JPH10257598A - 仮想音像定位用音響信号合成装置 - Google Patents

仮想音像定位用音響信号合成装置

Info

Publication number
JPH10257598A
JPH10257598A JP9060471A JP6047197A JPH10257598A JP H10257598 A JPH10257598 A JP H10257598A JP 9060471 A JP9060471 A JP 9060471A JP 6047197 A JP6047197 A JP 6047197A JP H10257598 A JPH10257598 A JP H10257598A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
sound
propagation time
sound source
coefficient
signal
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP9060471A
Other languages
English (en)
Inventor
Ikuichirou Kinoshita
郁一郎 木下
Shigeaki Aoki
茂明 青木
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Telegraph and Telephone Corp
Original Assignee
Nippon Telegraph and Telephone Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Telegraph and Telephone Corp filed Critical Nippon Telegraph and Telephone Corp
Priority to JP9060471A priority Critical patent/JPH10257598A/ja
Publication of JPH10257598A publication Critical patent/JPH10257598A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Stereophonic System (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 任意方位角への音像定位を実現するために必
要な音響伝達特性を推定する手段及び入力音響信号から
任意方位角への音像定位を受聴者に実現する音響信号を
合成する手段を備えた仮想音像定位用音響信号合成装置
を提供する。 【解決手段】 各系統の音響信号x1(t),x2(t)を入力
し、時間特性係数合成部(52)によって該各系統及び左右
各チャネルにつき、音響信号x1(t),x2(t)における音響
伝達関数の各次数の主成分重み係数を推定し、これに基
づいて音響伝達関数の振幅周波数特性を推定し、この振
幅周波数特性を時間特性係数に変換して、該時間特性係
数を畳込部(21-1R/21-1L/21-2R/21-2L)によって入力音
響信号に畳み込み演算を施し、該演算結果の音響信号を
左右各チャネルに出力する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、受聴者に対して所
望の目標位置への音像定位を実現可能とする仮想音像定
位用音響信号合成装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】人間は音を聴取することによって、音源
の距離や方向を知覚している。これは音像定位と呼ばれ
る。へッドホン等の音響再生装置を用いて受聴者の両耳
において音を再生する場合においても、所望の位置に音
を定位させることが可能である。従来から、これを実現
するために音源と受聴者の左右各耳までの音響伝達特性
を音響信号に各々畳み込んだうえで音を再生することが
提案されてきた。
【0003】図1は、仮想音像定位の原理(拡声系)を
説明する図であり、音源(スピーカ)1個を用いて音を
再生する状況を示す図である。音源に与えられる音響信
号x(t)、音源から受聴者の左右各耳の鼓膜直近までの間
の音響伝達特性(以下、頭部伝達関数[Head Related T
ransfer Function]、HRTFと称する)が各々hL(t),h
R(t)と時刻tの関数で表わされたとする。このとき、鼓
膜直近における音響刺激は左右それぞれ
【数1】 となる。ここで、記号*は畳み込み演算を示す。
【0004】一方、図2は、仮想音像定位の原理(両耳
受聴系)を説明する図であり、ヘッドホン等を用いて左
右各耳において音を提示する状況(以下、両耳受聴と称
す)を示す図である。このとき、左右各耳におけるヘッ
ドホン等から鼓膜直近までの音響伝達特性(以下、外耳
道伝達関数[Ear Canal Transfer Function]、ECTFと
称する)は各々eL(t),eR(t)となる。ここで、ヘッドホ
ン等で音を再生する前段に音響信号x(t)に伝達特性が各
々sL(t),sR(t)となる係数を左右それぞれ畳み込み演算
する。このとき、鼓膜直近における音響刺激は左右それ
ぞれ
【数2】 となる。ここで、係数sL(t),sR(t)を
【数3】 と定める。但し、記号/は畳み込み逆演算を示す。
【0005】ここに、式(1a)と式(2a)、式(1
b)と式(2b)は各々等しくなるため、図1における
音源による音響刺激が受聴者の鼓膜直近において再現さ
れる。このとき、受聴者は図1における音源の位置に音
像を知覚する。つまり、目標位置に設置された音源によ
る音刺激を受聴者の鼓膜直近において再現することによ
って、受聴者に当該目標位置へ音像定位させることが可
能になる。
【0006】前述した畳み込み演算に用いられる係数sL
(t),sR(t)は頭外音像定位伝達関数(Sound Localizati
on Transfer Function;SLTF)と称される。さらに、音
源の入力音響信号に対する出力特性(以下、音源特性と
称す)sP(t)の影響を除去するために頭外音像定位伝達
関数sL(t),sR(t)を次式のように定めることもできる。
【0007】
【数4】 上記のように頭外音像定位伝達関数sL(t),sR(t)を畳み
込み演算における係数として用いれば、頭部伝達関数を
係数とする場合よりも音響刺激の再現が忠実になる。
【0008】別構成として、図3に示すように各系統の
入力音響信号x(t)を左右分岐した後で頭外音響信号x(t)
に頭部伝達関数hL(t),hR(t)による畳み込み演算及び係
数eL(t),eR(t)又はsP(t)*eL(t),sP(t)*eR(t)による畳
み込み逆演算を左右各々直列に実行する。この場合で
も、目的音源による音響刺激が受聴者の鼓膜直近におい
て再現される。受聴者に当該目的音源の位置への音像定
位させることを可能にする。
【0009】他方、図4に示すように左右計2個の音源
を用いて音を提示する系(トランスオーラル系と称され
る)を考える。この場合でも、目標音源による音刺激を
受聴者の鼓膜直近において再現することができる。つま
り、受聴者に当該目標音源の位置へ音像定位させること
が可能になる。方法を以下に示す。
【0010】音の提示に用いられる左右の各音源から左
右各耳の鼓膜直近までの音響伝達特性を各々eLL(f),e
LR(t),eRL(t),eRR(t)とする。但し、添え字のL,Rは
引き続き各々左、右を示す。例えば、eLL(t)は左音源か
ら左耳の鼓膜直近までの音響伝達特性という意味であ
る。
【0011】ここに、当該2個の音源による再生の前段
において伝達特性が各々係数gL(t),gR(t)を畳み込み演
算する。このとき、鼓膜直近における音響刺激は左右各
【数5】 となる。
【0012】目標音源による音響刺激を受聴者左右各耳
の鼓膜直近において再現するために、式(1a)と式
(5a)、式(1b)と式(5b)を各々等置して係数
gL(t),gR(t)をを決定する。即ち、係数gL(t),gR(t)
(以下、拡声伝達関数と称す)は、
【数6】 となる。
【0013】また、音源特性sP(t)の影響を除去するに
は、拡声伝達関数gL(t),gR(t)は、
【数7】 となる。
【0014】各音源位置毎に測定された頭部伝達関数、
頭外音像定位伝達関数、拡声伝達関数(以下、音響伝達
関数と総称する)を用いた上記の方法では、その音源位
置にしか音像定位を実現する手段が与えられない。しか
も、音響伝達関数の測定に際して目標位置となる音源配
置を離散的に設置せざるを得ず、設定可能な目標位置数
は有限となる。
【0015】任意の目標位置への音像定位を実現するた
めには音響伝達関数を補間する方法が提案されている。
典型的な方法として、目標位置を挟む複数の音源位置に
対する音響伝達関数の線形結合が挙げられる。
【0016】左右各チャネルにつき一個の畳み込み演算
手段を有する構成では、目的位置設定更新の都度畳み込
み演算手段に対して補間によって得られた音響伝達関数
を転送する必要がある。
【0017】ここで、目標位置の移動に応じて補間の対
象とする音響伝達関数も更新する場合が生じる。加え
て、更新の前後において補間された音響伝達関数の変化
量が不連続になる。補間の対象とする音響伝達関数を予
め多数の音源方向について記憶及び読み出す手段も必要
となる。
【0018】また、音響伝達関数又はその振幅周波数特
性の更新は常に必要になるとは限らないうえに、一般に
音響伝達関数又はその振幅周波数特性は多数の変数で構
成される(典型的に数百以上)。
【0019】よって、目標位置設定と補間により音響伝
達関数を得るまでの所要時間は不規則になる。系内の各
処理手段間における動作の同期を取るために、所要時間
の不規則性を考慮して、構成及び処理手順を設計しなけ
ればならない。各処理手段間における動作の同期のうえ
で、前記各処理において更新せずに常に同一の係数群を
使用することが望まれる。
【0020】また、時間領域における線形結合では音響
伝達関数の振幅周波数特性が補間されるとは限らないこ
とが指摘されている。
【0021】そこで、補間された振幅周波数特性から音
響伝達関数を合成する方法が提案されている(参考文
献:D.R.Begault.3D SOUND,pp.166-168,{AP Professiona
l,Cambridge,1994})。
【0022】この方法は、振幅周波数特性から最小位相
化された時間領域における係数表現への変換と、その最
小位相化時間領域表現に対する伝搬時間に相当する遅延
からなる。遅延に際して左右いずれかの耳に対する最小
位相化時間領域表現に左右両耳間伝搬時間差を用いる方
法も考えられる。
【0023】これは、合成された音響伝達関数h
* jki,t)と元の音響伝達関数hjki,t)のうちいずれ
かを音響信号との畳み込み演算に利用しても受聴者が目
標方向φiに音を同等な精度で定位することに基づく
(参考文献:Kistler,D.J.and Wightman, F.L., (1992).
"A Model of Head-related Transfer Functions Based
on Principal Components Analysis and Minimum-Phas
e Reconstruction," Journalof the Acoustical Soci
ety of America 91,P.1637-1647)。以下、添え字*は合
成された変数を示す。
【0024】しかし、多数の変数で構成される各音源方
向毎の音響伝達関数又はその振幅周波数特性を使用する
必要性が残される。
【0025】上記の問題を解決する布石として、本願出
願人が本願と同日に出願した「仮想音像定位用係数算出
方法及びその係数を記録した係数表作成方法」記載の発
明は、音響伝達関数の振幅周波数特性の主成分と該主成
分に共役な重み係数と伝搬時間の正弦関数及び余弦関数
による展開係数を算出及び記録する方法を提示した。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前記の係数群
を用いて任意方位角への音像定位を実現する音響信号を
生成する装置は未だに実現されていない。
【0027】本発明の目的は、任意方位角への音像定位
を実現するために必要な音響伝達特性を推定する手段及
び入力音響信号から任意方位角への音像定位を受聴者に
実現する音響信号を合成する手段を備えた仮想音像定位
用音響信号合成装置を提供することにある。さらに、音
響伝達関数の推定において常に同一の係数群を使用する
と共に、前記係数の総数を最小限に留めた仮想音像定位
用音響信号合成装置を提供することにある。
【0028】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の目的を達
成するために、以下の構成を備えた仮想音像定位用音響
信号合成装置を提案する。即ち、任意方位角に対する仮
想音像定位を実現するために必要な音響伝達特性を合成
する手段を音響信号入力各系統及び左右各チャネル毎に
有する必要がある。ここで、振幅周波数特性及び伝搬時
間もしくは両耳間伝搬時間差の推定が不可欠である。
【0029】振幅周波数特性を示す変数として好都合な
ものを得るために振幅周波数特性を特性値とした主成分
分析が有効である(参考文献 例えば 得丸 他 「統
計工学ハンドブック」 培風館(1987))。
【0030】この主成分分析によれば、振幅周波数特性
Hjki,fr)を要素とするベクトルhjki)は、各次数
lの主成分ul(fr)に共役な重み係数wjkli)を要素とす
るベクトルwjki)で表現される。
【0031】
【数8】 但し、wjki)=[wjkli),…,wjkqi)]T, U=[u1
(fr),…,uq(fr)]T,hj ki)=[Hjki,f1),…,Hjk
i,fp)]T、jは測定点となる耳(L:左/R:右),k
は被験者、φiは測定に用いた音源iの方位角、frはベク
トルhjki)中の第r要素に対応する周波数である。要
素数qは振幅周波数特性Hjki,f)を表現する際に或る
累積寄与率(例えば90%)を満たす次数lとして定め
られる。
【0032】[請求項1]記載の音響信号合成装置に
は、任意の目標方位角φに対する重み係数w* jkl(φ)を
推定する手段を備えている。推定にあたり、次式のよう
に目標方位角φの正弦関数と余弦関数の線形結合を行
う。
【0033】
【数9】 但し、mc,msは展開次数を示す。これはフーリエ展開と
呼ばれる展開方法である。
【0034】ここに次式で得られた展開係数ajklm,b
jklmを用いる。
【0035】
【数10】 但し、nφは音源方向数である。
【0036】展開係数ajklm,bjklmが予め準備されてい
れば新たに算出する必要性はない。該展開係数ajklm,b
jklmとして、前述した特許出願「仮想音像定位用係数算
出方法及び前記係数を記録した係数表作成方法」に記載
した方法で算出及び保存されたものを使用することがで
きる。
【0037】ここに、式(9)における展開係数
ajklm,bjklmとして該被験者間平均値<ajk lm>,<bjklm>
を代入すれば、重み係数の被験者間平均値<w* jl(φ)>が
得られる。
【0038】ところで、各主成分ulと共役な重み係数ベ
クトルwjki)より振幅周波数特性ベクトルhjki)
は、
【数11】 と近似される。
【0039】[請求項1]記載の音響信号合成装置にお
いては、各音源方位角φi間の任意目標方位角φに対し
て推定された重み係数ベクトルw* jk(φ)(=[w* jkl(φ),
…,w* jkq(φ)]T)を式(11)における重み係数ベクト
ルwjki)に代入して振幅周波数特性ベクトルh* jk(φ)
(=[H* jk(φ,f1),…,H* jk(φ,fp)]T)を推定する手段を
具備する。或いは、式(11)において推定された重み
係数w* jk(φ)として該被験者間平均値<w* j(φ)>(=[<w*
jl(φ)>,…,<w* jq(φ)>]T)を用いて、振幅周波数特性
ベクトルの被験者間平均値<h* j(φ)>を求める。但し<h*
j(φ)>=[<H* j(φ,f1)>,…,<H* j(φ,fp)>]Tである。
【0040】さらに、[請求項1]記載の音響信号合成
装置は時間特性算出手段として、式(11)で算出され
た目標方位角φに対する振幅周波数特性H* jk(φ,f)をt
の関数で表される時間特性係数に変換する手段を備えて
いる。但し、変換の前後において振幅周波数依存性を保
持する。この一方法として、次式の演算により最小位相
を有する時間特性係数h* min jk(φ,t)を算出する。
【0041】
【数12】 ここに、v(t=1),v(1≦t<Q/2)=2,0(Q/2≦t<Q-1),Q
は離散フーリエ変換(DFT)のフレーム長である。或い
は、式(12)における振幅周波数特性H* jk(φ,f)とし
て該被験者間平均値<H* j(φ,f)>を用いて時間特性係数
の被験者間平均値<h* mi n j(φ,t)>を算出する。
【0042】さらにまた、入力音響信号に作用する手段
として[請求項1]記載の音響信号合成装置は、各系統
の入力音響信号に対して左右各々独立に前記時間特性係
数h* min jk(φ,t)または被験者間平均値<h* min j(φ,t)
>を畳み込み演算する手段を備える。
【0043】また、[請求項2]記載の音響信号合成装
置は、前記伝搬時間を音響信号に作用する手段として、
式(12)で求められた前記最小位相を有する時間特性
係数h* min jk(φ,t)または該被験者平均値<h* min j(φ,
t)>を遅延させる係数遅延手段を、例えば前記畳み込み
演算手段の前段に有する。
【0044】前記畳み込み演算手段では最小位相を有す
る時間特性係数h* min jk(φ,t)又は該被験者平均値<h*
min j(φ,t)>を遅延させて合成した音響伝達関数h
* jk(φ,t)又は<h* j(φ,t)>を畳み込み演算において用い
られる係数として用いる。
【0045】伝搬時間T* jk(φ)を任意の目標方位角φに
対して推定するために、同様に正弦関数と余弦関数を用
いて線形結合する。
【0046】
【数13】 但し、μc,μsは展開次数である。ここに次式で得られ
た展開係数τjkm,σjkmを用いる。
【0047】
【数14】 展開係数τjkm,σjkmが予め準備されていれば新たに算
出する必要性はない。該展開係数τjkm,σjkmとして、
前述の特許出願「仮想音像定位用係数算出方法及び前記
係数を記録した係数表作成方法」に記載した方法で算出
及び保存されたものを使用することができる。
【0048】展開係数の被験者間平均値<τjm>,<σjm>
が準備されている場合には、伝搬時間の被験者間平均値
<T* j(φ)>を推定できる。そのためには、式(13)に
おける展開係数τjkm,σjkmとして該被験者間平均値<
τjm>,<σjm>を代入する。
【0049】[請求項2]記載の構成と異なる別の構成
としては、[請求項3]記載の音響信号合成装置のよう
に各系統左右各チャネルの音響信号に対して信号遅延手
段を前記畳み込み演算手段と直列に備える。
【0050】該畳み込み演算手段は、音響信号に対して
式(12)で求められた時間特性係数h* min jk(φ,t)又
は該被験者平均値<h* min j(φ,t)>を畳み込み演算す
る。該信号遅延手段は音響信号に対して前記伝搬時間T*
jk(φ)又は該被験者平均値<T* j(φ)>に相当する遅延を
施す。
【0051】[請求項4]記載の音響信号合成装置は、
前記音響信号合成装置において両耳間伝搬時間差ΔT
* k(φ)又は該被験者間平均値<ΔT*(φ)>から前記遅延処
理の直前に伝搬時間T* jk(φ)又は該被験者平均値<T
* j(φ)>を定める。但し、両耳間伝搬時間差ΔT* k(φ)
は、これに対応する展開係数Δτkm,Δσkmを式(1
3)におけるτjkm,σjkmに代入して推定する。
【0052】同様に、展開係数の被験者間平均値<Δτ
km>,<Δσkm>が準備されている場合には、両耳間伝搬
時間差の被験者間平均値<ΔT* k(φ)>を推定できる。そ
のためには、式(13)におけるτjkm,σjkmに展開係
数<Δτkm>,<Δσkm>を代入する。
【0053】前記伝搬時間T* jk(φ)又は該被験者平均値
<T* j(φ)>を前記遅延手段における遅延の手がかりとす
る。ここで、左右両チャネルにおける差が両耳間伝搬時
間差ΔT* k(φ)となる条件の下に伝搬時間TLK(φ),T
RK(φ)を定める。例えば、
【数15】 とする。ここで、T*を最小両耳間伝搬時間差の全方位角
φにわたるΔT* k(φ)の絶対値における最大値の半値1/2
maxφ(ΔT* K(φ))以上となる定数に選ぶ。該被験者平
均値<TL(φ)>,<TK(φ)>についても、
【数16】 とする。
【0054】また、[請求項5]及び[請求項6]記載
の音響信号合成装置は、前記音響信号合成装置において
一方の耳jのみについて重み係数の展開係数ajklm,b
jklm及び伝搬時間の展開係数τjkm,σjkmを用いて、こ
れらから両耳について時間特性係数h* min jk(φ,t)及び
伝搬時間T* jk(φ)を推定する。
【0055】一方の耳側jについては、上記のように式
(9)、(11)、(12)を用いて展開係数ajklm,b
jklmから時間特性係数h* min jk(φ,t)を推定する。さら
に、式(13)を用いて展開係数τjkm,σjkmから伝搬
時間T* jk(φ)を推定する。
【0056】また、他方の耳側j'については、時間特性
係数h* min j'k(φ,t)を、目標方位角φと左右対称な方
位角φ’に対する記録対象となった耳側jの重み係数h*
min j k(φ’,t)をもって定める。さらに、伝搬時間T*
j'k(φ)として、目標方位角φと左右対象な方位角φ’
に対する記録対象となった耳側jの伝搬時間T* jk(φ’)
をもって定める。
【0057】一方の耳側jについての該被験者間平均値<
ajlm>,<bjlm>及び<τjm>,<σjm>からも同様な処理に
よって両耳について時間特性係数の該被験者平均値<h*
min j(φ,t)>及び又は該被験者平均値<T* j(φ)>が推定
される。
【0058】また、[請求項7]記載の音響信号合成装
置では、前記目標方位角φを入力する手段を備える。こ
れにより、入力された目標方位角φを用いて主成分重み
係数w* jkl(φ)又は該被験者平均値<w* jl(φ)>又は該被
験者平均値<h* min j(φ,t)>及び伝搬時間T* jk(φ)又は
該被験者平均値<T* j(φ)>を推定する。
【0059】前述したように、振幅周波数特性Hjk(φ,
f)又は該被験者間平均値<Hj(φ,f)>の推定は、展開係数
ajklm,bjklm又は該被験者間平均値<ajlm>,<bjlm>から
任意の目標方位角φに対する重み係数w* jkl(φ)又は該
被験者間平均値<w* jl(φ)>の算出を含む。
【0060】例えば、全周囲にわたり等角度間隔2π/n
φ(nφは音源方向数)に設置された各音源方位角φiに対
するもとの重み係数wjkli)が、式(10a),(1
0b)において展開係数ajklm,bjklm又は該被験者間平
均値 <ajlm>,<bjlm>を求めるために用いられたとす
る。同時に、展開次数mc,msを各々mc=nφ/2(nφ:偶
数),(nφ-1)/2(nφ:奇数),ms=nφ/2-1(nφ:偶数),
(nφ-1)/2(nφ:奇数)とする。
【0061】このとき、各音源方位角φiにおいて展開
で求められた重み係数w* jkli)又は該被験者間平均値
<w* jli)>は、もとの重み係数wjkli)又は該被験者
間平均値<wjli)>を再現する(文献{例えば Oppen
heim, A. V. and Schafer, R. W.(1975)"Digital Signa
l Processing,"参照)。
【0062】加えて、高次の展開係数ajklm,bjklm又は
該被験者間平均値<ajlm>,<bjlm>による重み係数w
jkli)又は該被験者間平均値<wjli)への寄与が少
ない場合には、高次の項を無視した展開で得られた重み
係数w* jkl(φ)又は該被験者間平均値<w* jli)>は、原
重み係数wjkli)又は該被験者間平均値<wjli)>を
近似する。近似の妥当性に関しては、次項の発明の実施
の形態において考察する。
【0063】展開による重み係数w* jkl(φ)又は該被験
者間平均値<w* jl(φ)>は方位角φの連続関数の線形結合
で表現されるため、結果として各音源方位角φi間の方
位角φにおいて補間或いは近似される。
【0064】同様な議論は伝搬時間T* jk(φ)や両耳間伝
搬時間差ΔT* k(φ)についても成立する。例えば、各音
源方位角φiが全周囲にわたり等角度間隔で配置された
と仮定する。また、展開次数μc,μsを各々μc=nφ/2
(nφ:偶数),(nφ-1)/2(nφ:奇数),μs=nφ/2-1(n
φ:偶数),(nφ-1)/2(nφ:奇数)とする。
【0065】このとき、各音源方位角φiにおいて展開
による伝搬時間T* jki)又はその被験者間平均値<T
* ji)又は該被験者間平均値<Tji)>を各々再現す
る。
【0066】加えて、高次の展開係数τjkm,σjkm又は
該被験者間平均値<τjm>,<σjm>による伝搬時間Tk(φ)
又はその被験者間平均値<Tj(φ)>への寄与が少ない場合
には、高次の項を無視した展開で得られた伝搬時間T* jk
i)又は該被験者間平均値<T* ji)>は、原伝搬時間T
jki)又は該被験者間平均値<T* ji)>を近似する。
近似の妥当性に関しては、次項の発明の実施の形態にお
いて考察する。
【0067】展開による伝搬時間T* jki)又は該被験
者間平均値<T* ji)>も、結果として各音源方位角φi
間の方位角φにおいて補間或いは近似される。同様に、
両耳間伝搬時間差ΔT* k(φ)又はその被験者間平均値<Δ
T*(φ)>も各音源方位角φi間の方位角φにおいて補間或
いは近似される。
【0068】式(11)を用いて重み係数w* jkl(φ)又
は該被験者間平均値<w* ji(φ)>から振幅周波数特性H* jk
(φ,f)又は該被験者間平均値<H* j(φ,f)>を算出した。
各主成分ulが互いに正規直交系を成すため、等号が成立
するのは重み係数ベクトルの要素数qと各主成分の要素
数pが等しい場合である。近似の妥当性は、高次の主成
分ul(fr)( l>q )による振幅周波数特性Hjki,f)への
寄与が小さいことに帰する。
【0069】前記式(12)によって振幅周波数特性H
jk(φ,f)又は該被験者間平均値<Hj(φ,f)>から時間特性
係数h* min jk(φ,t)又は該被験者間平均値<h* min j(φ,
t)>なる時刻tの関数で表示される音響信号との畳み込み
演算が可能になる。加えて最小位相化のため強度の大き
い成分は時刻 t=0に近い早い時刻に集中する。
【0070】ゆえに、[請求項1]記載の音響信号合成
装置では、上記の畳み込み演算によって方位角φに設置
された音源による音刺激の振幅周波数特性が受聴者左右
各耳において模擬される。また、原音響信号から畳み込
み演算で得られる音響信号の遅延におけるチャネル間差
を抑制できるため、遅延時間を任意に制御できる手がか
りが得られる。
【0071】また、[請求項2]記載の音響信号合成装
置においては、伝搬時間T* jk(φ)又は該被験者間平均値
<T* j(φ)>相当遅延した時間特性係数h* min jk(φ,t)又
は該被験者間平均値<h* min j(φ,t)>が音響信号に畳み
込み演算される。
【0072】また、[請求項3]記載の音響信号合成装
置においては、時間特性係数h* min jk(φ,t)又は該被験
者間平均値<h* min j(φ,t)>が畳み込み演算された音響
信号が伝搬時間T* jk(φ)又は該被験者間平均値<T* j(φ)
>相当遅延する。
【0073】よって、時間特性係数h* min jk(φ,t)又は
該被験者間平均値<h* min j(φ,t)>の基礎となる振幅周
波数特性H* jk(φ,f)又は該被験者間平均値<H* j(φ,f)>
の推定のために予め準備すべき変数は主成分ulと展開係
数ajklm,bjklm又は該被験者間平均値<ajm>,<bjm>に限
られる。伝搬時間T* jki)又は該被験者間平均値<T
* ji)>の推定のために予め準備すべき変数は展開係数
τjkm,σjkm又は該被験者間平均値<τjm>,<σjm>であ
る。
【0074】上記音響伝達特性の推定に予め準備すべき
係数の総数について検討する。振幅周波数特性及び伝搬
時間をともに各耳に対する展開係数から推定する場合、
pq+2(q+1)nφ個となる。内訳として、全主成分を構成す
る係数の数はpq個(但し、pは各主成分の要素数、qは主
成分重みベクトルの個数)、主成分重み係数における係
数の数は2qnφ個、伝搬時間における係数の数は2nφで
ある。但しnφは測定時の音源方向数、2は両耳に対する
前記係数群を用いることを示す。
【0075】また、展開次数mc,msを各々mc=nφ/2 (n
φ:偶数),(nφ-1)/2 (nφ:奇数),ms=nφ/2-1 (n
φ:偶数),(nφ-1)/2 (nφ:奇数)、μc,μsを各々μ
c=nφ/2(nφ:偶数),(nφ-1)/2 (nφ:奇数),μs=nφ
/2-1 (nφ:偶数),(nφ-1)/2(nφ:奇数)とした。
【0076】これに対して、任意の目標方位角φに対す
る音響伝達関数を各音源方位角φi間において線形補間
する場合、使用される係数の総数は2nφnf個となる(但
し、nfは各耳j及び音源方位角φiに対応する音響伝達関
数を表現するための要素数を示す。)。
【0077】また、任意の目標方位角φに対する振幅周
波数特性及び伝搬時間を各音源方位角φi間において線
形補間する場合、振幅周波数特性と伝搬時間を使用され
る係数の総数は2nφ(p+1)個となる。比較すると、本発
明の方が顕著に減少する。通例、q<<p<nfとなるよう
に主成分の次数qが決定されるためである。
【0078】該変数群は音響伝達特性の推定において目
標方位角φに関わらず常に使用される。変数の更新を伴
わないため、推定に係る演算時間が一定になる。そのた
め、系内における各演算処理部間における演算の同期が
容易になる。
【0079】また、[請求項4]記載の音響信号合成装
置における音響信号に対する演算は[請求項2・3]記
載の音響信号合成装置と同様である。但し、伝搬時間T*
jk(φ)又は該被験者間平均値<T* j(φ)>の算出方法が異
なる。
【0080】しかし、[請求項2−4]のうちいずれも
出力として得られる各系統の音響信号は各チャネルにお
いて方位角φに設置された音源による音刺激の振幅周波
数特性が受聴者左右各耳において模擬される。同時に左
右両耳間において音刺激の到達時間差が模擬される。そ
のため、[請求項2−4]記載の音響信号合成装置は受
聴者に目標方位角φに音像定位させる音刺激をもたらす
音響信号を合成することができる。
【0081】また、[請求項5]及び[請求項6]記載
の音響信号合成装置は、他方の耳j'に対する時間特性係
数h* min jk(φ,t)又は該被験者間平均値<h* min j(φ,t)
>及び伝搬時間T* jk(φ)又は該被験者間平均値<T* j(φ)>
は、一方の耳jにおける目標方位角φと左右対象な方位
角φ’に対する時間特性係数h* min jk(φ’,t)又は該被
験者間平均値<h* min j(φ,t)>及び伝搬時間T* jk(φ’)
をもって決定される。
【0082】この近似の妥当性は、一方の耳側jについ
て各音源方位角φiにおいて測定値から推定された重み
係数wjkli)又はその被験者間平均値<wjli)>が、
他方の耳側j'について左右対称な各音源方位角φi’に
ついて測定値から推定された重み係数wjkli’)又は
その被験者間平均値<wjli’)>を近似することによっ
て裏付けられる(関連出願 例えば 特願平7−248
159)。
【0083】また、[請求項7]記載の音響信号合成装
置は、目標方位角φを入力する手段を有する。これによ
り入力された目標方位角φは上記の伝搬時間T* jk(φ)又
は該被験者間平均値<T* j(φ)>と時間特性係数h
* min jk(φ,t)又は該被験者間平均値<h* min j(φ,t)>の
推定の手がかりとして用いられる。従って、所望の目標
方位角φが入力されることによって、受聴者に該目標方
位角φへ定位させる音をもたらす音響信号が合成され
る。
【0084】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を説明
する。本実施形態は、本願発明[請求項7]記載の仮想
音像定位用音響信号合成装置の一例であり、[請求項
3]記載の音響信号合成装置の構成を基礎としている。
図5は、本実施形態における仮想音像定位用音響信号合
成装置全体の構成を示す図である。本装置は、2系統の
モノラル音響信号入力に対して1系統の左右2チャネル
ステレオ音響信号出力を合成する構成である。
【0085】また、音響信号に対する処理に関わる部分
と音響伝達特性の推定に関わる部分に大別される。図中
の実線矢印は音響信号の流れ、破線矢印は音響伝達特性
又はその推定に関わる変数の流れをそれぞれ示してい
る。また、中央部の枠で囲った部分は、後述する他の実
施形態における変形箇所を示す。
【0086】図5に示した構成において、音響信号に対
する処理に関わる部分は以下の各部から構成される。各
部が担う処理についても並記する。
【0087】即ち、11−1及び11−2は音響信号入
力部で、各系統についてモノラル音響信号x1(t),x2(t)
を入力する。12−1及び12−2は増幅部で、音響信
号x1(t),x2(t)を各々増幅する。13−1及び13−2
は分岐部で、音響信号x1(t),x2(t)を各々左右2チャネ
ルに分岐する。21−1L、21−1R、21−2L、
21−2Rは畳込部で、各系統及び左右各チャネル毎に
音響信号に対して畳み込み演算を行う。22−1L、2
2−1R、22−2L、22−2Rは遅延部で、各系統
及び左右各チャネル毎に音響信号を遅延する。31L及
び31Rは加算部で、左右各チャネル毎に各系統の音響
信号を加算する。32L及び32Rは増幅部で、左右各
チャネル毎に音響信号を増幅する。33L及び33Rは
音響信号出力部で、左右各チャネルの音響信号yL(t),y
R(t)を出力する。
【0088】また、音響伝達特性の推定に関わる部分は
以下の各部から構成される。41は入力操作部で、各系
統の音響信号に対する入出力の断絶や増幅率や音源方位
角の基礎となるデータを利用者の操作によって入力す
る。
【0089】51は目標方位角設定部で、入力操作部
(41)より得られたデータより各系統の音響信号に対
する目標方位角φ1,φ2を設定する。この設定方法に関
しては図8を用いて後述する。
【0090】52は時間特性係数合成部で、目標方位角
設定部(51)において設定された目標方位角φ1,φ2
を手がかりに畳込部(21−1L/21−1R/21−
2L/21−2R)において畳み込み演算を行うための
各系統及び左右各チャネルに対する時間特性係数を合成
する。この合成方法に関しては、図6を用いて後述す
る。
【0091】53は伝搬時間推定部で、目標方位角設定
部(51)において設定された目標方位角φ1,φ2を手
がかりに遅延部(22−1L/22−1R/22−2L
/22−2R)において遅延させるための各系統及び左
右各チャネルに対する伝搬時間を推定する。この推定方
法に関しては、図7を用いて後述する。
【0092】54−1は係数記憶部で、時間特性係数合
成部(52)における演算に必要な係数(主成分up,展
開係数ajklm,bjklm又は該被験者間平均値<ajlm>,<b
jlm>)を記憶する。
【0093】54−2は係数記憶部で、伝搬時間推定部
(53)における演算に必要な係数(展開係数τjkm
σjkm又は該被験者間平均値<τjm>,<σjm>)を記憶す
る。
【0094】61−1は増幅率設定部で、入力操作部
(41)より得られたデータにより増幅部(12−1/
12−2)において各々用いられる増幅率A1,A2を設定
する。
【0095】61−2は増幅率設定部で、入力操作部
(41)より得られたデータより増幅部(32L/32
R)において用いられる増幅率Bを設定する。ここで
は、増幅率Bを増幅部(32L/32R)において共通
に用いる。
【0096】次に、時間特性係数合成部(52)におけ
る演算過程例を図6を用いて説明する。この演算には目
標方位角φと係数記憶部(54−1)に蓄えられた主成
分ulと展開係数の被験者間平均値<ajlm>,<bjlm>を用い
る。目標方位角φとして各音響信号入力系統に対するも
のφ1,φ2について、また左右両チャネルについても該
演算を施す。
【0097】ここで、前記式(9)に従って目標方位角
φより展開係数の被験者間平均値<ajlm>,<bjlm>より重
み係数の被験者間平均値<w* jl(φ)>を推定する。
【0098】これにより求められた重み係数<w* jl(φ)>
より、式(11)に従って振幅周波数特性の被験者間平
均値<h* j(φ)>を合成する。
【0099】さらに、前記式(12)に従って振幅周波
数特性<h* j(φ)>より時間特性係数<h* min j(φ,t)>を算
出する。
【0100】次に、伝搬時間推定部(53)における演
算過程例を図7を用いて説明する。この演算には目標方
位角φと係数記憶部(54−2)に蓄えられた展開係数
の被験者間平均値<τjm>,<σjm>を用いる。時間特性係
数合成部(52)と同様に、目標方位角φとして各音響
信号入力系統に対するものφ1,φ2について、また左右
両チャネルについても該演算を施す。ここで、前記式
(13)に従って展開係数の被験者間平均値<τjm>,<
σjm>より伝搬時間の被験者間平均値<T* j(φ)>を算出す
る。
【0101】よって、図5に示した音響信号出力部(3
3L/33R)から出力される左右各チャネルの音響信
号yL(t),yR(t)は、
【数17】 となる。各系統の音響信号x1(t),x2(t)は各々増幅され
ている。しかし、各々目標方位角φ1,φ2において再生
した場合における音刺激の振幅周波数特性及び両耳間到
達時間差の被験者間平均値が受聴者の各耳において再現
される。
【0102】従って、不特定多数の受聴者にとって、各
系統の音響信号x1(t),x2(t)に対応する音を各々目標方
位角φ1,φ2に定位させることが可能になる。
【0103】図8は、目標方位角設定部(51)による
目標方位角φの設定例を(a)(b)に各々示す。これらのう
ちの(a)は利用者がマウスを用いて指示された座標をも
って目標方位角φを定める概念を示す。この方法は、利
用者が目標方位角φを自在に操作する場合に好都合であ
る。
【0104】図8の(b)には、受聴者の方位と目標音源
間をなす方位角φを定める概念を示す。受聴者の方位
は、例えばヘッドホンのように身体に装着する物体に備
えられた方位センサをもって検出する。この方法は、受
聴者に目標音源の方位を絶対的に知覚させるために好都
合である。上記に述べたように目標方位角φの設定方法
によって多様な応用が可能となる。
【0105】次に、本発明の他の実施形態を説明する。
図9は、他の実施形態の要部を示す構成図であり、図5
に示した実施形態の構成における中央部の枠内の構成に
代えて設けたものである。これ以外の構成は前述の実施
形態と同様である。また、本実施形態は、本発明の[請
求項2]記載の音響信号合成装置の構成を基礎として構
成したものである。
【0106】本実施形態において変形された部分に関し
て図9を用いて説明する。21−1L/21−1R/2
1−2L/21−2Rは畳込部で、前述の実施形態と機
能は同一である。
【0107】23−1L/23−1R/23−2L/2
3−2Rは遅延部で、各系統及び左右各チャネル毎に時
間特性係数を遅延させる。
【0108】本実施形態は、伝搬時間推定部(53)に
おいて推定された伝搬時間に相当する遅延が、時間特性
係数合成部(52)で合成された時間特性係数に対して
直接施している点が前述の実施形態と異なっている。
【0109】従って、遅延された時間特性係数が、畳込
部(21−1L/21−1R/21−2L/21−2
R)で行われる畳み込み演算係数として音響信号に作用
する。畳み込み演算の性質より、本実施形態によっても
図5に示す音響信号出力部(33L/33R)から出力
される左右各チャネルの音響信号yL(t),yR(t)は式(1
6a)、(16b)と各々等しくなる。従って、本実施
形態の音響信号合成装置によっても前述の実施形態と同
一の効果が得られる。
【0110】次に、本発明の音響信号合成装置を用いて
音響伝達特性の推定に最低限必要な展開次数を検討す
る。任意の方位角φにおいて展開係数<ajlm>,<bjlm>か
ら式(9)を用いて推定された重み係数<W* jl(φ)>の実
測値から直接算出された値<Wj(φ)>からの乖離と展開係
数<τjm>,<σjm>から式(11)を用いて推定された伝
搬時間<T* j(φ)>の実測値から直接算出された値<Tj(φ)
>からの乖離が少なくなることで妥当性が判断される。
【0111】推定された重み係数<W* jl(φ)>の乖離に対
する尺度としてマハラノビス汎距離Dj(φ)を用いる。マ
ハラノビス汎距離Dj(φ)は次式に従って算出される。
【0112】
【数18】 尚、Σ-1は被験者間分散・共分散行列Σの逆行列を示
す。
【0113】ここで、分散・共分散行列の要素Σrs(1≦
r,s≦q)は、
【数19】 と求められる。
【0114】ここで、重み係数ベクトルWjk(φ)の被験
者間分布はq次元正規分布と見なされることが知られて
いる(関連出願:特願平8−254998)。そのた
め、マハラノビス汎距離Dj(φ)は、q次のカイ二乗分布
χq2(Dj 2(φ))の原点からDj(φ)までとした累積度P(Dj 2
(φ))と対応付けられる。累積度P(Dj 2(φ))は次式で表
される。
【0115】
【数20】 従って、累積度P(Dj 2(φ))は平均値からの不特定受聴者
の累積に対する目安となる。
【0116】推定された伝搬時間<T* j(φ)>の乖離につ
いても同様な考察が可能である。乖離の尺度として推定
された伝搬時間<T* j(φ)>と直接算出された値<Tj(φ)>
の差を被験者間における伝搬時間Tjk(φ)の標準偏差σj
(φ)で規格化された値dj(φ)を用いる。即ち、
【数21】 である。ここで、
【数22】 である。
【0117】以下、dj(φ)を規格化偏差と呼称する。伝
搬時間Tjk(φ)の被験者間分布が一次元正規分布とみな
せば、規格化偏差dj(φ)は原点からdj(φ)までの一次元
正規分布1/√(2π)exp( -t2/2 )の累積度Q(dj(φ))を示
す。ここで、
【数23】 である。
【0118】従って、累積度Q(dj(φ))も平均値からの
不特定受聴者の累積に対する目安となる。
【0119】各展開次数和mc+ms=3,4,6,12について
算出したマハラノビス汎距離Dj(φ)の一例を図10に示
す。但し、音源方向数nφを24、測定点を右耳とした。
また、展開次数mc,msを各々mc=(mc+ms)/2 (mc+ms:偶
数),(mc+ms-1)/2 (mc+ms:奇数), ms=(mc+ms)/2-1 (mc
+ms:偶数),(mc+ms-1)/2 (mc+ms:奇数)に定めた。ま
た、展開係数<ajlm>,<bjlm>の算出には、方位角φi(=2
π( i - 1 )/nφ-π,1≦i≦nφ)に配置された各音源i
に対する重み係数wjkli)を用いた。
【0120】図10は展開次数和mc+msの減少に従って
マハラノビス汎距離Dj(φ)が増加する傾向を示してい
る。しかし、展開次数和mc+ms=8,12の場合マハラノビ
ス汎距離Dj(φ)は常に1.0未満となる。
【0121】展開次数和mc+ms=6の場合、マハラノビス
汎距離Dj(φ)は総じて1.0未満、最大1.19である。これ
らの値より累積度はP(1.02)=0.0144,P(1.192)=0.0351
となる。尚、測定点が左耳の場合も同様な結果が得られ
た。
【0122】次に、伝搬時間<T* jk(φ)>についても規格
化偏差dj(φ)を用いて考察する。図11に各展開次数和
μcs=3,4,6,12について算出した規格化偏差d
j(φ)の一例を示す。但し、音源方向数nφを24、測定点
を右耳とした。
【0123】展開次数μc,μsを各々μc=(μcs)/2
cs:偶数),(μcs-1)/2 (μcs:奇数),μs=
cs)/2-1 (μcs:偶数),(μcs-1)/2 (μc+
μs:奇数)に定めた。また、展開次数<τjm>,<σjm>の
算出には方位角φi(=2π( i -1 )/nφ-π,1≦i≦nφ)
に配置された各音源iに対する伝搬時間Tjki)を用い
た。
【0124】図11は展開次数和μcsの減少に従っ
て規格化偏差dj(φ)が増加する傾向を示している。しか
し、展開次数和μcs≦6の場合ほぼ同様な方位角依存
性を示す。μcs=6の場合、規格化偏差dj(φ)の絶対
値の最大は0.16である。この値より累積度はQ(0.16)=0.
0636となる。なお、測定点が左耳の場合も同様な結果が
得られた。
【0125】上記の考察により、展開係数算出の基礎と
なる音源方向数nφ、展開次数和nmをともに6まで削減可
能なことが示唆される。
【0126】
【発明の効果】以上説明したように本発明の請求項1乃
至7記載の仮想音像定位用音響信号合成装置によれば、
任意の目標方位角に応じた音響伝達特性を推定する手段
及び入力音響信号に対して該音響伝達特性を反映させる
手段を備えたので、本装置を使用して合成された音響信
号による音刺激は該目標方位角への音像定位を受聴者に
対して可能にする。
【0127】また、推定される音響伝達特性は目標方位
角に設置された音源から受聴者各耳までの音響伝達関数
の振幅周波数特性と伝搬時間若しくは両耳間における伝
搬時間差である。推定のために予め準備すべき変数とし
て、振幅周波数特性の主成分と主成分重み係数の正弦関
数及び余弦関数による展開係数及び伝搬時間の正弦関数
及び余弦関数による展開係数に限定される。
【0128】従って、これらの変数の利用によって予め
準備すべき変数の数は従来法と比較して減少する。ま
た、推定において前記変数を目標方位角の変化に応じて
更新する必要がなくなる。
【0129】特に、請求項7記載の仮想音像定位用音響
信号合成装置は、目標方位角を入力する手段を有し、該
目標方位角に前記音響伝達特性が合成される。従って、
該音響伝達特性が入力された音響信号に演算されるた
め、入力された目標方位角への音像定位を受聴者に可能
にする。
【図面の簡単な説明】
【図1】仮想音像定位の原理(拡声系)を示す図
【図2】仮想音像定位の原理(両耳受聴系)における音
響信号処理方法を説明する図
【図3】仮想音像定位の原理(両耳受聴系)における音
響信号処理方法(別構成)を説明する図
【図4】仮想音像定位の原理(スピーカ再生系)におけ
る音響信号処理方法を説明する図
【図5】本発明の一実施形態における仮想音像定位用音
響信号合成装置を示す構成図
【図6】本発明の一実施形態における時間特性係数合成
方法を説明する図
【図7】本発明の一実施形態における伝搬時間推定方法
を説明する図
【図8】本発明の一実施形態における音源方位角設定例
を説明する図
【図9】本発明の他の実施形態における装置構成の要部
を示す図
【図10】重み係数ベクトル推定値の乖離における展開
次数依存性を示す図
【図11】伝搬時間推定値の乖離における展開次数依存
性を示す図
【符号の説明】
11−1,11−2…音響信号入力部、12−1,12
−2…増幅部、13−1,13−2…分岐部、21−1
L,21−1R,21−2L,21−2R…畳込部、2
2−1L,22−1R,22−2L,22−2R…遅延
部、31L,31R…加算部、32L,32R…増幅
部、33L,33R…音響信号出力部、41…入力操作
部、51…目標方位角設定部、52…時間特性係数合成
部、53…伝搬時間推定部、54−1…係数記憶部、5
4−2…係数記憶部、61−1…増幅率設定部、61−
2…増幅率設定部。

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 少なくとも1系統の音響信号を入力する
    音響信号入力手段と、 該各系統及び左右各チャネルにつき、受聴者から各音源
    位置への所望の目標方位角の正弦関数及び余弦関数の組
    を用いた線形結合により、前記音響信号における音響伝
    達関数の各次数の主成分重み係数を推定する重み係数推
    定手段と、 前記主成分重み係数とそれに共役な次数の主成分による
    線形結合によって前記音響伝達関数の振幅周波数特性を
    推定する振幅周波数特性推定手段と、 前記振幅周波数特性を、時刻の関数で表現される該振幅
    周波数特性の周波数依存性を保持した時間特性係数に変
    換する時間特性係数変換手段と、 該時間特性係数を前記入力音響信号に畳み込み演算を施
    す畳込演算手段と、 該演算結果の音響信号を左右各チャネルに出力する音響
    信号出力手段とを有することを特徴とする仮想音像定位
    用音響信号合成装置。
  2. 【請求項2】 前記目標方位角の正弦関数及び余弦関数
    の組を用いた線形結合により、前記音源位置から受聴者
    の左右各耳に至るまでの伝搬時間を推定する伝搬時間推
    定手段と、 前記時間特性係数を各耳とチャネルを対応させて前記推
    定された伝搬時間相当分遅延させる係数遅延手段とを備
    えたことを特徴とする請求項1記載の仮想音像定位用音
    響信号合成装置。
  3. 【請求項3】 前記目標方位角の正弦関数及び余弦関数
    の組を用いた線形結合により、前記音源位置から受聴者
    の耳に至るまでの伝搬時間を推定する伝搬時間推定手段
    を備えると共に、 音響信号を各耳とチャネルを対応させて前記推定された
    伝搬時間相当分遅延させる信号遅延手段を前記畳込演算
    手段に対して直列に設けたことを特徴とする請求項1記
    載の仮想音像定位用音響信号合成装置。
  4. 【請求項4】 前記伝搬時間推定手段は、前記目標方位
    角の正弦関数及び余弦関数の組を用いた線形結合により
    左右両耳間伝搬時間差を推定すると共に、左右両チャネ
    ル間において前記左右両耳間伝搬時間差に相当する差が
    得られるように伝搬時間を推定することを特徴とする請
    求項2又は3記載の仮想音像定位用音響信号合成装置。
  5. 【請求項5】 前記振幅周波数特性推定手段は、一音源
    方位角に存在する音源位置から受聴者の一方の耳までの
    音響伝達関数の振幅周波数特性を、受聴者にとって前記
    一音源方位角に存在する音源位置と左右対称な音源方位
    角に存在する音源位置から他方の耳までの音響伝達関数
    の振幅周波数特性の値をもって決定することを特徴とす
    る請求項1乃至4の何れかに記載の仮想音像定位用音響
    信号合成装置。
  6. 【請求項6】 前記伝搬時間推定手段は、一音源方位角
    に存在する音源位置から受聴者の一方の耳に至るまでの
    伝搬時間を、受聴者にとって前記一音源方位角に存在す
    る音源位置と左右対称な音源方位角に存在する音源位置
    から音響信号が他方の耳に至るまでの伝搬時間の値をも
    って決定することを特徴とする請求項1乃至5の何れか
    に記載の仮想音像定位用音響信号合成装置。
  7. 【請求項7】 前記目標方位角を入力する手段を有し、
    該目標方位角を用いて前記主成分重み係数及び前記伝搬
    時間を推定することを特徴とする請求項1乃至6の何れ
    かに記載の仮想音像定位用音響信号合成装置。
JP9060471A 1997-03-14 1997-03-14 仮想音像定位用音響信号合成装置 Pending JPH10257598A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP9060471A JPH10257598A (ja) 1997-03-14 1997-03-14 仮想音像定位用音響信号合成装置

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP9060471A JPH10257598A (ja) 1997-03-14 1997-03-14 仮想音像定位用音響信号合成装置

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPH10257598A true JPH10257598A (ja) 1998-09-25

Family

ID=13143230

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP9060471A Pending JPH10257598A (ja) 1997-03-14 1997-03-14 仮想音像定位用音響信号合成装置

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JPH10257598A (ja)

Cited By (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2001028800A (ja) * 1999-06-10 2001-01-30 Samsung Electronics Co Ltd 位置調節が可能な仮想音像を利用したスピーカ再生用多チャンネルオーディオ再生装置及びその方法
JP2005136709A (ja) * 2003-10-30 2005-05-26 Nippon Telegr & Teleph Corp <Ntt> 収音方法、装置、プログラム、および記録媒体
US8005244B2 (en) 2005-02-04 2011-08-23 Lg Electronics, Inc. Apparatus for implementing 3-dimensional virtual sound and method thereof
JP2020036271A (ja) * 2018-08-31 2020-03-05 本田技研工業株式会社 伝達関数生成装置、伝達関数生成方法、およびプログラム
JP2020048037A (ja) * 2018-09-18 2020-03-26 株式会社今仙電機製作所 音源定位処理方法及びこの音源定位処理方法を用いた変換装置及びプログラム

Cited By (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2001028800A (ja) * 1999-06-10 2001-01-30 Samsung Electronics Co Ltd 位置調節が可能な仮想音像を利用したスピーカ再生用多チャンネルオーディオ再生装置及びその方法
JP4584416B2 (ja) * 1999-06-10 2010-11-24 三星電子株式会社 位置調節が可能な仮想音像を利用したスピーカ再生用多チャンネルオーディオ再生装置及びその方法
JP2005136709A (ja) * 2003-10-30 2005-05-26 Nippon Telegr & Teleph Corp <Ntt> 収音方法、装置、プログラム、および記録媒体
US8005244B2 (en) 2005-02-04 2011-08-23 Lg Electronics, Inc. Apparatus for implementing 3-dimensional virtual sound and method thereof
JP2020036271A (ja) * 2018-08-31 2020-03-05 本田技研工業株式会社 伝達関数生成装置、伝達関数生成方法、およびプログラム
JP2020048037A (ja) * 2018-09-18 2020-03-26 株式会社今仙電機製作所 音源定位処理方法及びこの音源定位処理方法を用いた変換装置及びプログラム

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US9622006B2 (en) Method and system for head-related transfer function generation by linear mixing of head-related transfer functions
US8520871B2 (en) Method of and device for generating and processing parameters representing HRTFs
US8442237B2 (en) Apparatus and method of reproducing virtual sound of two channels
US6243476B1 (en) Method and apparatus for producing binaural audio for a moving listener
US7382885B1 (en) Multi-channel audio reproduction apparatus and method for loudspeaker sound reproduction using position adjustable virtual sound images
US20180310114A1 (en) Distributed Audio Capture and Mixing
US5982903A (en) Method for construction of transfer function table for virtual sound localization, memory with the transfer function table recorded therein, and acoustic signal editing scheme using the transfer function table
US10531217B2 (en) Binaural synthesis
JP5813082B2 (ja) モノラル信号を立体音響化するための装置及び方法
JP5769967B2 (ja) ヘッドホン再生に関する方法、ヘッドホン再生システム、コンピュータプログラム
Akeroyd et al. The binaural performance of a cross-talk cancellation system with matched or mismatched setup and playback acoustics
EP3700233A1 (en) Transfer function generation system and method
NL1032538C2 (nl) Apparaat en werkwijze voor het reproduceren van virtueel geluid van twee kanalen.
CN111937414A (zh) 音频处理装置、音频处理方法和程序
JPH10257598A (ja) 仮想音像定位用音響信号合成装置
JP3395809B2 (ja) 音像定位処理装置
JPH09191500A (ja) 仮想音像定位用伝達関数表作成方法、その伝達関数表を記録した記憶媒体及びそれを用いた音響信号編集方法
US10999694B2 (en) Transfer function dataset generation system and method
JPH10257597A (ja) 仮想音像定位用係数算出方法及び仮想音像定位用係数表作成方法
JPH10294999A (ja) 仮想音像定位用音響信号合成装置
JPH0937397A (ja) 音像定位方法及びその装置
CN112602338A (zh) 信号处理装置、信号处理方法和程序
US20240163630A1 (en) Systems and methods for a personalized audio system
JP2909521B2 (ja) 頭外音像定位ステレオ受聴器受聴方法
Chen 3D audio and virtual acoustical environment synthesis