイドN
o.2によってそれぞれオンオフ駆動される第1電磁弁
248および第2電磁弁250を備えており、それら第
1電磁弁248および第2電磁弁250の作動の組み合
わせによって、クラッチおよびブレーキが選択的に作動
させられ、第1速ないし第4速のうちのいずれかの変速
が実現される。
【0071】係合制御用油圧制御回路246は、リニア
ソレノイド弁252と、切換弁254とスリップ制御弁
256とを備える。このリニアソレノイド弁252は、
変速制御用油圧制御回路244内で発生させられる一定
のモジュレータ圧Pmoduを元圧としており、リニアソレ
ノイドであるソレノイドNo.3に流される電流に応じ
てリニアに作動する。即ち、リニアソレノイド弁252
は、電子制御装置(ECT)242からの駆動電流Iso
1 の大きさに応じた大きさの出力圧Plin を連続的に発
生させる。この出力圧Plin は切換弁254およびスリ
ップ制御弁256に供給される。切換弁254は、ロッ
クアップクラッチ232を解放状態とする解放側位置と
ロックアップクラッチ232を係合状態とする係合側位
置とを有する。また、スリップ制御弁256は、変速制
御用油圧制御回路244内の図示しないクラッチ圧調圧
弁によりスロットル弁開度に応じて発生させられるレギ
ュレータ圧Pclを元圧として動作する。
【0072】上記切換弁254は、図示しないスプール
弁子を解放側位置へ向かって付勢するスプリング258
と、前記レギュレータ圧Pclが供給される第1ポート2
60と、スリップ制御弁256の出力圧が供給される第
2ポート262と、解放側油室233に接続された第3
ポート264と、係合側油室235に接続された第4ポ
ート266と、ドレンに接続された第5ポート268と
を備えている。切換弁254は、それに供給されるリニ
アソレノイド弁252の出力圧Plin が予め定められた
一定の値を下回ると、そのスプール弁子がスプリング2
58の付勢力に従って上記解放側位置(図20の状態)
とし、第2ポート262を閉塞させるとともに第1ポー
ト260と第3ポート264、および第4ポート266
と第5ポート268の間をそれぞれ連通する。このた
め、切換弁254のスプール弁子に作用するリニアソレ
ノイド弁252の出力圧Plin が予め定められた一定の
値を下回ると、切換弁254のスプール弁子がスプリン
グ258の付勢力に従って解放側位置に位置させられ
て、解放側油室233内の油圧Poff がレギュレータ圧
Pclとされると同時に係合側油室235内の油圧Ponが
大気圧とされてロックアップクラッチ232が解放され
る。従って、この時、トルクコンバータ212はトルク
を変換して伝達するトルクコンバータ本来の動作を行な
う。
【0073】他方、切換弁254のスプール弁子に作用
されるリニアソレノイド弁252の出力圧Plin が予め
定められた一定の値を超えると、切換弁254のスプー
ル弁子がスプリング258の付勢力に抗して係合側位置
へ切り換えられて、第5ポート268を閉塞するととも
に、第1ポート260と第4ポート266、および第2
ポート262と第3ポート264の間をそれぞれ連通す
る。このため、係合側油室235内の油圧Ponがレギュ
レータ圧Pclとされると同時に、解放側油室233内の
油圧Poff がスリップ制御弁256により圧力制御さ
れ、ロックアップクラッチ232がスリップ制御されあ
るいは係合される。
【0074】上記スリップ制御弁256は、図示しない
スプール弁子を出力圧増加側へ付勢するためのスプリン
グ270を備えている。このスプール弁子には、出力圧
増加側へ向かう推力を発生させるために係合側油室23
5内の油圧Ponが作用させられているとともに、出力圧
減少側へ向かう推力を発生させるために解放側油室23
3内の油圧Poff およびリニアソレノイド弁252の出
力圧Plin がそれぞれ作用させられている。このため、
スリップ制御弁256は、式(11)に示すように、ス
リップ量に対応する差圧△P(=Pon−Poff )がリニ
アソレノイド弁252の出力圧Plin に対応した値とな
るように作動する。ここで、式(11)において、Fは
スプリング270の付勢力、A1 はスプール弁子におけ
る油圧Ponの受圧面積、A2 (但しA1 =A2 )は油圧
Poff の受圧面積、A3 は出力圧Plin の受圧面積であ
る。
【0075】
【数11】
【0076】したがって、上記のように構成されている
係合制御用油圧制御回路246では、係合側油室235
内の油圧Ponおよび解放側油室233内の油圧Poff
は、図21に示すように、リニアソレノイド弁252の
出力圧Plin に応じて変化させられるので、リニアソレ
ノイド弁252の出力圧Plin によって切換弁254の
切換制御と、その切換弁254が係合位置へ切り換えら
れた後のロックアップクラッチ232のスリップ制御と
がそれぞれ行なわれ得るのである。
【0077】次に、スリップ制御の処理を司る電子制御
装置242の構成およびその設計について詳細に説明す
る。電子制御装置242は、周知のCPU282、RO
M284、RAM286、図示しないインターフェース
回路などから成るいわゆるマイクロコンピュータであ
る。本実施例では、この電子制御装置242のインタフ
ェース回路には、エンジン210の吸気配管に設けられ
たスロットル弁開度を検出するスロットルセンサ28
8、エンジン210の回転速度を検出するエンジン回転
速度センサ290、自動変速機214の入力軸220の
回転速度を検出する入力軸回転センサ292、自動変速
機214の出力軸234の回転速度を検出する出力軸回
転センサ294、シフトレバー296の操作位置、すな
わちL、S、D、N、R、Pレンジのいずれかを検出す
るための操作位置センサ298が接続されている。電子
制御装置242は、これらのセンサから、インタフェー
ス回路を介して、スロットル弁開度θth、エンジン回転
速度Ne(ポンプ翼車回転速度NP )、入力軸回転速度
Nin(タービン翼車回転速度Nt )、出力軸回転速度
Nout 、シフトレバー296の操作位置Ps をそれぞれ
入力する。
【0078】電子制御装置242のCPU282は、R
AM286をワークエリアとして利用しつつ、予めRO
M284に記憶されたプログラムに従って入力信号を処
理し、自動変速機214の変速制御およびロックアップ
クラッチ232の係合制御を実行するために第1電磁弁
248、第2電磁弁250およびリニアソレノイド弁2
52を適宜制御する。上記変速制御では、予めROM2
84に記憶された複数種類の変速線図から実際の変速ギ
ヤ段に対応した変速線図を選択し、その変速線図から車
両の走行状態、たとえばスロットル弁開度θthと出力軸
回転速度Noutから算出された車速SPDとに基づいて
変速ギヤ段を決定し、その変速ギヤ段が得られるように
第1電磁弁248、第2電磁弁250を駆動する。こう
して、自動変速機214のクラッチおよびブレーキの作
動が制御され、前進4段のうちのいずれかの噛み合わせ
が成立させ、所望の変速が実現される。
【0079】以上説明したハードウェア構成を前提とし
て、ロックアップクラッチのスリップ回転速度NSLP
を、むだ時間+スライディングモード制御により制御す
ることローラが構成される。このコントローラ300
は、実際には電子制御装置242が実行する処理により
実現されるものであるが、理解の便を図って、図22に
制御ブロックとして図示した。このコントローラ300
は、第1実施例のコントローラ100に対応したもので
あり、第2実施例では、直接的にはリニアソレノイド弁
252を制御することにより、トルクコンバータ212
のスリップ回転速度NSLP を制御する。制御対象である
スリップ回転速度NSLP を可変する系は、リニアソレノ
イド252の印加電圧のデューティが変化すると、この
ソレノイド252からの出力圧Plinが変化し、この
油圧により切換弁254が切り換えられ、切換弁254
が係合位置へ切り換えられた後、ロックアップクラッチ
232のスリップ制御が行なわれる系であり、極めて大
きなむだ時間(本実施例では、300[msec]程度)を
有する。
【0080】そこで、コントローラ300内には、第1
実施例と同様、状態予測制御器310とスライディング
モード制御器320と、これら付随する積分器340,
差分器350などが設けられている。これらの状態予測
制御器310,スライディングモード制御器320の設
計方法は、第1実施例と同様であり、図8に示したよう
に、制御量指令値uおよびリニアソレノイド252の出
力圧Plinとから、リニアソレノイド252のモデル
を同定し(工程S10)、次にこの出力圧Plinとス
リップ回転速度NSLP とから、ロックアップクラッチ2
32のモデルを同定し(工程S20)、両者を結合して
システム全体を表わすモデルを求める(工程S30)。
【0081】その後、モデルをむだ時間部分とダイナミ
クス部分とに分子、ダイナミクス部分は2次線形モデル
で近似し(工程S40)、これを連続時間モデルとして
サーボ系にするための積分器を加えて3次のモデルに拡
大する(工程S50)。3次モデルを得た上で、一方で
は、制御周期の決定(工程S60)、離散時間モデルへ
の変換(工程S70)、状態予測制御器310の設計
(工程80)を行なって、状態予測制御器310を得
る。他方、この3次モデルに基づいて、スライディング
モード制御器320の各パラメータを設定する(工程9
0)。その上で、状態予測制御器310とスライディン
グモード制御器320を結合し、コントローラ300を
完成する(工程S100)。
【0082】こうして得られた状態予測制御器310、
スライディングモード制御器320の各パラメータの一
例を以下に示す。状態予測制御器310は、第1実施例
同様、次式(12)の演算を、サンプリングタイム(制
御周期)32[msec]で繰り返し実行する。制御対象の
むだ時間は、およそ300[msec]であったので、状態
予測制御器310は、制御周期で9回後の状態量を予測
することになる。即ち、以下の式において、n=9であ
る。
【0083】
【数12】
【0084】本実施例では、各係数の値は次の通りであ
った。
【数13】
【0085】スライディングモード制御器320の出力
する操作量指令値u(k)は、第1実施例同様、次式に
示す二つの制御入力Ueq,Unlの和として構成され
る。
【0086】
【数14】
【0087】本実施例における各係数は、 S1=1.186,κ=0.75,α1=0,α2=
0,α3=2 であった。
【0088】電子制御装置242の内部では、図23に
示す処理が実行される。図23は、電子制御装置242
が実行するスリップ制御処理ルーチンを示すフローチャ
ートである。電子制御装置242は、車両の運転状況か
ら、スリップ制御を行なう領域にあると判断すると、こ
のスリップ制御処理ルーチンを、数ミリセカンド程度の
インターバルで、この処理を繰り返し実行する。スリッ
プ制御を行なう条件か否かは、出力軸回転速度Nout と
スロットル弁開度θthとから判断されるが、この条件の
一例を図24に示す。
【0089】図24に示すスリップ制御領域に入ってい
ると判断され場合、実施例では、図23に示すスリップ
制御処理ルーチンを起動し、まずインタフェース回路を
介してエンジン回転速度Ne,入力軸回転速度Nin,ス
ロットル弁開度θthを入力する処理を行なう(ステップ
S400)。続いて、入力した入力軸回転速度Ninとス
ロットル弁開度θthとから、目標スリップ回転速度NSL
P*を求める処理を行なう(ステップS410)。目標ス
リップ回転速度NSLP*は、予め3次元のマップとして、
三者の関係を記憶しておき、このマップを参照すること
により求めることができる。
【0090】図25は、入力軸回転数Ninとスロットル
弁開度θthとから、目標スリップ回転速度NSLP*を定め
るためのマップである。この例では、目標スリップ回転
速度NSLP*は、スロットル弁開度θthと入力軸回転速度
Ninとから、50rpmもしくは150rpmとなる。
こうして目標スリップ回転速度NSLP*を定めた後(ステ
ップS410)、実際のトルクコンバータ212のスリ
ップ回転速度NSLP を求める処理を行なう(ステップS
420)。実際のスリップ回転速度NSLP は、エンジン
回転速度Neと入力軸回転速度Ninとの偏差として求め
ることができる。その後、目標スリップ回転速度NSLP*
と実際のスリップ回転速度NSLP との差を制御偏差量e
として求める処理を行なう(ステップS430)。
【0091】次に、この偏差eを積分して積分値x3を
求め、かつスリップ回転速度NSLPの微分値x2を求め
る処理を行なう(ステップS440)。これで、スリッ
プ回転速度NSLP を状態量x1として、第1実施例同
様、3つの状態量が得られたことになる。そこで、次に
これらの状態量x1,x2,x3を用いて、上述した式
(12)に従い、制御周期で9回先の状態量xx1,x
x2,xx3を予測する処理をおこなう(ステップS4
50)。
【0092】以上の説明では、この処理ルーチンが繰り
返し実行される際の回数(何番目の処理か)という点は
特に説明しなかったが、実際の処理は、32ミリセカン
ドのインターバルで実行されており、何回目の処理であ
るかを区別可能な離散的な処理になっている。電子制御
装置242は、演算に必要な値については、現在起動さ
れた処理からn回前までの処理における各値を、RAM
286に保存している。電子制御装置242は、その
後、この予測値xx1,xx2,xx3を用い、上述し
たスライディングモード制御の式(14)に従い、リニ
アソレノイド弁252の印加電圧のデューティを制御量
指令値u(k)として求める処理を行ない(ステップS
460)、こうして求めた操作量指令値u(k)を、イ
ンタフェース回路を介して、リニアソレノイド弁252
に出力した後、「NEXT」に抜けて本処理ルーチンを
終了する。
【0093】以上説明した第2実施例のロックアップク
ラッチのスリップ制御装置による制御例を図26に示
す。図において、上欄は、目標スリップ回転速度NSLP*
が、50rpmから150rmpまで変化した場合のス
リップ回転速度NSLP の制御の様子を示し、下欄は、こ
の場合のリニアソレノイド弁252に出力される操作量
指令値u(k)を示している。図26上欄において、実
線JJは、本実施例の制御装置による制御特性を示し、
破線BBは、従来のPID制御と状態予測制御器とを組
み合わせた場合の制御特性を示す。また、比較のため
に、図27に、状態予測制御器310を設けない場合の
制御例を示した。図27では、スライディングモード制
御の場合の制御特性を実線JNとして、従来のPID制
御の場合の制御特性を破線BNとして、各々示した。
【0094】これらの比較から明確なように、第2実施
例のロックアップクラッチのスリップ制御装置によれ
ば、むだ時間の極めて大きな制御対象(この例では、む
だ時間は数百[msec])であっても、良好な安定性、応
答性を得ることができる。
【0095】更に、本実施例でも、第1実施例同様、制
御対象をむだ時間部分と2次の線形モデルとに分離して
設計した。この結果、ダイナミクス部分は、基本的に2
次の線形モデル(サーボ系にするために最終的なモデル
は3次)という比較的単純なモデルを用いながら、極め
て優れた制御特性を得ることができた。実施例では、む
だ時間部分とダイナミクス部分を分離してから、ダイナ
ミクス部分にスライディングモード制御を適用している
ので、単純なモデルを用いることができ、構成の簡略
化、制御周期の短縮化を実現している。また、むだ時間
部分に対しては状態予測制御器310を用いてむだ時間
後の状態量を予測しているので、むだ時間の大きな油圧
および摩擦という現象を用いた対象に対して、応答性を
確保したまま安定性に優れた制御を行なう制御装置を容
易に設計することができる。
【0096】また、これら2つの実施例の制御装置の設
計方法によれば、こうした制御性能を、合わせ込みやカ
ットアンドエラーを繰り返すことなく達成することがで
き、しかも外乱や摩擦係数の変動といった特性変化など
に対しても安定に制御する制御装置を設計することがで
きるという利点が得られる。従来のコントローラでは、
動作条件や外乱が異なる複数の動作点での制御特性を考
慮した合わせ込みは、経験者の勘や試行錯誤程度では対
処することができず、ほとんど対応することができなか
った。本発明の制御装置の設計方法は、こうした問題を
定式的に解決できるので、設計工数や調整工数を短縮
し、開発の手間を格段に低減することができる。
【0097】また、この実施例では、エンジン210の
動力を自動変速機214に伝達するクラッチのスリップ
制御に適用しており、エンジン210からのトルク変動
分を遮断しかつトルクの伝達効率を高めるという効果
を、定常状態はもとより、過渡運転状態、更には経年変
化により特性が変化した状態においても達成することが
できる。この結果、燃費向上といった効果も得られる。
こうした高い応答性と安定性との両立は、従来のスリッ
プ制御装置が安定性を維持した上で特性変化に対処する
ために、制御系の応答性を緩やかなものとし、定常的な
運転状態が長く続いた状態下でのみ、スリップ状態を目
標状態にできたに過ぎないものと較べて、際だってい
る。また、様々な運転条件が考えられるクラッチのスリ
ップ制御において、これらの運転条件の下での応答性を
一層改善することができるという効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例としてのクラッチのスリップ制御装
置の概略構成図である。
【図2】自動変速機10の構成を模式的に示した説明図
である。
【図3】油圧制御装置20の各要素の動作状態を示す説
明図である。
【図4】B−3コントロールバルブ25を介してスリッ
プ速度Nfukiを制御する油圧系を示す説明図であ
る。
【図5】B−3コントロールバルブ25におけるスプー
ル24の駆動力FVと摩擦力との関係を示すグラフであ
る。
【図6】スリップ速度Nfukiを制御する系を示すブ
ロック図である。
【図7】コントローラ100の内部構成を例示するブロ
ック線図である。
【図8】実施例のコントローラ100を設計する工程を
示す工程図である。
【図9】制御対象のモデルを同定するためのブロック図
である。
【図10】第1実施例における自動変速制御コンピュー
タ30の制御処理ルーチンを示すフローチャートであ
る。
【図11】本実施例のコントローラ100による制御例
を示すグラフである。
【図12】図11に示す制御例と同一の条件下における
PID制御の制御例を示すグラフである。
【図13】実施例においてむだ時間が変動した場合の制
御例を示すグラフである。
【図14】図13に示す制御例と同一の条件下における
PID制御の制御例を示すグラフである。
【図15】実施例において油圧制御装置20の油圧系の
油温が変動した場合の制御例を示すグラフである。
【図16】図14に示す制御例と同一の条件下における
PID制御の制御例を示すグラフである。
【図17】実施例においてB−3コントロールバルブ2
5のスプールの摩擦係数が変動した場合の制御例を示す
グラフである。
【図18】図17に示す制御例と同一の条件下における
PID制御の制御例を示すグラフである。
【図19】状態予測制御器110に代えるスミス法によ
る予測器の構成例を示すブロック線図である。
【図20】第2実施例としてのロックアップクラッチの
スリップ回転数の制御装置の全体構成を示す概略構成図
である。
【図21】リニアソレノイド弁252と出力圧Plin と
油圧Poff およびPonとの関係を例示するグラフであ
る。
【図22】第2実施例におけるコントローラ300の構
成を示すブロック図である。
【図23】第2実施例における電子制御装置242が実
行するスリップ制御処理ルーチンを示すフローチャート
である。
【図24】スリップ制御領域に入っているか否かを判断
するためのマップを示す説明図である。
【図25】目標スリップ回転速度NSLP*を求めるための
グラフである。
【図26】第2実施例のコントローラ300による制御
例を示すグラフである。
【図27】図26に示す制御例と同一の条件下における
PID制御の制御例を示すグラフである。
【図28】設計時の特性の固体間のバラツキを示すグラ
フである。
【図29】クラッチにおけるゲイン・位相特性の経時的
な変化を示すグラフである。
【符号の説明】
10…自動変速機 20…油圧制御装置 22…バネ 24…スプール 25A…第1ポート 25B…第2ポート 25C…第3ポート 25D…シリンダ 30…自動変速制御コンピュータ 40…センサ群 50…エンジン制御コンピュータ 100…コントローラ 110…スミス法補償部 110…状態予測制御器 120…スライディングモード制御器 130…フィードフォワード制御器 140…積分器 150…差分器 210…エンジン 212…ロックアップクラッチ付トルクコンバータ 214…有段式自動変速機 216…クランク軸 218…ポンプ翼車 220…入力軸 222…タービン翼車 224…一方向クラッチ 226…ハウジング 228…ステータ翼車 230…ダンパ 232…ロックアップクラッチ 233…解放側油室 234…出力軸 235…係合側油室 242…電子制御装置 244…変速制御用油圧制御回路 246…係合制御用油圧制御回路 248…第1電磁弁 250…第2電磁弁 252…リニアソレノイド弁 254…切換弁 256…スリップ制御弁 258…スプリング 260…第1ポート 262…第2ポート 264…第3ポート 266…第4ポート 270…スプリング 282…CPU 284…ROM 286…RAM 288…スロットルセンサ 290…エンジン回転速度センサ 292…入力軸回転センサ 294…出力軸回転センサ 296…シフトレバー 298…操作位置センサ 300…コントローラ 310…状態予測器 320…スライディングモード制御器 340…積分器 350…差分器
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 日比野 良一 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41番 地の1 株式会社豊田中央研究所内 (72)発明者 大澤 正敬 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41番 地の1 株式会社豊田中央研究所内 (72)発明者 河野 克己 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 (72)発明者 中村 泰也 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 制御特性上大きなむだ時間を有する制御
    対象の操作量指令値を求め、該操作量指令値を該制御対
    象に出力することにより、該制御対象の状態を目標状態
    に一致させる制御装置であって、 前記制御対象の制御状態を検出する制御状態検出手段
    と、 該検出された制御状態から、前記むだ時間後の該制御対
    象の状態量を予測する状態予測手段と、 前記制御対象を低次の線形モデルにより同定して得られ
    たモデルを用い、かつ前記予測された状態量を入力とし
    てスライディングモード制御を行なって、前記操作量指
    令値を出力するスライディングモード制御手段とを備え
    た制御装置。
  2. 【請求項2】 制御特性上大きなむだ時間を有する制御
    対象の操作量指令値を求め、該操作量指令値を該制御対
    象に出力することにより、該制御対象の状態を目標状態
    に一致させる制御装置を設計する方法であって、 (a)前記制御対象の操作量指令値と制御状態との関係
    から該制御対象のモデルを同定する工程、 (b)該モデルを、むだ時間部分とダイナミクス部分と
    に分離する工程、 (c)該ダイナミクス部分については、低次の線形モデ
    ルにより近似する工程、 (d)該線形モデルおよび前記むだ時間に基づいて状態
    予測制御器を設計する工程、 (e)前記線形モデルに基づいて、前記状態予測制御器
    の出力を制御入力とするスライディングモード制御の設
    計パラメータを設定する工程を備えた制御装置の設計方
    法。
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