JPH10233300A - 低エミッタンス電子蓄積リング - Google Patents

低エミッタンス電子蓄積リング

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JPH10233300A
JPH10233300A JP4974597A JP4974597A JPH10233300A JP H10233300 A JPH10233300 A JP H10233300A JP 4974597 A JP4974597 A JP 4974597A JP 4974597 A JP4974597 A JP 4974597A JP H10233300 A JPH10233300 A JP H10233300A
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electromagnets
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祥二 神谷
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 低エミッタンス運転が可能でミニアンジュレ
ータや超電導ウィグラを挿入できる小型で経済的な電子
蓄積リングを提供する。 【解決手段】 直列に配設された3基の同型の偏向電磁
石1、2、3とその間に介設された2基の4極電磁石
4、5を主要要素とし、モジュールの端における分散関
数が比較的大きな値になっても偏向電磁石の中心におけ
る水平ベータ関数βxと分散関数ηを極力小さくするよ
うにしたトリプルクロマティックベンド(TCB)を第
1の基本モジュールとし、第1偏向電磁石の半分の長さ
を有する第2の偏向電磁石を用いて第1偏向電磁石−4
極電磁石−第2偏向電磁石−第2偏向電磁石−4極電磁
石−第1偏向電磁石の順に配設し、第2偏向電磁石の間
に形成される直線部における分散関数をゼロにしたTC
Bを第2の基本モジュールとして、これら基本モジュー
ルを複数直列に配設して電子蓄積リングを形成する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、放射光装置に用い
る電子蓄積リングに関し、特に水平エミッタンスが低
く、超電導ウィグラ、多極超電導ウィグラ、ミニアンジ
ュレータ等を挿入して高輝度な放射光を得ることができ
る電子蓄積リングに関する。
【0002】
【従来の技術】最近の放射光発生装置用の電子蓄積リン
グは、2基の偏向電磁石とそれらに挟まれた複数の4極
電磁石から構成されるダブルベンドアクロマティックセ
ル(DBA)またはDBAの間にもう1基の偏向電磁石
を組み込んで構成するトリプルベンドアクロマティック
セル(TBA)を用いてラティスを構成するのが普通で
ある。これらDBAやTBAを用いた電子蓄積リングで
は、セルの両端位置における分散関数をゼロにして、セ
ルに挟まれた中間位置に挿入光源を配設するようにす
る。
【0003】一方、放射光リングで高輝度の放射光を得
るためにはエミッタンスを小さくすることが必須であっ
て、10nm−rad以下にすることが好ましい。とこ
ろが、DBAあるいはTBAの両端で分散関数をゼロに
しようとすると、エミッタンスを最小化することが困難
になり、たとえば所定の電子エネルギの下で数nm−r
adの水平エミッタンスを得ようとすれば、膨大な数の
セルを用い周長が大きくコストの高い電子蓄積リングに
なってしまう。
【0004】同じ偏向半径ρを有する偏向電磁石を用い
て形成された電子蓄積リングにおける水平方向のビーム
エミッタンスεxは、γを電子のエネルギを表すローレ
ンツ因子、Jxを減衰分配率(damping partition numbe
r)、Hをラティス不変量(Lattice invariant)とする
と、下の式で表される。ただし、<>は電子蓄積リング
全周にわたる平均値を意味する。 εx=Cqγ2<H>/(Jxρ) (1) H=γxη2+2αxηη’+βxη’2 (2) ここで、Cqは定数で、3.84×10-13m、ηは水平
方向の分散関数、η’はその傾き、αx、βx、γxはツ
イスパラメータ(Twiss parameter)として知られるラ
ティス関数である。
【0005】従って、エミッタンスεを小さくするため
には、<H>を小さくするか対応する偏向電磁石内のラ
ティス関数を小さくする必要がある。しかし、このよう
にすると偏向電磁石の端部と隣接する4極電磁石におけ
るβxの値が容認できないほど大きくなる可能性があ
る。また、さらに超電導ウィグラがビームダイナミック
スに与える影響を軽減するために、ウィグラを挿入する
直線部における分散をゼロにすることが要求される。そ
うしないと、ウィグラのストロングフィールドがビーム
エミッタンスを顕著に増大して装置の性能を制約するこ
とになるからである。したがって通常は、超電導ウィグ
ラを設置する直線部における分散をゼロとするため、多
数のアクロマティックベンドを併置した光源構成を用い
ることになる。
【0006】このようにエミッタンスを極小化しかつ分
散のない直線部を形成するために、従来よく用いられる
ものとして、チャスマン・グリーン(Chasmann-Green)
のダブルベンドアクロマティックセル(CG)とトリプ
ルベンドアクロマティックセル(TBA)がある。CG
は基本的に2個の2極磁石とそれに挟まれた多数の4極
磁石からなり、TBAは2式のCGの間にもう1個の2
極磁石を配設した構造を有する。
【0007】偏向磁石内におけるラティス関数を適切に
選択するための計算は容易で、CGとTBAの場合の最
小エミッタンスは下の式で表される。 εx=Cmγ2θ3 (3) ここで、θ=2π/Ncはアクロマティックアングル、
cはセルの数、Cmはラティスに固有の定数である。エ
ミッタンスがビームエネルギの2乗に比例し偏向角の3
乗に比例するというこの関係式はCGとTBAに特有な
わけではなく、一般的な性質である。
【0008】これから分かるように、一定量のエネルギ
γの下でエミッタンスεを小さくしようとするとラティ
スのセル数Ncを増加してθを減少させなければならな
い。これは装置の周長を増加しコストを上昇させる結果
となる。エミッタンスを小さくする別の方法は、CGや
TBAの場合より定数Cmが小さい新しい形式のラティ
スを用いることである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明が解決
しようとする課題は、新しい形式のコンパクトなラティ
スを用いることにより低エミッタンスで小型の電子蓄積
リングを構成することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するた
め、本発明に係る電子蓄積リングは、直列に配設された
3基の同型の偏向電磁石とその偏向電磁石の間に介設さ
れた2基の4極電磁石を主要要素として構成され、4極
電磁石がモジュールの端における分散関数が比較的大き
な値になっても偏向電磁石の中心における水平ベータ関
数と分散関数を極力小さくするように選択されたトリプ
ルクロマティックベンド(TCB)を第1の基本モジュ
ールとしてラティスを組むことによりエミッタンスを最
適化したことを特徴とする。
【0011】また、第1基本モジュールの両端部にさら
に補正用の4極電磁石を2基ずつ備え、この補正用4極
電磁石によりモジュール端における垂直ベータ関数を
0.3〜0.7mに、また水平ベータ関数を10〜18
mに調整して、第1基本モジュール間のギャップを直線
部としてここに挿入光源を配設するようにすることがで
きる。なお、直線部に挿入する挿入光源はミニアンジュ
レータであってもよい。
【0012】さらに、本発明に係る電子蓄積リングは、
上記第1の基本モジュールに加えて、2基の第1の偏向
電磁石と、第1偏向電磁石の半分の長さを有する2基の
第2の偏向電磁石と、2基の4極電磁石を主要要素とし
て、第1偏向電磁石−4極電磁石−第2偏向電磁石−第
2偏向電磁石−4極電磁石−第1偏向電磁石の順に直列
に配設して構成され、第2偏向電磁石の間を直線部と
し、4極電磁石により直線部における分散関数を減少さ
せるようにした第2の基本モジュールを含めてラティス
を組むようにしてもよい。
【0013】また、第2基本モジュールはさらに補正用
の4極電磁石を追加設置してこの補正用4極電磁石によ
り直線部のベータ関数を安定させるようにすることが好
ましい。また、第2基本モジュールの第2偏向磁石の間
に形成された直線部に挿入する挿入光源は多極超電導ウ
ィグラであってよい。さらに、第1基本モジュールと第
2基本モジュールを交互に配設して合計8個の基本モジ
ュールを組み込んで電子蓄積リングを構成することが好
ましい。
【0014】本発明の電子蓄積リングはトリプルクロマ
ティックベンド(TCB)を用いるためエミッタンスの
最小化がより容易であり、同じエネルギ水準でより低い
エミッタンスを実現することができ、より小型で安価な
リングを構成することが可能である。本発明の電子蓄積
リングは偏向電磁石の中央位置で水平ベータ関数と分散
関数を極小にするようにしたため、偏向電磁石として強
い磁場を発生することができる超電導電磁石を使用する
ことができる。従って、ビームダイナミックに影響を与
えず硬X線を発生させるようにすることができる。
【0015】TCBの端に2基の4極電磁石を設けて垂
直ベータ関数が小さくなるように調整することにより、
TCBの間の直線部に小さいギャップを有するミニアン
ジュレータを設置することができるようになる。この直
線部における垂直エミッタンス関数が小さいため、ミニ
アンジュレータが有する1.5mmから2mm程度のギ
ャップに対してもビーム寿命が長い。また中央偏向電磁
石を他の偏向電磁石の半分の長さにしたもので構成すれ
ば、普通の4極電磁石を用いて一寸調整することにより
半分長の中央偏向電磁石の中間に形成される直線部にお
ける分散関数を値が小さく微分値がゼロになるようにす
ることが容易にできるため、この直線部に超電導挿入光
源、RFキャビティ、その他の加速器機器を設置するこ
とができる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る超電導ウィグ
ラとミニアンジュレータを用いたマグネット構造を実施
例に基づいて詳細に説明する。発明者らは新しくトリプ
ルクロマティックベンド(TCB)を用いて、電子蓄積
リングを構成した。TCBは3個の2極電磁石と2個の
4極電磁石を基本の構成とするコンパクトなセルであ
る。TCBではセルの端部における分散関数をゼロにす
ることにこだわらないで、エミッタンスを最小化する条
件を満たすように構成する。また、上記の基本セルの間
に2対の4極電磁石対を配設して、これによりベータト
ロン包絡関数をミニアンジュレータに適合するように調
整する。
【0017】TCBにおいて、理想的な最適エミッタン
スにできるだけ近づけるには、偏向電磁石の中心でβx
を数十cm、ηxを数cm程度にする必要があることが
分かった。TCBを基本構成モジュールとする本発明の
電子蓄積リングにおける上記式(3)の定数Cmは82
0nmとなり、従来技術による電子蓄積リングにおける
値が2600nm(米国:ALS)程度になることと比
較して極めて小さい。
【0018】なお、ミニアンジュレータとは、従来のア
ンジュレータが永久磁石列の間に電子ビームが通過する
真空チャンバを設けて形成されるため、磁石列間の間隙
が2cmから3cm程度になり、強い磁場を印加するこ
とが困難であったのに対して、永久磁石列ごと真空容器
に収納することにより磁石列間ギャップを1.5mmか
ら3mm程度にするようにしたもので、従来のアンジュ
レータと比較して強い磁場を形成して放射光強度を向上
させるばかりでなく、磁場の周期長も短くすることが可
能で放射光の波長を短くすることができる。
【0019】ある特定のラティスについて適当な構成を
決めるためには、直線部におけるラティス関数の値を注
意深く決める必要がある。ミニアンジュレータを電子蓄
積リングに挿入して使用するためには、電子ビームにつ
いてギャップ方向の幅を十分小さくしてアンジュレータ
のギャップ側壁に接触して高速電子を損失しないように
して電子ビームの寿命を確保しなければならない。ミニ
アンジュレータは垂直方向の開口が極めて狭いため、ビ
ーム寿命がβzの値に強く依存することを考慮に入れる
必要がある。
【0020】狭いギャップを有するミニアンジュレータ
における電子ビーム寿命の制約に最も係わりがあるプロ
セスは、ラザフォード散乱と呼ばれる残留ガス原子によ
る弾性散乱である。この散乱によりベータトロン運動に
対する角度キックをもたらし、増大した増幅度が開口限
界を超えると粒子が喪失する。ラザフォード散乱の断面
は下の式により与えられる。 σs=4pre 2Z(Z+1)βz0<βz>/(γ2z 2) (4) ここで、pは残留ガスの圧力、Zは原子数、azはアン
ジュレータの間隙の半分に当たる開口限界、βz0はアン
ジュレータ端における垂直方向包絡関数である。散乱断
面は原子数Zに強く依存することが分かる。実際上Zが
最も大きい最悪の場合は窒素分子N2でZが7となる。
【0021】弾性散乱寿命τsは、電子エネルギEをG
eVで、残留ガスの圧力pをnTorrで表すと下の式
で表される。 τs=107(E2/p)(az 2/βz0<βz>) (5) ここで注意しなければならないのは、βz0がミニアンジ
ュレータの中心における包絡関数βzcでなく、アンジュ
レータにおける垂直ベータ関数の最大値であって、アン
ジュレータの端点における値であることである。両者の
間には下式のような関係が成立する。 βz0=βzc+L2/4βzc (6) ここでLはアンジュレータの長さである。
【0022】このように、垂直ベータ関数の最大値βz0
はアンジュレータの長さの2乗に対応して大きくなり中
央における垂直ベータ関数βzcに反比例して小さくなる
成分を有するため、ミニアンジュレータ用直線部の中央
におけるベータ関数を闇雲に小さくしてもいけないこと
が分かる。アンジュレータ直線部中央における垂直ベー
タ関数βzを小さくするとアンジュレータの端部におけ
る値βz0が許容できない水準に達してしまうからであ
る。また、式(5)にあるように、弾性散乱寿命はアン
ジュレータにおける垂直ベータ関数とリング全体にわた
る垂直ベータ関数の平均値の積に反比例する。このた
め、リング中における垂直ベータ関数を適当な値にする
ためには、直線部の垂直ベータ関数を余り小さくするこ
とはできない。
【0023】ある条件下で適当なリング垂直ベータ関数
値と散乱寿命を得ることができる適切な直線部ベータ関
数値は0.5mから0.8mとされる。この条件下では
直線部ベータ関数が0.4mとなると0.8mのときに
10時間あった寿命が4時間も短くなることが分かって
いる。このように蓄積リング中と直線部とにおいて適度
の垂直ベータ関数を選択することは、垂直方向のクロマ
ティシティを減少させる上にも効果がある。
【0024】一方、ミニアンジュレータにおける水平方
向ベータ関数βxの値は、放射光ビームの射出線上の放
射光ビームスポットの大きさを最小化するように選ばれ
る。放射位置から距離Lにおけるビームサイズdxは下
の式により評価することができる。 dx 2=σx 2+L2(σx2+σr2) (7) ここで、ビームサイズdxはビーム横断面の半値であ
り、σxは電子ビームのスポットサイズ、σx’は電子ビ
ームの角度広がり、σr’は放射光が本来持っている広
がりを表し、放射射光のビームサイズσrは電子のビー
ムサイズσxに対して無視できるとした。例えばミニア
ンジュレータからの距離Lが15mのときの放射光の幅
xを直線部の中央における水平方向ベータ関数βxに対
してプロットしてみると、水平方向ベータ関数βxの値
が16mから22mまで変化する間に緩やかな最低値を
持ち、これより小さい値でも放射光の幅dxが大きくな
ることが分かる。
【0025】また、ミニアンジュレータからの放射光の
輝度Bは下の式で表すことができる。 B=(光子フラックス)/(4π2ΣxΣx’ΣzΣz’) (8) ここで、放射光の位置Σx,z 2=σx,z2、および放射光の
角度広がりΣx,z2=σx,z2+σr2である。上記と同
様に直線部の中央における水平方向ベータ関数βxに対
して式(8)の分母の値をプロットしてみると、水平方
向ベータ関数βxの値が18mから22mまでの間に最
低値を持ちこの条件での放射光輝度が高く、ベータ関数
がこれより小さくなっても放射光の輝度が低下すること
が分かる。このように、ミニアンジュレータ等の挿入光
源を挿入する直線部における水平方向ベータ関数がある
適当な範囲になるようにトリプルクロマティックベンド
(TCB)を構成して、挿入光源で放射される放射光の
輝度を向上させることができる。
【0026】さて一方、超電導ウィグラの磁場は電子ビ
ームに大きな影響を与えるため、ウィグラを挿入する直
線部におけるラティス関数値を適正に選択することが重
要である。ビームエミッタンスを増大させないために
は、超電導ウィグラにおける水平分散関数をゼロにしな
ければならない。なお、分散がゼロあるいは極めて小さ
い場合は、ウィグラによりビームエミッタンスを減少さ
せることも可能となる。
【0027】超電導ウィグラの超電導電磁石が生成する
磁場は、垂直面内のエッジフォーカシングを行わせ、下
の式に従って垂直方向のチューンシフトΔνzとベータ
関数βzをリングの周りに波打たせる効果を有する。 Δνz≒ave(βz)/4π・<Bz 2/Bρ2>・L (9) Δβz/βz≒2πΔνz/sin(2πνz) (10) ここで、Lはウィグラの全長、ave(βz)はウィグラ位置
における垂直方向包絡関数の平均値、Bzはウィグラを
縦断する磁場、Bρは電子のエネルギEによりE(Ge
V)=0.3Bρ(T・m)で決まる蓄積リングの内の
磁場強度と曲率半径の積である。また、<>はウィグラ
内における平均値を意味する。
【0028】したがって、ラティスに対する影響を小さ
くするためウィグラは通常垂直ベータ関数βzが小さい
位置に設置されるが、なお適切な補正を加える必要があ
る。なお、実験的には、超電導ウィグラにおける垂直ベ
ータ関数βzを6mより小さくすると都合がよいことが
分かっている。
【0029】超電導ウィグラを用いてアンジオグラフィ
を取るときには、空間解像度を向上させるためにビーム
源におけるサイズσxを0.2mmから0.3mm程度
にすることが望まれる。このため、下式に従って、ウィ
グラを挿入する直線部における水平ベータ関数βxに制
約をもたらす。 βx=σx 2/εx (11) ここで、εxは水平エミッタンスである。上記条件の電
子蓄積リングでは、βxが11m以下であることが好ま
しいことが分かっている。
【0030】このようにして構成される基本モジュール
を必要数直列に結合して電子蓄積リングを形成し、直線
部に必要な挿入光源等を設置することにより、従来技術
による蓄積リングより小型のリングで十分高輝度な放射
光を得ることができる。また、従来設置が容易でなかっ
たミニアンジュレータを挿入しても十分長いビーム寿命
を確保できるようになる。
【0031】
【実施例】以下、電子ビームエネルギが2.2GeV、
蓄積電流が0.3A、電子ビームの寿命が10時間以上
という仕様を満たす実施例を表した図面によって、本発
明に係る電子蓄積リング構造を詳細に説明する。図1
は、本発明の電子蓄積リングに用いる基本モジュール構
成を示す電磁石配置図、図2は図1の電磁石配置におけ
るラティス関数を示す図面、図3は本発明の電子蓄積リ
ングの8分の1に当たる基本構成を示す電磁石配置図、
図4は図3の電磁石配置を2セット繋いだリングの4分
の1部分におけるラティス関数を示す図面である。ま
た、図5は本実施例における電子蓄積リングの電磁石配
置を示す図面である。
【0032】本実施例の電子蓄積リングにおける基本モ
ジュールは図1に示したトリプルクロマティックベンド
(TCB)である。TCBは、主要素が3個の偏向電磁
石BMと2個の4極電磁石Q3からなる鏡面対称構造を
有している。図1において、参照番号1、2、3は同じ
断面構造と磁場強度を持つ偏向電磁石(BM)で、内部
を通過する電子ビームを所定角度、本実施例では15度
ずつ水平方向に偏向させる。偏向電磁石に挟まれて4極
電磁石(Q3)4、5が配置される。2個の4極電磁石
4、5は、電子ビームを収束させることにより偏向電磁
石内のラティス関数を適切に調整して、より小さい水平
エミッタンスを生成するようにするものである。
【0033】図2には、上記TCB内における電子ビー
ムの軌道に沿ったラティス関数の変化状態が表示されて
いる。図2に表示したラティス関数は、水平ベータ関数
βxと垂直ベータ関数βzと分散関数ηである。図中実線
で表した分散関数ηは、初めの偏向電磁石1の中央で極
小値を取った後増大するところを、4極電磁石4により
再び減少して真ん中の偏向電磁石2の中央で極小値をと
る。その後、増大するところを2個目の4極電磁石5に
より減少して、3番目の偏向電磁石3の中央で極小値を
取って増大する。
【0034】初めの偏向電磁石1の上流側には基本モジ
ュール外側の直線部におけるベータ関数を調整するため
の1対の4極電磁石(Q1、Q2)6、7を配設し、さ
らに電子ビームの形状を整え色収差(chromaticity)を
低減させるため、収束用の6極電磁石(SF)8と拡散
用の6極電磁石(SD)9を配置してある。また、3番
目の偏向電磁石3の下流には、4極電磁石6、7および
6極電磁石8、9と鏡面対称に、4極電磁石(Q2、Q
1)10、11および6極電磁石(SD、SF)12、
13が配設されていて、電子ビームの形状を回復して次
段のモジュールに供給するようにしている。
【0035】また、図2中1点鎖線で表した水平ベータ
関数βxも、分散関数ηとほぼ近似した変化を呈するよ
うに調整されている。なお、図中破線で表した垂直ベー
タ関数βzは、TCB端部で0.3mから0.7m程度
の最小値を取り、偏向電磁石1、2、3の位置で大きく
なるが、両端の偏向電磁石1、3の位置で約14mと大
きく、中央の偏向電磁石2の位置で約3m程度とより小
さくなるように調整されている。
【0036】電子蓄積リングは、8基の基本モジュール
をそれぞれ直線部を介して直列に連ねた形態で構成され
る。直線部は例えば2mあって垂直ベータ関数βz
0.3mから0.7m程度で、ここにビームポジション
センサやステアリングマグネット、ミニアンジュレータ
等を設置する。なお、この直線部では水平ベータ関数β
xが約18mと大きいので、ここに電子注入装置を設け
ることができる。
【0037】さらに、超電導ウィグラなど超電導装置を
設置するための直線部は、8基の内1個おきに配設され
る4基の第2の基本モジュールの中央部分に設けられ
る。図3は、上記第1基本モジュールの半分と中央偏向
電磁石を分割した第2基本モジュールの半分を繋いで構
成された電子蓄積リングの8分の1の部分を表した配置
図である。図は、左側に第1基本モジュールの半分を描
き、右側に第2基本モジュールの半分を描いてある。図
中、図1と同じ要素には同じ参照番号を付してある。図
3の磁石構成がそれぞれ面対称に連なって1個の電子蓄
積リングを形成する。
【0038】第2基本モジュールは図1により説明した
第1の基本モジュールの中央偏向電磁石2を半分の長さ
を有する電磁石(DB)21に2分割して両者を離設し
たもので、半分長の偏向電磁石21の間が直線部にな
る。偏向電磁石1と半分長の偏向電磁石21の間に設置
された4極電磁石(Q31)22は半分長の偏向電磁石
21内の水平方向分散関数の位置ηxと角度広がりηx
をゼロにする機能を有する。この直線部におけるベータ
関数は3個の4極電磁石(Q4、Q5、Q6)23、2
4、25により受容可能な値になるように調整され、こ
れ以外に特殊な4極電磁石を設ける必要はない。
【0039】3図の左部分に描いた第1基本モジュール
と右部分に描いた第2基本モジュールの間に約2mの直
線部が形成されていて、この直線部に上述のように例え
ばミニアンジュレータ31が挿入される。また図中最右
端に半分表示された直線部には超電導ウィグラ32が配
設されている。この半分長の偏向電磁石に挟まれた直線
部は約3mの長さを有する。図4から分かるように、直
線部における分散関数ηは上述の通りほぼゼロになって
いるが、水平ベータ関数βxは約10m、垂直ベータ関
数βzは約4mと、それぞれ適度な値を有するように調
整されている。この直線部にはRFキャビティを設ける
こともできる。
【0040】表1は上記条件を満たす本実施例における
ラティス関数の選択例を示す。また、表2は偏向電磁
石、表3は4極電磁石のパラメータ選択例を示す。
【0041】
【表1】
【表2】
【表3】
【0042】図5は、第1基本モジュールと第2基本モ
ジュールを各4基ずつ用いて構成された本実施例の電子
蓄積リング全体を表したもので、電子ビームはリニアッ
ク31で発生して小型のシンクロトロン42で加速され
タイミングを計って電子蓄積リング43に入射される。
電子蓄積リング43は、4基の第1基本モジュール44
と4基の第2基本モジュール45を交互に直列に接続し
てリングを形成し、またリング中に放射光で失われたビ
ームのエネルギを補うための高周波加速装置46を介設
している。電子蓄積リング43では、第1モジュールの
中央偏向電磁石51から放射光SRが放射されるほか、
第2基本モジュールの中央に設けられる直線部に超電導
ウィグラ(SCS)52や多極超電導ウィグラMSW5
3を設置して放射光を発生させ、また第1基本モジュー
ルと第2基本モジュールの間に形成される直線部にミニ
アンジュレータ54等の挿入光源を設置して別種の放射
光を発生させることができる。
【0043】上記のようにして構成されたTCBを基本
モジュールとして形成した本実施例の電子蓄積リング
は、例えば2.2GeVの容量に対して周長が120m
程度、平均直径約38mと極めて小型にすることがで
き、製作費用も低廉になる上、エミッタンスが小さいた
め小型の割に高輝度の放射光を得ることができる。な
お、本実施例の説明に現れた具体的な寸法及び関数値は
説明を明確にするために使用したものに過ぎず、本発明
の技術的思想を逸脱することなく電子蓄積リングに要求
される仕様に基づいて任意に変更できることは言うまで
もない。
【0044】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明の電子蓄積
リングはトリプルクロマティックベンド(TCB)を用
いて、より容易にエミッタンスの最小化を達成して小型
リングにより高輝度の放射光を得ることができる。本発
明の電子蓄積リングは、超電導電磁石を使用してビーム
ダイナミックに影響を与えず硬X線を発生させるように
することができる。また、小さいギャップを有するミニ
アンジュレータを使用してもビーム寿命が長く、長期運
転が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電子蓄積リングに用いる基本セル
構成を示す電磁石配置図である。
【図2】 図1の電磁石配置におけるラティス関数を
示す図面である。
【図3】本発明実施例の電子蓄積リングの8分の1に当
たる基本構成を示す電磁石配置図である。
【図4】 本発明実施例の電子蓄積リングの4分の1
に当たる部分におけるラティス関数を示す図面である。
【図5】本実施例における電子蓄積リングの電磁石配置
図である。
【符号の説明】
1、2、3 偏向電磁石 4、5 4極電磁石 6、7、10,11 4極電磁石 8、9、12、13 6極電磁石 21 偏向電磁石 22、23、24、25 4極電磁石 31 アンジュレータ 32 超電導ウィグラ 41 リニアック 42 シンクロトロン 43 電子蓄積リング 44 第1基本セル 45 第2基本セル 46 RFキャビティ 51、52、53、54 光源

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 直列に配設された3基の同型の偏向電磁
    石と該偏向電磁石の間に介設された2基の4極電磁石を
    主要要素として構成され、該4極電磁石がモジュールの
    端における分散関数が比較的大きな値になっても前記偏
    向電磁石の中心における水平ベータ関数と分散関数を極
    力小さくするように選択された第1の基本モジュールを
    用いてラティスを組むことによりエミッタンスを最適化
    した電子蓄積リング。
  2. 【請求項2】 前記第1基本モジュールが、さらに両端
    部に補正用の4極電磁石を2基ずつ備え、該補正用4極
    電磁石によりモジュール端において垂直ベータ関数を
    0.3〜0.7m、水平ベータ関数を10〜18mに調
    整したもので、該第1基本モジュール間のギャップに挿
    入光源を配設したことを特徴とする請求項1記載の電子
    蓄積リング。
  3. 【請求項3】 前記挿入光源がミニアンジュレータであ
    ることを特徴とする請求項2記載の電子蓄積リング。
  4. 【請求項4】 2基の第1の偏向電磁石と、該第1偏向
    電磁石の半分の長さを有する2基の第2の偏向電磁石
    と、2基の4極電磁石を主要要素として、第1偏向電磁
    石−4極電磁石−第2偏向電磁石−第2偏向電磁石−4
    極電磁石−第1偏向電磁石の順に直列に配設して構成さ
    れ、前記第2偏向電磁石の間を直線部として、前記4極
    電磁石により該直線部における分散関数を減少させるよ
    うにした第2の基本モジュールを含めてラティスを組ん
    だ請求項1から3のいずれかに記載の電子蓄積リング。
  5. 【請求項5】 前記第2基本モジュールがさらに補正用
    の4極電磁石を追加設置してこの補正用4極電磁石によ
    り前記直線部の分散関数をゼロに近くしベータ関数を安
    定させるようにした請求項4記載の電子蓄積リング。
  6. 【請求項6】 前記第2基本モジュールの第2偏向磁石
    の間に形成された直線部に挿入光源を配設した請求項4
    または5記載の電子蓄積リング。
  7. 【請求項7】 前記挿入光源が超電導ウィグラと多極超
    電導ウィグラのいずれかであることを特徴とする請求項
    6記載の電子蓄積リング。
  8. 【請求項8】 前記第1基本モジュールと前記第2基本
    モジュールを交互に配設して8個の基本モジュールを組
    み込んだ請求項4から7のいずれかに記載の電子蓄積リ
    ング。
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