【発明の詳細な説明】
発明の名称
コリメータを用いた蒸着におけるスパッタターゲット浸食部制御方法
技術分野
本発明は、スパッタ蒸着法に関し、特に、スパッタコーティングにおけるカソ
ード組立体、さらに詳しくは、コリメータを用いた蒸着に用いられる、マグネト
ロンスパッタにおけるカソード組立体の設計及び利用に関する。
背景技術
従来から、スパッタ蒸着法において、蒸着された薄膜の膜厚を均一にするため
に多大な注意が払われてきた。スパッタコーティングにより薄膜を半導体ウェハ
表面に蒸着し、量産する工程において、特に、高速な蒸着が要求される場合、マ
グネトロンによってプラズマを発生させ、プラズマを成形することにより、スパ
ッタされるターゲットの浸食部を決定する方法が多く採用されている。これによ
り、ターゲット表面の各部分のターゲット部材の消耗率と、ウェハ基盤上の蒸着
率がコントロールされる。
近年、半導体ウェハ製造用のスパッタコーティング装置の使用者及び同装置の
製造業者の間で、スパッタコーティング材料をターゲットから叩き出すスパッタ
コーティングの工程に、回転マグネット構造体を用いて、イオンにより生成され
るプラズマを磁気的にコントロールするスパッタコーティングターゲット及びカ
ソード組立体が望まれている。そのような回転マグネットを用いたスパッタター
ゲット及びカソード組立体の例が、米国特許第5、130、005号、MAGNETRO
N SPUTTER COATING METHOD AND APPARATUS WITH ROTATING MAGNET CATHODEに開
示されている。ここでは、この米国特許を参照することとする。
スパッタリングカソード組立体の設計においては、コーティングされる基板表
面に対してターゲットを大きくすることにより、基板表面に蒸着される膜厚の均
一性が改善されることが知られている。理論上、他のパラメータをすべて同じく
して、浸食部が均一であるターゲットの大きさを無限大とすれば、コーティング
の不均一は解消される。なぜなら、コーティングの不均一は、基板の中央部付近
より基板の端部付近の方がスパッタリングソースが少ないことにより生ずるから
である。しかしながら、実際にはスパッタターゲットの大きさには限度がある。
通常、直径がコーティングされるウェハの2倍乃至3倍のターゲットが円形のウ
ェハ基板のコーティングに使用されている。しかし、この場合、ターゲットが均
一に浸食されたとすると、基板の縁部から中央部に向かってより厚い膜が蒸着す
る事になる。
そこで、カソード組立体の製造の際、端部のみが薄くコーティングされること
なく、また、その他の要因により蒸着するスパッタ膜が不均一にならないような
、最適なターゲットの浸食部を形成すべき設計が行われてきた。この設計の最適
化は、一般的には、プラズマ形成に用いられるマグネット構造体の形状を選択す
ることにより行われている。例えば、通常、マグネットアセンブリは、ターゲッ
ト端部の周りにより多くのプラズマをトラップする強磁界を生成するように設計
され、端部においてコーティングが薄くなることを防いでいる。これにより、基
板付近のターゲットは、その領域の狭さを埋め合わすべく、高速に浸食する。
また、蒸着が行われるウェハの表面が平坦ではなく、ミクロサイズのビアを有
するウェハ表面に垂直な壁部を有して段状に形成されている場合、新たな問題が
生じる。例えば、段状部分の陰になったビアの底部にスパッタコーティングを行
う必要がある場合がある。このような場合、ビアの段状部分に過度のコーティン
グがなされる前に、ビアの底部に十分なコーティングを施さなくてはならない。
この問題は、ターゲットと半導体ウェハとの間にコリメータを配置し、ターゲッ
トから浅い角度でウェハに入射する粒子の量を制限することにより解決される。
すなわち、コリメータを配置することにより、ターゲットから基板に向かって移
動するスパッタ部材の粒子の入射角は、ターゲットに対して垂直に近い角度に制
限される。これにより、ビアの側壁の蒸着率が減じられるため、ターゲット及び
ウェハに垂直に移動する粒子がビアの底部に向かう際、物理的に遮られることは
ない。
ターゲットとスパッタコーティングされる基板との間にコリメータを用いる場
合、ウェハに対するターゲットのサイズは、コリメータを用いないスパッタリン
グとは異なる効果を生じる。その結果、コリメータを用いない方式において、均
一な薄膜を得るために最適化されたスパッタリングカソードの設計は、コリメー
タを用いた場合には最適とはならない。したがって、ウェハ上に部分的に存在す
るビアの底部は、ウェハの他の部分とは異なる蒸着率及び異なる膜厚でコーティ
ングされる。本出願人は、コリメータを用いない方式においては、理想的であっ
たカソード組立体に、コリメータを用いた場合、ウェハ基板の端部付近では蒸着
が過度に行われ、ウェハの端部から離間した中央部付近では蒸着が不十分となる
傾向があることを見出した。
また、コリメータを用いたスパッタコーティング方式でのスパッタコーティン
グされる薄膜の膜厚の均一性を改善するため、スパッタリングカソード組立体の
テストや誤差の修正も行われてきた。これにより特定のコリメータで改善が得ら
れたものの、コリメータの設計を変更すると改善が得られないことが多い。実際
、コリメータ及びスパッタターゲットが経年変化する過程で、上記のようにある
程度偶然性に依存せざるを得ないカソード組立体の設計による改善の効果は持続
しないことが知られている。
さらに、本出願人は、コリメータ及びターゲットが損耗し、アスペクト比と称
されるコリメータ設計時のパラメータが変化することにより、薄膜の均一性が変
化することを見出した。通常、コリメータは、ターゲットと基板との間に挿入さ
れた、粒子の通路となる整列した複数の孔を有する格子状に形成されている。コ
リメータの孔の形状は、適当な直径を有する円形、または同等の寸法の六角形あ
るいは四角形である。また、コリメータの厚さとは、ターゲット及び基板に垂直
な方向であり、粒子がターゲットからウェハ表面に移動する際に孔を通過する寸
法である。コリメータのアスペクト比は、通常、コリメータの孔の有効直径に対
するコリメータの厚さの比として定義される。このアスペクト比が高いほど、コ
リメータに直角にターゲットから基板に、すなわちコリメータと平行な基板表面
に移動する粒子を制限するコリメータの効果が大きくなる。
少なくともコリメータの一部に、上述のコリメータが損耗する過程にアスペク
ト比の変化が引き起こる。これは、コリメータの孔を通過しない入射角の浅い粒
子が、コリメータの孔のない網状の部分または、孔の内壁によりブロックされ、
コリメータの孔の周囲をコーティングし、この孔を狭くしてしまうためである。
したがって、本出願人は、特定のアスペクト比を有するコリメータにより、膜厚
の均一性を許容範囲に保つための浸食部を得るように最適化されたカソード組立
体が、コリメータ使用する過程で最適ではなくなることを見出した。
さらに、蒸着される膜厚が大きいほど、コリメータがコーティングされ、実用
性を失うに至る率が増す。特定の、あるいは狭い範囲のアスペクト比を有するコ
リメータのみに適用されるカソード組立体の設計は、スパッタ部材を比較的厚く
蒸着するには有効でなく、例えば、チタンまたは窒化チタンのバリヤ層等の極め
て薄い薄膜にのみ用いて有効である。
コリメータを用いて、特にその視野を計算して設計されたコリメータを用いて
蒸着を行う際の薄膜の膜厚の均一性を維持するため、スパッタリングカソードの
設計、特に、スパッタリングカソード設計のマグネトロン及び他のプラズマを成
形する組立体について、体系的な基準を設ける必要がある。また、コリメータを
用いたスパッタコーティングの材料をより多くの物質に拡張することができるよ
うに、また、コリメータを用いたスパッタ蒸着をより効率的且つ有効にするため
に、上述の問題を克服しなければならない。
発明の開示
本発明は、コリメータと共に用いられた場合に均一な蒸着を行えるスパッタタ
ーゲットの浸食部を形成するカソード組立体を提供することを目的とする。
また、本発明は、広範囲のアスペクト比を有するコリメータと共に用いられた
場合にも均一な蒸着を行えるスパッタコーティング装置のカソード組立体を提供
することを目的とする。
さらに、本発明は、コリメータのアスペクト比が使用しているうちに変化して
も均一な蒸着を行うことのできるカソード組立体の設計を提供することを目的と
する。
また、本発明の原理によれば、スパッタターゲットを浸食して、ターゲットの
外端部付近の、深い、好ましくは非対称のガウス曲線に近似した浸食形状を有す
る、ターゲットの内部領域内でほぼ均一な浸食部を形成する方法及び装置が提供
される。本発明の好適な実施例によれば、本発明方法及び装置による浸食部は、
ターゲットの外端部付近の比較的深いエンハンスメントと、ターゲットの中央部
付近の特定の浅い浸食領域と、上記中央部と端部領域との間のある程度平坦な中
間環状領域とを有する。
さらに、本発明によれば、スパッタコーティング装置において、上述のカソー
ド組立体が、約0.5より大きいアスペクト比のコリメータと共に供給される。
また、好ましくは、少なくとも約1.0のアスペクト比、さらに好ましくは、1
.0から少なくとも2.0までの範囲にあるアスペクト比のコリメータと共に供
給される。
さらに、本発明の好適な実施例によれば、カソード組立体は回転マグネット構
造体を有し、この回転マグネット構造体は、スパッタターゲットと共に上述の浸
食部を形成する。
本発明方法及び装置は、広範囲のアスペクト比のコリメータと共に用いられた
場合、均一な蒸着を提供する。
また、本発明は、スパッタターゲットに形成される浸食部を変更することによ
り、コリメータを用いて実現可能な膜厚均一性を改善することの利点を提供する
。さらに、本発明は、一定範囲のコリメータのアスペクト比で行われる特定の特
性を含む、ある範囲のターゲット浸食部を提供する。さらに、本発明は、ターゲ
ットが深く浸食され、基板からスパッタ表面までの距離が変化しても、なお一貫
性を持つターゲット浸食部を提供する。
本発明の上記及びその他の目的及び利点は、以下の記載により明らかになる。
図面の簡単な説明
図1は、一般的な、コリメータを用いないスパッタターゲットとウェハを示す
図である。
図2は、図1のスパッタターゲットを、比較的低いアスペクト比のコリメータ
と共に示す図である。
図3は、図2と同様で、コリメータのアスペクト比を高めた場合を示す図であ
る。
図4は、図3と同様であるが、コリメータのアスペクト比をさらに高めた場合
を示す図である。
図5は、コリメータを用いない場合のターゲット浸食部を示す式を表すグラフ
である。
図6は、図5と同様であるが、広範囲のアスペクト比を有するコリメータを用
いた場合のターゲット浸食部を示す式を表すグラフである。
図7は、図5の浸食部を形成するカソード組立体を用いたスパッタリング装置
にコリメータを導入した場合に測定された膜厚の均一性を示すグラフである。
図8は、図7と同様であるが、図6の浸食部によるターゲットを用いた場合の
膜厚の均一性を示すグラフである。
発明を実施するための最良の形態
基板上に均一な膜厚の薄膜を蒸着するスパッタ蒸着において、均一性の程度は
、基板の大きさ、ターゲットと基板との間隔、ターゲットにおける浸食部の具体
的な形状と大きさ等に深く関係していることは知られている。しかしながら、基
板表面の立体的な部分、特にミクロサイズの段状部分の側壁や底部におけるコー
ティングを改善するために屡々行われる、コリメータのターゲットと基板との間
の挿入がなされた場合、膜厚の均一性は著しく変化する。また、コリメータを使
用しているうちに、あるいは使用条件に適応するために利用者がコリメータのア
スペクト比を選択的に変更することにより、膜厚の均一性は変化する。したがっ
て、コリメータの使用を考慮に入れず決定された浸食部を有するターゲットにつ
いて、コリメータを用いても、最良の膜厚の均一性は得られない。
その理由を図1乃至3に示す。図1は、円形ターゲット10の断面を概略的に
示すものである。ターゲット10上には、ターゲット10の径上の各点からスパ
ッタ部材がスパッタリングされる相対的な度合いであるスパッタ率を表す浸食部
12が示されている。この浸食部12(profile)は、カソードが、特にコリメ
ータの使用を想定せず、各パラメータを設定した場合に、ターゲット10に形成
される浸食部を表している。基板15上の任意の点13、14は、いずれも、い
かなる制限もなくターゲット表面全体を視野に入れている。しかし、ターゲット
10の端部または縁部16付近の点13のような点は、ターゲット10上のより
中央に近い点14のような点に比べ、ターゲットを視野に入れる視野角が狭いた
め、その点に近いターゲット10の領域のスパッタ率がより高くなければ、スパ
ッタにより受け取るスパッタ部材の量が中央に近い点に比べ少なくなる。そこで
、浸食部12は、基板15の表面の全ての点において同じ膜厚を形成するために
、ターゲット端部16付近に深い浸食溝18を有するように設計されている。こ
のような設計は、無限大の直径を持つターゲットからスパッタリングされた場合
に得られる膜厚の理論上の完全な均一性に、近似した均一性を得るためのもので
ある。
図2は、アスペクト比約1という低アスペクト比のコリメータ20の効果を示
す。アスペクト比は、コリメータセル21の幅Wに対する厚さTの比として定義
される。このようなコリメータ20を用いると、例えば点14のような基板15
上の点からの視野角は、セル21の側壁22により制限され、コリメータを介し
てターゲット10上で視野に入れることのできる領域25に対する角度24に限
られる。ウェハ13の端部の点13は、角度24と等しい角度26でターゲット
10の一部を視野に入れることになる。しかしながら、ターゲット10は、角度
26による視野内に全域に亘っては存在しないので、点13のターゲット10に
関する視野の範囲は、点14から見た領域24よりも狭いターゲット10の領域
28となる。また、コリメータの側壁22は、ターゲット10の一部と点13、
14を結ぶ線を遮るので、各点には、図1に示すコリメータを用いない場合に、
一定時間内に同点に供給されるコーティング材より少ないコーティング材しか供
給されない。ここで、浸食部12を用いると、コリメータは、点13、14にそ
れぞれ異なる影響を与える。例えば、蒸着率は、点14より点13の方が低く、
基板15上の点13と14とでは蒸着された膜厚の均一性に違いが生じる。
図3は、アスペクト比約3という比較的高いアスペクト比を有するコリメータ
30の効果を示す。ウェハ15上の点13、14の視野内の領域、例えば、領域
31、32がコリメータ30の側壁34によりさらに制限されているので、図2
の領域25、28よりさらに狭い。同じ浸食部12を用いると、コリメータ30
では、点13と14とにおける膜厚のコーティングに関する均一性の相違が、図
2のコリメータ20を用いた場合より大きくなる。
図4は、アスペクト比約4というさらに高いアスペクト比を有するコリメータ
40の効果を示す。ウェハ15上の点13、14の視野内の領域、例えば、領域
41、42は、コリメータ40の側壁44により、図3の領域31、32よりさ
らに制限されている。同じ浸食部12を用いると、コリメータ40では、点13
と14とにおける薄膜のコーティングの均一性の違いが、図2のコリメータ20
及び図3のコリメータ30の場合より大きくなる。しかしながら、コリメータ4
0では、領域41、42は、いずれも完全にターゲット10の表面にあるので、
深い浸食溝18は、以下に説明するように逆効果となる。
コリメータを用いたスパッタ蒸着の場合、理論上、理想的な膜厚の均一性は、
半径が基板の半径+Wd/t(dはターゲットと基板の距離)であり、且つ均一
に浸食されるターゲットにより実現される。W/tは、コリメータ孔の幅と厚さ
の比であり、コリメータのアスペクト比の逆数である。コリメータを用いないス
パッタ蒸着では、理想的な膜厚の均一性は、無限大の直径の均一に浸食されたタ
ーゲットにより実現される。実際の限られたサイズのターゲットにおいて、この
ターゲットのサイズの制限を克服するために、均一ではないターゲットの浸食を
行う必要がある。したがって、ターゲット10の端部付近において、図1乃至4
の溝18により示される深い浸食が行われる。この場合、コリメータを用いた場
合と用いない場合とでは、最適化された浸食溝の形状に大きな違いが生じる。
このような形状は、以下の式により簡潔に定義される。
式(1)
ここで、
y:浸食度
x:ターゲットの中心からの距離
x0:浸食溝の深度のピークまでの半径
a0:x≦x0の場合の最小浸食度
I0:a0からの浸食溝の深さ
σ:浸食溝の半値幅
式(1)は図5に示される。これは、ターゲットの中央領域における均一な浸食
及び端部付近の、磁界の影によりスパッタ率を増した浸食度の深い領域すなわち
浸食溝を包絡線で示している。コリメータを用いないスパッタリングにおいては
、コーティングされるウェハの2倍乃至3倍の直径のターゲットを用いると、a0
はI0の約20%になるのが一般的である。
ターゲットの材料の特性、スパッタされた粒子のガス拡散、スパッタされた粒
子の固着係数、実際のマグネットの構造等の変数及びターゲットの浸食に関わる
その他のパラメータも考慮に入れ、それらの変数の微妙な変化に対応する浸食部
を描くより実効的な式を示す。図6は、式(2)を用いて得られる包絡線である
。
式2
ここで、
m:平坦部での最小浸食強度、すなわちxc≦x≦x0で、
m+I0=1.0
また、
これは、平坦部での浸食度の変化を示す。
ここで、
Ii=変化のピーク<(n−m)、
x0=端部の浸食溝までの半径、
xi<x0、
σi=ピークiの半値幅である。
また、
これは、x≦xcの場合の浸食度を示す。
ここで、
σ1=端部の浸食溝の内側の半値幅である。
また、
これは、x>xbの場合の浸食度を示す。
この値はxの値が大きくなるほど0に近づく
ここで、
σ2=端部の浸食溝の内側の半値幅である
また、
=ターゲット中央領域での浸食強度
ここで、
m≦I0≦n
I0:中央領域の最大浸食度、
xc:中央領域の半径、である。
上述の各式において、測定の精度及び半値幅σ等の定数は、ある程度任意であ
り、以下に説明する最適化処理におけるマグネット構造等の要因に基づいて選択
される。パラメータの選択及び調整に基づく最適化の結果、値m、nで表される
包絡線が得られる。値m、nは、周辺の溝の深さに対する内部平坦部の浸食の相
対的深さと、この部分内の浸食ピークの最大変動とを示す。
図7は、コリメータを用いない場合に±5%の誤差範囲内の均一性が得られる
よう設計された浸食部を有するターゲットに対し、種々のアスペクト比を有する
コリメータを用いた場合の精度を示し、図8は、式(2)による浸食部を用いて
、本発明が精度を向上させた結果を示している。
本発明によれば、ターゲットをコリメータと共に用いた場合、上述の図1乃至
図4のような、ターゲットとウェハとコリメータとの幾何学的形状及び配置に基
づいた計算がなされる。例えば、円形のターゲットと円形のコリメータと円形の
ウェハが全て同軸上に中心を持ち、ターゲットの直径、ウェハの直径、コリメー
タのアスペクト比、ターゲットとウェハの間隔、ウェハとコリメータの間隔が与
えられたとすると、複数の計算方法のうち、最適の式を用いていくつかの計算が
行われ、ウェハ上の各点の視野内にあるターゲット上の範囲が算出される。この
算出結果は、ターゲットの浸食部が均一である場合、ウェハのコーティングに関
わる領域を示している。
そしてここで、本発明を適用した方法によれば、式(2)により表される浸食
部が導入される。ターゲットの中央すなわち円心から一定半径x上にある点につ
いて式(2)を計算することによって得られる値y(x)が与えられたターゲッ
ト表面の各点について計算が繰り返され、ウェハ表面の各点の視野内にある、式
(2)から導かれる浸食部により与えられたターゲット領域の誤差を最小化する
。
上述の方法で用いた式(2)を用いることにより、最適な浸食部が得られるカ
ソード組立体の設計に必要なパラメータが算出される。この式は、円形のマグネ
ットの設計、特に、ターゲット、コリメータ及びウェハの円心を結ぶ軸を中心に
回転する回転マグネット構造体の設計に好適である。この最適な浸食部の計算に
より、パラメータm、n、Ii(Icを含む)が得られる。これらパラメータは、
例えば、マグネット構造体の磁力線の強度を調整するのに用いられる。浸食溝の
ピークまでの半径x0、x1、xcの値は、実現可能なマグネット構造体の構造に
基づいて決定してもよく、また、最適化の過程において変更されてもよい。さら
に、パラメータσ1、σ2、σcは、計算によって最適な値にされるのが望ましい
。これらパラメータは、マグネット構造体のマグネットの構成及び強度の両者に
影響する。
上述の方法を用いて、式(2)に従って得られた浸食部に関するパラメータの
例を以下に示す。ここで、相対浸食強度yは、ターゲットの円心あるいは軸から
の距離xの関数である。実施例
直径Dw=8インチ(約20.3cm)のウェハに対して、ターゲットの直径
は、通常、DT=(1.2乃至1.5)×Dw、例えば、11.5インチ(約29
.2cm)の範囲である。このような寸法のウェハとターゲットとの間隔は、好
ましくは、3インチ(約7.6cm)から4.0インチ乃至4.5インチ(約1
0.2乃至11.4cm)(すなわち、3/8乃至1/2または3/8乃至9/
16Dw)である。さらに、このような構成におけるウェハとコリメータとの間
隔は、1.25インチ乃至1.75インチ(約3.18乃至4.45cm)(す
なわち、約3/16Dw)である。そして、コリメータのアスペクト比が1.0
乃至2.0程度の場合、マグネット構造体を設計するためのパラメータ、あるい
はターゲットの浸食部を制御するためのパラメータは、
m=0.6
n=0.75
Ii<(n−m=0.15)
σ1≦0.45インチ、σ2≦0.25インチ、σc≦0.25インチ
x0<0.25インチ
となる。
上述の例では、x0での周辺溝より内側にあるターゲット領域の浸食の度合い
は、周辺溝の最大の深さの約半分以上、好ましくは、周辺溝の深さの60%乃至
75%とされる。この割合は、低いアスペクト比を有するコリメータの場合は小
さく、高いアスペクト比を有するコリメータの場合は大きくなるが、何れにして
も、コリメータを使用しない場合に用いられる浸食部による、中央部の深さの周
辺の溝の深さに対する割合である20%に比べれば、はるかに大きい。
本実施例において、上述のパラメータの値により、1.0弱のアスペクト比乃
至2.0強のアスペクト比を有するコリメータを用いた場合、ウェハ上に±5%
の誤差範囲内でほぼ均一な蒸着が行われる。ターゲットやウェハやコリメータの
寸法及び間隔が上述の例と多少異なった場合でも、同様のコリメータを用いて均
一性が得られる。
上述の、算出された浸食部は、米国特許第5、130、005号「MAGNETRON
SPUTTER COATING METHOD AND APPARATUS WITH ROTATING MAGNET CATHODE」に開
示されたマグネット構造体に用いて、特に好適である。この米国特許は、本明細
書で参照したものとする。
上述の方法は、0.05乃至5.0のアスペクト比を有するコリメータと共に
用いた場合、有用な浸食部を提供する。また、上述のカソード組立体の設計は、
約1.0から2.0程度の範囲内のアスペクト比を有するコリメータに、特に好
適である。また、導き出された浸食部によって、スパッタターゲットと結合し、
回転するマグネット構造体を含むカソード組立体の特性を特定することが可能と
なる。
以上より、当業者は、記載した方法及び装置の実施例を容易に変更し、追加を
加えることが可能であるが、それらはすべて本発明により開示された原理の範囲
内にある。従って、出願人は特許請求の範囲を以下に示すものとする。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1996年3月25日
【補正内容】
発明の名称
コリメータを用いた蒸着におけるスパッタターゲット浸食部制御方法
技術分野
本発明は、スパッタ蒸着法に関し、特に、スパッタコーティングにおけるカソ
ード組立体、さらに詳しくは、コリメータを用いた蒸着に用いられる、マグネト
ロンスパッタにおけるカソード組立体の設計及び利用に関する。
背景技術
従来から、スパッタ蒸着法において、蒸着された薄膜の膜厚を均一にするため
に多大な注意が払われてきた。スパッタコーティングにより薄膜を半導体ウェハ
表面に蒸着し、量産する工程において、特に、高速な蒸着が要求される場合、マ
グネトロンによってプラズマを発生させ、プラズマを成形することにより、スパ
ッタされるターゲットの浸食部を決定する方法が多く採用されている。これによ
り、ターゲット表面の各部分のターゲット部材の消耗率と、ウェハ基盤上の蒸着
率がコントロールされる。
近年、半導体ウェハ製造用のスパッタコーティング装置の使用者及び同装置の
製造業者の間で、スパッタコーティング材料をターゲットから叩き出すスパッタ
コーティングの工程に、回転マグネット構造体を用いて、イオンにより生成され
るプラズマを磁気的にコントロールするスパッタコーティングターゲット及びカ
ソード組立体が望まれている。そのような回転マグネットを用いたスパッタター
ゲット及びカソード組立体の例が、米国特許第5、130、005号、MAGNETRO
N SPUTTER COATING METHOD AND APPARATUS WITH ROTATING MAGNET CATHODEに開
示されている。ここでは、この米国特許を参照することとする。
スパッタリングカソード組立体の設計においては、コーティングされる基板表
面に対してターゲットを大きくすることにより、基板表面に蒸着される膜厚の均
一性が改善されることが知られている。理論上、他のパラメータをすべて同じく
して、浸食部が均一であるターゲットの大きさを無限大とすれば、コーティング
の不均一は解消される。なぜなら、コーティングの不均一は、基板の中央部付近
より基板の端部付近の方がスパッタリングソースが少ないことにより生ずるから
である。しかしながら、実際にはスパッタターゲットの大きさには限度がある。
通常、直径がコーティングされるウェハの2倍乃至3倍のターゲットが円形のウ
ェハ基板のコーティングに使用されている。しかし、この場合、ターゲットが均
一に浸食されたとすると、基板の縁部から中央部に向かってより厚い膜が蒸着す
る事になる。
そこで、カソード組立体の製造の際、端部のみが薄くコーティングされること
なく、また、その他の要因により蒸着するスパッタ膜が不均一にならないような
、最適なターゲットの浸食部を形成すべき設計が行われてきた。この設計の最適
化は、一般的には、プラズマ形成に用いられるマグネット構造体の形状を選択す
ることにより行われている。例えば、通常、マグネットアセンブリは、ターゲッ
ト端部の周りにより多くのプラズマをトラップする強磁界を生成するように設計
され、端部においてコーティングが薄くなることを防いでいる。これにより、基
板付近のターゲットは、その領域の狭さを埋め合わすべく、高速に浸食する。
また、蒸着が行われるウェハの表面が平坦ではなく、ミクロサイズのビアを有
するウェハ表面に垂直な壁部を有して段状に形成されている場合、新たな問題が
生じる。例えば、段状部分の陰になったビアの底部にスパッタコーティングを行
う必要がある場合がある。このような場合、ビアの段状部分に過度のコーティン
グがなされる前に、ビアの底部に十分なコーティングを施さなくてはならない。
この問題は、ターゲットと半導体ウェハとの間にコリメータを配置し、ターゲッ
トから浅い角度でウェハに入射する粒子の量を制限することにより解決される。
すなわち、コリメータを配置することにより、ターゲットから基板に向かって移
動するスパッタ部材の粒子の入射角は、ターゲットに対して垂直に近い角度に制
限される。これにより、ビアの側壁の蒸着率が減じられるため、ターゲット及び
ウェハに垂直に移動する粒子がビアの底部に向かう際、物理的に遮られることは
ない。
欧州特許出願第0440377号に、ターゲットとコーティングが行われる基
板との間にコリメータを配置したスパッタリング装置が開示されている。ここで
は、コリメータセルは、長さと直径の比が1:1乃至3:1である。また、ター
ゲットは、基板より径方向に大きく、粒子は、ほぼ均一にターゲットから放出さ
れる。
ターゲットとスパッタコーティングされる基板との間にコリメータを用いる場
合、ウェハに対するターゲットのサイズは、コリメータを用いないスパッタリン
グとは異なる効果を生じる。その結果、コリメータを用いない方式において、均
一な薄膜を得るために最適化されたスパッタリングカソードの設計は、コリメー
タを用いた場合には最適とはならない。したがって、ウェハ上に部分的に存在す
るビアの底部は、ウェハの他の部分とは異なる蒸着率及び異なる膜厚でコーティ
ングされる。本出願人は、コリメータを用いない方式においては、理想的であっ
たカソード組立体に、コリメータを用いた場合、ウェハ基板の端部付近では蒸着
が過度に行われ、ウェハの端部から離間した中央部付近では蒸着が不十分となる
傾向があることを見出した。
また、コリメータを用いたスパッタコーティング方式でのスパッタコーティン
グされる薄膜の膜厚の均一性を改善するため、スパッタリングカソード組立体の
テストや誤差の修正も行われてきた。これにより特定のコリメータで改善が得ら
れたものの、コリメータの設計を変更すると改善が得られないことが多い。実際
、コリメータ及びスパッタターゲットが経年変化する過程で、上記のようにある
程度偶然性に依存せざるを得ないカソード組立体の設計による改善の効果は持続
しないことが知られている。
さらに、本出願人は、コリメータ及びターゲットが損耗し、アスペクト比と称
されるコリメータ設計時のパラメータが変化することにより、薄膜の均一性が変
化することを見出した。通常、コリメータは、ターゲットと基板との間に挿入さ
れた、粒子の通路となる整列した複数の孔を有する格子状に形成されている。コ
リメータの孔の形状は、適当な直径を有する円形、または同等の寸法の六角形あ
るいは四角形である。また、コリメータの厚さとは、ターゲット及び基板に垂直
な方向であり、粒子がターゲットからウェハ表面に移動する際に孔を通過する寸
法である。コリメータのアスペクト比は、通常、コリメータの孔の有効直径に対
するコリメータの厚さの比として定義される。このアスペクト比が高いほど、コ
リメータに直角にターゲットから基板に、すなわちコリメータと平行な基板表面
に移動する粒子を制限するコリメータの効果が大きくなる。
少なくともコリメータの一部に、上述のコリメータが損耗する過程にアスペク
ト比の変化が引き起こる。これは、コリメータの孔を通過しない入射角の浅い粒
子が、コリメータの孔のない網状の部分または、孔の内壁によりブロックされ、
コリメータの孔の周囲をコーティングし、この孔を狭くしてしまうためである。
したがって、本出願人は、特定のアスペクト比を有するコリメータにより、膜厚
の均一性を許容範囲に保つための浸食部を得るように最適化されたカソード組立
体が、コリメータ使用する過程で最適ではなくなることを見出した。
さらに、蒸着される膜厚が大きいほど、コリメータがコーティングされ、実用
性を失うに至る率が増す。特定の、あるいは狭い範囲のアスペクト比を有するコ
リメータのみに適用されるカソード組立体の設計は、スパッタ部材を比較的厚く
蒸着するには有効でなく、例えば、チタンまたは窒化チタンのバリヤ層等の極め
て薄い薄膜にのみ用いて有効である。
コリメータを用いて、特にその視野を計算して設計されたコリメータを用いて
蒸着を行う際の薄膜の膜厚の均一性を維持するため、スパッタリングカソードの
設計、特に、スパッタリングカソード設計のマグネトロン及び他のプラズマを成
形する組立体について、体系的な基準を設ける必要がある。また、コリメータを
用いたスパッタコーティングの材料をより多くの物質に拡張することができるよ
うに、また、コリメータを用いたスパッタ蒸着をより効率的且つ有効にするため
に、上述の問題を克服しなければならない。
発明の開示
本発明は、コリメータと共に用いられた場合に均一な蒸着を行えるスパッタタ
ーゲットの浸食部を形成するカソード組立体を提供することを目的とする。
また、本発明は、広範囲のアスペクト比を有するコリメータと共に用いられた
場合にも均一な蒸着を行えるスパッタコーティング装置のカソード組立体を提供
することを目的とする。
さらに、本発明は、コリメータのアスペクト比が使用しているうちに変化して
も均一な蒸着を行うことのできるカソード組立体の設計を提供することを目的と
する。
本発明に係るスパッタリング方法は、円形ウェハを軸を中心として支持するウ
ェハ支持体により支持するステップと、スパッタリング部材からなり、上記軸を
中心とする円形外縁リムを有するスパッタターゲットを、上記支持体から離隔し
上記支持体に平行且つ表面を対向する位置に配置するステップと、コリメータの
セルの幅に対するコリメータの厚さの比であるアスペクト比が少なくとも0.5
であるコリメータを、上記軸を中心とし、上記ターゲットと上記支持体から離隔
し、上記ターゲットと上記支持体の間に平行に配置するステップと、上記ターゲ
ットの後方に配置されたマグネット構造体を用いて、上記ターゲットのスパッタ
リング表面に隣接してプラズマを成形するステップとを有し、上記プラズマは、
上記ターゲットの縁部に隣接する最大浸食が行われる環状周辺領域と、上記最大
浸食より浅く上記最大浸食の半分より深く且つ均一な浸食が行われる上記周辺領
域より内側にある内部領域とを有する上記ターゲットのスパッタリング表面の浸
食部を形成するように成形されることを特徴とする。
また、本発明に係るスパッタリングカソード組立体は、円形ウェハを軸を中心
として保持するウェハ支持体と、スパッタリング部材からなり、上記軸を中心と
し、円形外縁リムを有し、上記支持体から離隔して上記支持体に平行且つ対向す
るスパッタリング表面を有するスパッタターゲットと、上記軸を中心とし、上記
ターゲットと上記支持体から離隔し、上記ターゲットと上記支持体の間に平行に
配置され、コリメータのセルの幅に対するコリメータの厚さ(T)の比であるア
スペクト比が少なくとも0.5であるコリメータと、上記ターゲットの背面側に
に配置され、上記ターゲットのスパッタリング表面に隣接してプラズマを成形す
るマグネット構造体とを有し、上記マグネット構造体は、上記ターゲットの縁部
に隣接する最大浸食が行われる環状周辺領域と、上記最大浸食より浅く上記最大
浸食の半分より深く且つ概ね均一な浸食が行われる、上記周辺領域より内側にあ
る内部領域とを有する上記ターゲットのスパッタリング表面の浸食部を形成する
ように、上記プラズマを成形することを特徴とする。
また、本発明の原理によれば、スパッタターゲットを浸食して、ターゲットの
外端部付近の、深い、好ましくは非対称のガウス曲線に近似した浸食形状を有す
る、ターゲットの内部領域内でほぼ均一な浸食部を形成する方法及び装置が提供
される。本発明の好適な実施例によれぼ、本発明方法及び装置による浸食部は、
ターゲットの外端部付近の比較的深いエンハンスメントと、ターゲットの中央部
付近の特定の浅い浸食領域と、上記中央部と端部領域との間のある程度平坦な中
間環状領域とを有する。
さらに、本発明によれば、スパッタコーティング装置において、上述のカソー
ド組立体が、約0.5より大きいアスペクト比のコリメータと共に供給される。
また、好ましくは、少なくとも約1.0のアスペクト比、さらに好ましくは、1
.0から少なくとも2.0までの範囲にあるアスペクト比のコリメータと共に供
給される。
さらに、本発明の好適な実施例によれば、カソード組立体は回転マグネット構
造体を有し、この回転マグネット構造体は、スパッタターゲットと共に上述の浸
食部を形成する。
本発明方法及び装置は、広範囲のアスペクト比のコリメータと共に用いられた
場合、均一な蒸着を提供する。
また、本発明は、スパッタターゲットに形成される浸食部を変更することによ
り、コリメータを用いて実現可能な膜厚均一性を改善することの利点を提供する
。さらに、本発明は、一定範囲のコリメータのアスペクト比で行われる特定の特
性を含む、ある範囲のターゲット浸食部を提供する。さらに、本発明は、ターゲ
ットが深く浸食され、基板からスパッタ表面までの距離が変化しても、なお一貫
性を持つターゲット浸食部を提供する。
本発明の上記及びその他の目的及び利点は、以下の記載により明らかになる。
図面の簡単な説明
図1は、一般的な、コリメータを用いないスパッタターゲットとウェハを示す
図である。
図2は、図1のスパッタターゲットを、比較的低いアスペクト比のコリメータ
と共に示す図である。
図3は、図2と同様で、コリメータのアスペクト比を高めた場合を示す図であ
る。
図4は、図3と同様であるが、コリメータのアスペクト比をさらに高めた場合
を示す図である。
図5は、コリメータを用いない場合のターゲット浸食部を示す式を表すグラフ
である。
図6は、図5と同様であるが、広範囲のアスペクト比を有するコリメータを用
いた場合のターゲット浸食部を示す式を表すグラフである。
図7は、図5の浸食部を形成するカソード組立体を用いたスパッタリング装置
にコリメータを導入した場合に測定された膜厚の均一性を示すグラフである。
図8は、図7と同様であるが、図6の浸食部によるターゲットを用いた場合の
膜厚の均一性を示すグラフである。
発明を実施するための最良の形態
基板上に均一な膜厚の薄膜を蒸着するスパッタ蒸着において、均一性の程度は
、基板の大きさ、ターゲットと基板との間隔、ターゲットにおける浸食部の具体
的な形状と大きさ等に深く関係していることは知られている。しかしながら、基
板表面の立体的な部分、特にミクロサイズの段状部分の側壁や底部におけるコー
ティングを改善するために屡々行われる、コリメータのターゲットと基板との間
の挿入がなされた場合、膜厚の均一性は著しく変化する。また、コリメータを使
用しているうちに、あるいは使用条件に適応するために利用者がコリメータのア
スペクト比を選択的に変更することにより、膜厚の均一性は変化する。したがっ
て、コリメータの使用を考慮に入れず決定された浸食部を有するターゲットにつ
いて、コリメータを用いても、最良の膜厚の均一性は得られない。
その理由を図1乃至3に示す。図1は、円形ターゲット10の断面を概略的に
示すものである。ターゲット10上には、ターゲット10の径上の各点からスパ
ッタ部材がスパッタリングされる相対的な度合いであるスパッタ率を表す浸食部
12が示されている。この浸食部(profile)12は、カソードが、特にコリメ
ータの使用を想定せず、各パラメータを設定した場合に、ターゲット10に形成
される浸食部を表している。基板15上の任意の点13、14は、いずれも、い
かなる制限もなくターゲット表面全体を視野に入れている。しかし、ターゲット
10の端部または縁部16付近の点13のような点は、ターゲット10上のより
中央に近い点14のような点に比べ、ターゲットを視野に入れる視野角が狭いた
め、その点に近いターゲット10の領域のスパッタ率がより高くなければ、スパ
ッタにより受け取るスパッタ部材の量が中央に近い点に比べ少なくなる。そこで
、浸食部12は、基板15の表面の全ての点において同じ膜厚を形成するために
、ターゲット端部16付近に深い浸食溝18を有するように設計されている。こ
のような設計は、無限大の直径を持つターゲットからスパッタリングされた場合
に得られる膜厚の理論上の完全な均一性に、近似した均一性を得るためのもので
ある。
図2は、アスペクト比約1という低アスペクト比のコリメータ20の効果を示
す。アスペクト比は、コリメータセル21の幅Wに対する厚さTの比として定義
される。このようなコリメータ20を用いると、例えば点14のような基板15
上の点からの視野角は、セル21の側壁22により制限され、コリメータを介し
てターゲット10上で視野に入れることのできる領域25に対する角度24に限
られる。ウェハ13の端部の点13は、角度24と等しい角度26でターゲット
10の一部を視野に入れることになる。しかしながら、ターゲット10は、角度
26による視野内に全域に亘っては存在しないので、点13のターゲット10に
関する視野の範囲は、点14から見た領域24よりも狭いターゲット10の領域
28となる。また、コリメータの側壁22は、ターゲット10の一部と点13、
14を結ぶ線を遮るので、各点には、図1に示すコリメータを用いない場合に、
一定時間内に同点に供給されるコーティング材より少ないコーティング材しか供
給されない。ここで、浸食部12を用いると、コリメータは、点13、14にそ
れぞれ異なる影響を与える。例えば、蒸着率は、点14より点13の方が低く、
基板15上の点13と14とでは蒸着された膜厚の均一性に違いが生じる。
図3は、アスペクト比約3という比較的高いアスペクト比を有するコリメータ
30の効果を示す。ウェハ15上の点13、14の視野内の領域、例えば、領域
31、32がコリメータ30の側壁34によりさらに制限されているので、図2
の領域25、28よりさらに狭い。同じ浸食部12を用いると、コリメータ30
では、点13と14とにおける膜厚のコーティングに関する均一性の相違が、図
2のコリメータ20を用いた場合より大きくなる。
図4は、アスペクト比約4というさらに高いアスペクト比を有するコリメータ
40の効果を示す。ウェハ15上の点13、14の視野内の領域、例えば、領域
41、42は、コリメータ40の側壁44により、図3の領域31、32よりさ
らに制限されている。同じ浸食部12を用いると、コリメータ40では、点13
と14とにおける薄膜のコーティングの均一性の違いが、図2のコリメータ20
及び図3のコリメータ30の場合より大きくなる。しかしながら、コリメータ4
0では、領域41、42は、いずれも完全にターゲット10の表面にあるので、
深い浸食溝18は、以下に説明するように逆効果となる。
コリメータを用いたスパッタ蒸着の場合、理論上、理想的な膜厚の均一性は、
半径が基板の半径+Wd/t(dはターゲットと基板の距離)であり、且つ均一
に浸食されるターゲットにより実現される。W/tは、コリメータ孔の幅と厚さ
の比であり、コリメータのアスペクト比の逆数である。コリメータを用いないス
パッタ蒸着では、理想的な膜厚の均一性は、無限大の直径の均一に浸食されたタ
ーゲットにより実現される。実際の限られたサイズのターゲットにおいて、この
ターゲットのサイズの制限を克服するために、均一ではないターゲットの浸食を
行う必要がある。したがって、ターゲット10の端部付近において、図1乃至4
の溝18により示される深い浸食が行われる。この場合、コリメータを用いた場
合と用いない場合とでは、最適化された浸食溝の形状に大きな違いが生じる。
このような形状は、以下の式により簡潔に定義される。
式(1)
ここで、
y:浸食度
x:ターゲットの中心からの距離
x0:浸食溝の深度のピークまでの半径
a0:x≦x0の場合の最小浸食度
I0:a0からの浸食溝の深さ
σ:浸食溝の半値幅
式(1)は図5に示される。これは、ターゲットの中央領域における均一な浸食
及び端部付近の、磁界の影によりスパッタ率を増した浸食度の深い領域すなわち
浸食溝を包絡線で示している。コリメータを用いないスパッタリングにおいては
、コーティングされるウェハの2倍乃至3倍の直径のターゲットを用いると、a0
はI0の約20%になるのが一般的である。
ターゲットの材料の特性、スパッタされた粒子のガス拡散、スパッタされた粒
子の固着係数、実際のマグネットの構造等の変数及びターゲットの浸食に関わる
その他のパラメータも考慮に入れ、それらの変数の微妙な変化に対応する浸食部
を描くより実効的な式を示す。図6は、式(2)を用いて得られる包絡線である
。
式2
ここで、
m:平坦部での最小浸食強度、すなわちxc≦x≦x0で、
m+I0=1.0
また、
これは、平坦部での浸食度の変化を示す。
ここで、
Ii=変化のピーク<(n−m)、
x0=端部の浸食溝までの半径、
xi<x0、
σi=ピークiの半値幅である。
また、
これは、x≦xcの場合の浸食度を示す。
ここで、
σ1=端部の浸食溝の内側の半値幅である。
また、
これは、x>xbの場合の浸食度を示す。
この値はxの値が大きくなるほど0に近づく
ここで、
σ2=端部の浸食溝の内側の半値幅である
また、
=ターゲット中央領域での浸食強度
ここで、
m≦I0≦n
I0:中央領域の最大浸食度、
xc:中央領域の半径、である。
上述の各式において、測定の精度及び半値幅σ等の定数は、ある程度任意であ
り、以下に説明する最適化処理におけるマグネット構造等の要因に基づいて選択
される。パラメータの選択及び調整に基づく最適化の結果、値m、nで表される
包絡線が得られる。値m、nは、周辺の溝の深さに対する内部平坦部の浸食の相
対的深さと、この部分内の浸食ピークの最大変動とを示す。
図7は、コリメータを用いない場合に±5%の誤差範囲内の均一性が得られる
よう設計された浸食部を有するターゲットに対し、種々のアスペクト比を有する
コリメータを用いた場合の精度を示し、図8は、式(2)による浸食部を用いて
、本発明が精度を向上させた結果を示している。
本発明によれば、ターゲットをコリメータと共に用いた場合、上述の図1乃至
図4のような、ターゲットとウェハとコリメータとの幾何学的形状及び配置に基
づいた計算がなされる。例えば、円形のターゲットと円形のコリメータと円形の
ウェハが全て同軸上に中心を持ち、ターゲットの直径、ウェハの直径、コリメー
タのアスペクト比、ターゲットとウェハの間隔、ウェハとコリメータの間隔が与
えられたとすると、複数の計算方法のうち、最適の式を用いていくつかの計算が
行われ、ウェハ上の各点の視野内にあるターゲット上の範囲が算出される。この
算出結果は、ターゲットの浸食部が均一である場合、ウェハのコーティングに関
わる領域を示している。
そしてここで、本発明を適用した方法によれば、式(2)により表される浸食
部が導入される。ターゲットの中央すなわち円心から一定半径x上にある点につ
いて式(2)を計算することによって得られる値y(x)が与えられたターゲッ
ト表面の各点について計算が繰り返され、ウェハ表面の各点の視野内にある、式
(2)から導かれる浸食部により与えられたターゲット領域の誤差を最小化する
。
上述の方法で用いた式(2)を用いることにより、最適な浸食部が得られるカ
ソード組立体の設計に必要なパラメータが算出される。この式は、円形のマグネ
ットの設計、特に、ターゲット、コリメータ及びウェハの円心を結ぶ軸を中心に
回転する回転マグネット構造体の設計に好適である。この最適な浸食部の計算に
より、パラメータm、n、Ii(Icを含む)が得られる。これらパラメータは、
例えば、マグネット構造体の磁力線の強度を調整するのに用いられる。浸食溝の
ピークまでの半径x0、xi、xcの値は、実現可能なマグネット構造体の構造に
基づいて決定してもよく、また、最適化の過程において変更されてもよい。さら
に、パラメータσ1、σ2、σcは、計算によって最適な値にされるのが望ましい
。これらパラメータは、マグネット構造体のマグネットの構成及び強度の両者に
影響する。
上述の方法を用いて、式(2)に従って得られた浸食部に関するパラメータの
例を以下に示す。ここで、相対浸食強度yは、ターゲットの円心あるいは軸から
の距離xの関数である。実施例
直径DW=8インチ(約20.3cm)のウェハに対して、ターゲットの直径
は、通常、DT=(1.2乃至1.5)×DW、例えば、11.5インチ(約29
.2cm)の範囲である。このような寸法のウェハとターゲットとの間隔は、好
ましくは、3インチ(約7.6cm)から4.0インチ乃至4.5インチ(約1
0.2乃至11.4cm)(すなわち、3/8乃至1/2または3/8乃至9/
16DW)である。さらに、このような構成におけるウェハとコリメータとの間
隔は、1.25インチ乃至1.75インチ(約3.18乃至4.45cm)(す
なわち、約3/16DW)である。そして、コリメータのアスペクト比が1.0
乃至2.0程度の場合、マグネット構造体を設計するためのパラメータ、あるい
はターゲットの浸食部を制御するためのパラメータは、
m=0.6
n=0.75
Ii<(n−m=0.15)
σ1≦0.45インチ、σ2≦0.25インチ、σc≦0.25インチ
x0<0.25インチ
となる。
上述の例では、x0での周辺溝より内側にあるターゲット領域の浸食の度合い
は、周辺溝の最大の深さの約半分以上、好ましくは、周辺溝の深さの60%乃至
75%とされる。この割合は、低いアスペクト比を有するコリメータの場合は小
さく、高いアスペクト比を有するコリメータの場合は大きくなるが、何れにして
も、コリメータを使用しない場合に用いられる浸食部による、中央部の深さの周
辺の溝の深さに対する割合である20%に比べれば、はるかに大きい。
本実施例において、上述のパラメータの値により、1.0弱のアスペクト比乃
至2.0強のアスペクト比を有するコリメータを用いた場合、ウェハ上に±5%
の誤差範囲内でほぼ均一な蒸着が行われる。ターゲットやウェハやコリメータの
寸法及び間隔が上述の例と多少異なった場合でも、同様のコリメータを用いて均
一性が得られる。
上述の、算出された浸食部は、米国特許第5、130、005号「MAGNETRON
SPUTTER COATING METHOD AND APPARATUS WITH ROTATING MAGNET CATHODE」に開
示されたマグネット構造体に用いて、特に好適である。この米国特許は、本明細
書で参照したものとする。
上述の方法は、0.05乃至5.0のアスペクト比を有するコリメータと共に
用いた場合、有用な浸食部を提供する。また、上述のカソード組立体の設計は、
約1.0から2.0程度の範囲内のアスペクト比を有するコリメータに、特に好
適である。また、導き出された浸食部によって、スパッタターゲットと結合し、
回転するマグネット構造休を含むカソード組立体の特性を特定することが可能と
なる。
請求の範囲
1. 円形ウェハ(15)を軸を中心として支持するウェハ支持体により支持す
るステップと、スパッタリング部材からなり、上記軸を中心とする円形外縁リム
を有するスパッタターゲット(10)を、上記支持体から離隔し上記支持体に平
行且つ表面を対向する位置に配置するステップと、コリメータのセル(21)の
幅に対するコリメータ(20、30、41)の厚さ(T)の比であるアスペクト
比が少なくとも0.5であるコリメータ(20、30、40)を、上記軸を中心
とし、上記ターゲット(10)と上記支持体から離隔し、上記ターゲット(10
)と上記支持体の間に平行に配置するステップと、上記ターゲット(10)の後
方に配置されたマグネット構造体を用いて、上記ターゲット(10)のスパッタ
リング表面に隣接してプラズマを成形するステップとを有し、上記プラズマは、
上記ターゲット(10)の縁部に隣接する最大浸食が行われる環状周辺領域と、
上記最大浸食より浅く上記最大浸食の半分より深く且つ均一な浸食が行われる上
記周辺領域より内側にある内部領域とを有する上記ターゲット(10)のスパッ
タリング表面の浸食部を形成するように成形されることを特徴とするスパッタリ
ング方法。
2. 上記支持体上にウェハ(15)を取り付けるステップと、上記ターゲット
(10)から上記ウェハ(15)にスパッタリング部材をスパッタするステップ
とを有し、半導体ウェハを製造する請求の範囲1記載の方法。
3. 円形ウェハ(15)を軸を中心として保持するウェハ支持体と、スパッタ
リング部材からなり、上記軸を中心とし、円形外縁リムを有し、上記支持体から
離隔して上記支持体に平行且つ対向するスパッタリング表面を有するスパッタタ
ーゲット(10)と、上記軸を中心とし、上記ターゲットと上記支持体から離隔
し、上記ターゲット(10)と上記支持体の間に平行に配置され、コリメータ(
20、30、40)のセルの幅に対するコリメータ(20、30、40)の厚さ
(T)の比であるアスペクト比が少なくとも0.5であるコリメータ(20、3
0、40)と、上記ターゲットの背面側にに配置され、上記ターゲット(10)
のスパッタリング表面に隣接してプラズマを成形するマグネット構造体とを有し
、上記マグネット構造体は、上記ターゲット(10)の縁部に隣接する最大浸食
が行われる環状周辺領域と、上記最大浸食より浅く上記最大浸食の半分より深く
且つ概ね均一な浸食が行われる、上記周辺領域より内側にある内部領域とを有す
る上記ターゲット(10)のスパッタリング表面の浸食部を形成するように、上
記プラズマを成形することを特徴とするスパッタリングカソード組立体。
4. 上記コリメータ(20、30、40)は、1.0以上2.0以下のアスペ
クト比を有し、上記マグネット構造体は、上記内部領域が最大浸食の0.6乃至
0.75程度の範囲の概ね均一な浸食を有するスパッタリング表面に浸食部を形
成するように、上記ターゲット(10)のスパッタリング表面に隣接してプラズ
マを成形するように構成されていることを特徴とする請求の範囲3記載のスパッ
タリングカソード組立体。
5. 上記ターゲット(10)は、上記ウェハ(15)に対し50%程度大きく
、上記ターゲット(10)は、上記ウェハ(15)から上記ウェハの直径の約5
0%の距離だけ離隔され、上記コリメータ(20、30、40)は、上記ウェハ
(15)から上記ウェハの直径の3/16の距離だけ離隔されていることを特徴
とする請求の範囲3または4記載のスパッタリングカソード組立体。
6. 上記マグネット構造体は、上記環状周辺領域に、ガウス曲線に近似した浸
食部を形成するように、プラズマを成形するように構成されていることを特徴と
する請求の範囲3乃至5のいずれか1記載のスパッタリングカソード組立体。
7. 上記マグネット構造体は、環状周辺領域において、円形の最大浸食に関し
径方向に非対称的である浸食部を形成するように、上記プラズマを成形するよう
に構成されていることを特徴とする請求の範囲3乃至6のいずれか1記載のスパ
ッタリングカソード組立体。
8. 上記マグネット構造体は、xを上記ターゲットの中心からの距離、x0を
上記環状周辺領域最大浸食までの半径、σ1、σ2を最大浸食点から半浸食点まで
の距離、mを上記内部領域の均一浸食範囲の値とすると、x≦x0のとき、
であり、x≧x0のとき、
であるようなy(x)に、ほぼ等しい上記環状周辺領域の浸食部を形成するよう
に、上記プラズマを成形するように構成されていることを特徴とする請求の範囲
3乃至7のいずれか1記載のスパッタリングカソード組立体。
9. 上記マグネット構造体は、xを上記ターゲットのの中心からの距離、mを
上記内部領域の最小浸食強度、nを上記内部領域の最大浸食強度、Iiを上記内
部領域の複数の変動ピークiの高さでIi<(n−m)、xiを各変動ピークi1
のおおよその半径、σiを各ピークからその半浸食点までの距離とすると、
であるようなy(x)に、ほぼ等しい上記内部領域の浸食部を形成するように、
上記プラズマを成形するように構成されていることを特徴とする請求の範囲8記
載のスパッタリングカソード組立体。
10. 上記マグネット構造体は、上記ターゲット(10)に対向する上記ウェ
ハ(15)に平行な平面上にあり、上記軸を中心として回転可能な少なくとも1
つの永久磁石を有し、回転されたときに、上記軸からの半径の関数である上記タ
ーゲット(10)上の浸食部を形成するように構成されていることを特徴とする
請求の範囲3乃至9のいずれか1記載のスパッタリングカソード組立体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ),AM,
AT,AU,BB,BG,BR,BY,CA,CH,C
N,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,GB,GE
,HU,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LK,
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