JPH10195585A - 硬質サーメット材料及びそれを用いた金属加工用工具と機械部品 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 結合金属相の割合が増大しても硬度低下がな
い硬質サーメット材料及び、摩耗、欠け、折損などがな
い、耐摩耗性に優れた金属加工用工具及び機械部品の提
供。 【解決手段】 マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬
化型ステンレス鋼、マルエージング鋼などの熱処理性を
有する金属結合相とＩＶａ、ＶａあるいはＶＩａ族元素
の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物結晶粒の表層に、炭
化モリブデンが固溶しているセラミックス相とからなる
組織であることを特徴とする硬質サーメット材料であ
り、その中でも結合金属相の割合が５〜４０重量％であ
る硬質サーメット材料と、このような硬質サーメット材
料で製造された耐摩耗性を有する金属加工用工具及び機
械部品。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、金属加工用工具又
は金属加工用機械部品の材料として利用できる硬質サー
メット材料及びそれを用いた耐摩耗性を有する金属加工
用工具及び機械部品に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】従来、金属加工用工具又は金属加工用機
械部品の材料としては、工具鋼や高速度鋼等の鉄系金属
材料、超硬合金等が常用されていたが、連続重負荷加
工、断続加工等によって加工条件が工具や部品に対して
過酷になることによって、工具母材あるいは部品母材の
摩耗損耗が激しくなったり、衝撃が加わる加工条件の場
合に欠けや折損等の損傷が多く発生しており、改善が望
まれていた。

【０００３】次に、これらに代わる工具又は部品用材料
として、炭窒化チタンをセラミックス相とするサーメッ
ト材料が開発された。その例として、例えば、特開平６
−１７２９１３号に開示されるようなＴｉＣＮ−Ｎｉ
系、また、特開平７−１５０２８６号公報に開示された
ＴｉＣＮ−Ｍｏ₂Ｃ−Ｎｉ系、ＴｉＣＮ−ＷＣ−Ｎｉ系
のものなどが知られている。さらに、「日本金属学会会
報第２２巻第４号（１９８３年）」には、ＴｉＣ基サー
メットの進歩と現状と題して窒素添加のＴｉＣ−Ｍｏ₂
Ｃ−Ｎｉサーメットについての研究結果が発表されてい
る。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】従来の工具鋼、高速度
鋼などの鉄系金属材料は、もともと耐摩耗性が十分でな
かった。超硬合金あるいは各種のサーメット材料におい
ても、緻密な組織とするためにＣｏやＮｉ系の金属が主
に使用されて金属結合相が形成されてはいるが、これら
金属結合相はセラミックス相に比較して低硬度であり、
やはり耐摩耗性が劣っている。強度、靭性を増大させる
ために金属結合相の割合を増大させると、それに伴って
硬度が低下して耐摩耗性が低下するという問題があり、
耐摩耗性金属加工用機械部品としての材料という点では
実用上十分とは言えない。

【０００５】即ち、金属加工用工具或いは機械部品が工
具鋼や高速度鋼などの鉄系金属材料、或いは超硬合金、
サーメット材料等からなっている場合は、金属加工用工
具や機械部品が被加工金属材と連続的に、或いは断続的
にでも無潤滑摺動運動を繰り返すことによって、金属加
工用工具材や機械部品の金属相が低硬度であるために塑
性変形を起こして、被加工金属材との接触面積が増大
し、摩擦抵抗が増大する。更に摺動部分が摩擦熱によっ
て高温となるために、これら金属加工用工具材、或いは
機械部品と被加工金属材とは相互拡散から凝着を起こ
し、摩擦摩耗や損傷に至る。金属加工用工具，機械部品
等には欠け、折損などが生じることになる。本発明は、
耐摩耗性が優れた硬質サーメット材料及びそれを用いた
耐摩耗性を有する金属加工用工具と機械部品を提供する
ものである。

【０００６】

【課題を解決するための手段】本発明の硬質サーメット
材料は、熱処理性を有する金属結合相と、結晶粒表層に
炭化モリブデンが固溶したＩＶａ、ＶａあるいはＶＩａ
族元素の炭化物、窒化物又は炭窒化物のいずれか１種又
は２種以上で構成するセラミックス相とからなる組織で
ある。前記熱処理性を有する金属結合相は、マルテンサ
イト系ステンレス、析出硬化型ステンレス、マルエージ
ング鋼のいずれかであるものが望ましい。さらに、金属
結合相の割合を５〜４０重量％とする。

【０００７】さらに、本発明は、これらの硬質サーメッ
ト材料を耐摩耗性の金属加工用工具及び機械部品に用い
る。

【０００８】

【発明の実施の形態】本発明による硬質サーメット材料
は、金属結合相が熱処理性を有する点に特徴があり、従
来のサーメット材料、超硬合金等に使用されているＮ
ｉ、Ｆｅ、Ｃｏ又はこれらの合金とは金属結合相が異な
る。即ち、本発明において、熱処理性を有する金属と
は、金属を融点を超えない高温に熱した状態から室温へ
冷却する過程において、結晶相転移あるいは金属炭化物
等の析出という組織変化によって、硬度が増大する性質
を有する金属をいい、この熱処理の仕方としては、焼入
れ、焼もどし等が代表的な方法である。また、熱処理性
を有する金属結合相とは、例えば、マルテンサイト系ス
テンレス鋼、析出硬化型ステンレス鋼、マルエージング
鋼などであり、金属結合相の割合が５〜４０重量％であ
ることを特徴とするものでもある。

【０００９】本発明での熱処理性を有する金属結合相
は、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化型ステン
レス鋼又はマルエージング鋼のいづれかの金属粉末を使
用することによって、金属結合相の硬度増大挙動が顕著
になり、金属結合相の割合が５〜４０重量％であること
によって、耐摩耗性、強度、靭性を兼備した硬質サーメ
ット材料が得られ、耐摩耗性の金属加工用工具及び機械
部品として更に優れた特性を得ることができる。また、
使用する金属粉末の粒径は１０μ前後が好ましい。

【００１０】金属結合相の割合が５重量％未満の場合、
得られる硬質サーメット材料の硬度は非常に高くなり耐
摩耗性は向上するが、靭性あるいは機械的な強さが実用
上十分でなく、欠け、折損等の問題が生じる。金属結合
相の割合が４０重量％を越える場合、得られる硬質サー
メット材料の靭性及び室温における機械的な強さは非常
に高くなるが、硬さ及び高温における靭性、機械的強さ
が低下する等の問題が生じて、従来の工具鋼，高速度鋼
等の鉄系金属材料，超硬合金あるいはサーメット材料等
が使用されている分野に適用することは困難になってく
る。

【００１１】ＩＶａ族元素（Ｔｉ、Ｚｒ、Ｈｆ）、Ｖａ
族元素（Ｖ、Ｎｂ、Ｔａ）あるいはＶＩｂ族元素（Ｃ
ｒ、Ｍｏ、Ｗ）の炭化物、窒化物又は炭窒化物として
は、ＴｉＣ、ＺｒＣ、ＶＣ、ＮｂＣ、ＷＣ、ＴｉＮ、Ｚ
ｒＮ、ＴｉＣＮなどがあり、本発明による硬質サーメッ
ト材料におけるセラミックス相としては、これらを単独
で使用しても、あるいは複数種類を組み合わせて使用し
ても目的とする結果が得られる。

【００１２】本発明においては、ＩＶａ、Ｖａあるいは
ＶＩａ族元素の炭化物、窒化物又は炭窒化物結晶粒の表
層に炭化モリブデンが固溶していることによって、焼結
過程での粗大なセラミックス結晶粒の生成が抑制され、
微細なセラミックスの結晶粒間に金属結合相が分布する
硬質サーメット材料が得られる。それは金属結合相が熱
処理性を有しているために、適正な比率に配合したＩＶ
ａ、ＶａあるいはＶＩａ族元素の炭化物粉末、窒化物粉
末又は炭窒化物粉末と、炭化モリブデン粉末及び熱処理
性を有している金属粉末とからなる混合物を加圧成形
後、無加圧焼結法、雰囲気加圧焼結法、熱間静水圧焼結
法、ホットプレス法その他焼結材料の製造に使用される
と同様な熱処理や焼結工程で緻密化させた後、常温に戻
すことによって結合金属相の硬度が増大する。即ち、熱
処理温度が高温域では、金属結合相が液相としてこれら
セラミックス相の結晶粒間に分布している。焼成終了後
室温までの冷却過程で、例えば、マルテンサイト型変
態、又は炭化物結晶粒の析出硬化現象が金属相において
生じる。このために、セラミックス相と金属結合相とか
ら構成されているサーメット材料に占める金属結合相の
割合を増大させても硬度低下を回避できる。したがっ
て、本発明による硬質サーメット材料で耐摩耗性の金属
加工用工具及び機械部品を製作すると、セラミックス結
晶粒が微細であるために研磨加工した仕上げ面が平滑と
なることと相俟って、耐摩耗性に優れた特性を得ること
ができる。

【００１３】ここで、熱処理における雰囲気条件として
は、アルゴン、窒素などの不活性雰囲気、あるいは真空
その他の非酸化性雰囲気が望ましく、熱処理の最高温度
は１３００〜１７００°Ｃの範囲にあれば、本発明によ
る硬質サーメット材料が得られる。本発明による硬質サ
ーメット材料を使用した金属加工用工具あるいは機械部
品は、従来の工具鋼や高速度鋼などの鉄系金属材料、超
硬合金あるいはサーメット材料が常用されている用途で
ある金属加工用工具あるいは機械部品に比較して、摩耗
や損傷を大幅に軽減することができる。

【００１４】本発明による硬質サーメット材料の適用が
好ましい金属加工用工具あるいは機械部品としては、冷
間塑性加工用型（抜き型、絞り型、成形型、押し出し
型、スリッタ）、熱間塑性加工用型（鋳造型、押し出し
用ステム／ダイス／ライナ他）、圧延用ロールの他に、
伸線用ダイス、引き抜きダイス、深絞りダイス、成型用
ダイスなどがある。

【００１５】

【実施例】実施例により、本発明の硬質サーメット材料
の構成割合（重量％）と特性値を詳しく説明する。な
お、ＩＶａ、ＶａあるいはＶＩａ族元素の炭化物、窒化
物あるいは炭窒化物の代表として、炭窒化チタン、炭化
モリブデン、窒化ジルコニウム、その他を使用した場合
の説明をしているが、これら以外の炭化物あるいは窒化
物でも同様の効果が得られるので、実施例のみに限定さ
れるものではない。

【００１６】表１から表３の各配合割合による混合粉末
を１５０ＭＰａで加圧成形したのち、その成形体を１７
００°Ｃの常圧アルゴン雰囲気中で１時間保持した。そ
の後、室温まで冷却して硬質サーメット材料を作製し
た。これらの硬質サーメット材料の特性評価結果を示
す。

【００１７】ここで無潤滑摺動性の評価は、高張力炭素
鋼ＳＣＭｎ１の平板材と上記の硬質サーメット材料によ
る円柱状材とを使ったピンオンディスク法により行っ
た。押し付け荷重は５０Ｎ、摺動速度はｌｍ／ｓ、摺動
距離は５０００ｍとした。

【００１８】

【表１】 表１は、金属結合相の種類のみを変化させたもので、実
施例１〜３と比較例１に示すとおり、熱処理性を有する
金属を結合金属相とする場合は、硬質サーメット材料は
緻密で高硬度、高強度であり、かつ鉄鋼材料との無潤滑
摺動運動において凝着、欠け等の発生もなく良好である
が、金属結合相が熱処理性を有しない場合は、緻密な硬
質サーメット材料が得られるものの、硬度、強度ともに
実施例に比較して低く、鉄鋼材料との無潤滑摺動運動に
おいて凝着摩耗が発生した。

【００１９】また、表１において、炭窒化物結晶粒表層
に炭化モリブデンが固溶していないセラミックス相と金
属結合相とからなるサーメット材料の特性値を、本発明
による硬質サーメット材料と比較すると、硬度は本発明
による硬質サーメット材料と同等であり、セラミックス
相の結晶粒径が大きいために破壊靭性は増大している
が、曲げ強さが低下しており、研磨加工した仕上げ表面
の粗さも粗くなっていることと相俟って、耐摩耗性が低
下しているため実用上の欠点となる。

【００２０】超硬合金Ｄ２は、曲げ強さが非常に高いに
もかかわらず、鉄鋼材料との無潤滑摺動運動によって摩
耗が生じ、摺動面には多数の傷跡が観察された。

【００２１】

【表２】 表２における実施例７〜１２は、熱処理性を有する金属
としてマルテンサイ卜系ステンレス鋼あるいは析出硬化
型ステンレス鋼が金属結合相の例として、それらの含有
率を変化させた場合の結果である。金属結合相の割合が
特許請求の範囲内にある硬質サーメット材料は、緻密で
高硬度、高強度であり、かつ鉄鋼材料との無潤滑摺動運
動において凝着、欠け等の発生もなく良好である。比較
例４〜７に示す金属結合相の割合が特許請求の範囲外の
場合は、緻密なサーメット材料が得られるものの、金属
結合相の割合が低すぎると曲げ強さおよび破壊靭性が低
下して、鉄鋼材料との無潤滑摺動運動において欠けが発
生し、金属結合相の割合が高すぎると、硬質サーメット
材料の金属結合相の硬度が従来報告されているサーメッ
ト材料あるいは超硬合金における金属結合相の破壊靭性
に比較して高いとはいえども、本発明で望む特性値より
低下することは避けられず、鉄鋼材料との無潤滑摺動運
動において発生する摺動摩擦熱によって摺動部分が高温
になり、鉄鋼材料との凝着が発生した。

【００２２】

【表３】 表３は、熱処理性を有する金属がマルテンサイト系ステ
ンレス鋼の実施例１３〜１６及び比較例８と、析出硬化
型ステンレス鋼の実施例１７〜 ２０及び比較例９によ
る金属結合相であり、セラミックス相として結晶粒表層
に炭化モリブデンが固溶しているＩＶａ、Ｖａあるいは
ＶＩａ族元素の炭窒化物あるいは炭化物と窒化物が共存
している実施例の結果である。

【００２３】セラミックス相がＩＶａ、ＶａあるいはＶ
Ｉａ族元素の炭窒化物、炭化物又は窒化物の単一相であ
る場合と同様に、セラミックス相がＩＶａ、Ｖａあるい
はＶＩａ族元素の炭窒化物や炭化物と窒化物が共存して
いる場合でも、特許請求の範囲内にある限りは高硬度、
高強度かつ高靭性で、鉄鋼材料との無潤滑摺動運動にお
いて凝着、欠け等の発生もない良好な耐摩耗特性を有す
る硬質サーメット材料が得られている。

【００２４】次に、発明例１によるサーメット材料と比
較例１によるサーメット材料と比較例３による超硬合金
とから、冷間塑性加工用の絞り型を製作した。

【００２５】これらの絞り型の内径は入り口側が８０ｍ
ｍで出口側が６０ｍｍである。これらの絞り型を使っ
て、外径が７５ｍｍ、肉厚が２ｍｍのフェライト系ステ
ンレス鋼管を絞り加工した。

【００２６】比較例１によるサーメット材料の絞り型で
５０回絞り加工した結果、絞り型内面には凝着摩耗によ
る傷跡が確認され、絞ったステンレス鋼管外表面には筋
状の擦過傷が確認された。発明例１によるサーメット材
料の絞り型では１００回絞り加工した後でも、このよう
な傷跡は確認されなかった。

【００２７】比較例３による超硬合金の絞り型で５０回
絞り加工した結果、絞り型内面には凝着摩耗による傷跡
が確認され、絞ったステンレス鋼管外表面には筋状の擦
過傷が確認された。これらの傷の発生程度は比較例１に
よるサーメット材料の絞り型よりも顕著であった。一
方、発明例１によるサーメット材料の絞り型では１００
回絞り加工した後でも、このような傷は確認されなかっ
た。

【００２８】

【発明の効果】本発明による硬質サーメット材料は、緻
密で高硬度、高強度であり、かつ鉄鋼材料との無潤滑摺
動運動において凝着、欠け等の発生もなく良好であり、
耐摩耗性に優れた金属加工用工具あるいは機械部品とし
て広範囲の応用が可能である。本発明による硬質サーメ
ット材料を使用した金属加工用工具あるいは機械部品
は、従来の工具鋼や高速度鋼などの鉄系金属材料、超硬
合金あるいはサーメット材料が常用されている用途であ
る金属加工用工具あるいは機械部品に比較して、摩耗や
損傷が大幅に軽減されて好適である。

Claims (5)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 熱処理性を有する金属結合相と、結晶粒
   表層に炭化モリブデンが固溶したＩＶａ、Ｖａあるいは
   ＶＩａ族元素の炭化物、窒化物又は炭窒化物のいずれか
   １種又は２種以上で構成するセラミックス相とからなる
   組織を特った硬質サーメット材料。
2. 【請求項２】 熱処理性を有する金属結合相がマルテン
   サイト系ステンレス鋼、析出硬化型ステンレス鋼又はマ
   ルエージング鋼のいずれかである請求項１記載の硬質サ
   ーメット材料。
3. 【請求項３】 金属結合相の割合が５〜４０重量％であ
   る請求項１又は２記載の硬質サーメット材料。
4. 【請求項４】 請求項１、２又は３記載の硬質サーメッ
   ト材料を用いた金属加工用工具。
5. 【請求項５】 請求項１、２又は３記載の硬質サーメッ
   ト材料を用いた機械部品。