JPH1017586A - 硫化オキシモリブデンジチオカーバメートの製造方法 - Google Patents

硫化オキシモリブデンジチオカーバメートの製造方法

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JPH1017586A
JPH1017586A JP8171298A JP17129896A JPH1017586A JP H1017586 A JPH1017586 A JP H1017586A JP 8171298 A JP8171298 A JP 8171298A JP 17129896 A JP17129896 A JP 17129896A JP H1017586 A JPH1017586 A JP H1017586A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 本発明の目的は6価のモリブデン化合物を出
発物質とし、腐食性が少なく潤滑性に優れた一般式
(1)の骨格の硫化オキシモリブデンジチオカーバメー
ト(MoDTC)を効率よく製造できる工業的製造方法
を提供することにある。 【解決手段】 本発明は、(A)(a)6価のモリブデ
ンを有する化合物と、(b)水硫化アルカリ又は硫化ア
ルカリとを反応させた水溶液又は水懸濁液;(B)二硫
化炭素;(C)二級アミン;及び(D)鉱酸を反応させ
ることにより得られる一般式(1) 【化1】 (式中、R1〜R4は、炭化水素基を表し、R1〜R4の合
計炭素数R’が32より大であり、X1〜X4は、各々硫
黄原子又は酸素原子を表す)で表される硫化オキシモリ
ブデンジチオカーバメートの製造方法において、(D)
の添加当量dが、(b)中のアルカリ当量1に対して特
定の範囲内にあることを特徴とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、硫化オキシモリブ
デンジチオカーバメート(以下、「MoDTC」と記載
する)の製造方法並びにこれを含有する潤滑剤組成物に
関し、詳しくは腐食性が少なく潤滑性に優れたMoDT
Cを効率よく高収率で製造する方法並びにこれを含有す
る潤滑剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車の高性能化、高出力化に伴いエン
ジン油の使用条件は益々過酷になっている。特に最近で
は、環境問題から省燃費が重要な問題としてクローズア
ップされ、エンジン油も低粘度化あるいは摩擦調整剤の
質・量的向上により燃費をより向上させる動きが高まっ
ている。
【0003】この様な状況下の中、MoDTCに対して
優れた摩擦調整剤、耐摩耗剤としての働きが益々期待さ
れている。このMoDTCの製造方法としては特公昭4
5−24562号公報には、二級アミン、二硫化炭素、
三酸化モリブデンから得る方法が示されている。又、特
開昭48−56202号公報には、
【化2】 (式中、Rはアルキル基を表す)の化合物を、上記特公
昭45−24562号公報記載の方法の生成物と五硫化
燐との反応で得ることが記載されている。
【0004】しかしながら、上記の特公昭45−245
62号公報記載の化合物では耐熱性に劣り、特開昭48
−56202号公報記載の化合物は銅板への腐食作用が
あるため、その使用に制限を受けている。
【0005】これを改善するために、特開昭52−19
629及び特開昭52−106824号公報には三酸化
モリブデン又はモリブデン酸のアルカリ金属塩又はアン
モニウム塩と水硫化アルカリ又は硫化アルカリとをモル
比1:0.05〜4の割合で含む水溶液又は水懸濁液中
で、二硫化炭素と二級アミンとを反応させるMoDTC
の製造方法が記載されている。
【0006】又、特開平4−182494号公報には、
三酸化モリブデン又はモリブデン酸のアルカリ金属塩又
はアンモニウム塩と水硫化アルカリ又は硫化アルカリを
配合したpH8.5〜11の水溶液に二硫化炭素と二級
アミンとを反応させるMoDTCの製造方法が記載され
ている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開昭
52−19629号公報及び特開昭52−106824
号公報及び特開平4−182494号公報記載の化合物
は潤滑性の面及び製造の収率等でいまだ改善の余地があ
った。又、上記の方法では6価のモリブデン化合物を出
発物質とし、最終的に一般式(1)の骨格を有するMo
DTCを得んとしている。この点において、使用した6
価のモリブデンがいかに一般式(1)の骨格のMoDT
Cが製造されるかが、製造方法を確立する上で重要であ
り、又、腐食性が少なくかつ潤滑性に優れたMoDTC
を得るために必要となってくる。
【0008】すなわち、本発明の目的は6価のモリブデ
ン化合物を出発物質とし、腐食性が少なく潤滑性に優れ
た一般式(1)の骨格のMoDTCを効率よく製造でき
る工業的製造方法を提供することにある。
【0009】又、本発明の他の目的は、効率よく、純粋
に製造された潤滑剤を用いることにより摩耗特性に優れ
効果的に優れた潤滑性を示しかつ腐食性の少ない潤滑剤
組成物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、6価のモ
リブデン化合物を出発物質とし、腐食性が少なく潤滑性
に優れた一般式(1)の骨格のMoDTCを製造する製
造方法を鋭意検討した結果、効率よく製造する方法を確
立し本発明に到達した。すなわち、本発明は、 (A) (a)6価のモリブデンを有する化合物と、
(b)水硫化アルカリ又は硫化アルカリとを反応させた
水溶液又は水懸濁液; (B) 二硫化炭素; (C) 二級アミン;及び (D) 鉱酸を反応させることにより得られる一般式
(1)
【化3】 (式中、R1〜R4は、炭化水素基を表し、R1〜R4の合
計炭素数R’が32より大であり、X1〜X4は、各々硫
黄原子又は酸素原子を表す)で表されるMoDTCの製
造方法において、(D)の添加当量dが、(b)中のア
ルカリ当量1に対して式(2)
【数2】 で表わされる範囲を満たすものであることを特徴とす
る、一般式(1)で表されるMoDTCの製造方法であ
る。
【0011】又、本発明は、上記製造方法によって製造
されたMoDTCよりなる潤滑剤である。
【0012】なお、一般式(1)の構造は、便宜上のも
のであって、学術的には以下の一般式(3)の構造であ
ることが明らかになっている。
【化4】 ここで、ジチオカルバミン酸部分の、N−C−SS結合
は4原子間で共役しており、全体として負の1価であ
る。又、MoX4は全体として正の2価である。従っ
て、MoDTCはジチオカルバミン酸とMoX4の塩で
あるといえる。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明のMoDTCの製造方法の
原料である(A)は、(a)6価のモリブデンを有する
化合物[以下、「(a)6価モリブデン化合物」と記載
する]と(b)水硫化アルカリ又は硫化アルカリ[以
下、「(b)水硫化アルカリ等」と記載する]を反応さ
せた水溶液又は水懸濁液である[以下、「(A)水懸濁
液等」と記載する]。
【0014】(a)6価モリブデン化合物とは、有機化
合物、無機化合物のいずれをも含むものである。なかで
も、固体であり原料としての取り扱いが容易であるモリ
ブデン酸の金属塩、モリブデン酸のアンモニウム塩及び
三酸化モリブデン(無水モリブデン酸)等が好ましい。
又、モリブデン酸の金属塩としてはアルカリ金属塩、例
えばモリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等
が好ましい。
【0015】(b)水硫化アルカリ等の中で水硫化アル
カリとしては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウ
ム等を用いることができる。水硫化アルカリはフレーク
状、水溶液いずれであっても使用できるが、(a)6価
モリブデン化合物が固体である場合には、固−固反応が
困難であるので液体である水硫化アルカリ水溶液を用い
るのが好ましい。
【0016】(b)水硫化アルカリ等の中で硫化アルカ
リとは、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化アンモニ
ウム等を用いることができる。又、これらの水溶液や、
水酸化アルカリ水溶液中に硫化ガスを導入して得られる
硫化アルカリ水溶液も同様に用いることができる。
【0017】(a)6価モリブデン化合物と(b)水硫
化アルカリ等を反応させて(A)水懸濁液等を得る反応
は、(B)二硫化炭素、(C)二級アミン、(D)鉱酸
との反応の前に少なくとも1部は反応させておく必要が
あり、好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以
上反応させておく必要がある。反応が全く行われていな
い場合は副生産物が多く生産され、最終生産物たるMo
DTCの純度、収率に悪影響を及ぼす傾向が見られるた
めに好ましくない。
【0018】(a)6価モリブデン化合物と(b)水硫
化アルカリ等との反応割合は、一般式(1)におけるX
1〜X4で示される硫黄原子と酸素原子の組成を決定する
要因となる。従って、反応割合を適宜調整することによ
り、MoDTCの使用目的、使用環境等に適応するよう
にX1〜X4の組成を制御することができる。(b)水硫
化アルカリ等の使用量が多ければ、X1〜X4中の硫黄原
子の割合が多くなり、逆に、(b)水硫化アルカリ等の
使用量が少なければ、X1〜X4中の酸素原子の割合が多
くなる。従って、(a)6価モリブデン化合物と(b)
水硫化アルカリ等との反応割合は特に限定されないが、
反応を効率的に進行させるために、(a)6価モリブデ
ン化合物中のモリブデン原子1モルに対して好ましくは
0.01〜4モル、より好ましくは1〜2モル、特に好
ましくは1.2〜1.9モルであるのがよい。
【0019】但し、一般式(1)中のX1〜X4の硫黄原
子と酸素原子の割合において、酸素原子が多いと潤滑性
が乏しく、硫黄原子が多いと腐食性が強くなるため、X
1〜X4の硫黄原子と酸素原子の組成をSmn(m+n=
4である)とした場合、好ましくは1.0≦m≦3.5、
より好ましくは1.7≦m≦3.5、特に好ましくは1.
8≦m≦3.0であるように調整するのがよい。
【0020】(a)6価モリブデン化合物と(b)水硫
化アルカリ等との反応は、水の存在下で行う。この反応
においては反応系に水が含有されていればよく、例えば
両者の少なくとも一方を水溶液又は水懸濁液として用い
るか、両者が共に固体の場合は反応前又は反応中に水を
加えて水溶液又は水懸濁液とすればよい。この反応は通
常、室温〜60℃、30〜60分程度の反応でほぼ完結
させることができる。かかる反応にて(A)水懸濁液等
が得られる。
【0021】又、(A)水懸濁液等を得る工程におい
て、(a)及び(b)の反応前、反応中、反応後のいず
れか又はいずれにおいても、反応を阻害しない範囲の有
機溶媒を加えて(A)水懸濁液等を得ることもできる。
ここで使用できる有機溶媒とは、特に限定はされない
が、脂肪族、脂環族、芳香族、複素環式化合物あるいは
これらの混合物であってよく、具体的には例えばペンタ
ン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキ
サン、リグロイン、石油エーテル等のアルカン類、メタ
ノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノー
ル、ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキ
サノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘ
キサノール等のアルコール類、ジメチルエーテル、エチ
ルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルイソブチ
ルエーテル、エチルイソプロピルエーテル等のアルキル
エーテル類、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイ
ソブチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キ
シレン、エチルベンゼン等の芳香族類、塩化メチレン、
クロロホルム、四塩化炭素、ピリジン、ピペリジン、モ
ルホリン、ピリミジン、テトラヒドロフラン、ジオキサ
ン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジ
メチルアセトアミド、ヘキサメチレンフォスホアミド等
が用いることができる。なかでも、反応生成物の分散性
及び溶媒の取扱いの問題から、メタノール、エタノー
ル、プロパノール、2−プロパノール等のアルコール
類、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチル
ケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等
の芳香族類が好ましい。
【0022】次に、本発明のMoDTCの製造方法の原
料である(B)二硫化炭素は、通常実験的、工業的に用
いられているものが使用できる。
【0023】また、本発明のMoDTCの製造方法の原
料である(C)二級アミンの炭化水素基は、飽和、不飽
和、鎖状、環状、直鎖、分岐鎖を問わず、又同一でも異
なってもよい。すなわち、ここで選択する炭化水素基
が、最終生産物であるMoDTCのR1〜R4となる。か
かる炭化水素基は脂肪族、脂環族、芳香族のいずれであ
ってもよい。例えばエチル、メチル、プロピル、イソプ
ロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリブチル、ペン
チル、イソペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチ
ル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシ
ル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシ
ル、イソトリデシル、ミリスチル、パルミチル、ステア
リル等のアルキル基、プロペニル、ブテニル、イソブテ
ニル、ペンテニル、ヘキセニル、オクテニル、2−エチ
ルヘキセニル、オレイル等のアルケニル基、シクロペン
チル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロ
ヘキシル、エチルシクロペンチル等のシクロアルキル
基、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチ
ル、スチレン化フェニル、α−ナフチル、β−ナフチル
等のアリール基、ベンジル、フェネチル等のアラルキル
基等が挙げられる。
【0024】なかでも、エチル、プロピル、イソプロピ
ル、ブチル、イソブチル、ターシャリブチル、ペンチ
ル、イソペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチ
ル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシ
ル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシ
ル、イソトリデシル、ミリスチル、パルミチル、ステア
リル等のアルキル基が好ましく、炭素数3〜18のアル
キル基が更に好ましく、炭素数8〜13の分枝鎖を有す
るアルキル基が最も好ましい。又、好ましい炭素数は生
成物であるMoDTCの用途によって異なる。例えば、
潤滑油添加剤として使用する場合は、溶解性の面で、炭
素数8〜13の分枝鎖を有するアルキル基が好ましい。
又、炭化水素基の異なる2種以上の二級アミンを用いて
もよい。
【0025】本発明方法により製造されるMoDTC
は、用いる(C)二級アミンを選択することにより、使
用目的、使用条件に適合した炭化水素基を有するMoD
TCが製造できる。例えば、同一の炭化水素基を有する
二級アミンを1種のみ用いれば、R1〜R4の全てが同一
の炭化水素基を有するMoDTCが得られ、異なる炭化
水素基を有する二級アミンを1種のみ用いれば、R1
びR3は同一であり、R2及びR4は同一であるが、R1
びR3と、R2及びR4とは同一でないMoDTCが主生
成物として得られ、同一の炭化水素基を有する二級アミ
ンを2種用いれば、R1及びR2は同一であり、R3及び
4は同一であるが、R1及びR2と、R3及びR4とは同
一でないMoDTCが主生成物として得られる。R1
4のそれぞれにおいて炭素数の制限はないが、合計炭
素数(R’)は32より大で、好ましくは36以上でな
ければならない。合計炭素数(R’)が32以下である
と、潤滑油基油に溶解する場合にMoDTCの油溶性が
乏しくなるためである。
【0026】本発明方法に用いられる(D)鉱酸は、一
塩基酸、二塩基酸、三塩基酸あるいはそれらの部分中和
物等のいずれであってよい。例えば、塩酸、硝酸、亜硝
酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、過塩素酸、塩素
酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等が挙げられるが、反応効率
及び純度の上から塩酸、硝酸、硫酸が好ましく、更に不
揮発性のものが取扱いが容易であるので、硫酸が特に好
ましい。
【0027】ここで、(D)鉱酸の添加当量dは、
(b)中のアルカリ当量1に対して式(2)
【数3】 で表わされる範囲を満たすものでなければならない。
(D)の添加当量dがこの範囲を上回ると副生成物が多
くなり、この範囲を下回ると収率が低下する。
【0028】又、一般式(1)の構造を有するMoDT
Cを高収率で得るために、(E)還元剤を用いることが
できる。本発明の製造方法に用いられる(E)還元剤
は、他の物質に電子を与える性質を有する化合物であっ
て、6価のモリブデンを一般式(1)の骨格を有するモ
リブデンに還元できる物質ならば特に限定されない。
又、1種を用いても2種以上を併用してもよい。例え
ば、ヨウ化水素、硫化水素、水素化リチウムアルミニウ
ム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化物、一酸化炭
素、二酸化硫黄、亜硫酸ナトリウム、二チオン酸ナトリ
ウム、亜二チオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイ
ド)、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、
チオ硫酸ナトリウム等の低級酸素酸の塩、硫化ナトリウ
ム、ポリ硫化ナトリウム、硫化アンモニウム等の硫黄化
合物、アルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、アル
ミニウム、亜鉛等の電気的陽性の大きい金属のアマルガ
ム、鉄(II)、スズ(II)、チタン(III)、クロム(I
I)等の低原子価状態にある金属の塩類、ヒドラジン、
ボラン、ジボランや、ホルムアルデヒド、アセトアルデ
ヒド等のアルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸、アスコ
ルビン酸、過酸化水素等が挙げられる。なかでも、水素
化物、低級酸素酸のアルカリあるいはアルカリ土類金属
塩、硫黄化合物、還元糖、アルデヒド類、還元性酸等が
好ましく、更には取扱いが容易であり、入手が容易であ
る亜硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム(ハイド
ロサルファイド)等の低級酸素酸のアルカリ金属塩ある
いはアルカリ土類金属塩が好ましい。本発明の製造方法
において(E)還元剤を用いて製造することは、高収
率、高純度で最終生成物である一般式(1)で表される
MoDTCを得る上で好ましい。
【0029】この場合、(E)還元剤の量は、(A)水
懸濁液等中のモリブデン原子1モルに対して0.01〜
4モル加えるのが好ましく、特に0.05〜2モル加え
るのが好ましい。かかる範囲外であっても製造できない
わけではないが、添加量が非常に少なくては一般式
(1)の骨格を有するモリブデン化合物を効率よく得る
ことができず、又、大量に添加しすぎても反応後の精製
工程が煩雑になり、副生成物が増える。
【0030】本発明方法において、上記成分(A)、成
分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)の反
応順序は問わないが、収率の向上、副生成物を産出しな
いためには(B)二硫化炭素、(C)二級アミンを同時
に加える反応が好ましい。すなわち、(A)水懸濁液等
に(B)二硫化炭素及び(C)二級アミンを同時に加え
たのち(D)鉱酸を加えるか、(A)水懸濁液等に
(D)鉱酸を加えた後、(B)二硫化炭素及び(C)二
級アミンを同時に加える。(E)還元剤を加える場合
は、(a)6価モリブデン化合物と(b)水硫化アルカ
リ等から(A)水懸濁液等を得る反応の反応中あるいは
反応後に加えるのが好ましい。本発明の方法において、
(B)二硫化炭素及び(C)二級アミンの使用量は、反
応効率、製品の純度を向上させ、且つ副生成物量を減ら
すため、(A)水懸濁液等中のモリブデン原子1モルに
対して、(B)二硫化炭素及び(C)二級アミンそれぞ
れ好ましくは0.9〜2モル、更に好ましくは1〜1.5
モルである。
【0031】本発明の製造方法において、反応温度は室
温付近でも可能であるが、好ましくは40〜140℃、
更に好ましくは60〜110℃である。反応温度が高す
ぎると、副生成物が増加する傾向があり、低すぎると、
製品収量が減少する傾向がある。
【0032】なお、本発明の製造方法により得られるM
oDTCは粒状あるいは粘度の高い液体である。
【0033】又、必要に応じ、未反応原料や副生成物を
除去するため、最終生成物を水又は有機溶媒で洗浄する
工程を設けてもよい。又、本発明の製造方法により得ら
れたMoDTCが粉体又は固体である場合には、有機溶
媒にてスラリー化する工程を設ければ、MoDTCが精
製されるとともに、グリース用添加剤として好ましい粒
径のMoDTCが得られる。有機溶媒は、前述した有機
溶媒が使用できる。
【0034】本発明の製造方法で得られたMoDTC
は、従来の製造方法で得られたMoDTCに比べて、潤
滑剤添加剤として特に優れた一般式(1)の骨格のモリ
ブデンを有するMoDTCを工業的に効率よく製造する
ことができる。又、不純物が少ないために腐食の原因と
ならず、かつ潤滑油基油あるいは基グリースに添加され
た場合に優れた潤滑性を発揮することができる。又、成
分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成
分(E)の使用量を最適化することにより、更に優れた
MoDTCを得ることができる。
【0035】本発明の製造方法で得られたMoDTC
は、潤滑剤として優秀かつ有用なものであり、特に、摩
擦低減能力、酸化防止能力に優れるものである。本発明
の製造方法で得られたMoDTCは、潤滑油基油又は基
グリースに適当量、好ましくは0.01〜5重量%添加
して使用される。
【0036】用いられる基油は、通常用いられている潤
滑油基油ならば特に制限を受けるものではないが、例え
ば天然の原油から分離、蒸留、精製されたパラフィン
系、ナフテン系、あるいはこれらを水素化処理、溶剤精
製した鉱油、HVI油、又化学的に合成された合成油、
例えばポリ−α−オレフィン、ポリイソブチレン(ポリ
ブテン)、ジエステル、ポリオールエステル、リン酸エ
ステル、ケイ酸エステル、ポリアルキレングリコール、
ポリフェニルエーテル、シリコーン、フッ素化化合物、
アルキルベンゼン等である。
【0037】又、グリースとして用いられる場合は、基
グリースとしては特に制限を受けるものではないが、例
えば鉱油及び/又は合成油を使用した金属石鹸グリー
ス、金属石鹸複合グリース、ウレア系グリース、有機処
理粘土を使用したグリース(例えばベントングリース)
等が挙げられる。
【0038】更に、本発明の製造方法によって得られた
MoDTCを潤滑油基油又は基グリースに添加した潤滑
剤組成物には、公知の潤滑剤添加剤の添加を拒むもので
はなく、例えばジンクジチオホスフェート、フェノール
系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、清浄剤、分散剤、
粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、消泡剤、他の
モリブデン系添加剤を適宜加えることができる。又、グ
リースとして使用する場合は二硫化モリブデン、グラフ
ァイト、4フッ化エチレン等の固体潤滑剤とも併用する
ことができる。なかでも、ジンクジチオホスフェートは
酸化防止能、摩擦低減能とも優れており、本発明の製造
方法によって得られたMoDTCと好ましく併用でき
る。
【0039】本発明の方法によって得られたMoDTC
と、潤滑基油または基グリースを含有してなる潤滑剤組
成物は、自動車を含む車両用エンジン、2サイクルエン
ジン、航空機用エンジン、船舶用エンジン、機関車用エ
ンジン(これらのエンジンはガソリン、ディーゼル、ガ
ス、タービンを問わない)等を含む内燃機関用潤滑油、
自動トランスミッション液体、トランクアクスル潤滑
剤、ギヤ潤滑剤、金属加工用潤滑剤等として使用するこ
とができる。
【0040】
【実施例】以下、本発明を実施例及び比較例により更に
具体的に説明する。 実施例1 攪拌機、温度計、窒素管及び還流冷却器を取り付けたフ
ラスコに、三酸化モリブデン144g(1.00モル)
を水250ml及びメタノール500mlに懸濁させ攪
拌した。これに硫化ソーダ九水塩346g(1.44モ
ル)を加えて溶解させた後、無水亜硫酸ソーダ63g
(0.50モル)を添加した。次いで、ジ−2―エチル
ヘキシルアミン127g(0.53モル)、ジ−トリデ
シルアミン200g(0.53モル)及び二硫化炭素8
0g(1.05モル)を常温で加えて2時間反応させた
後、35%希硫酸342g(1.22モル)で中和し、
80℃で5時間還流させた。これを冷却して水層を除去
した後、温水で洗浄し、脱水、ろ過して茶褐色粘稠液体
520gを得た。収率は98%であった。元素含量は、
Mo=15.7%、S=19.2%であった。又、本例に
おける希硫酸の添加当量dの値は0.85であった。な
お、本例において、R1及びR2は2−エチルヘキシル基
であり、R3及びR4はトリデシル基であり、R’は42
であり、mは2.7であった。
【0041】実施例2 硫化ソーダ九水塩346gに代えて40%水硫化ソーダ
水溶液202g(1.44モル)を用い、ジ−2―エチ
ルヘキシルアミン127g及びジ−トリデシルアミン2
00gに代えてジ−トリデシルアミン400g(1.0
6モル)を用い、35%希硫酸を152g(0.54モ
ル)用いた以外は実施例1と同様に反応させ、黄褐色ペ
ースト状物質529gを得た。収率は88%、元素含量
は、Mo=14.0%、S=14.0%であった。又、本
例における希硫酸の添加当量dの値は0.75であっ
た。なお、本例において、R1〜R4はトリデシル基であ
り、R’は52であり、mは2.7であった。
【0042】実施例3 ジ−2―エチルヘキシルアミン127g及びジ−トリデ
シルアミン200gに代えてジ−トリデシルアミン40
0g(1.06モル)を用いた以外は実施例1と同様に
反応させ、黄褐色ペースト状物質530gを得た。収率
は88%、元素含量は、Mo=13.9%、S=13.8
%であった。又、本例における希硫酸の添加当量dの値
は0.85であった。なお、本例において、R1〜R4
トリデシル基であり、R’は52であり、mは2.7で
あった。
【0043】実施例4 ジ−トリデシルアミン400gに代えて純度90%のジ
−ステアリルアミン548g(1.05モル)を用いた
以外は実施例2と同様に反応させ、茶色粉末状物質1,
305gを得た。収率は88%、元素含量は、Mo=1
2.5%、S=12.6%であった。又、本例における希
硫酸の添加当量dの値は0.75であった。なお、本例
において、R1〜R4はステアリル基であり、R’は72
であり、mは2.7であった。
【0044】実施例5 ジ−トリデシルアミン400gに代えて純度90%のジ
−ステアリルアミン548g(1.05モル)を用いた
以外は実施例1と同様に反応させ、茶色粉末状物質1,
289gを得た。収率は87%、元素含量は、Mo=1
2.5%、S=12.6%であった。又、本例における希
硫酸の添加当量dの値は0.85であった。なお、本例
において、R1〜R4はステアリル基であり、R’は72
であり、mは2.7であった。
【0045】比較例1 希硫酸の量を212g(0.76モル)用いた以外は実
施例2と同様に反応させ、黄褐色粘稠液体557gを得
た。収率は107%。元素含量は、Mo=18.2%、
S=20.7%であった。又、本例における希硫酸の添
加当量dの値は1.06であった。本例の生成物につい
てシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で分析
したところ、多数のスポットが検出され副生成物が大量
に含まれていることが確認された。なお、本例における
R’は52であった。
【0046】比較例2 希硫酸の量を51g(0.18モル)用いた以外は実施
例2と同様に反応させ、黄褐色粘稠液体318gを得
た。収率は60%。元素含量は、Mo=15.5%、S
=19.0%であった。又、本例における希硫酸の添加
当量dの値は0.25であった。なお、本例における
R’は52であった。
【0047】使用例1 実施例1、3及び5の化合物及び比較例1及び2の化合
物について、下記の試験を実施した。結果はまとめて表
1に示す。 銅板腐食試験 それぞれ得られた生成物0.275重量部を100N精
製パラフィン鉱物油99.7重量部に加熱溶解したの
ち、銅板腐食試験(JIS K−2513)に供した。
試験条件は100℃で3時間であった。尚、本試験の評
価値は、数字が小さいほど腐食性が少ないことを示す。
【0048】耐荷重試験 それぞれ得られた生成物0.5重量部を100N精製パ
ラフィン鉱物油100重量部に加熱溶解したのち、高速
四球型摩擦試験機にて、焼き付き荷重を測定した。測定
条件は回転数1500回転/分、試験時間1分、試験温
度は室温であった。
【0049】潤滑性試験 それぞれ得られた生成物0.5重量部を100N精製パ
ラフィン鉱物油100重量部に加熱溶解したのち、SR
V往復動摩擦試験機にて摩擦係数を測定した。試験条件
は荷重200ニュートン、振動数50ヘルツ、振幅1m
m、温度80℃、試験時間15分であり、上部試験片
(振動子)にφ15×L22mm円柱、下部試験片(固
定子)にφ24×L6.85mm円盤の線接触で行っ
た。又、それぞれの試料に2−エチルヘキサノールを用
いて合成したジンクジアルキルジチオホスフェート(Z
DTP)1重量部を添加したのち、SRV往復動摩擦試
験機にて同様に摩擦係数を測定した。
【0050】
【表1】
【0051】表1の記載から判る通り、本発明の製造方
法によって製造されたMoDTCは、比較例のそれと比
べて銅板腐食性が小さく、又、潤滑油に添加した場合に
は焼き付き過重に差はないものの摩擦係数が低く、より
潤滑特性に優れるものである。
【0052】
【発明の効果】本発明の効果は、特定の範囲の量の鉱酸
を使用することにより一般式(1)のMoDTCを効率
よく製造する新規の製造方法を提供したことである。
又、本発明の他の効果は、腐食性が少なく潤滑性に優れ
た潤滑剤組成物を提供したことである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 森田 和寿 東京都荒川区東尾久7丁目2番35号 旭電 化工業株式会社内 (72)発明者 斉藤 陽子 東京都荒川区東尾久7丁目2番35号 旭電 化工業株式会社内

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】(A) (a)6価のモリブデンを有する
    化合物と、(b)水硫化アルカリ又は硫化アルカリとを
    反応させた水溶液又は水懸濁液; (B) 二硫化炭素; (C) 二級アミン;及び (D) 鉱酸を反応させることにより得られる一般式
    (1) 【化1】 (式中、R1〜R4は、炭化水素基を表し、R1〜R4の合
    計炭素数R’が32より大であり、X1〜X4は、各々硫
    黄原子又は酸素原子を表す)で表される硫化オキシモリ
    ブデンジチオカーバメートの製造方法において、 (D)の添加当量dが、(b)中のアルカリ当量1に対
    して式(2) 【数1】 で表わされる範囲を満たすことを特徴とする、一般式
    (1)で表される硫化オキシモリブデンジチオカーバメ
    ートの製造方法。
  2. 【請求項2】 更に、任意の反応段階で(E)還元剤を
    添加・反応させる、請求項1記載の製造方法。
  3. 【請求項3】 (b)水硫化アルカリ又は硫化アルカリ
    を、(a)6価のモリブデンを有する化合物中のモリブ
    デン原子1モルに対して0.01〜4モル反応させる、
    請求項1又は2記載の製造方法。
  4. 【請求項4】 (E)還元剤の添加量が、(a)6価の
    モリブデンを有する化合物中に含まれるモリブデン原子
    1モルに対して、0.01〜4モルである、請求項2又
    は3記載の製造方法。
  5. 【請求項5】 (E)還元剤を、(a)6価のモリブデ
    ンを有する化合物と(b)水硫化アルカリ又は硫化アル
    カリの反応中及び/又は反応後に加える、請求項2ない
    し4のいずれか1項記載の製造方法。
  6. 【請求項6】 一般式(1)で表される硫化オキシモリ
    ブデンジチオカーバメートにおいて、X1〜X4で示され
    る硫黄原子と酸素原子の組成をSmn(式中m+n=4)
    とした場合、mが1.0≦m≦3.5の範囲内にある、請
    求項1ないし5のいずれか1項記載の製造方法。
  7. 【請求項7】 請求項1ないし6のいずれか1項記載の
    製造方法により製造された硫化オキシモリブデンジチオ
    カーバメートよりなることを特徴とする潤滑剤。
  8. 【請求項8】 潤滑油基油又は基グリースに、請求項7
    記載の潤滑剤を含んでなることを特徴とする潤滑剤組成
    物。
  9. 【請求項9】 請求項8記載の潤滑剤組成物に更にジン
    クジチオホスフェートを含んでなることを特徴とする潤
    滑剤組成物。
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